以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る二重環縫いの縫目構造を得るために使用する第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンの全体外観斜視図であり、図2及び図3は第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンが装備する縫目のほつれ止め装置の要部の構成を示す斜視図、図4は同縫目のほつれ止め装置の要部の構成を示す平面図である。以下の説明においては、図2〜図4中に矢符により示した「左,右」及び「前,後」なる表現を使用して説明する。ここで、「前」は、縫製作業者に近い側、「後」は、縫製作業者から離れた側、「左,右」は、縫製作業者に近い前側からみた場合の「左,右」である。
図1に示すように、第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンは、ミシン本体部Dの上下位置から左方に向けてミシンアーム部C及びミシンベッド部Bが互いに略平行状に延設されている。この横筒形二重環縫いミシンは、図4に示すように、ルーパ1と、1本の針2(図11〜図17参照)と、ミシンベッド部Bの上面に取り付けられた針板台11と、この針板台11に装備される縫目のほつれ止め装置Hと、前記針板台11上に取り付けられる針板Pとを備えている。
針2は、ミシンアーム部C内のミシン主軸(図示省略)の回転に連動して上下動する針棒12の中心の延長線上に位置するように針棒12の下端部に針取付具13を介して取り付けられて、上昇及び下降する。図2、図4中のAは、針2の針落ち位置(下降位置)を示している。針落ち位置Aは、針板Pの略中央部に設定されている。
ルーパ1は、ミシンベッド部B内に配置され、図示省略するルーパ駆動機構の動作を介して針2の上下動経路に略直交する方向に進退(左進及び右退)動作する。図4の実線は、ルーパ1が左進位置に動作した状態を示し、図4の破線は、ルーパ1が右退位置に動作した状態を示す。図4の実線に示すように、左進位置にあるルーパ1の先端部は、針落ち位置Aを越えて左方向に延出し、図4の破線に示すように、右退位置にあるルーパ1の先端部は、針落ち位置Aの右方向に離れて位置する。
横筒形二重環縫いミシンは、針2の上昇及び下降動作とルーパ1の左進及び右退動作とにより、針板P上にセットされた縫製生地(図示省略)を縫製する。縫製生地は、針板P上に押え金(図示省略)により押えられ、ミシンベッドBの内部に設けられた送り機構の動作により、図4の矢印Y方向に送り移動される。送り機構は、針板P上に突出して後方向に移動し、且つ、針板P下に没入して前方向に復帰移動する動作を繰り返す送り歯を備え、この送り歯により縫製生地は間欠的に矢印Y方向に送り移動される。
上述した針棒12、ルーパ駆動機構及び送り機構は、ミシン主軸(図示省略)からの伝動により互いに同期して動作する公知の機構である。針2は、針糸20(図11〜図17参照)を保持し、縫製生地が送り移動を停止している間に、該縫製生地を貫通して針板P下に達し、その後、上昇して縫製生地の上方へ抜け出す。ルーパ1は、ルーパ糸10(図11〜図17参照)を保持し、針2の上昇開始に合わせて左進し、針板P下に形成される針糸20のループ20aを捉える。縫製生地は、針2の上昇時に送り移動される。針2は、送り移動した縫製生地を貫いて下降し、右退中のルーパ1が保持するルーパ糸10を捉える。二重環縫いミシンは、以上の動作を繰り返して、縫製生地に二重環縫いの縫目を形成する。
上記の如き横筒形二重環縫いミシンが備える縫目のほつれ止め装置Hは、針糸保持機構と、ストッパ機構と、前記針糸保持機構の糸掛けフック3(後述する)と前記ストッパ機構のストッパ部材4(後述する)とを連動連結する連結部材としての連結ロッド35と、制御部8(後述する)と、を備えている。
前記針糸保持機構は、糸掛けフック3と、該糸掛けフック3を前記ルーパ1から離れた待機位置と前記ルーパ1に接近した糸掛け位置との間に亘って上下方向の支軸30を中心として駆動揺動させるフックアクチュエータとしての往復動式の糸操作シリンダ32とを有する。糸掛けフック3の揺動中心となる支軸30は、針板Pの右後側角部の近傍に配置され、前記針板台11上に支持されている。
糸掛けフック3は、円弧状の湾曲形状を有し、支軸30から左方へ延びる支持アーム3eの先端部に、前方へ折り返すように連設されている。糸掛けフック3の先端部は、針板Pの下側において、左側後方から針落ち位置Aに臨ませてあり、該先端部には、外向きに突出するフック部3bが形成されている。支持アーム3eは、支軸30から前方へ向けて延びる延設部3cを有し、この延設部3cの先端部には、連結ロッド35の一端部が連結されている。
前記ストッパ機構は、図5〜図8に示すように、前記糸操作シリンダ32の出力ロッド31の先端部(左端部)に止めネジ36を介して固定され、エアチューブ33を介して供給される作動エアによって糸操作シリンダ32が伸縮動作することにより左右方向に直線的に往復駆動移動されるストッパ部材4と、該ストッパ部材4の一部に係合及び係合解除可能な揺動レバー9と、該揺動レバー9を前記ストッパ部材4の一部に係合して前記糸掛けフック3が待機位置に位置する方向に揺動付勢するスプリング91と、該スプリング91の揺動付勢力に抗して前記揺動レバー9を前記ストッパ部材4の一部から強制的に係合解除させるストッパアクチュエータとしての片動式(左方向への押出し駆動式)のストッパシリンダ42とにより構成されている。
前記ストッパシリンダ42の出力ロッド41は、エアチューブ43を介して供給される作動エアによってストッパシリンダ42が左方向へ押出し駆動されることに伴い前記揺動レバー9を前記スプリング91の揺動付勢力に抗して反時計方向に揺動させるように構成されている。
揺動レバー9は、揺動レバー取付台92の上面に上下方向の支軸90を中心として揺動可能に支持されている。揺動レバー9は、先端部に前記ストッパ部材4の一部に係合可能な係合爪9aを有しており、図5に示すように、糸操作シリンダ32の伸張動作により前記ストッパ部材4が左方向に駆動移動されているとき、即ち、糸掛けフック3が待機位置に移動されているときは、スプリング91の付勢力によりストッパ部材4の側部に接触し、糸操作シリンダ32の収縮動作により前記ストッパ部材4が右方向に駆動移動されたときは、図6に示すように、スプリング91の付勢力により支軸90を中心として時計方向に揺動して先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合可能な状態となる。
また、図7に示すように、収縮した糸操作シリンダ32を再び少量だけ伸張動作させることにより、揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合して、ストッパ部材4の左方向への駆動移動が一時的にストップされる。このようにストッパ部材4が一時的にストップされた状態において、前記糸掛けフック3は、連結ロッド35を介して前記待機位置と糸掛け位置との間の保持位置に移動し停止する。このとき、糸掛けフック3の先端のフック部3bは、図4に示す糸掛け位置(針落ち位置A)から左後方に移動して、針糸20を引掛けて前記保持位置に保持する。
更に、図8に示すように、ストッパシリンダ42の伸張に伴い出力ロッド41を左方向へ押出し駆動させることにより、前記揺動レバー9が前記スプリング91の揺動付勢力に抗して反時計方向に揺動されて、該揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部から係合解除され、ストッパ部材4の一時的なストップが解除される。これによって、糸操作シリンダ32は、最大限に伸張動作されて糸掛けフック3が連結ロッド35を介して待機位置に揺動復帰される。
以上のように、第一実施の形態の二重環縫いミシンにおいて、針糸保持機構の糸掛けフック3は、糸操作シリンダ32及びストッパシリンダ42の伸縮動作により、前述した待機位置、糸掛け位置及び保持位置との間に亘って揺動する。
第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンは、縫製終了後に針糸20及びルーパ糸10を切断する糸切り機構5を備えている。この糸切り機構5は、図16及び図17に示すように、糸切りフック50と、糸切りメス51と、糸切りフック50を糸切りメス51との摺接部に押し付ける板ばね59と、糸切りアクチュエータ58(図9参照)と、を有する。糸切りフック50は、その先端部に、後方へ向けて突設された第1のフック部52と第2のフック部53とを備えている。糸切り機構5は、公知であるため、その他の詳細な構成の説明及び図示は省略する。
また、第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンにおいては、ミシンベッド部Bの上面に取り付けられる針板台11が、図2〜図4に示すように、左側針板台部11Lと右側針板台部11Rとに二分割された構成が採用されている。左側針板台部11Lの上面に、前記針板Pが止めネジ100を介して取り外し可能に取り付けられていると共に、前記針糸保持機構の糸掛けフック3の揺動中心となる支軸30を支持している。
二分割された左側針板台部11Lにおける左端部近くの前後複数箇所(2箇所)、具体的には、図4中に仮想線で示すミシンアーム部Cの先端(左端)近傍で前記針板Pの取付箇所とは離れた箇所にはネジ孔101が形成されており、これらネジ孔101に螺合する止めネジ部材102介して、左側針板台部11Lはミシンベッド部Bの上面に締付け固定及び固定解除可能(着脱可能)に取り付けられている。
また、ミシンベッド部Bの上面及び前記左側針板台部11Lには、図3に示すように、前記止めネジ部材102による2箇所の締付け固定箇所から離れた箇所にノックピン103及び該ノックピン103が嵌合するピン孔104が形成されており、ピン孔104をノックピン103に上方から差し込み嵌合することにより、左側針板台部11Lを、ミシンベッド部Bに対して所定の位置及び姿勢に位置決めし、この状態で、前記止めネジ部材102をネジ孔101にねじ込むことにより、左側針板台部11Lをミシンベッド部Bの上面に締付け固定可能としている。
なお、本第一実施の形態の二重環縫いミシンでは、ノックピン103がミシンベッド部Bの上面から上方へ向けて突出され、ピン孔104が左側針板台部11Lに形成されたものについて説明及び図示しているが、ノックピン103が左側針板台部11Lの下面から下方へ向けて突出され、ピン孔104がミシンベッド部Bの上面に形成されたものであってもよい。
一方、二分割された右側針板台部11Rは、前記糸操作シリンダ32及びストッパシリンダ42を支持するシリンダ取付台部(以下、該右側針板台部11Rをシリンダ取付台部と称する)を構成するものであり、該シリンダ取付台部11Rの下部には上述したストッパ機構が配置されている。詳細には、シリンダ取付台部11Rの下面には、図5〜図8に示すように、糸操作シリンダ32が取付ネジ105を介して固定支持されていると共に、該糸操作シリンダ32の下部にストッパシリンダ42が二段重ねの状態に配置されており、該ストッパシリンダ42は、取付ネジ106を介してシリンダ取付台部11Rに固定支持されている。
前記シリンダ取付台部11Rは、ミシンベッド部Bの側面に止めネジ部材107を介して固定状態に組み付けられている。ここで、固定状態とは、ほつれ止め装置Hをミシンベッド部Bに組付ける時に前記止めネジ部材107の締め付けにより所定の位置に固定され、組付け後は、位置調整等も行わず所定の組み付け位置に固定される状態を指す。
前記連結ロッド35の一端(右端)部は、ストッパ機構におけるストッパ部材4にピンネジ108により回動可能に連結されている。この連結ロッド35の一端とストッパ部材4とのピンネジ108による連結部に対応する箇所のシリンダ取付台部11Rには、糸操作シリンダ32の伸縮に伴って左右方向に直線的に往復移動するストッパ部材4の直線的な往復移動を許容するように、左右方向に沿って長い長溝109が形成されている。
また、前記連結ロッド35の他端で前記糸掛けフック3に連なる延設部3cとの連結端部分35aは、前記延設部3cの略厚み分だけ下方に屈曲されている。この下方に屈曲された連結ロッド35の連結端部分35aには、上方へ向けてピン110が突出されている一方、前記延設部3cには、前記ピン110の上方から該ピン110に差し込み可能及び上方へ抜き出し可能な連結孔111が形成されている。
これによって、左側針板台部11Lをミシンベッド部Bに対して固定解除してミシンベッド部Bから取り外す際、連結ロッド35と延設部3cとを固定連結する、例えば止めネジ等を弛緩操作して両者の連動状態を解除するといった作業を行う必要がなく、左側針板台部11Lを上方へ持ち上げるだけで、延設部3cの連結孔111をピン110から上方へ抜き出して連結ロッド35と延設部3c(糸掛けフック3)との連動状態を解除することが可能である。また、左側針板台部11Lをミシンベッド部Bに取り付ける際も、左側針板台部11Lを上方からミシンベッド部Bに向けて移動させるだけで、連結孔111を上方からピン110に差し込んで連結ロッド35と延設部3c(糸掛けフック3)とを連動状態に復帰することが可能である。なお、連結ロッド35の連結端部分35aは、必ずしも下方に屈曲する必要がない。つまり、連結ロッド35は、その全長にわたって偏平な板状のものであってもよい。
更に、前記ストッパ機構における揺動レバー9を上下方向の支軸90を中心として揺動可能に支持する揺動レバー取付台92は、シリンダ取付台部11Rに、左右方向の長い長孔93と止めネジ94とを介して左右に位置調節可能に取り付けられている。これは、シリンダ取付台部11Rをミシンベッド部Bに止めネジ部材107を介して固定状態に組み付けられた後においても、揺動レバー取付台92をシリンダ取付台部11Rに対して左右に位置調節することにより、糸掛けフック3に保持された針糸ループ20aからルーパ1が抜け出すタイミングを任意に調整することを可能とし、これによって、縫目のほつれ止めのための自糸ルーピングを確実に行わせることができるようにしたものである。
以上に説明したように、針板台11を、左側針板台部11Lと右側針板台部11Rとに二分割した構成を採用した縫目のほつれ止め装置Hを備える第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンにおいては、縫目のほつれ止め装置Hをミシンベッド部Bに組み付けるに際して、左右で二分割された針板台11の左側針板台部11L及び右側のシリンダ取付台部11Rを個々別々にミシンベッド部Bに取り付けることが可能である。そのため、左右両側針板台部11L、11Rが一体化されて左右に長くて大きい一つの針板台を取り扱う場合に比べて、ほつれ止め装置H全体のミシンベッド部Bに対する取り付け(組み付け)作業を少ない労力で楽に行うことができる。
また、針板台11(左側針板台部11L及び右側のシリンダ取付台部11R)をミシンベッド部Bに一旦、組み付けた後に、例えば、ルーパ1やそれの作動用部材など針板台11の下部でミシンベッド部Bの内部に収容されている縫いを構成する部材の位置や運動軌跡を修正して縫い調子を調整することが必要になった場合、あるいは、針板台11の下部でミシンベッド部Bの内部に収容されている各種部品の補修や交換等のメンテナンスが必要になった場合、エアチューブ33及び43が接続されている糸操作シリンダ32及びストッパシリンダ43を組付け時に所定位置に強く固定支持しているシリンダ取付台部11Rは、ミシンベッド部Bから取り外す必要がなく、左側針板台部11Lのみをミシンベッド部Bから固定解除して取り外すだけで十分に広い作業スペースを確保して縫い調子の調整やメンテナンスを容易に行うことが可能である。
図9は、上述したような縫目のほつれ止め装置Hを含めて第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンの制御系の構成を示すブロック図である。
二重環縫いミシンの制御部8には、ペダルスイッチ21による踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bと、針2,2が上死点近傍にあるときに発信される針位置信号22と、糸切り信号23及び針糸払い信号24とがそれぞれ入力される。
一方、制御部8からは、糸操作シリンダ32、ストッパシリンダ42及び糸切りアクチュエータ58のそれぞれに動作制御信号が出力される。糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、制御部8から糸操作シリンダ32及びストッパシリンダ42に出力される動作制御信号に従って前述の如く動作し、糸切り機構5の糸切りアクチュエータ58は、制御部8から出力される糸切り信号23に従ってそれぞれ伸縮動作する。
更に、制御部8からは、ミシン主軸の駆動源であるミシンモータ80、布押え用押え金を昇降する布押えシリンダ81、後述するように切断された針糸20,20を跳ね上げるエアワイパ82、縫製生地の送り量を調整する送り低減機構83、及びルーパ1へのルーパ糸10の送り出しを抑制するルーパ糸抑制機構84にもそれぞれ動作制御信号が出力される。
送り低減機構83は、送り機構における送り歯の動作態様を変えること、例えば、送り歯の動作経路を針板Pに対して傾けて針板P上への突出時間を短くすることにより、針板P上の縫製生地に送り歯が作用する時間を短くする、あるいは、送り歯を循環作動させるレバーの長さを変更することにより、送り歯による単位送りピッチを小さくするなどして縫製生地の送り量を低減するものであって、このような送り低減機構83は、公知であるため、詳細の図示及び説明は省略する。
ルーパ糸抑制機構84は、ルーパ1に送り込むルーパ糸10の中途部分を挟持する糸調子皿と、該糸調子皿によるルーパ糸挟持強さを増減するように動作するアクチュエータとを備えてなり、糸調子皿によるルーパ糸挟持強さを高めてルーパ糸10に対する付与抵抗を増すことにより、ルーパ糸10の送り出しを抑制するものであって、このようなルーパ糸抑制機構84は、公知であるため、詳細の図示及び説明は省略する。
制御部8は、二重環縫いの縫目を形成する縫製終了後に、糸掛けフック3を、ミシンモータ80、布押えシリンダ81、エアワイパ82、送り低減機構83及びルーパ糸抑制機構84と関連して動作させることにより、二重環縫いの縫目のほつれ止め動作を実行する。
図10は、ほつれ止めのための制御部8の動作内容を時系列的に示すタイムチャートである。制御部8は、CPU、ROM及びRAMを備えるコンピュータであり、図10のタイムチャートに従うほつれ止め動作は、ROMに格納されている制御プログラムに基づくCPUの一連の動作により実行される。
図11〜図17は、第一実施の形態の横筒形二重環縫いミシンにおけるほつれ止め装置Hによるほつれ止め動作の説明図であり、図10のタイムチャートに従う制御部8の動作によって生じる糸掛けフック3及び糸切りフック50の動作状態を示している。
ミシンを使用する縫製作業者は、通常の縫製を終了する際、ミシン駆動のためのペダルの踏み込み操作を止め、その後にほつれ止め動作を実行することになるが、この場合、前記ペダルを踏み返し操作する。ペダルスイッチ21は、ペダルに付設してあり、踏み込み操作中は踏み込み信号21aを出力し、踏み返し操作されたときは踏み返し信号21bを出力する。
制御部8は、通常の縫製が終了し、図10のS1の時点において、ミシン駆動のためのペダルが踏み込み状態から中立状態に戻されたとき、つまり、ペダルスイッチ21から踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bのいずれも出力されない状態になったとき、入力側に与えられる針位置信号22を参照してミシンモータ80に停止指令を出力する。これにより、ミシンは、針2が上死点近傍にあって、ルーパ1が左進した状態で一時停止する。
その後、制御部8は、前記ペダルが踏み返し操作されるまで待機する。図10のS2の時点において踏み返し操作され、入力側に踏み返し信号21bが入力された場合、制御部8は、まず、S3の時点において、送り低減機構83に動作開始指令を与えて送り歯による単位送りピッチを小さくするなど縫製生地の送り量を通常縫製時の送り量よりも小さく(低減)し、その後、以下に述べるほつれ止め動作を開始する。なお、前記送り低減機構83における送り歯による縫製生地の小さい送り量の送りの開始時期(S3)は、糸掛けフック3により針糸ループ20aを針2の下降位置よりもルーパ1の進出端側に位置させる前の1針半以上前に設定されている。
なお、制御部8は、ペダルスイッチ21から踏み込み信号21aが再入力された場合、通常の縫製動作に復帰するので、縫製作業者は、ペダルを再度踏み込み操作することによって、通常の縫製を継続することができる。また、図10において、S1の時点からS2の時点までの間は中立状態が維持されることになっているが、このような中立状態の維持は必ずしも必要でなく、通常の縫製終了時のペダルの操作は、踏み込み状態から踏み返し状態に連続的に移行されるものでもよい。この場合は、移行の過程で中立位置を通過する際、踏み込み信号21a及び踏み返し信号21bのいずれも出力されない無信号状態となり、制御部8は、この無信号状態をトリガーとして、前述のように、針2が上死点近傍に上昇し、ルーパ1が左進した状態を実現した後にほつれ止め動作を開始する。
また、図10のタイムチャートでは、S2の時点におけるペダルの踏み返し操作が、以下に説明するほつれ止め動作の実行中に継続されることになっているが、このような踏み返し操作をほつれ止め動作が終了するまでの間、継続する必要はなく、踏み返し信号21bの入力停止後もほつれ止め動作は、制御部8の働きにより継続して実行される。
図11は、ほつれ止め動作の開始時における針2、ルーパ1及び糸掛けフック3の状態を示している。針2は、1本の針糸20と1本のルーパ糸10とにより二重環縫いの縫目Mが形成された縫製生地の上方へ抜け出した状態にある。ルーパ1は、縫製生地の下側で左進し、針2が形成する針糸ループ20aを捉えた状態にある。この状態で、針糸20及びルーパ糸10を切断すると、図27に示すような縫い終わり部が形成される。
ほつれ止め動作の開始後、制御部8は、まず、図10のS4の時点において、出力側の糸操作シリンダ32に動作指令を与える。これによって、糸操作シリンダ32は、図5に示す伸張状態から図6に示す収縮状態に動作してストッパ部材4が右方向に駆動移動され、これに伴い糸掛けフック3は、ストッパ部材4及び連結ロッド35を介して支軸30を中心として揺動し待機位置から糸掛け位置に移動し、このとき、糸掛けフック3の先端のフック部3bが針糸ループ20aを引掛けるとともに、ストッパ機構における揺動レバー9がスプリング91の付勢力により支軸90を中心して時計方向に揺動し、その先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合可能な状態となる。
その直後、制御部8は、糸操作シリンダ32に動作指令を与えて、該糸操作シリンダ32は、図6に示す状態から図7に示す状態にまで少し伸張し、ストッパ部材4が直線的に左方へ駆動移動される。この糸操作シリンダ32の少量伸張時において、揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合する。これによって、ストッパ部材4の左方向への駆動移動が一時的にストップされる。このようにストッパ部材4の左方向への駆動移動が一時的にストップされた状態において、図12に示すように、前記糸掛けフック3は、連結ロッド35を介して前記待機位置と糸掛け位置との間の保持位置に移動して停止し、針糸ループ20aを前記保持位置に保持する。
以上の如く糸掛けフック3を前記保持位置で移動停止させた後、制御部8は、図10のS5の時点において、ミシンモータ80、ルーパ糸抑制機構84に動作指令を与える。この動作指令は、針位置信号22を参照して、針2が下降した後に再度上死点近傍位置に上昇するまでの間与えられる。これによって、縫製生地に対する1針分の縫製動作が行われる。この1針分の縫製は、送り低減機構83の動作により、通常の縫製時よりも小さい送り量の下で実行される。また、この1針分の縫製は、ルーパ糸抑制機構84の動作により、ルーパ1へのルーパ糸10の送り出しが抑制された状態で実行される。これによって、縫い終わりのルーパ糸10の締まりがよくなるため、後述するほつれ止め効果を高めることができる。
糸掛けフック3は、図12に示すように、針糸20の保持を、縫製生地の送り移動が完了し、針2が糸掛けフック3の保持する針糸ループ20aを通り、該針糸ループ20aを捉えるまで継続する。このとき、ルーパ糸10は、図12に示すように、針2の後側を横切るように位置している。
制御部8は、針2が針糸ループ20aを捉えたタイミング、つまり、図10のS6の直後の時点で、ストッパ機構のストッパシリンダ42に動作指令を与えて、該ストッパシリンダ42が伸張し、これに伴い出力ロッド41が左方向へ押出し駆動される。これにより、図8に示すように、前記揺動レバー9が前記スプリング91の揺動付勢力に抗して反時計方向に揺動されて、該揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部から係合解除され、ストッパ部材4の一時的なストップが解除される。このようなストッパ部材4に対するストップ解除により、糸操作シリンダ32がS6の時点において最大限に伸張される。これによって、糸掛けフック3は、図13に示すように、ストッパ部材4及び連結ロッド35を介して支軸30を中心として揺動し前記保持位置から待機位置に復帰移動し、針糸ループ20aの保持を解除する。
そして、ルーパ1は、針2の下降と共に右退動作し、捕捉した針糸ループ20aから抜け出す。このルーパ1の抜け出しにより、図14に示すように、針2は、通常の縫製時と同様にルーパ糸10を捕捉した状態となる。
この状態において、ルーパ1は、左進に転換し、針2は、上昇に転換する。図15に示すように、左進するルーパ1は、針糸ループ20a1を捉え、上昇する針2は、縫製生地の上方へ抜け出す。これにより、ルーパ1が捉えた針糸20は、先に形成した針糸ループ20aを針糸20でルーピングする、いわゆる、自糸ルーピングすることになる。
1針分の縫製動作後は、針2が上死点近傍まで上昇し、ルーパ1が左進端近傍に達した状態で終了する。その後、制御部8は、図10のS7の時点において、送り低減機構83の動作を停止し、この状態を糸切り信号23が与えられるまで待機する。そして、図10のS8の時点において糸切り信号23が与えられると、糸切り機構5の糸切りアクチュエータ58に動作指令を与えて該糸切りアクチュエータ58に所定の動作を行わせ、これにより、糸切りフック50は、図16に示すように、ルーパ1の上部に沿って進出端にまで達する。このとき、糸切りフック50の先端部の第1のフック部52は、ルーパ1が保持する針糸ループ20a内を通ってルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10の左側に達し、第2のフック部53は、針糸20に左側から対向する。
続いて、進出端に達した糸切りフック50は、右退動作する。このとき、第1のフック部52はルーパ糸10を捕捉し、第2のフック部53は針糸20を捕捉する。このように捕捉されたルーパ糸10及び針糸20は、糸切りフック50の退入端にまで引かれ、図17に示すように、糸切りメス51の先端刃部に摺接されることで切断される。そして、切断されたルーパ糸10の端部は切断位置よりもルーパ1側において糸切りフック50と板ばね59との間に挟まれた状態に保持される。
ルーパ糸抑制機構84は、以上のような糸切り動作が終えるまで動作を継続して、ルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10に所定の張力を付与する。これにより、糸切りフック50の先端の第1のフック部52は、緩みのないルーパ糸10を確実に捕捉し切断することができる。
以上のような切断動作を終えた後、制御部8は、針糸払い信号24が入力されるまで待機し、図10のS9の時点において針糸払い信号24が入力されると、エアワイパ82に動作指令を出力して該エアワイパ82を動作させる。このエアワイパ82は、空気を吹き出し、針2に連続している針糸20の切断端部を跳ね上げる。その後、制御部8は、図10のS10の時点において布押えシリンダ81に動作指令を出力して該布押えシリンダ81を動作させ、布押え用の押え金を上昇させて一連のほつれ止め動作を終了する。
上記したほつれ止めのための1針分の縫製動作の際に縫製生地の裏面に抜け出す針糸20は、通常の縫製時の最後に続けて縫製生地の裏面に形成される最終の針糸ループ20a内を通り、該最終の針糸ループ20aを自糸ルーピングして、単環縫いの縫目Mを形成する。従って、ルーパ糸10は、図18に示すように、針糸20と最終の針糸ループ20aとの間に押えられた状態となる。
また、前記送り低減機構83における送り歯による縫製生地の小さい送り量の送りが、ほつれ止めのための1針分の縫製動作の前の段階、具体的には、糸掛けフック3により針糸ループ20aを針2の下降位置よりもルーパ1の進出端側に位置させる前の1針半以上前(図10のS3の時点)から開始されるので、図18に示すように、自糸ルーピングされる縫い終わり部分の縫目のピッチPが、それより前の他糸ルーピングによる縫目のピッチP0よりも小さくなって、ルーパ糸10の切断端部が図18の矢印方向に引っ張られた場合の抜け止め抵抗が大きくなる。従って、図18に示す状態となった場合、二重環縫いの縫目Mのほつれは、自糸ルーピング部と、自糸ルーピングされる縫い終わり部分の縫目のピッチPが小さくなることに伴うルーパ糸10の抜け止め抵抗の増大との相乗作用により確実に防止することができる。
また、第一実施の形態の二重環縫いミシンの場合は、ストッパ機構における揺動レバー9を、スプリング91を用いて針糸保持機構における糸掛けフック3が前記待機位置に位置する方向に揺動付勢する構成を採用している。これによって、ストッパ部材4の戻り方向の動作(糸掛けフックが待機位置に位置する方向の動作)がスプリング9の付勢力で行われるため、ストッパ部材4の一部に係合及び係合解除する揺動レバー9を動作させるストッパシリンダ42として片動式のエアシリンダを用いることができるため、ストッパシリンダ42の小型化、低コスト化が図れる。
次に、本発明に係る二重環縫いの縫目構造を得るために使用する第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンについて説明する。
第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンは、図19に示すように、1本の針2が、ミシンアーム部C内のミシン主軸(図示省略)の回転に連動して上下動する針棒12の中心CLの延長線に対してルーパ1の進出側に変位した箇所(オフセット)に位置するように針棒12の下端部に針取付具13を介して取り付けられていること、及び、ルーパ1に対して接近及び離反動作可能で、接近動作時にルーパ1から延びるルーパ糸10を前記針2の下降位置よりも前側で保持するルーパ糸保持体6が備えられていること、の二つの構成において上述した第一実施の形態と相違し、それ以外の構成は、第一実施の形態で説明したものと全て同じである。そのため、第一実施の形態と相違する上記二つの構成以外の構成については説明及び具体的な図示を省略する。
第二実施の形態の二重環縫いミシンにおける1本の針2は、通常、左右の2本針として使用されている横筒形二重環縫いミシンの2本針のうち、右側の針を針取付具13から取り外し左側の針のみを取り付けて用いることにより、その左側の1本の針2が針棒12の中心CLの延長線に対してルーパ1の進出側にオフセットしている。左右の2本針のうちの左側の針のみをオフセット1本針2として用いる外に、専用のオフセット1本針を用いてもよい。
なお、通常の二重環縫いミシンにあっては、ルーパ1の進退動作方向に3本あるいは4本の針を並設して使用しているケースがある。3本針の場合は、針棒12の中心CLに位置する針と右側の針とを取り外し左側の針をオフセット1本針として用いてもよいし、左右両側の針を取り外して針棒12の中心CLの延長線上に位置する1本の針のみを用いてもよい。また、4本針の場合は、右側の3本の針を取り外して左側の針をオフセット1本針として用いることが考えられる。
また、前記ルーパ糸保持体6は、図4中に仮想線で示したように、円弧状の湾曲形状を有し、前記糸掛けフック3の基部に、固定ネジ60を介して共締め固定されている。このルーパ糸保持体6の先端部は、糸掛けフック3の左側に略沿って前方へ延び、糸掛けフック3の先端部の前側で針落ち位置Aに臨ませてあり、該先端部には、二股に分岐されたルーパ糸受け部6aが形成されている。
ルーパ糸保持体6は、往復動式の糸操作シリンダ32により、支軸30を中心として針糸保持機構の糸掛けフック3と一体的に駆動揺動されるように構成されている。
図19〜図25は、第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンにおけるほつれ止め装置Hによるほつれ止め動作の説明図であり、図10のタイムチャートに従う制御部8の動作によって生じる糸掛けフック3、ルーパ糸保持体6及び糸切りフック50それぞれの動作状態を示している。
図10のS1の時点からS3の時点までの縫製作業者によるペダル操作及びそれに伴う制御部8による送り低減機構83に対する動作開始指令等の動作は、第一実施の形態で説明したとおりであるため、それらの詳しい説明は省略し、それ以降におけるほつれ止め動作の開始後の動作について説明する。
図19は、ほつれ止め動作の開始時における針2、ルーパ1、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6の状態を示している。針2は、1本の針糸20と1本のルーパ糸10とにより二重環縫いの縫目Mが形成された縫製生地の上方へ抜け出した状態にある。
ほつれ止め動作の開始後、制御部8は、まず、図10のS4の時点において、出力側の糸操作シリンダ32に動作指令を与える。これによって、糸操作シリンダ32は、図5に示す伸張状態から図6に示す収縮状態に動作してストッパ部材4が右方向に駆動移動され、これに伴い糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、ストッパ部材4及び連結ロッド35を介して支軸30を中心として揺動し待機位置から糸掛け位置に移動し、このとき、糸掛けフック3の先端のフック部3bが針糸ループ20aを引掛けるとともに、ストッパ機構における揺動レバー9がスプリング91の付勢力により支軸90を中心して時計方向に揺動し、その先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合可能な状態となる。
その直後、制御部8は、糸操作シリンダ32に次の動作指令を与えて、該糸操作シリンダ32が、図6に示す状態から図7に示す状態にまで少し伸張し、ストッパ部材4が直線的に左方へ駆動移動される。この糸操作シリンダ32の少量の伸張時において、揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部に係合する。これによって、ストッパ部材4の左方向への駆動移動が一時的にストップされる。このようにストッパ部材4の左方向への駆動移動が一時的にストップされた状態において、図20に示すように、前記糸掛けフック3は、連結ロッド35を介して前記待機位置と糸掛け位置との間の保持位置に移動して停止し、針糸ループ20aを前記保持位置に保持するとともに、ルーパ糸保持体6は、ルーパ1の前側に進出して先端のルーパ糸受け部6aが針落ち位置Aの前方でルーパ糸10を保持する。
以上の如く糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6を前記保持位置で移動停止させた後、制御部8は、図10のS5の時点において、ミシンモータ80、ルーパ糸抑制機構84に動作指令を与える。この動作指令は、針位置信号22を参照して、針2が下降した後に再度上死点近傍位置に上昇するまでの間与えられる。これによって、縫製生地に対する1針分の縫製動作が行われる。この1針分の縫製は、送り低減機構83の動作により、通常の縫製時よりも小さい送り量の下で実行される。また、この1針分の縫製は、ルーパ糸抑制機構84の動作により、ルーパ1へのルーパ糸10の送り出しが抑制された状態で実行される。これによって、縫い終わりのルーパ糸10の締まりがよくなるため、後述するほつれ止め効果を高めることができる。
糸掛けフック3及びルーパ糸保持体6は、図20に示すように、針糸20及びルーパ糸10の保持を、縫製生地の送り移動が完了し、針2が糸掛けフック3の保持する針糸ループ20aを通り、該針糸ループ20aを捉えるまで継続する。このとき、ルーパ糸10は、図20に示すように、針2の前側を横切るように位置している。
制御部8は、針2が針糸ループ20aを捉えたタイミング、つまり、図10のS6の直後の時点で、ストッパ機構のストッパシリンダ42に動作指令を与えて、該ストッパシリンダ42が伸張し、これに伴い出力ロッド41が左方向へ押出し駆動される。これにより、図8に示すように、前記揺動レバー9が前記スプリング91の揺動付勢力に抗して反時計方向に揺動されて、該揺動レバー9の先端の係合爪9aがストッパ部材4の一部から係合解除され、ストッパ部材4の一時的なストップが解除される。このようなストッパ部材4に対するストップ解除により、糸操作シリンダ32がS6の時点において最大限に伸張される。これによって、糸掛けフック3及びルーパ糸保持体は、図21に示すように、ストッパ部材4及び連結ロッド35を介して支軸30を中心として揺動し前記保持位置から待機位置に復帰移動し、針糸ループ20a及びルーパ糸10の保持を解除する。
次に、ルーパ1は、針2の下降と共に右退動作し、捕捉した針糸ループ20aから抜け出す。このルーパ1の抜け出しにより、図22に示すように、針2は、通常の縫製時と同様にルーパ糸10を捕捉した状態となる。
この状態において、ルーパ1は、左進に転換し、針2は、上昇に転換する。図23に示すように、左進するルーパ1は、針糸ループ20a1を捉え、上昇する針2は、縫製生地の上方へ抜け出す。これにより、ルーパ1が捉えた針糸20は、先に形成した針糸ループ20aを針糸20でルーピングする、いわゆる、自糸ルーピングすることになる。
1針分の縫製動作は、針2が上死点近傍まで上昇し、ルーパ1が左進端近傍に達した状態で終了する。その後、制御部8は、図10のS7の時点において、送り低減機構83の動作を停止し、この状態を糸切り信号23が与えられるまで待機する。そして、図10のS8の時点において糸切り信号23が与えられると、糸切り機構5の糸切りアクチュエータ58に動作指令を与えて該糸切りアクチュエータ58に所定の動作を行わせ、これにより、糸切りフック50は、図24に示すように、ルーパ1の上部に沿って進出端にまで達する。このとき、糸切りフック50の先端部の第1のフック部52は、ルーパ1が保持する針糸ループ20a内を通ってルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10の左側に達し、第2のフック部53は、針糸20に左側から対向する。
続いて、進出端に達した糸切りフック50は、右退動作する。このとき、第1のフック部52はルーパ糸10を捕捉し、第2のフック部53は針糸20を捕捉する。このように捕捉されたルーパ糸10及び針糸20は、糸切りフック50の退入端にまで引かれ、図25に示すように、糸切りメス51の先端刃部に摺接されることで切断される。そして、切断されたルーパ糸10の端部は切断位置よりもルーパ1側において糸切りフック50と板ばね59との間に挟まれた状態に保持される。
ルーパ糸抑制機構84は、以上のような糸切り動作が終えるまで動作を継続して、ルーパ1の先端から縫製生地に延びるルーパ糸10に所定の張力を付与する。これにより、糸切りフック50の先端の第1のフック部52は、緩みのないルーパ糸10を確実に捕捉し切断することができる。
以上のような切断動作を終えた後、制御部8は、針糸払い信号24が入力されるまで待機し、図10のS9の時点において針糸払い信号24が入力されると、エアワイパ82に動作指令を出力して該エアワイパ82を動作させる。このエアワイパ82は、空気を吹き出し、針2に連続している針糸20の切断端部を跳ね上げる。その後、制御部8は、図10のS10の時点において布押えシリンダ81に動作指令を出力して該布押えシリンダ81を動作させ、布押え用の押え金を上昇させて一連のほつれ止め動作を終了する。
上記した一連のほつれ止め動作により、第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンにおいても、第一実施の形態の二重環縫いミシンを使用した場合と同様に、図26に示すような二重環縫いの縫目Mの構造が得られる。この二重環縫いの縫目Mによれば、第一実施の形態の場合と同様に、自糸ルーピング部と、自糸ルーピングされる縫い終わり部分の縫目のピッチPが小さくなることに伴うルーパ糸10の抜け止め抵抗の増大との相乗作用により、ほつれを確実に防止することができる。
加えて、第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンの場合は、ルーパ1を進出状態として通常縫製を終了した後に、ルーパ1に対して接近動作するルーパ糸保持体6により、ルーパ1から縫製生地に延びるルーパ糸10を針2の下降位置よりも前側の位置で保持させることによって、針糸20だけでなくルーパ糸10も確実に位置決めすることができる。したがって、自糸ルーピングをより確実に実施し、縫目のほつれ止め効果の一層の確実化を図ることができる。
また、第二実施の形態の横筒形二重環縫いミシンの場合は、ルーパ糸保持体6が、針糸保持機構における糸掛けフック3に共締め固定されていて、糸掛けフック3と一体的にルーパ1に対して接近及び離反動作可能に構成されているので、針糸保持機構の駆動機構をルーパ糸保持体6の駆動機構に兼用させることが可能であるため、ほつれ止め装置H全体の構成をできるだけ小型簡素化且つ低コスト化することができる。
なお、上記の第一実施の形態及び第二実施の形態の二重環縫いミシンの場合はいずれも、前記送り低減機構83における送り歯による縫製生地の小さい送り量の送りが、ほつれ止めのための1針分の縫製動作前で、糸掛けフック3により針糸ループ20aを針2の下降位置よりもルーパ1の進出端側に位置させる前の1針半以上前(図10のS3の時点)から開始されるように設定したものについて説明したが、これに限定されない。例えば、前記送り低減機構83における送り歯による縫製生地の小さい送り量の送りが、ほつれ止めのための1針分の縫製動作前で、糸掛けフック3により針糸ループ20aを針2の下降位置よりもルーパ1の進出端側に位置させる約半針前から開始されるように設定してもよい。この場合でも、図26に示すように、ルーパ1が捉えた針糸20が、先に形成した針糸ループ20aをルーピングする、いわゆる、自糸ルーピングを確実に実施できて、縫目のほつれ止め効果を奏することができる。
また、上記第二実施の形態の二重環縫いミシンにおいては、前記ルーパ糸保持体6を、針糸保持機構における前記糸掛けフック3と一体的にルーパ1に対して接近及び離反動作可能に構成したものについて説明したが、ルーパ糸保持体6を前記針糸保持機構における糸掛けフック3とは別個にルーパ1に対して接近及び離反動作可能に構成してもよい。
また、上記第二実施の形態の二重環縫いミシンにおいては、前記ルーパ糸保持体6を、図20に示すように、ルーパ1の前側に進出して先端のルーパ糸受け部6aが針落ち位置Aの前方でルーパ糸10を保持するように構成したものについて説明したが、ルーパ1の後側に進出して先端のルーパ糸受け部6aが針落ち位置Aの後部でルーパ糸10を保持するように構成してもよい。
特に、前記ルーパ糸保持体6を、前記糸掛けフック3とは別個に動作されるように構成することにより、ルーパ糸10を針落ち位置Aの後部で保持するように構成することができる。この場合は、ルーパ糸保持体6の動作専用の駆動機構を針落ち位置Aの前部に設置すればよい。
また、前記ルーパ糸保持体6を、針糸保持機構における前記糸掛けフック3と一体的にルーパ1に対して接近及び離反動作させる場合も別個に動作させる場合も、前記ルーパ糸保持体6の前記ルーパ1に対する接近及び離反動作タイミング及び/又は動作軌跡を調整可能に構成することが望ましい。
この場合は、例えば、実縫製前に試験運転(試縫い)を行って、ルーパ糸保持体6の針糸保持機構に対する動作タイミング及び/又は動作軌跡を検分し、その検分結果に基いて、ルーパ糸保持体6と針糸保持機構における糸掛けフック3との間で相互に悪影響が出たり、動作障害等が生じたりしない適正なタイミング及び/又は動作軌跡に調整することが可能である。これによって、ルーパ糸保持体6と針糸保持機構における糸掛けフック3との共存、共同作用によって、自糸ルーピングをさらに確実に実施させて所期の縫目のほつれ止め効果を一層高めることができる。
また、上記各実施の形態においては、フックアクチュエータ及びストッパアクチュエータとして、動作応答性に優れたエアシリンダを用いたものについて説明したが、これらアクチュエータとしては、電磁ソレノイド等を用いてもよい。
更に、上記各実施の形態においては、ほつれ止め装置Hを装着する針板台11が、左側針板台部11Lと右側針板台部11Rとに二分割された構成を採用し、これによって、ほつれ止め装置Hのミシンベッド部Bに対する組み付け作業性やメンテナンスの容易性の向上が図れるようにしたものについて説明したが、ほつれ止め装置Hにおける針板台11としては、左右に長い一体物に構成されたものであってもよい。
更にまた、上記各実施の形態では、1本針の横筒形二重環縫いミシンを適用対象としたが、平ベッドタイプの二重環縫いミシンに適用してもよい。