本発明では、このような事情に照らし、色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法、及び色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供することを目的とする。すなわち本来から酸化物がもっている特性を最大限向上させることや、そのような特性を補うことを目的としてケイ素化合物で酸化物を被覆し、色特性を制御することを課題とする。被覆されたケイ素化合物中のSi−OH結合が、作製方法や作製後の環境変化において比率や形態が変化することを利用するものである。波長780nmから2500nmの近赤外領域に対しては、反射率を制御することを課題とする。また、波長380nmから780nmの可視領域においては反射率、透過率、色相、又は彩度を制御することを課題とする。さらに、波長190nmから380nmの紫外領域においては、反射率又はモル吸光係数を制御することを課題とする。本願発明者は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子におけるケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率と、当該ケイ素化合物被覆酸化物粒子であるケイ素化合物被覆酸化鉄粒子、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子及びケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子の透過特性、吸収特性、反射特性、色相、又は彩度との関連性を見出し、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することでケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性を向上させることを見出して本発明を完成させた。
また本発明では、上記の事情に照らし、色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む塗布用組成物を提供することを課題とする。
すなわち本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、色特性を制御することを特徴とするケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法である。
また本発明は上記色特性が反射率、透過率、モル吸光係数、色相、又は彩度の何れかであることが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理を行うことによって、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することが好ましく、上記官能基の変更処理が、エステル化処理であることが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で制御することが好ましい。
また本発明は、上記分散体が塗膜状であり、上記塗膜状の分散体を熱処理することによって、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性を制御することが好ましい。
また本発明は、単一の酸化物粒子の表面、又は複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆することによるケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、
上記酸化物粒子、又は酸化物粒子の凝集体の粒子径が1nm以上50nm以下であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子が分散媒に分散している分散液中において、ケイ素化合物を析出させることによるケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法であり、
上記酸化物粒子の分散液中において、ケイ素化合物を析出させる際のpHを制御することで、上記Si−OH結合の比率を制御することが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、IRスペクトルにおける波数800cm-1から1300cm-1のケイ素化合物由来のピークを波形分離することで算出されるものであり、
上記波形分離された各ピークの総面積に対する、波形分離されたSi−OHに由来するピークの面積比率を制御することで、上記色特性を制御することが好ましい。
また本発明は、上記波形分離された各ピークの総面積に対する、波形分離されたSi−OHに由来するピークの面積比率を低く制御することで、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなるように制御することが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が50%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、47%以上75%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長400nmから620nmの光線に対する最大反射率が18%以下であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、35%以上67%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率が22%以下であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が8%以上75%以下であり、
L*a*b*表色系における、色相H(=b*/a*)が0.5から0.9の範囲であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が5%以上75%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、波長380nmの光線に対する透過率が5%以下、かつ波長600nmの光線に対する透過率が80%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が5%以上75%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長190nmから380nmの光線に対する平均モル吸光係数が2200L/(mol・cm)以上であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物は、エステル結合を含むものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が5%以上55%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が50%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化鉄であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、5%以上35%未満、又は67%よりも大きく75%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率が22%より高いケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上53%以下であり、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が72%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子でありことが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上40%以下であり、反射率が15%となる波長が375nm以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が50%以上60%以下であり、波長380nmから780nmの光線に対する平均反射率が86%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上55%以下であり、
L*a*b*表色系における、彩度C(=√((a*)2+(b*)2))が0.5から13の範囲であること特徴とするケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、50%以上60%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、波長340nmの光線に対する透過率が10%以下、かつ波長380nmから780nmの光線に対する平均透過率が92%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、20%以上40%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、透過率が15%となる波長が365nm以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、20%以上60%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長200nmから380nmの光線に対する平均モル吸光係数が、700L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化亜鉛であり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上55%以下であり、
L*a*b*表色系における、彩度C(=√((a*)2+(b*)2))が0.5から13の範囲であり、
L*a*b*表色系における、L*値が95から97の範囲であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、酸化物粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が、酸化セリウムであり、
上記ケイ素化合物は、上記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆することによって、上記酸化物粒子の色特性を変化させ得るものであって、
上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、45%以上75%以下であり、
上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長200nmから380nmの光線に対する平均モル吸光係数が、4000L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子は、単一の酸化物粒子の表面、又は複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、
上記酸化物が酸化鉄、酸化亜鉛、酸化セリウムであり、上記酸化物粒子、又は上記酸化物粒子の凝集体の粒子径が1nm以上50nm以下であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物が、非晶質のケイ素酸化物を含むことが好ましい。
また本発明は、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む塗布用ケイ素化合物被覆酸化物組成物として実施できる。
本発明によると、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、反射率、透過率、モル吸光係数、又は色相の何れかの色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子を提供できたものである。当該Si−OH結合の比率を制御することによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性を厳密に制御することが可能であるため、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に対して多様化する用途、及び目的の特性に対して従来に比べてより的確な組成物の設計を容易とできたものである。
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態の一例を取り上げて説明する。なお、本発明の態様は以下に記載の実施形態にのみ限定するものではない。
<ケイ素化合物被覆酸化物粒子>
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することで反射率、透過率、モル吸光係数、色相、又は彩度の色特性が制御された酸化物粒子であり、本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子を、人体の皮膚等に塗布する目的に用いる組成物や、塗膜や塗装体に塗布する目的に用いる組成物に対して特に好適である。
(一次粒子の被覆状態)
本発明におけるケイ素化合物被覆酸化物粒子の一例として、後述する実施例1−5で得られたケイ素化合物としてケイ素酸化物を被覆した酸化鉄粒子について示す。図1は、実施例1−5で得られたケイ素酸化物被覆酸化鉄粒子のSTEMを用いたマッピング結果である。図1において、(a)は暗視野像(HAADF像)であり、(b)はケイ素(Si)、(c)は鉄(Fe)、(d)は酸素(O)のそれぞれマッピング結果である。図1に見られるように、粒子の全体には鉄と酸素が検出され、ケイ素は主に粒子の表面に検出されている。図2は、図1のHAADF像において、破線を施した位置での線分析の結果であり、粒子の端から端までの線部分において検出された元素の原子%(モル%)を示した結果である。図2に見られるように、酸素とケイ素については、線分析における分析範囲の両端まで検出されたが、鉄については粒子の端から数nm程度内側までしか検出されておらず、酸化鉄の表面をケイ素酸化物で被覆されていることがわかる。図3に後述する実施例1で得られたケイ素酸化物被覆酸化鉄粒子のSTEMを用いたマッピング結果を、図4に図3のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図3、4に見られるように、実施例1で得られた粒子は、実施例1−5で得られた粒子とは異なり、酸化鉄粒子の全体をケイ素酸化物によって覆われたものではなく、酸化鉄粒子の表面の一部をケイ素酸化物よって被覆したケイ素酸化物被覆酸化鉄粒子である。このように本発明においては、酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子として実施することができる。
図5に実施例1及び実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のATR法にて測定したFT−IR測定結果を示す(以下、単にIR測定と略す)。実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のIR測定結果は、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化物のIR測定結果に比べて、1600cm−1付近及び3400cm−1付近のブロードなピークが小さく、1000cm−1付近のブロードなピークが高波数側にシフトしているように見られる。本発明においては、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することで各種色特性を制御するものであり、上記Si−OH結合の比率は、一例としてIR測定結果より判断することができる。また、上記Si−OH結合の比率は、IR測定以外の方法で測定してもよく、一例としてX線光電子分光法(XPS)や、固体NMRなどの方法が挙げられる。
上記実施例1又は実施例1−5のIR測定結果における1000cm−1付近のピークを波形分離した結果を図7に示す。なお、先の説明においては、IR測定結果の縦軸を透過率(%T)で示したが、波形分離は縦軸を吸光度(Abs)として行ったために、図7においては縦軸を吸光度で示す。実施例1−5においては950cm−1付近、実施例1においては925cm-1付近に波形分離されたピークは、Si−OHのSi−Oの伸縮振動に帰属されるピークであり、実施例1及び実施例1−5において1030cm−1付近に波形分離されたピーク、並びに実施例1−5において、1090cm−1付近、1190cm−1付近に波形分離されたピークはシリカの骨格構造に関するピークであり、Si−OHの結合とは異なるピークである(1030cm−1付近:≡Si−O−Si=の伸縮振動、1090cm−1付近:シリカ骨格のSi−O伸縮振動、1190cm−1付近:≡Si−O−Si≡の伸縮振動)。図7に見られるように、実施例1−5におけるSi−OH結合の波形分離されたピークは、実施例1のSi−OH結合に比べて吸光度が小さく、また波形分離されたピークの全ピーク成分に対するSi−OH結合の比率も小さいことがわかる。すなわち、実施例1−5のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、実施例1のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率に比べて低いことが示されたものである。また、先述したケイ素化合物被覆酸化物のIR測定結果(図5)において、1000cm−1付近のブロードなピークが高波数側にシフトしているように見られた要因が、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が下がったことによるものであることが示されたものである。本発明においては、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子のIRスペクトルにおける、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離し、波形分離された各ピークの総面積に対するSi−OHの結合のピークの面積比率を制御することで、色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物であることが好ましい。本発明においては、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子のIRスペクトルにおける、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離の結果、上記波形分離後に、Si−OHの結合に由来するピークは、波数830cm−1から980cm−1の範囲に見られる。図6に実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子のXRD測定結果を示す。図6に見られるようにα―Fe2O3に由来するピーク以外にはピークが見られておらず、上記IR測定にて確認されたケイ素化合物が非晶質を含むことが示されたものである。
図8に実施例1及び実施例1−2から1―5で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長200nmから2500nmの光線に対する反射スペクトルを示す。まず波長780nmから2500nmの近赤外領域の光線に対する反射率が、実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の方が実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子よりも高いことがわかる。上記IRスペクトルにおける、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離し、波形分離された各ピークの総面積に対するSi−OHの結合のピークの面積比率(Si−OH比率[%])は、実施例1−5<1−4<1−3<1−2<1の順に小さく、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率は、実施例1−5>1−4>1−3>1−2>1の順に大きい。ここで、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率とは、波長780nmから2500nmの波長領域における、各測定波長の反射率の単純平均値をいう。図9に、上記Si−OH比率[%]に対する波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率のグラフを示す。図9に見られるようにSi−OH比率が低い方が、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなる傾向が見られた。すなわち、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、色特性の一つである波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子であり、さらに、上記Si−OH結合の比率を低くすることによって、上記波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を高められたケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましく、上記Si−OH比率が5%以上70%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子の波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が50%以上であることが好ましい。
図15に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の上記Si−OH比率に対するL*a*b*表色系における色相H(=b*/a*、b*>0、a*>0)のグラフを示す。ここで、L*a*b*表色系は、均等色空間の一つであり、L*は明るさを表す値であり、数値が大きい程明るいことを示す。また、a*、b*は色度を表す。本発明においては、上記表色系をL*a*b*表色系に限定するものでは無い、XYZ系等他の表色系を用いて色特性を評価してもよい。
図15に見られるようにSi−OH比率によって、色相Hが変化する様子が見られた。図12に示したグラフの例においては、Si−OH比率が8%から75%の範囲おいてはSi−OH比率を高めることによって、色相Hが上がる傾向を示したものである。本発明におけるケイ素化合物被覆酸化物粒子においては、ケイ素化合物に含まれるSi−OHの結合の比率を制御することによって色相Hを制御されたものであることが好ましい。
(Si−OH結合の比率の制御方法)
本発明においては、上記Si−OH結合の比率の制御の方法については、特に限定されないが、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理によって、上記Si−OH結合の比率を制御することが好ましい。上記官能基の変更処理は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる官能基に対して、従来公知の置換反応や付加反応、脱離反応や脱水反応、縮合反応などを行う方法によって上記Si−OH結合の比率を制御することが可能である。なお、本発明においては、上記の制御により、Si−OH結合のエステル化が達成されることが好ましい。エステル化は、例えば、脱水反応により達成されるが、脱水反応の一例として、ケイ素化合物被覆酸化物を熱処理する方法によって上記Si−OH結合の比率を制御することもできる。また、ケイ素化合物被覆を、酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液中においてケイ素化合物を析出させることによって得る際に、当該酸化物粒子の分散液中においてケイ素化合物を析出させる際の処方や、pHを制御するなどの方法によって上記Si−OH結合の比率を制御することも可能である。さらに、また、ケイ素化合物被覆酸化物を熱処理する方法によってSi−OH結合の比率を制御する場合には、乾式での熱処理によっても実施できるし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散体の状態で熱処理することによっても実施できる。熱処理を行う際には、熱処理温度と熱処理時間を適宜調整することにより、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に加える熱量を制御することが好ましい。また、後述するように、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して実施してもよい。
上記分散体としては、水や有機溶媒などの液状の分散媒にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた、液状の分散体としても実施できるし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む分散液を用いて作製した塗膜状の分散体としても実施できる。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む分散体の状態として熱処理した場合には、乾式での熱処理に比べて粒子の凝集が抑制できることや、例えば特開2014−042891号公報や特開2014−042892号公報に記載の積層塗膜及び高意匠複層塗膜に本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子を用いた場合には、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を当該積層塗膜又は複層塗膜とした後に、熱処理などの方法でケイ素化合物に含まれるSi−OHの結合比率を制御することでケイ素化合物被覆酸化物粒子の色特性を制御することが可能であるため、工程数の削減や、厳密な色特性の制御に好適である。なお、特開2014−042891号公報や特開2014−042892号公報に記載の積層塗膜及び高意匠複層塗膜においては、特定色についてハイライトとシェードの差を大きくすることによって、反射光の強度が観察角度によって大きく変化することとなり、深み感及び緻密感を実現するものである。そのため、酸化鉄等の着色物を含む塗膜には、ハイライトを高めるために特定色について透過率を向上、及びハイライトとシェードの差を大きくすることが要求されている。酸化鉄の紫外線を吸収する能力を示すモル吸光係数が大きいほど、使用量を低減することが可能となりヘーズ値も小さくすることができ、酸化鉄粒子分散体としての塗膜の透明性を高めることができる。また複数の板ガラスの間に樹脂などの中間膜を挟み接着するあわせガラスにおいても紫外線、近赤外線等の反射、吸収、着色などにも好適に用いることができる。
本発明においては、上記酸化物粒子の平均一次粒子径が1nm以上50nm以下であることが好ましく、ケイ素化合物による被覆前の上記酸化物粒子の平均一次粒子径に対するケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径の割合が100.5%以上190%以下であることが好ましい。酸化物粒子に対するケイ素化合物の被覆が薄すぎると、ケイ素化合物被覆酸化物粒子が有する色特性に関する効果等を発揮し得なくなるおそれがあることから、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径が、酸化物粒子の平均一次粒子径の100.5%以上であることが好ましく、被覆が厚すぎる場合や、粗大な凝集体を被覆した場合には色特性の制御が困難となることから、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の平均一次粒子径が、酸化物粒子の平均一次粒子径の190%以下であることが好ましい。本発明に係る塗布用ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物には、表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆した酸化物粒子(以下、ケイ素化合物被覆酸化物粒子という)を含む。本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、コアとなる酸化物粒子の表面全体をケイ素化合物で均一に被覆したコアシェル型のケイ素化合物被覆酸化物粒子であってもよい。また、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子は、複数個の酸化物粒子が凝集していない、単一の酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましいが、複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子であってもかまわない。
また、本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子は、複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子であってもよいが、一定の大きさを超えた上記凝集体をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子は、単一の酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子に比べてモル吸光係数等の紫外線吸収、及び可視領域における色相や彩度、近赤外領域における反射率等の色特性の効果が得にくいことから好ましくない。ここで、一定の大きさを超えた上記凝集体とは、例えば、凝集体の大きさが50nmを超えるものを言う。そして、複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上190%以下であることが好ましい。なお、上記凝集体の径とは、上記凝集体の最大外周間の距離とする。
本発明においては、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のモル吸光係数を制御することも可能であり、特にケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、波長190nmから380nmの紫外領域におけるモル吸光係数を向上されたケイ素化合物被覆酸化物粒子とすることができる。モル吸光係数は、紫外可視吸収スペクトル測定における、吸光度と測定試料中の測定対象となる物質のモル濃度より、以下の式1にて算出可能である。
ε=A/(c・l) (式1)
ここで、εは物質固有の定数で、モル吸光係数と言い、1cmの厚みをもつ1mol/Lの分散液の吸光度であるため、単位はL/(mol・cm)である。Aは紫外可視吸収スペクトル測定における吸光度であり、cは試料のモル濃度(mol/L)である。lは光が透過する長さ(光路長)であり、通常は紫外可視吸収スペクトルを測定する際のセルの厚みである。
ケイ素化合物被覆酸化物粒子がケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の場合には、紫外光、特に波長190nmから380nmの光線に対する平均モル吸光係数が1500L/(mol・cm)以上であることが好ましく、2200L/(mol・cm)以上であることが更に好ましい。また波長400nmの光線に対するモル吸光係数が500L/(mol・cm)以上、又は波長300nmの光線に対するモル吸光係数が1500L/(mol・cm)以上、又は波長250nmの光線に対するモル吸光係数が1500L/(mol・cm)以上であることが好ましく、また波長220nmの光線に対するモル吸光係数が2000L/(mol・cm)以上であることが好ましい。これによって、UVA(400nmから315nm)、UVB(315nmから280nm)、UVC(280nm未満)の紫外線領域の範囲において高い吸収特性を示す、少なくとも表面の一部をケイ素化合物で被覆した酸化鉄粒子となる。本発明のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を含む分散体は、波長200nmから380nmの光線の透過率が5.0%以下、好ましくは2.0%以下であり、波長620nmから780nmの光線の透過率が80%以上であることが好ましい。このような透過率を示すケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を含む分散体は、紫外光を吸収し、可視光を透過させることが可能となる。
本発明における酸化物の表面の少なくとも一部を被覆するケイ素化合物は、ケイ素酸化物を含むものであることが好ましく、非晶質のケイ素酸化物を含むものであることが更に好ましい。ケイ素化合物が非晶質のケイ素酸化物を含むことによって、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子の反射率、透過率、モル吸光係数、色相、彩度等の色特性を厳密に制御することが可能である。ケイ素化合物が、結晶性のケイ素酸化物の場合には、Si−OHを存在させることが極めて困難となるため、本発明の色特性の制御が困難となる。そのため、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法及びケイ素化合物被覆酸化物粒子においては、上記Si−OH結合の比率が、酸化物の表面を被覆したケイ素化合物中において、5%から75%であることが好ましい。
(製造方法及びそれに用いられる装置)
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法は、例えば、第1のマイクロリアクターを用いて酸化物粒子を作製し、これに続く第2のマイクロリアクターによって酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆する方法や、希薄系での反応をバッチ容器内で行う等の方法で酸化物粒子を作製し、引き続き希薄系での反応によって先述した酸化物粒子の表面の少なくとも一部にケイ素化合物の被覆を行う等の方法、またビーズミル等の粉砕法で酸化物粒子を作製し、その後に反応容器内で酸化物粒子の表面の少なくとも一部にケイ素化合物の被覆を行う方法等が挙げられる。また本願出願人よって提案された特開2009−112892号公報にて記載されたような装置及び方法を用いてもよい。特開2009−112892号公報に記載の装置は、断面形状が円形である内周面を有する攪拌槽と、該攪拌槽の内周面と僅かな間隙を在して付設される攪拌具とを有し、攪拌槽には、少なくとも二箇所の流体入口と、少なくとも一箇所の流体出口とを備え、流体入口のうち一箇所からは、被処理流体のうち、反応物の一つを含む第一の被処理流体を攪拌槽内に導入し、流体入口のうちで上記以外の一箇所からは、上記反応物とは異なる反応物の一つを含む第二の被処理流体を、上記第一の被処理流体とは異なる流路より攪拌槽内に導入するものであり、攪拌槽と攪拌具の少なくとも一方が他方に対し高速回転することにより被処理流体を薄膜状態とし、この薄膜中で少なくとも上記第一の被処理流体と第二の被処理流体とに含まれる反応物同士を反応させるものであり、三つ以上の被処理流体を攪拌槽に導入するために、特開2009−112892号公報の図4及び5に示すように導入管を三つ以上設けてもよいことが記載されている。
本発明においては、少なくとも酸化物粒子の作製を、マイクロリアクターを用いて行うことが好ましく、特許文献6に記載の流体処理装置と同様の原理の装置を用いて、酸化物粒子の作製と作製された酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆してケイ素化合物被覆酸化物粒子を作製することが好ましい。
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法の一例として、酸化物粒子の原料を少なくとも含む酸化物原料液と、酸化物粒子を析出させるための酸化物析出物質を少なくとも含む酸化物析出溶液とを混合させた混合流体中で酸化物粒子を析出させ、析出させた酸化物粒子を含む上記混合流体と、ケイ素化合物の原料を少なくとも含むケイ素化合物原料液とを混合させて、酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆することによってケイ素化合物被覆酸化物粒子を製造する方法を用いることが好ましい。
本発明に係るケイ素化合物被覆酸化物粒子の作製に用いる酸化物粒子の原料又はケイ素化合物の原料としては、特に限定されない。反応、晶析、析出、共沈等の方法で酸化物又はケイ素化合物となるものであれば実施できる。本発明においては、以下、当該方法を析出と記載する。
本発明における酸化物粒子の原料としては、特に限定されない。反応、晶析、析出、共沈等の方法で酸化物となるものであれば実施できる。例えば金属の単体、金属の化合物が例示できる。本発明における金属は、特に限定されない。好ましくは化学周期表上における全ての金属元素である。また、本発明における非金属は、特に限定されないが、好ましくは、B,Si,Ge,As,Sb,C,N,S,Te,Se,F,Cl,Br,I,At等の非金属元素を挙げることができる。これらの金属や非金属について、単一の元素からなる酸化物であってもよく、複数の元素からなる複合酸化物や金属元素と非金属元素とを含む酸化物であってもよい。また、本発明において、上記の金属の化合物を金属化合物という。金属化合物又は上記の非金属の化合物としては特に限定されないが、一例を挙げると、金属又は非金属の塩や酸化物、水酸化物、水酸化酸化物、窒化物、炭化物、錯体、有機塩、有機錯体、有機化合物又はそれらの水和物、有機溶媒和物などが挙げられる。金属塩又は非金属の塩としては、特に限定されないが、金属又は非金属の硝酸塩や亜硝酸塩、硫酸塩や亜硫酸塩、蟻酸塩や酢酸塩、リン酸塩や亜リン酸塩、次亜リン酸塩や塩化物、オキシ塩やアセチルアセトナート塩又はそれらの水和物、有機溶媒和物などが挙げられ、有機化合物としては金属又は非金属のアルコキシドなどが挙げられる。以上、これらの金属化合物又は非金属の化合物は単独で使用してもよく、複数以上の混合物として使用してもよい。たとえば酸化鉄や酸化亜鉛の場合について一例を挙げると、鉄や亜鉛の塩や酸化物、水酸化物、水酸化酸化物、窒化物、炭化物、錯体、有機塩、有機錯体、有機化合物又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。鉄の塩としては、特に限定されないが、鉄の硝酸塩や亜硝酸塩、硫酸塩や亜硫酸塩、蟻酸塩や酢酸塩、リン酸塩や亜リン酸塩、次亜リン酸塩や塩化物、オキシ塩やアセチルアセトナート塩又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられ、有機化合物としては鉄のアルコキシド等が挙げられる。以上、これらの鉄の化合物は単独で使用してもよく、複数以上の混合物を酸化物粒子の原料として使用してもよい。具体的な一例としては、塩化鉄(III)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、鉄アセチルアセトナートやそれられの水和物等が挙げられる。
また、ケイ素化合物の原料としては、ケイ素の酸化物や水酸化物、その他ケイ素の塩やアルコキシド等の化合物やそれらの水和物が挙げられる。特に限定されないが、ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩や、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリフルオロプロピル−トリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、及びTEOSのオリゴマ縮合物、例えば、エチルシリケート40、テトライソプロピルシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラブトキシシラン、及び同様の物質が挙げられる。さらにケイ素化合物の原料として、その他のシロキサン化合物、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1、9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ジエトキシジクロロシラン、トリエトキシクロロシラン等を用いてもかまわない。本発明におけるケイ素化合物被覆酸化物粒子は、被覆される酸化物粒子を構成する酸素以外の元素に対して、ケイ素が2%から80%含まれていることが好ましく、より好ましくは5%から50%含まれていることが好ましい。上記ケイ素化合物原料は、目的とする酸化物粒子の種類によって、適宜その使用量や種類を選択して使用できる。
また、酸化物粒子の原料又はケイ素化合物の原料が固体の場合には、酸化物粒子の原料又はケイ素化合物の原料を溶融させた状態、又は後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。酸化物粒子の原料又はケイ素化合物の原料が液体や気体の場合であっても、後述する溶媒に混合又は溶解された状態(分子分散させた状態も含む)で用いることが好ましい。酸化物粒子の原料について、酸化物粒子となり得る原料のみを用いた場合には、酸素以外の元素について鉄の元素を含む酸化物粒子を作製することができる。また、酸化物粒子の原料について、酸化物粒子となり得る原料以外に複数の酸化物粒子の原料を用いた場合には、酸素以外の元素について複数の元素を含む複合酸化物が作製可能となる。さらに、これらの酸化物及び酸化物原料液やケイ素化合物原料液には、分散液やスラリー等の状態のものを含んでも実施できる。
本発明において、酸化物が酸化鉄粒子の場合はα−Fe2O3(ヘマタイト)であることが好ましい。そのため、酸化鉄粒子の原料に含まれる鉄のイオンは、Fe3+であることが好ましく、酸化鉄粒子の原料としては、溶液中においてFe3+イオンを生成する物質を用いることが好ましい。しかし、Fe2+イオンを生成する物質を溶媒に溶解し、硝酸等の酸化性酸にてFe2+イオンをFe3+イオンに変化させる等の手段を用いて酸化鉄粒子の原料を調製してもよい。
酸化物析出物質としては、酸化物原料液に含まれる酸化物粒子の原料を酸化物粒子として析出させることができる物質であり、かつ、ケイ素化合物原料液に含まれるケイ素化合物の原料をケイ素化合物として析出させることができる物質であれば、特に限定されず、例えば、酸性物質又は塩基性物質を用いることができる。少なくとも酸化物析出物質を後述する溶媒に混合・溶解・分子分散させた状態で用いることが好ましい。
塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の金属水酸化物、ナトリウムメトキシドやナトリウムイソプロポキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ジエチルアミノエタノールやジエチルアミン等のアミン系化合物やアンモニア等が挙げられる。
酸性物質としては、王水、塩酸、硝酸、発煙硝酸、硫酸、発煙硫酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等の有機酸が挙げられる。
酸化物原料液、酸化物析出溶液やケイ素化合物原料液の調製に用いる溶媒としては、例えば水や有機溶媒、又はそれらの複数からなる混合溶媒が挙げられる。上記水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水、RO水(逆浸透水)等が挙げられ、有機溶媒としては、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物等が挙げられる。上記の溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、又は複数を混合して使用してもよい。アルコール化合物溶媒としては、メタノールやエタノール等の1価アルコールや、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオール等が挙げられる。また、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の作製に悪影響を及ぼさない範囲において、必要に応じて、上記酸性物質や塩基性物質を酸化物原料液やケイ素化合物原料液に混合してもよい。
(分散剤等)
本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の作製に悪影響を及ぼさない範囲において、目的や必要に応じて各種の分散剤や界面活性剤を用いてもよい。特に限定されないが、分散剤や界面活性剤としては一般的に用いられる様々な市販品や、製品又は新規に合成したもの等を使用できる。一例として、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤や、各種ポリマー等の分散剤等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記の界面活性剤及び分散剤は、酸化物原料液、酸化物析出溶液、ケイ素化合物原料液の少なくとも何れか1つの流体に含まれていてもよい。また、上記の界面活性剤及び分散剤は、酸化物原料液、酸化物析出溶液、ケイ素化合物原料液とも異なる、別の流体に含まれていてもよい。
本発明にかかるケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる官能基を変更する方法としては、特に限定されない。ケイ素化合物被覆酸化物粒子を目的の溶媒に分散し、当該分散液に特定の官能基を含む物質を加え攪拌等の処理を施して実施してもよいし、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含む流体と官能基を含む物質を含む流体とを上述のマイクロリアクターを用いて混合することで実施してもよい。
官能基を含む物質としては、特に限定されないが、ケイ素化合物被覆酸化物粒子に含まれる水酸基と置換可能な官能基を含む物質であって、無水酢酸や無水プロピオン酸等のアシル化剤や、ジメル硫酸や炭酸ジメチル等のメチル化剤、及びクロロトリメチルシラン、メチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
本発明においては、上記反射率、透過率、モル吸光係数、色相、及び彩度の色特性を制御されたケイ素化合物被覆酸化物粒子を化粧料として用いる場合には透明性や、つや向上を目的とした塗布用組成物、又は塗料として用いる場合には、塗装に対するクリアー塗膜用途目的の塗装用組成物や顔料としての使用、及び他の顔料等と混ぜることで塗布用組成物として好適に用いることが可能となる。
本発明の塗布用ケイ素化合物被覆酸化物組成物は、特開2014−042891号公報や特開2014−042892号公報に記載のものの他、特に限定されるものではなく、口紅やファンデーション、サンスクリーン剤等種々の皮膚に塗布することを目的とした塗布用組成物や、溶剤系塗料、水性塗料等、種々の塗装を目的とした塗布用組成物に適用することができる。上記塗布用ケイ素化合物被覆酸化物組成物は、必要に応じて、顔料、染料の他、湿潤剤、分散剤、色分れ防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、皮張り防止剤、ゲル化防止剤、消泡剤増粘剤、タレ防止剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、成膜助剤、界面活性剤、樹脂成分等の添加剤を、適宜、目的に応じて、更に含むことができる。塗装を目的とする場合の樹脂成分としては、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂等を例示し得る。本発明の塗布用ケイ素化合物被覆酸化物組成物が含まれる塗料が適用される塗布物としては、単一の塗料組成物から構成される単層の塗布物であってもよく、特開2014−042891号公報や特開2014−042892号公報に記載のような積層塗膜用途のように、複数の塗料組成物から構成される複数層の塗布物であってもよく、また、顔料が含まれる塗料に含めて実施することもできるし、クリアー塗料等の塗料に含めて実施することもできる。
本発明に係る塗布用ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物は、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の粉体組成物;液状の分散媒にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた分散体;及びガラスや樹脂等の固体にケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散させた分散体等ケイ素化合物被覆酸化物粒子を含むものである。上記塗布用組成物に含まれるケイ素化合物被覆酸化物粒子は、1個の酸化物粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子から構成されていてもよく、複数個の酸化物粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化物粒子から構成されていてもよく、両者の混合物であってもよい。また、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子組成物は、各種の顔料とともに、化粧料や塗料に分散して使用してもよいし、塗膜にオーバーコートしてもよい。さらに、ケイ素化合物被覆酸化物粒子を単独の顔料として用いることもできる。液状である分散媒としては、水道水、蒸留水、RO水(逆浸透水)、純水、超純水等の水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールやグリセリン等の多価アルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;シリコーンオイルや植物オイル、ワックス等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
塗布物の色としては、特に限定されず、目的の色相に対して本発明の塗布用ケイ素化合物被覆酸化物組成物を用いることができる。赤色系、例えばマンセル色相環でRPからYRの色相を備えた色や、黄色から緑色系、例えばマンセル色相環でYからBGの色相を備えた色や、青色から紫色系、例えばマンセル色相環でBからPの色素を備えた色(それぞれ、メタルカラーを含む)の塗布物に用いられる塗布用組成物に好適に配合することができ、例えばカラーインデックスに登録される全ての顔料や染料を用いることができる。その中でも例えば、赤色を構成する顔料や染料にあっては、カラーインデックスにおいてC.I.Pigment Redに分類される顔料及び染料、C.I.Pigment VioletやC.I.Pigment Orangeに分類される顔料及び染料等が挙げられる。より具体的にはC.I.Pigment Red 122やC.I.Pigment Violet 19のようなキナリドン系顔料やC.I.Pigment Red 254やC.I.Pigment Orange73のようなジケトピロロピロール系顔料、C.I.Pigment Red 150やC.I.Pigment Red 170のようなナフトール系顔料やC.I.Pigment Red 123やC.I.Pigment Red179のようなペリレン系顔料やC.I.Pigment Red 144のようなアゾ系顔料等が挙げられる。これらの顔料及び染料は、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。なお、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子は、上記顔料及び染料等と混合せずに単独で塗布用組成物に配合することも可能である。本発明に係る塗布用組成物に上記ケイ素化合物被覆酸化物を含むことによって、より繊細かつ厳密な色特性の制御が可能となり、例えば特開2014−042891号公報や特開2014−042892号公報に記載されている積層塗装に用いる場合のハイライトとシェードの差が大きい塗布物を構成できるため、好適である。
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例における純水は、導電率が0.86μS/cm(測定温度:25℃)の純水を用いた。
(TEM観察用試料作製とSTEM観察用試料作製)
実施例で得られた洗浄処理後のケイ素化合物被覆酸化物粒子のウェットケーキサンプルの一部をプロピレングリコールに分散させ、更にイソプロピルアルコール(IPA)で100倍に希釈した。得られた希釈液をコロジオン膜又はマイクログリッドに滴下して乾燥させて、TEM観察用試料又はSTEM観察用試料とした。
(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:TEM−EDS分析)
TEM−EDS分析によるケイ素化合物被覆酸化物粒子の観察及び定量分析には、エネルギー分散型X線分析装置、JED−2300(日本電子株式会社製)を備えた、透過型電子顕微鏡、JEM−2100(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を2万5千倍以上とした。TEMによって観察されたケイ素化合物被覆酸化物粒子の最大外周間の距離より粒子径を算出し、100個の粒子について粒子径を測定した結果の平均値(平均一次粒子径)を算出した。TEM−EDSによって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子における酸化物を構成する金属成分に対するケイ素化合物に含まれるケイ素成分のモル比を算出し、10個以上の粒子についてモル比を算出した結果の平均値を算出した。
(走査透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置:STEM−EDS分析)
STEM−EDS分析による、ケイ素化合物被覆酸化物粒子中に含まれる元素のマッピング及び定量には、エネルギー分散型X線分析装置、Centurio(日本電子株式会社製)を備えた、原子分解能分析電子顕微鏡、JEM−ARM200F(日本電子株式会社製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を80kV、観察倍率を5万倍以上とし、直径0.2nmのビーム径を用いて分析した。
(X線回折測定)
X線回折(XRD)測定には、粉末X線回折測定装置 EMPYREAN(スペクトリス株式会社PANalytical事業部製)を使用した。測定条件は、測定範囲:10から100[°2Theta] Cu対陰極、管電圧45kV、管電流40mA、走査速度0.3°/minとした。各実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化物粒子の乾燥粉体を用いてXRD測定を行った。
(FT−IR測定)
FT−IR測定には、フーリエ変換赤外分光光度計、FT/IR−6600(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、ATR法を用い、分解能4.0cm−1、積算回数1024回である。波数800cm−1から1300cm−1のピークの波形分離は、上記FT−IR−6600の制御用ソフトに敷設されたスペクトル解析プログラムを用いて、残差二乗和が0.01以下となるようにカーブフィッティングした。
(透過スペクトル、吸収スペクトル、反射スペクトル、色相及び彩度)
透過スペクトル、吸収スペクトル、反射スペクトル、色相、及び彩度は、紫外可視近赤外分光光度計(製品名:V−770、日本分光株式会社製)を使用した。透過スペクトルの測定範囲は200nmから800nmとし、吸収スペクトルの測定範囲は190nmから800nm、サンプリングレートを0.2nm、測定速度を低速として測定した。特定の波長領域について、複数の測定波長における透過率を単純平均し、平均透過率とした。
モル吸光係数は、吸収スペクトルを測定後、測定結果から得られた吸光度と分散液の酸化物濃度より、各測定波長におけるモル吸光係数を算出し、横軸に測定波長、縦軸にモル吸光係数を記載したグラフとした。測定には、厚み1cmの液体用セルを用いた。また、波長190nmから380nmの複数の測定波長におけるモル吸光係数を単純平均し、平均モル吸光係数を算出した。
反射スペクトルは、測定範囲を200nmから2500nmとし、サンプリングレートを2.0nm、測定速度を中速、測定方式はダブルビーム測光方式として測定し、鏡面反射と拡散反射とを測定する全反射測定を行った。また粉末を測定する際のバックグラウンド測定(ベースライン設定)には、標準白板(製品名:Spectralon(商標)、Labsphere製)を使用した。各実施例で得られケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の乾燥粉体を用いて反射スペクトルを測定した。特定の波長領域について、複数の測定波長における反射率を単純平均し、平均反射率とした。色相及び彩度は反射スペクトル測定結果より、表色系をL*a*b*表色系、視野を2(deg)、光源をD65−2、等色関数をJIS Z 8701:1999、データ間隔を5nmとして測定し、取得されたL*、a*、b*それぞれの値より、色相H=b*/a*、彩度C=√((a*)2+(b*)2)の式を用いて算出した。
(実施例1)
以下、実施例1においては、酸化鉄粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について記載する。高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM−2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、酸化物原料液(A液)、酸化物析出溶液(B液)、及びケイ素化合物原料液(C液)を調製した。具体的には表1の実施例1に示す酸化物原料液の処方に基づいて、酸化物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度40℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物原料液を調製した。また、表1の実施例1に示す酸化物析出溶液の処方に基づいて、酸化物析出溶液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度45℃、ローターの回転数15000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物析出溶液を調製した。さらに、表1の実施例1に示すケイ素化合物原料液の処方に基づいて、ケイ素化合物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度20℃、ローターの回転数6000rpmにて10分間攪拌することにより均質に混合し、ケイ素化合物原料液を調製した。
なお、表1に記載の化学式や略記号で示された物質については、97wt% H2SO4は濃硫酸(キシダ化学株式会社製)、NaOHは水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、Fe(NO3)3・9H2Oは硝酸鉄九水和物(関東化学株式会社製)を使用した。
次に調製した酸化物原料液、酸化物析出溶液、及びケイ素化合物原料液を本願出願人による特許文献6に記載の流体処理装置を用いて混合した。ここで、特許文献6に記載の流体処理装置とは、同公報の図1(B)に記載の装置であって、第2及び第3導入部の開口部d20、d30がリング状ディスクである処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状であるものを用いた。具体的には、A液として酸化物原料液を第1導入部d1から処理用面1,2間に導入し、処理用部10を回転数1130rpmで運転しながら、B液として酸化物析出溶液を第2導入部d2から処理用面1,2間に導入して、酸化物原料と酸化物析出溶液とを薄膜流体中で混合し、処理用面1,2間において、コアとなる酸化鉄粒子を析出させた。次に、C液としてケイ素化合物原料液を第3導入部d3から処理用面1,2間に導入し、薄膜流体中おいてコアとなる酸化鉄粒子を含む混合流体と混合した。コアとなる酸化鉄粒子の表面にケイ素化合物が析出され、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を含む吐出液(以下、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子分散液)を流体処理装置の処理用面1、2間から吐出させた。吐出させたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子分散液を、ベッセルvを介してビーカーbに回収した。
表2に、流体処理装置の運転条件を示す。表2に示したA液、B液及びC液の導入温度(送液温度)と導入圧力(送液圧力)は、処理用面1、2間に通じる密封された導入路(第1導入部d1と第2導入部d2、及び第3導入部d3)内に設けられた温度計と圧力計とを用いて測定したものであり、表2に示したA液の導入温度は、第1導入部d1内の導入圧力下における実際のA液の温度であり、同じくB液の導入温度は、第2導入部d2内の導入圧力下における実際のB液の温度であり、C液の導入温度は、第3導入部d3内の導入圧力下における実際のC液の温度である。
pH測定には、株式会社堀場製作所製の型番D−51のpHメーターを用いた。A液、B液、及びC液を流体処理装置に導入する前に、そのpHを室温にて測定した。また、酸化物原料液と酸化物析出溶液との混合直後の混合流体のpH、及びコアとなる酸化鉄粒子を含む流体とケイ素化合物原料液との混合直後のpHを測定することは困難なため、同装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子分散液のpHを室温にて測定した。
流体処理装置から吐出させ、ビーカーbに回収したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子分散液から、乾燥粉体とウェットケーキサンプルを作製した。作製方法は、この種の処理の常法に従い行ったもので、吐出されたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子分散液を回収し、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、純水100重量部での洗浄と沈降とを繰り返し3回行い、その後に純水での洗浄と沈降とを繰り返し3回行うことでケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を洗浄し、最終的に得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のウェットケーキの一部を−0.10MPaGにて25℃、20時間乾燥させて乾燥粉体とした。残りをウェットケーキサンプルとした。
図3に実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のSTEMを用いたマッピング結果を、図4に図3のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図3、4に見られるように、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子には、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われたものでは無い粒子も見られ、酸化鉄粒子の表面の一部をケイ素化合物よって被覆したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子が観察された。
実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いた熱処理を行った。熱処理条件は、実施例1:未処理、実施例1−2:200℃、実施例1−3:400℃、実施例1−4:600℃、実施例1−5:800℃であり、熱処理時間は各熱処理温度において、30分間である。図1に実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄のSTEMを用いたマッピング結果を、図2に図1のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図1、2に見られるように、実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われた酸化鉄粒子として観察された。
図5に実施例1及び実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のATR法にて測定したIR測定結果を示す。実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のIR測定結果は、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のIR測定結果に比べて、1600cm−1付近及び3400cm−1付近のブロードなピークが小さく、1000cm−1付近のブロードなピークが高波数側にシフトしているように見られる。
図6に実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のXRD測定結果を示す。図6に見られるように、XRD測定においては、α―Fe2O3に由来するピークのみが検出された。すなわち上記STEM、及びIR測定において確認されたケイ素化合物が非晶質であることが確認された。
上記実施例1又は実施例1−5のIR測定結果における1000cm−1付近のピークを波形分離した結果を図7に示す。図7に見られるように、実施例1−5のSi−OHの結合の波形分離されたピークは、実施例1の結合に比べて吸光度が小さく、また記載されたピークを構成する全ピーク成分に対するSi−OH結合の比率も小さいことがわかる。すなわち、実施例1−5のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、実施例1のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率に比べて低いことが示されたものである。また、先述したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のIR測定結果(図5)において、1000cm−1付近のブロードなピークが高波数側にシフトしているように見られた要因が、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が下がったことによるものであることが示されたものである。
図8に実施例1、及び実施例1−2から1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の波長200nmから2500nmの光線に対する反射スペクトルを示す。まず波長780nmから2500nmの近赤外領域の光線に対する反射率が、実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の方が実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子よりも高いことが見て取れる。上記IRスペクトルにおける、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離し、波形分離された各ピークの総面積に対するSi−OHの結合のピークの面積比率(Si−OH比率[%])は、実施例1−5<1−4<1−3<1−2<1の順に小さく、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率は、実施例1−5>1−4>1−3>1−2>1の順に大きい。図9に、上記Si−OH比率[%]に対する波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率のグラフを示す。なお、図9においては、実施例1及び実施例1−2から1−5以外に、熱処理温度を変更し、Si−OH比率を変更したケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率のデータについても示した。図9に見られるようにSi−OH比率が低い方が、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなる傾向が見られた。すなわち、本発明のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を制御することによって、色特性の一つである波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を制御されたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子であり、さらに上記Si−OH結合の比率を下げることによって、上記波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を高められたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子であることが好ましく、上記Si−OH比率を5%以上70%以下とすることによって、上記波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を50%以上に高められたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子であることがより好ましい。このようなケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を塗布用組成物に用いた場合にあっては、太陽光を照射された塗装体の温度上昇を抑制する効果が高いなど、塗料として用いるに好適である。
図10に、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の水分散液を100℃で0.5時間、1.0時間、2.0時間静置することによって加熱処理を行ったケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について、Si−OH比率に対する波長780nmから2500nmに対する平均反射率のグラフを示す。IR測定及び波形分離より求めた各処理時間のSi−OH比率は、実施例1(処理無)が74.8%、0.5時間処理が68.9%、1.0時間処理が66.4%、2.0時間処理が63.1%であった。図10に見られるように、Si−OH比率が低い方が波長780nmから2500nmに対する平均反射率が高くなることがわかった。本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子におけるケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を熱処理によって制御する場合、乾式でもよいし、分散媒に分散させた状態として実施してもよい。
図11に、実施例1及び実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子、並びに比較例1で得られたケイ素化合物で表面を被覆していない酸化鉄粒子をプロピレングリコールにFe2O3として0.05重量%の濃度で分散させた分散液の透過スペクトルを示す。
比較例1で得られたケイ素化合物で表面を被覆していない酸化鉄粒子は、実施例1における第3流体を用いていないこと、また特許文献6に記載の流体処理装置の第3導入部及び第3導入部の開口部d30を敷設していないことを除いては、実施例1と同じ方法で作製し、実施例1と同様の粒子径の酸化鉄粒子を得た。
図11に見られるように、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子におけるケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率を変化させることによって、透過スペクトルの形状に変化が見られることがわかる。また、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、表面にケイ素化合物を被覆されていない酸化鉄に比して、波長600nmから780nmの光線に対する透過率が高いことがわかる。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が5%以上75%以下であり、上記ケイ素化合物酸化鉄粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、波長380nmの光線に対する透過率が5%以下、かつ波長600nmの光線に対する透過率が80%以上であることが好ましい。
次に、実施例1においてケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を作製する際の、第二流体(B液)の流量を変更することで、吐出液のpHを変化させてケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を作製した。表3には、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離し、波形分離された各ピークの総面積に対するSi−OHの結合のピークの面積比率であるSi−OH比率[%]を記載した。ケイ素化合物を析出させる際のpHを制御することでSi−OH結合の比率は変化した。
図12に実施例1−6から1−8におけるSi−OH比率[%]に対する波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率のグラフを示す。図12に見られるように実施例1から1−5と同様に、Si−OH比率が低い方が、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなる傾向が見られた。
また図13に、実施例1及び実施例1のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれるケイ素化合物の官能基の変更処理によって得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について、波長400nmから620nmの光線に対する反射率の最大値(最大反射率)のグラフを示す。図13に見られるように、実施例1及び実施例1のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれるケイ素化合物の官能基の変更処理によって得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、当該ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、47%以上75%以下の範囲においては、上記ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の波長400nmから620nmの光線に対する最大反射率が18%以下であるケイ素化合物酸化鉄粒子であり、赤以外の光の反射を抑える効果が見られる。そのようなケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は赤以外の光を低減できているため、例えば赤色を呈する積層塗膜等の塗布用組成物に用いるに好適である。
図14に、実施例1及び実施例1のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれるケイ素化合物の官能基の変更処理によって得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について、ケイ素化合物に含まれるSi−OH比率に対する波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率を示す。図14に見られるように、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のケイ素化合物に含まれるSi−OH比率が35%以上67%以下の範囲において、波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率が22%以下となっており、このようなケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、赤色の領域の反射率を低減できているため、積層塗膜用に用いた場合には、ハイライトとシェードの差を大きくする効果が大きいため好ましい。また図14に示した実施例の内、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のケイ素化合物に含まれるSi−OH比率が5%以上35%未満、又は67%よりも大きく75%以下で、波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率が22%より高いケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、波長620nmから750nmの光線に対する平均反射率が22%以下のケイ素化合物被覆酸化鉄に比して赤色を強く発色するために、赤色の顔料として用いる場合や、一般塗料に用いる場合の、赤色の塗膜を形成する場合に別途用いる赤色の顔料の低減や、色の微調整等に好適に用いることができる。
図15に、実施例1及び実施例1のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれるケイ素化合物の官能基の変更処理によって得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子について、Si−OH比率に対するL*a*b*表色系における色相H(=b*/a*)のグラフを示す。また、表4に、実施例1及び実施例1−2から1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子、及び比較例1の酸化鉄粒子の色相Hを示した。表4に見られるように比較例1の表面をケイ素化合物で被覆していない酸化鉄粒子の色相Hは、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の色相の範囲には無く、本発明のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の色相が、酸化鉄粒子の単なるナノ粒子化だけでは達成できないことがわかる。本発明のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が8%以上75%以下であり、L*a*b*表色系における、色相H(=b*/a*)が0.5から0.9の範囲であることが好ましい。
図16に、実施例1及び実施例1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子並びに比較例1で得られた酸化鉄粒子をプロピレングリコールに分散させた分散液の吸収スペクトルと測定時の酸化鉄(Fe2O3として)の濃度より算出したモル吸光係数を測定波長に対するグラフとした図を示す。また、図17には、実施例1、及び実施例1−3から1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のSi−OH比率に対する波長190nmから380nmにおける平均モル吸光係数のグラフを示す。さらに、表5に、実施例1、及び実施例1−3から1−5で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のSi−OH比率と波長190nmから380nmにおける平均モル吸光係数を比較例1で得られた酸化鉄粒子の波長190nmから380nmにおける平均モル吸光係数とともに示す。
図17及び表5に見られるように、Si−OH比率が低くなるとともに、波長190nmから380nmにおける平均モル吸光係数が高くなる傾向が見られた。また表5にも見られるように、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、表面にケイ素化合物を被覆されていない酸化鉄粒子に比して、波長190nmから380nmにおける平均モル吸光係数が非常に高いことがわかる。本発明におけるケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が5%以上75%以下であり、上記ケイ素化合物被覆酸化物粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長190nmから380nmの光線に対する平均モル吸光係数が2200L/(mol・cm)以上であることが好ましい。このレベルにまでモル吸光係数が上がると、塗布用組成物の設計が容易になる。すなわち非常に少量のケイ素化合物被覆酸化鉄を配合するだけで、紫外線の防御が可能となる。また上記酸化鉄の赤色発色を利用して淡い肌色から高発色の赤色まで意匠性の高い特性の塗布物を作製可能とする。
図18に、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の官能基の変更処理として、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれる水酸基とアセチル基とを反応させて、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子にアセトキシリル基を付与した実施例1−9のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子酸化鉄粒子の反射スペクトルを示す。また、表6に、IRスペクトルと波形分離より算出したSi−OH比率と、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率を示す。実施例1−9のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に、エステル基を付与するために、以下の操作を行った。まず実施例1で得られた1重量部のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子を99重量部のプロピレングリコール(キシダ化学株式会社製)に投入し、高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM−2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、65℃、ローター回転数20000rpmにて1時間分散処理し、分散液を調製した。上記ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のプロピレングリコール分散液に1重量部のケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に対して2重量部のピリジン(関東化学株式会社製)と1重量部の無水酢酸(キシダ化学株式会社製)を投入し、上記高速回転式分散乳化装置を用いて、65℃、ローター回転数20000rpmにて1時間分散処理した。得られた処理液を26,000G、15分の条件で遠心分離し、上澄み液を分離して沈降物を得た。その沈降物の一部を−0.10MPaG、25℃にて20時間乾燥させて乾燥粉体を得た。TEM観察の結果、実施例1−9で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子は、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子と略同様の粒子であることを確認した。
図19には、実施例1及び実施例1−9で得られたケイ素化合物酸化鉄粒子のFT−IRスペクトル(赤外吸収スペクトル)測定結果を示す。実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子については、950cm−1付近にブロードなピークが見られた。また、2900cm−1から3600cm−1付近に水酸基に由来するブロードなピークが見られた。また、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子にエステル基を付与した実施例1−9で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のFT−IR測定結果から、実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子のFT−IR測定結果に見られた2900cm−1から3600cm−1付近の水酸基に由来するブロードなピークが小さくなり、1450cm−1付近と1600cm−1付近に新規なピークが検出された。実施例1で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれる水酸基とアセチル基とが反応してエステル結合を生じ、ケイ素化合物被覆酸化鉄粒子にアセトキシリル基を付与されたと考えられる。さらに、1000cm−1付近のピークにも変化が見られた。実施例1及び実施例1−9のIRスペクトルにおける波数800cm−1から1300cm−1の範囲を波形分離し、Si−OH比率を算出した。結果を波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率とともに表6に示す。また、実施例1−9にて、ピリジンと無水酢酸を投入し、上記高速回転式分散乳化装置を用いて、65℃、ローター回転数20000rpmにて1時間分散処理した工程における、温度を80℃、分散処理時間を2時間とした以外は全て同じ条件とした実施例1−10で得られたケイ素化合物被覆酸化鉄粒子の結果についても表6及び図18に示す。
図18ならびに表6に見られるようにケイ素化合物被覆酸化鉄粒子に含まれる水酸基にアセチル基を作用させることによって、Si−OH比率が低減し、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が上がったことがわかる。表6に見られるように、実施例1に比べて、Si−OH比率が低い、実施例1−9及び1−10の方が、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなる傾向であった。本発明においては、ケイ素化合物被覆酸化物粒子のケイ素化合物がエステル結合を含むものであって、Si−OH結合の比率が5%以上55%以下であり、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が50%以上であるケイ素化合物被覆酸化物粒子であることが好ましい。
(実施例2)
実施例2においては、酸化亜鉛粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子について記載する。高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM−2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、酸化物原料液(A液)、酸化物析出溶液(B液)、及びケイ素化合物原料液(C液)を調製した。具体的には表7の実施例2に示す酸化物原料液の処方に基づいて、酸化物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度40℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物原料液を調製した。また、表7の実施例2に示す酸化物析出溶液の処方に基づいて、酸化物析出溶液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度45℃、ローターの回転数15000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物析出溶液を調製した。さらに、表7の実施例2に示すケイ素化合物原料液の処方に基づいて、ケイ素化合物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度20℃、ローターの回転数6000rpmにて10分間攪拌することにより均質に混合し、ケイ素化合物原料液を調製した。
なお、表7に記載の化学式や略記号で示された物質については、MeOHはメタノール(株式会社ゴードー製)、97wt%H2SO4は濃硫酸(キシダ化学株式会社製)、KOHは水酸化カリウム(日本曹達株式会社製)、35wt%HClは塩酸(関東化学株式会社製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)、ZnOは酸化亜鉛(関東化学株式会社製)を使用した。
次に調製した酸化物原料液、酸化物析出溶液、及びケイ素化合物原料液を本願出願人による特許文献6に記載の流体処理装置を用いて混合した。各流体の処理方法及び処理液の回収方法については実施例1と同様の手順で行った。
表8に、実施例1と同様に、流体処理装置の運転条件を示す。pH測定や分析及び粒子の洗浄方法についても実施例1と同様の方法で行った。
図20に実施例2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSTEMを用いたマッピング結果を、図21に図20のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図21、20に見られるように、実施例2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子には、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われたものでは無く、酸化亜鉛粒子の表面の一部をケイ素化合物によって被覆したケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子も観察された。
実施例2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を、ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、実施例2:未処理、実施例2−2:200℃、実施例2−3:400℃、実施例2−4:600℃であり、熱処理時間は各熱処理温度において、30分間である。図22に実施例2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛のSTEMを用いたマッピング結果を、図23に図22のHAADF像における破線を施した位置での線分析の結果を示す。図22、23に見られるように、実施例2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われた酸化亜鉛粒子として観察された。
図24に実施例2、実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子、及び比較例2で得られたケイ素化合物で表面を被覆していない酸化亜鉛粒子の波長200nmから2500nmの光線に対する反射スペクトルを示す。
比較例2で得られたケイ素化合物で表面を被覆していない酸化亜鉛粒子は、実施例2における第3流体を用いていないこと、また特許文献6に記載の流体処理装置の第3導入部及び第3導入部の開口部d30を敷設していないことを除いては、実施例2と同じ方法で作製し、実施例2と同様の粒子径の酸化亜鉛粒子を得た。
図24に見られるように、波長780nmから2500nmの近赤外領域の光線に対する反射率が、実施例2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子の方が実施例2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子よりも高いことが見て取れる。上記IRスペクトルにおける、波数800cm−1から1300cm−1の範囲のピークを波形分離し、波形分離された各ピークの総面積に対するSi−OHの結合のピークの面積比率(Si−OH比率[%])は、実施例2−4<2−3<2−2<2の順に小さく、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率は、実施例2−4>2−3>2−2>2の順に大きい。図25に、上記Si−OH比率[%]に対する波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率のグラフを示す。図25に見られるようにSi−OH比率が低い方が、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が高くなる傾向が見られた。表9に、実施例2及び実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSi−OH比率と波長780nmから2500nmにおける平均反射率を比較例2で得られた酸化亜鉛粒子の波長780nmから2500nmにおける平均反射率とともに示す。
表9に見られるように、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、表面にケイ素化合物を被覆されていない酸化亜鉛粒子に比して、波長780nmから2500nmにおける平均反射率が高いことがわかる。本発明におけるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上53%以下であり、波長780nmから2500nmの光線に対する平均反射率が72%以上であることが好ましい。このようなケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子を塗布用組成物に用いた場合にあっては、太陽光を照射された塗装体の温度上昇を抑制する効果が高いなど、塗料として用いるに好適である。
図26に、実施例2、実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子、及び比較例2で得られた酸化亜鉛粒子の波長200nmから780nmの光線に対する反射スペクトルを示す。ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子に含まれるSi−OH結合の比率を変更することで、波長340nmから380nmの吸収領域に変化が見られた。また実施例2−3から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上40%以下であり、反射率が15%となる波長が375nm以上であるため、より広い紫外領域の光を吸収しているため紫外線遮蔽を目的とする塗布用組成物として好適である。表10に、実施例2、実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率と、波長380nmから780nmの光線に対する平均反射率を示す。
実施例2、実施例2−2で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が50%以上60%以下であり、波長380nmから780nmの光線に対する平均反射率が86%以上であり、可視領域の全域について光を反射しており、白色の顔料として好適である。
図27に上記ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSi−OH比率に対する、L*a*b*表色系における彩度C(=√((a*)2+(b*)2))のグラフを示す。図27に見られるように、Si−OH結合の比率が高い方が、彩度が下がる傾向に見られた。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上55%以下であり、L*a*b*表色系における、彩度C(=√((a*)2+(b*)2))が0.5から13の範囲であるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子であることが好ましい。
図28に上記ケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSi−OH比率に対する、L*a*b*表色系におけるL*値のグラフを示す。図28に見られるように、Si−OH結合の比率が高い方が、L*値が下がる傾向に見られた。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が20%以上55%以下であり、L*a*b*表色系における、彩度C(=√((a*)2+(b*)2))が0.5から13の範囲であり、L*a*b*表色系におけるL*値が95から97の範囲であるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子であることが好ましい。これによって、白色度の高いケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子となり、白色顔料としての使用が好適となる。
図29に、実施例2、及び実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子並びに比較例2で得られた酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールにZnOとして0.011重量%の濃度で分散させた分散液の透過スペクトルを示す。また、表11に実施例2、及び実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子のSi−OH比率と、透過スペクトルにおける波長380nmから780nmの光線に対する平均透過率を示す。
実施例2及び実施例2−2から2−4においてはSi−OH結合の比率が下がるとともに、波長380nm以下の領域における吸収端が長波長側にシフトしていることがわかる。また、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、比較例2で得られた酸化亜鉛粒子に比して、波長380nmから780nmの透過率が高くなっており、紫外領域である波長190nmから380nmの光線を効率良く吸収し、さらに透明性も高いことがわかる。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が50%以上60%以下であり、上記ケイ素化合物酸化亜鉛粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、波長340nmの光線に対する透過率が10%以下、かつ波長380nmから780nmの光線に対する平均透過率が92%以上であるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子であることが好ましい。これによって、サンスクリーン剤などの化粧料や、塗膜に用いた場合に、波長380nm以下の紫外線を吸収する能力と透明性とをバランスされた塗布用組成物を実現できるために好適である。また、実施例2−3、2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化物の透過スペクルより、実施例2に比べて波長200nmから380nmの紫外領域における吸収領域が長波長側にシフトしている。本発明においては、ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、20%以上40%以下であり、ケイ素化合物酸化亜鉛粒子を分散媒に分散させた分散液の透過スペクトルにおいて、透過率が15%となる波長が365nm以上であることが好ましい。これによって、波長200nmから380nmの紫外領域の光線を広範囲に吸収することが可能である。
図30に実施例2、及び実施例2−2から2−4で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子並びに比較例2で得られた酸化亜鉛粒子をプロピレングリコールに分散させた分散液の吸収スペクトル測定結果と分散液中の酸化亜鉛の濃度から算出したモル吸光係数のグラフを示す。また、表12に各実施例で得られたケイ素化合物被覆酸亜鉛粒子のSi−OH比率と、波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数を比較例2で得られた酸化亜鉛粒子の波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数とともに示す。
表12に見られるように、Si−OH比率が下がるに伴って、平均モル吸光係数が上がる傾向が見られた。また、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子は、比較例2で得られた酸化亜鉛粒子に比して、波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数が高いことがわかる。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、20%以上60%以下であり、上記ケイ素化合物酸化亜鉛粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長200nmから380nmの光線に対するモル吸光係数が、700L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化亜鉛粒子であることが好ましい。それによって、UVA、UVB、UVCである紫外線の波長200nmから380nmの光線を効率よく吸収することが可能になるため、塗布用組成物に用いる場合にあっては、使用量の低減、更なる透明性を実現できることなど好適である。
(実施例3)
実施例3においては、酸化セリウム粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子について記載する。高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM−2.2S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、酸化物原料液(A液)、酸化物析出溶液(B液)、及びケイ素化合物原料液(C液)を調製した。具体的には表13の実施例3に示す酸化物原料液の処方に基づいて、酸化物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度40℃、ローター回転数を20000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物原料液を調製した。また、表13の実施例3に示す酸化物析出溶液の処方に基づいて、酸化物析出溶液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度45℃、ローターの回転数15000rpmにて30分間攪拌することにより均質に混合し、酸化物析出溶液を調製した。さらに、表13の実施例3に示すケイ素化合物原料液の処方に基づいて、ケイ素化合物原料液の各成分を、クレアミックスを用いて、調製温度20℃、ローターの回転数6000rpmにて10分間攪拌することにより均質に混合し、ケイ素化合物原料液を調製した。
なお、表13に記載の化学式や略記号で示された物質については、DMAEはジメチルアミノエタノール(キシダ化学株式会社製)、60wt%HNO3は濃硝酸(キシダ化学株式会社製)、Ce(NO3)3・6H2Oは硝酸セリウム(III)六水和物(和光純薬工業株式会社製)、TEOSはテトラエチルオルトシリケート(和光純薬工業株式会社製)を使用した。
次に調製した酸化物原料液、酸化物析出溶液、及びケイ素化合物原料液を本願出願人による特許文献6に記載の流体処理装置を用いて混合した。各流体の処理方法及び処理液の回収方法については実施例1と同様の手順で行った。
表14に、実施例1と同様に、流体処理装置の運転条件を示す。pH測定や分析及び粒子の洗浄方法についても実施例1と同様の方法で行った。
図31に実施例3で得られたケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子のTEM写真を示す。実施例3で得られたケイ素化合物物被覆酸化セリウム粒子には、粒子の全体をケイ素化合物によって覆われたものでは無く、酸化セリウム粒子の表面の一部をケイ素化合物によって被覆したケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子も観察された。
実施例3で得られたケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子を、ケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子のケイ素化合物に含まれる官能基の変更処理として、電気炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、実施例3:未処理、実施例3−2:200℃、実施例3−3:400℃であり、熱処理時間は各熱処理温度において、30分間である。
図32に実施例3で得られたケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子及び比較例3で得られた表面をケイ素酸化物で被覆されていない酸化セリウム粒子をプロピレングリコールに分散させた分散液の吸収スペクトル測定結果と分散液中の酸化セリウムの濃度から算出したモル吸光係数のグラフを示す。また、表15に各実施例で得られたケイ素化合物被覆酸セリウム粒子のSi−OH比率と、波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数を比較例3で得られた酸化セリウム粒子の波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数とともに示す。
比較例3で得られたケイ素化合物で表面を被覆していない酸化セリウム粒子は、実施例3における第3流体を用いていないこと、また特許文献6に記載の流体処理装置の第3導入部及び第3導入部の開口部d30を敷設していないことを除いては、実施例3と同じ方法で作製し、実施例3と同様の粒子径の酸化セリウム粒子を得た。
表15に見られるように、Si−OH比率が下がるに伴って、平均モル吸光係数が上がる傾向が見られた。また、実施例で得られたケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子は、比較例3で得られた酸化セリウム粒子に比して、波長200nmから380nmにおける平均モル吸光係数が高いことがわかる。本発明においては、上記ケイ素化合物に含まれるSi−OH結合の比率が、45%以上75%以下であり、上記ケイ素化合物酸化セリウム粒子を分散媒に分散させた分散液において、波長200nmから380nmの光線に対するモル吸光係数が、4000L/(mol・cm)以上であるケイ素化合物被覆酸化セリウム粒子であることが好ましい。それによって、UVA、UVB、UVCである紫外線の波長200nmから380nmの光線を効率よく吸収することが可能になるため、塗布用組成物に用いる場合にあっては、使用量の低減、更なる透明性を実現できることなど好適である。
以上、本発明のケイ素化合物被覆酸化物粒子の製造方法によって、ケイ素化合物被覆酸化物粒子の繊細かつ厳密な色特性制御を可能とした。それによって、塗布用組成物に用いた場合には、紫外、可視、近赤外の各領域の光線に対する透過、吸収、色相、彩度、及びモル吸光係数を厳密に制御できるため、人体に塗布する場合においては質感や美観を損なわず、塗装体に用いる場合には意匠性を損なわずに紫外線や近赤外線から人体や塗装体を防御できたものである。