JP5971104B2 - 希土類磁石のリサイクル方法及びリサイクル原料の製造方法 - Google Patents

希土類磁石のリサイクル方法及びリサイクル原料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高性能モーターなどの製品から回収された使用済み磁石について、その組成を分析することにより、所定の希土類磁石を選別し、リサイクル原料として再生する希土類磁石のリサイクル方法に関するものである。
希土類磁石の一つであるネオジム磁石は、ネオジム(以下、Ndと記載する場合がある)、鉄(以下、Feと記載する場合がある)、及び、ホウ素(以下、Bと記載する場合がある)を主成分とする非常に強い磁力を有する永久磁石であり、エアコンや冷蔵庫などの白物家電、パソコン等情報機器のハードディスクドライブ、FA、自動車、または、エレベータなどのモーター他に使用され、電子または電気機器の小型化や高性能化のために広く利用されている。
このネオジム磁石は、その磁力が温度に大きく依存し、温度が上昇すると磁力が著しく低下する。これを改善するため、エアコン、ハイブリッド車、または、電気自動車などに使用されるモーターは、高温環境においても高い性能を維持するため、Ndの一部を同じく希土類(以下、希土類元素と記載する場合がある)であるジスプロシウム(以下、Dyと記載する場合がある)に置き換え、高温での磁力性能を向上させている。そのため、ネオジム磁石はDyの組成比が大きいほど、耐熱特性が高いという特徴がある。そこで、製品ごとにその仕様に合わせて特性の異なる、すなわち、組成の異なる磁石が用いられている。
上述のNdやDyのような希土類元素は、埋蔵量が限られているため、リサイクル技術による再資源化が期待されている。従来の希土類磁石のリサイクル方法としては、希土類焼結磁石が組み込まれたハードディスクドライブなどの使用済み製品を減磁後、破砕または粉砕し、着磁物の中から微細化した希土類磁石を篩い分けして回収する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
特開2010−192575号公報
上記説明したように、磁石は製品に応じて要求される性能を満たすために構成元素およびその組成が異なるが、特許文献1に記載されている従来の磁石のリサイクル方法では組成による選別が行われていなかった。そのため、回収された使用済み磁石には、種々の組成の磁石が混在しており、破砕、粉砕により微細化された使用済み磁石を用いて新たな磁石を製造する場合、組成が把握できていないため、個々の元素の粗原料まで精錬する必要があった。すなわち、回収した使用済み磁石を用いて新たな磁石を製造する場合、精錬し、合金化し、焼成し、さらに成形しなければならなかった。
また、磁石の組成を求める際には、その磁力の影響により、組成分析を行う装置の破損又は精度の低下を引き起こすことがあるといった問題もあった。すなわち、製品に搭載されている磁石は磁力を有しているため、製品から磁石を取り出す際に磁力を低下させる減磁処理を一般的に行うが、磁石を使用済み製品から取り出すことが出来さえすれば、磁力がゼロである必要は無く、磁力が残っている場合もある。このような磁力が残存した状態の磁石を蛍光X線分析法により組成分析する場合、磁石の磁力の影響で、X線源のフィラメントからの電子がX線源を構成するターゲットや測定のための窓部分の一部へ集中し、X線源が破損するなどの分析装置の故障、あるいは、X線の発生阻害による精度の低下を引き起こすことが問題であった。
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、使用済み磁石を破砕及び粉砕することなくある程度の大きさを持った塊のままで、その組成分析を分析装置の故障や精度低下の問題なく実施し、その結果得られた組成に応じて選別回収することによって、効率よく、高品質の磁石原料を再生することができる希土類磁石のリサイクル方法を提供することを目的としている。
本発明に係る希土類磁石のリサイクル方法は、使用済みの希土類磁石の磁力を検査する磁力検査工程と、磁力検査工程により磁力有りと判断された希土類磁石を消磁する消磁工程と、消磁工程で消磁された希土類磁石を磁力検査工程に再投入する工程と、磁力検査工程により磁力無しと判断された希土類磁石の組成を分析する組成分析工程と、組成分析工程における分析結果により希土類磁石を選別する選別工程と、選別工程の選別結果に基づき、所定の希土類磁石を回収する回収工程と、回収工程で回収された希土類磁石を用いて新たな希土類磁石を製造する工程とを備えたものである。
この発明に係る希土類磁石のリサイクル方法によれば、分析装置の故障を誘発することなく、精度よく組成を分析することが出来る。また、得られた組成分析結果に基づき磁石が選別されるため、精錬工程を経ずして合金の状態から磁石製造工程に投入可能な高品質な磁石原料を得ることができるものである。
また、磁石が磁力を有しない塊状であるため、作業環境に存在する他の磁性材料との付着も無く、取り扱いが容易となる。
また、従来のリサイクル方法のような煩雑な破砕、粉砕、及び、篩い分け作業が不要となり、リサイクル効率が向上する。
更に、モーターなどに用いられている磁石としては、希土類磁石のみならず、希土類を含まない例えばフェライト磁石のような他の磁石が使用されている場合があるが、組成分析を実施することによって、リサイクル目的の希土類磁石のみを選別することができるため、リサイクルに要する労力、時間、エネルギー、及びコストを削減することができる。
この発明の実施の形態1に係る希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。 この発明の実施の形態2に係る希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。 この発明の実施の形態3に係る希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。 この発明の実施の形態4に係る希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。 磁力検査装置の簡易的な構成を示した図である。 エンドウィンドウタイプのX線管の簡単な構成図である。 この発明の実施の形態1に係る別の組成分析装置の構成図である。 ポリプロピレン板のX線透過率エネルギー依存性を示す図である。
実施の形態1.
次に、図面を用いて、この発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
図1は、この発明の実施の形態1における希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。図1において、S1は、家電製品や自動車などの磁石を搭載した製品、例えば、モーターから磁石を取り出す際に磁力を低下させる減磁処理がなされた後、回収された磁石の磁力を検査する工程である。これら取り出された磁石は、搭載した製品から取り出すために減磁処理が施されているため、完全に脱磁されていなくてもよいため、磁力を有している場合がある。
図5は、例えばガウスメーターを用いて表面磁束密度を測定する方法による磁力検査装置の簡易的な構成を示したものである。図において、ガウスメーター1のプローブの先端部2は、非磁性体、例えばステンレス鋼製の固定板3に設けられた穴に、プローブの先端部2が固定板3の表面から突出せず、略面一となるようにプローブ固定部4に固定されている。磁石の磁力検査は、プローブの先端部2に接触する位置に磁石を置いて実施する。本実施の形態で示した磁力検査装置は、非常に簡易的なもので、磁石1つ1つをプローブの先端部2に配置して計測するものであるが、実際にラインで使用する場合には、ベルトコンベア等を用いて順次自動的に測定する機構のものを用いても良い。磁力検査装置については、実施の態様に応じて適宜設計するものであり、ここでは詳細な説明を省略する。
磁力の有無の判断は、後工程において磁力の影響を無視することが出来る程度である表面磁束密度が1mT以下であるか否かで判定し、磁石の表面磁束密度が1mTを超えた場合は磁力ありと判定する。磁力有りと判定された場合にはS2に、一方磁力なしと判定された場合にはS3に進む。
S2は、磁力有りと判定された磁石をさらに消磁するための消磁工程である。S2における消磁方法としては、例えば交流磁場の中に磁石を投入し交流消磁する方法を用いることができる。消磁は1個ずつ行っても、複数個まとめて行ってもよく、投入した磁石の中で最も表面磁束密度測定値が大きい磁石が十分消磁可能な条件を設定すればよい。S2の後、再度S1で磁力の有無を測定し、磁力ありと判定された場合は磁力がなくなるまでS2を繰り返すものとする。
S3は、磁石の組成を分析する工程である。この組成分析方法としては、例えば波長分散型蛍光X線分析法を用いることができる。組成分析方法としては、この他、プラズマ発光分光分析法、スパーク放電発光分光分析法、グロー放電発光分光分析法、または、電子線マイクロアナリシスなどが考えられるが、それらの中でも波長分散型蛍光X線分析法は、非破壊で希土類元素のスペクトルの分離能力(組成分析能力)に優れており分析精度も高く好ましい。
しかしながら、蛍光X線分析法は、特に磁力の影響を受け安い。組成分析装置として蛍光X線分析装置を用いた場合、X線の発生にはX線管が使用される。図6にエンドウィンドウタイプのX線管の簡単な構成図を示す。X線管は、熱電子2極管の構造を持つ真空管の一種であり、高温に熱したフィラメント6から熱電子7を発生させ、10〜300keVの高電圧で加速して、金属ターゲット(陽極)5に衝突させてX線9を発生させる。発生したX線9を取り出す窓8の材料は通常ベリリウムの薄膜が使用されている。磁力を有する物体を測定した場合、磁力の影響によりX線源のフィラメント6から発生させた熱電子7が方向を歪められてX線管を構成するX線9を取り出す窓8部分やX線9を発生させるために使用する陽極である金属ターゲット5の一部に集中し、窓8やターゲット5を破損するなどの分析装置の故障を誘発し、あるいは、X線の発生阻害による組成分析の測定精度の低下を招くおそれがあるため、S3の前に消磁し、磁力なしの状態にしておくことは特に重要である。
蛍光X線分析法では、X線を磁石に照射した際に磁石から放出される蛍光X線の波長と強度を測定することにより、組成を分析し磁石に含まれる元素の種類と量を特定する。組成分析の対象となる元素としては、Fe、Nd、および、Dyが対象としてあげられるが、その他NdやDyの代替あるいは不純物として含有されるプラセオジム(以下、Prと記載する場合がある)、テルビウム(以下、Tbと記載する場合がある)についても測定対象とすることが望ましい。
S3では、最初にNdを検出し、次にNdが含まれているものに対しDyを検出する手順を取っている。最初にNdの検出を行うのは、Ndの有無によりネオジム磁石とフェライト磁石等その他の磁石を判別するためである。フェライト磁石等その他の磁石は再生価値が低いため、この段階で廃棄処分(非回収)としてもよい。ここでの手順は、特にこの順番にする必要はなく、NdとDyの検出を同時に行ってもよい。また、PrやTbについての検出を追加して行っても良い。
モーターの場合は、通常複数個の磁石が搭載されているが、同一モーターに使用されている磁石は、その組成が同等である。従って、磁石の組成分析は、代表する1個の磁石について実施すればよい。もちろん、複数個について実施することで、組成分析精度は増す。
S4は、S3の組成分析結果に基づいて磁石を選別する工程である。S4では、Dy含有率を基準に選別する場合について例示している。ここでは、Dy含有率が、aより大、b以上a以下、及びb未満の3段階に選別しているが、必要であれば、2段階、4段階、その他、多段階で行ってもよい。また、ここではDy含有率に基づいて選別しているが、Nd含有率他、他の元素の一つ、または、複数の含有率を求めてそれらの比率を勘案して選別を行ってもよい。
S5は、S4で選別した磁石を回収する工程である。Dy含有率が、aより大であるものをA、b以上a以下であるものをB、及び、b未満であるものをCとして回収すれば、例えば、aの値が5wt%、bの値が0.1wt%とするとAは200℃を超えるような高温耐性を要する部位用、Bは100〜200℃程度の温度域の耐性を有する部位用の原料として使用し、Cは100℃以下の耐熱性を考慮する必要のない部位用の原料として使用するなど、その使用用途に応じた効率的な回収が可能となる。ここでの重量%は、あくまでも例示であり、使用する製品に応じて適宜設定することはいうまでもない。
さらに、回収したネオジム磁石は、選別区分内で組成が類似しているため、概略の組成が把握できる。従って、従来のリサイクル方法のように粗原料まで精錬する必要がなく、合金の状態から磁石製造工程に投入することが可能になり、磁石原料の製造効率が飛躍的に向上するという効果もある。
S1の磁力の有無の検査方法として、ここではガウスメーターを用いた表面磁束密度測定による方法を用いたが、Fe材等磁性材料への付着有無による方法を使うこともできる。また、S2の消磁の方法として、交流消磁を用いたが、キュリー温度以上の加熱により磁化を消す熱消磁を用いることも出来る。熱消磁の場合は、組成分析前で磁石の種類が特定できていないため、混入する可能性のある磁石の中で最も高いキュリー点を持つ種類の磁石のキュリー点以上に加熱温度を設定する必要がある。
図7は,本発明の実施の形態1による組成分析装置の一例を示す構成図である。蛍光X線分析法により組成を分析する装置として、上記図6で示したエンドウィンドウ型X線管を搭載した波長分散型蛍光X線分析装置を用いる方法について説明してきたが、図7で示す希土類元素のK系列の蛍光X線を効率的に発生させることが可能な、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いることによっても、同様に磁石の組成分析が可能である。図において、X線源10から発生される高エネルギーX線11は、X線照射窓12を介して試料室13に設置された被験試料14、ここでは磁石に照射される。試料室13は図に示したように傾斜部と平坦部とからなり、傾斜部に沿わせて被験試料14を投入すれば、傾斜部を滑り落ちて端部にて固定され,固定位置とX線照射位置が同一になる構造を有する。
試料室13は洗浄液15で満たされている。高エネルギーX線11を照射することにより被験試料14から発生する蛍光X線16は、検出窓17を介して蛍光X線検出器18によって検出され、蛍光X線検出器18の内外に設けられた処理装置、例えば、コンピューター等の処理装置によって、そのエネルギーや強度を数値的に求めることができる。
上述の構成にて、X線源10は70kV以上の管電圧印加が可能でX線発生のターゲット材料にはタングステンが用いられているものとする。これにより,希土類元素のK系列の蛍光X線を効率的に励起することが可能になる。試料室13はヘキサン等の洗浄液15で満たされており、X線源10から発せられた高エネルギーX線11は洗浄液15によって低エネルギー成分の吸収を受け、相対的に高エネルギー成分だけが被験試料14の表面に照射される。エンドウィンドウタイプのX線管を用いた波長分散型の組成分析装置に比較し、試料とX線源との距離が大きく、磁力の影響が少ないと想定されるため、磁力有りなしの基準を緩和することが可能である。
図8は洗浄液と同等レベルのX線吸収効果を有するポリプロピレン板のX線透過率エネルギー依存性を示す図である。図8と上記から、洗浄液15の表面から被験試料14の表面までの液層の厚みが3cm程度であれば、10keVより低いエネルギーのX線は被験試料14の表面にはほぼ到達しない。高エネルギーX線11の照射によって被験試料14から発生する蛍光X線16は,洗浄液15を透過した成分だけが検出窓17を通して蛍光X線検出器18によって検出される。
なお,本実施形態においては、簡便のためX線の遮蔽に関しては記述を省略しているが、上述の管電圧レベルであれば、市販のX線透視装置と同レベルの遮蔽構造を有していれば,操作員がX線被爆する恐れはない。一般に、コンプレッサー用モーターは4枚或いは6枚の磁石片にて構成されるが、測定は1片だけで良く、他の片は洗浄だけのために洗浄液に浸漬できるようなスペースを有していることが望ましい。
図7で示した組成分析装置により、組成比未知の汚れた回収磁石中の希土類元素の含有有無およびその量を非破壊で迅速に知ることが可能になり、且つ、清浄にすることが可能になる。重元素のK電子軌道を励起できれば、通常のエネルギー分散型蛍光X線分析装置で用いるL系列の蛍光X線では問題となる他元素との重なりの影響を受けることなく検出が容易となる。次表に,希土類含有磁石に含まれるとされる主な元素および希土類磁石の表面めっきに用いられるニッケルに関し、主な蛍光X線のエネルギーとK吸収端エネルギー(K電子軌道の励起エネルギー)をまとめる。
Figure 0005971104
希土類磁石含有元素およびニッケル(めっき膜成分)の蛍光X線エネルギー(単位:eV)
プラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)は周期律表で隣接しており、L系列の蛍光X線ではその違いが200eV程度しかないが、K系列の蛍光X線では1000eV以上の開きがある。広く知られた含有希土類の中で最も重いのがジスプロシウム(Dy)で、54keV以上のエネルギーを有するX線で励起を行えば、DyのK系列の蛍光X線の検出が可能になる。例えば、X線透視に用いられるX線源は100keV以上のX線を発生させるものが多く、それを用いれば良い。また、このようなX線源では,タングステン(W)を発生ターゲットとしているものが多い。タングステンは、そのK吸収端が69.5keVであることから管電圧を70kV以上とすれば、WのK系列の蛍光X線が発生する。そのため、ターゲットに対する電子衝撃の制動放射として発生する連続X線よりも効率よく希土類元素のK電子軌道を励起することが可能になり検出感度を上げることができる。
ここで、例えば蛍光X線検出器18にCdTe検出器を用いることにより、希土類元素のK系列の蛍光X線をほぼ100%の効率で検出できる。
半導体検出器は,X線光子を受ける半導体素子の材料によってX線エネルギーに対する感度が異なり、最も一般的なシリコン半導体検出器はX線エネルギーが30keV以上になると感度が低下する。30keV以上といった高エネルギーX線に対しては,ゲルマニウム半導体検出器が用いられることが多いが、ゲルマニウム半導体検出器は温度に対して敏感で液体窒素が必要となる。一方、カドミウム・テルル(CdTe)化合物半導体を検出素子とした検出器は、電子冷却方式のため液体窒素が不要で、約10〜60keVの領域でほぼ100%の検出効率を有し、且つ、50keV近傍で約600eVのエネルギー分解能を有する。そのため、希土類磁石中の希土類元素のK系列の蛍光X線を効率よく検出することが可能になる。
なお、磁石選別に必要な情報は希土類元素の含有有無と概略含有量であることから、いわゆる検量線法で必要十分な情報を得ることができる。すなわち、予め含有量既知の数種類の磁石について同じ条件で測定を行い、それらの蛍光X線強度を求めて処理装置に記憶させ、それらと未知試料における蛍光X線強度との比較から、未知試料の希土類元素含有有無と概略含有量を知ることができる。
実施の形態2.
上記実施の形態1では、製品から取り出された磁石をそのまま組成分析する場合について説明しているが、磁石に表面コート膜が施されている場合には、表面コート膜の種類によっては表面コート膜を除去しなければ、希土類元素の含有率を正確に測ることができない場合がある。この実施の形態2は、このような場合において、表面コート膜を除去する工程を新たに備えたものである。
図2は、この発明の実施の形態2における希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。前記実施の形態1の図1で説明したS1〜S5の各工程については、この発明の実施の形態2における希土類磁石のリサイクル方法と共通の工程となるため、ここでは説明を省略する。図2において、S6は、使用済み磁石に付された表面コート膜を除去する工程である。
ネオジム磁石は酸化劣化しやすいため、通常、酸化を防ぐための表面コート膜が形成されている。表面コート膜は材質や厚さがさまざまであり、この表面コート膜の種類によっては、その影響で磁石の組成分析が正しく行えない場合がある。そこで、S3の組成分析工程の前に表面コート膜を除去するS6工程を設けることで、どのようなコーティングが施された使用済み磁石に対しても、磁石本体を露出させた状態で組成分析を行うことが可能となり、使用済み磁石の組成を精度よく測定することができる。
S6の表面コート膜除去工程は、グラインダー等を用いた研削により行うことができる。ただし、表面コート膜の除去方法は、グラインダーを用いた研削に限られない。例えば研磨、切断、剥離、または、溶解など、想定できる表面コート膜の種類によって、適切な方法をとることができる。
なお、表面コート膜の除去は、S1の磁力検査工程で磁力なしと判定された後に実施することが重要である。磁力を有する磁石に対して表面コート膜の除去を行うと、磁石及びその加工粉が工作機械をはじめとする作業環境に存在するFe、コバルト(以下、Coと記載する場合がある)、または、ニッケル(以下、Niと記載する場合がある)などの磁性体に磁着して外れなくなるなど取り扱いが極めて困難であり、また、工作機械が磁気を帯びて性能が低下するため好ましくない。
実施の形態3.
上記実施の形態2では、S3の組成分析工程の前に表面コート膜を除去するS6工程を設けることで、どのようなコーティングが施された磁石に対しても、磁石本体を露出させた状態で組成分析を行うことができるようにしたが、前記実施の形態2でも示唆したとおり、表面コート膜の種類によっては除去することを要しない場合がある。この実施の形態3は、表面コート膜の種類を判別することにより、表面コート膜を除去しないですむ構成を備えたものである。
図3は、この発明の実施の形態3における希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。前記実施の形態2の図2で説明したS1〜S6の各工程については、この発明の実施の形態3における希土類磁石のリサイクル方法と共通の工程となるため、ここでは説明を省略する。
図において、S7は表面コート膜の種別を判別する判別工程である。表面コート膜を除去するS6工程の前に、表面コート膜の種類を判別するS7工程を設け、磁石の表面コート膜の種類の判別を行う。その結果、例えば、Niを含有しない表面コート膜など磁石の組成分析に影響しない種類の表面コート膜が施されたものであれば、表面コート膜を除去する工程を経ず、表面コート膜が施されたままS3工程に進む。
S8工程は、Ndの有無を識別するネオジム磁石識別工程である。磁石の組成分析を阻害する種類の表面コート膜が施されたものであれば、このような表面コート膜が施されていてもネオジム磁石であれば微弱ながらもスペクトルの検出が可能なNdの有無を確認する。ネオジム磁石であれば、通常かなりの割合(例えば20数%程度)でNdが含有されているため、Ni膜に吸収されて非常に弱められながらも、Ndの蛍光X線の微弱なピークを捉えることが出来る。しかし、検出できる蛍光X線は非常に微弱であるため、含まれているか含まれていないかの判断しか出来ず、組成の算出まではできない。すなわち、S8工程は、回収すべきネオジム磁石と、それ以外の磁石を選別するための工程であり、ネオジム磁石であると判断されれば、S6工程により表面コート膜を除去する。仮に、Ni膜が付いたままであれば、最も組成算出の必要なDyの蛍光X線はNi膜に完全に吸収されてしまい検出できない。
S8工程でNdが検出されれば、ネオジム磁石であると判断し、S6工程の表面コート膜除去工程を経て、S3工程の組成分析工程へと進む。S8工程でNdが検出されなければフェライト磁石等その他の磁石であると判断し、この段階で廃棄処分(非回収)としてもよい。
実際に、波長分散型蛍光X線分析法により数々のネオジム磁石を調べた結果、表面コート膜がNiめっき膜の場合は、Niめっき膜の影響により磁石から組成算出のための十分な蛍光X線を得ることができず、磁石の組成を精度よく測定することができなかった。ただし、表面コート膜がNiめっき膜であっても、ネオジム磁石であれば、磁石の中にNdが20〜30%と高い比率で含有されているため、強度が弱いながらもNdの蛍光X線が検出できることがわかった。従って、Niめっき膜であっても、めっき膜がついたままの状態でネオジム磁石であるか、その他の磁石であるかの識別を行うことができた。そのため、ネオジム磁石であると識別された磁石のみ、S6のコート膜除去を行い、引き続きS3の組成分析工程以降を実施すればよい。
一方、その他の表面コート膜の場合は、測定のための蛍光X線の強度が表面コート膜の影響により減少するものの、その影響は小さく、表面コート膜を付した状態でも十分な精度の組成分析値が得られることがわかった。
そこで、この発明の実施の形態3における希土類磁石のリサイクル方法では、まずS7工程において表面コート膜の種類を判別し、その結果、Niめっき膜の場合は、ネオジム磁石識別工程であるS8工程でNdのスペクトルの検出有無を確認し、Ndのスペクトルの検出によりネオジム磁石と識別された磁石についてのみ、表面コート膜除去工程であるS6工程を経由し組成分析工程であるS3工程へと進む。Niめっき膜以外の場合は、S6工程を経ずにS3工程へと進む。ここで、表面コート膜がNiめっき膜であるか否かの判定は、例えば、磁石の組成分析でも用いた波長分散型蛍光X線分析法で行うことができる。S7工程において表面コート膜を波長分散型蛍光X線分析法で分析し、Niが検出された場合はNiめっき膜であると判断することができる。
Niめっき膜の除去は、実施の形態2と同じく、グラインダーを用いた研削によって行い、良好な組成分析結果を得たが、表面コート膜の除去方法は、研削の他、例えば研磨、切断、剥離などいかなる方法でもよい。また、Niめっき膜の除去は、実施の形態2と同じく、S1の磁力検査工程で磁力なしと判定された後に実施することが重要である。このように、磁石の組成分析を実施する前に表面コート膜の種類を判別し、磁石の組成分析を阻害する種類の表面コート膜が施されたものであり、更にネオジム磁石であることが識別された場合は表面コート膜を除去するS6工程に進み、磁石の組成分析に影響しない種類の表面コート膜が施されたものであれば、表面コート膜を除去するS6工程を経ずに、表面コート膜が施されたままS3の組成分析工程に進む。このようにすることによって、表面コート膜の種類に応じて、S6のコート膜除去工程が不要な条件のものは、S6工程を経ず短時間で処理することができるという効果がある。
実施の形態4.
上記実施の形態3では、表面コート膜を除去するS6工程の前に、表面コート膜の種類を判別するS7工程を設け、磁石の表面コート膜の種類の判別を行い、例えばNiめっき膜の場合は更にネオジム磁石であるか否かを確認後、ネオジム磁石であることが識別できた磁石について表面コート膜を除去するようにしたが、表面コート膜を除去した場合、磁石が酸化する場合があり、回収後に長期保管する場合等適切でない。そこで、表面コート膜を除去した後に、新たに表面コート膜を施すことで、長期保管する場合にも酸化を防止することができる。
図4は、この発明の実施の形態4における希土類磁石のリサイクル方法を示すフローチャートである。前記実施の形態3の図3で説明したS1〜S8の各工程については、この発明の実施の形態3における希土類磁石のリサイクル方法と共通の工程となるため、説明を省略する。図4において、S9は、表面コート膜を再形成する工程である。
図4において、表面コート膜を除去するS6工程の後に、表面コート膜を再形成するS9工程を設ける構成としている。再形成する表面コート膜としては、酸化を防止可能な表面コート膜であればいかなる膜でもよい。例えば、市販の速乾性樹脂コート材を塗布、吹き付け、または、浸漬することにより容易に形成することができる。しかし、新たに形成する表面コート膜がNiめっき膜等磁石の組成分析に影響を及ぼすような種類の表面コート膜であれば、S9工程を実施する順番について一定の制限を受ける。すなわち、Niめっき膜等磁石の組成分析を阻害する種類の表面コート膜を新たに施す場合は、S3の組成分析工程後に実施する必要がある。一方、新たな表面コート膜の形成に金属成分非含有の樹脂コート材を使用した場合などは磁石の組成分析の精度を阻害しないため、S9工程は、この発明の実施の形態4における希土類磁石のリサイクル方法のどの段階で行ってもよい。
このように、既存の表面コート膜を除去した部位に新たなコート膜を再形成することによって、磁石の保管期間にネオジム磁石が酸化劣化することを防止し、磁石原料の品質を保つことができるという効果がある。
1 ガウスメーター
2 プローブの先端部
3 固定板
4 プローブ固定部
5 ターゲット
6 フィラメント
7 電子
8 窓
9 X線
10 X線源
11 高エネルギーX線
12 X線照射窓
13 試料室
14 被験試料
15 洗浄液
16 蛍光X線
17 検出窓
18 蛍光X線検出器
S1 磁力検査工程
S2 消磁工程
S3 組成分析工程
S8 ネオジム磁石識別工程
S4 選別工程
S5 回収工程
S6 表面コート膜除去工程
S7 表面コート膜種判別工程
S9 新たな表面コート膜形成工程

Claims (9)

  1. 使用済みの希土類磁石の磁力を検査する磁力検査工程と、
    該磁力検査工程により磁力有りと判断された希土類磁石を消磁する消磁工程と、
    前記消磁工程で消磁された希土類磁石を前記磁力検査工程に再投入する工程と、
    前記磁力検査工程により磁力無しと判断された希土類磁石の組成を分析する組成分析工程と、
    該組成分析工程における分析結果により前記磁力無しと判断された希土類磁石を選別する選別工程と、
    該選別工程の選別結果に基づき、所定の希土類磁石を回収する回収工程と、
    該回収工程で回収された希土類磁石を用いて新たな希土類磁石を製造する工程と
    を備えた希土類磁石のリサイクル方法。
  2. 前記組成分析工程が蛍光X線分析法を用いた工程であることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  3. 前記組成分析工程において、Fe、Nd、または、Dyのうち少なくとも一つを分析対象とすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  4. 前記組成分析工程において、PrまたはTbのうち少なくとも一つを分析対象とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  5. 前記組成分析工程において、少なくともNd及びDyを分析対象とし、
    Ndの検出結果に基づき磁力無しと判断された磁石を選別する第一工程と、
    Dyの検出結果に基づき磁力無しと判断された磁石を選別する第二工程と
    を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  6. 前記組成分析工程より前に、磁石の表面コート膜を除去する除去工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  7. 前記除去工程より前に、磁石の表面コート膜の種類を判別する判別工程をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  8. 前記除去工程より後に、表面コート膜を形成する形成工程をさらに備えたことを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載の希土類磁石のリサイクル方法。
  9. 使用済みの希土類磁石の磁力を検査する磁力検査工程と、
    該磁力検査工程により磁力有りと判断された希土類磁石を消磁する消磁工程と、
    前記消磁工程で消磁された希土類磁石を前記磁力検査工程に再投入する工程と、
    前記磁力検査工程により磁力無しと判断された希土類磁石の組成を分析する組成分析工程と、
    該組成分析工程における分析結果により前記磁力無しと判断された希土類磁石を選別する選別工程と、
    該選別工程の選別結果に基づき、所定の希土類磁石を回収する回収工程とを備え、
    回収された希土類磁石を元に希土類磁石のリサイクル原料を製造することを特徴とする希土類磁石のリサイクル原料の製造方法。
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