JP6061338B2 - 六方晶窒化タングステンの合成方法 - Google Patents
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h−W2N3構造の六方晶窒化タングステンは、副合成物として他の結晶相に混じって少量合成されているに過ぎない(非特許文献2)。
しかし、この方法では、W製又はMo製カプセルを用い、このカプセルを破損させなくては、六方晶窒化タングステンを合成できなかった。このため、1回の合成ごとにカプセルの使用コストがかかるという問題が発生した。また、カプセルを破損させたときに、外部の不純物が混入するおそれが発生した。また、合成量を上げるため、大きなカプセルを使用した場合、カプセル近傍ではハロゲン化物生成反応を進行させることができるが、カプセル中心部分ではハロゲン化物生成反応させることができず、六方晶窒化タングステンの生成効率が低くなるという問題が発生した。
本発明は、以下の構成を有する。
(3)加熱温度が1400℃以上1700℃以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(5)前記耐圧耐熱カプセルが貴金属からなり、前記耐圧耐熱カプセルを構成する貴金属が、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osの群から選択されるいずれかの貴金属又はこれらの貴金属の任意の組み合わせに係る合金であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
(6)前記耐圧耐熱カプセルが2層構造であり、外側層が前記貴金属からなり、内側層がWからなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの六方晶窒化タングステンの合成方法。
(7)ハロゲン化遷移金属が塩化タングステン(WCl6)であり、アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN3)であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
耐圧耐熱カプセルを破損或いは試薬と化学反応させないので、耐圧耐熱カプセルを再度使用することができ、製造コストを低減できる。
また、耐圧耐熱カプセルは変形するものの、破損して外部環境と直接接することがないので、耐圧耐熱カプセルを破損させて合成する場合に混入するおそれのある不純物の存在を低減して、不純物濃度小さくできる。
耐圧耐熱カプセル内で均一にハロゲン化物形成用微小片を分散させることができるので、カプセルを大きくしても、耐圧耐熱カプセル内で均一にハロゲン化物生成反応を進行させることができ、六方晶窒化タングステンの生成効率を高めることができる。
合成した六方晶窒化タングステンは、切削に用いる超硬工具のブレード材料又は硬質皮膜材料等に用いることができる。六方晶窒化タングステンをブレード材料又は硬質皮膜材料等に用いることにより、超硬工具の加工精度を向上させることができる。また、超硬工具を用いて行う部品の製造コストを低減させることができる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法の一例を示すフローチャート図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、反応粉末充填工程S1と、六方晶窒化タングステン合成工程S2とを有する。
この工程では、ハロゲン化タングステンからなる第1の原料粉末と、アルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物からなる第2の原料粉末と、ハロゲンと反応可能な金属からなるハロゲン化物形成用微小片とを、耐圧耐熱カプセル内に充填する。
高圧セル1は、円筒状のパイロフィライト11と、パイロフィライト11の筒内に、筒内壁面上部側及び下部側に接するように配置された2つのスチールリング12A、12Bと、スチールリング12A、12Bの中心軸側に配置された円筒状のカーボンヒーター15と、カーボンヒーター15の内部に配置された耐圧耐熱カプセル16と、耐圧耐熱カプセル16の内部に充填された原料粉末17と、有して概略構成されている。
パイロフィライト11とカーボンヒーター15の間の隙間には充填用粉末13が充填されており、カーボンヒーター15と耐圧耐熱カプセル16の間の隙間にも充填用粉末14が充填されている。
以下、図2に示す高圧セル1の作製工程を説明する。
次に、混合原料粉末と同量のハロゲンと反応可能な金属からなるハロゲン化物形成用微小片20を、混合原料粉末に混合して、反応粉末17を調製する。
上記金属はハロゲン化物を形成しやすく、さらに、目的生成物である窒化タングステン中に不純物として混入しても、その特性を大きく低下させない金属種である。
これらの材料は、後述する高温高圧反応で排出されるハロゲンガスをハロゲン化物に変換して、高温高圧反応を速やかに進行させ、六方晶窒化タングステンを効率よく合成させることができる。
特に、タングステン又はモリブデンは、塩素と反応しやすい材料であり、好ましい。
次に、この原料粉末17を、一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状の耐圧耐熱カプセル16内に充填してから、他端側を円板状の蓋で密封する。
耐圧耐熱カプセル16を構成する貴金属としては、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osの群から選択されるいずれかの貴金属又はこれらの貴金属の任意の組み合わせに係る合金を挙げることができる。
これらの金属はハロゲン化物を形成し難く、合成反応中も外部環境と反応試薬を遮断することが可能である。また、反応終了後に改鋳することで容易に耐圧耐熱カプセルとして再利用することができる金属種である。
これらの貴金属は、高温高圧条件下でも破損あるいは試薬と化学反応し難く効率的に、六方晶窒化タングステンを合成でき、また、合成した六方晶窒化タングステンに外部の不純物を混入させないようにできる。また、何度も再利用でき、製造コストを低減することができる。
特に、プラチナは塩素と反応しにくく、かつ、高温高圧状態でも安定で破損しにくい材料であるため、好ましい。
なお、耐圧耐熱カプセル16の材料として、たとえばSiO2系、Al2O3系、ZrO2系、BN系等のセラミックスを用いることもできる。
また、耐圧耐熱カプセル16が2層構造であり、外側層が前記貴金属からなり、内側層がWからなるものとしてもよい。これにより、耐圧耐熱性が向上され、容易に破損されない。また、内側層のWは、はハロゲンガス・トラップとして働き、ハロゲン化物を生成する。
充填用粉末としては、例えば、NaCl+10wt%ZrO2を挙げることができる。
以上のようにして、高圧セル1を作製する。
この工程では、前記耐圧耐熱カプセルに1GPa以上の圧力を印加した状態で加熱して、六方晶窒化タングステンを合成する。
以下、図3に示す加熱加圧装置21を用いて、説明する。
まず、加熱加圧装置21のシリンダー27A、27Bの間であって、アンビル25A、25Bの間の所定の位置に、薄い金属板からなる導電体26A、26Bを接触させて、高圧セル1を配置する。
次に、これらの部材と高圧セル1との間に、パイロフィライト28を充填する。
印加圧力は1GPa以上とすればよく、3GPa以上にすることがより好ましく、5GPa以上とすることがさらに好ましい。加圧により、試薬同士の密着性を高め、反応を進めることができ、六方晶窒化タングステンを容易に合成できる。逆に、15GPa以上とすることは装置の部材の寿命等を考慮して、好ましくない。
この高温高圧状態を1時間以上保持することが好ましい。これにより、原料粉末を効率よく高温高圧反応させることができ、収率を高めることができる。1時間未満では未反応原料が残留する場合が発生する。
反応式(1)、(2)のいずれが支配的となるかは、高温高圧条件、仕込み組成の比率により決定される(以下、各競合反応において同じ)。
δ−WN又はh−W2N3の六方晶窒化タングステンが主生成物として合成される。副生成物として、塩(BX2)が合成され、窒素(N2)ガスが排出される。
具体的には、アルカリ土類金属窒化物としてCa3N2を用いることができる。この場合、高温高圧反応では、以下の反応式(9)、(10)で表される複分解反応が進行する。
なお、以上の高温高圧反応で、アルカリ金属、アルカリ土類金属は混合して用いても良い。
本発明は、耐圧耐熱カプセル内にハロゲンと反応可能な金属からなるハロゲン化物形成用微小片20を混入している構成なので、生成されるハロゲンガスがハロゲン化物形成用微小片20と以下の反応式(11)により、ハロゲン化物とされる。
上記反応により、高温高圧反応とともに発生する塩素濃度を低下させることができ、高温高圧反応を速やかに進行させることができる。
次に、反応生成物を水で洗浄する。これにより、反応生成物に付着したNaClを溶解除去できる。
次に、反応生成物を溶媒(蒸留水)に分散してから、遠心分離器で沈降させて、沈降生成物を回収する。
本発明の実施形態である六方晶窒化タングステンの合成方法は、前記耐圧耐熱カプセルが2層構造であり、外側層が前記貴金属からなり、内側層がWからなる構成なので、耐圧耐熱カプセルを破損させることなく、不純物濃度を少なく、六方晶窒化タングステンを主生成物として合成することができる。
(実施例1−1)
図4は、本実施例で用いた高圧セルの構成を示す図であって、(a)は概観図(Bird’s−eye view)であり、(b)は横断面(Cross section)であり、(c)はカプセル断面図である。図5は横断面(Cross section)の詳細図である。
高圧セルは、円筒状のパイロフィライトと、前記パイロフィライトの筒内に、筒内壁面上部側及び下部側に接するように配置された2つのスチールリングと、前記スチールリングの中心軸側に配置された円筒状のカーボンヒーターと、前記カーボンヒーターの内部に配置された耐圧耐熱カプセルと、前記耐圧耐熱カプセルの内部に充填された反応粉末(混合原料粉末(Starting material)とハロゲン化物形成用微小片)と、有する。
パイロフィライトとカーボンヒーターの間の隙間及びカーボンヒーターと耐圧耐熱カプセルの間の隙間には、充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)が充填されている。
まず、塩化タングステン(WCl6)粉末とアジ化ナトリウム(NaN3)粉末を3:2(mol)の割合となるように混合して、混合原料粉末を調整した。
次に、タングステン(W)薄膜シートを1mm2角程度の複数片にハサミで切り取り、タングステン(W)からなるハロゲン化物形成用微小片を作製した。
次に、混合原料粉末と同量のハロゲン化物形成用微小片を、混合原料粉末に混合して、反応粉末を調製した。
次に、一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状のカーボンヒーターの内底部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)を敷き詰めてから、この耐圧耐熱カプセルを円筒状のカーボンヒーター内に同軸となるように配置し、耐圧耐熱カプセルとカーボンヒーターの内壁面との隙間に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)を充填し、更に、耐圧耐熱カプセルの上部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)を敷き詰めてから、他端側を円板状の蓋で密封した。
以上のようにして、高圧セルを作製した。
次に、高圧セルを、7.7GPa(7万7千気圧)に加圧した。
次に、加圧した状態で、1700℃に加熱した。
次に、1700℃の温度とし、7.7GPaに加圧した状態で、温度・圧力を1時間保持した。これにより、原料を高温高圧反応させた。
次に、反応生成物を水で洗浄した。これにより、反応生成物に付着したNaClを溶解除去した。
次に、反応生成物を溶媒(蒸留水)に分散してから、遠心分離器で沈降させて、沈降生成物(実施例1−1試料)を回収した。
タングステン(W)からなるハロゲン化物形成用微小片を混合原料粉末に混合せず、反応粉末を調製した他は実施例1−1と同様にして、比較例1−1試料を合成した。
加熱温度を1400℃とした他は比較例1−1と同様にして、比較例1−2試料を合成した。
加熱温度を1100℃とした他は比較例1−1と同様にして、比較例1−3試料を合成した。
実施例1−1及び比較例1−1〜1−3について、XRD測定を行った。
図6は、実施例1−1試料のXRDプロファイルである。
図6に示すように、実施例1−1試料については、W−O系化合物のピーク(点線)と、WN(WC−type)のピーク(細線)と、h−W2N3のピーク(太線)が観察された。つまり、反応試薬中に金属タングステンを添加することで、得られた化合物中にWN(WC−type)やh−W2N3が多量に検出された。塩素と反応性のない耐圧耐熱カプセルを用いた場合でも、金属タングステンを添加することで、六方晶窒化タングステンが生成可能であった。
図7に示すように、比較例1−1〜1−3試料では、六方晶窒化タングステンは生成しなかった。ピークはすべて六方晶窒化タングステンではなく、元素分析の結果からも検出されなかった。
白金カプセルは、塩素(ハロゲン)に、腐食されないため、反応時に塩素(ハロゲン)がカプセル内に留まり、窒化反応を阻害する。
図9は、実施例1−1試料の高圧装置内の反応の様子を示す考察図である。
白金カプセルは、塩素(ハロゲン)に、腐食されないため、反応時に塩素(ハロゲン)が耐圧耐熱カプセル内に留まる。しかし、塩素(ハロゲン)はハロゲンと反応可能な金属からなるハロゲン化物形成用微小片により、速やかにハロゲン化物に変換され、六方晶窒化タングステンの合成反応を促進する。
Claims (4)
- ハロゲン化タングステンからなる第1の原料粉末と、アルカリ金属窒化物又はアルカリ土類金属窒化物からなる第2の原料粉末と、タングステン(W)からなるハロゲン化物形成用微小片とを、Pt製耐圧耐熱カプセル内に充填する工程と、
前記Pt製耐圧耐熱カプセルに1GPa以上の圧力を印加した状態で、1400℃以上1700℃以下の加熱温度に加熱して、六方晶窒化タングステンを合成する工程と、を有することを特徴とする六方晶窒化タングステンの合成方法。 - 印加圧力が1GPa以上、加熱温度が1400℃以上1700℃以下の高圧高温状態を1時間以上保持することを特徴とする請求項1に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
- 前記Pt製耐圧耐熱カプセルが2層構造であり、外側層がPtからなり、内側層がWからなることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
- 前記ハロゲン化タングステンが塩化タングステン(WCl6)であり、前記アルカリ金属窒化物がアジ化ナトリウム(NaN3)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶窒化タングステンの合成方法。
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