<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る音響特性評価装置100のブロック図である。音響特性評価装置100は、任意の音響空間の音響特性を評価する装置であり、図1に示すように、演算処理装置10と記憶装置12と表示装置14と入力装置15と収音装置16とを具備するコンピュータシステムで実現される。具体的には、携帯電話機やスマートフォン等の可搬型の情報処理装置で音響特性評価装置100を実現することが可能である。
記憶装置12は、演算処理装置10が実行するプログラムPGMや演算処理装置10が使用する各種のデータを記憶する。半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体や複数種の記録媒体の組合せが記憶装置12として任意に採用され得る。
表示装置14(例えば液晶表示パネル)は、演算処理装置10による制御のもとで各種の画像を表示する。例えば音響空間内の音響特性の評価結果が表示装置14に表示される。入力装置15は、音響特性評価装置100に対する指示を利用者が入力するための機器であり、例えば利用者が操作する複数の操作子を含んで構成される。なお、表示装置14と一体に構成されたタッチパネルを入力装置15として採用することも可能である。
収音装置16は、音響空間内の周囲の音響を収音することで観測信号Yを生成するマイクロホンである。なお、収音装置16は典型的には音響特性評価装置100に内蔵されるが、音響特性評価装置100とは別体に構成された収音装置16を音響特性評価装置100に接続した構成も採用され得る。なお、収音装置16が生成した観測信号Yをアナログからデジタルに変換するA/D変換器の図示は便宜的に省略した。
音響特性評価装置100には放音装置17(スピーカ)が接続される。音響空間内の音響特性を測定するための音響信号(以下「測定用信号」という)Xが音響特性評価装置100から放音装置17に供給される。放音装置17は、音響特性評価装置100から供給される測定用信号Xに応じた音響(以下「測定音」という)を音響空間内に放射する。なお、測定用信号Xをデジタルからアナログに変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略した。
演算処理装置10は、記憶装置12に記憶されたプログラムPGMを実行することで、音響空間の音響特性を評価するための複数の機能(音響再生部20,信号取得部22,応答取得部24,解析処理部26,表示制御部28)を実現する。なお、演算処理装置10の機能を複数の装置に分散した構成や、演算処理装置10の機能の一部を専用の電子回路(DSP)が実現する構成も採用され得る。
音響再生部20は、測定用信号Xを生成して放音装置17に供給することで所定時間にわたり放音装置17から音響空間内に測定音を放射させる。測定用信号Xは、音響空間のインパルス応答の測定に好適な音響信号である。具体的には、周波数が時間的に連続に変化する時間伸長信号(TSP:Time Stretched Pulse)や信号強度が広帯域にわたり分布するピンクノイズ等の雑音信号が測定用信号Xとして好適に利用される。
信号取得部22は、音響再生部20による測定用信号Xの供給(測定音の放射)に同期して収音装置16から観測信号Yを取得する。具体的には、信号取得部22は、放音装置17に対する測定用信号Xの供給が停止する時点から所定の時間(音響空間の音響特性の解析に充分な時間長)にわたる観測信号Yを取得する。放音装置17から放射された測定音は音響空間の壁面での反射や散乱を経て収音装置16に到来する。したがって、信号取得部22が取得する観測信号Yには音響空間の音響特性(残響音)が反映される。
応答取得部24は、信号取得部22が取得した観測信号Yから音響空間のインパルス応答Rを特定する。応答取得部24によるインパルス応答Rの特定には、測定音の測定用信号Xの種類に応じた公知の演算処理が利用される。
解析処理部26は、応答取得部24が取得したインパルス応答Rを利用して音響空間の音響特性を解析する。第1実施形態の解析処理部26は、第1特性解析部261と第2特性解析部262と第3特性解析部263とを含んで構成される。第1特性解析部261は、音響空間のライブネス(残響感)を評価する。第2特性解析部262は、音響空間内のフラッターエコーを評価する。フラッターエコーは、音響空間の内壁面間で音響が反射を繰返すことで反響音が周期的に音響空間内の受聴者に知覚される現象である。第3特性解析部263は、音響空間内のブーミングを評価する。ブーミングは、音響空間内の定在波(共鳴)により音響の特定の帯域成分(典型的には低音域)が強調されて聴感的に不自然な音響と知覚される現象である。表示制御部28は、解析処理部26による解析の結果を表示装置14に表示させる。
利用者は、入力装置15を適宜に操作することで、ライブネスとフラッターエコーとブーミングとの何れかを評価対象として任意に選択することが可能である。音響特性評価装置100は、利用者が選択した評価対象に応じた処理を実行する。音響特性評価装置100の具体的な動作を評価対象毎に以下に詳述する。
<ライブネス評価>
図2は、音響空間のライブネスを評価する手順のフローチャートである。入力装置15に対する利用者からの指示(ライブネス評価の開始指示)を契機として図2の動作が開始される。放音装置17は、音響空間内の所定の位置(例えば隅部)に配置される。
図2の処理が開始すると、音響特性の測定に使用される測定音の音量を調整する音量調整処理が実行される(SA1)。具体的には、音響再生部20は、測定用信号Xの供給により放音装置17から測定音を放射させ、測定音の放射中に信号取得部22が収音装置16から取得する観測信号Yの信号強度が所定範囲内の数値となるように測定用信号Xの信号強度(測定音の音量)を調整する。なお、入力装置15の操作により利用者が手動で測定音の音量を調整することも可能である。
音量調整処理が完了すると、音響空間内のN個(Nは2以上の自然数)の受音点の各々にてインパルス応答R[n](R[1]〜R[N])の測定が順次に実行される(SA2)。音響空間内で放音装置17に対する位置関係が相違する各地点が受音点として好適に選定される。
具体的には、利用者は、音響空間内の各受音点に音響特性評価装置100(収音装置16)を移動させ、各受音点にて入力装置15に測定音の測定の指示を付与する。第n番目(n=1〜N)の受音点で測定音の測定が指示されると、音響再生部20は、音量調整処理で設定された信号強度の測定用信号Xを供給することで所定時間にわたり放音装置17から音響空間に測定音を放射させ、信号取得部22は、測定用信号Xの供給が停止する時点から所定時間にわたる観測信号Y[n]を収音装置16から取得する。応答取得部24は、信号取得部22が取得した観測信号Y[n]から音響空間のインパルス応答R[n]を算定して記憶装置12に格納する。以上の処理がN個の受音点の各々にて順次に実行されることで、相異なる受音点に対応するN個のインパルス応答R[1]〜R[N]が記憶装置12に格納される。
音響空間内のN個の受音点についてインパルス応答R[n]の測定が完了すると、利用者は、入力装置15を操作することで音響空間のサイズZを音響特性評価装置100(解析処理部26)に指示する(SA3)。例えば音響空間が直方体状である場合を想定すると、解析処理部26は、音響空間の高さと幅と奥行きとをサイズZとして利用者から受付ける。なお、各インパルス応答R[n]の測定前にサイズZの指定を受付ける構成や、記憶装置12に事前に記憶されたサイズZを取得する構成も採用され得る。
以上の手順で受音点毎のインパルス応答R[n]の測定と音響空間のサイズZの受付とが完了すると、第1特性解析部261は、音響空間のライブネスの適否の尺度となる評価指標SLを算定する(SA4)。表示制御部28は、第1特性解析部261による評価結果(評価指標SL)を表示装置14に表示させる(SA5)。
図3は、第1特性解析部261のブロック図である。図3に示すように、第1特性解析部261は、吸音特性解析部32と評価処理部34とを含んで構成される。吸音特性解析部32は、受音点毎のインパルス応答R[n]を解析することで、周波数軸上のM個(Mは2以上の自然数)の帯域(以下「評価帯域」という)の各々について平均吸音率α[m](α[1]〜α[M])を算定する。平均吸音率α[m](m=1〜M)は、第m番目の評価帯域の音響成分が音響区間の壁面で吸音(吸収または透過)される割合に相当する。各評価帯域は、所定の帯域幅に設定される。例えば、125Hzから4kHzまでの周波数帯域を1/1オクターブバンド毎に区分することで6個(M=6)の評価帯域が設定される。
図3に示すように、吸音特性解析部32は、帯域分割部322と残響時間解析部324と吸音率算定部326とを含んで構成される。帯域分割部322は、各受音点のインパルス応答R[n]に対してフィルタ(例えばバンドパスフィルタ)処理を実行することで、相異なる評価帯域に対応するM個の帯域インパルス応答RB[n,1]〜RB[n,M]をN個の受音点の各々について生成する。帯域インパルス応答RB[n,m]は、音響空間内の第n番目の受音点で測定されたインパルス応答R[n]のうち第m番目の評価帯域内の音響成分である。
残響時間解析部324は、帯域分割部322による処理後の各帯域インパルス応答RB[n,m]を解析することで、相異なる評価帯域に対応するM個の残響時間T[1]〜T[M]を算定する。残響時間T[m]は、第m番目の評価帯域の音響成分の強度が音響空間内で減衰の開始から60dBだけ低下するまでの時間長に相当する。残響時間解析部324は、第m番目の評価帯域に対応するN個の受音点の帯域インパルス応答RB[1,m]〜RB[N,m]に応じて残響時間T[m]を算定する。
残響時間T[m]の算定にはインパルス積分法(Schroeder法)が好適に利用される。具体的には、残響時間解析部324は、各帯域インパルス応答RB[n,m]のうち時間軸上の所定区間を積分範囲としたインパルス積分法で図4の残響曲線(減衰曲線)C[n,m]を算定し、第m番目の評価帯域に対応するN個の受音点の残響曲線C[1,m]〜C[N,m]に応じた残響曲線CA[m]から第m番目の評価帯域の残響時間T[m]を算定する。残響曲線CA[m]は、例えば、第m番目の評価帯域に対応するN個の残響曲線C[1,m]〜C[N,m]の平均(すなわちアンサンブル平均)である。残響時間解析部324は、以上の処理をM個の評価帯域の各々について実行することで評価帯域毎の残響時間T[m](T[1]〜T[M])を算定する。なお、以上の例示ではN個の残響曲線C[1,m]〜C[N,m]を平均した残響曲線CA[m]から残響時間T[m]を算定したが、第m番目の評価帯域に対応する各残響曲線C[n,m](C[1,m]〜C[N,m])から特定されるN個の残響時間を平均することで残響時間T[m]を算定することも可能である。
図3の吸音率算定部326は、残響時間解析部324が算定した残響時間T[1]〜T[M]と利用者が指示した音響空間のサイズZとから、相異なる評価帯域に対応するM個の平均吸音率α[1]〜α[M]を算定する。具体的には、吸音率算定部326は、以下の数式(1)(Eylingの残響式)の演算で第m番目の評価帯域の平均吸音率α[m]を算定する。
数式(1)の記号Sは、音響空間の内面積(内壁面の総面積)を意味し、記号Vは、音響空間の容積を意味する。内面積Sおよび容積Vは、図2のステップSA3で利用者が指定した音響空間のサイズZから算定される。また、記号Kは所定の室定数(例えばK=0.162)である。以上が図3における吸音特性解析部32の構成および動作である。
図3の評価処理部34は、吸音特性解析部32(吸音率算定部326)が算定した評価帯域毎の平均吸音率α[m](α[1]〜α[M])を解析することで音響空間のライブネスの評価指標SLを算定する。評価指標SLは、ライブネスの評価結果を区分した5段階(Excellent/ Good/ Fair/ Poor/ Bad)の何れかを指定する。具体的には、評価指標SLは、最低評価(Bad)に対応する数値「1」から最高評価(Excellent)に対応する数値「5」までの何れかに設定される。図3に示すように、評価処理部34は、第1評価部342と第2評価部344と指標算定部346とを含んで構成される。
第1評価部342は、吸音特性解析部32が算定したM個の平均吸音率α[1]〜α[M]に応じた第1指標値SL1を算定する。第1指標値SL1は、音響空間内における吸音の絶対量の大小(最適値からの乖離)の観点から音響空間のライブネスを評価する指標である。第1実施形態の第1指標値SL1は、評価結果を区分した各段階(Excellent/ Good/ Fair/ Poor/ Bad)に対応する1(最低評価)から5(最高評価)までの何れかの数値に設定される。
具体的には、第1評価部342は、平均吸音率α[m]を適用した演算で各評価帯域の基礎値σ[m]を算定し、相異なる評価帯域に対応するM個の基礎値σ[1]〜σ[M]に応じた第1指標値SL1を算定する。例えば、第1指標値SL1の各数値(1〜5)に対応する5個の数値範囲のうちM個の基礎値σ[1]〜σ[M]の平均値を内包する数値範囲に対応した数値(1〜5)が第1指標値SL1として算定される。
各評価帯域の基礎値σ[m]は、例えば、平均吸音率α[m]を適用した以下の数式(2)の演算で算定される。
数式(2)の記号abs[ ]は、絶対値を意味する。数式(2)の記号α0は、平均吸音率α[m]の最適値に相当する所定値であり、例えば0.25程度の数値に設定される。数式(2)の括弧内のlog10(α[m]/α0)は、平均吸音率α[m]と所定値α0との対数距離(対数値間の差分)を意味する。図5は、平均吸音率α[m]と基礎値σ[m]との関係を示すグラフである。数式(2)および図5から理解される通り、平均吸音率α[m]と所定値α0との相違(距離)が大きいほど基礎値σ[m]は大きい数値となる。各評価帯域の基礎値σ[m]が小さい(平均吸音率α[m]が所定値α0に近い)ほど第1指標値SL1が大きい数値(高評価を意味する数値)となるように、第1評価部342は第1指標値SL1を設定する。
数式(2)のように平均吸音率α[m]と所定値α0との対数距離を算定する構成では、図5から把握されるように、平均吸音率α[m]が所定値α0を下回る範囲QL内で平均吸音率α[m]が単位量だけ変化した場合の基礎値σ[m]の変化量が、平均吸音率α[m]が所定値α0を上回る範囲QH内で平均吸音率α[m]が単位量だけ変化した場合の基礎値σ[m]の変化量を上回る。すなわち、平均吸音率α[m]が低い範囲QLでは、平均吸音率α[m]が高い範囲QHと比較して、平均吸音率α[m]に連動して基礎値σ[m]が変動し易い。
残響量が多い音響空間(平均吸音率が低い空間)では残響量の変化に対する知覚感度が相対的に高く、残響量の増減に対して聴感的な違和感が発生し易いが、残響量が少ない音響空間(平均吸音率が高いデッドな空間)では残響量の変化に対する知覚感度が相対的に低く、残響量の増減に対して聴感的な違和感が発生し難いという概略的な傾向が人間の聴覚には存在する。平均吸音率α[m]と所定値α0との対数距離を算定する前述の構成では、平均吸音率α[m]が低い範囲QL内において、平均吸音率α[m]が高い範囲QHと比較して平均吸音率α[m]に対する基礎値σ[m]の変動が大きいから、以上に説明した聴覚の傾向に合致した適切な基礎値σ[m](第1指標値SL1)を算定できるという格別の効果が実現される。
図3の第2評価部344は、吸音特性解析部32が算定したM個の平均吸音率α[1]〜α[M]に応じた第2指標値SL2を算定する。第2指標値SL2は、評価帯域毎の平均吸音率α[m]の散布度(散らばりの度合)の観点から音響空間のライブネスを評価する指標である。第1実施形態の第2指標値SL2は、評価結果を区分した各段階(Excellent/ Good/ Fair/ Poor/ Bad)に対応する1(最低評価)から5(最高評価)までの何れかの数値に設定される。
具体的には、第2評価部344は、吸音特性解析部32が算定したM個の平均吸音率α[1]〜α[M]の散布度Dを算定し、第2指標値SL2の各数値(1〜5)に対応する5個の数値範囲のうち散布度Dを内包する数値範囲に対応した数値(1〜5)を第2指標値SL2として算定する。散布度Dの好例は、標準偏差や分散である。M個の平均吸音率α[1]〜α[M]の散布度Dが小さい(散らばりが少ない)ほど第2指標値SL2が大きい数値(高評価を意味する数値)となるように、第2評価部344は第2指標値SL2を設定する。
図3の指標算定部346は、第1評価部342が算定した第1指標値SL1と第2評価部344が算定した第2指標値SL2とに応じた評価指標SLを算定する。具体的には、指標算定部346は、第1指標値SL1と第2指標値SL2との平均(単純平均または加重平均)や加算値に応じて、評価指標SLを最低評価1から最高評価5までの何れかの数値に設定する。したがって、各平均吸音率α[m]が所定値α0に近く(第1指標値SL1が大きく)、または、M個の平均吸音率α[1]〜α[M]の散布度Dが小さい(第2指標値SL2が大きい)ほど、評価指標SLは、高評価を意味する大きい数値に設定される。
表示制御部28は、以上に説明した第1特性解析部261(評価処理部34)による解析結果を表示装置14に表示させる。具体的には、図6の評価画面81と図7の残響特性画面82と図8の吸音特性画面83とが、入力装置15に対する利用者からの指示に応じて選択的に表示装置14に表示される。
図6の評価画面81は、領域811と領域812と領域813とを含んで構成される。領域811には、評価処理部34が算定した評価指標SLが表示される。具体的には、5段階の評価結果(Excellent/ Good/ Fair/ Poor/ Bad)のうち第1特性解析部261(指標算定部346)が算定した評価指標SLに対応する評価結果(図6の例示では「Good」)814と、評価指標SLの数値を表現する図像(図6の例示では星の個数で評価指標SLを表現する図像)815とが領域811に配置される。また、領域812には、第1評価部342が算定した第1指標値SL1が表示され、領域813には、第2評価部344が算定した第2指標値SL2が表示される。利用者は、評価画面81を視認することで、音響空間におけるライブネス(残響感)の適否を定量的に把握することが可能である。
図7の残響特性画面82は、横軸を周波数軸として評価帯域毎の残響時間T[1]〜T[M]を示すグラフである。利用者は、残響特性画面82を視認することで、評価帯域毎の残響時間T[m]の相違や音響空間内の概略的な残響時間T[m]の長短の傾向を把握することが可能である。
図8の吸音特性画面83は、横軸を周波数軸として評価帯域毎の平均吸音率α[1]〜α[M]を示すグラフである。利用者は、吸音特性画面83を視認することで、評価帯域毎の平均吸音率α[m]の相違や音響空間内の概略的な平均吸音率α[m]の高低の傾向を把握することが可能である。以上がライブネス評価の詳細である。
以上に説明したように、第1実施形態では、音響空間のインパルス応答R[n]の解析で評価帯域毎に算定された平均吸音率α[m]に応じて評価指標SLが算定される。したがって、例えば各評価帯域の残響時間T[m]等の音響特性を測定結果として利用者に提示する構成と比較すると、音響特性に関する専門的な知識や技術的な熟練を必要とせずに、音響空間の音響特性の適否を利用者が直観的かつ簡明に把握できるという利点がある。
<フラッターエコー評価>
図9は、音響空間のフラッターエコーを評価する手順のフローチャートである。入力装置15に対する利用者からの指示(フラッターエコー評価の開始指示)を契機として図9の動作が開始される。放音装置17は、音響空間内の所定の位置に配置される。
図9の処理が開始すると、図2に例示したライブネス評価と同様に音量調整処理が実行され(SB1)、音響空間内の特定の1個の受音点にてインパルス応答Rの測定が実行される(SB2)。具体的には、音響再生部20が測定用信号Xの供給で放音装置17から測定音を放射させ、信号取得部22は、測定用信号Xの供給が停止する時点から所定時間にわたる観測信号Yを収音装置16から取得する。応答取得部24は、信号取得部22が取得した観測信号Yからインパルス応答Rを算定して記憶装置12に格納する。
以上の手順により受音点でのインパルス応答Rの測定が完了すると、第2特性解析部262は、インパルス応答Rのうち特定の周波数帯域(以下「対象帯域」という)内の成分について時間軸上の包絡線ENVを算定する(SB3)。表示制御部28は、第2特性解析部262による評価結果(包絡線ENV)を表示装置14に表示させる(SB4)。
図10は、第2特性解析部262のブロック図である。図10に示すように、第2特性解析部262は、帯域選択部42と包絡線算定部44とを含んで構成される。帯域選択部42は、インパルス応答Rのうち対象帯域内の音響成分(以下「対象インパルス応答R0」という)を選択的に抽出するバンドパスフィルタである。対象帯域は、フラッターエコーの影響が包絡線ENVに顕在化するように実験的に設定される。具体的には、2kHzを含む所定幅の帯域が対象帯域として好適である。例えば、2kHzを中心周波数とする1/1オクターブバンドの帯域(約1.4kHzから約2.8kHz)が対象帯域として設定される。
包絡線算定部44は、帯域選択部42が抽出した対象インパルス応答R0の時間軸上の包絡線ENVを算定する。包絡線ENVの算定には公知の技術が任意に採用され得るが、対象インパルス応答R0に対するヒルベルト変換で包絡線ENVを算定する方法が好適である。
表示制御部28は、第2特性解析部262(包絡線算定部44)が算定した包絡線ENVを表示装置14に表示させる。図11および図12は、包絡線ENVの表示例である。図11および図12の例示のように、横軸を時間軸として対象インパルス応答R0の包絡線ENVが表示される。音響空間にフラッターエコーが発生している場合、図11の破線部のように、対象インパルス応答R0の包絡線ENVには信号強度の瞬間的な増大が周期的に発生する。他方、音響空間にフラッターエコーが発生していない場合、図12のように、包絡線ENVの信号強度は時間の経過とともに略直線状に減少し、信号強度の周期的な増大は殆ど観察されない。したがって、利用者は、表示装置14に表示された包絡線ENVを視認することで、音響空間内におけるフラッターエコーの有無や程度を視覚的に把握することが可能である。
<ブーミング評価>
図13は、音響空間のブーミングを評価する手順のフローチャートである。入力装置15に対する利用者からの指示(ブーミング評価の開始指示)を契機として図13の動作が開始される。図14の例示のように、音響特性評価装置100の収音装置16(受音点)と放音装置17(放音点)とを音響空間内の相対向する対角の隅部に設置した状態で図13の処理が実行される。なお、音響特性評価装置100と放音装置17との位置関係を図14の例示から逆転させることも可能である。
図13の処理が開始すると、図2に例示したライブネス評価と同様に音量調整処理が実行され(SC1)、図9のステップSB2と同様に、音響空間内の1個の受音点にてインパルス応答Rの測定が実行される(SC2)。具体的には、放音装置17に対する測定用信号Xの供給を停止した時点から所定時間にわたる観測信号Yからインパルス応答Rが算定される。
以上の手順により受音点でのインパルス応答Rの測定が完了すると、第3特性解析部263は、音響空間のインパルス応答Rから残響減衰特性Gを算定する(SC3)。残響減衰特性Gは、インパルス応答Rの周波数成分毎の信号強度の時間変化(減衰)である。具体的には、第3特性解析部263は、所定の標本化周波数FS1のインパルス応答Rを標本化周波数FS2(FS2<FS1)で再標本化(ダウンサンプリング)し、再標本化後の時間波形を例えば高速フーリエ変換等の公知の周波数分析でフレーム毎に周波数領域に変換することで特定される累積位相(位相スペクトル)の時系列を残響減衰特性Gとして算定する。標本化周波数FS1は例えば48kHzであり、再標本化後の標本化周波数FS2は例えば1kHz程度である。なお、前述の通りブーミングは低音域で問題となるから、インパルス応答Rのうち低域側の帯域(例えば50Hzから500Hz)を対象として残響減衰特性Gを算定することも可能である。
以上の処理が完了すると、表示制御部28は、第3特性解析部263による評価結果(残響減衰特性G)を表示装置14に表示させる(SC4)。図15および図16は、残響減衰特性Gの表示例である。図15および図16の例示のように、時間軸(横軸)と周波数軸(縦軸)とが設置された座標平面の各地点の階調や色彩を残響減衰特性Gの信号強度に応じて設定することで残響減衰特性Gの分布が表示される。図15は、音響空間にブーミングが発生している場合の残響減衰特性Gの表示例であり、図16は、音響空間に音場制御パネル(調音パネル)を設置することでブーミングが抑制された場合の残響減衰特性Gの表示例である。音響空間内にブーミング(定在波)が発生している場合、図15に示すように、局所的な周波数成分が長時間にわたり継続し、各周波数成分の間の帯域にも時間的に増減を繰返す音響成分が観察される。すなわち、音響空間内の定在波が可視化される。他方、音響空間内にブーミングが発生していない場合、図16に示すように、局所的な周波数成分の長時間にわたる継続は殆ど観測されない。したがって、利用者は、表示装置14に表示された残響減衰特性Gを視認することで、音響空間内におけるブーミングの有無や程度を視覚的に把握することが可能である。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、第1実施形態の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
第1実施形態では、評価帯域毎の残響時間T[m]の算定にインパルス積分法を利用した。インパルス積分法では、各評価帯域の帯域インパルス応答RB[n,m]のうち積分範囲として選択される区間(以下「抽出区間」という)の時間長が残響曲線C[n,m]の適否に影響するという傾向がある。例えば、抽出区間が適切な時間長に設定された場合に図4の残響曲線(理想的な残響曲線)C[n,m]が算定されると仮定する。抽出区間の時間長が最適値と比較して長い場合、図4に破線で図示された残響曲線CL[n,m]のように末尾側の信号強度が強調されるから、帯域インパルス応答RB[n,m]に重畳された電気的または音響的な雑音成分の影響が相対的に増大し、結果的に残響時間T[m]の特定精度が低下する。他方、抽出区間の時間長が最適値と比較して短い場合、図4に破線で図示された残響曲線CS[n,m]のように末尾側の信号強度が過度に抑圧されるから、残響時間T[m]の高精度な特定が阻害される。以上の事情を考慮して、本発明の第2実施形態では、残響時間T[m]を高精度に特定できるように帯域インパルス応答RB[n,m]の抽出区間を設定する。
第2実施形態の音響特性評価装置100は、第1実施形態の残響時間解析部324を図17の残響時間解析部324Aに置換した構成である。図17に示すように、残響時間解析部324Aは、第1解析部52と残響時間暫定部54と第2解析部56と残響時間算定部58とを含んで構成される。
第1解析部52は、図18に示すように、帯域分割部322による処理後の帯域インパルス応答RB[n,m]のうち抽出区間S1に対応する残響曲線C1[n,m]を算定する。具体的には、第1解析部52は、帯域インパルス応答RB[n,m]の開始点から所定長にわたる抽出区間S1を設定し、抽出区間S1を積分範囲としたインパルス積分法で残響曲線C1[n,m]を算定する。抽出区間S1の時間長は、図4を参照して説明した積分範囲の最適値と比較して長い時間長となるように実験的または統計的に設定される。
残響時間暫定部54は、図18に示すように、第1解析部52が算定した残響曲線C1[n,m]から暫定的な残響時間(以下「暫定残響時間」という)T0[n,m]を設定する。具体的には、残響時間暫定部54は、残響曲線C1[n,m]において信号強度が所定量だけ減衰する時間長τに応じて暫定残響時間T0[n,m]を算定する。前述のように抽出区間S1は最適値と比較して長い時間長に設定されるから、残響曲線C1[n,m]のうち末尾側の信号強度は、図18に破線で図示された理想的な残響曲線(以下「目標残響曲線」という)C0から乖離する。ただし、残響曲線C1[n,m]のうち信号強度が減衰を開始する時点(以下「減衰開始点」という)t0の直後の区間(初期的な減衰の区間)は目標残響曲線C0に近似するという傾向がある。以上の傾向を考慮して、第2実施形態では、残響曲線C1[n,m]のうち減衰開始点t0の直後の区間に応じて時間長τが特定される。
具体的には、残響曲線C1[n,m]のもとで減衰開始点t0での初期値m0と比較して信号強度が所定量Δ1(例えば5dB)だけ低下する時点t1から、信号強度が初期値m0と比較して所定量Δ1を上回る所定量Δ2(例えば15dB)だけ低下する時点t2までの時間(すなわち減衰開始点t0の直後にて信号強度が所定量(Δ2−Δ1)だけ減衰する時間)が時間長τとして特定される。残響時間は、信号強度が60dBだけ減衰する時間長と定義されるから、残響時間暫定部54は、信号強度が所定量(Δ2−Δ1)だけ減衰する時間長τを{60/(Δ2−Δ1)}倍した数値を暫定残響時間T0[n,m]として算定する。
図17の第2解析部56は、図18に示すように、帯域分割部322による処理後の帯域インパルス応答RB[n,m]のうち残響時間暫定部54が設定した暫定残響時間T0[m]に応じた抽出区間S2に対応する残響曲線C2[n,m]を算定する。具体的には、第2解析部56は、帯域インパルス応答RB[n,m]の開始点から所定長にわたる抽出区間S2を設定し、抽出区間S2を積分範囲としたインパルス積分法で残響曲線C2[n,m]を算定する。
抽出区間S2の時間長は、残響時間暫定部54が設定した暫定残響時間T0[m]に応じて可変に設定される。具体的には、抽出区間S2は、暫定残響時間T0[n,m]に係数κを乗算した時間長(κT0[n,m])に設定される。係数κは、1を上回る数値に設定され、例えば好適には2に設定される。以上の説明から理解されるように、第1解析部52が設定する抽出区間S1と第2解析部56が設定する抽出区間S2とでは時間長が相違し得る。具体的には、抽出区間S2は抽出区間S1と比較して短い区間に設定される可能性が高い。
図17の残響時間算定部58は、第2解析部56が算定した残響曲線C2[n,m]から確定的な残響時間T[m]を算定する。具体的には、残響時間算定部58は、第m番目の評価帯域に対応するN個の受音点の帯域インパルス応答RB[m]の残響曲線C2[1,m]〜C2[N,m]に応じた残響曲線CA[m]から第m番目の評価帯域の残響時間T[m]を算定する。例えば、N個の残響曲線C2[1,m]〜C2[N,m]を平均した残響曲線CA[m]のもとで信号強度が60dBだけ低下する時間長(または、例えば信号強度が(60/β)dBだけ低下する時間長のβ倍)が残響時間T[m]として算定される。
残響時間算定部58は、以上の処理をM個の評価帯域の各々について実行することで評価帯域毎の残響時間T[m](T[1]〜T[M])を算定する。なお、以上の例示ではN個の残響曲線C2[1,m]〜C2[N,m]に応じた残響曲線CA[m]から残響時間T[m]を算定したが、第m番目の評価帯域に対応する各残響曲線C2[n,m](C2[1,m]〜C2[N,m])から特定されるN個の残響時間に応じた数値(例えばN個の残響時間の平均値)を残響時間T[m]として算定することも可能である。残響時間算定部58が算定した残響時間T[m]を利用した処理(平均吸音率α[m]の算定や評価結果の表示)は第1実施形態と同様である。
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、帯域インパルス応答RB[n,m]のうち抽出区間S1に対応する残響曲線C1[n,m]から暫定残響時間T0[n,m]が特定され、帯域インパルス応答RB[n,m]のうち暫定残響時間T0[n,m]に応じた時間長の抽出区間S2に対応する残響曲線C2[n,m]から残響時間T[m]が算定される。したがって、帯域インパルス応答RB[n]に設定される抽出区間の長短の影響を低減して残響時間T[m]を高精度に特定できるという利点がある。例えば、前述のように抽出区間S1を最適値と比較して充分に長い時間長に設定した場合、残響曲線C1[n,m]から特定される暫定残響時間T0[n,m]は抽出区間S1と比較して短い時間長(すなわち最適値に近い時間長)となる。したがって、第2解析部56が特定する残響曲線C2[n,m]は残響曲線C1[n,m]と比較して目標残響曲線C0に近付き、結果的に残響時間T[m]が高精度に特定される。
また、第2実施形態では、残響曲線C1[n,m]のうち減衰開始点t0の直後において信号強度が所定量(残響時間の本来的な基準となる60dBを下回る10dB)だけ減衰する時間長τに応じて暫定残響時間T0[n,m]が算定される。したがって、残響曲線C1[n,m]のうち末尾側(すなわち、残響曲線C1が目標残響曲線C0から乖離した区間)の信号強度に応じて暫定残響時間T0[n,m]を算定する構成や、信号強度が60dBだけ減衰する時間を残響曲線C1[n,m]から直接的に暫定残響時間T0[n,m]として算定する構成と比較すると、残響曲線C1[n,m]のうち目標残響曲線C0に近似する区間に応じた暫定残響時間T0[n,m]が算定される。したがって、残響時間T[m]を高精度に算定できるという効果は格別に顕著である。
<変形例>
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
(1)前述の各形態では、音響空間内の1回の測定結果を表示したが、複数回にわたる測定結果を対比的に表示することも可能である。例えば、前述の各形態で説明した音響特性の測定を複数回にわたり反復し、第1特性解析部261が算定した評価指標SL(SL1,SL2)や第2特性解析部262が算定した包絡線ENVや第3特性解析部263が算定した残響減衰特性Gを、相異なる複数の時点について表示制御部28が対比的に表示装置14に表示させる構成が好適である。複数の音響特性を対比的に表示する構成としては、各音響特性を相異なる領域に並列に表示する構成や各音響特性を重複的に表示する構成が例示され得る。以上の構成によれば、例えば音響空間の音響特性の調整(例えば音場制御パネルの設置)の前後の測定結果を対比的に表示することで音響特性の調整の効果を利用者が直観的に把握できるという利点がある。
(2)第1特性解析部261が評価指標SLを算定する方法は適宜に変更される。例えば、第1特性解析部261の第1評価部342が以下の数式(3)の演算で基礎値σ[m]を算定する構成も好適である。
数式(3)から理解される通り、距離δLおよび距離δHのうち大きい方が基礎値σ[m]として採択される。距離δLは以下の数式(4A)で算定され、距離δHは以下の数式(4B)で算定される。
図19は、平均吸音率α[m]と基礎値σ[m]との関係を示すグラフである。数式(4A)および図19から理解されるように、平均吸音率α[m]が所定値αLを下回る範囲QLでは、平均吸音率α[m]と所定値αLとの対数距離に応じて基礎値σ[m]が算定され、所定値αLから所定値αHまでの範囲QMでは基礎値σ[m]が0に設定され、平均吸音率α[m]が所定値αHを上回る範囲QHでは、平均吸音率α[m]と所定値αHとの対数距離に応じて基礎値σ[m]が算定される。所定値αLから所定値αHまでの範囲QMは、平均吸音率α[m]の好適な範囲(許容範囲)を意味する。具体的には、所定値αLおよび所定値αHは、例えば音響空間の用途等に応じて0.15〜0.35程度の数値に設定される。
以上の構成においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、平均吸音率α[m]が範囲QM内の数値である場合に基礎値σ[m]が0に設定されるから、M個の平均吸音率α[1]〜α[M]のうち範囲QM内の平均吸音率α[m]の個数が多い場合に第1指標値SL1を適切に大きい数値(高評価を意味する数値)に設定できるという利点もある。
(3)第1実施形態のライブネス評価では複数(N個)の受音点の各々にてインパルス応答R[n](R[1]〜R[N])を測定したが、1個の受音点のみについてインパルス応答Rを測定することも可能である。残響時間解析部324は、1個のインパルス応答Rを評価帯域毎に分割したM個の帯域インパルス応答RB[1]〜RB[M]の各々に対応する残響曲線C[m]から残響時間T[m](T[1]〜T[M])を算定する。
第2実施形態においても同様に、1個の受音点のみについてインパルス応答Rを測定することが可能である。残響時間解析部324Aでは、1個のインパルス応答Rを評価帯域毎に区分したM個の帯域インパルス応答RB[1]〜RB[M]の各々について、抽出区間S1に対応する残響曲線C1[m]の特定と暫定残響時間T0[m]の算定とが実行され、暫定残響時間T0[m]に応じた抽出区間S2に対応する残響曲線C2[m]から残響時間T[m]が算定される。
(4)第1実施形態では、音響空間のライブネス評価とフラッターエコー評価とブーミング評価とを実行可能な音響特性評価装置100を例示したが、以上に例示した3種類の評価のうち1種類または2種類の評価を実行する音響特性評価装置100も実現され得る。すなわち、音響特性評価装置100は、第1特性解析部261と第2特性解析部262と第3特性解析部263とのうちの少なくともひとつを具備する装置として包括される。
(5)第2実施形態では、残響時間解析部324Aが算定した残響時間T[m]をライブネス評価に利用したが、音響空間の残響時間を算定する残響時間解析装置としても第2実施形態は実現され得る。すなわち、第2実施形態の構成にとってライブネス評価は必須の要件ではない。前述の各形態で例示したライブネス評価では、各評価帯域の平均吸音率α[m]を算定するために残響時間T[m]を評価帯域毎に算定したが、残響時間の算定のみに着目すれば、評価帯域毎の処理は必須ではない。すなわち、残響時間解析装置(残響時間解析部324A)は、音響空間のインパルス応答R(帯域分割の有無は不問)の抽出区間S1に対応する残響曲線C1を特定する第1解析部52と、残響曲線C1において信号強度が所定量だけ減衰する時間に応じて暫定残響時間T0を設定する残響時間暫定部54と、インパルス応答Rのうち暫定残響時間T0に応じた時間長(例えばκT0)にわたる抽出区間S2に対応する残響曲線C2を特定する第2解析部56と、残響曲線C2から残響時間Tを算定する残響時間算定部58とを具備する装置として表現される。
(6)第2特性解析部262によるフラッターエコー評価の内容は以上の例示に限定されない。例えば、図20に示すように、前述の各形態の第2特性解析部262に残響曲線特定部46と評価処理部48とを追加した構成も採用され得る。残響曲線特定部46は、帯域選択部42による処理後の対象インパルス応答R0から残響曲線Cを特定する。残響曲線Cの特定には例えばインパルス積分法が好適に利用される。また、第2実施形態と同様に、音響空間のインパルス応答Rの抽出区間S1に対応する残響曲線C1から暫定残響時間T0を算定し、インパルス応答Rのうち暫定残響時間T0に応じた時間長の抽出区間S2から残響曲線C(C2)を算定することも可能である。なお、帯域選択部42による処理前のインパルス応答Rから残響曲線特定部46が残響曲線Cを算定する構成も採用され得る。
包絡線算定部44が算定する包絡線ENVではフラッターエコーの影響が顕在化するのに対し、インパルス応答Rの残響曲線Cではフラッターエコーの影響は減殺される。したがって、音響空間内にフラッターエコーが発生していない場合には包絡線ENVと残響曲線Cとが近似し、音響空間内のフラッターエコーが顕著であるほど包絡線ENVと残響曲線Cとの差異が増大するという傾向がある。以上の傾向を考慮して、図20の評価処理部48は、包絡線算定部44が算定した包絡線ENVと残響曲線特定部46が特定した残響曲線Cとの差異に応じて、音響空間でのフラッターエコーの発生度合の尺度となる評価指標SFを算定する。
例えば評価処理部48は、包絡線ENVと残響曲線Cとの間で時間軸上の複数の時点の各々における信号強度の差分値|ENV−C|を算定し、各時点に対応する差分値|ENV−C|から評価指標SFを算定する。例えば複数の時点にわたる差分値|ENV−C|の累算値や平均値が評価指標SFとして算定される。したがって、音響空間内のフラッターエコーが顕著である(包絡線ENVと残響曲線Cとの相違が顕著である)ほど評価指標SFは大きい数値となる。表示制御部28は、評価処理部48による評価結果(例えば評価指標SF)を表示装置14に表示させる。評価指標SFに応じた5段階の評価を表示する構成や、図11および図12に例示した包絡線ENVとともに評価処理部48による評価結果を表示する構成も採用され得る。以上の構成によれば、音響空間内のフラッターエコーの発生度合を利用者が定量的に把握できるという利点がある。
(7)前述の各形態のブーミング評価では、インパルス応答Rの再標本化後の累積位相に応じて残響減衰特性Gを算定したが、残響減衰特性Gの算定方法は以上の例示に限定されない。例えば、応答取得部24が特定したインパルス応答Rの周波数成分毎に残響曲線Cを算定し、残響曲線Cを周波数軸上に配列することで残響減衰特性Gを算定することも可能である。残響曲線Cの特定には例えばインパルス積分法が好適に利用される。また、第2実施形態と同様に、音響空間のインパルス応答Rの抽出区間S1に対応する残響曲線C1から暫定残響時間T0を算定し、インパルス応答Rのうち暫定残響時間T0に応じた時間長の抽出区間S2から残響曲線C(C2)を算定することも可能である。なお、前述の各形態で例示したようにインパルス応答Rに対する再標本化後の累積位相から残響減衰特性Gを算定する構成によれば、インパルス応答Rの周波数成分毎の残響曲線Cから残響減衰特性Gを算定する構成と比較して処理負荷(処理量や処理時間)が大幅に削減されるという利点がある。
(8)前述の各形態では、携帯電話機やスマートフォン等の可搬型の情報処理装置で音響特性評価装置100を実現したが、移動通信網やインターネット等の通信網を介して端末装置と通信するサーバ装置(例えばウェブサーバ)で音響特性評価装置100を実現することも可能である。すなわち、音響特性評価装置100は、音響空間内の端末装置で収音された観測信号Yに応じたインパルス応答Rを取得する応答取得部24と、応答取得部24が取得したインパルス応答Rを利用して音響空間の音響特性を解析する解析処理部26とを含んで構成される。応答取得部24は、端末装置が音響特性評価装置100に送信した観測信号Yからインパルス応答Rを特定する要素、または、端末装置にて観測信号Yから特定されたインパルス応答Rを端末装置から取得する要素である。解析処理部26による解析結果が音響特性評価装置100から端末装置に送信されて端末装置の利用者に報知(例えば表示)される。なお、前述の各形態で例示した解析処理部26の処理の一部(例えば第2実施形態で例示した残響時間の算定)のみを音響特性評価装置100(サーバ装置)が実行することも可能である。