以下、本発明に係わるスクリーン印刷方法ついて、その実施態様に基づき図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、図3(a)に示すように、回路基板Wを構成するセラミックス基板Wbを被印刷物とし、金属粒子として粒子状のろう材を含む金属ペースト(以下、ろう材ペーストと言う場合がある。)を、当該セラミックス基板Wbの表面にスクリーン印刷する場合を例として説明するが、本発明は、以下説明するその実施態様に限定されることなく、その作用効果を奏する限り、その技術的思想において同一の範囲で適宜変形して実施することが可能である。
[回路基板]
まず、本態様のスクリーン印刷方法の理解のため、当該スクリーン印刷方法を含む一連のプロセスで形成されたセラミックス回路基板の構成、および当該プロセスの概略について説明する。
図3(a)および(b)に示すように、セラミックス回路基板(以下、回路基板と言う場合がある。)Wは、セラミックス基板Wbの上面(一面)に、各々ろう材層M1およびM2を介して接合された2種の異なった形状の金属基板Wa−1および金属基板Wa−2と、セラミックス基板Wbの下面(他面)にろう材層M3を介し接合された平板状の金属基板Wcとを有している。ここで、セラミックス基板Wbの上面に接合された金属基板Wa−1および金属基板Wb−2は、半導体素子などが搭載される回路パターンとして機能し、セラミックス基板Wbの下面に接合された金属基板Wcは、放熱板として機能する。そして、金属基板Wa−1と金属基板Wa−2との相対する端面(側面)は、両者間の電気的絶縁性を確保するため間隙Sを介し対面するように配置されている。
焼結体であるセラミックス基板Wbを構成するセラミックスとしては、例えば酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)その他の酸化物系セラミックス、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)、窒化チタン(TiN)その他の窒化物系セラミックス、炭化珪素(SiC)、炭化チタン(TiC)その他の炭化物系セラミックス、その他硼化物系セラミックスなど各種のセラミックスを回路基板の用途・使用条件に応じ適宜利用することができる。しかしながら、高電圧・大電流が負荷されるパワー半導体モジュール(IGBTモジュール)等に使用される回路基板を構成するセラミックス基板Wbは、窒化アルミニウムや窒化珪素、特に強度が高く破壊靭性および熱伝導性に優れた窒化珪素で構成することが望ましい。
上記金属基板Wa−1・Wa−2・Wcとしては、ろう材で接合でき且つ金属基板Wa・Wcの融点がろう材よりも高ければ特に制約はなく、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルメッキを施したモリブデン、ニッケルメッキを施したタングステン、ニッケルメッキを施した鉄合金等を用いることが可能である。この中でも銅を金属部材として用いることが、電気的抵抗及び延伸性、高熱伝導性(低熱抵抗性)、マイグレーションが少ない等の点から最も好ましい。また、アルミニウムを金属部材として用いることは、電気的抵抗、高熱伝導性(低熱抵抗性)は、銅に劣るものの、アルミニウムが持つ塑性変形性を利用して、冷熱サイクルに対する実装信頼性を有する点で好ましい。その他にも電気的抵抗を重視すれば銀を用いることも好ましく、また電気的特性よりも接合後の信頼性を考慮する場合にはモリブデンやタングステンを用いれば、それらの熱膨張率が窒化アルミニウム、窒化珪素に近いことから接合時の熱応力を小さくすることができるので好ましい。
上記回路基板Wは、準備されたセラミックス基板Wbにろう材ペーストをスクリーン印刷する印刷工程・接合工程・回路パターン形成工程・ろう材除去工程のプロセスを経て形成される。
ここで、回路基板Wは、図3(a)・(b)に示すように個々の回路基板Wごとに上記プロセスを通じて形成してもよいが、低コストで効率的に回路基板Wを製造するため、工業生産においては、通例、図3(d)・(f)に示すように、大判のセラミックス基板Wbに縦横に並列するように複数個形成された回路基板を個片に分離して形成される。以下、このように回路基板が複数個形成される大判のセラミックス基板Wbを使用した場合を例として、本態様のスクリーン印刷方法およびスクリーン印刷方法を含む一連のプロセスについて説明する。また、回路基板Wの上方に配置される金属基板Wa−1・Wa−2と下方に配置される金属基板Wcとの形成プロセスは基本的に同様であるので、上方に配置される金属基板Wa−1・Wa−2の形成プロセスについてのみ説明し、下方に配置される金属基板Wcとの形成プロセスの説明は省略する。
まず、印刷工程である。印刷工程においては、図3(c)に示すように、回路基板Wのろう材層M1・M2の形状に各々対応した印刷パターンm1・m2で、セラミックス基板Wbの上面にろう材ペーストを印刷する。なお、印刷工程については、下記で詳細に説明する。
次いで、接合工程である。接合工程では、図3(d)に示すように、まず、印刷パターンm1・m2が形成されたセラミックス基板Wbの上面に、当該印刷パターンm1・m2を介しセラミックス基板Wbよりやや小さな矩形状の金属基板Waを重ね合わせる。その後、金属基板Waが重ね合わされたセラミックス基板Wbを、非酸化雰囲気下に置き、ろう材ペーストに含まれるろう材を加熱して溶融するとともに両者が密着するように加圧し、その後適宜な温度パターンで冷却し、ろう材層M1・M2を形成してセラミックス基板Wbと金属基板Waとを接合する。なお、ろう材を溶融するための加熱温度は、ろう材の融点より25〜75℃高い範囲で設定すればよい。加熱温度が融点より25℃未満であるとろう材の溶融が充分でなくセラミックス基板Wbと金属基板Waとの接合強度が低下する虞がある。一方で、融点より75℃を超えると溶融したろう材が濡れ広がりやすい。
接合工程に引き続き、図3(a)に示す回路基板Wの金属基板Wa−1および金属基板Wa―2を形成するため回路パターン形成工程が行われる。この回路パターン形成工程では、金属基板Wa−1及び金属基板Wa−2の形状に対応したレジスト膜を、図3(d)に示す金属基板Waの上面に形成した後、例えば金属基板Waが銅基板である場合には塩化第2鉄を含むエッチング液を用いてエッチング処理し、図3(e)に示すように、複数組(図においては4組)の金属基板Wa−1および金属基板Wa―2を形成する。
次いで、ろう材除去工程である。ろう材除去工程においては、回路基板Wの電気的絶縁性を確保するため、回路パターン形成工程で形成された金属基板Wa−1および金属基板Wa−2の側面とろう材層M1・M2との側面がほぼ一致するよう、金属基板Wa−1および金属基板Wa−2の側面からはみ出たろう材層M1・M2を除去する。例えば、ろう材層M1・M2が、CuおよびAgを主体とし活性金属としてTiを含む場合には、過酸化水素および酸性フッ化アンモニウムを含むろう材除去液で除去される。その後、大判のセラミックス基板Wbにおいて縦横に並列するように複数個形成された回路基板Wは、図3(a)・(b)に示すように個片に分割される。
[印刷工程:詳細]
以下、図1を参照しつつ、セラミックス基板にろう材ペーストを印刷し、図3(c)に示す印刷パターンm1・m2を形成する本態様のスクリーン印刷方法について、更に詳細に説明する。
本態様のスクリーン印刷方法は、図1に示すように、オフコンタクト方式でスクリーン印刷する汎用の構成のスクリーン印刷装置1において実施することができる。すなわち、スクリーン印刷装置1は、ろう材ペーストが印刷されるべき上面(表面)が上方を向いた姿勢のセラミックス基板Wbが挿着され、保持する挿着凹部3aを有する平板状の保持部材3と、外周が矩形枠状の枠部1hに固定されて一定の張力で張設されているとともに、下面1gがセラミックス基板Wbの上面と対面するようにセラミックス基板Wbの上方に配置される矩形状の弾性を有するスクリーンマスク1と、下方の一方角部がスクリーンマスク1の上面1eに押し付けられつつ水平方向に移動可能に構成されたスキージ2とを有している。
スキージ2の移動速度やスクリーンマスク1への押付力は常用の範囲であり、移動速度は概ね20〜150mm/秒、押付力は0.18〜0.45MPaの範囲である。なお、スクリーン印刷装置1では、所定量のろう材ペーストをスクリーンマスク1の上面に人手で供給するよう構成してあるが、定量供給装置などを組み込み自動的にろう材ペーストを供給するようにしてもよい。
所定の寸法の目開きを有するスクリーンマスク1には乳化材で形成された薄膜1cが付着され、図3(c)に示す印刷パターンm1・m2の形状に対応した開口部1dが形成されている。ここで、印刷枚数の増加に伴う印刷パターンm1・m2の重量変化が少なく、高い形状精度で印刷パターンm1・m2を形成するためには、スクリーンマスク1の目開きは、ろう材ペースト中のろう材の粒子径分布を考慮し設定する必要があるが、代表的にはろう材の平均粒径(d50)に基づき設定すればよい。すなわち、本態様のように、ろう材ペーストに含まれるろう材を主体的に構成する金属粒子の平均粒径(d50)が10.0〜30.0μmの場合には、金属粒子の平均粒径(d50)をD1、スクリーンマスク1の目開き寸法をD2としたとき、D2/D1が3.0〜8.0の範囲となる目開きのスクリーンマスク1を使用する必要がある。なお、スクリーンマスク1の目開き寸法は、通例メッシュサイズで指定される値から算出される値を言うが、実際のスクリーンマスクの個々の目開きの寸法を測定し、これを平均した値を用いてもよい。
上記スクリーン印刷装置1を用いた本態様のスクリーン印刷方法について説明する。なお、以下の説明では、工業生産に適するように、各印刷工程におけるセラミックス基板Wbへの印刷枚数は、同一枚数(n枚)である場合を例として説明するが、本発明はこれに限定されず、例えばオンラインで計測された印刷パターンの重量や形状などをフィードバックし、これらの値が設定された閾値を逸脱した場合には、印刷を中断して新たなろう材ペーストを供給する場合など、各印刷工程における印刷枚数が一定しない場合においても適用することができる。
まず、準備工程である。図1(a)に示すように、無負荷である初期状態においてセラミックス基板Wbの上面とスクリーンマスク1の下面1gとの間には大きさhの間隙1fが形成されるよう、スクリーンマスク1をセラミックス基板Wbの上方に配置する。
[第1の印刷工程]
次いで、第1の印刷工程である。スクリーンマスク1の上面1eの右端に、所定量のろう材粒子、有機バインダおよび有機溶剤を含む第1のろう材ペーストを、n枚(複数枚)のセラミックス基板Wbに印刷可能な量、供給する。
第1の印刷工程、以下説明する第2の印刷工程および第2の印刷工程に引き続き行われる印刷工程で使用されるろう材ペーストに含まれる金属粒子であるろう材としては、代表的には、高強度・高封着性等が得られる、共晶組成であるAgとCuを主体としTi・Zr・Hf等の活性金属を添加したAg−Cu系活性ろう材、さらにセラミックス基板Wbと金属基板Wa・Wcの接合強度の観点から好ましくはこれにInが添加された三元系のAg−Cu−In系活性ろう材を使用することができる。
ここで、ろう材としてAg−Cu−In系活性ろう材を使用する場合には、Ag:55〜80質量%、In:1〜5質量%、酸素含有量0.1質量%以下、残部Cu及び不可避不純物からなる平均粒径(d50)15〜40μmの合金粒子100質量部に対し、さらに平均粒径1〜15μmのAg粒子を5〜30質量部および45μm以下の粒子サイズが85%以上の活性金属水素化物粒子を0.5〜5質量部添加し、前記合金粒子間の間隙を埋めるようにAg粒子および活性金属水素化物粒子を混合してなるろう材を使用することが好ましい。さらに、活性金属水素化物粒子を構成する活性金属としては、Ti、Zr、Hfなど周期律表第IVa族に属する元素を用いることができるが、この中でも特にTiはセラミックス基板Wbとして窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板を用いた場合にその反応性が高く接合強度を高くすることができる。したがって、活性金属水素化物粒子としては、TiH(水素化チタン)を使用することが望ましい。さらに、合金粒子と添加したAg粒子、活性金属水素化物粒子からなる混合粉末中に占めるInおよび活性金属水素化物を除いた、AgとCuの組成比は、AgとCuの合計重量を100質量%(AgとCuで100%)としたとき、Agを57〜85質量%、Cuを15〜43質量%とすることが好ましい。
この組成比の範囲では、加熱冷却後のろう材表面部の凹凸形状の抑制に効果があり、更には、Ag−Cu状態図おける共晶組成(72%Ag−28%Cu)よりもAg−rich側の固液共存組成域において、処理温度を任意に選択することで、接合処理時の融液量を調整することができ、これにより、ろう材の流れ出し現象を抑制することが可能となる。ここでろう材を主体的に構成するAg−Cu−Inからなる合金粉末は、スクリーン印刷を行う場合のパターン印刷精度や接合する銅板への流れ出しを抑制する上で、平均粒径(d50)が10〜30μmの粉末を使用することが好ましく、さらに20〜30μm程度の粉末を使用することがより好適である。
ろう材ペーストは、粒子化した上記ろう材に、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール、ジエチレンングリコール・モノブチルエーテル、テキサノールその他有機溶剤、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂その他高分子化合物からなる有機バインダ、および粒子状のろう材の分散性を改善するために必要に応じ分散剤を、ボールミル、アトライター等の撹拌機を用いて混合し、形成する。
接合工程における濡れ広がりを抑制する観点から、ろう材ペーストの粘度は20〜200Pa・sの範囲に調整することが好ましい。ろう材ペーストの粘度が20Pa・s未満であると流動性が高すぎるため、接合工程の初期段階において加圧によりろう材ペーストが広がり易く、また保形性に欠けるため印刷後のろう材ペーストの形状精度を維持できない。一方で、粘度が200Pa・sを越えると保形性が高すぎるため、印刷後のろう材ペーストの厚みが厚くなり、接合工程の初期段階において加圧によりろう材ペーストが広がり易くなる。このような範囲の粘度を有するろう材ペーストは、有機溶剤を5〜15質量%の範囲、有機バインダを1〜10質量%の範囲で配合することにより、形成することができる。さらに、この範囲で有機バインダを配合することにより、接合工程における有機バインダの除去が速やかに行われ有利である。
第1のろう材ペーストP1を供給した後、所定の押付力で下方に押し付けるようにスクリーンマスク1の右端にスキージ2を接触させ、矢印Bで示すように、スキージ2を水平移動させる。すると、図1(b)に示すように、スクリーンマスク1の右端に供給された第1のろう材ペーストP1は、移動するスキージ2の左側面に押されつつスクリーンマスク1の上面1eに塗り広げられ、開口部1dに充填される。一方で、枠部1hにより張設されている弾性を有するスクリーンマスク1は、スキージ2が接触している部分が下方に押されて湾曲し、その下面1eがセラミックス基板Wbの上面に接触する。このため、スクリーンマスク1の開口部1dに充填された第1のろう材ペーストP1は、セラミックス基板Wbに転写される。そして、スキージ2が開口部1dの上方から通過すると、スクリーンマスク1は弾性により間隙hだけ上昇し、セラミックス基板Wbから版離れし、もって、図3(c)に示す印刷パターンm1・m2がセラミックス基板Wbの上面に形成される。その後、スクリーンマスク1に残存する第1のろう材ペーストP1をそのまま利用し、引き続きn枚のセラミックス基板Wbに印刷パターンm1・m2を形成する。なお、印刷パターンm1・m2の厚みは、形成すべきろう材層M1・M2の厚みにより適宜設定されるが、セラミックス基板Wbと金属基板Wa−1・Wa−2の接合強度の観点から、概ね20〜80μm程度であることが望ましい。
このように第1のろう材ペーストP1を使用し、n枚のセラミックス基板Wbに印刷パターンm1・m2を形成した第1の印刷工程における、印刷枚数と各印刷パターンm1およびm2を合算した重量の関係を、図2(b)において実線L1として示す。なお、上記図2(a)を参照して説明した場合と同様に、第1のろう材ペーストP1はろう材、有機有機バインダおよび有機溶剤を含むが、印刷パターンの重量を測定する前に有機溶剤は加熱除去しており、有機バインダの密度は小さいので印刷パターンm1・m2の重量は、実質的に、印刷パターンm1・m2に含まれるろう材粒子の重量を示している(以下説明する第2の印刷工程、およびその後に引き続く印刷工程においても同様である。)。
ここで、図2(b)に示す実線T1は、回路基板の耐絶縁特性および耐熱サイクル特性の観点から定められた、印刷パターンm1・m2の許容される重量の上限値、実線T2は下限値を示している(2(c)および(d)についても同様)下限値T2は、印刷パターンm1・m2に含まれる金属粒子mの重量が少ない場合には、ろう材層M1・M2・M3(図3(a)参照)に空孔が発生し、セラミックス基板Wbや金属基板Wa−1・Wa−2・Wcとの接合強度が確保できず、耐熱サイクル不良が発生する可能性があるため定まられており、ろう材ペーストをセラミックス基板Wbに印刷して印刷パターンm1・m2を形成した場合に、その重量が下限値T2以上となるよう、金属ペーストPに含まれる金属粒子mの割合は調整されている。また、印刷パターンm1・m2の重量の上限値T1および下限値T2は、回路基板の耐絶縁特性および耐熱サイクル特性を完全に保障するものではないが、印刷工程における管理指標として印刷パターンm1・m2の重量を用い、上限値T1および下限値T2を超過した重量を有する印刷パターンm1・m2が形成されたセラミックス基板Wbをその後の工程へ流さないことにより、製品としての回路基板の歩留まりを高める回路基板の低コスト化を図ることができる。
実線L1として示すように、第1のろう材ペーストP1を用い連続してn枚のセラミックス基板Wbに印刷した場合には、印刷を重ねるにつれ印刷パターンm1・m2の重量は増加する。印刷パターンm1・m2の重量が増加するメカニズムは、上記従来技術の項で説明したメカニズムと同じであるため説明を省略する。そして、本態様のスクリーン印刷方法では、図2(b)に示すように、n枚のセラミックス基板Wbを印刷し、第1の印刷工程が完了した時点S3において、下記のように第1のろう材ペーストに第2のろう材ペーストを補給し、その後引き続いて行う第2の印刷工程により、印刷パターンm1・m2の重量の増加を抑制する。なお、第2の印刷工程には、使用される第2のろう材ペーストの組成およびその使用方法に関して3種の態様があるので、各態様毎に説明する。
[第2の印刷工程:第1態様]
第1の印刷工程に引き続く、第1態様の第2の印刷工程では、図2(c)に示すように、第1の印刷工程が完了した時点S3で、一旦スキージ2の移動を中断し、第2のろう材ペーストP2をスクリーンマスク1の上面1eに供給する。ここで、本態様の第2の印刷工程で使用される第2のろう材ペーストP2は、第1の印刷工程において第1のろう材ペーストP1から失われた有機溶剤および有機溶剤と共に失われた有機バインダの合算した量を補完するよう、第1のろう材ペーストP1よりも有機溶剤の含有率のみを高めている。なお、第1のろう材ペーストP1における有機溶剤の含有率が8.0〜12.0質量%である場合には、第2のろう材ペーストP2における有機溶剤の含有率が第1のろう材ペーストP1より0.2〜1.0質量%高くなるよう調整しておくことが望ましい。また、図示するように、残存する第1のろう材ペーストP1をスクリーンマスク1の上面1eにおいて一塊に纏め、第2のろう材ペーストP2は、その塊状の第1のろう材ペーストP1を覆うように供給することが、図2(d)を参照し説明する両者の混合を均一かつ早期に終結するためには好ましい。
スクリーンマスク1の上面1eに供給された第2のろう材ペーストP2は、残存する第1のろう材ペーストP1において不足する有機溶剤を補完するため、スクリーンマスク1の上面1eにおいて、第1のろう材ペーストP1と混合する必要がある。この第1のろう材ペーストP1と第2のろう材ペーストP2(以下、両者を総してろう材ペーストP1・P2と言う場合がある。)の混合は、印刷プロセスにおけるペーストのローリング現象を利用して、ろう材ペーストP1・P2を印刷しながら同時に行うことができる。具体的には、所定の押付力で下方に押し付けるようにスクリーンマスク1の右端にスキージ2を接触させ、図1(d)に示すように、矢印Bの方向にスキージ2を水平移動させる。すると、図1(d)に示すように、スクリーンマスク1の右端に配置されたろう材ペーストP1・P2は、共に、移動するスキージ2の左側面に押されつつ移動する。ここで、スクリーンマスク1の上面1eを移動するろう材ペーストP1・P2は、スクリーンマスク1およびスキージ2との摩擦に起因したローリング現象により、矢印Cで示すように、回転しつつ流動し、両者は混合される。
上記ローリング現象によるろう材ペーストP1・P2の混合とともに、第1の印刷工程と同様に、ろう材ペーストP1・P2は、セラミックス基板Wbに印刷される。すなわち、スクリーンマスク1の上面1eに塗り広げられ、開口部1dに充填される。一方で、枠部1hにより張設されている弾性を有するスクリーンマスク1は、スキージ2が接触している部分が下方に押されて湾曲し、その下面1eがセラミックス基板Wbの上面に接触する。このため、スクリーンマスク1の開口部1dに充填されたろう材ペーストP1・P2は、セラミックス基板Wbに転写される。そして、スキージ2が開口部1dの上方から通過すると、スクリーンマスク1は弾性により間隙hだけ上昇し、セラミックス基板Wbから版離れし、もって、図3(c)に示す印刷パターンm1・m2がセラミックス基板Wbの上面に形成される。その後、スクリーンマスク1に残存するろう材ペーストP1・P2をそのまま利用し、引き続きn枚のセラミックス基板Wbに印刷パターンm1・m2を形成する。
上記第2の印刷工程における、印刷枚数と各印刷パターンm1およびm2を合算した重量の関係を、図2(b)において実線L3として示す。ろう材ペーストP1・P2を用いn枚のセラミックス基板Wbに印刷した場合には、ろう材ペーストP1・P2の混合が完了するまでの初期の数枚のセラミックス基板Wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量は、実線L3のうち実線L31で示すように増加するが、第2のろう材ペーストP2は第1のろう材ペーストP1に比べ有機溶剤の含有率を高めているので、実線L31の傾斜角度は、第1の印刷工程の重量増加を示す実線L1に比べ小さくなる。
ろう材ペーストP1・P2の混合が完了すると、実線L32で示すように、印刷パターンm1・m2の重量は、急激に低下する。ここで、第2のろう材ペーストP2は第1のろう材ペーストP1に比べ有機溶剤の含有率を適量高めているので、印刷パターンm1・m2の重量の減少を示す実線L32の右端の値(下端値)は、第1の印刷工程において印刷パターンm1・m2の重量の増加を示す、上昇線である実線L1の左端の値(下端値)とほぼ同じ値となり、設定された印刷パターンm1・m2の重量の上限値T1から下方により離隔することとなる。なお、実線L31およびL32で示すような印刷の初期段階における印刷パターンm1・m2の重量の増減が、製品であるセラミックス基板wbに影響を及ぼさないようにするためには、例えばセラミックス基板Wbに替えダミー基板を使用し、このダミー基板に上記と同様に印刷することにより、ろう材ペーストP1・P2の混合のみを行う混合工程を、第1の印刷工程と第2の印刷工程の間に設けることが望ましい。
その後、セラミックス基板Wbへの印刷を重ねるにつれ、実線L33で示すように、上記従来技術の項で説明したメカニズムに起因して印刷パターンm1・m2の重量は増加する。ここで、第1態様の第2のペーストP2は流動性の高い有機溶剤の含有率のみを高めているため、ろう材ペーストP1・P2に含まれる有機溶剤がより選択的に失われ、その結果、実線L33の傾斜角度は、第1の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量増加を示す実線L1に比べ大きくなる。その結果、n枚目のセラミックス基板Wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量の値は、実線L33において時点S4の値として示されるように、第1の印刷工程が終了した時点S3の値より高くなり、上限値T1により近接することとなる。そして、第2の印刷工程が完了した時点S4において、更に同一構成の第2のペーストP2をスクリーンマスク1に供給し、第2の印刷工程後にスクリーンマスク1に残存するろう材ペーストP1・P2と混合し、引き続き、n枚のセラミックス基板Wbに印刷パターンm1・m2を形成する。
この第2の印刷工程に引き続く印刷工程おける、印刷枚数と各印刷パターンm1およびm2を合算した重量の関係を、図2(b)において実線L4として示す。印刷パターンm1・m2の重量の増減は、第2の印刷工程と同傾向である。しかしながら、第2の印刷工程が終了した時点S4における残存するろう材ペーストP1・P2に含まれるろう材の割合が増加しているため、当該ろう材ペーストP1・P2に第2のろう材ペーストP2を補給しても、補給後に低下した印刷パターンm1・m2の重量の値は、実線L42の右端(下端値)に示されるように、実線L32で示される第2の印刷工程の場合よりも高い。加えて、第1態様の第2のペーストP2は流動性の高い有機溶剤の含有率のみを高めているため、第2のろう材ペーストP2が補給されたろう材ペーストP1・P2に含まれる有機溶剤がより選択的に失われ、その結果、実線L43の傾斜角度は、第2の印刷工程の重量増加を示す実線L33に比べ大きくなる。その結果、印刷パターンm1・m2の重量は、印刷枚数がn枚目である時点S5に到る前に上限値T1を超過することとなるが、図2(a)で示す従来技術で印刷した場合に比べ、印刷枚数は増加する。
[第2の印刷工程:第2態様]
以下、第2態様の第2の印刷工程について、当該第2の印刷工程、その前の第1の印刷工程およびそれに引き続く印刷工程における印刷枚数と印刷パターンm1・m2との関係を示す図2(c)を参照して説明する。なお、印刷プロセス自体は、上記第1態様の第2の印刷工程と同様であるので、詳細な説明は省略する、以下説明する第3態様の第2の印刷工程についても同様である。
図2(c)において実線L1で示す第1の印刷工程においてn枚のセラミックス基板Wbに印刷が完了し、第1の印刷工程が完了した時点S6において、本態様の第2の印刷工程で使用する第2のろう材ペーストP2をスクリーンマスク1の上面1eに供給する(図1参照)。ここで、第2のろう材ペーストP2は、第1の印刷工程において第1のろう材ペーストP1から失われた有機溶剤および有機溶剤と共に失われた有機バインダの合算した量を補完するよう、第1のろう材ペーストP1よりも有機溶剤および有機バインダ双方の含有率を高めており、流動性の高い有機溶剤のみの含有率を高めた第1態様の第2のろう材ペーストP1と相違している。なお、第1のろう材ペーストP1における有機溶剤と有機バインダとを合算した含有率が13.0〜17.0質量%である場合には、第2のろう材ペーストP2における有機溶剤と有機バインダとを合算した含有率が前記第1のろう材ペーストP1より0.3〜1.0質量%高くなるよう調整しておくことが望ましい。
第1の印刷工程が完了した時点S6において、第2のペーストP2を供給し印刷すると、上記第1態様の第2の印刷工程と同様に、初期に印刷された数枚のセラミックス基板wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量はやや増加し(実線L51)、その後、ろう材ペーストP1・P2の混合が完了すると実線L52に示すように急激に低下する。そして、低下した印刷パターンm1・m2の重量は、セラミックス基板Wbへの印刷を重ねるごとに実線L53に示すように増加する。ここで、本態様の第2のろう材ペーストP2は有機溶剤および有機バインダともに含有率を高めており、有機バインダが溶解した有機溶剤は流動性が低いため、それらのろう材ペーストP1・P2から選択的流失が抑制され、実線L53の傾斜角度は、上記第1態様の第2の印刷工程の場合と異なり、第1の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量増加を示す実線L1と同程度となる。
そして、n枚のセラミックス基板Wbに印刷し、第2の印刷工程が完了した時点S7において、更に、ろう材ペースト(以下、第2態様を説明する本項において、第2態様の第2の印刷工程後に供給されるろう材ペーストを第3のろう材ペーストP3と言う。)をスクリーンマスク1に供給し、引き続き印刷工程(以下、第2態様を説明する本項において、第2態様の第2の印刷工程に引き続く印刷工程を第3の印刷工程と言う。)を行う。ここで、第2態様で使用する第3のペーストP3は、上記第2のペーストP2と相違しており、より具体的には、有機溶剤および有機バインダの含有率は、共に、第1のペーストP1以上、第2のペーストP2未満である。つまり、本発明に係わるスクリーン印刷方法では、第3の印刷工程で使用するろう材ペーストは、第2の印刷工程で使用された第2のペーストP2と同一の組成である必要は、必ずしもない。その理由は、次のとおりである。
すなわち、第2の印刷工程において使用する第2のろう材ペーストP2の構成によっては、第2の印刷工程において印刷パターンm1・m2の重量の減少を示す実線L52の右端の値(下端値)が、第1の印刷工程において印刷パターンm1・m2の重量の増加を示す実線L1の左端の値(下端値)よりも小さくなり、重量の下限値であるT2に近接する場合がある。そして、第2の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の増加を示す実線L53の傾斜角度は、第1の印刷工程の実線L1と同程度であるため、n枚のセラミックス基板Wbへ印刷して第2の印刷工程が完了した時点S7における、印刷パターンm1・m2の重量は、第1の印刷工程が完了した時点S6の重量よりも、低くなっている虞がある。
そして、印刷パターンm1・m2の重量の値が低下した第2の印刷工程が完了した時点S7において、第2のろう材ペーストP2と同一組成の第3のろう材ペーストP3を供給し、引き続き第3の印刷工程を行った場合には、実線L62の下方端から伸びる破線で示すように、第3の印刷工程において印刷パターンm1・m2の重量が減少した後の値(つまり破線の右端の値)が、下限値T2を下回る可能性がある。
この問題は、本態様の第3のろう材ペーストP3のように、有機溶剤および有機バインダの含有率を、共に、第1のペーストP1以上、第2のペーストP2未満とすることにより、解消することができる。すなわち、図2(c)において、第3の印刷工程における印刷枚数と印刷パターンm1・m2との関係を示す実線L6で示すように、第2の印刷工程が完了した時点S7で、第3のろう材ペーストP3をスクリーンマスク1の上面1eに供給し、スクリーンマスク1に残存するろう材ペーストP1・P2と混合し、印刷する。すると、初期に印刷された数枚のセラミックス基板wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量はやや増加し(実線L61)、その後、ろう材ペーストP1・P2と第3のろう材ペーストP3との混合が完了すると実線L62に示すように低下する。
ここで、本態様の第3のろう材ペーストP3は、有機溶剤および有機バインダの含有率が、共に、第1のペーストP1以上、第2のペーストP2未満であるため、第3の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の減少を示す実線L62の右端の値(下端値)は、第2の印刷工程における実線L52の右端の値よりも高く、第1の印刷工程の実線L1の左端の値と同程度となり、印刷パターンm1・m2の重量の下限値T2から離隔することとなる。なお、第3の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の増加を示す実線L63の傾斜角度は、第2の印刷工程の実線L53と同程度であるため、n枚のセラミックス基板Wbへ印刷して第3の印刷工程が完了した時点S8における印刷パターンm1・m2の重量は、第2の印刷工程が完了した時点S7よりも高くなり、第1の印刷工程が完了した時点S6と同程度となる。このように第3の印刷工程が完了した後は、引き続き上記第2の印刷工程と第3の印刷工程を交互に繰り返しながら印刷すればよい。
[第2の印刷工程:第3態様]
第3態様の第2の印刷工程について、図2(d)を参照しつつ説明する。図2(d)において実線L1で示す第1の印刷工程においてn枚のセラミックス基板Wbに印刷が完了し、第1の印刷工程が完了した時点S10において、本態様の第2の印刷工程で使用する第2のろう材ペーストP2をスクリーンマスク1の上面1eに供給する(図1参照)。ここで、第2のろう材ペーストP2は、第1の印刷工程において第1のろう材ペーストP1から失われた有機溶剤および有機溶剤と共に失われた有機バインダの合算した量を補完するよう、第1のろう材ペーストP1よりも有機溶剤および有機バインダ双方の含有率を高めている点で、上記第2態様の第2の印刷工程で使用した第2のろう材ペーストP2と同様である。しかしながら、第1の印刷工程、第2の印刷工程およびそれに引き続く印刷工程の各工程間における、印刷パターンm1・m2の重量の変動を抑制するため、第2の印刷工程で使用する第2のろう材ペーストP2の溶剤とバインダとを合算した含有率は、第1のろう材ペーストP1に対し高めているが、その割合をより制限した点、および第2の印刷工程に引き続く印刷工程では第2の印刷工程で使用した第2のろう材ペーストP2を供給し、被印刷物であるセラミックス基板Wbに印刷する点で、本態様の第2の印刷工程は、第2態様の第2の印刷工程と相違している。
すなわち、図2(d)に示すように、第1の印刷工程が完了した時点S10において、上記組成の第2のろう材ペーストP2をスクリーンマスク1の上面1eに供給し印刷すると(図1参照)、上記第1および第2態様の第2の印刷工程と同様に、初期に印刷された数枚のセラミックス基板wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量はやや増加し(実線L71)、その後、ろう材ペーストP1・P2の混合が完了すると実線L72に示すように低下する。そして、低下した印刷パターンm1・m2の重量は、セラミックス基板Wbへの印刷を重ねるごとに実線L73に示すように増加する。
ここで、本態様の第2のろう材ペーストP2は有機溶剤および有機バインダともに含有率を高めているが、その割合を制限しているため、ろう材ペーストP1・P2からの有機溶剤および有機バインダの選択的流失が抑制される。
上記のように第2のろう材ペーストP2を構成した結果、第2の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の減少を示す実線L72の右端の値は、第1の印刷工程の実線L1の左端の値と同程度となる。なお、第2の印刷工程における重量の増加を示す実線L73の傾斜角度は、第1の印刷工程の実線L1と同程度である。上記第1態様の第2の印刷工程の場合と異なり、第1の印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量増加を示す実線L1と同程度となる。その結果、第2の印刷工程において、n枚のセラミックス基板Wbに印刷して第2の印刷工程が完了した時点S11の印刷パターンm1・m2の重量は、第1の印刷工程が完了した時点S10の重量とほぼ同程度の値となっている。
第2の印刷工程が完了した時点S11において、第2のろう材ペーストP2と同一組成のろう材ペーストP2を供給し、引き続きn枚のセラミックス基板Wbへの印刷工程を行う。図2(d)において実線L8で示すように、その印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の変化は、基本的に第2の印刷工程における変化と同様であり、初期に印刷された数枚のセラミックス基板wbに形成された印刷パターンm1・m2の重量はやや増加し(実線L81)、その後、ろう材ペーストP1・P2の混合が完了すると実線L82に示すように低下する。そして、低下した印刷パターンm1・m2の重量は、セラミックス基板Wbへの印刷を重ねるごとに実線L83に示すように増加する。そして、第2の印刷工程に引き続く印刷工程における印刷パターンm1・m2の重量の変動範囲は、第1の印刷工程および第2の印刷工程における変動範囲とほぼ同一範囲となり、各工程間における印刷パターンm1・m2の重量の変動が抑制される。
[実施例]
以下、ろう材層M1〜M3を介して回路基板および放熱基板である銅基板Wa−1・Wa−2・Wcが接合された図3(a)・(b)に示す回路基板Wを形成するため、図3(d)・(f)に示すように、縦横に並列した状態で54個の回路基板が同時に形成される多数個取りのセラミックス基板である窒化珪素基板Wbの両面に、印刷パターンm1〜m3を印刷する場合の複数の実施例および比較例に基づき、本発明を説明する。
各実施例および比較例の窒化珪素基板は、以下の方法で形成した。窒化珪素粉末:79.5〜98.0質量%に対し、MgO:1.5〜5.5質量%、および
Y2O3:0.5〜15.0質量%の焼結助剤を添加した混合粉末を、エタノール・ブタノール溶液を満たしたボールミルの樹脂製ポット中に、前記混合粉末および粉砕媒体の窒化珪素製ボールを投入し、所定時間湿式混合した。次に、前記ポット中の混合粉末に対し、所定量のポリビニル系の有機バインダおよび可塑剤を添加し、次いで所定時間湿式混合し、シート成形用スラリーを得た。この成形用スラリーを脱泡、溶媒除去により粘度を調整し、ドクターブレード法によりグリーンシートを成形した。次に、成形したグリーンシートを空気中で加熱することにより有機バインダ成分を十分に脱脂(除去)し、次いで脱脂体を窒素雰囲気中において焼成した。得られた窒化珪素焼結体シートをサンドブラスト処理により表面性状を調整し、縦120mm、横105mm、厚さ0.32mmの窒化珪素基板を得た。
次いで、図3(c)・(e)に示すように、上記窒化珪素基板Wbの上面および下面に、Ag−Cu−In系活性ろう材を含むろう材ペーストをスクリーン印刷で印刷し、印刷パターンm1〜m3を形成した。なお、各実施例および比較例における、第2の印刷工程の実施態様および使用したスクリーンマスクの目開き寸法は、表1に示すとおりである。
各実施例および比較例で使用したろう材ペーストに含まれるろう材は、Ag:70質量%、In:5質量%、酸素含有量0.1質量%以下、残部Cu及び不可避不純物からなる平均粒径(d50)20〜45μmの合金粉末100質量部に対し、さらに平均粒径2〜10μmのAg粉末粒子を5〜30質量部および45μm以下の粒子サイズが85%以上の水素化チタンを0.5〜5質量部添加し、前記合金粉末粒子間の間隙を埋めるようにAg粉末粒子および活性金属水素化物を混合したろう材であり、各実施例および比較例で使用したろう材の平均粒径(d50)は、表1に示すとおりである。
ろう材ペーストの全体に占める割合で、有機バインダとしてアクリル系樹脂を3.5〜6.8質量%、有機溶剤としてα-テルピネオール8〜12.5質量%、分散剤0.1質量%および上記ろう材を配合し、プラネタリーミキサーを用いて混合を行い、各実施例および比較例における第1の印刷工程、第2の印刷工程および第2の印刷工程に引き続く印刷工程、並びに必要な場合には第3の印刷工程で使用する第1〜第3のろう材ペーストP1〜P3を作成した。各実施例および比較例で使用した第1〜第3のろう材ペーストP1〜P3の組成は、表1に示すとおりである。なお、表中、数値の記入がなく、「−」が記入された実施例は、当該印刷工程を実施しなかった例である。
各実施例および比較例では、第1の印刷工程、第2の印刷工程および第2の印刷工程に引き続く印刷工程、並びに必要な場合には第3の印刷工程により、各印刷工程で各々30枚の窒化珪素基板に、上記第1〜第3のろう材ペーストP1〜P3を印刷し、図3(c)に示すように、窒化珪素基板Wbの上面に50μm厚みの印刷パターンm1・m2を、縦横並列するように54個形成した。そして、各実施例および比較例ともに、第1の印刷工程、第2の印刷工程および第2の印刷工程に引き続く印刷工程、並びに必要な場合には第3の印刷工程を含む10回の印刷工程を行い、通算して300枚の窒化珪素基板に印刷して、上面側の印刷パターンm1・m2を形成した。
上面側の印刷パターンm1・m2が形成された窒化珪素基板は、乾燥炉で乾燥し、ろう材ペースト中の有機溶剤を除去した。次いで、上記と同様にして窒化珪素基板の下面に50μm厚みの印刷パターンm3を、縦横並列するように54個形成し、乾燥炉で乾燥し、ろう材ペースト中の有機溶剤を除去し、その後、重量を測定した。
乾燥後に求めた窒化珪素基板の重量から印刷前の窒化珪素基板の重量を減じ、各窒化珪素基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量を算出し、通算して300枚印刷された窒化珪素基板の印刷パターンm1〜m3の重量の平均および分散を、各実施例および比較例ごとに求めた。その結果を表1に示す。また、通算して300枚印刷された窒化珪素基板のうち、形成された印刷パターンm1〜m3の重量が、図2(b)〜(d)に示す上限値T1(1.170g)および下限値T2(1.560g)を超過していた枚数および上限値T1および下限値T2を超えた窒化珪素基板を除く重量としては良品の窒化珪素基板の枚数を表2に示す。なお、窒化珪素基板の上面に形成した54個の印刷パターンm1・m2の合計面積は70cm2であり、下面に形成した54個の印刷パターンm3の合計面積は82cm2であり、一枚の窒化珪素基板では152cm2であった。
上記のように窒化珪素基板に印刷パターンm1〜m3を形成した後、印刷パターンm1〜m3の重量が上限値および下限値を超えない、重量としては良品の窒化珪素基板を選択し、図3(d)・(f)に示すように、窒化珪素基板Wbに形成された印刷パターンm1〜m3が、縦115mm、横100mm、厚みが0.5mmの金属基板である銅基板Wa・Wcと窒化珪素基板Wbとの間に配置されるように銅基板Wa・Wcを窒化珪素基板Wbの両面に重ね、これらに所定の加圧力を付加しつつ、非酸化雰囲気中において加熱・冷却して、窒化珪素基板Wbに銅基板Wa・Wcを接合し、各実施例および比較例ごとに複数個の接合体を得た。
各実施例および比較例ごとに形成された複数の接合体について、その窒化珪素基板または銅基板とろう材層との接合界面に生じている空孔の直径(最大径)を、接合体を溶媒中に浸漬して超音波で測定する超音波探傷装置である日立建機製Mi−scopeで確認した。ここで、接合体は、一枚あたり54個の回路基板を含むが、個々の回路基板において直径(最大値)が2mm以上の気孔が形成されている場合には、耐熱サイクル特性の観点からその回路基板は不良とした。そして、各実施例および比較例で作成した複数の接合体において、求めた不良の回路基板の個数を、当該複数の接合体に含む全ての回路基板の個数で除した値を気孔不良発生率とした。その結果を表2に示す。
次いで、上記接合体にエッチング処理を施し、窒化珪素基板の上面および下面に接合された銅基板Wa・Wcに、図3(a)・(b)に示す回路板Wa−1・Wa−2および放熱板Wcを54個形成した。具体的には、銅基板Wa・Wcの表面に、UV硬化型のエッチングレジストをスクリーン印刷法で所定のパターンで塗布し、その後、エッチング液である液温を50℃に設定した塩化第2鉄(FeCl3)溶液(46.5Be)に接合体を浸漬し、回路板Wa−1・Wa−2および放熱板Wcを形成した。
上記エッチングレジストを除去した後、不要なろう材層を、過酸化水素および酸性フッ化アンモニウムを含むろう材除去液で除去した。その後、接合体を切断することにより、各実施例および比較例ごとに、接合体一枚当たり54個の回路基板を得た。この54個の回路基板について、耐熱サイクル試験および絶縁耐圧試験を行った。耐熱サイクル試験は、−40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および125℃での加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを3000回繰り返して回路基板に付与し、その窒化珪素基板にクラック等が発生する割合を確認した。また、絶縁耐圧試験は、5kVの電圧を回路基板に1分間印加し、各層ごとの回路基板Wについて窒化珪素基板にクラック等が生じる割合を確認した。それらの結果を表2に示す。なお、表中の数値は、接合体を切断して得られた複数個の回路基板において、耐熱サイクル試験において3000回未満で窒化珪素基板にクラックが生じた回路基板の個数、絶縁耐圧試験で窒化珪素基板にクラックが生じた回路基板の個数を各々確認し求めた、絶縁不良発生率および耐熱サイクル不良発生率である。
表1の実施例および比較例により以下の知見が得られた。
[比較例1]
まず、理解のため従来技術のスクリーン印刷方法である比較例1について説明する。比較例1では、表1に示すように、平均粒径(d50)が20μmのろう材を85.0質量%、有機溶媒を10.0質量%および有機バインダを5.0質量%有する第1のろう材ペーストP1を第1の印刷工程で使用し、第1のろう材ペーストP1と同一構成の第2のろう材ペーストP2を第2の印刷工程およびそれに引き続く印刷工程で使用し、当該第1のろう材ペーストP1および第2のろう材ペーストP2を、ろう材の平均粒径をD1、スクリーンマスクの目開き寸法をD2としたときD2/D1が5.5となるように目開き寸法を109μmとしたスクリーンマスクで印刷し、窒化珪素基板に54個の印刷パターンm1〜m3(図3(c)・(e)参照)を形成した。この比較例1によれば、通算で300枚の窒化珪素基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値は3.064gと大きく、さらに重量のバラツキである分散は±0.546gとなった。そのため、300枚の窒化珪素基板において、上限値を超過した窒化珪素基板の枚数は180枚、下限値を下回る窒化珪素基板は無く、重量として良品の窒化珪素基板は120枚であった。この良品の120枚の窒化珪素基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率は5.3%、耐熱サイクル不良率は0%であった。
[実施例1〜5]
表1・2に示すように、第1態様の第2の印刷工程を実施した実施例1〜5によれば、第1のろう材ペーストP1に対し有機溶剤の含有率のみを0.2〜1.0質量%高めた第2のろう材ペーストP2を第2の印刷工程およびそれに引き続く印刷工程でも使用することにより、通算で300枚のセラミックス基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値および分散は、各々2.380〜2.870gおよび±0.540〜0.702gとなった。いずれの実施例においても重量として良品の窒化珪素基板の枚数は、従来技術である比較例1に対し増加し、この良品のセラミックス基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率および気孔不良発生率も、従来技術である比較例1に対し改善された。
[実施例6〜12]
表1・2に示すように、第2態様の第2の印刷工程を実施した実施例6〜12によれば、第1のろう材ペーストP1に対し溶剤とバインダとを合算した含有率を1.0質量%高めた第2のろう材ペーストP2を第2の印刷工程で使用し、第2の印刷工程に引き続く第3の印刷工程では、第1のろう材ペーストと同一組成の第3のろう材ペーストを使用することにより、通算で300枚のセラミックス基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値および分散は、各々2.394〜2.962gおよび±0.208〜0.390gとなり、いずれの実施例においても、第1態様の第2の印刷工程を用いた実施例1〜5に対し、特に重量のバラツキである分散の値が改善された。また、各実施例において重量として良品の窒化珪素基板の枚数は実施例1〜5に対し増加し、この良品のセラミックス基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率および気孔不良発生率も、実施例1〜5に対し改善された。
[実施例13〜19]
表1・2に示すように、第3態様の第2の印刷工程を実施した実施例6〜12によれば、第2態様の第2の印刷工程で使用した第2のろう材ペーストに対し、溶剤とバインダとを合算した含有率を高める割合を0.3〜0.7質量%と制限した第2のろう材ペーストP2を第2の印刷工程およびそれに引き続く印刷工程で使用することにより、通算で300枚のセラミックス基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値および分散は、各々2.498〜2.804gおよび±0.104〜0.296gとなり、いずれの実施例おいても、第2態様の第2の印刷工程を用いた実施例4〜12に対し、重量のバラツキである分散の値が更に改善された。これにより、各実施例において重量として良品の窒化珪素基板の枚数は実施例4〜12に対し増加し、この良品のセラミックス基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率および気孔不良発生率も、実施例4〜12に対し更に改善された。
[比較例2]
ろう材の平均粒径(d50)が40μm、スクリーンマスクの目開きが109μmであり、ろう材の平均粒径(D1)とスクリーンマスクの目開き(D2)の関係であるD2/D1の値が2.7である以外は実施例13〜17と同一条件である比較例2によれば、スクリーンマスク目開きに対するろう材の平均粒径が大きいため、有機溶媒および有機溶媒に溶解した有機バインダがより選択的に失われ、通算で300枚のセラミックス基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値および分散は、各々2.998gおよび±0.558gとなり、上限値を超過した窒化珪素基板の枚数は158枚、下限値を下回る窒化珪素基板は無く、重量として良品の窒化珪素基板は120枚であった。この良品の120枚の窒化珪素基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率は4.1%、耐熱サイクル不良率は0%であった。
[比較例3]
ろう材の平均粒径(d50)が20μmであり、スクリーンマスクの目開きが258μmであり、ろう材の平均粒径(D1)とスクリーンマスクの目開き(D2)の関係であるD2/D1の値が12.9である以外は実施例13〜17と同一条件である比較例2によれば、スクリーンマスク目開きに対するろう材の平均粒径が小さすぎ、有機溶媒および有機溶媒がスクリーンマスクの目開きを抜け難くなる。そのため、通算で300枚のセラミックス基板に形成された印刷パターンm1〜m3の重量の平均値および分散は、各々2.614gおよび±0.534gとなり、上限値を超過した窒化珪素基板の枚数は38枚、下限値を下回る窒化珪素基板は98枚となり、重量として良品の窒化珪素基板は164枚であった。この良品の164枚の窒化珪素基板を用い形成した回路基板における絶縁不良発生率は0.5%、耐熱サイクル不良率は3.4%であった。