本願で開示する情報処理装置は、身体各部の動きを示す身体時系列データを入力する時系列データ入力部と、太陽光ベクトルデータを入力する太陽光ベクトルデータ入力部と、太陽光の照射量データを入力する照射量データ入力部と、前記身体時系列データから身体の各部位の所定の時点における法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出部と、前記法線ベクトルと前記太陽光ベクトルデータとから、身体の前記各部位の前記所定の時点における太陽光の照射角度を算出する照射角度算出部と、前記照射量データと前記照射角度とから身体の前記各部位の前記所定の時点における太陽光の実照射量を算出する実照射量算出部とを備える。
このように構成することで、本願で開示する情報処理装置は、身体の各部における太陽光の実際の照射量を、身体の動作状態に対応させて正確に算出することができる。このため、太陽光の照射量を考慮した衣服の製造や、太陽光が身体に与える影響などの解析に使用することができる。
上記、本開示の情報処理装置において、身体の形状を示す身体形状データを入力する形状データ入力部と、身体の各部位の動作状況を時系列で入力する動作データ入力部と、前記身体形状データと前記時系列の動作状況データとから前記身体時系列データを作成する時系列データ算出部とからなる時系列データ演算部をさらに備えたことが好ましい。このようにすることで、身体の動作状況に対応した身体時系列データを容易に取得することができる。
また、前記身体時系列データから、所定の時点での身体形状を表す三次元ポリゴンデータを生成するポリゴンデータ算出部をさらに備え、前記法線ベクトル算出部が各ポリゴンにおける垂線を各部位の法線ベクトルとして算出することが好ましい。このようにすることで、三次元での身体形状を好適に表すことができるポリゴンデータを用いて、身体の各部位への太陽光の照射量を算出することができる。
さらに、前記照射角度算出部は、前記法線ベクトルと、前記太陽光ベクトルデータから算出された太陽光ベクトルとの内積を求めて、前記太陽光の照射角度を算出することが好ましい。このようにすることで、太陽光ベクトルと、法線ベクトルとから、身体の各部位における太陽光の照射角度を容易に算出することができる。
さらにまた、前記実照射量算出部で算出された前記各部位の前記所定の時点における太陽光の照射量に基づいて、身体の前記各部位における時間的要素を勘案した照射量を計算する時間的要素勘案部をさらに備えることが好ましい。このようにすることで、例えば一定期間運動を行った場合の、身体各部位の積算照射量や平均照射量など、時間的な要素を勘案した太陽光照射量を得ることができる。
また、前記各部位の前記所定の時点における、太陽光の前記所定の時点での照射量または前記時間的要素を勘案した照射量を、三次元の人体モデル画像上に照射量の値の大きさに応じて区分けして表示する、マッピング表示部をさらに備えることが好ましい。このようにすることで、情報処理装置が算出した太陽光の照射量分布を、わかりやすい視覚的データとして表示することができる。
なお、上記構成にかかる情報処理装置(コンピュータ)が実行する情報処理方法や、コンピュータを上記情報処理装置として機能させるためのプログラム、または、そのようなプログラムを記録した非一時的な記録媒体(non-transitory recording media)も、本願で開示する発明の実施形態に含まれる。
本開示にかかる衣服の製造方法は、太陽光を反射する機能を有した繊維によって形成された遮光性生地を、少なくとも一部に用いて衣服を製造する衣服の製造方法であって、本開示にかかるいずれかの前記情報処理装置を用いて、身体の前記各部位の前記所定の時点における太陽光の照射量を算出し、前記算出された太陽光の照射量の値に応じて、前記遮光性生地の配置位置を決定することが好ましい。
本開示にかかる衣服の製造方法は、上記構成によって、遮光性の生地の好適な配置位置を簡単に設計することができ、遮光性生地を配置した衣服の製造方法を簡便化することができる。
上記衣服の製造方法において、前記算出された太陽光の照射量が所定の閾値より高い部分に、前記遮光性生地を配置することが好ましい。このようにすることで、遮光性の生地を、その効果が十分に発揮される状態で配置することができる。
また、前記身体時系列データとして、当該衣服の着用対象である人間の性別、年齢、身体的特徴を備えた前記身体形状データを用いることができる。さらに、前記太陽光ベクトルデータ、および、前記照射量データとして、当該衣服の販売対象地のデータ、または、当該衣服の販売対象地と類似する条件の地域でのデータを用いることができる。また、製造対象の衣服が競技用の衣服であり、前記身体時系列データとして、着用対象となる競技での実際の動作に基づくデータを用いることができる。このようにすることで、所望の販売対象に対応した衣服を容易に設計製造することができる。
以下本開示にかかる、身体の各部位の所定の時点における太陽光の照射量を算出する情報処理装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
また、本開示にかかる衣服の製造方法として、少なくとも一部に太陽光を反射する機能を有した遮光性生地を用いた衣服を、本開示にかかる情報処理装置を用いて算出された太陽光の照射量に基づいて遮光性生地の配置位置を決定して製造する方法について、図面を参照して具体的に説明する。
なお、本開示にかかる情報処理装置は、単一のコンピュータまたはネットワーク接続された複数のコンピュータで構成されている。情報処理装置は、プログラムをHDDやSSDなどの記憶手段に記憶しており、RAMに適宜展開してCPUで処理することにより、身体の各部位の所定の時点における太陽光の照射量の算出を行う。
(実施形態1)
まず、本開示にかかる情報処理装置の具体的な内容について、実施の形態1として説明する。
[構成]
図1は、実施形態1における情報処理装置1の構成例を示す機能ブロック図である。
図1に示す情報処理装置1は、身体時系列データ、太陽光ベクトルデータ、および、太陽光の照射量データを入力し、身体の各部位の所定の時点における法線ベクトルを用いて、身体の各部位に対する所定の時点での太陽光の照射角度を求め、これに太陽光の照射量を掛け合わせることで、身体の各部位の所定の時点における太陽光の照射量を算出する。このため、本実施形態にかかる情報処理装置1は、時系列データ入力部2と、太陽光ベクトルデータ入力部3と、照射量データ入力部4と、法線ベクトル算出部5と、照射角度算出部6と、実照射量算出部7とを備える。
時系列データ入力部2は、身体各部位の動きを示す身体時系列データを入力する。身体時系列データは、身体の運動を表すデータであり、例えば、身体の少なくとも1つの部位の時系列による位置データを、三次元座標データとして表すものである。また、身体時系列データとしては、初期状態の身体の三次元の静止データと、静止データ上の各点における所定時間後の変位を三次元ベクトルまたは各変位ベクトルとして表すものとすることもできる。身体時系列データとしては、絶対運動を示すデータなどが含まれる。
本実施形態の情報処理装置1では、身体時系列データを直接時系列データ入力部2に入力する方法以外に、静的データである身体形状データと身体の各部位の動作状況を時系列で表す動作状況データとから算出する、時系列データ演算部をさらに備える構成とすることができる。
図2は、本実施形態にかかる情報処理装置がさらに備える、時系列データ演算部の構成例を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、本実施形態にかかる情報処理装置1がさらに備える時系列データ演算部10は、形状データ入力部11と、動作データ入力部12と、時系列データ算出部13とを備えている。
身体形状データは、身体形状を、三次元座標を用いて示したものであり、例えば身体形状計測器等を用いて、測定対象である人間の身体形状をX線や超音波等を用いて計測して取得することができる。また、複数の測定対象から取得された身体形状を性別、年齢、身体サイズ等によってグループ化し、各グループでの平均値を身体形状データとすることができる。さらに、実測もしくは従前に取得された基準データに基づいて、これに所定の幅を見込んで作成した想定データを身体形状データとすることができる。
動作状況データは、歩行や立ち屈みその他の日常の動作や、スポーツにおける動作など、所定の身体を動かす状況での、身体各部位の時間ごとの変位を示すデータである。動作状況データは、所定の動作を行う場合の身体各部位の変位方向と変位量とを一般化したデータとして把握することができる。
時系列データ算出部13では、形状データ入力部11で入力された身体形状データと、動作データ入力部12で入力された動作状況データとに基づいて、所定の身体形状の人間が所定の動作を行った際の身体の各部位の変位を時系列のデータとして算出する。このようにして、本実施形態の情報処理装置1では、時系列データ演算部10としての形状データ入力部11、動作データ入力部12、時系列データ算出部13とを備えることで、静的データである身体形状データと、体の動きを示す動作状況データとから、身体時系列データを得ることができ、身体時系列データを間接的に時系列データ入力部2に入力することができる。
図1に戻って、太陽光ベクトルデータ入力部3は、太陽光ベクトルのデータを入力する。太陽光ベクトルデータは、地表面に対する太陽光の照射方向を示すベクトルであって、太陽の方位と高度に基づいて定められるものである。
図3は、太陽光ベクトルSを説明する図である。
図3に示すように、太陽光ベクトルS(23)は、太陽21の方位角αと地表面22に対する高度を示す角βとから定まる。なお、本実施形態の情報処理装置1では、図3に示すように、太陽21の方位角αを、東方向を基準(0°)とする反時計回りの角度として定め、太陽の高度角βを地表面22に対する垂直線(Z軸方向線)と太陽21の方向とのなす角度として定めている。しかし、太陽光ベクトルSは、地表面22に対する太陽21の位置が示されるベクトルであればよいため、方向角を、例えば北方向を基準として定めもてもよく、また、高度角を地表面に対する太陽光の入射角(図3における90°−β)として定めてもよい。
太陽光ベクトルデータは、例えば、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発表しているデータを使用することができる。また、その他にも、国立天文台のウェブサイトなどから、場所データとして、太陽光ベクトルデータが必要とする場所の緯度と経度とを入力し、季節データとして、所定の月日を入力することによって、当該場所の当該月日での南中高度情報、南中時間、日の出日の入りの時間と方位についての歴情報が得られる。この太陽についての歴情報から、当該場所の当該月日における各時間での太陽の方位と高度とを把握することができ、各時間における地表面に対する太陽光の入射方向である太陽光ベクトルSを把握することができる。
照射量データ入力部4は、所定の地点における所定の日時の太陽光の照射量である太陽光の照射量データを入力する。この太陽光の照射量データも、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から入手することができる。
ただし、太陽の高度と照射量との関係は、測定地点の緯度や季節によってその傾斜度合いは異なるもののほぼ線形の関係(正比例関係)を有していることが確認されている。このため、身体各部への太陽光照射量の絶対値を求める必要がない場合には、本実施形態において用いられる太陽光の照射量データとして、一定の定数を定めればよい。
また、身体の各部位への太陽光照射量の実際の値を求める場合には、所定の照射係数、例えば、季節による晴天比率もしくは快晴比率、または、大気中の微細物質の状態など、太陽光が地表に到達することを妨げる要因となるさまざまな指標についての程度を、最大値を1、最小値を0とする係数として表したものを掛け合わせることができる。なお、太陽光の照射係数は、季節や地域による太陽光の照射割合を相対的に比較する場合には必要な情報であるが、身体の各部位における太陽光の照射量を比較検討する場合には、身体の各部位に対する照射光において共通の数値となるものであるため、必ずしも必要となるものではない。そこで、本実施形態の情報処理装置1では、太陽光の照射係数は通常「1」と把握していて、実用上はこのような想定とすることによる問題は生じない。
なお、時系列データ入力部2、太陽光ベクトルデータ入力部3、照射量データ入力部4による入力処理の形態は特定のものに限られない。例えば、入力デバイスを介してユーザからデータを受け付けてもよいし、情報が記録されたファイルを読み込んでもよい。さらに、無線または有線の通信によりデータを受信してもよい。これらの入力部は、入力したデータを、例えば、情報処理装置1の備える各種のメモリ手段に記録するなどして、法線ベクトル算出部5、照射角度算出部6、実照射量算出部7がアクセス可能な状態にすればよい。
法線ベクトル算出部5は、時系列データ入力部2で入力された身体時系列データに基づいて、身体の各部位について所定の時点における法線方向を算出するものである。身体の各部位における法線とは、その部位が面している方向を示すこととなる。
本実施形態の情報処理装置1では、図示しないポリゴンデータ算出部をさらに備えていて、身体形状データとしてポリゴンデータ算出部で算出された三次元ポリゴンデータを用いている。このため、法線ベクトルは、それぞれが微細な平面として把握することができる各ポリゴンの法線として得られるものである。
ここでポリゴンデータとは、図4に示すように、三次元グラフィックスにおいて、モデリングした三次元図形の表面を三角形や四角形等の複数の多角形に分解し、これらの多角形を処理単位として三次元図形を形成するデータを意味するものである。本実施形態の情報処理装置1では、身体形状として三次元モデルに基づいてその時系列データを構成し、当該三次元モデルの表面に微細にポリゴンデータを配置している。
図4のポリゴンデータは、走る動作において左股関節が最も屈曲した曲面における左膝関節周辺のポリゴンデータの変位を示す図である。図4(a)が短距離走、図4(b)が長距離走の動作時におけるポリゴンデータの変位を示し、身体形状の変位量に応じて多角形の数や形状が変化していることがわかる。
なお、身体の各部位における所定の時点での法線ベクトルの算出手法は、上記例示したポリゴンを用いたものには限られない。例えば、上記例示したポリゴンを用いずにそれぞれの測定点そのままの集合体として把握する場合として、各部位における外接面を想定してその外接面の法線を当該部位の法線として把握することができる。ただし、この場合にはデータ処理の対象となる測定点の数が膨大となるため、情報処理装置として高い計算能力を備えたコンピュータが必要となる。特に後述するように、太陽光照射量のデータを、衣服の設計などに用いる場合には、身体時系列データとしてあまりに多数の測定点のデータは不要で、むしろ、計算処理上の効率を低下させる要因となるため、所定の大きさのポリゴンを用いて一定の領域を平均化されたデータとして用いることがより好ましい。
照射角度算出部6は、法線ベクトル算出部5で算出された、身体の所定の部位における法線の情報と、太陽光ベクトルデータ入力部3から入力された太陽光ベクトルデータとに基づいて、身体の各部位それぞれにおける太陽光の照射角度を算出する。
図5に示すように、本実施形態の情報処理装置1では、身体の各部位の所定の時点における方向を、その部位を表すポリゴン24の法線として把握しているため、この法線の単位ベクトルP(25)と、太陽21の位置から得られる当該時点での地表に対する太陽光単位ベクトルS(23)との内積を求める(式(1))。
上記式1として求めた、ベクトルPとベクトルSとの内積dの値が1であれば、当該ポリゴン24は太陽と正対していることが、また、内積dの値が0より大きければ、当該ポリゴン24が太陽の方向を向いている、即ち太陽光の照射を受けることが、内積dの値が0より小さければ、当該ポリゴン24が太陽に背を向けている、即ち太陽光の照射を受けない状態であることがわかる。実際には、ベクトルPとベクトルSとを、それぞれ単位ベクトルとして把握することで、内積dの値から両ベクトルの交差角度を算出することができる。
なお、照射角度算出部6における、身体の所定の部位における太陽光の照射角度の算出は、上記説明した法線ベクトルPと太陽光ベクトルSとの内積をとる方法に限られず、オイラー角などの三次元空間における方位を示す角度として知られている角度などを用いて、両ベクトルの角度データからその交差角度を算出するなどの、各種手法を用いることができる。
実照射量算出部7は、照射角度算出部6で算出された身体の所定部位に対する太陽光の照射角度情報と、照射量データ入力部4から入力された太陽光の照射量データとに基づいて、当該部位における太陽光の実際の照射量を算出する。上記のように、本実施形態の情報得処理装置1では、身体の各部位における太陽光の照射角度を、ポリゴンの法線ベクトルPと太陽光ベクトルSとの内積dとして求めているため、身体の各部位への実際の照射量Inは、式(2)として示すように、太陽光の照射量データの数値Igに内積の値dを掛け合わせたものとして把握することができる。
なお、前述のように、身体の各部に対する太陽光の照射量の相対的な比較を行う上では、各部位における太陽光の照射角度のみが問題となるため、実際の照射量Inの代わりに照射角度を示す値dを用いて把握することができる。
このようにして、本実施形態の情報処理装置では、身体時系列データと、太陽光ベクトルデータと、照射量データとに基づいて、身体の各部位における太陽光の照射量を算出して、太陽光照射量データを得ることができる。
なお、本実施形態の情報処理装置1では、身体の所定の部位における太陽光照射量データとして、時系列データに対応した所定の時点でのデータに基づいて、太陽光の照射の時間的な要素を勘案する時間的要素勘案部をさらに備えることができる。太陽光照射量の時間的な要素を勘案する例としては、所定時間にわたって運動する身体の各部位への太陽光の照射量を積算した積算照射量を把握する場合や、各部位における太陽光が照射されている単位時間当たりの照射量である平均照射量を求める場合などが想定される。平均照射量を求めることで、照射時間の長短の影響を排除することができるため、例えば、太陽光の照射量の強度に応じた対策を検討する場合に特に有効となる。
このような時間的要素勘案部を備えることで、身体時系列データを得られる範囲において、例えばランニングやテニス、野球、サッカーなどの想定対象である各種競技における、所定時間やセット、イニング、ハーフなどの各競技における競技時間の所定単位における積算量や照射時間当たりの平均量として、身体の部位ごとの太陽光照射量データを把握することができる。
また、本実施形態の情報処理装置1では、身体の各部位ごとに得られた太陽光の照射量データを、三次元の人体モデル画像上に、照射量に応じて色や表示パターンを区分けして表示するマッピング表示部を備えることができる。
本実施形態の情報処理装置は、マッピング表示部を備えることで、所定条件下における身体の各部位における太陽光照射量の多寡を視覚的イメージとして容易に把握させることができる。
このように、情報処理装置1において、時間的要素勘案部と、マッピング表示部とを備えることは、身体の時系列データに基づく各部位の太陽光の照射量を把握する上で、特に後述する、衣服の製造方法として本開示の情報処理装置1を用いる上で有用となる。しかし、これら、時間的要素勘案部や、マッピング表示部は、本開示にかかる情報処理装置における必須の構成要件ではない。
情報処理装置1の時系列データ入力部2、太陽光ベクトルデータ入力部3、照射量データ入力部4、法線ベクトル算出部5、照射角度算出部6、実照射量算出部7は、コンピュータのプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現することができる。また、情報処理装置1は、必ずしも1台のコンピュータで構成する必要はなく、例えば、互いに通信可能な複数のコンピュータで実現されてもよい。
[動作例]
以下、本開示にかかる情報処理装置における、データ処理の流れである動作例について説明する。
図6は、情報処理装置1の動作例を示すフローチャートである。
以下、本実施形態にかかる情報処理装置の動作例として、夏用のランニングウェアの設計に用いるデータを、本実施形態にかかる情報処理装置1を用いて得る場合について、例示して説明する。
図6に示す例では、まず、時系列データ入力部2が、身体時系列データを入力する(ステップS01)。
身体時系列データとして、例えば、成人男性の身体データに基づいて、身体絶対運動における各部位の三次元データが入力される。身体絶対運動として、例えば、太陽を背にした状態、すなわち北を向いた状態で静止して立っている状態のデータが入力される。
太陽光ベクトルデータ入力部3は、太陽光ベクトル高度データを入力する(ステップS02)。
太陽光ベクトルデータとしては、設定条件として定めた場所と時間、例えば、大阪における夏至の正午という条件下での太陽の位置情報を、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構のデータベースなどから取得することができる。
照射量データ入力部4は、太陽光の照射量データを入力する(ステップS03)。
今回の場合は、上記選定した、夏至の日の正午における大阪での照射量を取得して用いた。
なお、上記した時系列データ入力部2への身体時系列データの入力(ステップS01)、太陽光ベクトルデータ入力部3への太陽光ベクトルデータの入力(ステップS02)、照射量データ入力部4への太陽光の照射量データの入力(ステップS03)の順序は特に限定はなく、上記フローチャート以外の順序でも、また、2つもしくは3つのデータを同時に入力することでもかまわない。
その後、法線ベクトル算出部5が身体時系列データに基づいて、身体の各部位における法線ベクトルを算出する(ステップS04)。
本実施形態の情報処理装置では、身体形状を三次元的に捉えるためにポリゴンデータ算出部が算出したポリゴンデータを使用していて、各部位の法線ベクトルは、身体の所定の部位の所定の時点における各ポリゴンそれぞれの法線のベクトルとして算出される。
なお、法線ベクトル算出部4による法線ベクトルの算出(ステップS04)は、太陽光ベクトルデータ入力部3への太陽光ベクトルデータの入力(ステップS02)、照射量データ入力部4への照射量データの入力(ステップS03)の処理が行われる時点よりも前の時点においても実行することができる。
その後、法線ベクトル算出部4で算出された法線ベクトルと、太陽光ベクトルデータ入力部3に入力された太陽光ベクトルデータとに基づいて、照射角度算出部6が身体の各部位における太陽光の照射角度を算出する(ステップS05)。
各部位の照射角度の算出は、ステップS04で得られた各ポリゴンにおける単位ベクトルで表された法線ベクトルPと、同じく単位ベクトルで表されたその時点での太陽高度データに基づいて得られた太陽光ベクトルSとの内積dとして算出される。
次に、実照射量算出部7において、照射角度算出部5で算出された照射角度データに基づいて、身体の各部位での所定の時点における実照射量が算出される(ステップS06)。
具体的には、照射角度算出部6で算出された身体の各部位を示すポリゴンの法線ベクトルPと太陽光ベクトルSとの内積dに、太陽光の各時点での照射量Igとを掛け合わせることで、各部位の実照射量Inが算出される。
図6に示す処理により、成人男性が晴天の夏至に、大阪で12時に北向きに静止して立っていた状態での身体の各部位における太陽光の照射量を把握することができる。
[動作の変形例]
本実施形態の情報処理装置における動作の変形例を、図7を用いて説明する。
図7は、所定の時間所定の動作を行った場合における、身体の各部位への照射時間の要因を勘案した太陽光の照射量の違いを一目で把握するようにマッピングして表示する場合のフローチャートである。
図7において、身体時系列データの入力(ステップS11)、太陽光ベクトルデータの入力(ステップS12)、太陽光の照射量データの入力(ステップS13)は、図6で示した、ステップS01からステップS06までの流れと同じである。
ただし、所定の時間所定の動作を行った状態での照射量を把握するため、身体時系列データとしては、例えばランニングなどの運動を行った際の各時点での身体形状データが入力される。また、太陽光ベクトルデータと、太陽光の照射量データとしても、身体時系列データの各時点に対応する時点の、太陽光ベクトルデータと照射量データが入力される。
法線ベクトルの算出(ステップS14)では、上記時系列身体データの各時点での各部位の法線ベクトルが求められる。
照射角度の算出(ステップS15)では、時系列身体データの各時点での各部位の法線ベクトルと、その時点での太陽光ベクトルデータとから、身体の各部位での太陽光の照射角度が算出される。
そして、身体各部の各時点での太陽光の照射量を算出するステップS16で、各部位への太陽光の実際の照射量が求められる。このように、ステップS14〜ステップS16までの処理は、各時点での時系列データごとに行われるものであるが、各処理の内容自体は、図6で示したステップS04からステップS06までの流れと同じである。
図7に示すフローチャートでは、情報処理装置1に備えられた時間的要素勘案部が、検討対象期間内における、実照射量算出部7で算出された各部位の各時点での太陽光照射量データから、太陽光が照射している時間の情報に基づいて、太陽光照射量の単位当たりの平均値を求める(ステップS17)。
その後、マッピング表示部が、時間的要素勘案部で得られた各部位での平均照射量データについて、データ量に基づいて、表示色や、表示濃度、または、表示部分におけるドットパターンなどの表示パターンの種類を変化させることによって区分けをして、三次元または二次元の人体モデル画像上に表示(マッピング)する(ステップS18)。
このようにして、所定の条件下における身体の部位ごとの太陽光照射量の大小を視覚的に把握することができる、太陽光マッピングデータを得ることができる。
(実施形態2)
以下、本開示にかかる衣服の製造方法について、実施形態1として説明した情報処理装置において得られた太陽光照射量データに基づいて、所定の位置に太陽光を反射する機能を有した繊維素材を用いたランニングシャツを製造する方法を例示して説明する。
図8および図9は、実施形態1で例示した情報処理装置によって得られた、身体の各部位における太陽光照射量を示した、マッピング図面である。
図8および図9では、実施形態1で示した情報処理装置1において、動作の変形例として図7に示したフローチャートでの処理によって得られた、真夏に大阪で1日北を向いて立っていた場合の、成人男性の各部位への太陽光照射光量の平均照射量をマッピングしたシミュレーション結果を示している。
なおこのシミュレーションでは、真夏を想定するために、太陽光の照射量が最も大きな値となる夏至を中心とする前後1週間の期間の中で、気象条件などの関係から実際の太陽光照射量が最も多かった日のデータを選択して、情報処理装置に入力する太陽光ベクトルデータ、太陽光の照射量データとして用いた。
図8は、身体の正面側のデータを、図9は、身体の背面側のデータを示す。
図8、図9共に、太陽光の平均照射量について、平均照射量を0.0〜0.2MJ/m2の範囲、0.2〜0.4MJ/m2の範囲、0.4〜0.6MJ/m2の範囲、0.6〜0.8MJ/m2の範囲、0.8MJ/m2以上の範囲の5つの領域に区分して、照射量が多い領域がより濃い色となるようなグレースケールで示したものである。なお、図8、図9共に、マッピング図面の横に示した指標では、指標表示の便宜上、照射量の上限値を1.0(MJ/m2)として区切っているが、この最も濃い色で表示されている部分は上記のように0.8MJ/m2以上の照射量であったことを示す部分である。実際に、図8、図9に示すマッピングデータにおいても、図面上の最も濃い色の部分には1.4MJ/m2の照射量となった部分が存在している。
図8、図9のマッピングデータでは、北側を向いて立っていた状態を示しているため、図8に示す身体の前面側に比べて図9に示す身体の背面側の方が、照射量が比較的多い値となる0.6MJ/m2以上である範囲が広い。
また、太陽高度データとして、夏至前後の月日のデータを用いたため太陽がほぼ真上から照射され、図8に示す身体の正面側では胸筋の下側部分にわずかに0.2MJ/m2以上の範囲が存在するが、図9に示す身体の背面側では、肩甲骨の影となるため背中部分への太陽光の照射はほとんど無いことが確認できる。
本実施形態にかかる衣服の製造方法では、図8、図9に照射マッピングデータとして例示したような、身体の各部位への太陽光の照射量に応じて、太陽光の照射量が多い部位の素材として太陽光を遮光する機能を有した遮光性生地を用い、太陽光の照射量の比較的少ない部位には、通気性を高くした生地を用いる。
図10、図11は図8および図9で示した太陽光照射のマッピングデータに基づいて、太陽光の照射量が高い部分、一例として、太陽光が照射している時間当たりの平均照射量が0.6MJ/m2以上となる範囲に、遮光性生地を用いるように設計したスポーツシャツである。
図10がスポーツシャツ30の模式的正面図を、図11がスポーツシャツ30の模式的背面図を示している。図10、および、図11において、ドットパターンを付加して示した部分、すなわち、前身頃の上部半分以上の部分32と、後身頃の上部2/3以上の部分35、肩から袖にかけての上部半分以上の部分33a、33bと、衿34に遮光性生地を配置した。一方、図10および図11において、白地で示した部分、すなわち、脇部38a、38bから前身頃のサイド部39a、39bと、後身頃のサイド部分41a、41bにかけての部分、前身頃の上部半分未満の部分37と、後身頃の上部2/3未満の部分40に通気性生地を配置した。
なお、図10および図11に示す、スポーツシャツにおける遮光性生地と通気性生地との配置部分は、図8および図9で示す、太陽光照射量のマッピングデータにおける平均照射量が0.6MJ/m2以上となる部分と0.6MJ/m2以下の部分との区分けとは厳密には一致していない。これは、実際にはこのウェアを着用した人が前かがみになったり、そったり、ひねったりなど様々な動作を行い、とくにスポーツウェアであるためにこの動きが大きいことが想定される。このため、前身頃と後身頃においては、遮光性生地で覆う部分の割合を大きめに採用したためである。
本実施形態で示すスポーツシャツ30における遮光性生地は、芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエステルからなる芯鞘構造の複合繊維で構成されている。遮光性生地を形成する繊維としては、酸化チタンやタルクなどの充填粒子を多量に含む繊維や、赤外線吸収性繊維等を用いることも考えられるが、これらの繊維は繊維自体が熱を持ちやすく着心地が良くないという課題があり、本実施形態では、鞘成分と芯成分の屈折率差で太陽光線を反射する機能を有し、繊維自体は発熱しない構成のものを用いた生地を使用することで、涼しい着心地を実現している。
なお、本実施形態のスポーツシャツ30において、遮光性生地の通気量はJISL1096A法(フラジール法)において80〜160cm3/sが好ましく、さらに好ましくは90〜150cm3/sである。一方、通気性生地の通気量は、同じくフラジール法において150cm3/sを超えることが好ましく、さらに好ましくは170〜350cm3/sであり、とくに好ましくは180〜270cm3/sである。
なお、遮光性生地および通気性生地としては、通常のシャツ生地、例えば、織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等、編物としては、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などを用いることができる。
本実施形態のスポーツシャツの製造方法において、生地の選定後の実際のシャツの縫製手段としては、従来から知られているシャツ製造方法をそのまま使用することができる。また、縫製をしないホールガーメントと言われている一体的に編成される方法によって、シャツを形成することもできる。
具体的には、遮光性生地として、東洋紡STC社製のポリエステルFD84T/36fを交編率53.4%とし、三菱レイヨン社製、商品名“ソーラーカット”84T/48fを交編率46.6%とし、編機種:34インチ 28ゲージでニット編みしたものを用いた。また、通気性生地としては、ポリエステルウーリー84T/36fを交編率67.2%とし、ポリエステルFY 84T/36fを交編率32.8%とし、編機種:34インチ 28ゲージでニット編みしたものを用い、これら遮光性生地と通気性生地の各編物を使用してシャツを縫製した。
図12、図13は、本実施形態にかかる製造方法によって製造された、スポーツシャツによる太陽光の遮光性能を調べた効果確認実験の実験条件と実験結果とを示すものである。
本実施形態にかかる衣服の製造方法の効果確認実験としては、実施例として図10および図11で示した構成で、遮光性生地と通気性生地とを用いて作成したシャツ、比較例1として、同じ形状で、全ての生地を遮光性生地で作成したシャツ、さらに、比較例2として、同じ形状で、全ての生地を通気性生地で作成したシャツの3種類のシャツを用いてマネキンに着せた状態で屋外に置き、日光照射下における衣服内温度を測定した。
なお、上記太陽光照射マッピングデータとの整合性を確かめる観点から、それぞれのシャツを着せたマネキン3体を北側に向けて配置した。そして、第1の位置では、上半身だけのマネキンを肩の位置を実際に人間が立っている位置に相当する高さに維持してハンガーでつるした状態、第2の位置では、上半身だけのマネキンを肩の位置が地上から約1m程度の低い位置となるようにしてハンガーでつるした状態、さらに、第3の位置では、下半身も有するマネキンの上半身部分に着せた状態とした。また、それぞれのマネキンの配置位置は、互いに東西方向に10mずつ離して配置し、測定位置における風通りやコンクリートブロック地面からの照り返しによる条件の際を吸収できるように、実施例、比較例1、比較例2のそれぞれのシャツを、第1の位置から第2の位置、さらに第3の位置を経て再び第1の位置に戻すように順番に測定場所を変えて測定した。
各マネキンには、図12に示すように、肩51、肩甲骨52、背中の側方部分53に相当する部分に温度センサを配置し、上記した第1、第2、第3それぞれの測定位置に配置した後10分間経過後の各部の温度を測定し、各測定位置でそれぞれ3回の測定を行ってその測定結果を平均値として示した。
図13は、上記効果確認実験の実験結果を示すグラフと、データ表である。
図13のグラフにおいて、左側から、実施例である遮光性生地と通風性生地とを用いて構成したシャツ54、比較例1である全ての部分を遮光性生地で構成したシャツ55、比較例2である全ての部分を通風性生地で構成したシャツ56の測定データを示す。図13の表においても、同じデータには同じ符号を付している。
図13のグラフ、および、表に示したデータから明らかなように、いずれの測定位置に置いても、実施例である遮光性生地と通風性生地とを用いて図10,図11のように構成したシャツ54の温度が低かった。特に、太陽光が多く照射される肩51部分の温度は、遮光性生地を用いている実施例のシャツ54、比較例1のシャツ55の温度、約29度と比較して、通風性の高い生地が配置されている比較例2のシャツ56の温度が31度と2度以上も高くなっている。
比較例2のシャツ56で、肩甲骨部分の温度が27度以上と、他の2つのシャツの温度である約26度よりも高いのは、肩部分における遮光効果が得られなかったために、肩部分からシャツの内部に大きな熱量が入り込んだ結果であると考えられる。
また、背中53部分では、図7に示すマッピングデータに示されたように太陽光の照射量が小さいため、通風性生地を用いた実施例のシャツ54の温度は23度と、通風性が低い比較例1のシャツ55の温度24度よりも低くなっている。なお、背中53の測定結果において、通風性が高いにもかかわらず比較例2のシャツ56の温度が24度と高いのは、肩甲骨部分52の測定結果と同様に、肩部分51への太陽光の照射を十分に防止できなかったために、肩部分51の高温がシャツ内部の背中部分53にまで影響したものと考えられる。
以上説明したように、本実施形態にかかるスポーツシャツの製造方法によれば、実施形態1として説明した太陽光の照射量を算出する情報処理装置における身体の各部位における太陽光照射量の算出結果に基づいて、スポーツシャツを構成する、太陽光を遮光する機能を備えた生地と通風性の高い生地との配置位置を決定することで、遮光性と通風性によるクーリング性をより高いレベルで両立させたスポーツシャツを提供することができる。
なお、本実施形態では、実施形態1に示した情報処理装置による太陽光の照射量の算出結果に基づいて遮光性と通風性とを有する生地の割合を設計した衣服の製造方法として、スポーツシャツの製造方法を例示して説明し、さらに、実際の製品を検証してその効果を確認した。しかし、本開示にかかる衣服の製造方法としては、上記したシャツのように上半身用の衣服に限らず、ズボンやスカートなどの下半身用の衣服や、スポーツスーツやワンピース等の全身を覆う衣服についても、少なくとも一部に遮光性の高い生地を用いる衣服の製造方法において、好適に適用することができる。
そして、太陽光の照射量の分布データに基づいて、遮光性の高い生地をどの部分に配置するかを決定することができ、例えば実際の衣服における遮光性生地の配置位置による効果をその都度確認する場合と比較して、はるかに効果的に、新しい形態の衣服の適切な設計を行い、この衣服の製造を行うことができる。
なお、本実施形態で示した衣服の製造方法において、製造する衣服が、ランニング、テニス、ゴルフなどの特定のスポーツ用ウェアの場合には、身体時系列データとして当該スポーツを所定の時間行った場合のデータを用いることが好ましい。
また、太陽光ベクトルデータと、太陽光の照射量データとして、例えば、沖縄、大阪、札幌、その他海外の各都市のデータを用いることで、製造する衣服の販売地域に応じたより適切な遮光性生地の配置を工夫した衣服を製造することができる。
さらに、太陽光ベクトルデータと、太陽光の照射量データとして、夏(例えば夏至)と冬(例えば冬至)のデータを使い分けることで、夏用または冬用の着用時期に合わせたより良好な遮光性能を備えた衣服を製造することができる。
以上、本開示の情報処理装置、情報処理方法、および、情報処理プログラムは、身体の各部位における太陽光の照射量を正確、かつ、簡便にシミュレーションすることができる。このため、さまざま条件下における、身体の各部位への太陽光照射量データを容易に得ることができる。
また、本開示にかかる衣服の製造方法は、太陽光を遮る機能を備えた遮光性生地を一部に用いた衣服の製造を行う場合に、実際に衣服を製造して検証することなく、本願で開示する情報処理装置による算出結果を用いて、遮光性機能を有する生地の配置位置を決定して、衣服の設計と、その製造を行うことができる。このため、遮光性機能を備えた各種の衣服を、容易に製造することができる。