JP6080577B2 - ノイズ除去方法及びノイズ除去装置 - Google Patents
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Description
ラマン分光分析は次の手順でなされる。まず、単色光を試料に照射し、試料からの散乱光を集光する。次いで、照射光と同一波長のレイリー散乱光をノッチフィルターで除去し、波長シフトしたラマン散乱光のみを取得する。そして、ラマン散乱光からラマンスペクトルを得る。
このとき、仮に測定面全体に対して「一律に」同じ標準スペクトルを差し引いて差分スペクトルを求める補正をすると、測定位置ごとに試料の厚さが異なる場合や、測定位置によってはスライドガラスが露出している場合があり、ガラスのラマンスペクトルの影響が測定位置ごとに異なることにより、結果として補正の精度が低下する恐れがある。また、全体のスペクトルからガラスのラマンスペクトルを差引き、差分スペクトルを求めていくのは、測定面上に測定点が多数あるため煩雑である。
ところで、以上の混入成分のラマンスペクトルは、未知成分の分析を妨害するノイズと考えることもできる。そこで、これをホワイトノイズと区別するため、スペクトルノイズと呼ぶことにした。なお、前述のスライドガラス等も混入成分の1つとみなすことができるので、スライドガラス等に起因するラマンスペクトルもスペクトルノイズに含める。
PCAは多変量データの次元を圧縮し、データ全体に見られる特徴を分析するための多変量解析の手法である。PCAでは、まず、マッピングデータを、お互いに直交する複数の固有ベクトル(主成分スペクトル、ローディングベクトルとも呼ぶ)と主成分スコアで展開する。次に、ノイズを捉えていると考えられる高次の固有ベクトルを省いて、低次の固有ベクトルのスコアのみでマッピングデータを再構築する。これによりノイズを除去したスペクトルデータが得られる。
また、PCAで求めた各固有ベクトル(主成分スペクトル)のうち、混入成分のスペクトルに該当する(形状が類似する)ものについての主成分スコアを混合スペクトル行列から除去することにより、スペクトルノイズを除去しようとする。
各主成分(固有ベクトル)を求めた後、低次の固有ベクトルのみを採用して、それぞれのスペクトルデータごとに主成分スコアを求める。ここで高次の固有ベクトルはノイズとみなしてスペクトルデータから除去される。その後、ノイズ除去後のスペクトルデータを用いてスペクトルを再構築する。そうすることにより、測定データ全体と相関の低いスペクトルデータをノイズとみなして除去できるのである。
なお、取得されたスペクトルのSN比が小さい場合、低次の固有ベクトルのみ採用してもノイズが残ることもある。
MCRでは、試料面の複数の測定位置又は測定時間における混合スペクトルデータを保持した行列(以下、混合スペクトル行列A)に対してループ処理がなされる。このループ処理においては、混合スペクトル行列Aに基づいて、純成分のスペクトルデータ行列(以下、純スペクトル行列K)と、複数の測定位置又は測定時間における各成分の濃度データを保持した行列(以下、濃度行列C)とを交互に計算して求める。純スペクトル行列Kは、濃度行列Cと混合スペクトル行列Aにより、K=(CTC)−1CTAから求められ、濃度行列Cは、純スペクトル行列Kと混合スペクトル行列Aにより、C=AKT(KKT)−1から求められる。このループ処理を繰り返し、純スペクトル行列Kと濃度行列Cとを収束させる。このときホワイトノイズはノイズ行列Nに分離される。
まず、PCA等によって、混合スペクトル行列Aから各成分の初期スペクトルを推定する。そして、成分数と同数の初期スペクトルを行列内に配列したものを純スペクトル行列Kとして形成する。
ここで、予め試料の混入成分が判明している場合、その混入成分の標準スペクトルを、上記の初期スペクトルの1つとして用いるとともに、ループ処理においても純スペクトル行列Kの拘束条件として用いる。これによって、他の初期スペクトルの当否に関わらず、MCRによるスペクトルの分離精度を向上させることができる。ここで、標準スペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に用いるとは、ループ処理において純スペクトル行列Kが繰り返し計算される都度、初期に標準スペクトルが代入された行列Kの成分をその標準スペクトルに置き換えることを示す。この操作により、混入成分の濃度分布が精度よく求められ、また未知成分も精度よく分析される。特に、複数成分のピーク域が重なっている場合は有用である。
(1)測定位置又は測定時間ごとに試料のスペクトルデータを得る試料測定工程と、
(2)横方向(列数)をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向(行数)を測定位置又は測定時間として、試料のスペクトルデータを行列成分とする混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算工程と、
(3)混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を試料の成分数として、推定された各成分のスペクトルデータを行列成分とする純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定工程と、
(4)横方向を試料の成分数とし、縦方向を測定位置又は測定時間として、試料の各成分の濃度データを行列成分とする濃度行列Cの初期値を形成するとともに、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理工程と、を備え、
(i)混合スペクトル行列Aと純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置き換える濃度行列計算段階と、
(ii)混合スペクトル行列Aと濃度行列計算段階で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置き換える純スペクトル行列計算段階と、を有し、
(iii)濃度行列計算段階と純スペクトル行列計算段階とを交互に繰り返して、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、
ループ処理の少なくとも途中から、純スペクトル行列計算段階において、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、
ループ処理で得られた純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とする。
なお、本発明に係る行列は、本書で説明する各行列の転置行列も含むものとする。つまり、説明中の行と列を単に入れ換えただけの行列を用いた発明も、本発明に含まれる。
純スペクトル行列計算段階では、純スペクトル推定工程にて置換された行と同じ行を、試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換することが好適である。
このように、純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を例えば混入成分の標準スペクトルデータに置換する時期を、純スペクトル行列Kの初期設定時点にしてもよい。上述のように、ループ処理の途中から置換する場合は、置換した時点から混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件に設定する。
この際、純スペクトル行列推定工程において、複数の固有ベクトルを低次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することがより好適である。
そこで、混合スペクトル行列Aを得る際の前処理として、試料のスペクトルをベースライン補正するのが好適である。これにより蛍光の影響を抑えることができる。
すなわち、本発明に係るノイズ除去方法は、さらに、純スペクトル行列Kの収束値から混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、濃度行列Cの収束値から混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、純スペクトル行列K’と濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築工程を備えてもよい。
そこで、特定成分のピーク強度からその濃度分布を求め、標準スペクトルと乗算して、特定成分のスペクトル行列を得て、混合スペクトル行列Aからこれを差し引くことにより、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルデータを除去することにした。MCR処理を始める前に、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルをあらかじめ除いておくことで、その分、少ない成分数で分析でき、好適な条件で分析できる。特に、一定の波長域(波数域)に複数成分のピークが重なっている場合に、この処理は有効である。
次いで、純スペクトル行列推定部にて混合スペクトル行列AをPCA処理し、得られた各主成分の固有ベクトルから累積寄与率を計算し、これを参考に採用する固有ベクトルの数を決定して、純スペクトル行列Kの成分数に指定する。
ところで、実際の分析では、固有ベクトルの数を決定する際に基準とする累積寄与率を一義的に決定するのが難しいこともある。分析の結果、成分数が適切でないと判断されたときは、成分数を変更して再分析し、試行錯誤しつつ最適な成分数を決定すればよい。
低次の固有ベクトルから昇順に成分数だけの固有ベクトルを初期スペクトルデータとして推定する。そして、それぞれの初期スペクトルデータを純スペクトル行列Kに代入する。これらの操作により純スペクトル行列Kが初期設定される。
(1)測定位置又は測定時間ごとに試料のスペクトルデータを得る試料測定部と、
(2)横方向(列数)をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向(行数)を測定位置又は測定時間として、試料のスペクトルデータを行列成分とする混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算部と、
(3)混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を試料の成分数として、推定された各成分のスペクトルデータを行列成分とする純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定部と、
(4)複数成分の標準スペクトルデータを記憶しているスペクトルデータベースと、
(5)横方向を試料の成分数とし、縦方向を測定位置又は測定時間として、試料の各成分の濃度データを行列成分とする濃度行列Cの初期値を形成するとともに、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理部と、を備え、
(i)混合スペクトル行列Aと純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置きかえる濃度行列計算部と、
(ii)混合スペクトル行列Aと濃度行列計算部で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置きかえる純スペクトル行列計算部と、を有し、
(iii)濃度行列計算部での濃度行列Cの計算と、純スペクトル行列計算部での純スペクトル行列Kの計算と、を交互に繰り返して、濃度行列C及び純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、
純スペクトル行列計算部は、試料に含まれる成分の標準スペクトルデータをスペクトルデータベースから選択し、ループ処理部の繰り返し計算の少なくとも途中から、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、
ループ処理部によって計算された純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴としている。
純スペクトル行列計算部は、純スペクトル推定部にて置換された行と同じ行を、選択した標準スペクトルデータと置換することが好適である。
ここで、純スペクトル行列推定部は、複数の固有ベクトルを低次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することがより好適である。
マッチング処理部は、純スペクトル行列Kの収束値の行に含まれているスペクトルデータを、スペクトルデータベースでマッチング処理することにより、対応する成分を同定することが好ましい。
ベースライン補正部により試料のスペクトルをあらかじめベースライン補正した上で、混合スペクトル行列Aを形成してもよい。
例えば、純スペクトル行列推定部にて、純スペクトル行列Kの任意の行を、スライドガラス等の標準スペクトルデータに置換し、さらに、純スペクトル行列計算部にて、該純スペクトル行列Kの拘束条件としてもよい。もしくは、ループ処理の途中から、純スペクトル行列計算部にて、純スペクトル行列Kの拘束条件としてもよい。
再構築部は、純スペクトル行列Kの収束値から混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、濃度行列Cの収束値から混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、純スペクトル行列K’と濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築してもよい。
なお、本発明に係る方法及び装置はラマン分光分析の他、IR分析、紫外可視光分析、蛍光分析等に用いることも可能である。
試料中の混入成分のうち、あらかじめ含まれていることが分かっているものがある場合に、その混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件としておく。そうするとループ処理においてその都度、純スペクトル行列Kの対応行がその成分の標準スペクトルデータに置き換えられる。そうすることにより、他の成分の純スペクトルデータの初期値が、その成分の本来のスペクトルデータの形に落ち着くように、随時、軌道修正されていく。その結果、全て成分のスペクトルデータと、濃度データとが正確に計算される。
混合スペクトル行列Aを再構築するにはこの他に、純スペクトル行列K、濃度行列Cの行数を変更しなくても、それぞれ混入成分に対応する行または列に0を挿入して、純スペクトル行列K’、濃度行列C’として、それらを乗算することにより混合スペクトル行列A’を求めてもよい。また、純スペクトル行列Kの各測定対象成分の行または列と、それに対応する濃度行列Cの行または列とをそれぞれ乗算し、全て足し合わせることによって、混合スペクトルA’を求めてもよい。
なお、このときスライドガラスやセルに由来するスペクトルについても、混合スペクトル行列Aから除去される。
そこで、本発明においては混合スペクトル行列Aを求める前の前処理として、ベースライン補正することにした。それから混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを求めれば、各成分のスペクトルの歪みが解消される。これにより各成分の同定が容易になり、各成分の濃度分布や時間変化が正確に求められる。
スペクトルの波長方向のプロット数をnとした時、ラマンスペクトルは、n次元空間にある一つのベクトルとして表される。これをMCR処理すれば、このベクトルが分割され、試料中に含まれる各成分が一つの単位ベクトルとして表される。
例えば、図1は、2成分試料の混合スペクトルを各成分のスペクトル(純スペクトル)に分離する様子を概略的に示したものである。図1(e)の混合スペクトルは、同図(a)に示す成分1の純スペクトルと、同図(c)に示す成分2の純スペクトルとを足し合わせたスペクトルである。同図(b),(d)の各ベクトルは、成分1,2の各純スペクトルを単位ベクトルで表したものである。図1(e)の混合スペクトルをn次のベクトルで表示すると、図1(f)のように、成分1の単位ベクトルと成分2の単位ベクトルの和で表される。すなわち、MCR処理は、図1(e)の混合スペクトルに係るベクトルを、成分1の単位ベクトル(図1(b))と成分2の単位ベクトル(図1(d))に分解することができる。
次に、純スペクトル行列Kの推定について簡潔に説明する。MCRは、未処理のスペクトルデータをまとめた混合スペクトル行列Aと、後述する方法で推定された純スペクトル行列Kとを使って、各成分の濃度を示す濃度行列Cを求める計算式を立てることから開始し、最終的に純スペクトル行列K及び濃度行列Cの収束値を求める処理である。MCR処理をするためには、暫定的に各成分の初期スペクトルを決める必要があり、これらを純スペクトル行列Kの初期値として用いる。
また、初期スペクトルを推定するために、必ずしもPCAを使う必要はなく、マッピングスペクトルデータの中から含まれていると予想されうる成分の標準スペクトルに近いものを適宜抽出し、初期スペクトルデータに採用してもよい。
外部入力部11は、測定部12と入力部14を有する。測定部12は、複数成分を含む試料に対して赤外分光測定、紫外可視分光測定、ラマン分光測定等を行い、試料上の各測定点での測定光を検出する。入力部14は、純スペクトル行列Kの初期設定、混入成分の標準スペクトルデータ等を入力する際に使用される。
混合スペクトルデータ演算部16は、測定部12がマッピング測定によって取得した各測定点におけるスペクトルデータに基づいて、混合スペクトル行列Aを計算する。純スペクトル行列初期値推定部18は、混合スペクトル行列AをPCA処理して固有値及び固有ベクトルを得て、それをもとに純スペクトル行列Kの初期値を推定する。
また、外部出力部27は各成分の濃度分布等の分析結果を表示する画面24と、各成分の成分名、濃度分布、及び純スペクトル等を画面24に出力する画像出力部22を備える。
累積寄与率Rの計算手順について説明する。まず、混合スペクトル行列AをPCA処理し、各主成分の固有値、固有ベクトルを求める。各固有値を次式(1)に代入して各主成分の累積寄与率Rを求める。
T=Σλk R=Σ(λk/T) (λ1≧λ2≧・・・≧λp≧0,k→p)・・・(1)
T:固有値の合計値、
R:累積寄与率、
λk:第k主成分の固有値
なお、本実施形態では、純スペクトル行列Kの縦方向は、成分数に対応し、横方向は、スペクトルの波長方向に対応している(図4)。つまり、各成分の初期スペクトルデータは、純スペクトル行列Kの各行に代入される。ただし、混合スペクトル行列Aの縦方向が波長方向に対応し、横方向が測定位置に対応する場合は、純スペクトル行列Kの行と列とを転置させて、純スペクトル行列Kの横方向を成分数に対応させ、縦方向を波長方向に対応させるようにする。
成分名が入力されると、スペクトルデータベース26(図2)で該当する標準スペクトルデータが検索される。そして、混合スペクトル行列Aに基づいて推定された純スペクトル行列Kの任意の行のスペクトルデータが、検索された標準スペクトルに置き換えられる(S14)。
A=CKより、AKT=C(KKT)が導かれ、さらに、
AKT(KKT)−1=CKKT(KKT)−1となる。よって、濃度行列Cは次式(2)で表される。
(数2)
C=AKT(KKT)−1 ・・・(2)
式(2)から濃度行列Cを求める。このとき濃度行列Cに負の要素があるときは、負の要素を0に置き換えるという拘束条件が適用される(S18)。
(数3)
K=(CTC)−1CTA ・・・(3)
このとき、Kに負の要素があれば、負の要素を0に置き換えるという拘束条件が適用される(S22)。
まず、純スペクトル行列Kの推定時(S14)に、上述した通り、純スペクトル行列Kの任意の行のスペクトルデータを混入成分の標準スペクトルデータに置き換えている。そして、推定時に置換した行については、ループ処理のS20において純スペクトル行列Kが計算されたときにも、同一行のスペクトルデータが混入成分の標準スペクトルデータに置き換えられる(S22)。つまり、ループ処理時に混入成分の標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件としている。
この終了条件としては濃度行列C及び純スペクトル行列Kの変動が十分に小さくなる条件が好ましい。例えば、S16〜S22までの処理を所定の回数(例えば100回)繰り返すことを終了条件としてもよい。
混合スペクトル行列Aから混入成分のスペクトルデータを取り除いて、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築部を設けてもよい。上述のようにループ処理し、純スペクトル行列K及び濃度行列Cを求めた後、混入成分に対応する純スペクトル行列Kの対応行、濃度行列Cの対応列をそれぞれ除去して純スペクトル行列K’、濃度行列C’を得る。それらを乗算することにより混合スペクトル行列Aが再構築され、混合スペクトル行列A’を得る(図5)。なお、ホワイトノイズはノイズ行列Nに分離されている。
濃度行列Cの各列が各成分の濃度分布を示しており、濃度行列Cを用いれば、各成分の濃度分布をモニタに分かりやすく表示することができる。
例えば、図6に示した濃度行列Cの列数が成分数となっており、濃度行列Cの一列目をA成分としたとき一列目はA成分の濃度分布となり、最終列をB成分としたとき最終列はB成分の濃度分布となる。濃度行列Cの縦方向が各測定位置に対応しているので濃度行列Cを用いれば、図6右欄のように試料面の測定位置ごとのA成分とB成分の濃度分布をモニタ上に表示できる。また、マッチング処理部28により、純スペクトル行列Kに含まれている該当成分の純スペクトルデータに相当する成分をスペクトルデータベース26から検索することにより、成分名を濃度分布と一緒に表示することができる。
成分(以下、特定成分)によっては他の成分がピークを示さない波長域にピーク(以下、特徴的なピーク)を示すことがある。スペクトルからその特徴的なピークを検出すれば、試料中に含まれる特定成分を認知できる。さらに、測定位置ごとにその特徴的なピークのピーク強度を測定することにより、その特定成分の濃度分布が得られる。
特定成分の濃度分布が得られたら、図3の混合スペクトル行列Aの計算(S12)の段階で、このようにして求めた特定成分の濃度分布と特定成分の標準スペクトルとを乗算し、特定成分のスペクトル行列を求め、混合スペクトル行列Aからその特定成分のスペクトル行列を差し引く処理を実行するとよい。
そうすることにより、混合スペクトル行列Aから特定成分のスペクトルデータを取り除くことができるのである。MCR処理を行う前にこのような前処理を行えば、より好適に分析できる。
本発明はクロマトグラフィにも応用できる。クロマトグラフィにおいては、サンプル挿入からの時間経過に伴って溶出する試料の変化を測定する。溶出試料のスペクトルを測定することにより、溶出試料について各成分の濃度の時間変化を測定することができる。
本発明をクロマトグラフィで使用する場合、各行列を以下のように構成する。混合スペクトル行列Aについては、縦方向を測定時間に対応させ、横方向をスペクトルの波長方向に対応させる。つまり、測定時間ごとのスペクトルデータを混合スペクトル行列Aの各行に入力する。また、純スペクトル行列Kについては、縦方向を成分数に対応させ、横方向をスペクトルの波長方向に対応させる。濃度行列Cについては、縦方向を測定時間に対応させ、横方向を成分数に対応させる。後は、実施例1と同様の処理となる。マッピング測定と同様に処理することにより、各成分のスペクトルデータを示す純スペクトル行列Kが得られるとともに、各成分の濃度の時間変化を示す濃度行列Cが得られる。
実際に6成分(酸化チタン、アセトアミノフェン、ステアリン酸カルシウム、カフェイン、デンプン、アセチルサリチル酸)が混合した試料を用意し、ラマン分光測定により混合スペクトル行列Aを得て、MCR分析を行った。また純スペクトル行列Kの初期設定時の行数を6に設定した。
本実施例の測定対象成分は、酸化チタン、アセトアミノフェン、ステアリン酸カルシウム、カフェイン、デンプン、アセチルサリチル酸の6成分であるが、このうちデンプンについては予め試料中に含まれていると仮定している。参考として、各成分の標準スペクトルデータを図9に示す。そして、デンプンのスペクトルを純スペクトル行列Kの拘束条件に設定した場合(実施例1)と、拘束条件に設定しなかった場合(比較例1)とに分け、それぞれの場合で混合スペクトル行列Aの再構築を行った。結果として、いずれの場合でもホワイトノイズは有効に除去されたが、デンプンのスペクトルを拘束条件とした実施例1の方が、分析精度が高いものとなった。
次に、スライドガラスに起因するスペクトルをスペクトルノイズとみなし、つまり、スライドガラスを混入成分とみなして、実施例1と同様に、スライドガラスの標準スペクトルデータを純スペクトル行列Kの拘束条件に用いてMCR分析を実施した。また、分離された純スペクトルを用いて混合スペクトルを再構築することにより、ホワイトノイズを除去した混合スペクトルを作成した。さらに、スライドガラス以外の成分の純スペクトルを用いて混合スペクトルを再構築することにより、スライドガラスのスペクトルを除去した混合スペクトルを作成した。
12・・・測定部(試料測定部)
14・・・入力部
16・・・混合スペクトルデータ演算部(混合スペクトル行列計算部)
18・・・純スペクトル行列初期値推定部(純スペクトル行列推定部)
20・・・濃度行列・純スペクトル行列記憶・演算部(ループ処理部)
22・・・画像出力部
24・・・画面
26・・・スペクトルデータベース
28・・・マッチング処理部
Claims (16)
- 複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する方法であって、
前記測定位置又は測定時間ごとに前記試料のスペクトルデータを得る試料測定工程と、
横方向を前記スペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料のスペクトルデータを行列成分とする前記混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算工程と、
前記混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記試料の成分数として、推定された前記各成分のスペクトルデータを行列成分とする前記純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定工程と、
横方向を前記試料の成分数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料の各成分の濃度データを行列成分とする前記濃度行列Cの初期値を形成するとともに、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理工程と、を備え、
前記ループ処理工程は、
前記混合スペクトル行列Aと前記純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より前記濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置き換える濃度行列計算段階と、
前記混合スペクトル行列Aと前記濃度行列計算段階で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置き換える純スペクトル行列計算段階と、を有し、
前記濃度行列計算段階と前記純スペクトル行列計算段階とを交互に繰り返して、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、
前記ループ処理の少なくとも途中から、前記純スペクトル行列計算段階において、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、
前記ループ処理で得られた前記純スペクトル行列K及び前記濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、前記試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1記載のノイズ除去方法において、
前記純スペクトル行列推定工程は、形成された前記純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換する処理を含み、
前記純スペクトル行列計算段階では、前記純スペクトル推定工程にて置換された行と同じ行を、前記試料に含まれている成分の標準スペクトルデータと置換することを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1又は2に記載のノイズ除去方法において、
前記純スペクトル行列推定工程では、前記混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を前記純スペクトル行列Kの成分数に指定し、前記主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に前記成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項3記載のノイズ除去方法において、
前記純スペクトル行列推定工程にて、前記複数の固有ベクトルを低次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1〜4のいずれかに記載のノイズ除去方法において、
前記混合スペクトル行列計算工程にて、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を前記測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき前記特定成分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、前記混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行うことを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1〜5のいずれかに記載のノイズ除去方法は、
前記純スペクトル行列Kの収束値から前記混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、前記濃度行列Cの収束値から前記混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、前記純スペクトル行列K’と前記濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築する再構築工程を備えることを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ除去方法において、
前記試料測定工程は、試料表面をマッピング測定するものであり、前記試料上の各測定位置をスペクトル測定することを特徴とするノイズ除去方法。 - 請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ除去方法において、
前記試料測定工程は、クロマトグラフィによる測定であり、測定時間ごとに溶出試料のスペクトルを測定することを特徴とするノイズ除去方法。 - 複数成分を含む試料の二次元若しくは三次元上の異なる測定位置ごとの、又は、複数成分を含む試料について測定時間ごとの、複数のスペクトルデータから混合スペクトル行列Aを求め、該混合スペクトル行列Aを多変量カーブ分解により純スペクトル行列K及び濃度行列Cに分解し、これら純スペクトル行列K及び濃度行列Cに基づいて前記スペクトルデータに含まれるノイズを除去する装置であって、
前記測定位置又は測定時間ごとに前記試料のスペクトルデータを得る試料測定部と、
横方向を前記スペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料のスペクトルデータを行列成分とする前記混合スペクトル行列Aを形成する混合スペクトル行列計算部と、
前記混合スペクトル行列Aから各成分のスペクトルデータを推定するとともに、横方向をスペクトルデータの波長又は波数とし、縦方向を前記試料の成分数として、推定された前記各成分のスペクトルデータを行列成分とする前記純スペクトル行列Kの初期値を形成する純スペクトル行列推定部と、
複数成分の標準スペクトルデータを記憶しているスペクトルデータベースと、
横方向を前記試料の成分数とし、縦方向を前記測定位置又は測定時間として、前記試料の各成分の濃度データを行列成分とする前記濃度行列Cの初期値を形成するとともに、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を求めるループ処理部と、を備え、
前記ループ処理部は、
前記混合スペクトル行列Aと前記純スペクトル行列Kからなる式(C=AKT(KKT)−1)より濃度行列Cを求め、該濃度行列Cの負の値をとる要素を0に置きかえる濃度行列計算部と、
前記混合スペクトル行列Aと前記濃度行列計算部で得た濃度行列Cからなる式(K=(CTC)−1CTA)より純スペクトル行列Kを求め、該純スペクトル行列Kの負の値をとる要素を0に置きかえる純スペクトル行列計算部と、を有し、
前記濃度行列計算部での濃度行列Cの計算と、前記純スペクトル行列計算部での純スペクトル行列Kの計算と、を交互に繰り返して、前記濃度行列C及び前記純スペクトル行列Kの収束値を得るとともに、
前記純スペクトル行列計算部は、前記試料に含まれる成分の標準スペクトルデータを前記スペクトルデータベースから選択し、前記ループ処理部の繰り返し計算の少なくとも途中から、計算された純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換する処理を実行し、
前記ループ処理部によって計算された前記純スペクトル行列K及び前記濃度行列Cの収束値から、ノイズに該当する混入成分のスペクトルデータと濃度データを得て、前記試料のスペクトルデータからノイズを除去することを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項9記載のノイズ除去装置において、
前記純スペクトル行列推定部は、前記試料に含まれる成分の標準スペクトルデータを前記スペクトルデータベースから選択し、形成された前記純スペクトル行列Kのいずれかの一定の行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換する処理を行ない、
前記純スペクトル行列計算部は、前記純スペクトル推定部にて置換された行と同じ行を、選択した前記標準スペクトルデータと置換することを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項9又は10記載のノイズ除去装置において、
前記純スペクトル行列推定部は、前記混合スペクトル行列Aを主成分分析して複数の固有ベクトルを求め、採用する固有ベクトルの数を前記純スペクトル行列Kの成分数に指定し、前記主成分分析による低次の固有ベクトルから昇順に前記成分数だけの固有ベクトルが各成分のスペクトルデータであると推定することを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項11記載のノイズ除去装置において、
前記純スペクトル行列推定部は、前記複数の固有ベクトルを低次から順に並べて、低次の固有ベクトルから順に累積寄与率を算出し、該累積寄与率をもとに前記純スペクトル行列Kの成分数を決定することを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項9〜12のいずれかに記載のノイズ除去装置は、さらに、
前記スペクトルデータベースから前記純スペクトル行列Kの行に含まれているスペクトルデータに対応する標準スペクトルデータを検索するマッチング処理部を備え、
前記マッチング処理部は、前記純スペクトル行列Kの収束値の行に含まれているスペクトルデータを、前記スペクトルデータベースでマッチング処理することにより、対応する成分を同定することを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項13記載のノイズ除去装置は、さらに、
前記マッチング処理部によって同定された成分、及び、該成分についての前記濃度行列Cの収束値に含まれている濃度データに基づく濃度分布又は濃度変化、を表示する画面部を備えていることを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項9〜14のいずれかに記載のノイズ除去装置において、
前記混合スペクトル行列計算部は、他の成分がピークを示さない波長域においてピークを示すような特定成分のピーク強度を前記測定位置又は測定時間ごとに測定し、該ピーク強度に基づき前記特定性分の濃度分布又は濃度変化を求め、該濃度分布又は濃度変化と該特定成分の標準スペクトルデータとから該特定成分のスペクトルデータ行列を得、前記混合スペクトル行列Aから該特定成分のスペクトルデータ行列を差し引く処理を行うことを特徴とするノイズ除去装置。 - 請求項9〜15のいずれかに記載のノイズ除去装置は、
前記純スペクトル行列K及び濃度行列Cの各収束値を用いて混合スペクトル行列Aを再構築する再構築部を備え、
前記再構築部は、前記純スペクトル行列Kの収束値から前記混入成分に対応する行を除去して純スペクトル行列K’とし、前記濃度行列Cの収束値から前記混入成分に対応する列を除去して濃度行列C’とし、前記純スペクトル行列K’と前記濃度行列C’とを乗算することにより、混合スペクトル行列Aを再構築することを特徴とするノイズ除去装置。
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