JP6117675B2 - 粒子線治療装置 - Google Patents
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陽子や炭素イオン等のイオンを高エネルギーで物質に入射すると、飛程の終端で多くのエネルギーを失う。粒子線治療では、この性質を利用し、がん細胞で多くのエネルギーを失うように、イオンビームを患者に照射する。すると、周囲の健康な組織への損傷を抑えつつ、がん細胞を破壊できる。粒子線治療ではイオンビームの空間的な広がりとエネルギーを調整し、患部の形状に合わせた線量分布を形成する。
線量分布の形成方法には、ビームを散乱体に当ててビーム形状を患部形状に一致させる散乱体照射法と、細く絞ったビームを電磁石で患部に沿って走査して患部に線量を付与するスキャニング照射法がある。
いずれの照射法においても、任意の方向からビームを患部へ照射可能とするために、回転ガントリーに照射装置とビームの輸送装置とを搭載することがある。
更には、治療室の設置スペースが非常に狭くなるため、患者に圧迫感を与えてしまうとの課題があった。
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、患者の患部に荷電粒子ビームを照射する粒子線治療システムであって、荷電粒子を加速し、前記荷電粒子ビームとして取り出す加速器と、前記荷電粒子ビームを照射点まで輸送するビーム輸送系とを備え、このビーム輸送系は、前記照射点がその内部に存在する建屋に対して固定された固定輸送系と、この固定輸送系の下流に接続された回転輸送系であって、前記建屋に対して回転自在に設置され、前記建屋に対して固定された前記照射点に対してその回転によって前記荷電粒子ビームを照射する角度を回転自在に定める回転輸送系とを有し、この回転輸送系は、前記荷電粒子ビームを偏向させる複数の偏向部と、この複数の偏向部間を接続し、前記荷電粒子ビームを直進させる複数の直線部とが、前記荷電粒子ビームの軌道上に設置されており、前記回転輸送系内部において、前記複数の偏向部のうち、一つの偏向部とその直前の直線部と直後の直線部とから構成される平面を、少なくとも3つ以上有し、前記少なくとも3つ以上の平面のうち、前記固定輸送系に最も近い平面に属する偏向部での前記荷電粒子ビームの総偏向角度が90度未満であることを特徴とする。
本実施形態は、加速器としてシンクロトロンを用いた粒子線治療システムであり、粒子線として炭素イオンのビームを用いる場合について説明するが、もちろんこれに限定されない。図1には本実施形態の全体構成図を示す。
イオン源200にて治療用のビームとする炭素イオンを発生させ、入射器300において核子当たり運動エネルギー7MeV/uまで予備加速される。その後にシンクロトロン400に予備加速したビームを入射し、その後治療に用いるエネルギーまで加速する。本実施形態の粒子線治療システム100では、シンクロトロン400で加速したビームの運動エネルギーは最大440MeV/uである。また、440MeV/u以下の任意の指定された運動エネルギーのビームを取り出すことができる。
実際の治療時には、患者ごとに作成された治療計画に従って、シンクロトロン400から取り出されるビームの運動エネルギーは決定される。
シンクロトロン400から取り出されるビームは、取り出し用偏向電磁石410を通過して輸送装置500に導入される。
回転輸送系520の終点は照射点540であり、治療時においては照射点540に患部が位置するように患者をベッドに固定している。この状態でビームを照射することで、治療計画によって定められた線量が患部に付与される。
輸送装置500内のビーム経路530は、真空ポンプによって真空引きされている。経路530中には、ビームを偏向させる偏向部551、ビームを直進させる直線部で収束あるいは発散させる四極電磁石(不図示)、ビームの形状を測定するプロファイルモニタ628等が設置されている。
この照射装置700は、ビームの軌道に対して垂直な平面内の直交する二方向(以下、まとめて横方向と定義する)に独立にビームが走査させる二台の走査電磁石、ビームモニタ等を備えている。
回転輸送系520は、回転ガントリー600の内部に設置されており、回転軸610を軸とした回転ガントリー600の回転とともに、照射点540へのビームの照射方向を変えられるよう回転可能に構成されている。回転輸送系520は三平面でビーム軌道を形成するビーム輸送装置である。
本実施形態の回転ガントリー600は、6つの偏向部(ビームの上流側より611〜616)と7つの直線部(ビームの上流側より621〜627)よりなる。
6つの偏向部内には、それぞれ均一磁場を励起し、ビームを偏向させる偏向電磁石がそれぞれ1台ずつ設けられている。
偏向部611、偏向部614および偏向部615でのビーム軌道の偏向条件は、偏向角60度・偏向半径2.2mである。
偏向部612および偏向部613での偏向条件は、偏向角45度・偏向半径2.2mである。
偏向部616での偏向条件は、偏向角75度・偏向半径2.7mである。
直線部621〜627の長さは、それぞれ、1.5m・3.5m・2m・1.5m・2m・2.306m・3.694mである。
直線部621〜626それぞれには、上流側(直線部621側)から1台・4台・2台・1台・2台・2台の四極電磁石が設置されており、通過するビームサイズを真空ダクト内に抑えるとともに、照射点540におけるビームサイズと分散関数を後述の方法で調整している。
直線部527は、照射装置700内を介して照射点540に接続されており、この直線部527には、スキャニング照射のためにビームを軌道に対して垂直な面内で走査するための走査電磁石が2台設置されている。
具体的には、偏向部612とその直前の直線部622とその直後の直線部623とで構成される平面と、偏向部613とその直前の直線部623とその直後の直線部624とで構成される平面とは同一平面に存在するため、これらは一つの平面(平面632)となる。
具体的には、偏向部614とその直前の直線部624とその直後の直線部625とで構成される平面、偏向部615とその直前の直線部625とその直後の直線部626とで構成される平面、偏向部616とその直前の直線部626とその直後の直線部627とで構成される平面の3つの平面は同一平面に存在するため、これらは一つの平面(平面633)となる。
また、平面632と、第四〜第六偏向部614〜616がある平面633との成す角は30度である。
回転ガントリー600の回転軸610は直線部621内のビーム軌道を含み、平面631内にある。さらに照射点540は回転軸610上にあるため、照射点540は平面631と平面633との交線上に存在する。
平面631と平面633との交線と直線部627上のビーム軌道とは直交しており、結果、回転軸610と平面633が直交する。
よって回転ガントリー600の回転角度によって照射点540への照射方向を制御できる。この配置によって、本実施形態においては第一の平面631が水平であるとき、最下流の直線部627は鉛直から15度傾いた方向となる。
本実施形態で用いるスキャニング照射法を用いた粒子線治療装置においては、腫瘍外への線量を抑制するにはビームの進行方向に対して垂直な平面内でのビームサイズを小さく抑制することが有効である。
以下ではビームの進行方向に対して垂直な平面内の直交する二方向を選び、X,Yと座標軸を定義する。偏向電磁石中ではX方向を偏向面と平行とし、Y方向を偏向面に垂直な方向とする。以上の定義に基づき、ビームサイズの調整に必要なビーム光学について述べる。
この成分が正の場合はビームを構成する各粒子は変位に比例して変位と同じ方向に力を受ける。そのため、ビーム全体としては発散の作用を受ける。一方負の場合はビームを構成する各粒子が変位とは逆向きに力を受けるので、ビーム全体としては収束の作用を受ける。
例えば、Σ行列の(1,1)成分はX方向での軌道からのずれの分散であり、(2,2)成分はビームの発散角の分散である。また、(1,2)成分は(1,1)成分の軌道に沿った微分に比例する量であり、ビームサイズの位置変化を表す。ビームサイズは(1,1)成分の二乗根をとればビームの空間的な広がりを表すビームサイズとなる。Y方向についても同様の議論が成立する。
しかし本実施形態では、偏向部611,612,614が、直前の直線部におけるX方向とY方向が互いに異なるように配置されている。従って、偏向部611,612,614の入射点において、ビーム進行方向を軸とする回転に伴う座標変換(以下、捻り作用と定義する)が必要となる。この座標変換は、次式8に示す輸送行列RROTとして表現することができる。
分散関数の輸送による変換は数式7から導くことができ、次式9に表すような変換となる。
また、数式3に示すように、イオンビームが、偏向電磁石を通過する際は、X方向の分散関数にある量が加算されるため、分散関数が0のビームが偏向電磁石に入射すると、出射点ではX方向の分散関数が0でない値となる。
逆に、直進するイオンビームの分散関数を0とするには、直前の偏向電磁石の入射点ではX方向に特定の値の分散関数を持たせることが必要となる。
イオンビームが直進する直線部において0でない分散関数がある場合は、四極電磁石の励磁量を調整することで直線部の出射点における分散関数を調整することができる。
回転輸送系520は、前述の通り全長30.672mの軌道長があり、途中の偏向部611,612,614の入射点においてそれぞれ捻り作用が施される。
捻り角はそれぞれ、15度,―90度,−30度である。
図7に示すように、分散関数とその勾配が固定輸送装置510との接続点550において0である場合、最初に偏向部611でX方向に分散関数が生じる。
偏向部611を通過したイオンビームは偏向部612に向かうが、ここで、偏向部612におけるXY座標系は、偏向部611に対して、捻り作用によって90度回転した座標系となる。この偏向部612直前の捻り作用によって、ηxとηyが交換される。すなわち、偏向部612の入射直前でηxが0となり、代わりにηyが発生する。しかし、直後の偏向部612は、捻り作用が施された後の座標系においてイオンビームをX方向に関して偏向するため、偏向部612の入射直前では0であったηxが、偏向部612を通過することによって0でない値を持つこととなる。したがって、この偏向部612の入射点から偏向部614の入射点に至る、平面632内ではηxとηyの両方が0でない値を持つ。すなわち、このa部で示す範囲でXYカプリングが生じていることが分かる。
ここで、照射点540における分散関数を消すために、前述の分散関数の性質から最下流の平面633に入る偏向部614の入射点においてY方向の分散関数とその勾配(それぞれηyとη’y)を0としなくてはならない。偏向部614は、その下流直線部とその入射点との間である偏向部614内において捩り作用による座標変換があるため、座標変換の前後で式に示すような捻り角−30度に対応する座標変換が分散関数に施される。その際の変換は次式10に示す変換となる。
具体的には、偏向部711とその直前の直線部721とその直後の直線部722とで構成される平面と、偏向部712とその直前の直線部722とその直後の直線部723とで構成される平面とは同一平目であり、これらの平面で1つ目の平面641を構成する。
また、偏向部713とその直前の直線部723とその直後の直線部724とで構成される平面と、偏向部714とその直前の直線部724とその直後の直線部725とで構成される平面と、偏向部715とその直前の直線部725とその直後の直線部726とで構成される平面と、偏向部716とその直前の直線部726とその直後の直線部727とで構成される平面とは同一平目であり、これらの平面で2つ目の平面642を構成し、計2つの平面を有するのみである。
更に、従来型のコークスクリュー型の回転輸送系では、2つある平面のうち、最も固定輸送装置510に近い平面である最初の平面641内で90度ビームを偏向している。このため、XYカプリングが生じない輸送系となる。そのために、設計や調整が簡単であるものの、照射点541が最上流の偏向部に近接することになる。
図8は回転輸送系520を構成する最上流の平面631が水平となる場合の平面631内の機器配置と回転輸送系520のビーム軌道の射影位置542を示す図である。比較のために、従来のコークスクリュー型の回転輸送系のビーム軌道の射影位置543も図8に示す。
本実施形態で用いる偏向電磁石と同一構成の偏向半径の90度偏向電磁石を用いて従来型のコークスクリュー型の回転輸送系を構成した場合は、図8に示すように、ビーム軌道が、射影位置543のようになり、白抜きの丸で示す位置541に照射点が配置される。
このように照射点が配置される場合、輸送系上の機器との干渉から、治療室の大きさが制限されるため、照射点541の周囲に約1m四方程度の治療スペース810しか用意することができない。
200 イオン源
300 入射器
400 シンクロトロン
410 取り出し用偏向電磁石
500 ビーム輸送装置
510 固定輸送装置
520 回転輸送装置
540〜541 照射点
600 回転ガントリー
610 回転軸
611〜616 偏向部
621〜627 直線部
628 ビームプロファイルモニタ
631〜633 平面
700 照射装置
800 治療スペース
Claims (5)
- 患者の患部に荷電粒子ビームを照射する粒子線治療システムであって、
荷電粒子を加速し、前記荷電粒子ビームとして取り出す加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射点まで輸送するビーム輸送系とを備え、
このビーム輸送系は、
前記照射点がその内部に存在する建屋に対して固定された固定輸送系と、
この固定輸送系の下流に接続された回転輸送系であって、前記建屋に対して回転自在に設置され、前記建屋に対して固定された前記照射点に対してその回転によって前記荷電粒子ビームを照射する角度を回転自在に定める回転輸送系とを有し、
この回転輸送系は、前記荷電粒子ビームを偏向させる複数の偏向部と、この複数の偏向部間を接続し、前記荷電粒子ビームを直進させる複数の直線部とが、前記荷電粒子ビームの軌道上に設置されており、
前記回転輸送系内部において、前記複数の偏向部のうち、一つの偏向部とその直前の直線部と直後の直線部とから構成される平面を、少なくとも3つ以上有し、
前記少なくとも3つ以上の平面のうち、前記固定輸送系に最も近い平面に属する偏向部での前記荷電粒子ビームの総偏向角度が90度未満である
ことを特徴とする粒子線治療システム。 - 請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記少なくとも3つ以上の平面のうち、前記照射点に最も近い平面に属する直線部のうち、最も前記固定輸送系に近い直線部にビームプロファイル測定部を備えた
ことを特徴とする粒子線治療システム。 - 請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記少なくとも3つ以上の平面の各々の交差箇所において、前記荷電粒子ビームの進行方向を軸とする回転作用である捻りを生じさせる
ことを特徴とする粒子線治療システム。 - 請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記少なくとも3つ以上の平面のうち、前記照射点に最も近い平面と前記固定輸送系に最も近い平面を除く平面内において、XYカップリングを生じさせる
ことを特徴とする粒子線治療システム。 - 請求項1に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記少なくとも3つ以上の平面のうち、前記照射点に最も近い平面と前記固定輸送系に最も近い平面を除く平面内において、前記荷電粒子ビームにおける分散関数ηx,ηyの何れもが0でない値をとる箇所を有する
ことを特徴とする粒子線治療システム。
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