JP5929808B2 - 高速電子ビーム照射による方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、最終冷延前の焼鈍条件を適正化することによって、磁束密度と鉄損に優れた方向性電磁鋼板を製造する方法が示されている。
例えば、特許文献2には、2次再結晶後の鋼板にプラズマアークを照射することにより照射前には0.80W/kg以上であった鉄損W17/50を、0.65W/kg以下まで低減する技術が示されている。また、特許文献3には、被膜厚と、電子ビーム照射によって鋼板面に形成された磁区不連続部の平均幅を適正化することによって、鉄損が低く、騒音が小さいトランス用素材を得る技術が示されている。
その方法としては、主として、
(1) ビーム速度の高速化、
(2) レーザ発振器や電子銃など照射源の増大(設置台数を増やす)
が考えられてきた。設備コストおよび製造コストの増大抑制や、メンテナンス性の観点からは、照射源の数は可能な限り少ない方が好ましく、コイル全幅を照射できるだけの最小限の数にすることが望ましい。
例えば、特許文献4には、コイル幅1mを4区画に分割して、それぞれの区画を1台の電子銃で処理する例が示されている。このように、同一区画の照射は最小限(1台)として、複数の電子銃で照射して高速処理化する方式は極力避けることが製造コスト上有利である。
(a) 高速偏向(高速走査)に追随可能な収束電流のビーム偏向位置制御が難しい(電子ビーム照射)。
(b) 低鉄損化するための照射出力が増大化する。
(c) 単位時間に照射される熱量が過度に増大し、照射部の被膜損傷が増大する。
電子ビーム照射において、1台の電子銃による偏向角が大きい場合や、ワーキングディスタンス(WD:収束コイルから鋼板までの距離)が大きい場合には、電子ビームの行路差が偏向照射中で大きくなる。このような場合、ビームの収束の強さを司る収束コイル電流が一定であると、照射線上でビーム径が変動し、磁区細分化効果が幅方向で異なってしまう。そこで、かかる問題を解消するため、通常、収束コイル電流は、偏向の位置に応じて変化させることとしており、例えば特許文献5,6に示されている。
なお、発明者らの実験によれば、磁区細分化に適正な単位ビーム走査長さ当たりの照射エネルギーは、ビーム径が0.3mm程度と仮定すれば、圧延方向1mm当たり4J/m程度と考えられる。従来知見におけるビーム走査速度、例えば特許文献5における走査速度Vは、一部の照射条件しか示されていないので明確ではないが、圧延方向8mm(照射間隔)当たりの適正な照射エネルギーは、8[mm]×4[J/m/mm]となる。
また、特許文献5では加速電圧は70kV、ビーム電流は10mAであり、所定の走査速度Vで上記の照射エネルギーが与えられることになるので、
8[mm]×4[J/m/mm]=70[kV](加速電圧)×10[mA](ビーム電流)/V[m/s](走査速度)
となり、これより、V≒22m/sとなる。
したがって、従来技術におけるビーム走査速度は30m/sに満たないと考えられる。
上述したように、方向性電磁鋼板の磁区細分化において、低鉄損化は適正なエネルギー照射の下で達成されることは、さまざまな従来知見が示すとおりである。
ここで、照射エネルギーは、およそ次式
照射エネルギー=出力/(走査速度×圧延方向照射ビーム繰返し間隔×ビーム径)
で示される。従って、ビーム走査速度が高速化した場合には、出力を増大させるか、圧延方向での照射ビームの繰返し間隔を縮小させるか、ビーム径を縮小させるかの条件変更をしなければ、低鉄損化を達成することができない。
しかしながら、ファイバーレーザなどでは、定格出力:1kW以下のものが多く、また電子ビーム装置でも4kWを超える出力用途は溶接用に使われるものが主であり、しかもビーム径が比較的太め(〜0.5mm以上)であるため磁区細分化の用途には適合しない。
また、照射電流増大によって、出力を増大させると、電子間反発が増大するためか、ビーム径が増大する傾向があり、その場合には、ますます高い出力が必要になる。
図1は、低鉄損化に必要な出力(走査速度:30m/s)に及ぼす鋼板表面粗度の影響を示すものである。レーザ波長は1μmである。出力:0.5〜1.5kWの間を0.1kW刻みで変更し、各出力でSST(単板磁気試験)での磁気測定試料を15枚作製し、その平均の鉄損W17/50 が最小になったときの出力を適正出力として示したものである。
同図より、レーザ照射の場合、鋼板の表面粗度に応じて、適正出力は2倍以上変化することが分かる。
このように、鋼板の表面粗度によって適正照射条件が変化する場合には、予め表面粗度を確認して適正条件を決定する必要があり、また装置の定格出力は低粗度材を低鉄損化できるように高めにする必要があるが、やはり大きな装置はランニングコストの増大などの問題がある。
さらに、高出力照射は、鋼板被膜を損傷させやすい傾向がある。これは、単位時間当たりに照射されるエネルギーが増大するためであり、低速照射では、熱拡散によって照射表面の局所的な過度な高温化は抑制されるものの、高速照射では拡散する間もなく過大な熱が照射されるため、被膜でその熱を吸収して被膜が蒸発し、損傷してしまう。この傾向は、巨大な熱を照射するパルスレーザなどで特に顕著であるが、一方で、連続照射では抑制されることが従来知見でも明らかとなっている。
従って、図2に示すように、収束信号の遅れを予め加味した、偏向中心に対して非対称な収束コイル電流位置制御パターンを入力してやれば、高速照射においても幅方向に均一なビームを照射することが可能になる。パターンの適正化にはさまざまな方法が考えられるが、例えば、照射幅方向に形成された還流磁区形状が均一になるように繰返し調整すれば良い。
なお、このような収束コイル電流位置制御パターンは、フィラメントの交換の度に校正することが好ましいが、その場合には、調整に多くの時間がかかってしまうことが問題である。
これに対しては、図3に示すように、試料に照射する前に収束コイル電流を調整する時間を設けることによって、照射初期の焦点ズレを抑制することが可能になる。
なお、図3では、収束コイル電流を、図示したように3点を結ぶ直線上に制御しているが、このパターンに限らず、より滑らかな曲線状パターンで制御しても何ら問題はない。
この場合は、A工程およびB工程の往復で磁区細分化に寄与する熱歪を導入できるために、調整の煩わしさを除けば、より高効率な照射が可能となる。
従来、多用されてきたレーザ照射による磁区細分化では、レーザが鏡面で反射しやすいために、低粗度材の照射には、レーザ反射量を補うだけの出力を照射することが必要であった。また、反射したレーザで光学系が損傷するおそれもあった。さらに、照射幅を大きくするために、照射偏向角を増大させた場合には、照射端部においてレーザが全反射して、鋼板中に入熱されないおそれもあった。
この点、電子ビーム照射は、レーザと比較して、偏向角をより増大することが可能であるだけでなく、出力を抑えて照射することもできるため、より高速化しても磁区細分化に足る熱を導入することができる。また、低出力での照射は、照射エネルギーコストの低減は言うまでもなく、装置寿命増大による製造コストの低減にも有効である。
1.鋼板の圧延方向を横切る向きに、加速電圧:40〜300kV、ビーム径:50〜500μm、照射出力:5kW以下および圧延方向照射ビーム繰返し間隔:3〜15mmの照射条件の下で、電子ビームを直線状に100mm以上にわたり鋼板上を往復走査して、鋼板に線状の還流磁区部を導入する電子ビーム照射方法であって、
電子ビーム照射による還流磁区部の導入を「往」工程または「復」工程のいずれかとする照射パターンにおいて、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行う工程のビーム走査速度をVp(m/s)、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行わない工程のビーム走査速度をVs(m/s)としたとき、これらVpおよびVsについて、次式(1)
30m/s≦Vp≦Vs/3 --- (1)
の関係を満足させ、さらに電子ビーム照射を、収束信号の遅れを予め加味した、偏向中心に対して非対称な収束電流位置制御パターンで行う高速電子ビーム照射による方向性電磁鋼板の製造方法。
電子ビーム照射による還流磁区部の導入を「往」工程および「復」工程の両工程で行う照射パターンにおいて、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行う際のビーム走査速度をVp(m/s)としたとき、このVpについて、次式(2)
30m/s≦Vp --- (2)
の関係を満足させ、さらに「往」工程および「復」工程で収束電流位置制御パターンを異ならせ、かつそれぞれ、収束信号の遅れを予め加味した、偏向中心に対して非対称なパターンで行う高速電子ビーム照射による方向性電磁鋼板の製造方法。
θ≧1.1θp
として、捨てビーム照射を行う方向性電磁鋼板の製造方法。
また、本発明によれば、電子ビーム出力を増大することなしに、低粗度材についても効果的に磁区細分化を行うことができるため、低いランニングコストで、エネルギー使用効率の高い方向性電磁鋼板の製造が可能になる。
本発明は、鉄損低減を目的として、高速の電子ビーム照射を直線状に100mm以上にわたり鋼板上を往復走査することにより磁区細分化を行う方向性電磁鋼板の製造方法である。まず、好適な電子ビームの発生条件について述べる。
同一の加速電圧の下では、ビームの高速化に伴い、適正出力が増大し、低鉄損化に好ましくないビーム径の増大が生じる。その抑制には、高加速電圧化が最も有効である。ここに、加速電圧が40kVに満たないと、ビーム径を絞ることが難しくなり鉄損低減効果が小さくなる。一方、300kVを超えると、フィラメントなどの装置寿命が短くなるだけでなく、X線漏洩防止のために装置が過度に巨大化し、メンテナンス性および生産性を減じてしまう。さらに、加速電圧は、より高いほど物質を透過し、被膜での局所的なエネルギー集中を抑制できるため、被膜の損傷を低減することが可能となる。以上の観点から、加速電圧Vaは40〜300kVの範囲とすることが好ましい。より好ましくは60〜150kVの範囲である。
ビーム径φが50μmに満たないと、WD(収束コイルから鋼板までの距離)を極度に低減するなどの処置を講じざるを得ず、その場合、1つの電子ビーム源によって偏向照射可能な距離が大幅に減少してしまう。その結果、1200mmほどの広幅コイルを照射するために、多数の電子銃が必要となり、メンテナンス性および生産性を減じる。一方、ビーム径φが500μmを超えると、十分な鉄損低減効果が得られない。というのは、鋼板のビーム照射面積(熱歪み導入部分の体積)が過度に増大して、ヒステリシス損が劣化するためである。それ故、ビーム径φは50〜500μmの範囲とすることが好ましい。
[電子ビームの走査距離:100mm以上]
本発明では、電子ビームを直線状に100mm以上にわたり鋼板上を往復走査して、磁区細分化を実施する。
ここに、電子ビームの走査距離を100mm以上としたのは、100mm未満の走査距離であれば、ビーム変更の中心部と端部とでの過度なビーム行路差が生じず、本発明の根幹である収束電流の位置制御を適用する効果が小さいからである。
本発明では、この電子ビーム照射パターンが重要である。
電子ビームを鋼板面上を往復走査して、通板される鋼板の圧延方向を横切る向きに直線状の熱歪を与えていく。このとき、電子ビームの「往」工程と「復」工程のうち一方のみを熱歪導入用の照射とすれば、収束コイル電流位置制御パターンの入力は1種類で済むようになり、フィラメント交換後などに必要となる収束コイル電流調整(焦点調整)の時間が短縮される。このためには、「往」工程または「復」工程のいずれかの工程で行う熱歪導入用の電子ビーム照射の走査速度をVp(m/s)、一方かような電子ビーム照射を行わない工程でのビーム走査速度をVs(m/s)としたとき、これらVpおよびVsについて、次式(1)
30m/s≦Vp≦Vs/3 --- (1)
の関係を満足させることが重要である。
一方、Vp≦Vs/3が実現されない場合には、Vp=Vsとして、「往」工程および「復」工程の両工程とも熱歪導入用の電子ビーム照射とする必要がある。ここに、電子ビームの照射を「往」工程および「復」工程の両方で行う照射パターンにおいては、電子ビーム照射を行う際のビーム走査速度をVp(m/s)としたとき、このVpについて、次式(2)
30m/s≦Vp --- (2)
の関係を満足させる必要がある。
また、この場合には、それぞれの工程で別の収束コイル電流位置制御パターンを適用することが必要である。
なお、100m/s以上の高速走査のためには、偏向コイル制御を可能な限り単純にする方が好ましく、この観点からは、ドット状の照射よりも連続的な電子ビーム照射とすることが好ましい。
電子ビームの走査速度を高速化した場合、収束コイル電流は、収束の応答遅れを加味して設定する必要があるので、実際の電子ビーム偏向角がθpのみであると照射開始点近傍の収束を制御することができない。従って、電子ビーム照射の際に鋼板上を走査するのに必要な偏向角をθpとしたとき、実際の偏向角θはθpの1.1倍以上に増大させることが有利である。そして、増大させた部分を照射している間に、照射開始点近傍の収束命令を発するようにするのが良い。この場合、増大させた部分のビームは、焦点が大きくずれる位置に設置された銅などのアイドルターゲット上に捨てビーム照射をさせておけばよい。
電子ビームは、直線状に鋼板の幅端部から、もう一方の幅端部へ照射し、これを圧延方向に周期的に繰り返して行う。この間隔(RDビーム間隔)は3〜15mmとすることが好ましい。このビーム間隔が狭いと、鋼中に形成される歪領域が過度に大きくなって、鉄損(ヒステリシス損)が劣化するだけでなく、生産性を低下させる。一方、広すぎると、いくら深さ方向に還流磁区を拡大しても、磁区細分化効果が乏しくなり鉄損が改善されない。
鋼板の幅端部から、もう一方の幅端部への直線状照射において、始点から終点に向かう方向は、圧延直角方向に対し±30°の範囲とする。望ましくは±0°である。この±30°からずれると、歪み導入部の体積が過度に増大してしまうため、ヒステリシス損が劣化する。
この条件は、表面粗さが十点平均粗さRzで8μm以下の方向性電磁鋼板に対しても適用される。
照射出力が5kWより大きい場合には、装置の定格出力が増大し、装置が過度に大きくなって、メンテナンス性を阻害するだけでなく、カソード形状などの光学系をビーム径が絞りにくいように変更せざるを得なくなるため、磁区細分化に悪影響を及ぼす。
[加工室圧力:3Pa以下]
加工室の圧力が3Paを超えて大きいと、電子銃から発生した電子が散乱され、地鉄に熱影響を与え、還流磁区を形成する電子のエネルギーが減少するため、十分な磁区細分化がなされず、鉄損が改善しない。
また、電子ビームを照射する方向性電磁鋼板には、絶縁被膜が形成されていても、形成されていなくても、いずれでも良い。
・素材A(成分組成:3.3%Si、板厚:0.22mm、Rz:3.8μm、W17/50:0.825W/kg)
・素材B(成分組成:3.2%Si、板厚:0.20mm、Rz:0.8μm、W17/50:0.802W/kg)
・素材C(成分組成:3.2%Si、板厚:0.20mm、Rz:1.2μm、W17/50:0.808W/kg)
コイル照射に用いた電子銃は1台で、400mm幅を照射するように、WDを調整した。また、ビーム径は250〜300μm、ビームの繰返し間隔は5mm、ビーム角度は90°、加工室圧力は0.1Paとした。
なお、磁気特性は、電子ビーム照射後の鋼板から100mm幅の試料を幅方向に4枚、長さ方向に8枚採取し、計32枚の試料についてSST測定を行い、その平均値にて導出した。
Claims (6)
- 鋼板の圧延方向を横切る向きに、加速電圧:40〜300kV、ビーム径:50〜500μm、照射出力:5kW以下および圧延方向照射ビーム繰返し間隔:3〜15mmの照射条件の下で、電子ビームを直線状に100mm以上にわたり鋼板上を往復走査して、鋼板に線状の還流磁区部を導入する電子ビーム照射方法であって、
電子ビーム照射による還流磁区部の導入を「往」工程または「復」工程のいずれかとする照射パターンにおいて、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行う工程のビーム走査速度をVp(m/s)、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行わない工程のビーム走査速度をVs(m/s)としたとき、これらVpおよびVsについて、次式(1)
30m/s≦Vp≦Vs/3 --- (1)
の関係を満足させ、さらに電子ビーム照射を、収束信号の遅れを予め加味した、偏向中心に対して非対称な収束電流位置制御パターンで行う高速電子ビーム照射による方向性電磁鋼板の製造方法。 - 鋼板の圧延方向を横切る向きに、加速電圧:40〜300kV、ビーム径:50〜500μm、照射出力:5kW以下および圧延方向照射ビーム繰返し間隔:3〜15mmの照射条件の下で、電子ビームを直線状に100mm以上にわたり鋼板上を往復走査して、鋼板に線状の還流磁区部を導入する電子ビーム照射方法であって、
電子ビーム照射による還流磁区部の導入を「往」工程および「復」工程の両工程で行う照射パターンにおいて、電子ビーム照射による還流磁区部の導入を行う際のビーム走査速度をVp(m/s)としたとき、このVpについて、次式(2)
30m/s≦Vp --- (2)
の関係を満足させ、さらに「往」工程および「復」工程で収束電流位置制御パターンを異ならせ、かつそれぞれ、収束信号の遅れを予め加味した、偏向中心に対して非対称なパターンで行う高速電子ビーム照射による方向性電磁鋼板の製造方法。 - 十点平均粗さRzで測定した鋼板の表面粗さが8μm以下の方向性電磁鋼板を通板するに際し、ビーム走査速度Vpが30m/s以上において、照射出力Wを5kW以下とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれかにおいて、電子ビーム照射が連続的である方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれかにおいて、電子ビームを加速電圧:60kV以上で発生させる方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれかにおいて、電子ビーム照射の際に鋼板上を走査するのに必要な偏向角をθpとしたとき、実際の偏向角θを
θ≧1.1θp
として、捨てビーム照射を行う方向性電磁鋼板の製造方法。
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