以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[装置全体の構成および作用]
図1に、本発明の一実施形態における誘導結合型プラズマ処理装置の構成を示す。
このプラズマ処理装置は、平面コイル形のRFアンテナを用いる誘導結合型のプラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型真空チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は、保安接地されている。
先ず、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係しない各部の構成を説明する。
チャンバ10内の下部中央には、被処理基板としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板状のサセプタ12が高周波電極を兼ねる基板保持台として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びる絶縁性の筒状支持部14に支持されている。
絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の上部または入口に環状のバッフル板20が取り付けられるとともに、底部に排気ポート22が設けられている。チャンバ10内のガスの流れをサセプタ12上の半導体ウエハWに対して軸対象に均一にするためには、排気ポート22を円周方向に等間隔で複数設ける構成が好ましい。各排気ポート22には排気管24を介して排気装置26が接続されている。排気装置26は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内のプラズマ処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁の外には、半導体ウエハWの搬入出口27を開閉するゲートバルブ28が取り付けられている。
サセプタ12には、RFバイアス用の高周波電源30が整合器32および給電棒34を介して電気的に接続されている。この高周波電源30は、半導体ウエハWに引き込まれるイオンのエネルギーを制御するのに適した一定周波数(通常13.56MHz以下)の高周波RFLを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器32は、高周波電源30側のインピーダンスと負荷(主にサセプタ、プラズマ、チャンバ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。その整合回路の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
サセプタ12の上面には、半導体ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の半径方向外側に半導体ウエハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられる。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだものであり、電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40より印加される高圧の直流電圧により、静電力で半導体ウエハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室または冷媒流路44が設けられている。この冷媒室44には、チラーユニット(図示せず)より配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷却水cwの温度によって静電チャック36上の半導体ウエハWの処理中の温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。また、半導体ウエハWのローディング/アンローディングのためにサセプタ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構(図示せず)等も設けられている。
次に、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係する各部の構成を説明する。
チャンバ10の天井または天板はサセプタ12から比較的大きな距離間隔を隔てて設けられており、この天板としてたとえば石英板からなる円形の誘電体窓52が気密に取り付けられている。この誘電体窓52の上には、チャンバ10内に誘導結合のプラズマを生成するためのRFアンテナ54を外部から電磁的に遮蔽して収容するアンテナ室56がチャンバ10と一体に設けられている。
RFアンテナ54は、誘電体窓52と平行で、径方向に間隔を開けて内側、中間および外側にそれぞれ配置される内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62を有している。この実施形態における内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62は、各々円環状のコイル形体を有し、互いに同軸に配置されるとともに、チャンバ10またはサセプタ12に対しても同軸に配置されている。
なお、本発明において「同軸」とは、軸対称の形状を有する複数の物体間でそれぞれの中心軸線が互いに重なっている位置関係であり、複数のコイル間に関してはそれぞれのコイル面が軸方向で互いにオフセットしている場合だけでなく同一面上で一致している場合(同心状の位置関係)も含む。
内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62は、電気的には、プラズマ生成用の高周波給電部66からの高周波給電ライン68と接地電位部材に至る帰線ライン70との間(2つのノードNA,NBの間)で並列に接続されている。ここで、帰線ライン70は接地電位のアースラインであり、電気的に接地電位に保たれる接地電位部材(たとえばチャンバ10または他の部材)に接続されている。
アースライン70側のノードNBと中間コイル60および外側コイル62との間には、可変のコンデンサ92,94がそれぞれ接続(挿入)されている。これらの可変コンデンサ92,94は、好ましくは、主制御部84の制御の下で容量可変部96により一定範囲内でそれぞれ独立かつ任意に可変されるようになっている。以下、ノードNA,NBの間で、内側コイル58と直列に接続されるコンデンサを「内側コンデンサ」と称し、中間コイル60と直列に接続されるコンデンサを「中間コンデンサ」と称し、外側コイル62と直列に接続されるコンデンサを「外側コンデンサ」と称する。
高周波給電部66は、高周波電源72および整合器74を有している。高周波電源72は、誘導結合の高周波放電によるプラズマの生成に適した一定周波数(通常13.56MHz以上)の高周波RFHを可変のパワーで出力できるようになっている。整合器74は、高周波電源72側のインピーダンスと負荷(主にRFアンテナ、プラズマ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。
チャンバ10内の処理空間に処理ガスを供給するための処理ガス供給部は、誘電体窓52より幾らか低い位置でチャンバ10の側壁の中(または外)に設けられる環状のマニホールドまたはバッファ部76と、円周方向に等間隔でバッファ部76からプラズマ生成空間に臨む多数の側壁ガス吐出孔78と、処理ガス供給源80からバッファ部76まで延びるガス供給管82とを有している。処理ガス供給源80は、流量制御器および開閉弁(図示せず)を含んでいる。
主制御部84は、たとえばマイクロコンピュータを含み、このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置26、高周波電源30,72、整合器32,74、静電チャック用のスイッチ42、可変コンデンサ92,94、処理ガス供給源80、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)を制御する。
この誘導結合型プラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ28を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック36の上に載置する。そして、ゲートバルブ28を閉めてから、処理ガス供給源80よりガス供給管82、バッファ部76および側壁ガス吐出孔78を介してエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置26によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、高周波給電部66の高周波電源72をオンにしてプラズマ生成用の高周波RFHを所定のRFパワーで出力させ、整合器74,RF給電ライン68および帰線ライン70を介してRFアンテナ54の内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62に高周波RFHの電流を供給する。一方、高周波電源30をオンにしてイオン引き込み制御用の高周波RFLを所定のRFパワーで出力させ、この高周波RFLを整合器32および給電棒34を介してサセプタ12に印加する。また、伝熱ガス供給部より静電チャック36と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を供給するとともに、スイッチ42をオンにして静電チャック36の静電吸着力により伝熱ガスを上記接触界面に閉じ込める。
チャンバ10内において、側壁ガス吐出孔78より吐出されたエッチングガスは、誘電体窓52の下の処理空間に拡散する。RFアンテナ54の各コイル58,60,62を流れる高周波RFHの電流によってそれらのコイルの周りに発生する磁力線(磁束)が誘電体窓52を貫通してチャンバ10内の処理空間(プラズマ生成空間)を横切り、処理空間内で方位角方向の誘導電界が発生する。この誘導電界によって方位角方向に加速された電子がエッチングガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。
このドーナツ状プラズマのラジカルやイオンは広い処理空間で四方に拡散し、ラジカルは等方的に降り注ぐようにして、イオンは直流バイアスに引っぱられるようにして、半導体ウエハWの上面(被処理面)に供給される。こうして半導体ウエハWの被処理面にプラズマの活性種が化学反応と物理反応をもたらし、被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
ここで「ドーナツ状のプラズマ」とは、チャンバ10の径方向内側(中心部)にプラズマが立たず径方向外側にのみプラズマが立つような厳密にリング状のプラズマに限定されず、むしろチャンバ10の径方向内側より径方向外側のプラズマの体積または密度が大きいことを意味する。また、処理ガスに用いるガスの種類やチャンバ10内の圧力の値等の条件によっては、ここで云う「ドーナツ状のプラズマ」にならない場合もある。
この誘導結合型プラズマエッチング装置は、RFアンテナ54の内側コイル58、中間コイル60および外側コイル60を以下に説明するような特殊な空間的レイアウトおよび電気的接続構成とし、さらにはRFアンテナ54にコンデンサ(図1の例では可変コンデンサ92,94)を付加する構成により、RFアンテナ54内の波長効果や電位差(電圧降下)を効果的に抑制または低減し、半導体ウエハW上のプラズマプロセス特性つまりエッチング特性(エッチングレート、選択比、エッチング形状等)の周回方向および径方向の均一性を改善している。
[RFアンテナの基本的な構成及び作用]
この誘導結合型プラズマエッチング装置における主たる特徴は、RFアンテナ54の内部の空間的レイアウト構成および電気的接続構成にある。
図2および図3に、この実施形態におけるRFアンテナ54のレイアウトおよび電気的接続(回路)の基本構成を示す。
内側コイル58は、好ましくは単一の円環状コイルセグメント59からなり、径方向においてチャンバ10の中心寄りに位置している。以下、内側コイル59を構成するコイルセグメントを「内側コイルセグメント」と称する。この内側コイルセグメント59は、単体で周回方向の一周またはその大部分を埋めるように環状に延びており、その両端59In, 59Outが周回方向で内側間隙Giを介して相対向または隣接している。なお、本発明においては、内側コイル58のループ上に形成される間隙または切れ目を「内側間隙」と称する。
内側コイルセグメント59の一方の端つまりRF入口端部59Inは、上方に延びる接続導体98および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続されている。内側コイルセグメント59の他方の端つまりRF出口端59Outは、上方に延びる接続導体100および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
中間コイル60は、好ましくは周回方向で分割されている複数(たとえば2つ)のコイルセグメント61(1),61(2)からなり、径方向においてチャンバ10の中間部に位置している。以下、中間コイル60を構成する個々のコイルセグメントを「中間コイルセグメント」と称する。
これら2つの中間コイルセグメント61(1),61(2)は、空間的には、各々が半円の円弧状に形成されていて、周回方向の一周またはその大部分を埋めるように直列に配置されている。より詳しくは、中間コイル60の一周ループ内において、第1の中間コイルセグメント61(1)のRF入口端61(1)Inと第2の中間コイルセグメント61(2)のRF出口端61(2)Outとが周回方向で中間間隙Gmを介して相対向または隣接し、第1の中間コイルセグメント61(1)のRF出口端61(1)Outと第2の中間コイルセグメント61(2)のRF入口端61(2)Inとが周回方向で別の中間間隙Gmを介して相対向または隣接している。なお、本発明においては、中間コイル60のループ上に形成される間隙または切れ目を「中間間隙」と称する。
これら2つの中間コイルセグメント61(1),61(2)は、電気的には、それぞれの一方の端つまりRF入口端61(1)In,61(2)Inが上方に延びる接続導体102(1),102(2)および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続され、それぞれの他方の端つまりRF出口端61(1)Out,61(2)Outが上方に延びる接続導体104(1),104(2)および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
外側コイル62は、好ましくは周回方向で分割されている複数(たとえば3つ)のコイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)からなり、径方向においてチャンバ10の側壁寄りに位置している。以下、外側コイル62を構成する個々のコイルセグメントを「外側コイルセグメント」と称する。
これら3つの外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)は、空間的には、各々が約1/3周の円弧状に形成されていて、全体で周回方向の一周またはその大部分を埋めるように直列に配置されている。より詳しくは、外側コイル62の一周ループ内において、第1の外側コイルセグメント63(1)のRF入口端63(1)Inと第3の外側コイルセグメント63(3)のRF出口端63(3)Outとが周回方向で外側間隙Goを介して相対向または隣接し、第1の外側コイルセグメント63(1)のRF出口端63(1)Outと第2の外側コイルセグメント63(2)のRF入口端63(2)Inとが周回方向で別の外側間隙Goを介して相対向または隣接し、第2の外側コイルセグメント63(2)のRF出口端63(2)Outと第3の外側コイルセグメント63(3)のRF入口端63(3)Inとが周回方向で別の外側間隙Goを介して相対向または隣接している。なお、本発明においては、外側コイル62のループ上に形成される間隙または切れ目を「外側間隙」と称する。
これら3つの外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)は、電気的には、それぞれの一方の端つまりRF入口端63(1)In,63(2)In,63(3)Inが上方に延びる接続導体106(1),106(2),106(3)および第1ノードNAを介して高周波給電部66のRF給電ライン68に接続され、それぞれの他方の端つまりRF出口端63(1)Out,63(2)Out,63(3)Outが上方に延びる接続導体108(1),108(2),108(3)および第2ノードNBを介してアースライン70に接続されている。
このように、高周波給電部66のRF給電ライン68とアースライン70との間で、または第1ノードNAと第2ノードNBとの間で、中間コイル60を構成する2つの中間コイルセグメント61(1),61(2)同士が互いに電気的に並列に接続されるとともに、外側コイル62を構成する3つの外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)同士が互いに電気的に並列に接続され、さらには内側コイル58を単体で構成する内側コイルセグメント59もそれらの中間コイルセグメント61(1),61(2)および外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)と電気的に並列に接続されている。そして、中間コイルセグメント61(1),61(2)をそれぞれ流れる高周波電流の向きが周回方向で同じになり、外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)をそれぞれ流れる高周波電流の向きが周回方向で全部同じになるように、RFアンテナ54内の各部が結線されている。
RFアンテナ54の上記コイル結線構造における重要な特徴は、高周波給電部66の高周波給電ライン68からアースライン70まで各々の高周波伝送路を一筆書きで廻った場合に、中間コイル60を通るときの向き(図2では時計回り、図3では反時計回り)が内側コイル58および外側コイル62を通るときの向き(図2では反時計回り、図3では時計回り)と周回方向で逆になるという構成である。そして、このような逆方向結線の下で、中間コイル60を流れる電流が内側コイル58および外側コイル62をそれぞれ流れる電流と周回方向で同じ向きになるように、中間コンデンサ92の静電容量C92が所定の範囲内で可変ないし選定されるようになっている。
なお、アンテナ室56(図1)内では、図2に示すように、RFアンテナ54の上方に延びる接続導体98,100,102(1),102(2),104(1),104(2),106(1),106(2),106(3),108(1),108(2),108(3)は、誘電体窓52から十分大きな距離を隔てて(相当高い位置で)横方向の分岐線または渡り線を形成しており、各コイル58,60,62に対する電磁的な影響を少なくしている。
この実施形態では、好ましい一形態として、中間コイル60を構成する2つの中間コイルセグメント61(1),61(2)がおおよそ等しい自己インダクタンスを有するだけでなく、外側コイル62を構成する3つの外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)もおおよそ等しい自己インダクタンスを有し、さらには内側コイル58を構成する内側コイルセグメント59がそれら中間コイルセグメント61(1),61(2)および外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)とおおよそ等しい自己インダクタンスを有している。通常は、それらのコイルセグメント59,61(1),61(2),63(1),63(2),63(3)が線材、線径および線長を同じにすることによって、自己インダクタンス同一性ないし近似性の要件が満たされる。
因みに、内側コイルセグメント59、各々の中間コイルセグメント61(1),61(2)および各々の外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3)の長さが等しい場合、内側コイル58と中間コイル60と外側コイル62の口径(直径)比は1:2:3になる。一例として、被処理体である半導体ウエハWの口径が300mmの場合、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62の口径はそれぞれ100mm、200mmおよび300mmに選ばれる。
この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、高周波給電部66より供給される高周波の電流がRFアンテナ54内の各部を流れることにより、RFアンテナ54を構成する内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62の周りにはアンペールの法則にしたがってループ状に分布する高周波数の交流磁界が発生し、誘電体窓52の下には比較的内奥(下方)の領域でも処理空間を半径方向に横断する磁力線が形成される。
ここで、処理空間における磁束密度の半径方向(水平)成分は、チャンバ10の中心と周辺部では高周波電流の大きさに関係なく常に零であり、その中間の何処かで極大になる。高周波数の交流磁界によって生成される方位角方向の誘導電界の強度分布も、径方向において磁束密度と同様の分布を示す。つまり、径方向において、ドーナツ状プラズマ内の電子密度分布は、マクロ的にはRFアンテナ54内の電流分布にほぼ対応する。
この実施形態におけるRFアンテナ54は、その中心または内周端から外周端まで旋回する通常の渦巻コイルとは異なり、アンテナの中心部に局在する円環状の内側コイル58とアンテナの中間部に局在する円環状の中間コイル60とアンテナの周辺部に局在する円環状の外側コイル62とからなり、RFアンテナ54内の電流分布は各コイル58,60,62の位置に対応した同心円状の分布になる。
ここで、RFアンテナ54内では、上記のように、内側コイル58は、単一の円環状コイルセグメント59からなる。これにより、プラズマ励起時には、内側コイル58の一周内で一様または均一な高周波の電流Iiが流れる。また、中間コイル60を構成する2つの中間コイルセグメント61(1),61(2)は、おおよそ等しい自己インダクタンス(つまりおおよそ等しいインピーダンス)を有し、かつ電気的に並列に接続されている。これにより、プラズマ励起時には、中間コイル60の一周内で一様または均一な高周波の電流Imが流れる。また、外側コイル62を構成する3つの外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)は、おおよそ等しい自己インダクタンス(つまりおおよそ等しいインピーダンス)を有し、かつ電気的に並列に接続されている。これにより、プラズマ励起時には、外側コイル62の一周内で一様または均一な高周波の電流Ioが流れる。
したがって、チャンバ10の誘電体窓52の下(内側)に生成されるドーナツ状プラズマにおいては、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62のそれぞれの直下の位置付近で電流密度(つまりプラズマ密度)が突出して高くなる(極大になる)。このように、ドーナツ状プラズマ内の電流密度分布は径方向で均一ではなく凹凸のプロファイルとなる。しかし、チャンバ10内の処理空間でプラズマが四方に拡散することによって、サセプタ12の近傍つまり基板W上ではプラズマの密度がかなり均される。
この実施形態においては、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62のいずれも円環状コイルであり、コイル周回方向で一様または均一な高周波電流が流れるので、コイル周回方向では常にドーナツ状プラズマ内はもちろんサセプタ12の近傍つまり基板W上でも略均一なプラズマ密度分布が得られる。
また、径方向においては、後述するように中間コンデンサ92および外側コンデンサ94の静電容量C92,C94を所定の範囲内で適切な値に可変ないし選定することにより、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル60をそれぞれ流れる電流Ii,Im,Ioのバランスを調節して、ドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を自在に制御することができる。このことによって、サセプタ12の近傍つまり基板W上のプラズマ密度分布を自在に制御することが可能であり、プラズマ密度分布の均一化も高い精度で容易に達成することができる。なお、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル60をそれぞれ流れる電流を「内側電流」、「中間電流」および「外側電流」と称する。
この実施形態においては、RFアンテナ54内の各コイル58,60,62を1つまたは複数のコイルセグメントにより構成し、各コイル58,60,62を構成するコイルセグメントの数に関係なく、RFアンテナ54に含まれるすべてのコイルセグメント59,61(1),61(2))、63(1),63(2) ,63(3)を電気的に並列に接続している。このようなコイルセグメント結線構造においては、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下は個々のコイルセグメント59,61(1),61(2),63(1),63(2) ,63(3)毎にその長さに依存する。
したがって、個々のコイルセグメント59,61(1),61(2),63(1),63(2) ,63(3)内で波長効果を起こさないように、そして電圧降下があまり大きくならないように、内側コイル58を構成する内側コイルセグメント59、中間コイル60を構成する各々の中間コイルセグメント61(1),61(2)および外側コイル62を構成する各々の外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)の長さを選定することによって、RFアンテナ54内の波長効果や電圧降下の問題を全て解決することができる。波長効果の防止に関しては、各々のコイルセグメント59,61(1),61(2),63(1),63(2) ,63(3)の長さを高周波RFHの1/4波長よりも短く(より好ましくは十分短く)することが望ましい。
この実施形態におけるRFアンテナ内の電圧降下低減効果については、図4に示すような比較例と対比すると分かりやすい。この比較例のRFアンテナは、径方向の内側および外側にそれぞれ位置して同軸に配置される円環状の内側コイル58'、中間コイル60'および外側コイル62'を有している。ここで、内側コイル58'は実施形態における内側コイル58と全く同じものであり、単体のコイルセグメント59からなる。しかし、中間コイル60'および外側コイル62'は、実施形態における中間コイル60および外側コイル62とは異なり、コイルセグメント59のそれぞれ2倍および3倍の長さを有する単体のコイルセグメント61',63'からなる。そして、比較例のRFアンテナは、内側コイル58'、中間コイル60'および外側コイル62'に同じ大きさの電流を流すために、これら3つのコイルを直列に接続している。
なお、この実施形態におけるRFアンテナ内の電圧降下低減効果の理解を容易にするために、コンデンサ(92,94)を省いて、この実施形態のRFアンテナ54と比較例(図4)とを対比する。
比較例のRFアンテナにおいては、たとえば、プラズマ励起時の内側コイル58'(コイルセグメント59)のインダクタンスが400nHであるとすると、中間コイル60'(コイルセグメント61')および外側コイル62'(コイルセグメント63')のインダクタンスはそれぞれ800nH,1200nHであり、RFアンテナ全体のインダクタンスは2400nHになる。したがって、RFアンテナの各コイルに20Aの高周波電流(周波数13.56MHz)を流すと、RFアンテナ内で約4kVの電位差(電圧降下)が生じる。
これに対して、この実施形態のRFアンテナ54においては、プラズマ励起時の内側コイル58(内側コイルセグメント59)のインダクタンスが400nHであるとすると、中間コイル60の中間コイルセグメント61(1),61(2)のインダクタンスおよび外側コイル62の外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3)のインダクタンスも各々400nHであり、RFアンテナ全体のインダクタンスは67nHである。したがって、RFアンテナ54の各コイルに20Aの高周波電流(周波数13.56MHz)を流したときにRFアンテナ54内(つまり各コイルセグメント内)に生じる電位差(電圧降下)は約680Vであり、図5に示すように約1/6までに低減する。なお、上記の比較計算では、説明の便宜と理解の容易化を図るため、RFアンテナ内の抵抗分のインピーダンスを無視している。
このように、この実施形態のRFアンテナ54は、波長効果が起こり難いだけでなく、アンテナ内に生じる電位差(電圧降下)が小さいので、RFアンテナ54とプラズマとの容量結合によって誘電体窓52の各部に入射するイオン衝撃のばらつきを小さくすることができる。これによって、誘電体窓52の一部が局所的または集中的に削れるといった望ましくない現象を低減できるという効果も得られる。
[RFアンテナに付加されるコンデンサの機能]
この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置におけるもう一つの重要な特徴は、RFアンテナ54に付加されるコンデンサ(特に中間コンデンサ92)の機能にある。
この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、中間コンデンサ92の静電容量C92を可変することにより、中間コイル60と中間コンデンサ92との合成リアクタンス(以下「中間合成リアクタンス」と称する。)Xmを可変し、中間コイル60を流れる中間電流Imの電流値を可変することができる。
ここで、中間コンデンサ92の静電容量C92には、望ましい範囲がある。すなわち、上記のように高周波給電部66に対する中間コイル60の結線が内側コイル58および外側コイル60の結線とは逆方向になっていることと関連して、中間合成リアクタンスXmが負の値になる(中間コイル60の誘導性リアクタンスよりも中間コンデンサ92の容量性リアクタンスの方が大きくなる)ように、中間コンデンサ92の静電容量C92を可変ないし選定するのが望ましい。別の見方をすれば、中間コイル60と中間コンデンサ92とからなる直列回路が直列共振を起こすときの静電容量よりも小さな領域内で、中間コンデンサ92の静電容量C92を可変ないし選定するのが望ましい。
上記のように内側コイル58および外側コイル62に対して中間コイル60が逆方向に結線されているRFアンテナ54においては、中間合成リアクタンスXmが負の値になる領域で中間コンデンサ92の静電容量C92を可変することによって、中間コイル60を流れる中間電流Imが内側コイル58および外側コイル62をそれぞれ流れる内側電流Iiおよび外側電流Ioと周回方向で同じ向きになる。しかも、中間電流Imの電流値を略ゼロから徐々に増大させることも可能であり、たとえば内側電流Iiおよび外側電流Ioの1/10以下に選定することができる。
そして、このように中間電流Imを内側電流Iiおよび外側電流Ioの1/10以下で制御すると、チャンバ10内の直下に生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度を良好に均一化できることが実験で確かめられている。
これは、中間コイル60が無い場合でも、内側コイル58および外側コイル62のそれぞれの直下位置付近で生成されたプラズマが径方向において拡散するので、図3の点線で示すように両コイル58,62の中間の領域でも相当の密度でプラズマが存在するためである。そこで、両コイル58,62とは別にその中間に位置する中間コイル60に少量の電流Imを両コイル58,62でそれぞれ流れる電流Ii,Ioと周回方向で同じ向きに流すと、中間コイル60の直下位置付近で誘導結合プラズマの生成が程良く増強され、プラズマ密度が径方向で均一になる。
この実施形態では、中間コイル60を流れる中間電流Imの電流値を相当小さな値に制御できるように、上記のように中間コイル60を逆方向に結線し、中間コンデンサ92の静電容量C92を中間合成リアクタンスXmが負の値になる領域で可変するようにしている。この場合、Xm<0の領域内でC92の値を小さくするほど、中間合成リアクタンスXmの絶対値が大きくなって、中間電流Imの電流値は小さくなる(ゼロに近づく)。反対に、Xm<0の領域内でC92の値を大きくするほど、中間合成リアクタンスXmの絶対値が小さくなって、中間電流Imの電流値は大きくなる。
もっとも、必要に応じて、中間コンデンサ92の静電容量C92を中間合成リアクタンスXmが正の値になる領域で可変することも可能である。この場合、中間コイル60内で流れる中間電流Imは内側コイル58および外側コイル62内でそれぞれ流れる内側電流Iiおよび外側電流Ioと周回方向で逆の向きになる。これは、中間コイル60の直下付近でプラズマ密度を意図的に低減したい場合に有用である。
RFアンテナ54に付加される外側コンデンサ94は、内側コイル58を流れる内側電流Iiと外側コイル62を流れる外側電流I0とのバランスを調整するために機能する。上記のように、中間コイル60を流れる中間電流Imは少量であり、高周波給電部66からRFアンテナ54に供給される高周波電流の大部分が内側コイル58と外側コイル62とに分かれて流れる。ここで、外側コンデンサ94の静電容量C94を可変することにより、外側コイル62と外側コンデンサ94との合成リアクタンス(以下「外側合成リアクタンス」と称する。)Zoを可変し、ひいては内側電流Iiと外側電流Ioとの間の分配比を調節することができる。
なお、内側コイル58および外側コイル62はどちらも順方向に結線されているので、周回方向で内側電流Iiと外側電流Ioを同じ向きにするには、外側合成リアクタンスXoが正の値になる領域で中間コンデンサ92の静電容量C92を可変すればよい。この場合、Xo>0の領域内でC92の値を小さくするほど、外側合成リアクタンスXoの値が小さくなって、外側電流Ioの電流値が相対的に大きくなり、そのぶん内側電流Ioの電流値が相対的に小さくなる。反対に、Xo>0の領域内でC94の値を大きくするほど、外側合成リアクタンスXoの値が大きくなって、外側電流Ioの電流値が相対的に小さくなり、そのぶん内側電流Ioの電流値が相対的に大きくなる。
このように、この実施形態の誘導結合型プラズマエッチング装置においては、外側コンデンサ94の静電容量C94を可変することにより、内側コイル58を流れる内側電流Iiと外側コイル62を流れる外側電流I0とのバランスを任意に調節することができる。また、上述したように、中間コンデンサ92の静電容量C92を可変することにより、中間コイル60を流れる中間電流Imと内側電流Iiおよび外側電流I0とのバランスを任意に調節することができる。
[コンデンサ付きRFアンテナに関する実施例]
図6に示すように、上記のような可変容量型の中間コンデンサ92および可変容量型の外側コンデンサ94に加えて、固定容量型の内側コンデンサ90を設けることもできる。この構成例によれば、内側コイル62と内側コンデンサ90との合成リアクタンス(以下「内側合成リアクタンス」と称する。)Xiの値を下げて、外側コンデンサ94による調整範囲を大きくとることができる。
別の変形例として、図示省略するが、中間コンデンサ92および内側コンデンサ90を可変コンデンサにして、外側コンデンサ94を固定コンデンサとする構成も可能である。可変容量型の中間コンデンサ92および可変容量型の内側コンデンサ90を設けて、外側コンデンサ94を省く構成も無論可能である。
図7に、RFアンテナ54の終端側で、つまり第2ノードNBとアースライン70との間(あるいはアースライン70上)にRFアンテナ54内のすべてのコイルセグメント59,61(1),61(2),63(1),63(2) ,63(3)と電気的に直列に接続される出側の共通コンデンサ110を備える構成を示す。この出側(終端)の共通コンデンサ110は、通常は固定コンデンサであってよいが、可変コンデンサであってもよい。
この出側(終端)共通コンデンサ110は、RFアンテナ54の全体のインピーダンスを調整する機能を有するだけでなく、RFアンテナ54の全体の電位を接地電位から直流的に引き上げて、天板または誘電体窓52が蒙るイオンスパッタを抑制する機能をも有する。
出側共通コンデンサ110以外のコンデンサは、RFアンテナ54の入口側(第1ノードNA側)に設けてもよい。たとえば、図8に示す構成例は、中間コンデンサ92を第1ノードNAと中間コイル60との間に接続し、外側コンデンサ94を第1ノードNAと外側コイル62との間に接続している。このように、中間コンデンサ92および外側コンデンサ94を中間コイル60および外側コイル62の入口側にそれぞれ設ける構成においては、両コイル60,62における短絡共振線の長さが短くなるのを回避して、波長効果の発生をより確実に防止ないし抑制することができる。
図9に、図8の構成例に固定容量型の内側コンデンサ90を追加した一変形例を示す。図示のように、第1ノードNAと内側コイル58との間に内側コンデンサ90が接続される。この構成例においても、内側合成リアクタンスXiの値を下げて、外側コンデンサ94による調整範囲を大きくとることができる。
図10に示す構成例は、RFアンテナ54内で、内側コイル58内の内側間隙Gi(入口端59In/出口端59Out)と、中間コイル60内の中間間隙Gm(入口端61(1)In/出口端61(1)Out,入口端61(2)In/出口端61(2)Out)と、外側コイル62内の外側間隙Go(入口端63(1)In/出口端63(1)Out,入口端63(2)In/出口端63(2)Out,入口端63(3)In/出口端63(3)Out)とが同じ方位角で重なり合わないようにしたものである。
各コイル58,60,62の一周ループ内に間隙Gi,Gm,Goがあると、各間隙部分の直下ではプラズマに誘導起電力を与えることができないため、電子密度が低くなり、周回方向の特異点になりやすい。そこで、この構成例のように、間隙Gi,Gm,Goの位置を方位角方向でずらすことにより、方位角方向においてプラズマ密度分布の偏りを低減することができる。
図11に、外側コイル62を4つのコイルセグメント63(1),63(2) ,63(3),63(4)に分割する構成例を示す。これら4つの外側コイルセグメント63(1),63(2) ,63(3) ,63(4)は、空間的には、各々が約1/4周の円弧状に形成されていて、全体で周回方向の一周またはその大部分を埋めるように直列に配置されており、電気的には、第1ノードNAと第2ノードNBとの間で互いに並列に接続されている。
このように、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれ複数のコイルセグメントに分割するRFアンテナ54において、各コイル60,62の分割数を必ずしもコイル長の比に比例させる必要はない。特に、電流調整用のコンデンサ92,94を備える場合は、中間コイル60および外側コイル62の分割数(コイルセグメントの個数)をそれぞれ独立に選定することができる。図12に示すように、たとえば、中間コイル60を4つの中間コイルセグメント61(1),61(2),61(3),61(4)に分割し、外側コイル62を2つの外側コイルセグメント63(1),63(2)に分割する構成も可能である。
この実施形態のRFアンテナ54において、各コイル58,60,62は単巻きのコイルに限定されるものではなく、複数巻きのコイルであってもよい。たとえば、図13に示すように、内側コイル58を2ターンに形成し、中間コイル60および外側コイル62をそれぞれ1ターンに形成してもよい。図示省略するが、内側コイル58および中間コイル60をそれぞれ1ターンに形成し、外側コイル62を2ターンに形成することも可能である。あるいは、図14に示すように、中間コイル60を1ターンに形成し、内側コイル58および外側コイル62をそれぞれ2ターンに形成してもよい。
このように、内側コイル58および/または外側コイル62のターン数を増やすことで、それらの直下付近で生成されるプラズマの密度を左右するコイル起磁力(アンペアターン)を増大させ、そのぶん内側電流Iiおよび/または外側電流Ioの値を下げてパワー損失を減少させる(つまりプラズマ生成効率を向上させる)ことができる。
この実施形態のRFアンテナ54を構成する各コイル58,60,62のループ形状は円形に限るものではなく、被処理体の形状等に応じて、たとえば図15Aに示すような四角形、あるいは図15Bに示すような三角形であってもよい。このようにコイル58,60,62のループ形状が多角形である場合でも、図示のように内側コイル58および外側コイル62に対して中間コイル60を逆方向で結線し、中間コンデンサ(図示省略)を備える構成が好ましい。なお、各コイル(ループ)を構成する複数のコイルセグメントの間で形状や自己インピーダンスが多少異なっていてもよい。コイルまたはコイルセグメントの断面形状は矩形に限らず、円形、楕円形などでもよく、単線に限らず撚線であってもよい。
図16に示す構成例は、内側コイル58と外側コイル62との間に口径の異なる2つの中間コイル60A,60Bを設ける。より詳細には、口径が小さい方の第1中間コイル60Aは2つの中間コイルセグメント61A(1),61A(1)に分割され、口径が大きい方の第2中間コイル60Bは3つの中間コイルセグメント61B(1),61B(2),61B(3)に分割されている。外側コイル62は、4つの中間コイルセグメント63B(1),63B(2),63B(3) ,63B(4)に分割されている。一例として、内側コイル58、第1中間コイル60A、第2中間コイル60Bおよび外側コイル62の口径はそれぞれ100mm、200mm、300mmおよび400mmに選ばれる。
このように、この実施形態のRFアンテナ54においては、口径の最も小さい内側コイル58と口径の最も大きい外側コイル62との間に任意の個数の中間コイル60(60A,60B,・・)を配置することができる。また、図示のように、複数たとえば2つの中間コイル60A,60Bを設ける場合は、第1ノードNAと第2ノードNBとの間で第1および第2中間コイル60A,60Bと直列に第1および第2中間コンデンサ92A,92Bをそれぞれ接続する構成が好ましい。
図17に示す構成例は、内側コイル58および外側コイル62に対して中間コイル60を同じ方向(順方向)で結線する。すなわち、第1ノードNAから第2ノードNBまで各々の高周波伝送路を一筆書きで廻った場合に、中間コイル60を通るときの向きが内側コイル58および外側コイル62を通るときの向きと周回方向で同じ(図17ではいずれも時計回り)になるような結線構造としている。
この場合、中間コンデンサ92の静電容量C92を中間合成リアクタンスXmが正になる領域で可変するときは、中間電流Imを内側電流Iiおよび外側電流Ioと周回方向で同じ向きで可変することができる。すなわち、Xm>0の領域内でC92の値を小さくするほど、中間合成リアクタンスXmの値が小さくなって、中間電流Imが増大する。反対に、Xm>0の領域内でC92の値を大きくするほど、中間合成リアクタンスXmの値が大きくなって、中間電流Imが減少する。もっとも、C92の値を限りなく大きくしても、中間合成リアクタンスXmの値は中間コイル60の誘導性リアクタンス以下には下がらないので、中間電流Imの電流値を可及的に小さくする(ゼロに近づける)ことはできない。したがって、通常の使い方では、中間電流Imを内側電流Iiおよび外側電流Ioの1/10以下の電流値で制御することは困難である。
図17に示す構成例においては、中間コンデンサ92の静電容量C92を中間合成リアクタンスXmが負になる領域で可変することも可能である。その場合、中間電流Imの流れる向きは内側電流Iiおよび外側電流Ioの流れる向きと周回方向で逆になる。これは、中間コイル60の直下付近でプラズマ密度を意図的に低減したい場合に有用である。
図18Aおよび図18Bに示す構成例は、RFアンテナ54において、内側コイル58、中間コイル60および外側コイル62を電気的に直列に接続する。中間コイル60および外側コイル62内では、中間コイルセグメント61(1),61(2),61(3)および外側コイルセグメント63(1),63(2),63(3) ,63(4)がそれぞれ電気的に並列に接続されているので、RFアンテナ54の全有効長はコイルセグメント3個分で済んでいる。このようにRFアンテナ54内の全てのコイル58,60,62を電気的に直列に接続する構成は、RFアンテナ54内で分岐する電流を減らして、RFアンテナ54に供給される高周波の電流を低減し、ひいては高周波給電部66(特に整合器74)内のRFパワー損失を低減するのに有利である。
[他の実施例または変形例]
図19に示す構成例は、高周波給電部66とRFアンテナ54との間にトランス114を設ける。このトランス114の一次巻線は整合器74の出力端子に電気的に接続され、二次巻線はRFアンテナ54の入口側の第1ノードNAに電気的に接続されている。トランス114の通常の形態として、一次巻線の巻数を二次巻線の巻数よりも多くすることにより、整合器74からトランス114に流れる電流(一次電流)I1をトランス114からRFアンテナ54に流れる二次電流I2よりも少なくすることができる。別な見方をすれば、一次電流I1の電流値を増やさないで、RFアンテナ54に供給する二次電流I1の電流値を増やすことができる。
また、トランス114を設ける場合は、二次側でタップ切換を行うことにより、二次電流I2を可変することも可能である。その場合、図20に示すように、RFアンテナ54からコンデンサを全て省くことも可能である。
上述した実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成は一例であり、プラズマ生成機構の各部はもちろん、プラズマ生成に直接関係しない各部の構成も種種の変形が可能である。
たとえば、RFアンテナの基本形態として、平面型以外のタイプたとえばドーム型等も可能である。処理ガス供給部においてチャンバ10内に天井から処理ガスを導入する構成も可能であり、サセプタ12に直流バイアス制御用の高周波RFLを印加しない形態も可能である。
さらに、本発明による誘導結合型のプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法は、プラズマエッチングの技術分野に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマプロセスにも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。