JP6171636B2 - 赤外線検知装置 - Google Patents
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このような赤外線検知装置としては、例えば、赤外線検知素子を2次元状に配列したFocal Plane Array(FPA)型赤外線検知装置がある。
このため、赤外線検知素子が異なると、同一強度の赤外線が入射しているにもかかわらず、異なる電気信号が出力されてしまうことになる。例えば、FPA型赤外線検知装置では、強度が面内で均一な赤外線が入射しているにもかかわらず、複数の赤外線検知素子から出力される電気信号には分布が生じてしまうことになる。
例えば図14に示すように、赤外線検知素子に温度T1の黒体相当の強度の赤外線を入射し、そのときに赤外線検知素子から出力される電気信号V1を取得する。また、赤外線検知素子に温度T2の黒体相当の強度の赤外線を入射し、そのときに赤外線検知素子から出力される電気信号V2を取得する。そして、対象物体からの赤外線が赤外線検知素子に入射したときに赤外線検知素子から出力された電気信号がV3であった場合、実際の赤外線検知素子の入出力特性(図14中、実線B参照)によれば、対象物体の温度はT3であるとされ、赤外線検知素子から出力される電気信号が正しく補正されるべきところ、2点間で赤外線検知素子の入出力特性は線形であると仮定すると(図14中、点線A参照)、対象物体の温度はT3′であるとされ、赤外線検知素子から出力される電気信号が誤って補正されてしまうことになる。
そして、上述のように、補正ずれが生じ、誤って補正されてしまうのは、赤外線検知素子の入出力特性は線形であると仮定し、上記関係式において定数aを用いていることに起因する。
また、本赤外線検知装置は、入射した赤外線に応じた電気信号を出力する赤外線検知素子と、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、赤外線検知素子から出力された電気信号から対象物体の温度を求める信号処理部とを備え、関係式が、赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号をV p とし、温度変化をdTとした場合の赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号の変化をdV p とし、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分を温度Tの関数であるg(T)として、
本実施形態では、図1に示すように、赤外線検知装置1は、入射した赤外線に応じた電気信号を出力する赤外線検知素子10と、赤外線検知素子10から出力される電気信号を処理する信号処理部4とを備える。なお、赤外線検知装置1を、赤外線検知器又は赤外線撮像装置ともいう。また、赤外線検知素子10を、赤外線受光素子ともいう。また、信号処理部4を、信号演算部又は制御演算部ともいう。
ここで、関係式は、赤外線検知素子10から出力される赤外線強度相当の電気信号をVpとし、温度変化をdTとした場合の赤外線検知素子10から出力される赤外線強度相当の電気信号の変化をdVpとし、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分を温度Tの関数であるf(T)(Tを変数とする関数)として、次式のように表される。なお、関数f(T)を、赤外線強度の温度に対する依存性を表す関数ともいう。
ここでは、関係式の赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数f(T)は、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、赤外線検知素子10の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、次式のように表される。なお、波長応答特性を、波長分散、分光特性、又は、規格化分光応答特性ともいう。また、次式で表される関数f(T)を、後述の近似関数f(T)と区別するためにF(T)又は〈∂W/∂T〉と表記する場合がある。
また、実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、赤外線検知素子10の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
そして、信号処理部4は、既知温度T1及びT2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに赤外線検知素子10から出力される電気信号がV1及びV2である場合、
このようにして補正を行なうことで、既知強度(既知温度)の2つの赤外線源からの赤外線を入射させて測定した2つの測定点を用いた2点補正を行なう場合に、これらの2つの測定点間を補間するのに、赤外線検知素子10の入出力特性に応じた補正曲線が用いられて、赤外線検知素子10から出力される電気信号が補正されることになる。このため、実際の赤外線検知素子10の入出力特性に応じて、対象物体からの赤外線が入射した場合に赤外線検知素子10から出力される電気信号を精度良く補正することが可能となり、未知温度(未知強度)の赤外線の温度(強度)に相当する電気信号を精度良く得ることが可能となる。
例えば、実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、赤外線検知素子10の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
また、例えば、実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、赤外線検知素子10の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
この場合、T1は0℃であり、T2は100℃であるのが好ましい。つまり、本赤外線検知装置1を用いる対象物体の温度は、0℃以上100℃以下であるのが好ましい。これにより、0℃以上100℃以下の温度範囲に含まれる対象物体の温度に相当する電気信号を精度良く得ることが可能となる。
まず、赤外線検知素子10の入出力特性は線形であると仮定して赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正しているのは、実際の赤外線検知素子10の入出力特性(入射光−出力信号特性)が正確に知られていないことに起因する。
ここで、対象物体の温度Tに対して、その物体から放出される赤外線強度をf(T)とし、そのときの赤外線検知素子10の赤外線強度相当の電気信号出力(光電流相当の電圧)をVpとする。対象物体の温度がTからT+dTに変化したとき、物体から放出される赤外線強度の変化はf(T)dTであり、したがって、赤外線検知素子10の電気信号出力の変化dVpは、次式のように表現することができる。
この線形補間では、近似として、f(T)がTによらず、また、dVp/dTがVpによらない、つまり、f(T)Vpが定数aとおけると仮定し、Cを積分定数として、
しかしながら、この関係式に基づいて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正すると、補正ずれが生じ、誤って補正されてしまうことになる(図14参照)。これは、赤外線検知素子10の入出力特性は線形であると仮定し、上記関係式において定数aを用いていることに起因する。
しかしながら、この関係式に基づいて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正したとしても、赤外線強度の温度に対する依存性が加味されていないため、即ち、赤外線強度の温度に対する依存性を表す関数f(T)が定数として扱われているため、補正の精度を向上させるのにも限界がある。
この関係式に基づいて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正できるようにするためには、赤外線検知素子10の入出力特性を正確に知り、f(T)の関数形を、解析的に積分操作可能な形で決定することが必要である。
本発明者は、この関数f(T)を、後述の導出過程を経て、次式のように決定できることを見出した。なお、次式で表される関数f(T)を、後述の近似関数f(T)と区別するために、F(T)又は〈∂W/∂T〉と表記する場合がある。
そして、赤外線検知素子10から出力される電気信号VDCは、これにリーク成分(暗電流相当の電圧)Vdを加えて、
この式は、普遍物理定数(h,c,kB)及び別途決められるxλpを除けば、未知係数はV0,Vdの2つであるから、相異なる既知温度T1,T2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに赤外線検知素子10から出力される電気信号VDCを、それぞれ、V1,V2とし、これらがわかれば、それぞれに対して上記の式を適用した連立方程式の解として、未知係数V0,Vdを一意に決定することができる。
まず、λpは、赤外線検知素子の波長応答特性R0(λ)におけるピーク波長である。つまり、赤外線検知素子の波長応答特性R0(λ)は、適当な定数sを用いて、
このため、例えば当該赤外線検知素子自体、又は、別途作製した同一仕様のパイロット素子などの実測結果からλpを求めれば良い。
次に、実定数xは、以下のようにして決めれば良い。
まず、例えば、よく知られているように、λ=λp±3sに対して、R0(λ)=exp(−9)〜1.234×10−4であり、その最大値1に対して十分小さいため、現実には、λ=λp±3s の外側の積分範囲ではR0(λ)=0であると考えられる。
ここで、赤外線検知素子10の波長応答特性R0(λ)の半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)を考えると、R0(λ)=0.5とおいてλについて解くことによって、
したがって、この条件を満たす範囲で実定数xを決めれば良い。
なお、実定数xの決め方は、これに限られるものではない。
例えば、当該赤外線検知素子自体、又は、別途作製した同一仕様のパイロット素子などの実測結果などから、その波長応答特性R0(λ)を得て、数値計算(数値積分)などの手法を用いて、
例えば、当該赤外線検知素子又はパイロット素子などの実測の結果、その波長応答特性、即ち、(規格化)分光応答特性が、図2(A)に示すようになったとする。
この場合、いわゆるガウシアン形状のフィッティング関数、即ち、
なお、この場合、図2(C)に示すように、分光応答特性をより正確に表現するために、複数のガウシアン関数を用いて、R0(λ)を、
以下、簡単のために、一つのガウシアン関数を用いた場合を例に挙げて説明する。
よく知られているように、定積分、即ち、
同様に、十分小さいΔT及びΔλに対して、任意のTの値について、
したがって、上述のようにして求められる、ガウシアン関数を用いて表現したR0(λ)を用いて、
ここで、図3(A)は、このようにして実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値と温度Tとの関係(〈∂W/∂T〉−T)を示している。
そして、このようにして実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値と温度Tとの関係に対して、
例えば、図3(B)中、点線Aで示すように、温度T=50℃で、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値とf(T)の値とが一致するようにフィッティングして、実定数xの値を求めたところ、x=1.0135となった。なお、図3(B)中、破線Bはx=1の場合を示している。このようにして実定数xの値を決めることで、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値と温度Tとの関係がf(T)によって非常に良好な近似として解析的に表現できることがわかる。
例えば、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値と温度Tとの関係が、図4(A)中、実線Aで示すようになり、f(T)が、図4(A)中、点線B,Cに示すようになる場合がある。ここで、f(T)は、xの値を大きくすると、図4(A)中、下側へシフトし、xの値を小さくすると、図4(A)中、上側へシフトする。ここでは、図4(A)中、点線Bは、xの値を大きくした場合のf(T)を示しており、点線Cは、xの値を小さくした場合のf(T)を示している。また、図4(A)では、温度Tの増加に対する、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の変化が、温度Tの増加に対するf(T)の変化よりも小さい(遅い)場合を示している。ここで、関数f(T)は、
ここで、赤外線検知装置1における2点補正は、任意の2点の既知温度T1及びT2(T2>T1)を用いて行なうことになる。例えば、2点の既知温度T1及びT2は、赤外線検知装置1の応用分野において関心が持たれる温度範囲の上限温度及び下限温度、あるいは、その温度範囲に含まれる任意の温度範囲の上限温度及び下限温度とするのが好ましい。
これにより、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値(即ち、本来の〈∂W/∂T〉の値)と温度Tとの関係にできるだけ近いf(T)を用いることができる。この結果、2点補正を行なう場合に、赤外線検知素子10の入出力特性にできるだけ正確に対応する補正曲線が用いられて、赤外線検知素子10から出力される電気信号が補正されることになる。したがって、実際の赤外線検知素子10の入出力特性に応じて、対象物体からの赤外線が入射した場合に赤外線検知素子10から出力される電気信号を精度良く補正することが可能となる。
この場合、実定数xを、
なお、ここでは、赤外線検知装置1の応用分野での対象物体の温度範囲(0℃(水の凝固点)以上100℃(水の沸点)以下)に対応して、温度T1を0℃とし、温度T2を100℃としているが、これに限られるものではない。例えば、赤外線検知装置1の応用分野での対象物体の温度範囲(0℃(水の凝固点)以上100℃(水の沸点)以下)に含まれる着目している任意の温度範囲(即ち、実際上有意な温度範囲)の下限温度をT1とし、上限温度をT2としても良い。
例えば、温度範囲の上限温度と下限温度の中点の温度(中点温度)Tmを用いて、実定数xの範囲を規定することもできる。
つまり、〈∂W/∂T〉=F(T)とし、温度範囲T1〜T2(T2>T1;T2≧T≧T1)における最大値をF(T)maxとし、最小値をF(T)minとし、Tm=(T1+T2)/2として、実定数xを、
例えば、赤外線検知装置1の応用分野での対象物体の温度範囲が0℃(水の凝固点)以上100℃(水の沸点)以下の場合、温度T1を0℃とし、温度T2を100℃とし、Tmを50℃とすれば良い。
この場合、中点温度Tmで、f(T)の値が、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値の温度範囲T1〜T2における最小値と最大値との間に入ることになる。これにより、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値の温度範囲T1〜T2における最小値又は最大値で、f(T)を一定値とする場合[図5(A),図5(B)中、点線の直線D,Eで示す]と比較して、少なくとも中点温度Tm近傍を含む温度範囲の半分程度の領域で、実際に数値的に求めた〈∂W/∂T〉の値と温度Tとの関係[図5(A),(B)中、実線A参照]にf(T)[図5(A),(B)中、点線B,C参照]を近づけることができる。
このため、例えば、1/T2−1/T1を一定(=ΔT)としながらT1を変化させた場合、
このように、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正する場合、対象物体の温度T1,T2をその差を一定としてT1を変化させたときに、これに対応する赤外線検知素子10の出力(出力電気信号;出力電圧)をV(T1),V(T2)として、これらの差V(T2)−V(T1)の対数とT1の逆数1/T1の関係が直線となるという特徴がある。
また、上述のように、f(T)及びVpのうち、f(T)が温度Tによらない、即ち、f(T)が定数aとおけると仮定する場合、対象物体の温度T1,T2と、それぞれに対する赤外線検知素子10の出力V(T1),V(T2)との間において、
次に、上述の関数f(T)の導出について説明する。
赤外線検知器の感度Rを「単位入射光強度(パワー)に対して出力として得られる電流値Iの比」と定義する。ここで、波長λとλ+dλの間での入射光強度W(λ)dλの入射光に対する出力電流dIは、感度の波長分散(分光特性)をR(λ)として、感度の定義から、
また、W(λ)を、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性W(λ,T)、即ち、
したがって、暗電流、即ち、すべての入射光強度に対して流れる一定値の電流をId(VIg)とすると、温度T1の黒体からの放射によって赤外線検知素子に流れる全電流IDC(VIg)は、
一方、温度T1の黒体からの放射によって赤外線検知素子に流れる全電流と、温度T2=T1+ΔTの黒体からの放射によって赤外線検知素子に流れる全電流との差分をΔIp(VIg)とすると、
ここで、ΔTが十分微小であるとすると、括弧{・}の中は、
ここで、ΔIp(VIg)とIDC(VIg)の比、
また、上式のうち、
したがって、
ところで、赤外線検知装置1(例えばFPA)の読出回路(Read Out Integrated Circuit:ROIC)が、一般的な、いわゆるダイレクト・インジェクション型であるとする。この場合、赤外線検知素子10に流れる電流(素子電流)IによってROICに備えられる容量素子11の両端の電位差Vが変化する(図8参照)。容量素子11の容量値C、蓄積電荷Q及びその端子間電圧Vの間にはQ=CVという良く知られた関係式があり、
ここで、出力信号Sを、蓄積時間Δtでの単位温度差あたりの出力電位差、と定義すると、
ところで、出力信号Sは、その定義「蓄積時間Δtでの単位温度差あたりの出力電位差」から、
ここで考えている赤外線検知素子10の動作状態では、そのバイアス電圧VIgは一定であるから、VIgの表記を省略し、VDC=Vp+Vdであるから、この式は、結局、
したがって、
このようにして、形を決定すべき関数f(T)を導出することができる。
次に、上述の関数f(T)の近似式の導出について説明する。
対象物体を黒体と仮定した場合、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性W(λ,T)(いわゆるプランクの輻射式)は、
なお、この近似条件は、一般的に赤外線検知装置1で用いられる波長であるλ=3〜5μmあるいはλ=8〜12μmでは、それぞれ、およそ600℃あるいは100℃前後以下である(誤差2%を仮定)。一般的に赤外線検知装置1の応用分野としては、室温前後の物体、特に医療分野やセキュリティ分野では生物を対象としていることが多い。生物はその構成物質の大部分が水であるから、赤外線検知装置1の応用分野での対象物体の温度はおおむね0℃(水の凝固点)以上100℃(水の沸点)以下であると考えられる。したがって、上記近似条件は、一般的な赤外線検知装置1における条件として十分であると考えられる。
ここで、定積分、即ち、
この場合、
このようにして、上述の関数f(T)の近似式を導出することができる。つまり、「撮像対象の物体の温度が、室温近傍」、及び、「1/λという因子が、実効的に1/xλpという定数因子として、積分の外に出せる」という2つの近似を用いて、解析的な形の具体的な関数形として、このような近似式を導出することができる。
例えば、次式の中のR0(λ)として、実測結果として得られるR0(λ)(具体的にはこれを表現する関数)を代入し、解析的に積分を実行して、具体的なf(T)の解析的な関数形を決定し、これを上記式の中の関数f(T)として用いるようにしても良い。
ただし、
このように、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式は、
つまり、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式が、
以下、複数の赤外線検知素子10を備える赤外線検知装置1である、複数の赤外線検知素子10を2次元状に配列したFPA型赤外線撮像装置1における各赤外線検知素子10(画素)からの出力電気信号(画素信号)を補正するのに本発明を適用した場合を例に挙げて説明する。
このため、FPA型赤外線撮像装置1では、各画素の出力を補正して、同一強度の入射赤外線強度には、同一の画素信号が得られるようにしている。
このような補正を行う場合、既知強度の赤外線源を、補正点の数だけ装置内などに備える必要があるため、装置の複雑化を招くから、通常は原理的に最も補正点が少ない、2点での補間が行なわれる。この場合、通常は2点間での赤外線検知素子10(画素素子)の線形性を仮定して、線形補間法が用いられる。
この補正ずれを抑制するためには、補正点を増やして細かく線形補間を行うか、多項式近似を用いてより実際の赤外線検知素子10の入出力特性に近い補正曲線(入出力特性較正曲線)を用いて補正を行なうことなどが考えられるが、この場合には、補正点相当の既知強度の赤外線源の数が増えてしまう。補正に用いるためのこのような既知温度の赤外線源は、赤外線撮像装置1において2次元的に配置された赤外線検知素子10の全てに均一に赤外線を照射する必要があるから、このような赤外線源を多数用意することは、赤外線撮像装置1の構造を複雑にしてしまう。したがって、赤外線撮像装置1における補正点は、少なければ少ないほど望ましく、2点での補間、即ち、既知温度の赤外線源を2つよりも増やすことは望ましくない。
ここで、図1に示すように、赤外線検知装置1としてのFPA型赤外線撮像装置は、赤外線イメージセンサ2と、赤外線イメージセンサ2に備えられる各赤外線検知素子10(画素)から出力される電気信号を処理する信号処理部4とを備える。
このように、FPA型赤外線撮像装置1は、2次元アレイ21、行選択スイッチ部22、信号取り出し&シフトレジスタ部23、入出力特性較正データ保存部24、補正演算部25、信号出力部26、及び、スイッチ27を含む。
図9は、赤外線撮像装置1における各赤外線検知素子10からの出力電気信号の補正方法の第1の実施例を示すフローチャートである。図6及び図9を参照して、図9に示される補正方法について説明する。なお、フローチャートにおいて、各ステップの実行順はフローチャートに示される順番に限定されるものではなく、動作に支障が生じない限りにおいてステップの実行順を前後させてもよい。なお、2次元アレイ21は、例えばn×n画素からなる2次元アレイとする。
ステップS2で、スイッチ27を入出力特性較正データ保存部24側に接続する。
ステップS3で、温度T1の黒体相当の物体(赤外線源)から放射された赤外線(温度T1の黒体相当の強度の赤外線)を面内で均一に2次元アレイ21に入射(照射)する。
入出力特性較正データ保存部24は、AD変換部31、記憶制御部32、読出制御部33、V1(i,j)記憶部34、V2(i,j)記憶部35、及び温度記憶部36を含む。また、補正演算部25は、演算部41、及びAD変換部42を含む。
入出力特性較正データ保存部24には、現在供給されている出力電圧の画素位置(i,j)を示すデータと、現在入射している赤外線源の温度T1又はT2を示すデータとが供給される。
図9に戻り、ステップS5で、温度T2の黒体相当の物体(赤外線源)から放射された赤外線(温度T2の黒体相当の強度の赤外線)を面内で均一に2次元アレイ21に入射(照射)する。
次に、赤外線撮像装置1の通常の使用状態において、補正を実施して赤外線画像を得る動作が実行される。
図9のステップS7で、スイッチ27を補正演算部25側に接続する。
これにより、各画素を構成する赤外線検知素子10に一定バイアス電圧VIgを印加した状態で、行選択スイッチ部22及び信号取り出し&シフトレジスタ部23を稼動させて、2次元アレイ21の各画素(i,j)からの画素出力V(i,j)を補正演算部25に順次読みだす。
例えば、補正式、
画素(i,j)からの画素出力電圧V(i,j)が補正演算部25に入力されると、画素位置(i,j)を示すデータに応じて、画素(i,j)に対応した補正データV1(i,j)、V2(i,j)、T1、T2が入出力特性較正データ保存部24から読み出される(図9のステップS8)。
信号出力部26は、赤外線撮像装置1の構成に応じて、上記T(i,j)に応じた強度の信号を例えばテレビ画像出力のコントラスト信号として生成し、ディスプレイ装置に出力する(図9のステップS11)。
ところで、上記の実施例では、補正演算部25にて、各T(i,j)を算出するために補正演算を逐次実行している。
このような実施例を以下に説明する。
ステップS22で、スイッチ27を入出力特性較正データ保存部24側に接続する。
ステップS23で、温度T1の黒体相当の物体(赤外線源)から放射された赤外線(温度T1の黒体相当の強度の赤外線)を面内で均一に2次元アレイ21に入射(照射)する。
入出力特性較正データ保存部24は、AD変換部31、記憶制御部32、テーブル演算部51、電圧・温度記憶部52、テーブル記憶部53、及び読出制御・比較部54を含む。また、補正演算部25は、演算部61、及びAD変換部42を含む。
入出力特性較正データ保存部24には、現在供給されている出力電圧の画素位置(i,j)を示すデータと、現在入射している赤外線源の温度T1又はT2を示すデータとが供給される。
図11に戻り、ステップS25で、温度T2の黒体相当の物体(赤外線源)から放射された赤外線(温度T2の黒体相当の強度の赤外線)を面内で均一に2次元アレイ21に入射(照射)する。
図11のステップS27で、スイッチ27を補正演算部25側に接続する。これにより、各画素の赤外線検知素子10に一定バイアス電圧VIgを印加した状態で、行選択スイッチ部22及び信号取り出し&シフトレジスタ部23を稼動させて、2次元アレイ21の各画素(i,j)からの画素出力V(i,j)を補正演算部25に順次読みだす。
具体的には、補正演算部25のAD変換部42が、各画素(i,j)からの画素出力電圧V(i,j)をアナログ電圧からデジタル電圧値に変換する。演算部61は、画素出力のデジタル電圧値V(i,j)を、入出力特性較正データ保存部24の読出制御・比較部54に供給する。読出制御・比較部54は、画素位置(i,j)を示すデータと画素出力のデジタル電圧値V(i,j)とに基づいて、テーブル記憶部53に格納されているテーブルから、画素位置(i,j)とデジタル電圧値V(i,j)とに対応する温度T(i,j)を読み出す。
つまり、テーブル記憶部53に格納されているテーブルから、
V(i,j,k)≦V(i,j)<V(i,j,k)+δV
を満たすkに対応するT(i,j,k)を読み出し、このT(i,j,k)を、画素出力電圧V(i,j)に対応する撮像対象の当該部分の温度T(i,j)とする。撮像対象の当該部分の温度T(i,j)は、演算部61から信号出力部26へ出力される。
信号出力部26は、赤外線撮像装置1の構成に応じて、上記T(i,j)に応じた強度の信号を例えばテレビ画像出力のコントラスト信号として生成し、ディスプレイ装置に出力する(ステップS31)。
したがって、本実施形態にかかる赤外線検知装置によれば、実際の赤外線検知素子10の入出力特性に応じて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を精度良く補正できるという利点がある。
図13では、2点(T1、T2)間を従来技術により線形補間して補正した値と真の値とのずれは、点線の曲線Aで示している。
図13から分かるように、上述の本実施形態の方法によって補正した場合、従来技術によって補正する場合よりも補正精度が向上している。
なお、本発明は、上述した実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
ここで、関数g(T)は、温度Tの1次以上の整関数や指数関数など、数学的に取扱い可能な任意の関数が原理的には使用可能である。
この場合、対象物体の温度Tに対する赤外線検知素子の出力電気信号V(T)の関係は、すでに述べたのと同様にして、
ここで、関数G(T)は、関数g(T)の原始関数の一つ、即ち、
この場合、赤外線検知素子10の出力電気信号Vに対応した温度Tは、
この場合も、上述の実施形態の場合と同様に、赤外線検知装置1は、赤外線検知素子10と、赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、赤外線検知素子10から出力される電気信号を補正する信号処理部4とを備えるものとなる。
また、信号処理部4は、既知温度T1及びT2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに赤外線検知素子10から出力される電気信号がV1及びV2である場合、関係式の赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数をg(T)とし、
例えば、g(T)を1次関数、即ち、
この場合、任意の未知温度Tの対象物体からの赤外線に対応した赤外線検知素子10の出力電気信号Vを、この式を用いて適切に補正して、その温度(黒体換算の温度;ここでTは絶対温度)を算出することができる。
つまり、信号処理部4は、関数G(T)が、a(a≠0),bを定数として、
なお、g(T)としてTの2次以上の整関数を用いた場合、G(T)はTの3次以上の整関数となる。この場合、数学的には解の公式が利用できる場合もあると言われており、そのような公式を用いても良いし、その他に、Tの2次以上の整関数G(T)に対して、いわゆるニュートン法といったような数値的解法を用いて、方程式、即ち、
また、例えば、g(T)を指数関数、即ち、
この場合、任意の未知温度Tの対象物体からの赤外線に対応した赤外線検知素子10の出力電気信号Vを、この式を用いて適切に補正して、その温度(黒体換算の温度;ここでTは絶対温度)を算出することができる。
つまり、信号処理部4は、関数G(T)が、a(a≠0),bを定数として、
ところで、このような関数f(T)の近似関数g(T)を用いる場合、
これを上述の実施形態のVDCの式と比較すると、上述の関数g(T)を用いる手法は、数学的には上述の実施形態のVDCの式の定数xに対して実効的に対象物体の温度Tに対する依存性を加味した場合に相当することになる。つまり、関数g(T)を上述のようにした場合、上述の実施形態では実定数xを用いて近似した関数f(T)を用いるのに対し、温度Tの関数x(T)を用いて近似した関数g(T)を用いるのに相当することになる。これは、
以下、上述の実施形態及び変形例に関し、更に、付記を開示する。
(付記1)
入射した赤外線に応じた電気信号を出力する赤外線検知素子と、
赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、前記赤外線検知素子から出力される電気信号を補正する信号処理部とを備えることを特徴とする赤外線検知装置。
前記関係式が、前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号をVpとし、温度変化をdTとした場合の前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号の変化をdVpとし、前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分を温度Tの関数であるf(T)又はg(T)として、
(付記3)
前記関係式の前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数f(T)は、前記赤外線検知素子の波長応答特性におけるピーク波長をλpとし、実係数をxとし、ボルツマン定数をkBとし、プランク定数をhとし、真空中での光速をcとして、
(付記4)
前記実係数xは、前記赤外線検知素子の波長応答特性における半値全幅をFWHMとして、
(付記5)
前記実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、前記赤外線検知素子の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
(付記6)
前記実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、前記赤外線検知素子の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
(付記7)
前記実係数xは、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、前記赤外線検知素子の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
(付記8)
前記T1は0℃であり、前記T2は100℃であることを特徴とする、付記7に記載の赤外線検知装置。
(付記9)
前記信号処理部は、既知温度T1及びT2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに前記赤外線検知素子から出力される電気信号がV1及びV2である場合、
(付記10)
前記関係式の前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数f(T)は、赤外線の波長域をλ1〜λ2とし、赤外線強度をWとし、温度をTとし、前記赤外線検知素子の波長応答特性をR0(λ)とし、温度Tの黒体放射強度の波長分散特性をW(λ,T)として、
(付記11)
前記信号処理部は、既知温度T1及びT2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに前記赤外線検知素子から出力される電気信号がV1及びV2である場合、前記関係式の前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数をg(T)とし、
(付記12)
前記信号処理部は、関数G(T)が、a(a≠0),bを定数として、
(付記13)
前記信号処理部は、関数G(T)が、a(a≠0),bを定数として、
2 赤外線イメージセンサ
3 読出回路チップ
4 信号処理部
5 バンプ
10 赤外線検知素子
11 容量素子
12 スイッチ
21 2次元アレイ(赤外線検知素子アレイ)
22 行選択スイッチ部
23 信号取り出し&シフトレジスタ部
24 入出力特性較正データ保存部
25 補正演算部
26 信号出力部
27 スイッチ
31 AD変換部
32 記憶制御部
33 読出制御部
34 V1(i,j)記憶部
35 V2(i,j)記憶部
36 温度記憶部
41 演算部
42 AD変換部
51 テーブル演算部
52 電圧・温度記憶部
53 テーブル記憶部
54 読出制御・比較部
61 演算部
Claims (7)
- 入射した赤外線に応じた電気信号を出力する赤外線検知素子と、
赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、前記赤外線検知素子から出力された電気信号から対象物体の温度を求める信号処理部とを備え、
前記関係式が、前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号をV p とし、温度変化をdTとした場合の前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号の変化をdV p とし、前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分を温度Tの関数であるf(T)として、
前記関係式の前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数f(T)は、前記赤外線検知素子の波長応答特性におけるピーク波長をλpとし、実係数をxとし、ボルツマン定数をk B とし、プランク定数をhとし、真空中での光速をcとして、
- 入射した赤外線に応じた電気信号を出力する赤外線検知素子と、
赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に、定数ではなく、温度の関数を含む関係式に基づいて、前記赤外線検知素子から出力された電気信号から対象物体の温度を求める信号処理部とを備え、
前記関係式が、前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号をV p とし、温度変化をdTとした場合の前記赤外線検知素子から出力される赤外線強度相当の電気信号の変化をdV p とし、前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分を温度Tの関数であるg(T)として、
前記信号処理部は、既知温度T1及びT2(T2>T1)の黒体相当の強度の赤外線が入射したときに前記赤外線検知素子から出力される電気信号がV1及びV2である場合、前記関係式の前記赤外線強度の温度に対する依存性に関する部分に含まれる温度Tの関数をg(T)とし、
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