以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[実施形態1]
図1に本発明の一実施形態における誘導結合型プラズマ処理装置の構成を示す。図2および図3に、このプラズマ処理装置におけるRFアンテナおよびフローティングコイルの配置構成(レイアウト)および電気的結線構成を示す。
この誘導結合型プラズマ処理装置は、平面コイル形のRFアンテナを用いる誘導結合型のプラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型真空チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は、保安接地されている。
先ず、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係しない各部の構成を説明する。
チャンバ10内の下部中央には、被処理基板としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板状のサセプタ12が高周波電極を兼ねる基板保持台として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びる絶縁性の筒状支持部14に支持されている。
絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の上部または入口に環状のバッフル板20が取り付けられるとともに、底部に排気ポート22が設けられている。チャンバ10内のガスの流れをサセプタ12上の半導体ウエハWに対して軸対象に均一にするためには、排気ポート22を円周方向に等間隔で複数設ける構成が好ましい。各排気ポート22には排気管24を介して排気装置26が接続されている。排気装置26は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内のプラズマ処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁の外には、半導体ウエハWの搬入出口27を開閉するゲートバルブ28が取り付けられている。
サセプタ12には、RFバイアス用の高周波電源30が整合器32および給電棒34を介して電気的に接続されている。この高周波電源30は、半導体ウエハWに引き込まれるイオンのエネルギーを制御するのに適した一定周波数(通常13.56MHz以下)の高周波RFLを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器32は、高周波電源30側のインピーダンスと負荷(主にサセプタ、プラズマ、チャンバ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。その整合回路の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
サセプタ12の上面には、半導体ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の半径方向外側に半導体ウエハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられる。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだものであり、電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40より印加される高圧の直流電圧により、静電力で半導体ウエハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室44が設けられている。この冷媒室44には、チラーユニット(図示せず)より配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷却水cwの温度によって静電チャック36上の半導体ウエハWの処理中の温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。また、半導体ウエハWのローディング/アンローディングのためにサセプタ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構(図示せず)等も設けられている。
次に、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係する各部の構成を説明する。
チャンバ10の天井または天板はサセプタ12から比較的大きな距離間隔を隔てて設けられており、この天板としてたとえば石英板からなる円形の誘電体窓52が気密に取り付けられている。この誘電体窓52の上には、チャンバ10内に誘導結合のプラズマを生成するための環状のRFアンテナ54を外部から電磁的に遮蔽して収容するアンテナ室56がチャンバ10と一体に設けられている。このRFアンテナ54の具体的な構成および作用は後に説明する。
アンテナ室56内には、チャンバ10内の処理空間に生成される誘導結合プラズマの密度分布を径方向で可変制御するために、RFアンテナ54と電磁誘導により結合可能な可変コンデンサ58付きの環状のフローティングコイル60も設けられている。可変コンデンサ58は、主制御部80の制御の下で容量可変部82により一定範囲内で任意に可変されるようになっている。
高周波給電部62は、高周波電源64、整合器66、高周波給電ライン68および帰線ライン70を有している。高周波給電ライン68は、整合器66の出力端子とRFアンテナ54のRF入口端とを電気的に接続する。帰線ライン70は接地電位のアースラインであり、RFアンテナ54のRF出口端と電気的に接地電位に保たれる接地電位部材(たとえばチャンバ10または他の部材)とを電気的に接続する。
高周波電源64は、誘導結合の高周波放電によるプラズマの生成に適した一定周波数(通常13.56MHz以上)の高周波RFHを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器66は、高周波電源64側のインピーダンスと負荷(主にRFアンテナ、プラズマ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。
チャンバ10内の処理空間に処理ガスを供給するための処理ガス供給部は、誘電体窓52より幾らか低い位置でチャンバ10の側壁の中(または外)に設けられる環状のマニホールドまたはバッファ部72と、円周方向に等間隔でバッファ部72からプラズマ生成空間に臨む多数の側壁ガス吐出孔74と、処理ガス供給源76からバッファ部72まで延びるガス供給管78とを有している。処理ガス供給源76は、流量制御器および開閉弁(図示せず)を含んでいる。
主制御部80は、たとえばマイクロコンピュータを含み、このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置26、高周波電源30,64、整合器32,66、静電チャック用のスイッチ42、処理ガス供給源76、容量可変部82、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)を制御する。
この誘導結合型プラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ28を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック36の上に載置する。次に、ゲートバルブ28を閉めてから、処理ガス供給源76よりガス供給管78、バッファ部72および側壁ガス吐出孔74を介してエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置26によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、高周波給電部62の高周波電源64をオンにしてプラズマ生成用の高周波RFHを所定のRFパワーで出力させ、整合器66,RF給電ライン68および帰線ライン70を介してRFアンテナ54に高周波RFHの電流を供給する。一方、高周波電源30をオンにしてイオン引き込み制御用の高周波RFLを所定のRFパワーで出力させ、この高周波RFLを整合器32および給電棒34を介してサセプタ12に印加する。また、伝熱ガス供給部より静電チャック36と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を供給するとともに、スイッチ42をオンにして静電チャック36の静電吸着力により伝熱ガスを上記接触界面に閉じ込める。
チャンバ10内において、側壁ガス吐出孔74より吐出されたエッチングガスは、誘電体窓52の下の処理空間に拡散する。RFアンテナ54の後述する各コイルセグメントを流れる高周波RFHの電流およびフローティングコイル60を流れる誘導電流によって発生する磁力線(磁束)が誘電体窓52を貫通してチャンバ10内の処理空間(プラズマ生成空間)を横切り、処理空間内で方位角方向の誘導電界が発生する。この誘導電界によって方位角方向に加速された電子がエッチングガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。
このドーナツ状プラズマのラジカルやイオンは広い処理空間で四方に拡散し、ラジカルは等方的に降り注ぐようにして、イオンは直流バイアスに引っぱられるようにして、半導体ウエハWの上面(被処理面)に供給される。こうして半導体ウエハWの被処理面にプラズマの活性種が化学反応と物理反応をもたらし、被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
ここで「ドーナツ状のプラズマ」とは、チャンバ10の径方向内側(中心部)にプラズマが立たず径方向外側にのみプラズマが立つような厳密にリング状のプラズマに限定されず、むしろチャンバ10の径方向内側より径方向外側のプラズマの体積または密度が大きいことを意味する。また、処理ガスに用いるガスの種類やチャンバ10内の圧力の値等の条件によっては、ここで云う「ドーナツ状のプラズマ」にならない場合もある。
この誘導結合型プラズマエッチング装置は、RFアンテナ54を以下に説明するような特殊な空間的レイアウトおよび電気的接続構成にするとともに、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で任意に制御するために、プロセスレシピで設定される所定のプロセスパラメータ(たとえば圧力、RFパワー、ガス流量等)に応じて主制御部80が容量可変部82によりフローティングコイル60のループ内に設けられる可変コンデンサ58の静電容量を可変するようにしている。
[RFアンテナおよびフローティングコイルの基本構成および作用]
図2および図3に、このプラズマ処理装置におけるRFアンテナおよびフローティングコイルの配置構成(レイアウト)および電気的結線構成を示す。
RFアンテナ54は、好ましくは周回方向で分割されている複数(たとえば2つ)のコイルセグメント84(1),84(2)からなる。これら2つのコイルセグメント84(1),84(2)は、空間的には、各々が半円の円弧状に形成されていて、周回方向の一周またはその大部分を埋めるように直列に配置されている。より詳しくは、RFアンテナ54の一周のループ内において、第1のコイルセグメント84(1)のRF入口端84(1)(RF-In)と第2のコイルセグメント84(2)のRF出口端84(2)(RF-Out)とが周回方向で間隙G84を介して相対向または隣接し、第1のコイルセグメント84(1)のRF出口端84(1)(RF-Out)と第2のコイルセグメント84(2)のRF入口端84(2)(RF-In)とが周回方向で別の間隙G84を介して相対向または隣接している。
そして、これらのコイルセグメント84(1),84(2)は、電気的には、それぞれの一方の端つまりRF入口端84(1)(RF-In),84(2)(RF-In)が上方に延びる接続導体86(1),86(2)および高周波入口側のノードNAを介して高周波給電部62からのRF給電ライン68に接続され、それぞれの他方の端つまりRF出口端84(1)(RF-Out),84(2)(RF-Out)が上方に延びる接続導体88(1),88(2)および高周波出口側のノードNBを介してアースライン70に接続されている。アンテナ室56内で上記のようにRFアンテナ54の上方に延びる接続導体86(1),86(2),88(1),88(2)は、誘電体窓52から十分大きな距離を隔てて(相当高い位置で)横方向の分岐線または渡り線を形成しており、各コイルセグメント84(1),84(2)に対する電磁的な影響を少なくしている。
このように、高周波給電部62からのRF給電ライン68と接地電位部材へのアースライン70との間で、またはノードNAとノードNBとの間で、RFアンテナ54を構成する2つのコイルセグメント84(1),84(2)同士が互いに電気的に並列に接続されている。そして、これらのコイルセグメント84(1),84(2)をそれぞれ流れる高周波のアンテナ電流の向きが周回方向で同じになるように、ノードNAとノードNBとの間でRFアンテナ54内の各部が結線されている。
この実施形態では、好ましい一形態として、RFアンテナ54を構成する2つのコイルセグメント84(1),84(2)がおおよそ等しい自己インダクタンスを有している。通常は、それらのコイルセグメント84(1),84(2)が線材、線径および線長を同じにすることによって、自己インダクタンス同一性ないし近似性の要件が満たされる。
フローティングコイル60は、電気的にフローティング状態に置かれ、RFアンテナ54の内側に配置されている。ここで、本発明における電気的なフローティング状態とは、電源およびグランド(接地電位)のいずれからも電気的に浮遊または分離している状態であり、周囲の導体とは電荷または電流のやりとりが全然または殆どなく、専ら電磁誘導により当該物体で電流が流れ得る状態をいう。
また、フローティングコイル60は、基本的な構造として、両端が切れ目または間隙G60を挟んで開放した単巻コイル(または複巻コイル)からなり、その切れ目G60に可変コンデンサ58を設けている。フローティングコイル60のコイル導体の材質は、導電率の高い金属、たとえば銀メッキを施した銅が好ましい。
可変コンデンサ58は、後述するように、たとえばバリコンまたはバリキャップのような市販の汎用タイプでもよく、あるいはフローティングコイル60に一体に作り込まれる特注品または一品製作品でもよい。容量可変部82は、可変コンデンサ58の静電容量を典型的にはメカニカル的な駆動機構または電気的な駆動回路により可変制御するようになっている。
この実施形態においては、RFアンテナ54とフローティングコイル60の両者が、互いに相似なループ形状(図示の例は円環形状)を有することと、いずれも誘電体窓52の上に載って配置されることと、互いに同軸に配置されることが好ましい。
なお、本発明において「同軸」とは、軸対称の形状を有する複数の物体間でそれぞれの中心軸線が互いに重なっている位置関係であり、複数のコイル間に関してはそれぞれのコイル面が軸方向で互いにオフセットしている場合だけでなく同一面上で一致している場合(同心状の位置関係)も含む。
この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、高周波給電部62より供給される高周波のアンテナ電流がRFアンテナ54内の各部を流れるとともに、フローティングコイル60内に誘導電流が流れることにより、RFアンテナ54を構成するコイルセグメント84(1),84(2)の周りにはアンペールの法則にしたがってループ状に分布する高周波数の交流磁界が発生し、誘電体窓52の下には比較的内奥(下方)の領域でも処理空間を半径方向に横断する磁力線が形成される。
ここで、処理空間における磁束密度の半径方向(水平)成分は、チャンバ10の中心と周辺部では高周波電流の大きさに関係なく常に零であり、その中間の何処かで極大になる。高周波数の交流磁界によって生成される方位角方向の誘導電界の強度分布も、径方向において磁束密度と同様の分布を示す。つまり、径方向において、ドーナツ状プラズマ内の電子密度分布は、マクロ的にはRFアンテナ54(コイルセグメント84(1),84(2))およびフローティングコイル60内の電流分布にほぼ対応する。
ここで、RFアンテナ54内では、上記のように、コイルセグメント64(1),64(2)はおおよそ等しい自己インダクタンス(つまりおおよそ等しいインピーダンス)を有し、かつ電気的に並列に接続されている。これにより、プラズマ励起時には、第1のコイルセグメント84(1)の半周ループと,第2のコイルセグメント84(2)の半周ループとで常に同じ大きさのアンテナ電流IRFが流れ、RFアンテナ54の全体つまり1周のループ内で均一なアンテナ電流IRFが流れる。また、フローティングコイル60内ではその1周のループ内で常に同じ大きさの誘導電流IINDが流れる。
したがって、チャンバ10の誘電体窓52の下(内側)に生成されるドーナツ状プラズマにおいては、RFアンテナ54(コイルセグメント84(1),84(2))およびフローティングコイル60のそれぞれの直下の位置付近で電流密度(つまりプラズマ密度)が突出して高くなる(極大になる)。このように、ドーナツ状プラズマ内の電流密度分布は径方向で均一ではなく凹凸のプロファイルとなる。しかし、チャンバ10内の処理空間でプラズマが四方に拡散することによって、サセプタ12の近傍つまり基板W上ではプラズマの密度がかなり均される。
この実施形態においては、RFアンテナ54(コイルセグメント84(1),84(2))およびフローティングコイル60において一様または均一なアンテナ電流IRFおよび誘導電流IINDがそれぞれのループ内を流れるので、周回方向では常にドーナツ状プラズマ内はもちろんサセプタ12の近傍つまり基板W上でも略均一なプラズマ密度分布が得られる。
また、径方向においては、主制御部80の制御の下で容量可変部82により可変コンデンサ58の静電容量を可変調整することにより、フローティングコイル60内で流れる誘導電流IINDの向きおよび電流量を任意に制御することができる。これによって、フローティングコイル60の直下付近で生成されるプラズマの密度を任意に制御し、ひいてはドーナツ状プラズマが処理空間で四方(特に径方向)に拡散する結果として得られるサセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で任意または多様に制御することができる。フローティングコイル60の作用については後に詳細に説明する。
この実施形態においては、電気的に並列接続される複数のコイルセグメント84(1),84(2)によりRFアンテナ54が構成されているので、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下は個々のコイルセグメント84(1),84(2)毎にその長さに依存する。したがって、個々のコイルセグメント84(1),84(2)内で波長効果を起こさないように、そして電圧降下があまり大きくならないように、各々のコイルセグメント84(1),84(2)の長さを選定することによって、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下の問題を全て解決することができる。波長効果の防止に関しては、各コイルセグメント84(1),84(2)の長さを高周波RFHの1/4波長よりも短く(より好ましくは十分短く)することが望ましい。
このように、この実施形態のRFアンテナ54は、波長効果が起こり難いだけでなく、アンテナ内に生じる電位差(電圧降下)が小さいので、RFアンテナ54とプラズマとの容量結合によって誘電体窓52の各部に入射するイオン衝撃のばらつきを小さくすることができる。これによって、誘電体窓52の一部が局所的または集中的に削れるといった望ましくない現象を低減できるという効果も得られる。
プラズマ生成に対するフローティングコイル60の作用、特に可変コンデンサ58の静電容量を可変したときの作用は、図4に示すようなシンプルなモデル(基本構成)について考察すると理解しやすい。この実施形態において複数(2つ)のコイルセグメント84(1),84(2)からなるRFアンテナ54は、誘導結合のプラズマを生成する作用に関しては、図示のような同一口径の円環状単巻きコイル[54]と等価である。
図4のモデルにおいて、高周波電源64よりRFアンテナ54に一定周波数fの高周波RFHを供給して、RFアンテナ54にアンテナ電流IRFを流したとき、電磁誘導によりフローティングコイル60内に生じる起電力つまり誘導起電力VINDはファラデーの法則から次の式(1)で表わされる。
VIND=−dΦ/dt=−iωMIRF ・・・・(1)
ここで、ωは角周波数(ω=2πf)、MはRFアンテナ54とフローティングコイル60との間の相互インダクタンスである。なお、上記の式(1)では、フローティングコイル60とプラズマとの間の相互インダクタンスは相対的に小さいので無視している。
この誘導起電力VINDによりフローティングコイル60内で流れる電流(誘導電流)IINDは、次の式(2)で表わされる。
IIND=VIND/Z60=−iMωIRF/{R60+i(L60ω−1/C58ω)} ・・・(2)
ここで、Z60はフローティングコイル60のインピーダンス、R60はフローティングコイル60の抵抗(プラズマに吸収されるパワーに起因する抵抗成分も含む)、L60はフローティングコイル60の自己インダクタンス、そしてC58は可変コンデンサ58の静電容量である。
フローティングコイル60の一般的な材質および構造、ならびに通常の使用形態では、|R60|≦|L60ω−1/C58ω|であるから、誘導電流IINDは次の近似式(3)で表わされる。
IIND≒−MωIRF/(L60ω−1/C58ω) ・・・・(3)
この式(3)は、可変コンデンサ58の静電容量C58に応じてフローティングコイル60内で流れる誘導電流IINDの向きが周回方向で変わることを意味する。すなわち、フローティングコイル60内で直列共振が起きるときの可変コンデンサ58の静電容量C58の値をCRとすると、C58がCRよりも大きい場合は、L60ω>1/C58ωとなって、つまりフローティングコイル60内のリアクタンス(L60ω−1/C58ω)が正の値となって、フローティングコイル60内には負極性(アンテナ電流IRFと周回方向で逆向き)の誘導電流IINDが流れる。しかし、C58がCRよりも小さい場合は、L60ω<1/C58ωとなって、つまりフローティングコイル60内のリアクタンス(L60ω−1/C58ω)が負の値となって、フローティングコイル60内には正極性(RFアンテナ54を流れる電流IRFと周回方向で同じ向き)の誘導電流IINDが流れる。この特性を図5のグラフ(プロット図)に示す。
図5のグラフにおいて、横軸は、可変コンデンサ58の静電容量C58であり、20pFから1000pFまで連続的に変化させている。縦軸は、誘導電流IRFとアンテナ電流IRFの比(IIND/IRF)であり、RFアンテナ54を流れるアンテナ電流IRFに対して何倍の誘導電流IINDがフローティングコイル60内に流れるのかを表わしている。電流比(IIND/IRF)が正の値のときは、誘導電流IRFが周回方向でアンテナ電流IRFと同じ向きに流れる。反対に、電流比(IIND/IRF)が負の値のときは、誘導電流IINDが周回方向でアンテナ電流IRFと逆向きに流れる。なお、このグラフの計算例では、f(ω/2π)=13.56MHz、M=350nH、L60=580nHとしている。この場合、フローティングコイル60内で直列共振を起こす静電容量C58の値CRは、L60ω=1/CRωの共振条件から、CR≒230pFである。
図5に示すように、可変コンデンサ58の静電容量C58が20pFのときは、誘導電流IINDは零に近い正の値になる。C58の値を20pFから増やしていくと、誘導電流IINDは正の向き(アンテナ電流IRFと同じ向き)で漸次的に増大し、やがてアンテナ電流IRFを凌駕し、そこからは指数関数的に増大し、直列共振を起こす静電容量値CRの直前で最大になる。そして、C58の値がCRを超えると、とたんに誘導電流IINDが負の向き(アンテナ電流IRFと逆向き)で大きな電流になる。さらにC58の値を増やしていくと、誘導電流IINDは負の向きを保ったまま対数関数的に小さくなり、最終的にはアンテナ電流IRFよりも絶対値的に小さな値ISに漸近する。ここで、飽和値ISはIS≒MIRF/L60であり、上記の例(M=350nH、L60=580nH)ではIS≒0.6IRFである。
フローティングコイル60の作用の中で特に重要な点は、可変コンデンサ58の静電容量C58の値に応じて誘導電流IINDの流れる向きが変わり、それによってチャンバ10内で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布に与える影響(作用効果)が全く違ってくることである。
すなわち、フローティングコイル60内で誘導電流IINDが周回方向でアンテナ電流IRFと逆向きに流れるときは、そのコイル導体の直下位置付近で誘導磁界の強度ないしは誘導結合プラズマの密度を局所的に低減する作用効果が得られ、誘導電流IINDの電流値が大きいほどそのプラズマ密度低減効果の度合いが増す。
これに対して、フローティングコイル60内で誘導電流IINDが周回方向でアンテナ電流IRFと同じ向きに流れるときは、そのコイル導体の直下位置付近で誘導磁界の強度ないしは誘導結合プラズマの密度を局所的に増強する作用効果が得られ、誘導電流IINDの電流値が大きいほどそのプラズマ密度増強効果の度合いが増す。
したがって、可変コンデンサ58の静電容量C58を可変することにより、フローティングコイル60を所定位置に固定した状態の下で、チャンバ10内で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を自在に制御し、ひいてはドーナツ状プラズマが処理空間で四方(特に径方向)に拡散する結果として得られるサセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で任意または多様に制御することができる。
さらには、上記のようにアンテナ電流IRFと周回方向で同じ向きの誘導電流IINDをフローティングコイル60内で流すことにより、RFアンテナ54だけでなくフローティングコイル60にも誘導結合プラズマの生成に積極的またはプラスに作用させる場合の効果として、RFパワー供給効率を向上させる面もある。すなわち、誘導結合プラズマの生成を増強する方向にフローティングコイル60を作用させる場合は、RFアンテナ54側の負担が軽くなり、RFアンテナ54に供給する高周波電流IRFの電流量を低減することができる。それによって、高周波給電系統の各部(特に整合器66、高周波給電導体68等)で生じる高周波RFHのパワー損失を低減することができる。
上述した図4のモデルはRFアンテナ54の径方向内側にフローティングコイル60を配置しているが、図6に示すようにRFアンテナ54の径方向外側にフローティングコイル60を配置する構成でも作用は同じである。すなわち、相互インダクタンスMが同じであれば、フローティングコイル60がRFアンテナ54の内側であっても外側であっても、フローティングコイル60には同じ向きおよび同じ大きさの誘導電流IINDが流れる。
もっとも、フローティングコイル60がRFアンテナ54から遠く離れていると、相互インダクタンスMは小さくなり、フローティングコイル60内に励起される誘導起電力VINDが弱く(低く)なる。しかし、そのような場合でも、可変コンデンサ58の静電容量C58を調整してフローティングコイル60内で直列共振の状態ないしはそれに近い状態をつくることにより、実用上十分な大きさの誘導電流IINDを得ることは可能である。
ただし、フローティングコイル60内で直列共振状態またはそれに近い状態が起きるときは、上記の近似式(3)は当てはまらず、次の近似式(4)が当てはまる。
IIND≒−iMωIRF/R60 ・・・・(4)
この式(4)からわかるように、フローティングコイル60内で直列共振状態またはそれに近い状態が起きる場合は、誘導電流IINDがアンテナ電流IRFに対して90°前後の位相差をもつ。このような場合、相互インダクタンスMが小さすぎると、つまり式(4)の係数(Mω/R60 )が小さすぎると、実用に適さない。したがって、この係数(Mω/R60 )が1より大きいこと、つまり次の条件式(5)が満たされることが必要である。
Mω >R60 または 2πfM >R60 ・・・・(5)
ここで、右辺のR60は上記のようにフローティングコイル60の抵抗であり、そのコイル導体の抵抗R60Cとプラズマ側のパワー吸収に相当する抵抗R60Pとの和(R60C+R60P)であるが、おおよそ前者(R60C)が支配的であり、設計上は後者(R60P)を無視できる。
理論的には、RFアンテナ54およびフローティングコイル60が図4または図6のような円環状単巻きコイルであって、両者の半径がそれぞれa,b、両者間の距離がdであるとすると、相互インダクタンスMは次の式(6)で表わされる。
一例として、同一平面上に半径50mmのRFアンテナ54と半径rのフローティングコイル60を同軸に配置した場合、上記の式(6)より求められる相互インダクタンスMと角周波数ωとの積Mωは図7に示すような特性でフローティングコイル60の半径rに依存する。ただし、f(ω/2π)=13.56MHzとしている。
フローティングコイル60の抵抗Rの典型的な値としてR=1(Ω)と見積もると、図7からr<約150mm、つまりフローティングコイル60の半径rがRFアンテナ54の半径(50mm)の約3倍以内にあれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が満たされる。
なお、図7の特性は、フローティングコイル60が径方向においてRFアンテナ54の外側にあることを仮定している。フローティングコイル60が径方向においてRFアンテナ54の内側にある場合は両者の関係が逆になり、アンテナ54の半径(50mm)がフローティングコイル60の半径rの約3倍以下であれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が成立する。見方を変えれば、フローティングコイル60の半径rがRFアンテナ54の半径の約1/3倍以上あれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が満たされる。
[実施形態2]
次に、図8〜図10につき、本発明の第2の実施形態を説明する。
図8にこの第2の実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成を示し、図9および図10にこの第2の実施形態におけるRFアンテナ54およびフローティングコイル70の配置構成(レイアウト)および電気的結線構成を示す。図中、上述した第1の実施形態の装置(図1)と同様の構成または機能を有する部分には同一の符号を附している。
この第2の実施形態においては、RFアンテナ54が、半径の異なる円環状の内側アンテナコイル54iおよび外側アンテナコイル54oを有している。ここで、外側アンテナコイル54oは、上述した第1の実施形態におけるRFアンテナ54に相当する構成、つまり空間的には円環状の1周ループに沿って直列に配置され、電気的には並列に接続されている複数たとえば2つのコイルセグメント84(1) ,84(2)を有し、径方向においてチャンバ10の側壁寄りに位置している。
内側アンテナコイル54iは、フローティングコイル60よりも小さな口径を有する単一の円形コイルセグメント90からなり、フローティングコイル60および外側アンテナコイル54oと同一平面上(誘電体窓52の上)で同軸に配置されている。この内側コイルセグメント90は、単体で周回方向の一周またはその大部分を埋めるように環状に延びており、その両端90(RF-In), 90(RF-out)が周回方向で内側間隙G90を介して相対向または隣接している。内側コイルセグメント90の一方の端つまりRF入口端部90(RF-In)は、上方に延びる接続導体92および高周波入口側のノードNAを介して高周波給電部62からのRF給電ライン68に接続されている。内側コイルセグメント90の他方の端つまりRF出口端90(RF-Out)は、上方に延びる接続導体94および高周波出口側のノードNCを介してアースライン70に接続されている。そして、ノードNBとノードNCとの間には、インピーダンス調整部としての可変コンデンサ96が接続(挿入)されている。
一例として、被処理基板である半導体ウエハWの口径が300mmである場合、内側アンテナコイル54i、フローティングコイル60および外側アンテナコイル54oの口径はそれぞれ100mm、200mmおよび300mmに選ばれる。
このように内側アンテナコイル54i(コイルセグメント90)、外側アンテナコイル54o(コイルセグメント84(1) ,84(2))およびフローティングコイル60の三者が互いに相似なコイル形状を有し、フローティングコイル60が内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oの真ん中に同軸に配置される構成によれば、後述するようにRFアンテナ54(内側アンテナコイル54i/外側アンテナコイル54o)におけるアンテナ内分配電流のバランスの制御とフローティングコイル60内で流れる誘導電流IINDの向きおよび大きさ(電流量)の制御とをそれぞれ独立に行うことができる。
このような独立制御を行える主たる理由は、フローティングコイル60と内側アンテナコイル54iとの間の相互インダクタンスをMiとし、フローティングコイル60と外側アンテナコイル540との間の相互インダクタンスをMoとすると、Mi=Moの関係があるためである。
内側アンテナコイル54iおよび外側アンテナコイル54oにアンテナ内分配電流IRFi,IRFoがそれぞれ流れるときに、フローティングコイル60内に生じる誘導起電力VINDは、重ね合わせの理により、内側アンテナコイル54iを内側のアンテナ内分配電流IRFiが流れるときにフローティングコイル60内に生じる誘導起電力と、外側アンテナコイル54oを外側のアンテナ内分配電流IRFoが流れるときにフローティングコイル60内に生じる誘導起電力とを足し合わせたものになる。ここで、それぞれの相互インダクタンスMi,Moが等しいとすれば、上記の式(1),(2),(3)より、フローティングコイル60に生じる誘導起電力ひいては誘導電流IINDは、アンテナ内分配電流IRFi,IRFoの比(IRF/IRFo)には関係なく、それらの和(IRFi+IRFo)に依存することがわかる。
また、フローティングコイル60は、内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oの中間(好ましくは真ん中)に、つまり両アンテナコイル54i,54oのどちらにも近接して配置されるので、相互インダクタンスMi,Moの双方を大きくすることができる。
この第2の実施形態においては、RFアンテナ54内で内側および外側アンテナコイル54i,54oをそれぞれ流れるアンテナ電流IRFi,IRFoのバランス(比)を任意に調整するために、ノードNAとノードNCとの間で、内側アンテナコイル54iとは並列に接続され、外側アンテナコイル54oとは直列に接続される可変コンデンサ96を設け、主制御部80の制御の下で容量制御部82により可変コンデンサ96の静電容量C96を可変できるようにしている。
すなわち、内側アンテナコイル54iのインピーダンスをZi、外側アンテナコイル54oと可変コンデンサ96の合成インピーダンスをZoとすると、アンテナ内分配電流IRFi,IRFoのバランス(比)は次の式(7)のようにそれらのインピーダンスの比で決まり、フローティングコイル60内で流れる誘導電流IINDには影響しない。
IRFi:IRFo=(1/Zi):(1/Zo) ・・・・・(7)
この実施形態では、高周波給電部62からRFアンテナ54に供給される高周波電流が内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oとに分かれて流れる。ここで、可変コンデンサ96の静電容量C96を可変することにより、外側アンテナコイル54oおよび可変コンデンサ96の合成インピーダンスZoを可変し、ひいては内側アンテナ電流IRFiと外側アンテナ電流IRFoとの間の分配比を調節することができる。
より詳細には、内側アンテナコイル54iを流れる内側アンテナ電流IRFiと外側アンテナコイル54oを流れる外側アンテナ電流IRFoは、通常は周回方向で同じ向きに設定される。そのためには、合成インピーダンスZoの虚数成分つまり合成リアクタンスXoが正の値になる領域で外側コンデンサ96の静電容量C96を可変すればよい。この場合、Xo>0の領域内でC96の値を小さくするほど、合成リアクタンスXoの値が小さくなって、外側アンテナ電流IRFoの電流量が相対的に大きくなり、そのぶん内側アンテナ電流IRFiの電流量が相対的に小さくなる。反対に、Xo>0の領域内でC96の値を大きくするほど、合成リアクタンスXoの値が大きくなって、外側アンテナ電流IRFoの電流量が相対的に小さくなり、そのぶん内側アンテナ電流IRFiの電流量が相対的に大きくなる。
このように、この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、コンデンサ96の静電容量C96を可変することにより、内側アンテナコイル54i(コイルセグメント90)を流れる内側アンテナ電流IRFiと外側アンテナコイル54o(コイルセグメント84(1) ,84(2))を流れる外側アンテナ電流IRFoとのバランスを任意に制御し、ひいては内側アンテナコイル54iおよび外側アンテナコイル54oのそれぞれの直下位置付近における誘導結合プラズマ密度のバランスを任意に制御することができる。さらに、両アンテナ電流IRFi,IRFoのバランスに影響されることなく、コンデンサ58の静電容量C58を可変することにより、中間のフローティングコイル60を流れる誘導電流IINDの電流量を任意に調節し、ひいてはフローティングコイル60の直下位置付近における誘導結合プラズマ密度のバランスを任意に制御することができる。これによって、サセプタ12近傍のプラズマ密度を径方向で一層多様かつ精細に制御することが可能であり、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で均一化することも一層高精度に行える。
また、この実施形態においては、高周波給電部62の整合器66に直接接続されているのは内側アンテナコイル54i(コイルセグメント90)および外側アンテナコイル54o(コイルセグメント84(1) ,84(2))だけであり、整合器66から直接見える負荷抵抗はこれらのアンテナコイル54i(90),54o(90,84(1) ,84(2))の抵抗成分のみである。フローティングコイル60で消費されるパワー(プラズマに吸収されるパワーも含む)に相当する抵抗成分は、結果的にアンテナコイル54i,54o(90,84(1) ,84(2))の抵抗成分に直列接続で加わることになる。このように、フローティングコイル60を用いることにより、RFコイル54の見掛け上の負荷抵抗成分が増大するので、高周波給電部62における高周波電力の損失を低減し、プラズマ生成効率を向上させることができる。
なお、フローティングコイル60の配置に関して、上述した実施形態では、フローティングコイル60の効き目(プラズマ密度増強作用またはプラズマ密度低減作用)を最大化するように、フローティングコイル60をRFアンテナ54と同一平面上(典型的には誘電体窓52上)に配置した。しかし、フローティングコイル60の効き目を弱めた方が望ましい場合もある。
たとえば、図5から見てとれるように、フローティングコイル60に逆向きの誘導電流IINDを流す場合はその電流値が0にはならず、フローティングコイル60の効き目(プラズマ密度低減作用)が強すぎることがあり得る。そのような場合は、フローティングコイル60を天板の誘電体窓52から(つまりプラズマ領域から)上方にたとえば10mm〜20mm程度離して配置することにより、フローティングコイル60の強すぎる効果を適度に弱めることができる。これにより、可変コンデンサ58により誘導電流IINDの電流量を調整してプラズマ密度分布を調整する際に、丁度平坦なプロファイルになるような領域をコンデンサ58の静電容量C58の可変範囲に含めることができる。
また、フローティングコイル60に正方向の誘導電流IINDを流す場合であっても、可変コンデンサ58の静電容量C58の可変範囲の下限が比較的大きな値である場合は、正方向であっても誘導電流IINDの電流値を0に近い値まで調整することができなくなる。このような場合にも、フローティングコイル60を誘電体窓52から上方に離して、フローティングコイル60の効き目を適度に弱める技法を好適に採ることができる。
このようにフローティングコイル60の高さ位置または誘電体窓との距離間隔を変えることにより、フローティングコイル60の効き目加減を調節することができる。したがって、好適な一実施例として、フローティングコイル60の高さ位置を任意に可変する機構を備えることもできる。
[フローティングコイルの構造に関する実施例1]
次に、図11〜図15を参照して、本発明の誘導結合型プラズマ処理装置においてフローティングコイル60内の可変コンデンサ58に市販品のコンデンサ素子を用いる場合の実施例を説明する。
図11に示す実施例は、フローティングコイル60に1つの切れ目G60を形成し、この場所に市販品の2端子型コンデンサ58を取り付ける。この実施例における特徴は、フローティングコイル60のコイル導体とコンデンサ58のパッケージ本体の端子とを結ぶ接続端子100a,100bをコイル導体より上方(好ましくは垂直上方)に立てている構成にある。
上記のようにフローティングコイル60に大きな誘導電流IINDを流す場合は、大電流を流せる大きなサイズの可変コンデンサ58が用いられる。ところが、コンデンサ58のサイズが大きいと、切れ目G60のサイズも大きくなり、フローティングコイル60のループ上で切れ目G60の箇所がフローティングコイル60の電磁界的な作用上無視できない特異点になり得る。
この実施例では、上記のようにコンデンサ接続導体100a,100bを垂直上方に延ばしてコンデンサ本体をコイル導体よりも一段上方に(プラズマ側から一段遠く離して)配置するので、コンデンサ本体がプラズマ側から見え難い構造、つまりマスキングされる構造になっている。
図12Aおよび図12Bに示す別の実施例では、フローティングコイル60の切れ目G60をコイル周回方向に対して(またはコイル半径方向に対して)一定の角度(たとえば45°)で斜めに形成している。そして、切れ目G60を介して相対向するコイル導体の両開放端部にそれぞれ設けられる一対のコンデンサ給電ポイント(コンデンサ接続導体100a,100bの基端の位置)102a,102bがコイル中心Oを通る半径方向の直線F上に位置するように構成している。かかる構成により、プラズマ側からは、切れ目G60の箇所が見え難くなって、フローティングコイル60のコイル導体が周回方向であたかも連続しているように見える。
一変形例として、フローティングコイル60の切れ目G60を、斜め一直線ではなく、図12Cに示すような入れ子構造を可能とする斜め形状にすることも可能である。
図13Aに示す別の実施例では、フローティングコイル60の切れ目G60がコイル導体をコイル半径方向に対して斜めに切りながら延びているだけでなく、縦方向(コイル軸方向)に対しても斜めに切りながら延びている構成が特徴的である。かかる構成により、プラズマ側からは切れ目G60の箇所が一層見え難くなり、周回方向におけるフローティングコイル60のコイル導体の擬似的連続性が更に向上する。
なお、フローティングコイル60のコイル導体の断面形状は任意であり、たとえば図13Bに示すように三角、四角または円のいずれであってもよい。
図14に、フローティングコイル60の切れ目G60に起因する特異点の存在を解消または抑制するのに有効な別の実施例を示す。この実施例では、フローティングコイル60に周回方向に一定の間隔を置いて複数個たとえば3個の可変コンデンサ58を設けている。
元々、誘導結合型プラズマ処理装置は、RFアンテナの直下では径方向に不均一に(ドーナツ状)にプラズマを生成し、それを拡散させてサセプタ側の基板上に均一なプラズマが得られるように設計されるものである。周回方向でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度に不均一な箇所がある場合にも、当然に拡散による平滑化が起きるが、径方向に比べると周回方向では平滑化に必要な拡散距離が長いため、平滑化または均一化し難い傾向がある。
この点に関しては、図14に示すように、不連続点を周回方向に一定間隔で複数設けると、平滑化に必要な拡散距離が短くなる。たとえば、図示のようにフローティングコイル60に120°間隔で3個の切れ目G60を設けると、周回方向でプラズマの拡散に必要な距離は円周の1/3になり、平滑化ないし均一化しやすくなる。
図15の実施例は、図14の実施例の一変形例であり、フローティングコイル60にダミーの切れ目G60'を形成し、このダミーの切れ目G60'にダミーのコンデンサ電極104およびダミーのコンデンサ接続導体106を設ける構成を特徴とする。ダミーの切れ目G60'は、可変コンデンサ58を取り付けるための本来の切れ目G60と全く同じ構造でよく、全部の切れ目(G60,G60')が周回方向で等間隔に配置されるように、本来の切れ目G60と混在して所定位置に1つまたは複数設けられる。ダミーのコンデンサ電極104は、一枚の導体板(たとえば銅板)で構成されてよい。ダミーのコンデンサ接続導体106も、本物のコンデンサ接続導体100a,100bと同様の材質および形状に作られてよい。
図14の実施例ではフローティングコイル60に電気的に直列接続で複数の可変コンデンサ58を設けるのに対して、図15の実施例は1個のコンデンサ58で済むという特徴がある。
[フローティングコイルの構造に関する実施例2]
次に、図16〜図18を参照して、可変コンデンサ58を構造体としてフローティングコイル60に一体に作り込む一実施例を示す。
図16に示すように、この実施例では、切れ目G60に隣接する一方のコイル導体端部60aの上には、同じ厚みを有する板状またはシート状の誘電体108および固定接点導体110が固着される。ここで、固定接点導体110は、誘電体108よりも切れ目G60から遠い位置に配置される。また、反対側で切れ目G60に隣接する他方のコイル導体端部60bの上には、誘電体108および固定接点導体110と同じ厚みを有する板状またはシート状の固定接点導体112が固着される。可動電極114は、面一に並べられた固定接点導体110、誘電体108および固定接点導体112の上面を摺動してコイル周回方向に移動できるようになっている。なお、フローティングコイル60の周回方向は、厳密には円弧であるが、局所的に切れ目G60の場所付近に限ってみれば、直線方向とみなしてよい。したがって、可動電極114が直線的に移動しても、フローティングコイル60の上から横に外れることはない。
容量可変部82において、可動電極114を摺動させるためのスライド機構116は、たとえばボールネジ機構からなり、一定の位置で水平に延びる送りネジ118を回転駆動するためのステッピングモータ120と、送りネジ118と螺合するナット部(図示せず)を有し、送りネジ118の回転によってその軸方向に水平移動するスライダ本体122と、このスライダ本体122と可動電極114とを結合する圧縮コイルバネ124および鉛直方向で摺動可能に嵌合する一対の円筒体126,128とで構成されている。ここで、外側の円筒体126はスライダ本体122に固定され、内側の円筒体128は可動電極114に固定されている。圧縮コイルバネ124は、弾性力によって可動電極114を固定接点導体110、誘電体108および固定接点導体112に押し付ける。容量制御部130は、ステッピングモータ120の回転方向および回転量を通じて可動電極114のスライド位置を制御する。
この実施例では、切れ目G60を挟む一対のコイル導体端部60e,60fの間に、図17のような等価回路で表される可変コンデンサ58、第1のスイッチS1および第2のスイッチS2が作り込まれている。ここで、第1のスイッチS1は可変コンデンサ58と電気的に直列に接続される開閉器であり、第2のスイッチS2は可変コンデンサ58と電気的に並列に接続される開閉器である。
より詳細には、可変コンデンサ58は、一方のコイル導体端部60aと誘電体108と可動電極114とスライド機構116とによって構成されている。第1および第2のスイッチS1,S2は、固定接点導体110,112と可動電極114とスライド機構116とによって構成されている。
ここで、図18につき、この実施例における作用を説明する。
先ず、図18の(a)に示すように、可動電極114を、片側のコイル導体端部60b上の固定接点導体112のみに接触し、反対側のコイル端部60a上の固定接点導体110および誘電体108のいずれとも接触しない位置に移動させる。この位置では、スイッチS1,S2のいずれも開(OFF)状態であり、フローティングコイル60の切れ目G60は電気的に完全にオープン(遮断)状態になる。したがって、フローティングコイル60には誘導電流にIINDが一切流れず、実質的にフローティングコイル60が無い場合と同じになる。
次に、図18の(b)に示すように、可動電極114を、片側のコイル導体端部60b上の固定接点導体112に接触し、反対側のコイル導体端部60a上では誘電体108には接触し、固定接点導体110には接触しない位置に移動させる。この位置では、スイッチS2は開(OFF)状態のままで、スイッチS1が閉(ON)状態になり、可変コンデンサ58が有意のキャパシタンスをもって機能(通電)する。
この可変コンデンサ58の静電容量は、可動電極114を固定接点導体112に向って移動させるほど大きくなり、図18の(c)に示すように可動電極114が誘電体108の上面全体を覆う位置まで移動させたときに最大になる。
そして、可動電極114を更に前進移動させて、図18の(d)に示すように固定接点導体110の上まで移動させると、両側の固定接点導体110,112同士が可動電極114を介して短絡し、スイッチS1も閉(ON)状態になる。すなわち、切れ目G60が短絡状態になり、フローティングコイル60はコイル導体の両端が閉じたリングになる。
なお、図17のように可変コンデンサ58と直列および/または並列にスイッチS1,S2を接続する構成は、市販品のコンデンサ素子を用いる実施例(図11〜図15)においても実現できる。また、直列接続のスイッチS1は、フローティングコイル60のループ内で可変コンデンサ58とは別の切れ目に設けられてもよい。
[RFアンテナおよびフローティングコイルのレイアウトに関する他の実施例または変形例]
図19〜図29に、RFアンテナ54およびフローティングコイル60のレイアウトに関する他の実施例または変形例を示す。
上記第2の実施形態では、フローティングコイル60を径方向において内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oとの間(好ましくは真ん中)に配置した。別の実施例として、図19に示すようにフローティングコイル60を内側アンテナコイル54iの径方向内側に配置する構成、あるいは図20に示すようにフローティングコイル60を外側アンテナコイル54oの径方向外側に配置する構成も可能である。
さらには、口径の異なる複数のフローティングコイルを同軸に配置することも可能である。たとえば、図21に示すように、内側アンテナコイル54iの径方向内側に小サイズの口径を有するフローティングコイル60iを配置し、内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oとの間に中サイズの口径を有するフローティングコイル60mを配置し、外側アンテナコイル540の径方向外側に大サイズの口径を有するフローティングコイル60oを配置してもよい。この場合も、フローティングコイル60i,60m,60oのループ内に個別の可変コンデンサ58i,58m,58oがそれぞれ設けられる。あるいは、図22に示すように、2つ(内側および外側)のアンテナコイル54i,54oの間に口径の異なる複数(たとえば2つ)のフローティングコイル60i,60oを配置する構成も可能である。
RFアンテナ54に付加するインピーダンス調整部については、図23に示すように、高周波入口側のノードNAと高周波出口側のノードNCとの間に、外側アンテナコイル54oと直列に接続される可変コンデンサ96を設けるだけでなく、内側アンテナコイル54iと直列に接続される固定コンデンサ132を設けることにより、内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFo間のバランス調整の可変範囲を大きくすることができる。図24に示すように、固定コンデンサ132を可変コンデンサ134に置き換えてもよい。
逆に、図25に示すように、ノードNAとノードNCとの間に、内側アンテナコイル54iと直列に接続される可変コンデンサ134を設け、外側アンテナコイル54oと直列に接続されるインピーダンス調整部を一切設けない構成も可能である。あるいは、内側および外側アンテナコイル54i,54oをそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFo間のバランス調整の可変範囲を大きくするために、図26に示すように、ノードNAとノードNCとの間に、内側アンテナコイル54iと直列に接続される可変コンデンサ134を設けるとともに、外側アンテナコイル54oと直列に接続される固定コンデンサ136を設けることもできる。
図27に示すように、RFアンテナ54の終端側で、つまりノードNCとアースライン70との間(あるいはアースライン70上)にRFアンテナ54内のすべてのコイルセグメント90,84(1),84(2)と電気的に直列に接続される出側の共通インピーダンス調整部(たとえばコンデンサ)138を好適に備えることができる。この出側(終端)の共通インピーダンス調整部138は、通常は固定コンデンサであってよいが、可変コンデンサであってもよい。
この出側(終端)共通インピーダンス調整部138は、RFアンテナ54の全体のインピーダンスを調整する機能を有するだけでなく、コンデンサを用いる場合はRFアンテナ54の全体の電位を接地電位から直流的に引き上げて、天板または誘電体窓52が蒙るイオンスパッタを抑制する機能を有する。このような共通インピーダンス調整部138は、上述した他の実施例または変形例(図19〜図26)にも適用可能である。
図28に示すように、内側および外側アンテナコイル54i,54oをそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFo間のバランスを調整するためのインピーダンス調整部(可変コンデンサ96)を高周波入口側のノードNAとノードNDとの間に設けることも可能である。ここで、ノードNAは内側および外側アンテナコイル54i,54o間のノードであり、ノードNDはコイルセグメント84(1),84(2)間のノードである。
また、図29に示すように、周回方向におけるプラズマ密度分布の偏りを防止するために、内側および外側アンテナコイル54i,54o内の切れ目G90,G84およびフローティングコイル60内の切れ目G60のそれぞれの位置を周回方向において相互にずらす構成を好適に採ることができる。
[3系統のアンテナコイルに関する実施例]
図30に、RFアンテナ54を口径の異なる3系統のアンテナコイル55i,55m,55oによって構成する一実施例を示す。このRFアンテナ54において、最も小さな口径を有する内側アンテナコイル55iおよび中間の口径を有する中間アンテナコイル55mは、上記第2の実施形態における内側アンテナコイル54iおよび外側アンテナコイル54oに対応する構成をそれぞれ有している。この実施例において最も大きな口径を有する外側のアンテナコイル55oは、周回方向で分割されている3つの外側コイルセグメント140(1),140(2) ,140(3)からなる。これら3系統のアンテナコイル55i,55m,55oは、好ましくは相似のループ形状(図示の例は円環形状)を有し、同一平面上(誘電体窓52上)で同軸(同心状)に配置される。
一例として、被処理基板である半導体ウエハWの口径が300mmである場合、内側、中間および外側アンテナコイル55i,55m,55oの口径はそれぞれ100mm、300mmおよび500mmに選ばれる。
外側アンテナコイル55oを構成する3つの外側コイルセグメント140(1),140(2) ,140(3)は、空間的には、各々が約1/3周の円弧状に形成されていて、全体で周回方向の一周またはその大部分を埋めるように直列に配置されている。より詳しくは、外側アンテナコイル140の一周ループ内において、第1の外側コイルセグメント140(1)のRF入口端140(1)(RF-In)と第3の外側コイルセグメント140(3)のRF出口端140(3) (RF- Out)とが周回方向で外側間隙G140を介して相対向または隣接し、第1の外側コイルセグメント140(1)のRF出口端140(1)(RF- Out)と第2の外側コイルセグメント140(2)のRF入口端140(2)(RF-In)とが周回方向で別の外側間隙G140を介して相対向または隣接し、第2の外側コイルセグメント140(2)のRF出口端140(2)(RF- Out)と第3の外側コイルセグメント140(3)のRF入口端140(3) (RF-In)とが周回方向で別の外側間隙G140を介して相対向または隣接している。
このように、高周波給電部62のRF給電ライン68とアースライン70との間で、または高周波入口側のノードNAと高周波出口側のノードNCとの間で、中間アンテナコイル55mを構成する2つの中間コイルセグメント84(1),84(2)同士が互いに電気的に並列に接続されるとともに、外側アンテナコイル140を構成する3つの外側コイルセグメント140(1),140(2),140(3)同士が互いに電気的に並列に接続され、さらには内側アンテナコイル55iを単体で構成する内側コイルセグメント90もそれらの中間コイルセグメント84(1),84(2)および外側コイルセグメント140(1),140(2),140(3)と電気的に並列に接続されている。そして、中間コイルセグメント84(1),84(2)をそれぞれ流れる中間アンテナ電流IRFmの向きが周回方向で同じになり、外側コイルセグメント140(1),140(2),140(3)をそれぞれ流れる外側アンテナ電流IRFoの向きが周回方向で全部同じになるように、RFアンテナ54内の各部が結線されている。
この実施例では、好ましい一形態として、中間アンテナコイル55mを構成する2つの中間コイルセグメント84(1),84(2)がおおよそ等しい自己インダクタンスを有し、外側アンテナコイル54oを構成する3つの外側コイルセグメント140(1),140(2),140(3)がおおよそ等しい自己インダクタンスを有している。これにより、中間アンテナコイル55mの一周ループ内つまり中間コイルセグメント84(1),84(2)に一様または均一な中間アンテナ電流IRFmが流れ、外側アンテナコイル55oの一周ループ内つまり外側コイルセグメント140(1),140(2),140(3)に一様または均一な外側アンテナ電流IRFoが流れるようになっている。
この実施例においては、RFアンテナ54のコイル結線構造に重要な特徴がある。すなわち、高周波給電部62の高周波給電ライン68からアースライン70まで各々の高周波伝送路を一筆書きで廻った場合に、中間アンテナコイル55mを通るときの向き(図30では反時計回り)が内側アンテナコイル55iおよび外側アンテナコイル55oを通るときの向き(図30では時計回り)と周回方向で逆になるという構成になっている。そして、このような逆方向結線の下で、中間アンテナコイル55mを流れる中間アンテナ電流IRFmが内側および外側アンテナコイル55i,55oをそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFm,IRFoと周回方向で同じ向きになるように、可変コンデンサ96の静電容量C96が所定の範囲内で可変ないし選定されるようになっている。
すなわち、中間アンテナコイル55mと可変コンデンサ96とからなる直列回路が直列共振を起こすときの静電容量も小さな領域(それらの合成リアクタンスつまり中間合成リアクタンスXmが負の値になる領域)で、可変コンデンサ96の静電容量C96が可変ないし選定される。これにより、中間アンテナコイル55mを流れる中間アンテナ電流IRFmが内側アンテナコイル55iおよび外側アンテナコイル55oをそれぞれ流れる内側アンテナ電流IRFiおよび外側アンテナ電流IRFoと周回方向で同じ向きになる。しかも、中間アンテナ電流IRFmの電流量を略ゼロから徐々に増大させることも可能であり、たとえば内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFoの1/10以下に選定することができる。
そして、このように中間アンテナ電流IRFmを内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFoに比して十分小さな(たとえば1/10以下の)電流量に制御することによって、チャンバ10内の直下に生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度を良好に均一化できることが実験で確かめられている。
これは、中間アンテナコイル55mが無い場合でも、内側および外側アンテナコイル55i,55oのそれぞれの直下位置付近で生成されたプラズマが径方向において拡散するので、両アンテナコイル55i,55oの中間の領域でも相当の密度でプラズマが存在するためである。そこで、両アンテナコイル55i,55oとは別にその中間に位置する中間アンテナコイル55mに少量の電流IRFmを両アンテナコイル55i,55oでそれぞれ流れる電流IRFi,IRFoと周回方向で同じ向きに流すと、中間アンテナコイル55mの直下位置付近で誘導結合プラズマの生成が程良く増強され、径方向におけるプラズマ密度の均一性が向上する。
この実施例では、中間アンテナコイル55mを流れる中間アンテナ電流IRFmの電流量を相当小さな値に制御できるように、上記のように中間アンテナコイル55を逆方向に結線し、可変コンデンサ96の静電容量C96を中間合成リアクタンスXmが負の値になる領域で可変するようにしている。この場合、Xm<0の領域内でC96の値を小さくするほど、中間合成リアクタンスXmの絶対値が大きくなって、中間アンテナ電流IRFmの電流量は小さくなる(ゼロに近づく)。反対に、Xm<0の領域内でC96の値を大きくするほど、中間合成リアクタンスXmの絶対値が小さくなって、中間アンテナ電流IRFmの電流量は大きくなる。
もっとも、必要に応じて、可変コンデンサ96の静電容量C96を中間合成リアクタンスXmが正の値になる領域で可変することも可能である。この場合、中間アンテナコイル55m内で流れる中間アンテナ電流IRFmは内側および外側アンテナコイル55i,55o内でそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFoと周回方向で逆の向きになる。これは、中間アンテナコイル55mの直下付近でプラズマ密度を意図的に低減したい場合に有用である。
加えて、この実施例では、内側アンテナコイル55iと中間アンテナコイル55mとの間(好ましくは真ん中)に比較的小さな口径を有する内側フローティングコイル60iを配置し、中間アンテナコイル55mと外側アンテナコイル55oとの間(好ましくは真ん中)に比較的大きな口径を有する外側フローティングコイル60oを配置している。これら内側および外側フローティングコイル60i,60oは、好ましくはアンテナコイル55i,55m,55oと相似のループ形状(図示の例は円環形状)を有し、同軸または同心状に配置される。上記のように内側、中間および外側アンテナコイル55i,55m,55oの口径がそれぞれ100mm、300mmおよび500mmである場合、フローティングコイル60i,60oの口径は200mm,400mmにそれぞれ選ばれる。
内側および外側フローティングコイル60i,60oのループ内には可変コンデンサ58i,58oが設けられる。各可変コンデンサ58i,58oの静電容量C58i,C58oを調節することにより、各フローティングコイル60i,60oにそれぞれ流れる誘導電流IINDi,IINDoの電流量を適度(通常少なめ)に制御して、各フローティングコイル60i,60oの直下付近におけるプラズマ密度を微調整することができる。これにより、径方向におけるプラズマ密度分布制御の精度を一層向上させることができる。
なお、内側フローティングコイル60iにおいては、主として内側および中間アンテナコイル55i,55mからの磁場の変化に応じた誘導起電力が発生するため、そのループ内に流れる誘導電流IINDiは内側および中間アンテナ電流IRFi,IRFmに多く依存する。同様に、外側フローティングコイル60oのループ内に流れる誘導電流IINDoは中間および外側アンテナ電流IRFm,IRFoに多く依存する。このようなフローティングコイルの両隣のアンテナコイルに対する依存性または連動性は、それら両隣のアンテナコイル間の領域におけるプラズマ密度の落ち込みを補完するフローティングコイルの作用からすれば、不都合なことではなく、むしろ望ましい特性といえる。
図31〜図34に、この実施例の変形例を幾つか示す。図31に示す構成例は、上記実施例(図30)において外側フローティングコイル60oを削除した構成に相当し、1つのフローティングコイル60を内側アンテナコイル55iと中間アンテナコイル55mとの間に配置する。図示省略するが、1つのフローティングコイル60を中間アンテナコイル55mと外側アンテナコイル55oとの間に配置する構成も可能である。
図32に示す構成例は、上記実施例(図30)において外側アンテナコイル55oの外側に更に第4(最外周)のフローティングコイル60pを配置する。図33の構成例は、図32の構成例(図31)において口径の大きい外側および最外周フローティングコイル60o,60pのループ内に可変コンデンサ58o,58pに加えて固定コンデンサ142,144をそれぞれ設ける。
図34の構成例は、RFアンテナ54において、内側アンテナコイル55iおよび外側アンテナコイル55oに対して中間アンテナコイル58mを同じ方向(順方向)で結線する。すなわち、高周波入口側のノードNAから高周波出口側のノードNCまで各々の高周波伝送路を一筆書きで廻った場合に、中間アンテナコイル55iを通るときの向きが内側アンテナコイル55iおよび外側アンテナコイル55oを通るときの向きと周回方向で同じ(図34ではいずれも時計回り)になるような結線構造としている。
この場合、可変コンデンサ96の静電容量C96を中間合成リアクタンスXmが正になる領域で可変するときは、中間アンテナ電流IRFmを内側アンテナ電流IRFiおよび外側アンテナ電流IRFoと周回方向で同じ向きで可変することができる。すなわち、Xm>0の領域内でC96の値を小さくするほど、中間合成リアクタンスXmの値が小さくなって、中間アンテナ電流IRFmが増大する。反対に、Xm>0の領域内でC96の値を大きくするほど、中間合成リアクタンスXmの値が大きくなって、中間アンテナ電流IRFmが減少する。もっとも、C96の値を限りなく大きくしても、中間合成リアクタンスXmの値は中間アンテナコイル54mの誘導性リアクタンス以下には下がらないので、中間アンテナ電流IRFmの電流量を可及的に小さくする(ゼロに近づける)ことはできない。したがって、通常の使い方では、中間アンテナ電流IRFmを内側および外側アンテナ電流RFi,IRFoの1/10以下の電流値で制御することは困難である。
一方で、この構成例においては、可変コンデンサ96の静電容量C96を中間合成リアクタンスXmが負になる領域で可変することも可能である。その場合、中間アンテナ電流IRFmの流れる向きは内側および外側電アンテナ電流RFi,IRFoの流れる向きと周回方向で逆になる。これは、中間アンテナコイル54m中の直下付近でプラズマ密度を意図的に低減したい場合に有用である。
いずれの場合でも、内側および外側フローティングコイル60i,60oも備えているので、可変コンデンサ58i,58o,96,134の静電容量C58i,C58o,C96,C134を適宜調整することにより、全体として径方向におけるプラズマ密度分布を任意に制御することができる。
また、図示省略するが、上記2系統のアンテナコイルの実施例(図19〜図29)におけるインピーダンス調整用可変コンデンサ(96,132,134,136)の接続形態および使用形態はこの3系統のアンテナコイルの実施例にも全て適用できる。
[フローティングコイル内に固定コンデンサを設ける実施例]
図35に、内側および外側フローティングコイル60i,60oのループ内に固定コンデンサ150i,150oをそれぞれ設ける実施例を示す。この実施例における内側および外側フローティングコイル60i,60oは、好ましくは円環状の単巻きコイルであり、RFアンテナ54の内側および外側アンテナコイル54i,54oにそれぞれ可及的に近接して配置される。たとえば、内側および外側アンテナコイル54i,54oの口径がそれぞれ100mm,300mmである場合、フローティングコイル60i,60oの口径はそれぞれ80mm,320mmに選ばれる。
この実施例において、フローティングコイル60i,60oを誘導結合プラズマの生成に積極的に作用させる場合は、内側および外側アンテナコイル54i,54oをそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFoと周回方向で同じ向きに適度な大きさ(たとえばIRFi,IRFoの数倍)の内側および外側誘導電流IINDi,IINDoがフローティングコイル60i,60o内でそれぞれ流れるように、固定コンデンサ150i,150oの静電容量C150i,C150oを選定する。すなわち、固定コンデンサ150i,150oの静電容量C150i,C150oは、フローティングコイル60i,60o内でそれぞれ直列共振を起こす静電容量よりは小さくてその付近の値に選定される。これによって、各フローティングコイル60i,60oは、単巻き(1ターン)の円環状コイルであっても、誘導結合プラズマ生成のアシスト効果に関して複巻き(複数ターン)の円環状コイルあるいはスパイラルコイルと見掛け上同等の働きをすることができる。
このような固定コンデンサ150i,150o付きの単巻き円環状のフローティングコイル60i,60oは、製作(特にコンデンサの作り込み)が容易であり、RFアンテナ54周りの組み立てやメンテナンスにも有利である。また、フローティングコイル60i,60oのループ内に結線箇所や接続用導体も無いので、パワーロスが少ないことや、電磁気的な作用面において周回方向の均一性がよいこと等の利点がある。
なお、上述した第1の実施形態のプラズマ処理装置(図1)においても、フローティングコイル60内に設けられた可変コンデンサ58を固定コンデンサ150に置き換えることはもちろん可能である。
図36〜図43に、この実施例の変形例を幾つか示す。図36に示すように、高周波入口側のノードNAと高周波出口側のノードNCとの間で、内側アンテナコイル54iと直列に接続される可変コンデンサ134をインピーダンス調整部として好適に設けることができる。この点に関して、図35の構成例では、ノードNAとノードNCとの間で、外側アンテナコイル54oと直列に接続される可変コンデンサ96をインピーダンス調整部として設けている。
さらに、図37に示すように、高周波出口側のノードNCとアースライン70との間(あるいはアースライン70上)に出側の共通インピーダンス調整部(たとえばコンデンサ)138を好適に設けることができる。
また、図38に示すように、内側および外側アンテナコイル54i,54oをそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFo間のバランス調整の可変範囲を大きくするために、ノードNAとノードNCとの間に、外側アンテナコイル54oと直列に接続される可変コンデンサ96を設けるとともに、内側アンテナコイル54iと直列に接続される固定コンデンサ132を設けることもできる。
図39に示すように、方位角方向におけるプラズマ密度分布の偏りを低減するために、フローティングコイル60i,60oのループ内にそれぞれ設けられる固定コンデンサ150i,150oの位置(つまり切れ目の位置)を周回方向においてずらす構成を好適に採ることができる。この場合、図40に示すように、外側フローティングコイル60oのループ内に複数(たとえば2つ)の固定コンデンサ150oを等間隔または点対称に設けることにより、偏りを一層効果的に低減することができる。
また、図41に示すように、径方向中間部におけるプラズマ密度の制御性を高めるために、内側および外側アンテナコイル54i,54oの間(好ましくは真ん中)に可変コンデンサ58m付きの中間フローティングコイル60mを設けることもできる。
あるいは、中間フローティングコイル60mを設ける代わりに、図42に示すように、内側フローティングコイル60iのループ内に可変コンデンサ58を設け、外側アンテナコイル54oのループ内に固定コンデンサ150oを設けることもできる。
なお、フローティングコイル60のループ内に設けられる固定コンデンサ150は、市販のコンデンサであってもよく、あるいはフローティングコイル60の切れ目G60をそのまま固定コンデンサ150の電極間ギャップとして利用してもよい。その場合、切れ目G60に誘電体のフィルムを挿入してもよい。
[RFアンテナにインピーダンス調整部を設けない実施例]
図43に、RFアンテナ54の内側および外側アンテナコイル54i,54oにそれぞれ可及的に近接して可変コンデンサ58i,58o付きの内側および外側フローティングコイル60i,60oを配置する構成を示す。これは、図35の構成例において、固定コンデンサ150i,150oを可変コンデンサ58i,58oにそれぞれ置き換える構成に相当する。かかる構成においては、可変コンデンサ58i,58oの静電容量C58i,C58oを調整して、フローティングコイル60i,60o内でそれぞれ流れる内側および外側誘導電流IINDi,IINDoのバランスを制御することができる。このことにより、内側および外側アンテナコイル54i,54o内でそれぞれ流れる内側および外側アンテナ電流IRFi,IRFoのバランスを制御するためのインピーダンス調整部(可変コンデンサ96,134)が不要となる。
さらに、この実施例においては、図44に示すように、内側および外側アンテナコイル54i,54oの間(好ましくは真ん中)に可変コンデンサ58m付きの中間フローティングコイル60mを設けることもできる。
上記実施形態では、RFアンテナ54内で複数(たとえば内側および外側)のアンテナコイル54i,54oを電気的に並列に接続した。しかし、図45に示すように、これら複数(内側および外側)のアンテナコイル54i,54oを電気的に直列に接続する構成も可能である。この場合、径方向におけるプラズマ密度分布の制御は、主として可変コンデンサ58i,58o付きの内側および外側フローティングコイル60i,60oが担うことになる。すなわち、可変コンデンサ58i,58oの静電容量C58i,C58oを調整することにより、径方向におけるプラズマ密度分布を任意に制御することができる。なお、この構成例においては、RFアンテナ54の全長が長くなるが、内側アンテナコイル54iと外側アンテナコイル54oとの間でコイルセグメントの数(分割数)が変化するので、波長効果は抑制される。
さらに、この実施例においては、図46に示すように、内側および外側アンテナコイル54i,54oの間(好ましくは真ん中)に可変コンデンサ58m付きの中間フローティングコイル60mを追加することにより、径方向の中間部においてもプラズマ密度を任意かつ精細に制御することができる。
[他の実施形態または変形例]
本発明におけるRFアンテナを構成するコイルのループ形状は円形に限るものではなく、図示省略するが、四角形あるいは三角形などであってもよい。また、各アンテナコイル(ループ)を構成する複数のコイルセグメントの間で形状や自己インピーダンスが多少異なっていてもよい。
本発明において、RFアンテナに付加可能なインピーダンス調整部は、上述したような固定コンデンサまたは可変コンデンサに限定されるものではなく、たとえばコイルまたはインダクタであってもよく、あるいはコンデンサとインダクタを含むものであってもよく、さらには抵抗素子を含んでもよい。
図47に、高周波給電部62の整合器66とRFアンテナ54との間にトランス160を設ける構成例を示す。このトランス160の一次巻線は整合器66の出力端子に電気的に接続され、二次巻線はRFアンテナ54の入口側の第1ノードNAに電気的に接続されている。トランス160の好ましい一形態として、一次巻線の巻数を二次巻線の巻数よりも多くすることにより、整合器66からトランス160に流れる電流(一次電流)I1をトランス160からRFアンテナ54に流れる電流(二次電流)I2よりも少なくすることができる。別な見方をすれば、一次電流I1の電流量を増やさないで、RFアンテナ54に供給する二次電流I1の電流量を増やすことができる。また、トランス160の二次側でタップ切換を行うことにより、二次電流I2を可変することも可能である。
上述した実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成は一例であり、プラズマ生成機構の各部はもちろん、プラズマ生成に直接関係しない各部の構成も種種の変形が可能である。
たとえば、RFアンテナの基本形態として、平面型以外のタイプたとえばドーム型等も可能である。処理ガス供給部においてチャンバ10内に天井から処理ガスを導入する構成も可能であり、サセプタ12に直流バイアス制御用の高周波RFLを印加しない形態も可能である。
さらに、本発明による誘導結合型のプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法は、プラズマエッチングの技術分野に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマプロセスにも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。