JP6004249B2 - イソプレノイドの製造方法、及びイソプレノイド - Google Patents
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工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、前記2層のうちの下層を得る工程。
工程2:得られた前記下層を遠心分離して5層に分離し、前記5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を得る工程。
工程3:前記小ゴム粒子層1を緩衝液で希釈し、希釈液を47000G以上で遠心分離し、小ゴム粒子層2を得る工程。
前記ラテックスは、タッピングを開始してから10分以上経過した後に採取されたものであることが好ましい。また、前記ラテックスは、5℃以下で保存されたものであることが好ましい。
まず、従来は、もっぱら基質であるイソペンテニル二リン酸の消費量にのみ着目しており、ホスファターゼによるイソペンテニル二リン酸の加水分解の影響や、一般的なプレニルトランスフェラーゼ活性、長鎖長のイソプレノイドを生合成する活性を区別して評価できていなかった点に着目した。そこで、まず、極性が互いに異なる3種の溶媒を用いて、プレニル鎖延長反応の反応生成物から、基質であるイソペンテニル二リン酸がホスファターゼにより脱リン酸化されて生じるイソペンテノール、プレニルトランスフェラーゼによって重合された中鎖長(C10〜C100程度)のイソプレノイドや長鎖長(C100を超える)のイソプレノイドを分離することに成功した。
そして、1−14Cラベルされたイソペンテニル二リン酸を用いて反応を行い、上述の方法で各反応生成物を分離し評価することで、中鎖長のイソプレノイド及び長鎖長のイソプレノイドそれぞれにおけるイソペンテニル二リン酸の取り込み量を区別して測定することに成功した。
そして、反応系のpHを変えて反応を行い、上述の方法により、各反応生成物を分析した結果、ヘベア・ブラジリエンシス樹のラテックスのホスファターゼ活性の至適pHは、約8であり、中鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHは、約6であることが分かった。一方、長鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHは、約9〜9.5であることが分かった。このように、本発明者らは、中鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHと、長鎖長のイソプレノイドを生合成する反応の至適pHが異なり、従来行われてきた中性条件下ではなく、pH8.5以上の塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行うことにより、長鎖長のポリイソプレノイドを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
該緩衝液のpHは好ましくは9以上である。また、該緩衝液のpHは好ましくは11以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは9.5以下である。このような緩衝液としては、トリス−塩酸バッファー、グリシン−水酸化ナトリウムバッファー、ホウ酸(カリウム)バッファー、ホウ酸(ナトリウム)バッファー、炭酸−重炭酸バッファー、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸バッファー、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸バッファーなどが挙げられる。なかでも、グリシン−水酸化ナトリウムバッファー、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸バッファー、3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸バッファーが好ましい。
なお、該緩衝液の濃度は適宜設定できる。
工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、上記2層のうちの下層を得る工程。
工程2:得られた上記下層を遠心分離して5層に分離し、上記5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を得る工程。
また、ラテックスは新鮮なものほど好ましく、例えば、使用時まで5℃以下で保存されたものなどを用いることができる。このようなラテックスとして、例えば、予め5℃以下に冷却した容器に採取され、採取直後から5℃以下で保存されたラテックスなどが好適である。
工程1の遠心分離の遠心加速度は、好ましくは10000G以上、より好ましくは11000G以上である。該遠心加速度は、好ましくは18000G以下、より好ましくは14000G以下である。遠心加速度が上記範囲内であると、ラテックスを好適に2層に分離することができる。
遠心分離の時間は特に限定されないが、好ましくは5〜60分、より好ましくは15〜45分である。また、遠心分離は、0〜8℃で行われることが好ましい。
遠心分離の好ましい時間、温度は工程1と同様である。
図1に示すように、該5層の最上層から順に、第1層としてラバーフラクション層、第2層として小ゴム粒子層1、第3層としてフレイウィスリング層(Frey−Wyssling層)、第4層としてC−セラム層(可溶タンパク質層)、第5層としてボトムフラクション層(膜タンパク質層)を形成するように、工程2により下層は分離される。
なお、該5層は容易に見分けることができる。特に、小ゴム粒子層1は青く光っているため、容易に見分けることができる。
工程3:上記小ゴム粒子層1を緩衝液(希釈用緩衝液)で希釈し、希釈液を47000G以上で遠心分離し、小ゴム粒子層2を得る工程。
該緩衝液としては特に限定されず、公知の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは好ましくは6.5〜8.0、より好ましくは7.0〜7.5である。このような緩衝液としては、トリス−塩酸バッファー、リン酸カリウムバッファー、リン酸ナトリウムバッファーなどが挙げられる。
該緩衝液の濃度は適宜設定できる。また希釈方法は特に限定されず、公知の方法により希釈できる。
遠心分離の好ましい時間、温度は工程1と同様である。
図2に示すように、遠心分離により希釈液は、小ゴム粒子層2と緩衝液層の2層に分離される。小ゴム粒子層2は2層のうちの上層に形成される。小ゴム粒子層2は他の層と容易に見分けられる。小ゴム粒子層2は、小ゴム粒子層1と同様にSRPを含む層である。
小ゴム粒子層2の回収方法としては特に限定されず、小ゴム粒子層2をピペットやスパチュラなどで回収する方法などにより回収できる。
なお、本明細書において、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素として、該酵素以外に他のタンパク質成分を含むものを使用する場合(前述の小ゴム粒子層1に含まれる酵素や前述の小ゴム粒子層2に含まれる酵素などを使用する場合)、該濃度は、全タンパク質量(該酵素及び他のタンパク質成分の合計量)を該酵素量として算出される。
該濃度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
本発明では、塩基性条件下でプレニル鎖延長反応を行うため、このように優れた反応効率が得られる。
なお、本明細書において、イソペンテニル二リン酸の反応効率は、プレニルトランスフェラーゼ活性を示す酵素を50μg使用した場合に、単位時間当たりにイソプレノイドへ取り込まれるイソペンテニル二リン酸の物質量であり、後述の実施例に記載の方法により測定、算出される。
なお、本明細書において、イソプレノイドの平均容積生産性は、後述の実施例に記載の方法により測定、算出される。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
また、極性が互いに異なる3種の溶媒を用いて、プレニル鎖延長反応後の溶液から、高分子量のイソプレノイドを分離抽出することで、高分子量イソプレノイドの製造効率を明らかにできる。
反応後の溶液に、まず、飽和NaCl水溶液及びジエチルエーテルを加え、ジエチルエーテル相にイソペンテノールを抽出する。そして、このジエチルエーテル相を除去することにより、イソペンテノールの分離を行う。次いで、残った水相に水飽和ブタノールを加え、ブタノール相に中鎖長(C10〜C100程度)のイソプレノイドを抽出する。このブタノール相を除去することにより、中鎖長のイソプレノイドの分離を行う。その後さらに、水相とブタノール相の界面で凝固した高分子量のイソプレノイド(長鎖長(C100を超える)のイソプレノイド)をトルエン/ヘキサン(1:1)溶液に溶解させ、トルエン/ヘキサン相に高分子量のイソプレノイドを抽出することができる。
ラテックス中には、ホスファターゼが含まれており、該ホスファターゼがイソペンテニル二リン酸をイソペンテノールへ加水分解する。そのため、ジエチルエーテル抽出を行わなかった場合(イソペンテノールの分離を行わなかった場合)、イソペンテノールがトルエン/ヘキサン相に抽出されてしまい、ホスファターゼ活性の影響を除去できず、トルエン/ヘキサン相のイソプレノイド合成活性を正確に評価できない。
なお、各種バッファーは、表1〜6に示すpHに調整した。
天然ゴムラテックス:調製例1
C−セラム層:調製例2
精製SRP層(小ゴム粒子層2):調製例3
Acetate buffer:酢酸バッファー
Citrate buffer:クエン酸バッファー
Potassium phosphate buffer:リン酸カリウムバッファー
Tris−HCL buffer:トリス−塩酸バッファー
Glycine−NaOH buffer:グリシン−水酸化ナトリウムバッファー
CHES buffer:2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸バッファー
CAPS buffer:3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸バッファー
アリル性二リン酸(FPP):ファルネシル二リン酸
[1−14C]IPP:1−14Cラベルされたイソペンテニル二リン酸(比活性:5Ci/mol)
(天然ゴムラテックスの採取)
定期的に天然ゴムラテックスを採集しているパラゴムノキ(ヘベア・ブラジリエンシス樹)をタッピングして、新鮮な天然ゴムラテックスを採取した。なお、タッピング開始から10分未満に得られた分を廃棄し、それ以降に得られた分を使用した。得られた天然ゴムラテックスを5℃以下に冷却された容器に集め、使用するまで冷蔵(5℃以下)で保管した。
(天然ゴムラテックスの遠心分離、SRP層及びC−セラム層の回収)
新鮮な天然ゴムラテックスを遠心管に入れ、12000Gで30分間遠心を行い、天然ゴムラテックスを2層に分離した。上層のゴム層を除去し、下層を回収した。
次いで、該下層を43000Gで60分間遠心し、5層に分離した。上記5層は、最上層から順に、ラバーフラクション層(ゴム層)、SRP層(小ゴム粒子層1)、フレイウィスリング層(Frey−Wyssling層)、C−セラム層(可溶タンパク質層)、ボトムフラクション層(膜タンパク質層)であった(図1)。
このうち、SRP層及びC−セラム層を回収した。
(精製SRP(小ゴム粒子)層の回収)
得られたSRP層に5倍量の50mMトリス−塩酸バッファー(pH7.4)を加え、50000Gで30分間遠心を行い、SRP層を精製、回収した。同様の操作を3回繰り返してSRP層を精製し、精製SRP層(小ゴム粒子層2)を回収した(図2)。
C−セラム層及び精製SRP層のタンパク質濃度は、ブラッドフォード法(Protein Assay:BIO−RAD社)を用いて測定した。
表1〜6に従い、2mlマイクロチューブに反応溶液(トータル100μl)を調製した。反応溶液を30℃で所定時間反応させた。
反応後の溶液を用いて、下記方法により、ジエチルエーテル相(イソペンテノールを含む相)、ブタノール相(C10〜C100程度の中鎖長のポリプレニルニリン酸を含む相)、トルエン/ヘキサン相(高分子量ゴム(C100を超える長鎖長のイソプレノイド)を含む相)を得て、各相について放射活性の測定を行った。
放射活性の測定結果から、IPP取り込み率、反応効率、平均容積生産性を下記方法により算出した。また、得られたイソプレノイドの重量平均分子量Mwを下記方法により測定した。
結果を表1〜6に示す。
反応後の溶液に、飽和NaCl200μl及びジエチルエーテル1mlを加え、イソペンテノールの抽出を行った。ジエチルエーテル相は他の容器に取り除き、放射活性の測定に用いた。なお、イソペンテノールは、ホスファターゼ活性によりIPPのニリン酸が脱離しアルコールへと変換されることで生成する。
次いで、水相に水飽和ブタノール0.5mlを加え、水飽和ブタノールを用いた中鎖長のポリプレニルニリン酸の抽出操作を2回行った。ブタノール相は他の容器に取り除き、放射活性の測定に用いた。
その後さらに、水相とブタノール相との界面、又は水相に存在していた高分子量ゴムをトルエン/ヘキサン(1:1)0.5mlに抽出した。トルエン/ヘキサンを用いた高分子量ゴムの抽出操作を2回行った。これにより高分子量ゴムを含むトルエン/ヘキサン相を得た。
ジエチルエーテル相、ブタノール相、トルエン/ヘキサン相について、液体シンチレーションカウンターを用いて14Cの放射活性を測定した。
2時間反応させた反応溶液のジエチルエーテル相、ブタノール相、トルエン/ヘキサン相を用いて、放射活性の測定を行い、下記式によりIPP取り込み率(%)を算出した。
IPP取り込み率(%)=取り込まれたIPPの放射活性量/添加したIPPの放射活性量×100
反応開始2時間まで(反応開始後0時間、0.5時間、1時間、2時間)の反応溶液のトルエン/ヘキサン相を用いて、放射活性の測定を行い、反応時間を横軸、放射活性を縦軸にプロットした。これにより、反応溶液のトルエン/ヘキサン相の放射活性は、反応開始2時間まで、反応時間に対して直線的に増加することがわかった。そこで、これらのプロットを直線近似し、反応初速度(dpm/時間)を算出し、上記反応初速度を下記条件に従い換算し、C−セラム層又は精製SRP層のタンパク質50μgあたりの反応効率(nmol/(時間・50μg−protein))を算出した。
1dpm=4.505×10−13Ci
IPPの比活性:5Ci/mol
前述の反応効率(nmol/(時間・50μg−protein))を、イソプレン(C5H8)単位当たりの分子量を68として、平均容積生産性(mg/(時間・50μg−protein・l))を算出した。
2時間反応させた反応溶液のトルエン/ヘキサン相を用いて、トルエン/ヘキサン相中の高分子量ゴムについて、Radio HPLC(下記条件)により重量平均分子量Mwを測定した。
HPLCシステム:GILSON社製
カラム:TOSOH社製のTSKguardcolumn MP(XL),TSKgel Multipore HXL−M(2本)
カラム温度:40℃
溶媒:Merck社製のTHF
流速:1ml/分
UV検出:215nm
RI検出:Ramona Star(Raytest GmbH)
一方、pH8.5以上の実施例では、高分子量ゴムのIPP取り込み率が極めて高く、早い反応速度(高い反応効率)で高分子量ゴムが製造された。また、実施例では平均容積生産性も極めて高かった。特に、マグネシウムイオンを反応溶液に添加することで、優れた製造効率が得られた(実施例19など)。
なお、本実施例では物理的な相互作用により酵素に結合したIPPの放射活性は測定されず、プレニル鎖延長反応により取り込まれたIPPの放射活性が測定されたこともわかった。これは、100℃で10分間熱処理(変性処理)した酵素(C−セラム層及び精製SRP層)を用いて反応させた場合、トルエン/ヘキサン相において放射活性が測定されなかったためである。
Claims (15)
- ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して得られた小ゴム粒子を含む層若しくはC−セラム層、イソペンテニル二リン酸及び低分子量アリル性二リン酸を含む混合液を混合してプレニル鎖延長反応を行い、
前記混合した液のpHが、8.5以上10.5以下である
イソプレノイドの製造方法。 - 前記pHが9以上である請求項1記載のイソプレノイドの製造方法。
- ホスファターゼ阻害剤の存在下、前記プレニル鎖延長反応を行う請求項1又は2記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記ホスファターゼ阻害剤がフッ化カリウムである請求項3記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記イソプレノイドの重量平均分子量が10万以上である請求項1〜4のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記プレニル鎖延長反応は、低分子量アリル性二リン酸に前記イソペンテニル二リン酸が順次縮合する反応である請求項1〜5のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記小ゴム粒子を含む層は、下記工程1〜2により得られる下記小ゴム粒子層1である請求項1〜6のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、前記2層のうちの下層を得る工程。
工程2:得られた前記下層を遠心分離して5層に分離し、前記5層のうちの最上層から数えて2層目の小ゴム粒子層1を得る工程。 - 前記工程1の前記遠心分離が10000〜18000Gで行われ、
前記工程2の前記遠心分離が35000〜50000Gで行われる請求項7記載のイソプレノイドの製造方法。 - 前記小ゴム粒子を含む層は、下記工程3により得られる下記小ゴム粒子層2である請求項7記載のイソプレノイドの製造方法。
工程3:前記小ゴム粒子層1を緩衝液で希釈し、希釈液を47000G以上で遠心分離し、小ゴム粒子層2を得る工程。 - 前記工程1〜3の前記各遠心分離が0〜8℃で行われる請求項9記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記C−セラム層は、下記工程1、4により得られる下記C−セラム層である請求項1〜6のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
工程1:ヘベア・ブラジリエンシス樹から採取したラテックスを遠心分離して2層に分離し、前記2層のうちの下層を得る工程。
工程4:得られた前記下層を遠心分離して5層に分離し、前記5層のうちの最上層から数えて4層目のC−セラム層を得る工程。 - 前記ラテックスは、タッピングを開始してから10分以上経過した後に採取されたものである請求項1〜11のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記ラテックスは、5℃以下で保存されたものである請求項1〜12のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
- 金属イオンの存在下、前記プレニル鎖延長反応を行う請求項1〜13のいずれかに記載のイソプレノイドの製造方法。
- 前記金属イオンがマグネシウムイオンである請求項14記載のイソプレノイドの製造方法。
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