JP6084553B2 - チタン合金鍛造材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
α+β型チタン合金の鍛造材には、Tβ以上の温度に到達しないようにTβ未満の温度域(α+β二相域)に加熱してこの温度域で鍛造するα+β鍛造によるもの(α+β鍛造材)と、Tβ以上の温度域(β単相域)に加熱して鍛造するβ鍛造によるもの(β鍛造材)とがある。α+β鍛造材と、β鍛造材とでは、形成される材料組織は全く異なり、それに伴い材料特性が異なることが知られている。
β鍛造材は、鍛造条件やその後の冷却条件によって、旧β粒(前記等軸状のβ粒)の結晶粒界上のα相の形態や径、および粒内の針状α相の長さや径が変化し、さらには粒界上の膜状のα相が存在しないものもあり得る。
この特許文献1によれば、かかる発明は、等軸で微細なα粒組織を形成させることにより、微小な欠陥を検出することも可能な程度に超音波ノイズを低減できると記載されている。
この特許文献2によれば、かかる発明は、平均アスペクト比が3.3〜5.0である針状の一次α相の平均面積率を40〜52%とすることで、引張強度、伸びが優れている上に、高い低サイクル疲労寿命を有する低サイクル疲労特性に優れたニアβ型チタン合金を得ることができると記載されている。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・(1)
ただし、前記式(1)の右辺における[ ]内の各元素記号は、前記チタン合金に含有される各元素の含有量(質量%)を表す。
このようにすると、旧β粒の扁平粒による破壊靱性および疲労強度の向上効果が一層得られる。
厚さをこのようなサイズで規定しているので、大型鍛造材を提供することができる。
Tβ−150≦TF≦Tβ+100 ・・・(2)
Ln(SR)+22800/(TF+273)−18.6≦0 ・・・(3)
Ln(SR)+22800/(TF+273)−13.2≧0 ・・・(4)
ただし、前記式(2)〜式(4)において、Tβは、前記β変態点[℃]を表し、TFは、前記鍛造温度[℃]を表し、SRは、鍛造時のひずみ速度[s-1]を表す。
このようにすると、加熱工程にてβ結晶粒径を安定的に所望の範囲に制御することができる。
このようにすると、針状組織を有するチタン合金であっても、前記〔5〕に記載した鍛造を行うことで、加熱工程にてβ結晶粒径を安定的に所望の範囲に制御することができる。
このようにすると、欠陥等のないチタン合金鍛造材を提供することができる。
このようにすると、欠陥等のないエンジン部品を用いた航空機用のエンジンを具現できる。
本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法は、超音波探傷性を悪化させることなく疲労強度特性を向上させたチタン合金鍛造材を製造することができる。
本実施形態に係るチタン合金鍛造材は、β鍛造をされたチタン合金鍛造材である。すなわち、本実施形態に係るチタン合金鍛造材は、α+β型チタン合金(以下、単に「チタン合金」という。)からなり、従来のβ鍛造材と同様に、旧β粒の結晶粒界に析出したα相(粒界α相(図3参考))や旧β粒内に針状形状で析出したα相(図3参考)を有する。
なお、本発明における「非扁平粒」とは、アスペクト比が3以下、鍛造方向の径が20μm以上、かつ、結晶粒界に占めるα相の割合が80%以上の旧β粒をいう。
また、本発明における「扁平粒」とは、アスペクト比が3を超え、鍛造方向の径が20μm以上700μm以下、かつ、結晶粒界に占めるα相の割合が80%以上の旧β粒をいう。
非扁平粒と扁平粒の定義において、結晶粒界に占めるα相の割合を80%以上と規定した。その理由は、サブグレインを除外し、再結晶β粒のみに着目した面積率を規定するためである。なお、再結晶β粒は、その粒界が直線状の粒界α相で占有される。
また、非扁平粒と扁平粒ともに、あまり細かい結晶粒が含まれてくると測定が困難になるため、最低寸法を規定した。
扁平粒について径の上限を規定している理由は、これより大きな扁平粒がたくさん含まれるものを除外するためである。つまり、後述する結晶方位の平均方位差の測定は、ある程度の大きさの扁平粒に限定する必要がある。これは、大きな扁平粒が大部分を占めるようになると、粒界も少なくなり、ごく僅かしかない粒界α相の結晶方位の平均方位差を規定しても所望の効果を得ることができなくなってしまうからである。したがって、そのようなチタン合金を除外するため、扁平粒の径の上限を規定した。また、扁平粒の径に上限を設けたのは、上限を超えると疲労強度が低下することも理由に挙げられる。
アスペクト比とは、旧β粒2における、鍛造方向の結晶粒の径L1と、鍛造方向に対して垂直な方向の結晶粒の径L2の比をいう。図1を参照して説明すると、上下方向の径L1に対する左右方向の径L2の比となる。
非扁平粒の粒界には連続的な粒界α相が形成され易いため、疲労強度が低下する。非扁平粒の面積率を10%未満とすれば、連続的な粒界α相の形成量が少なくなるため、疲労強度が低下し難くなる。一方、非扁平粒の面積率が10%以上になると、連続的な粒界α相の形成量が多くなるため、疲労強度が低下する。
好ましい非扁平粒の面積率は8%未満であり、より好ましくは6%未満である。
本実施形態に係るチタン合金鍛造材は、従来のβ鍛造材と同様、扁平形状のβ結晶粒(旧β粒)の多結晶構造によって高い破壊靱性および疲労強度を得ている。チタン合金鍛造材は、鍛造前はアスペクト比の小さい(1に近い)等軸状であった旧β粒が、鍛造時に加えられたひずみ量が多くなるにしたがってアスペクト比が大きくなり(扁平になり)、疲労強度向上に対する寄与度が高くなる。扁平粒の面積率を85%以上とすることによって、疲労強度を確実に向上させることができる。一方、扁平粒の面積率が85%未満になると、十分な疲労強度が得られない。なお、扁平粒の面積率は90%以上とするのが好ましい。
扁平粒の粒界α相の結晶方位の平均方位差が小さいということは、ほぼ同じ結晶方位を有する粒界α相が長い距離に渡って旧β粒界に沿って存在していること、すなわち連続的であることを意味する。したがって、平均方位差が小さいと疲労強度の低下を引き起こすおそれがある。平均方位差が6°以上あれば疲労強度は低下し難いが、平均方位差が6°未満になると疲労強度が大きく低下するおそれがある。なお、かかる平均方位差は10°以上とするのが好ましく、15°以上とするのがより好ましく、25°以上とするのが更に好ましい。平均方位差の上限は特に規定しないが、結晶学的に90°を超えることは無く、70°が現実的な上限となる。
本発明に係るチタン合金鍛造材の旧β粒のアスペクト比、径および非扁平β粒(非扁平粒)の面積率および扁平β粒(扁平粒)の面積率は、当該チタン合金鍛造材の鍛造方向と平行な断面における1ないし複数視野から求めることができる。すなわち、チタン合金鍛造材を鍛造方向と平行な面で切断し(図1参照)、断面を研磨(機械研磨、電解研磨)仕上げした後に腐食させる。そして、この断面から例えば1ないし数mm角程度の視野を1ないし複数選択し、光学顕微鏡により断面組織を観察し、平均値を算出することで、前記した旧β粒のアスペクト比等を求めることができる。
得られた測定結果に対して、鍛造方向と平行に直線を10μm間隔で引き(図1中の一点鎖線)、これらの直線と粒界α相が交差する(交点P1、P2・・・P10)各粒界α相について、隣り合う粒界α相間の結晶方位差を測定する。全ての隣り合う交点間の方位差について平均をとることで平均方位差を求めることができる。
なお、扁平粒の粒界α相の結晶方位の平均方位差を求めるにあたって、測定視野内で旧β粒界が枝分かれしていない(鍛造方向に垂直な方向に複数の旧β粒が存在しない)視野を選択することが望ましいが、複数の旧β粒を含む場合は以下のように取り扱う。すなわち、一方が非扁平粒である場合は、扁平粒の粒界に沿って結晶方位差の算出を行う。旧β粒の粒界を挟んで両側とも扁平粒である場合は、枝分かれ先のどちらの粒界α相も対象にそれぞれ結晶方位差を算出する。
チタン合金は、Mo当量が大きくなるにしたがってα相の体積含有率が減少し、旧β粒界の形状の影響が強くなる。そのため、前記した旧β粒の扁平粒による破壊靱性および疲労強度の向上効果をいっそう得ることができる。次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqは4.5以上がより好ましく、6.5以上がさらに好ましい。一方、チタン合金は、次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqが大きくなるに連れて合金元素が偏析し易くなり、組織がばらつく虞がある。そのため、次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqは15未満とする。なお、次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqは12以下とするのがより好ましい。
前記した非扁平粒の面積率、扁平粒の面積率、扁平粒の粒界α相の結晶方位の平均方位差の制御は、後記するチタン合金鍛造材の製造方法により行うことができる。詳しくは後述する。
次に、図2を参照して、本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るチタン合金鍛造材の製造方法は、α+β型チタン合金からなるインゴット、より好適には、AMS4981やAMS4995で規定されるチタン合金からなるインゴットを公知の条件でビレットに鍛造し(ビレット鍛造工程S11)、必要に応じて機械加工を行ってから、後に詳述する特定の条件のβ鍛造を行って所望の形状のチタン合金鍛造材(製品)を製造する。
ビレット鍛造工程S11は、例えば、β鍛造→α+β鍛造→β熱処理→応力除去焼鈍→α+β鍛造→焼鈍の順序で行われる。
α+β鍛造はβ変態点(適宜、Tβと表す)よりも10〜200℃程度低い温度域に、β鍛造はTβよりも10〜150℃程度高い温度域にそれぞれ加熱し、所定の鍛錬比(鍛伸方向に垂直な断面における、鍛造前に対する鍛造後の面積比、例えば1.5)の鍛造を行い、室温に冷却する。
ビレット鍛造工程S11における鍛造をα+β鍛造とするかβ鍛造とするかは製品に要求される特性に応じて設定すればよく、鍛造の回数も所望するビレットの径等に応じて行えばよい。また、2回の焼鈍はそれぞれ必要に応じて行えばよく、例えば2回目の焼鈍はその後の機械加工を行い易くするため、および超音波探傷検査を行い易くするために行われる。
しかし、昨今、チタン合金鍛造材に求められる特性の高度化に伴い、ビレットにも高い特性が求められる傾向にある。特に超音波探傷検査にて、従来に増して小さな欠陥を検出することが求められる等の理由から、最終仕上げのα+β鍛造の後、β域にて焼鈍する、もしくは、最終仕上げの温度域を従来のα+β域からβ域に引き上げることにより、最終組織をβ組織とするビレット(βビレット)の適用が検討されている。β組織は、α+β組織と異なり、組織が粗く、α相の形態が針状形状であることから、βビレットを用いる場合、従来と同じ方法で製造すると所望の特性を発現できない虞がある。
加熱工程S1と鍛造工程S2の間に行う工程としては、例えば、加熱工程S1でビレットの温度が高くなり過ぎた場合に、これを所定の温度に下げるために放冷する放冷工程(図示せず)や、鍛造するにあたり、必要に応じてビレット表面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程(図示せず)などが挙げられる。
鍛造工程S2と冷却工程S3の間に行う工程としては、例えば、鍛造したチタン合金鍛造材の調質等を目的として所定の条件で保持する保持工程(図示せず)などが挙げられる。
また、冷却工程S3の後に行う他の工程としては、後述するように、調質熱処理工程(図示せず)や機械加工工程(図示せず)が挙げられる。また、後記する超音波探傷工程S4が挙げられる。
なお、以下の説明ではチタン合金鍛造材のβ鍛造前をチタン合金素材と称し、チタン合金素材として前記ビレット鍛造工程S11で製造したビレットを適用した場合を例に説明する。また、加熱工程S1、鍛造工程S2および冷却工程S3を連続して行う場合を例に説明する。
加熱工程S1は、ビレットを(Tβ+10)℃以上に加熱してβ結晶粒径(平均粒径)が300μm以上1000μm以下の範囲になるまで保持する工程である。なお、特許請求の範囲では本工程において当該ビレットを「チタン合金」と記載している。
β単相域とは、β変態点(Tβ)以上の温度域をいい、Tβとは、チタン合金素材の全体(100%)がβ相となる最低温度をいう。Tβは、チタン合金素材を形成するチタン合金の組成によって変化する。例えば、AMS4981で規定されるチタン合金(Ti−6246合金)のTβは960℃程度であり、AMS4995で規定されるチタン合金(Ti−17合金)のTβは890℃程度である。
鍛造工程S2は、鍛造温度TF[℃]が次式(2)を満足し、かつ前記鍛造温度TFとの関係で表される次式(3)および式(4)のそれぞれの左辺の値が当該式(3)および式(4)を満足する条件にてビレットを鍛造し、チタン合金鍛造材を製造する工程である。
Ln(SR)+22800/(TF+273)−18.6≦0・・・(3)
Ln(SR)+22800/(TF+273)−13.2≧0・・・(4)
ただし、式(2)〜式(4)において、Tβは、β変態点[℃]を表し、TFは、鍛造温度[℃]を表し、SRは、鍛造時のひずみ速度[s-1]を表す。なお、本明細書におけるLnとは自然対数である。
なお、式(3)の好ましい条件は、
Ln(SR)+22800/(TF+273)−17.1≦0
である。
鍛造温度TFが(Tβ−150)℃未満になると、β結晶粒の粒界上および粒内にα相が析出し始める。鍛造を完了する前にこれらのα相が形成されると破壊靭性が劣化する虞がある。したがって、鍛造温度TF(より具体的には、ビレットの鍛造の完了時における温度)は、(Tβ−150)℃以上とする。鍛造温度TFは(Tβ−110)℃以上が好ましい。このとき、鍛造に使用される金型は、400℃以上に加熱されていることが好ましく、鍛造温度TF(ビレットの温度)に加熱されていることがさらに好ましい。このように加熱された金型を使用することで、鍛造されるビレットの表面が内部に対して早期に冷却され過ぎることがなく、表面近傍も(Tβ−150)℃以上に保持して鍛造を完了することができる。なお、鍛造完了まで(Tβ−150)℃以上の温度域に保持する必要があるのは、チタン合金鍛造材の製品部分であり、鍛造後(冷却後)に除去される表層等の余肉(製品部分以外)における温度は、これに限定されない。
さらに、鍛造工程S2では、式(4)の左辺の値が当該式(4)を満足する条件で鍛造を行うことで、加工中の非扁平粒の形成を抑制し、疲労強度を低下し難くしている。式(4)の左辺の値が当該式(4)を満足しない場合、加工中に非扁平粒が形成され易く、そのため疲労強度が低下し易くなる。
Ln(SR)=A−B/TF
この式において、TFは、鍛造温度[℃]を表し、SRは、ひずみ速度[s-1]を表し、A、Bは、所望の熱間鍛造組織が形成される鍛造温度とひずみ速度の範囲を規定するための実験によって求められる係数である。つまり、係数Aおよび係数Bは、実験にて鍛造温度とひずみ速度の条件を変えた複数のβ鍛造材を試作し、組織を評価し、所定の組織が形成される鍛造温度とひずみ速度の領域を明らかにし、その境界を表すように決定したものである。
この式に、実験によって求められた係数を代入し、右辺を左辺に移項させ、それぞれ所定の条件を規定する不等式とすることにより、前記式(3)と式(4)をそれぞれ導出することができる。
冷却工程S3は、前記鍛造したチタン合金鍛造材を(Tβ−150)℃よりも低い温度に冷却する工程である。ビレットの鍛造完了後、冷却工程S3で(Tβ−150)℃よりも低い温度に冷却することでβ単相域外(α+β二相域)として新たなβ粒の成長を停止させる。また、旧β粒の粒界上にα相が太く(厚く)析出することを抑制して、得られたチタン合金鍛造材の疲労強度の劣化を防止する。したがって、鍛造完了後はできるだけ時間を空けずに冷却を開始するのが好ましい。具体的には、鍛造完了時から1200秒間以内に(Tβ−150)℃よりも低い温度に到達させることが好ましい。そのため、鍛造完了後の冷却速度は10℃/min以上が好ましく、20℃/min以上がより好ましい。一方、冷却速度の上限は特に規定しないが、500℃/min以下が実用的である。また、粒内の針状α相を長くして破壊靭性を向上させるため、冷却速度の上限は500℃/min以下とするのが好ましい。冷却方法は、空冷、送風、水冷、湯冷、油冷等の公知の方法を適用すればよい。なお、チタン合金鍛造材は冷却工程S3で室温まで冷却されるが、(Tβ−150)℃よりも低い温度域における冷却速度は特に規定せず、その他の要求される特性に応じて設定すればよい。
なお、調質熱処理工程は、溶体化処理および時効処理にて調質熱処理を行う工程である。調質熱処理工程は公知の方法で行うことができる。
また、機械加工工程は、機械加工により酸化皮膜や余肉などを除去する工程である。機械加工工程も公知の方法で行うことができる。
これらの工程を行う例として、鍛造完了後のチタン合金鍛造材の表面を1mm以上除去し、表面粗度6.3S以上に平滑化してから、超音波探傷検査を行うことなどを挙げることができる。チタン合金鍛造材は、その後、必要に応じて再度機械加工されてディスクやシャフトのようなエンジン部品等の製品とすることができる。
図2に示す超音波探傷工程S4は、冷却工程S3後、必要に応じて調質熱処理工程および/または機械加工工程(いずれも図2において図示せず)を行ったチタン合金鍛造材に対して超音波探傷検査を行う工程である。超音波探傷工程S4では、β鍛造における圧下量の最も大きい方向、すなわち鍛造方向(図1参照)と平行な方向に超音波を照射してチタン合金鍛造材を探傷する。
チタン合金素材として、AMS4995で規定されるTi−17合金(Tβ:890℃、Mo当量:含有される元素の平均値から計算されるMo当量は9.5)からなるα+βビレットを用いた。鍛造時の圧下率は67%とし、鍛造(β鍛造)後のチタン合金鍛造材における鍛造方向の厚さは45mmとした。
ビレットの内部の温度分布が一定となるように、炉内にて850℃で2時間保持した後、980℃に加熱して、鍛造前のβ粒が平均粒径で400〜600μmになるまで保持した。その後、炉から出して表1のNo.1〜9に示す鍛造温度まで空冷させ、予め低周波加熱装置で鍛造温度に加熱した金型を用いて鍛造した。鍛造は、平坦な面形状の一対の金型を用い、表1に記載する(平均)ひずみ速度となる速度で金型を移動させ、変形方向(圧下方向)をビレット軸方向とした。なお、表1中の下線は本発明の要件を満たさないことを示している。
室温に冷却したチタン合金鍛造材をTβ未満(α+β二相域)である805℃に加熱して4時間保持し、150℃/minで冷却する溶体化処理を行った後、610℃で8時間保持して60℃/minで室温まで冷却する時効処理を行い、No.1〜9に係る試験体を製造した。このようにして製造したNo.1〜9に係る試験体について、材料組織の観察、扁平粒の結晶粒界に析出したα相(粒界α相)の結晶方位の平均方位差、機械的特性として疲労特性、および超音波探傷性を調べた。これらの結果をそれぞれ、扁平粒の面積率(%)、粒界α相の平均方位差(°)、非扁平粒の面積率(%)、疲労特性および超音波探傷性として表1に示す。なお、これらは以下のようにして調べた。
(旧β粒のアスペクト比および径、旧β粒界の角度、非扁平β粒の面積率)
各試験体における1/2H、1/4D位置を含む15mm角の立方体の小片試料を試験体から切り出した。そして、この小片試料から試験体の鍛造方向と半径方向とに平行な面となる断面を切り出した。さらにこの断面をエメリー紙で機械研磨し、ダイヤモンド砥粒による仕上げ研磨を実施した後、フッ硝酸溶液で腐食を行い、組織観察に供した。
試験体を電解研磨仕上げし、SEM/EBSD法により断面組織の結晶方位を測定した(試験体の採取位置や観察面は前記光学顕微鏡観察と同じ。)。測定した視野のサイズは鍛造方向に60μm、それに垂直な方向に100μmであり、5視野に対して測定を行った。その結果の例を図3および図4に示す。なお、図3は、試験体No.2の断面組織の結晶方位を測定したものであり、図4は、試験体No.3の断面組織の結晶方位を測定したものである。
チタン合金鍛造材の機械的特性の評価として、疲労強度(疲労特性)の評価を実施した。試験体の1/2H、1/4D位置から、試験体の周(接線)方向が荷重軸と平行になる試験片を切り出し、機械的特性と、後記する超音波探傷性とを評価するため別々に用意した。
試験体から厚み41mmの立方体の試験片を切り出し、水浸探傷法にて超音波探傷検査を行った。プローブ径19.05mm、焦点距離152.4mmの探触子を使用し、周波数5MHzの超音波を送信波とし、水距離(探触子から試験片表面までの距離)は140mmとした。標準化試験片を用いて直径0.79mmの平底穴からの反射強度が80%となるように感度調整を行った後、試験片表面(鍛造方向に垂直な面)における中央の50mm×50mmを検査領域として探触子を移動走査させながら、鍛造方向(試験体の軸方向)と平行な方向に超音波探傷試験を行って、Cスコープを取得した。
また、試験体No.5は、鍛造温度が高いわりにひずみ速度が遅かった。すなわち、ひずみ速度が式(4)を満足しなかった。そのため、試験体No.5は鍛造中または鍛造直後に非扁平粒が形成され、非扁平粒の面積率が高くなり、疲労強度が低下した(比較例)。
また、試験体No.9は鍛造温度が高く式(2)を満足しなかった。そのため、鍛造直後に再結晶が起こり、非扁平粒の面積率が高くなり、疲労強度が低下した(比較例)。
実施例1と同様、チタン合金素材として、AMS4995で規定されるTi−17合金(Tβ:890℃、Mo当量:含有される元素の平均値から計算されるMo当量は9.5)からなるβビレットを用いた。
そして、かかるビレットをβ単相域に加熱した後に空冷する熱処理を施してβビレット(以下、「前者のβビレット」という。)を得た。
また、かかるビレットをα+β二相域にて所望の形状に荒地鍛造(α+β鍛造)してチタン合金素材を作製し、鍛造温度を表2のNo.10〜15に示す条件とする以外は実施例1と同様の条件でβ鍛造を行い、βビレットを得た(以下、「後者のβビレット」という。)。また、荒地鍛造で加えた歪(荒地歪)は表2のNo.10〜15に示すとおりである。
また、試験体No.15は、鍛造温度が高いわりにひずみ速度が遅かった。すなわち、ひずみ速度が式(4)を満足しなかった。そのため、試験体No.15は鍛造中または鍛造直後に非扁平粒が形成され、非扁平粒の面積率が高くなり、疲労強度が低下した(比較例)。
2 旧β粒
3 粒界
S1 加熱工程
S2 鍛造工程
S3 冷却工程
S4 超音波探傷工程
S11 ビレット鍛造工程
S12 α+β鍛造工程
Claims (8)
- α+β型チタン合金からなるチタン合金鍛造材であって、
アスペクト比が3以下、鍛造方向の径が20μm以上、かつ、結晶粒界に占めるα相の割合が80%以上の旧β粒である非扁平粒の面積率が10%未満、
アスペクト比が3を超え、鍛造方向の径が20μm以上700μm以下、かつ、結晶粒界に占めるα相の割合が80%以上の旧β粒である扁平粒の面積率が85%以上、および、
前記扁平粒の結晶粒界に析出したα相の結晶方位の平均方位差が6°以上
であることを特徴とするチタン合金鍛造材。 - 次式(1)で表されるMo当量[Mo]eqが、2.7を超え15未満であるチタン合金からなることを特徴とする請求項1に記載のチタン合金鍛造材。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe] ・・・(1)
(ただし、前記式(1)の右辺における[ ]内の各元素記号は、前記チタン合金に含有される各元素の含有量[質量%]を表す。) - 厚さが、最薄部で30mm以上、平均で70mm以上あることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン合金鍛造材。
- β鍛造を行って請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のチタン合金鍛造材を製造するチタン合金鍛造材の製造方法であって、
前記β鍛造は、
β変態点をTβで表したとき、チタン合金を(Tβ+10)℃以上に加熱してβ結晶粒径が300μm以上1000μm以下の範囲になるまで保持する加熱工程と、
鍛造温度TF[℃]が次式(2)を満足し、かつ前記鍛造温度TFとの関係で表される次式(3)および式(4)のそれぞれの左辺の値が当該式(3)および式(4)を満足する条件にて前記チタン合金を鍛造し、チタン合金鍛造材を製造する鍛造工程と、
前記鍛造したチタン合金鍛造材を(Tβ−150)℃よりも低い温度に冷却する冷却工程と、を含む
ことを特徴とするチタン合金鍛造材の製造方法。
Tβ−150≦TF≦Tβ+100 ・・・(2)
Ln(SR)+22800/(TF+273)−18.6≦0 ・・・(3)
Ln(SR)+22800/(TF+273)−13.2≧0 ・・・(4)
(ただし、前記式(2)〜式(4)において、Tβは、前記β変態点[℃]を表し、TFは、前記鍛造温度[℃]を表し、SRは、鍛造時のひずみ速度[s-1]を表す。) - チタン合金からなるインゴットを鍛造してビレットにするビレット鍛造工程を含み、
前記ビレット鍛造工程と前記加熱工程の間に、前記ビレットにしたチタン合金をα+β二相域にて鍛造するα+β鍛造工程を有することを特徴とする請求項4に記載のチタン合金鍛造材の製造方法。 - 前記ビレットにしたチタン合金が針状組織を有することを特徴とする請求項5に記載のチタン合金鍛造材の製造方法。
- 前記冷却工程後、前記β鍛造における圧下量の最も大きい方向と平行な方向に超音波を照射して前記チタン合金鍛造材を探傷する超音波探傷工程を含むことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のチタン合金鍛造材の製造方法。
- 前記チタン合金鍛造材が、航空機のエンジン部品の製造に使用される材料であることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載のチタン合金鍛造材の製造方法。
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