JP5949644B2 - Maldi質量分析方法 - Google Patents

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本発明は、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法によるイオン源を搭載した質量分析装置を用い、測定対象物質に対する質量分析を行うMALDI質量分析方法に関する。
質量分析装置のイオン化法の一つとしてMALDI法がよく知られている。MALDI法は、レーザ光を吸収しにくい物質や、タンパク質などレーザ光で損傷を受けやすい物質を分析するために、レーザ光を吸収し易く且つイオン化し易い物質をマトリクスとして測定対象物質に予め混合したサンプルを調製しておき、このサンプルにレーザ光を照射することで測定対象物質をイオン化する手法である。特にMALDIイオン源を用いた質量分析装置は、分子量の大きな高分子化合物をあまり解離させることなく分析することが可能であり、しかも微量分析にも好適であることから、近年、タンパク質やペプチド、糖鎖などを測定対象とする生命科学などの分野で広範に利用されている。
MALDI法に使用されるレーザ光は紫外レーザ光が主流であるが、赤外レーザ光を用い、赤外波長域に吸収特性を有するマトリクスを用いてサンプルを調製する赤外MALDI法の実験例も多数報告されている。赤外MALDI法は一般にIR−MALDI法と呼ばれ、これに対し紫外レーザ光を用いたMALDI法はUV−MALDI法と呼ばれる。そこで、慣用に従って、以下の説明ではこれらの呼称を用いる。
UV−MALDI法に対しIR−MALDI法は、ソフトなイオン化が可能であって測定対象物質由来のイオンの解離が生じにくい、使用可能なマトリクスの種類が多い、高質量イオンの検出感度や質量分解能が高い、といった利点を有する。一方、UV−MALDI法に対しIR−MALDI法は、低質量・中質量イオンの感度が低い、1回のレーザ光照射当たりのサンプルの消費量が多いために、同一部位にレーザ光照射を繰り返したときのイオン生成の持続性が低い(つまりイオンが生成されなくなるまでのレーザ光照射回数が少ない)、といった欠点を有する(非特許文献1〜3参照)。この裏返しが、IR−MALDI法に対するUV−MALDI法の利点、欠点である。
ウェンズー・ジャン(Wenzhu Zhang)、ほか2名、「エクスプローリング・インフラレッド・ウェイブレングス・マトリクス-アシステッド・レーザ・デソープション/イオニゼイション・オブ・プロテインズ・ウィズ・ディレイド-エクストラクション・タイム-オブ-フライト・マス・スペクトロメトリ(Exploring Infrared Wavelength Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization of Proteins with Delayed-Extraction Time-of-Flight Mass Spectrometry)」、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ソサイエティ・フォー・マス・スペクトロメトリ(Journal of the American Society for Mass Spectrometry)、第9巻、第9号、1995年、pp.879-884 エクハルド・ノルドホフ(Eckhard Nordhoff)、ほか8名、 「マトリクス-アシステッド・レーザ・デソープション/イオニゼイション・マス・スペクトロメトリ・オブ・ヌクレイック・アシッズ・ウィズ・ウェイブレングス・イン・ザ・ウルトラバイオレット・アンド・インフラレッド(Matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry of nucleic acids with wavelengths in the ultraviolet and infrared)」、ラピッド・コミュニケイションズ・イン・マス・スペクトロメトリ(Rapid Communications in mass spectrometry)、第6巻、第12号、1992年、pp.771-776 鈴木幸子、ほか2名、「赤外レーザーマトリックス支援レーザー脱離イオン化法の波長依存性に関する研究と応用」、Journal of Mass Spectrometry Society of Japan誌、56巻、第5号、2008年、pp.235-240 イェン-ペン・ホー、ほか1名、「アプリケイションズ・オブ・1.06-マイクロメートル・アイアール・レーザ・デソープション・オン・ア・フーリエ・トランスフォーム・マス・スペクトロメータ(Applications of 1.06-μm IR Laser Desorption on a Fourier Transform Mass Spectrometer)」、アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、第70巻、第23号、1998年、pp. 4890-4895 ジャン・サンナー(Jan Sunner)、ほか2名、「グラファイト・サーフェス-アシステッド・レーザ・デソープション/イオニゼイション・タイム-オブ-フライト・マス・スペクトロメトリ・オブ・ペプチドズ・アンド・プロテインズ・フロム・リキッド・ソリューションズ(Graphite surface-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry of peptides and proteins from liquid solutions)」、アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、第67巻、第23号、1995年、pp.4335-4342 マイケル・ジェイ・デイル(Michael J. Dale)、ほか2名、「グラファイト/リキッド・ミックスド・マトリクス・フォー・レーザ・デソープション・イオニゼイション・マス・スペクトロメトリ(Graphite/Liquid Mixed Matrices for Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry)」、アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、68巻、第19号、1996年、pp.3321-3329
特に、生体から採取された試料を分析する場合には、試料の量が微量であることが多いため、微量な試料から該試料に含まれる物質の情報をいかに効率よく収集するかが重要である。この観点においてイオン生成の持続性の低さは大きな障害であり、これを改善し得る質量分析方法の開発が望まれている。
本発明はこうした点に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、イオン生成の持続性を改善することにより試料を有効に利用することができるMALDI質量分析方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、イオン生成の持続性の改善に加えて、レーザ光照射1回当たりのイオンの生成量を増やすことで検出感度も向上させることができるMALDI質量分析方法を提供することにある。
IR−MALDI法の性能を向上させる方法の一つとして、非特許文献4には、マトリクスにグラファイトを添加する方法が報告されている。この報告によれば、波長が1.06[μm]である赤外レーザ光を用いたIR−MALDIイオン源において、液体マトリクスであるグリセロールにグラファイト粉末を添加することにより、グリセロール単体では検出できないペプチドが検出可能となるとされている。一方、UV−MALDI法においてもグリセロールにグラファイトを添加したものを液体マトリクスとして利用する方法が報告されている(非特許文献5、6参照)。
こうした報告から、本願発明者は当初、イオン化のために照射されたレーザ光の吸収を妨害する物質をマトリクスに添加することで、サンプル中での過剰なレーザ光吸収が抑えられ、イオン生成の持続性の改善が可能であるのではないかと推測した。こうした推測の下に、IR−MALDI法において、赤外波長域の光を吸収する又は赤外波長域の光を反射する特性を有する様々な物質をマトリクスに添加してイオン生成の持続性や検出感度などを評価する実験を繰り返した。その結果、意外なことに、赤外光吸収材料としてよく知られているアンチモンドープ酸化スズ(ATO)や赤外光に対し高い反射効率を示す酸化亜鉛などを添加しても有意な効果は得られないことが判明した。一方、添加物質としてフラーレンを用いると顕著な効果が得られることを本願発明者は見出した。
上述したように、赤外波長域の光を吸収する又は赤外波長域の光を反射する特性を有する物質の添加が必ずしもイオン生成の持続性改善に繋がるというわけではないため、フラーレンがイオン生成の持続性改善に有効である理由やそのメカニズムは不明であるものの、実験結果から、IR−MALDI法においてフラーレンをマトリクスに添加すると非添加である場合に比べて大幅な性能改善が達成できることが確認できた。また、UV−MALDI法においてフラーレンをマトリクスに添加したところ、イオン生成の持続性改善に有効であることが判明した。このような各種実験から得られた知見に基づいて、本願発明者は本発明に想到した。
即ち、上記課題を解決するために成された本発明は、MALDIイオン源を有する質量分析装置を用いたMALDI質量分析方法であって、
測定対象物質、マトリクス、及び、フラーレンが混合したサンプルを調製し、該サンプルに対し前記MALDIイオン源においてレーザ光を照射し、前記測定対象物質をイオン化して質量分析することを特徴としている。
ここで、マトリクスとしては、MALDIイオン源に対応して通常使用される固体マトリクス又は液体マトリクスを用いることができる。
上述したように、マトリクスへのフラーレンの添加は、IR−MALDI法、UV−MALDI法のいずれにも有効である。
即ち、本発明の第1の態様によるMALDI質量分析方法は、上記MALDIイオン源が赤外レーザ光を使用したIR−MALDIイオン源であり、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、レーザ光照射の繰り返しに対する測定対象物質由来イオンの生成の持続性を向上させるものである。
また、本発明の第2の態様によるMALDI質量分析方法は、上記MALDIイオン源が赤外レーザ光を使用したIR−MALDIイオン源であり、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、測定対象物質由来イオンの検出感度を向上させるものである。
上記第1及び第2の態様によるMALDI質量分析方法において、上記マトリクスとしては例えば尿素を用いることができる。
さらにまた、本発明の第3の態様によるMALDI質量分析方法は、上記MALDIイオン源が紫外レーザ光を使用したUV−MALDIイオン源であり、第1の態様と同様に、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、測定対象物質由来イオンの検出感度を向上させるものである。
上記第3の態様によるMALDI質量分析方法において、上記マトリクスとしては例えば2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB=2,5-dihydroxybenzoic acid)を用いることができる。
また本発明に係るMALDI質量分析方法においては、質量分析に供されるサンプルを調製するために、測定対象物質と液体状である上記マトリクスとの混合物をサンプルプレート上に滴下し、その液滴の乾燥前に、飽和状態までフラーレンを溶解させた溶液をその液滴に重層して乾燥させる手順を採るものとすることができる。
本発明に係るMALDI質量分析方法によれば、IR−MALDI法及びUV−MALDI法を用いた質量分析を行う際に、従来よりもイオン生成の持続性を向上させることができる。それにより、サンプル上の同一部位へのレーザ光照射回数を増やすことが可能となるので、同一部位から複数の測定対象物質についての質量分析情報を得ることができる。また、サンプル上の或る一つの部位に存在する測定対象物質について、プリカーサイオンの質量電荷比を変えたり解離条件を様々に設定したりした多数のMSn分析を行うことも容易になる。
また本発明に係るMALDI質量分析方法によれば、特にIR−MALDI法を用いた質量分析を行う際に、従来よりもイオンの検出感度を向上させることができる。それによって、微量な物質の構造解析や同定も可能となる。
本発明に係るMALDI質量分析方法におけるサンプル調製の手順を示すフローチャート。 フラーレン非添加時及び添加時におけるマトリクス(尿素)結晶の顕微鏡画像を示す図。 IR−MALDIイオン源を用いたときの、フラーレン非添加時及び添加時におけるレーザ光照射回数と測定対象物質由来のピーク信号強度との関係の実測結果を示す図。 IR−MALDIイオン源を用いたときの、フラーレン添加時におけるレーザ光照射回数と測定対象物質由来のピーク信号強度との関係の実測結果、及び、レーザ光照射7985〜8000回目に得られる測定対象物質由来のピーク信号強度を積算することで得られた積算マススペクトル。 IR−MALDIイオン源を用いたときの、フラーレン非添加時及び添加時における測定対象物質(Angiotensin II)濃度と検出感度との関係を示すマススペクトル。 IR−MALDIイオン源を用いたときの、フラーレン非添加時及び添加時における測定対象物質(Glu1-Fibrinopeptide)濃度と検出感度との関係を示すマススペクトル。 フラーレン非添加時及び添加時におけるDHBマトリクス結晶の顕微鏡画像を示す図。 UV−MALDIイオン源を用いDHBマトリクスを使用したときの、フラーレン非添加時及びフラーレン添加時におけるイオン生成持続性評価結果を示す図。
本発明に係るMALDI質量分析方法の一実施例について、添付図面を参照して説明する。
[サンプルの調製手順]
サンプルプレートに形成されたウェル上で、測定対象物質、マトリクス、及び、フラーレンが混合したサンプルを調製できさえすれば、その調製手法や手段は特に問わない。ここで「混合」とは、測定対象物質、マトリクス、及び、フラーレンが均一に混合した状態に限らず、サンプルウェル上の一部において、測定対象物質、マトリクス、及びフラーレンが混合した状態も含まれる。
一例として、以下の重層法によりサンプルを調製することができる。図1は重層法によるサンプル調製手順の一例を示すフローチャートである。
まず、1乃至複数の測定対象物質を含む試料溶液とマトリクス溶液とを混合し、これをサンプルプレート上に形成されているウェルに滴下する(ステップS1)。測定対象物質は、ペプチド、タンパク質を含むポリペプチド、糖鎖や脂質などの化学修飾を受けたポリペプチドなど、広義のペプチド全般である。また、試料溶液及びマトリクス溶液の溶媒としては、一般に使用される溶媒を用いればよく、例えば、アセトニトリル−TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、アセトニトリル水溶液、TFA水溶液などを用いることができる。
通常はウェルに滴下された混合液を乾化させることでサンプルを調製する。それに対し、ここでは、サンプルプレート上の混合液が乾燥する前に、その液滴上にフラーレンの飽和溶液を滴下又は吹き掛けることで該溶液を重層する(ステップS2)。フラーレンとしては、一般にフラーレンと呼ばれるC60のほか、C70、C74、C76、C78などの高次フラーレン(炭素5員環及び6員環からなるクラスタ)でもよい。また、フラーレンの飽和溶液の溶媒としてはフラーレンを溶解することができる有機溶媒であればよく、例えばトルエンなどを用いることができる。
上記のようにフラーレン飽和溶液を重層した後、例えば適度な温度を加える又は乾燥した空気流を当てることで、液滴を乾化させる(ステップS3)。
フラーレンは試料溶液及びマトリクス溶液には難溶解であるものの、上記のような重層法を採ることによって、測定対象物質、マトリクス、及びフラーレンが適度に混合したサンプルを簡便に且つ効率良く調製することができる。
また、ここで、フラーレン飽和溶液の代わりにフラーレンの懸濁液を用いることもできる。この場合、溶媒はフラーレン難溶性であってもよく、ウェルへの滴下前にボルテックスミキサー等を用いて懸濁操作を行い、懸濁状態を保ったまま滴下を行うようにすればよい。
上記重層法以外にも、様々な方法でサンプルの調製が可能である。
例えば、1乃至複数の測定対象物質を含む試料溶液とマトリクス溶液とを混合した溶液に、適量のフラーレンを添加する。そして、この測定対象物質、マトリクス、フラーレンを含む混合液に対し懸濁操作を行った後、フラーレンの懸濁状態を保ったままウェルへの滴下を行い、乾化させる。これにより、上記重層法と同様のサンプルを得ることができる。
また、重層法における上記ステップS1の作業の後、ウェルに滴下された混合液を乾化する前に、粉体噴霧器具を用いてフラーレンを測定対象物質/マトリクス混合液の液滴上に粉体のまま吹き掛ける。その後に、液滴を乾化させる。これによっても、上記重層法と同様のサンプルを得ることができる。
IR−MALDIイオン源、UV−MALDIイオン源のいずれを用いる場合でも、サンプルの調製手順自体は基本的に同じである。ただし、イオン化に使用するレーザ光の波長の相違に応じて、マトリクス自体は使い分ける必要があることは当然である。
[IR−MALDI質量分析装置を使用した実験]
実験条件は以下のとおりである。
(1)試料(測定対象物質):
(A) Glu1-Fibrinopeptide[アミノ酸配列:EGVNDNEEGFFSAR]
(B) Angiotensin II[アミノ酸配列:DRVYIHPF]
(30%のアセトニトリル/0.07%トリフルオロ酢酸溶液で調製:なお、%は体積を基準とする。以下も同様である。)
(2)マトリクス:2M 尿素(50%(v/v)のアセトニトリル水溶液で調製)
(3)フラーレン:C60飽和溶液(100%トルエンで調製)
(4)サンプルプレート:ステンレス製2[mm]厚プレート
(5)測定装置:島津製作所製MALDIデジタルイオントラップ飛行時間型質量分析計
・MALDIイオン源のレーザ光源:中赤外波長可変固体レーザKISS-LASER 5.5-10(川重テクノロジー社製)を使用し波長は5.9[μm]に固定
・質量分析条件:リニアモード/正イオンモード
なお、以下の説明及び図面中では、AngiotensinIIを「Ang2」、Glu1-Fibrinopeptideを「Gulfib」と略す。
図2はサンプルプレート上のマトリクス(尿素)結晶の顕微鏡画像であり、(a)はフラーレン非添加、(b)はフラーレン添加である。この顕微画像上においてフラーレンは褐色の物質として略環状に現れている。
試料としてAng2を用い、マトリクス結晶上の所定の一点に対しレーザ光照射を連続的に繰り返したときの、その1回のレーザ光照射毎のイオン生成量の変化を調べた。レーザ光を照射する部位は、試料(測定対象物質であるAng2)が集積している、いわゆるスイートスポットである。図3は、フラーレン非添加時及び添加時におけるレーザ光照射回数と測定対象物質(Ang2)由来のピーク信号強度との関係の実測結果を示す図である。ピーク信号強度はMALDIイオン源におけるイオン生成量を反映していると考えられる。
図3(a)に示すように、フラーレンを添加しない場合には、イオン生成が持続するのはレーザ光照射回数300回程度までである。これに対し、フラーレンを添加した場合には、レーザ光照射回数500回までイオン生成が持続していることが確認できる。また、図3(a)、(b)では縦軸(ピーク強度軸)の目盛を同一にしてあり、図3から明らかなように、フラーレン添加時にはフラーレン非添加時に比べて、イオン生成量自体が大幅に増加していることが分かる。
さらにレーザ光照射回数を増やしていってフラーレン添加時におけるイオン生成の持続性を調べた結果が図4である。図4から分かるように、レーザ光照射回数8000回程度までイオン生成が持続することが確認できる。これは、フラーレン非添加時の300回程度という限界に比べると格段の改善であるといえる。また図4に示すグラフ中には、レーザ光照射回数7985〜8000回の15回のレーザ光照射で得られたピーク強度に基づいて作成した積算マススペクトルを示している。この積算マススペクトルにおいて、測定対象物質(Ang2)の分子イオン[M+H]+(m/z=1046)は十分なSN比で以て検出されていることが確認できる。
以上の実験結果から、IR−MALDI法を用いた質量分析では、尿素マトリクスにフラーレンを添加することによって、繰り返しレーザ光照射に対するイオン生成の持続性が大幅に向上することが分かる。
また上記結果から、フラーレンをマトリクスに添加することで検出感度が向上することも定性的に確認できたが、これを定量的に検証するために、フラーレン非添加時とフラーレン添加時とにおけるAng2及びGlufibペプチドの検出感度を調べた。図5は、フラーレン非添加時及び添加時におけるAng2の濃度と検出感度との関係を示すマススペクトルである。また図6は、フラーレン非添加時及び添加時におけるGlufibの濃度と検出感度との関係を示すマススペクトルである。
図5に示すように、マトリクスにフラーレンを添加しない場合、100[fmol]の濃度のAng2は検出不可能である。これに対し、マトリクスにフラーレンを添加した場合には、100[fmol]濃度のAng2も十分なピーク強度で以て検出されている。また図6に示すように、測定対象物質がGlufibである場合、フラーレン非添加時の検出限界濃度は500[fmol]であるのに対し、フラーレン添加時の検出限界濃度は25[fmol]である。即ち、この結果から、マトリクスにフラーレンを添加することで、約20倍の検出感度向上が実現できていると結論付けることができる。
以上の結果から、尿素マトリクスにフラーレンを添加することにより、ペプチドの検出感度も大幅に向上することが確認できた。
[UV−MALDI質量分析装置を使用した実験]
実験条件は以下のとおりである。
(1)試料(測定対象物質):Angiotensin II[アミノ酸配列:DRVYIHPF](30%のアセトニトリル/0.07%トリフルオロ酢酸溶液で調製)
(2)マトリクス:10[mg/mL] DHB(50%アセトニトリル/0.1%TFA溶液で調製)
(3)フラーレン:C60飽和溶液(100%トルエンで調製)
(4)サンプルプレート:ステンレス製2[mm]厚プレート
(5)測定装置:島津製作所製 AXIMA-Perfromacne MALDI飛行時間型質量分析計
・質量分析条件:リニアモード/正イオンモード
(6)サンプル上のラスタ測定(測定位置のスキャン)条件:
・ラスタ範囲:2500[μm]×2500[μm]
・ラスタ点数:121点
・ラスタ1点当たりのレーザ光照射回数:2000回
図1に従った手順でサンプルを調製したときのサンプルプレート上のマトリクス結晶の顕微鏡画像を図7に示す。顕微画像上でフラーレンは褐色の物質として略環状に現れている。これは図2に示した、尿素マトリクスの場合と同じ傾向である。
試料としてAng2(濃度10[fmol])、マトリクスとしてDHBを用いて、ラスタ測定を行い、イオン生成の持続性を示すマスイメージングデータを取得した結果を、サンプルの顕微鏡画像と併せて図8に示す。図8の右側に示すマスイメージングデータはラスタ測定の各点毎に、イオン生成が持続したレーザ光照射回数を示したものである。この図から、マトリクスにフラーレンを添加することによってイオン生成の持続性が向上する領域が大幅に増加していることが分かる。また、マスイメージング画像とサンプルの顕微鏡画像とを比較すると、フラーレンの添加によってイオン生成の持続性が向上している領域は略円環状に存在しており、これはフラーレンが存在する領域と有意な相関を示していることが確認できる。
マトリクスとしてDHBを用いたUV−MALDI法においては、IR−MALDI法における尿素マトリクスで観測されたような感度向上効果は確認できないものの、フラーレンの添加によってイオン生成の持続性向上には十分な効果が得られると結論付けることができる。
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。

Claims (7)

  1. MALDIイオン源を有する質量分析装置を用いた質量分析方法であって、
    測定対象物質、マトリクス、及び、フラーレンが混合したサンプルを調製し、該サンプルに対し前記MALDIイオン源においてレーザ光を照射し、前記測定対象物質をイオン化して質量分析することを特徴とするMALDI質量分析方法。
  2. 請求項1に記載のMALDI質量分析方法であって、
    前記MALDIイオン源は赤外レーザ光を使用したものであり、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、レーザ光照射の繰り返しに対する測定対象物質由来イオンの生成の持続性を向上させることを特徴とするMALDI質量分析方法。
  3. 請求項1に記載のMALDI質量分析方法であって、
    前記MALDIイオン源は赤外レーザ光を使用したものであり、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、測定対象物質由来イオンの検出感度を向上させることを特徴とするMALDI質量分析方法。
  4. 請求項2又は3に記載のMALDI質量分析方法であって、
    前記マトリクスは尿素であることを特徴とするMALDI質量分析方法。
  5. 請求項1に記載のMALDI質量分析方法であって、
    前記MALDIイオン源は紫外レーザ光を使用したものであり、フラーレンを添加したマトリクスを用いることにより、レーザ光照射の繰り返しに対する測定対象物質由来イオンの生成の持続性を向上させることを特徴とするMALDI質量分析方法。
  6. 請求項5に記載のMALDI質量分析方法であって、
    前記マトリクスは2,5−ジヒドロキシ安息香酸であることを特徴とするMALDI質量分析方法。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載のMALDI質量分析方法であって、
    測定対象物質と液体状である前記マトリクスとの混合物をサンプルプレート上に滴下し、その液滴の乾燥前に、飽和状態までフラーレンを溶解させた溶液を前記液滴に重層して乾燥させることによりサンプルを調製することを特徴とするMALDI質量分析方法。
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