以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建設機械検査システムの構成例を示した図である。建設機械検査システムは、建設機械検査装置11、分析装置12、およびネットワーク13を有している。建設機械検査装置11および分析装置12は、ネットワーク13に接続され、ネットワーク13を介して互いに通信が可能である。ネットワーク13は、例えば、インターネット、無線LAN(Local Area Network)、携帯電話回線、または衛星回線によるネットワークである。
分析装置12は、建設機械から取出された分析対象物を分析する。建設機械は、例えば、油圧ショベルやトラックなどであり、分析対象物は、これら建設機械のエンジンオイル、ギヤオイル、または油圧作動油などである。分析対象物の分析結果は、ネットワーク13を介して建設機械検査装置11に送信される。
建設機械検査装置11は、分析装置12から受信した分析結果を検査し、検査結果に基づいて、建設機械の状態を診断する。例えば、建設機械検査装置11は、ある建設機械のディーゼルエンジンのオイル分析結果を、分析装置12から受信し、ディーゼルエンジンのオイル状態を検査したとする。建設機械検査装置11は、オイル分析結果に対する検査の結果、例えば、建設機械のエンジンオイルは鉄分とクロムが多いと判定したとする。この場合、建設機械検査装置11は、前記の検査結果に基づき、建設機械に対し、「ピストンリングの摩耗異常」と診断する。
なお、分析装置12は、通信機能を有している場合、上記したように、ネットワーク13を介して、建設機械検査装置11に分析結果を送信することができる。一方、分析装置12が、通信機能を有していない場合、例えば、パーソナルコンピュータなど、ネットワーク13に接続された端末装置に、分析装置12で分析された分析結果をユーザが入力する。そして、端末装置が、ユーザによって入力された分析結果を建設機械検査装置11に送信してもよい。
以下では、特に断りがない限り、分析対象物は、建設機械のオイルとして説明する。建設機械のオイルには、エンジンオイル、ギヤオイル、または油圧作動油などがある。また、分析結果は、特に断りがない限り、建設機械のオイル分析結果として説明する。
油圧ショベルやトラックなどの建設機械は、油圧ポンプ装置やバルブといった油圧システムを介して、油圧シリンダ、走行装置、旋回装置を駆動することで動作する。油圧ポンプの動力源は、例えば、ディーゼルエンジンである。油圧システムにおいては、油圧ポンプや油圧モータが高速かつ高負荷で回転する。また、例えば、走行装置や旋回装置のギヤには、強い力がかかる。建設機械において、油圧作動油、エンジンオイル、またはギヤオイルといった潤滑油の品質は、力の伝達効率や破損防止といった機械性能や信頼性に大きな影響を与える。
建設機械の稼働時に相対運動する部品の接触部は、摩耗などにより劣化または破損する。接触部は、潤滑油で潤滑されているので、摩耗などで発生した金属の摩耗粉などが潤滑油に混入する。潤滑油自体も酸化などにより劣化する。また、建設機械の外部から、潤滑油の劣化を促進する水分や砂などが混入する。劣化や混入の度合いが多ければ、部品が破損しているか、近い将来に破損して機械が故障する可能性が高くなる。特に、マイニング(鉱山採掘)などでは、稼働率が鉱物採掘の生産性に関わるため、機械の故障を未然に防止することは重要である。そこで、以下の図2および図3で説明する建設機械のオイル分析サービスにより、建設機械のオイルを分析および検査し、検査結果に基づいて建設機械を診断することで、未然に建設機械の故障を防止し、性能を維持する。
図2は、本実施形態の前提となるオイル分析サービスの概略を説明する図である。図2には、図1で説明した分析装置12と建設機械検査装置11とが示してある。建設機械検査装置11は、図2に示すように、分析結果DB(DB:データベース)31と、基準パターンDB32と、診断ルールDB33とを有している。分析結果DB31には、建設機械の過去のオイル分析結果が記憶されている。基準パターンDB32には、オイル分析結果を検査するための基準値(基準パターン)が記憶されている。診断ルールDB33には、建設機械の状態を診断するための診断ルールが記憶されている。これらDBについては、後で詳述する。
顧客21は、例えば、建設機械1、2、…、nの所有者である。顧客21は、例えば、建設機械1、2、…、nから、使用中または使用後のオイルをサンプリングし、分析業者22へ送付する。
分析業者22は、建設機械のオイルを分析する業者である。分析業者22は、例えば、建設機械のディーラであり、各地で建設機械の販売やサービスを実施する店舗または業者である。
分析業者22は、分析装置12を用いて、顧客21から送られてきた、建設機械のオイルサンプルを分析する。例えば、分析装置12のぞれぞれは、動粘度計、滴定測定器、またはICP(Inductive-Coupled Plasma)発光分光分析機などであり、分析業者22は、このような分析装置12を用いて、顧客21から送られてきたオイルサンプルを分析する。分析業者22は、分析装置12を用いて分析したオイル分析結果を、建設機械メーカ23の建設機械検査装置11へ送信する。
建設機械メーカ23は、例えば、建設機械を製造または修理する業者である。建設機械メーカ23は、例えば、建設機械検査装置11を用いて、分析業者22の分析装置12から送信されたオイル分析結果に基づいて、建設機械のオイル状態を検査し、検査結果に基づいて、顧客の建設機械の状態を診断する。そして、建設機械メーカ23は、例えば、建設機械の診断結果を顧客21に通知する。
図3は、オイル分析サービスの概略を説明するシーケンス図である。図2に示すオイル分析サービスの概略を、図3を用いて説明する。
まず、分析結果DB31には、様々な建設機械の過去のオイル分析結果が記憶されているとする。また、建設機械検査装置11は、分析結果DB31に記憶された過去のオイル分析結果に基づいて、予め建設機械ごとの部位ごとの基準値を算出し、基準パターンDB32に記憶しているとする。例えば、建設機械検査装置11は、決められた周期または建設機械メーカ23のユーザの指示に応じて、建設機械ごとの部位ごとの基準値を算出し、基準パターンDB32に記憶する。なお、部位とは、建設機械の部位であり、建設機械のエンジン、トランスミッション、ポンプドライブ、走行減速機などの各種ギヤ、または油圧シリンダなどである。
顧客21は、分析業者22に対し、オイル分析の実施について問い合わせ、例えば、オイル分析サービスを購入する(ステップS1)。
次に、分析業者22は、建設機械のオイルを採取するためのサンプリングキットを顧客に送付する(ステップS2)。
次に、顧客21は、分析業者22から送付されたサンプリングキットを用いて、診断してもらいたい建設機械のある部位のオイルを採取する。顧客21は、採取したオイルサンプルを分析業者22に送付する(ステップS3)。
次に、分析業者22は、分析装置12を用いて、顧客21から送付されたオイルサンプルを分析する(ステップS4)。オイル分析には、例えば、オイルの粘りを示す動粘度、塩基価または全酸価といった酸性の度合い、引火点などのオイルの性状、オイル中の混入物の量、オイル中の金属の摩耗粉の量、オイル中の添加剤の量、オイル中の塵埃の量、オイル中の塩分の量、またはオイル中の有機物の量などの分析項目がある。
オイル中の混入物には、例えば、水、燃料、または固形分(不溶解分)などがある。オイル中の金属の摩耗粉には、例えば、鉄、銅、鉛、クロム、アルミニウム、ニッケル、錫、または銀などがある。オイル中の塵埃には、砂(珪素)などがある。オイル中の添加剤には、ホウ素、リン、亜鉛、カルシウム、バリウム、マグネシウム、またはモリブデンなどがある。ただし、各元素については、摩耗粉であるか、添加剤であるか、混入物であるかは、機械の材質、オイルの種類、作業環境に応じて変わるものであり、上記分類に限定されるものではない。例えば、亜鉛は、摩耗粉ともなりえる。珪素は、消泡性を向上するためのオイルの添加剤ともなりえる。
オイル中の混入物量の計測には、例えば、ペンタン不溶解分の計測などがある。オイル中の金属の摩耗粉の量、添加剤の量、塵埃の量、または塩分の量の計測には、例えば、プラズマ発光分光分析などがある。オイル中の有機物の量の計測には、例えば、フーリエ変換赤外分光分析などがある。
次に、分析業者22は、分析装置12を用いて、建設機械のオイル分析結果を建設機械メーカ23の建設機械検査装置11に送信する(ステップS5)。
次に、建設機械メーカ23の建設機械検査装置11は、分析装置12から送信される、顧客21の建設機械のオイル分析結果を受信し、分析結果DB31に記憶する(ステップS6)。建設機械検査装置11は、分析装置12からオイル分析結果を受信するたびに、分析結果DB31に記憶していく。これにより、分析結果DB31には、建設機械の過去のオイル分析結果が蓄積されていくことになる。
次に、建設機械メーカ23の建設機械検査装置11は、ステップS6にて受信した建設機械のオイル分析結果を検査し、その検査結果に基づいて、建設機械を診断する(ステップS7)。
例えば、建設機械検査装置11は、被検査対象(診断対象)となる建設機械の基準値を基準パターンDB32から取得する。検査対象となる建設機械とは、例えば、ステップS3にてオイルが採取され、そのオイル分析結果が、ステップS5にて建設機械検査装置11へ送信された建設機械である。建設機械検査装置11は、基準パターンDB32から取得した、被検査対象の建設機械の基準値に基づいて、ステップS6にて受信した、被検査対象の建設機械のオイル分析結果を検査し、その検査結果に基づいて、建設機械を診断する。以下では、検査対象の建設機械を、被検査建設機械と呼ぶことがある。
次に、建設機械メーカ23は、建設機械の診断結果(レポート)を顧客21に送付する(ステップS8)。
次に、顧客21は、オイルの診断結果に応じて、例えば、建設機械の部品の摩耗が多いと判断したなら、部品の購入や交換といったサービスの問い合わせを分析業者22に行う(ステップS9)。
分析業者22は、顧客21の問合せに対し、サービスを行う(ステップS10)。
上記したように、建設機械検査装置11は、建設機械ごとの部位ごとにおける過去のオイル分析結果から、建設機械ごとの部位ごとにおける、オイルの異常を検査するための基準値を算出する。そして、建設機械検査装置11は、算出した建設機械ごとの部位ごとの基準値から、被検査建設機械の基準値を取得し、分析装置12から送信された被検査建設機械のオイル分析結果を検査する。これにより、被検査建設機械(個別の建設機械)において、より適切な検査結果を得ることができる。また、適切なオイルの検査結果を得ることができるので、その検査結果から、建設機械の適切な診断結果を得ることができる。
なお、上記では、建設機械検査装置11は、分析結果DB31に記憶された過去のオイル分析結果に基づいて、予め(例えば、周期的または建設機械メーカ23のユーザの指示に応じて)建設機械ごとの部位ごとの基準値を算出して、基準パターンDB32に記憶しているとしたが、これに限られない。例えば、建設機械検査装置11は、被検査建設機械のある部位のオイル分析結果を受信すると、その被検査建設機械のある部位の過去のオイル分析結果を分析結果DB31から取得して、被検査建設機械の基準値を算出し、基準パターンDB32に記憶してもよい。より具体的には、建設機械検査装置11は、図3のステップS5にて、被検査建設機械のある部位のオイル分析結果を受信すると、その被検査建設機械のある部位の過去のオイル分析結果を分析結果DB31から取得して、被検査建設機械の基準値を算出し、基準パターンDB32に記憶してもよい。
また、図2および図3で説明したオイル分析サービスは一例であり、これに限られない。例えば、分析業者22が建設機械検査装置11を用いて顧客21の建設機械の検査および診断を行ってもよいし、建設機械メーカ23が分析装置12を用いて、顧客の建設機械のオイルサンプリングを分析してもよい。また、顧客21は、建設機械メーカ23に対し、部品やサービスの問合せを行い、建設機械メーカ23が顧客に対し、サービスを行ってもよい。
次に、建設機械検査装置11の機能について説明する。
図4は、建設機械検査装置11の機能ブロックの一例を示した図である。図4に示すように、建設機械検査装置11は、記憶部30と、通信部40と、基準パターン処理部50と、検査処理部60と、診断処理部70とを有している。
通信部40は、ネットワーク13を介して、分析装置12と通信を行う。例えば、通信部40は、分析装置12から送信されるオイル分析結果を受信する。通信部40は、受信したオイル分析結果を、分析結果DB31に記憶する。また、通信部40は、建設機械の診断結果を、例えば、顧客21が有する端末装置に送信する。
基準パターン処理部50は、分析結果取得部51と、算出部52とを有している。分析結果取得部51は、例えば、周期的または建設機械メーカ23のユーザの指示に応じて、分析結果DB31から建設機械ごとの部位ごとの過去のオイル分析結果を取得する。
算出部52は、傾向線算出部52aと、平均値算出部52bと、最頻値算出部52cとを有している。傾向線算出部52aは、分析結果取得部51で取得された建設機械ごとの部位ごとの過去のオイル分析結果に基づいて、1次式で示されるオイル分析結果の傾向線と、傾向線に対するオイル分析結果のバラツキ(例えば、誤差二乗平均平方根(RMSE:Root Mean Square Error))とを算出する。傾向線算出部52aは、算出した傾向線とRMSEとを基準パターンDB32に記憶する。
平均値算出部52bは、分析結果取得部51で取得された建設機械ごとの部位ごとの過去のオイル分析結果に基づいて、オイル分析結果の平均値と、オイル分析結果のバラツキ(例えば、標準偏差)とを算出する。平均値算出部52bは、算出した平均値と標準偏差とを基準パターンDB32に記憶する。
最頻値算出部52cは、分析結果取得部51で取得された建設機械ごとの部位ごとの過去のオイル分析結果に基づいて、オイル分析結果の最頻値と、オイル分析結果のバラツキ(例えば、標準偏差)とを算出する。最頻値算出部52cは、算出した最頻値と標準偏差とを基準パターンDB32に記憶する。
検査処理部60は、被検査分析結果取得部61と、基準パターン取得部62と、検査部63とを有している。被検査分析結果取得部61は、検査対象となる被検査建設機械のオイル分析結果を取得する。例えば、被検査分析結果取得部61は、図3のステップS5で分析業者22から送信されるオイル分析結果を取得する。
基準パターン取得部62は、基準パターンDB32に記憶されている、被検査建設機械の基準値を取得する。例えば、基準パターン取得部62は、図3のステップS5でオイル分析結果が送信された建設機械の基準値を、基準パターンDB32から取得する。
検査部63は、被検査分析結果取得部61によって取得された被検査建設機械のオイル分析結果と、基準パターン取得部62によって取得された被検査建設機械の基準値とに基づいて、被検査建設機械のオイル分析結果を検査する。
例えば、検査部63は、オイル中の金属の摩耗粉の量が、正常(Normal)の状態にあるか、警告(Alert)の状態にあるか、緊急(Urgent)の状態にあるか、または非常時(Critical)の状態にあるかを判定する。正常は、例えば、摩耗粉の量に異常がないことを示す。警告、緊急、および非常時は、例えば、摩耗粉の量に異常があり、警告、緊急、および非常時の順に、異常の度合が大きいことを示す。
診断処理部70は、検査結果取得部71と診断部72とを有している。検査結果取得部71は、検査部63が検査した、オイルの検査結果を取得する。診断部72は、検査結果取得部71によって取得された検査結果に基づいて、診断ルールDB33を参照し、建設機械の状態を診断する。
例えば、検査結果取得部71は、エンジンオイルに含まれる鉄の摩耗粉が、異常(例えば、警告、緊急、または非常時のいずれかの状態)であると判定された検査結果を取得したとする。この場合、診断部72は、例えば、エンジンのシリンダの摩耗が異常であると診断する。また、例えば、検査結果取得部71は、エンジンオイルに含まれるクロムおよび鉄の摩耗粉が異常であると判定された検査結果を取得したとする。この場合、診断部72は、例えば、ピストンリングの摩耗が異常であると診断する。
記憶部30には、分析結果DB31と、基準パターンDB32と、診断ルールDB33とが記憶されている。
図5は、分析結果DB31のデータ構成例を示した図である。図5に示すように、分析結果DB31は、機械IDと、分析日と、種類と、部位と、使用時間と、項目との欄を有している。
「機械ID」の欄には、建設機械ごとに付与された識別子(ID)が記憶される。「分析日」の欄には、分析業者22がオイル分析した日付が記憶される。「種類」の欄には、建設機械の種類が記憶される。「部位」の欄には、建設機械の部位が記憶される。「使用時間」の欄には、建設機械の部位で使用されているまたは使用されたオイルの使用時間が記憶される。「項目」の欄には、オイルの分析項目が記憶される。
図4で説明した通信部40は、上記したように、分析装置12からオイル分析結果を受信する。分析装置12から受信するオイル分析結果には、建設機械の機械IDと、オイル分析の分析日と、建設機械の種類と、建設機械の部位と、オイルの使用時間と、オイルの分析項目との情報が含まれている。通信部40は、受信したオイル分析結果を、図5の分析結果DB31に示すように、受信したオイル分析結果ごとに記憶する。
図6は、基準パターンDB32のデータ構成例を示した図である。図6に示すように、基準パターンDB32は、機械IDと、分析日と、種類と、部位と、項目と、型と、パラメータP1と、パラメータP2と、バラツキSの欄を有している。
「機械ID」の欄には、建設機械ごとに付与された識別子(ID)が記憶される。「分析日」の欄には、分析業者22がオイル分析した日付が記憶される。「種類」の欄には、建設機械の種類が記憶される。「部位」の欄には、建設機械の部位が記憶される。「項目」の欄には、オイルの分析項目が記憶される。
「型」の欄には、基準値を算出した方法が記憶される。例えば、機械ID「1」の分析項目「Fe」の基準値が、傾向線算出部52aにより、傾向線に基づいて算出された場合、「型」の欄には、図6に示すように「傾向線」が記憶される。
「パラメータP1」の欄には、傾向線の傾き、平均値、および最頻値の少なくとも1つが記憶される。例えば、ある分析項目の基準値が、傾向線算出部52aによって算出された場合、「パラメータP1」の欄には、傾向線の傾きが記憶される。また、例えば、ある分析項目の基準値が、平均値算出部52bによって算出された場合、「パラメータP1」の欄には、平均値が記憶される。また、例えば、ある分析項目の基準値が、最頻値によって算出された場合、「パラメータP1」の欄には、最頻値が記憶される。
「パラメータP2」の欄には、傾向線の切片が記憶される。基準値が平均値算出部52bおよび最頻値算出部52cによって算出された場合、「パラメータP2」の欄には、情報は記憶されない。例えば、機械ID「1」の分析項目「Cr」の基準値は、型の欄「平均値」より、平均値算出部52bより算出される。従って、機械ID「1」の分析項目「Cr」の「パラメータP2」の欄には、パラメータが記憶されていないことを示す「−」が記憶される。
「バラツキS」の欄には、オイル分析結果のバラツキが記憶される。例えば、ある分析項目が、傾向線算出部52aによって算出された場合、「バラツキS」の欄には、RMSEの値が記憶される。また、例えば、ある分析項目が、平均値算出部52bによって算出された場合、「バラツキS」の欄には、標準偏差の値が記憶される。また、例えば、ある分析項目が、最頻値算出部52cによって算出された場合、「バラツキS」の欄には、標準偏差の値が記憶される。
図4で説明した分析結果取得部51は、例えば、分析結果DB31から、周期的または建設機械メーカ23のユーザの指示に応じて、建設機械ごとの部位ごとの過去のオイル分析結果を取得する。傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52cは、分析結果取得部51によって取得された、建設機械ごとのオイル分析結果に基づいて、建設機械ごとの部位ごとの基準値とバラツキとを算出する。そして、傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52cは、算出した建設機械ごとの部位ごとの基準値とバラツキとを基準パターンDB32に記憶する。
例えば、図6の領域32a、32bに示すように、建設機械の種類が「ショベル」で同じであっても、「部位」が異なれば、傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52cは、建設機械ごとにおける部位ごとの基準値とバラツキとを算出して、基準パターンDB32に記憶する。また、例えば、図6の領域32a、32cに示すように、建設機械の種類が「ショベル」で、部位が「油圧シリンダ」で同じであっても、「機械ID」が異なれば(建設機械が異なれば)、傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52cは、建設機械ごとの基準値とバラツキとを算出して、基準パターンDB32に記憶する。
なお、以下では、分析項目が複数ある場合の複数の基準値を、基準パターンまたは基準ベクトルと呼ぶことがある。例えば、領域32aの建設機械では、分析項目が「Fe」、「Cr」、…と複数存在し、基準値(パラメータP1、P2およびバラツキS)もそれに対応して複数存在している。この場合、領域32aの建設機械の基準値を、基準パターンまたは基準ベクトルと呼ぶことがある。
以下、「傾向線による基準値の算出」と「傾向線によるオイル分析結果の検査」、「平均値による基準値の算出」と「平均値によるオイル分析結果の検査」、および「最頻値による基準値の算出」と「最頻値によるオイル分析結果の検査」ついて詳細に説明する。なお、基準値は、傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52cのいずれかによって算出されるが、それらがどのように選択されて、基準値を算出するかは、図17のフローチャートで説明する。
[傾向線による基準値の算出]
図7は、時系列における鉄分の摩耗粉の量を示した図である。図7(a)には、建設機械Aのエンジンオイルの、鉄分の摩耗粉の量が示してある。図7(b)には、建設機械Bのエンジンオイルの、鉄分の摩耗粉の量が示してある。図7(a)および図7(b)のグラフの横軸はオイル分析を行った期間(年)を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。
建設機械の摺動部は、金属同士の摩擦のために摩耗が生じる。摩耗とは、部品表面部分の逐次減量である。凝着摩耗、アブレシブ摩耗、疲労摩耗、腐食摩耗といった機構により、摩耗粉が生成される。
図7に示すように、建設機械が異なれば、鉄分の摩耗粉の量に違いがあることが分かる。これは、建設機械ごとに部品の摩耗やオイルの劣化に違いがあることを示している。部品の摩耗やオイルの劣化は、例えば、顧客21が実施している事業や作業内容に応じて変わる。
なお、摩耗粉が急激に減少している部分があるのは、例えば、オイル交換が行われた直後の摩耗粉の量を分析したためである。オイル交換が行われた場合、オイル交換前のオイルとともに摩耗粉が除去されるためである。
また、図7には示していないが、同じ建設機械でも、部位が異なれば、オイル分析結果は異なる。
図8は、オイル使用時間に対する鉄分の摩耗粉の量を示した図である。図8(a)には、オイル使用時間に対する、建設機械Aのエンジンオイルの、鉄分の摩耗粉の量が示してある。図8(b)には、オイル使用時間に対する、建設機械Bのエンジンオイルの、鉄分の摩耗粉の量が示してある。図8(a)および図8(b)のグラフの横軸はオイル使用時間を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。オイル使用時間とは、オイル交換時点を0時間としたオイルの使用時間を示している。
図8に示すように、オイル使用時間に応じて、摩耗粉の発生量が異なることが分かる。例えば、図8より、摩耗粉の量は、オイル使用時間に比例して、多くなる傾向にあることが分かる。また、図8(a)および図8(b)に示すように、建設機械が異なれば、オイル使用時間に対する摩耗粉の量に違いがあることが分かる。例えば、建設機械Aのオイル使用時間に対する摩耗粉の量は、建設機械Bより多い傾向にあることが分かる。
オイル使用時間に対する摩耗粉の量の関係は、傾向線算出部52aによって算出される。例えば、傾向線算出部52aは、分析結果DB31に記憶されている、建設機械A、Bのそれぞれの過去のオイル分析結果に基づいて、図8(a)および図8(b)に示す、建設機械A、Bごとの部位ごと(ここではエンジン)の傾向線81a、81bを算出する。
データの傾向線を推定する方法には、例えば、重回帰分析がある。関係モデルの係数を推定することについては、重回帰分析を最小二乗法と言ってもよい。
傾向線、すなわち、オイル使用時間xに対する分析結果(ここではエンジンオイルの鉄分の摩耗粉の量)yの関係モデルは、例えば、次の式(1)で示される。
ここで、a,bは、モデルのパラメータであり、それぞれ係数、切片と呼ぶ。
重回帰分析におけるパラメータの推定は、次の式(1)により算出することができる。
nは、サンプル数である。また、右肩添え字の「T」は転置、「−1」は逆行列の演算を示す。変数の右肩添え字のアスタリスクは実際の値であることを示している。
傾向線に基づいて、オイルの状態の度合、例えば、鉄分の摩耗粉の混入度の度合を検査(判定)するには、サンプルの実際の値のバラツキを基準とする。バラツキは、関係モデルによる推定値と、実際のオイル分析結果との誤差のバラツキであるとし、RMSEにより定量化することができる。関係モデルによる推定値とは、オイル使用時間を式(1)に代入して算出した値である。RMSEは、次の式(6)で算出することができる。
変数の上部にある「ハット」は、変数が推定値であることを示す。
このように、傾向線算出部52aは、上記で説明した式を演算することによって、鉄分の摩耗粉の量に対する基準値(傾きおよび切片)とバラツキ(RMSE)とを算出し、基準パターンDB32に記憶する。
なお、傾向線のモデル式は、式(1)に示すように線形式としたが、高次の多項式、または、指数などの項が入る非線形式であってもよい。この場合、パラメータの推定は、最小二乗法だけでなく、非線形最適化といった計算を必要に応じて採用することができる。
[傾向線によるオイル分析結果の検査]
検査部63は、基準パターンDB32に記憶された傾きと切片とRMSEとに基づき、オイル分析結果の度合(ランク)を判定するためのランク値を算出する。例えば、検査部63は、推定値に、所定の値を乗算したRMSEを加算し、または、推定値から、所定の値を乗算したRMSEを減算して、ランク値を算出する。
図9は、ランク値による判定を説明する図である。図9のグラフの横軸はオイル使用時間を示し、縦軸は摩耗粉の推定値を示している。
摩耗粉など、オイル使用時間とともに量が増加する分析項目は、推定値82aの上側(推定値以上の値)でオイルの状態を判定することになる。摩耗粉の量が、推定値82aより小さければ、そのオイルは正常と判定できるからである。そこで、検査部63は、例えば、直線82bに示す「推定値+RMSE」と、直線82cに示す「推定値+2×RMSE」と、直線82dに示す「推定値+3×RMSE」のランク値を算出する。そして、検査部63は、摩耗粉の量が直線82bより小さければ、オイルの状態は「正常」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線82cと直線82bの間にあれば、オイルの状態は「警告」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線82dと直線82cの間にあれば、オイルの状態は「緊急」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線82dより大きければ、オイルの状態は「非常時」と判定する。
検査部63は、全オイル使用時間におけるランク値(図9に示す直線全体)を算出しなくてもよい。例えば、被検査建設機械のある分析項目の結果が、オイル使用時間「t」で摩耗粉の量が「α」であったとする。この場合、基準パターン取得部62は、基準パターンDB32を参照して、被検査建設機械の傾きと、切片と、RMSEとを取得する。検査部63は、基準パターン取得部62によって取得された傾きと切片とを式(1)に代入し、式(1)の「x」に「t」を代入する。これにより、オイル使用時間tにおける推定値が求まる。また、検査部63は、求めた推定値に、基準パターン取得部62によって取得されたRMSE、2×RMSE、3×RMSEを加算して、ランク値を算出する。そして、検査部63は、算出したランク値のどの範囲に、摩耗粉の量「α」が属するかによって、被検査建設機械のオイルの状態を判定する。
なお、動粘度など、オイルのグレード規格によって値が決まっている分析項目は、推定値の上側および下側(推定値以下の値)で判定することになる。動粘度などは、分析結果が大きすぎても小さすぎても異常となるからである。この場合、検査部63は、推定値の両側でランク値を算出することになる。
例えば、検査部63は、「推定値±RMSE」、「推定値±2×RMSE」、および「推定値±3×RMSE」を算出する。そして、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「推定値±RMSE」の範囲にある場合、「正常」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」の範囲になく、「推定値±2RMSE」の範囲にある場合、「警告」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」および「警告」の範囲になく、「推定値±3RMSE」の範囲にある場合、「緊急」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」、「警告」、および「緊急」の範囲になく、「推定値±3RMSE」の範囲を逸脱する場合、「非常時」と判定する。
なお、上記では、検査部63は、3つのランク値を算出して、4つのオイル状態を判定したが、これに限られない。また、RMSEに乗算する係数は、建設機械の管理目的に合わせて、任意の値としてもよい。
図10は、エンジンオイルに含まれる過去の摩耗粉(鉄分)の検査を行った例を示した図である。図10のグラフの横軸はオイル分析を行った期間(年)を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。また、図10に示す菱形のプロットは、ある被検査建設機械のオイル分析結果(鉄分による摩耗粉の量)を示している。ここで、被検査建設機械の傾き、切片、およびRMSEは、予め傾向線算出部52aによって算出され、基準パターンDB32に記憶されているとする。
被検査分析結果取得部61は、被検査対象建設機械の過去のオイル分析結果が記憶されている分析結果DB31を参照して、被検査建設機械の検査対象となる、過去のオイル分析結果を取得する。すなわち、被検査分析結果取得部61は、分析結果DB31を参照して、図10のプロットに示す摩耗粉の量と、そのオイル使用時間とを取得する。なお、オイル分析結果には、図5で説明したように、オイル使用時間が含まれている。
基準パターン取得部62は、基準パターンDB32に予め記憶されている、被検査建設機械の鉄分による摩耗粉の量の傾きと切片とRMSEとを取得する。検査部63は、基準パターン取得部62が取得した傾きと切片とRMSEとに基づいて、被検査分析結果取得部61が取得した、被検査建設機械の摩耗粉の量(プロット)をランク付けする。
例えば、検査部63は、基準パターン取得部62が取得した傾きと切片とにより、傾向線を求める。検査部63は、求めた傾向線に、被検査分析結果取得部61が取得した、各摩耗粉の量におけるオイル使用時間を代入して、推定値83aを求める。そして、検査部63は、求めた推定値83aと、基準パターン取得部62が取得したRMSEとに基づいて、ランク値83b〜83dを算出する。ランク値83b〜83dのそれぞれは、「推定値+RMSE」、「推定値+2RMSE」、および「推定値+3RMSE」によって算出することができる。
図10の例では、プロット83e〜83gに示すように、2003年から2011年の間に、3回の非常時が発生していたことが分かる。このように、過去のオイル状態を検査することもできる。
[平均値による基準値の算出]
傾向線による基準値は、オイル分析結果に異常値が入ると、適切に算出することができない場合がある。
図11は、エンジンオイルのオイル使用時間に対する鉄分の摩耗粉の量を示した図である。図11のグラフの横軸はオイル使用時間を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。
図11の例では、250時間付近にオイル分析結果が集中している。また、オイル分析結果は、800時間程度まで存在するが、鉄分の摩耗粉の量は、10ppm程度となっている。そして、オイル使用時間100時間付近で、60ppmを超える摩耗粉84aが存在している。このオイル分析結果を重回帰分析すると、傾向線は、傾向線84bのようになる。
すなわち、オイル分析結果に、摩耗粉84aに示すような異常値が混入すると、オイル使用時間に対して傾向線の傾きが負となり、摩耗粉の発生が、傾向線で適切に表現されなくなる。
また、オイル分析結果の分析項目の中には、オイルの使用時間に対する変動に傾向が無いものがある。例えば、塵埃、水分、燃料分といった混入は、機械の使用状況やフィルタといった部品の破損で発生することが想定され、建設機械を動かすことで発生する摩耗粉のような傾向が見られない可能性が大きい。また、オイルには、清浄分散性や耐摩耗性を向上するために、カルシウムやリン、亜鉛の化合物を添加剤として加えている。オイル使用により化合物は消耗するが、カルシウムやリン、亜鉛といった物質がオイル中から除去されるわけではないので、傾向は無い。また、通常は検出されない元素が、突発的に検出される場合にも傾向は無い。また、単純にデータ自体を観察して傾向が無い場合、やはり重回帰分析をしても傾向(傾き)を定量化できない。
このように、傾向線を求めることができず、または傾向線で適切な検査ができない場合、平均値算出部52bは、過去の建設機械ごとの部位ごとのオイル分析結果に基づいて、オイル分析結果の平均値を基準値として算出し、標準偏差をバラツキとして算出する。
例えば、図11では、鉄分の摩耗粉の量の平均値は、11.32ppmである。また、標準偏差は、7.72ppmである。
平均値算出部52bは、算出した平均値と標準偏差とを基準パターンDB32に記憶する。
[平均値によるオイル分析結果の検査]
検査部63は、基準パターンDB32に記憶された平均値と標準偏差(SD:Standard Deviation)とに基づき、オイル分析結果の度合(ランク)を判定するためのランク値を算出する。例えば、検査部63は、平均値に、所定の値を乗算した標準偏差を加算し、または、平均値から、所定の値を乗算した標準偏差を減算して、ランク値を算出する。
図12は、ランク値による判定を説明する図である。図12のグラフの縦軸は摩耗粉の平均値を示している。
摩耗粉など、オイル使用時間とともに量が増加する分析項目は、平均値85aの上側(平均値以上の値)で分析項目のオイル状態を判定することになる。摩耗粉の量が、平均値85aより小さければ、そのオイルは正常と判定できるからである。そこで、検査部63は、例えば、直線85bに示す「推定値+SD」と、直線82cに示す「平均値+2×SD」と、直線82dに示す「平均値+3×SD」のランク値を算出する。そして、検査部63は、摩耗粉の量が直線85bより小さければ、オイルの状態は「正常」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線85cと直線85bの間にあれば、オイルの状態は「警告」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線85dと直線85cの間にあれば、オイルの状態は「緊急」と判定する。検査部63は、摩耗粉の量が直線85dより大きければ、オイルの状態は「非常時」と判定する。
なお、動粘度など、オイルのグレード規格によって値が決まっている分析項目は、推定値の上側および下側(推定値以下の値)で判定することになる。動粘度などは、分析結果が大きすぎても小さすぎても異常となるからである。この場合、検査部63は、平均値の両側でランク値を算出することになる。
例えば、検査部63は、「平均値±SD」、「平均値±2×SD」、および「平均値±3×SD」を算出する。そして、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「平均値±SD」の範囲にある場合、「正常」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」の範囲になく、「平均値±2SD」の範囲にある場合、「警告」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」および「警告」の範囲になく、「平均値±3SD」の範囲にある場合、「緊急」と判定する。また、検査部63は、例えば、被検査建設機械の動粘度の分析結果が、「正常」、「警告」、および「緊急」の範囲になく、「平均値±3SD」の範囲を逸脱する場合、「非常時」と判定する。
なお、上記では、検査部63は、3つのランク値を算出して、4つのオイル状態を判定したが、これに限られない。また、SDに乗算する係数は、建設機械の管理目的に合わせて、任意の値としてもよい。
[最頻値による基準値の算出]
平均値による基準値の算出の場合と同様に、傾向線を求めることができず、または適切なオイルの検査ができない場合、最頻値算出部52cは、過去の建設機械ごとの部位ごとのオイル分析結果に基づいて、オイル分析結果の最頻値を基準値として算出し、標準偏差をバラツキとして算出することもできる。
図13は、図11のヒストグラムを示した図である。図11に示した鉄分の摩耗粉の量の最頻値は、図13に示す矢印86より9ppmである。すなわち、9ppmという摩耗粉の量が、通常的な摩耗粉の発生状態であると判定できる。
最頻値と標準偏差は、最頻値算出部52cによって算出される。最頻値算出部52cは、過去の建設機械ごとの部位ごとのオイル分析結果(図11の例の場合、鉄分の摩耗粉の量)に基づいて、オイル分析結果の最頻値と標準偏差とを算出する。そして、最頻値算出部52cは、算出した最頻値と標準偏差とを基準パターンDB32に記憶する。
[最頻値によるオイル分析結果の検査]
最頻値によるオイル分析結果の検査は、上記で説明した平均値によるオイル分析結果の検査と同様となる。すなわち、検査部63は、基準パターンDB32に記憶された最頻値と標準偏差とに基づき、オイル分析結果の度合(ランク)を判定するためのランク値を算出する。例えば、検査部63は、最頻値に、所定の値を乗算した標準偏差を加算し、または、平均値から、所定の値を乗算した標準偏差を減算して、ランク値を算出する。
図14は、エンジンオイルに含まれる過去の摩耗粉(鉄分)の検査を行った例を示した図である。図14のグラフの横軸はオイル分析を行った期間(年)を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。また、図14に示す菱形のプロットは、ある被検査建設機械のオイル分析結果(鉄分による摩耗粉の量)を示している。ここで、被検査建設機械の最頻値と標準偏差は、予め最頻値算出部52cによって算出され、基準パターンDB32に記憶されているとする。
被検査分析結果取得部61は、被検査対象建設機械の過去のオイル分析結果が記憶されている分析結果DB31を参照して、被検査建設機械の検査対象となるオイル分析結果を取得する。すなわち、被検査分析結果取得部61は、分析結果DB31を参照して図14のプロットに示す摩耗粉の量を取得する。
基準パターン取得部62は、基準パターンDB32に予め記憶されている、被検査建設機械の鉄分による摩耗粉の量の最頻値と標準偏差とを取得する。検査部63は、基準パターン取得部62が取得した最頻値と標準偏差とに基づいて、被検査分析結果取得部61が取得した、被検査建設機械の摩耗粉の量(プロット)をランク付けする。
例えば、検査部63は、基準パターン取得部62が取得した最頻値87aと、標準偏差とに基づいて、ランク値87b〜87dを算出する。ランク値87b〜87dのそれぞれは、「推定値+SD」、「推定値+2SD」、および「推定値+3SD」によって算出することができる。
図14の例では、プロット87e、87fに示すように、2004年から2012年の間に、2回の非常時が発生していたことが分かる。このように、過去のオイル状態を検査することもできる。平均値においても、上記と同様に過去の摩耗粉の量の検査を行うことができる。
以上が、「傾向線による基準値の算出」と「傾向線によるオイル分析結果の検査」、「平均値による基準値の算出」と「平均値によるオイル分析結果の検査」、および「最頻値による基準値の算出」と「最頻値によるオイル分析結果の検査」ついての説明である。
上記では、エンジンオイルの1つの分析項目(鉄分の摩耗粉の量)に着目して説明したが、算出部52(傾向線算出部52a、平均値算出部52b、および最頻値算出部52c)は、エンジンオイルの他の分析項目についても基準値とバラツキとを算出して、基準パターンDB32に記憶する。例えば、図6の「項目」の欄に示すように、各分析項目に対して、算出部52は、基準値とバラツキとを算出する。すなわち、算出部52は、検査対象のオイル分析結果の基準パターンと基準パターンに対するバラツキとを算出する。そして、検査部63は、算出部52によって算出された基準パターンと基準パターンに対するバラツキとに基づいて、オイル分析結果の各分析項目に対して、オイルの状態を検査する。
図15は、建設機械のエンジンのエンジンオイル分析結果に対する基準パターンの例を示した図である。図15のグラフの横軸は分析項目を示し、縦軸は検査値を示している。検査値の単位系は分析項目で決まり、例えば、摩耗粉ならばppm、動粘度ならばmm2/sである。
図15に示す分析項目88は、横軸に示す各番号に対する分析項目を示している。菱形のプロットは、平均値または最頻値による基準値を示している。基準値が平均値または最頻値の場合、菱形のプロットは、図15に示すように1つとなるが、基準値が傾向線の場合、傾きと切片の2つとなる。白い四角のプロットは、基準値に対するオイル分析結果のバラツキを示している。このように、算出部52は、基準パターンと基準パターンに対するバラツキとを算出する。
なお、算出部52は、建設機械ごとの部位ごとにおいて、図15に示すような基準パターンと基準パターンに対するバラツキとを算出する。
また、基準パターンの各基準値は、傾向線、平均値、または最頻値のいずれかで算出してよい。例えば、鉄分の摩耗粉の基準値は、傾向線で算出し、カルシウムといった添加剤の基準値は、平均値で算出してもよい。
次に、オイル分析結果の検査結果に基づく建設機械の診断について説明する。診断処理部70は、オイル分析結果が検査されると、検査結果に応じた建設機械の診断を行う。診断処理部70の診断部72は、IF−THENルールによる推論システム、すなわちエキスパートシステムによって診断を行う。
IF−THENルールとは、IF部を条件部、THEN部を結果部として、IF部の全条件が満たされる場合に、THEN部の結果を採択するとしたルールである。IF部の条件が満たされるかを判定することを、「診断ルールを適用する」と呼ぶ。IF部の条件が満たされること、または、結果が採択されることを「発火」と呼ぶ。IF−THENルールを式(7)に示す。
式(7)に示すAiが条件であり、Bが結果である。式(7)は、m個の条件の真(true)となる条件と、n−m−1個の偽(false)となる条件が満たされる場合に、BもしくはBの否定を結果とすることを表現している。
図16は、診断ルールDB33のデータ構成例を示した図である。図16に示すように、診断ルールDB33は、ナンバー(No.)と、否定指示と、項目と、方向と、状態と、状態範囲と、引数項目と、結果と、付加情報との欄を有している。図16に示す否定指示と、項目と、方向と、状態と、状態範囲と、引数項目とが、例えば、式(7)に示した条件Aiであり、図16に示す結果と付加情報とが、例えば、式(7)に示す結果Bである。
診断ルールDB33には、建設機械の種類の型ごとかつ部位ごとの診断ルールが記憶される。例えば、ショベルでも様々な型のショベルが存在し、トラックでも様々な型のトラックが存在する。診断ルールDB33には、その型ごとの部位ごとの診断ルールが記憶される。
「No.」の欄には、診断ルールを識別する番号が記憶される。否定指示は、論理の否定指示が記憶される。項目の欄には、オイル分析結果の分析項目または診断結果が記憶される。方向の欄には、項目の欄の分析項目の値が、基準値より上側であるかまたは下側であるかの情報が記憶される。状態の欄には、オイル分析結果の検査結果が記憶される。状態範囲の欄には、状態の欄に記憶されている検査結果の範囲が記憶される。引数項目の欄には、引数項目が記憶される。結果の欄には、建設機械の診断結果が記憶される。付加情報の欄には、結果に対する付加情報が記憶される。
ここで、図16に示すNo.「1」の診断ルールは、40℃動粘度(VISCOSITY40)の検査結果が、基準値より下側(lower)にあり、状態が警告(Alert)以上(NOT_LESS)ならば、診断結果は「動粘度40℃低下」となることを示している。従って、例えば、あるオイル分析結果の40℃動粘度の検査結果が、基準値の下側において、「緊急」であったとすると、図16に示すNo.「1」の診断ルールが「発火」し、診断結果として、「動粘度40℃低下」が得られる。
また、図16に示すNo.「8」からNo.「12」は、各元素に対する異常摩耗を結果とする診断ルールである。No.「8」からNo.「12」の付加情報の欄には、診断結果「異常摩耗」の原因元素を特定するために、異常摩耗の原因である元素名が記憶されている。ここで、あるオイル分析結果の鉄分(IRON)の摩耗粉の量が、基準値の上側において、「緊急」であったとする。この場合、図16に示すNo.「8」の診断ルールが「発火」し、診断結果として、「摩耗異常」が得られる。また、付加情報として「IRON」が得られる。
また、図16のNo.「16」とNo.「17」は、診断結果を条件とした診断ルールである。例えば、No.「16」の診断ルールは、診断結果が「異常摩耗」であって、状態が警告(Alert)以上(NOT_LESS)であり、引数項目が鉄(IRON)であることを意味し、また、診断結果が「異常摩耗」であって、状態が警告(Alert)以上(NOT_LESS)であり、引数項目が鉛(LEAD)であることを意味し、さらに、診断結果が「異常摩耗」であって、状態が警告(Alert)以上(NOT_LESS)であり、引数項目が銅(COPPER)である場合、診断結果が「メタル異常摩耗」となることを意味する。メタルとは、ピストン、コンロッド、クランクシャフトとつながる部分に取り付けられて、回転の滑りを良くすると供に、クランクシャフトの損傷を防止するための部品である。
図16の診断ルールDB33を用いた、具体的な診断方法の例について説明する。検査結果取得部71は、検査部63が出力した検査結果を取得する。検査結果取得部71が取得した検査結果は、以下の通りであったとする。なお、検査結果は、エンジンオイルの検査結果とする。
項目 方向 状態 引数項目
IRON upper Urgent
LEAD upper Critical
COPPER upper Urgent
SILICON upper Alert
診断部72は、上記の検査結果に基づいて診断ルールDB33を参照し、1回目の診断を行う。図16の例より、診断ルールNo.「8」、「9」、「10」、「15」が発火する。よって、1回目の診断結果は、次のようになる。
項目 方向 状態 引数項目
IRON upper Urgent
LEAD upper Critical
COPPER upper Urgent
SILICON upper Alert
異常摩耗 Urgent IRON
異常摩耗 Critical LEAD
異常摩耗 Urgent COPPER
塵埃混入 Alert
診断部72は、上記の診断結果に基づいて診断ルールDB33を参照し、2回目の診断を行う。図16の例より、診断ルールNo.「16」が発火する。診断ルールNo.「8」、「9」、「10」、「15」は、1回目ですでに発火しているため無視される。よって、2回目の診断結果は、次のようになる。
項目 方向 状態 引数項目
IRON upper Urgent
LEAD upper Critical
COPPER upper Urgent
SILICON upper Alert
異常摩耗 Urgent IRON
異常摩耗 Critical LEAD
異常摩耗 Urgent COPPER
塵埃混入 Alert
メタル異常摩耗 Critical
診断部72は、上記の診断結果に基づいて診断ルールDB33を参照し、3回目の診断を行う。新たに発火する診断ルールがないため、診断部72は、ここで診断処理を終了する。
上記診断により、エンジンオイルには、塵埃、砂が混入しており、メタルの摩耗が進んでいることが分かる。この診断結果により、建設機械メーカ23が実施できるメンテナンスサービスは、例えば、オイル交換と、エンジンの清浄化と、塵埃、砂の混入経路点検と、エンジン内部の部品の確認と、メタルの交換と、などである。建設機械メーカ23は、診断結果を顧客21に報告するだけでも診断としてのサービスが成立する。この場合、顧客21の側でメンテナンスを実施することとなる。
なお、診断部72は、被検査建設機械のオイル分析結果に含まれている少なくとも1項目の分析結果に対する検査結果に基づいて、被検査建設機械の状態を診断してもよい。
次に、建設機械検査装置11の基準パターン算出処理、オイル分析結果の検査処理、および建設機械の診断処理について、フローチャートを用いて説明する。
図17は、基準パターン算出処理例を示したフローチャートである。図17のフローチャートは、例えば、周期的または建設機械メーカ23のユーザからの指示を受けたときに実行される。または、図17のフローチャートは、検査対象となるオイル分析結果を分析装置12から受信したときに実行される。なお、通信部40は、分析装置12から、様々な建設機械のオイル分析結果を受信し、分析結果DB31に記憶しているものとする。
まず、分析結果取得部51は、分析結果DB31を参照し、建設機械ごとの部位ごとにおける過去のオイル分析結果を取得する(ステップS21)。
次に、分析結果取得部51は、ステップS21で取得された過去のオイル分析結果(サンプル)の数が所定数以上であるか判定する(ステップS22)。分析結果取得部51は、サンプル数が所定数以上の場合、ステップS23a、23bの処理へ移行する。分析結果取得部51は、サンプル数が所定数以上でない場合、ステップS32の処理へ移行する。
前記の所定数は、例えば、建設機械メーカ23のユーザによって設定される。サンプル数が少ない場合は、例えば、建設機械が新しい、または使用期間が半年など短い場合などに生じ得る。また、オイル分析は、顧客が実施の判断をするものであるため、顧客がオイル分析をしていない場合、または分析頻度が少ない場合にも、サンプル数は少なくなる。さらに、オイル使用時間のデータが無い場合もある。これは、顧客がオイル使用時間を報告しなかった、ということが原因である。オイル使用時間の欠損もサンプル数が少なくなる原因となる。サンプル数を判定する理由は、ステップS32で説明する。なお、傾向線を得るには、サンプルは少なくとも2つ必要である。また、RMSEを得るには、サンプルは少なくとも3つ必要である。
次に、算出部52は、ステップS21で取得された過去のオイル分析結果の全ての分析項目について、ステップS24からステップS31までの処理を行う(ステップS23a、S23b)。
次に、算出部52は、ステップS21で取得された過去のオイル分析結果に対し、異常値を除去するか否かの判定をする(ステップS24)。異常値を除去するか否かの設定は、建設機械メーカ23のユーザによって行われる。算出部52は、異常値除去を行う場合、ステップS25の処理へ移行する。算出部52は、異常値除去を行わない場合、ステップS26の処理へ移行する。
次に、算出部52は、オイル分析結果に含まれる異常値を除去する(ステップS25)。例えば、算出部52は、分析項目の平均値と標準偏差とを算出し、分析項目の値が、「平均値±SD」の範囲を逸脱する場合、その分析項目の値を異常値と判定し、除去する。
このように異常値を除去するのは、基準値を適切に算出できない場合があるからである。例えば、図11で説明したように、オイル分析結果に摩耗粉84aに示すような異常値が混入すると、オイル使用時間に対して傾向線の傾きが負となり、摩耗粉の発生が、傾向線で適切に表現されなくなるからである。
次に、傾向線算出部52aは、傾向線を算出するか否か判定する(ステップS26)。傾向線を算出するか否かは、建設機械メーカ23のユーザによって、分析項目ごとに設定される。例えば、鉄分の摩耗粉の基準値は、傾向線で算出し、カルシウムといった添加剤の基準値は、傾向線では算出しない(例えば平均値または最頻値で算出する)と設定される。
このように、傾向線を算出するか否かを設定するのは、分析項目によっては、適切な傾向線を算出できない場合があるからである。例えば、[平均値による基準値の算出]で説明したように、オイルの使用時間に対する変動に傾向が無いものは、傾向線を適切に算出できないからである。
次に、傾向線算出部52aは、傾向線算出のためのサンプル数をチェックする(ステップS27)。傾向線算出部52aは、サンプル数が所定数以上である場合、ステップS28の処理へ移行する。傾向線算出部52aは、サンプル数が所定数以上でない場合、ステップS31の処理へ移行する。
このようにサンプル数をチェックするのは、バラツキのあるデータから信憑性のある確からしい傾向線を得るのに、例えば、サンプル数10件といった、ある程度の数のサンプルが必要となるからである。所定数は、建設機械メーカ23のユーザにより設定される。
次に、傾向線算出部52aは、ステップS21で取得された過去のオイル分析結果に基づいて、傾向線のパラメータ(傾きと切片)を算出する(ステップS28)。
次に、傾向線算出部52aは、算出した傾向線に対するオイル分析結果のRMSEを算出する(ステップS29)。
次に、傾向線算出部52aは、算出した傾向線のパラメータが適切か否か判定する(ステップS30)。例えば、傾向線算出部52aは、傾向線の傾きが「正」であり、所定の範囲値にある場合、適切であると判定する。傾向線算出部52aは、算出した傾向線のパラメータが適切であると判定した場合、ステップS23a、S23bの処理へ移行する。傾向線算出部52aは、算出した傾向線のパラメータが適切でないと判定した場合、ステップS31の処理へ移行する。
このように傾向線のパラメータを判定するのは、例えば、オイル使用時間に対する摩耗粉の量は、オイル使用時間に比例して増加するものであり、傾向線の傾きが負になることがないからである。また、オイル使用時間に対し、摩耗粉の量が急激に増加したり、ほとんど増加しなかったりすることが考えにくいからである。パラメータの範囲は、建設機械メーカ23のユーザによって設定される。
次に、ステップS26にて、傾向線を算出しないと判定された場合、ステップS27にて、サンプル数が所定数以上でないと判定された場合、または、ステップS30にて、傾向線のパラメータが不適切であると判定された場合、平均値算出部52bまたは最頻値算出部52cは、平均値または最頻値を算出し、標準偏差を算出する(ステップS31)。なお、平均値を基準値とするか、最頻値を基準値とするかは、例えば、両方を算出して基準パターンDB32に記憶し、オイル分析結果を検査するときにどちらを使用するかをユーザが指定する。または、平均値を算出するか、最頻値を算出するかは、例えば、建設機械メーカ23のユーザによって、予め分析項目ごとに設定するようにしてもよい。
次に、ステップS22にて、サンプル数が所定数以上でないと判定された場合、算出部52は、基準パターンDB32を参照して、被検査建設機械と同じ型の同じ部位の建設機械の基準パターンを取得する(ステップS32)。
このように、ステップS22にて、サンプル数が所定数以上でないと判定された場合に、被検査建設機械と同じ型の同じ部位の建設機械の基準パターンを取得するのは、サンプル数が少ないと統計的信頼性がなく、適切な基準パターンを算出できないからである。また、被検査建設機械と同じ型の同じ部位の建設機械の基準パターンは、被検査建設機械の基準パターンと類似する可能性が高いからである。なお、算出部52は、建設機械の稼働時間や、地域、作業環境の類似性を判断して、他の建設機械の基準パターンを取得するようにしてもよい。
次に、算出部52は、ステップS23a〜23bにて算出した基準パターンまたはステップS32にて取得した基準パターンを基準パターンDB32に記憶する(ステップS33)。
なお、オイル分析結果は、ステップS21にて、建設機械ごとの部位ごとに取得されるので、基準パターンとバラツキは、建設機械ごとの部位ごとに算出される。また、基準パターンとバラツキは、ステップS23a、23bの分析項目ごとの処理により、分析項目ごとに算出される。すなわち、基準パターンとバラツキは、図6に示すように、建設機械ごとの部位ごとに、かつ、分析項目ごとに算出される。
また、算出部52は、どの算出方法で基準値を算出したかを示す情報を付加して、基準パターンDB32に記憶する。例えば、図6に示す「型」の欄には、算出部52が算出した基準値の算出方法が記憶される。
図18は、オイル分析結果の検査処理例を示したフローチャートである。図18に示すフローチャートは、例えば、建設機械検査装置11が分析装置12から、検査対象のオイル分析結果を受信した場合に実行される。
まず、被検査分析結果取得部61は、分析装置12から、検査対象の被検査建設機械のオイル分析結果を取得する(ステップS41)。
次に、基準パターン取得部62は、基準パターンDB32を参照して、検査対象の被検査建設機械の基準パターンとバラツキとを取得する(ステップS42)。
次に、検査処理部60は、ステップS41で取得された検査対象のオイル分析結果の全ての分析項目について、ステップS44からステップS50までの処理を行う(ステップS43a、S43b)。
次に、検査部63は、ステップS42で取得された基準パターンの基準値が、どの方法によって算出されたかを判定する(ステップS44)。検査部63は、例えば、基準パターンDB32の「型」の欄(図6を参照)を参照することによって、基準値がどの方法によって算出されたかを判定できる。検査部63は、傾向線によって基準値が算出されている場合、ステップS45の処理へ移行する。検査部63は、平均値によって基準値が算出されている場合、ステップS48の処理へ移行する。検査部63は、最頻値によって基準値が算出されている場合、ステップS49の処理へ移行する。
次に、検査部63は、ステップS44にて、基準値を傾向線によって算出したと判定した場合、ステップS41にて取得された検査対象のオイル分析結果に含まれているオイル使用時間を取得する(ステップS45)。なお、分析装置12から受信する検査対象のオイル分析結果には、例えば、図5の各欄に示す情報が含まれている。すなわち、分析装置12から受信した検査対象のオイル分析結果には、オイル使用時間が含まれている。
次に、検査部63は、ステップS42にて取得された基準パターンの基準値に基づいて、傾向線を算出し、ステップS45にて取得したオイル使用時間を代入して、そのオイル使用時間におけるオイル分析結果の推定値を算出する(ステップS46)。
次に、検査部63は、ステップS46にて算出した推定値と、ステップS42にて取得されたRMSEとに基づいてランク値を算出する(ステップS47)。
検査部63は、ステップS44にて、基準値の算出方法が平均値であると判定した場合、ステップS42にて取得した平均値と標準偏差とに基づいてランク値を算出する(ステップS48)。
検査部63は、ステップS44にて、基準値の算出方法が最頻値であると判定した場合、ステップS42にて取得した最頻値と標準偏差とに基づいてランク値を算出する(ステップS49)。
次に、検査部63は、ステップS47、ステップS48、またはステップS49のいずれかで算出したランク値により、オイル分析結果のランク判定を行う(ステップS50)。例えば、検査部63は、オイル分析結果のある分析項目が「正常」、「警告」、「緊急」、または「非常時」であるか判定する。
次に、検査部63は、ステップS43a、S43bにて判定した各分析項目の検査結果を診断処理部70へ出力する(ステップS51)。
図19は、建設機械の診断処理例を示したフローチャートである。図19に示すフローチャートは、例えば、検査部63から、オイル分析結果の検査結果が出力されたときに実行される。
まず、検査結果取得部71は、検査部63が出力した検査結果を取得する(ステップS61)。
次に、診断部72は、診断ルールDB33を参照して、診断ルールを取得する(ステップS62)。診断部72は、例えば、検査対象となっている被検査建設機械と同じ型の建設機械の診断ルールを取得する。
次に、診断部72は、ステップS61で取得された検査結果を初期(1回目)の診断結果リストとし、バックアップリストを初期化(情報を空に)する(ステップS63)。診断リスト結果およびバックアップリストは、例えば、図4に示した記憶部30で実現される。
次に、診断部72は、ステップS65からステップS69までの処理を、ループ処理する(ステップS64a、S64b)。
次に、診断部72は、全ての診断ルールについて、ステップS66の処理を行う(ステップS65a、S65b)。
次に、診断部72は、診断ルールの診断結果リストへの適用処理と、発火による診断結果の診断結果リストへの追加処理を行う(ステップS66)。すなわち、診断部72は、診断ルールDB33から取得した診断ルールを1つずつ診断結果リストの診断結果に適用する。そして、診断部72は、診断ルールが、診断結果リストの診断結果に基づいて発火すれば、その診断ルールの結果を診断結果リストに追加する。ここで、ステップS66の処理について、別のフローチャートを用いて詳細に説明する。
図20は、診断結果追加処理例を示したフローチャートである。
診断部72は、診断ルールのIF部の全ての条件について、ステップS82からステップS87の処理を行う(ステップS81a、S81b)。
次に、診断部72は、発火判定フラグを「0」に設定する(ステップS82)。
次に、診断部72は、診断結果リストの全ての結果について、ステップS84からステップS87の処理を行う(ステップS83a、83b)。
次に、診断部72は、診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件の項目と一致するか否か判定する(ステップS84)。診断部72は、診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件の項目と一致する場合、ステップS85の処理へ移行する。診断部72は、診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件の項目と一致しない場合、ステップS83bの処理へ移行する。すなわち、診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件の項目と一致しない場合、診断部72は、診断結果リストの次の結果に対する処理へ移行する。
診断部72は、ステップS84にて診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件の項目と一致すると判定した場合、診断結果リストの結果が、診断ルールの条件を満たすか否か判定する(ステップS85)。診断部72は、診断結果リストの結果が、診断ルールの条件を満たすと判定した場合、ステップS86の処理へ進む。診断部72は、診断結果リストの結果が、診断ルールの条件を満たさないと判定した場合、ステップS87の処理へ進む。
次に、診断部72は、発火判定フラグを「1」に設定する(ステップS86)。
次に、診断部72は、発火判定フラグが「0」であるか否か判定する(ステップS87)。診断部72は、発火判定フラグが「0」でないと判定した場合(発火判定フラグが「1」の場合)、ステップS81bの処理へ移行する。すなわち、診断部72は、診断結果リストの結果の項目が、診断ルールの条件を満たすと判定した場合、次のIF部の条件についての処理へ移行する。なお、IF部の全ての条件についてのループ(ステップS81a、81b)が終了する段階で、発火判定フラグが「1」であれば、診断ルールの条件は、全て満たされたことになり、以下で説明するステップS88の処理へ移行する。
一方、診断部72は、発火判定フラグが「0」であると判定した場合、ステップS88の処理へ移行する。すなわち、診断部72は、IF部の条件が1つでも満足しない場合(ステップS85の処理から、ステップS86の処理を経ることなく、ステップS87の処理へ移行した場合)、ステップS81a、S81bのループ処理を抜けるようになっている。
次に、診断部72は、発火判定フラグが「1」であるか否か判定する(ステップS88)。すなわち、診断部72は、IF部の全ての条件が満たされたか否か判定する。診断部72は、発火判定フラグが「1」であると判定した場合、ステップS89の処理へ移行する。診断部72は、発火判定フラグが「1」でないと判定した場合、当該フローチャートの処理を終了し、図19のステップS65bの処理へ移行する。
ステップS88でYesの場合、診断部72は、THEN部の結果とその状態を新たな診断結果として生成し、診断結果リストに追加する(ステップS89)。
図19のフローチャートの説明に戻る。次に、診断部72は、更新された診断結果リストの重複する結果を削除する(ステップS67)。これにより、ステップS64a、64bのループ処理による、今回の診断結果リストが生成される。
次に、診断部72は、ステップS67で生成された診断結果リストとバックアップリストとが一致するか否か判定する(ステップS68)。すなわち、診断部72は、バックアップリストに対し、今回の診断結果リストに新たな診断結果が追加されているか否か判定する。診断部72は、ステップS67で生成された診断結果リストとバックアップリストとが一致すると判定した場合、ステップS70の処理へ移行する。診断部72は、ステップS67で生成された診断結果リストとバックアップリストとが一致しないと判定した場合、ステップS69の処理へ移行する。
次に、診断部72は、診断結果リストをバックアップリストにコピーする(ステップS69)。
次に、診断部72は、ステップS68にて診断結果リストとバックアップリストとが一致すると判定した場合、診断結果リストの内容を診断結果として出力する(ステップS70)。診断結果は、例えば、顧客21の端末装置に送信される。
なお、上記で説明したフローチャートの処理単位は、建設機械検査装置11の処理を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。処理単位の分割の仕方や名称によって、本願発明が制限されることはない。建設機械検査装置11の処理は、処理内容に応じて、さらに多くの処理単位に分割することもできる。また、1つの処理単位がさらに多くの処理を含むように分割することもできる。さらに、上記のフローチャートの処理順序も、図示した例に限られるものではない。
図21は、診断結果の画面例を示した図である。図21に示すように端末装置のディスプレイには、画面90が表示される。画面90には、グラフ91が表示され、グラフ91には、基準パターン91aと検査対象となったオイル分析結果91bと表示される。また、グラフ91には、基準パターン91aに対する上側のバラツキ91cと下側のバラツキ91dとが表示される。
画面90には、分析項目92が表示される。分析項目92の番号は、グラフ91の横軸の番号に対応する。すなわち、グラフ91の横軸は、分析項目を示している。なお、グラフ91の縦軸は、検査値を示している。検査値の単位系は分析項目で決まり、例えば、摩耗粉ならばppm、動粘度ならばmm2/sである。
診断結果93は、建設機械の診断結果を示している。診断結果93には、項目と、方向と、状態と、診断内容との欄が設けられている。項目の欄には、診断結果の診断項目が表示される。方向の欄には、分析結果の値が、基準値に対し上側であるか下側であるかを示す情報が表示される。状態の欄には、診断項目の状態が表示される。診断内容の欄には、建設機械の診断内容が表示される。なお、端末装置は、画面90をプリントアウトすることができる。
次に、図4で説明した機能ブロック例を実現するハードウェアについて説明する。
図22は、建設機械検査装置11のハードウェア構成例を示した図である。図4に示した建設機械検査装置11は、例えば、図22に示すようなCPU(Central Processing Unit)100と、メモリ102と、HDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置103と、通信回線などに接続するための通信インタフェース(I/F)104と、マウス、キーボード、タッチセンサやタッチパネルなどの入力装置105と、液晶ディスプレイなどの表示装置106と、DVD(Digital Versatile Disk)などの持ち運び可能な記憶媒体に対する情報の読み書きを行うメディアI/F107と、を備えるコンピュータ100で実現できる。
図4に示した各部は、例えば、補助記憶装置103に記憶されているアプリケーションプログラムなどの所定のプログラムをメモリ102にロードしてCPU101で実行することにより実現可能である。また、図4に示した各DBは、例えば、CPU101がメモリ102または補助記憶装置103を利用することにより実現可能である。
上記の所定のプログラムは、通信I/F104を介してネットワークから、補助記憶装置103にダウンロードされ、それから、メモリ102上にロードされてCPU101により実行されるようにしてもよい。また、通信I/F104を介してネットワークから、メモリ102上に直接ロードされ、CPU101に実行されるようにしてもよい。また、コンピュータ100が、メディアI/F107にセットされた記憶媒体から、上記の所定のプログラムを、補助記憶装置103あるいはメモリ102上にロードするようにしてもよい。
図22に示したコンピュータ100の構成は、理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。構成要素の分類の仕方や名称によって、本願発明が制限されることはない。例えば、コンピュータ100の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。各構成要素の処理は、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。また、各構成要素の処理は、1つのプログラムで実現されてもよいし、複数のプログラムで実現されてもよい。
このように、建設機械検査装置11は、建設機械から取出されたオイルのオイル分析結果を記憶した分析結果DB31から、建設機械ごとの部位ごとにおける過去のオイル分析結果を取得し、建設機械ごとの部位ごとにおけるオイルの異常を検査するための基準値を算出する。また、建設機械検査装置11は、検査対象となる被検査建設機械の分析結果を取得する。そして、建設機械検査装置11は、算出した被検査建設機械の基準値と、取得した被検査建設機械のオイル分析結果とに基づいて、被検査建設機械のオイル分析結果を検査する。これにより、個別の建設機械においてより適切な検査結果を得ることができる。
また、適切なオイルの検査結果を得ることができるので、建設機械の適切な診断結果を得ることができる。また、少なくとも1項目の分析結果に対する検査結果に基づいて、建設機械の状態を診断するので、建設機械の適切な診断結果を得ることができる。
なお、上記では、建設機械検査装置11は、建設機械ごとの部位ごとに基準値(または基準パターン)を算出したが、検査または診断する建設機械の部位が固定されている場合、建設機械ごとにおいて基準値(または基準パターン)を算出するようにしてもよい。これによって、個別の建設機械においてより適切な検査結果を得ることができる。
また、オイル分析結果には、オイルの銘柄およびグレードの少なくとも一方が含まれていてもよい。そして、算出部52は、建設機械ごとの部位ごと、かつオイルの銘柄およびグレードの少なくとも一方ごとにおいて、基準値(または基準パターン)とバラツキとを算出してもよい。これによって、個別の建設機械および部位ごとにおいて、かつその建設機械が使用しているオイルの銘柄およびグレートの少なくとも一方において、より適切な検査結果を得ることができる。
また、上記では、建設機械検査装置11が、分析結果DB31、基準パターンDB32、および診断ルールDB33を有するとしたが、ネットワーク13に接続されたサーバが有していてもよい。
以下、変形例について説明する。
[変形例1]
傾向線は、モデル式(1)の切片を「0」に固定することによっても、算出することができる。例えば、摩耗粉は、オイル交換によって完全に除去されると仮定するならば、オイル交換直後の摩耗粉の量は、ゼロとすることができる。すなわち、摩耗粉の量は、オイル使用時間「0」で、0ppmとすることができる。
オイル使用時間「0」での摩耗粉の量を0ppmとした場合、モデル式(1)の切片bは、「0」であり、係数a(傾き)は、次の式(8)で算出できる。
図23は、切片をゼロとした場合の傾向線を示した図である。グラフの横軸はオイル使用時間を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。図23に示すように、モデル式(1)の切片を「0」とおいても、オイル使用時間とともに摩耗粉の量が増加する傾向線111が得られる。
このように、オイル分析結果に異常値が入っている場合でも、式(1)の切片を「0」とおいた場合、増加する傾向線が得られる場合があり、適切に基準値を算出することが可能となる。
[変形例2]
傾向線は、モデル式(1)の切片の値を「0」以外の値に固定することによっても、算出することができる。例えば、オイルを交換したとしても、残留するオイルがあるため、摩耗粉は、完全に除去されないことも考えられる。この場合、オイル使用時間「0」で、摩耗粉の量を所定の固定値に設定することができ、例えば、5ppmとすることができる。
オイル使用時間「0」での摩耗粉の残留量を「bfix」ppmとし、次の式(9)によって、ytmpを求める。
そして、式(8)のyiを、ytmpiとすれば、係数aを算出できる。なお、切片は、bfixである。
図24は、切片を固定値とした場合の傾向線を示した図である。グラフの横軸はオイル使用時間を示し、縦軸は鉄分の摩耗粉の量(ppm)を示している。図24では、オイル使用時間「0」での摩耗粉の残留量を5ppmとしたグラフを示している。図24に示すように、モデル式(1)の切片を固定値にしても、オイル使用時間とともに摩耗粉の量が増加する傾向線112が得られる。
このように、オイル分析結果に異常値が入っている場合でも、式(1)の切片を固定値とした場合、増加する傾向線が得られる場合があり、適切に基準値を算出することが可能となる。
[変形例3]
オイル分析結果の検査結果の判定は、次の式(10)によって正規化することができる。
ここで、Newは、検査対象のオイル分析結果の値を示し、BASEは、基準値を示す。σは、バラツキを示す。Judgmentは、オイル分析結果に対する検査結果を示す。
傾向線で基準値を算出している場合には、BASEはオイル使用時間を代入して求めた推定値である。すなわち、検査部63は、傾きおよび切片を算出した傾向線に、オイル使用時間を代入して推定値を算出し、検査対象となっているオイル分析結果の値から減算する。そして、検査部63は、前記算出した値をバラツキ(RMSE)で除算し、検査結果を得る。なお、検査対象のオイルのオイル使用時間が不明である場合がある。この場合、検査部63は、建設機械ごとの部位ごとにおいて標準的なオイル使用時間を予め設定しておくことで、推定値を算出してもよい。
図25は、オイル分析結果の検査結果の正規化を説明する図である。図25に示す横軸は分析項目を示し、縦軸は正規化した検査結果を示している。
図25の例では、式(10)で算出された値が1以上の場合を異常としている。また、1以上2未満を警告とし、2以上3未満を緊急、3以上を非常時としている。図25の例の場合、例えば、検査部63は、分析項目「1」を正常と判定し、分析項目「2」を緊急と判定し、分析項目「3」を非常時と判定する。
このように、検査部63は、基準値と検査対象のオイル分析結果との差分を、基準値に対するバラツキで除算して、検査結果をランク付けすることもできる。また、検査結果を正規化することにより、ランク付けが容易になる。