JP5875039B2 - 多孔性バクテリアセルロースファイバー及びその製造方法 - Google Patents
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Description
また、細胞の三次元培養のためのスキャフォールドとして、バクテリアセルロースを使用する試みもなされている。例えば、パラフィンビーズを充填した容器の中でセルロース産生菌を培養してセルロースを形成させ、パラフィンビーズを除くことによって得られた表面の粗いセルロースをスキャフォールドとして細胞を培養したことが報告されている(Zaborowska, M. et al. 2010, Anderssen et al. 2011)。しかしながら、この方法では細胞がコンフルエントな状態まで増殖せず、血管等の組織を形成するのは困難であった。
即ち、本発明は
〔1〕チューブ状のハイドロゲル内でセルロース産生菌を培養する工程と、
前記ハイドロゲルを除去する工程と、を含む多孔性バクテリアセルロースファイバーの製造方法;
〔2〕前記セルロース産生菌が、酢酸菌である、上記〔1〕に記載の方法;
〔3〕前記ハイドロゲルが、アルギン酸ゲルである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法;
〔4〕前記培養工程は、12時間から48時間行う、上記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載の方法;
〔5〕多孔性バクテリアセルロースファイバーの直径が50μmから300μmである、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の方法;
〔6〕前記バクテリアセルロースファイバーの平均孔径が5μmから15μmである、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の方法;
〔7〕直径が50μmから300μmであり、平均孔径が5μmから15μmである、多孔性バクテリアセルロースファイバー;
〔8〕上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法で製造される、上記〔7〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバー;
〔9〕管状の細胞培養体を形成する方法であって、
上記〔7〕又は〔8〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバーに細胞を播種する工程と、
前記細胞が前記多孔性バクテリアセルロースファイバーを覆うまで培養する工程と、を含む方法;
〔10〕さらに、多孔性バクテリアセルロースファイバーをセルラーゼで分解する工程を含む、上記〔9〕に記載の方法;
〔11〕細胞又は組織の灌流培養方法であって、
前記細胞又は組織中に上記〔7〕又は〔8〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバーを配置して培養する工程と、
前記多孔性バクテリアセルロースファイバーを介して細胞培養体又は組織中に培養液を灌流させる工程と、を含む方法;
〔12〕上記〔7〕又は〔8〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバーを内包したハイドロゲルチューブ;
〔13〕上記〔7〕又は〔8〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバーを内包した細胞培養体;及び
〔14〕上記〔7〕又は〔8〕に記載の多孔性バクテリアセルロースファイバーを内包した培養組織、
に関する。
さらに、本発明の多孔性バクテリアセルロースファイバーを細胞培養体や組織内に配置し、該ファイバーを介して培養液を組織内部にまで送ることにより、厚みのある細胞培養体や組織も長時間灌流培養することができる。
また、本発明のバクテリアセルロースファイバーを利用して、紐状、布状、網状構造等を形成することもでき、各種の製品に利用可能である。
本発明に係る多孔性バクテリアセルロースファイバーの製造方法は、チューブ状のハイドロゲル内でセルロース産生菌を培養する工程と、ハイドロゲルを除去する工程とを含む。
なお、セルロース産生菌は、セルロースを産生する限り特に限定されず、天然の菌であっても遺伝子組換え菌であってもよい。遺伝子組換え菌としては、例えば、所望の機能性タンパク質(例えば蛍光タンパク質)を発現するように改変した菌が挙げられる。このような遺伝子組換え菌を用いれば、機能性タンパク質で修飾されたバクテリアセルロースファイバーを得ることができる。
ハイドロゲルとしては、親水性高分子鎖間が架橋されて多量の水を保持し、吸収性に優れる材料であればよく、例えばアルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドンを材料とするポリマーが挙げられる。また、ゼラチン、コラーゲン、ジェランガム、カラギーナン、キトサン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、アグリカン等を用いてもよい。
チューブ状のハイドロゲルの外径、内径及び長さは、製造しようとするBCファイバーの直径及び長さに応じて適宜決定することができるが、例えば、200−500μmとすることができる。
当該装置は、3層のガラスチューブを有し、内側から、コアフロー、シェルフロー、及びシース(sheath)フローを供給する。例えば、コアフロー用チューブからセルロース産生菌懸濁液を、シェルフロー用チューブからアルギン酸ナトリウムを、シースフロー用チューブから塩化カルシウムを流出させると、アルギン酸ナトリウムの外面が塩化カルシウムと接触してゲル化し、ハイドロゲルチューブが形成される。ハイドロゲルチューブの内部では流動性が維持され、セルロース産生菌が自由に動いて増殖し、バクテリアセルロースが複雑に絡んだ構造(セルロースネットワーク)を形成する。この装置を用いれば、各フローの流速を調節することにより、ハイドロゲルチューブの外径及び内径を調節することができる。
ハイドロゲルはセルロース産生菌のための培養液を浸透させることができるので、ハイドロゲルチューブ内の菌は、ハイドロゲルチューブごと培養液に浸漬させることにより培養することができる。
培養液は、セルロース産生菌の種類に応じて、選択すればよい。
培養工程においては、セルロース産生菌が流出しないよう、ハイドロゲルチューブの両端は閉じておいてもよい。
また、培養工程においては、セルロース産生菌を他の物質を産生する菌と共培養してもよい。この方法によって当該他の物質が混入したバクテリアセルロースファイバーを得ることができる。
培養時間が長すぎると、BCセルロースの孔径が小さくなって細胞培養に適さなくなり、培養時間が短すぎると、十分にセルロースネットワークが形成されず、機械強度が不足する傾向がある。
本発明に係る多孔性バクテリアセルロースファイバーの一態様は、バクテリアが産生するセルロースネットワークによって形成された繊維状の多孔性バクテリアセルロースであり、その直径は50μmから300μmであって、平均孔径は5μmから15μmである。
直径は、直径は80μmから250μm、100μmから200μm等であってもよい。また、平均孔径は、8μm以上12μm以下、約10μm等であってもよい。長さは特に限定されず、ミリメートル単位からメートル単位まで、当業者が適宜決定選択することができる。
このように径が細く、多孔質で細胞をその表面で培養するのに適したバクテリアセルロースファイバーはこれまでになく、上述したハイドロゲルチューブを用いる方法によって、初めて作製できたものである。
多孔性バクテリアセルロースファイバーは、分岐していてもよく、また途中で径が変化してもよい。また、多孔性バクテリアセルロースファイバーを、紐状、ネット状、シート状等に編むこともでき、かかる構造も本発明に包含される。シート状に編んだものは、例えばろ紙として用いることが可能である。
本発明は、多孔性バクテリアセルロースファイバーを内包したハイドロゲルチューブも包含する。かかる構成は、本発明に係る多孔性バクテリアセルロースファイバーの製造方法の工程の途中で得られるものである。多孔性バクテリアセルロースファイバーは、ハイドロゲルチューブを除いた後も形状を維持し、十分な機械強度を有するが、ハイドロゲルチューブをつけたまま流通させ、使用者においてハイドロゲルチューブを除去してもよい。
本発明に係る多孔性バクテリアセルロースファイバーは、後述する実施例にも示されるとおり、細胞を播種すると、その表面に細胞がよく接着して増殖し、短時間でファイバー表面を覆って管状の細胞培養体を得ることができる。その後、多孔性バクテリアセルロースファイバーをセルラーゼで分解することにより、管状の細胞培養体のみとすることができ、例えば血管として移植したり、血管モデルとして実験に用いたりすることが可能である。
播種する細胞の種類は特に限定されず、得られた管状の細胞培養体の用途により、当業者が適宜選択することができる。例えば、血管として用いる場合には、血管内皮細胞(例えば、HUVEC、HUAEC、HAoEC、HPAEC、HCAEC、HMVEC、HLEC、HMEC-1、bEND.3、HUV-EC-C、MS1、EOMA、CPAE)を用いることができる。その他、平滑筋細胞を用いてもよい。また、胚性幹細胞や、本人に由来する多能性幹細胞等の幹細胞を適宜分化させた細胞を用いてもよい。
管状の細胞培養体を形成するためには、例えば、適当な長さの多孔性バクテリアセルロースファイバーの両端を固相に固定して、セルロースファイバーが直線形状を維持するようにしてもよい。
三次元細胞培養体や組織の灌流培養においては、培養液が到達しない内部から細胞が死滅していくことが問題となるが、本発明に係る多孔性バクテリアセルロースファイバーは、厚みのある三次元細胞培養体や組織の灌流培養において、その内部まで培養液を到達させるための流路として用いることもできる。
例えば、細胞を培養する場合に培養容器に予め多孔性バクテリアセルロースファイバーを配置し、これに細胞を加えて培養する。これにより、中に多孔性バクテリアセルロースファイバーが包埋された細胞培養体を得ることができる。多孔性バクテリアセルロースファイバーはスポンジ状で液体を良く通す構造であるから、全体を培養液に浸すことにより、細胞培養体の内部までこれを通じて培養液を送ることができる。また、ポンプ等を用いて、ファイバーで積極的に送液してもよい。
なお、細胞又は組織中に多孔性バクテリアセルロースファイバーを配置して培養する工程と、多孔性バクテリアセルロースファイバーを介して細胞培養体又は組織中に培養液を灌流させる工程は同時に行ってもよい。
細胞の種類は特に限定されず、ヒト肝臓がん細胞、肝芽腫細胞、肝細胞癌細胞、ラットへパトーマ細胞、ヒト腎臓由来細胞、ラット腎臓由来細胞、マウス足細胞、ヒト腎細胞癌細胞、表皮由来細胞、メラノーマ由来細胞、その他各種肝細胞を適宜分化させた細胞等を用いることができる。
また、生体から摘出した組織の内部に多孔性バクテリアセルロースを配置し、同様に灌流培養を行うことも可能である。
前記ハイドロゲルを除去する工程と、を含むセルロースファイバーの製造方法も包含する。
セルロース産生細胞は、特に限定されないが、例えば、各種の植物細胞が挙げられる。ハイドロゲルチューブごと植物細胞を培養することにより、セルロースファイバーを得ることができる。
前記ハイドロゲルを除去する工程と、を含むマイクロファイバーの製造方法も包含する。
繊維状高分子を産生する菌は、特に限定されないが、例えば、ポリグルタミン酸を産生する納豆菌が挙げられる。
コアフローとしてA. xylinumの懸濁液、シェルフローとして1.5wt%アルギン酸ナトリウム、シースフローとして100mM塩化カルシウムを装置から流出させた。なお、菌の懸濁液は、既存のセルロースを除去するために、液体培養の培養物を激しく撹拌して菌体をバクテリアセルロースの外に出し、40μmのフィルターでセルロースを除去し、遠心処理によって菌体を沈殿させた後、再度懸濁して5μmのフィルターでろ過したものを用いた。
アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムが接触することによってアルギン酸がゲル化して、ハイドロゲルチューブが形成された。
また、最初と最後にアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムのみ流すことにより、チューブの両端を閉じて、菌が流出しないようにした。
この状態の位相差画像を図1Bに示す。外側にアルギン酸ゲルが形成されている。中心の白い点はA. xylinumである(スケールバーは200μm)。この状態の写真を図1Cに示す(スケールバーは3.5mm)。
ハイドロゲルチューブ形成直後の位相差画像を図2B及びCに、24時間後の画像を図2D及びEに示す。24時間後、ハイドロゲルチューブ内にはセルロースが絡み合ったセルロースネットワークが形成され、菌がセルロースとタンパク質の中に埋まったような構造が得られた。
アルギン酸ゲル除去後、Anandaらの方法(Ananda P. et al. Polymer Journal, Vol. 40, pp. 137-142, 2008.)に従って、バクテリアセルロースファイバーは1M NaOH中で加熱し、残存するタンパク質と菌を除去した。加熱処理後、顕微鏡により、メッシュ様構造が観察された(図3C、D)。
X線回折により、得られたファイバーがバクテリアセルロースに特徴的な3つのピーク(2θ=14.5、16.6、及び22.5)を示すことを確認し、バクテリアセルロースであることを確認した(図4)。
Claims (10)
- チューブ状のハイドロゲル内でセルロース産生菌を培養する工程と、
前記ハイドロゲルを除去する工程と、を含む多孔性バクテリアセルロースファイバーの製造方法。 - 前記セルロース産生菌が、酢酸菌である、請求項1に記載の方法。
- 前記ハイドロゲルが、アルギン酸ゲルである、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記培養工程は、12時間から48時間行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
- 多孔性バクテリアセルロースファイバーの直径が50μmから300μmである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
- 前記バクテリアセルロースファイバーの平均孔径が5μmから15μmである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
- 管状の細胞培養体を形成する方法であって、
直径が50μmから300μmであり、平均孔径が5μmから15μmである多孔性バクテリアセルロースファイバーに細胞を播種する工程と、
前記細胞が前記多孔性バクテリアセルロースファイバーを覆うまで培養する工程と、を含む方法。 - 管状の細胞培養体を形成する方法であって:
チューブ状のハイドロゲル内でセルロース産生菌を培養する工程と、前記ハイドロゲルを除去する工程と、を含む方法により多孔性バクテリアセルロースファイバーを得る工程と;
得られた多孔性バクテリアセルロースファイバーに細胞を播種する工程と;
前記細胞が前記多孔性バクテリアセルロースファイバーを覆うまで培養する工程と;を含む方法。 - さらに、多孔性バクテリアセルロースファイバーをセルラーゼで分解する工程を含む、請求項7又は8に記載の方法。
- 直径が50μmから300μmであり、平均孔径が5μmから15μmである多孔性バクテリアセルロースファイバーを内包したハイドロゲルチューブ。
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