JP5925992B2 - 力学特性の評価方法 - Google Patents

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本発明は力学特性の評価方法に関し、より特定的には、互いに異なる稜間角を有する複数の三角錐圧子を用いたインデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法に関するものである。
鋼からなる機械部品において、その強度、耐久性等を見積もるために、当該機械部品の局所的な力学特性(降伏応力、加工硬化指数など)の評価が有用である。このような局所的な力学特性の評価方法として、圧子を鋼の所望の領域に押し込むことにより、当該領域の力学特性を評価するインデンテーション法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
Yonezu et al.,"Evaluations of Elasto−Plastic Properties and Fracture Strength Using Indentation Technique",Key Engineering Materials Vols.353−358(2007),pp.2223−2226
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記非特許文献1に開示された評価方法を含めて従来のインデンテーション法による評価は、全ての鋼に対して精度よく適用できるわけではなく、特に高硬度の鋼を評価する場合に精度が低下することが分かった。
そこで、本発明の目的は、高硬度の鋼の力学特性も精度よく評価することが可能な鋼の力学特性の評価方法を提供することである。
本発明に従った力学特性の評価方法は、互いに異なる稜間角を有する複数の三角錐圧子を用いたインデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法であって、上記複数の三角錐圧子の稜間角は、いずれも115°以上である。また、評価対象となる上記鋼の硬度は50HRC以上である。
本発明のインデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法では、複数の三角錐圧子が用いられる。ここで、三角錐圧子においては、稜間角が大きくなるに従って先端近傍が平面に近づく。そして、稜間角が120°になると先端近傍を構成する3つの面が同一平面となり先端部が存在し得なくなるため、稜間角は120°未満である必要がある。このような制限の下、三角錐圧子を用いた従来のインデンテーション法においては、圧子の稜間角は115°以下とされていた。より具体的には、たとえば上記非特許文献1においては2個の圧子が用いられ、当該圧子の稜間角φは100°および115°とされている。
しかしながら、本発明者の検討によれば、このような従来のインデンテーション法による評価では、特に高硬度の鋼を評価する場合に精度が低下することが明らかとなった。そして、本発明者は圧子の稜間角を変化させることで高硬度鋼の力学特性の評価精度を向上させることが可能であることを見出した。より具体的には、複数の圧子を用いる場合にその稜間角をいずれも115°以上120°未満の狭い範囲に設定することにより、高い精度で高硬度鋼の力学特性を評価可能であることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の力学特性の評価方法では、評価に使用される複数の三角錐圧子の稜間角がいずれも115°以上である。これにより、本発明の力学特性の評価方法によれば、高硬度の鋼の力学特性も精度よく評価することが可能な鋼の力学特性の評価方法を提供することができる。また、従来の評価方法では、評価対象の鋼の硬度が50HRC以上、特に55HRC以上となった場合に評価精度が低下する。そのため、上記鋼の硬度が50HRC以上、特に55HRC以上の場合に本発明の評価方法は特に有用である。
上記力学特性の評価方法においては、上記複数の三角錐圧子の稜間角は、いずれも119°未満であってもよい。稜間角が119°以上になると、圧子の押し込み方向が所望の方向から僅かにずれただけで、力学特性の評価精度が大きく低下する。複数の圧子の稜間角をいずれも119°未満とすることにより、比較的容易に高い評価精度を確保することができる。
上記力学特性の評価方法においては、上記複数の三角錐圧子間の稜間角の差はいずれも1°以上であってもよい。圧子間の稜間角の差が小さすぎると、力学特性の評価精度が低下するおそれがある。上記複数の圧子同士を比較した場合、稜間角の差が1°未満となる組合せが存在しないようにすることにより、高い評価精度を確保することが容易となる。
上記力学特性の評価方法においては、上記複数の圧子はダイヤモンドからなっていてもよい。評価対象となる鋼に押し込まれる際に圧子の先端部が大きく変形すると、評価精度が低下する。評価対象を高硬度鋼とした場合でも先端部の変形を十分に抑制するためには、圧子はダイヤモンドからなっていることが好ましい。
上記力学特性の評価方法は、2つの三角錐圧子を用いて実施されてもよい。本発明の評価方法は3つ以上の圧子を用いて実施されてもよいが、圧子の数を2つとしても十分な精度が得られる。そして、圧子の数を2つとすることにより、本発明の評価方法を簡便化することができる。
上記力学特性の評価方法においては、表面硬化領域の力学特性が評価されてもよい。局所的な力学特性の評価が可能な本発明の評価方法は、浸炭焼入、浸炭窒化焼入、高周波焼入などの表面硬化処理によって形成された表面硬化領域の力学特性の評価に好適である。
上記力学特性の評価方法においては、上記表面硬化領域の硬度は50HRC以上であってもよい。上述のように、従来の評価方法では、評価対象の鋼の硬度が50HRC以上、特に55HRC以上となった場合に評価精度が低下する。そのため、上記表面硬化領域の硬度が50HRC以上、特に55HRC以上の場合に本発明の評価方法は特に有用である。
以上の説明から明らかなように、本発明の力学特性の評価方法によれば、高硬度の鋼の力学特性も精度よく評価することが可能な鋼の力学特性の評価方法を提供することができる。
鋼の力学特性の評価方法に用いられる三角錐圧子(圧子の先端部)を示す概略図である。 円錐圧子(圧子の先端部)を示す概略図である。 稜間角が118°の場合のE/σとC/σとの関係を示す図である。 稜間角が119°の場合のE/σとC/σとの関係を示す図である。 JIS SUJ2の真ひずみと真応力との関係を示す図である。 JIS SUJ3の真ひずみと真応力との関係を示す図である。 JIS SUJ2の焼戻温度と降伏応力との関係を示す図である。 JIS SUJ3の焼戻温度と降伏応力との関係を示す図である。 JIS SUJ2の焼戻温度と加工硬化指数との関係を示す図である。 JIS SUJ3の焼戻温度と加工硬化指数との関係を示す図である。
以下、図面に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。図1を参照して、本実施の形態における力学特性の評価方法では、互いに異なる稜間角φを有する複数の三角錐圧子1が用いられる。当該複数の三角錐圧子1の稜間角φは、いずれも115°以上である。
そして、本実施の形態における力学特性の評価方法では、まず評価対象となる鋼に対して上記複数の三角錐圧子1を押し付けることによりインデンテーション試験が実施される。これにより、圧子の押し込み深さhと押し込み力Fとの関係を示す負荷曲線(F=Ch)の定数Cが得られる。
次に、圧子および鋼のポアソン比ν、ヤング率Eとから複合ヤング率Eを算出する。さらに、予め導出されたE/σとC/σとの関係から代表応力σを算出する。そして、この代表応力σと既知の代表ひずみεとの関係式を稜間角φの異なる複数の三角錐圧子1に対して求め、これらに基づいて鋼の力学特性である加工硬化指数nおよび塑性定数Kが算出される。さらに、これらの算出結果と既知の鋼のヤング率とから、鋼の力学特性である降伏応力σを算出する。以上の手順により、本実施の形態における力学特性の評価方法を実施することができる。
本実施の形態における力学特性の評価方法では、評価に使用される複数の三角錐圧子1の稜間角φがいずれも115°以上である。これにより、本実施の形態における力学特性の評価方法は、高硬度の鋼の力学特性も精度よく評価することができる。
また、上記複数の三角錐圧子1の稜間角φは、いずれも119°未満とすることが望ましい。これにより、比較的容易に高い評価精度を確保することができる。さらに、上記複数の三角錐圧子1間の稜間角φの差は1°以上であることが好ましい。これにより、高い評価精度を確保することが容易となる。
また、上記複数の三角錐圧子1はダイヤモンドからなっていることが好ましい。これにより、評価対象を高硬度鋼とした場合でも三角錐圧子1の先端部の変形が抑制され、より高い評価精度を確保することができる。さらに、上記鋼の力学特性の評価方法は、2つの三角錐圧子1を用いて実施されてもよい。これにより、評価方法を簡便化することができる。
また、評価対象となる鋼の硬度は50HRC以上であってもよく、さらに55HRC以上であってもよい。このような高硬度鋼の力学特性の評価に、上記評価方法は有用である。
また、上記評価方法は局所的な力学特性の評価が可能であるため、浸炭焼入、浸炭窒化焼入、高周波焼入などの表面硬化処理によって形成された表面硬化領域の力学特性の評価に好適である。さらに、高硬度鋼の力学特性を精度よく評価することが可能な上記評価方法は、50HRC以上、さらには55HRC以上の高い硬度を有する表面硬化領域の力学特性の評価に好適である。
以下、本発明の力学特性の評価方法の有効性を確認する実験を行なった。実験手順は以下の通りである。
まず、稜間角がそれぞれ100°、115°、118°および119°の三角錐圧子を準備した。一方、力学特性の評価対象となる鋼として、JISの高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2およびSUJ3を採用し、それぞれ焼入硬化した後、SUJ2については180℃、200℃、230℃、260℃、350℃、SUJ3については180℃、220℃、250℃、260℃、350℃で焼戻処理したものを試験片として準備した。なお、180℃、200℃、230℃、260℃および350℃の温度で焼戻処理されたSUJ2からなる試験片の硬度は、それぞれ61.8HRC、60.5HRC、59.3HRC、57.8HRCおよび54.0HRC、180℃、220℃、250℃、260℃および350℃の温度で焼戻処理されたSUJ3からなる試験片の硬度は、それぞれ61.4HRC、60.4HRC、59.7HRC、58.9HRCおよび56.0HRCであった。
ここで一般に、押し込み力Fと押し込み深さhとの間には、以下の式(1)の関係が成立する。
F=Ch・・・(1)
上記式(1)において、Cは定数である。また、押し込み力Fは、試験片の材料定数および圧子の幾何学形状、より具体的には複合ヤング率E、加工硬化指数n、代表応力σ、頂角θおよび押し込み深さhの関数である。なお、頂角θは、図1および図2を参照して、稜間角φを有する三角錐圧子1の軸方向(押し込み方向)の投影面積と押し込み深さhとの比が等しくなる円錐圧子2の頂角θに対応する。さらに、Eに関しては、以下の式(2)が成立する。
Figure 0005925992
ここで、Eおよびνは、それぞれ試験片のヤング率およびポアソン比、Eおよびνは、それぞれ圧子のヤング率およびポアソン比である。さらに、各圧子に対応するE/σとC/σとの関係は、nに依存する関数Πを用いて以下の式(3)ように表される。
Figure 0005925992
このとき、代表ひずみεを適切に選択することにより、全ての加工硬化指数nの値に対してE/σとC/σとの関係を1つの関数Πで表すことが可能となる。この関数Πを、本実験において準備された稜間角φが100°、115°、118°および119°の三角錐圧子のそれぞれについて有限要素解析により求め、それぞれΠ100、Π115、Π118およびΠ119とする。具体的には、たとえばΠ118およびΠ119の導出にあたり、ヤング率Eが50〜300GPa、ポアソン比νを0.3、降伏応力σを0.1〜5.0GPa、加工硬化指数nを0.1〜0.5の範囲でそれぞれ合計72通りの条件下での解析を行なった。そして、稜間角φが118°の圧子に対応する代表ひずみεとして0.02、稜間角φが119°の圧子に対応する代表ひずみεとして0.016を採用したところ、図3および図4に示すようにnに依存しない関数Π118およびΠ119が得られた。同様に、稜間角φが100°の圧子および115°の圧子に対応する代表ひずみεとしては、それぞれ0.07および0.037を採用することができる。
このようにして得られた関数Π100、Π115、Π118およびΠ119と、一般的な応力とひずみとの関係式である以下の式(4)および(5)とに基づいて、上記試験片の加工硬化指数nおよび降伏応力σを算出した。一方、上記試験片と同様の材料からなり同様の熱処理を施した試験片を別途準備し、引張試験を実施して加工硬化指数nおよび降伏応力σを算出した。そして、これらを上記インデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法によって得られたものと比較することにより、本発明の力学特性の評価方法の有効性を検討した。
Figure 0005925992
次に、具体的な実験手順を説明する。まず、微小硬度計を用いてインデンテーション試験を実施した。微小硬度計としては株式会社島津製作所製の島津ダイナミック微小硬度計DUH−W201を用いた。また、試験は室温(20℃)の大気中にて実施した。負荷速度および除荷速度は10.1mN/secとし、1961mNの力を試験片に負荷した。試験は各鋼種および焼戻条件に対して6回ずつ行なった。これにより、稜間角φ100°、115°、118°および119°の三角錐圧子のそれぞれに対応する上記式(1)の定数C100、C115、C118およびC119が得られた。そして、これらの値と予め導出した関数Π100、Π115、Π118およびΠ119とから、稜間角φ100°、115°、118°および119°の三角錐圧子のそれぞれに対応する代表応力σr100、σr115、σr118およびσr119を算出した。
次に、本発明の実施例として、稜間角φ115°および118°の圧子に対応する代表応力σr115およびσr118と、上述のように決定された稜間角φ115°および118°に対応する代表ひずみεr115およびεr118と、式(4)および(5)とから加工硬化指数nおよび降伏応力σを算出した(実施例)。なお、降伏応力σの算出には、既知のヤング率の実測値を用いた。さらに、比較のため、本発明の範囲外の比較例として、稜間角φ100°および115°の圧子に対応する代表応力σr100およびσr115と、上述のように決定された稜間角φ100°および115°に対応する代表ひずみεr110およびεr115と、式(4)および(5)とからも、同様に加工硬化指数nおよび降伏応力σを算出した(比較例)。
次に、実験結果について説明する。図5および図6は180℃で焼戻された試験片の真ひずみと真応力との関係を示す図であって、図5はSUJ2、図6はSUJ3からなる試験片の実験結果を示している。また。図5および図6において丸印は稜間角φ100°、四角印は稜間角φ115°、菱形印は稜間角φ118°の圧子に対応する。また、破線は実施例である稜間角φ118°および115°の圧子の組合せによる実験結果にフィットする曲線であり、二点鎖線は比較例である稜間角φ115°および100°の圧子の組合せによる実験結果にフィットする曲線である。なお、実線は引張試験の試験結果を示している。
図5および図6に示すように、比較例である稜間角φ115°および100°の圧子の組合せに比べて、実施例である稜間角φ118°および115°の圧子の組合せによれば、実際の引張試験の結果に近い真ひずみと真応力との関係が導出できることが分かる。
また、図7および図8は焼戻温度を変化させることにより硬度を変化させた試験片の降伏応力を示す図であって、図7はSUJ2、図8はSUJ3からなる試験片の実験結果を示している。さらに、図9および図10はそれぞれ図7および図8と同じ試験片の加工硬化指数を示す図であって、図9はSUJ2、図10はSUJ3からなる試験片の実験結果を示している。また。図7〜図10において四角印は稜間角φ118°および115°の圧子の組合せによるもの、菱形印は稜間角φ115°および100°の圧子の組合せによるもの、丸印は引張試験の試験結果を示している。
図7〜図10に示すように、本発明の実施例である稜間角φ118°および115°の圧子の組合せによれば、比較例である稜間角φ115°および100°の圧子の組合せに比べて、実際の引張試験の結果により近い、すなわち精度の高い力学特性の評価結果が得られることが確認された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の力学特性の評価方法は、互いに異なる稜間角を有する複数の三角錐圧子を用いたインデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法に、特に有利に適用され得る。
1 三角錐圧子、2 円錐圧子。

Claims (8)

  1. 互いに異なる稜間角を有する複数の三角錐圧子を用いたインデンテーション法による鋼の力学特性の評価方法であって、
    前記複数の三角錐圧子の稜間角は、いずれも115°以上であり、
    前記鋼の硬度は50HRC以上である、力学特性の評価方法。
  2. 前記複数の三角錐圧子の稜間角は、いずれも119°未満である、請求項1に記載の力学特性の評価方法。
  3. 前記複数の三角錐圧子間の稜間角の差はいずれも1°以上である、請求項1または2に記載の力学特性の評価方法。
  4. 前記複数の圧子はダイヤモンドからなっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の力学特性の評価方法。
  5. 2つの前記三角錐圧子を用いて実施される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の力学特性の評価方法。
  6. 表面硬化領域の力学特性が評価される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の力学特性の評価方法。
  7. 前記表面硬化領域の硬度は50HRC以上である、請求項6に記載の力学特性の評価方法。
  8. 前記鋼は、高炭素クロム軸受鋼である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の力学特性の評価方法。
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