以下、本発明に係る建設機械の実施の形態を、ハイブリッド式油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1において、1はハイブリッド式の建設機械の代表例としてのハイブリッド式油圧ショベルを示している。ハイブリッド式油圧ショベル1(以下、油圧ショベル1という)は、基体としての自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に設けられた旋回軸受装置3と、該旋回軸受装置3を介して下部走行体2上に旋回可能に搭載された旋回体としての上部旋回体4と、該上部旋回体4の前側に俯仰動可能に取付けられ土砂の掘削作業等を行う作業装置5と、上部旋回体4を下部走行体2に対して旋回させる後述の旋回装置15とを含んで構成されている。
下部走行体2は、トラックフレーム2Aと、該トラックフレーム2Aの左,右両側に設けられた駆動輪2Bと、トラックフレーム2Aの左,右両側で駆動輪2Bと前,後方向の反対側に設けられた遊動輪2Cと、駆動輪2Bと遊動輪2Cに巻回された履帯2D(いずれも左側のみ図示)とにより構成されている。左,右の駆動輪2Bは、油圧モータ(油圧アクチュエータ)からなる左,右の走行油圧モータ2E,2F(図2参照)によって回転駆動される。一方、トラックフレーム2Aの中央部の上側には、旋回軸受装置3が取付けられている。
作業装置5は、後述する旋回フレーム6の前側に俯仰動可能に取付けられたブーム5Aと、該ブーム5Aの先端部に俯仰動可能に取付けられたアーム5Bと、該アーム5Bの先端部に回動可能に取付けられたバケット5Cと、これらを駆動する油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)からなるブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fとにより構成されている。
上部旋回体4は、強固な支持構造体をなす旋回フレーム6を含んで構成されている。旋回フレーム6は、旋回軸受装置3を介して下部走行体2上に旋回可能に搭載されている。このために、旋回フレーム6の下面側には、旋回軸受装置3が取付けられている。一方、旋回フレーム6上には、後述のキャブ7、カウンタウエイト8、エンジン9、アシスト発電モータ10、油圧ポンプ11、蓄電装置14、旋回装置15、電力変換装置19等が設けられている。
7は旋回フレーム6の左前側に設けられたキャブを示している。キャブ7内には、オペレータが着座する運転席が設けられている。運転席の周囲には、後述のコントロールバルブ13に接続された走行用の操作レバー、作業用の操作レバー等(いずれも図示せず)が配設されている。
8は旋回フレーム6の後端側に取付けられたカウンタウエイトを示している。カウンタウエイト8は、作業装置5との重量バランスをとるものである。
9はキャブ7とカウンタウエイト8との間に位置して旋回フレーム6上に設けられたエンジンを示している。エンジン9は、例えばディーゼルエンジンにより構成され、ハイブリッド式油圧ショベル1の内燃機関として、上部旋回体4に左,右方向に延在する横置き状態で搭載されている。エンジン9の出力側には、後述するアシスト発電モータ10と油圧ポンプ11が接続されている。
10はエンジン9に接続された発電電動機としてのアシスト発電モータを示している。アシスト発電モータ10は、例えば永久磁石式の同期電動機によって構成され、エンジン9によって回転駆動されることにより発電を行い、または電力が供給されることによりエンジン9の駆動を補助(アシスト)するものである。即ち、アシスト発電モータ10は、エンジン9によって回転駆動されることにより発電を行う機能(発電機機能)と、後述の直流母線22A,22Bを介して電力供給されることによりエンジン9の駆動を補助する機能(電動機機能)とを有するものである。
アシスト発電モータ10の発電電力は、後述する第1のインバータ20および直流母線23A,23Bを介して、後述する第2のインバータ21およびチョッパ22に供給され、旋回電動モータ17の駆動、蓄電装置14の充電(蓄電)が行われる。一方、エンジン9の駆動を補助するときは、アシスト発電モータ10は、蓄電装置14に充電された電力(ないし旋回電動モータ17の回生電力)により駆動される。
11は作動油タンク12と共に油圧源を構成する(複数の)油圧ポンプを示している。油圧ポンプ11は、例えば斜板式、斜軸式またはラジアルピストン式油圧ポンプ等によって構成され、エンジン9により駆動されるものである。油圧ポンプ11は、各油圧アクチュエータ、即ち、下部走行体2の走行油圧モータ2E,2F、作業装置5のブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5F、後述の旋回油圧モータ16等を駆動するための動力源として、作動油タンク12内の作動油を昇圧して後述のコントロールバルブ13に向けて吐出する。
13は旋回フレーム6上に設けられたコントロールバルブを示している。コントロールバルブ13は、各油圧アクチュエータ(具体的には、走行用モータ2E,2F、作業装置5の各シリンダ5D,5E,5F、旋回油圧モータ16)を制御する複数個の油圧制御弁により構成されている。コントロールバルブ13は、油圧ポンプ11から供給される圧油の供給と排出を、操作レバーの操作に基づく油圧信号、後述の統合コントローラ26の指令信号に基づく電磁比例弁27からの油圧信号等に応じて切換える(圧油の吐出量および吐出方向を制御する)。これにより、油圧ポンプ11からコントロールバルブ13に供給された作動油(圧油)は、それぞれの油圧アクチュエータ2E,2F,5D,5E,5F、16に適宜分配され、これら各油圧アクチュエータ2E,2F,5D,5E,5F、16を駆動(伸長、縮小、回転)することができる。
14は旋回フレーム6上に設けられた蓄電装置を示している。蓄電装置14は、例えば電気二重層のキャパシタを用いて構成されている。蓄電装置14は、アシスト発電モータ10による発電電力、後述する旋回電動モータ17による旋回減速時の発電電力(回生電力)を充電(蓄電)し、または、充電された電力をアシスト発電モータ10、旋回電動モータ17に放電(給電)するものである。蓄電装置14としては、キャパシタ以外にも、例えばリチウムイオンバッテリ等のバッテリを用いることもできる。
15は上部旋回体4(旋回フレーム6)に設けられた旋回装置を示している。旋回装置15は、旋回軸受装置3に回転力を伝達することにより、上部旋回体4を下部走行体2に対して旋回させるものである。ここで、旋回装置15は、旋回油圧モータ16と旋回電動モータ17とが協働して上部旋回体4を旋回駆動する、いわゆるハイブリッド型の旋回装置として構成されている。このために、旋回装置15は、斜板式の油圧モータ等の油圧アクチュエータにより構成された旋回油圧モータ16と、電動モータ等の電動アクチュエータにより構成された旋回電動機としての旋回電動モータ17と、旋回油圧モータ16および/または旋回電動モータ17から入力された回転を減速する減速機構18と、該減速機構18によって減速された回転を旋回軸受装置3(の内輪の内歯)に出力するピニオンとしての出力軸(図示せず)とを備えている。
ここで、旋回電動モータ17は、旋回油圧モータ16と協働して上部旋回体4を旋回駆動するものである。旋回電動モータ17は、例えば永久磁石型同期電動機を用いて構成され、アシスト発電モータ10による発電電力と蓄電装置14の電力により駆動される。さらに、旋回電動モータ17は、旋回動作を減速するときに発生するエネルギを電気エネルギに変換し発電を行う。即ち、旋回電動モータ17は、後述の直流母線23A,23Bを介して電力が供給されることにより上部旋回体4を旋回させる機能(電動機機能)と、旋回減速時に上部旋回体4の運動エネルギ(回転エネルギ)を電気エネルギに変換(回生発電)する機能(発電機機能)とを有するものである。旋回電動モータ17の発電電力(回生電力)は、後述する第2のインバータ21および直流母線23A,23Bを介して、後述する第1のインバータ20およびチョッパ22に供給され、アシスト発電モータ10の駆動、蓄電装置14の充電(蓄電)が行われる。
次に、ハイブリッド式油圧ショベル1の電動システムの構成について説明する。
図2に示すように、油圧ショベル1の電動システムは、上述したアシスト発電モータ10、蓄電装置14、旋回電動モータ17に加えて、後述する第1のインバータ20,第2のインバータ21、チョッパ22、パワーコントローラ24、統合コントローラ26、メインコンタクタ28等によって構成されている。この場合、例えば、第1のインバータ20と第2のインバータ21とチョッパ22とパワーコントローラ24は、電力変換装置(PCU:パワーコントロールユニット)19としてまとめて(ユニット化して)上部旋回体4に搭載されている。
20はアシスト発電モータ10に電気的に接続されたアシスト発電用インバータ(アシスト発電用スイッチング装置)としての第1のインバータを示している。第1のインバータ20は、アシスト発電モータ10の駆動を制御するものである。具体的には、第1のインバータ20は、例えばトランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数(例えば6個)のスイッチング素子S(図3参照)を用いて構成され、後述する一対の直流母線23A,23Bに接続されている。第1のインバータ20のスイッチング素子Sは、そのオン/オフが後述のパワーコントローラ24によって制御される。アシスト発電モータ10の発電時には、第1のインバータ20は、アシスト発電モータ10による発電電力を直流電力に変換して直流母線23A,23Bに供給する。一方、アシスト発電モータ10のモータ駆動時には、第1のインバータ20は、直流母線23A,23Bの直流電力から三相(U相、V相、W相)の交流電力を生成し、アシスト発電モータ10に供給する。
21は旋回電動モータ17に電気的に接続された旋回用インバータ(旋回用スイッチング装置)としての第2のインバータを示している。第2のインバータ21は、旋回電動モータ17の駆動を制御するものである。具体的には、第2のインバータ21は、第1のインバータ20とほぼ同様に、複数(例えば6個)のスイッチング素子S(SW1〜SW6:図3および図4参照)を用いて構成され、後述する一対の直流母線23A,23Bに接続されている。第2のインバータ21のスイッチング素子S(SW1〜SW6)は、そのオン/オフが後述のパワーコントローラ24によって制御される。旋回電動モータ17の旋回駆動時には、第2のインバータ21は、直流母線23A,23Bの直流電力から三相(U相、V相、W相)の交流電力を生成し、旋回電動モータ17に供給する。一方、旋回電動モータ17の旋回減速時(回生時)には、第2のインバータ21は、旋回電動モータ17による回生電力を直流電力に変換して直流母線23A,23Bに供給する。
22は一端が蓄電装置14に接続され他端が一対の直流母線23A,23Bに接続されたチョッパを示している。チョッパ22とインバータ20,21とは、一対の直流母線23A,23Bを介して互いに電気的に接続される。チョッパ22は、例えばIGBT等からなる複数(例えば2個)のスイッチング素子SとリアクトルL(図3参照)とを備える。チョッパ22は、後述のパワーコントローラ24によってスイッチング素子Sのオン/オフが制御される。そして、蓄電装置14の充電時には、チョッパ22は、降圧回路(降圧チョッパ)として機能し、例えば直流母線23A,23Bから供給される直流電圧を降圧して蓄電装置14に供給する。一方、蓄電装置14の放電時には、チョッパ22は、昇圧回路(昇圧チョッパ)として機能し、蓄電装置14から供給される直流電圧を昇圧して直流母線23A,23Bに供給する。
インバータ20,21およびチョッパ22は、正極側(プラス側)と負極側(マイナス側)で一対の直流母線23A,23Bを通じて相互に接続されている。直流母線23A,23Bには、該直流母線23A,23Bの電圧を安定させるために、平滑用のコンデンサC(図2ないし図4参照)が接続されている。直流母線23A,23Bには、例えば数百V程度の所定の直流電圧が印加される。
24はインバータ20,21およびチョッパ22を制御するコントローラ(制御装置)としてのパワーコントローラを示している。パワーコントローラ24は、例えばマイクロコンピュータ等により構成され、操作指令信号等のような各種の信号を用いて、インバータ20,21、チョッパ22等に対する制御指令(例えば、スイッチング素子Sをオン/オフ制御する信号)を生成し、モータ10,17の駆動制御、直流母線23A,23Bの電圧を所定の一定値付近に保持する制御等を行う。さらに、パワーコントローラ24は、第2のインバータ21のスイッチング素子Sを熱疲労から保護するための処理等も行う。
パワーコントローラ24は、通信線25を通じて、車体コントローラ、情報・モニタコントローラ等を含んで構成される統合コントローラ(メインコントロールユニット)26に電気的に相互に接続され、CAN(Control Area Network)を構成する。統合コントローラ26も、マイクロコンピュータ等により構成され、パワーコントローラ24と共にコントローラ(制御装置)を構成するものである。統合コントローラ26は、例えば、電動システムの異常監視、エネルギーマネジメント等の制御に加え、後述するモニタ29、無線通信端末30等に対する指令を生成し、モニタ29の表示、無線通信端末30を介した情報通信を行う。
また、統合コントローラ26は、ECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれるエンジンコントローラ(図示せず)を介してエンジン9と接続され、例えば、該エンジン9の回転数制御等を行う。さらに、統合コントローラ26は、電磁比例弁27を介してコントロールバルブ13と接続され、例えば、油圧アクチュエータ2E,2F,5D,5E,5F、16の駆動制御等を行うことができる。
28は蓄電装置14とチョッパ22との間に設けられたメインコンタクタを示している。メインコンタクタ28は、パワーコントローラ24に接続され、該パワーコントローラ24の指令に基づいて、蓄電装置14とチョッパ22との間を接続または遮断するものである。図3に示すように、メインコンタクタ28は、リレー28A,28B,28Cと、リレー動作時の突入電流を防止するための抵抗等からなる突入防止回路28Dとを備えている。リレー28A,28B,28Cの開閉は、パワーコントローラ24からの指令により行われる。図示しないキースイッチがOFFのときは、リレー28A,28B,28Cは開いている。オペレータによりキースイッチがONされると、パワーコントローラ24からの指令によりリレー28A,28B,28CがON(閉)となり、蓄電装置14とチョッパ22とが接続される。
29は統合コントローラ26に接続して設けられた情報表示装置としてのモニタを示している。モニタ29は、例えば油圧ショベル1のキャブ7内に設けられ、油圧ショベル1を操縦するオペレータに対し、油圧ショベル1の運転状況、より具体的には、エンジン回転数、燃料、オイル残量等の各種状態量、エンジン9、アシスト発電モータ10、油圧機器等を含む各種機器の不調情報、警告情報等、オペレータに報知すべき情報を表示する報知装置を構成するものである。後述するように、モニタ29には、第2のインバータ21のスイッチング素子Sを熱疲労による損傷(破損)から保護する必要があるときに、その保護が必要な旨(整備、修理、交換を促すシンボル、アイコン)が警告として表示される。
30は統合コントローラ26に接続して設けられた無線通信端末を示している。無線通信端末30は、統合コントローラ26が収集する各種機器の運転データ、不調情報、警告情報等、例えば油圧ショベル1の整備を行うサービスマンに対して報知すべき情報を、サービスマンが使用するメンテナンスサーバ等のコンピュータ、情報端末(いずれも図示せず)に無線送信するものである。後述するように、無線通信端末30は、第2のインバータ21のスイッチング素子Sを熱疲労による損傷(破損)から保護する必要があるときに、その保護が必要な旨が、サービスマンのコンピュータ、情報端末等の情報機器に無線送信される。これにより、当該情報機器の表示装置には、保護が必要な旨(整備、修理、交換を促すシンボル、アイコン)が警告として表示される。
次に、実施の形態の要部となる旋回電動モータ17の制御について、図4を用いて説明する。なお、図4は、図3中の旋回電動モータ17、第2のインバータ(旋回用インバータ)21、パワーコントローラ24等を取出して示す要部の回路図である。
図4に示すように、旋回電動モータ17には、その回転軸の回転速度を検出するレゾルバ等の回転速度検出器(回転速度検出センサ、回転速度検出手段)31が設けられている。回転速度検出器31は、パワーコントローラ24に接続され、パワーコントローラ24には、回転速度検出器31から旋回電動モータ17の回転速度に対応する検出信号が入力される。例えば、回転速度検出器31がレゾルバの場合は、該レゾルバは、旋回電動モータ17の磁極位置を検出し、その検出信号をパワーコントローラ24に出力する。パワーコントローラ24は、レゾルバにより検出された磁極位置に基づいて、旋回電動モータ17の回転速度を算出する。
また、旋回電動モータ17と第2のインバータ21を接続する三相ライン、即ち、U相、V相、W相のそれぞれのライン(電線)には、それぞれの電流を検出するための電流検出器(電流度検出センサ、電流検出手段)32が設けられている。各電流検出器32は、パワーコントローラ24に接続され、パワーコントローラ24には、各電流検出器32から三相それぞれの電流に対応する検出信号が入力される。電流検出器32は、例えば、ホール素子を用いた非接触式のセンサ(検出器)を用いることができる。パワーコントローラ24は、電流検出器32からの信号に基づいて、三相の電流を算出する。なお、図4では、電流検出器32を三相それぞれのラインに合計3個設けた場合を示しているが、電流検出器を2個設ける構成とし、残りの一相は、2個の電流検出器から検出された二相の電流から算出する構成としてもよい。
前述したように、第2のインバータ21は、6個のスイッチング素子SW1〜SW6を用いて構成されている。この場合、図4に示すように、スイッチング素子SW1はU相上アーム、スイッチング素子SW2はU相下アーム、スイッチング素子SW3はV相上アーム、スイッチング素子SW4はV相下アーム、スイッチング素子SW5はW相上アーム、スイッチング素子SW6はW相下アームにそれぞれ対応する。
第2のインバータ21には、その温度を検出する温度検出器(温度検出センサ、温度検出手段)33が設けられている。温度検出器33は、パワーコントローラ24に接続され、パワーコントローラ24には、温度検出器33から第2のインバータ21の温度に対応する検出信号が入力される。温度検出器33は、例えば、サーミスタのような温度変化に対して電気抵抗の変化が大きい抵抗素子を用いることができる。第2のインバータ21がIGBTの場合、温度検出器33は、第2のインバータ21の外殻を形成するケース(IGBTケース)に取付けられる。パワーコントローラ24は、温度検出器33からの信号に基づいて、IGBTケースの温度を算出する。
直流母線23A,23Bには、直流母線の電圧を検出する電圧検出器(電圧検出センサ、電圧検出手段)34が設けられている。第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6に加わる電圧(母線電圧)は、電圧検出器34により検出する。
次に、図5および図6を用いて、第2のインバータ21に使われるIGBT等のパワーモジュールのパワーサイクル寿命について説明する。図5は、旋回電動モータ17の駆動により、ロック状態と旋回状態とが繰り返されたときのスイッチング素子Sのジャンクション温度(接合部の温度)Tjの変化の一例を示している。ここで、ロック状態は、例えば、バケット5Cの側面を土砂に押し当てて旋回を行うことで土砂をならしたり壁面を形成する所謂押し当て作業により、旋回電動モータ17の回転数が0ないしほぼ0であるにも拘らずトルクを連続して出力する状態に対応する。即ち、ロック状態は、上部旋回体4からみると、旋回電動モータ17を駆動しているのに、該旋回電動モータ17に(押し当て作業に伴う)抵抗が作用して上部旋回体4の旋回が停止または停止に近い状態に対応する。これに対し、旋回状態は、旋回電動モータ17の出力に基づいて、旋回電動モータ17が回転している状態に対応する。即ち、旋回状態は、上部旋回体4からみると、旋回電動モータ17の駆動により上部旋回体4が旋回している状態に対応する。
ロック状態では、U相、V相、W相のうちの特定相に集中して電流が流れるため、集中して電流が流れるスイッチング素子Sのジャンクション温度Tjは早く上昇し、逆に、ロック状態が解除されると、スイッチング素子Sのジャンクション温度Tjは早く下降する。図5では、ジャンクション温度Tjの変化、即ち、ロック状態と旋回状態との間の温度差をΔTjとしている。このように、ジャンクション温度Tjの大きな変化(温度差)ΔTjが頻繁に生じると、スイッチング素子Sを構成するアルミワイヤとシリコンチップの線膨張係数の差に基づいて生じる応力により、スイッチング素子Sのジャンクション(接合部)に亀裂(損傷)が生じ、この亀裂が徐々に進展することで最終的に破損にいたるおそれがある。
ジャンクション温度Tjの変化ΔTjが頻繁に生じる動作パターンでの寿命を、一般的にパワーサイクル寿命という。図6は、パワーサイクル寿命の一例を示している。図6に示すように、温度変化(温度差)ΔTjが大きくなるほど、寿命に達するまでのサイクル数が減る。即ち、温度差ΔTjが大きくなるほど、パワーサイクル寿命が短くなる。ロック状態を含む動作パターンに限らず、旋回動作と停止の繰り返しのような動作パターンでも、そのときの温度変化(温度差)ΔTjに応じて寿命が進行するため、このような動作パターンも考慮する必要がある。しかし、ロック状態と旋回状態とが繰り返される動作パターの方が、温度変化ΔTjが大きくなるため、パワーサイクル寿命の進行の影響が大きくなる。
なお、図5では、ジャンクション温度を1つしか示していないが、ロック状態ではそのときの旋回電動モータ17のロータの位置によって、6個のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに流れる電流の大きさが変わるため、これら各スイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれで、ジャンクション温度の変化も異なることになる。
図7は、三相電流波形、即ち、U相、V相、W相の電流波形を示している。図8は、電気角度とU相、V相、W相の電流値と6個のスイッチング素子SW1〜SW6それぞれのON/OFFの状態との関係を示している。なお、図7および図8では、電流の大きさを、三相電流の最大値を1とした場合の比率で示している。例えば、電気角度が90度でロック状態となると、SW1、SW4、SW6がONとなり、SW2、SW3、SW5がOFFとなり、SW1には、絶対値で1の電流が流れ続け、SW4とSW6には、絶対値で0.5の電流が流れ続け、その電流の大きさに応じて温度上昇する。一方、ロック状態から旋回状態となると、スイッチング素子SW1〜SW6のON/OFFが周期的に繰り返され発熱が平均化され、スイッチング素子SW1〜SW6の温度が下降する。この場合、ロック状態と旋回状態との温度変化(温度差)ΔTjが大きいと、パワーサイクル寿命が短くなり、そのまま運転し続けると、スイッチング素子SW1〜SW6が熱疲労により損傷するおそれがある。
そこで、実施の形態では、パワーコントローラ24は、上部旋回体4(の旋回電動モータ17)が旋回状態にあるかロック状態にあるかを判定する状態判定手段(状態判定処理)と、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6の温度(ジャンクション温度)Tjを演算する温度推定手段(温度推定処理)とを備えている。
ここで、状態判定手段は、回転速度検出器31の検出に基づく旋回電動モータ17の回転速度と、統合コントローラ26から受けるトルク指令の大きさに基づいて、ロック状態にあるか否かを判定する。例えば、旋回電動モータ17の回転速度が予め設定した所定の回転速度閾値よりも小さく(例えば、10〜50min-1以下で)、かつ、トルク指令が予め設定した所定のトルク閾値よりも大きい場合は、ロック状態であると判定することができる。回転速度閾値、トルク閾値は、旋回状態にあるかロック状態にあるかを精度よく判定できるように、例えば、実験、シミュレーション等により予め求めておく。
温度推定手段は、例えば、前述の特許文献2に記載されているように、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6のジャンクション温度Tjを、これら各スイッチング素子SW1〜SW6の定常損失とスイッチング損失とから求める。例えば、ロック状態のときのジャンクション温度Tjを算出する演算式と、旋回状態のときのジャンクション温度Tjを算出する演算式とを用いて、そのときの状態に応じた各スイッチング素子SW1〜SW6の温度Tjを演算する。この演算には、時間(ロック状態の時間、旋回状態の時間)、三相電流、母線電圧(直流母線23A,23Bの電圧)等の変数が必要になる。このうちの時間は、例えば、パワーコントローラ24のサンプリング周波数(時間)を用いることができ、三相電流は、電流検出器32の検出に基づく電流値を用いることができ、母線電圧は、電圧検出器34の検出に基づく電圧値を用いることできる。
また、パワーコントローラ24は、温度推定手段により演算された第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6の温度Tjと状態判定手段により判定された状態とに基づいて、旋回状態のときの温度Tjとロック状態のときの温度Tjとの温度差ΔTjを算出する温度差算出手段(温度差算出処理)と、該温度差算出手段により算出された温度差ΔTjが予め設定された所定の温度閾値ΔTs以上であるか否かを判定する温度差判定手段(温度差判定処理)と、該温度差判定手段により所定の温度閾値ΔTs以上であると判定された回数iをカウントする熱疲労カウント手段(熱疲労カウント処理)とを備えている。
ここで、温度差算出手段は、図5に示すように、温度推定手段により演算された温度Tjのうち、ロック状態から旋回状態に切換わったときの温度Tjと、その旋回状態から次のロック状態に切換わったときの温度Tjとの差として温度差ΔTjを算出する。温度差判定手段の判定に用いる温度閾値ΔTsは、例えば、パワーサイクル寿命のサイクル数と温度差ΔTjとの関係に基づいて、サイクル数としてカウントすべき温度差ΔTjであるか否かを適切に判定できるように設定する。例えば、温度閾値ΔTsは、80°と設定することができる。熱疲労カウント手段は、パワーサイクル寿命の判定を行うためのサイクル数として、所定の温度閾値ΔTs以上であると判定された回数iをカウントする。
さらに、パワーコントローラ24は、熱疲労カウント手段によりカウントされた回数iが予め設定された所定の回数閾値is以上であるか否かを判定する熱疲労判定手段(熱疲労判定処理)と、熱疲労判定手段により所定の回数閾値is以上であると判定された場合に、スイッチング素子SW1〜SW6を熱疲労から保護するための処理を行うインバータ保護手段(インバータ保護処理)を備えている。
ここで、熱疲労判定手段の判定に用いる回数閾値isは、例えば、パワーサイクル寿命のサイクル数と温度差ΔTjとの関係に基づいて、熱疲労によるパワーサイクル寿命の程度(進行度)、より具体的には、スイッチング素子SW1〜SW6の熱疲労の程度(進行度)を適切に判定できるように設定する。例えば、回数閾値isは、10万回と設定することができる。
一方、インバータ保護手段は、熱疲労判定手段により、回数iが回数閾値is以上である、即ち、パワーサイクル寿命が残り短い(例えば、スイッチング素子SW1〜SW6の少なくとも何れかが熱疲労により損傷する手前である)と判定された場合に、スイッチング素子SW1〜SW6を保護するための処理を行う。具体的には、スイッチング素子SW1〜SW6の保護が必要な旨をモニタ29に警告として表示し、油圧ショベル1を操縦するオペレータに対してその旨を報知する。また、これと共に、必要に応じて、スイッチング素子SW1〜SW6の保護が必要な旨を、整備を行うサービスマンに対して無線通信端末30を用いて報知することもできる。
また、インバータ保護手段は、それ以上のスイッチング素子SW1〜SW6の熱疲労が進行する(損傷に至ること)を抑制すべく、パワーコントローラ24から統合コントローラ26に対し、旋回電動モータ17の最大トルクを制限する必要がある旨の指令を出力する。統合コントローラ26は、これに従って、旋回電動モータ17の最大トルクを制限する。なお、最大トルクの制限は、モニタ29への表示、無線通信端末30による報知が行われても、そのまま運転が継続された場合に行うようにすることができる。この場合は、例えば、回数閾値isよりも大きな値となる別の回数閾値is′(>is)を設定し、熱疲労カウント手段によりカウントされた回数iがis′よりも大きくなると、最大トルクの制限を行う構成とすることができる。例えば、回数閾値is′は、20万回と設定することができる。
なお、パワーコントローラ24は、温度推定手段による演算値Tj、温度差算出手段による算出値ΔTj、温度差判定手段による判定値(YES、NO)、熱疲労カウント手段によるカウント値i、熱疲労判定手段による判定値(YES、NO)を、パワーコントローラ24の各スイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに対して個別に求める。即ち、6個のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに対して個別に演算、算出、カウント、判定を行う。
次に、パワーコントローラ24により実行される各処理について、図9の流れ図を用いて説明する。なお、パワーコントローラ24のメモリ(図示せず)には、図9の処理プログラム、上述した各種の閾値(例えば、回転速度閾値、トルク閾値、温度閾値ΔTs、回数閾値is、別の回数閾値is′)等が記憶されている。
アクセサリON、または、エンジン9の始動(イグニッションON)により、図9の処理動作がスタートすると、ステップ1では、初期設定が既に行われているか否かを判定する。この初期設定は、例えば、エンジン9始動直後等、パワーコントローラ24に通電が開始されたときの最初の制御周期であるか否かにより判定することができる。ステップ1で、「NO」、即ち、最初の制御周期であり初期設定が行われていない(初期設定済みでない)と判定された場合は、初期設定を行うべくステップ2に進む。一方、ステップ2で、「YES」、即ち、最初の制御周期でなく初期設定が既に行われている(初期設定済み)と判定された場合は、ステップ2を介することなくステップ3に進む。
ステップ2の初期設定は、現在の旋回電動モータ17の状態(上部旋回体4の状態)が旋回状態である(即ち、ロック状態ではない)と設定する。また、ロック状態のときのジャンクション温度の最大値に対応する変数Tjkmaxと、ロック状態から旋回状態に移りジャンクション温度が低下したときのその最小値に対応する変数Tjkminと、現在のジャンクション温度に対応する変数Tjkとを、それぞれ0にする(所定の初期値にする)。
なお、これら各変数Tjk、Tjkmax、Tjkminのうちの添字「k」は、図4に示すスイッチング素子SW1〜SW6の番号に対応する。例えば、kが1のとき、即ち、Tj1、Tj1max、Tj1minは、図4のスイッチング素子SW1の変数に対応する。後述のΔTjk、ikについても同様である。そして、図9の流れ図の処理は、6個のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに対して別々に行われる(6個のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに対して保護の判定が行われる)。
ステップ3では、上部旋回体4(の旋回電動モータ17)がロック状態にあるか否かを判定する。この判定は、回転速度検出器31の検出に基づく旋回電動モータ17の回転速度と、統合コントローラ26から受けるトルク指令の大きさに基づいて、ロック状態にあるか否かを判定する。例えば、現在の旋回電動モータ17の回転速度が予め設定した所定の回転速度閾値よりも小さく(例えば、10〜50min-1以下で)、かつ、トルク指令が予め設定した所定のトルク閾値よりも大きい場合は、ロック状態であると判定することができる。この場合、誤検知を防止するために、ロック状態であると判定するための時間を設けることができる。即ち、所定時間の間、所定の回転速度閾値よりも大きく所定のトルク閾値よりも大きい場合に、ロック状態であると判定する構成とすることができる。
ステップ3で、「YES」、即ち、上部旋回体4(の旋回電動モータ17)がロック状態であると判定された場合は、後述するステップ4〜ステップ9の必要な処理を行った後、ステップ10で、ロック状態のジャンクション温度Tjkを算出する演算式を読み出し、ステップ11で、ジャンクション温度Tjkを算出する。そして、リターンを介してスタートに戻り、ステップ1以降の処理を繰り返す。
一方、ステップ3で、「NO」、即ち、上部旋回体4(の旋回電動モータ17)がロック状態でない(旋回状態)と判定された場合は、ステップ12に進み、前回(直前の制御周期)がロック状態であったか否かを判定する。ステップ12で、「YES」、即ち、前回がロック状態であると判定された場合は、直前まではロック状態であったため、ジャンクション温度が急激に上昇していたと考えられる。この場合、ステップ13に進み、このときの温度TjkをTjkmaxとしてパワーコントローラ24のメモリに記憶してから、ステップ14に進む。一方、ステップ12で、「NO」、即ち、前回がロック状態でないと判定された場合は、ステップ13を介することなくステップ14に進む。
ステップ14では、旋回状態のジャンクション温度Tjkを算出する演算式を読み出し、ステップ15で、ジャンクション温度Tjkを算出する。そして、リターンを介してスタートに戻り、ステップ1以降の処理を繰り返す。
一方、ステップ4〜ステップ9の処理は、まず、ステップ4で、前回(直前の制御周期)が旋回状態であったか否かを判定する。ステップ4で、「YES」、即ち、前回が旋回状態であると判定された場合は、直前までは旋回状態であったため、ジャンクション温度が下がっていると考えられる。この場合、ステップ5に進み、このときの温度TjkをTjkminとしてパワーコントローラ24のメモリに記憶してから、ステップ6に進む。一方、ステップ4で、「NO」、即ち、前回が旋回状態でないと判定された場合は、ステップ10に進む。
ステップ6は、ステップ5で記憶したTjkminとステップ13で記憶したTjkmaxとの温度差ΔTjk(=Tjkmax−Tjkmin)を求める。続くステップ7では、温度差ΔTjkが温度閾値ΔTs(例えば、80°)以上であるか否かを判定する。
ステップ7で、「YES」、即ち、温度差ΔTjkが温度閾値ΔTs以上であると判定された場合は、ステップ8に進み、パワーサイクル寿命の判定を行うためのサイクル数に対応する回数ik、即ち、所定のジャンクション温度の変化が何回あったのかを示す回数ikをカウントアップする(回数ikに1を加える)。一方、ステップ7で、「NO」、即ち、温度差ΔTjkが温度閾値ΔTs未満であると判定された場合は、ステップ10に進む。
ここで、図10を用いて、ロック状態と旋回状態とが繰り返されたときに、どのように処理が行われるのかについて説明する。
図10は、図8の表で電気角度が90°の位置と60°の位置でロック状態となったときの、スイッチング素子SW1のジャンクション温度TJ1の時間変化を示している。最初に、電気角度が90°の位置でロック状態となると、スイッチング素子SW1の電流は1と最も大きくなり、これにより、ジャンクション温度TJ1が大きく上昇する。その後、ロックが解除され、旋回状態となると、ジャンクション温度TJ1は下がっていく。次に、電気角度が60°の位置でロック状態となると、スイッチング素子SW1の電流は0.87となり、ジャンクション温度TJ1は再び上昇する。
即ち、スイッチング素子SW1には、電気角度が90°の位置でロック状態となったときのジャンクション温度TJ1(ロック状態が解除されるときの温度)から、電気角度が60°の位置でロック状態となったときのジャンクション温度TJ1(旋回状態からロック状態に変わるときの温度)との温度差ΔTJ1に基づく熱応力が加わる。また、電気角度が60°の位置でロック状態となったときのジャンクション温度TJ1(ロック状態が解除されるときの温度)から、次にロック状態となったときのジャンクション温度TJ1(旋回状態からロック状態に変わるときの温度)との温度差ΔTJ1との温度変化に基づく熱応力が加わる。ΔTJ1がΔTs以上であると、パワーサイクル寿命への影響が大きいため、これまでのサイクル数i1に1回を加算して加える。図10の場合は、スイッチング素子SW1の回数i1が2増えることになる。図10には、スイッチング素子SW2〜SW6のジャンクション温度TJ2〜TJ6は示していないが、図8の電気角度とその電流とON/OFFとの関係に基づいて、各スイッチング素子SW2〜SW6のジャンクション温度TJ2〜TJ6も変化し、その温度ΔTJ2〜ΔTJ6に応じてサイクル数i2〜i6も加算される。
ここで、ステップ8に続く、ステップ9では、回数ikが予め設定された所定の回数閾値is以上(例えば、10万回以上)であるか否かを判定する。このステップ9で、「YES」、即ち、回数ikが回数閾値is以上であると判定されると、ステップ16に進み、スイッチング素子SW1〜SW6を熱疲労から保護するための処理(パワーサイクル寿命報知処理)を行う。即ち、パワーサイクル寿命が短くなっていると考えられるため、スイッチング素子SW1〜SW6が熱疲労による損傷(破損)に至ることを阻止すべく、パワーコントローラ24は、統合コントローラ26に対し、スイッチング素子SW1〜SW6の保護が必要な旨を伝える。統合コントローラ26は、パワーコントローラ24からの情報(指令)に基づいて、電力変換装置19の交換を促す旨の情報(シンボル、アイコン)をモニタ29に警告として表示し、油圧ショベル1を操縦するオペレータに対してその旨を報知する。また、統合コントローラ26は、無線通信端末30を通じて、電力変換装置19の交換が必要な旨の情報を、整備を行うサービスマンが把握できるように、メンテナンスサーバへ発信する。
なお、回数閾値isは、一つだけでなく、二つ以上(複数)設定してもよい。例えば、回数閾値isと別の回数閾値is′との2つ閾値を設定し、例えば回数閾値isを10万回とし、別の回数閾値is′を20万回とする。この場合は、ステップ8で、回数ikが回数閾値is(10万回)以上と判定された場合は、ステップ16で、電力変換装置19の交換を促す旨の情報(シンボル、アイコン)をモニタ29に警告として表示する。そして、この表示(警告)がされているにも拘らず、電力変換装置19の交換が行われず、運転が継続された場合は、スイッチング素子SW1〜SW6の熱疲労がさらに進行する。そこで、ステップ9で、回数ikが別の回数閾値is′(20万回)以上と判定された場合は、ステップ16で、パワーコントローラ24から統合コントローラ26に対して旋回電動モータ17の最大トルクを制限する必要がある旨の情報を伝え、統合コントローラ26は、その情報に従って、旋回電動モータ17の最大トルクを制限する。
なお、ステップ16の処理は、オペレータやサービスマンへの報知、旋回電動モータ17の最大トルクの制限に限るものではなく、スイッチング素子SW1〜SW6を熱疲労から保護するための処理であれば、他の処理を用いてもよい。また、複数の回数閾値を設定し、回数がそれぞれの回数閾値以上となる毎に、その回数閾値に応じた所定の保護を行う構成とすることができる。
実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
まず、オペレータは、キャブ7に搭乗して運転席に着座する。この状態で走行用の操作レバー(いずれも図示せず)を操作することにより、コントロールバルブ13から下部走行体2の走行用モータ2E,2Fに圧油を供給し、左,右の駆動輪2Bを駆動して油圧ショベル1を前進または後退させることができる。また、運転席に着座したオペレータは、作業用の操作レバー(図示せず)を操作することにより、上部旋回体4を旋回させたり、作業装置5を俯仰動させたりして土砂の掘削作業等を行うことができる。
ここで、油圧ショベル1の作業時に、上部旋回体4(の旋回電動モータ17)をロック状態と旋回状態とが繰り返される動作パターンで運転すると、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6の温度変化が大きくなり、熱疲労による寿命が進行する。この場合、パワーコントローラ24は、ステップ9の処理により、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6の熱疲労(の進行)を判定し、この判定の結果に基づいて、ステップ16の処理により、第2のインバータ21の保護を行うことができる。これにより、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6が、熱疲労により損傷(破損)する前に、必要な保護を行うことができる。
この場合、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれに対し、個別に熱疲労(の進行)の判定を行う。これにより、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6のうちで熱疲労が最も進行したものに合せて、必要な保護を行うことができる。
また、ステップ16の処理では、油圧ショベル1の操縦を行うオペレータに対して、保護が必要な旨(電力変換装置19の交換が必要な旨)の報知が行われる。このため、オペレータは、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6が熱疲労により損傷(破損)する前に、油圧ショベル1の整備を行うサービスマンに対してその整備(電力変換装置19の交換)を依頼することができる。
これに加えて、ステップ16の処理では、サービスマンに対して、無線通信端末30を用いて保護が必要な旨の報知が行われる。このため、サービスマンは、オペレータの依頼がなくても、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6が熱疲労により損傷(破損)する前に、その整備(電力変換装置19の交換)を行うことができる。
さらに、ステップ6では、ロック状態で温度上昇したときの最も高い温度とその後の旋回状態で温度が低下したときの最も低い温度との差として温度差を算出することができる。これにより、熱疲労(の進行)の判定の精度を向上することができる。
なお、上述した実施の形態では、図9に示すステップ3の処理が本発明の構成要件である状態判定手段の具体例を示し、図9に示すステップ10,11,14,15の処理が本発明の構成要件である温度推定手段の具体例を示し、図9に示すステップ6の処理が本発明の構成要件である温度差算出手段の具体例を示している。また、図9に示すステップ8の処理が本発明の構成要件である熱疲労カウント手段の具体例を示している。さらに、図9に示すステップ9の処理が本発明の構成要件である熱疲労判定手段の具体例を示し、図9に示すステップ16の処理が本発明の構成要件であるインバータ保護手段の具体例を示している。
上述した実施の形態では、第2のインバータ21のスイッチング素子SW1〜SW6に対し、熱疲労から保護するための処理を単独で行う場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、前述の特許文献2に記載されたジャンクション温度の許容温度に対する制御と合せて行う構成としてもよい。
上述した実施の形態では、第2のインバータ21を6個のスイッチング素子SW1〜SW6からなるブリッジ回路を用いた構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、実施の形態とは異なるスイッチング素子の構成を用いることができる。即ち、旋回用インバータ(旋回用スイッチング装置)は、スイッチング素子の個数や接続形式等は問わず、電動機の種類等に応じて各種の回路構成を採用することができる。
上述した実施の形態では、図9に示す処理をパワーコントローラ24で行う構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、パワーコントローラ24に接続された統合コントローラ26等、他のコントローラで図9に示す処理を行う構成してもよい。即ち、旋回用インバータを制御するコントローラは、1個のコントローラにより構成することができることに加えて、例えば、旋回用インバータの制御を直接的に行うコントローラとこれに接続される別のコントローラとを含んで構成することができる。
上述した実施の形態では、作業用の動力源(原動機)としてエンジン9とアシスト発電モータとを有するハイブリッド式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、外部電源および/または蓄電装置からの給電により駆動する電動機のみを作業用の動力源(原動機)とした電動式の建設機械に適用してもよい。
上述した実施の形態では、旋回装置15を、旋回油圧モータ16と旋回電動モータ17とにより構成したハイブリッド型の旋回装置とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、旋回装置を旋回電動機単独で構成した(油圧モータを有しない)電動型の旋回装置としてもよい。
上述した実施の形態では、建設機械として、自走可能なクローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、自走可能なホイール式油圧ショベル、移動式クレーン、さらには、走行しない基体上に旋回可能に旋回体が搭載された設置式のショベル、クレーン等、旋回体を旋回電動機により旋回駆動する各種の建設機械に広く適用することができる。