JP5933365B2 - シート状止血材 - Google Patents

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Description

本発明は、フィブリン糊が固定化された繊維成形体と、トロンビンが固定化された繊維成形体とからなるシート状止血材に関する。
フィブリノゲンは、止血に関与する血液凝固因子のひとつであり、健常人の血漿100mL中に200mgから400mg含まれている。フィブリノゲン製剤(フィブリン糊)とは、このフィブリノゲンをヒト血漿中から分離精製して製造される血液製剤の一種(血漿分画製剤)である。医療現場において、止血および組織閉鎖などの組織接着は重要な処置の一つであり、フィブリノゲン製剤は、広く外科手術の領域で使用されている。血管が損傷を受けると、まず凝固系の活性化が生じ、最終的に活性化されたトロンビンが可溶性フィブリノゲンを不溶性のフィブリンに変換する。このフィブリンは接着力を有しており、止血や組織接着に有効に働くのがフィブリノゲン製剤の作用機序である。
フィブリノゲン製剤は主に2液混合型の液状型製剤(特許文献1)とコラーゲンなどの支持体にフィブリノゲンとトロンビンを固定化したシート型製剤(特許文献2)が存在する。しかしながら、液状型製剤は、凍結乾燥されたフィブリノゲンとトロンビンをそれぞれ使用時に溶解して用いる必要があること、さらには完全に溶解させるのに時間がかかり、緊急時に使用できないなどの問題点を有している。
一方、シート状のフィブリン糊(製品名:タココンブ(登録商標)/CSLベーリング社)は、支持体であるコラーゲンは厚みがあり、また乾燥状態で臓器閉鎖部位に適用するには支持体自身が硬く、柔軟性を欠くため、閉鎖すべき創傷部位での密着性が低く、効果的な閉鎖は困難である。また、タココンブにおいては同一シート内にフィブリノゲンとトロンビンが共存しており、使用直前に溶液に浸すと同時にフィブリノゲンとトロンビンが溶解し反応が開始するが、その反応はシート内部で起こる。そのため、たとえフィブリンが溶出したとしても組織接着部位へ十分浸透する前に凝固反応が進み、組織表面のみの接着となるため、十分な組織接着効果を示さない。
したがって、これらの現行製剤により、全ての組織接着、止血が可能となるものではなく、現行製剤では要求される接着力、閉鎖力を示さない場合がある。そのため、医療現場ではより簡易的に使用でき、更に強力な接着力をも持った組織接着剤が求められている。
このような問題点を解決するために、生体吸収性材料からなるシート状フィブリン糊接着剤の検討がなされている(特許文献3)。しかしながら、フィブリノゲン固定化シートに非イオン性界面活性剤が必要であること、また、担持させる際に、シートの網目が大きいために、タンパク質溶液のロスが大きいこと、凍結乾燥後のシートは担持させたフィブリノゲンがシートから剥がれ落ちてしまうという問題点を抱えている。
このように、タンパク質の担持性に優れ、さらに担持させたフィブリノゲンが基材から剥がれることがなく、現場でより簡易的に使用でき、柔軟性が高く患部に密着し、強力な接着力を発揮する特性を兼ね備えた止血材は存在しない。
特許公開平9−2971号公報 特許公表2004−521115号公報 特開2010−69031号公報
本発明が解決しようとする課題は、フィブリノゲンおよびトロンビンの担持性に優れ、かつ基材の柔軟性が高く、高い接着力を発揮するシート状止血材を提供することである。
本発明は、第1に、繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートとを重ねてなるシート状止血材であって、繊維成形体(イ)および繊維成形体(ロ)はいずれも、生分解性ポリマーからなりかつ嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)と嵩密度が5から50kg/mである繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された内部構造をもつ長繊維繊維成形体である、シート状止血材(以下、本発明の第1シート止血材ということがある)である。
本発明は、第2に、繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートとを重ねてなるシート状止血材であって、繊維成形体(イ)および繊維成形体(ロ)はいずれも、生分解性ポリマーからなりかつ嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)と、嵩密度が5から30kg/mである繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された内部構造をもつ長繊維繊維成形体の複数枚を部分的熱融着により積層してなる積層繊維成形体である、シート状止血材(以下、本発明の第2シート状止血材という)である。
すなわち、本発明のシート状止血材(以下、本発明の第1シート状止血材および第2シート状止血材を区別する必要がない場合は、単に本発明のシート状止血材という)は、繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートとを重ねて構成される。
そして、本発明の第2シート状止血材では、繊維成形体(イ)および繊維成形体(ロ)はいずれも生分解性ポリマーからなる長繊維繊維成形体の複数枚を部分的熱融着により積層してなる積層繊維成形体が用いられる。
また、本発明において、長繊維繊維成形体は、嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)と、第1シート状止血材では嵩密度が5から50kg/cmであり、第2シート状止血材では嵩密度が5から30kg/mである繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された内部構造をもっている。
本発明のシート状止血材は、柔軟性が高く、さらにフィブリノゲンおよびトロンビンの担持性に優れ、接着性に優れる。
実施例1で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。 実施例2で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。 実施例3で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。 実施例4で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。 実施例5で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。 比較例1で製造されたフィブリノゲン固定化シートのSEM写真。
本発明は繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートから構成されるシート状止血材である。
本発明で用いられるフィブリノゲンやトロンビンは、動物から調製したものでも、遺伝子組換え技術により製造したものでもよい。動物由来のものはヒト由来のものが好ましい。また、アミノ酸配列を改変した蛋白質も使用できる。
なお、シート状止血材はフィブリノゲンおよびトロンビンを含有するため、保存中に一部でフィブリンを生じることがあるが、こうしたフィブリンを含むものも本発明の範囲である。
本発明でいう固定化とは、フィブリノゲンやトロンビンが繊維成形体の表面だけでなく、繊維成形体の内部にまで存在している状況を示している。
本発明のシート状止血材において、フィブリノゲンやトロンビンを固定化する方法は問わないが、例えばフィブリノゲン等の溶液に予め成形された繊維構造体を浸漬した後、凍結乾燥することにより作製できる。また、フィブリノゲン等をエタノールなどに分散させた溶液をスプレーなどで繊維構造体に噴霧して固定化してもよい。
フィブリノゲン固定化シート作製時に、フィブリノゲン等に加えて、薬学的に許容しうる添加剤を添加してもよい。そのような添加剤の例として、例えば血液凝固第XIII因子(ヒト血液由来または遺伝子組換え技術により得られるものが好ましい)、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、およびクエン酸ナトリウムなどがある。これらの添加剤の一つ以上を適宜組み合わせてフィブリノゲン成分の溶解性や、フィブリノゲン固定化シートの柔軟性を向上させることが可能となる。
本発明で用いる生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル類、ポリメチレンカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネート類が挙げられる。好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体などの脂肪族ポリエステル類であり、さらに好ましくはポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体である。いずれの生分解性ポリマーも疎水性ポリマーであるため、ポリマーそのものは保水性を保有していない。そのため、本発明では、ポリマーの性質による保水ではなく、繊維成形体の構造による保水である。よって、いずれの生分解性ポリマーでも同様の保水性を達成することができる。
ポリ乳酸を用いる場合、ポリマーを構成するモノマーには、L−乳酸、D−乳酸があるが、特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比は配列には特に制限はないが、好ましくはL体の多いポリマーがよく、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。
本発明で用いる生分解性ポリマーは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成型加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。特に医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要がある。
また、本発明で用いる生分解性ポリマーの重量平均分子量は、1×10〜5×10が好ましく、より好ましくは1×10〜1×10、さらに好ましくは5×10〜5×10である。またポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
本発明の繊維成形体を構成する繊維には、所期の目的を損なわない範囲で他のポリマーや他の化合物を混合してもよい。例えばポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
本発明で用いる繊維成形体は、リン脂質を生分解性ポリマーに対して0.1〜10重量%含有することが好ましい。リン脂質の含有量が0.1重量%より少ないと、フィブリノゲンまたはトロンビン溶液との親和性に効果を示さず、10重量%よりも多いと、繊維構造体自体の耐久性が低下するため好ましくない。好ましい含有量は0.2〜5重量%であり、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
かかるリン脂質は動物組織から抽出したものでも人工的に合成したものでもよく、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。これらから1種類を選択してもよいし、2種類以上の混合物を用いてもよい。好ましくはホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはジラウロイルホスファチジルコリンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである。
本発明で用いる繊維成形体は長繊維よりなり、紡糸から繊維成形体への加工にいたるプロセスの中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される。繊維長は300mm以上が好ましい。
こうした長繊維を得る方法のひとつがエレクトロスピニング法である。エレクトロスピニング法は、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維成形体を得る方法である。
本発明で用いる繊維成形体の平均繊維径は好ましくは0.5から10μmであり、より好ましくは3から5μmである。0.5μmよりも小さいか10μmよりも大きいと、それを繊維成形体にして医療用品として用いた場合に良好な特性が得られない。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。楕円形の場合の繊維径とは、その長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
本発明で用いる繊維成形体を得る方法の一例を説明する。エレクトロスピニング法において、捕集電極を絶縁体で被覆し、30kV以下の電圧で紡糸することにより嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)を得て、その上に35kV以上の高電圧で紡糸することにより、嵩密度が5から30kg/mである繊維構造体層(B)が連続的に複合化された繊維成形体を得ることができる。紡糸の際の電極間距離は10〜50cm、吐出速度は3〜20ml/hが好ましい。
なお、ここでいう「連続」とは、繊維構造体層(A)と(B)をそれぞれ作製して積層するのではなく、製造途中での条件変更により一工程で(A)と(B)の積層体相当の構造を作製するなどして、繊維構造体層(A)と(B)との間に、嵩密度が変化すること以外の不連続性がない状態をいう。そして、後工程で積層したような不連続性がない構造であることを明確化するため、本発明の繊維成形体の層状構造をつくることを「複合化」と表現している。これに対し、後述する熱融着による積層は一般的意味の積層である。
柔軟性と保水性の二つの特徴を保持するためには、繊維構造体層(B)のような疎な構造が重要となる。柔軟性と保水性を上げるためには、嵩密度を低下させることが重要となるが、嵩密度を低下させるとシートの構造保持力に欠け、毛羽立ちやすくなるため取扱性が低下する。本発明では、嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)を複合化させていることから、繊維構造体層(B)の構造保持力の低下が補われ、さらには毛羽立ちが抑えられている。繊維構造体層(A)と(B)のそれぞれの嵩密度は、(A)では150から200kg/mである。150kg/m以下では構造保持が難しく、200kg/m以上では自己支持性が高くなり、柔軟性が得られない。一方、(B)は第1シート状止血材については、5から50kg/cmであり、第2シート状止血材については5から30kg/mである。5kg/m以下では水分を保持した際に構造保持が難しく、上限値(50kg/cmまたは30kg/m)以上では柔軟性が得られない。
繊維構造体層(A)と(B)のそれぞれの厚みは、(A)では5から30μmであることが好ましい。5μm以下では構造保持が難しく、30μm以上では自己支持性が高くなり、柔軟性が得られない。一方、(B)は200から1000μmであることが好ましい。200μm以下では保水性に乏しく必要量のフィブリノゲンおよびトロンビンが担持できず好ましくない、1000μm以上では柔軟性が低下し、さらに必要となるフィブリノゲンおよびトロンビンの量が過剰量必要となり好ましくない。
また、第2シート状止血材について、部分的熱融着の方法は特に限定されるものではないが、熱した金型等を押し付ける方法が好ましい。熱融着は、十分に融着することができればシート片面のみの処理であっても両面からの処理であってもよい。熱融着に用いる金型等の温度は用いる生分解性ポリマーのガラス転移点より10℃以上、好ましくは30℃以上高い温度条件である。熱融着温度が用いる生分解性ポリマーのガラス転移点より10℃以上高温でない場合、シート裏面もしくは内部まで熱が伝わらず、本発明で用いる繊維成形体(イ)、(ロ)を製造することができない。
熱融着面積は、好ましくは5から20%、より好ましくは5から10%である。5%以下では積層構造の維持が困難であり、20%以上では嵩高さと柔軟性を欠くものとなる。
積層枚数は、好ましくは3から10枚、より好ましくは3から5枚である。2枚以下であると保水量が不十分となり、11枚以上であると柔軟性が低下する。
本発明に用いる繊維成形体は、凍結乾燥法を用いてフィブリノゲンおよびトロンビンを担持させる場合、保水性に優れていることが好ましい。このような条件を満足する繊維成形体の保水率は、第1シート状止血材については、好ましくは1200から2000重量%、より好ましくは1500〜2000重量%であり、第2シート状止血材については、好ましくは1200から2200重量%、より好ましくは1500から2200重量%である。
シート状繊維成形体の柔軟性は、剛軟性で測定することができる。具体的には、JIS L1096 8.19.2 B法(スライド法)などを用いて測定することができる。剛軟度は2.0mN・cm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5mN・cm以下である。2.0mN・cm以上であると繊維成形体は柔軟性に欠け、表面が凹凸な組織表面への追従性に欠けるので好ましくない。
本発明で用いる繊維成形体の表面に、さらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を本発明で用いる繊維成形体ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工は、所期の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
本発明のシート状止血材は、フィブリノゲンが固定化されたシートと、トロンビンが固定化されたシートから構成される。好ましくはこれらの二層構造であるが、フィブリノゲンが固定化されたシートおよびトロンビンが固定化されたシートは、それぞれ二層以上あってもよく、また各シートを積層する順序も問わない。さらに、使用時にそれぞれのシートを重ねて使用するようになっているシート状止血材キットであってもよい。
トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は、1260μL/cm以上が好ましく、1300μL/cm以上がより好ましい。これ以下であるとシートの厚みを増加させることで、保持量を増加させなくてはならず、コストと時間の増加につながり好ましくない。上限については特に指定はないが、シートの柔軟性や取扱性などを鑑みて適宜決められる。
以下の実施例において、保水率、柔軟性、トロンビン保持量、ウサギ皮膚接着力、効能は次のようにして求めた。
保水率:1cm×1cm角の試料を切り取り、試料に5μLずつ水を含浸させ、含水量を求めた。
保水率(重量%)=(W2−W1)/W1×100
W1:初期試料重量 W2:含水時試料重量
柔軟性:(JIS−L−1906 8.19.2 B法)スライド法で、試験片の大きさを1cm×7.5cmとして剛軟度測定を行った。
トロンビン保持量:シート体積当りに含有した溶液量(μL/cm
ウサギ皮膚接着力:ウサギ皮膚を採取し、皮下組織を剥離した。皮膚を3×3cmに裁断し、37℃に加温した。台座に固定化したウサギ皮膚の上に冶具を設置し、その上にフィブリノゲン固定化シート(2cm×2cm)を設置し、蒸留水200μmを滴下した。トロンビン固定化シート(2cm×2cm)をフィブリノゲン固定化シートの上に重層し、タッピング後、37℃で3分間インキュベートした。冶具をプッシュプルゲージにセットし、一定の力で引き上げ、剥離する時の力を測定した。
効能:ウサギ腹部大動脈噴出性出血モデル
麻酔下、日本白色ウサギの頚動脈を露出させ、カテーテルを挿入して血圧トランスデューサーに接続し、腹部を正中切開し、腹部大動脈を露出させる。ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より 300U/kg 投与し、平均血圧が80mmHg〜100mmHgの範囲にあることを確認する。露出させた腹部大動脈に21G注射針を穿刺して出血を作製する。出血部位に検体を適用して3分間圧迫し、止血を行い、1分間の出血の有無を観察した。
実施例1
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は10ml/h、湿度35%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は4.3μmであった。疎構造の嵩密度は33kg/m、厚みは786μm、密構造の嵩密度は172kg/m、厚みは11μmであった。得られた繊維成形体の目付けは2.7mg/cm、保水率は1880重量%、柔軟性は0.72mN・cmであった。
市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン担持シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を図1に示す。
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1571μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は7.2Nであった。
実施例2
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は6ml/h、湿度35%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は3.2μmであった。疎構造の嵩密度は40kg/m、厚みは875μm、密構造の嵩密度は186kg/m、厚みは8.5μmであった。得られた繊維成形体の目付けは2.7mg/cm、保水率は1685重量%、柔軟性は1.24mN・cmであった。
ボルヒールのキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、繊維成形体内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を図2に示す。
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1540μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は6.4Nであった。
実施例3
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加した乳酸−グリコール酸共重合体(重量平均分子量12万6千、モル比=50/50、PURAC)12重量部を、88重量部のジクロロメタンに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は30cm、吐出量は10ml/h、湿度11%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は4.1μmであった。疎構造の嵩密度は24kg/m、厚みは875μm、密構造の嵩密度は152kg/m、厚みは14.5μmであった。得られた繊維成形体の目付けは3.0mg/cm、保水率は1500重量%、柔軟性は0.91mN・cmであった。
ボルヒールのキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上で作製した繊維成形体(5×5cm)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、繊維成形体内部全面に均一に担持されていた。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認したが、担持されているフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を図3に示す。
次に、ボルヒールのキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上で作製した繊維成形体(2×2cm)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートのトロンビン保持量は1330μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートとを用いたウサギ皮膚への接着力は6.8Nであった。
実施例4
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出量は6ml/h、湿度26%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は3.3μmであった。疎構造の嵩密度は13kg/m、厚みは650μm、密構造の嵩密度は158kg/m、厚みは17μmであった。この繊維成形体を部分的熱融着により3枚積層した。融着面積は9%とした。得られた積層繊維成形体の目付けは2.82mg/cm、保水率は2075重量%、柔軟性は0.96mN・cmであった。
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記で作製した繊維構造体(5×5cm)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易にシート内に染み込んだ。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。本シートを取り扱っても担持したフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を図4に示す。
次に、市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上記で作製した積層繊維成形体(2×2cm)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に積層繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートへのトロンビン保持量は1619μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は6.8Nであった。
これらのシートを用いた効能評価では、噴出性出血に対して、出血部位に検体を適用して3分間圧迫後の1分間の出血の有無は、4例中4例で止血効果が認められた。
実施例5
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加した乳酸−グリコール酸共重合体(重量平均分子量12万6千、モル比=50/50、PURAC)12重量部を、88重量部のジクロロメタンに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維成形体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は30cm、吐出量は10ml/h、湿度11%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた繊維成形体の繊維径は5.2μmであった。疎構造の嵩密度は18kg/m、厚みは833μm、密構造の嵩密度は152kg/m、厚みは14.5μmであった。この繊維成形体を部分的熱融着により3枚積層した。融着面積は9%とした。得られた積層繊維成形体の目付けは2.64mg/cm、保水率は1923重量%、柔軟性は0.90mN・cmであった。
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記で作製した繊維構造体(5×5cm)上に染み込ませた。フィブリノゲン溶液は、容易にシート内に染み込んだ。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。本シートを取り扱っても担持したフィブリノゲンが崩壊することはなく、重量変化はなかった(100%保持)。そのSEM像を図5に示す。
次に、市販の生体組織接着剤であるボルヒール(登録商標、一般財団法人化学及血清療法研究所製、以下同じ)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。このトロンビン溶液を、上記で作製した積層繊維成形体(2×2cm)上に均一に染み込ませた。トロンビン溶液は、容易に積層繊維成形体内に染み込んだ。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。トロンビン固定化シートへのトロンビン保持量は1262μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は6.5Nであった。
比較例1
積層繊維成形体に代えてポリグリコール酸系繊維成形体であるネオベール(登録商標、グンゼ株式会社製、平均繊維径20μm、厚さ150μm、シート柔軟性1.23mN・cm)を用いた以外は、実施例1と同様に、フィブリノゲン固定化シートおよびトロンビン固定化シートを作製した。SEM観察により0.01mm以上の貫通孔が観察された。
フィブリノゲン溶液は繊維成形体へ染み込みにくかった。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。フィブリノゲン固定化シートの両端をピンセットで挟み、10回折りまげを実施し、重量変化を確認した。フィブリノゲンは、シート内部全面に均一に担持されておらず、フィブリノゲン固定化シートはピンセットで取り扱うと、担持されていたフィブリノゲンが剥落した(重量変化89%)。SEM像を図6に示す。
同様に、トロンビン溶液も繊維成形体への染み込みが悪かった。これを凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化シートとした。トロンビンは、シート内部全面に均一に担持されていた。シートへのトロンビン保持量は1254μL/cmであった。
フィブリノゲン固定化シートとトロンビン固定化シートを用いたウサギ皮膚への接着力は4.1Nであった。
これらのシートを用いた効能評価では、噴出性出血に対して、出血部位に検体を適用して3分間圧迫後の1分間の出血の有無は、3例中2例で止血効果が見られたが、1例では出血が認められた。
本発明のシート状止血材はフィブリノゲンおよびトロンビンの担持性に優れ、かつ柔軟性が高く表面が凹凸な組織表面への追従性が高いため、止血材として有用である。

Claims (8)

  1. 繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートとを重ねてなるシート状止血材であって、繊維成形体(イ)および繊維成形体(ロ)は、いずれも、生分解性ポリマーからなりかつ嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)と嵩密度が5から50kg/mである繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された内部構造をもつ長繊維繊維成形体である、シート状止血材。
  2. 繊維成形体(イ)にフィブリノゲンが固定化されたシートと、繊維成形体(ロ)にトロンビンが固定化されたシートとを重ねてなるシート状止血材であって、繊維成形体(イ)および繊維成形体(ロ)は、いずれも、生分解性ポリマーからなりかつ嵩密度が150から200kg/mである繊維構造体層(A)と嵩密度が5から30kg/mである繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された内部構造をもつ長繊維繊維成形体の複数枚を部分的熱融着により積層してなる積層繊維成形体である、シート状止血材。
  3. 生分解性ポリマーがポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、およびそれらを主成分とした共重合体からなる群から選択された一つ以上である、請求項1または2に記載のシート状止血材。
  4. 繊維成形体が平均繊維径0.5から10μmの繊維からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のシート状止血材。
  5. 繊維成形体が生分解性ポリマーに対してリン脂質を0.1から1重量%含有する繊維からなる、請求項1から4のいずれかに記載のシート状止血材。
  6. リン脂質がホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンである請求項5に記載のシート状止血材。
  7. リン脂質がジラウロイルホスファチジルコリンである請求項5に記載のシート状止血材。
  8. リン脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである請求項5に記載のシート状止血材。
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