JP5894732B2 - 細胞培養基材の評価方法 - Google Patents

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本発明は、医学、生物、創薬、薬学等の分野において有用な中耳粘膜様細胞シート、製造方法及びその利用方法に関するものである。
本発明は、生物学、医学等の分野において有用な細胞培養基材の評価方法に関するものである。
今日、動物細胞培養技術が著しく進歩し、動物細胞を対象とした研究開発もさまざまな分野に広がって実施されるようになってきた。対象となる動物細胞の使われ方も、開発当初の細胞そのものを製品化したり、その産生物を製品化したりするだけでなく、今や細胞やその細胞表層蛋白質を分析することで有効な医薬品を設計したり、患者本人の細胞を生体外で再生したり、或いはその機能を高めたりしてから生体内へ戻し治療する等ということも実施されつつある。現在、動物細胞を培養する技術、並びに評価、解析、利用する技術は、研究者が注目している一分野である。
ところで、ヒト細胞を含め動物細胞の多くは接着依存性のものである。すなわち、動物細胞を生体外で培養しようとするときは、それらを一度、どこかに接着させる必要性がある。そのような背景のもと、以前より多くの研究者らによって細胞にとってより好ましい基材表面の設計、考案がなされてきたが、これらの技術は何れも細胞培養時に関係するものばかりであった。接着依存性の培養細胞は何かに接着する際、自ら接着性蛋白質を産生する。従ってその細胞を剥離させるときには、従来技術ではその接着性蛋白質を破壊しなければならず、通常酵素処理が行われる。その際、細胞が培養中に産生した各種細胞固有の細胞表層蛋白も同時に破壊されてしまうという重大な課題であったにもかかわらず、現実には解決する手段が全くなく、特に検討されていなかった。この細胞回収時の課題の解決こそが、今後動物細胞を対象とした研究開発を飛躍的に発展させる上で強く求められるものと考えられる。
このような背景のもと、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である高分子で基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下または下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下にすることにより酵素処理なくして培養細胞を剥離させる新規な細胞培養法が記載されている(特許文献1参照)。また、この温度応答性細胞培養基材を利用して皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下或いは下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上或いは下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞を低損傷で剥離させることが記載されている(特許文献2参照)。さらに、特許文献3には、この温度応答性細胞培養基材を用いて培養細胞の表層蛋白質の修復方法が記載されている。温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになってきた。
温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになった。そして、さらなる応用展開をはかる上で、今後は、この培養基材表面をより精密に設計する必要がある。そのためには、培養基材表面の状態を詳細に評価する方法の確立が望まれていた。この温度応答性細胞培養基材の評価方法に注目すると、上述した特許文献1には、温度応答性細胞培養基材上にウシ大動脈血管内皮細胞を播種し、培養温度を変化させた時の細胞の剥離回収率が記載されている。しかしながら、ここで示される評価は温度応答性細胞培養基材の利用方法に関するものであり、本発明で示されるところの基材表面の評価に関するものではなく、また、評価に使用する好適な細胞の種類、播種密度、培養期間に関する記載もなく、さらに再現性の良い評価方法も記載されていなかった。特許文献4には、温度応答性培養表面上で培養した細胞の剥離率の求め方が記載されている。ここでは、温度を変化させた後、剥離せずに表面に接着している細胞数を顕微鏡下で計数することで剥離率を求めているが、温度応答性細胞培養基材の評価方法について言えば、基本的には上述した特許文献1と同様に温度応答性細胞培養基材の利用方法に関するものであり、本発明で示されるところの基材表面の評価に関するものではなく、また、評価に使用する好適な細胞の種類、播種密度、培養期間に関する記載もなかった。さらに再現性の良い評価方法の記載もなく、今後、温度応答性細胞培養基材の表面を精密に設計する上で好適な培養基材表面の詳細な評価方法でなかった。そのような中、特許文献5では、温度応答性細胞培養基材表面の評価方法として、株化細胞を温度応答性細胞培養基材表面上に播種した後、24時間以内に蛋白質加水分解酵素を使わずに、温度処理だけで細胞を当該基材表面から剥離し評価する方法が提案されている。しかしながら、ここでの評価でも、温度応答性細胞培養基材表面上で特定の条件下で培養した細胞に対し、特定の処理で剥離した細胞数を測定する方法に過ぎず、例えば、培養基材表面と細胞との間の相互作用を直接測るものではなく、今後、温度応答性細胞培養基材の表面を精密に設計する上で好適な培養基材表面の詳細な評価方法でなかった。
そのような背景のもと、最近、培養細胞の接着性をさまざまな手法を使って測定する技術が提案されている。例えば、非特許文献1には、RGDタンパク質の末端にチオール基を介して金電極の表面に固定し、RGDタンパク質とインテグリンとの特異的な結合を利用し、金電極を有するガラスの基板に3T3線維芽細胞を接着、培養させ、金電極表面に電気刺激を与えることでチオール基が解離することを利用し、電気刺激により金表面に接着した細胞を剥離させる技術が提案されている。本技術では、電気刺激を制御することで、細胞の動きを制御したり、細胞の形状を分析することで、細胞の動きを定量的に測定できるとされているが、本技術は電気刺激による細胞の接着、剥離を制御しているに過ぎなかった。
非特許文献2では、円錐−平板型剪断応力負荷装置と正立型落射蛍光顕微鏡を用いたコーンプレート型細胞剥離装置を提案している。本技術により、基材表面で培養した血管内皮細胞に対しせん断応力をかけ、基材表面と培養細胞との間の相互作用を直接測定できるようになった。しかしながら、本技術ではせん断応力の制御および細胞の観測に煩雑で、特別な装置が必要であるという欠点があった。このような欠点を解決すべく、最近になって、マイクロ流路内の流体によるせん断力を用いた評価が注目されている。しかしながら、これまでに開示された技術は極めて限定されたものであり、例えば、マイクロ流路を血管と見立てて血管中の血管内皮細胞の挙動を検討することを目的としたもの(非特許文献3参照)、同様に、マイクロ流路を血管と見立て、血小板凝集のメカニズムを解析するために、アルブミンとコラーゲンコートしたガラス表面に一本のマイクロ流路を設け、アルブミン表面で血小板が凝集するようすを観察できるようにしたもの(非特許文献4参照)が挙げられるが、本発明が目的とするような温度応答性細胞培養基材表面とその表面上で培養している細胞との相互作用を直接、測定するような事例はなかった。今後、温度応答性細胞培養基材の表面を精密に設計する上で、培養基材表面を詳細に評価できる方法の開発が望まれていた。
特開平02−211865号公報 特開平05−192138号公報 再表2007−105311号公報 特開2007−049918号公報 特開2009−082123号公報
NATURE METHODS,6,211−213(2009) Int J Artif Organs,26,436−441(2003) Lab Chip,9,1897−1902(2009) Ann.Biomed.Eng.,37,1331−1341(2009)
本発明は、上述したような温度応答性細胞培養基材の表面評価方法に関する問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な温度応答性細胞培養基材の表面評価方法を提供するものである。
本発明は温度応答性培養基材表面における細胞と基材表面の相互作用を定量あるいは数値化するためのデバイスに関する発明である。これまでに、温度応答性細胞培養基材表面とそれに接着した細胞の接着力を測定する手法がなかった。本発明者らは、温度応答性細胞培養基材表面上でマイクロ流路を形成させ、その中の流体に異なるせん断応力を孵化させることで、温度変化による細胞剥離挙動を効率良く評価する方法を見出した。その結果、最適なマイクロ流路の設計および作製を行うことで、温度応答性細胞培養表面上に接着した細胞の接着力を計測できるデバイスが完成されるに至った。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した細胞培養用基材表面の評価方法として、基材表面とその上で培養された細胞との付着力を流体のせん断力を利用して測定する方法を提供する。
本発明に記載される方法であれば、これまで計測することが困難であった温度応答性細胞培養基材の表面特性を詳細に評価できるようになる。また、この方法を利用することで温度応答性細胞培養基材の生産管理ができるようになる。
実施例1で作製するマイクロ流路の概念を示す図である。 実施例1のマイクロ流路を設計する根拠となる数式を示す図である。 実施例1のマイクロ流路の製造方法の概略を示す図である。 実施例1のマイクロ流路の製造方法の概略を示す図である。 実施例1で作製されたマイクロ流路のようすを示す図である。 実施例2におけるマイクロ流路内への細胞の注入方法並びにマイクロ流路内の流体の作製方法を示す図である。 実施例2において温度応答性細胞培養基材表面上の血管内皮細胞へせん断力が負荷されたときのようすを示す図である。 実施例2において温度応答性細胞培養基材表面上の血管内皮細胞へせん断力が負荷されたときのようすを示す図である。 実施例2において温度応答性細胞培養基材表面上の血管内皮細胞へせん断力が負荷されたときの経時変化のようすを示す図である。 実施例3において温度応答性細胞培養基材表面上の線維芽細胞へせん断力が負荷されたときのようすを示す図である。 実施例3において温度応答性細胞培養基材表面上の線維芽細胞へせん断力が負荷されたときのようすを示す図である。 実施例3において温度応答性細胞培養基材表面上の線維芽細胞へせん断力が負荷されたときの経時変化のようすを示す図である。 実施例4の温度応答性細胞培養基材表面上で培養された線維芽細胞へせん断力の影響をまとめた結果を示す図である。
本発明は、細胞を培養するための基材表面の評価方法に関するものであり、好ましくは0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した基材表面の評価方法に関するものである。本発明において、対象となる温度応答性細胞培養基材とは、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆されたものである。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているものが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、培養、剥離されるものが細胞であることから、分離が5℃〜50℃の範囲で行われるため、温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。
本発明における温度応答性ポリマーの固定化量は、細胞を培養させられ、かつ温度処理することだけで基材表面から剥離できるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、0.8〜2.5μg/cmの範囲が良く、好ましくは1.2〜1.9μg/cmであり、さらに好ましくは1.5〜1.8μg/cmである。0.8μg/cmより少ない被覆量のとき、刺激を与えても当該ポリマー上の細胞は剥離し難く、作業効率が著しく悪くなり好ましくない。逆に2.5μg/cm以上であると、その領域に細胞が接着し難く、細胞を十分に接着させることが困難となる。このような場合、温度応答性ポリマー被覆層の上にさらに細胞接着性タンパク質を被覆すれば、基材表面の温度応答性ポリマー被覆量は2.5μg/cm以上であっても良く、その際の温度応答性ポリマーの被覆量は9.0μg/cm以下が良く、好ましくは8.0μg/cm以下が良く、7.0μg/cm以下が好都合である。温度応答性ポリマーの被覆量が9.0μg/cm以上であると温度応答性ポリマー被覆層の上にさらに細胞接着性タンパク質を被覆しても細胞が接着し難くなり好ましくない。そのような細胞接着性タンパク質の種類は何ら限定されるものではないが、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5、フィブロネクチン、マトリゲル等の単独、もしくは2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの細胞接着性タンパク質の被覆方法は常法に従えば良く、通常、細胞接着性タンパク質の水溶液を基材表面に塗布し、その後その水溶液を除去しリンスする方法がとられている。本発明は、温度応答性培養皿を利用したなるべく細胞シートそのものを利用しようとする技術である。従って、温度応答性ポリマー層上の細胞接着性タンパク質の被覆量が極度に多くなっては好ましくない。温度応答性ポリマーの被覆量、並びに細胞接着性タンパク質の被覆量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞接着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞接着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
本発明とは、以上に示した温度応答性細胞培養基材に対して、特定の細胞を利用し、特定のせん断力負荷条件下で培養することでその表面状態の詳細を計測しようとするものである。本発明とは、温度応答性細胞培養基材表面状態をその基材上に接着した細胞の接着の状態から判定する方法に関するものである。本発明では、温度応答性細胞培養基材表面上で細胞を培養することで、基材と細胞との相互作用だけの情報が得られるようにすべきであって、従って、培養細胞の状態は2個以上の細胞が結合した状態やコロニーを形成している状態より、細胞が個々に分離されていた方が好ましい。培養細胞が個々に分離されていれば、培養細胞が温度応答性細胞培養基材から温度変化することで剥離した際は、基材と細胞との相互作用に反映された結果と考えられる。一方で、培養細胞が複数個で結合した状態であると、基材から温度変化することで剥離しても単純に基材と細胞との相互作用だけによる結果とは言い切れない。細胞と細胞が結合した状態で培養された細胞の場合、培養細胞が培養温度の変化で剥離しても、一部の細胞のみが剥離し、その細胞に結合した細胞が引きずられて剥離する場合も考えられ好ましくない。本発明では、温度応答性細胞培養基材上で培養される細胞は、個々の状態になっているものが80%以上であることが望ましく、好ましくは85%が良く、さらに好ましくは90%以上が良い。個々の状態になっている細胞が80%を満たないと、上述した理由により得られた結果は必ずしも基材と細胞との間の相互作用を反映したものと言い難く、本発明の技術として必ずしも好適なものではない。
本発明において使用される細胞としては、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられるが特に限定されるものではない。この中で、動物細胞は市販されているものが多く好都合である。動物細胞の由来として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、特にその動物細胞の株化細胞であればそのもの自身の培養が安定に行え、本発明に使用する細胞として好ましい。このような細胞株としては、NIH/3T3細胞株(マウス胎仔線維芽細胞)、3T3−Swiss albino細胞株(マウス胎仔線維芽細胞)、A549細胞株(ヒト肺腺がん細胞)、HeLa細胞株(ヒト子宮頸部類上皮腫細胞)、Vero細胞株(アフリカミドリザル正常腎細胞)、293(ヒト胎児腎細胞)、3T3−L1(マウス繊維芽細胞)、HepG2(ヒト肝臓ガン由来細胞)、MCF−7(ヒト乳癌由来細胞)、V79(チャイニーズハムスター由来線維芽細胞)、COS−7(アフリカミドリザル腎臓由来細胞)、CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)、WI−38(ヒト肺線維芽細胞)、MDCK(イヌ腎由来細胞)、MRC−5(正常肺線維芽細胞)、ウシ血管内皮細胞等が挙げられるが特に限定されるものではない。この中で、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞株が培養を行いやすく本発明に使用する細胞として好適である。
本発明においては、培養細胞は個々の状態で温度応答性細胞培養基材表面上に接着していることが必要である。本発明では、このような状態になれば培養開始時の細胞播種数について特に限定されないが、一般的には、基材表面積あたり100〜10000個/cmが良く、好ましくは500〜8000個/cmが良く、さらに好ましくは1000〜6000個/cmが良い。100個/cmを満たないとき、細胞培養する際に必要な細胞数を満たされず細胞の状態が極度に悪化することで好ましくない。また、10000個/cm以上となると細胞同士の接着頻度が高くなり、培養細胞が個々の状態になる確率が減少することで好ましくない。
本発明における細胞の培養時間は、温度応答性細胞培養基材上で細胞が個々の状態で接着していれば特に限定されないが、一般的には、48時間以内が良く、好ましくは24時間以内が良く、さらに好ましくは12時間以内が良く、最も好ましくは6時間以内が良い。48時間以上であると、培養細胞が基材表面に接着し分裂し、2個以上の細胞が結合した状態になる確率が高くなり好ましくない。本発明で上述した株化動物細胞を用いれば、細胞は温度応答性細胞培養基材表面に速やかに接着する。接着後、細胞は基材表面上で扁平化し始めるが、本発明では、細胞が扁平化し始める前の段階で実施しても良い。
本発明では、かくして培養した細胞と基材表面の相互作用を流体のせん断力を利用して評価しようとするものである。その流体のせん断力を作成する手段は特に限定されるものではないが基材表面上で培養した細胞へ一様にせん断力が負荷される必要がある。その細胞へ一様にせん断力が負荷される例として、流体が層流となるマイクロ流路が挙げられ、本発明の手段として好適である。その際、流体が層流になるためには流体のレイノルズ数が2000以下となるようにマイクロ流路の寸法を設計する必要があり、好ましくは500以下が良く、さらに好ましくは100以下が良く、最も好ましくは80以下が好ましい。レイノルズ数が2000より大きい場合、流体が層流の状態になり難くなり、本発明を実現するものとして好ましくない。本発明ではマイクロ流路の長さ、断面の高さ、幅等の寸法はレイノルズ数として上述の範囲内になるようにすれば良い。本発明においては、マイクロ流路の本数は特に限定されるものではなく、1本、2本、3本、4本、5本、6本、7本、8本、9本、10本、或いはそれ以上でも良い。例えば、流体の入り口を1ヶ所とし、流路を複数本設け、流路の長さ、或いは断面積、形状を変えれば、1回の測定で複数のせん断力を作製することができ効率的に評価ができ好ましい。
また、培養細胞をマイクロ流路内に閉じ込める方法は特に限定されるものではなく、あらかじめ基材表面にマイクロ流路の枠を乗せマイクロ流路を作製し、その後、マイクロ流路内に細胞懸濁液を流し込んでも良く、或いは基材表面上で培養した細胞に対し、後から基材表面にマイクロ流路の枠を乗せマイクロ流路を作製しても良い。またはじめから温度応答性器材表面を有するマイクロ流路を作製しても良い。しかしながら、最も簡便な方法は、あらかじめ上述の方法で温度応答性基材表面を作製し、その後、マイクロ流路の枠を乗せることで、温度応答性基材表面上にマイクロ流路を作製する方法が好適である。その際、基材表面上へのマイクロ流路枠の乗せ方は特に限定されるものではなく、基材表面上へマイクロ流路枠を単純に乗せる方法、或いは必要に応じてその上からさらにおもりを乗せて固定しても良い。また、マイクロ流路枠の作製方法は特に限定されるものではなく、例えば、特表2002−510969号公報で挙げられるようなガラス板にクロムのパターンを描写したフォトマスクを介し、紫外線等の光をレンズで縮小してシリコンウエハに投写し、回路パターンを焼き付けるフォトリソグラフィー技術、或いは、特開2006−39010号公報に示されるLCD露光装置を用いて、パソコン上であらかじめ設計した寸法通りにマスクレスで投写するシステム等を利用しても良い。特に後者の方では、マイクロ流路の細部を簡便に、しかも安価に設計できるため好ましい。マイクロ流路を作製するための材料は上述した各方法に好適な樹脂を選択すれば良く何ら限定されるものではないが、例えば、後者の方法の場合、日本化薬microchem社のフォトレジスト(SU−8 3050G−1)等が挙げられる。
作製したマイクロ流路内の流体の種類は特に限定されるものではないが、例えば、培養している細胞に好適な培地、緩衝液等で良い。本発明の目的が培養した細胞と基材表面の相互作用を測定するものであることから、細胞に損傷を与えない流体を利用する方が好ましい。マイクロ流路内の流体の速度は、作製したマイクロ流路が形態を維持できれば特に限定されるものでないが、好ましくは0.05〜3.0ml/時間、さらに好ましくは0.1〜2.5ml/時間、最も好ましくは1.0〜2.0ml/時間が良い。3.0ml/時間より速く流した場合、培養基材表面へマイクロ流路枠を単純に乗せたものであると培養基材表面からマイクロ流路枠がはずれることがあり、本発明として好ましくない。
細胞の剥離率の計算方法は特に限定されるものではなく、基材表面に接着した総細胞数に対する剥離した細胞数の比率に100を乗じて%で表示しても良く、逆に基材表面に接着した総細胞数に対して剥離しなかった細胞数を減じ、得られた剥離細胞数の総細胞数に対する比率に100を乗じて%で表示しても良い。こうして得られた剥離率は再現性の良いものであり、あらかじめその剥離率に対する、実際にその温度応答性細胞培養基材を利用して実施応用しようとする各組織の細胞の剥離挙動の相関性を調べておけば、その実施応用したい細胞に合わせて好適な温度応答性細胞培養基材を選択することができる。
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明で対象となる基材は、このポリマーがシャーレなどの器材表面に被覆、固定されたものである。その場合、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が接着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が接着できないほどの表面となり、培養中の細胞も冷却するだけで剥離させられることになる。本発明では、このような機能を有する表面が基材表面に十分に構築されているのかどうかを評価するものであり、例えば、基材表面にマイクロ流路を設け、線維芽細胞であるNIH/3T3細胞を所定量播種し、24時間以内に培養を中止し、培養温度を31℃以下にし、マイクロ流路内に作製されたせん断力によって細胞を剥離させ、その際のせん断力より基材表面と細胞の相互作用を検討することができることとなる。このことを細胞側からみると、同一の基材表面に対する細胞間の接着性の違いを比較検討することもできることを示しており、本発明は多方面から利用可能な技術と言える。
本発明により温度応答性細胞培養基材の表面を詳細に評価することができるようになり、しかもその操作は簡便で再現性の高いものである。従って、本発明で示す評価方法は、例えば温度応答性細胞培養基材の生産の際のスケールアップ時の表面機能を管理する規格化技術としても有用である。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
(マイクロ流路の設計)
図1に示すようなマイクロ流路システムを設計した。5段階の流速を一度に制御することができる。本実施例で設計した流路の寸法はマイクロメートルオーダーのために、レイノルズ数(Re数)は100以下となり、非常に安定な層流が形成できる。一方、流体を細管内に流すと、管壁と流体の間の摩擦によるエネルギーの損失が圧力損失として表われる。流体は層流となる場合、以下のHagen−Poiseuille式(図2中の式1)が成立する。式中、
Figure 0005894732
また、体積流速Qは式2(図2)で換算できる。さらに、式1と式2を連立すると、式3(図2)となる。ここで、流体と流路の物性で決定するものは流路の抵抗Rと考えることができる。したがって、マイクロ流体デバイス中の流速Qは流路の抵抗Rと逆比例している。また、流路の抵抗は電気抵抗と相当するため、各流路の抵抗は数学的に計算、比較することが可能である(図1)。本実験の流路において、各出口への流路は並列になっていることが分かる。以上のように、各出口への流路の抵抗を制御することで、各チャネルの流速の制御が可能となる。本実施例では、四角管の流路抵抗を示す式4(図2)(式中、L:流路の長さ、l:流路の幅、l:流路の深さを示す。)を用いて、各チャネルの流路抵抗を計算し、流路の長さLを制御するだけで、チャネル1から5までの理論流速をそれぞれ3、2.5、2、1.5、1の割合で設計した。
(鋳型の作製)
図3に示すように、まず、シリコンウェハ表面の有機物質を除去するため、また、シリコンウェハ表面の親水性を高まり、レジストを塗りやすくなるために、シリコンウェハ(直径(3inch)、厚み280μm、P型100)をプラズマ(400W、圧力200mtorr、照射時間180s)処理した。次に、スピンコートを用いて、フォートレジスト(SU−8 3050G−1、日本化薬microchem社製)をプラズマ処理したシリコンウェハに被覆させた。その際のスピンコートの回転速度は2000rpmとした。その後、フォートレジストを被覆したシリコンウェハを100℃のインキュベータ内に30分間加熱(プレベイク)した。加熱(プレベイク)させたシリコンウェハを取り出して、図4に示すLCD露光装置(液晶プロジェクター)を用いてあらかじめ作製しておいた図1に示すマイクロ流路の像を投写し15秒間露光させた。照射後、インキュベータ内で再び加熱(ポストベイク)を行った。その際、80℃、30分加熱後、110℃でさらに30分間加熱した。加熱(ポストベイク)後、シリコンウェハを2−Methoxy−1−methylethyl Acetate溶液に入れ、10分間放置させた。その後、シリコンウェハを洗浄し、鋳型を得た。最後にエアロダスターで表面に付着した溶液を除去した。顕微鏡を用いて鋳型の厚みを測定したところ、50μmであることを確認した(図3)。作製した鋳型表面をもう一度プラズマ処理(400W、圧力200mtorr、照射時間3s)を行った。その後、鋳型を1wt%のDimethyloctadecylchlorosilaneのトルエン溶液に3分間放置し、トルエン溶液で洗浄し、最後に、エアロダスターでトルエン溶液を除去して、鋳型のシラン化処理を行った。
(温度応答性表面でのマイクロ流路の作製)
図3に示すように未重合PDMSと重合開始剤を10:1で混合し、鋳型に流し込み、70℃で硬化させる。15分経過後、鋳型からPDMSを剥離し、パンチでマイクロ流路の入口と出口に穴を加工し、ただちに、温度応答性細胞培養基材表面へ乗せた。ピンセットでPDMSを軽く押し、PDMSの接着が確認後、引き続き70℃で60分間硬化させ、マイクロ流路枠を作製した(図5)。入口と出口の穴にそれぞれ2mm(外径2mm、内径1mm、長さ10mm)と1mm(外径1mm、内径0.5mm、長さ70mm)のシリコンチューブを取り付けた。実際作製したマイクロ流路のOutletAからEまでの各チャネルの流速の比はそれぞれ3.1、2.3、2.1、1.4.1.1であった。これらの結果から、各流路の流速は設計通りに制御できることを確認した。
(マイクロ流路内での血管内皮細胞の培養)
作製したマイクロ流路をUVを使って30分滅菌した。エスピレータで減圧にし、30分間脱気を行った。次に、12mLのテフロンチューブ(外径1mm、内径0.3mm)の一端をinletのシリコンチューブを付ける。もう一端は三口コックと繋げた。2×10個のウシ血管内皮細胞が入った細胞懸濁液を用意した。図6に示す細胞播種方法でマイクロ流路システムに細胞を播種した。その際、まず、細胞播種前にinletから培養液をシリンジポンプを用いてデバイスに充填し、その後、inletからの流体の流れを閉じた。次に、ピッペタで細胞懸濁液200μlを取り、直ちにoutletCに差し込む。このように、細胞懸濁液とデバイスの間に水平差を生じ、細胞懸濁液自身の重力が駆動力とし、細胞をマイクロデバイスに流れる。顕微鏡で細胞の流れを観測し、すべてのチャネルに細胞を充填してから、チップを外した。マイクロ流路システムを37℃のインキュベータで12時間培養した。
(せん断応力によるマイクロ流路内での細胞脱着)
培養後、マイクロ流路システムを20℃に設置した顕微鏡のステージに放置する。シリンジに20℃の培地5ml入れ、シリンジをシリンジポンプにセットする。シリンジとマイクロ流路システムの入口側をつなげた。評価は、培地をマイクロ流路内へ2.0ml/時間の割合で1時間かけて流し、CCDカメラで細胞の脱着を記録することで行った。その結果、37℃における流路内への細胞のインジェクションと細胞培養の観察から、マイクロ流路内において細胞の接着と伸展が確認できた。12時間培養後、温度を20℃に変化させ、各流路内に20℃の培地を送液することで、細胞は温度応答性表面から脱着、剥離した。そのときの細胞のようすを経時的に観察した結果を図7、図8に示す。さらに、各時間の流路内に残存する細胞の割合をまとめた結果を図9に示す。1時間送液した後、AからEまでの各流路内には5.3%、25.8%、37.5%、40.0%と58.8%の細胞が残存することが分かる。これらの結果から、細胞剥離はせん断応力に依存することが示唆された。本発明より、温度応答性細胞培養基材表面における細胞接着性能、剥離性能の定量的な評価ができることが分かる。
(マイクロ流路内での線維芽細胞の培養)
ウシ血管内皮細胞をラット3T3線維芽細胞へ変えた以外は実施例2と同様な手法でマイクロ流路内で細胞を培養した。その結果、37℃における流路内への細胞のインジェクションと細胞培養の観察から、マイクロ流路内において細胞の接着と伸展が確認できた。12時間培養後、温度を20℃に変化させ、各流路内に20℃の培地を送液することで、細胞は温度応答性表面から脱着、剥離した。そのときの細胞のようすを経時的に観察した結果を図10、図11に示す。さらに、各時間の流路内に残存する細胞の割合をまとめた結果を図12に示す。これらの結果から、評価する細胞を変えても、細胞剥離はせん断応力に依存することが示唆された。本発明より、温度応答性細胞培養基材表面における細胞接着性能、剥離性能の定量的な評価ができることが分かる。
本実施例において、細胞接着表面におけるせん断応力は図13中の式5で示される。ここで、τ:せん断応力、F:せん断力、A:せん断力が加えた、せん断力と方向と平行の面積、μ:流体粘度、σ:せん断速度を示す。また、培養基材上ではせん断速度σと流速Qとは比例する(図13中の式6)。ここで、Q:流速、l:流路の幅、l:流路の深さを示す。以上より、基材表面のせん断応力は流体の流速で制御できることが分かる。実施例1の場合、血清の粘度は約0.0038Pasであり、流路の幅は約410μm、深さは51.5μmであったため、ChannelAからChannelEまでのそれぞれの流速分配は31%、23%、21%、14%、11%であった。以上のデータをもとに各チャンネルの流速とせん断応力を概算した。得られた結果を図13中の表に示す。また、各チャンネルにおいて細胞の脱着が均一に行われたと仮定し、各チャンネルの細胞が完全に脱着するために必要な時間を一次近似線で求めた。その結果、図13に示すように、瞬時にウシ血管内皮細胞を完全に脱着させるために必要なせん断応力は、60.03dyn/cm、線維芽細胞の場合は53.46dyn/cmであることが分かった。
本発明に記載される方法であれば、これまで計測することが困難であった温度応答性細胞培養基材の表面特性を詳細に評価できるようになる。また、この方法を利用することで温度応答性細胞培養基材の生産管理ができるようになる。

Claims (3)

  1. 0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した基材表面上で培養した細胞において、基材表面と細胞との付着力を流体のせん断力を利用して測定する培養細胞評価方法であって、
    流体がマイクロ流路内で作製されたものであって、該流体を、マイクロ流路内へ流し、そのレイノルズ数が2000以下であること、及びマイクロ流路内の流体が1ヶ所の入り口から複数の異なる長さのマイクロ流路へ同時に流されるものであることを特徴とする培養細胞評価方法。
  2. 温度応答性ポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項1記載の培養細胞評価方法。
  3. 細胞の播種量が基材表面に対し、100〜10000個/cm2である、請求項1又は2に記載の培養細胞評価方法。
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