JP6130996B2 - プラスチック材料の評価方法 - Google Patents
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近年、プラスチック材料の機械的特性や成形性はプラスチック材料の高次構造に影響され、さらに、高次構造の違いは表面のトライボロジー特性にも影響をもたらすとの知見が得られるようになった。表面の高次構造は、摩擦刺激によってバルクとは異なる状態へと変化することが予想されるため、プラスチックのトライボロジー特性を摺動速度、摺動圧力、摩擦面温度、相手材料などの摺動条件との関係において測定し、解明することが必要である。また、機械部品として使用するに適したプラスチック材料を選択するには、その用途に適したトライポロジー特性とプラスチック材料の高次構造の関連を把握する必要があることは明らかである。
しかしながら、これらの従来公知の試験方法からは、低コストで、簡便、正確な評価ができる手法を見出すことはできなかった。
すなわち、本発明の目的は、高面圧下における摺動部品として利用可能なプラスチック材料をスクリーニングするべく、当該プラスチック材料のトライボロジー特性を簡便に解明するためのモデル摩擦試験方法を提供することにある。また、本発明の目的は、高面圧下などの任意の圧力下における摺動部品としての有用性を評価できるように、プラスチック材料の表面高次構造と摩擦特性の相関が得られやすく、比較的低コストで評価できるモデル摩擦試験方法の提供することにある。
(1)プラスチック材料選択のための一対の試験片を摺動させて磨耗量を測定する摩擦試験において、該試験片が摺動面の表面粗さをコントロールした金属材料とプラスチック材料からなり、金属材料によるプラスチック材料の磨耗量を測定し、その摩耗量の値から、結晶化度またはMFRを推定し、推定した結晶化度またはMFRを材料選択の指標とすることを特徴とする、プラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(2)金属材料の摺動面の表面粗さが、Raが0.2〜0.6、Rpkが0.2〜0.8である上記(1)に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(3)金属材料の摺動面の表面粗さをブラストにより調製する上記(1)または(2)に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(4)摩擦試験が金属材料の円筒端面をプラスチック材料からなる平板片に押し付ける面接触方式で行われる上記(1)から3のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(5)磨耗量が、金属材料がプラスチック材料を磨耗して形成した溝の深さで測定される上記(1)から(4)のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(6)金属材料として鉄、軽金属またはこれらの合金を用い、プラスチック材料としてエンジニアリングプラスチックを用いる上記(1)から(5)のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(7)金属材料の表面粗さがブラストまたは切削面より形成されている上記(1)から(6)のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
(8)研削による金属表面の粗さが円筒の中心部から半径方向に放射状となる凹凸により形成されている上記(7)に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
本発明によりプラスチック材料の表面高次構造と表面トライボロジーの関係を簡便に評価できるため、特定の用途や摩耗などに関する特定のトライボロジー物性を有するプラスチック材料を選択する手法として有用である。すなわち、プラスチック材料の結晶化度などの高次構造と摩耗量の関係を詳細に検討することによりプラスチック材料が必要とする高次構造を評価するための手段とすることができる。
プラスチック材料の一次構造(化学構造、立体構造、分子量と分布、末端基、ブロック・グラフト、シーケンスなど)を制御することは飛躍的に発展しているが、このようなプラスチック材料の分子鎖自体の制御が高分子材料の様々な物性(例えば、力学物性、電気特性、熱的性質など)と直結していれば材料の選択は簡単に行うことができるが、現実には必ずしもそうではないことはよく知られている。その理由は、プラスチック材料の内部構造には、相分離構造、結晶・球晶構造、非晶構造などの高次構造が存在し、これらの不均一構造が諸物性に大きな影響を与えるからである。この不均一構造の存在が、特異な物性を時として生む原因である。このことを言い換えると、不均一構造である高次構造を精密に制御できれば、あるいは、不均一構造と諸物性との関係が分かっていれば、高機能・高性能な新しい高分子機能材料を創生することができるものと考えられる。また、このような高次構造は、プラスチック材料の射出成型などの加熱成形、切削加工、加熱、冷却などの処理加工の過程において変化が生ずることがある。また、プラスチック材料からなる部品類の加工された表面は内部とは異なる高次構造を有することがあるため、プラスチック材料の表面の高次構造が重要な要素となることがある。
機械的部品類において、金属材料とプラスチック材料を組合せて使用することが行われるようになり、これらの材料間のトライボロジーを評価することは重要な課題として残されている。
本発明で評価されるプラスチック材料は主に、金属材料と接触摺動する材料から選ばれ、例えば、エンジニアリングプラスチックを挙げることができる。エンジニアリングプラスチックの中では主要に使用されている5種類(ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル)があり、エンジニアリングプラスチック全体の約9割を占めるといわれている。これらにはそれぞれ性能に特徴があるため、用途に応じて使い分けられているが、主に自動車や電機、電子機器などに多く使用されている。
本発明の実施例に用いたポリアミド66は、化学式[CO(CH2)4CONH(CH2)6HH]nで現されるアミド結合(−CONH−)の繰り返しによって構成される線状の高分子化合物である。ポリアミド66は、ポリアミド系樹脂の中では結晶化度が高く、物性のバランスがとれたエンプラでもあり、ポリアミド6と比較すると、耐熱性、機械的強度において、より優れた値を示す。すなわち、機械的強度のバランスが良く、ポリアミド系樹脂の中では、最も優れた機械的強度がある。また、ガソリン、オイルなどの有機溶剤に対して、優れた耐性がある。ガラス繊維などを充填して、機械的強度、剛性、熱変形温度などを大きく向上させることが可能であり、衣料用繊維、軸受け、ライナー、ローラー、ギア、絶縁部品、食品加工機械部品、包装機械部品などに用いられている。本発明の説明および実施例では、ポリアミド66を例とする。
本発明の金属材料としては、各種の金属具品として用いられ、特に、エンジニアリングプラスチック類と共同して用いられる材料から選ばれる。金属材料は鉄鋼材料と非鉄金属に分けられる。鉄鋼(炭素鋼)S45CやSS400に代表される鉄鋼は、安価であること、溶接性に優れていること、様々な熱処理ができることなどの特徴がある。最もよく使われる材料の一つであるSS材は強度を基準とした炭素鋼である。例えば,SS400は引張り強さが400N/mm2以上の炭素鋼である。一方,S−C材は材料成分を基準とした材料であり、例えば、S45Cは、0.45%の炭素が含まれている材料である。鉄鋼にはかなり多くの種類がある。また、非鉄材料としては、アルミニウム、マグネシウム、チタンなどの軽量金属とそれらの合金類が挙げられる。
歯車などの機械部品は射出成形により製造される。射出成形加工では溶融させた樹脂の流動性の善し悪しによって成形条件、特に射出圧力や射出速度、金型温度の設定が大きく左右される。樹脂の流動性を評価する方法として最も簡易的で目安として利用されているものがメルトフローレート(MFR)である。メルトフローレートの数値が大きい樹脂ほど流動性が良いと評価される。メルトフローレートが小さい樹脂は流れが悪い。汎用エンプラのトライボロジー特性の評価には射出成形加工性との相関を見る必要がある。
メルトフローレート(MFR)とは、溶液状態にある樹脂の流動性を示す尺度の一つである。メルトインデックス(MI)とも言い、ISOでの名称がメルトフローレートである。測定方法は、円筒状の押出式プラストメーターに入れた樹脂を一定の温度で加熱、加圧し、容器の底の開口部から10分間に押出された樹脂量を測定する。単位はg/10minで表される。メルトフローレートの値が大きいほど溶融時の流動性や加工性は良好とされるが、引張り強さなどは低下する。市販のポリアミド66のメルトフローレート10〜80g/10minである。
結晶性樹脂とは架橋や枝分かれがほとんど無く、規則正しい分子構造をもった高分子を言うが、一般に全ての分子が結晶化することはない。結晶化している部分の量を結晶化度で示し、結晶化度が高いほど硬度、弾性率強度などが向上し透明性はない。二つの部品が接触しながら運動する歯車や軸受けは、摩耗によって精度が低下したり破壊したりする。歯車の歯面の摩耗は荷重が繰り返し作用する結果として疲労破壊から起こり、軸受けの摩耗は、摩擦熱から焼き付きの現象となって現れることもある。エンジニアリングプラスチックのトライボロジー特性の評価にはエンプラの結晶化度との相関を見る必要がある。また、プラスチック材料の結晶性などの高次構造は、熱、機械的な力などを受けた表面部分に偏在することがありプラスチック材料の表面での高次構造を評価することが重要となる。
一対の試験片を一定の荷重と速度のもとで摺動面させ、このときの摩擦力を計測するとともに、所定距離摺動後の摩擦量を測定することによって行う試験である。摩擦係数の測定方式には、歪ゲージやロードセル、回転トルク計などで摩擦力を直接計測する方法、駆動モータの負荷電力から変換して求める方法、振り子式摩擦試験機のように摩擦による振動減衰挙動から求める方法、斜面上においた物質が滑り出す角度から最大静止摩擦力を求める方法などがある。本発明では、スラストシリンダー式を採用する。円筒の端面を平板試験片に押し付ける面接触方式で、摩擦の進行によっても接触面積が変化しないため、すべり軸受けなどの焼付き荷重の評価などに適用される試験方法である。日本では鈴木式とも呼ばれ、プラスチック系材料の摩耗試験方法としてJIS規格(JIS
K 7218-1986)で規定されている、プラスチック系材料の摩擦試験方法としても使われている。
プラスチック材料の高次構造とトライボロジーの関係を明確に示すには、高次構造の変化に対してトライボロジーが大きく変化することが好ましいが、これに適した表面粗さは、Raが0.2〜0.6、Rpkが0.2〜0.8の範囲であることは図5、6より求めることができる。
なお、本発明における表面粗さRaは算術平均粗さ、Rpkは初期摩耗粗さであり、文献、JIS、DINなどに記載の測定方法で得られる。
以下に本発明の実施例を説明する。本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
1.1 実験装置
摩擦、摩耗試験には図1に示すスラストシリンダー式試験機を用いた。摺動条件について表1に示す。試験後、粗さ測定器を用いて摩耗深さを測定した。
シリンダーに表面を加工し粗さを変化させたS45Cを用いる。シリンダーの表面粗さを変化させる方法として、鏡面加工(以下、「鏡面」と称する。)、研削加工(以下、「研削」と称する。)、ブラスト加工(以下、「ブラスト」と称する。)の3種類の加工を行なった。鏡面について1種類、研削とブラストについてはそれぞれ3種類の表面粗さの試験片を用意した。このとき、3種類の試験片は表面粗さパラメータRaを基準に揃えた。試験片寸法の詳細は試験条件とともに表1に示す。詳しい加工の種類と加工後金属表面の表面粗さについて表2に示す。顕微鏡による表面画像について、研削の画像を図2、ブラストの画像を図3に示す。研削の方向は、図2に示すように円の半径方向に放射状に研削跡がつくように加工した。
flow rate(以下、「MFR」と称する。)に着目しその値を変化させた。それぞれの値を表3に示す。
2.1 相手材表面粗さ
粗さ測定機を用いて測定した摩耗深さと表面粗さとの関係を図4に示す。これより表面粗さパラメータRaが大きくなると摩耗深さが大きくなることが確認できた。ウエットブラストと研削200の摩耗深さを比較すると、摩耗深さは同程度にもかかわらず研削200方がRaが大きいことが確認できた。
次にRaと摩耗深さを比較した結果を図5に示す。図5より、研削での摩耗深さの上昇傾向とブラストでの摩耗深さの上昇傾向が異なり、ブラストは研削に比べ摩耗深さが大きくなることが確認できた。 そこで、表面粗さパラメータとしてRpkについて、摩耗深さとの関係を比較した。図6より、Rpkが大きくなると研削とブラストの両方で似た摩耗深さの上昇傾向を示すことが確認できた。これより、金属とプラスチックの摩耗のように軟らかい材料と硬い材料のアブレシブ摩耗では、金属の突出した山部の高さが摩耗量に関係していると推察される。
相手金属材料の表面は、研削325で加工し、Ra=0.3μm、Rpk=0.2μm程に揃えた試験片を用いた。高次構造を変化させた試験片について、それぞれの摩耗深さを図7に示す。A、B、Cについて比較したところ、結晶化度が大きくなると摩耗深さが小さくなることが確認できる。その理由として、結晶化度が大きくなるプラスチック内部の分子間力が大きくなり、せん断強さが上昇し、耐摩耗性が向上するためと推察される。
ポリアミド66に対し、相手材料の粗さおよび、プラスチックの高次構造による摩耗深さの変化を調べ以下の知見を得た。
(1)表面粗さRa、Rpkが大きくなるにしたがって摩耗量が増加し、Ra、Rpkの値が0.2以上で摩耗量が大きくなる、という表面粗さと摩耗量には相関関係がある。
(2)表面粗さRaとRpkと摩耗深さの関係を比較した結果、加工方法に依らず摩耗と表面粗さの相関がみられたが、ブラストにより表面を粗くすると、研削による表面と比較して摩耗量が大きくなる。
(3)結晶化度と耐摩耗性は相関関係があり、結晶化度が大きくなると耐摩耗性が向上する。
(4)摩耗量からプラスチック材料の相関を求めるにはRaが0.2〜0.6、Rpkが0.2〜0.8の範囲が好ましい。
Claims (8)
- プラスチック材料選択のための一対の試験片を摺動させて磨耗量を測定する摩擦試験において、該試験片が摺動面の表面粗さをコントロールした金属材料とプラスチック材料からなり、金属材料によるプラスチック材料の磨耗量を測定し、その摩耗量の値から、結晶化度またはMFRを推定し、推定した結晶化度またはMFRを材料選択の指標とすることを特徴とする、プラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 金属材料の摺動面の表面粗さが、Raが0.2〜0.6、Rpkが0.2〜0.8である請求項1に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 金属材料の摺動面の表面粗さをブラストにより調製する請求項1または2に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 摩擦試験が金属材料の円筒端面をプラスチック材料からなる平板片に押し付ける面接触方式で行われる請求項1から3のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 磨耗量が、金属材料がプラスチック材料を磨耗して形成した溝の深さで測定される請求項1から4のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 金属材料として鉄、軽金属またはこれらの合金を用い、プラスチック材料としてエンジニアリングプラスチックを用いる請求項1から5のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 金属材料の表面粗さがブラストまたは切削面より形成されている請求項1から6のいずれかに記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
- 研削による金属表面の粗さが円筒の中心部から半径方向に放射状となる凹凸により形成されている請求項7に記載のプラスチック材料の表面高次構造の評価方法。
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