JP5885910B2 - 齲蝕に関連する口腔内細菌の特定方法 - Google Patents
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Description
一方で、口腔内細菌と齲蝕との関連も調べられている。齲蝕の病原菌としては、Streptococcus mutans をはじめとするミュータンスレンサ球菌が従来から注目されており、疫学研究でも乳幼児の齲蝕の発症とミュータンスレンサ球菌との間の因果関係が証明されている。そのため、歯科の臨床においてミュータンスレンサ球菌の感染を検出し、将来の齲蝕の発症のリスクを評価するキットも利用されている。
また、口腔内に存在する他の細菌と齲蝕リスクとの関連は明らかになっていない。その理由として、口中の菌は培養が難しく、口腔フローラの解析が困難であることが挙げられる。そのため、口腔内細菌をもとに齲蝕リスクを評価する方法は確立していない。特に、口腔内細菌による齲蝕リスクの評価にどのような基準を用いればよいか、また、どのように取得した情報をもとに齲蝕リスクを評価すればよいか等については未解明の点も多い。
また、本発明は、被験者からデンタルプラークを採取し、採取したデンタルプラーク中の細菌叢に含まれる細菌のDNAを抽出し、抽出したDNAをT−RFLP法により解析することを特徴とする、齲蝕リスクを評価するための情報の提供方法に関する。
本発明に係る方法は、in vivoで形成させたデンタルプラークを齲蝕を多発する被験者からなるグループと齲蝕を有さない被験者からなるグループから採取する第1の工程、採取したデンタルプラーク中の細菌叢に含まれる細菌のDNAを抽出する第2の工程、抽出したDNAをT−RFLP法により解析する第3の工程、及び、解析した結果として得られたピークについて、齲蝕を多発する被験者からなるグループと齲蝕を有さない被験者からなるグループとの間で各ピークの位置及びピーク面積を比較し、齲蝕を多発する被験者からなる群に特徴的なピークの位置及び面積を記録する第4の工程を有することを特徴とする。
口腔内からデンタルプラークを採取する方法としては、デンタルプラークをin vivoで形成して採取することが可能である限り、公知のいかなる方法をも使用することができる。なお、デンタルプラークを4日以上成熟させると、細菌叢の形成が安定するために好ましい。また、侵襲性や不快感を考えると、実際の歯面のプラークの清掃を被験者に長期間停止させることは倫理的に不可能であるため、口腔内に着脱可能なデンタルプラーク形成装置等を用いることが好ましい。
装置本体部は、図1(a)のように下顎全体のマウスピースをもとに作成してもよいが、少なくとも上顎または下顎の1または2以上の臼歯の頬側面に接するかぎり、必ずしも下顎全体のマウスピースをもとに作成する必要はなく、一部の歯のみに装着されるものでもよい。
プラーク形成プレートの材料としては特に限定されないが、プラークをこのプレートに形成させ、その後プレートからプラークを剥ぎ取ることを考慮すると、デンタルインプラントの材料として用いることのできる材料、好ましくは焼結体合成ハイドロキシアパタイト等を使用することが好ましい。
なお、プレートの形状、大きさ、枚数等は、口腔内環境を侵襲せず、被験者に不快感を与えない限り、特に限定されることはない。
プラーク形成プレートは、例えば接着用樹脂等によって装置本体部に接着される。その際、本体部からの取外しが容易な構成になっていると、プラーク形成過程の経日的な観察に用いることができるため好ましい。
また、デンタルプラーク形成装置は下顎部に装着するものには限定されず、上顎歯列から採取した印象をもとに上顎部に装着するものを作成してもかまわない。
このデンタルプラーク形成装置を被験者に少なくとも4日以上装着させ、その後、プラーク形成プレートからデンタルプラークを剥ぎ取ることで、容易にデンタルプラークを採取することができる。
デンタルプラークに含まれる細菌叢を構成する口腔内細菌は、16S rRNAの塩基配列がそれぞれ異なっている。そのため、16S rRNAを制限酵素で切断する際の切断部位も細菌種ごとに異なる。そこで、各細菌種から抽出した16S rRNA遺伝子について、一方の末端を蛍光標識したプライマーを使用して増幅し、増幅されたPCR産物を制限酵素で切断し、蛍光標識された末端を含む断片を検出することによって、細菌叢を構成する口腔内細菌の群集構造に応じた一定のピークパターンが得られる。本発明において、ピークパターンとは検出されたピークの位置及びそれぞれのピークの面積のパターンを意味する。ピークの位置からはそれぞれの切断された断片の断片長を推定することができ、さらに、得られたピーク位置(断片長)と公知のデータベースとを比較することにより、そのピークに対応する細菌種を特定することもできる。また、ピーク面積からはそのピークに対応する細菌の多さが推定できる。
その後、歯科診療の場面で、患者の口腔内からデンタルプラークを採取し、デンタルプラーク中の細菌叢に含まれる細菌のDNAを抽出し、抽出したDNAをT−RFLP法により解析し、上記有意な差が生じたフラグメントサイズの検出率を調べることで、患者の齲蝕リスクを定量的に評価することができる。また、前記有意な差が生じたフラグメントサイズに該当する細菌種を特定することにより、齲蝕に関連する細菌を特定することができる。その後、患者の口腔内におけるその菌種の検出の程度を調べることにより、患者の齲蝕リスクを簡便に評価することができる。
九州大学歯学部の学生を対象にボランティアを155名程募り、ボランティア全員に対して齲蝕の診査を行った。齲蝕の診査は、歯冠部齲蝕については社団法人日本学校歯科医会の「う歯(C)及び要観察歯(CO)の検出基準」に準じて齲歯(C)を検出し、根面齲蝕についてはWHOの基準に準じてCを検出した。その結果に基づき、齲蝕を多発する10名を被験者として選んだ。また、被験者に過去の齲蝕経験を質問し、その結果をもとに齲蝕を有さない被験者からなるグループを10名設定した。すなわち、合計20名を本実施例における被験者とした。
ここでは、齲蝕経験のある歯数が9本以上の者を齲蝕多発者とし、これまでに齲蝕が認められなかった者を齲蝕を有さない被験者とした。
被験者の年齢は21歳から28歳であり、齲蝕を多発する被験者からなるグループの平均年齢は24.1歳、齲蝕を有さない被験者からなるグループの平均年齢は23.2歳であったが、t検定により両群間に有意な差は認められなかった。
刺激唾液量については齲蝕を多発する被験者からなるグループの平均値が1.23ml/minであり、齲蝕を有さない被験者からなるグループが1.42ml/minで齲蝕を多発する被験者からなるグループが若干少ない傾向が見られたが、t検定により両群間に有意な差は認められなかった。また、唾液緩衝能は齲蝕を多発する被験者からなるグループで高いが7名、中程度が3名であったのに対し、齲蝕を有さない被験者からなるグループでは高いが7名、中程度が2名であり、Fisherの直接確率計算によって両群に緩衝能の有意な差は認められなかった。
in vivoでのデンタルプラークの形成のため、図1に示す着脱可能なデンタルプラーク形成装置を作成した。
まず、被験者の下顎歯列の印象を採得し、採取した印象をもとにマウスピース様の装置を歯科用の即時重合レジンを用いて作製し、装置による咬頭干渉がないように架橋部を残して咬合面を削除した。両側の臼歯部頬側面には、スティッキーワックスによって、歯面の代替となる焼結体合成ハイドロキシアパタイトのプラーク形成プレート(直径5mm、厚さ2mmの円筒状のプレート)を6枚ずつ接着し、プラークの形成面とした。装置の装着にあたっては、被験者に試適し、歯肉や粘膜への侵襲がないことおよび発音障害などが生じないことを確認した。
装着に際しては、以下の点を被験者に確認した。
(1) 食事および歯磨き時は装置を外し、生理食塩水を満たしたケースに入れて保管すること。
(2) その際、決してハイドロキシアパタイトのプレートの面には触れないこと。
(3) 食事および歯磨き時以外は常に装置を装着しておくこと。
装置装着から5日目までは1日ごとに1枚ずつ、さらに7日目に1枚、装置からプラーク形成プレートを取り外し,溶菌液の入ったチューブの中に浸漬した。超音波処理でプラーク形成プレートからプラークを剥ぎ取り、遠心分離機でプラークを一旦沈殿させ、溶菌液からプラーク形成プレートを除去した。取り除いたプラーク形成プレートについては、その表面にプラークの付着が無いことを顕微鏡で確認した。
サンプル中に含まれるDNAの抽出は、非特許文献1の方法を一部改良して行った。菌を採取したチューブの中に0.3gのzirconia-silica beads (直径 0.1 mm: Biospec Products, USA) と1個のtungsten-carbide bead (直径 3 mm: Qiagen, Germany) を加えて90℃で10分間加温した後、Disruptor Genie (Scientific Industries, Inc., USA) を用いて菌体を震盪、破砕し、200μlの1% SDS溶液を加えて、70℃で10分間加温した。さらに、蛋白質成分を除去するため、フェノール (v/v)による抽出を1回、フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール (25:24:1、v/v) 混合溶液による抽出を1回行った後、エタノール沈殿処理を行い、生じた沈殿物を50μlのTE溶液 (1mM EDTA を含む10mMトリス塩酸緩衝液 ; pH8.0) に溶解し、DNA試料として分析時まで−30℃で凍結保存した。
プラーク中の全細菌数の測定は抽出したDNA試料についてSYBR Green PCR kit (Qiagen, Hilden, Germany ) を用いたリアルタイムPCRをStepOneTM Real-Time PCR System (Applied Biosystems, USA) によって行った。プライマーにはユニバーサルプライマー(806F: 5’-TTAGATACCCYGGTAGTCC-3’と926R: 5’-CCGTCAATTYCTTTGAGTTT-3’)を用いた。PCR反応にはBiomtra T3 thermocycler (Biomtra, Germany) を用い、条件は95℃で10分間加熱し、その後95℃ 3秒、60℃ 30秒を40回繰り返した。各サンプル中の全菌数の計算は、Streptococcus mutans Xcの一定CFUから抽出されたDNAを用いた検量線によって換算して行った。
図2の右のグラフはそれぞれの群のプラーク形成後各日数毎(6日後のみを除く)の平均値を示したものである。プラーク形成3日目までは齲蝕を多発する被験者からなるグループの細菌数は齲蝕を有さない被験者からなるグループに比較して有意に多かったが、4日目からは両群間にはt検定によって有意な差は認められなかった。
抽出DNA試料からの16S rRNA遺伝子の増幅は、非特許文献2の方法に準じてPCR法により行った。ほとんどの細菌に共通な塩基配列部位をプライマーとして用いるため、5’末端を蛍光色素 6-carboxyfluorescein (6-FAM) によって標識した8F (5'- AGAGTT TGATYM TGGCTC AG- 3') をフォワードプライマーとして、また、5’末端を蛍光色素 hexachlorofluorescein (HEX) によって標識した806R (5'- GGA CTA CCR GGG TAT CTA A- 3') をリバースプライマーとして使用した。PCR反応にはKOD DNA ポリメラーゼ(東洋紡績株式会社) を用いた。1μlの鋳型 DNA (100-500 ng/μlになるよう希釈したもの) に5μlのKOD DNA ポリメラーゼ10×PCR buffer(60mM硫酸アンモニウム、100mM塩化カルシウム、1%Triton X-100、100μgウシ血清アルブミンを含む1.2 Mトリス塩酸緩衝液; pH8.0)、5μlの2mM dNTPs、2μlの25mM塩化マグネシウム、各0.5μlの1μM両プライマー、1μlのKOD DNAポリメラーゼ(2.5 U/μl)を加えた後、滅菌蒸留水を加えて総量を50μlとしてPCR反応を行った。PCR反応にはBiometra T3 thermocycler (Biometra, Germany) を用いた。反応条件は98℃ 15秒、60℃ 2秒、72℃ 30秒で30サイクルの反応を行った。PCR反応終了後に、泳動用ゲル2% (wt/vol)のアガロースを含む1×TAEを用いて、アガロース電気泳動を行い、バンド出現部位を切り出した後、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega, USA) を用いて未反応プライマー、プライマーダイマー、その他非特異的増幅断片の除去を行った。
精製した16S rRNA遺伝子増幅断片を含む溶液3μlを制限酵素HaeIII 5 Uを用いて総量を10μlとし、37℃で3時間消化した後、非特許文献2の方法に準じてキャピラリー電気泳動を行った。切断したDNA溶液2μlに対して、9μlの脱イオン化ホルムアミド、1μlのサイズスタンダードを混合し、95℃で5分間加熱し熱変性させた後、急冷して電気泳動に用いた。電気泳動はABI3130 Genetic analyzer (Applied Biosystems, USA) を用い、60℃、15kVの条件で30分泳動した。データの取り込みおよび解析は GeneMapper version 4.0 (Applied Biosystems, USA) を用いて行った。
19人×6日=114サンプルから得られたT−RFLPパターンを主成分分析した結果をプロットした結果を図3に示す。○で示した齲蝕を多発する被験者からなるグループは□で示した齲蝕を有さない被験者からなるグループに比較して、第1主成分(PC1)の左側かつ第2主成分(PC2)の下側に位置する傾向があり、プラーク形成日数が短いサンプルでは若干の重なりがあるものの、細菌叢を反映するピークパターンの違いによって、齲蝕を多発する被験者からなるグループと齲蝕を有さない被験者からなるグループを区分できる可能性が示唆された。
そこで、図2の結果からプラークの形成が安定すると判断された4日目のプラークのみのサンプルで同様に主成分分析した結果をプロットしたところ、図4に示すように図3のプロットにおいて齲蝕を多発する被験者からなるグループと齲蝕を有さない被験者からなるグループが区分された結果がより明瞭となった。
これらの中、齲蝕を多発する被験者からなるグループで有意にピーク面積が広いピークはピーク30、ピーク43、ピーク51、ピーク52、ピーク55、ピーク68の6ピークであり、ピーク29、ピーク49の2ピークについては齲蝕のない被験者からなるグループの方がピーク面積が有意に広かった
Claims (2)
- 被験者からデンタルプラークを採取し、
採取したデンタルプラーク中の細菌叢に含まれる細菌のDNAを抽出し、
抽出したDNAをT−RFLP法により解析することを特徴とする、
口腔内の細菌叢におけるGemella属細菌種が占める割合を評価する工程を含む齲蝕に関連するGemella属細菌種を特定する方法。 - 前記被験者が、齲蝕を多発する被験者からなるグループと齲蝕を有さない被験者からなるグループであることを特徴とする、請求項1に記載の齲蝕に関連するGemella属細菌種を特定する方法。
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