JP6020811B2 - 難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法 - Google Patents
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Description
また、着氷の問題は架空送電線以外にも生じ、他の例としては、風力発電の風車の羽根が凍結することで回転に障害が生じる場合もある。
これらの着氷や着雪に対しては、ヒーター等の熱源を使用する対策方法があるが、電力や専用の施設が必要になってしまう。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、電力を用いずに落氷の効果を得ることができる難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法を提供することを目的としている。
一方で、優れた難着氷効果を得るためには、接触角を大きくするだけでなく、表面粗さを小さくする必要があることを発明者は見出した。そして、試験を行った結果、難着雪効果および難着氷効果を得るためには、水に対する接触角が130度以上、且つ、表面粗さが1〜5μmの範囲とする撥水表面が必要であるとの知見を得た。
以下に上記の条件を得た試験内容を示す。
まず、基材表面での接触角θと着氷力Fの関係を調べた。なお、接触角θは、固体表面上に液体(水)が接している状況で、液体の縁の表面に引いた接線と固体表面とが成す角度である。着氷力Fは、材料表面に凍着した氷の付着力である。
図1は撥水表面における着氷力の試験方法を示している。本試験では、試験温度を−10度の環境に設定した。まず、表面が撥水処理されたアルミニウム合金製の基板1を水平に支持し、この基板1の上に円筒2を置き、円筒2内部に水(図1に示すCW)を注入した。そして、この水が凍った後、円筒2を、図1に矢印で示すように水平方向に引っ張ることにより、着氷力Fを測定した。
図2に示すように、水に対する接触角θの大きな基板表面ほど着氷力Fが小さくなる傾向であることが判る。より具体的には、接触角θが130度以上では、特性曲線f1の傾きが大きく変動しない傾向があることが判る。さらに、接触角θが130度を下回ると特性曲線f1の傾きが大きく変動し、着氷力が大きくなる傾向であることが判った。
これに鑑み、発明者は、表面粗さRと着氷力Fの関係を調べる試験を行った。
接触角θが150度以上の試験用サンプル(基板1に相当)について、表面粗さRと着氷力Fの関係を調べた。図4は試験結果を示し、図5はその試験用サンプル(基板1)の断面構造を模式的に示した図である。なお、本調査では、表面粗さRとして、十点平均粗さ(Rz)を用いた。なお、図4中、符号f2は、測定結果から得た近似特性曲線である。また、図5中、符号WDは水滴を示している。
さらに、同図4に示すように、表面粗さRが4μm以下では、着氷力が格段に小さくなることが判った。
以上のことから、優れた難着氷効果を効率よく得る条件は、接触角が130度以上、且つ、表面粗さRが1〜5μmの範囲であり、より好ましくは、接触角が130度以上、且つ、表面粗さRが1〜4μmの範囲であることが判った。
シラン系化合物は、有機ケイ素系の化合物である。本発明に用いるシラン系化合物は、その組成が特に限定されるものではないが、難着氷・難着雪の効果をより発揮する態様として、フッ素を含んだシラン系化合物であることがより好ましい。
[実施例1]
本実施例では、難着氷表面構造を架空送電線10の表面構造に適用した。架空送電線10は、鉄塔を介して高所に配置されるため、雲中着氷や降雨性着氷が生じやすい環境にあり、鉄塔への負荷の増大を避けるなどの観点から難着氷対策が特に望まれる部材である。
この架空送電線10は、複数の鋼素線11(図6中、ハッチングを付して示す)を撚り合わせたテンションメンバの外周に、アルミニウム合金製の複数の素線(以下、アルミ素線と言う。)12を撚り合わせた電線であり、鋼心アルミ撚り線(ACSR;Aluminium Conductors Steel Reinforced)の形態を成している。
この架空送電線10は、図6に示すように撚り線状の電線を製造した後、電線全体に一括に、高温処理によるベーマイト処理を行って表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティング(本実施例では塗布)することによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、接触角が130度以上の撥水表面に形成されている。
また、シラン系化合物による撥水層の下地(表面微細構造)を得るための処理として、ベーマイト処理を行うので、アルミニウム合金の表面に耐食性を有するベーマイト層を形成し、その上に撥水層を形成することとなり、素線12の耐食性を向上させる処理を別途行わなくても、耐食性を得ることができる。なお、耐食性を更に向上させたい場合は、別途、他の表面処理や皮膜を設けるようにしても良い。
また、ベーマイト処理以外に、他の化成処理方法を適用しても良く、例えば、フッ酸、酢酸、硝酸および硫酸などの混合溶液に浸し、表面のエッチングを行い、表面粗さRを1〜5μmの範囲にするようにしても良い。
図7は、実施例2の架空送電線10の断面図を示す。
この架空送電線10は、複数の鋼素線11を撚り合わせたテンションメンバの外周に、アルミニウム合金製の円形断面の素線12を撚り合わせるとともに、その外周に、アルミニウム合金からなる複数のセグメント型素線13を撚り合わせた鋼心アルミ撚り線タイプの形態を成している。
この架空送電線10についても、実施例1と同様に、撚り線状の電線を製造した後、電線全体に一括に、高温処理によるベーマイト処理を行って表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティング(本実施例では塗布)することにより、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、接触角θが130度以上の撥水表面に形成されている。
また、この架空送電線10のような低風圧電線は、外周に凹凸を有するため、氷や雪が付着し易いと考えられる。このため、雲中着氷や降雨性着氷が生じやすい環境で用いられる場合は、上記実施例1の架空送電線10よりも難着氷対策がより望まれる電線である。
また、比較例として、表面粗さRが3μmで接触角θが120度の撥水アルミ板も作成し、これについても、同様の着氷試験および着雪試験を行った。
作成した各撥水アルミ板を、氷点下温度に保たれた恒温槽内に配置し、恒温槽内で各撥水アルミ板に水蒸気をあて、着氷させた時の着氷質量W1を調べた。このときの高温槽の温度条件は、−10度と−5度の2種類とし、各撥水アルミ板は水平面(地面に相当)に対して45度傾斜させた状態とした。
図8に示すように、接触角θが大きいほど着氷質量W1が小さくなった。特に接触角θが130度を超えると着氷質量W1が一気に小さくなり、−10度、−5度の両温度条件で、十分な難着氷効果を得ることができた。
これに対し、接触角θが120度では、着氷質量W1が格段に多くなり、また、温度が−10度と−5度のときで着氷質量W1に差が生じ、難着氷性能に大きな違いが見られた。特に−10度の温度条件では着氷質量W1が多く、十分な難着氷効果が得られなかった。
作成した各撥水アルミ板を屋外に配置し、自然降雪のときの着雪質量W2を調べた。このときの各撥水アルミ板は水平面(地面に相当)に対して60度傾斜させた状態とした。
この場合の試験結果を図9に示す。図9中、符号f5は、測定結果から得た特性曲線である。
図9に示すように、接触角θが大きいほど着雪質量W2が小さくなり、接触角θが130度以上では殆ど着雪しなかった。また、接触角θが130度を下回ると、着雪質量W2が一気に大きくなった。
また、架空送電線10を上記難着氷表面構造にすることによって、低コロナ、防食性の効果も期待することができる。
例えば、上述の実施形態では、撚り線状の電線を製造した後、電線表面にベーマイト処理をなどで表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、水に対する接触角θが130度以上の撥水表面に形成する場合を説明したが、素線単体の状態で、ベーマイト処理などで表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、水に対する接触角θが130度以上の撥水表面に形成し、この素線を、最外周の素線(図6の最外周の素線12、図7のセグメント型素線13)に用いるようにしても良い。
また、素線数が少ない場合などは、撚り合わせる前の素線の全部又は一部に、上記の撥水表面にする処理を行うようにしても良い。
また、上述の実施形態では、アルミニウム合金の素線を難着氷表面構造にする場合を説明したが、アルミニウムやアルミニウム以外の金属材で形成された素線、或いは、金属以外の他の素材を難着氷表面構造にする場合に本発明を適用しても良い。
図10は、スペーサ20を示している。このスペーサ20は、電線が上相、中相、下相の3回線で送電を行っている場合に、相と相とをそれぞれ把持することにより相間で電線が接触するのを防ぐ導体相間スペーサである。
このスペーサ20は、送電線を支持する上下一対のアルミ合金製のクランプ21を有し、このクランプ21間を、上方から、軟鋼製の連結金具22、軟鋼製の直角クレビス23、軟鋼製のアイボルト24、アルミ合金製のフランジアイ25、アルミ合金製のフランジロッド26、アルミ製のホーン27、シリコンゴム製のポリマがいし28、アルミ合金製のフランジアダプタ29、軟鋼製のアイボルト24、軟鋼製の直角クレビス23、軟鋼製の連結金具22で接続している。
1)難着氷が望まれる様々な電線(難着氷電線)。例えば、低風圧電線、低ロス電線、低弛度電線、表面処理電線、トロリ線などの各種電線。
2)電線の付属品(難着氷電線付属品)。例えば、スパイラルロッド、アーマーロッド、LC線材、電線用スペーサ(相間スペーサとも言う)、電線用クランプ、電線用ジャンパ装置、電線用ダンパ。この場合も、低コロナ、防食性の効果を期待することができる。また、この難着氷電線付属品への処理方法として、これら付属品の表面を亜鉛めっきとし、この亜鉛めっき上に上記の撥水処理を施すことが望ましい。
3)鉄塔に用いられるアングル、鋼管などの難着氷鉄塔部材。この場合、防食効果も期待することができる。
4)建築物。例えば、建築物の屋根、建築材および構造材。この場合、防食効果も期待することができる。
5)屋外で用いられる移動体。例えば、車両、船舶、飛行機、ヘリコプターの外装や羽。この場合、防食効果も期待することができる。
6)屋外に設置される設置物。例えば、太陽電池パネル、パラボラのレドーム、風車の羽根車。風車の羽根車に適用することにおり、羽根車の凍結をふせぎ、冬期の風力発電を可能にすることができる。この場合も防食効果を期待することができる。
10 架空送電線(難着氷電線)
20 スペーサ(難着氷スペーサ)
θ 接触角
F 着氷力
R 表面粗さ
Claims (3)
- 基材表面にシラン系化合物がコーティングされ、表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、
水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、
前記基材表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする難着氷表面構造。 - 複数本の線材からなる架空送電線の表面にシラン系化合物がコーティングされ、前記表面の表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、
水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、
前記架空送電線の表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする難着氷表面構造。 - 撚り線状の電線を製造した後、ベーマイト処理を行って電線の表面に耐食性を有する表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmで、且つ、水に対する接触角が130度以上の撥水表面に形成することを特徴とする難着氷表面構造の製造方法。
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