JP5914381B2 - X線データ処理装置、x線データ処理方法およびx線データ処理プログラム - Google Patents

X線データ処理装置、x線データ処理方法およびx線データ処理プログラム Download PDF

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Description

本発明は、多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理装置、X線データ処理方法およびX線データ処理プログラムに関する。
近年、複数波長のX線源を用いて回折X線を同時に測定する技術が研究されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の波長分別型X線回折装置は、X線発生源から発生したMo線、Cu線等の波長が異なる特性X線を試料に照射し、試料で回折した特性X線をX線検出器によって検出している。そのX線検出器の各ピクセルは、X線を受光してX線の波長に対応したパルス信号を出力し、分別回路は、ピクセルの出力信号を特性X線の波長ごとに分別して出力している。
一方、複数のピクセルでX線を検出する場合には、チャージシェアリングが生じることが知られている。チャージシェアリングとは、発生した電荷が複数のピクセルにまたがることで低エネルギー側にテールが生じる現象である。従来、このようなチャージシェアリングの影響を小さくするために、センサーに溝やTSV(Through Silica Via)を設けた検出器や、計数率を落として入射イベントごとに判断する検出器など、ハードウェア側を改良しチャージシェアリングを無くす試みが行われてきた。チャージシェアリングは、本来のX線エネルギーの計測を阻害するため、ハードウェア側で除去する方法論が一般的である。
また、エネルギー弁別機能を持たず複数波長を入力する用途には適さない検出器を使用した際に、得られた回折X線データの周囲のピクセルとの強度比によりチャージシェアリングの影響を回避する方法が提案されてきた(例えば非特許文献1(第64−67頁)参照)。
一方、0次元の検出器では多波長入力に対応した検出器が作られているが、隣接する検出部が存在しないので得られたX線回折データの差分で多波長のデータを分離でき、チャージシェアリングの影響は受けない。
特開2012−13463号公報
中島真也、「SOI技術を用いた広帯域X線撮像分光器『XRPIX』の評価試験と性能向上の研究」、京都大学修士論文、2011年1月27日
上記のように特許文献1記載の波長分別型X線回折装置により複数波長のX線源を用いてX線を同時に測定すると、各ピクセルに関して異なる波長のX線に基づいた複数のデータを1回の測定で、同時に取得できる。また、異なる波長の回折X線のデータを2次元検出器の受光面の全領域を使い、効率よく取得できる。
しかしながら、このような測定方法で低エネルギー側のX線を解析しようとすると、チャージシェアリングの影響により高エネルギー側の残像が残り、精度の高い解析ができない。図13(a)、(b)は、それぞれ従来方法(特許文献1記載の測定方法)で得られるMo線源による回折像とCu線源による回折像を示す図である。図13(a)では、Cu線による回折像が検出されないが、図13(b)では、Cu線による回折像に重なるようにしてMo線による回折スポットの残像が残っている。このように残像が残るのは、高エネルギー側のX線がチャージシェアリングにより低エネルギー領域で見かけの強度が増し周辺のピクセルに残像を残すためである。
また、従来の技術で残像を除去しようとした場合、複数波長が回折X線として同時に入射しているピクセルに関しては処理を行うことができないので残像分のバックグラウンドを引いてしまうことにより、全体の強度が失われる結果となってしまう。
上記のように従来では、複数波長を入力する用途にエネルギー弁別機能を持つ複数の検出部分で構成された検出器を用いることが無かったため、単純に低エネルギー側の回折データから高エネルギー側で得られた回折データを引けばデータを分離できると考えられている。ところが、実際にはチャージシェアリングの影響があるので残像の残った画像が得られてしまう。
これに対し、回折X線データの周囲のピクセルとの強度比によりチャージシェアリングの影響を回避する方法では、単一ピクセルで分離できない。1次元以上の検出器で多波長X線の入射を正確に分離するX線回折用の検出器は実施化されておらず、そのような検出器では多波長入力を正確に分離できないという問題が表面化していない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、多波長X線を検出した際に低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できるX線データ処理装置、X線データ処理方法およびX線データ処理プログラムを提供することを目的とする。
(1)上記の目的を達成するため、本発明のX線データ処理装置は、多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理装置であって、複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理する管理部と、前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、前記低エネルギー側データにおける高エネルギー側X線に由来する検出分を算出する算出部と、前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データを再構成する補正部と、を備えることを特徴としている。
このようにして、チャージシェアリングが生じた検出分を検出部分毎にキャンセルし、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。その結果、多波長のX線が入力される測定においても解析の精度が単一波長測定時のものと遜色なくなる。なお、低エネルギー側データの再構成は、例えば低エネルギー側データにおける高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を差し引くことで行う。低エネルギー側データの再構成には、高エネルギー側、低エネルギー側全体に対してフィッティングを行い、直接低エネルギー側の検出分を求めることも含まれる。
(2)また、本発明のX線データ処理装置は、前記算出部が、前記検出器の検出部分毎に、前記低エネルギー側データに含まれる前記高エネルギー側データと前記低エネルギー側データとの比または差から、チャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴としている。
これにより、低エネルギー側データと前記高エネルギー側データとの比または差を用いてチャージシェアリングによる影響を評価することができる。また、ピクセル形状等を考慮に入れてチャージシェアリングによるX線プロファイル形状を再現することができる。
(3)また、本発明のX線データ処理装置は、前記算出部が、前記検出器の検出部分毎に、前記検出器および入射X線波長に応じた確率でチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴としている。
これにより、数式による計算でチャージシェアリングによる影響を評価することができる。また、ピクセル形状等を考慮に入れてチャージシェアリングによるX線プロファイル形状を再現することができる。
(4)また、本発明のX線データ処理装置は、前記算出部が、前記検出器の検出部分毎に、予め準備しておいた実測値を用いてチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴としている。これにより、検出器および高エネルギー側にあるピークに対応させて電荷がもたらされる確率を評価しチャージシェアリングによる影響を正確に算出することができる。
(5)また、本発明のX線データ処理装置は、前記算出部が、入射X線エネルギーが3種以上の場合に、累積する誤差について最適化を行うことでチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴としている。これにより、3以上の波長の線源による測定結果について、チャージシェアリングの影響を正確に評価することができる。
(6)また、本発明のX線データ処理装置は、前記管理部が、Mo線源およびCu線源で測定され、各線源を分ける閾値により分離されたX線回折データを管理し、前記チャージシェアリング分算出部は、前記Mo線源に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出し、前記補正部は、前記Cu線源のX線回折データから前記算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引くことを特徴としている。これにより、MoとCuとを線源として同時にX線回折測定を行った結果を正確に解析できる。
(7)また、本発明のX線データ処理方法は、多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理方法であって、複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理するステップと、前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、前記低エネルギー側データにおける高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出するステップと、前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データを再構成するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。
(8)また、本発明のX線データ処理プログラムは、多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理プログラムであって、複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理する処理と、前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、前記低エネルギー側データにおける高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出する処理と、前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データを再構成する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。
本発明によれば、チャージシェアリングが生じた検出分を算出し、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。
本発明のX線回折システムの構成を示す概略図である。 主にX線検出器およびX線データ処理装置の構成を示すブロック図である。 (a)〜(c)それぞれX線検出器の構造を示す斜視図および断面図である。 X線検出器の構成を示すブロック図である。 (a)、(b)それぞれチャージシェアリングが生じない場合と生じる場合のX線の検出を示す模式図である。 チャージシェアリングが生じない場合と生じる場合の測定データを示す図である。 チャージシェアリングが生じない場合と生じる場合の測定データ(積分値)を示す図である。 主にX線データ処理装置の構成を示すブロック図である。 チャージシェアリングが生じる場合の測定データ(積分値)を示す図である。 各段階における回折像を示す模式図である。 チャージシェアリングが生じたときの位置とエネルギーとの関係の一例を示すグラフである。 2つの方法について算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を比較したグラフである。 (a)、(b)それぞれ従来方法で得られるMo線源による回折像とCu線源による回折像を示す図である。
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
(全体構成)
図1は、多波長の線源を用いて同時に測定できるX線回折システム10の構成を示す概略図である。図1に示すようにX線回折システム10は、X線源20、試料S、X線検出器100およびX線データ処理装置200で構成されている。
X線源20は、例えば、陰極であるフィラメントから放射された電子束を対陰極であるロータターゲットに衝突させてX線を発生させる。X線源20から放射されるX線の断面形状が円形または矩形のドット状の、いわゆるポイントフォーカスのX線ビームである。
ロータターゲットの外周面には、原子番号が互いに異なる複数種類の金属(例えば、MoおよびCu)が設けられている。Cuターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるCuKα線(波長1.542Å)を含むX線が放射され、Moターゲットに電子が衝突したとき、特性線であるMoKα線(波長0.711Å)を含むX線が放射される。ロータターゲットから出射されるX線には、互いに違ったターゲット素材の特性X線であるCuKα線およびMoKα線が混在している。
試料Sは、試料支持装置により支持されている。試料支持装置は、可動部を持たない単なる支持台や、3軸ゴニオメータや、4軸ゴニオメータ等によって構成される。試料支持装置は、試料Sの特性および測定の種類に応じて決められる。X線検出器100は、試料Sで回折された回折X線を検出する。X線データ処理装置200は、測定された回折X線のX線回折データを処理し、測定結果を表示させる。X線検出器100およびX線データ処理装置200の詳細については、後述する。なお、処理対象のX線データは回折X線データでなくてもよいが、X線データ処理装置200は、回折X線データの処理に好適である。
(X線検出器およびX線データ処理装置の構成)
図2は、主にX線検出器100およびX線データ処理装置200の構成を示すブロック図である。X線検出器100は、複数のX線受光用のピクセル110を有しており、例えば2次元半導体検出器である。複数のピクセル110は、2次元的にアレイ化されており、規則的に配列されている。なお、検出器は、2次元半導体検出器に限られず、1次元半導体検出器であってもよい。
分別回路120は、複数のピクセル110の個々に接続されており、さらにはカウンタ部130が、分別回路120の個々に接続されている。カウンタ読み出し回路150は、各カウンタ部130に接続されている。
分別回路120は、ピクセル110のパルス信号をX線波長ごとに分別して出力する。カウンタ部130は、分別回路120によって波長毎に分別された信号のそれぞれの個数を計数する。カウンタ部130は、例えば、分別回路120によって分別された数のパルス信号をそれぞれカウントできるように分別数と同じ数のカウンタ回路を内蔵する。
カウンタ読み出し回路150の出力信号は、X線データ処理装置200に通信線を通して伝送される。X線データ処理装置200は、例えばパーソナルコンピュータである。パーソナルコンピュータは、例えば、演算制御するためのCPU、データを記憶するためのメモリ、メモリ内の所定領域に記憶されたシステムソフト、およびメモリ内の他の所定領域に記憶されたアプリケーションプログラムソフト、等によって構成されている。
X線データ処理装置200には、ユーザの入力を受け付ける入力部300としてキーボード等が接続されている。ユーザは、入力部300を介して測定結果の表示や補正の指示等を行うことができる。また、X線データ処理装置200には、ディスプレイやプリンタ等の出力部400が接続されている。出力部400は、X線データ処理装置200からの指示に従って測定結果を出力する。
また、図3(a)〜(c)は、それぞれX線検出器100の構造を示す斜視図および断面図である。図3(a)、(b)に示すように、X線検出器100は、表面に複数のピクセル110を有しており、ピクセル110の背面には、読み出しチップ140を有している。また、図3(c)に示すように、ピクセル110と読み出しチップ140とは、バンプボンディング113で接続されている。読み出しチップ140には、分別回路120およびカウンタ部130が搭載されている。
図4は、X線検出器100の構成を示すブロック図である。複数のピクセル110のそれぞれは、主としてシリコン等の半導体によって形成されており、X線の波長(エネルギー)に応じて生成した電荷をX線光子数の積算としてパルス信号を出力する。例えば、CuKα線のX線光子を受けたときに波高V1のピーク波形を出力し、MoKα線のX線光子を受けたときに波高V2のピーク波形を出力する。X線光子のエネルギーはCuKα<MoKαなので、V1<V2となる。
分別回路120は、波長毎(すなわちエネルギー毎)に異なった波高値で出力される各ピクセル110の出力信号を、波長毎に分別して出力する回路である。この分別回路120は、信号増幅用のアンプ121と、ピーク波形をカウンタ131、132に適したピーク波形に成形する波形成形回路122と、2つのコンパレータ123、124とを有している。各コンパレータ123および124の基準参照電圧端子には、それぞれ、電圧VaおよびVbが印加されている。
電圧VaおよびVbについてはV1<Va<V2、Vb<V1の関係がある。したがって、コンパレータ123は、Vaよりも大きい波高V2の出力信号(MoKα線)を出力する。一方、コンパレータ124は、Vbよりも大きい波高V1(CuKα線)およびV2(MoKα線)の両方を出力する。
カウンタ部130は、コンパレータ123および124の個々の出力端子に接続されたカウンタ131および132を有している。各カウンタ131、132は、コンパレータ123、124の出力端子に信号が出力されるたびに、その出力信号をカウントし、所定時間内のカウント数を出力信号として出力する。カウンタ131は波高V2のカウント数を出力し、カウンタ132は波高V1のカウント数と波高V2のカウント数とを足し算したカウント数を出力する。
カウンタ読み出し回路150は、カウンタ131のカウント数から波高V2のカウント数を決定し、カウンタ132のカウント数(V1+V2)からカウンタ131のカウント数(V2)を引き算した値から波高V1のカウント数を演算する。そして、カウンタ読み出し回路150は、行列番地(i,j)のピクセル110において波高V1(CuKα線)が何パルスだけカウントされたか、および波高V2(MoKα線)が何パルスだけカウントされたかを出力する。この出力信号は、X線データ処理装置200へ伝送される。
このようにして、異なる波長のX線に基づいた測定データを1回の測定によって同時に取得できる。これにより、X線線源におけるエネルギーの浪費を防止でき、ターゲットの短期間での消耗を防止できる。また、異なった波長のX線のそれぞれに基づく測定データを短時間に取得できる。
(チャージシェアリング)
回折X線の検出時に発生した電荷(電子またはホール)が複数のピクセル111にまたがることで低エネルギー側のデータとして検出される。この現象がチャージシェアリングである。X線検出器100からX線データ処理装置200に伝送される生データには、チャージシェアリングの影響が生じている。
図5(a)、(b)は、それぞれチャージシェアリングが生じない場合と生じる場合のX線の検出を示す模式図である。図5(a)に示すように、X線が単一のピクセル110にのみ入射する場合には、チャージシェアリングが生じず、正確な測定が可能である。しかし、図5(b)に示すようにX線検出器100の表面近傍でできた電荷の雲が電極に到達するまでの間に拡がってチャージシェアリングが起こる。2つのピクセル110にわたって生じたチャージシェアリングにより、一方のピクセル110の検出したピークが低くなり、他方のピクセル110にも低いピークが検出されることになる。
次に、測定データ上で比較する。図6は、チャージシェアリングが生じない場合と生じる場合の測定データを示す図である。図7は、チャージシェアリングが生じない場合と生じる場合の測定データ(積分値)を示す図である。実際にX線検出器100から伝送されるデータは、図7のように積分値となっている。
図6、図7のいずれにおいても、チャージシェアリングが生じない理想的な測定データをP1、チャージシェアリングが生じる実際の測定データをP2で示している。理想的な測定データに比べ実際の測定データの方が、ピーク間のデータがチャージシェアリングの分高くなっている。なお、H、Lは、それぞれ分別回路120においてエネルギーを分別するときの高い側の閾値および低い側の閾値を示している。
1ピクセルのサイズよりも十分にX線のサイズが小さく、ピクセルの中心付近にのみ入射している場合にはP1のプロファイルを描くこととなる。ただし、センサーの厚みによりチャージシェアリングの影響が異なるので、厚さによっても影響がある。
(X線データ処理装置の構成)
図8は、主にX線データ処理装置200の構成を示すブロック図である。X線データ処理装置200は、管理部210、チャージシェアリング分算出部230、補正部250および解析部270を備えている。
管理部210は、X線検出器100で検出され、エネルギーの閾値により分離されたX線回折データを受け取り、管理する。例えば、管理部210は、ピクセル110の番地(i,j)に関連付けて波長毎の回折X線強度を決定し、その結果のデータを記憶する。管理部210は、ユーザの指示に応じて、記憶されたCu線源の回折X線像とMo線源の回折X線像の両方の回折像のデータを、出力部400に表示させることができる。いずれか一方の回折像を表示させることもできるし、両方の像を同時に表示させることもできる。
チャージシェアリング分算出部230は、X線回折データのうちの高エネルギー側にある回折データからチャージシェアリングが生じた検出分を算出する。X線回折データのうちの高エネルギー側にある回折データから生じたチャージシェアリングが生じた検出分を算出する。その場合には、チャージシェアリング分算出部230は、検出器のピクセル毎に、高エネルギー側にあるピークから生じたチャージシェアリングにより検出が想定されるピークを重ね合わせてチャージシェアリングに由来する検出分を算出することが好ましい。これにより、1次関数で評価するより正確にチャージシェアリングによる影響を評価することができる。また、ピクセル形状等によらずにチャージシェアによるX線プロファイル形状を再現することができる。なお、チャージシェアリングの評価方法の詳細については後述する。
低エネルギー側にある高エネルギー側の回折データと低エネルギー側にある回折データとの比または差などから、高エネルギー側に関係するチャージシェアリングが生じた検出分を算出してもよい。
図9は、チャージシェアリングが生じる場合の測定データP2(積分値)を示す図である。低エネルギー側データについてチャージシェアリング分を含まない特性データT1に対してチャージシェアリング分を含む特性データT2が傾き(絶対値)の大きい曲線として示されている。また、高エネルギー側データについてもチャージシェアリング分を含まない特性データR1に対してチャージシェアリング分を含む特性データR2が傾き(絶対値)の大きい曲線として示されている。
同一ピクセルに複数波長のX線が入っていた場合、検出値の単純な引き算では低エネルギー側データに含まれる高エネルギー側の回折X線のカウントAを算出することはできない。単純に検出値の引き算を行った場合、チャージシェアリングが生じた検出分を含むカウント差Bが残った低エネルギー側の回折像となるがこのカウント差Bを算出する手段が無い。したがって、同一ピクセル内で複数波長が入射されていた際には低エネルギー側データに含まれる高エネルギー側の回折X線のカウントAが算出できないということになる。
このような場合には、高エネルギー側データから低エネルギー側データのカウントCと低エネルギー側データのカウントCに含まれる高エネルギー側データのカウントAとの比や差を求め、低エネルギー側データに含まれる高エネルギー側データのカウントAを推定することができる。例えば、高エネルギー側データと数式から得られる数値や実測により準備しておいた各ピクセルの特性データから推定できる。
補正部250は、X線回折データのうちの低エネルギー側のデータから算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引き、低エネルギー側の画像を再構成する。これにより、チャージシェアリングが生じた検出分をキャンセルでき、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。その結果、多波長の線源を用いた測定においても解析の精度が単一線源測定時のものと遜色なくなる。
また、補正部250は、実測値からチャージシェアリングが生じた検出分を算出し、低エネルギー側の画像を再構成する。これにより、チャージシェアリングが生じた検出分をキャンセルでき、低エネルギー側に残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。そして、複数波長の回折X線を同時に測定し単一ピクセル内のデータから波長分離できる。
解析部270は、X線検出器100が検出した回折X線の平面内での位置と、カウンタ読み出し回路150が演算した回折X線の波長毎の強度カウント値とに基づいて、回折X線の波長と、回折角度と、強度との関係を演算する。すなわち、X線データ処理装置200は、特定の波長のX線が何度の回折角度で何カウントの強度で回折したか、を演算する。これにより、回折角度と回折強度との関係を表すプロファイルを回折X線の波長別に取得でき、さらに出力部400に表示できる。
(X線データ処理装置の動作)
上記のように構成されたX線データ処理装置200の動作を説明する。まず、X線検出器100で検出され、エネルギーの閾値により分離されたX線回折データを受け取る。そして、X線回折データのうちの高エネルギー側にあるピークから生じたチャージシェアリングが生じた検出分を算出する。次に、X線回折データのうちの低エネルギー側のデータから算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引く。このようにして、低エネルギー側のデータに残った高エネルギー側のX線の残像を除去できる。なお、予め準備した実測値を用いて、回折データのうちの低エネルギー側のデータからチャージシェアリングが生じた検出分を差し引いてもよい。このようにして、算出されたチャージシェアリングが生じた検出分から低エネルギー側のデータを再構成する。
図10は、各段階における回折像を示す模式図である。分別回路120による分別で、2枚の画像が出力される。出力された2枚の画像の差分を取ると、Cu画像側(低エネルギー側)にはMoの回折が残る。しかし、上記のように、チャージシェアリングが生じた検出分を算出し、補正することで残像がなくなる。このように本発明のX線データ処理装置は、検出時にチャージシェアリングの影響を排除するのではなく、データにチャージシェアリングが生じることを前提としている。この方法を使用しない限り、高エネルギーの回折と低エネルギーの回折が重なった部分に関しては分離できない。重なっていない回折に関しては、この方法を使用しなくとも分離可能である。なお、上記のようなX線データ処理装置200の動作は、プログラムを実行することで行われる。
(チャージシェアリングが生じた検出分の算出方法)
以下に、チャージシェアリングが生じた検出分の算出方法を説明する。X線検出器100は、同時に高エネルギー側の回折データと低エネルギー側の回折データを得ることができる。X線データ処理装置200は、得られた低エネルギー側にある高エネルギー側の回折データと低エネルギー側にある回折データとの強度の比または差から、高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出し、X線回折データを補正する。
なお、低エネルギー側の回折データだけでは、高エネルギー側の回折データであるのか、低エネルギー側の回折データであるのか判断することはできない。そのため、高エネルギー側の回折データを使用して、対象となるピクセルを特定し、対象ピクセルに関して比または差を求める。その結果、チャージシェアリングが生じた検出分を算出できる。
X線強度の比または差から正確なチャージシェアリングを評価する方法には、例えば式の解が比または差から求められた推定値を通過するように、チャージシェアリングが生じた検出分を想定される回折データとフィッティングする方法が挙げられる。このようにしてチャージシェアリングが生じた検出分を算出することで、正確な評価だけではなく、ピクセル形状等によらずにチャージシェアリングが生じたX線プロファイル形状を再現できるという効果も得られる。
一方、予め準備した実測値を用いてチャージシェアリングが生じた検出分を算出する方法を用いてもよい。この場合には、実測値が比または差から求められた推定値を通過するように、チャージシェアリングが生じた検出分を想定される回折データとフィッティングする。
(数式を用いる方法)
上記の数式を用いてチャージシェアリングが生じた検出分を算出する方法について説明する。X線データ処理装置200は、高エネルギー側にある回折データからチャージシェアリングが生じた検出分を算出し、X線回折データを補正している。
このとき、以下の式(1)のように、高エネルギー側にあるピークのエネルギーと対象とするエネルギーとの差の一次関数として評価する方法もある。なお、対象とするエネルギーとは、チャージシェアリングが生じた検出分を算出しようとするエネルギーである。
しかし、チャージシェアリングを評価するためには、式(2)のようにX線検出器100のピクセル毎に、高エネルギー側にある回折データのチャージシェアリングにより検出が想定される回折データを重ね合わせる方法が好ましい。このようにしてチャージシェアリングが生じた検出分を算出することで、正確な評価だけでなく、ピクセル形状等によらずにチャージシェアリングによるX線プロファイル形状を再現できるという効果も得られる。
式(1)の方法では、チャージシェアリングを単純な一次関数として扱っているが、式(2)の方法では異なる中心エネルギーを持つピークの重ね合わせとして積分を行っている。対象ピクセルに,Ecsの電荷がもたらされる確率Pcs(Ecs)とX線が入射した際にEcsの電荷をもたらす微小面積△Sの積により、ピクセル形状等によらずにチャージシェアリングによる検出分を反映したX線プロファイル形状を再現することができる。ある対象ピクセルについて、Ecs=0は、全ての電荷が近接ピクセルに捕集される場合に相当し、Ecs=Epeakは,全ての電荷を対象とするピクセルが捕集する場合に相当する。
上記のように、式(2)では、X線検出器100のピクセル毎に、X線検出器100および高エネルギー側にある回折に応じた結果および確率で、検出が想定される回折が生じるものとして、チャージシェアリングが生じた検出分を算出している。これにより、電荷(電子またはホール)がもたらされる確率を用いてチャージシェアリングによる影響を正確に算出することができる。
図11は、チャージシェアリングが生じたときの位置とエネルギーとの関係の一例を示すグラフである。図11では、1ピクセルが100μm(−50μmの位置から50μmの位置まで)である場合のチャージシェアリングを示している。このようにX線検出器100に応じて1ピクセル毎の電荷がもたらされる確率が変わるが、式(2)ではこのような影響を評価している。
式(2)では、ピークの本来の強度とチャージシェアリングが生じた検出分との和と現実の回折データとをフィッティングすることでチャージシェアリングが生じた検出分を算出する。具体的には、式中の係数A、B、Cをフィッティングにより求めることができる。
図12は、2つの方法について算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を比較したグラフである。図12に示すように、測定値Q0は、2つのピーク(Mo線源、Cu線源)、チャージシェアリング、電気ノイズを含んだX線プロファイル形状を有している。式(1)を用いた方法でMo線源分とそのチャージシェアリング分を評価すると、計算値Q1のようになり、低エネルギー側で測定値との乖離が生じている。一方、式(2)を用いた方法でMo線源分とそのチャージシェアリング分を評価すると、計算値Q2のようになり、低エネルギー側でも測定値Q0と一致している。
(3種類以上の線源を用いる場合)
上記の実施形態では、主にMoおよびCuの2種類の線源を用いているが、3種類以上の線源を用いても良い。その場合には、チャージシェアリング分算出部230は、高エネルギー側にあるピークが2以上ある場合に、検出器のピクセル毎に、高エネルギー側にあるピークのそれぞれから生じたチャージシェアリングにより検出が想定されるピークを重ね合わせ、高エネルギー側にあるピークのすべてについて蓄積される誤差を調整してチャージシェアリングが生じた検出分を算出することが好ましい。これにより、3種類以上の波長の線源による測定結果について、チャージシェアリングを正確に評価することができる。
10 X線回折システム
20 X線源
100 X線検出器
110 ピクセル
113 バンプボンディング
120 分別回路
121 アンプ
122 波形成形回路
123、124 コンパレータ
130 カウンタ部
131、132 カウンタ
140 読み出しチップ
150 カウンタ読み出し回路
200 X線データ処理装置
210 管理部
230 チャージシェアリング分算出部
250 補正部
270 解析部
300 入力部
400 出力部
S 試料
P1 理想的な測定値
P2 実際の測定値
Q0 測定値
Q1 計算値
Q2 計算値

Claims (8)

  1. 多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理装置であって、
    複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理する管理部と、
    前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、補正対象となる前記検出部分における特定の微小面積でチャージシェアが生じるものとして前記低エネルギー側データにおける前記高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出する算出部と、
    前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データから前記算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引いて補正する補正部と、を備えることを特徴とするX線データ処理装置。
  2. 前記算出部は、前記検出器の検出部分毎に、前記低エネルギー側データに含まれる前記高エネルギー側データと前記低エネルギー側データとの比または差から、チャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴とする請求項1記載のX線データ処理装置。
  3. 前記算出部は、前記検出器の検出部分毎に、前記検出器および入射X線波長に応じた確率でチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴とする請求項2記載のX線データ処理装置
  4. 前記算出部は、前記検出器の検出部分毎に、予め準備しておいた実測値を用いてチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴とする請求項2記載のX線データ処理装置。
  5. 前記算出部は、入射X線エネルギーが3種以上の場合に、累積する誤差について最適化を行うことでチャージシェアリングが生じた検出分を算出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線データ処理装置。
  6. 前記管理部は、Mo線源およびCu線源で測定され、各線源を分ける閾値により分離されたX線回折データを管理し、
    前記チャージシェアリング分算出部は、前記Mo線源に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出し、
    前記補正部は、前記Cu線源のX線回折データから前記算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引くことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のX線データ処理装置
  7. 多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理方法であって、
    複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理するステップと、
    前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、補正対象となる前記検出部分における特定の微小面積でチャージシェアが生じるものとして前記低エネルギー側データにおける前記高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出するステップと、
    前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データから前記算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引いて補正するステップと、を含むことを特徴とするX線データ処理方法。
  8. 多波長のX線を同時に測定して得られたX線データを処理するX線データ処理プログラムであって、
    複数の隣接する検出部分を有する検出器で検出され、エネルギー閾値により分離されたX線データを受け取り、管理する処理と、
    前記受け取られたX線データのうちの高エネルギー側の閾値によって得られた高エネルギー側データおよび低エネルギー側の閾値によって得られた低エネルギー側データに基づいて、補正対象となる前記検出部分における特定の微小面積でチャージシェアが生じるものとして前記低エネルギー側データにおける前記高エネルギー側X線に由来するチャージシェアリングが生じた検出分を算出する処理と、
    前記算出された検出分を用いて、前記低エネルギー側データから前記算出されたチャージシェアリングが生じた検出分を差し引いて補正する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするX線データ処理プログラム。
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