以下、本発明の一実施形態に係る、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めするための挿入穴80を形成するための器具1について、図1乃至13、図18、図19、図22、図23及び図26を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、器具1及び生体用補綴体110において、それらが骨髄腔6の中に挿入される側を先端側と呼び、骨髄腔6の中に挿入されずに電動ドリルに接続される側を基端側と呼んでいる。これらの用語の使用は、図面を参照したときに本発明の理解を容易にするためであり、それらの用語の意味により、本発明の技術的範囲が制限されるものではない。
第1実施形態に係る器具1は、図19に示すように、少なくとも、第1ブレード10と、第2ブレード20と、連結アタッチメント30と、を備え、第2ブレード20を装着した第1ブレード10に対して連結アタッチメント30を装着させたものである。
まず、図1乃至3を参照しながら、器具1における第1ブレード10を説明する。図1乃至3に示すように、第1ブレード10は、先端側に設けられたストレート刃部11と、ストレート刃部11から基端側に延在する第1刃部12と、第1刃部12から基端側に延在する第1シャフト部13と、第1シャフト部13から基端側に延在する第1係合部14と、を少なくとも備える。第1ブレード10は、ステンレス材料からなり、例えばSUS440からなる。
ストレート刃部11は、その外面に刃部の形成された直線状に延在する円柱形状をしている。第1刃部12は、その外面に刃部が形成されていて、先端側が先細に傾斜したテーパ形状をしている。第1刃部12が第1ブレード10の軸方向に対して傾斜している第1傾斜角度は、プレス嵌めするための角度を規定している。第1シャフト部13は、後述する第2ブレード20がシャフト挿入穴26を通じて挿入されるように円柱形状をしている。第1シャフト部13の外径が第1刃部12の基端側端部の外径よりも小さく寸法構成されているので、両者の境界部分には段差が形成されていて、当該段差は、ストッパー支持面17を形成している。第1係合部14は、大略直線状に延在する円柱形状をしているが、平行する2面が部分的に切り欠かれている。切り欠かれた面は係合面15を形成している。一対の係合面15は、間隔Qで離間している。第1係合部14の外径Pが第1シャフト部13の外径よりも小さく寸法構成されているので、両者の境界部分には段差が形成されている。
第1係合部14の基端側には、装着ガイド部16が延在している。装着ガイド部16は、第1シャフト部13と同様に、第2ブレード20がシャフト挿入穴26を通じて挿入されるように円柱形状をしている。装着ガイド部16の先端側の面である下面19は、装着ガイド部16と第1係合部14との境界を画定している。装着ガイド部16の外径が第1係合部14の外径Pよりも大きく寸法構成されているので、両者の境界部分には段差が形成されている。
装着ガイド部16の基端側には、チャック部18が延在している。チャック部18は、図示しない電動ドリルに対して嵌合接続される。円柱形状をしている第1シャフト部13及び装着ガイド部16の外径寸法は、実質的に同じサイズである。第1ブレード10において、第1シャフト部13と第1係合部14と装着ガイド部16とチャック部18とによって、第1ブレード10におけるシャフト13aが形成されている。第1ブレード10を構成するストレート刃部11と第1刃部12と第1シャフト部13と第1係合部14と装着ガイド部16とは、それぞれ、第1ブレード10の軸方向に延在している。
次に、図4乃至9を参照しながら、図1乃至3に示した第1ブレード10が装着される第2ブレード20を説明する。
第2ブレード20は、中央部分がシャフト挿入穴26を有する中空の略円筒形状をしていて、第1ブレード10がシャフト13aを介して挿通できるように構成されている。シャフト挿入穴26は、第1ブレード10の軸方向に沿って貫通している。第2ブレード20は、先端側に設けられた第2刃部22と、第2刃部22から基端側に延在する第2係合部21と、第2係合部21から基端側に延在するフランジ25と、を少なくとも備える。第2ブレード20は、ステンレス材料からなり、例えばSUS440からなる。
第2刃部22は、その外面に刃部が形成されていて、先端側が先細に傾斜したテーパ形状をしている。第2刃部22が第1ブレード10の軸方向に対して傾斜している第2傾斜角度は、挿入穴80の入口部分に形成される面取り穴部93の角度を規定している。第2刃部22の先端側の面である当接面28は、第1ブレード10のストッパー支持面17に対して当接可能である平坦部分を有している。第2係合部21の外径は、他の構成要素すなわち第2刃部22及びフランジ25よりも小さく寸法構成されており、先端側及び基端側のそれぞれにおいて段差構造が形成されている。第2係合部21に対して境界を画定する第2刃部22の基端側の面は、支持面29を形成している。
第2係合部21の側面において、対向する2箇所が部分的に切り欠かれており、一対の係合面24が形成されている。係合面24のそれぞれは、矩形形状をしていて、第1ブレード10の軸方向に対して平行に延在している。各係合面24の中央部分には、凹状又は貫通した係合穴27が形成されている。
次に、図10乃至13を参照しながら、連結アタッチメント30を説明する。
連結アタッチメント30は、第1ブレード10及び第2ブレード20を一体的に連結するための部材である。連結アタッチメント30は、大略円柱形状をしていて、第1ブレード10及び第2ブレード20に対する連結構造を形成するために部分的に切り欠かれた空洞部分を備えている。
連結アタッチメント30は、ボディ31と、先端側に設けられた第2ブレード側係合部33と、第2ブレード側係合部33から基端側に延在するフランジ受入部35と、フランジ受入部35から基端側に延在する第1ブレード側係合部32と、を少なくとも備える。第1ブレード側係合部32と第2ブレード側係合部33とによって、連結係合部34を形成している。連結アタッチメント30は、ステンレス材料からなり、例えばSUS630からなる。
第2ブレード側係合部33は、一方の側からボディ31の一部分を切り欠くことによって形成された空洞構造をしており、その内部には、対向する一対の係合面33aが形成されている。他方の側は閉止されている。係合面33aのそれぞれは、矩形形状をしていて、第1ブレード10の軸方向に対して平行に延在している。係合面33aのそれぞれは、第2ブレード20の係合面24のそれぞれに対して係合するように寸法構成されている。フランジ受入部35は、第2ブレード20のフランジ25を収容可能に寸法構成されている。
第1ブレード側係合部32は、第2ブレード側係合部33を形成するのと同じ一方の側から部分的に切り欠くことによって形成された空洞構造をしており、その内部には、対向する一対の係合面32aが形成されている。他方の側は閉止されている。係合面32aのそれぞれは、矩形形状をしていて、第1ブレード10の軸方向に対して平行に延在している。係合面32aのそれぞれは、第1ブレード10の係合面15のそれぞれに対して係合するように寸法構成されている。すなわち、一対の係合面32aは間隔Sで離間していて、間隔Sは、一対の係合面15の間隔Qよりも僅かに大きいように寸法構成されている。第1ブレード10の係合面15への装着を容易にするために、第1ブレード側係合部32の入口側には、装着ガイド部32bが形成されている。第1ブレード側係合部32の軸方向の高さは、第1ブレード10の第1係合部14に対して収容されるように寸法構成されている。
連結アタッチメント30の先端側の面が下面39であり、連結アタッチメント30の基端側の面が上面38である。リーミングで先端側に向けて掘り進めるときにおいて、連結アタッチメント30の下面39は、骨切り面4に対するストッパー当接面として働く。連結アタッチメント30によって第1ブレード10及び第2ブレード20を一体的に連結する場合には、連結アタッチメント30の下面39が第2ブレード20の支持面29に当接する。このとき、装着ガイド部16の下面19と連結アタッチメント30の上面38との間には、連結アタッチメント30が第1ブレード10の軸直交方向に着脱自在となる程度の僅かな隙間が形成されるように構成されている。
係合面33aの一方には、係合部材36を螺着するためのネジ穴37bが形成されている。ネジ穴37bは、係合面33aに対して直交する方向に延在している。係合部材36の内側部分には、大略半球状の係合凸部37が内方に向けて弾性的に付勢された状態で突出している。連結アタッチメント30によって第1ブレード10及び第2ブレード20を一体的に連結する場合には、係合凸部37は、係合穴27に弾性的に係合する。係合面33aの他方には、係合部材36をネジ穴37bに向けて出し入れするための貫通した取付穴37aが形成されている。
次に、図14乃至17を参照しながら、調整アタッチメント40を説明する。
調整アタッチメント40は、プレス嵌めするのに有効且つ最適な穴径に挿入穴80を調整するための部材である。調整アタッチメント40は、大略円柱形状をしていて、第2ブレード20に対しては係合するものの、第1ブレード10に対してはフリーであるという構造を提供するために部分的に切り欠かれた空洞部分を備えている。
調整アタッチメント40は、ボディ41と、先端側に設けられた第2ブレード側係合部43と、第2ブレード側係合部43から基端側に延在するフランジ受入部45と、フランジ受入部45から基端側に延在する調整ガイド部42と、を少なくとも備える。調整アタッチメント40は、耐摩耗性に優れた高分子材料からなり、例えば、ポリエーテルイミドからなる。
第2ブレード側係合部43は、一方の側からボディ41の一部分を切り欠くことによって形成された空洞構造をしており、その内部には、対向する一対の係合面43aが形成されている。他方の側は閉止されている。係合面43aのそれぞれは、矩形形状をしていて、第1ブレード10の軸方向に対して平行に延在している。係合面43aのそれぞれは、第2ブレード20の係合面24のそれぞれに対して係合するように寸法構成されている。フランジ受入部45は、第2ブレード20のフランジ25を収容可能に寸法構成されている。
調整ガイド部42は、第2ブレード側係合部43を形成するのと同じ一方の側から部分的に切り欠くことによって形成された空洞構造をしており、その内部には、対向する一対のガイド面42aが形成されている。他方の側は閉止されている。ガイド面42aのそれぞれは、矩形形状をしていて、第1ブレード10の軸方向に対して平行に延在している。ガイド面42aのそれぞれは、第1ブレード10の第1係合部14に対して係合しないでフリーであるように寸法構成されている。すなわち、一対のガイド面42aは間隔Tで離間していて、間隔Tは、第1係合部14の外径Pよりも僅かに大きいように寸法構成されている。調整ガイド部42の軸方向の高さは、プレス嵌めするのに有効且つ最適な穴径に挿入穴80を調整するために、第1ブレード側係合部32の高さよりも、低く寸法構成されている。調整アタッチメント40の他の部分における軸方向の高さが、連結アタッチメント30のそれと同じであるように構成されているので、調整アタッチメント40の軸方向の高さは、全体として、連結アタッチメント30のそれよりも低くなっている。
調整アタッチメント40の先端側の面が下面49であり、調整アタッチメント40の基端側の面が上面48である。リーミングで先端側に向けて掘り進めるときにおいて、調整アタッチメント40の下面49は、骨切り面4に対するストッパー当接面として働く。調整アタッチメント40を第1ブレード10及び第2ブレード20に装着する場合には、調整アタッチメント40の下面49が第2ブレード20の支持面29に当接する。このとき、装着ガイド部16の下面19と連結アタッチメント30の上面38との間には、挿入穴80の穴径を調整するための穴径調整隙間が形成されるように構成されている。この穴径調整隙間は、図27においてGとして図示されている。
係合面43aの一方には、係合部材46を螺着するためのネジ穴47bが形成されている。ネジ穴47bは、係合面43aに対して直交する方向に延在している。係合部材46の内側部分には、大略半球状の係合凸部47が内方に向けて弾性的に付勢された状態で突出している。調整アタッチメント40を第1ブレード10及び第2ブレード20に装着する場合には、係合凸部47は、係合穴27に弾性的に係合する。係合面43aの他方には、係合部材46をネジ穴47bに向けて出し入れするための貫通した取付穴47aが形成されている。
図18、19及び26を参照しながら、第1ブレード10に対する第2ブレード20の装着と、連結アタッチメント30による第1ブレード10及び第2ブレード20の一体的連結構造について説明する。
図18において、第2刃部22が先端側に位置するように配置した第2ブレード20を、チャック部18の側から、第1ブレード10の軸方向に第1ブレード10に装着する。第2ブレード20は、シャフト挿入穴26を通じて、チャック部18、装着ガイド部16、第1係合部14、第1シャフト部13の順で、第1ブレード10に挿通される。第2ブレード20の当接面28が第1ブレード10のストッパー支持面17に係合するので、第2ブレード20がそれ以上先端側に移動することができなくなる。したがって、第2ブレード20は、第1ブレード10に対して係止した状態となる。
第1ブレード10と、第1ブレード10に対して係止された第2ブレード20とにおいて、それぞれの係合面15,24が互いに平行になるように、位置決めを行う。両方の係合面15,24を平行にした状態で、連結アタッチメント30を第1ブレード10の軸直交方向から装着する。連結アタッチメント30を第1ブレード10及び第2ブレード20に装着すると、係合面33aが係合面24に係合するとともに係合面32aが係合面15に係合し、フランジ受入部35がフランジ25に係合する。したがって、連結アタッチメント30を介して、第1ブレード10及び第2ブレード20が一体的に連結され、図19及び26に示すように、三者が一体化された器具1を得ることができる。このとき、係合凸部37が係合穴27に弾性的に係合して、連結アタッチメント30が軸直交方向に動くことを規制しているので、連結アタッチメント30が不用意に脱離することを防止することができる。
図20、21及び27を参照しながら、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた第2実施形態に係る器具1について説明する。
図20に示すように、第1ブレード10に係止されている第2ブレード20に対して、調整アタッチメント40を第1ブレード10の軸直交方向から装着する。このとき、第2ブレード20の係合面24と調整アタッチメント40の係合面43aとが平行になるように位置決めした状態にした上で、調整アタッチメント40を第1ブレード10の軸直交方向から第2ブレード20に対して装着する。調整アタッチメント40を第2ブレード20に装着すると、係合面43aが係合面24に係合し、フランジ受入部45がフランジ25に係合する。したがって、調整アタッチメント40と第2ブレード20とが一体的に結合されて、図21に示すように、三者が組み合わされた器具1を得ることができる。このとき、係合凸部47が係合穴27に弾性的に係合して、調整アタッチメント40が軸直交方向に動くことを規制しているので、調整アタッチメント40が不用意に脱離することを防止することができる。
ところで、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた図21に示した器具1において、調整ガイド部42の間隔T(図16を参照)が第1係合部14の外径寸法P(図1を参照)よりも大きくなるように寸法構成されているので、調整ガイド部42が第1係合部14に対して係合すること無くフリーになっている。すなわち、調整アタッチメント40は第1ブレード10に対して切り離されているので、調整アタッチメント40及び第2ブレード20が第1ブレード10に対して空回りするだけであり、第1ブレード10の回転駆動力が、調整アタッチメント40及び第2ブレード20に伝達されることがない。
図27に示すように、第1ブレード10の装着ガイド部16の下面19と、調整アタッチメント40の上面48との間には、隙間Gが形成されている。第1ブレード10は、隙間Gの分だけ、調整アタッチメント40及び第2ブレード20に対して、第1ブレード10の軸方向に相対的に移動することができる。
図22及び23を参照して、第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した器具1を用いて、生体用補綴体110(図32に図示)をプレス嵌めするための挿入穴80の形成について説明する。
まず、事故や疾病等によって切除することが必要になった大腿骨7の患部をオッシレータによって切除すると、患部の切除された大腿骨7の骨切り面4には、骨髄腔6(図33に図示)が露出する。ストレートのドリル刃を装着した電動ドリルを用いて、ストレートな穴を骨髄腔6に形成する。電動ドリルに装着する刃を、第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した器具1に取り替えて、リーミングを行って、生体用補綴体110のステム部112を嵌入するための挿入穴80を骨髄腔6に形成する。連結アタッチメント30の下面39が骨切り面4に当接すると、先端側にそれ以上掘り進むことができなくなるので、挿入穴80の形成が完了する。
リーミングによって得られた挿入穴80は、図23に示すように、先端側から基端側に向けて順に、ストレート穴部91、テーパ穴部92、及び、面取り穴部93を備えている。ストレート穴部91がストレート刃部11に、テーパ穴部92が第1刃部12に、面取り穴部93が第2刃部22に、それぞれ対応する。ストレート穴部91とテーパ穴部92との間の境界は、境界線95によって画定されている。
第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した器具1においては、第1ブレード10の回転駆動に従って、第2ブレード20も回転駆動される。その結果、第1ブレード10のストレート刃部11及び第1刃部12と、第2ブレード20の第2刃部22とが、一体的に回転するので、骨髄腔6にプレス嵌めするための挿入穴80を形成することができる。このとき、第2刃部22を備える第2ブレード20が、第1ブレード10に対して軸方向に着脱自在に別体に構成されているので、第2刃部22がC面やR面のように所望とする特殊で複雑な形状を有するように、第2刃部22を精密且つ容易に加工することができ、プレス嵌めするための挿入穴形成用の器具1の低コスト化が可能になるという効果を奏する。
ところで、形成された挿入穴80への生体用補綴体110のプレス嵌めがきついと術者が判断した場合に、挿入穴80のうち、テーパ穴部92を拡径するために、連結アタッチメント30を器具1から取り外して、調整アタッチメント40を装着することが行われる。
図24及び25を参照して、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1を用いて、生体用補綴体110をプレス嵌めするための挿入穴80の拡径について説明する。
電動ドリルに装着する刃を、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1に取り替えて、リーミングを行って、挿入穴80を拡径する。調整アタッチメント40の下面49が骨切り面4に当接すると、先端側にそれ以上進むことができなくなるので、挿入穴80の拡径が完了する。
リーミングによって拡径された挿入穴80は、図25に示すように、先端側から基端側に向けて順に、ストレート穴部91、拡径後のテーパ穴部94、及び、面取り穴部93を備えている。ストレート穴部91がストレート刃部11に、拡径後のテーパ穴部94が第1刃部12に、面取り穴部93が第2刃部22に、それぞれ対応する。拡径作業の前後において、面取り穴部93の形状は変化していないが、テーパ穴部92が、拡径後のテーパ穴部94に変化している。ストレート穴部91は、穴径の変化が無いものの、軸方向長さが短くなっている。ストレート穴部91と拡径後のテーパ穴部94との間の境界は、拡径後の境界線96によって画定されている。
図28乃至30を参照しながら、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1を用いた拡径作業によって、挿入穴80の形状を変化させるメカニズムについて説明する。
図28は、第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した器具1を用いることによって形成される通常の挿入穴80を模式的に示している。図29は、第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1を用いることによって拡径された挿入穴80を模式的に示している。図30は、図28と図29とを重ね合わせた図であって、図28に関係する部分を点線で、図29に関係する部分を実線で示している。
第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1を用いた場合には、第2ブレード20に回転駆動力が伝達されることがなく、第2ブレード20が骨切り面4に当接すると、面取り穴部93の中で静止状態にあるだけなので、面取り穴部93の形状がそのまま維持される。
図27に示したように、装着ガイド部16の下面19と連結アタッチメント30の上面38との間には、穴径調整隙間Gが形成されている。穴径調整隙間Gの分だけ、第1ブレード10が先端側に掘り進むことができる。第1ブレード10が、穴径調整隙間Gの分だけ先端側に掘り進むと、挿入穴80のうち、第1ブレード10に関係する部分(ストレート穴部91及びテーパ穴部92)が全体として先端側にスライド移動する。図30において、境界線95が拡径後の境界線96に軸方向に変位した長さが、スライド移動長さHと規定することができる。このスライド移動長さHは、図27に示した穴径調整隙間Gと同じ寸法である。
テーパ穴部92は、先端側が先細に傾斜したテーパ形状をしているので、先端側が小径であり基端側が大径である。このような先細のテーパ穴部92が、先端側に向けて軸方向にスライド移動すると、基端側の大径部分が先端側に変位するので、軸方向にスライド移動した後では、元のテーパ穴部92の穴径が拡径される。したがって、図30において、元のテーパ穴部92が、拡径後のテーパ穴部94に拡径され、その拡大半径量をXで規定することができる。拡大半径量Xは、穴径調整隙間Gに比例して変化する。したがって、穴径調整隙間Gを大きく取ることによって、拡大半径量Xを大きくすることができる。本発明を限定しない例示として、穴径調整隙間Gを1mmとすれば、拡大半径量Xが0.06mmである。
第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1においては、第1ブレード10が回転駆動されても、第2ブレード20及び調整アタッチメント40が、回転駆動されることがない。したがって、実質的に、第1ブレード10の第1刃部12が挿入穴80の形成に寄与し、さらに先端側に向けて軸方向に掘り進むことができる。このとき、第1刃部12がテーパ形状をしているので、基端側の外径の大きい刃部が先端側にスライド移動したことになり、テーパ穴部92を、拡径後のテーパ穴部94に拡径することができる。したがって、連結アタッチメント30を調整アタッチメント40に交換することで、プレス嵌めするのに有効且つ最適な穴径に挿入穴を調整することができるという効果を奏する。
次に、図31乃至33を参照しながら、ステム挿入穴81及び4個のキール溝83を有する挿入穴80を形成する術式について説明する。
まず、図32及び33を参照しながら、回旋止め部130を有する生体用補綴体110及び当該生体用補綴体110をプレス嵌めするための挿入穴80を説明する。
図32は、テーパ部122によってプレス嵌めされる補綴体であって、外方に向けて突出する回旋止め部130がテーパ部122の上に配設された生体用補綴体110を示している。また、図33は、大腿骨7の近位側の患部をオッシレータによって切除した大腿骨7の骨切り面4において、回旋止め部130を有する生体用補綴体110を骨髄腔6の中に挿入するために形成された挿入穴80を示している。挿入穴80は、テーパ部122がプレス嵌めされるステム挿入穴81と、回旋止め部130がプレス嵌めされる4個のキール溝83と、を有する。ステム挿入穴81は略円形状をしており、各キール溝83は略半円形状をしている。
図32に示すように、生体用補綴体110は、大腿骨7の近位端の骨髄腔6の中に挿入される棒状のステム部112と、ステム部112と一体的に構成されて骨切り面4に当接する骨幹部118と、骨幹部118と一体的に構成されて接続ネジ穴116を有する嵌合部114と、を備えている。生体用補綴体110の母材は、Ti合金やCo−Cr−Mo合金やステンレス等の金属若しくはアルミナ等のセラミックス等の生体安全性の高い材料からできている。
大略円柱形状をしているステム部112は、ステム部112の先端部112bの側に位置して、ストレート形状をしているストレート部120と、その根元部112aの側に位置して、先端部112bの側に向けて先細に傾斜しているテーパ部122と、を備えている。ストレート部120は、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)である。テーパ部122は、後述するように、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)との結合力を高めるように粗面加工された粗面と、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)と、から構成されている。
ステム部112の根元部112aから先端部112bに向けて軸方向に延在するとともに外方に向けて突出する回旋止め部130が、テーパ部122の上に配設されている。4個の回旋止め部130が、テーパ部122の周面上に90度の角度で等配されている。回旋止め部130は、テーパ部122と同様に、軸の中心に対して傾斜している。なお、外方に向けて突出した回旋止め部130は、当該技術分野においてフィン又はキールと呼ばれている。テーパ部122及び回旋止め部130の傾斜角度は、好ましくは約5度乃至約9度であり、より好ましくは約7度である。2個乃至6個程度の回旋止め部130をテーパ部122に配設することができるが、図32に示した生体用補綴体110では、4個の回旋止め部130を配設することにより、適度の回旋抵抗性とキール溝83の形成の簡略化とを達成することができる。
生体用補綴体110の各回旋止め部130は、回旋止め部130の軸方向に直交する断面が、略半円形状をしている。回旋止め部130を含むテーパ部122の表面には、ステム部112の母材と実質的に同系の材料が熔射されることで、表面が粗面化しており、粗面部としての熔射面124が形成されている。さらに、新生骨の生成を早めるために、粗面部としての熔射面124の最表面には、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム化合物がプラズマ熔射等で形成されていることが好適である。なお、粗面部は、エッチングやフライス削りやサンドブラスト加工やエンボス加工や機械加工等で形成することもできる。
ステム部112のストレート部120とテーパ部122との間での境界を画定する境界線128は、微視的に見れば屈曲変異線を構成するために、機械的強度の面で劣った特異部分となる。そのような特異部分に対して、熔射面124の形成の際の各種処理(高温熱処理や化学的処理等)を施すことは、更なる強度低下を引き起こす恐れがある。そこで、上述した熔射面124の先端部112bの側のテーパ部122には、粗面加工されていないスムーズな面(非粗面)を有する緩衝領域126を介在配置しており、ストレート部120とテーパ部122との境界部分での強度低下を抑制している。
回旋止め部130を含むテーパ部122を根元部112aから先端部112bの方向に見ると、粗面加工された回旋止め部130、粗面加工されたテーパ部122、粗面加工されていない緩衝領域126の順序で位置している。
次に、図31を参照しながら、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めするための挿入穴80を形成する術式を説明する。以下に説明する挿入穴80は、キール溝83を有するが、挿入穴80におけるキール溝83の有無は、本発明の特徴的な部分とは直接的に関係しない内容である。
図31は、本発明に係る器具1を用いて、キール溝83を有する挿入穴80を形成する術式を説明するフローチャートである。図31において、まず、事故や疾病等によって切除することが必要になった大腿骨7の患部をオッシレータによって切除する。患部の切除された大腿骨7の骨切り面4には、骨髄腔6が現れる。ストレートなドリル刃を装着した電動ドリルを用いて、ステム部112のストレート部120が挿入可能な外径を持ったストレートな穴を、骨髄腔6に形成する(ステップS1)。
電動ドリルに装着する刃を、第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した器具1に取り替えて、リーミングを行って、生体用補綴体110のステム部112を嵌入するための挿入穴80を骨髄腔6に形成する(ステップS3)。連結アタッチメント30の下面39が骨切り面4に当接すると、先端側にそれ以上掘り進むことができなくなるので、挿入穴80の形成が完了する。そして、生体補綴体110の軸の中心に対して傾斜した4個のキール溝83を形成する。4個のキール溝83の形成が完了すると、図33に示すような、略円形状のステム挿入穴81と、略半円形状の4個のキール溝83と、を有する挿入穴80が形成される(ステップS5)。
この挿入穴80に対し、回旋止め部130とキール溝83との間での位置合わせを行った上で、回旋止め部130を有する生体用補綴体110を挿入穴80に打ち込むことで、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めさせることができる(ステップS7)。
ステップS9において、術者はプレス嵌めの良し悪しについて判断する。すなわち、良好なプレス嵌めが得られていると術者が判断すると(ステップS9においてYESが選択されると)、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めさせるという一連の術式が終了する。
これに対して、ステップS9において、形成された挿入穴80への生体用補綴体110のプレス嵌めがきついと術者が判断すると(ステップS9においてNOが選択されると)、挿入穴80のうち、テーパ穴部92を拡径するために、連結アタッチメント30を器具1から取り外して、調整アタッチメント40を付け替えることを行う(ステップS11)。
第1ブレード10と第2ブレード20と調整アタッチメント40とを組み合わせた器具1を用いて、リーミングを行い、挿入穴80を拡径する(ステップS13)。調整アタッチメント40の下面49が骨切り面4に当接すると、先端側にそれ以上掘り進むことができなくなるので、挿入穴80の拡径が完了する。
拡径された挿入穴80において、回旋止め部130とキール溝83との間での位置合わせを行った上で、回旋止め部130を有する生体用補綴体110を、拡径された挿入穴80に対して打ち込むことで、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めさせる(ステップS15)。
ステップS9に戻って、術者はプレス嵌めの良し悪しを再び判断して、良好なプレス嵌めが得られていると術者が判断すると、生体用補綴体110を骨髄腔6にプレス嵌めさせるという一連の術式が終了する。
なお、ステップS11において、調整アタッチメント40を付け替えることを行っても、万が一、十分なプレス嵌めが得られていない場合には、さらに大きな拡径が得られるような調整アタッチメント40を付け替えることができる。すなわち、図27に示した穴径調整隙間Gをさらに大きくした調整アタッチメント40に付け替えることができる。このように、穴径調整隙間Gの異なった複数(少なくとも2種類)の調整アタッチメント40を準備して、穴径調整隙間Gを小さいから始めて次第に大きくしていくことによって段階的にプレス嵌めの加減を調整することができる。
上記実施形態では、連結構造が係合面15,24,32a,33aによって構成されているので、連結構造の形成が容易であるという利点を有するが、連結構造が係合面だけで構成されるというように限定的解釈するべきではない。例えば、複数の連結対象物にネジ穴を設けてそれらをネジで螺合させることによって、第1ブレード10と第2ブレード20と連結アタッチメント30とが一体的に連結した連結構造を形成することができる。連結構造は、凹凸を利用した嵌合構造とすることもできる。
上記実施形態では、生体用補綴体110を大腿骨2の近位端側すなわち股関節側に適用した術式について説明したが、キール溝83を形成するための器具は、生体用補綴体110がそれ以外の部位(例えば、膝関節、肩関節、肘関節等)にも適用される術式にも使用可能である。