JP6143078B2 - 模擬粉体の製造方法、及び粉体飛散状態評価方法 - Google Patents
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しかしながら、ここまで感度が高いと、1回目の測定後、更に2回目の測定を行う場合、1回目のATP粉体が極微量残留しているだけで、2回目の測定に影響を与えてしまう等の問題が生じうる。また、既存の標準法であるSMEPAC法の測定結果と比較することができないという問題、現場環境で実際に使用される種々の粉体の粒径や粒子密度に合わせたATP粉体を調製することが難しいという問題もある。
また、その評価方法に使用される模擬粉体、その模擬粉体の製造方法、及びその評価方法により粉体の飛散状態を評価した粉体取扱い施設を提供することも目的とする。
本発明に関連する模擬粉体は、粉体の飛散状態を評価するために前記粉体の代わりに用いる模擬粉体であって、ラクトースを含む核粒子に、アデノシン5’−三リン酸(ATP)及びその誘導体からなる群より選択される1以上の化合物が付着された複合化粒子からなることを特徴とする。
前記複合化粒子は、前記核粒子からなる母粒子の表面に前記化合物からなる子粒子が被覆されてなることが好ましい。
前記複合化粒子は、前記母粒子と前記子粒子が高速気流中で衝突し、前記母粒子の表面に前記子粒子が被覆されてなることが好ましい。
前記複合化粒子の粒径は、0.5μm〜30μmであることが好ましい。
前記分析は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及び前記化合物を共存させた結果生じる反応を検出することで行われることが好ましい。
また、粉体取扱い施設が備える空間において、粉体が飛散した場合の飛散状態や封じ込め状態を評価することにより、所定の基準を満たすことを確認し、その粉体取扱い施設が粉体を取り扱うことに適しているか否かを判断することができる。
本実施形態の模擬粉体は、粉体(以下、「対象粉体」という)の飛散状態を評価するために対象粉体の代わりに用いる模擬粉体であって、ラクトースを含む核粒子に、アデノシン5’−三リン酸(ATP)及びその誘導体からなる群より選択される1以上の化合物が付着された複合化粒子からなる。
核粒子の全重量に対するラクトースの含有量は特に制限されないが、模擬粉体を一般的な医薬品粉体(対象粉体)の飛散性に類似させることが容易である観点から、その含有量は、50〜100重量%であることが好ましく、75〜100重量%であることがより好ましく、90〜100重量%であることがさらに好ましい。
ラクトースを含む核粒子に付着された化合物は、アデノシン5’−三リン酸(ATP)及びその誘導体からなる群より選択される1以上の化合物である。
ATPは、生物体の生化学反応で利用されるヌクレオチドであり、仮に微量のATPが作業者に吸引される又は付着したとしても実質的な害は殆ど無い化合物である。
ATPの誘導体としては、例えばADP、AMP、cAMPが挙げられる。ADPは、ATP分子を構成するリボースの5’位にリン酸エステル結合を介して連結された3個のリン酸基のうち、リボースから最も遠いγ位のリン酸基が水素原子で置換されたアデノシン5’−二リン酸であり、AMPは、γ位及びβ位の2つのリン酸基が水素原子で置換されたアデノシン5’−一リン酸であり、cAMPは、ATP分子を構成するリボースの5’位及び3’位が1つのリン酸基で環状に連結された環状アデノシン一リン酸である。これらのATP誘導体は、後述する生物発光法によってATPと同様に高感度で検出することができる。
複合化粒子を構成する核粒子に付着された前記化合物の形態は特に制限されず、当該化合物の粒子(子粒子)が核粒子(母粒子)に付着した形態であってもよいし、当該化合物が核粒子の表面に層を形成して均一に被覆した形態であってもよいし、当該化合物の一部又は全部が核粒子内に包含された形態であってもよい。
模擬粉体を構成する複合化粒子の密度は特に制限されず、実際の対象粉体の密度と同程度になるように適宜調整すればよい。
本実施形態の模擬粉体の製造方法は、複合化粒子の形態に応じて選択可能な方法が異なる。以下に、第一の複合化方法と第二の複合化方法をそれぞれ説明する。
第一の複合化方法は、前記化合物が核粒子の表面に層(コーティング層)を形成してなる又は前記化合物が核粒子の内部に含浸されてなる、複合化粒子の製造方法である。まず、前記化合物が所定の濃度で溶解された溶液を準備し、その溶液を核粒子の表面に均一に塗布する。塗布方法は特に制限されず、粒子と前記溶液とを混合する公知の方法が適用できる。次に、核粒子に塗布された前記溶液の溶媒を除去して、核粒子の表面に前記溶液の溶質である前記化合物を残留させることによって、目的の複合化粒子を得ることができる。この際、核粒子の内部に前記溶液を含浸させることにより、核粒子の内部にも前記化合物を配置することができる。前記溶液の塗布と前記溶媒の除去を行う装置として、例えば、パン・コーティング装置、転動コーティング装置、流動層コーティング装置が挙げられる。これらの装置を用いることにより、核粒子の表面に前記化合物を均一に被覆(コーティング)することができる。
第二の複合化方法は、前記化合物の粒子(子粒子)が核粒子(母粒子)に付着してなる複合化粒子の製造方法である。この製造方法においては、母粒子の表面に子粒子が比較的強く付着(固着)させることが可能な処理を行うことが好ましい。
本実施形態の粉体飛散状態評価方法は、対象粉体の代わりに模擬粉体を用いて、対象粉体の飛散状態を評価する粉体飛散状態評価方法であって、評価対象の空間中に模擬粉体を飛散させるステップ(粉体飛散ステップ)と、空間の所定位置で飛散した模擬粉体を回収するステップ(回収ステップ)と、回収した模擬粉体を定量的又は定性的に分析するステップ(分析ステップ)と、を有する。
本実施形態の粉体飛散状態評価方法は、粉体飛散ステップ、回収ステップ及び分析ステップ以外の他のステップ、例えば、模擬粉体の飛散状態を評価するステップ(評価ステップ)を有していてもよい。この評価ステップは公知の方法が適用可能である。
評価対象の空間に飛散させた複合化粒子からなる模擬粉体は、通常数分〜数時間の間、評価対象の空間中に浮遊している。空間中の空気(気体)をフィルターが備えられた捕集器に導いて、このフィルターで空間中に浮遊している模擬粉体を捕集することができる。捕集後にフィルターを例えば精製水やアルコール等で洗浄することにより、捕集した模擬粉体を洗浄液中に溶解させることができる。この洗浄液中に含まれるATP等の前記化合物の量又はその有無を公知の方法で定量又は検出することにより、捕集位置に浮遊していた模擬粉体を定量的に又は定性的に分析することができる。さらに、洗浄液中にはATP等の前記化合物と正の相関を示す量のラクトースが溶解しているので、SMEPAC法又はそれに準じた液体クロマトグラフィー(HPLC)によって洗浄液中のラクトース量を定量すれば、さらに信頼性の高い結果が得られる。
評価対象の空間に飛散させた複合化粒子からなる模擬粉体は、通常数分〜数時間の間、評価対象の空間中に浮遊している。この模擬粉体が落下するのを待ち、その後、評価対象の空間を構成する地面や壁又は前記空間に設置された机等に付着した模擬粉体を定量する。この場合、予めサンプリング用のシートを評価対象の空間の壁等に設定しておき、そのシートに落下した模擬粉体を捕集し、この模擬粉体を適当な溶媒に溶解した溶液を調製し、この溶液中のATP等の前記化合物を公知の方法で定量的に又は定性的に分析することにより、捕集位置に落下した模擬粉体を定量又は定性分析することができる。さらに、前記溶液中にはATP等の前記化合物の量と正の相関を示す量のラクトースが溶解しているので、SMEPAC法又はそれに準じた液体クロマトグラフィーによって前記溶液中のラクトース量を定量すれば、さらに信頼性の高い結果が得られる。
分析試料中のATP等の前記化合物の定量方法は特に制限されず、公知の方法が適用できる。例えば特許文献1に記載されたルシフェラーゼを使用する方法が挙げられる。ルシフェラーゼは分析試料中のATP等の前記化合物を利用して、発光物質であるルシフェリンが光を放つ化学反応(発光反応)を触媒する酵素の総称である。一般に、その発光量は分析試料中の前記化合物の量に正の相関を示す。予め検量線を準備しておき、ルシフェラーゼと分析試料を混合して、その発光量を測定することによって、分析試料中の前記化合物の量を正確に測定することができる。
本実施形態の粉体取扱い施設は、粉体を取り扱う空間を備えた粉体取扱い施設であって、前述した粉体飛散状態評価方法により、空間における粉体の飛散状態が評価された粉体取扱い施設である。この施設に備えられた空間の大きさ(施設の規模)は特に制限されない。粉体取扱い施設としては、例えば、医薬品製造工場における粉体取扱い室、粉体取扱いブース、クリーンブース、グローブボックス、粉体保管室等が挙げられる。
<模擬粉体1の調製>
ラクトース・水和物(CAS番号:64044−51−5)からなる粉体(100g)と、ATP(CAS番号:56−65−5)からなる粉体(0.1g)とを撹拌装置(奈良機械製作所製、型名:OMダイザー)を用いて混合し、ラクトースからなる母粒子の表面に、ATPからなる子粒子が比較的弱く付着された複合化粒子からなる模擬粉体1を得た。
ここで使用したラクトース粒子の粒子径は約0.5μm〜30μmであり、その比重は約1.5である。ここで使用したATP粒子の粒子径は約100nm〜100μmであり、その比重は約1である。
模擬粉体1を試験空間にほぼ均一に飛散させ、試験空間中の異なる5点において模擬粉体を捕集した試料1〜5を得た。これらの試料に含まれるATP量をルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による公知の方法で定量した。その結果、表1に示す通り、模擬粉体1を試験空間にほぼ均一に飛散させているにも関わらず、ATP量は各点によって大きく異なっている。これは、模擬粉体1を構成する個々の複合化粒子において、その表面に付着したATP量が異なっているため、又は、飛散中に複合化粒子の一部が母粒子と子粒子に分解したため、であると考えられる。したがって、模擬粉体1を使用して、評価対象の空間における対象粉体の飛散状態を定性的に調べる(対象粉体の有無を調べる)ことは可能であるが、その飛散状態を定量的に調べることは困難であることが分かる。
<模擬粉体2の調製>
ラクトース粉体とATP粉体を高速気流中で衝突させて複合化する乾式粒子複合化法によって、母粒子であるラクトース粒子の表面に子粒子であるATPが比較的強く固着した複合化粒子からなる模擬粉体2を得た。模擬粉体2の体積平均径は約6μmであった。
模擬粉体1の場合と同様に、模擬粉体2を試験空間にほぼ均一に飛散させ、試験空間中の異なる5点において模擬粉体を捕集した試料1〜5を得た。これらの試料に含まれるATP量をルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による公知の方法で定量した。表1に示す通り、試験空間の各点で検出されたATP量はほぼ等量であった。この結果は、模擬粉体2を試験空間にほぼ均一に飛散させたことと一致する。すなわち、模擬粉体2を評価空間に飛散させて、所定位置のATP量を検出することにより、その評価空間における模擬粉体の飛散状態を定性的に調べるだけでなく、その飛散状態を定量的に正確に評価できることが分かる。
ラクトース濃度1μg/Lの水溶液に、最終的にラクトースに対するATPの重量比が0.1%、0.01%、0.001%となるようにATPを添加した3種の水溶液A1、A2、A3を調製した。これらの水溶液A1〜A3のラクトース濃度をSMEPAC法に準じてHPLCで測定したところ、いずれの水溶液も1μg/L濃度のラクトースを含有することが確認できた。
同様に、ラクトース濃度5μg/Lの水溶液に、最終的にラクトースに対するATPの重量比が0.1%、0.01%、0.001%となるようにATPを添加した3種の水溶液B1、B2、B3を調製した。これらの水溶液B1〜B3のラクトース濃度をSMEPAC法に準じてHPLCで測定したところ、いずれの水溶液も5μg/L濃度のラクトースを含有することが確認できた。
これらの結果から、ラクトースとATPの混合試料において、ラクトース/ATPの重量比が1000〜100000の範囲であれば、SMEPAC法によるラクトース定量にATPが影響を及ぼさないことが明らかである。
Claims (5)
- 粉体の飛散状態を評価するために前記粉体の代わりに用いる模擬粉体の製造方法であって、
粒子径が0.5μm〜30μmのラクトース粒子と、
粒子径が100nm〜100μmのアデノシン5’−三リン酸(ATP)及びその誘導体からなる群より選択される1以上の化合物からなる粒子と、を気流中で衝突させることにより、
前記ラクトース粒子と前記化合物からなる粒子とを複合化した、粒子径が0.5μm〜30μmである複合化粒子からなる前記模擬粉体を得ることを特徴とする模擬粉体の製造方法。 - 前記複合化粒子の全重量に対する前記ラクトース粒子の重量が、70〜99.999重量%であることを特徴とする請求項1に記載の模擬粉体の製造方法。
- 前記複合化粒子において、前記ラクトース粒子100重量部に対する、前記化合物からなる粒子の重量が0.001〜1重量部であることを特徴とする請求項1に記載の模擬粉体の製造方法。
- 粉体の代わりに模擬粉体を用いて前記粉体の飛散状態を評価する粉体飛散状態評価方法であって、
請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法によって模擬粉体を得るステップと、
評価対象の空間中に前記模擬粉体を飛散させるステップと、
前記空間の所定位置に飛散した前記模擬粉体を回収するステップと、
回収した前記模擬粉体の飛散状態を定量的又は定性的に分析するステップと、を有することを特徴とする粉体飛散状態評価方法。 - 前記分析が、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及び前記化合物を共存させた結果生じる反応を検出することで行われることを特徴とする請求項4に記載の粉体飛散状態評価方法。
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