JP6103518B2 - 揮発性有機塩素化合物の脱塩素化能を有する新規微生物およびその利用 - Google Patents
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Description
(1) デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属し、塩素化エチレン類および塩素化エタン類を脱塩素化する能力を有する微生物。
(2) 塩素化エチレン類および塩素化エタン類の脱塩素化が、エチレンまでの完全脱塩素化である、(1)に記載の微生物。
(3) 配列番号1に示す塩基配列と98%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNA遺伝子を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の微生物。
(4) デハロコッコイデス・エスピー(Dehalococcoides sp.)UCH007株(NITE AP-1471)。
(5) スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属し、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する微生物による塩素化エチレン類および塩素化エタン類の脱塩素化反応を促進させる能力を有する微生物。
(6) 配列番号2または3に示す塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなる16S rDNA遺伝子を有することを特徴とする、(5)に記載の微生物。
(7) スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH001株(NITE AP-1469)またはスルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH003株(NITE AP-1470)。
(8) (1)〜(4)のいずれかに記載の微生物と(5)〜(7)のいずれかに記載の微生物との混合微生物。
(9) (1)〜(7)のいずれかに記載の微生物を用いて塩素化エチレン類または塩素化エタン類で汚染された環境を浄化する方法。
(10) (8)に記載の混合微生物を用いて塩素化エチレン類または塩素化エタン類で汚染された環境を浄化する方法。
(11) (5)〜(7)のいずれかに記載の微生物を用いて、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する微生物による塩素化エチレン類および塩素化エタン類の脱塩素化反応を促進させる方法。
本発明の第1の微生物は、塩素化エチレン類および塩素化エタン類を脱塩素化する能力を有するデハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する新規微生物である。ここで、「塩素化エチレン類および塩素化エタン類の脱塩素化」とは、特には、塩素化エチレン類および塩素化エタン類の脱塩素化反応経路下流に共通する塩化ビニルモノマー(VCM)を経てエチレンに至るまでの完全な脱塩素化をいう。第1の微生物としては、本発明者らにより日本国内の塩素化エチレンの汚染サイトより集積培養により単離したデハロコッコイデス・エスピー(Dehalococcoides sp.)UCH007株が挙げられる。UCH007株の16S rRNAをコードするDNAの塩基配列を決定し、NCBIのプログラム BLAST (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により同定を行った結果、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属することが判明した。しかしながら、本菌株は、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属の公知の菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列、嫌気的条件下での塩素化エチレン類の脱塩素化能、および下記の菌学的性質等を総合的に考慮すると、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する公知の菌株とは異なることから、本菌株をデハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する新規菌株と認め、デハロコッコイデス・エスピー(Dehalococcoides sp.)UCH007株と命名した。
スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH001株:NITE AP-1469(寄託日:2012年11月22日、識別の表示:UCH001)
スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH003株 (Sulfurospirillum sp. UCH003株):NITE AP-1470(寄託日:2012年11月22日、識別の表示:UCH003)
UCH007株:
(a) 形態学的性状
非運動性、胞子非形成、円盤状形態(光学顕微鏡での観察は困難)。
絶対嫌気。電子供与体として水素、電子受容体としてcis-DCE (cis-1,2-dichloroethylene)、炭素源として酢酸塩を使用する。bicarbonate buffer。pH7.2。H2/CO2の混合ガス(80:20)で培地・培養容器内をガス置換する。
絶対嫌気性。脱ハロゲン呼吸によりエネルギーを獲得する。電子供与体として水素を利用、電子受容体として塩素化エチレン類を利用。
トリクロロエチレン(TCE)、シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-1,2-DCE)、1,1-ジクロロエチレン (1,1-DCE)、塩化ビニルモノマー(VCM)の脱塩素化能を有する。炭素源として酢酸塩を資化。ビタミンB12要求性。高濃度の硫化物(還元剤として使用)に感受性。
増殖温度:30℃。
至適pH:7.2±0.3。
UCH007株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。なお、塩基配列の決定は、Current Protocols in Molecular Biology (eds.)( Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience, N.Y.(1987))に準じて行った。DNAのシーケンスはautomated DNA sequencer (ABI 3730; Perkin Elmer, Inc., USA)を用いて行った。
UCH001株、UCH003株の形態学的性状、培地上の特徴、生理学的特徴は以下のとおりであり、両株で共通していた。
湾曲又はらせん状桿菌。
鞭毛を有する。運動性を有する。胞子非形成。
絶対嫌気。フマル酸塩、乳酸塩、酢酸塩を使用する。bicarbonate buffer。pH7.2。H2/CO2の混合ガス(80:20)で培地・培養容器内をガス置換する。
嫌気性。硝酸塩やフマル酸等を電子受容体とする呼吸によりエネルギーを獲得する。電子供与体として水素、ギ酸、ピルビン酸、乳酸などを利用。炭素源として酢酸塩等を資化。
増殖温度:30℃
生育pH:pH7.2。
UCH001株、UCH003株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を、それぞれ配列番号2、配列番号3に示す。なお、塩基配列の決定は、Current Protocols in Molecular Biology (eds.)(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience, N.Y.(1987) ) に準じて行った。DNAのシーケンスはautomated DNA sequencer (ABI 3730; Perkin Elmer, Inc., USA)を用いて行った。
本発明の微生物は、塩素化エチレン類または塩素化エタン類に汚染された環境の浄化に利用することができる。ここで、環境としては、塩素化エチレン類または塩素化エタン類を含む土壌や水環境であれば特に制限はなく、土壌としては、表層付近の不飽和土壌のほか、飽和土壌、汚泥(産業廃棄物汚泥および一般廃棄物汚泥)、河川・湖沼・港湾の底泥などが挙げられ、水環境としては、地下水、工業廃水、家庭排水、工業用水、農業用水、河川、ため池及び湖等などが挙げられる。
本発明の微生物を用いて上記環境に含まれる揮発性有機塩素化合物を脱塩素化して当該環境を浄化する際には、微生物菌株自体を用いてもよいし、上記条件で培養した微生物菌株を含む培養物を用いてもよい。培養物は、本発明の微生物の培養物をそのまま使用してもよいし、培養物を濾過、遠心分離若しくは抽出などの精製処理を行って使用してもよい。
塩素化エチレンの浄化に関連する微生物を単離するための分離源として塩素化エチレン類で汚染された地下水を用い、酵母エキスを主要な栄養源とする有機資材を添加した集積培地にて長期的に培養を行った。
(1) 試験方法
実施例1で単離した各菌株の16S rDNA塩基配列を決定し、既知菌株との相同性を確認し、塩素化エチレン類の浄化試験を行った。塩素化エチレン類の浄化試験は、20mlのバイアル(ガスクロ用、テフロン加工ブチルゴム栓)に塩素化エチレン類としてcis-1,2-DCEを含む下記表1の重炭酸塩緩衝培地(He, J., Ritalahti, K.M., Yang, K.L., Koenigsberg, S.S. & Loffler, F.E. Detoxification of vinyl chloride to ethene coupled to growth of an anaerobic bacterium. Nature (2003) 424: p62-65.)10mlを分注し、各菌株を植菌量1%で添加し、培養温度30℃で静置培養することにより行なった。
(i) UCH007株
単離株UCH007株は、配列番号1に示す16S rDNA塩基配列を有していた。UCH007株は、16S rDNA塩基配列による系統解析結果から、未分離株のDehalococcoides sp. strain VS (Cupples, A. M., A. M. Spormann, and P. L. McCarty. 2003. Growth of a Dehalococcoides -like microorganism on vinyl chloride and cis -dichloroethene as electron acceptors as determined by competitive PCR. Appl. Environ. Microbiol. 69: 953-959.)と99.9%の相同性があるDehalococcoides属の新規菌株であると認定した。塩素化エチレンの脱塩素化試験から、UCH007株は、cis-1,2-DCE、VCMを脱塩素化可能であるが(図2)、時間の経過により低下したVCMの脱塩素化反応がUCH001株およびUCH003株の存在下で促進した(図5、6)。また、UCH007株は、cis-1,2-DCEが存在する上記液体培地を用いて継代培養が可能であり、10μMのcis-1,2-DCE を2週間程度でVCMまで脱塩素化できた。
単離株UCH001株は、配列番号2に示す16S rDNA塩基配列を有していた。UCH001株は、16S rDNA塩基配列による系統解析結果と、前記菌学的性質から、Sulfurospirillumに属する新規菌株であると認定した。塩素化エチレンの脱塩素化試験では、UCH001株単独での脱塩素化活性は無いが(図3)、cis-1,2-DCEが存在する前記液体培地にてUCH007株と共生培養することで、10μMのcis-1,2-DCEを10日以内にVCMに脱塩素化でき、さらにVCMがエチレンまで脱塩素化されることが確認でき、CH007株の脱塩素化反応を促進させることがわかった(図5)。
単離株UCH003は、配列番号3に示す16S rDNA塩基配列を有していた。UCH003株は、16S rDNA塩基配列による系統解析結果と、前記菌学的性質から、Sulfurospirillumに属する新規菌株であること認定した。UCH001株とは異なる細菌であった。塩素化エチレンの脱塩素化試験から、UCH003株単独での脱塩素化活性は無いが(図4)、cis-1,2-DCEが存在する前記液体培地にてUCH007株と共生培養することで、10μMのcis-1,2-DCEを10日以内にVCMに脱塩素化でき、さらにVCMがエチレンまで脱塩素化されることが確認でき、CH007株の脱塩素化反応を促進させることがわかった(図6)。
Claims (8)
- 塩素化エチレン類を脱塩素化する能力を有するデハロコッコイデス・エスピー(Dehalococcoides sp.)UCH007株(NITE P-1471)またはその変異株である微生物。
- デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する微生物による塩素化エチレン類の脱塩素化反応を促進させる能力を有するスルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH001株(NITE P-1469)、スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH003株(NITE P-1470)、またはそれらの変異株である微生物。
- 請求項1に記載の微生物と請求項2に記載の微生物との混合微生物。
- 請求項1に記載の微生物を用いて塩素化エチレン類で汚染された環境を浄化する方法。
- 請求項1に記載の微生物と、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属し、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する微生物による塩素化エチレン類の脱塩素化反応を促進させる能力を有する微生物との混合微生物を用いて塩素化エチレン類で汚染された環境を浄化する方法。
- 請求項3に記載の混合微生物を用いて塩素化エチレン類で汚染された環境を浄化する方法。
- スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属する微生物を用いて、デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属に属する微生物による塩素化エチレン類の脱塩素化反応を促進させる方法。
- スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属する微生物が、スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH001株(NITE P-1469)、スルフロスピリラム・エスピー(Sulfurospirillum sp.)UCH003株(NITE P-1470)、またはそれらの変異株である、請求項7に記載の方法。
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