以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1および図2(a)、(b)は、第1の実施形態の伝動用Vベルトを示す。この伝動用VベルトはラップドVベルト1であり、内周側の圧縮ゴム層2と外周側の伸張ゴム層3の間の接着ゴム層4に心線5を埋設した無端状でV字状断面のベルト本体6と、ベルト本体6のV字状断面の周囲をベルト周長方向の全長に渡って被覆するカバー帆布7とからなる、カバー帆布7で被覆されたV字状断面の左右の両側面が、V溝プーリ10のV溝10aの内壁面と接触する摩擦伝動面8とされている。
前記カバー帆布7には、後述する製造工程で形成された突条7aが設けられ、図2(a)、(b)に示すように、この突条7aが摩擦伝動面8を含むベルト全周の表面から突出高さHで突出して、ベルト周長方向に対して傾斜角度θで傾斜して旋回するように一定の間隔Dで延びている。
前記圧縮ゴム層2と伸張ゴム層3を形成するゴム組成物は、同じものであっても、異なるものであってもよい。これらのゴム組成物を構成するゴム成分としては、加硫または架橋可能なゴム、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム等のジエン系ゴム、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素化ゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、クロロプレンゴムとエチレン−α−オレフィンエラストマー(EPM、EPDM等)が好ましく、クロロプレンゴムが最も好ましい。クロロプレンゴムは硫黄変性タイプでも非硫黄変性タイプでもよい。
前記ゴム組成物には、必要に応じて、加硫剤または架橋剤、共架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム等)、増強剤(カーボンブラック、含水シリカ等の酸化ケイ素等)、短繊維、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル等のオイル類等)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン等)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤等)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤等を配合してもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として配合してもよい。
前記加硫剤または架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用のものを使用でき、例えば、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛等)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド等)、硫黄系加硫剤等が挙げられる。硫黄系加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄等)等が挙げられる。これらの加硫剤または架橋剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。ゴム成分がクロロプレンゴムである場合は、加硫剤または架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛等)を使用してもよい。また、金属酸化物は他の加硫剤(硫黄系加硫剤等)と組み合わせて使用してもよく、金属酸化物と硫黄系加硫剤は、単独でまたは加硫促進剤と組み合わせて使用してもよい。
前記加硫剤の配合量は、加硫剤およびゴム成分の種類に応じて、ゴム成分100質量部に対して、1〜20質量部程度の範囲とするとよい。例えば、加硫剤を有機過酸化物とする場合は、その配合量を1〜8質量部、好ましくは1.5〜5質量部、さらに好ましくは2〜4.5質量部とするとよい。また、加硫剤を金属酸化物とする場合は、その配合量を1〜20質量部、好ましくは3〜17質量部、さらに好ましくは7〜13質量部とするとよい。
前記共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート(トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等)、ポリジエン(1,2−ポリブタジエン等)、不飽和カルボン酸の金属塩((メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウム等)、オキシム類(キノンジオキシム等)、グアニジン類(ジフェニルグアニジン等)、多官能(メタ)アクリレート(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等)、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、アレーンビスマレイミド、芳香族ビスマレイミド等)等が挙げられる。これらの共架橋剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、ビスマレイミド類が好ましく、ビスマレイミド類の添加により架橋度を高め、粘着摩耗等を防止することができる。脂肪族ビスマレイミドとしては、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド、1,6’− ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)シクロヘキサン等が挙げられ、アレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミドとしては、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’− ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’− ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。これらのビスマレイミド類のうち、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド等のアレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミドが好ましい。
前記共架橋剤(架橋助剤)の配合量は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.01〜10質量部程度の範囲とするとよく、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜3質量部とするとよい。
前記加硫促進剤としては、チウラム系促進剤(テトラメチルチウラム・モノスルフィド、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド、テトラブチルチウラム・ジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィド等)、チアゾール系促進剤(2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等)、スルフェンアミド系促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等)、ビスマレイミド系促進剤(N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド等)、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジo−トリルグアニジン等)、ウレア系またはチオウレア系促進剤(エチレンチオウレア等)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、TMTD、DPTT、CBS等が汎用される。
前記加硫促進剤の配合量は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜15質量部程度の範囲とするとよく、好ましくは0.3〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部とするとよい。
前記増強剤(カーボンブラック、酸化ケイ素等)の配合量は、ゴム組成物の総量100質量部に対して、10〜100質量部程度の範囲とするとよく、好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部とするとよい。また、軟化剤(ナフテン系オイル等のオイル類)の配合量は、ゴム組成物の総量100質量部に対して、1〜30質量部程度の範囲とするとよく、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは5〜10質量部とするとよい。老化防止剤の配合量は、ゴム組成物の総量100質量部に対して、0.5〜15質量部程度の範囲とするとよく、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは3〜7質量部とするとよい。
前記短繊維としては、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維等のC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維等)、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の合成繊維、綿、麻、羊毛等の天然繊維、炭素繊維等の無機繊維が使用される。これらの短繊維は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。短繊維の長さは、1〜20mm程度の範囲とするとよく、好ましくは2〜15mm、より好ましくは3〜10mmとするとよい。また、短繊維の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜50質量部程度の範囲とするとよい。
前記接着ゴム層4を形成するゴム組成物は、圧縮ゴム層1や伸張ゴム層2のゴム組成物と同様に、ゴム成分(クロロプレンゴム等)に、加硫剤または架橋剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、粉末硫黄等の硫黄系加硫剤等)、共架橋剤(N,N’−m−フェニレンジマレイミド等のマレイミド系架橋剤等)、加硫促進剤(TMTD、DPTT、CBS等)、増強剤(カーボンブラック、酸化ケイ素等)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等)、軟化剤(ナフテン系オイル等のオイル類)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン等)、老化防止剤、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤等を配合してもよく、さらに接着性改良剤を配合してもよい。
前記接着性改良剤としては、レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物であるアミノ樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物等)等が挙げられる。窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物としては、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメブトキシメチルメラミン等)等のメラミン樹脂、メチロール尿素等の尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン等のベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。アミノ樹脂およびレゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物は、レゾルシンやメラミン等の窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマ)であってもよい。
前記心線5を構成する繊維としては、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート等のC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維等)、アラミド繊維等の合成繊維、炭素繊維等の無機繊維が使用され、ポリエステル繊維やアラミド繊維が好ましい。これらの繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は2000〜10000デニールとするとよく、好ましくは4000〜8000デニールとするとよい。
前記心線5としては、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(諸撚り、片撚り、ランク撚り等)を使用することが多く、心線4の平均線径(撚りコードの繊維径)は、0.5〜3mmとするとよく、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mmとするとよい。心線5はベルト周長方向に延びるように、ベルト幅方向に一定の間隔を開けて埋設される。この実施形態では、1本で連なる心線5をベルト周長方向にスパイラル状に巻き付けて埋設しているが、複数本の心線5をベルト周長方向に並列的に巻き付けて埋設してもよい。
また、前記ゴム層と心線5との接着性を高める目的で、心線5にRFL処理等の接着処理を施してもよい。RFL処理では、心線5を構成する繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液に浸漬後、加熱乾燥することにより、繊維の表面に接着層を均一に形成することができる。RFL液のラテックスは、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム等)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等とすることができる。これらのラテックスは、単独または2種以上を組み合わせてもよい。RFL処理前にエポキシ化合物、イソシアネート化合物等の反応性化合物による前処理(プレディップ)や、RFL処理後にゴム糊処理(オーバーコーティング)等を行った後で、心線5をゴム層に埋設してもよい。
前記カバー帆布7は、ポリエステル、ポリアミド、アラミド、ビニロン等の合成繊維や、綿等の天然繊維の糸、またはこれらの混紡糸とした経糸と緯糸を、90°または90°を超える交差角度で平織り、綾織り、朱子織り等によって織製することにより得られる。使用する繊維は、用途に応じて選択されるが、コスト、汎用性、吸水性の面から一般的には綿が最も好ましい。
図3(a)は、前記カバー帆布7の第1の実施例の織構造を示す。このカバー帆布7は、経糸7bと緯糸7cを用いて平織りで織製され、経糸7bの一部に他の大部分の部位を織製する基本糸よりも太い糸7baを用いることにより、前記突条7aが形成されている。この太い糸は基本糸と同じ材質であっても、異なる材質であってもよい。太い糸7baは、糸の番手を小さくしたり(番手が1/2になると太さは2倍になる)、糸の撚り本数を増やしたりすることにより得られ、その太さは基本糸の3〜20倍程度とするとよい。
図3(b)は、前記カバー帆布7の第2の実施例の織構造を示す。このカバー帆布7も平織りで織製され、経糸7bの一部を他の部位よりも高密度に織り込むことにより、前記突条7aが形成されている。すなわち、経糸7bの一部を複数本の基本糸を引き揃えたものとして織り込むことにより、引き揃えられた複数本の基本糸が隙間なく寄り集まって、密度の高い高密度基本糸7bbとなり、突条7aが形成されている。この突条7aを形成する部位の他の平坦な部位に対するカバーファクターの比は5〜30程度とするとよい。
前記カバー帆布7でベルト本体6を被覆したときに、前記摩擦伝動面8で突条7aが突出する突出高さHは、0.2〜2.0mmとするとよく、好ましくは0.2〜1.0mm、さらに好ましくは0.2〜0.4mmとするとよい。また、突条7a間の間隔Dは5〜15mmの範囲とするとよい。
前記摩擦伝動面8における突条7aのベルト周長方向に対する傾斜角度θは30°以上とするとよい。この傾斜角度θは、ベルトに必要な屈曲性を確保し、かつ従来のラップドVベルトの製造工程を変えずに製造可能とした上で、十分なグリップ力を確保できるように、45°とするのが最も好ましい。傾斜角度θはベルト走行方向に対して、どちら向きに傾斜させてもよい。傾斜角度θは、後述するバイアスカットの角度αを変更する方法のほかに、カバー帆布7の織製時、または織製後にカバー帆布7を広角化処理して経糸と緯糸の交差角度を変更する方法や、カバー帆布7のベルト本体6への巻き付け角度を変更する方法によっても調整することができる。
図4は、前記カバー帆布7を製造する工程の一例を示す。なお、図4(a)〜(e)の各図では、分かりやすくするために、模式的に織目を粗く示すとともに、突条7aの間隔Dも広く開けて示す。この例では、まず、図4(a)に示すように、経糸7bと緯糸7cの交差角度を90°として、経糸7bの一部に一定間隔で太い糸7baまたは高密度基本糸7bbを用い、幅方向に一定間隔Dで長手方向に延びる突条7aが形成された帆布7’を織製する。織製された帆布7’は、RFL液に浸漬されたのち、150〜250℃で1〜5分間加熱乾燥される。このRFL液のラテックスとしては、前記心線5のRFL処理に用いたものと同様のものを使用することができる。
前記RFL処理された帆布7’は、ゴム層との接着性を高める目的で、コーティング(糊引き)、フリクション、ソーキング、シート状未加硫ゴムの積層等の処理により、未加硫ゴムを付着させたゴム付き帆布としてもよい。この未加硫ゴムは、カバー帆布7とされたときに少なくともベルト本体6に向けられる内面側に付着させればよい。
図4(b)は、前記フリクション処理を行う場合の例を示すものであり、カレンダロール11間に帆布7’を未加硫ゴムと一緒に通過させ、帆布7’の繊維間まで未加硫ゴムをすり込む。図示は省略するが、ソーキングは、希薄なゴム糊を入れた浸漬層の中に帆布7’を通し、付着した過剰の糊を2本のロール間に通して除去することにより、糊を帆布7’の繊維内部に浸透させる処理である。
つぎに、図4(c)に示すように、前記帆布7’を巻き出しながら、バイアスカット角度αでバイアスカットし、バイアスカットした複数枚の帆布7’を幅方向に斜めに接続して巻き取る。図5に拡大して示すように、このようなバイアスカット加工を施された帆布7’には、接続される長手方向と角度β(β=90−α)で傾斜する突条7aが形成される。この例では、バイアスカット角度αが45°とされ、後の図4(e)に示すカバー帆布7とされて、長手方向をベルト本体6の周長方向に沿わせてその断面周囲を被覆したときに、突条7aのベルト周長方向に対する傾斜角度θとなる角度βが45°とされている。
例えば、前記バイアスカット角度αを60°とすれば、角度βすなわち突条7aのベルト周長方向に対する傾斜角度θは30°となる。また、バイアスカット角度αを0°、すなわち、図4(c)のバイアスカット加工を省略すれば、突条7aのベルト周長方向に対する傾斜角度θは90°となる。
こののち、図4(d)に示すように、前記バイアスカット加工して接続された帆布7’は、1本のベルト本体6の断面周長にラップ代を見込んだ幅に幅切り切断され、最後に、図4(e)に示すように、ベルト本体6の周長に合わせて長手方向で長さ切断されてカバー帆布7とされる。
このように製造されたカバー帆布7は、ベルト本体6となる無端状の未加硫ベルト成形体を被覆するように巻き付けられる。カバー帆布7は、長手方向を未加硫ベルト成形体の周長方向に沿わせて、未加硫ベルト成形体の断面周囲を被覆するように巻き付けられる。カバー帆布7で被覆された未加硫ベルト成形体は、金型内で加熱加圧されて加硫成形され、製品としてのラップドVベルト1となる。
図6に示すように、このラップドVベルト1の摩擦伝動面8には、ベルト周長方向に対する傾斜角度θが45°とされて連続的に延びる複数の突条7aが一定の間隔Dで形成されている。
前記ラップドVベルトの第1の実施例として、ベルト本体を、圧縮ゴム層と伸張ゴム層が表1に示すクロロプレンゴム組成物で、接着ゴム層が表2に示すクロロプレンゴム組成物で形成され、心線がポリエチレンテレフタレート系繊維で形成されたものとし、カバー帆布を、経糸と緯糸の基本糸に20番手の綿の紡績糸を3本撚りしたものを使用して、10番手の綿の紡績糸を5本撚りした太い糸を経糸の一部に5mm間隔で用い、経糸と緯糸の交差角度を90°として、密度75本/5cmの平織りで織製し、RFL処理後に、表3に示す配合の未加硫ゴム組成物でフリクション処理したものとして、摩擦伝動面を含むベルト全周の表面から突出する突条の突出高さHを0.2mm、突条のベルト周長方向に対する傾斜角度θを45°、突条間の間隔Dを5mmとしたもの(実施例1)を用意した。また、実施例1と他の部分は同じで、突条間の間隔Dを10mmとしたもの(実施例2)と、突条間の間隔Dを15mmとしたもの(実施例3)、実施例1と他の部分は同じで、経糸の太い糸を10番手の綿の紡績糸を8本撚りしたものとして、突条の突出高さHを0.4mmとしたもの(実施例4)と、経糸の太い糸を10番手の綿の紡績糸を16本撚りしたものとして、突条の突出高さHを0.8mmとしたもの(実施例5)、実施例4と他の部分は同じで、バイアスカット角度αを60°として、突条のベルト周長方向に対する傾斜角度θを30°としたもの(実施例6)と、バイアスカット加工をなくして突条のベルト周長方向に対する傾斜角度θを90°としたもの(実施例7)、および、実施例2と他の部分は同じで、経糸の太い糸を10番手の綿の紡績糸を30本撚りしたものとして、突条の突出高さHを2.0mmとしたもの(実施例8)も用意した。さらに、実施例2と他の部分は同じで、経糸の太い糸に10番手のポリエチレンテレフタレート(PET)の紡績糸を9本撚りしたものを用い、突条の突出高さHを0.4mmとしたもの(実施例9)と、実施例9と他の部分は同じで、経糸の太い糸としてフィラメント太さが5500dtexのPETの紡績糸を織り込んだもの(実施例10)も用意した。これらの比較例として、実施例1と他の部分は同じで、経糸に太い糸を用いず、突条を形成しない従来のラップドVベルト(比較例1)と、経糸の太い糸を10番手の綿の紡績糸を3本撚りしたものとして、突条がほとんど突出しなかったもの(比較例2)も用意した。
表4に、上記第1の実施例の実施例1〜10および比較例1、2のラップドVベルトの仕様をまとめて示す。これらの各ラップドVベルトは、いずれもJIS K6323に準拠する呼称がB−60のものとした。
前記ラップドVベルトの第2の実施例として、実施例2と他の部分は同じで、カバー帆布の経糸と緯糸の基本糸に10番手3本撚りの綿の紡績糸を使用して、経糸の太い糸に相当する部分に、基本糸を3本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.2mmとしたもの(実施例11)、基本糸を4本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.4mmとしたもの(実施例12)、および、基本糸を6本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.6mmとしたもの(実施例13)を用意した。また、カバー帆布の経糸と緯糸の基本糸に20番手3本撚りの綿の紡績糸を使用して、経糸の太い糸に相当する部分に、基本糸を4本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.2mmとしたもの(実施例14)、および基本糸を12本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.8mmとしたもの(実施例15)も用意した。さらに、カバー帆布の経糸と緯糸の基本糸に40番手3本撚りの綿の紡績糸を使用して、経糸の太い糸に相当する部分に、基本糸を5本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.2mmとしたもの(実施例16)、基本糸を6本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.3mmとしたもの(実施例17)、および、基本糸を12本引き揃えて織り込み、突条の突出高さHを0.7mmとしたもの(実施例18)も用意した。これらの比較例として、経糸の太い糸に相当する部分に、実施例11と他の部分は同じで、基本糸を2本引き揃えて織り込んだもの(比較例3)、実施例14と他の部分は同じで、基本糸を3本引き揃えて織り込んだもの(比較例4)、および、実施例16と他の部分は同じで、基本糸を4本引き揃えて織り込んだもの(比較例5)も用意した。
表5に、上記第2の実施例の実施例11〜18および比較例3〜5のラップドVベルトの仕様をまとめて示す。実施例11〜18のものは、突条が形成された部位の他の平坦な部位に対するカバーファクターの比が5以上となっている。これに対して、比較例3〜5のものは、このカバーファクターの比が3.7以下となっており、突条が形成されていない。なお、これらの各ラップドVベルトも、いずれもJIS K6323に準拠する呼称がB−60のものとした。
上述した実施例1〜18と比較例1〜5の各ラップドVベルトについて、摩擦伝動面の摩擦係数を測定する摩擦測定試験と、試験用ベルト伝動装置を用いて消費電力を測定する走行試験とを行った。
図7は、前記摩擦測定試験の方法を示す。この摩擦測定試験では、切開したラップドVベルト1の一端側を固定部12のロードセル12aに接続して固定し、他端側に錘13を吊り下げてV溝プーリ14に巻き付き角γ(ラジアン)をπ/2(=90°)として巻き掛ける。こののち、図中に矢印で示す方向に、V溝プーリ14を低速で回転駆動し、このときの固定部12とV溝プーリ14間のベルト張力をロードセル12aで測定して、張り側張力T1とする。また、錘13が吊り下がる側の張力を弛み側張力T2とする。これらの張り側張力T1、弛み側張力T2および巻き付き角γを公知の(1)式に代入して、摩擦伝動面の摩擦係数μを求めた。
μ=ln(T1/T2)/γ (1)
試験条件はつぎの通りである。
・プーリ径:65mm
・プーリ回転速度:35rpm
・錘:3.8kgf
・測定時間:40秒
・雰囲気:温度23℃、湿度50%
表4および表5に、上記摩擦測定試験の結果を併せて示す。突出高さHが0.2mm以上の突条を形成した各実施例のものは、いずれも突条のない比較例1のものよりも30%以上高い摩擦係数が得られている。これに対して、突条がほとんど突出しない比較例2〜5のものは摩擦係数の増加率がいずれも15%未満と低い。突条の突出高さHの影響については、第1の実施例において突条の間隔Dが5mmで突出高さHが順に高くなる実施例1、4、5、および、突条の間隔が10mmで突出高さHが順に高くなる実施例2、8、並びに第2の実施例において突条の間隔が10mmで突出高さHが順に高くなる実施例11〜13、実施例14〜15および実施例16〜18の各組についてそれぞれ比較すると、突出高さHが高くなるほど摩擦係数が高くなる傾向が認められる。また、突条のベルト周長方向に対する傾斜角度θの影響については、傾斜角度θが順に大きくなる実施例6、4、7を比較すると、傾斜角度θが大きくなるほど摩擦係数が高くなっている。なお、経糸の太い糸にPETの紡績糸を使用した実施例9、10は、突条の形態が同じで綿の紡績糸を使用した実施例12と同程度の摩擦係数となっている。
図8は、前記走行試験の方法を示す。この走行試験は、試験用ベルト伝動装置の駆動側V溝プーリ14aと従動側V溝プーリ14bとにラップドVベルト1を巻回し、従動側V溝プーリ13bの回転に一定の負荷を付与して、駆動側V溝プーリ14aを駆動する消費電力を測定した。試験条件はつぎの通りである。
・プーリ径:118mm(駆動側、従動側とも)
・駆動側プーリの回転速度:2000rpm
・従動側プーリの負荷:0.5kW、1.0kW(2レベル)
・ベルト張力:300N
・測定時間:10分
・雰囲気:温度23℃、湿度50%
表4および表5に、上記走行試験の結果を併せて示す。第1の実施例の各実施例1〜10および第2の実施例の各実施例11〜18は、いずれも突条のない比較例1のものよりも消費電力が6〜12%程度低減されている。消費電力は突条の突出高さHを0.4mmとした実施例4のもので最も少なくなっており、突出高さHを2.0mmとした実施例8のものは、実施例4のものよりも消費電力が多くなっている。これは、実施例8の摩擦係数がかなり大きいことによる摩擦損失のためと考えられる。
上述した摩擦測定試験と走行試験の結果より、摩擦伝動面にベルト周長方向と傾斜して延びる複数の突条をベルト周長方向に間隔を開けて設けた本発明に係る伝動用Vベルトは、摩擦伝動面での摩擦力を増大させてスリップを抑制し、ベルト伝動装置の伝動効率を向上させて消費電力を少なくできることが確認された。
図9は、第2の実施形態の伝動用Vベルトを示す。この伝動用VベルトもラップドVベルト1であり、内周側の圧縮ゴム層2に複数のコグ9が設けられている点が第1の実施形態のものと異なる。このラップドVベルト1は、屈曲性をさらに向上させることができるとともに、ベルトの屈曲抵抗による伝動損失を低減することができる。
前記コグ9は、ベルト本体6をカバー帆布7で被覆して加硫成形したのちに、圧縮ゴム層2の一部をカバー帆布7と一緒に機械加工で幅方向に打ち抜くことにより形成されている。その他の部分は第1の実施形態のものと同じであり、カバー帆布7に形成された突条7aが摩擦伝動面8を含むベルト全周の表面から突出して、ベルト周長方向に傾斜して旋回するように一定の間隔で延びている。
上述した各実施形態では、摩擦伝動面から突出して連続的に延びる複数の突条を、カバー帆布の経糸の一部に太い糸を用いるか、経糸の一部を高密度に織り込むことにより形成したが、これらの突条は、カバー帆布の緯糸または緯糸と経糸の両方に太い糸を部分的に用いるか、これらの一部を高密度に織り込むかして形成することもできる。また、カバー帆布には突条を形成せずに、ベルト本体の摩擦伝動面に相当する両側面に突条を成形し、被覆されるカバー帆布を介して突条を摩擦伝動面から突出させることもでき、突条を断続的に延びるものとすることもできる。
上述した各実施形態では、心線を圧縮ゴム層と伸張ゴム層との間に設けた接着ゴム層に埋設したが、接着ゴム層を省略して、心線を圧縮ゴム層と伸張ゴム層の間に埋設することもできる。