本実施例では、大きな姿勢変化を伴わずに培養操作でき、かつ単位体積あたりの培養面積を拡大した培養容器、培養システム及び培養装置について説明する。図1を用いて、本発明の特長を示す最上層の培養容器100の例を説明する。
図1は、本発明の実施例1の培養システムを構成する一枚の培養容器の例を示す。具体的には、図1には、培養システムを構成する複数の培養容器のうち、最上層の培養容器100の上面図を示し、さらに、その下に、培養容器100のA−A断面図を示す。なお、後述するように、培養容器100は、他の培養容器及び蓋とともに積層され、密閉容器に収容されることによって培養システムを構成する。
最上層の培養容器100は、培養面101と、培養面101の四方を囲む辺部とを有する。辺部の上面の高さは、培養面101より高く、この高さが培養容器100全体の高さとなる。培養面101と、その四方の辺部とによって囲まれ、上方が開口した培養空間には、後述するように、液相の培地を貯留することができる。すなわち、培養面101は培養容器100の培養空間の底面に相当する。
一方の辺部には、上下に貫通している複数の貫通穴105、106等が設けられる。各貫通穴は、培養容器100の下に設置された下層の培養容器につながる。培養容器100に設けられた貫通穴105、106等の数は、培養容器100より下層の培養容器の数と同一である。
貫通穴105等が設けられた辺部にはさらに上面側に開口し下面側に貫通していない穴102が設けられる。この非貫通穴102は、流路103によって培養面101に連結される。言い換えると、非貫通穴102に注入された液体は、流路103を通って培養面101上の培養空間に流入する。非貫通穴102の底面、流路103の底面及び培養面101の高さは同一であってもよい。非貫通穴102の底面と培養面101の高さが異なる場合、流路103の底面はそれらをなだらかに連結するように傾斜している。なお、例えば非貫通穴102の底面、流路103の底面及び培養面101の高さが同一である場合、非貫通穴102、流路103及び培養面101は、一体化された均一の深さの窪みを形成する。
この非貫通穴102の側面上部には、隣接する貫通穴105につながる流路104が形成されている。流路104の底面の高さは、培養面101、非貫通穴102及び流路103のいずれの底面より高く、辺部の上面の高さよりは低い。すなわち、流路104は、培養面101側から見ると、培養面101から流路104の底面までの高さを有する堰のように構造になっている。
一方、非貫通穴102、流路103等が設けられた辺部とは培養面101を挟んで反対側の辺部には、貫通穴191及び193が設けられている。図1では当該反対側の辺部の両端近傍にそれぞれ貫通穴191及び193が設けられるが、どちらか一方のみが設けられてもよい。
貫通穴191が設けられた辺部には、貫通穴191と培養空間とを連結する流路192が形成されている。この流路192の底面の高さは、培養面101より高く、辺部の上面の高さよりは低い。つまり、流路192は、培養面101から見ると、培養面101から流路192の底面までの高さを有する堰のような構造になっている。同様に、貫通穴193と培養面101とを連結する流路194が設けられる。この流路194も流路192と同様の構造を有する。
通常の培養時には培養容器100は水平に静置されており、上記で説明した堰の高さより培地の水面が低くなるため、培地は培養面101上にとどまり、培養面101の外に移動することはない。
培養容器100は、さらに、培養面101に設けられた支柱115を有する。この支柱115の高さは、培養容器100の辺部の高さと同一である。このため、後述する図2A等に示すように複数の培養容器が積層された場合、一つの培養容器の支柱115の上面が、その上層の培養容器の支柱115が設けられた位置の底面に接する。この支柱115は、培養面101を形成する部材が自重及び培地の重さによって下方にたわむことを防ぎ、培養面101の水平を維持するために設けられるものである。図1には培養面101の中心に設けられた円柱状の一つの支柱115を示すが、支柱115の形状は円柱以外であってもよく、また複数の支柱115が設けられてもよい。培養面101の面積とそれを形成する部材の強度との関係で、当該部材のたわみが十分に小さい場合には、支柱115を設けなくてもよい。複数の培養容器を積層した時の単位体積当たりの全層の培養面の合計面積を増やすためには、各層の培養容器の高さを小さくすることが望ましく、そのためには培養面の部材も薄くすることが望ましいが、それによる強度不足を支柱115によって補い、培養面の水平を維持することができる。
次に、図2A及び図2Bを用いて、本発明の実施例1の積層状態の培養容器及び培地の流路について説明する。
図2Aには、積層状態の複数の培養容器及び蓋からなる培養システムの上面図、及び、そのB−B断面図を示す。積層された培養容器の最上部に設置された部材C000は、培養容器100等の蓋に相当し、以後蓋C000と記載する。そのすぐ下の層は最上層の培養容器100、その下に培養容器200、さらにその下には培養容器300というように、必要な数の培養容器が積層される。図2AのB−B断面図は、蓋C000及び第5層までの積層した培養容器100〜500を示している。
なお、以下の説明で引用される参照符号のいくつかは、図2Aでは省略されているが、図2B又は図3等に記載されている。また、図2A等では省略されているが、本実施例の培養システムはさらに積層された複数の培養容器の全体を収容する密閉容器を含む。密閉容器については図8等を参照して後述する。
蓋C000は複数の貫通穴C001〜C006等が開いているだけの板状の部材である。最上層である第1層の培養面101は、非貫通穴102と流路103でつながっている。B−B断面図では、培養面101と流路103の底面が同じ高さであるため、流路103を示している。同様に、第2層の培養面201は流路203で非貫通穴202とつながっている。以下同様に、第3層、第4層及び第5層の培養面は、それぞれ流路303、流路403及び流路503で非貫通穴302、402及び502とつながっている。点線で囲ったD部の拡大図を図2Bに示す。
第1層の培養容器100において、非貫通穴102は、流路103を通じて培養面101とつながっている。さらに、非貫通穴102は、その隣に設けられた貫通穴105と、非貫通穴102の側面上部の高い位置で、流路104を通じて連結される。第1層の培養容器100と第2層の培養容器200とが積層されている状態では、第1層の貫通穴105は、第2層の培養容器200の非貫通穴202に連結される。したがって、非貫通穴102は、流路104、貫通穴105、非貫通穴202及び流路203を通じて培養面201につながる。
同様に、第2層の培養容器200においても、非貫通穴202が流路204を通じて隣の貫通穴205につながる。貫通穴205は、第3層の非貫通穴302に連結し、さらに流路303を通じて、第3層の培養容器300の培養面301につながる。以下同様にして、非貫通穴302は、流路304を通じて貫通穴305につながり、貫通穴305は第4層の培養容器400の非貫通穴402に連結し、流路403を通じて第4層の培養容器400の培養面(図示省略)につながる。非貫通穴402は、流路404を通じて貫通穴405につながり、第5層の培養容器500の非貫通穴502に連結し、流路503を通じて第5層の培養容器500の培養面(図示省略)につながる。非貫通穴502は、流路504及び貫通穴505を通じてさらに下層の培養容器(図示省略)の培養面(図示省略)につながる。このように、本実施例の培養容器システムは、各層の非貫通穴が、隣の貫通穴につながる流路を通じて、下層の培養面につながる構造を有している。このような貫通穴と非貫通穴との位置関係は、後述する図3にも示される。
蓋C000にある貫通穴C001の上部から液体(例えば培地)を注入すると、図2BのB−B断面図では、第1層の培養面101につながる流路103の底面で液体は受け止められ、培養面101に広がっていく。液体の高さLLが、第1層の流路104の底面の高さを越えると、液体は、流路104を伝わって貫通穴105を通り、非貫通穴202にはいり、第2層の培養面201につながる流路203で受け止められ、培養面201に広がっていく。このように順次流路及び貫通穴を伝ってより下段の層に液体は流れていく。
図3は、本発明の実施例1の各層の貫通穴及び非貫通穴の位置関係を説明する図であり、平面図における各流路の関係を示すために、各層をずらした状態の積層された培養容器の上面図を示している。本来は、図3の矢印で示すように、各層の培養容器は蓋C000の端面にそろえて積層される。
各培養容器の培養空間は、積層されていない状態では、図1に示すように上方が開口しているが、積層された状態では、上層の培養容器の下面(最上層の培養容器の場合は蓋C000の下面)によって上方が区切られる。各培養容器の辺部のうち、貫通穴、非貫通穴及び流路以外の部分の上面がその上層の培養容器の下面(又は蓋C000の下面)と密着する。このため、例えば培養容器100の外部から培養容器100の培養空間に通じる流体の経路は、流路103等、非貫通穴102等及び貫通穴C001(又は貫通穴191等)を経由する経路以外に存在しない。
培養容器100の貫通穴105の隣の貫通穴106は、培養容器200の貫通穴205に連結し、さらにその隣の貫通穴107は、培養容器200の貫通穴206に連結する。第2層の貫通穴205の隣の貫通穴206は、培養容器300の貫通穴305に連結する。蓋C000の貫通穴C001、C002、C003及びC004は、それぞれ、非貫通穴102、貫通穴105、106及び107に連結する。これら以外の貫通穴及び非貫通穴の位置関係は、図2A、図2Bを参照して説明した通りであるため、説明を省略する。
なお、最下層の培養容器(図示省略)は、非貫通穴102と同様の貫通穴(図示省略)、流路103と同様の流路(図示省略)、貫通穴191及び193と同様の貫通穴(図示省略)、並びに流路192及び194と同様の流路(図示省略)を有するが、貫通穴105と同様の貫通穴及びそれにつながる流路104と同様の流路は有しない。
培養システムの全体が水平に静置されていれば、流路104の高さになるまで、液体は充満する。通常、培地は高価なため、最下層から溢れることがないように、あらかじめ決められた量が注入される。例えば、全ての培養容器に流路104等の高さまで注液した場合の培地の総量をあらかじめ計算し、その量だけの培地を注液すれば、各層には流路104等の高さの量の培地が注入され、最下層の培養容器から培地が溢れることなく注液が終了する。
このとき、切断線B−Bと平行な軸の周りに培養システム全体を回転させ、傾斜させる。そのための駆動機構については後述する(図9等参照)。図4は、このように傾斜させたときの培養容器100のA−A断面図を示している。図4(a)は水平状態のときを示しており、培養状態(すなわち培養面101の上に培地が貯留し、そこで細胞等が培養されている状態)がこれにあたる。図4(b)は、蓋C000の貫通穴C001から、つまり図4(b)の注入口Sから培地を注入するときの傾斜した培養容器100のA−A断面図を示している。水平線Hに平行に液面は形成されるから、流路104の高さまで液面がくれば、この流路を通じて液体がオーバーフローし、次の下層の培養容器200に液体は移っていくため、第1層にはこれ以上培地は入らない。
図4(b)のように、非貫通穴102等を有する辺部が、培養面101を挟んでそれに対向する貫通穴191等を有する辺部より低くなるように、培養システム全体を一様に傾斜させると、液体は、培養面101等の上の培養空間全体に充満する前に流路104等からオーバーフローする。すなわち、液体は傾きの量が大きいほど、より早く次の層に伝わっていくことになり、各培養容器の培養面上に貯留する液体の体積を傾き角度によって調整することができる。もちろん、注入する液体の量は、予め所定量を注入することで各層に所定量を注入することになる。これによって、積層された全ての培養容器に、図4(b)に示す培養容器100と同等の量の培地が注入された時点で注入を終了させることができる。
このように、液体の注入は注入口である貫通穴C001の一箇所で行い、培養システム全体を傾けることで、各層の液体体積を所望の体積に調整することができる。すなわち、注入するチューブの本数は1本で十分であり、層ごとに液体を注入するためのチューブを設ける必要がなくなるため、構成の簡素化が図られ、かつ容易に液量の調整ができる。
廃液する場合には、図4(c)に示すように、培養システム全体を注液時とは逆の方向に傾けることで、液体は流路192及び貫通穴191を通して排出口Dに落ちていく。排液の場合は、本実施例1では、2箇所に貫通穴191及び193を設けているので、一軸(図1、図4の例では切断線A−Aに平行な軸)周りの傾斜では2箇所から廃液できる。さらに、もう一軸周りに(例えば、図4(c)のように傾斜させた上で、さらに貫通穴191が貫通穴193より低くなるように)培養システムを傾斜させ、2次元に傾斜姿勢をとることによって、残留する排液の量をごくわずかにすることができる。
一方、気相の流れについて説明する。注液する場合には、液体の注入口は蓋C000の貫通穴C001の1箇所のみであるが、気相については、注液側の複数の貫通穴C001、C002等のそれぞれが直接各層の非貫通穴に通じている。例えば、図2B及び図3等に示すように、非貫通穴302は、貫通穴205、流路204、非貫通穴202等を介して貫通穴C001にも通じているが、貫通穴205及び106を介して貫通穴C003にも通じている。したがって、各層の培養面に直接通じる同じ面積の開口部があることになり、数週間にわたる培養時間から見れば、ゆっくりとした気相供給では各層間で供給される気相の量に差はないと考えられる。各層にいたる気相の流路の長さが異なるが、流路自体は真直ぐであるから、長さの相違が気相の流量に与える影響は小さいと考えられる。このため、本実施例1では、気相についても各層の差はなく、培養環境を維持できる。
培養層の層数(すなわち培養システムに含まれる培養容器の数)は、一枚の培養容器の培養面積と要求される最大培養面積から求められる。例えば、要求最大培養面積を25000平方センチメートルとし、各層の培養容器の培養面を32センチメートル×38センチメートルとすると、21層の培養容器を積層することによって、要求された最大培養面積を有する培養システムを実現できる。
また、一層の培養容器に厚さは、培地の水深、気相領域の高さだけでなく、素材表面の撥水性も考慮して設計する。さらに、非貫通穴から隣の貫通穴に通じる流路の底面の高さ及び排出時の流路の底面の高さなどを考慮する必要がある。例えば、培地水深2ミリメートル、気相高さ4ミリメートルで、培養面を形成する部材の厚みを2ミリメートルとすると、それらの合計は8ミリメートルであるが、最終的には細胞種により培養可能な培養面の親水性の度合いにより、培地水深を最適化してよい。また、培地に細胞を播種したときの攪拌動作で流路からもれる培地が想定されるため、これを少なくするためには、流路の底面にある程度の高さが必要となる。先の例で、8ミリメートル厚さに液が動くときの余裕をとって、各層の培養容器の厚みを10ミリメートルとすると、21層の培養容器に蓋を加えることによって、培養システム全体の高さは220ミリメートル程度になる。この程度であれば、培養システム全体を傾斜させたときの水平移動の影響も大きくない。
本実施例2は、気相の通気性には実施例1に比べ低下するものの、培養容器製作にあたり例えば、射出成型などの手法において、金型パターンを最小限度の数にして製作できる培養容器を示している。実施例2の構成要素のうち、実施例1と同じ参照符号が付されたものは、以下に特記しない限り、当該参照符号が付された実施例1の構成要素と同じであるため、説明を省略する。
図5は、本発明の実施例2の最上層の培養容器100の説明図である。実施例2の培養容器100は、貫通穴105以外の貫通穴が設けられていないことを除いて、実施例1の培養容器100と同じである。
図6は、蓋C000と第5層までの積層状態にある培養容器100〜500の上面図及びB−B断面図を示している。図7は、蓋C000と第3層までの培養容器100〜300の積層状態を平面図で示している。図7には、分かりやすくするために、各層をずらして示しているが、実際は蓋C000の端面に揃えて培養容器100〜300が積層されている。
図6の断面図では、蓋C000の貫通穴C001から注入した培地は、最上層の培養容器100の流路103によって受け止められ、第1層の培養面101に広がる。非貫通穴102の隣の貫通穴105への流路104の位置の高さにまで液面が上がってくると、培地は、流路104を伝って貫通穴105に入り、第2層の流路203によって受け止められ、培養面201に広がっていく。第2層の非貫通穴202の隣の貫通穴205は、図1とは異なり、反対側、すなわち、上層の培養容器100の非貫通穴102の直下に設けてある。このため、培地は、液面が上がってくると、流路204を通って貫通穴205を伝って、第3層の培養面301への流路303に入り、第3層の培養面301に広がっていく。以下同様にして、下層に培地が入っていく。
この実施例2では、最上位層の100とその下層にある第3層の培養容器300、第5層の培養容器500など奇数層目の培養容器は全て同じものになっている。また、第2層の培養容器200は、第4層目の培養容器400等、偶数層目の培養容器と同じものになっている。このため、二種類の培養容器があれば、必要な層数の培養容器の積層化が可能である。図7の平面図においても、そのことが確認できる。
本実施例2では、気相に関しては、培地の流路と同じ経路を経て各層に供給されることになる。このため、図1の実施例1に比べると、各層の気相については、単位時間当たりの供給量に差が生じる可能性がある。しかし、蓋C000及び各培養容器は廃液用の貫通穴(例えば貫通穴C191、C193等)も有しているため、こちらを気相用に流用すれば、供給量の差は小さくできる。例えば、貫通穴C193を気相の供給に併用することで気相の各層間の差を低減できる。
以上、複数の培養容器が積層された培養システムの2種類の構成を実施例1及び実施例2で説明したが、これらにおいて、液体の培地を各層の培養面に供給し、排出する原理は同じである。
次に、これらの積層された培養容器からなる培養システムの実装について説明する。
実施例1及び実施例2に示した積層培養容器は、密閉容器に収容される。図8は、密閉容器に収容された積層培養容器からなる培養システムの一例を示す斜視図である。図9は、密閉容器を含む培養システムの一例を示す三面図である。なお、図8及び図9は、培養システムの例として、実施例1の積層された培養容器が密閉容器10に収容された状態を示すが、実施例2の積層された培養容器も同様に密閉容器10に収容される。後述する図10〜図12に示す例についても同様である。
図8(a)は積層された培養容器を収容した状態の密閉容器10の外観を、図8(b)は密閉容器の密閉蓋11、図8(c)は積層された培養容器、図8(d)は密閉容器の本体である収容容器12の例を示している。この構成では、密閉容器10の蓋11と積層された培養容器の最上部の蓋C000とで、積層された培養容器を、密閉容器本体の収容容器12内に圧着する形で密閉する。
密閉容器10には、培地注入口P01、培地排出口P02、気相供給口P03及び気相排気口P04が設けられる。これらは、あらかじめ部分ごとに滅菌処理をされ、清浄環境にて組み立てられる。各培養容器の形態は皿状であるため、容易に培養面などは表面処理して培養に最適な表面としておくことができる。
気相供給口P03は、密閉容器の蓋11の下面側に設けられた窪みに連結される。この窪みによって蓋11と蓋C000の間に形成された空間13は、蓋C000の全ての貫通穴につながり、気相供給口P03から気相供給したときに、調圧空間の役目を果たす。すなわち、気相供給口P03から注入された気体は、空間13及び蓋C000の各貫通穴を通って、最上層の培養容器100の非貫通穴102及び全ての貫通穴105等に流入する。
一方、培地注入口P01は、最上層の培養容器100の非貫通穴102に連結した蓋C000の貫通穴C001の直上に設けられる。このため、培地注入口P01から注入された液体の培地は、貫通穴C001を通って非貫通穴102のみに流入する。
また、培地排出口P02及び気相排気口P04は、それぞれ、最下層の培養容器の貫通穴191及び193に連結する。培地注入口P01からの培地の注入が終了し、培養システムが水平に静置された状態では、培地排出口P02及び気相排気口P04のいずれからも培地は排出されない。その状態で、気相供給口P03から気体が供給された場合、培地排出口P02及び気相排気口P04の両方から気体が排出される。
上記のように、各培養容器の培養空間に通じる流体の経路が、培地注入口P01、培地排出口P02、気相供給口P03及び気相排気口P04以外に存在しないように、積層された培養容器が密閉容器10によって密閉される。
図9は、21層の積層された培養容器とそれらを収容する密閉容器10を示しており、最下層の第21層の培養容器2100については断面図を示している。この例では、培地排出口P02の反対側に、培地排出口P02と同様の気相排気口P04を設けている。スペーサS01、S02、S03は、培養システムを台(図示省略)の上に置くときに台と収容容器12との間に設けられ、収容容器12を支持するスペーサを示している。
図10は、積層された培養容器を収容した密閉容器10の別の例を示している。図10では、密閉容器10から排出された培地及び細胞懸濁液を一時蓄える中間容器14が密閉容器10の下部に設けられる。この中間容器14の底部に液体排出口P05が、側面に気相排気口P06がそれぞれ設けられる。
また、図10(a)及び図10(d)に示しているように細胞観察用のカメラシステム90を密閉容器10の下部に設置することで、透明樹脂で製作された密閉容器10及び培養容器を通して、培養容器で培養されている細胞を観察することができる。カメラシステム90は、カメラ本体91、レンズ系92、照明93からなっている。
さらにまた、図10では、この密閉容器10を用いる自動培養装置への取り付けが容易になるような支持部材H01、H02、H03が密閉容器本体の収容容器12に設けてある。
図11は、積層された培養容器を収容した密閉容器10の構成のさらに別の例を三面図で示している。大量培養装置の場合、始めは小さい面積で培養し、細胞が充満状態、コンフルエント状態になると、それを継代して大きな面積の培養容器に播種しなおして、細胞数を増大させる。図11は、このためのはじめの培養用と継代後の培養用に培地注入口を分けた設けたもので、最上部の第1層は、この培養容器一枚でのみ培養でき、下層につながる流路104を設けていない。第2層以下には、これまでに説明したような下層につながる流路204等を設けた培養容器が積層されている。このため、第2層の培養容器200の非貫通穴202に培地を仲秋するための液体注入口P10が、培地注入口P01とは別に設けられている。これによって注入口が1つ増えるが、継代の前と後で容器を完全に分けることができ、操作が一部簡略化できる。
さらに、図11に示す培養システムには、密閉容器10を支持する脚L01、L02、L03が設けられる。例えば、脚L02と、脚L01、L03とを図11の線Eで示すような脚長に調節できれば、培養システム全体を脚L02側に傾けることができる。これは、図4(b)に示した培地注入時の姿勢に相当する。逆に、線Wのように脚長を調節すると、図4(c)に示した培地廃棄時の姿勢になるように、培養システム全体を脚L01、L03側に傾けることができる。
最後に、上記の培養容器を用いた自動培養装置の構成の例について、図12を用いて説明する。図12は、本発明の培養システムを用いた自動培養装置1の構成の例を示している。積層された培養容器を収容した密閉容器10は、恒温装置2の中に収容される。恒温装置2はヒータ28を備え、その温度を測定し、制御することによって、恒温装置2内の温度を一定に保つことができる。
恒温装置2の中で、密閉容器10は、これを支持し固定する支持部材21に取り付けられる。支持部材21は、密閉容器10を傾斜させることのできる搖動機構、ここでは3組の上下方向の駆動機構25、26、27に、それぞれ姿勢変化を伝え受動する接続部材22、24で姿勢を変えられるように取り付けられている。接続部材22等は、一軸の平行移動、その軸周りとそれに直行する軸周りのそれぞれ回転の3自由度を受動する機構でよい。密閉容器10には、密閉容器10の(すなわちそれに収容された培養容器の)傾斜を計測する傾斜センサ29が取り付けられる。
このほかに、装置内部には、送液ポンプ30、電磁弁などでチューブを切り替え、液又は気相を密閉容器10に送ったり、回収したりする弁機構31、細胞をモニタするカメラシステム90、などが設置されており、チューブで密閉容器10に接続されている。これらチューブ系は密閉容器とともに清浄環境において組み立てられ、密閉環境の清浄性を維持している。恒温装置2の外部には、気相調整器40、培地などを格納しておく冷蔵部50、排液などを保管する排液部51がある。必要なチューブで弁機構31等と冷蔵部50内の培地バッグ及び排液部51内の排液バッグ等が接続されている。
さらに、そのほか、全体を制御し、上位装置との通信を行う制御システム60が培養装置1に接続される。制御システム60は、いわゆるPC(Personal Computer)のような一般的な計算機であってよい。例えば、制御システム60は、傾斜センサ29が計測した密閉容器10の傾斜の値を取得し、その値に基づいて、密閉容器10の傾斜の量が所望の値になるように駆動機構25、26、27を制御する。例えば、制御システム60は、各培養容器に注入したい培地の量を示す値を入力されると、培養容器の寸法に基づいて、その量の培地を注入するために必要な傾斜量を計算し、傾斜センサ29の計測値が上記の計算された傾斜量となるように駆動機構25、26、27を制御してもよい。
播種を行う場合には、密閉容器10を所定量に傾けて、第1層に播種する。この場合は、第1層のみに入れるだけなので、傾けなくても良いかもしれない。その状態で、密閉容器に所定量細胞懸濁液と培地を入れる。
培地交換を行う場合は、密閉容器10を播種の場合と逆に傾けて培地を排出し、さらに逆に傾けて培地を供給する。その後、回収時期になれば、pbsを入れて洗浄し、トリプシンを入れて細胞懸濁液とし、回収する。次に、回収したものに培地を追加し、細胞懸濁液とし、密閉容器10を傾けて今度は全層に播種する。その場合も、1つの注入口から注入し続けることで全層に播種することができる。
このように、密閉容器10に接続されるチューブ系は、培地注入口P01、培地排出口P02、気相供給口P03及び気相排気口P04に接続される4本のみで十分であり、密閉容器10の傾斜を制御することで密閉容器に収容された複数の培養容器内での培養処理を実現できる。
以上の本発明の実施形態によれば、各培養容器は、その上下の培養容器と直接密着した状態で積層化できるような、皿状に厚みの薄い構造であり、多数枚を積層して培養容器としての密閉容器に構成できるため、単位体積あたりの培養面積を増大させることができる。
密閉容器内で積層している複数の培養容器の貫通穴及び非貫通穴を介して気相、液相が順次流れていくため、液相、気相ともに注入口は密閉容器についてそれぞれ1箇所あればよく、複数の培養容器のそれぞれにチューブを接続する必要がない。同様に、排出口も液相、気相のそれぞれについて密閉容器に1箇所ずつあればよい。このため、複雑なチューブ系を用いた気相及び液相の分配は不要となり、チューブ系を簡素化することができる。
上記の構造のため、密閉容器全体を水平に静置したままで、1箇所の注入口から注液することによって、各層ごとに均等に液体が入っていくため、均等注液、すなわち、各層に等量、均一に液を入れることができる。さらに、密閉容器全体をわずかに傾けることによって、各層に貯留する液量が所望の量になるように調節することもできる。このため、密閉容器全体を90度回転させるなど、大きく傾ける必要がなくなり、密閉容器全体を支持及び駆動する機構を簡素化することができるとともに、必要最小限の培地を注入することで培地の消費量を削減することができる。
各培養容器は積層し密閉容器内に固定されているため、外部とは4つのポートのみを介して接続され、ここの接続自体、もっともクリーンな環境で行うことで、密閉状態でチューブ系を構成するため、外部とのコンタミネーションの機会を低減できる。
各培養容器に開けられた貫通穴を通して、培地及び気体が入っていくとともに拡散し、ムラが低減できるため、培養環境としての気相、液相を最適に維持できる。特に、穴の数は培養容器に1つ確保されるため、換気能力確保の効果がある。また、気相の入力側は、各培養容器への穴を包括的に含むマニホールドが構成できるため、気相系を簡素化できる。
さらに、培養装置が密閉容器単位で構成されるため、装置の維持及び管理を容易化でき、容器の操作を自動化できる。
さらにまた、培養面に支柱を設けることで、培養容器の積層に伴い、全体の剛性を高めることができ、培養面の水平を維持することができる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。