例示的な態様の説明
本発明者らは、バイオインフォマティクスを用いて、想定膜貫通モチーフとそれに続く6つ(MAM6)または7つ(MAM7)の哺乳動物細胞侵入(mammalian cell entry; mce)ドメインをコードする推定外膜分子を発見し、これを多価接着分子(multivalent adhesion molecule; MAM)と命名した。本発明者らは、予想外に、MAM6またはMAM7が、幅広いグラム陰性動物病原体においてコードされているが、グラム陽性または植物病原性細菌ではそうでないことを見出した。対照的に、単一のmceドメインを含むタンパク質は、広く分布している。マイコバクテリア(Mycobacterium)種およびいくつかのグラム陽性細菌、例えばロドコッカス(Rhodococcus)種またはストレプトミセス(Streptomyces)種において、mceドメインは、第2の未知の機能のドメイン(DUF3407)と共に存在する(Arruda et al., 1993; Chitale et al., 2001)。1つのmceドメインおよびC末端低複雑性領域を含むタンパク質は、藻類、高等植物および細菌でみられるABC輸送体の付属成分であると考えられる。
本発明者らは、グラム陰性細菌由来の推定外膜タンパク質の新しいクラスを構成するMAMが細胞への付着に関与するかどうかを試験した。海洋および河口環境に出現し、貝類媒介食中毒の原因となり得るグラム陰性細菌である腸炎ビブリオを、MAM7の分析における代表的なグラム陰性細菌として使用した(Daniels et al., 2000)。以下で議論されているように、MAMは、宿主細胞膜とのタンパク質−タンパク質およびタンパク質−脂質相互作用の両方に関与することによって、感染の早期段階で、広範囲のグラム陰性病原体が宿主細胞に対する高親和性結合を確立できるようにする。この相互作用を利用し、本発明者らは、MAMを発現する非病原性細菌が、宿主細胞に対する様々なグラム陰性病原体の結合を防止することによって、宿主細胞を病原体媒介細胞傷害性から保護できることを実証した。この研究は、単離された組み換えMAMタンパク質の使用まで拡張され、そこでも肯定的な結果が得られた。本発明のこれらおよびその他の局面は以下でさらに議論されている。
1. MAM
本発明は、MAMのペプチドおよびポリペプチドに関する。腸炎ビブリオMAM7の例示的な配列は、SEQ ID NO:1に示されている。
A. ポリペプチドおよびペプチド
MAMポリペプチド/ペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21またはSEQ ID NO:26の配列を有する、90〜約830残基の長さの分子を含むであろう。特に好ましい長さは、すべての中間範囲を含む、850残基未満、800残基未満、750残基未満、700残基未満、650残基未満、600残基未満、550残基未満、500残基未満、450残基未満、400残基未満、350残基未満、300残基未満、250残基、200残基未満、150残基未満、100残基未満、75残基未満または50未満であり得る。
MAMポリペプチド/ペプチドはまた、mceドメインの数によって定義され得る。例えば、MAMポリペプチド/ペプチドは、7つを上回るmceドメイン、例えば、8〜10、8〜12、8〜14、8〜16および8〜20個のドメインの範囲を含む、8、9、10、11、12、13、14、15、16または20個のmceドメインを有し得る。あるいは、ドメインの数は、6、5、4、3または2つ以下のmceドメインを含む、7つまたはそれ未満であり得る。
ペプチドは、合成によってまたは組み換え技術によって作製され得、そして公知の方法、例えば沈殿(例えば、硫酸アンモニウム)、HPLC、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー(免疫親和性クロマトグラフィーを含む)または様々なサイズ分離(沈降、ゲル電気泳動、ゲルろ過)により精製される。
ペプチドは、様々な分子、例えば蛍光、発色または比色剤を用いて標識され得る。ペプチドはまた、他の分子に連結され得る。連結は、直接であっても個別のリンカー分子を通してでもよい。リンカー分子は、後に、インビボで切断に供され得、それによってペプチドから作用物質を放出し得る。ペプチドはまた、より大きな、そしておそらく不活性の、担体分子に連結することによって、多量体化され得る。
B. MAMのバリアントまたはアナログ
i) 置換バリアント
MAMペプチドのバリアントまたはアナログも細菌感染を阻害し得ることもまた本発明において企図されている。主としてSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21またはSEQ ID NO:26に対する保存的アミノ酸置換をなす、MAMのポリペプチド配列のバリアントは、改善された組成を提供し得る。置換バリアントは、典型的に、そのタンパク質内の1つまたは複数の部位における1つのアミノ酸から別のアミノ酸への交換を含み、そしてそのポリペプチドの1つまたは複数の特性、例えばタンパク質分解切断に対する安定性を、他の機能または特性を喪失させずに調節するよう設計され得る。この種の置換は、好ましくは、保存的である、すなわち、1つのアミノ酸が、類似の形状および電荷を有するものと置き換えられる。保存的置換は当技術分野で周知であり、例えば:アラニンからセリンへ;アルギニンからリジンへ;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ;アスパラギン酸からグルタミン酸へ;システインからセリンへ;グルタミンからアスパラギンへ;グルタミン酸からアスパラギン酸へ;グリシンからプロリンへ;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ;イソロイシンからロイシンまたはバリンへ;ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ;リジンからアルギニンへ;メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへ;セリンからスレオニンへ;スレオニンからセリンへ;トリプトファンからチロシンへ;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ;およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへ、の交換が含まれる。
以下は、等価な、または改善さえされた、第2世代分子を作製するためのペプチドのアミノ酸の交換に基づく議論である。例えば、特定のアミノ酸は、構造体、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子の結合部位との相互作用的結合能を感知可能な程度まで喪失させることなく、タンパク質構造の中で他のアミノ酸と置換され得る。ペプチドの生物学的機能活性を定義するのはペプチドの相互作用的な能力および性質であるため、タンパク質配列およびその基礎となるDNAコード配列において特定のアミノ酸置換を行うことができ、かつそれにもかかわらず、同様の特性を有するペプチドを得ることができる。したがって、以下で議論されているように、そのペプチドをコードするDNA配列において、それらの生物学的利用性または活性を感知可能な程度まで喪失させることなく様々な交換がなされ得ることが本発明者らによって企図されている。
そのような交換を行う際、アミノ酸のハイドロパシー指数(hydropathic index)が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する上でのアミノ酸のハイドロパシー指数の重要性は、当技術分野で一般的に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的なハイドロパシー特性は、得られるペプチドの2次構造に寄与し、ペプチドと他の分子の相互作用を規定することが知られている。
各アミノ酸には、それらの疎水性および電荷の特徴に基づきハイドロパシー指数が割り当てられており(Kyte and Doolittle, 1982);これらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)である。
特定のアミノ酸は、類似のハイドロパシー指数またはスコアを有する他のアミノ酸によって置換され得、それでも類似の生物学的活性を有するペプチドを生成し得る、すなわち、それでも生物学的機能的に等価なタンパク質を形成し得ることが、当技術分野で公知である。そのような交換を行う際、それらのハイドロパシー指数が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内が特に好ましく、そして±0.5以内がさらにより特別に好ましい。
同様のアミノ酸の置換は、親水性に基づいた場合も効果的になされ得ることも、当技術分野で理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その隣接アミノ酸の親水性によって支配される、タンパク質の最大局所親水性平均値が、そのタンパク質の生物学的特性と相関すると述べている。米国特許第4,554,101号で詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン*-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。
アミノ酸は類似の親水性値を有する別のアミノ酸と置換することができ、それでも生物学的に等価および免疫学的に等価なタンパク質を得ることができることが理解されている。そのような交換において、その親水性値が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内が特に好ましく、そして±0.5以内がさらにより特別に好ましい。
上記のように、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖の置換基、例えばそれらの疎水性、親水性、電荷、サイズ等、の相対的類似性に基づく。上記の様々な特徴を考慮した例示的な置換は当業者に周知であり、それには:アルギニンとリジン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとスレオニン;グルタミンとアスパラギン;およびバリン、ロイシンとイソロイシンが含まれる。
本発明にしたがうポリペプチドの調製における別の態様は、ペプチド模倣体の使用である。模倣体は、タンパク質の2次構造の要素を模倣するペプチド含有分子である(Johnson et al, 1993)。ペプチド模倣体の使用の背景にある根本原理は、タンパク質のペプチド骨格は主として、アミノ酸側鎖を、分子相互作用、例えば抗体および抗原の相互作用を行い易いように方向づけるために存在するということである。ペプチド模倣体は、天然分子と類似の分子相互作用を許容することが期待される。これらの原理は、上記の原理と併せて、MAMの天然の特性の多くを有するが変更されたおよび改善さえされた特徴を有する第2世代分子を製作するために使用され得る。
ii) 変更されたアミノ酸
本発明は、修飾された、非天然のおよび/または通常とは異なるアミノ酸を含むペプチドを利用し得る。例示的な、しかし限定的ではない、修飾された、非天然のおよび/または通常とは異なるアミノ酸の表が本明細書の以下に提供されている。そのようなアミノ酸を関心対象のペプチドに組み込むために、化学合成が利用され得る。
(表1)修飾された、非天然のおよび通常とは異なるアミノ酸
iii) 模倣体
上記のバリアントに加えて、本発明者らは、本発明のペプチドまたはポリペプチドの鍵となる部分を模倣する構造的に類似する化合物を作製し得ることも企図している。ペプチド模倣体と称され得るそのような化合物は、本発明のペプチドと同じ様に使用され得、したがって、これも機能等価物である。
タンパク質の2次および3次構造の要素を模倣する特定の模倣体が、Johnson et al.(1993)に記載されている。ペプチド模倣体の使用の背景にある根本原理は、タンパク質のペプチド骨格は主として、アミノ酸側鎖を、分子相互作用、例えば抗体および/または抗原の相互作用を行い易いように方向づけるために存在するということである。したがってペプチド模倣体は、天然分子と類似の分子相互作用を許容するよう設計され得る。
ペプチド模倣体のコンセプトのいくつかの成功適用例は、抗原性が高いことが知られているタンパク質中のβターンの模倣に注目したものである。ポリペプチド中のβターンの可能性がある構造は、本明細書で議論されているように、コンピュータベースのアルゴリズムによって予測することができる。そのターンのアミノ酸成分が決定されれば、アミノ酸側鎖の必須要素と類似の空間配向を達成する模倣体を構築することができる。
他のアプローチは、大きなタンパク質の結合部位を模倣する生物学的に活性な立体配座を形成するための有力な構造鋳型としての、小さな、複数のジスルフィドを含有するタンパク質の使用に注目したものである(Vita et al., 1998)。特定の毒素において進化的に保存されていると考えられる構造モチーフは、小さく(30〜40アミノ酸)、安定であり、かつ変異に対して高度に寛容的である。このモチーフは、内部コアにおいて3つのジスルフィドによって架橋されているβシートおよびαヘリックスから構成される。
βIIターンは、環式L-ペンタペプチドおよびD-アミノ酸を含むそれらを用いることで模倣に成功している(Weisshoff et al., 1999)。また、Johannesson et al. (1999)は、リバースターン誘導特性を有する二環式トリペプチドを報告している。
特定の構造を形成する方法は、当技術分野で開示されている。例えば、α-ヘリックス模倣体は、米国特許第5,446,128号;同第5,710,245号;同第5,840,833号;および同第5,859,184号に開示されている。これらの構造は、ペプチドまたはタンパク質により高い熱安定性を与え、またタンパク質分解に対する耐性を高める。6、7、11、12、13および14員環構造が開示されている。
立体配座的に制限されたβターンおよびβバルジを形成する方法は、例えば、米国特許第5,440,013号;同第5,618,914号;および同第5,670,155号に記載されている。βターンは、対応する骨格の立体配座を変化させずに側鎖の置換基を変化させることができ、かつ、標準的な合成手順によりペプチドに組み込むのに適した末端を有している。他のタイプのターン模倣体には、リバースおよびγターンが含まれる。リバースターン模倣体は、米国特許第5,475,085号および同第5,929,237号に開示されており、γターン模倣体は、米国特許第5,672,681号および同第5,674,976号に記載されている。
iv) 修飾
ペプチドおよびペプチド模倣体の送達に有用な修飾は、PEG化である。PEG化は、ポリエチレングルコールポリマー鎖を別の分子、通常は薬物または治療タンパク質に共有結合付加するプロセスである。PEG化は、慣用的に、PEGの反応性誘導体と標的高分子とのインキュベーションによって行われている。薬物または治療タンパク質に対するPEGの共有結合付加は、宿主の免疫系に対して作用物質を「遮蔽し」(免疫原性および抗原性を減らし)、作用物質の流体力学的サイズ(溶液中でのサイズ)を大きくして腎クリアランスを低下させることによりその循環時間を延長する。PEG化はまた、疎水性の薬物およびタンパク質に水溶性を提供することができる。例示的なPEG化技術は、米国特許第7,666,400号、同第7,610,156号、同第7,587,286号、同第6,552,170号および同第6,420,339号に記載されている。
C. 融合タンパク質
別のバリアントは、融合タンパク質である。この分子は、一般に、もとの分子の全部または実質的部分、この例では2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16またはそれ以上のMCE配列を含むペプチドが、そのNまたはC末端で第2のペプチドまたはポリペプチドの全部または一部分に連結された、例えば、N末端でグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)に連結またはC末端でmycタグに連結されたものである。
D. ペプチドタンパク質の精製
MAM、そのバリアント、ペプチド模倣体またはアナログを精製することが望ましい場合がある。タンパク質の精製技術は、当業者に周知である。これらの技術は、1つのレベルでは、細胞環境からポリペプチドおよび非ポリペプチド画分への粗分画を含むものである。ポリペプチドを他のタンパク質から分離した後、関心対象のポリペプチドは、部分的または完全な精製(または均質化させる精製)を達成するためにクロマトグラフィーおよび電気泳動技術を用いてさらに精製され得る。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。ペプチドの精製に特に有効な方法は、高速タンパク質液体クロマトグラフィーまたはHPLCでもある。
本発明の特定の局面は、コードされるタンパク質またはペプチドの精製、および特定の態様においては実質的精製に関連する。本明細書で使用される場合、「精製されたタンパク質またはペプチド」という用語は、そのタンパク質またはペプチドがその自然界から入手可能な状態に比して任意の程度まで精製されている、他の成分から単離可能な組成物を表すことが意図されている。したがって、精製されたタンパク質またはペプチドとは、それらが天然で存在し得る環境にない、タンパク質またはペプチドも表す。
一般に、「精製された」は、様々な他の成分を除去するための分画に供され、かつ、その発現される生物学的活性を実質的に保持している、タンパク質またはペプチド組成物を表す。「実質的に精製された」という用語が使用される場合、この表現は、タンパク質またはペプチドがその主成分を形成する、例えば組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれ以上を構成する、組成物を表す。
タンパク質またはペプチドの精製度を定量するための様々な方法は、本願の開示に照らして当業者に公知であろう。これらには、例えば、活性画分の比活性の決定またはSDS/PAGE分析によるその画分内のポリペプチド量の評価が含まれる。ある画分の純度を評価する好ましい方法は、その画分の比活性を算出し、それを初期抽出物の比活性と比較し、それによって純度を算出し、これが本明細書において「〜倍精製」と評価される。活性の量を表すために使用される実際の単位は、当然、精製の後に行うために選択された個々のアッセイ技術に依存し、かつ発現されるタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すかどうかに依存するであろう。
タンパク質の精製に使用するのに適した様々な技術は、当業者に周知であろう。これらには、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体等を用いるまたは熱変性による沈殿、その後の遠心分離;クロマトグラフィー工程、例えば、イオン交換、ゲルろ過、逆相、ヒドロキシアパタイトおよび親和性クロマトグラフィー;等電点電気泳動;ゲル電気泳動;ならびにそのような技術およびその他の技術の組み合わせが含まれる。当技術分野で一般に知られているように、様々な精製工程を実施する際の順序は変更され得るまたは特定の工程は省略され得るものであり、それでも実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製に適した方法であり得ると考えられている。
タンパク質またはペプチドは常にそれらの最も精製された状態で提供されるべきというような一般的要請はない。実際、特定の態様においては、実質的に精製度の低い生成物が有用性を有することが企図されている。部分精製は、少数の精製工程を組み合わせて使用することによって、または同一の一般的な精製スキームを異なる形式で利用することによって、達成され得る。例えば、HPLC機器を用いて実施される陽イオン交換カラムクロマトグラフィーは、一般に、低圧クロマトグラフィーシステムを用いる同一技術よりも高い「〜倍」の精製を達成すると考えられている。精製度の低い相対的精製を行う方法は、タンパク質産物の総回収量または発現されるタンパク質の活性の維持に関して優位性を有し得る。
ポリペプチドの移動度は、異なるSDS/PAGE条件を用いることによって変化し得、しばしば有意に変化し得ることが公知である(Capaldi et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件下では、精製または部分精製された発現産物の見かけ上の分子量は変化し得ることが理解されるであろう。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、ピークの分解に優れた超高速分離によって特徴づけられる。これは、十分な流速を維持する非常に細かい粒子および高い圧の使用によって達成される。分離は、数分または長くとも1時間で達成され得る。さらに、粒子は非常に小さく、空隙容量が総容積のごくわずかな部分となるよう緊密充填されているので、極少量のサンプルしか必要とされない。また、バンドが狭くサンプルの希釈がほとんどいらないので、サンプルの濃度を非常に高くしておく必要もない。
ゲルクロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーは、分子サイズに基づく、特別なタイプの分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーの背景にある理論は、小さな孔を含む小さな不活性物質の粒子を用いて調製されたカラムが、大きな分子と小さな分子を、それらのサイズに依存して、孔を通過させるか滞留させるかによって分離するというものである。粒子を形成する材料が分子を吸着しない限り、そのサイズが、流速を決定する唯一の因子となる。したがって、分子は、その形状が相対的に一定である限り、サイズの小さい順にカラムから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、分離がpH、イオン強度、温度等のその他すべての因子に非依存的であるため、サイズの異なる分子の分離に関してこれに勝るものはない。また、実質的に吸着がなく、ゾーンスプレッド(zone spreading)が少なく、溶出量は単純に分子量に関連する。
親和性クロマトグラフィーは、単離したい物質とそれに特異的に結合することができる分子の間の特異的親和性に依存するクロマトグラフィー手順である。これは、受容体・リガンド型相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一方を不溶性のマトリクスに共有結合させることによって合成される。カラム材料は、それにより、溶液からその物質を特異的に吸着することができる。溶出は、条件を、結合が起こらないものに交換する(pH、イオン強度、温度等を変更する)ことによって行われる。
炭水化物含有化合物の精製に有用な特定のタイプの親和性クロマトグラフィーは、レクチン親和性クロマトグラフィーである。レクチンは、様々な多糖類および糖タンパク質に結合する物質のクラスである。レクチンは通常、臭化シアンによりアガロースに連結される。セファロースに連結されたコンカナバリンA(conconavalin A)は、この種の材料で一番使用されているものであり、多糖類および糖タンパク質の単離において広く使用されており、他のレクチンには、レンズマメレクチン、N-アセチルグルコサミニル残基の精製に有用なコムギ胚芽凝集素およびエスカルゴ(Helix pomatia)レクチンが含まれる。レクチン自体は、炭水化物リガンドを含む親和性クロマトグラフィーを用いて精製される。ラクトースは、トウゴマおよびピーナツからレクチンを精製するのに使用され;マルトースは、レンズマメおよびタチナタマメからレクチンを抽出するのに有用であり;N-アセチル-D ガラクトサミンは、ダイズからレクチンを精製するために使用され;N-アセチルグルコサミニルは、コムギ胚芽由来のレクチンに結合し;D-ガラクトサミンは、二枚貝からレクチンを入手するのに使用され、そしてL-フコースはハス由来のレクチンに結合するであろう。
マトリクスは、それ自体が有意な程度に分子を吸着することはなく、広範囲の化学的、物理的および熱的安定性を有する物質である。リガンドは、それ自体の結合特性に影響しないように連結される。リガンドはまた、比較的緊密な結合を提供する。そして、サンプルまたはリガンドを破壊せずにその物質を溶出させることが可能であるべきである。最も一般的な形態の親和性クロマトグラフィーの1つは、免疫親和性クロマトグラフィーである。本発明にしたがい使用するのに適した抗体の作製については、以下で議論されている。
E. ペプチド合成
本発明の様々な態様において使用するためのMAM関連ペプチドは、合成により作製され得る。本発明のペプチドは、比較的小さいサイズなので、従来技術にしたがい、溶液中でまたは固相支持体上で合成することができる。様々な自動合成装置が市販されており、それらは公知のプロトコルにしたがって使用することができる。例えば、各々参照により本明細書に組み入れられる、Stewart & Young, (1984); Tam et al., (1983); Merrifield, (1986); Barany and Merrifield (1979)を参照のこと。本明細書に記載の選択された領域に対応する、通常約6から約35〜50アミノ酸までの、短いペプチド配列または重複するペプチドのライブラリは、容易に合成され得、その後、反応性ペプチドを同定するよう設計されたスクリーニングアッセイにおいてスクリーンされ得る。あるいは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適当な宿主細胞に形質転換またはトランスフェクトし、そしてこれを発現に適した条件下で培養する、組み換えDNA技術が利用され得る。
2. MAM核酸
本発明の重要な局面は、MAMおよびその一部分をコードする単離されたDNAセグメントおよび組み換えベクター、MAMまたはそのペプチドを発現する組み換え宿主細胞のDNA技術の適用を通じた作製および使用、ならびにそれらの生物学的機能等価物に関連する。MAM核酸の配列には、SEQ ID NO:1およびそのフラグメントが含まれる。
本発明は、総ゲノムDNAから隔離された、かつMAMポリペプチドまたはペプチドをコードする、細菌細胞から単離可能なDNAセグメントに関する。本明細書で使用される場合、「DNAセグメント」という用語は、特定種の総ゲノムDNAから隔離された単離されたDNA分子を表す。したがって、MAMをコードするDNAセグメントは、野生型、多型または変異MAMコード配列を含むが、哺乳動物の総ゲノムDNAから単離または精製されている、DNAセグメントを表す。「DNAセグメント」という用語には、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等を含む組み換えベクターのようなDNAセグメントが含まれる。
A. ホモログ
本発明の特定の局面は、MAMおよびその一部分をコードする核酸配列である、腸炎ビブリオのMAM7タンパク質(GI:28898385)を示すSEQ ID NO:1に相同なDNA配列を組み込んだ、単離されたDNAセグメントおよび組み換えベクターに関する。本明細書で使用される場合、「相同な」という用語は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21もしくはSEQ ID NO:26によってコードされるMAM核酸またはそのフラグメントに対して実質的に同一である、十分に相補的である、類似するまたは共通の祖先もしくは進化上の起源を有することと定義される。ホモログは、タンパク質または核酸のいずれかのレベルでのパーセント相同性によって定義され得る。あるいは、ホモログは、運用上、様々な条件下でのハイブリダイゼーションによって同定される。
MAMホモログは、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)(GI:24374148; SEQ ID NO:12)、シェワネラ・バルチカ(Shewanella baltica)(GI:126174666; SEQ ID NO:13)、アゾトバクター・ビネランジイ(Azotobacter vinelandii)(GI:226946271; SEQ ID NO:14)、緑膿菌(GI:12698379; SEQ ID NO:15)、フォトバクテリウム・プロフンダム(Photobacterium profundum)(GI:54309112; SEQ ID NO:16)、アリイビブリオ・サルモニシダ(Aliivibrio salmonicida)(GI:209695044; SEQ ID NO:17)、コレラ菌(GI:15641510; SEQ ID NO:18)、シトロバクター・コセリ(Citrobacter koseri)(GI157145397; SEQ ID NO:19)、大腸菌O139:H28(非病原性)(GI:157157260; SEQ ID NO:20)、大腸菌O127:H6(病原性)(GI:215487047; SEQ ID NO:21)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)(GI:56413233; SEQ ID NO:22)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)(GI:16765190; SEQ ID NO:23)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)(GI:152970897; SEQ ID NO:24)、エルシニア・ベルコビエリ(Yersinia bercovieri)(GI:238783417; SEQ ID NO:25)、偽結核菌(GI:170024018; SEQ ID NO:26)、セラティア・オドリフェラ(Serratia odorifera)(GI:270261529; SEQ ID NO:27)、マンヘミア・ヘモリチカ(Mannheimia haemolytica)(GI:254363206; SEQ ID NO:28)、パスツレラ(マルトシダ)・ヘモリチカ(Pasteurella (multocida) haemolytica)(GI:15602131; SEQ ID NO:29)、ブタパラインフルエンザ菌(Haemophilus parasuis)(GI:167854634; SEQ ID NO:30)およびアクチノバチルス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)(GI:53729097; SEQ ID NO:31)において同定された。上記のMAMホモログは、例示であり限定ではない。
B. バリアント
特定の態様において、本発明は、MAM、ペプチド、ペプチド模倣体またはMAM全体もしくはそのmceドメインの生物学的機能等価物をコードするDNA配列を含む単離されたDNAセグメントおよび組み換えベクターに関連する。「生物学的機能等価物」という用語は、当技術分野で十分に理解されており、さらに本明細書で詳細に定義されている。したがって、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%、およびこれらから派生する任意の範囲、例えば約70%〜約80%、特に約81%および約90%または約85%〜約99%;またはさらに特別に約91%から約99%の間、のアミノ酸が、例えば、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21またはSEQ ID NO:26のアミノ酸と同一または機能的に等価である、タンパク質または核酸配列。特定の態様において、MAMペプチドまたは生物学的機能等価物の生物学的活性は、MAM宿主細胞受容体への結合を含む。
核酸の相同性を定義する別の方法は、ハイブリダイゼーション条件によるものである。例えば、核酸は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに基づき、高いまたは低い相同性の配列にハイブリダイズするであろう。例えば、高ストリンジェンシー条件は、およそ40℃〜約72℃の範囲の温度下での、およそ10mM Tris-HCl (pH 8.3)、50mM KCl、1.5μM MgCl2を含む条件によって例示され得る。
核酸配列は、付加的な残基をコードする配列、例えば5'または3'配列を含み得るが、それでもなお、その配列がアミノ酸配列の発現に関係する生物学的タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの活性の維持を含む上記の基準を満たす限り、本質的には本明細書に開示される配列の1つに示されたものであるということも理解されるであろう。末端配列の付加は、特に、例えばコード領域の5'もしくは3'部分のいずれかに隣接して様々な非コード配列を含み得るまたは遺伝子内に存在することが知られている様々な中間配列、すなわちイントロンを含み得る核酸配列に適用される。
3. 細菌種
A. 病原体
i. アシネトバクター・バウマニ(Acetinobacter baumannii)
アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)は、世界で最も多い感染原因として急に現れたグラム陰性細菌病原体である。実際、アシネトバクター・バウマニは、現在、世界のいくつかの地域において、すべての集中治療室内感染の最大20%の原因となっている。この生物は様々な疾患を引き起こし、肺炎が最も多い。その薬物処置に対する耐性の結果として、いくつかの試算は、この疾患が、毎年、米国の入院患者10000人を死亡させていると述べている。
A.バウマニは、日和見感染を生じる。イラクにおいて負傷した米軍兵士の間でA.バウマニ感染があったという報告が多くなされており、そのため「イラクバクター(Iraqibacter)」というニックネームが付けられている。多剤耐性アシネトバクター・バウマニは、MDRABと略称される。多剤耐性アシネトバクターは、新たな現象ではなく;それはすでに生来的に複数の抗生物質に対して耐性だったのである。
アシネトバクター・バウマニは、アシネトバクター属の中で最も関係の深いヒト病原体である。ほとんどのA.バウマニ単離株は、多剤耐性であり、それらのゲノム中に、小さな孤立した外来(遺伝的に他の生物から伝播してきたことを意味する)DNAの島ならびにその他の細胞学的および遺伝的物質を含んでおり;これがより強いビルレンスをもたらしている。アシネトバクターは、鞭毛を有さず;その名はギリシャ語の「不動(motionless)」である。
アシネトバクターは、口の開いた負傷部、カテーテルおよび呼吸管を通じて体内に侵入する。通常、免疫不全を有する者、例えば、負傷者、老齢者、子供または免疫疾患を有する者に感染する。コロニー形成は、すでに疾病を有する人でなければ脅威とならないが、コロニー形成があった医療従事者および通院者は、この細菌を隣の病室および他の医療施設に運搬し得る。A.バウマニによって引き起こされる院内感染(病院獲得型感染)の数は、他の多くの院内病原体(MRSA、VRSA、VRE等)と同様、近年増加している。
軍事上、最初の重度のA.バウマニ感染の発生は、2003年4月、イラクから帰還した米軍兵士において起こった。早期の報告は、この感染がイラクの土壌に起因するものとしていた。後の試験は、最もあり得る媒介物として、以前に汚染された欧州の病院からの人員および機器の輸送を通じた野戦病院の広範囲の汚染を示した。
院内A.バウマニ菌血症は、高い死亡率を伴う重度の臨床疾患を引き起こし得る。この日和見病原体は、ヒトの病理において役割を果たし得る無数の因子を発現する。これらの因子は、固体表面に対する付着および固相表面上での維持、必須栄養素、例えば鉄の獲得、上皮細胞への接着およびそれらのその後のアポトーシスによる殺傷、ならびに宿主の組織に損傷を与える酵素および毒性産物の産生および/または分泌、である。しかし、これらのプロセスおよび因子のほとんどの分子的性質についてはごくわずかしか知られておらず、細菌のビルレンスおよび深刻な感染疾患の病理におけるそれらの役割に関してはほぼ何も示されていない。幸いなことに現在では、これらの不足の一部は、ヒトにおける感染、特に致死的な肺炎の結末を模倣する関連動物モデルにおいて適当な同系派生体を試験することによって補われている。そのようなアプローチは、この通常過小評価されている細菌性ヒト病原体のビルレンス形質に関する新規かつ関連する情報を提供するであろう。
多剤耐性A.バウマニは、米国および欧州の多くの病院の共通の問題である。第一の処置は、カルバペネム抗生物質、例えばイミペネムを用いるものであるが、カルバペネム耐性が一般的になりつつある。他の処置選択肢には、ポリミキシン、チゲサイクリンおよびアミノグリコシドが含まれる。厳しい感染管理基準の策定、例えば手洗いの監視、は、病院内での感染率を低下させ得る。MDRAB感染は、処置が困難でありかつ処置にお金がかかる。公立研修病院における研究は、MDRABを獲得した患者の平均総医療費が、同一の熱傷重症度指数を有する対照患者のそれよりも$98,575高くなることを示した。
ii. 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
黄色ブドウ球菌は、穏やかな皮膚および軟組織の感染ならびに食中毒から生命を脅かすような疾病、例えば重度の術後感染、敗血症、心内膜炎、壊死性肺炎および毒素ショック症候群まで、幅広い疾病を引き起こす主要なヒト病原体である。これらの生物は、付加的な抗生物質耐性決定因子を蓄積し、多剤耐性株を形成するという際立った能力を有する。1959年、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)産生に起因するペニシリン耐性黄色ブドウ球菌の問題を解決すべく、最初に開発された半合成ペニシリンであるメチシリンが導入された(Livermore, 2000)。しかし、メチシリン導入後すぐに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株が同定された(Barber, 1961; Jevons, 1961)。
それらが初めて同定されて以降、MRSA株は世界中に拡散し、主要な院内感染(病院獲得型(HA)-MRSA)病原体となった(Ayliffe, 1997; Crossley et al., 1979; Panlilio et al., 1992; Voss et al., 1994)。近年、これらの生物は進化し、伝統的な感染の危険因子を有さない健常個体における市中獲得型感染(CA-MRSA)の主因として登場し、公衆衛生を大きな脅威にさらす地域発生を引き起こしている(Begier et al., 2004; Beilman et al., 2005; Conly et al., 2005; Gilbert et al., 2006; Gilbert et al., 2005; Harbarth et al., 2005; Holmes et al., 2005; Issartel et al., 2005; Mulvey et al., 2005; Robert et al., 2005; Said-Salim et al., 2005; Vandenesch et al., 2003; Vourli et al., 2005; Wannet et al., 2005; Wannet et al., 2004; Witte et al., 2005; Wylie & Nowicki, 2005)。
iii. アシネトバクター種
A.バウマニ以外のアシネトバクター種には、A.カルコアセチカス(A. calcoaceticus)、A.ルオフィ(A. lwoffii)、A.ジュニ(A. junii)、A.アニトラトゥス(A. anitratus)、A.バウマニ・カルコアセチカス複合菌が含まれる。アシネトバクターは、ガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)に属するグラム陰性属細菌である。非運動性のアシネトバクター種は、オキシダーゼ陰性であり、拡大して見ると、一組になって存在している。これらは、重要な土壌生物であり、例えば芳香族化合物の鉱化に寄与している。アシネトバクターは、病院内の衰弱した患者にとって鍵となる感染源である。グルコース代謝により生じる酸の量を検出する蛍光・ラクトース・脱窒培地(FLN)を用いることで、この属の異なる細菌種を同定することができる。
アシネトバクター属の種は、偏性好気性、非発酵性、グラム陰性の細菌である。これらは、非選択寒天上で、主として球桿状の形態を示す。液体培地中では、特に早期成長期は、桿状が優勢である。アシネトバクター種の形態は、グラム染色ヒト臨床試料中で非常に多様であり得、アシネトバクターを他の共通感染原因から区別するのに使用することができない。
A.ルオフィのいくつかの株を除いて、アシネトバクターのほとんどの株は、マッコンキー寒天(塩なし)上でよく成長する。公式には非ラクトース発酵性に分類されているが、これらはしばしば、マッコンキー寒天上で生育した場合、部分的にラクトース発酵性である。これらはオキシダーゼ陰性、非運動性であり、通常硝酸塩陰性である。
アシネトバクター種は、一般に、健常個体に対しては非病原性であるとみなされている。しかし、いくつかの種は、病院環境下で生き残り、易感染性患者において重度の、生命を脅かす感染を引き起こす。抗生物質耐性のスペクトルおよびその生存能力ゆえに、これらの生物は病院にとって脅威となっており、そのことは先進国およびその他の国の両方において発生が繰り返されていることにより実証されている。病原体としてのこれらの能力にとって重要な因子は、おそらく、効率的な水平遺伝子伝播手段であろうが、そのようなメカニズムは、現時点では、土壌に生息し感染に関係しない種であるアシネトバクター・バイリ(Acinetobacter baylyi)において観察および分析されているにとどまる。アシネトバクターは、院内感染においてしばしば単離され、特に集中治療室において多くみられ、散発性の症例ならびに流行性および風土性の発生の両方ともに一般的である。A.ルオフィは、アシネトバクター髄膜炎のほとんどの症例の原因である。
アシネトバクター種は、生得的に、ペニシリン、クロラムフェニコールおよび、しばしば、アミノグリコシドを含む、多くのクラスの抗生物質に対して耐性である。治療時のフルオロキノロンに対する耐性が報告されており、これは能動的な薬物排出を通じて他の薬物クラスに対する耐性をも向上させる。アシネトバクター株における抗生物質耐性の劇的な向上は、CDCによって報告されており、カルバペネムは、そのゴールドスタンダードかつ最終処置手段と認識されている。アシネトバクター種は、スルバクタムに対して感受性である点で独特であり;スルバクタムは、細菌のβ-ラクタマーゼの阻害に最も一般的に使用されているが、これはスルバクタム自体の抗菌特性の一例である。
iv. 緑膿菌
緑膿菌は、動物およびヒトにおいて疾患を引き起こし得る一般的な細菌である。土壌、水中、皮膚フローラおよび世界中のほとんどの人工的環境において見出されている。通常の大気中だけでなく低酸素中でも繁殖し、したがって多くの天然環境および人工環境でコロニー形成している。幅広い有機物質を食物として使用し;動物においては、この生物は、この多才性(versatility)があるために、損傷した組織または免疫力が低下した人に感染することができる。そのような感染の症状は、全身性炎症および敗血症である。そのようなコロニー形成が身体の重要な臓器、例えば肺、尿路および腎臓において起こった場合、その結果は致命的となり得る。この細菌はまた、ほとんどの表面で繁殖するため、カテーテルを含む医療器具の表面または内部でも見出され、そのため病院および診療所において交差感染を引き起こす。これは、湯上がり時の発疹(hot-tub rash)に関係する。
これは、単極運動性のグラム陰性、好気性、桿状の細菌である。ヒトの日和見病原体である緑膿菌は、植物の日和見病原体でもある。緑膿菌は、シュードモナス属の基準種である(Migula)。
緑膿菌は、ピオシアニン(青〜緑色)、フルオレセイン(黄〜緑色かつ蛍光、現在はピオベルジンとしても公知)およびピオルビン(赤〜茶色)を含む、様々な色素を分泌する。King、WardおよびRaneyは、ピオシアニンおよびピオルビン産生を増強するためのシュードモナス寒天P(aka King A培地)ならびにフルオレセイン産生を増強するためのシュードモナス寒天F(aka King B培地)を開発した。
緑膿菌は、しばしば、インビトロで、その真珠光沢のある外見およびブドウ様またはトルティーヤ様の香りによって予備的に同定される。緑膿菌の確定的な臨床同定には、しばしば、ピオシアニンおよびフルオレセインの両方の産生ならびに42℃でのその成長能力の同定が含まれる。緑膿菌は、ディーゼルおよびジェット燃料中で成長することができ、微生物腐食を引き起こす炭化水素資化微生物として公知である。これは、その外見からときどき不適切に「藻」と呼ばれる暗色のゲル状の固形物を生成する。
緑膿菌は、好気性生物に分類されているが、部分または完全な酸素欠乏条件下での増殖にも十分適応するため、多くの者によって通性嫌気性菌とみなされている。この生物は、最終電子受容体として硝酸塩を用いて嫌気的成長を達成することができ、そしてその非存在下では、基質レベルのリン酸化によってアルギニンを発酵することもできる。微好気的または嫌気的環境への適応は、緑膿菌の特定の生活様式、例えばムコイド型細菌細胞を囲む厚いアルギン酸塩の層が酸素の拡散を制限し得る嚢胞性線維症患者における肺感染時に必須となる。
G+Cリッチな緑膿菌の染色体は、保存されたコアおよび可変性のアクセサリー部分からなる。緑膿菌株のコアゲノムは、大部分は同一線上にあり、低い配列多型率を示し、そしていくつかの高配列多様性の遺伝子座、特にピオベルジン座、鞭毛レギュロン、pilAおよびO抗原生合成座を含んでいる。可変セグメントは、ゲノム全体に散在しており、その約3分の1は、tRNAまたはtmRNA遺伝子に直接隣接している。ゲノム多様性の3つの公知のホットスポットは、tRNALysまたはtRNAGly遺伝子へのpKLC102/PAG1-2ファミリーのゲノム島の組み込みによって生じる。個々の島は、それらの代謝関連遺伝子のレパートリーに関して相違するが、他のクローンおよび種へのそれらの水平拡散をもたらすシンテニー遺伝子セットを共有している。非定型疾患ハビタットのコロニー形成は、緑膿菌染色体における欠失、ゲノム再配置および機能喪失変異の蓄積を起こし易くする。緑膿菌集団は、疾患および環境ハビタットに広く行き渡っている数個のドミナントクローンによって特徴づけられる。ゲノムは、コアおよびアクセサリーゲノム中のクローン特有のセグメントならびに集団内での遺伝子流動が非制限的なコアゲノム中のブロックから構成される。
細胞表面の多糖類は、細菌の生活様式において多様な役割を果たしている。それらは細胞壁と環境の間の障壁として機能し、宿主・病原体相互作用を媒介し、そしてバイオフィルムの構造成分を形成する。これらの多糖類は、ヌクレオチド活性化前駆体から合成され、そしてほとんどの場合、完全なポリマーの生合成、組立および輸送に必要なすべての酵素が、その生物のゲノム中で専用のクラスターを編成している遺伝子によってコードされている。リポ多糖類は、外膜の完全性に関して鍵となる構造的役割を果たし、かつ宿主・病原体相互作用の重要なメディエーターである、最も重要な細胞表面多糖類の1つである。いわゆるA帯(ホモポリマー性)およびB帯(ヘテロポリマー性)O抗原の生合成の遺伝学は、明確な定義がなされており、それらの生合成の生化学的経路の理解に向けて大きな前進があった。菌体外多糖類であるアルギン酸塩は、β-1,4-結合型D-マンヌロン酸およびL-グルクロン酸残基の直鎖状コポリマーであり、後期段階の嚢胞性線維症のムコイド表現型を担っている。pelおよびpsl座は、2つの近年発見された遺伝子クラスターであり、これらもバイオフィルムの形成に重要であることが見出された菌体外多糖類をコードしている。ラムノリピドは、その産生が転写レベルで厳密に調節されている生物界面活性剤であるが、現時点では疾患において果たされる正確な役割は十分に理解されていない。タンパク質のグリコシル化、特にピリンおよびフラジェリンのそれは、いくつかのグループによる最近の研究対象であり、これは細菌感染時の接着および浸潤に重要であることが示された。
免疫不全の個体の日和見、院内病原体である緑膿菌は、典型的に、気道、尿路、熱傷、創傷に感染し、また他の血液感染も引き起こす。
これは、熱傷および外耳(外耳炎)の感染の最も一般的な原因であり、医療デバイス(例えば、カテーテル)の最も高頻出のコロニー形成菌(colonizer)である。シュードモナスは、稀な状況で、市中獲得型肺炎および人工呼吸器関連肺炎を引き起こし得る、いくつもの研究で単離された最も一般的な因子の一つである。ピオシアニンは、細菌のビルレンス因子であり、エレガンス線虫を酸化ストレスによって死に至らしめることが公知である。しかし、調査は、サリチル酸がピオシアニン産生を阻害し得ることを示している。10の病院獲得型感染のうちの1つはシュードモナスに起因するものである。嚢胞性線維症患者はまた、肺の緑膿菌感染を起こしやすい。緑膿菌はまた、水質に対する適切で不断の注意の欠如により引き起こされる「湯上がり時の発疹」(皮膚炎)の一般的な原因であり得る。熱傷感染の最も一般的な原因は、緑膿菌である。シュードモナスはまた、放射状角膜切除術を受けた患者における術後感染の一般的な原因である。この生物はまた、皮膚病変である壊疽性膿瘡に関連する。緑膿菌は、頻繁に、足部の穿刺創に伴う骨髄炎に関連し、これはテニスシューズで見られる発泡性の詰め物を通じた緑膿菌の間接的接種に起因すると考えられている。
その感染の性質に依存して、適当な試料が収集され、同定のために細菌学研究所に送られる。第1に、グラム染色が行われ、それは特定配置をもたないグラム陰性桿菌を示すはずである。次に、その試料が純粋である場合、その生物は、マッコンキー寒天プレート上で生育され無色のコロニーを生成する(ラクトースを発酵しない場合)が;試料が純粋でない場合は、次に選択プレートの使用が必須となる。この目的で、伝統的にセトリミド寒天が使用される。緑膿菌は、その上で生育された場合、青〜緑色の体外色素であるピオシアニンを発現し得、そしてコロニーは平らで大きな卵型に見えるであろう。これはまた、特徴的な果実のような匂いを有する。緑膿菌は、カタラーゼ+、オキシダーゼ+、ニトラーゼ+、およびリパーゼ+である。TSI培地上で生育された場合、K/K/g-/H2S-のプロフィールを有し、これはその培地が変色しないことを意味する。最後に、H & O抗原に基づく血清学が補助的に行われ得る。
緑膿菌は、頻繁に、非無菌部位(口腔スワブ、痰等)から単離され、これらの環境の下で、しばしばコロニー形成を示すが感染は示さない。したがって、非無菌試料からの緑膿菌の単離は慎重に解釈されるべきであり、処置の開始前に微生物学者または感染病医/薬剤師のアドバイスを考慮すべきである。しばしば処置は必要とされない。
緑膿菌が無菌部位(血液、骨、深部からの収集物)から単離される場合、それは深刻に捉えるべきであり、ほとんど常に処置を必要とする。
緑膿菌は、生来的に広い範囲の抗生物質に対して耐性であり、不成功の処置の後に、特にポリンの修飾を通じて、付加的な耐性を示し得る。通常、抗生物質を経験的に選択するのではなく、研究所での感受性にしたがい処置を先導することができるはずである。抗生物質が経験的に開始される場合は、その後に培養物を入手するためのあらゆる努力がなされるべきであり、そして使用される抗生物質の選択は、その培養物の結果が利用可能になった際に再検討されるべきである。
緑膿菌に対する活性を有する抗生物質には:アミノグリコシド(ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン);キノロン(シプロフロキサシン、レボフロキサシンおよびモキシフロキサシン);セファロスポリン(セフタジジム、セフェピム、セフォペラゾン、セフピロムであるが、セフロキシム、セフトリアキソン、セフォタキシムではない);ウレイドペニシリンおよびカルボキシペニシリン(ピペラシリン、チカルシリン:緑膿菌は生得的に他のすべてのペニシリンに対して耐性である);カルバペネム(メロペネム、イミペネム、ドリペネムであるが、エルタペネムではない);ポリミキシン(ポリミキシンBおよびコリスチン);ならびにモノバクタム(アズトレオナム)が含まれる。これらの抗生物質は、フルオロキノロンおよびエアゾール化トブラマイシンを除いてすべて、注射により投与されなければならない。この理由から、いくつかの病院では、緑膿菌の耐性株の発生を避けるためにフルオロキノロンの使用が厳しく制限されている。感染が表層的かつ限定的(例えば、耳感染または爪感染)である稀な例において、外用ゲンタマイシンまたはコリスチンが使用され得る。緑膿菌によって引き起こされた耳感染に対するファージ療法が、2009年8月に、Clinical Otolaryngologyジャーナルにおいて報告された。
緑膿菌は、非常に関係の深い日和見病原体である。緑膿菌の最も厄介な特徴の1つは、その低い抗生物質感受性である。この低い感受性は、多剤排出ポンプと染色体上にコードされている抗生物質耐性遺伝子(例えば、mexAB、mexXY等)および細菌細胞エンベロープの低い透過性の共同作業によるものである。この生得的な耐性に加えて、緑膿菌は、染色体上にコードされている遺伝子の変異または抗生物質耐性決定因子の水平遺伝子伝播のいずれかにより、容易に獲得耐性を発達させる。緑膿菌単離株による多剤耐性の発達は、異なる変異の獲得および/または抗生物質耐性遺伝子の水平伝播を含むいくつかの異なる遺伝的イベントを必要とする。超変異は、慢性感染を示す緑膿菌株における変異誘導抗生物質耐性の選択を助け、いくつかの異なる抗生物質耐性遺伝子のインテグロンにおけるクラスター形成は、抗生物質耐性決定因子の共同獲得を助ける。いくつかの近年の研究は、バイオフィルムの形成または小コロニーバリアントの出現に関連する表現型耐性が、抗生物質処置に対する緑膿菌集団の応答に重要であり得ることを示している。
v. バークホルデリア(Burkholderia)種
バークホルデリア種(B.セパシア(B. cepacia)、B.セノセパシア(B. cenocepacia)、B.セパシア複合菌)は、その病原性メンバーであるバークホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)(主にウマおよび関連動物において発生する疾患である鼻疽の原因である)、バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)(類鼻疽の原因因子)およびバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)(嚢胞性線維症の人における肺感染の重要な病原体)に関しておそらく最も知られているプロテオバクテリア属のメンバーである。
バークホルデリア(以前はシュードモナスの一部であった)属という名は、動物/ヒトおよび植物の両方の病原体ならびにいくつかの環境的に重要な種を含む、実質的に遍在性のグラム陰性、運動性、偏性好気性の桿状細菌のグループを表す。特に、B.ゼノボランス(B. xenovorans)(以前は、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、次いでB.セパシアおよびB.フンゴラム(B. fungorum)という名称であった)は、有機塩素殺虫剤およびポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解するその能力に関して有名である。それらの抗生物質耐性およびそれらの関連疾患の高い死亡率のため、バークホルデリア・マレイおよびバークホルデリア・シュードマレイは、家畜およびヒトを標的とする潜在的な生物兵器剤とみなされている。
vi. クレブシエラ・ニューモニエ
クレブシエラ・ニューモニエは、口、皮膚および腸の正常フローラで見出されるグラム陰性、非運動性、被包性、ラクトース発酵性、通性嫌気性の桿状細菌である。臨床的には、腸内細菌科のクレブシエラ属の最も重要なメンバーであり;K.オキシトカ(K. oxytoca)に関係が近いが、これとはインドール陰性によってならびにメレジトースおよび3-ヒドロキシ酪酸塩の両方で成長する能力によって区別される。自然界では土壌に発生し、約30%の株が嫌気性条件下で窒素を固定することができる。自由生活性のジアゾ栄養生物として、その窒素固定系はよく研究されている。
クレブシエラ属のメンバーは、典型的に、それらの細胞表面に2つのタイプの抗原を発現する。第1の、O抗原は、9つの亜種が存在するリポ多糖類である。第2は、莢膜多糖類であるK抗原であり、これは80を超える亜種を有する。両方とも病原性に寄与し、サブタイピングの基礎を形成している。
調査は、強直性脊椎炎の原因として、HLA-B27とクレブシエラ微生物の2つの分子の間の分子擬態を示唆している。一般的なルールとして、クレブシエラ感染は、不適切な食事により免疫系が衰弱した人(アルコール依存症および糖尿病)で起こる傾向がある。これらの感染の多くは、人が別の何らかの理由で病院にいるときに行われる(院内感染)。クレブシエラ細菌によって病院外で引き起こされる最も一般的な感染は、肺炎である。
K.ニューモニエの新たな抗生物質耐性株が現れており、それは院内感染として見出されることが増えている。クレブシエラは、老齢者における尿路感染に関して、大腸菌に次いで第2位である。また、慢性肺疾患、腸内病状、鼻粘膜萎縮および鼻硬化症の患者では日和見病原体である。糞便が、患者の感染の最も大きな供給源であり、次いで汚染機器との接触である。
多剤耐性クレブシエラ・ニューモニエは、研究室での試験において、インビボでのファージの腹腔内、静脈内または鼻腔内投与により死滅した。
vii. ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)
ステノトロホモナス・マルトフィリアは、好気性、非発酵性、グラム陰性の細菌である。これは、一般的な細菌ではなく、ヒトにおける感染を処置するのは困難である。S.マルトフィリアは、当初はシュードモナス・マルトフィリア(Pseudomonas maltophilia)と分類され、ザントモナス(Xanthomonas)属にもグループ分けされていたが、その後、1993年、最終的に、ステノトロホモナス属の基準種となった。
S.マルトフィリアは、この属の他のメンバーよりも若干小さい(0.7〜1.8 x 0.4〜0.7マイクロメートル)。これらは極鞭毛を有し運動性であり、マッコンキー寒天上でよく成長し、有色のコロニーを生成する。S.マルトフィリアは、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性であり(これによりこの属の他の大部分のメンバーから区別される)、そして細胞外DNaseに対して陽性反応を示す。
S.マルトフィリアは、水、尿または呼吸器分泌物を含む水性環境、土壌および植物に遍在し;生物工学分野においても使用される。免疫不全患者において、S.マルトフィリアは院内感染を引き起こし得る。
S.マルトフィリアは、頻繁に、呼吸管、例えば気管内チューブまたは気管切開チューブ、気道および留置尿道カテーテルにおいてコロニー形成する。感染は、通常、補綴材(プラスチックまたは金属)の存在により促進され、その最も効果的な処置は、その補綴材(通常、中心静脈カテーテルまたは同様のデバイス)の除去である。したがって、呼吸器または尿試料の微生物学的培養物中でのS.マルトフィリアの成長は、時折解釈するのが困難であり、感染の証拠とならない。しかし、それが通常無菌であるはずの部位(例えば、血液)から成長した場合、それは通常、真の感染を表す。
免疫正常個体において、S.マルトフィリアは、肺炎、尿路感染または血流感染の比較的珍しい原因であるが;免疫不全患者においては、S.マルトフィリアが潜伏肺感染源であることが増えつつある。嚢胞性線維症の個体においてはS.マルトフィリアのコロニー形成率が上昇する。
S.マルトフィリアは、生来的に、(すべてのカルバペネムを含む)多くの広域スペクトル抗生物質に対して耐性であり、したがって、しばしば根絶するのが困難である。S.マルトフィリアの多くの株は、コトリモキサゾールおよびチカルシリンに対して感受性であるが、耐性体も増えてきている。これは、通常、ピペラシリンに対して感受性でなく、セフタジジムに対する感受性は様々である。
viii. ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)
公式にはプファイファー・バチルス(Pfeiffer's bacillus)またはバチルス・インフルエンザ(Bacillus influenzae)と呼ばれるヘモフィルス・インフルエンザは、インフルエンザ大流行のあった1892年に最初に報告された非運動性、グラム陰性、桿状の細菌である。パスツレラセエ(Pasteurellaceae)ファミリーのメンバーであり、通常は好気性であるが、通性嫌気性菌として成長することができる。H.インフルエンザは、流感(flu)のウイルス病因論が明らかにされた1933年まで誤ってインフルエンザの原因とみなされていた。それでも、H.インフルエンザは、幅広い臨床疾患の原因である。
1930年、非被包性株および被包性株という、H.インフルエンザの2大カテゴリーが定義された。被包性株は、それらの明確な莢膜抗原に基づき分類された。被包性H.インフルエンザには、a、b、c、d、eおよびfの、6つの一般に認識されているタイプが存在する。非被包性株間の遺伝的多様性は、被包性グループ間よりも大きい。非被包性株は、莢膜血清型を欠いているが、多座配列タイピングによって分類することができるため、莢膜非保有(NTHi)と名付けられた。H.インフルエンザ感染の病理は、完全には理解されていないが、喉頭蓋炎等の状態を引き起こす血清型である被包性b型(Hib)の莢膜の存在は、ビルレンスの主要因子であることが公知である。これらの莢膜によって、非免疫宿主における食作用および補体媒介溶解に対する耐性が付与される。非被包性株は、ほとんど常に、侵襲性が低いが、ヒトにおいて炎症応答を生じ得、これが多くの症状をもたらし得る。Hib共役ワクチンによるワクチン接種は、Hib感染を予防するのに効果的である。現在、いくつかのワクチンが、Hibに対する日常的使用に利用可能となっているが、NTHiに対するワクチンは未だ利用可能になっていない。
ほとんどのH.インフルエンザ株は、日和見病原体である、すなわち、これらは通常疾患を引き起こさずに自身の宿主内で生存しているが、他の因子(例えば、ウイルス感染または免疫機能低下)によって機会が与えられた場合にのみ問題を引き起こす。
H.インフルエンザによって引き起こされる自然獲得型疾患は、ヒトにおいてのみ起こるようである。乳児および小児において、H.インフルエンザb型(Hib)は、菌血症、肺炎および急性細菌性髄膜炎を引き起こす。たまに、これは、蜂巣炎、骨髄炎、喉頭蓋炎および感染性関節炎を引き起こす。1990年以来の米国におけるHib共役ワクチンの日常的使用により、侵襲性Hib疾患の発生率は、児童において1.3/100,000まで低下した。しかし、Hibは、ワクチンが広く使用されていない開発途上国の乳児および児童においては依然として下気道感染の主因である。非被包性H.インフルエンザは、児童において耳感染(中耳炎)、眼感染(結膜炎)および副鼻腔炎を引き起こし、肺炎に関与する。
H.インフルエンザの臨床診断は、典型的に、細菌培養またはラテックス粒子凝集によって行われる。診断は、その生物が無菌性の身体部位から単離された場合に、確認されたとみなされる。これに関して、鼻咽頭腔または痰から培養されたH.インフルエンザは、これらの部位では疾患を有さない個体であってもコロニー形成があるので、H.インフルエンザ疾患を示すものではないであろう。しかし、脳脊髄液または血液から単離されたH.インフルエンザは、H.インフルエンザ感染を示すものであろう。
H.インフルエンザの細菌培養は、37℃の濃CO2インキュベーター中、寒天プレート、好ましくは、X(ヘミン) & V(NAD)因子が添加されたチョコレート寒天プレート上で行われる。血液寒天での生育は、他の細菌を囲む衛星現象を生じるのみである。H.インフルエンザのコロニーは、凸状の、滑らかな、蒼白、灰色または透明のコロニーとして現れる。H.インフルエンザの試料のグラム染色および顕微鏡観察は、特定の配置のないグラム陰性の球桿菌を示すであろう。培養された生物は、カタラーゼおよびオキシダーゼ試験を用いてさらに特徴づけることができ、そのどちらも陽性のはずである。莢膜多糖類を識別し、H.インフルエンザbと非被包性種の間を区別するためには、さらなる血清学が必要となる。
H.インフルエンザの細菌培養物は、高度に特異的であるが、感受性を欠いている。サンプル収集前の抗生物質の使用は、同定が可能になる前に細菌を死滅させることによってその単離率を大きく低下させる。それ以前に、H.インフルエンザは、培養が困難な細菌であり、培養手順のいかなる修正も、単離率を大きく低下させ得る。開発途上国では研究室の質が良くないため、H.インフルエンザの単離率も良くない。
H.インフルエンザは、血液寒天プレートにおいて、黄色ブドウ球菌の溶血ゾーンで成長するであろう。黄色ブドウ球菌による細胞の溶血は、H.インフルエンザの成長に必要な栄養素を放出する。H.インフルエンザは、黄色ブドウ球菌の溶血ゾーンの外側では、栄養素の欠如のために成長しないであろう。
ヘモフィルス・インフルエンザは、βラクタマーゼを産生し、ペニシリンファミリーの抗生物質に対する耐性を獲得するようそのペニシリン結合タンパク質を修飾することもできる。重度の症例では、血流中に直接送達するセフォタキシムおよびセフトリアキソンが選択される抗生物質であり、重症度の低い例では、アンピシリンおよびスルバクタムの組み合わせ、第2および第3世代のセファロスポリンまたはフルオロキノロンである。
ix. ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)
ストレプトコッカス・ニューモニエは、グラム陽性、アルファ溶血性、胆汁溶解性、耐気性の嫌気性菌であり、ストレプトコッカス属のメンバーである。重要なヒト病原性細菌であるS.ニューモニエは、19世紀後半における肺炎の主因であると認識されており、多くの液性免疫研究の対象となっている。
名前はそうなっていないが、この生物は、急性副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎、菌血症、敗血症、骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、腹膜炎、心膜炎、蜂巣炎および脳膿瘍を含む肺炎以外の多くのタイプの肺炎球菌感染を引き起こす。S. ニューモニエは、成人および児童の細菌性髄膜炎の最も一般的な原因であり、そして耳感染、中耳炎で見出される2大単離株のうちの1つである。肺炎球菌性肺炎は、非常に若いおよび非常に高齢の者でより多い。
S.ニューモニエは、オプトヒン感受性であるため、オプトヒン試験を用いることで、その一部がアルファ溶血性でもあるS.ビリダンス(S. viridans)から識別することができる。S.ニューモニエはまた、胆汁による溶解に対する感受性に基づき識別することもできる。この被包性、グラム陽性の球菌は、グラム染色において特有の、いわゆる「ランセット形」の形態を有する。これは、生物に対するビルレンス因子として作用する多糖類莢膜を有し;90を超える異なる血清型が公知であり、これらのタイプは、ビルレンス、有病率および薬物耐性の程度の点で相違する。
S.ニューモニエは、正常な上気道フローラの一部であるが、天然フローラと同様、最適条件下で(例えば、宿主の免疫系が抑制されている場合に)病原性になり得る。ニューモリシン等のインベイシン、抗食作用性の莢膜、様々なアドヘシンおよび免疫細胞壁成分はすべて、主要なビルレンス因子である。
H.インフルエンザおよびS.ニューモニエは両方とも、ヒト上気道系で見出され得る。研究室での競合研究により、S.ニューモニエはペトリ皿において常に、H.インフルエンザを過酸化水素により攻撃することによって、それを抑圧していることが明らかになった。両細菌が一緒に鼻腔内に置かれたとき、2週間以内に、S.ニューモニエのみが生存する。両方が別々に鼻腔内に置かれたとき、各自が生存する。両細菌に暴露されたマウス由来の上気道組織の試験において、非常に多数の好中球免疫細胞が見出された。一方のみの細菌に暴露されたマウスにおいては、同細胞は存在しなかった。研究室での試験は、すでに死んでいるH.インフルエンザに暴露された好中球が、S.ニューモニエに対する攻撃に関して、未暴露の好中球よりも積極的であったことを示している。死んだH.インフルエンザへの暴露は、生きているH.インフルエンザに対する効果を示さなかった。
x. 大腸菌
一般にE.coliと省略される大腸菌は、温血生物(内温動物)の腸の下部で広く見られるグラム陰性、桿状、通性嫌気性および非胞子形成性の細菌である。ほとんどの大腸菌株は無害であるが、いくつか、例えばO157:H7血清型は、ヒトにおいて深刻な食中毒を引き起こし得、時折、製品のリコールの原因となる。
大腸菌のビルレント株は、胃腸炎、尿路感染および新生児髄膜炎を引き起こし得る。稀な例で、ビルレント株はまた、溶血性尿毒症症候群、腹膜炎、乳腺炎、敗血症およびグラム陰性肺炎の原因となる。
特定の大腸菌株、例えばO157:H7、O121およびO104:H21は、潜在的に致死性の毒素を産生する。大腸菌により引き起こされる食中毒は、通常、未洗浄の野菜または調理不十分な肉を食べることによって引き起こされる。米国においては、また、ヘーゼルナッツを含む殻をむいたナッツを食べたときにさえも、大腸菌感染の発生があった。O157:H7はまた、深刻かつ生命を脅かすことさえある合併症、例えば溶血性尿毒症症候群を引き起こすことで悪名高い。この特定の株は、生ホウレンソウに起因する2006年の米国大腸菌流行に関連する。疾病の重篤度は、非常に多様であり;特に小児、老齢者または免疫不全者に対しては致死性であり得るが、多くの場合は軽度である。スコットランドにおける不十分・不衛生な肉調理法のために、1996年に7名が大腸菌中毒で死亡し、百人以上が感染した。
大腸菌細菌が(例えば、潰瘍、虫垂破裂からまたは手術上の誤りのために)穿孔を通じて腸管から漏れだして腹部に侵入した場合には、通常、腹膜炎が引き起こされ、これは直ちに処置しないと致命傷になり得る。しかし、大腸菌は、ストレプトマイシンまたはゲンタマイシン等の抗生物質に対して極めて感受性である。残念なことに、大腸菌はすばやく薬物耐性を獲得し、その抗生物質処置は疾患の結末を改善しなくなるだけでなく、実際は溶血性尿毒症症候群が発症する可能性を大きく高め得ることが示唆されている。
腸粘膜関連大腸菌は、炎症性腸疾患、クローン病および潰瘍性大腸炎において数を増やすことが観察されている。炎症組織には侵襲性の大腸菌株が多数存在し、そして炎症領域の細菌数は、腸炎の重篤度に相関する。腸管大腸菌は、血清学的特徴およびビルレンス特性に基づき分類される。ビロタイプ(Virotype)には:腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管侵入性大腸菌(EIEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)および腸管凝集性大腸菌(EAEC)が含まれる。
これらのビロタイプの中で、EPECは、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコおよびウマにおいて下痢を引き起こす。EPEC細胞は、インチミンとして公知のアドヘシンを利用し、宿主の腸細胞に結合する。腸粘膜への接着は、宿主細胞のアクチンの再配置を引き起こし、これにより大きな変形が引き起こされる。EPEC細胞は、中程度の侵襲性であり、炎症応答を惹起する。「付着および消失(effacement)」による腸細胞の超微細構造の変化は、EPEC罹患者における下痢の主因と考えられる。
病原性大腸菌の伝播は、しばしば、糞口伝播を通じて起こる。共通の伝播経路には、不衛生な食物の調理、肥料の施肥による農場汚染、汚染された排水(grey water)もしくは生汚水による作物の灌漑、農耕地内の野生の豚または汚物汚染水の直接消費が含まれる。乳牛および食用牛は、大腸菌O157:H7の主たる保菌体であり、これを無症候で保有することができ、そしてそれを糞便と共に排出する。大腸菌発生に関連する食品には、生のひき肉、生の芽キャベツまたはホウレンソウ、生乳、低温殺菌ジュース、低温殺菌チーズおよび糞口経路を通じて感染した食物労働者により汚染された食物が含まれる。
特定の大腸菌株、具体的にはO157:H7血清型はまた、ハエ、ならびに家畜動物との直接接触、ペット動物の愛撫および動物飼育環境において見られる浮遊微小粒子によっても伝播する。
xi. コレラ菌
コンマ菌(Kommabacillus)としても公知のコレラ菌は、ヒトにおいてコレラを引き起こす、極鞭毛を有するグラム陰性、コンマ形状の細菌である。コレラ菌には、古典型およびエルトール型という、血球凝集検査によって同定される2つの大きな生物型、ならびに多くの血清型が存在する。古典生物型は、バングラディッシュにおいてのみ見出されており、エルトール型は世界中で見出されている。
コレラ菌の病原性遺伝子は、この細菌のビルレンスに直接的または間接的に関与するタンパク質をコードしている。それらは同じ転写調節を受け同じ経路に関与するため、病原性遺伝子は一般に、オペロンおよび/または遺伝子クラスターを編成している。コレラ菌では、ほとんどのビルレンス遺伝子が、コレラ菌病原性島(VPI)とも呼ばれるプロファージとして組織化されている2つの病原性プラスミド:CTX(Cholera ToXins)プラスミドおよびTCP(Toxin-Coregulated Pilus)プラスミドに配置されている。コレラ菌のビルレントおよび流行株は、感染を引き起こす上でこれら2つの遺伝子要素を必要とする。
xii. 腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは、摂取するとヒトにおいて胃腸疾病を引き起こす、汽水性の塩水中で見出される、湾曲した桿状のグラム陰性細菌である。腸炎ビブリオは、オキシダーゼ陽性、通性好気性であり、胞子を形成しない。ビブリオ属の他のメンバーと同様、この種は、単一の極鞭毛を有し運動性である。
腸炎ビブリオの感染は糞口経路を通じて起こり得るが、腸炎ビブリオによって引き起こされる急性胃腸炎の主因は、生または調理不十分な海産物、通常はカキ中の細菌の摂取を通じたものである。創傷感染も起こるが、海産物媒介疾患よりも一般的でない。腸炎ビブリオ感染の疾患メカニズムは、完全には解明されていない。
発生は、高い水温が細菌の高レベル化に好ましい夏期および初秋期の沿岸地域に集中する傾向がある。もっとも頻繁に関与する海産物には、イカ、サバ、マグロ、イワシ、カニ、エビならびにカキおよびハマグリのような二枚貝が含まれる。約24時間のインキュベーション期間の後に、吐き気、嘔吐、腹部痙攣およびときどき発熱を伴う強い水様下痢が起こる。腸炎ビブリオの症状は、典型的に、72時間以内に解消するが、免疫不全の個体では最大10日間持続し得る。腸炎ビブリオの食物感染の例の大部分は自己限定的なので、処置は典型的に必要ない。重篤な例では、補液および電解質置換が指示される。
加えて、影響を受けた地域での水泳または作業が、眼または耳ならびに開いた傷口および創傷の感染を引き起こし得る。ハリケーン・カトリーナの後、3例の創傷感染が腸炎ビブリオにより引き起こされ、これらのうちの2例で死に至った。
xiii. 偽結核菌
偽結核菌は、主に動物において偽結核(エルシニア)病を引き起こすグラム陰性細菌であり;ヒトは、時折、動物経由で、最も多くは、食物媒介経路を通じて、感染する。
動物において、偽結核菌は、脾臓、肝臓およびリンパ節における限局的な組織壊死および肉芽腫を含む結核様の症状を引き起こし得る。
ヒトにおいて、偽結核(エルシニア)の症状には、発熱および右側腹痛が含まれるが、下痢の要素はしばしば存在せず、そのためときどき、生じた状態の診断が困難になる。偽結核菌感染は、特に児童および若年者において虫垂炎を模倣することがあり、そして稀な例では、この疾患は、皮膚障害(結節性紅斑)、関節硬直および疼痛(反応性関節炎)または血液への細菌の拡散(菌血症)を引き起こし得る。
偽結核(エルシニア)は通常、暴露から5〜10日後に顕在化し、そして典型的に、処置しなければ1〜3週間持続する。複雑な例または免疫不全患者に関係する例においては、処置に抗生物質が必要となり得;アンピシリン、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコールまたはセファロスポリンはすべて有効であり得る。
近年報告された症候群である泉熱もまた、偽結核菌感染に関連づけられている。
この細菌は、その宿主に対する付着、侵入およびコロニー形成を促進する多くのビルレンス因子を保有している。スーパー抗原、細菌接着および「エルシニアビルレンス[プラスミド]」 - 一般にpYVとして公知 - 上にコードされているYop(かつては「エルシニア外膜タンパク質」と考えられていた細菌タンパク質)の作用が、宿主の病理の原因となり、この細菌の寄生的な生存を可能にする。
偽結核菌は、ぜん動によって除去されないようにおよび標的宿主細胞に侵入するために、Yopの分泌が起こり得るよう染色体上にコードされているタンパク質を介して腸細胞に強く接着する。
特定の偽結核菌株は、染色体のypm遺伝子から、スーパー抗原性外毒素であるYPMまたは偽結核菌由来マイトジェンを発現する。この外毒素遺伝子を保有する株は、西側諸国においては稀であり、これらの国々では疾患が完全に顕在化するとき主に軽度の症状とともに現れるが、極東諸国由来の株の95%超はypmを含み、泉熱および川崎病と相関する。
このスーパー抗原は宿主の健康に最大の脅威を与えるものであるが、すべてのビルレンス因子がインビボでの偽結核菌の生存に寄与し、その細菌の病原性の特徴を定義している。偽結核菌は、その恐るべき食作用およびオプソニン作用耐性メカニズムにより、細胞外で生存することができるが;その上、免疫応答からさらに逃れ、体全体に拡散するため、pYVの活動の制限により、宿主細胞、特にマクロファージにおいて細胞内で生存することができる。
xiv. サルモネラ
サルモネラは、桿状、グラム陰性、非胞子形成性、全方向に延びる鞭毛を有する(すなわち周毛性の)、主として運動性の腸内細菌の属である。これらは有機源を用いた酸化還元反応からエネルギーを得る化学有機栄養性であり、かつ通性嫌気性菌である。ほとんどの種は、硫化水素を産生し、これは硫酸第一鉄を含む培地、例えばTSI上でこれらを生育することによって容易に検出することができる。ほとんどの単離株は、運動性のフェーズIおよび非運動性のフェーズIIの2つのフェーズで存在する。
サルモネラは、エシェリヒア属と関係が近く、世界中の、ヒトを含む冷血および温血動物においてならびに環境中で見出される。これらは腸チフス、パラチフスおよび食物媒介疾病等の疾病を引き起こす。サルモネラ感染は、人獣共通であり、ヒトと非ヒト動物の間で伝播され得る。多くの感染は、汚染食物の摂取に起因する。腸チフス/パラチフスサルモネラ、例えば、サルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型亜型チフィ(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi)は、深刻な疾病を引き起し得る特別なビルレンス因子および莢膜タンパク質(ビルレンス抗原)を所有することで、腸炎サルモネラと区別される。サルモネラ・チフィはヒトに適合しており、動物では発生しない。
腸炎サルモネラ症または食中毒サルモネラは、そのほとんどがヒトにおいては見出されていない、サルモネラ細菌の潜在的にすべての他の血清型(千を超える)からなる群である。これらは、様々なサルモネラ種において見られ、ほとんどが特定の宿主と関連付けられておらず、ヒトにも感染し得る。この生物は消化管を通じて侵入し、そして健常な成人において疾患を引き起こすには多数が摂取されなければならない。胃液酸度が、摂取された細菌の大部分の破壊を担う。感染は通常、この細菌が培養培地と同程度に高度に濃縮されている食物の大量摂取の結果として起こる。しかし、乳児および小児は、感染に対してずっと感受性が高く、少数の細菌を摂取することによって容易に達成される。乳児においては、細菌が混入した粉塵の吸引を通じて汚染が起こり得ることが示されている。
数時間から1日という短いインキュベーション期間の後、この微生物は腸管腔内で倍増し、しばしば粘液膿性および血性である下痢を伴う腸炎症を引き起こす。乳児においては、脱水症が重篤な中毒症の状態の要因となり得る。その症状は通常、穏やかである。敗血症は、通常見られないが、衰弱した老齢患者(例えば、ホジキン病)における合併症として例外的に起こり得る。特に、児童におけるサルモネラ髄膜炎、骨炎等で、腸外局在化が起こり得る。腸炎サルモネラ、例えばサルモネラ・エンテリカ亜種エンテリカ血清型亜型エンテリティディス(Salmonella enterica subsp. enterica serovar enteritidis)は、通常抗生物質処置を必要としない下痢を引き起こし得る。しかし、危険度の高い人、例えば乳児、小児、老人においては、サルモネラ感染は非常に深刻となり、合併症を引き起こし得る。これらが処置されない場合、HIV患者および免疫抑制患者は、深刻な疾病状態となり得る。サルモネラに感染した鎌状赤血球貧血の児童は、骨髄炎を発症し得る。
ドイツにおいて、サルモネラ感染が報告されているはずである。1990年から2005年の間に、公式に記録された症例の数は、およそ200,000例からおよそ50,000例に減少した。ドイツにおいて、5人に1人がサルモネラの保有体であると見積もられている。米国においては、毎年およそ40,000例のサルモネラ感染が報告されている。世界保健機関によると、世界中で毎年16百万を超える人が腸チフスに感染し、500,000〜600,000が致死の例である。
サルモネラは、生体外で数週間生存することができる。これらは2.5年超経過した乾燥した糞便中で発見されている。サルモネラは、凍結によって破壊されない。紫外線照射および熱によって死滅が加速され;55℃(131゜F)で1時間または60℃(140゜F)で半時間の加熱の後に消滅する。サルモネラ感染を防ぐために、食物を75℃(167゜F)で少なくとも10分間、食物の中心部がこの温度に達するよう加熱することが推奨されている。
B. 非病原性細菌
本発明にしたがい、組み換えmce含有コンストラクトを導入することができる非病原性細菌を提供することが有用であろう。そのような非病原性細菌は、単純に、顕性の疾患を生じないものおよび/または許容できる/臨床的に管理できる副作用を生じるものと定義される。
i. 大腸菌
上記のように、一般にE.coliと省略される大腸菌は、グラム陰性、桿状の細菌である。大腸菌のいくつかの株は病原性であるが、大部分は、ビタミンK2を産生することにより、および腸内で病原性細菌が確立するのを防ぐことにより、それらの宿主に利益をもたらす。
大腸菌および関連細菌は、細菌接合、形質導入または形質転換を通じてDNAを伝達する能力を有しており、それによって遺伝子物質を既存の集団を通じて水平拡散させることができる。
大腸菌は通常、食物もしくは水と共にまたは個人が子に触れることで到達し、生後40時間以内に、乳児の胃腸管でコロニー形成する。腸内では、大腸の粘液に接着する。これは、ヒト胃腸管の主要な通性嫌気性菌である。通性嫌気性菌は、酸素の存在下または非存在下のいずれにおいても成長することができる生物である。これらの細菌は、ビルレンス因子をコードする遺伝子要素を獲得しない限り、良性の共生生物であり続ける。
Mutaflorとしても公知の非病原性大腸菌株ニッスル1917株は、主として炎症性腸疾患を含む様々な消化器疾患の処置のための医薬において、プロバイオティクス剤として使用されている。
大腸菌はまた、その長い研究培養の歴史および操作の容易さから、現代の生物工学および工業微生物学においても重要な役割を果たしている。
異種タンパク質産生に関して非常に融通がきく宿主であるため、研究者は、この微生物にプラスミドを用いて遺伝子を導入し、工業発酵プロセスにおいてタンパク質を大量産生することができる。大腸菌を用いて組み換えタンパク質を産生させる遺伝子システムも開発されている。改良型の大腸菌は、ワクチン開発、バイオレメディエーションおよび固定化酵素の産生において使用されている。しかし、大腸菌は、複数のジスルフィド結合および特に不対チオールを含むより大きく複雑なタンパク質のいくつかまたは活性のために翻訳後修飾も必要となるタンパク質の産生には使用することができない。
大腸菌は、微生物学研究におけるモデル生物として頻繁に使用されている。培養株(例えば、大腸菌K12)は、研究環境に良く適合されており、野生型株と違い、腸内で繁殖する能力を失っている。
大腸菌のBL21株は、組み換えタンパク質の発現のための宿主として広く使用されている。大腸菌B株として、これは、lon遺伝子によりコードされる、細胞内での損傷タンパク質および組み換えタンパク質の細胞内タンパク質分解切断を触媒する主要なプロテアーゼを欠いている(GE Healthcare life sciences)。
大腸菌HS株は、Walter Reed Army Institute of Researchの研究者によって最初に単離されたヒト共生性単離株である。ヒト負荷実験において、HS株は、明白な疾患の兆候を示さずにヒト胃腸管でコロニー形成した。HS株のゲノム配列には、ヒト胃腸管でのコロニー形成のためのゲノム上の基礎が存在する。この単離株は、血清型O9、系統群(phylogroup)A、運動性、遺伝子操作に対する適性および許容性あり、である。
4. MAMタンパク質を発現させるための細胞の操作
特定の態様において、本発明は、MAMペプチドの産生またはMAM核酸の宿主細胞への移入のいずれかに関連する。そのような方法は両方とも、MAMコード領域およびその発現のための手段とそのコンストラクトの複製を実現する要素とを含む発現コンストラクトに基づいている。特定の態様において、MAMポリペプチド産物またはそのバリアントを発現する発現ベクターが用いられる。発現は、ベクター中に適当なシグナルが提供されていることを必要とし、そのようなシグナルには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルスおよび哺乳動物の両方の供給源由来の様々な調節要素、例えばエンハンサー/プロモーターが含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳性を最適化するよう設計された要素も規定されている。薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と関連付ける要素のような、その生成物を発現する恒久的、安定的な細胞クローンを樹立するための多くの優性薬物選択マーカーの使用条件も提供されている。
本願を通じて、「発現コンストラクト」という用語は、遺伝子産物をコードする核酸を含み、その核酸コード配列の一部または全てを転写することができる、任意のタイプの遺伝子コンストラクトを包含することが意図されている。転写物は、タンパク質に翻訳され得るが、それは必須ではない。特定の態様において、発現には、遺伝子の転写およびmRNAから遺伝子産物への翻訳の両方が含まれる。他の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみが含まれる。
「ベクター」という用語は、細胞に導入するための核酸配列を挿入することができ、その細胞内で複製することができる、担体核酸分子を表すのに使用される。核酸配列は「外因性」であり得、これは、ベクターを導入する細胞に対して外来物質であることまたは該配列は該細胞内の配列と同種性であるが、該配列が宿主細胞核酸内で通常見られない位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウィルス(バクテリオファージ)および人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、どちらも参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)およびAusubel et al. (1994)に記載される標準的な組み換え技術を通じてベクターを構築する設備を十分整えているであろう。
「発現ベクター」という用語は、転写可能な遺伝子産物の少なくとも一部分をコードする核酸配列を含むベクターを表す。いくつかの例において、RNA分子はその後にタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに翻訳される。発現ベクターは、様々な「制御配列」を含み得、これは機能的に連結されたコード配列の特定の宿主生物内での転写および場合により翻訳に必要な核酸配列を表す。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、他の機能を担う核酸配列も含み得、これについては以下で説明されている。
「プロモーター」は、転写の開始および割合を制御する核酸配列の領域である制御配列である。これは、調節タンパク質および分子が結合し得る遺伝子要素、例えばRNAポリメラーゼおよびその他の転写因子を含み得る。「機能的に配置」、「機能的に連結」、「制御下」および「転写制御下」というフレーズは、プロモーターが、核酸配列に対して、その配列の転写開始および/または発現を制御するよう正確な機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列である「エンハンサー」と共に使用される場合もそうでない場合もある。
プロモーターは、ある遺伝子または配列に天然で付随するものであってよく、これはそのコードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって取得され得る。そのようなプロモーターは、「内因性」と称され得る。同様に、エンハンサーは、ある核酸配列に天然で付随するものであってよく、その配列の下流または上流のいずれかに位置し得る。あるいは、その天然の環境において通常は核酸配列に関連しないプロモーターである組み換えまたは異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを配置することによって、特定の利益が得られるであろう。組み換えまたは異種エンハンサーとはまた、その天然の環境において通常はその核酸配列に関連しないエンハンサーを表す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、任意の他の原核生物、ウィルスまたは真核生物細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに、「天然に存在」しない、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素および/または発現を変化させる変異を含むプロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。本明細書に開示される組成物との関連で、プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、配列は、PCR(商標)を含む組み換えクローニングおよび/または核酸増幅技術を用いて作製され得る(各々参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,683,202号、同第5,928,906号を参照のこと)。さらに、核以外のオルガネラ、例えばミトコンドリア、葉緑体等、の中での配列の転写および/または発現を指示する制御配列も同様に利用され得ることが企図されている。
当然、発現のために選択された細胞型、オルガネラおよび生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要であろう。分子生物学分野の当業者は、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせの使用に知悉している、例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)を参照のこと。利用されるプロモーターは、構成性であり、組織特異的であり、誘導性であり、かつ/または、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示するのに適した条件下で有用であり、例えば組み換えタンパク質および/またはペプチドの大規模産生において有益であり得る。プロモーターは、異種性または内因性であり得る。
5. 細菌感染の処置方法
本発明は、1つの態様において、細菌感染を患っているまたは様々な医学状態もしくは環境状態のためにそのリスクを有する対象の処置を企図している。様々な医学状況は、自身を感染の危険にさらす。例えば、長期的な抗生物質療法中の患者、免疫抑制処置を受けた患者、手術を受けた患者および熱傷を含む外傷性創傷を有する患者はすべて、細菌感染を起こすリスクを有する。
本発明にしたがう組成物の投与は、その経路を通じて標的組織に有効である限り、任意の一般的な経路を通じたものであろう。これには、経口、経鼻、口腔、直腸、膣内または局所が含まれる。あるいは、投与は、同所、皮内、皮下、筋内、腹腔内または静脈内注射によるものであり得る。そのような組成物は、通常、薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。処方された後、その投薬処方物と適合する様式でかつ治療的に有効な量で、溶液が投与されるであろう。
A. 細胞ベースの療法
具体的には、本発明者らは、MAMペプチドまたはポリペプチドを発現する非病原性細菌細胞を提供することを意図している。利用される発現ベクターおよび遺伝子要素に関する本明細書中の詳細な議論を、参照により本節に組み入れる。
本明細書で提供される非病原性細菌細胞には、宿主に無害な細菌および宿主に有益なプロバイオティクス細菌が含まれる。本願を通じて、「プロバイオティクス」という用語は、宿主生物に有益な、生きた微生物を表す。これらのプロバイオティクス微生物は、免疫系の補助、癌の予防および過敏性腸症候群の緩和を含む、様々な利益を提供する。プロバイオティクスは、活性な生きた培養菌が特別に添加された発酵食品、例えばヨーグルト、ダイズヨーグルト、の一部分としてまたは栄養補助食品として一般に消費されている。プロバイオティクス微生物には、特定の細菌、酵母およびバチルス菌が含まれるがこれらに限定されない。最も一般的なタイプのプロバイオティクス細菌は、乳酸菌およびビフィズス菌である。
特定の態様において、病原性細菌感染の処置に使用される非病原性細菌細胞は、ネイティブMAMポリペプチドを発現する。ここで発現されるMAMペプチドは、1つまたは複数のmce反復領域、好ましくは6つまたはそれ以上のmce反復領域、より好ましくは6または7つのmce反復領域を有する。非病原性細菌細胞は、ネイティブMAMポリペプチドを発現する。ポリペプチド、核酸および非病原性細菌種に関する詳細な議論をここに組み入れる。
さらなる態様において、病原性細菌感染の処置に使用される非病原性細菌細胞は、ネイティブMAMポリペプチドを発現せず、その細菌に対して異種のMAMポリペプチドを発現するよう操作されている。ここで発現される異種MAMペプチドは、1つまたは複数のmce反復領域、好ましくは5つもしくはそれ以上または6つもしくはそれ以上のmce反復領域、より好ましくは6または7つのmce反復領域を有する。異種MAMペプチドの発現に使用される非病原性細菌細胞には、特定の無害な大腸菌株、例えばBL21またはHSが含まれるがこれらに限定されない。MAMポリペプチドを発現するよう細胞を操作する方法は、これまでに詳細に議論されており、その全体をこの節に組み入れる。
なおさらなる態様において、病原性細菌感染の処置に使用される非病原性細菌細胞は、ネイティブMAMポリペプチドを発現し、さらに異種MAMポリペプチドを発現するよう操作されている。ここで発現されるネイティブMAMポリペプチドおよび異種MAMポリペプチドは、同じ数のmce反復領域または異なる数のmce反復領域を含み得る。ここで発現されるネイティブMAMポリペプチドおよび異種MAMポリペプチドは、同じ細菌株由来または異なる細菌株由来であり得る。
本発明は、対象における病原性細菌感染を処置するための、本明細書で提供される非病原性細菌細胞およびそのような細胞を含む組成物の使用を企図している。そのような組成物はさらに、細菌、例えば乳酸菌およびビフィズス菌、酵母ならびにバチルスの特定の株を含むがこれらに限定されない他のプロバイオティクス微生物を含み得る。
本発明の別の局面において、本明細書で提供される非病原性細菌細胞および組成物は、対象、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、より好ましくはヒトに投与される。
本発明は、病原性細菌感染によって引き起こされる疾患を患っている対象または様々な医学状態もしくは環境状態のためにそのリスクを有する対象の処置を企図している。そのような疾患および状態には、例えば、肺炎、重度の術後感染、敗血症、心内膜炎、壊死性肺炎、毒素ショック症候群、炎症性および敗血症性肺炎、尿路感染、血流感染菌血症、急性細菌性髄膜炎、急性副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎、菌血症、敗血症、骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、腹膜炎、心膜炎、蜂巣炎および脳膿瘍を含む肺炎球菌感染、胃腸炎(astroenteritis)、新生児髄膜炎、溶血性尿毒症症候群、腹膜炎、乳腺炎、敗血症およびグラム陰性肺炎、コレラ、胃腸疾病、脾臓、肝臓およびリンパ節における限局的な組織壊死および肉芽腫を含む結核様症候群、腸チフス、パラチフス、下痢、耳感染、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに食物媒介疾病が含まれる。
病原性細菌感染を予防または阻害するために対象に投与される非病原性細菌細胞が、その病原性細菌に感染した宿主生物において選択的または選好的に局在化または蓄積し得ることも企図されている。例えば、特定の大腸菌のビルレント株は、主に尿路および胃腸管に感染し得る。それらの位置に常在するまたはそれらの位置で増殖する傾向のある非病原性細菌が任意で操作され、そして対象に投与される。投与された非病原性細菌は、それらの位置で生存、複製、増殖および蓄積し得る。選択的な蓄積は、主として、投与された非病原性細菌の増殖特性および感染部位の条件または環境に起因するものである。いくつかの態様において、標的部位における非病原性細菌細胞の選択的蓄積は、その細胞への標的化部分の組み込みを通じて増強され得る。投与された非病原性細菌は、通常、対象の身体に対していかなる有害な影響も与えず、かつ通常、対象の免疫系によって体内から除去される。
B. ペプチド/タンパク質療法
別の治療アプローチは、対象に対する、合成もしくは組み換えのMAMペプチド、またはそのバリアント、模倣体もしくはアナログの提供である。非経口処方物、局所処方物、リポソーム処方物および経口投与用の古典的な薬学的調製物を含むがこれらに限定されない処方物が、投与経路および目的に基づき選択されるであろう。
送達の別の局面において、本発明のペプチドおよびポリペプチドは、送達ビヒクル中にカプセル化するまたは埋め込むことによって送達され得る。例えば、脂質二重層から製造される人工的に調製されたビヒクルであるリポソームが、様々な薬物の送達に使用されている。リポソームは、天然由来リン脂質と混合脂質鎖(卵のホスファチジルエタノールアミン等)またはその他の界面活性剤から構成され得る。特に、陽イオン性または中性脂質を含むリポソームが、薬物の処方に使用されている。リポソームは、同じく送達に使用できる単層から製造されるミセルおよび逆ミセルと混同されるべきでない。
ナノ粒子は、一般に、100nmまたはそれ未満の直径を有する粒状物質であるとみなされている。マイクロ粒子は、それより大きく、例えばマイクロメートル範囲であり得る。中空であるリポソームと異なり、ナノ粒子は中実になる傾向がある。したがって、薬物は、ナノ粒子中に捕捉されることは少なく、ナノ粒子中に埋め込まれるかまたはナノ粒子上にコーティングされるかのいずれかが多いであろう。ナノ粒子は、酸化物を含む金属、シリカ、ポリマー、例えばポリメチルメタクリレートおよびセラミックから製造され得る。同様に、ナノシェルは、これらと同じ材料を有し、やや大きく、送達物質を包み込むものである。ナノ粒子またはナノシェルのいずれも、ペプチドまたはポリペプチドの持続または制御放出を実現し、かつそれをインビボ環境の影響に対して安定化させることができる。
本発明は、本発明のナノ粒子のために、無機および有機材料を含むすべてのタイプの材料および構造物が使用され得ることを企図している。これらの材料および構造物の非限定的な例には、ポリマーソーム(polymersome)、リポソーム、ポリプレックスおよび下記のコンジュゲートが含まれる。さらなる非限定的な材料には、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(ホスファゼン)等が含まれる。好ましくは、材料は、生分解性ポリマーであるポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)である。PLGAは、薬物送達に関して十分に研究されているポリマーであり、多くのインビボ用途に関してFDAの承認が得られている。他の非限定的な材料には、例えば、ポリエステル(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(L-リジン)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-コ-グリコール酸))、ポリ(乳酸-コ-リジン)、ポリ(乳酸-グラフト-リジン)、ポリ無水物(例えば、ポリ(脂肪酸二量体)、ポリ(フマル酸)、ポリ(セバシン酸)、ポリ(カルボキシフェノキシプロパン)、ポリ(カルボキシフェノキシヘキサン)、これらのモノマーのコポリマー等)、ポリ(無水物-コ-イミド)、ポリ(アミド)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(ウレタン)、ポリ(オルガノホスファゼン)、ポリ(ホスフェート)、ポリ(エチレンビニルアセテート)およびその他のアシル置換酢酸セルロースならびにそれらの誘導体、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(アクリレート)、ポリアセタール、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(スチレン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、コポリマー、ポリスチレンならびにそれらのブレンドまたはコポリマーが含まれる。別の局面において、ナノ粒子には、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンイミン、キトサン、キチン、デキストラン硫酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン等およびそれらの誘導体、コポリマーならびにそれらの混合物が含まれる。特に、ナノ粒子の1つのタイプは、10nmより小さいサイズの半導体量子ドットである。量子ドットは、蛍光特性を有する無機ナノ結晶である。ペプチドは、チオール交換反応を用いて量子ドット上にコーティングされ得る。量子ドットはさらに、量子ドットの凝集を減少させる、非特異的結合を最小化するおよび水性溶媒中での溶解性を維持する物質、例えばポリエチレングリコール(PEG)に結合され得る(Kerman et al., 2002)。ナノ粒子を作製する非限定的な方法は、参照により組み入れられる米国特許出願公開第2003/0138490号に記載されている。
本発明のさらなる局面において、本発明のペプチドおよびポリペプチドは、ナノ粒子または複数のナノ粒子を含むナノクラスターによって送達され得る。
ナノ粒子/ナノクラスターは、核酸、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、薬物、ワクチンおよびウィルスベクター、およびその他の治療剤、診断剤ならびにそれらの組み合わせと会合またはコンジュゲートし得る。これらのコンジュゲートは、ナノ粒子と共に、共有結合および/または非共有結合を通じて表面に絡み合わされ、埋め込まれ、組み込まれ、カプセル化され、結合され得る。ナノ粒子は、複数のコンジュゲートと会合し得る。例えば、ナノ粒子は、その表面上の第1のコンジュゲート、ナノ粒子中にカプセル化された第2のコンジュゲートおよびナノ粒子の材料中に組み込まれた第3のコンジュゲートを含み得る。
ナノ粒子またはナノクラスターは、所定の環境において即時放出もしくは持続放出の様式で、または所定の期間の後に制御された様式で、コンジュゲートを放出することが企図されている。複数のコンジュゲートと会合したナノ粒子またはナノクラスターは、異なるコンジュゲートを、同時にもしくは異なる時点で、制御された様式でまたは特定のトリガーイベントに反応して放出し得ることがさらに企図されている。トリガーイベントの非限定的な例には、選択されたpH範囲、選択された温度範囲、電流、選択されたイオン強度、圧、特定の液体の存在、特定の酵素、タンパク質、化合物の存在が含まれる。
本発明の特定の態様において、ナノ粒子/ナノクラスターは、合成または組み換えのMAMペプチドまたはそれらのバリアント、模倣体もしくはアナログとコンジュゲートする。MAMペプチドは、1つまたは複数のmce反復領域、好ましくは6つまたはそれ以上のmce反復領域、より具体的には6または7つのmce反復領域を有する。ナノ粒子/ナノクラスターは、異なる数のmce反復領域を含むいくつかの異なるMAMペプチドまたは異なる種のMAMペプチドとコンジュゲートし得る。
本発明のさらなる態様において、ナノ粒子/ナノクラスターはさらに、コンジュゲートされたナノ粒子/ナノクラスターを体内の標的部位、例えば胃腸管に向かわせるまたはその支援をする部分または成分を含む。
コンジュゲートされたナノ粒子/ナノクラスターが対象の体内に投与された後、コンジュゲートされたMAMペプチドは、好ましくは標的部位において、即時および/または持続放出の様式で放出されることが企図されている。
本発明は、MAMペプチドを含む組成物を投与することによる、病原性細菌感染により引き起こされる疾患を患っている対象または様々な医学状態もしくは環境状態のためにそのリスクを有する対象の処置を企図している。そのような疾患および状態には、例えば、肺炎、重度の術後感染、敗血症、心内膜炎、壊死性肺炎、毒素ショック症候群、炎症性および敗血症性肺炎、尿路感染、血流感染菌血症、急性細菌性髄膜炎、急性副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎、菌血症、敗血症、骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、腹膜炎、心膜炎、蜂巣炎および脳膿瘍を含む肺炎球菌感染、胃腸炎、新生児髄膜炎、溶血性尿毒症症候群、腹膜炎、乳腺炎、敗血症、グラム陰性肺炎、コレラ、胃腸疾病、脾臓、肝臓およびリンパ節における限局的な組織壊死および肉芽腫を含む結核様症候群、腸チフス、パラチフス、下痢、耳感染、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに食物媒介疾病が含まれる。
本発明の別の局面において、MAMペプチドおよびMAMペプチドを発現する非病原性細菌の両方を含む組成物が、病原性細菌感染を予防または阻害するために、対象に投与される。
C. 併用療法
MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチド療法の効果を高めるために、これらの組成物を細菌感染の処置に有効な別の剤と併用することが望ましい場合がある。細胞、組織または生物に対して適用される場合、「接触」および「暴露」という用語は、本明細書において、MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドおよび別の抗菌剤を標的細胞、組織もしくは生物に送達するまたは標的細胞、組織もしくは生物に隣接して配置するプロセスを表すのに使用される。
MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドは、他の剤よりも、数分から数週間の範囲の間隔で先行しても、同時であっても、かつ/または後続してもよい。MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドおよび他の剤が個別に細胞、組織または生物に適用される態様においては、一般に、MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドと他の剤が細胞、組織または生物に対して有益な併用効果を発揮できるよう、各送達時点の間に相当な期間が経過していないことを確実にする。例えば、そのような例において、細胞、組織または生物は、MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドと実質的に同時(すなわち、約1分以内)に、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の手順と接触され得ることが企図される。他の局面において、1つまたは複数の剤は、MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドの投与と実質的に同時に、その前および/または後の約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約18時間、約24時間、約36時間、約48時間、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約21日、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間もしくは約8週間またはそれ以上およびその中で派生する任意の範囲以内に、投与され得る。
MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチド処置と1つまたは複数の他の抗菌剤の様々な併用計画が使用され得る。そのような併用の非限定的な例を、MAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチド組成物を「A」、他の抗菌剤を「B」として、以下に示す。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
細胞、組織または生物へのMAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドの投与は、必要な場合に毒性を考慮する、一般的な医薬投与プロトコルにしたがい得る。処置サイクルは、必要に応じて繰り返されると考えられる。特定の態様においては、様々な追加の剤が、本発明との任意の組み合わせで適用され得ることが企図される。
使用され得る抗生物質には、アミノグリコシド(アミカシン(IV)、ゲンタマイシン(IV)、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン(IM)、トブラマイシン(IV))、カルバペネム(エルタペネム(IV/IM)、イミペネム(IV)、メロペネム(IV))、クロラムフェニコール(IV/PO)、フルオロキノロン(シプロフロキサシン(IV/PO)、ガチフロキサシン(IV/PO)、ゲミフロキサシン(PO)、グレパフロキサシン(PO)、レボフロキサシン(IV/PO)、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン(IV/PO)、ノルフロキサシン、オフロキサシン(IV/PO)、スパルフロキサンシン(PO)、トロバフロキサシン(IV/PO))、糖ペプチド(バンコマイシン(IV)、リンコサミド(クリンダマイシン(IV/PO)、マクロリド/ケトリド(アジスロマイシン(IV/PO)、クラリスロマイシン(PO)、ジリスロマイシン、エリスロマイシン(IV/PO)、テリスロマイシン)、セファロスポリン(セファドロキシル(PO)、セファゾリン(IV)、セファレキシン(PO)、セファロチン、セファピリン、セフラジン、セファクロル(PO)、セファマンドール(IV)、セフォニシド、セフォテタン(IV)、セフォキシチン(IV)、セフプロジル(PO)、セフロキシム(IV/PO)、ロラカルベフ(PO)、セフジニル(PO)、セフジトレン(PO)、セフィキシム(PO)、セフォペラゾン(IV)、セフォタキシム(IV)、セフポドキシム(PO)、セフタジジム(IV)、セフチブテン(PO)、セフチゾキシム(IV)、セフトリアキソン(IV)、セフェピム(IV))、モノバクタム(アズトレオナム(IV))、ニトロイミダゾール(メトロニダゾール(IV/PO))、オキサゾリジノン(リネゾリド(IV/PO))、ペニシリン(アモキシシリン(PO)、アモキシシリン/クラブラン酸(PO)、アンピシリン(IV/PO)、アンピシリン/スルバクタム(IV)、バカンピシリン(PO)、カルベニシリン(PO)、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、メズロシリン(IV)、ナフシリン(IV)、オキサシリン(IV)、ペニシリンG(IV)、ペニシリンV(PO)、ピペラシリン(IV)、ピペラシリン/タゾバクタム(IV)、チカルシリン(IV)、チカルシリン/クラブラン酸(IV))、ストレプトグラミン(キヌプリスチン/ダルホプリスチン(IV)、スルホンアミド/葉酸アンタゴニスト(スルファメトキサゾール/トリメトプリム(IV/PO))、テトラサイクリン(デメクロサイクリン、ドキシサイクリン(IV/PO)、ミノサイクリン(IV/PO)、テトラサイクリン(PO))、アゾール抗真菌剤(クロトリマゾール、フルコナゾール(IV/PO)、イトラコナゾール(IV/PO)、ケトコナゾール(PO)、ミコナゾール、ボリコナゾール(IV/PO))、ポリエン抗真菌剤(アンホテリシンB(IV)、ナイスタチン)、エキノカンジン抗真菌剤(カスポファンギン(IV)、ミカファンギン)およびその他の抗真菌剤(シクロピロクス、フルシトシン(PO)、グリセオフルビン(PO)、テルビナフィン(PO))が含まれる。
D. 薬学的処方物
本発明の薬学的処方物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散された有効量のMAM発現非病原性細菌、タンパク質またはペプチドを含む。「薬学的または薬理学的に許容される」というフレーズは、動物、例えばヒトに適切に投与されたときに有害な、アレルギー性のまたはその他の予期せぬ反応を生じない組成物を表す。そのような薬学的組成物の調製は、本願の開示に照らして当業者に公知であり、参照より本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990によって例示されている。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与に関して、調製物は、FDA Office of Biological Standardsによって要求される無菌性、発熱性、一般安全性および純度の標準を満たすべきであることが理解されるであろう。
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」には、当業者に公知の、任意かつすべての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化物質、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、香料剤、色素、その類似物質およびそれらの組み合わせが含まれる。任意の従来的な担体が活性成分と不適合な場合を除いて、治療または薬学的組成物におけるその使用が企図されている。
本発明の医薬は、それが固体、液体またはエアゾールの形態のいずれで投与されるべきか、および注射のような投与経路の場合に無菌であることを必要とするかどうかに依存して、異なるタイプの担体を含み得る。本発明は、当業者に公知のように、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸内に、局所的に、筋内に、腹腔内に、皮下に、結膜下に、膀胱内に、粘膜内に、心膜内に、臍内に、眼内に、経口的に、局所的に、限局的に、吸入(例えば、エアゾール)により、注射により、注入により、連続注入により、標的細胞に直接送る限局的灌流により、カテーテルを通じて、洗浄(lavage)を通じて、クリームとして、脂質組成物(例えば、リポソーム)としてまたはその他の方法もしくは上記の任意の組み合わせにより、投与され得る。
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、身体的および生理学的要因、例えば体重、状態の重篤度、処置する疾患のタイプ、過去または現在の治療的介入、患者の突発的症状および投与経路により決定され得る。いずれにしても、投与の責任者が、個々の対象ごとに組成物中の活性成分の濃度および適当な用量を決定するであろう。
特定の態様において、薬学的組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含み得る。他の態様において、活性化合物は、例えば、その単位の重量の約2%〜約75%の間、または約25%〜約60%の間、およびその中から派生する任意の範囲に相当し得る。他の非限定的な例において、用量はまた、投与あたり、約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から、約1000ミリグラム/kg/体重までまたはそれ以上、およびその中から派生する任意の範囲に相当し得る。本明細書に列挙される数値から派生する範囲の非限定的な例において、約5 mg/kg/体重〜約100 mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重等が、上記の数値に基づき投与され得る。
任意の例において、組成物は、1つまたはそれ以上の成分の酸化を遅らせる様々な抗酸化物質を含み得る。加えて、微生物の活動の予防が、保存剤、例えば、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない様々な抗菌剤および抗真菌剤によってもたらされ得る。
医薬は、遊離塩基形態、中性形態、または塩形態で組成物に処方され得る。薬学的に許容される塩には、酸付加塩、例えばタンパク質組成物の遊離アミノ基によって形成される塩、または無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸または有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸もしくはマンデル酸によって形成される塩が含まれる。また、遊離カルボキシル基によって形成される塩を、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは第二鉄;または有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカインから得ることができる。
組成物が液体形態である態様において、担体は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)およびそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、コーティング、例えばレシチンの使用によって;担体、例えば液体ポリオールもしくは脂質中に分散させることによる必要な粒子サイズの維持によって;界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースの使用によって;またはそのような方法の組み合わせによって、維持され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、塩化ナトリウムまたはそれらの組み合わせを含めることが好ましいであろう。
特定の態様において、組成物は、経口摂取のような経路による投与用に調製される。これらの態様において、固形組成物は、例えば、溶液、懸濁物、乳濁物、錠剤、丸剤、カプセル(例えば、ハードまたはソフトシェルゼラチンカプセル)、持続放出処方物、口腔組成物、トローチ、エリキシル、懸濁物、シロップ、ウエハまたはそれらの組み合わせを含み得る。経口組成物は、日常の食品に直接組み込まれ得る。経口投与に好ましい担体は、不活性希釈剤、吸収性可食担体またはそれらの組み合わせを含む。本発明の他の局面において、経口組成物は、シロップまたはエリキシルとして調製され得る。シロップまたはエリキシルは、例えば、少なくとも1つの活性剤、甘味剤、保存剤、香料剤、色素、保存剤またはそれらの組み合わせを含み得る。
特定の好ましい態様において、経口組成物は、1つまたは複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、香料剤およびそれらの組み合わせを含み得る。特定の態様において、組成物は、以下の1つまたは複数を含み得る:結合剤、例えばトラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプン、ゼラチンもしくはそれらの組み合わせ;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムもしくはそれらの組み合わせ;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸もしくはそれらの組み合わせ;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;甘味剤、例えばスクロース、ラクトース、サッカリンもしくはそれらの組み合わせ;香料剤、例えばペパーミント、ウィンターグリーン油、チェリー香料、オレンジ香料等;または上記の組み合わせ。単位剤形がカプセルの場合、それは、上記タイプの材料に加えて、担体、例えば液体担体を含み得る。様々なその他の材料が、コーティングとしてまたはそれ以外の方法で単位剤形の物理的形態を変更するために存在し得る。例えば、錠剤、丸剤またはカプセルは、シェラック、糖またはその両方でコーティングされ得る。
無菌注射可能溶液は、必要量の活性化合物を、上記の様々な他の成分と共に、適当な溶媒に添加し、必要に応じて、その後に滅菌ろ過することによって調製され得る。一般に、分散物は、様々な滅菌された活性成分を、基本分散媒および/またはその他の成分を含む無菌ビヒクル中に添加することによって調製される。無菌注射可能溶液、懸濁物または乳濁物の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分および任意の追加の所望の成分の粉末を、事前に滅菌ろ過されたその液体媒体から生成する真空乾燥または凍結乾燥技術である。液体媒体は、必要な場合、適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈物には、最初に、注射の前に、十分な生理食塩水またはグルコースによって等張性を与えておくべきである。直接注射用の高濃度組成物の調製もまた企図されており、その中で、極めて迅速に浸透し、高濃度の活性剤を小さな領域に送達するための溶媒としてのDMSOの使用が想定されている。
本発明はまた、キット、例えば治療キット、およびMAMポリペプチドをコードする発現コンストラクトを調製するためのキットを提供する。例えば、キットは、1つまたは複数の本明細書に記載される薬学的組成物および任意でそれらの使用のための説明書を含み得る。キットはまた、そのような組成物の投与を行うための1つまたは複数のデバイスを含み得る。例えば、本発明のキットは、MAMペプチドをコードする発現コンストラクトを含む薬学的組成物およびそれを保持する細菌細胞のヒト対象への筋内注射を達成するための薬学的組成物およびデバイスを含み得る。
キットは、ラベル付きの容器を含み得る。適当な容器には、例えば、ボトル、バイアルおよび試験管が含まれる。容器は、様々な材料、例えばガラスまたはプラスチックから形成され得る。容器は、上記のような、治療または非治療適用に有効な発現コンストラクトを含む組成物を保持し得る。上記のような、容器表面のラベルは、その組成物が特定の治療または非治療適用に使用されることを示してもよく、インビボまたはインビトロ利用のいずれかの指示を示してもよい。本発明のキットは、典型的に、上記の容器ならびに緩衝液、希釈液、フィルター、針、注射器および使用説明書を含む包装挿入物を含む、販売者および利用者の立場から望まれる材料を含む1つまたは複数の他の容器を含むであろう。
6. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれている。以下の実施例の中で開示されている技術は、本発明を実施する上で十分に機能することが本発明者によって見出された技術であり、したがってその実施の好ましい様式を構成するものとみなすことができることを当業者は理解するはずである。しかし、当業者は、本願の開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示される特定の態様において多くの変更がなされ得、それでも同等または類似の結果が得られることを理解するはずである。
実施例1
材料および方法
バイオインフォマティクス分析。mceドメイン含有タンパク質の分類は、PFAM(Protein Families Database、ワールドワイドウェブ上のpfam.sanger.ac.uk/)を用いるドメインアーキテクチャの分析およびClustal W(ワールドワイドウェブ上のebi.ac.uk/clustalw/)により生成した多配列アラインメントを用いるmceドメインの手作業による同定により行った(Finn et al., 200)。PSORTb v3.0.2(ワールドワイドウェブ上のpsort.org/psortb/、(Yu et al., 2010)およびTMHMMサーバ v2.0(ワールドワイドウェブ上のcbs.dtu.dk/services/TMHMM/)を使用して細胞下局在およびMAM7中の膜貫通領域を予測した。MAM7タンパク質の近接結合木は、Clustal Wの多配列アラインメントに基づき、モバイルポータル(mobyle portal)(mobyle.pasteur.fr/cgi-bin/portal.py、(Neron et al., 2009; Howe et al., 2002)のクイックツリー(quicktree)およびネビックトップス(newicktops)プログラムを用いて生成した。
組み換えDNA。内因性プロモーター領域を含むMAM7をPOR1ゲノムDNAから増幅し、得られたフラグメントを、腸炎ビブリオにおける選択が可能なようにアンピシリン耐性遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子で置き換えられたプラスミドpBAD/Myc-His(Invitrogen)のNcoI/EcoRI部位にクローニングすることによって、腸炎ビブリオにおいて発現させるMAM7-(myc)コンストラクトを作製した。EPEC、偽結核菌およびコレラ菌MAM7ノックアウト株用の補完ベクターは、コレラ菌用MAM7コンストラクトをSacI/KpnI部位にクローニングしたことを除いて同じ方法を使用して作製した。大腸菌において発現させるMAM7-(myc)、MAM7ΔN1-44(myc)、MAM1-(myc)およびMAM6-(myc)もまた、POR1ゲノムDNAから増幅し、pBAD/Myc-His KnRのNcoI/EcoRI部位にクローニングしたが、プロモーター領域は除き、それらの発現をaraBADプロモーターによって駆動するようにした。腸炎ビブリオまたは大腸菌において発現させるN1-44-TEV-MAM7-(myc)コンストラクトは、部位特異的変異誘発を通じてTEV(タバコエッチ病ウイルスプロテアーゼ)切断部位を既製のMAM7-(myc)コンストラクトに導入することによって作製した。ゼロ(対照)、1、2、6または7つのmceドメインを含むMBP(マルトース結合タンパク質)-Cys-mceコンストラクトをPOR1ゲノムDNAから増幅し、pET28b-MBP(6xHisタグ、MBPタグ)のBamHIおよびNotI部位にクローニングした。GST(グルタチオンS-トランスフェラーゼタグ)-MAM7コンストラクトは、MAM7をpGEX-4T-1(GE Healthcare)のBamHI/NotI部位にクローニングすることによって作製した。
EPEC、腸炎ビブリオ、コレラ菌および偽結核菌のΔMAM7欠失株の構築。EPEC ΔMAM7株を、以前に記載されたようにして遺伝子ドクタリング(Gene doctoring)を用いて作製した(Lee et al., 2009)。腸炎ビブリオ、偽結核菌およびコレラ菌の欠失株を、基本的に記載されているようにして作製した(Milton et al., 1996; Garbom et a., 2004)。簡潔に説明すると、VP1611(MAM7)の1 kb上流および下流の領域を、BglII、SpeIおよびSalI部位を用いて自殺ベクターpDM4にクローニングした。このコンストラクトを電気穿孔によって大腸菌SM10細胞に移入し、SM10細胞を腸炎ビブリオPOR1およびPOR2との3親間交配(triparental mating)のドナー株として使用した。交配の後、25μg/mlクロラムフェニコールを含むMMM(海洋最小培地;marine minimal medium)への再プレーティングによって陽性クローンを選択した。個々のコロニーを、15%スクロースを含むMMMプレートに画線し、プラスミドをキュアリングした。個々のコロニーをプラスミドの消失についてスクリーンし、VP1611の欠失を転写分析および配列決定によって確認した。転写分析において、RNAを、RNeasyキット(QIAGEN)を用いてPOR株、欠失株および補完株から単離した。RNAをDNAse I(QIAGEN)で処理し、これを逆転写(M-MLTリバーストランスクリプターゼ、Promega)の鋳型として使用した。cDNAおよび元々のRNA(対照)の両方を、VP1611特異的およびリボソームタンパク質14特異的(対照)プライマーの両方を用いるPCRの鋳型として使用した。
細胞下分画。mycタグ付きMAMタンパク質を発現する細胞をペレット化し、そしてOD600が6.0となるよう、10mM Tris-HCl pH7.5、5mM EDTA、20% w/vスクロースおよび0.1mg/mlリゾチーム中に再懸濁した。サンプルを22℃で30分間静置し、その後に再度ペレット化した(5分間、10000xg、4℃)。その上清(ペリプラズムおよび外膜画分)を新しい試験管に移し、100000xg、4℃で1時間遠心分離してペリプラズム(可溶性)画分と外膜(ペレット)画分を分離した。細胞質および内膜画分を回収するため、第1のインキュベーションおよび遠心分離工程後の残留ペレットをOD600が6.0となるよう10mM Tris-HCl pH7.5、5mM EDTA中に再懸濁し、22℃で10分間静置した。溶解したスフェロブラストを、遠心分離(100000xg、4℃、1時間)によって内膜(ペレット)画分と細胞質(可溶性)画分に分離した。ペレット画分を上清と等量になるよう再懸濁し、そして等量のサンプルをSDS-PAGEによって分離した。mycタグ付きタンパク質を、ウェスタンブロットを用いて検出した。
ウェスタンブロット。タンパク質をSDS-PAGEによって分離し、そしてニトロセルロース膜に移した。膜を、22℃で1時間、TBS-T(0.05% Tween 20を含むTris緩衝生理食塩水)中5%のスキムミルク粉末でブロックした。膜を、22℃で1時間、ブロッキング緩衝液で1:1000希釈した抗myc抗体9E10(Santa Cruz)でプローブした。TBS-Tで3回洗浄した後、膜を、22℃で1時間、ブロッキング緩衝液で1:5000希釈した抗マウスHRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)結合2次抗体(GE Healthcare)と共にインキュベートした。膜をTBS-Tでさらに3回洗浄し、タンパク質をECL plus検出システム(GE Healthcare)を用いて検出した。分画の成功を確認するため、本発明者らは、外膜タンパク質OmpA(Silhavyラボから授受、1:300,000、22℃で1時間)、ペリプラズムタンパク質PhoA(Acris、1:1000、22℃で1時間)、内膜タンパク質SecE(Collinsonグループから授受、1:10000、22℃で1時間)または細胞質タンパク質RNAポリメラーゼ(Acris、1:1000、22℃で1時間)に特異的な抗体でプローブした。
プロテアーゼ保護実験。mycタグ付きMAMコンストラクトを発現する細胞を、OD600が1となるようPBSに再懸濁した。パパインを終濃度が0、0.1、1、10、100および500μg/mlとなるよう添加し、そして細胞を22℃で10分間インキュベートした。反応を、Complete Protease Inhibitor Cocktail(Roche)、5xSDSローディング緩衝液を添加することによって停止させ、その後に10分間煮沸した。サンプルをSDS-PAGEによって分離し、mycタグ付きタンパク質をウェスタンブロットによって検出した。
付着アッセイ。組織培養細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、その後に抗生物質を含まない組織培養培地に細菌を添加した。細菌を、感染多重度(MOI)が10となるよう添加した。正確な投入量を決定するため、細菌を空のウェルに添加した。プレートを遠心分離(1000xg、22℃、5分間)し、その後に37℃で30分〜1時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、そしてPBS中0.5%のTriton X-100を添加することによって溶解させた。投入サンプルおよび溶解物を連続希釈し、MLB(腸炎ビブリオ)またはLB(大腸菌、偽結核菌、コレラ菌)のいずれかのプレートにプレーティングし、コロニー数を計測した。競合実験では、付着実験の前に、組織培養細胞を抗Fnまたは抗マウスIgG抗体(PBS中50μg/ml)と共に30分間インキュベートした。ホスホリパーゼC(PLC)を用いる実験では、感染の前に、組織培養細胞をPBS中10または50μg/mlのいずれかのホスホリパーゼC(Sigma)で15分間処理した。その他の場合は、細菌細胞を、ヒト血漿由来フィブロネクチン(PBS中200μg/ml)または以下に記載されるようにして1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PC)もしくは20 mol%のPCと80 mol%の1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(PA)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.)を含む混合物から調製されたPBS緩衝リポソームと共にプレインキュベートした。
細胞傷害性アッセイ。組織培養細胞をPBSで洗浄し、その後に抗生物質を含まない組織培養培地中にMOIが10(腸炎ビブリオ、コレラ菌)またはMOIが100(偽結核菌、EPEC)となるよう細菌を添加した。感染を、プレートの遠心分離(1000xg、22℃、5分間)によって開始し、その後37℃でインキュベートした。示された時点で各ウェルから200μlの上清を3連で取り出し、遠心分離し(1000xg、22℃、5分間)、そして100μlの上清をアッセイ用に新しい96ウェルプレートに移した。細胞の溶解を定量するために、本発明者らは、培養培地中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量を、LDH細胞傷害性検出キット(Takara)を製造元のプロトコルにしたがい用いて測定した。
ゲンタマイシン保護およびTEV切断アッセイ。PBSで洗浄した組織培養細胞を、MOIが10となるようDMEMに希釈した細菌と共にインキュベートした。ゲンタマイシン保護実験では、示された時点で、ゲンタマイシンを終濃度が150μg/mlとなるよう添加した。TEV切断アッセイでは、示された時点で、TEVプロテアーゼを終濃度が8μg/mlとなるよう添加した。0分の時点において、ゲンタマイシンまたはTEVプロテアーゼは、遠心分離工程の前に添加した。細胞傷害性を、LDH放出アッセイを用いて感染4時間後に決定した。
組み換えMAMタンパク質の発現および精製。適当な発現コンストラクトで形質転換した大腸菌BL21細胞を、16時間、適当な抗生物質を含むLB中で生育した。示される抗生物質を含む新しいLBに、プレ培養物を、1:100の比で添加し、そして培養物のOD600が0.6に達するまで、120rpmで振盪しながら37℃で生育した。タンパク質産生を、IPTGを終濃度が0.4mMとなるよう添加することによって誘導し、そして細胞を37℃でさらに4時間生育した。細胞を遠心分離によって収集し、ペレットを5倍量の結合緩衝液(MBP-MAMコンストラクトの場合、20mM Tris-HCl pH7.5、250mM NaCl、5mMイミダゾール、またはGST-MAM7の場合、20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl)に再懸濁した。PMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)、リゾチームおよびMgCl2を、それぞれ1 mM、2 mg/mlおよび5 mMの濃度となるよう添加し、30分間の氷上でのインキュベーションの後に、懸濁物を、Sonicator3000(Misonix)を用いて氷上で計2分間超音波処理(3秒間オン、7秒間オフ、出力70%)し、そして遠心分離(30分間、8000xg、4℃)した。MBP-MAMコンストラクトについては、上清を、3カラム量(c.v.)の50mM NiSO4で充填し3 c.v.の結合緩衝液で平衡化した5 mlのHisTrap HPカラム(GE Healthcare)にロードした。このカラムを、溶出物の吸光度がバックグラウンドレベルに戻るまで、1.5 ml/分の流速の結合緩衝液で洗浄し、その後に、結合したタンパク質を、10 c.v.の5〜500mMのイミダゾールの線形勾配を用いて溶出させた。画分をSDS-PAGEによって分析し、そして関心対象のタンパク質を含むものを集め、ゲルろ過緩衝液(50mM Tris-HCl pH7.5、250mM NaCl)に対して透析した。透析した画分を、2 c.v.のゲルろ過緩衝液を1 ml/分の流速で用いて平衡化したSuperdex S75 HL 16/60カラム(GE Healthcare)によるゲルろ過によってさらに精製した。純粋な関心対象のタンパク質を含む画分を集め、100μMに濃縮し、そして20mM Hepes pH7.0に対して緩衝液交換を行った。
組み換えMAMタンパク質の蛍光標識。MBP-MAMタンパク質を、MBPタグとMAMタンパク質配列の間に導入された単一のシステイン残基において、Alexa Fluor(登録商標)488 C5マレイミド(Invitrogen)を用いて標識した。標識のために、タンパク質を、20mM Hepes pH7.0中で10倍モル過剰のTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)と共に、4℃で2時間、その後に5倍モル過剰のAlexa Fluor(登録商標)488 C5マレイミドと共に37℃で1時間、インキュベートした。この反応を、過剰なβ-メルカプトエタノールの添加によって停止させた。過剰な色素を除去し、タンパク質を遠心フィルター(Millipore)を用いてPBSに緩衝液交換した。タンパク質の標識は、質量分析を用いて、95%超の効率であると決定された。
GST-MAM7溶解物を、再懸濁緩衝液として20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaClを用いたことを除いて上記の通りに調製した。清澄な溶解物を、結合緩衝液で平衡化された1 mlのグルタチオン-セファロースビーズ(GE Healthcare)を用いて精製した。結合したタンパク質を、40 c.v.の結合緩衝液で洗浄し、5 c.v.の20mM Tris-HCl pH 7.5、10mM NaCl、0.1%β-メルカプトエタノール、0.3%グルタチオンを用いて溶出させた。緩衝液交換の後、このタンパク質を、記載されているようなゲルろ過によってMBP-MAMタンパク質に関してさらに精製した。
蛍光付着アッセイ。実験前に、HeLa細胞を、滅菌したCorningコスター(costar)96ウェルプレート(15 000細胞/ウェル)上で16時間培養した。Alexa標識タンパク質を、終濃度が0.1〜100μMとなるようPBSで希釈し、そして37℃で1時間、PBSで洗浄した細胞と共にインキュベートした。初期の蛍光および蛍光の発生量を、それぞれ、PBSによる3回の洗浄の前および後に、プレートリーダー(λ励起 485 nm、λ発光 520 nm)で測定した。データは、%結合蛍光で表し、MBP単独について決定された値で補正した。Sigma Plotを用いて、結合タンパク質のレベルをタンパク質濃度の関数としてブロットし、データを単部位結合モデルに対してフィッティングした。トリプシン消化細胞に対する蛍光付着アッセイでは、細胞を、トリプシン消化によって培養皿から剥がし、これを5分後にDMEMを添加することによって停止させた。細胞をPBS中600,000/mlに調節し、そして37℃で30分間、PBS中100μMの標識MBP-MAM7またはMBPと共にインキュベートした。細胞懸濁物の蛍光を、上記のように、PBSによる十分な洗浄の前および後に測定した。
競合結合実験。MBP-MAMタンパク質を、DMEM中0〜300μMの間の濃度となるよう調製し、これを細胞150,000個/mlの密度に培養したHeLa細胞に添加した。37℃で1時間インキュベートした後、MAM7を発現する大腸菌BL21細胞をMOIが1となるよう添加し、遠心分離して付着させ、そして37℃でさらに1時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、そして0.5% Triton X-100を含むPBSを添加することによって溶解させた。溶解物を連続希釈し、付着した細菌の数をプレーティングおよび計数により決定した。付着した細菌の数を、投入量(これも希釈平板法によって定量した)の百分率として表した。
競合指数の決定。MAM7ΔN1-44、MAM6およびMAM1を発現する大腸菌BL21の細菌培養物を、MAM7および追加のアンピシリン耐性マーカーとして使用する空のpGEXプラスミドを発現する株と混合し、これを、各株のMOIを10にして、37℃で1時間、培養された3T3線維芽細胞と共にインキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、溶解させ、そして細菌を希釈平板法によって定量した。溶解物を、カナマイシンを含むLBならびにカナマイシンおよびアンピシリンを含むLBの両方に二重プレーティングした。競合指数は、以下のようにして算出した:
C.I. = 変異体のcfu/野生型細菌のcfu =
[(カナマイシンにおけるcfu)-(カナマイシン+アンピシリンにおけるcfu)]/(カナマイシン+アンピシリンにおけるcfu)
BL21および病原性細菌を用いた競合実験。HeLa細胞をカバースリップ上で細胞150,000個/mlに培養し、これを37℃で1時間、MAM7またはMAM7ΔN1-44を発現する大腸菌BL21(MOI 100)と共にインキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、そして病原性細菌を4時間感染させた。4時間後、細胞の複製ウェルを溶解させるかPBSで洗浄してPBS中3.2%のパラホルムアルデヒドで15分間固定するかのいずれかを行った。溶解した細胞由来の培養上清を、LDH放出アッセイを用いた細胞傷害性の決定に使用した。固定された細胞を、PBS中0.1%のTriton X-100で3分間透過処理し、DNAおよびアクチンを染色するためにそれぞれHoechst(Sigma)およびローダミン-ファロイジン(Molecular Probes)で10分間処理した。カバースリップを、PBS中10%(w/v)のグリセロールおよび0.7%(w/v)の没食子酸プロピル上に置き、マニキュア液で封をし、Zeiss LSM510 META Laser Scanning Confocal Microscopeを用いて観察した。画像を、ImageJおよびPhotoshopソフトウェアを用いて処理した。
フィブロネクチンを用いたプルダウンおよびプレートアッセイ。プルダウン実験のために、ヒト血漿由来の精製フィブロネクチン(Fisher Scientific)およびGST-MAM7またはGST(対照)のいずれかの等モル混合物を、22℃で30分間、150mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液pH 7.5中でインキュベートした。サンプル量の10%をローディング対照として取り置き、残りのサンプルをアッセイ緩衝液で平衡化した0.2倍量のグルタチオン-セファロースビーズと共に22℃で1時間インキュベートした。ビーズを、0.9倍量のアッセイ緩衝液で3回洗浄し、その後に0.9倍量のSDSローディング緩衝液中で煮沸した。等量のローディング対照、洗浄液および溶出物を、SDS-PAGEおよびクマシー染色によって分析した。プレートアッセイのために、Alexa Fluor(登録商標)488標識MBP-MAMタンパク質を、終濃度が0.1〜100μMの間になるようPBSで希釈した。タンパク質を、22℃で1時間、ヒトフィブロネクチンコート96ウェルプレート(R&D systems)中でインキュベートした。蛍光レベルを、PBSによるプレートの3回の洗浄の前および後に測定した。データを、蛍光付着アッセイに関して記載されているようにして分析した。
脂質オーバーレイアッセイ。事前にスポットしたPIPstrips(商標)(Echelon Biosciences Inc.)を、22℃で1時間、5%牛乳粉末を含むT-TBS中でインキュベートした。MBP-MAMタンパク質を、終濃度が10μMとなるようブロッキング緩衝液で希釈し、そして22℃で1時間、PIPストリップと共にインキュベートした。ストリップをT-TBSで各々10分間、3回洗浄し、そして22℃で1時間、ブロッキング緩衝液で1:1000希釈したHis抗体(QIAGEN)と共にインキュベートした。ストリップをT-TBSで3回洗浄し、そして22℃で1時間、ブロッキング緩衝液で1:5000希釈した抗マウスHRP結合2次抗体(GE Healthcare)と共にインキュベートした。3回のさらなる洗浄の後、結合したタンパク質を、ECLプラス検出システム(GE Healthcare)を用いて検出した。
リポソーム会合実験。PBS緩衝リポソームを、緩衝液としてPBSを用いることを除いて以前に記載されたようにして、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PC)またはPCと1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(PA)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.)の混合物から調製した(Selyunin et al., 2011)。300μgのリポソームを、22℃で1時間、PBS中100μgのMBP-MAMタンパク質と共にインキュベートした。混合物を4℃で1時間、100 000xgで遠心分離し、ペレットおよび上清の両方の画分をSDS-PAGEによって分離し、そしてタンパク質をクマシー染色によって検出した。
線形動物致死アッセイ。150μlの細菌培養物をNGM(線形動物成長培地)プレート上にスポットし、30℃で16時間インキュベートした後、20〜30体の、同調させた、L4段階の線虫を菌叢に移した。エレガンス線虫の生殖系列欠失変異体SS104 glp-4(bn2)株をすべての実験に使用した。播種の前に、線虫を線形動物成長培地(NGM)寒天プレート上で15℃で維持し、大腸菌HB101を給餌した。この線虫を、プレーティング前に表面に結合した細菌を取り除くためにM9緩衝液で2回洗浄した。実験中の産卵を阻害するために線虫を含むプレートを25℃で維持し、そして24時間ごとに死亡した線虫を記録した。触れても反応しなくなった線虫を、死亡したとみなした。補完実験では、プラスミドを維持するために、細菌培養物の投入の前にプレートにカナマイシンを添加した。データはカプラン・マイヤー法を用いて分析し、生存曲線を、ログランク検定を用いて比較した。顕微鏡検査のために、線虫に試験株を48時間給餌し、2%アガロースパッド上に乗せ、そしてZeiss Axioplan顕微鏡を用いるノマルスキー光学機器下で観察した。
統計分析。統計的有意性を、対応のない両側t検定を用いて分析した。2連で3回行った付着実験および2連で2回行った組み換えタンパク質を用いた付着実験を除くすべての実験を、3連で少なくとも3回で行った。そうでないことが示されていない限り、すべての値を、平均値±標準偏差として得た。線形動物致死アッセイにおいては、データをカプラン・マイヤー法にしたがいプロットし、生存曲線をログランク検定を用いて比較した。統計的有意性は、P<0.005に設定した。RIMD(P<0.0001)、POR1(P<0.0001)、POR1ΔMAM7(P=0.99)、POR1ΔMAM7+pMAM7(P=0.0002)をHB101と比較した。
結果
本発明者らは、バイオインフォマティクスを用いて、細菌の宿主細胞への初期結合に関与している可能性のある構成的に発現されるタンパク質に関し、海洋および河口環境に出現し、貝類媒介食中毒の原因となり得るグラム陰性細菌である腸炎ビブリオのゲノムを調査した(Daniels et al., 2000)。本発明者らは、本発明者らが多価接着分子(MAM)と命名した、想定膜貫通モチーフとそれに続く6つ(MAM6)または7つ(MAM7)の哺乳動物細胞侵入(mce)ドメインを含む推定外膜分子を発見した(図1A、図7A)。予想外に、本発明者らは、MAM6またはMAM7は幅広いグラム陰性動物病原体においてコードされているが、グラム陽性または植物病原性細菌ではそうでないことを見出した(図1A、図7B、図8)。対照的に、単一のmceドメインを含むタンパク質は、広く分布している(図1A)。マイコバクテリア種およびいくつかのグラム陽性細菌、例えばロドコッカス種またはストレプトミセス種において、mceドメインは、第2の未知の機能のドメイン(DUF3407)と共に存在する(Arruda et al., 1993; Chitale et al., 2001)。1つのmceドメインおよびC末端低複雑性領域を含むタンパク質は、藻類、高等植物および細菌でみられるABC輸送体の付属成分であると考えられる(Awai et al., 2005)。本願において、本発明者らは、グラム陰性細菌由来の推定外膜タンパク質の新しいクラスを構成するMAMが細胞付着に関与するかどうかを試験した。最初に、本発明者らは、MAM7分析における代表的なグラム陰性細菌として腸炎ビブリオを使用し、そしてこれらの研究を、他のグラム陰性病原体の付着におけるMAMの役割の分析につなげた(Daniels et al., 2000)。
MAM7は宿主細胞への付着を媒介する新規の外膜タンパク質である。本発明者らは、腸炎ビブリオMAM7(VP1611)の細胞内局在を、腸炎ビブリオの非細胞傷害性株[POR2(Park et al., 2004)]を用いて内因性遺伝子をその内因性プロモーターの制御下にあるプラスミド発C末端mycタグ付きのMAM7に置き換えることによって分析した(図9)。MAM7-mycは、同株を海洋LB(MLB、図9)中で生育したときに構成的に転写され、そして細胞下分画では、もっぱらその外膜に局在する(図1B)。外膜への局在はまた、MAM7オルソログを含まない大腸菌BL21における腸炎ビブリオMAM7-mycのアラビノース誘導異種発現後にも観察された(図1C)。MAM7の最初の44個のN末端アミノ酸は、膜貫通ヘリックスを形成すると推定される疎水性残基のストレッチ(aa 21〜40)を含んでいる。このN末端の44アミノ酸の欠失(MAM7ΔN1-44-myc)は、このタンパク質の細胞質滞留をもたらした(図1D)。MAM7が細菌の表面に存在するかどうかを評価するため、BL21-MAM7およびBL21-MAM7ΔN1-44-mycをプロテアーゼ感受性に関して試験した。漸増濃度のパパインによるこれらの株の処理は、MAM7-mycを発現する細胞においてエピトープタグの漸減をもたらすが、MAM7ΔN1-44-mycを発現する細胞においてはそうならず、このことはこのC末端エピトープの細胞外空間への局在をさらに支持している(図1E)。そのN末端配列が外膜に埋め込まれているかどうかを調査するため、本発明者らは、TEVプロテアーゼ切断可能なペプチドを疎水性N末端配列(残基1〜44)とmceドメインの間に導入した(N1-44-TEV-MAM7-myc)。このコンストラクトから発現されるタンパク質は、正確に局在し、完全な細菌と共にインキュベートされたTEVプロテアーゼによって適切に切断され(図1F)、これによって、そのN末端ペプチドがMAM7の外膜標的化および膜係留に必要な情報を含んでおり、このタンパク質の残りの部分が細胞外に暴露されることが実証された。
MAM7が外膜タンパク質であることが確認されたため、本発明者らは次に、MAM7が腸炎ビブリオの宿主細胞に対する早期の付着に重要かどうかを試験した。本発明者らは、腸炎ビブリオPOR2(Park et al., 2004)およびPOR2ΔMAM7派生株を用いて、MAM7の非存在下での腸炎ビブリオの付着が、HeLa細胞およびCaco-2上皮細胞、RAW264.7マクロファージおよび3T3線維芽細胞を含む試験したすべての宿主細胞株において、およそ80%から約35〜40%に減少することを観察した。POR2 MAM7の付着は、TEV切断部位またはmycタグを有するまたは有さないMAM7を発現するプラスミドによって回復した(図1G、図10A〜10B)。非接着性のBL21株は、腸炎ビブリオMAM7の発現を誘導することによって接着性株に変換されたが、MAM7ΔN1-44変異体によってはそうならなかった(図1H)。本発明者らは、MAM7が腸炎ビブリオの幅広い哺乳動物細胞への付着に寄与し、他の接着性タンパク質の非存在下でもグラム陰性株の効果的な細胞付着を十分に媒介すると結論づけた。
MAM7媒介付着はIII型媒介細胞死を亢進する。宿主のシグナル伝達経路を操作するエフェクタータンパク質の転移は、多くのグラム陰性生物の病理において鍵となる工程である。腸炎ビブリオは、感染に対する細胞応答を病原体に有利なように変える目的で少なくとも8つの異なるエフェクタータンパク質を宿主の細胞質ゾルに転移させる2つのIII型分泌システム(T3SS)により特徴づけられる(Burdette et al., 2008; Broberg et al., 2010)。本発明者らは、病原体と宿主の間の様々な接着機構を通じて媒介され得る親密な会合(intimate association)が、感染時のT3SS-エフェクターの転移の成功の前提条件となるという仮説をたてた。両方のT3SSを含むが熱安定性直接溶血素tdhAおよびtdhSを欠く腸炎ビブリオであるPOR1は、感染後2〜3時間以内にT3SS依存的な細胞溶解を引き起こす(Park et al., 2004; Burdette et al., 2008)。POR1媒介細胞溶解におけるMAM7の寄与を試験するため、本発明者らは、MAM7を欠失させたPOR1株(POR1ΔMAM7、図9)ならびに残基44と45の間に挿入されたTEV切断可能配列およびC末端mycタグを含むMAM7を補完したPOR1ΔMAM7株(N1-44-TEV-MAM7-myc)を作製した。N1-44-TEV-MAM7-mycタンパク質は、外膜に局在することが確認された(図10B)。加えて、POR2ΔMAM7 + N1-44-TEV-MAM7-myc株をTEVプロテアーゼで5分間処理すると、その株はPOR2ΔMAM7で観察されたものに匹敵する付着の減少を示した(図10A)。本発明者らは次に、POR1株を使用して、腸炎ビブリオ感染時の宿主細胞の細胞傷害性に対するMAM7付着の寄与を評価した。
ゲンタマイシン保護アッセイを使用し、細菌が100%溶解を誘導するためにどの程度長く付着を維持しなければならないかを評価した。腸炎ビブリオ株を3T3細胞の感染に使用し、感染の様々な時点でゲンタマイシンを添加した。4時間の感染後、細胞を、LDH放出アッセイを用いて細胞溶解に関して試験した。ゲンタマイシンを感染開始時(0分)に添加したとき、4時間後に最小の溶解が観察され、一方、ゲンタマイシンを添加しなかった場合、同時間の後にほぼ100%の溶解が観察された。感染細胞を感染から10、30、60または90分後にゲンタマイシンで処理したとき、最小の溶解が観察された。これらの結果は、腸炎ビブリオが、T3SS誘導細胞溶解を効果的に媒介するために、少なくとも90分間3T3線維芽細胞との会合を維持する必要があるという仮説を支持している(図2A)。MAM7媒介付着がこの感染初期フェーズを通して宿主細胞結合に寄与しているかどうかを試験するため、本発明者らは、POR1ΔMAM7+N1-44-TEV-MAM7株を用いて感染を行い、そして感染の様々な時点で細胞をTEVプロテアーゼ処理した。細胞溶解を、感染から4時間後に測定した。予想通り、POR1株またはPOR1ΔMAM7+N1-44-TEV-MAM7株のいずれかに感染した細胞は、100%の細胞溶解を示したが、POR1ΔMAM7株ではそうならなかった。しかし、感染開始直後、10または30分後にTEVプロテアーゼ処理したPOR1ΔMAM7+N1-44-TEV-MAM7感染細胞は、約40%の細胞傷害性の減少を示した(図2B)。この毒性レベルは、POR1ΔMAM7株で観察されたものに匹敵し、MAM7が感染早期段階の付着において重要な役割を果たしているという仮説を支持している。
接着および細胞傷害性におけるMAM7の役割をさらに調査するため、本発明者らは、POR1、POR1ΔMAM7およびPOR1ΔMAM7補完株を用いる様々な哺乳動物細胞株に対する経時的感染研究を行った。POR1ΔMAM7株は、POR1またはPOR1ΔMAM7+MAM7のいずれよりも低い効率で3T3線維芽細胞およびRAW264.7マクロファージを溶解した(図2C〜D)。加えて、POR1ΔMAM7株によって誘導される溶解の開始は、30〜40分遅れていた(図2C〜D)。これに対して、Caco-2またはHeLaのいずれの上皮細胞においても、POR1とPOR1ΔMAM7の間で有意差は観察されなかった(図2E〜F)。全体として、これらの結果は、いくつかの細胞株では、MAM7媒介付着が、感染早期段階の宿主細胞に対する細菌の初期付着の媒介において重要な役割を果たしているという仮説を支持している。これはまた、その一部が宿主細胞型依存的であり得る他の分子が、腸炎ビブリオによる感染の後期段階の付着で役割を果たしているという仮説も支持している。
MAM7はエレガンス線虫における腸炎ビブリオにより誘導される病原性に必要とされる。線形動物エレガンス線虫は、コレラ菌およびビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)を含む様々な細菌病原体のモデル宿主として使用されている(Vaitkevicius et al., 2006; Dhakal et al., 2006)。腸炎ビブリオには関連動物モデルが存在しないため、本発明者らは、MAM7媒介接着が線形動物の感染時に役割を果たしているかどうかを試験した。同調させた、生殖系列を欠いている、L4段階の線虫にRIMD 2210633、POR1、POR1ΔMAM7またはPOR1ΔMAM7+MAM7株のいずれかを給餌した。非病原性大腸菌HB101またはPOR1ΔMAM7のいずれかを給餌した線虫は、通常の寿命プロフィールを示した(図3A)。RIMD 2210633およびPOR1に感染した線虫は、給餌2日目までに、成長遅延および腹部破裂を引き起こす腸管の膨張の頻度の増加を含む大きな表現型変化を示し、そしてHB101またはPOR1ΔMAM7のいずれかを給餌した線虫よりもずっと早い速度で死亡した(図3A〜3C)。RIMD 2210633およびPOR1は両方とも13日以内に線虫を死滅させ、これは、致死の大部分が熱安定性溶血素ではなくT3SSエフェクターによって媒介されるという仮説を支持している(Park et al., 2004)。POR1ΔMAM7において、この株をプラスミドによりコードされるMAM7を用いて復元することによって、完全なビルレンスを復元した(図3A)。7日目の腹部破裂に関する線虫の分析は、RIMD 2210633およびPOR1を給餌した線虫に対する傷害における有意な増加を明らかにした(図3D)。全体として、この結果は、MAM7の接着が、線形動物感染モデルにおける発病機序において重要な役割を果たしているという仮説を支持している。
宿主細胞に対するMAMの安定な付着の媒介には複数のmceドメインが必要とされる。病原性グラム陰性細菌における直列のmceドメインの数は、ほとんど変わらない(常に6〜7ドメイン)。したがって本発明者らは、6〜7つのmceドメインが、安定な宿主細胞付着に必要とされる最小のドメイン数であるという仮説をたて、そしてドメイン数と宿主細胞親和性との間の関係を調査した。本発明者らは、1、2、6または7つのmceドメインを直列で含み、さらにマルトース結合部位(MBP)タグおよびmceドメインとMBPタグの間にある、単一のフルオロフォアによるタンパク質標識を可能にする単一のシステイン残基を含む、組み換えタンパク質を作製した。宿主細胞に結合したタンパク質の量を、蛍光分光分析を用いて測定し、個々のコンストラクトの親和性を、飽和結合実験を用いて決定した。親和性は、mceドメインの数と共に非線形的に増加し、平衡解離定数は、1つのmceドメインの場合の15±3μMから7つの直列のドメインの場合の0.2±0.1μMの範囲であった(図4A)。宿主細胞に対するMAMタンパク質の親和性を、非標識MAMタンパク質を用いて宿主細胞の表面をブロックした後にMAM7発現大腸菌BL21の残存する結合を測定することにより、間接的にも決定した。この方法によって決定された親和性は、蛍光アッセイにより決定されたものと一致した(図4B)。
様々な数のmceドメインを含むタンパク質の結合親和性を確認した後、本発明者らは、1つのmceドメインを発現する株が宿主への接着に関して6または7つのドメインを直列で発現する株と競合することができるかどうかを分析した。使用したすべてのMAMコンストラクトは、細胞下分画および付着実験によって示されるように、正確に外膜に局在化した(図11A〜B)。MAM1、MAM6またはMAM7ΔN1-44を発現する大腸菌BL21株を、MAM7を発現する株と混合し、その宿主細胞に対する付着比を、これらの株間の競合指数として決定した。MAM6およびMAM7は、大腸菌BL21に対する接着特性の付与に関して同程度に有効である(C.I.が0.8)のに対して、MAM1およびMAM7ΔN1-44はずっと低い競合性であった(C.I.がそれぞれ0.27および0.19)(図4C)。次に、本発明者らは、MAM1、MAM6またはMAM7を発現する大腸菌BL21が、腸炎ビブリオPOR1の付着および同菌による細胞溶解を阻害する能力を調査した。POR1の感染を、同一の感染多重度のMAM7またはMAM6を発現する大腸菌BL21の存在下で行ったとき、POR1の付着、それによる病原体媒介細胞傷害性は、大きく減少した。しかし、MAM1またはMAM7ΔN1-44を発現するBL21の添加は、POR1感染の結末にほとんどまたは全く効果がなかった(図4D)。これらのデータは、宿主細胞への高親和性付着のための要件が、どの程度多数のmceドメインの存在を必要とするかを実証している。本発明者らは、1または2つのmceドメインでは低親和性の結合であるが、直列の6または7つのドメインの発現は親和性を急激に増大させ、これらのコンストラクトを発現する細菌株が宿主結合に関して適切に競合できるようにすることを観察した。誤フォールディングおよび不溶性の問題のため、本発明らは、3〜5つの間のmce反復を含むコンストラクトを研究することができず、そのようなタンパク質は、同様の理由で自然界には存在し得ないと推測される。
MAM7は宿主細胞とのタンパク質−タンパク質およびタンパク質−脂質相互作用の両方を確立する。MAM7の2次構造は、グラム陽性細菌のフィブロネクチン結合タンパク質と類似の組成である、フレキシブルループ領域によって接続されたβ-ストランドが豊富であると予測されている(Schwarz-Linek et al., 2003)。したがって本発明者らは、MAM7もまたフィブロネクチンに結合できるかどうかを試験した。固定化されたGTS-MAM7は、ヒト血漿由来の精製フィブロネクチンをプルダウンすることができたが、GST単独ではそれができなかった(図5A〜B)。固定化されたFnに対するフルオロフォア標識MBP-MAM7の滴定は、hFnとMAM7の間の相互作用が中程度の親和性(KDが15±4μM)であることを示し、一方フィブロネクチンとMAM1の間では測定可能な相互作用が検出されなかった(図5C)。MAM7が細胞上のフィブロネクチンに結合する可能性をさらに調査するため、本発明者らは、細胞をトリプシン処理して細胞外タンパク質を分解し、その上でMAM7が細胞に結合できるかどうかを評価した。トリプシン処理した細胞は、細胞上のMAM7分子の数を100倍以上減少させた(図5D)。さらに、細胞上のフィブロネクチンに対するMAM7の結合の特異性は、抗フィブロネクチン抗体によるMAM7の細胞結合のブロックまたは可溶性フィブロネクチンとの競合のいずれによっても示された(図5E)。
アラビドプシス(Arabidopsis)のTgd2は、ホスファチジン酸(PA)輸送に関与し、チラコイド膜脂質の生合成に必要な、葉緑体脂質輸送体の基質結合成分である(Awai et al., 2006)。Tgd2は、単一のmceドメインを含み、ホスファチジン酸に対する弱い結合を示すことが示されている(Lu and Benning, 2009)。本発明者らは、脂質オーバーレイアッセイを用いて、MAM1およびMAM7の両方がPAに結合すること、一方MBPタグ単独との結合は観察されないことを示した(図5F〜H、図12A〜C)。本発明者らは、リポソーム会合アッセイを用いて、PAに対するMAM1およびMAM7の結合親和性を比較した(図5I)。MAM7は、1 mol%という低い濃度でリポソーム中に存在するPAに対して化学量論的結合を示し、MAM1は、少なくとも3 mol%PAを含むリポソームに対してのみ結合した。PAに対するMAM7の結合がインビボで起こるかどうかを評価するため、本発明者らは、ホスホリパーゼC(PLC)の事前処理なしおよびありでインキュベートされた3T3細胞に対するMAM7の結合を分析した。PLCの存在下で、PAはジアシルグリセロールに変換され、本発明者らは、MAM7を発現するBL21の細胞に対する結合が低下することを観察した(図5J)。MAM7が細胞上のPAに結合するかどうかをさらに評価するため、本発明者らは、BL21-MAM7をリン脂質と共にプレインキュベートし、3T3細胞に対する細菌の付着を評価した。BL21-MAM7は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PC)を含むリポソームとのインキュベーション後に細胞に結合することができたが、20 mol%のPCおよび80 mol%のPAを含むリポソームとのインキュベーション後にはできなかった(図5K)。これらの観察は、MAM7が細胞表面上のPAに結合するというモデルをさらに支持している。
MAM7を異種発現する非病原性大腸菌はグラム陰性病原体による感染の効果を改善する。本発明者らは、MAM7を発現する非病原性大腸菌BL21を使用して腸炎ビブリオPOR1(図4Dおよび図6B、図13G〜I)による感染を阻害することに成功したので、MAM7を発現するBL21と宿主細胞とのプレインキュベーションが、MAM7をコードしていると予測される幅広い病原性グラム陰性株により引き起こされる感染を改善するであろうという仮説をたてた。本発明者らは、POR1と等価であるが細胞溶解に寄与すると考えられる2つの熱安定性直接溶血素により特徴づけられる腸炎ビブリオRIMD 2210633株(Nishibuchi et al., 1992)(図6A、図13D〜F)、コレラ菌エルトールN16961(図6C、図13J〜L)、偽結核菌YP126(図6D、図13M〜O)、および腸管病原性大腸菌(EPEC)O127:H6 E2348/69株(図6E、図23P〜R)による感染に対する大腸菌BL21+MAM7の保護効果を調査した。本発明者らが行ったすべての感染において、本発明者らは、細胞傷害性の低下(腸炎ビブリオ、コレラ菌および偽結核菌)またはアクチン台座形成の減少(EPEC)のいずれかにより顕在化した病原性の劇的な減少を観察した。大腸菌BL21-MAM7単独とのプレインキュベーションは、宿主細胞におけるいかなる表現型変化も誘導せず(図13A〜C)、したがって残留する細胞傷害性は、細胞外培地中に分泌された可溶性の毒素に起因するものと考えられる。これらの結果に基づき、本発明者らは、非病原性大腸菌株で発現されたMAM7が、宿主細胞との結合を開始するために病原性細菌が必要とする部位を遮蔽していることを提唱する。
本発明者らは、様々な種由来のMAM7が、いずれも宿主細胞に対する結合を媒介する点で機能的に重複しているという仮説をたてた。これを試験するため、本発明者らは、偽結核菌、コレラ菌またはEPEC由来のMAM7をクローニングし、非接着性大腸菌BL21で発現させた。これらのMAM7ホモログは各々、腸炎ビブリオMAM7を発現するBL21で観察されたのと類似のレベルで、BL21細胞を3T3細胞に付着させることができた(図6F)。偽結核菌、コレラ菌またはEPEC由来のMAM7が感染時の宿主細胞接着において役割を果たしているかどうかを評価するため、本発明者らは、これらの病原体の各々のMAM7欠失株(YpΔMAM7、VcΔMAM7、EPECΔMAM7)を作製し、次いでこれらのMAM7欠失株を、MAM7の野生型コピーを用いて復元した(YpΔMAM7+MAM7、VcΔMAM7+MAM7、EPECΔMAM7+MAM7)。これらの様々な株を3T3細胞と共にインキュベートした後、本発明者らは、MAM7欠失株において付着が低下したが、野生型または欠失復元株においては低下しなかったことを観察した(図6G)。本発明者らは次に、MAM7の非存在が、偽結核菌およびコレラ菌により誘導される細胞培養物の細胞傷害性を減弱させ得るまたはEPECによる台座形成を減少させ得るかどうかを試験した。YpΔMAM7またはVcΔMAM7のいずれかを感染させた3T3細胞は、野生型または復元された偽結核菌およびコレラ菌株と比較して、細胞傷害性の経時的な減少を示した(図6H、6I)。3T3細胞をEPECΔMAM7に感染させた場合では、野生型または復元されたEPECと比較して、台座数の経時的な減少が観察された。興味深いことに、この病原体によって誘導される表現型は、感染の早期の時点でのみ弱まるようである(図6J)。他者の知見と同じく、感染の後期の時点での付着は感染中に誘導される接着性分子、例えばエルシニアインベイシン、エンテロコッカスaceまたはIV型線毛によって媒介される(Lebreton et al., 2009; Heroven and Dersch, 2006; Boekema et al., 2004)。
本発明者らが着目した病原体の1つは、緑膿菌である。緑膿菌は、水中、土壌およびヒトの皮膚を含むほとんどの環境で繁殖する。免疫不全患者においては、カテーテルに付随して肺および尿路感染を引き起こし得るが、これは嚢胞性線維症患者にとっても大きな負担であり、かつ例えば熱傷患者においては持続性の創傷感染を引き起こし得る(Hoiby, 2011; Branski et al., 2009)。その臨床的重要性をふまえて、本発明者らは、緑膿菌により媒介される細胞傷害性が、感染の組織培養モデルにおいて、MAM7によって減弱され得るかどうかを研究した(図14A〜D)。MAM7ベースの阻害剤に関する本発明者らの本研究における第2の関心は、代替の送達様式を見出すことに向けられている。表面結合MAM7を発現する非病原性細菌は、腸内病原体を予防または攻撃するためのMAM7の胃腸送達に適したビヒクルであり得るが、口の開いた創傷に対するそれらの使用は、炎症応答を悪化させ、したがって創傷の治癒に対する副作用を有する可能性があると考えられる。したがって本発明者らは感染部位へのMAM7の送達の代替方法を研究している。1つのそのようなアプローチは、本発明者らが以前に使用した細菌類似サイズ(1μm)の不活性ポリマービーズの表面に組み換えMAM7を固定化することである。本発明者らは、上皮細胞の緑膿菌感染に対するビーズ固定化MAM7の有効性を試験し、それを宿主細胞に結合しないGSTを提示する対照ビーズと比較した(図1A〜D)。各々の例において、本発明者らは、細胞あたりの結合ビーズ数を計数し(可視化が簡単な蛍光ビーズを使用した)、そして乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイを用いて緑膿菌の細胞傷害性効果を決定した。感染すると宿主細胞は溶解し、LDHを培養培地中に放出し、これは、比色分析により検出することができ、かつ界面活性剤により溶解させた細胞の標準(100%溶解)と比較することができる。GSTビーズは宿主細胞に対する有意な付着を示さず、感染を阻害しなかった(図1A、1C)。これに対して、MAM7ビーズは宿主細胞に結合し(ビーズ17.1±0.9個/細胞)、その結果として、緑膿菌媒介細胞殺傷を減弱させた(76%から4%への細胞傷害性の減少)。
これらの研究は、MAM7ベースの阻害が、腸内病原体だけでなく病院獲得型および創傷関連感染、例えば緑膿菌によって引き起こされる感染を減弱させるツールとして発展し得る可能性を示している。アドヘシンは、非病原性細菌の表面で発現させることができるが、代替経路、例えばビーズ上での固定化によっても送達可能であり、このことは、将来の適用において、生きた生物への生きた細菌の導入に伴う危険を減らす助けとなり得る。将来、本発明者らは、MAM7の適用を、他の臨床的に関連するグラム陰性病原体を網羅するよう拡張し、かつその潜在的感染部位への効率的な送達用のツールを開発することができると考えている。
考察
多くの細菌アドヘシンが公知となっているが、それらは通常、種特異的であり、そして多くは感染時に誘導されるものである(Boland et al., 2000; Kline et al., 2009)。本明細書において、本発明者らは、宿主細胞との初期の高親和性相互作用を媒介するために幅広いグラム陰性細菌病原体によって使用される新規の接着性因子であるMAM7を記載した。MAM7のN末端疎水性配列はこのタンパク質の外膜局在化および係留に必要なものであるが、タンパク質輸送または膜挿入には特別なシステムが必要なく、MAM7は、大腸菌BL21によって異種的に発現させかつ正確に局在化させることができる。MAM7は、腸炎ビブリオ、偽結核菌、コレラ菌またはEPECを含むグラム陰性病原体の組織培養モデルにおいて観察されたように、様々な哺乳動物細胞への細菌接着に使用され、宿主細胞感染に寄与する重要な因子である。宿主細胞表面との多価相互作用により、MAM7は、感染の早期段階の細菌病原体の接着に寄与し、それによってT3SSエフェクターの宿主細胞質への注入を促進する。しかし、病原体の特定の細胞型に対する特異性は、他の、株特異的な接着性分子によって媒介されるはずであり、これらは宿主細胞との初期のMAM7相互作用によって強化される可能性が高い。他の接着性因子は、MAM7結合が必須でなくなる感染の後期フェーズの付着を支配していると考えられる(図2A〜F)。
外膜接着性因子MAM7の宿主細胞への結合は、このアドヘシンと細胞外マトリクス成分であるフィブロネクチンとの間の多価のタンパク質−タンパク質相互作用によって媒介される。対照的に、MAM7と膜結合ホスファチジン酸との間のタンパク質−脂質相互作用は、見かけ上の親和性が低いが、単一のmceドメインによって媒介され得る。したがって、mceドメインは広い範囲のタンパク質に組み込まれているが、mceドメインの数が、リガンド結合の親和性したがってmce含有タンパク質の機能性の決定に重要な役割を果たし:脂質輸送に関与するmceタンパク質は、それらのリガンドとの低親和性の一過的な相互作用を必要とし、1つだけmceドメインを含んでいる(例えば、Tgd2)。これに対して、複数のmceドメインを含む構成的に発現されるタンパク質は、宿主細胞表面との早期の高親和性の相互作用を媒介するようである。本発明者らは、これが、脂質結合の親和性を高めるだけでなく、MAM7と宿主細胞の間の相互作用をさらに強化する新規の機能性(フィブロネクチン結合)をも付与することを示した。細胞外マトリクス成分、例えばフィブロネクチンとの相互作用は、グラム陽性(スタフィロコッカス種のFnBP)およびグラム陰性(例えば、エルシニアのインベイシンであるYadA、サルモネラのMisLまたはカンピロバクター(Campylobacter)のCadF)の両方の病原体が宿主細胞への接着を達成するのに使用する共通ストラテジーであるが、アドヘシンの膜ホスファチジン酸への直接結合は、本発明者らの知る限り、宿主・病原体相互作用の新規のメカニズムである(Froman et al., 1987; Tertti et al., 1992; Dorsey et al., 2005; Konkel et al., 1997; Henderson et al., 2011)。2〜3 mol%のホスファチジン酸は真核生物膜の微量成分にすぎないが、本発明者らは、これらの濃度が、MAM7の安定な付着を媒介するのに十分であることを示した。このタンパク質相互作用および脂質相互作用のストラテジーは、MAM7媒介接着において組み合わされ、グラム陰性病原体のそれらの宿主への効率的な結合が達成されている。
本発明者らは、MAM7を発現する非病原性BL21が、宿主細胞に対する様々なグラム陰性病原体の結合を防ぐのに使用できること、したがって病原体により媒介される細胞傷害性に対する保護を提供できることを示した。バイオインフォマティクス分析によれば、多数のグラム陰性病原体がMAM7(またはMAM6)を含んでいるようであり、そして宿主細胞に対する初期の高親和性付着を媒介するためにこのタンパク質を使用していると考えられる。本発明者らの研究は、腸炎ビブリオ、偽結核菌、コレラ菌またはEPECを含むいくつかのグラム陰性病原体由来のMAM7分子が、宿主細胞に対する病原体の早期の付着を媒介することを示している。上記の病原体を用いたこれらの研究に基づき、本発明者らは、MAM7が、この接着性分子を発現する多くのグラム陰性病原体の感染の初期フェーズにおいて重要な役割を果たし得るということを提唱する。
この広く発現されている接着性因子の同定および初期特徴付けは、グラム陰性病原体とそれらの標的宿主細胞の間の分子相互作用を理解する上で重要となる。接着性因子MAM7は、構成的に発現されており、そのため細菌は、宿主細胞に遭遇したときに直ちに付着を開始できるようである。MAM7により媒介される付着は、感染の初期フェーズに重要となり、感染の後期段階に関与し得る他の因子の産生または提示を可能にするようである(図2A〜F、図6A〜J)。これらの初期研究は、MAM7を発現する細菌が、それらの細胞表面にMAM7を有さない他の細菌よりもいかに優位であるかを示している(図4A〜D)。加えて、MAM7中のmce反復の多価相互作用は、単一の反復によっては認識されない基質への結合を可能にする。最後に、将来の微生物学および生化学研究が、固有の外膜接着性因子MAM7を有するグラム陰性病原体に対して感染を弱めるために反撃する可能性に取り組むであろう。
実施例2
材料および方法
プラスミドの構築。BL21において発現させるためのMAM7、フルオロフォア標識するためのMBP-MAM7およびGST-MAM7のクローニングについては、他所に記載されている(Krachler et al., 2011)。GST-MAM6、-mce1-5、-mce2-6、-mce3-7およびGST-mce1〜-mce7のコンストラクトはすべて、腸炎ビブリオPOR1のゲノムDNAから増幅し、BamHIおよびNotI部位を用いてプラスミドpGEX-rTEVにクローニングした。GST-mce2点変異体は、鋳型としてGST-mce2を用いる全プラスミド変異誘発によって作製した。3、5または7つのmce1ドメインを含むGST-mce1コンカテマーは、mce1フラグメント1〜7についてそれぞれ以下の制限部位:BamHI/XbaI、XbaI/HindIII、HindIII/XhoI、XhoI/EcoRI、EcoRI/PstI、PstI/NcoIおよびNcoI/NotIを含むmce1フラグメントを増幅し、そしてプラスミドpGEX-rTEVにクローニングすることによって作製した。
タンパク質の精製。MBP-Hisタグ付きおよびGSTタグ付きタンパク質は、以前に記載されたように、それぞれ、Ni-NTAおよびグルタチオンアガロースビーズ、その後にゲルろ過を用いて精製した(Krachler et al., 2011)。
付着アッセイ。生きた細菌または精製された標識タンパク質を用いた付着アッセイを、記載されているように実施した(Krachler et al., 2011)。付着がフィブロネクチン依存およびホスファチジン酸依存であるかどうかを決定するため、組織培養細胞を、感染前に15分間、抗Fn抗体(PBS中50μg/ml、Sigma)と共にインキュベートするかまたはPBS中50μg/mlのホスホリパーゼC(Sigma)で処理した。フィブロネクチンの非存在下での標識タンパク質の付着に関して、本発明者らは、以前に記載されたように、トリプシン処理細胞を使用した(Krachler et al., 2011)。細菌の付着をヘパリンを用いて打ち消すことができるかどうかを試験するため、細胞を、付着アッセイ前に30分間、DMEM中10〜500μMの間の濃度のヘパリンと共にプレインキュベートした。
Fnプルダウンアッセイ。GST-MAMコンストラクトおよびフィブロネクチンを用いたプルダウンアッセイの詳細なプロトコルは、他所で見出すことができる(Krachler et al., 2011)。このプロトコルの改良版は、タンパク質分解性フィブロネクチンフラグメント(30kDa N末端ヘパリン結合ドメインおよび45kaゼラチン結合ドメイン、両方ともSigma製)の使用または等モル量のリポソームとの追加のインキュベーション工程(22℃で30分間)を含むものであった。PBS緩衝リポソームを、以前に記載されたように、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PC)またはPCと1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(PA)の混合物(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.)から調製した(Selyunin et al., 2011)。
リン脂質の定量。ロード、流出および溶出画分のリポソームを、WorthおよびWrightの方法(1977)を用いて定量した。簡潔に説明すると、サンプルをクロロホルムおよびメタノールの混合物で抽出し、遠心分離し、そして有機相にモリブドリン酸(Sigma)を添加した。サンプルを遠心分離し、水相を除去した。メトール(metol)および硫酸水素ナトリウムを添加して有機相を還元し、そして遠心分離後に水相を再度除去した。リン脂質の量を、680nmの吸光度の測定によって決定し、これをロード画分で検出された量の分数で表した。
標識タンパク質を用いたFnプレートアッセイ。ウェルあたり1μgのフィブロネクチンでコーティングされた96ウェルプレートを、22℃で1時間、PBS中0.1〜100μMの間の濃度で調製されたMAMコンストラクトと共にインキュベートした。初期の蛍光および蛍光の発生量を、それぞれ、PBSによる3回の洗浄の前および後に、プレートリーダー(λ励起 485 nm、λ発光 520 nm)で測定した。データは、%結合蛍光で表し、MBP単独について決定された値で補正した。Sigma Plotを用いて、結合タンパク質のレベルをタンパク質濃度の関数としてブロットし、データを単部位結合モデルに対してフィッティングした。
リポソーム会合アッセイ。リポソームに対するGSTおよびGST-mceコンストラクトの結合を、文献に記載されるようにして行った(Krachler et al., 2011)。PCのみまたは1〜80 mol%のPAを含む300μgのリポソームを、22℃で1時間、PBS中100μgのGSTおよびGST-mceタンパク質と共にインキュベートした。混合物を、100,000xg、4℃で1時間遠心分離し、そしてペレットおよび上清の両方の画分をSDS-PAGEによって分離し、タンパク質をクマシー染色によって検出した。バンドの強度は、ゲル分析ソフトウェアUN-SCAN-IT(Silk Scientific Inc.)を用いて決定し、ペレットサンプルの強度(%結合)を、全体強度(上清およびペレットサンプルを合わせたもの)の分数として表した。
結果
ホスファチジン酸は宿主細胞に対するMAM7の付着に必須であり、フィブロネクチンは結合に要する時間を短縮する。本発明者らの以前の研究は、2つの異なるタイプの宿主受容体である、細胞外マトリクスタンパク質のフィブロネクチンおよび膜リン脂質のホスファチジン酸が、インビトロでMAM7アドヘシンを認識し、インビボで付着に寄与することを示した(Krachler et al., 2011)。MAM7のフィブロネクチン非依存的な細胞結合の研究において、本発明者らは、フィブロネクチンなしでは30分後に結合が検出されなかったが、インキュベーション時間を延長した場合に細胞への付着が徐々に起こることを観察した。したがって本発明者らは、フィブロネクチンの存在下および非存在下で、その表面に腸炎ビブリオMAM7を発現する大腸菌BL21(BL21-MAM7)のHela細胞に対する結合を観察する3時間の経時的実験を行った(図15A)。付着を、転座および膜係留シグナルを含むN末端44アミノ酸を失ったMAM7であるMAM7ΔTMを発現するBL21の陰性対照と比較した(Krachler et al., 2011)。
両方の宿主受容体の存在下で、宿主細胞に対するBL21-MAM7の結合は非常に効果的であり、細菌の40%超がインキュベーションの最初の10分以内に結合した(図15A)。最大結合能は、30分後に達成された。フィブロネクチンの寄与に非依存的な結合を研究できるよう、フィブロネクチンに対する結合を抗フィブロネクチン抗体でブロックした場合、実験の最初の30分以内に細菌付着は観察されず、結合は陰性対照と同じであった(図15A)。しかし、40分以降から徐々に結合が観察され、60分後にはほぼ最大結合能に達した。全体として、フィブロネクチンの非存在下での結合は、およそ30分遅延した。本発明者らは、トリプシン処理してフィブロネクチンを分解した宿主細胞および精製されたフルオロフォア標識MAM7を用いた経時的実験を再度行い、およそ1時間の宿主細胞結合の遅延を示す同様の結果を得た(図15B)。
次に、本発明者らは、MAM7付着に対する宿主細胞上のホスファチジン酸の寄与を研究した。本発明者らは、代わりにホスファチジン酸をホスホリパーゼC(PLC)処理によって宿主表面から排除したことを除いてフィブロネクチンに関して記載されたのと同様の経時的実験を行った。ホスファチジン酸の非存在下で、BL21-MAM7(図15C)および標識MAM7タンパク質(図15D)の両方の結合が、実験期間中(3時間)、それぞれBL21-MAM7ΔTMおよびMBP対照で観察されたのと同様のバックグラウンド結合まで低下した。本発明者らは、フィブロネクチンおよびホスファチジン酸は両方ともMAM7付着の宿主受容体として作用するが、結合全体に対するフィブロネクチンの寄与は、付着に長い時間がかかってもよい場合は必須ではないと結論づけた。ホスファチジン酸はMAM7媒介結合に必須であるが、フィブロネクチンは、細菌付着を加速させることによって寄与している。
MAM7への結合にはフィブロネクチンの30kDa N末端フラグメントで十分である。フィブロネクチンは、細胞接着、遊走、分化、および創傷治癒を含む多くの生命プロセスに関与する二量体、440kDaの糖タンパク質である(Grinnell, 1984; Pankov and Yamada, 2002)。各フィブロネクチン分子は、I型、II型、およびIII型反復と呼ばれる、構造的および機能的特性が相違する3つのタイプのドメインから構成される(Pankov and Yamada, 2002)(図16A)。フィブロネクチンのどの領域がMAM7結合に関与するかを分析するため、本発明者らは、GST-MAM7ならびに全長可溶性フィブロネクチン、N末端の5つのI型反復(I1-5、ヘパリン結合領域I)を含む30kDaタンパク質分解フラグメントまたはI6、II1-2およびI7-9反復(ゼラチンおよびコラーゲン結合領域、図16A)を含む45kDaフラグメントのいずれかを用いたプルダウン実験を行った。全長フィブロネクチンおよび30kDaフラグメントの両方はGST-MAM7によってプルダウンされたが45kDaフラグメントはそうならなかった(図16B〜D)。陰性対照として、本発明者らは、フィブロネクチンに結合しないMAM1を使用し(Krachler et al., 2011)、30kDaフラグメントとの相互作用は観察されなかった(図16E)。30kDaフラグメントはヘパリンに結合することが示されているので(Ingham et al., 1990)、本発明者らは、Hela細胞に対するBL21-MAM7の付着がヘパリンを付着アッセイに添加することによって阻害されるかどうかを試験した。ヘパリンの非存在下では細菌の約80%が30分以内に宿主細胞に付着したのに対して、漸増濃度(10〜500μM)の腸管粘膜由来ヘパリンの添加は付着を漸進的にブロックし、500μMヘパリンの下ではBL21-MAM7の約40%しか付着を維持しなかった(図16F)。これは、I1-5反復を含むフィブロネクチンのN末端領域がMAM7付着を媒介すること、および細菌の早期の結合はフィブロネクチンと競合するリガンドであるヘパリンを添加することによってブロックされ得ることを実証している。
フィブロネクチンに対する安定な結合には少なくとも5つの直列のmceドメインが必要となる。以前に記載されたように、全長MAM7はフィブロネクチンに安定に結合することができ、MAM7の最初のN末端mceドメインのみを含むコンストラクト(MAM1)では結合が検出されなかった(Krachler et al., 2011)。フィブロネクチンへの結合に必要となるMAM7の領域をさらに解明するため、本発明者らは、7つすべてのmceドメインを含む(MAM7)またはC末端からmceドメインを1つずつ短縮した(MAM6〜MAM1と命名)GSTタグ付きタンパク質によるフィブロネクチンのプルダウン実験を行った。ロードおよび溶出の両方をSDS-PAGEおよびクマシー染色によって分析した。フィブロネクチンは、GST-MAM7、GST-MAM6およびGST-MAM5によってのみプルダウンされ、GST-MAM1〜-MAM4では感知できる相互作用が観察されなかった(図17A)。固定化フィブロネクチンおよびフルオロフォア標識MAMコンストラクトを用いた親和性測定は、MBP-MAM7が15±3μMのKDでフィブロネクチンに結合し、MBP-MAM6では親和性が減少する(KD=36±9μM)ことを示した。MBP-MAM1またはMBP-MAM2のいずれにおいても相互作用は検出できなかった(図17B)。本発明者らは、MAM3〜MAM5については、MBPタグ付きコンストラクトが不安定であり、GSTタグ付きタンパク質に対する選択的なチオール標識が困難であったため(GST自体がシステインを含んでいる)、親和性を決定することができなかった。1つ1つのmceドメインがフィブロネクチンとの相互作用の媒介を担っているかどうかを決定するため、本発明者らは、7つすべての個々のmceドメインのGSTコンストラクトをプルダウン実験に使用した。個々のmceドメインは、NMRによる決定では、自律的にα/β混合構造に折りたたまれる(未公開の観察)。このアプローチは、単一のmceドメインはいずれもフィブロネクチンに結合しないことを示した(図3C)。しかし、5つのmceドメインのストレッチ(mce1〜5、mce3〜6およびmce2〜7)を含むいくつかのコンストラクトは、プルダウンアッセイにおいてフィブロネクチンと効果的に相互作用した(図17D)。これらのデータは、すべてのmceドメインが結合に寄与しているが、少なくとも5つの直列のmceドメインが検出可能な結合親和性の達成に必要となるという考えを支持している。これをさらに試験するため、本発明者らは、3、5または7つの同一のmce1ドメインを含むコンカテマーを構築し、プルダウンを用いてフィブロネクチンに対するそれらの相互作用を分析した。5または7つのmce1ドメインを含むコンカテマーは、フィブロネクチンをプルダウンすることができたが、3つのmce1ドメインを含むコンカテマーはそうすることができなかった(図17E)。まとめると、これらの発見は、原理的にはすべてのmceドメインがフィブロネクチン結合に寄与し得るが、少なくとも5つのドメインが一体となることが高親和性の相互作用の達成に必要であるという仮説と一致している。
鍵となる塩基性残基がホスファチジン酸に対するmceドメインの結合親和性を調節する。上記のように、ホスファチジン酸は、宿主細胞に対するMAM7の安定的結合に必須である。本発明者らは以前に、MAM1がホスファチジン酸への結合に十分であることを示したが、他のmceドメインが、フィブロネクチンの非存在下でのホスファチジン酸への結合に寄与しているかどうかは不明であった。本発明者らは、ホスファチジン酸への結合に関して、7つすべての個々のmceドメイン(mce1〜mce7)を、リポソーム会合アッセイを用いて試験した。タンパク質を、PCおよび漸増量(1〜80mol%)のPAの混合物を含むリポソームと共にインキュベートし、その後にリポソーム結合画分と未結合画分を超遠心分離によって分離した。すべての画分をSDS-PAGE(データ示さず)およびその後にデンシトメトリーにより分析した(図18A)。リポソームに結合せず上清のみで見出されたGST単独(データ示さず)と異なり、7つすべてのmceドメインはPA含有リポソームに結合した。しかし、本発明者らは、それらの見かけ上の親和性の有意な違いを観察し:mce1、2、3および4は同程度に結合したが、mce5については結合が約6倍、mce7については約20倍、そしてmce6については100倍超減少していた(図18A)。現時点で詳細に特徴付けられているホスファチジン酸結合タンパク質はわずかであるが、塩基性残基が多くの場合に結合親和性の鍵となる決定因子であることが示されている(Stace and Ktistakis, 2006; Lu and Benning, 2009)。本発明者らは、全体電荷に関してMAM7のmceドメインを分析したところ、個々のドメイン間で小さな違いしか見出されなかった。しかし、本発明者らは、電荷分布を調査したところ、mce6において、それ以外では個々のドメイン間で高度に保存されているいくつかの塩基性残基が変異しているのを観察した。これらは、結合力が最も強いmceドメインであるmce2においてはリジンであるが、mce6においてはそれぞれセリンおよびグルタミンである2つの残基、ならびにmce6ではヒスチジンによって置き換わっている、高度に保存されているアルギニンを含む(図18D)。これらの残基がホスファチジン酸への結合に寄与しているかどうかを試験するため、本発明者らは、mce6におけるそれぞれの位置をmce2における対応する位置のアミノ酸に変異させ(mce6 S646K、Q664KおよびH703R)、得られたタンパク質をリポソーム会合アッセイにおいてPAへの結合に関して試験した。mce6 S664K変異体は、リポソームとの会合を有意に増加させ、mce6の結合親和性を高結合性mceドメインに対する100倍弱からおよそ10倍弱まで変化させたが、Q664KまたはH703R変異体はそれを示さなかった(図18Bおよびデータ示さず)。本発明者らはまた、50mol% PAおよび50mol% PC含むリポソームを使用してプルダウン実験を行い、このリポソームの組成で、全てのmceコンストラクトとの一定の結合が観察された。GST-mceタンパク質を固定化し、リポソームと共にインキュベートした。結合したリポソームを、モリブドリン酸アッセイを用いて定量した。リポソームアッセイと同様、これらの実験もまた、mce1、2、3、4および7へのリポソームの強い結合を示したが、mce5および6はそれより弱い結合を示した(図18C)。mce6 S646Kは、野生型mce6と比較して高い親和性を示したが、他の変異体はmce6と同様の低い親和性を有していた。
MAM7は、フィブロネクチンおよびホスファチジン酸と3成分複合体を形成する。本発明者らは、MAM7とフィブロネクチンおよびPAの間の個々の相互作用を解明したが、MAM7が両方のタイプの受容体に同時に結合するのかそれとも結合は相互に排他的であるのかが不明確なままである。MAM7、フィブロネクチンおよびホスファチジン酸が競合的であるかどうかを分析するため、本発明者らは、等モル量のMAM7、Fnおよび(PCおよびPAの1:1混合物、または陰性対照としてPCリポソームのみ、からなるリポソームの形態の)PAを用いてプルダウンアッセイを行った。最初に、本発明者らは、GST-MAM7をリポソームと共にプレインキュベートし、その後にフィブロネクチンと共にインキュベートした(図19A、19C)。次に、本発明者らは、GST-MAM7を最初にフィブロネクチンと共にプレインキュベートし、リポソームと競合させた(図19B、19D)。両方の実験において、本発明者らは、競合分子を添加した後に溶出および流出画分をSDS-PAGEによるタンパク質の検出(図19A、19Bおよびデータ示さず)およびモリブドリン酸アッセイを用いたリポソーム含有画分の検出(図19C〜D)により分析した。フィブロネクチンおよびPA含有リポソームは両方とも、個々に、MAM7によってプルダウンされた(図19A〜D、それぞれレーン1および2)。両リガンドの等モル混合物の添加もまた、MAM7による両リガンドの効果的なプルダウンを示した(図19A〜D、レーン4)。対照として、本発明者らは、PCのみを含むリポソームを用いて結合アッセイを行ったところ、リポソームに対するMAM7の結合は観察されなかったが、フィブロネクチンに対する結合は観察された(図19A〜D、レーン5〜7)。さらに、MAM1に対する結合は、フィブロネクチンまたはPCのみを含むリポソームに対しては観察されなかったが、PC:PAの1:1混合物を含むリポソームに対しては観察された(図19A〜D、レーン8〜10)。フィブロネクチン結合とPA結合の間の競合を試験するため、本発明者らはまた、フィブロネクチンコートプレートおよびフルオロフォア標識MBP-MAM7を用いたプレートアッセイを行った。MAM7の蛍光を、PCまたはPCおよび80mol%のPAの混合物のいずれかを含むリポソームとのインキュベーションの前および後に測定した。漸増濃度のリポソームとのインキュベーションは、MAM7リガンドとしてのフィブロネクチンを置き換えず、MAM7はプレートに対する結合状態を維持し、蛍光レベルは有意に減少しなかった(図19E)。本発明者らはまた、100μM PAまたはPCのみを含むリポソームとのインキュベーション後のプレートアッセイのサンプルを分析した(図19E、矢印)。モリブドリン酸アッセイを用いることで、PA含有リポソームは洗浄工程後もFn結合MAM7との会合状態を維持し、一方PCのみから調製されたリポソームはそうならないことを見出した(図19F)。加えて、本発明者らは、FnコートプレートをMBPタグのみと共にプレインキュベートした場合、いかなるリポソームの会合も検出しなかった(図19F)。これらの結果は、MAM7がフィブロネクチンおよびホスファチジン酸の両方のリガンドと同時に相互作用し、3成分複合体を形成することができるという仮説を支持している。
考察
本発明者らの以前の研究は、MAM7を、宿主細胞に対する細菌病原体の初期付着に関与する因子として同定した。本発明者らはまた、非病原性細菌の表面に発現されるMAM7が、組織培養物における病原体感染の強力な阻害剤として利用され得ることを実証した。MAM7は、宿主細胞表面のフィブロネクチンおよびホスファチジン酸の両方に結合することができ、両方の相互作用とも、宿主細胞に対する細菌の接着に必要となる(Krachler et al., 2011)。さらに、宿主細胞への結合を、抗Fn抗体でフィブロネクチンを遮蔽するかまたはホスファチジン酸を分解するかのいずれかによって個別の結合イベントに解体することにより、本発明者らは、フィブロネクチンの非存在下で、MAM7は依然として宿主細胞に付着することができるが、安定的な相互作用の確立には、フィブロネクチン存在下よりも有意に長い時間を要することを見出した(図15A〜D)。フィブロネクチンは、インビボおよび組織培養物中で細胞を取り囲んでいる細胞外マトリクスに豊富に存在するタンパク質なので、本発明者らは、これは、宿主細胞膜近傍での細菌の迅速な初期付着を促進し、それによってこの病原体が第2のMAM7リガンドであるホスファチジン酸を介した宿主細胞膜との高親和性相互作用を確立する可能性を高めていると考えている。
本発明者らは、フィブロネクチン中のMAM7結合部位が、30kDa N末端領域に位置することを見出した(図16A〜F)。同じ領域は、グラム陽性病原体である黄色ブドウ球菌および化膿レンサ球菌(Streptococcus pyrogens)由来のフィブロネクチン結合タンパク質(FnBP)を含む他の細菌アドヘシンによっても受容体として利用される(Schwarz-Linek et al., 2006)。したがって、宿主細胞に対するMAM7の結合がこれらの病原体の接着および浸潤を弱めることができるかどうかを検討するためにさらなる実験がなされるであろう。この30kDaフラグメントを付着の際に利用するFnBP発現病原体と異なり、本発明者らが研究したほとんどのMAM7含有病原体、例えば、腸炎ビブリオ、コレラ菌、偽結核菌およびEPECは、感染の間細胞外で維持され、宿主細胞によりインターナライズされない(Burdette et al., 2009; Simonet et al., 1990; Rosqvist et al., 1988; Celli et al., 2001)。同様に、非病原性BL21-MAM7も、宿主細胞によってインターナライズされなかった。フィブロネクチン結合後の細菌の運命の違いに関しては多くの要因が考えられ得る(Cossart and Sansonetti, 2004)。FnBP、例えば化膿レンサ球菌のF1は、インターナライゼーションに必要な、インテグリン動員に必要となるRGDモチーフを露出させた状態でフィブロネクチンに結合する(Ensenberger et al., 2004)。MAM7の結合は、フィブロネクチンに、インテグリン動員を許容しない異なる立体配座を与えている可能性がある。MAM7によっては、フィブロネクチンが、インテグリン受容体のクラスター形成を誘導する、したがって細胞取り込みに必要とされる下流経路の活性化を誘導するのに十分な密度で動員されない可能性もある(Tran Van Nhieu and isberg, 1993)。実際、黄色ブドウ球菌FnBPA内の反復と細胞侵襲の間の関係を分析する近年の研究は、FnBP反復とフィブロネクチンの間の非常に高い(ナノモル以下の)親和性の相互作用のみが、インテグリン受容体の十分なクラスター形成をもたらし、細胞侵襲を促進することができることを示している(Edwards et al., 2010)。したがって、MAM7とフィブロネクチンの間の相互作用は、細胞取り込みを促進するのに十分高い親和性のものでない可能性がある。
フィブロネクチンの30kDaフラグメントはまた、フィブロネクチンの架橋およびフィブリン結合に必要となる特徴を含んでいる(Hormann et al., 1987; Vakonakis et al., 2007)。したがって、同領域と他のアドヘシンの相互作用に関して記載されているように、MAM7の結合がこれらのプロセスと干渉する可能性がある(Tomasini-Johansson et al., 2001; Matsuka et al., 2003)。本発明者らは現在、インテグリンシグナル伝達、フィブリン・フィブロネクチン架橋および原線維形成に対するMAM7結合の結果を研究する実験を行っている。本発明者らは、おそらく親和性が非常に低いためと思われるが、1〜3つのmceドメインを含むMAMコンストラクトに対しては感知できる結合を検出せず、4つのmceドメインでは弱い結合のみ検出した。本発明者らは、フィブロネクチンに対するMAMの安定的結合には少なくとも5つのmceドメインが必要となることを見出した。蛍光飽和結合実験において観察された、4つのmceドメインと5つのmceドメインの間での結合親和性の急激な増加(図17A)および6つのmceドメインと7つのmceドメインの間での親和性の非線形的増加(図17B)は、線形的結合モデルではなく協調的結合モデルとよく一致する。しかし、これら2つを明確に区別するためには、本発明者らは現時点で作製および精製することができないが、3〜5つのmceドメインを含むMBPタンパク質を用いたフィブロネクチン結合分析が必要であろう。MAMの結合に必要となる30kDa領域は、5つの連続するI型反復を含んでいるので、これらの反復の各々が1つのmceドメインに結合すると推測したいところである。しかし、結合の正確な化学量論の決定には、さらなる研究を要するであろうが、MAM7とフィブロネクチンの間の結合の親和性および化学量論を変化させ得る脂質結合の背景でこれを決定するのは困難かもしれない。
迅速な結合に寄与するが高親和性結合には必須でないようであるフィブロネクチンと異なり、ホスファチジン酸は、宿主表面に対するMAM7の安定的な結合の確立に必須である(図15C、15D)。これは、MAM7のフィブロネクチンに対する相対的結合親和性が、その完全な宿主細胞に対する親和性と比較して相対的に低い(フィブロネクチンおよび完全な細胞について、それぞれ、15μMおよび200nMの見かけ上のKD)ことを示す以前の知見の根底にあることである。今日までに、タンパク質とホスファチジン酸の間の相互作用を媒介する共通のモチーフは同定されていない。しかし、多くのPA結合モチーフは、多数の塩基性残基を含んでおり、これがリン酸の頭部基との静電気的相互作用を確立すると考えられる(Lu and Benning, 2009)。MAM7中の個々のmceドメインのアラインメントおよびそれらのPAに対する親和性の違いに基づき、本発明者らは、少なくとも1つの塩基性残基(mce2のLys166)がPA結合に重要であると決定した。この位置は、MAM7の異なるmceドメイン間でよく保存されているが、mce6およびmce5は例外であり、これらはどちらも他のmceドメインよりも低い親和性でPAに結合した。mce6においてこの位置をリジンに変異させると、PAに対する親和性が少なくとも20倍増加した。mce6内の(他のmceドメインにおいて塩基性残基として保存されている)他の候補残基を塩基性残基に変異しても、PA結合に影響しないようであった。究極的には、宿主細胞結合の裏側にある詳細なメカニズムをより明らかにするには、mceドメインの、それらの遊離およびリガンド結合形態に関する構造的研究が必要となるであろう。
この研究の中で、本発明者らは、アドヘシンMAM7と宿主細胞との相互作用を個々の結合イベントに解体し、それらの宿主細胞結合全体に対する寄与を分析した。本発明者らは、フィブロネクチンおよびホスファチジン酸のそれぞれと相互作用する能力を定義する特徴に関してMAM7を分析し、MAM7との相互作用に必要となるフィブロネクチンの領域を定義した。本発明者らはまた、MAM7がフィブロネクチンおよびホスファチジン酸に同時に結合できるかどうかを研究し、これら3つの分子が3成分複合体を形成する可能性があることを見出した。これらの研究は、グラム陰性細菌感染を減弱させるMAM7由来のツールを開発するための現在および将来の努力の重要な基礎をなすものである。
実施例3
材料および方法
細菌株の単離および生育条件。細菌単離株を、2006年〜2010年の期間にSan Antonio Military Medical Centerで処置を受けた患者から入手した。培養物を、表1に示されている部位から得た。そうでないことが示されない限り、すべての単離株を、付着および感染実験のために、37℃のLBもしくはLB寒天またはDMEM中で生育した。
付着実験。宿主細胞に対する細菌の付着は、本質的には上記のようにして試験した。簡潔に説明すると、哺乳動物細胞を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(HeLa細胞)または10%仔ウシ血清(3T3線維芽細胞)(SAFC Biosciences)、5mMピルビン酸ナトリウムおよびペニシリン/ストレプトマイシンミックスを補充したDMEM(Invitrogen)中、37℃、5% CO2の下で培養した。細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した後、抗生物質を含まないDMEM中に細菌を添加した。細菌を、感染多重度(MOI)が10となるよう添加した。正確な投入量を決定するため、細菌を空のウェルに添加した。プレートを遠心分離(1000xg、22℃、5分間)し、その後37℃で1時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、そしてPBS中0.5%のTriton X-100を添加することによって溶解させた。投入サンプルおよびTriton溶解物を連続希釈し、LB寒天上にプレーティングし、そしてコロニー数を計測した。
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイ。細胞傷害性を測定するため、組織培養細胞をPBSで洗浄し、その後に抗生物質を含まないDMEM中にMOIが10となるよう細菌を添加した。感染を、プレートの遠心分離(1000xg、22℃、5分間)によって開始し、その後37℃でインキュベートした。感染4時間後に各ウェルから200μlの上清を3連で取り出し、遠心分離し(1000xg、22℃、5分間)、そして100μlの上清をアッセイ用に新しい96ウェルプレートに移した。細胞の溶解を定量するために、培養培地中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量を、LDH細胞傷害性検出キット(Takara)を製造元のプロトコルにしたがい用いて測定した。
MAM7阻害実験。阻害実験のために、組織培養細胞を、以前に記載されたように、腸炎ビブリオMAM7または組み換え、ビーズ固定化MAM7のいずれかを発現する大腸菌BL21と共に30分間プレインキュベートした。BL21-MAM7の作製、GSTおよびGST-MAM7融合タンパク質用発現コンストラクトのクローニングならびにタンパク質の精製については他所に記載されている。精製されたタンパク質を、El Shazly et al.(2007)に記載されるようにして、1μmの蛍光オレンジラテックスビーズ(Sigma)上に固定化した。阻害実験には、合計でPBS中7.5μgタンパク質/106ビーズ/ウェルを使用した。3回のPBS洗浄によって過剰な細菌またはビーズを除去した後、培養細胞を臨床単離株に4時間感染させ、そして細胞傷害性を、上記のLDH放出アッセイに記載されたようにして測定した。
蛍光顕微鏡観察。細胞を、細胞150,000個/mlとなるようカバースリップに播種し、これを次の日に感染実験に供した。感染実験の後、細胞をPBSで洗浄し、そしてPBS中3.2%のパラホルムアルデヒドで15分間固定した。固定された細胞を、PBS中0.1%のTriton X-100で5分間透過処理し、DNAおよびF-アクチンを染色するためにそれぞれHoechst(Sigma)およびAlexa Fluor 488-ファロイジン(Molecular Probes)で10分間処理した。カバースリップを、PBS中10%(w/v)のグリセロールおよび0.7%(w/v)の没食子酸プロピル上に置き、マニキュア液で封をし、Zeiss LSM510 META Laser Scanning Confocal Microscopeを用いて観察した。画像を、ImageJおよびPhotoshopソフトウェアを用いて処理した。
結果
患者の創傷に関係する細菌病原体の単離およびPFGEタイピング。細菌病原体を、アフガニスタンおよびイラクからの帰還後にSan Antonio, TexasのMilitary Medical Centerで処置を受けた感染患者から単離した後に培養した。創傷の表層もしくは深層の培養、血液の培養(2例)または尿の培養(1例)のいずれかによって得られた合計20の異なる単離株の特徴付けを行い、その各々を、創傷感染を引き起こすグラム陰性細菌の4大優勢種であるアシネトバクター・バウマニ・カルコアセチカス複合菌、緑膿菌およびESBL産生性クレブシエラ種ならびに大腸菌の1つに分類した(各々、5つの単離株のそれぞれによって示される)。パルスフィールドゲル電気泳動を使用して、すべての単離株の遺伝子型を決定し、この4グループの各々の中に大きな遺伝子型多様性があることを明らかにした。各グループの5つの単離株の各々は、別個の遺伝子型を示した(表2)。
患者の創傷由来の臨床単離株は、バイオフィルムの形成、宿主細胞への付着および細胞傷害性の誘導の能力が異なる。次に、本発明者らは、細菌単離株を、バイオフィルムを形成する能力(表2)ならびに培養されたHeLa上皮細胞および3T3線維芽細胞に付着する能力について、連続希釈プレーティングアッセイを用いて研究した(図20A〜D)。緑膿菌およびクレブシエラ種単離株は、最も高いバイオフィルム形成性を示し(試験した5つの単離株のうちの4株がバイオフィルム形成に関して陽性であった)、次いでA.バウマニ(5株のうちの2株)および大腸菌(5つの単離株のうちの1株)であった(表2)。これに対して、A.バウマニ単離株は、最も高い宿主細胞付着能力を示し、次いでクレブシエラ種、緑膿菌および大腸菌であった。しかし、本発明者らは、各グループ内に付着特性の大きなばらつきがあることを観察し、その中でも大腸菌単離株が最も大きなばらつきを示した(付着は、単離株#2の15%から単離株#5の73%の範囲であった)。加えて、本発明者らは、20個すべての単離株を、4時間感染実験の間に宿主細胞において細胞傷害性を引き起こす能力に関して、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイを用いて試験した(図20E〜H)。A.バウマニ単離株は、最も高い全体細胞傷害性を示し、次いで緑膿菌、クレブシエラ種および大腸菌であった。ばらつきは、クレブシエラ種の中で最も大きく、細胞溶解は、単離株#2の24%から単離株#3の69%の範囲であった。さらに、本発明者らは、試験した単離株の付着および細胞傷害性プロフィールを比較し、2つの興味深い特徴を発見した。第1に、ほとんどの例において、菌株は3T3線維芽細胞に対して若干高い付着および細胞傷害性効果を示した。第2に、緑膿菌を除くすべての病原体グループの例において、本発明者らは、宿主細胞への付着と病原体により誘導される細胞傷害性の間で正の相関を観察した(図20I〜L)。
単離株は、広範囲の一般的に使用される抗菌剤に対して高い程度の耐性を示す。グラム陰性創傷感染の処置において直面する最大の問題の1つは、患者単離株において見出される多剤耐性(MDR)細菌の数の増加である。本発明者らは、BD Phoenix Automated Microbiology Systemを用いて全20株の細菌単離株に対する抗菌剤のパネルの最小阻害濃度(MIC)を決定することによる抗菌剤感受性試験(AST)を行った(表3)。抗菌剤パネルには、4つの最も一般的に使用されるクラスの抗菌剤であるアミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネムおよびフルオロキノロンの各々からのいくつかの薬物を含んでいた。このパネルはまた、他のクラスの抗菌剤、例えばトリメトプリム/スルファメトキサゾールを含んでいたが、これらに対する耐性は、単離株を多剤耐性に分類する上では考慮されなかった。Center for Disease Control and Preventionにしたがう多剤耐性の定義にしたがい(MDRは、グラム陰性感染の処置に一般的に処方される抗菌剤クラスのすべてまたは1つを除くすべてにおけるすべての試験薬物に対して耐性があるものと定義される)(Hospenthal et al., 2011)、試験したA.バウマニおよび緑膿菌株のすべてがMDRであることが見出された。ESBL産生性クレブシエラ種および大腸菌のすべての単離株は、MDRの定義を満たさないものの高い耐性を示し、試験したアミノグリコシド、β-ラクタムおよびフルオロキノロンのほとんどに対して非感受性であった(表3)。すべてのクレブシエラ種および大腸菌単離株は、試験したカルバペネム(イミペネム、メロペネムおよびエルタペネム)に対して感受性であった。
抗接着処置は多数の臨床単離株において病原体媒介細胞傷害性を減少させる。本発明者らは以前に、多価接着分子(MAM)7と呼ばれるグラム陰性細菌において見出される広く保存されているアドヘシンを、上記のような感染の組織培養モデルにおいて、宿主細胞上の細菌付着部位をブロックするために使用することができ、したがって胃腸病原体、例えば腸炎ビブリオ、コレラ菌、偽結核菌およびEPECによる感染を減少させることができることを実証した。ここでは、本発明者らは、そのような処置を、関連する創傷関連病原体を網羅するよう拡張することに成功するかどうかを調査し、そしてMAM7ベースの抗接着処置がHeLaまたは3T3細胞における臨床単離株により媒介される細胞傷害性に影響するかどうかを、LDH放出アッセイを用いて試験した。本発明者らは、非病原性大腸菌の表面上に発現させたMAM7(BL21-MAM7)または細菌の表面提示を模倣する1μmラテックスビーズに固定化された組み換え精製MAM7タンパク質(ビーズ-MAM7)のいずれかを使用した。培養細胞を、感染多重度(MOI)が100のMAM7阻害剤と共に30分間プレインキュベートした。その後、過剰な阻害剤を洗浄によって除去し、細胞を、20株の単離株の各々により、MOI 10で感染させた。感染4時間後に、プレインキュベーションなしまたはBL21-MAM7もしくはMAM7-ビーズによる抗接着処置後のいずれかのHeLaおよび3T3細胞に対する細胞傷害性を評価した(それぞれ、図21A〜Dおよび図22A〜D)。全体として、本発明者らは、細胞をMAM7ベースの阻害剤と共にプレインキュベートしたときに細胞傷害性の大きな減少を観察し、BL21-MAM7またはMAM7-ビーズのいずれかによって媒介される阻害の程度は非常に類似していた。HeLa細胞への最高の保護効果は、A.バウマニ(BL21-MAM7で76±8%およびMAM7-ビーズで68±6%の平均阻害)ならびにクレブシエラ種単離株(BL21およびビーズでそれぞれ85±4%および71±18%の平均阻害)に対する処置において観察された(図21A、21C)。これに対して、緑膿菌(細菌およびビーズでそれぞれ48±30%および43±24%)ならびに大腸菌(54±19%/51±20%)に対する阻害効果は、ほとんどの株で顕著ではなかったが、これらのグループ内では、異なる単離株間の処置応答のばらつきが非常に大きかった(図21B、21D)。例えば、緑膿菌の場合、細胞傷害性の阻害は、単離株#1の>91%から単離株#3の12%の範囲であった。阻害プロフィールは、HeLa細胞と3T3細胞の間で非常に類似していた(図22A〜D)。
共焦点顕微鏡観察を用いた細菌感染に対するMAM7の阻害能力の可視化。個々の病原体の有害効果およびMAM7阻害剤の保護効果を可視化するために、本発明者らは、4つのグループの各々から代表株を選択し(図21A〜Dおよび図22A〜Dでアスタリスクが付されている)、共焦点顕微鏡観察を用いてHeLaおよび3T3細胞の両方の感染ならびに阻害実験を分析した(図23A〜24R)。これにより、本発明者らは、LDH放出アッセイにおいて見出された結果をさらに試験し、これを細胞表現型と相関づけることができた。この目的で、細胞に、A.バウマニ#1、緑膿菌#1、クレブシエラ種#1または大腸菌#5のいずれかを感染させた(これらはすべて、MAM7による抗接着処置に対して良く応答することが示されたものである)。加えて、本発明者らは、阻害に対して最も低い応答を示した緑膿菌#3の感染を分析した。緑膿菌単離株#1または#3のいずれかを感染させたHeLa細胞の顕微鏡比較観察は、この2つの単離株による感染後の細胞表現型の間に大きな違いがあることを示し、これは本発明者らのLDH放出実験およびPFGE分析からの知見と一致するものである。緑膿菌#1の感染は、感染から数時間後でさえも、限定的な細胞の円形化(rounding)および溶解しか引き起こさず、糸状仮足および微小突起の誘導により特徴づけられるアクチン表現型が優勢であったのに対して、単離株#3は、外見上は中間表現型を示さない、迅速な細胞円形化および細胞溶解を引き起こした(図23C〜D)。A.バウマニ#1および大腸菌#5は両方とも迅速な細胞円形化を引き起こし(図23B、23F)、クレブシエラ種#1は、それより緩慢かつ限定的な円形化を引き起こし、緑膿菌単離株#1で観察されたのとは異なるアクチン突出を形成した(図23E)。3T3細胞においては、ほとんどの細菌単離株による感染で3T3細胞がアクチンストレス繊維および微小突起の形成により特徴づけられる迅速な劣化およびその後の細胞溶解を引き起こしたため、個別の感染表現型を識別することが困難であった(図245A〜R)。しかし、HeLaおよび3T3の両方の細胞において、BL21-MAM7およびMAM7-ビーズとのプレインキュベーションは、感染の進行を顕著に減速させ、A.バウマニ#1、緑膿菌#1、クレブシエラ種#1または大腸菌#5のいずれかの感染後には限定的な細胞円形化および溶解しか確認されなかった。これらのすべての例において、それ以外の細胞表現型は、アクチン表現型の変化、例えば、ストレス繊維、糸状仮足または微小突起の形成、のみであった(図23A〜Fおよび図24H〜R)。これに対して、緑膿菌単離株#3の感染後の細胞表現型は、いずれの細胞型に対するBL21-MAM7またはMAM7-ビーズのいずれの前処置によっても変化せず(図23A〜Fおよび図24J、24P)、これも本発明者らのLDHアッセイからの結果と一致するものである。
考察
創傷の細菌コロニー形成および感染は、戦地からの帰還後に軍医療施設で処置を受けた軍関係者における処置合併症の共通原因である。グラム陰性細菌による創傷関連感染は、主に、A.バウマニ、緑膿菌ならびにESBL産生性大腸菌およびクレブシエラ種によって引き起こされる(Hospenthal et al., 2011,)。患者から単離される多剤耐性病原体の数の増加は大きな懸念となっており、感染の予防および処置のための代替手段が必要とされる理由である。低分子抗菌剤の代替法として、抗接着療法が検討および試験されている。ほとんどの例において、これは、宿主細胞の受容体構造の分子模倣体、例えば糖または糖模倣体、の投与に基づいている(Salminen et al., 2007; Hansen et al., 1997; Pieters, 2006)。胃腸病原体による細菌感染の抗接着処置におけるMAM7ベースの阻害剤の使用を調査する本発明者らの以前の研究の後、本発明者らは、創傷関連グラム陰性病原体の感染に対するこれらの阻害性分子の効力の調査に着手した。
本発明者らは、上記の5つのグラム陰性細菌種の各々からの5つの代表的な患者単離株を利用した。PFGEタイピングは、すべての単離株が遺伝子型的に異なることを示した。創傷関連感染の処置における大きな問題は、遭遇する多剤耐性生物の数の増加である。2003〜2009年の期間の入院関連スクリーニングは、幅広い患者単離株が、臨床において一般的に利用されているほとんどの抗菌剤に対して耐性であること、および例えば試験期間の間にコリスチン耐性を確立させたアシネトバクター・バウマニ単離株の例で記載されているような、さらなる耐性を迅速に獲得するそれらの能力を明らかにした(Hospenthal et al., 2011, Jason et al., 2008)。この傾向は、本研究で試験した単離株においても見出され - すべてのアシネトバクター・バウマニ単離株およびほとんどの緑膿菌単離株が多剤耐性であった。試験したESBL産生性クレブシエラ種および大腸菌単離株はすべて、CDCの定義上は多剤耐性ではないが(Hospenthal et al., 2011)、それらのほとんどは、処置上の選択肢としてほとんどのアミノグリコシド、β-ラクタムおよびフルオロキノロンを排除する非常に広い耐性プロフィールを示した。
本発明者らはさらに、インビトロおよび組織培養アッセイを用いて、ビルレンスに関する重要な寄与因子であると言われている様々なパラメータを分析した。これらは、バイオフィルムの形成、宿主細胞への付着および感染の組織培養モデルにおける細胞傷害性を含むものであった(Dallo and Weitao, 2010; Schierle et al., 2009; Davis et al., 2008; Vance et al., 2005)。大部分の菌株(64%)は、インビトロでバイオフィルムを形成することが見出され、そしてすべての菌株が、宿主細胞に対して付着し、宿主細胞を殺傷する能力を示した。しかし、付着および細胞傷害性の程度は、試験したすべての単離株の間でおよび同一種内の単離株間で多様であり、これはこれらの単離株のPFGEプロファイリングで見出された遺伝子型のばらつきと一致するものである。
多くの病原体において、感染の確立の成功のために宿主細胞との密接な接触が維持される必要があることは明らかである。多くのビルレンス因子は、宿主細胞の細胞膜に直接結合しこれを横断して移行するかまたは細胞膜に孔を形成するかの、いずれかの可溶性の分泌型毒素である。これらのプロセスは両方とも濃度依存的であり、したがって拡散による損失を防ぐために宿主細胞との密接な接触が必要となる(Matsuda et al., 2010; Kim et al., 2008; Zrimi et al., 2011)。他の重要なビルレンス因子は、III型、IV型またはVI型のいずれかの分泌機構により宿主細胞の細胞質に直接的に感染するものであり、これもまた細菌が宿主細胞に付着することを必要とする(Cambronne et al., 2006; Filloux et al., 2008; Winnen et al., 2008)。この理由で、本発明者らは、各病原体グループ間で、宿主細胞への付着と細胞傷害性の間の相関関係を分析した。本発明者らは、概ね、A.バウマニ、緑膿菌および大腸菌単離株において、付着と細胞傷害性の間の正の相関を見出した。興味深いことに、緑膿菌単離株では、これらの2つの因子間で有意な相関が示されなかった。この1つの説明は、いくつかの緑膿菌株におけるビルレンスメカニズムの能力が他の病原体または同一種内の他の株と比較して高い(したがって高い細胞傷害性をなし遂げるために限定的にしか付着を必要としない)ということであろう。これをふまえて、いくつかの単離株が他と比較してハイパービルレントであるかどうかを調査するのが面白いであろう。このいくつかの緑膿菌単離株の非典型的な挙動に対する別の説明は、それらは細菌と宿主細胞の間の直接接触に厳密に依存しないさらなるビルレンスメカニズム、例えば細菌外膜小胞(OMV)を使用しているというものであろう(Bomberger et al., 2009)。OMVは、幅広い細菌種によって排出され、特定の細菌タンパク質を濃縮して含み得る(Haurat et al., 2011; Choi et al., 2011; Kulp et al., 2010)。いくつかの例において、これは、細菌成分の小胞/細胞膜融合およびエンドサイトーシスにより宿主の膜を横断してビルレンス因子を移行させるメカニズムとして利用され得る(Jin and Lee, 2011; Parker et al., 2010)。
これまでに、本発明者らは、非病原性細菌の表面上に提示されるかまたはポリマービーズに固定化されるかのいずれかのMAM7による宿主細胞の前処置が胃腸病原体、例えばコレラ菌、腸炎ビブリオ、偽結核菌およびEPECの感染の効果を顕著に減少させることを示している(上記の実施例1を参照のこと)。本発明者らはさらに、付着する細菌またはビーズの数が特定の感染多重度以上でプラトーに達することおよび阻害の達成に必要なMAM7の用量を比較的低く維持できることから、MAM7ベースの付着阻害のメカニズムが、立体障害ではなく、限られた数の宿主細胞受容体(ホスファチジン酸およびフィブロネクチンの両方が豊富な部位)における競合であろうことを示した(上記の実施例2を参照のこと)。したがって、本発明者らは、宿主細胞への付着においてMAM7ホモログを使用する他の病原体もまた同じ処置様式に応答し得るという仮説をたて、創傷関連グラム陰性病原体による感染の抗接着処置におけるMAM7ベースの阻害剤の効力を調査した。概ね、本発明者らは、試験した5つすべての種において、MAM7前処置の後に培養細胞に対する細胞傷害性効果が有意に減少することを観察した。しかし、緑膿菌のいくつかの個別の単離株およびESBL産生性大腸菌の1つの単離株は、MAM7処置に対して非常に限定的な応答しか示さなかった。もっとも顕著なのは、高細胞傷害性の単離株である緑膿菌#3が、MAM7阻害に対してほとんど応答を示さなかったことである。本発明者らは、概ね、付着と細胞傷害性の間の相関が弱いまたはない単離株が処置に対して低い応答性であったことを確認した。MAM7は宿主細胞に対する細菌の付着を阻害するので、比較的低い付着レベルであっても高い細胞傷害性を示す菌株、例えば緑膿菌#3は、抗接着療法に対する感受性が低いであろうと結論づけられる。
本発明者らは、MAM7ベースの阻害剤による抗接着予防または処置が、従来の低分子抗菌剤では処置が困難であり得る多くの重要な創傷関連病原体に対する攻撃において有望であると結論づける。したがって、感染の組織培養モデルを用いてMAM7ベースの阻害の効果を調査した本明細書に示された実験を、将来、これは本研究の範囲を超えるものであるが、関連する感染の動物モデルを網羅するよう拡張すべきである。最も重要なことは、組織培養物において容易に試験することができるビルレンスの2つの重要なホールマークである付着と細胞傷害性の間の相関関係が、細菌感染に対するMAM7ベースの阻害、および潜在的には抗接着療法において使用される他の分子、の成功の有用な予測因子として利用できることを、本発明者らが実証したことである。
(表3)共通スクリーンされた抗生物質に対する菌株の感受性
表3の略記:Amik、アミカシン;AmoxC.、アモキシリン-クラブラン酸(Calvulanate);Amp.、アンピシリン;AmpS.、アンピシリン-スルバクタム;Az.、アズトレオナム;Cd.、セフタジジム;Cefa.、セファゾリン;Cefe.、セフェピム;Cefo.、セフォタキシム;Ceft.、セフタジジム;Cefu.、セフロキシム;Ceph.、セファロチン、Co.、セフトリアキソン;Cx.、セフォキシチン;Cipro.、シプロフロキサシン;Ert.、エルタペネム;Gati.、ガチフロキサシン;Gent.、ゲンタマイシン;Im.、イミペネム;Lev.、レボフロキサシン;Mero.、メロペネム;Nf.、ニトロフラントイン;Pip.、ピペラシリン;PipT.、ピペラシリン-タゾバクタム;Tet.、テトラサイクリン;Tob.、トブラマイシン;TmSm.、トリメトプリム-スルファメトキサゾール;NA、データを入手できず;示されている値は、μg/mlの最小阻害濃度であり、R、耐性;I、中間;S、感受性の観点での結果の解釈である;*原則的に、ESBLが検出された場合、ペニシリン、セファロスポリンおよびアズトレオナムに対する感受性または中間の解釈は、耐性と報告されている。
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本願で開示および特許請求される組成物および/または方法はすべて、本願の開示に照らして、過度の実験を要することなく作製および実施することができる。本発明の組成物および方法は好ましい態様に関して記載されているが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく本明細書に記載される組成物および/または方法ならびに方法の工程または工程の系列に対して変更が適用され得ることが、当業者に理解されるであろう。より具体的には、本明細書に記載されている剤が、化学的および生理学的に関連する特定の剤で置換され得、それによって同一または同等の結果が達成され得ることが明らかであろう。そのような、当業者に明らかな同等の置換および修正はすべて、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神、範囲および概念に含まれるものとみなされるのである。
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に示されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供する程度に、個々に、参照により本明細書に組み入れられる。