JP5933240B2 - 評価方法、スクリーニング方法、鎮痒物質及び鎮痒剤 - Google Patents
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Description
上記課題を解決するための第1発明の構成は、哺乳動物表皮のケラチノサイト(角化細胞)における活性化誘導されたHDC(L-ヒスチジン脱炭酸酵素)に対する活性阻害効果によって被験物質の鎮痒効果を評価する、評価方法である。
上記課題を解決するための第2発明の構成は、前記第1発明に係る評価方法が、ケラチノサイトに対して下記(1)、(2)のプロセスを同時に又は相前後して行ったもとで、前記ケラチノサイトにおけるHDC活性化率及びヒスタミン産生率の少なくとも一方の値を指標として被験物質の鎮痒効果を評価する方法である、評価方法である。
上記課題を解決するための第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る評価方法において、ケラチノサイトとしてヒトの表皮のケラチノサイトを用いる、評価方法である。
上記課題を解決するための第4発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る評価方法において、ケラチノサイトとしてヒト培養表皮のケラチノサイトを用いる、評価方法である。
上記課題を解決するための第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明のいずれかに係る評価方法において、鎮痒効果を評価するための被験物質が皮膚の痒みに対する鎮痒効果を評価するための被験物質である、評価方法である。
上記課題を解決するための第6発明の構成は、前記第1発明〜第5発明のいずれかに係る評価方法において、HDCの活性化誘導手段が界面活性剤である、評価方法である。
上記課題を解決するための第7発明の構成は、第1発明〜第6発明のいずれかに記載の評価方法によって、鎮痒効果を評価するための被験物質群の中から鎮痒物質を選抜する、スクリーニング方法である。
上記課題を解決するための第8発明の構成は、第7発明に記載のスクリーニング方法によって、下記の(3)及び(4)の少なくとも一方を満足することを指標として選抜される、鎮痒物質である。
上記の第8発明において、指標としての「HDC活性化率」は以下(1)〜(5)の工程に従って算出される。
上記の第8発明において、指標としての「ヒスタミン産生率」は以下のようにして算出される。即ち、上記のように(1)、(2)の工程を行い、培養表皮の回収時における培養表皮及び培養液のヒスタミン量を適宜な測定キットを用いて定量する。ここで、培養表皮のヒスタミン量は第2発明に関して述べた「ヒスタミンの細胞内残留量(X)」であり、培養液のヒスタミン量は第2発明に関して述べた「ヒスタミンの細胞外放出量(Y)」であるから、両者の合計値が第2発明で言うヒスタミン産生量b1に該当する。一方、被験物質溶液に代えてその溶媒のみを用いるという条件変更のもとに、上記と同様に(1)、(2)の工程を行い、培養表皮の回収時における培養表皮及び培養液のヒスタミン量を同上の測定キットを用いて定量する。両者の合計値が第2発明で言うヒスタミン産生量b2である。ヒスタミン産生量b1及びヒスタミン産生量b2から、「(b1/b2)×100(%)」の計算によりヒスタミン産生率の値(%)が得られる。
上記課題を解決するための第9発明の構成は、第8発明に記載の鎮痒物質又はその薬学的に許容される誘導体を有効成分とし、皮膚の痒みに対して用いるものである、鎮痒剤である。
上記課題を解決するための第10発明の構成は、第8発明に記載の鎮痒物質又はその薬学的に許容される誘導体を有効成分とし、外用剤として用いるものである、鎮痒剤である。
2 培養カップ
3 メンブランフィルター
4 アッセイ培地
5 角質層
6 層状部分
7 滴下用器具
8 評価液
本発明に係る評価方法は、哺乳動物表皮のケラチノサイト(角化細胞)における活性化誘導されたHDC(L-ヒスチジン脱炭酸酵素)に対する活性阻害効果によって、被験物質の鎮痒効果を評価する方法である。
ケラチノサイトに刺激を与え、ケラチノサイト内のHDCの活性化を誘導する手段としては、一般的には、前記した本願発明者の新規知見に係る痒み発生メカニズムを発動させる刺激因子が限定なく含まれるが、好ましくは、皮膚に対して付着、塗布等されることによりケラチノサイトに刺激を与え、上記の痒み発生メカニズムを発動させる固体状又は液体状の化合物、化学物質、組成物等であるHDC活性化誘導物質を言う。
本発明の評価方法における「活性化誘導プロセス」とは、ケラチノサイトを刺激してHDCの活性化を誘導するプロセスを言う。具体的な活性化誘導プロセスとしては、実験動物の皮膚に対するHDC活性化誘導物質の接触、付着、塗布、スプレー等や紫外線照射が例示される。又、ヒトから分離した表皮、又は非ヒト哺乳動物の表皮、表皮を含む皮膚、あるいは、ヒト又は非ヒト哺乳動物の表皮あるいは表皮を含む皮膚の培養物に対してHDC活性化誘導物質を接触、付着、塗布、スプレー等や紫外線照射すること、更には、培養皮膚等をHDC活性化誘導物質の溶液に浸漬させることも例示される。
本発明の評価方法における「活性化阻害プロセス」とは、上記活性化誘導プロセスと同時に又は相前後して行うプロセスであって、ケラチノサイトを鎮痒効果評価用の被験物質に暴露し、又は被験物質を当該哺乳動物に投与するプロセスである。このような暴露又は投与の方法は限定されないが、「暴露」としては、活性化誘導プロセスの場合と同様のケラチノサイトを含む皮膚等に対する被験物質の接触、付着、塗布、スプレー等の他に、ケラチノサイトを含む皮膚等を被験物質の溶液に浸漬させることも例示される。従って、ケラチノサイトを含む皮膚等をHDC活性化誘導物質と被験物質の混合溶液に浸漬する実験系も考えられる。又、「投与」としては、活性化阻害プロセスを行った哺乳動物に対して外用適用、経口摂取、皮内注射、皮下注射その他の方法で被験物質を投与することが例示される。
本発明に係るスクリーニング方法は、上記の各実施形態に係る評価方法によって、鎮痒効果を評価するための被験物質群の中から鎮痒物質を選抜する方法である。
本発明に係る鎮痒剤の第1のカテゴリーは、上記のスクリーニング方法によって選抜された鎮痒物質、又はその薬学的に許容される誘導体を有効成分とし、皮膚の痒みに対して用いるものである鎮痒剤である。
本実施例ではHDC活性化誘導物質として界面活性剤に着目し、具体的には、特にアニオン性界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを用いた。界面活性剤はシャンプー、ボディソープ、ハンドソープ、洗顔用洗浄剤等の皮膚洗浄剤だけでなく、衣類用洗剤や食器用洗剤等にも使用されており、皮膚の洗浄という基本機能を持つ反面、皮膚の乾燥、肌荒れや痒み等の原因となることもある。界面活性剤の中でもアニオン性界面活性剤は優れた洗浄力のため一般的に使用され、皮膚に接触する頻度が高い。アニオン性界面活性剤の中にはヒトや動物の皮膚に対して刺激性を有するものがある。
(1)動物として、ICRマウス、肥満細胞欠損マウス(WBB6F1−W/WVマウス)及び肥満細胞欠損マウスの野生型マウス(WBB6F1−+/+マウス)を用いた。これらはいずれも、日本SLC社より購入した。これらは全て雄性、7〜8週齢を使用した。動物は、温度22±2℃、湿度55±10%の恒温恒湿環境下にて、自由給水下に固形飼料を摂取させ、7日以上の予備飼育を経て試験に使用した。
後述の第1実施例群及び第2実施例群において、HDC活性化誘導物質として、アニオン性界面活性剤であるラウリン酸ナトリウム(SL)、アニオン性界面活性剤であるN-ラウロイルサルコシンナトリウム(N−LSS)を、蒸留水に溶かして用いた。これらの水溶液は、動物実験においてはマウス吻側背部に50μL塗布した。溶媒対照群には蒸留水を塗布した。塗布する際に、界面活性剤水溶液が固まっていた場合は、37℃の湯浴で温めて溶かしてから使用した。第1実施例群において抗ヒスタミン薬として用いたテルフェナジン(TRF)は0.5%カルボキシルメチルセルロースナトリウム塩(CMC-Na)に溶かし、動物実験においては界面活性剤溶液の塗布の1時間半後に経口投与した〔体重10g当り0.05mL(30mg/kg) 経口投与した〕。溶媒対照群には0.5%CMC-Naを投与した。第2実施例群において、鎮痒効果評価用の被験物質としてはカテキンとd−マレイン酸クロルフェニラミンを用いた。
1)動物実験の実施例
動物実験の方法:
使用マウスの吻側背部を刈毛・除毛した後、少なくとも3日以上経ってから試験に用いた。吻側背部には0.1%(pH=7.6)、1%(pH=9.8)、10%(pH=10.1)SL水溶液及び10%(pH=7.7)N−LSS水溶液を塗布した。(塗布した時点を0時間とした)。皮膚の炎症度合いを4段階でスコア化した。0:変化なし、1:軽度な発赤、2:中程度な発赤、3:重度な発赤。
マウスの掻破行動はKuraishiらの報告を参考に実施した。すなわち、4つに仕切ったアクセル製の箱(13×9×35cm)に4匹のマウスを入れ、少なくとも1時間は順化させ、無人環境下でビデオ撮影を行って行動を記録した。その後、ビデオ観察によって後肢による吻側背部の掻破行動を計数した。一連の掻き行動(後肢で塗布部位である吻側背部を引っ掻き、後肢を下ろすまでの行動を示す)を1カウントとして、60分間の掻破回数を目視にて計数した。
心血液循環系を利用して、灌流固定後に皮膚を採取した。24時間4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で固定を行った後、パラフィンに埋没させ3μmで切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン(HE)染色あるいはトルイジンブルー(TB)染色を行った。またTB染色像を用いて、皮膚中の肥満細胞数をカウントした(皮膚1枚に対してランダムに選ばれた9セクション、1群3匹の細胞数をカウントした)。
界面活性剤塗布前、塗布2、24時間後の皮膚中のヒスタミン量を測定した。マウスは麻酔下で殺し、PBSで灌流後、皮膚を回収した(直径18mmの円状の生体パンチでくり抜いた)。回収した皮膚を60℃のPBSに30秒間浸した後、表皮と真皮に分けた。その後、表皮中・真皮中のヒスタミン量を測定キットを用いて測定した。
表皮中のHDCをウエスタンブロット法により定量した。なお、後述するように、同様の実験をヒト3次元培養皮膚でも実施した。表皮タンパクはMammalian cell lysis kitを用いて抽出した。それぞれの群のマウス表皮中タンパクの一定量を電気泳動しHDC発現量を評価した。
[電気泳動条件]
使用ゲル: Nupage 4%-12% Bis-tris gels (Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)
泳動緩衝液: 3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液
電流・泳動時間: 200V、100分
[転写条件]
使用メンブレン: Polyvinylidene Fluoride (PVDF) membrane
泳動緩衝液: NuPAGE Transfer Buffer (Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)
電流・泳動時間: 30V、60分
転写後、1〜2%スキムミルク水溶液でブロッキングをおこなった。ブロッキング後、1次抗体処理、2次抗体処理した後、蛍光スキャナーでバンドの検出を行った。その後、検出されたバンドを画像解析ソフトScion Image(Scion. Corp., Frederick,
MD, USA)を用いて定量した。Scion Imageは、数値化したいタンパク質のバンドを選択し、バンドの面積及び色調の濃さを読み取り、これに基づき当該タンパクの発現量に相当する数値を検出するソフトである。
試験の方法:
試験方法を図1に基づいて説明する。上端が開口した容器1には、培養カップ2のメンブランフィルター3を含む部分が浸漬される水位まで、予め、アッセイ培地4を充填する。次に、培養カップ2を、そのメンブランフィルター3上に角質層5と、顆粒層、有棘層及び基底層からなる層状部分6とを備えるヒト三次元培養表皮をセットしてから、容器1に嵌め込む。この状態で37℃・5%CO2条件下で1〜2時間プレインキュベーションを実施する。プレインキュベーション後に、前記第2発明の活性化誘導プロセスを実行する。具体的には適宜な滴下用器具7を用いてHDC活性化誘導物質の溶液を角質層5上に滴下し、培養表皮を暴露・刺激する。適宜な時間培養皮膚に刺激を加えた後にHDC活性化誘導物質の溶液を洗浄除去し、適宜な時間ポストインキュベーションを実施する。ポストインキュベーンを実施している最中に、前記滴下用器具7とは別の滴下用器具7を用いて、鎮痒効果評価用の被験物質を含む評価液8を角質層5上に滴下する。この状態において、前記第2発明の活性化阻害プロセスが実行される。HDC活性はこの培養表皮を用いて測定され、ヒスタミン量はアッセイ培地4を用いて測定される。
前記のヒト三次元培養表皮を用いて、培養表皮及び培養液中のヒスタミン量、即ちケラチノサイト中に残留するヒスタミン量及びケラチノサイトから培養液に放出されたヒスタミン量を測定した。0.1%(pH=7.6)、0.5%(pH=8.9)、又は1.0%(pH=9.8)のSL水溶液を培養表皮に滴下し、1分後にSL水溶液を培養表皮上から回収し、蒸留水で洗浄した後に3時間培養した。即ち、培養表皮をSLで1分間刺激した。3時間後に培養表皮及び培養液を回収し、培養表皮及び培養液中のヒスタミン量を測定キット(histamine enzyme immunoassay kit(Immunotech, Marseilles, France))を用いて測定した。又、培養表皮を用いてMTTアッセイにより細胞生存率を求めた。MTTとは、3-(4,5-dimethythiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromideである。
データは平均±標準誤差(SEM)で示した。統計はDunnett's multiple comparisons もしくはStudent's t-testを用いた。危険率(p)が5%未満を有意差ありとした。統計解析に使用したソフトはStatLight(Yukms Co., Ltd., Tokyo, Japan)である。
1)動物実験の結果
ICRマウスに対するSL単回処置、N−LSS単回処置によって痒み誘発が起きるかどうかを、掻破回数(Scratch bouts per hour)、皮膚表面pH、皮膚スコア、角層水分量及びTEWLへの影響によって評価した。その結果、図2(c)〜(e)に示すように、SL及びN−LSSの両界面活性剤ともに角層水分量、TEWLおよび皮膚スコアには変化が認められなかった。一方、図2(a)、(b)に示すようにSL単回処置により皮膚表面pHは塗布2時間後に塗布前よりもアルカリ側にシフトした。皮膚表面pHの変動と同様、掻破回数は塗布2時間後に塗布前よりも増加した。これらの変動は塗布24時間後には塗布前のレベルまで戻っていた。一方、N−LSS単回処置では、変化が認められなかった。
皮膚表面pH変動に伴う痒みに関連する反応を特徴づけるため、組織学的な影響を調べた。図示は省略するが、HE染色の結果、10%SL水溶液塗布例と水塗布例の間に変化はなく、炎症性細胞浸潤等は認められなかった。TB染色の結果、図3に示すように、10%SL水溶液塗布例と水塗布例の両例ともに肥満細胞数に変化はなかった。又、染色度合いから肥満細胞の脱顆粒が生じた形跡は殆ど確認されなかった。
SL水溶液塗布によって生じる掻破行動が痒みに関連した反応かどうかを確認するため、SL水溶液塗布2時間後の掻破行動における抗ヒスタミン作用を有する抗アレルギー薬であるTRFの影響を調べた。図4に示すように、TRF(30mg/kg)の経口投与はSL水溶液塗布によって生じる掻破行動を有意に抑制した。
肥満細胞欠損マウスおよびその対照正常マウスとしての前記野生型マウスにおいてSL水溶液塗布を行うと、図5(a)に示すように、両マウスとも塗布2時間後に掻破行動が明らかに増加した。又、図5(b)に示すように、掻破回数は肥満細胞欠損マウスおよびその対照正常マウスにおいて同程度であった。
SL処置によってマウス表皮中のヒスタミンレベルが上昇しているか否か、HDCの活性化が生じているか否かを検討した。その結果、図6(b)、(c)に示すように、HDCの活性型(53kDa)がSL水溶液塗布2時間後に有意に上昇し、塗布24時間後には塗布前のレベルにまで戻っていた。更に、図6(a)に示すように、表皮中のヒスタミンレベルも同様に塗布2時間後に増加し、塗布24時間後には塗布前のレベルに戻っていた。一方、表皮の場合と同様にして検討した真皮のヒスタミンレベルは、図7(a)〜(c)に示すように、塗布前、塗布2時間後、24時間後のどのタイミングでも変化はなかった。ヒスタミン量の測定においては、表皮、真皮ともに組織を粉砕した組織懸濁液を作成し、遠心分離をした後、上清を採取し、その上清中のヒスタミン量を測定した。なお、肥満細胞のようなヒスタミンを細胞内に貯蔵できる細胞の場合、上記の操作を行って測定したヒスタミンは細胞内由来か細胞外由来かは分からない。
培養表皮中のヒスタミン量及びHDC活性:
表皮を構成する細胞のほとんどがケラチノサイトであることから、ケラチノサイトへの反応性を検討した。即ち、ラウリン酸ナトリウムの作用点を探索する目的で培養表皮(ケラチノサイト)に対する反応性を検討した。その結果、図8(a)〜(c)に示すように、濃度依存的かつpH依存的に、細胞内HDCの活性化が確認され、細胞外ヒスタミン産生が上昇していた。又、細胞生存率をMTTアッセイによって確認したところ、検討した濃度においては細胞毒性は確認されなかった。
1)HDC活性化率を用いた被験物質の鎮痒効果評価
ヒト3次元培養皮膚(以下、培養皮膚)を用いて被験物質の鎮痒効果を評価した。即ち、まずインキュベーターを用いて培養皮膚を37℃、5%CO2で1〜2時間のプレインキュベーションを行い、培養皮膚を安定化させた。次に培養皮膚の角質層側に1(w/v)%SL水溶液を滴下して培養皮膚に1分間刺激を加え、HDCの活性化誘導を促した。暴露1分後に1%SL水溶液を取り除き、蒸留水で3回培養皮膚を洗浄した。被験物質の適用方法としては、(1)1%SL水溶液暴露後、角質層側に被験物質を暴露する方法、(2)培養液中に被験物質を溶解させておく方法、の2通りの方法がある。いづれかの方法により被験物質を暴露した後、一定時間インキュベータ内でポストインキュベーションを行った。又、被験物質を暴露するタイミングは1%SL水溶液暴露後でも、暴露の数時間後でも良い。ポストインキュベーション(3時間又は5時間)後、培養皮膚を回収し、タンパク抽出液であるSigma社製のMammalian cell lysis kit(MCL1)で培養皮膚タンパクを抽出した。
上記の計算式において、「a1-53e」は1%SL水溶液でHDC活性化誘導を促した後に被験物質を暴露した際の活性型(53kDa)HDCのバンド数値(Scion Imageを用いたバンドの画像解析から得られた数値)であり、「a1-74e」は1%SL水溶液でHDC活性化誘導を促した後に被験物質を暴露した際の不活性型(74kDa)HDCのバンド数値であり、「a2-53c」は1%SL水溶液でHDC活性化誘導を促した後に被験物質に用いた溶媒を暴露した際の活性型(53kDa)HDCのバンド数値であり、「a2-74c」は1%SL水溶液でHDC活性化誘導を促した後に被験物質に用いた溶媒を暴露した際の不活性型(74kDa)HDCのバンド数値である。
ヒト3次元培養皮膚(以下、「培養皮膚」という)を用いて被験物質の鎮痒効果を評価した。具体的には、上記HDC活性化率の試験方法の場合と同様にポストインキュベーションまでのプロセスを実施した段階で、ウエスタンブロッティングに供する培養皮膚の採取とは別に培養液を回収し、培養液中のヒスタミン量及び/又は培養皮膚中のヒスタミン量を測定した。測定には histamine enzyme immunoassay Kit (Immunotech, Marseilles, France)を用いた。
以下の各試験例においては、上記の「1)HDC活性化率を用いた被験物質の鎮痒効果評価」の記載に従い(より具体的には、前記の図8(a)〜(c)に関する実施例と同様)、かつ、「2)ヒスタミン産生量を用いた被験物質の鎮痒効果評価」の記載に従って試験を行った。但し、活性化阻害プロセスにおける培養皮膚への被験物質の適用方法が、「培養皮膚への被験物質の暴露」である場合と、「培地中への被験物質の溶解」である場合とに項目分けし、かつ被験物質の種類によって項目分けした。
被験物質として(+)体のカテキン(右旋性)を用い、活性化阻害プロセスにおける培養皮膚への被験物質の適用方法が被験物質溶液の暴露である場合についての試験例である。被験物質溶液の濃度としては、それぞれ1×10−5M、1×10−6M、1×10−7Mであるものを用いた。
レーン2:1%SL暴露
レーン3:1%SL暴露後、カテキン溶液(1×10−5M)暴露
レーン4:1%SL暴露後、カテキン溶液(1×10−6M)暴露
レーン5:1%SL暴露後、カテキン溶液(1×10−7M)暴露
又、試験例1によって得られたHDC活性化率(%)のグラフを図10に示すが、被験物質としてのカテキンが1×10−6M、又はそれ以上の濃度において、非常に低
更に、試験例1によって得られたヒスタミン産生量(培養液中のヒスタミン量)及び培養皮膚の細胞生存率(%)を図11に示すが、カテキンは1×10−5M及び1×10−6Mの濃度においてヒスタミン産生量を有効に抑制し、かつ、細胞生存率も優れていることが確認された。なお、「細胞生存率」を評価する理由は、HDCは細胞内で活性化誘導が促されるので、細胞生存率が低い場合には試験の正確性を確保できない、という点にある。この理由からは、細胞生存率が1%SL水溶液暴露群と比較して70%未満の場合には試験不適合と判断することができる。
被験物質として従来の代表的な抗ヒスタミン薬(鎮痒物質)であるd−マレイン酸クロルフェニラミンを用い、試験例1と同様の試験を行った。被験物質溶液の濃度としては、1×10−6Mであるものを用いた。培養皮膚への被験物質の暴露方法も試験例1と同様とした。
レーン2:無処置
レーン3:1%SL暴露後、生理食塩水暴露
レーン4:1%SL暴露後、d−マレイン酸クロルフェニラミン(1×10-6M)暴露
次に、試験例2によって得られたHDC活性化率(%)のグラフを図13に示す。図13中でd−マレイン酸クロルフェニラミンは「マレクロ」と表記されている。図13によれば、被験物質としてのd−マレイン酸クロルフェニラミンは、1×10−6Mの濃度において高い値のHDC活性化率を示し、ケラチノサイトにおけるHDC活性化に関与しないことが確認された。
被験物質として(+)体のカテキンを用い、活性化阻害プロセスにおける培養皮膚への被験物質の適用方法が培養液中への被験物質の溶解である場合についての試験例である。培養液中の被験物質の濃度としては、それぞれ1×10−5M、1×10−6M、1×10−7Mであるものを用いた。
レーン2:無処置
レーン3:1%SL暴露例
レーン4:1%SL暴露例(カテキン溶液(1×10−5M)を含む培地)
レーン5:1%SL暴露例(カテキン溶液(1×10−6M)を含む培地)
レーン6:1%SL暴露例(カテキン溶液(1×10−7M)を含む培地)
レーン7:No Sample
レーン8:No Sample
レーン9:分子量マーカー
又、試験例3によって得られたHDC活性化率(%)のグラフを図16に示すが、被験物質としてのカテキンが、培養液中の各濃度においてかなり低い値のHDC活性化率を示すことが確認された。
(第1実施例群)
(1)第1実施例群において、HDC活性化誘導物質(刺激性物質)であるSLによって生じる急性の痒み反応に、ケラチノサイトでのヒスタミン産生の関与が示唆されたことは重要である。
(1)第1実施例群において、ケラチノサイトからのヒスタミン産生が急性の痒み反応に関与していることが明らかとなったので、第2実施例群ではSL刺激によって誘導されるHDCの活性型/不活性型比率の上昇、ケラチノサイトからのヒスタミン産生に着目して被験物質を評価した。
Claims (5)
- 以下の(a)及び(b)から選ばれる表皮のケラチノサイト(角化細胞)における活性化誘導されたHDC(L-ヒスチジン脱炭酸酵素)に対する活性阻害効果によって被験物質の鎮痒効果を評価することを特徴とする評価方法。
(a)非ヒト哺乳動物の、動物体から分離していない表皮、動物体から分離した表皮又は培養表皮。
(b)ヒトから分離した表皮又はヒト培養表皮。 - 前記評価方法が、ケラチノサイトに対して下記(1)、(2)のプロセスを同時に又は相前後して行ったもとで、前記ケラチノサイトにおけるHDC活性化率及びヒスタミン産生率の少なくとも一方の値を指標として被験物質の鎮痒効果を評価する方法であることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
(1)前記(a)及び(b)から選ばれる表皮のケラチノサイトを刺激してHDCの活性化を誘導する活性化誘導プロセス。
(2)前記(a)及び(b)から選ばれる表皮のケラチノサイトを鎮痒効果評価用の被験物質に暴露し、又は前記被験物質を前記非ヒト哺乳動物に投与する活性化阻害プロセス。 - 前記鎮痒効果を評価するための被験物質が皮膚の痒みに対する鎮痒効果を評価するための被験物質であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の評価方法。
- 前記HDCの活性化誘導手段が界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の評価方法。
- 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の評価方法によって、鎮痒効果を評価するための被験物質群の中から鎮痒物質を選抜することを特徴とするスクリーニング方法。
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