JP5962317B2 - 回折格子及び光パルス圧縮器 - Google Patents

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本発明は、回折格子に関する。特に、高強度の短パルス光を生成する装置のパルス圧縮器において好適に用いることができる回折格子に関する。
近年、ピコ秒(10-12s)やフェムト秒(10-15s)といった極短パルス光を出力するレーザが利用されており、その高強度化が進められている。短パルス光や極短パルス光の強度を増幅する方法の一つに、特許文献1に記載のチャープドパルス増幅(CPA:Chirped Pulse Amplification)方式がある。チャープドパルス増幅方式により短パルス光を増幅する装置の要部構成を図1に示す。この装置は、光源1、パルス伸長器2、増幅器3、及びパルス圧縮器4から構成され、各光路でのパルス光は図1の上部に模式的に示すように変化する。
チャープドパルス増幅方式では、まず、光源1から出射した短パルス光をパルス伸長器2に入射して長パルス化し、ピーク強度を低下させる。次に、この長パルス光を増幅器3に導入して強度を高める。最後に、強度を高めた長パルス光をパルス圧縮器4に導入して、ピーク強度を高めた短パルス光を得る。
パルス伸長器2は、例えば図2(a)に示すように、平行に配置された2つの回折格子21、22から構成される。光源1から出射してパルス伸長器2に入射した短パルス光は第1回折格子21に到達し、それにより波長分散されて、波長に応じて異なる角度で第1回折格子21を出射(反射)する。この光は空間的に広がりつつ第2回折格子22に到達し、そこで各波長の光が再び波長分散されて、波長に応じて異なる角度で第2回折格子22を出射(反射)する。前述のように両回折格子21、22は互いに平行に配置されているため、第2回折格子22で回折された光は平行光となる。両回折格子21、22により回折される間の光路長は波長によって異なるため、第2回折格子22により回折されパルス伸長器2から出射する光は、時間的に伸長される。
図2(a)では、理解を容易にするために2つの回折格子のみで構成される例を示したため、パルス伸長器2から出射した長パルス光は空間的にも広がっている。特許文献1にも記載されているように、回折格子の数を変更したりミラーを導入したりすることによって、空間的に広げることなく時間的にのみ伸長された長パルス光を出射させることができる。
パルス圧縮器4も、パルス伸長器2と同様に、最も単純には2つの回折格子41、42から構成することができる。このパルス圧縮器4にパルス伸長器2とは逆の方向から長パルス光を導入すると、該長パルス光が圧縮され短パルス光が出力される(図2(b))。
特開2007−67123号公報 特開2007−193060号公報
パルス伸長器2やパルス圧縮器4を構成する回折格子には、通常、表面に所定の間隔で周期構造(例えば矩形溝)を形成した酸化シリコン等の基板上に金などをコーティングしたものが使用される。このような回折格子は、高エネルギーの光が集中的に照射された場合、熱等により破壊する。一般的な金コーティング・酸化シリコン回折格子の破壊閾値は数百mJ/cm2である。
パルス伸長器2の第1回折格子21及び第2回折格子22には強度を増幅する前のレーザ光が照射される。これに対し、パルス圧縮器4の入射側回折格子41及び出射側回折格子42には、強度を増幅した後のレーザ光が照射される。また、入射側回折格子41には強度増幅後の長パルス光が入射するのに対し、出射側回折格子42にはパルス圧縮器4内で時間的に圧縮された強度増幅後の短パルス光が照射される。つまり、パルス圧縮器4の出射側回折格子42には、最も高いエネルギー密度を有する光が照射されることになる。
パルス圧縮器4の出射側回折格子42には、例えばパルス幅10fs、パルスエネルギー10J/pulseという高強度パルス光が照射される。このような高強度パルス光では、そのピーク強度はペタワット(1015W)レベルとなる。このようなパルス光を小さなビーム径で上記の回折格子に照射し続けると照射箇所が損傷してしまう。そのため、ビーム径を広げ、エネルギー密度を低下させた長パルス光をパルス圧縮器4に入射することで回折格子の損傷を回避している。しかし、前記の場合の例では、パルス圧縮器4に使用する回折格子41、42の照射面の面積が数十cm四方にもなる。このような大きさの照射面を有する回折格子は製造が難しく高価なものとなる。また、回折格子を組み込んだ装置が大型なものとなる。
ここでは、チャープドパルス方式により高強度光を得る場合のパルス圧縮器を一例として述べたが、高強度光を得る際には、回折格子の損傷を避けるためにビーム径を広げて照射することが行われており、上記同様に、製造が難しく高価である、大きな照射面を有する回折格子が必要になる。
本発明が解決しようとする課題は、高エネルギー密度の光の照射に対して高耐性を有する回折格子を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る回折格子は、パルス光の強度を増幅する装置に用いられる回折格子であって、
酸化シリコンのバンドギャップ以上の大きさのバンドギャップを有する、酸化シリコン以外の物質からなり、表面に所定の間隔で周期構造が形成された回折部
を有することを特徴とする。

本発明に係る回折格子では、酸化シリコンのバンドギャップ以上の大きさのバンドギャップを有する物質を用いて回折部を構成する。本発明は、本願発明者が、大きなバンドギャップを有する物質が、相対的に高エネルギー密度の光の照射に対して高耐性を有する点を見出したことに基づく。これは、大きなバンドギャップを有する物質の方が、光照射時に光子エネルギーの吸収による電子の励起が起こりにくく、損傷しにくいことによるものと考えられる。
本発明に係る回折格子を用いると、例えばチャープドパルス増幅方式により高強度光を得る際、照射光のエネルギー密度を低下させるためにビーム径を広げる必要がなく、また大面積の照射面を有する回折格子を用いる必要がない。酸化シリコンのバンドギャップ(9.0eV)以上の大きさのバンドギャップを有する物質としては、例えば酸化アルミウム(Al2O3、バンドギャップ:9.0eV)やフッ化カルシウム(CaF2、バンドギャップ:10.0eV)が挙げられる。
前記回折部の材料はアモルファスであることが望ましい。これは、回折部の材料が単結晶、多結晶等の結晶体である場合、光照射による熱負荷がかかると結晶面に沿ってクラックが生じて回折構造が損傷する可能性があるためである。
従来、回折部の光照射面と反対側に、屈折率が異なる2種類の誘電体物質を交互に積層してなる誘電体積層部を設けた回折格子が提案されている。この回折格子では、屈折率が異なる2種類の誘電体物質の各境界面で入射光の一部が順次反射され回折格子の外部に放出されるため、入射光の吸収を抑えて回折格子の損傷を防止することができる。以下の説明では、誘電体積層部を構成する2種類の誘電体物質のうち、相対的に高い屈折率を有する誘電体物質を「高屈折率誘電体物質」、相対的に低い屈折率を有する誘電体物質を「低屈折率誘電体物質」と呼ぶ。
しかし、従来の回折格子では高屈折率誘電体物質及び低屈折率誘電体物質のレーザ耐性が考慮されていない。低屈折率誘電体物質として広く用いられる酸化シリコンは高レーザ耐性を有しているが、高屈折率誘電体物質は高レーザ耐性を有していない場合がある。そのため、高エネルギー密度の光を照射すると、レーザ耐性が低い高屈折率誘電体物質からなる層が破壊されてしまう。
そこで、本発明に係る回折格子は、さらに
前記回折部の光照射面側と反対面側に設けられ、屈折率が異なる2種類の誘電体物質が交互に積層されてなり、各層の光学的膜厚が入射光の波長の4分の1である誘電体積層部
を有し、
前記誘電体物質のうち、より高い屈折率を有する物質が、酸化アルミニウム、ランタンアルミナート、フッ化カルシウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、及び酸化チタンの中から選択されたものである
ことが望ましい。
既に述べたように、大きなバンドギャップを有する物質は、相対的に高エネルギー密度の光の照射に対して高耐性を有する傾向にある。上述した以外の物質のエネルギーバンドギャップはそれぞれ、酸化ハフニウム(HfO2、バンドギャップ:5.7eV)、酸化ジルコニウム(ZrO2、バンドギャップ:5.2eV〜7.8eV)、五酸化タンタル(Ta2O5、バンドギャップ:5.0eV)、酸化チタン(TiO2、バンドギャップ:2.0eV〜3.0eV)であり、レーザ耐性を備えていると言える。従って、これらの物質を用いることで高レーザ耐性を高めることができる。
また、入射光の波長λの4分の1(λ/4)の光学的膜厚で積層された層の各境界で反射した光には、2分の1波長(λ/4+λ/4)の光路差が生じる。また、低屈折率層から入射して高屈折率層との境界で反射した光の位相は反射時に反転する(λ/2の光路差の発生と同じ効果が生じる)。一方、高屈折率層から入射して低屈折率層との境界で反射する光の位相は反転しない。それらの結果、高屈折率層/低屈折率層の各境界で反射した光の位相が揃い(光路差λ/2+位相反転効果による効果λ/2=λ)、高反射率が得られる。つまり、誘電体積層部に到達した入射光が反射により回折格子の外部に放出されるため、入射光の吸収により該誘電体積層部が破壊されることを防ぐことができる。従って、高レーザ耐性を有し、かつ光の取り出し効率が高い回折格子とすることができる。
上述したように、誘電体積層部を構成する高屈折率誘電体層と低屈折率誘電体層の各境界において反射される入射光は全体の一部である。そのため、各境界における入射光の反射により取り出し効率を高めるには該境界の数を増やす、即ち層数を多くしておく必要がある。上記態様の回折格子の場合には、誘電体積層部の積層数を30〜40層とすることにより、入射光の取り出し効率を向上させることができる。
前記誘電体積層部のうち、前記回折部に近い側に位置する10以下の層が、前記入射光の電場強度のピークが前記2種類の誘電体物質のうち相対的に屈折率が低い物質からなる層に位置するような光学的膜厚を有していることが望ましい。
これは、本願発明者が以前、固体レーザ用光学素子に関する研究において、高屈折率誘電体物質と低屈折率誘電体物質からなる積層部に到達した入射光の電界強度のピークを低屈折率誘電体物質からなる層に位置させるように調整することで、入射光の吸収を抑えることができる点を見出したことに基づく(特許文献2)。入射光の電場強度のピーク位置の調整は10層以下で行うことができる。
誘電体積層部で反射して回折格子の光照射面側に向かって進行する光が、回折部と第一誘電体積層部の境界面や回折部の光照射面と大気との境界面において再び反射してしまうと、その光を取り出すことができず、入射光の取り出し効率を十分に向上させることができなくなる。従って、入射光の波長λを考慮し、上記のような反射が起こる条件を満たさないように前記回折部の光学的厚さを調整することが望ましい。これは、例えば、前記回折部の厚さ(回折部の光照射面から、回折部と誘電体積層部の境界面までの距離)を入射光の波長λよりも十分に厚く(例えば5λ以上の厚さ)にしておくことにより実現できる。
本発明に係る回折格子では、回折部に酸化シリコンのバンドギャップ以上の大きさのバンドギャップを有する物質を用いるため、回折部が酸化シリコンからなる従来の回折格子に比べ、高エネルギー密度の光の照射に対して高耐性を有する。従って、本発明に係る回折格子を用いると、高エネルギー密度の光を照射する場合でも、エネルギー密度を低下させるためにビーム径を広げる必要がなく、また大面積の照射面を有する回折格子を用いる必要がない。
チャープドパルス増幅方式におけるパルス光の変化を説明する模式図。 パルス伸長器及びパルス圧縮器について説明する図。 本発明に係る回折格子の一実施例の構造を説明する図。 各評価対象物質のピコ秒レーザ耐性評価結果を説明する図。 各評価対象物質のX線回折測定結果。 各評価対象物質のナノ秒レーザ耐性評価結果を説明する図。 酸化ハフニウムと酸化シリコンにより構成した誘電体積層構造のTEM像。 本実施例の回折格子の第一誘電体積層部及び第二誘電体積層部の各物質及び膜厚を示す表。 本実施例の回折格子の誘電体積層構造中の酸化アルミニウムと酸化シリコンの層境界のTEM像。
本発明に係る回折格子の一実施例について、図面を参照して説明する。
図3に本実施例の回折格子10の構造を示す。本実施例の回折格子10は、光照射面側から順に、回折部11、誘電体積層部12、及び基材13を備えている。回折部11の光照射面側には矩形状の回折溝111が形成されている。誘電体積層部12は屈折率が異なる2種類の誘電体物質が交互に積層され構成されており、基材13に近い側に位置する入射光反射部14と、回折部11に近い側に位置する電界調整部15からなる。
まず、本願発明者は、本実施例に係る回折格子の各部に使用する物質を選定するため、酸化アルミニウム、フッ化マグネシウム、五酸化タンタル、酸化ハフニウム、及び酸化シリコンからなる単層膜をそれぞれ作製してレーザ耐性評価を行った。酸化シリコンは、従来から回折部に用いられている物質であり、耐性評価の比較試料として使用した。評価試料は、イオンビームアシスト蒸着法(IAD)を用い、石英基板上に100〜150nmの厚さで各物質を成膜して作製した。成膜条件は、イオン銃の加速電圧1000V、酸素イオン電流1200mA、成膜温度250℃とした。イオンビームアシスト蒸着法を用いたのは、この方法を用いることにより他の蒸着法やスパッタリング法よりも平滑な表面を有する膜を成膜できるためである。耐性評価は、波長1064nm、パルス幅370ps、1kHzのパルス光を照射角0rad(即ち、評価膜の正面から)で照射してN-on-1試験を行った。N-on-1試験とは、パルス光の照射部に損傷が生じるまで断続的に照射強度を上げていき、光照射面(各物質を成膜した表面)の損傷の有無を確認する試験方法である。
レーザ耐性評価結果を図4に示す。図4では左から高レーザ耐性を有する物質順に並べている。図中の丸印は当該エネルギー密度のレーザ光(最大出力のレーザ光)を照射しても損傷が見られなかったことを示し、他は当該エネルギー密度のレーザ光照射により損傷が確認されたことを意味している。従来から回折部の材料として用いられている酸化シリコンは、約20J/cm2のエネルギー密度の光照射により損傷した。これに対し、酸化アルミニウムは、約25J/cm2のエネルギー密度(レーザ強度最大時のエネルギー密度)の光を照射しても損傷が見られなかった。酸化ハフニウムは酸化シリコンと同程度のエネルギー密度の光照射で損傷した。五酸化タンタルは酸化シリコンよりも低エネルギー密度の光照射で損傷した。この結果から、ピコ秒レーザに対する耐性は、酸化アルミニウムが最も高く、続いて酸化シリコン及び酸化ハフニウム、五酸化タンタルの順に高いことを確認した。高レーザ耐性を示した酸化アルミニウム及び酸化シリコンは大きなバンドギャップを有する物質である。これを考慮すると、バンドギャップの大きさがレーザ耐性に影響を与えているものと推定される。具体的には、大きなバンドギャップを有する物質の方が、光照射時に光子エネルギーの吸収による電子の励起が起こりにくく、損傷しにくいことによるものと考えられる。上記レーザ耐性評価に使用した各物質のバンドギャップは、酸化アルミニウム(9.0eV)、酸化シリコン(9.0eV)、酸化ハフニウム(5.7eV)、五酸化タンタル(5.0eV)である。
本願発明者は、回折部11に使用する物質のレーザ耐性に関して更に詳細な評価を行うため、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化チタンの各単層膜の構造評価とナノ秒レーザ耐性評価を行った。評価試料は、上記同様にイオンビームアシスト蒸着法を用い、石英基板上に各物質を成膜して作製した。成膜条件は、上記レーザ耐性評価時と同じである。蒸着した膜の光学的膜厚(物理的厚さと屈折率の積)は後述するナノ秒レーザ耐性評価における照射光の波長λ(1064nm)の4分の1である。以下、各材料の評価結果を説明する。
X線回折測定測定(XRD)により各物質の単層膜の構造評価を行った。図5(a)に酸化アルミニウム、図5(b)に酸化シリコン、図5(c)に酸化ハフニウム、図5(d)に酸化ジルコニウム、図5(e)に五酸化タンタル、図5(f)に酸化チタンのX線回折測定結果をそれぞれ示す。各物質について得られたX線回折測定結果を解析し、酸化アルミニウム(図5(a))、酸化シリコン(図5(b))、酸化ハフニウム(図5(c))、五酸化タンタル(図5(e))の膜は結晶化していないアモルファスであることを確認した。一方、酸化ジルコニウム(図5(d))及び酸化チタン(図5(f))では膜内で結晶化が進んでおり、結晶から得られるピークとの比較結果から、酸化ジルコニウム及び酸化チタンの結晶化度がそれぞれ80.8%、20.2%であることを確認した。
続いて上記X線構造解析を行った単層膜評価試料に対して、波長1064nm、パルス幅8ns、20kHzのパルス光を照射し、1-on-1試験によりレーザ耐性評価を行った。1-on-1試験はISO 11254-1に定められた光学面のレーザ損傷試験方法であり、パルス光を1 shot毎に光学面の異なる部位に照射して照射部位の損傷の有無を確認する方法である。パルス幅や試験法が変化すると各物質が異なるレーザ耐性を示す可能性を考慮し、ここではナノ秒パルス光を用いた1-on-1試験(上述した耐性評価ではピコ秒パルス光を用いたN-on-1試験)により耐性評価を行った。ナノ秒パルスレーザに対する耐性評価結果を図6に示す。図6においても、図4と同様に、左から高レーザ耐性を有する物質順に並べている。図6中の印は全て、各物質の損傷が確認されたレーザ光のエネルギーを示している。この結果から、ナノ秒パルスレーザに対しては、酸化アルミニウム及び酸化シリコンが高耐性を有し、次いで酸化ハフニウム、続いて酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化チタンの順に高耐性を有することを確認した。ナノ秒レーザ耐性評価においても、上述したピコ秒レーザ耐性評価と同じく、バンドギャップエネルギーの大きさとレーザ耐性の高さの間に相関があることを確認した。ナノ秒パルス光に対する耐性評価のみに使用した物質のバンドギャップは酸化ジルコニウム(5.2eV〜7.8eV)、酸化チタン(2.0eV〜3.0eV)である。
ナノ秒レーザに対して酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化ハフニウムが高耐性を有していることは、これらがいずれも結晶化せずアモルファスを形成することとも関係していると考えられる。光照射面の膜が結晶化していると、光照射時の熱負荷により結晶面に沿ってクラックが生じて回折構造が損傷することが考えられる。従って、本実施例に係る回折格子の回折部11にはアモルファスを用いることが望ましい。
以上の実験結果から、回折部11の材料として酸化アルミニウムを用いると、回折部11に酸化シリコンを使用する従来の回折格子よりもレーザ耐性を向上させることができることが分かる。また、上記の実験では使用しなかったものの、大きなバンドギャップを有する物質が高レーザ耐性を有する点を考慮すると、例えばフッ化カルシウム(CaF2、バンドギャップ:10.0eV)など、酸化シリコンのバンドギャップ以上の大きさのバンドギャップを持つ、酸化アルミニウム以外の物質も回折部11の材料として好適に用いることができると考えられる。
続いて、回折部11の光照射面側と反対面側に設ける誘電体積層部12に使用する物質について評価した。上述のとおり、誘電体積層部12は高屈折率誘電体物質と低屈折率誘電体物質を交互に積層してなる。ここでは、低屈折率誘電体物質は酸化シリコンとし、高屈折率誘電体物質として2種類の物質(酸化ハフニウム、酸化アルミニウム)を用いた。評価試料1は石英基材上に酸化ハフニウムと酸化シリコンを交互に30層積層したもの、評価試料2は石英基材上に酸化アルミニウムと酸化シリコンを交互に32層積層したものである。評価試料1及び評価試料2のいずれにおいても各層の膜厚は照射波長λ(1064nm)の4分の1とし、光照射面に近い側(基材から遠い側)において膜厚を変化させた。ここで膜厚を変化させる理由については後述する。
まず、評価試料1及び評価試料2に対してX線回折測定を行い、膜の積層状態を確認した。その結果、評価試料1では酸化ハフニウム層が5.5%結晶化していることが確認された。一方、評価試料2では酸化アルミニウムは結晶化していないことが確認された。多層膜を形成する際に積層構造の内部で結晶化が進行すると結晶面が現れて各膜の境界面の平坦性が失われる。図7に評価試料1のTEM像を示す。図7(a)は光照射面に近い側の積層構造、図7(b)は基材に近い側の積層構造であり、それぞれの右側に部分拡大図を示している。図7(a)右図から、光照射面に近い側(基材から遠い側)では、層境界部分において平坦性が失われていることが分かる。これは、評価試料1では成膜過程で部分的に結晶化しつつ積層構造が形成され、積層数が増えるにつれてその影響が累積したことによるものと考えられる。ただし、単層膜を評価した先の実験では酸化ハフニウムがアモルファスであったことを踏まえれば、イオンビームアシスト蒸着の条件を変化させることにより結晶化させずに積層構造を形成させることができる。
一方、評価試料2では、光照射面に近い側(基材から遠い側)においても、層境界部分の平坦性が保たれていることを確認した。これは、結晶化せず積層構造が形成されたためであると考えられる。なお、酸化アルミニウムと酸化シリコンの層境界部分の平坦性については後述の実施例においても確認した。
既に述べたとおり、回折部11の光照射面で回折されず、回折部11及び電界調整部15を透過して入射光反射部14に到達した入射光は、該入射光反射部14を構成し光学的膜厚がそれぞれλ/4である、高屈折率誘電体層141と低屈折率誘電体層142の境界で反射する。この反射効率を高くすることで入射光の取り出し効率を高めることができる。反射効率を高めるためには、積層構造内部の層境界において組成が急峻に変化し、かつ層境界面が平坦になるような積層構造を形成させることが重要となる。
以上の各実験結果を踏まえて作製した、本実施例の回折格子10について説明する。本実施例の回折格子は、波長1000nmの光を照射して用いる。図3を参照しつつ段落[0023]で説明したとおり、本実施例の回折格子10は、光照射面側から順に、回折部11、誘電体積層部12、及び基材13を備えている。回折部11の光照射面側には矩形状の回折溝111が形成されている。誘電体積層部12は屈折率が異なる2種類の誘電体物質が、イオンアシスト蒸着法により交互に積層され構成されており、基材13に近い側に位置する入射光反射部14と、回折部11に近い側に位置する電界調整部15から構成されている。
基材13は従来の回折格子と同様に石英基材である。石英基材13上には、入射光反射部14を構成する五酸化タンタル(高屈折率誘電体物質141)と酸化シリコン(低屈折率誘電体物質142)が交互に計30層積層されている。入射光反射部14内の各層は照射光の波長λ(1000nm)の4分の1の光学的膜厚を有する。入射光反射部14上には、電界調整部15を構成する酸化アルミニウム(高屈折率誘電体物質151)と酸化シリコン(低屈折率誘電体物質152)が交互に計5層積層されている。回折部11は厚さ5μmのアモルファス酸化アルミニウムであり、光照射面側には深さ2.5μmの矩形状の回折溝111が形成されている。誘電体積層部12(入射光反射部14及び電界調整部15)を構成する物質名及び各層の膜厚を図8に示す。また、図9に酸化アルミニウムと酸化シリコンの層境界のTEM像を示す。図9のTEM像から、酸化アルミニウムと酸化シリコンの層境界部分の平坦性が極めて高いことを確認した。
回折部11及び電界調整部15を透過した光は入射光反射部14に到達し、高屈折率誘電体物質層/低屈折率誘電体物質層の各境界面で順次反射する。その結果、入射光反射部14内では、入射光の電界強度が積層方向に周期的に振動しながら減衰していく。そして、高屈折率誘電体層141あるいは低屈折率誘電体層142のいずれかに電場強度の周期的なピークが形成される。
上述したように、本願発明者は以前、高屈折率誘電体物質と低屈折率誘電体物質からなる積層部に到達した入射光の電界強度のピークを低屈折率誘電体物質からなる層に位置させるように調整することで、入射光の吸収を抑えることができることを見出した(特許文献2参照)。従って、入射光反射部14内で周期的に変化する入射光の電場強度のピークを酸化シリコン層(低屈折率誘電体層142)内に位置させることで、より一層レーザ耐性を高めることができる。このように電場強度のピークを位置させるように、電界調整部15の各層の膜厚がシミュレーションにより決定されている。
本実施例の回折格子の各部に使用した物質は以下の考え方に基づき選定した。回折部11は最も高エネルギー密度の光が照射される場所であることから、上述した各種実験から最もレーザ耐性が高い酸化アルミニウムを用いた。上記のレーザ耐性評価では使用しなかったものの、大きなバンドギャップを有する物質が高レーザ耐性を有する点を考慮すると、フッ化カルシウム(CaF2、バンドギャップ:10.0eV)など、酸化シリコンよりも大きなバンドギャップを持つ、酸化アルミニウム以外の物質を回折部の材料として用いてもよい。
回折部11に次いで高エネルギー密度の光が入射する電界調整部15には、上述した実験結果を踏まえ、高屈折率誘電体物質の中で最も高エネルギー耐性を有する酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムに近いレーザ耐性を有する低屈折率誘電体物質である酸化シリコンを使用した。回折部11と同様、電界調整部15を構成する高屈折率誘電体物質151として、フッ化カルシウムなど、酸化シリコンと同程度の大きさのバンドギャップを持つ、酸化アルミニウム以外の物質も好適に用いることができる。また、回折部11に入射する光に比べると、電界調整部15に入射する光のエネルギー密度は低い。従って、酸化アルミニウムよりは多少レーザ耐性が低下するが、五酸化タンタルや酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化チタンなどを高屈折率誘電体物質151として用いてもよい。
入射光反射部14には、電界調整部15に入射する光よりも低エネルギー密度の光が入射する。そこで、入射光反射部14の屈折率差をできるだけ大きくするように構成することが望ましい。これにより高屈折率誘電体物質と低屈折率誘電体物質の層境界面において高効率で入射光を反射させ、入射光の取り出し効率を向上させる。
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例では石英基材のみを用いたが、他にも周知の各種材料を用いることができる。また、各層の成膜にイオンビームアシスト蒸着法を使用したが、周知の他の蒸着法を用いて多層膜を作製してもよい。
上記実施例では入射光反射部14を30層、電界調整部15を5層としたが、使用する高屈折率誘電体物質及び/又は低屈折率誘電体物質のレーザ耐性や照射光のエネルギー密度等を考慮して適宜に調整することができる。
上述したとおり、本実施例に係る回折格子は、高エネルギー密度の光照射に対して、従来の回折格子よりも高耐性を有している。従って、例えば、図2で示したようなパルス圧縮器を構成する回折格子として好適に使用することができる。
1…光源
2…パルス伸長器
21…第1回折格子
22…第2回折格子
3…増幅器
4…パルス圧縮器
41…入射側回折格子
42…出射側回折格子
10…回折格子
11…回折部
111…回折溝
12…誘電体積層部
13…基材
14…入射光反射部
141…高屈折率誘電体物質(層)
142…低屈折率誘電体物質(層)
15…電界調整部
151…高屈折率誘電体物質(層)
152…低屈折率誘電体物質(層)

Claims (6)

  1. 酸化シリコンのバンドギャップ以上の大きさのバンドギャップを有する、酸化シリコン以外の物質からなり、表面に所定の間隔で周期構造が形成された回折部
    を有することを特徴とする、パルス光の強度を増幅する装置に用いられる回折格子。
  2. 前記回折部が、酸化アルミウムまたはフッ化カルシウムのいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の回折格子。
  3. 前記回折部の材料はアモルファスであることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子。
  4. 前記回折部の光照射面側と反対面側に設けられ、屈折率が異なる2種類の誘電体物質が交互に積層されてなり、各層の光学的膜厚が入射光の波長の4分の1である誘電体積層部
    を有し、
    前記誘電体物質のうち、より高い屈折率を有する物質が、酸化アルミニウム、フッ化カルシウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、及び酸化チタンの中から選択されたものである
    ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の回折格子。
  5. 前記誘電体積層部のうち、前記回折部に近い側に位置する10以下の層が、前記入射光の電場強度のピークが前記2種類の誘電体物質のうち相対的に屈折率が低い物質からなる層に位置するような光学的膜厚を有していることを特徴とする請求項4に記載の回折格子。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の回折格子を備えた光パルス圧縮器。
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