JP5888804B2 - 金属微粒子の製造方法 - Google Patents
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Description
金属ナノ粒子の合成は、金属錯体や金属塩などの前駆体を、化学還元して得られる。還元剤として、水素化ホウ素、ヒドラジン、アスコルビン酸などがよく用いられている。アルコールやポリオールも、有害性が低い還元剤としてしばしば用いられ、同時に反応溶媒としても作用する。
一方、アルコールやポリオールの還元力は比較的弱いため、還元電位の大きな金属、とりわけ白金イオンや銅イオンからナノ粒子を合成するためには、高温条件で長時間の加熱が必要であった。高温で長時間の加熱条件では、生成する粒子のサイズやその分布を均一にそろえることが困難である。
これに対し最近、マイクロ波を用いる反応促進効果を、金属ナノ粒子の迅速な合成に応用する試みがなされている(特許文献1参照)。特に、エチレングリコールなどのポリオールを反応媒体ならびに還元剤として用いたナノ粒子の合成方法は、有害な還元剤を用いないことに加えて、溶媒自体のマイクロ波エネルギー吸収が良いことから、大きな反応促進効果が認められるといった優位点が指摘されている。
しかし、これまでのマイクロ波利用の化学反応においては、従来の電磁波照射方法では、反応管内への電磁波の照射強度にムラが生じるため、再現性に課題があった。また、反応溶液を攪拌させる必要があり、その多くは、バッチ型反応によって実施されるものであった(特許文献1)。金属ナノ粒子の工業生産を行うためには、安定した高品質のナノ粒子合成を連続的に行う技術が必要であった。
本発明者らは、この反応装置を用いて金属ナノ粒子を合成する際に、誘電正接が比較的大きくまた緩和時間が長い媒体を用いることで、金属核に起因するホットスポットの熱が遅い熱緩和のため保持され、ナノ粒子への還元、粒子形成が促進されることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属微粒子の前駆物質、および、マイクロ波の周波数が2.45GHzのときの誘電正接が0.1以上、緩和時間が200ピコ秒以上の溶媒を含有する反応溶液を、流通管内に流通させ、その流通管の長さ方向に均一かつ集中的な電磁波を流通管内に向けて照射し、流通管内の前記溶液を流通方向に均一に加熱し、前記金属微粒子の前駆物質を流通下に還元して金属微粒子を生成させる、金属微粒子の製造方法。
(2)前記溶媒が、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及び1,5−ペンタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の金属微粒子の製造方法。
(3)前記金属粒子の前駆物質が、金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、及びクロロ錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属微粒子の製造方法。
(4)TMmn0(mは0以上、nは1以上の整数)の定在波を形成させた円筒型空胴共振器内の電界が集中する部分に沿って前記流通管を配置することにより、該円筒型空胴共振器内の該流通管の長さ方向に均一かつ集中的な電磁波を該流通管内に向けて照射する、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
(5)前記の流通管内に向けて照射される電磁波のマイクロ波の周波数が2.4〜2.5GHzのときの前記流通管の内径が2.9mm以下である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
tanδ=εr’’/εr’ (式2)
(ただし、εr’は物質のもつ誘電率)
CH2OH-CH2OH → CH3CHO + H2O
2CH3CHO + 2M+ → 2M + 2H+ + CH3COCOCH3
一方、本発明者らは、溶媒の緩和時間にも注目した。ナノ粒子の生成過程では、最初に金属の核発生が起こり、更に核成長過程が後続する。金属イオン前駆体の還元により最初に発生した金属核が、マイクロ波のエネルギーを良好に吸収し、発熱してホットスポットを形成する。ホットスポットの持つ熱エネルギーは通常溶媒への熱拡散により速やかに緩和されるが、緩和時間は媒体の粘性に依存する。例えば、グリセリン(tanδ=0.65)は、エチレングリコール(tanδ=1.35)の半分の誘電正接であるが、高粘性であり熱の緩和時間が10倍ときわめて長い。また、1,3−プロパンジオール(tanδ=1.3)はエチレングリコールと同等の誘電正接で、かつ、緩和時間はエチレングリコールの3倍である。そこで、誘電正接が比較的大きくまた緩和時間が長い媒体を用いることで、金属核に起因するホットスポットの熱が保持され、粒子成長が促進されるものと推定される。
本発明で用いる溶媒の緩和時間は200ピコ秒以上であり、300〜2000ピコ秒であることが好ましい。このような緩和時間を有することにより、金属核に起因するホットスポットの熱が保持され、粒子成長が促進されると考えられる。
誘電正接が大きく、かつ、緩和時間の長い溶媒を用いて高速に流通させ、ここに均一かつ集中的にマイクロ波を照射することで、粒子サイズが小さく、かつ粒径分布の狭い微粒子が製造できる。
また、金属粒子の前駆物質としては、金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、及びクロロ錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種が良好に用いられる。
金属としてはPt、Ag,Au,Ir,Pd,Rh,Re,Ru,及びOsなどの遷移金属が最も望ましいが、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Wなどの遷移元素、Al,In,Ga,Zn,Cd,Sb,Sn,Ge,Be,Mgなどの典型元素などがあげられる。
図1の装置はマイクロ波発振器・制御器6、TM010キャビティ2、送液ポンプ3、反応管7、からなる。キャビティは、内部に円筒型の空間を有する金属製の空洞共振器として構成したものである。この空間はTM010と呼ばれる定在波が形成できるように、その内寸を適宜設定することができる。この中心軸に沿って、貫通するように、石英ガラス管等から構成される反応管7を設置する。反応管7の内径は、照射するマイクロ波周波数が2.4〜2.5GHzでは内径2.9mm以下が好ましく、0.1〜1.5mmがさらに好ましい。反応溶液8がこの反応管を流通できるように、片側に送液ポンプ3が取り付けられている。反応管の反対側には、流体の温度を計測できるように、温度計5として熱電対を取り付けられている。また、内部の電界強度を計測するために、電界モニター4を取り付けられている。
本発明では電磁波を反応溶液に均一かつ集中的に照射できる電磁波照射手段を用いる。例えば電界を集中できる構造の電磁波照射空間のひとつとして、空胴共振器とよばれる空間を利用した、特定の定在波を安定に形成できる容器を用いる方法がある。円筒型の空胴共振器内に形成されたTM010定在波の電界強度分布を調べると、円筒の中心部に電界が集中する。またTM010の定在波を用いれば、円筒中心軸上の電界強度は、位置によらず一定である。つまり、円筒内に形成したTM010の定在波を有する空胴共振器を用い、その円筒の中心軸に沿って配置したチューブ状の反応器は、つねに強力でかつ均一な電界をもつマイクロ波を照射することが可能となる。TM010について説明したが、TMmn0(mは0以上、nは1以上の整数)の定在波も、円筒の半径方向に電界の集中する場所があり、中心軸に平行な部位では均一な電界強度を有するため、同様に利用することができる。また、電界で説明したが、電磁波は磁界による加熱作用もあるため、磁界が強くなる部分を利用しても同様な効果を得ることができる。
上記のように反応時間が長すぎると粒径がそろわなくなることから、流通速度は100〜600mL/hが好ましい。反応時間としては0.5〜3秒が好ましい。
反応温度は特に制限はないが、150〜250℃が好ましい。
(実施例1)
溶媒としてグリセリン(誘電正接0.65、緩和時間1200ピコ秒)を用い、白金微粒子の製造を行った。
金属前駆物質として塩化白金酸を用い、添加剤としてポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000)を加えることで、粒子サイズの調整や合成された白金ナノ粒子の安定化を図っている。塩化白金酸の濃度は10mM、ポリビニルピロリドンの濃度はモノマーユニットあたり50mMとした。
マイクロ波利用化学反応装置として、図1に示された装置を用いた。マイクロ波周波数2.45GHzに基づいて設計された内径を有するTM010シングルモードキャビティ2の中心軸に沿って内径1mm、外径3mm、長さ200mmのテフロン(登録商標)反応管7を取り付けた。テフロン(登録商標)反応管の片側から液溶媒に溶解させた反応原料8をシリンジポンプ3により供給した。反応原料8には、100mmの区間で均一なエネルギー分布をもつマイクロ波が照射される。これにより溶液温度が上昇する。溶液の温度は、TM010シングルモードキャビティ2のマイクロ波照射空間の出口1から10mm離れた部分に挿入された熱電対5により温度の計測を行い、この部分の温度が一定になるようマイクロ波電力の調整をフィードバック制御により行った。
反応溶液の温度140℃または160℃で反応時間3秒(流通速度100mL/h)で反応させた。
図2はマイクロ波照射前後での吸収スペクトルを示している。マイクロ波照射前の吸収スペクトルは、波長260nm付近に金属前駆物質である白金イオンを反映するピークが確認される。白金イオンが金属状態の白金に還元されるとピークは消失する。マイクロ波照射後の吸収スペクトルでは、白金イオンを反映するピークの減少量より、金属状態の白金にどの程度還元されたかがわかる。140℃ではピークが小さくなり、160℃ではピークが消失して、白金微粒子が合成されていることがわかる。
図3は160℃、反応時間3秒にて合成した場合の反応溶液のTEM像を示している。平均粒子径が3.4nmで標準偏差が0.6の分布をもつ、粒子径の均一なナノ粒子が合成されていることがわかる。
溶媒として1,3-プロパンジオール(誘電正接1.30、緩和時間340ピコ秒)を用い、実施例1と同様にして白金微粒子の製造を行った。
反応溶液の温度140℃または160℃で反応時間3秒(流通速度100mL/h)、及び反応溶液の温度160℃で反応時間1.5秒(流通速度200mL/h)で反応させた。
図4はマイクロ波照射前後での吸収スペクトルを示している。加熱前はピークが見られるのに対し、反応後はピークが減少または消失しており、白金微粒子が合成されたことがわかる。図2と図4のピーク強度を比較すると、140℃、3秒の条件の場合、1,3-プロパンジオールを用いた方がピーク強度は低いことから、グリセリンよりもさらに還元力が高く、白金微粒子合成に好適な液溶媒であることがわかる。
溶媒としてグリセリンを用い、銅微粒子の製造を行った。金属前駆物質として酢酸銅を用い、添加剤としてポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000)を用いた。酢酸銅の濃度は2.5mM、ポリビニルピロリドンの濃度はモノマーユニットあたり300mMとした。マイクロ波利用化学反応装置は、実施例1と同様の装置を用いた。
図5は、160℃で反応時間30秒(流通速度10ml/h)で反応させた反応溶液の吸収スペクトルを示している。銅イオンが金属状態の銅に還元されると600nm付近にピークが生じることが知られている。反応溶液では、銅粒子の生成を反映する600nm付近のピークが確認された。また、図6に示す反応溶液のTEM像より直径約50nmの粒子が確認され、銅微粒子が合成されていることがわかる。
溶媒としてエチレングリコール(誘電正接1.35、緩和時間100ピコ秒)を用い、実施例1と同様にして白金微粒子の製造を行った。反応溶液の温度は160℃とし、反応時間6秒(流通速度50mL/h)で行ったところ、白金イオンの状態のままで、微粒子は生成しなかった。
溶媒としてエチレングリコールを用い、実施例3と同様にして銅微粒子の製造を行った。反応溶液の温度は160℃とし、反応時間300秒(流通速度1ml/h)で行ったところ、銅イオンの状態のままで、微粒子は生成しなかった。
2 TM010キャビティ
3 送液ポンプ
4 電界モニター
5 温度計
6 マイクロ波発振器・制御器
7 反応管
8 反応溶液
Claims (5)
- 金属微粒子の前駆物質、および、マイクロ波の周波数が2.45GHzのときの誘電正接が0.1以上、緩和時間が200ピコ秒以上の溶媒を含有する反応溶液を、流通管内に流通させ、その流通管の長さ方向に均一かつ集中的な電磁波を流通管内に向けて照射し、流通管内の前記溶液を流通方向に均一に加熱し、前記金属微粒子の前駆物質を流通下に還元して金属微粒子を生成させる、金属微粒子の製造方法。
- 前記溶媒が、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及び1,5−ペンタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の金属微粒子の製造方法。
- 前記金属粒子の前駆物質が、金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、及びクロロ錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属微粒子の製造方法。
- TMmn0(mは0以上、nは1以上の整数)の定在波を形成させた円筒型空胴共振器内の電界が集中する部分に沿って前記流通管を配置することにより、該円筒型空胴共振器内の該流通管の長さ方向に均一かつ集中的な電磁波を該流通管内に向けて照射する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
- 前記の流通管内に向けて照射される電磁波のマイクロ波の周波数が2.4〜2.5GHzのときの前記流通管の内径が2.9mm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
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