以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る配電系統復旧装置の構成図、図2は本発明の第1実施形態で系統構成の変更を行う配電系統の一例を示す系統図である。
図2に示す配電系統では、AB配電線11a、CD配電線11b、EF配電線11c、GH配電線11dの4つの配電線から構成されている。そして、AB配電線11aとCD配電線11bとは区分開閉器12aで接続され、AB配電線11aとEF配電線11cとは区分開閉器12bで接続され、AB配電線11aとGH配電線11dとは区分開閉器12cで接続されている。区分開閉器12a〜12cは常時は開放している。そして、配電用変電所の変圧器13a〜13dには、一般に、複数の配電線11が接続されるが、図2では、説明を簡単にするため、それぞれ一つの配電線11が接続された場合を示している。
AB配電線11aには、配電用変電所の変圧器13aから遮断器14a及び区分開閉器15a1を介して電力が供給される。AB配電線11aの第1区間の負荷が消費する負荷電流は40A、第2区間の負荷が消費する負荷電流は35A、第3区間の負荷が消費する負荷電流は70A、第4区間の負荷が消費する負荷電流は35A、第5区間の負荷が消費する負荷電流は20Aであり、AB配電線11aの第1区間と第2区間との間には区分開閉器15a2、AB配電線11aの第2区間と第3区間との間には区分開閉器15a3、AB配電線11aの第3区間と第4区間との間には区分開閉器15a4、AB配電線11aの第4区間と第5区間との間には区分開閉器15a5が接続されている。遮断器14a及び区分開閉器15a1〜15a5は常時は投入されている。
CD配電線11bには、配電用変電所の変圧器13bから遮断器14b及び区分開閉器15b1を介して電力が供給される。CD配電線11bの第1区間の負荷が消費する負荷電流は40A、第2区間の負荷が消費する負荷電流は10Aであり、CD配電線11bの第1区間と第2区間との間には区分開閉器15b2が接続され、遮断器14b及び区分開閉器15b1、15bは常時は投入されている。
EF配電線11cには、配電用変電所の変圧器13cから遮断器14c及び区分開閉器15c1を介して電力が供給される。EF配電線11cの第1区間の負荷が消費する負荷電流は40A、第2区間の負荷が消費する負荷電流は35A、第3区間の負荷が消費する負荷電流は70A、第4区間の負荷が消費する負荷電流は35A、第5区間の負荷が消費する負荷電流は20Aであり、EF配電線11cの第1区間と第2区間との間には区分開閉器15c2、EF配電線11cの第2区間と第3区間との間には区分開閉器15c3、EF配電線11cの第3区間と第4区間との間には区分開閉器15c4、EF配電線11cの第4区間と第5区間との間には区分開閉器15c5が接続されている。遮断器14c及び区分開閉器15c1〜15c5は常時は投入されている。
GH配電線11dには、配電用変電所の変圧器13dから遮断器14d及び区分開閉器15d1を介して電力が供給される。GH配電線11dの第1区間の負荷が消費する負荷電流は100Aであり、遮断器14d及び区分開閉器15d1は常時は投入されている。
図2に示す配電系統では、事故時や点検時などでない常時においては、区分開閉器12a〜12cが開放していることから、AB配電線11a〜GH配電線11dは、それぞれ配電用変電所の変圧器13a〜13dから電力の供給を受けて負荷に電力を送電している。このような配電系統において、事故時や点検時など配電系統の電力融通の変更をしなければならない状態となったとき、本発明の配電系統復旧装置により配電系統の系統構成を変更し送電復旧することになる。
いま、事故時や点検時など配電系統の電力融通の変更をしなければならない状態となったとすると、図1に示すように、その電力融通の変更指令は、配電系統復旧装置の系統構成変更対象配電線判定手段16に入力される。以下、配電系統の電力融通の変更をしなければならない状態として、配電系統に事故が発生した場合を例に取り説明する。
系統構成変更対象配電線判定手段16は、電力融通の変更指令(事故発生)を入力すると、電力融通の変更に伴い系統構成の変更対象となる配電線を特定する。事故の発生は、図示省略の保護継電装置で検出され、事故発生した配電線11の遮断器14を開放するので、系統構成変更対象配電線判定手段16は、遮断器14が開放された配電線11を系統構成の変更対象となる配電線11であると特定する。
次に、隣接系統判定手段17は、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線に配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるかどうかを判定し、除外区間があるときは、その除外区間を除く負荷側区間に隣接系統があるか否かを判定する。
除外区間の判定は、故障発生した配電線11のいずれの箇所で事故が発生したかを区分開閉器15で判定する。例えば、遮断器14が開放された事故発生の配電線11の区分開閉器15をすべて開放とし、その後に、事故発生の配電線11の遮断器14を再投入する。これにて再度事故発生となったときは電源供給元(配電線引き出し点の遮断器14と直近の区分開閉器15との間)で事故が発生したことが分かる。この場合は、配電線11には除外区間がないことになる。
また、事故発生の配電線11の遮断器14を再投入しても事故発生とならないときは、電源(変圧器13)側の区分開閉器15を順次投入していく。これにて、再度事故発生となったときは、投入した区分開閉器15の電源側とは反対に位置する負荷側(下流側)の区分開閉器との間の区間で事故が発生していることが分かる。このようにして区分開閉器15や次世代の配電自動化システムなどで得られた事故点を含む区間が事故時の除外区間である。次世代の配電自動化システムとは一般的に、情報の共有化によって複数の系統情報を総括して管理し、従来の監視制御だけではく、電圧制御、事故復旧、系統計画支援、自動検針、負荷制御などの複数機能を組み合わせたものを指す。
隣接系統判定手段17は、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線に、区分開閉器15で判定された除外区間(事故区間)があるかどうかを判定し、除外区間があるときは、さらに、その除外区間を除く負荷側区間(下流側区間)に隣接系統があるか否かを判定する。
一方、隣接系統判定手段17は、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線に、除外区間がないと判定したときは、さらに、変更対象配電線に隣接系統があるか否かを判定する。そして、事故が継続している除外区間がありその除外区間を除く負荷側区間(下流側区間)に隣接系統がない場合、また、除外区間がなく変更対象配電線に隣接系統がないような電力融通の変更を行わない場合には処理を終了する。これは、変更対象配電線に隣接系統がないことから隣接系統からの電力の融通を受けることができないからである。
さらに、隣接系統判定手段17は、除外区間がありその除外区間を除く負荷側区間(下流側区間)に隣接系統がある場合、また、事故が継続しているものの負荷を有する除外区間がなく変更対象配電線に隣接系統がある場合には、その隣接系統が複数であるかどうかを判定し、一つの隣接系統しかないときは、送電復旧手段18を起動する。送電復旧手段18は、その一つの隣接系統から系統構成変更対象配電線の当該負荷側区間に送電復旧する。
次に、隣接系統判定手段17は、複数の隣接系統があると判定したときは、配電復旧パターン作成手段19を起動する。配電復旧パターン作成手段19は、複数の隣接系統のいずれの隣接系統から変更対象配電線に配電可能かを示す配電復旧パターンを作成し、配電復旧パターン決定手段20に出力する。配電復旧パターンについては後述する。
配電復旧パターン決定手段20は、配電復旧パターン作成手段19で作成された配電復旧パターンのうち、変更対象配電線の復旧後の配電系統全体の電圧分布均一化評価及び電圧維持評価が許容範囲内で送電損失評価が最も高い配電復旧パターンを決定するものであり、送電損失評価手段21、電圧分布均一化評価手段22、電圧維持評価手段23を有している。
また、記憶装置24には、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26が記憶されている。配電系統データベース25は、配電系統の各配電線における各区間、各区間のインピーダンス、各区間の負荷が消費する負荷電流、各区間の基準電圧が予め記憶されている。入力電気量データベース26には、各区分開閉器15ごとに設置された電流検出器27及び電圧検出器28で計測された電流や電圧をデータ入力手段29により所定周期(計測時間間隔)で入力した時系列データが記憶されている。
送電損失評価手段21、電圧分布均一化評価手段22、電圧維持評価手段23は、復旧パターンごとに配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを用いて系統シミュレーションを行い、送電損失、電圧分布均一化、電圧維持の評価を行う。
まず、送電損失評価手段21は、変更対象配電線の復旧後の配電系統全体の送電損失を評価するものであり、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、
配電復旧パターン作成手段19で作成された配電復旧パターンごとに(1)式に基づいて変更対象配電線の復旧前後における配電系統全体の総送電損失の差分ΔPを算出し、総送電損失の差分ΔPの小さい順に配電復旧パターンを配列して、送電損失を評価する。
ΔPは、各配電復旧パターンでの変更対象配電線の復旧前後における、配電用変電所の変圧器を含めた配電系統全体の総送電損失の差分であり、ΔPiは、配電復旧パターンで系統構成変更となった各配電線の送電損失であり、Nは、変更対象配電線を含めて送電復旧に使用した配電線数である。配電用変電所の変圧器は配電系統に比べて比較的大きなインピーダンスを有し、有効無効電力潮流に対する送電損失や電圧値の変動の影響が大きくなるため、総送電損失の計算には配電用変電所の変圧器を考慮する必要がある。
まず、送電損失評価手段21は、各配電復旧パターンごとに、復旧前後における各配電線の送電損失の差分ΔPiを求める。復旧前後における各配電線の送電損失の差分ΔPiは、事故直前の配電線の送電損失と、配電復旧パターンで復旧した直後の配電線の送電損失との差分である。
事故直前の各配電線の送電損失は、事故直前の各配電線の電流とインピーダンスの抵抗分とから求められる。同様に、配電復旧パターンで復旧したときの各配電線の送電損失は、復旧直後の配電線の電圧や電流などの電気量と、各配電線のインピーダンスの抵抗分とから求められる。復旧直後の配電線の電流は、配電復旧パターンごとの系統構成により異なることになる。これは、系統構成の変更により電源供給元の変圧器が異なる場合があり、また、電源供給元の変圧器から供給する区間範囲が変更となる場合があるからである。
そして、(1)式により、各配電線の復旧前後における送電損失の差分ΔPiの和を求め、各配電復旧パターンでの変更対象配電線の復旧前後における配電系統全体の送電損失の差分ΔPとする。さらに、(1)式で求めた配電復旧パターンごとの配電線全体の総送電損失の差分ΔPを比較し、配電線全体の総送電損失の差分ΔPの小さい順に配電復旧パターンを配列する。これにより、総送電損失の差分ΔPが最も小さい配電復旧パターンが最上位に配列され、総送電損失の差分ΔPが最も大きい配電復旧パターンが最下位に配列される。
次に、電圧分布均一化評価手段22は、変更対象配電線の復旧後の配電系統における電圧分布均一化を評価するものであり、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、送電損失評価手段21で作成された総送電損失の差分ΔPの小さい順に配列された各配電復旧パターンごとに、(2)式に基づいて、変更対象配電線の復旧後における配電線の電圧分布均一化指標ΔVを求め、電圧分布均一化指標ΔVが許容範囲内であるかどうかで電圧分布均一化を評価し、電圧分布均一化指標が許容範囲外の配電復旧パターンを最下位に再配列する。
ΔVは、各配電復旧パターンでの変更対象配電線の復旧後における電圧分布均一化指標であり、電圧差分ΔViは、各配電復旧パターンでの配電系統の各区間iの復旧前後における電圧差分であり、事故発生前の各区間iの電圧(計測値)と復旧後の各区間iの電圧(計算値)との電圧差分、または事故発生前の各区間iの基準電圧と復旧後の各区間iの電圧(計算値)との電圧差分である。また、Mは区間数である。
まず、電圧分布均一化評価手段22は、各配電復旧パターンごとに、各区間iの復旧前後における電圧差分ΔViを求める。常時の各区間iの電圧(計測値)は入力電気量データベース26に記憶されており、また、基準電圧は配電系統データベース25に予め記憶されている。配電復旧パターンで復旧したときの各区間iの電圧は、配電復旧パターンで復旧したときの電源電圧、電源からの何番目の区間となったかの情報、各区間iの負荷が消費する負荷電流、各区間iのインピーダンスの抵抗分などから求められる。
そして、(2)式により、配電復旧パターンごとに配電線の電圧分布均一化指標ΔVを求める。電圧分布均一化指標ΔVは、各区間iの復旧前後における電圧差分ΔViの自乗ΔVi2の和を区間数Mで除算した平方根として求められる。(2)式で求めた配電復旧パターンごとの配電線の電圧分布均一化指標ΔVは、許容範囲内であるかどうかが判定され、許容範囲外であるときは、その配電復旧パターンは最下位に再配列される。これにより、総送電損失の差分ΔPが小さくても電圧分布均一化の許容範囲外の配電復旧パターンは下位に配列される。従って、総送電損失の差分ΔPが小さく、しかも、電圧分布均一化が許容範囲内である配電復旧パターンが上位に配列される。
次に、電圧維持評価手段23は、変更対象配電線の復旧後の配電線の電圧維持を評価するものであり、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、電圧分布均一化評価手段22で得られた電圧分布均一化が許容範囲内で上位に配列された配電復旧パターンごとに、配電線の電圧維持を評価する。配電線の電圧維持評価は、系統構成変更後の配電線における需要家側の受電電圧が「電気設備の技術基準(電技)」上の適正電圧値幅を逸脱しているかどうかで評価する。そして、配電線における需要家側の受電電圧が適正電圧値幅を逸脱している配電復旧パターンを最下位に再配列する。これにより、総送電損失の差分ΔPが小さく、電圧分布均一化の許容範囲内の配電復旧パターンであっても、変更対象配電線における需要家側の受電電圧が適正電圧値幅を逸脱している配電復旧パターンは下位に再配列される。従って、総送電損失の差分ΔPが小さく、電圧分布均一化が許容範囲内であり、しかも、電圧維持が図れている配電復旧パターンが上位に配列される。
このように、配電復旧パターン決定手段20は、送電損失評価手段21により送電損失評価を行い、電圧分布均一化評価手段22により電圧分布均一化評価を行い、電圧維持評価手段23により電圧維持評価を行い、送電損失評価が高くても電圧分布均一化評価が低いものは低い評価とし、送電損失評価が高く電圧分布均一化評価が高くても電圧維持評価が低いものは低い評価とするので、結果として、変更対象配電線の電圧分布均一化評価及び電圧維持評価が許容範囲内で送電損失評価が最も高い配電復旧パターンを決定することになる。
配電復旧パターン決定手段20で決定された配電復旧パターンは送電復旧手段18に入力される。送電復旧手段18は、配電復旧パターン決定手段20で決定された配電復旧パターンにて変更対象配電線に送電復旧する。すなわち、区分開閉器12、15の投入や開放により、配電復旧パターン決定手段20で決定された配電復旧パターンの系統構成になるように系統構成を変更する。
次に、本発明の第1実施形態に係る配電系統復旧装置の動作について説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係る配電系統復旧装置の動作を示すフローチャートである。いま、事故時や点検時などで常時の系統構成を変更し、配電系統の電力融通の変更をしなければならない状態となったとすると、そのような電力融通の変更指令は配電系統復旧装置の系統構成変更対象配電線判定手段16に入力される。
系統構成変更対象配電線判定手段16は、電力融通の変更指令が入力されると、電力融通の変更対象配電線を特定する(S1)。変更対象配電線の特定は、前述したように、遮断器14が開放された配電線11を系統構成の変更対象となる配電線11であると特定する。
いま、常時において、図2に示す配電系統で各々の配電線11a〜11dに送電が行われていたとし、図4に示すように、CD配電線11bの第2区間で事故(×印)が発生したとする。この場合、遮断器14bが開放し、CD配電線11bのすべての区分開閉器15b1、15b2が開放する。系統構成変更対象配電線判定手段16は、遮断器14bが開放したことにより、CD配電線11bが系統構成の変更対象となる配電線11であると判定する。
隣接系統判定手段17は、配電系統データベース25から、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線であるCD配電線11bが第1区間と第2区間とを有することを認識し、配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるかどうかを判定する(S2)。この判定は、区分開閉器15により除外された区間があるかどうかで判定できる。
すなわち、CD配電線11bの遮断器14bが開放すると一定時間後に、遮断器14bが再投入され、区分開閉器15により順次、CD配電線11bの区分開閉器15b1、15b2が投入される。遮断器14bが再投入された状態では、CD配電線11bの第2区間で事故が発生、継続しており、CD配電線11bの区分開閉器15b1、15b2が開放しているので、事故は再度発生しない。次に、CD配電線11bの区分開閉器15b1が再度投入されると、この場合も、事故は再度発生しない。さらに、区分開閉器15b2が再度投入されると、CD配電線11bの第2区間で事故点に故障電流が流れるので事故が再度発生する。これにより、再度遮断器14bが開放される。この状態で、CD配電線11bの第2区間で事故が発生したと判定される。
そこで、事故箇所を捜査した結果、区分開閉器15b1は投入、区分開閉器15b2は開放となり、再度再度遮断器14bが投入される。これにより、CD配電線11bの第2区間が事故区間として除外される。
隣接系統判定手段17は、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線に配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるときは、変更対象配電線の除外区間を除く電源側区間が送電復旧されたことを確認する(S3)。図4の場合には、除外区間である第2区間を除く電源側区間である第1区間が送電復旧されたことを確認する。
そして、隣接系統判定手段17は、変更対象配電線の除外区間を除く負荷側区間に隣接系統があるかどうかを判定する(S4)。図4の場合には、除外区間である第2区間を除く負荷側区間には隣接系統がないので、配電系統復旧装置は処理を終了する。これにより、変更対象配電線であるCD配電線11bは、除外区間(第2区間)が除外された状態で送電復旧する。図4はこの状態を示しており、黒の塗り潰しの区分開閉器15b2は開放された状態を示している。
次に、常時において、図2に示す配電系統で各々の配電線11a〜11dに送電が行われていたとし、図5に示すように、AB配電線11aの第3区間で事故(×印)が発生した場合の動作について図3を参照して説明する。AB配電線11aの第3区間で事故が発生したとすると、遮断器14aが開放し、AB配電線11aのすべての区分開閉器15a1〜15a5が開放する。系統構成変更対象配電線判定手段16は、遮断器14aが開放したことにより、AB配電線11aが系統構成の変更対象となる配電線11であると判定する(S1)。
そして、隣接系統判定手段17は、配電系統データベース25から、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線であるAB配電線11aが第1区間〜第5区間を有することを認識し、AB配電線11aに配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるかどうかを判定する(S2)。この判定は、区分開閉器15により除外された区間があるかどうかで判定される。
AB配電線11aの遮断器14aが開放すると一定時間後に、遮断器14aが再投入され、区分開閉器15により順次、AB配電線11aの区分開閉器15a1〜15a5が投入され、事故区間が捜査されることになる。すなわち、区分開閉器15a1、15a2が投入されても事故は再度発生しないが、区分開閉器15a3が再度投入されると、AB配電線11aの第3区間の事故点に故障電流が流れるので事故が再度発生する。これにより、再度遮断器14aが開放される。この状態で、AB配電線11aの第3区間で事故が発生したと判定される。
そこで、事故箇所を捜査した結果、区分開閉器15a1、15a2、15a5は投入、区分開閉器15a3、15a4は開放となり、再度再度遮断器14aが投入される。これにより、AB配電線11aの第3区間が事故区間として除外され、AB配電線11aの電源側の第1区間及び第2区間は送電復旧される。
隣接系統判定手段17は、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線に配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるときは、変更対象配電線の除外区間を除く電源側区間が送電復旧されたことを確認する(S3)。図5の場合には、除外区間である第3区間を除く電源側区間である第1区間及び第2区間が送電復旧されたことを確認する。
そして、隣接系統判定手段17は、変更対象配電線の除外区間を除く負荷側区間に隣接系統があるかどうかを判定する(S4)。図5の場合には、除外区間である第3区間を除く負荷側区間(第4区間及び第5区間)の第5区間に隣接系統がある。次に、その隣接系統は一つかどうかを判定する(S5)。除外区間である第3区間を除く負荷側区間である第5区間の隣接系統はGH配電線11dの一つである。隣接系統判定手段17は、隣接系統が一つであると判定したときは送電復旧手段を18を起動し、送電復旧手段18は、当該隣接系統から送電復旧する(S6)。つまり、送電復旧手段18は、区分開閉器12cを投入し、隣接系統であるGH配電線11dから、AB配電線11aの除外区間である第3区間を除く負荷側区間(第4区間及び第5区間)に送電を行う。
これにより、変更対象配電線であるAB配電線11aは、除外区間(第3区間)が除外された状態で、AB配電線11aの電源側区間である第1区間及び第2区間はAB配電線11aから送電復旧され、負荷側区間(第4区間及び第5区間)はGH配電線11dから送電復旧される。図5はこの状態を示しており、黒の塗り潰しの区分開閉器15a3、15a4は開放された状態を示し、丸印の区分開閉器12cは投入された状態を示している。
次に、常時において、図2に示す配電系統で各々の配電線11a〜11dに送電が行われていたとし、図6に示すように、AB配電線11aの電源供給元で事故(×印)が発生した場合の動作について図3を参照して説明する。
AB配電線11aの電源供給元で事故が発生したとすると、遮断器14aが開放し、AB配電線11aのすべての区分開閉器15a1〜15a5が開放する。系統構成変更対象配電線判定手段16は、遮断器14aが開放したことにより、AB配電線11aが系統構成の変更対象となる配電線11であると判定する(S1)。
そして、隣接系統判定手段17は、配電系統データベース25から、系統構成変更対象配電線判定手段16で特定された変更対象配電線であるAB配電線11aが第1区間〜第5区間を有することを認識し、AB配電線11aに配電系統から除外する除外区間(事故区間)があるかどうかを判定する(S2)。この判定は、区分開閉器15により除外された区間があるかどうかで判定される。
AB配電線11aの遮断器14aが開放すると一定時間後に、遮断器14aが再投入され、区分開閉器15により順次、AB配電線11aの区分開閉器15a1〜15a5が投入され、事故区間が捜査されることになる。すなわち、遮断器14aが再投入されると、電源供給元の事故点に故障電流が流れるので事故が再度発生する。これにより、再度遮断器14aが開放される。従って、区分開閉器15が事故箇所として除外した除外区間はない。
次に、隣接系統判定手段17は、変更対象配電線のAB配電線11aには除外区間がないので、変更対象配電線のAB配電線11aに隣接系統があるかどうかを判定する(S7)。図6の場合には、AB配電線11aの第1区間にはEF配電線11c、AB配電線11aの第2区間にはCD配電線11b、AB配電線11aの第5区間にはGH配電線11dに隣接系統がある。次に、その隣接系統は一つかどうかを判定する(S5)。
変更対象配電線のAB配電線11aには複数(三つ)の隣接系統がある。隣接系統判定手段17は、隣接系統が複数であると判定したときは、配電復旧パターン作成手段19を起動する。配電復旧パターン作成手段19は、起動が掛けられると変更対象配電線への配電復旧パターンを作成する(S8)。
図7は、配電復旧パターン作成手段19で作成された配電復旧パターンの一例を示す説明図である。図7に示すように、変更対象配電線のAB配電線11aの電源元で発生した事故に対し、系統構成を変更する配電復旧パターンとしては、ケースA〜ケースJの10通りのケースがある。
ケースAはAB配電線11aのすべての区間に対しCD配電線11bから送電復旧するケース、ケースBはAB配電線11aのすべての区間に対しEF配電線11cから送電復旧するケース、ケースCはAB配電線11aのすべての区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケースである。また、ケースDはAB配電線11aの第1区間及び第2区間に対しCD配電線11bから送電復旧し、AB配電線11aの第3区間〜第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケース、ケースEはAB配電線11aの第1区間〜第3区間に対しCD配電線11bから送電復旧し、AB配電線11aの第4区間及び第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケース、ケースFはAB配電線11aの第1区間〜第4区間に対しCD配電線11bから送電復旧し、AB配電線11aの第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケースである。
また、ケースGはAB配電線11aの第1区間に対しEF配電線11cから送電復旧し、AB配電線11aの第2区間及び第3区間に対しCD配電線11bから送電復旧し、AB配電線11aの第4区間及び第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケース、ケースHはAB配電線11aの第1区間に対しEF配電線11cから送電復旧し、AB配電線11aの第2区間〜第4区間に対しCD配電線11bから送電復旧し、AB配電線11aの第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケース、ケースIはAB配電線11aの第1区間〜第3区間に対しEF配電線11cから送電復旧し、AB配電線11aの第4区間及び第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケース、ケースJはAB配電線11aの第1区間及び第2区間に対しEF配電線11cから送電復旧し、AB配電線11aの第3区間〜第5区間に対しGH配電線11dから送電復旧するケースである。
このように、送電復旧前後において、系統構成の変更により電源供給元の変圧器が異なり、また、電源供給元の変圧器から供給する区間範囲が変更となる。さらに、配電線の数も変更となる場合がある。例えば、ケースA〜Jの場合、変圧器13aからAB配電線11aへの電源供給はなくなり、AB配電線11aの各区間への電源供給は、CD配電線11bの変圧器13b、EF配電線11cの変圧器13c、GH配電線11dの変圧器13dから行われることになるので、配電線の数が1個減少することになる。
また、ケースA〜Cの場合は、AB配電線11aへの電源供給はCD配電線11bの変圧器13b、EF配電線11cの変圧器13c、GH配電線11dの変圧器13dのいずれか一つから行われ、ケースD〜Fの場合は、AB配電線11aへの電源供給はCD配電線11bの変圧器13bとGH配電線11dの変圧器13dとの二つから行われる。さらに、ケースG、Hの場合は、AB配電線11aへの電源供給はCD配電線11bの変圧器13b、EF配電線11cの変圧器13c、GH配電線11dの変圧器13dの三つから行われ、ケースI、Jの場合は、AB配電線11aへの電源供給はEF配電線11cの変圧器13cとGH配電線11dの変圧器13dとの二つから行われる。
配電復旧パターン作成手段19で作成された配電復旧パターンは配電復旧パターン決定手段20の送電損失評価手段21に入力される。配電復旧パターン決定手段20の送電損失評価手段21は、各配電復旧パターンでの配電系統全体の電力損失を評価し、電力損失が小さい順に配列する(S9)。
すなわち、送電損失評価手段21は、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、配電復旧パターン作成手段19で作成された配電復旧パターンごとに(1)式に基づいて変更対象配電線の復旧前後における配電系統全体の総送電損失の差分ΔPを算出し、図8に示すように、総送電損失の差分ΔPの小さい順に配電復旧パターンを配列する。送電損失評価手段21で作成された総送電損失の差分ΔPの小さい順の配電復旧パターンは電圧分布均一化評価手段22に入力される。
電圧分布均一化評価手段22は、送電損失評価手段21で順序づけられた各配電復旧パターンの電圧分布均一化を評価し、電圧分布均一化許容外の配電復旧パターンを最下位に配列する(S10)。すなわち、電圧分布均一化評価手段22は、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、配電復旧パターンごとに、(2)式に基づいて、変更対象配電線の復旧後における配電線の電圧分布均一化指標ΔVを求め、電圧分布均一化指標ΔVが許容範囲内であるかどうかで電圧分布均一化を評価し、図9に示すように、電圧分布均一化指標が許容範囲外の配電復旧パターンを最下位に再配列する。
また、電圧維持評価手段23は、電圧分布均一化評価手段22で順序づけられた各配電復旧パターンの電圧を評価し、電圧許容外の配電復旧パターンを最下位に再配列する(S11)。電圧維持評価手段23は、配電系統データベース25及び入力電気量データベース26のデータを入力し、電圧分布均一化評価手段22で電圧分布均一化が許容範囲内である上位に配列された配電復旧パターンごとに、配電線の電圧維持を評価する。変更対象配電線の電圧維持の評価は、配電線の需要家端での末端電圧が適正電圧下限値を逸脱しているかどうかで評価する。
図10は、送電復旧後の配電線における需要家側の受電電圧分布の一例を示す電圧分布図である。縦軸は需要家側の受電電圧、横軸は電源供給元からの配電線の距離である。配電線における需要家側の受電電圧が、公称100Vである場合には、電技上の適正電圧上限値V1(=107V)以下且つ電技上の適正電圧下限値V2(=95V)以上であれば電技上の適正電圧値幅ΔVaを満たすことになるが、一般的には配電用変電所の電圧調整制御装置における電圧不感帯や安全幅(マージン)を考慮して電技上の適正電圧値幅ΔVaの内数に管理すべき適正電圧下限値V2’と適正電圧上限値V1’を設定する。通常、配電線の電圧は電源端で高く電源端から距離の遠い末端で電圧が低くなるが、配電線に太陽光発電設備や風力発電設備などの分散電源が接続されている場合、特に、一斉に分散電源が停止をするような事故時に系統構成が変更され、配電線の送電復旧がされた場合には、この関係が崩れる場合がある。
ここでは、需要家側の受電電圧における基準電圧Vrを101V、制御系の電圧不感帯1%及び安全裕度(マージン)1.0Vと設定して、管理すべき適正電圧下限値V2’と適正電圧上限値V1’を97.0Vと105.0Vとし、適正電圧値幅ΔVa’とする。
図10の特性曲線C0とC1は分散電源による逆潮流がない場合の電圧曲線の一例、図10の特性曲線C2は分散電源による逆潮流がある場合の電圧特性曲線の一例である。分散電源による逆潮流がなくとも適正電圧下限値を満たす特性曲線C0の場合には、配電線の電圧維持が図られていると判定する。一方、分散電源による逆潮流がなく管理適正電圧下限値V2’を満たさない特性曲線C1の場合や、分散電源による逆潮流があり管理適正電圧上限値V1’を満たさない特性曲線C2の場合には、配電線の末端に位置するL1の範囲で需要家側の受電電圧が管理適正電圧下限値V2’である97.0Vを下回る若しくは管理適正電圧上限値V1’である105.0Vを超えているので、配電線の電圧維持は図られていないと判定する。但し、曲線C2のように逆潮流がある場合や、長距離の配電線において途中に電圧調整装置が設置される場合には、配電線の末端に限らずに、途中の需要家側の受電電圧が管理適正電圧下限値V2’を下回る場合、若しくは管理適正電圧上限値V1’を上回る場合もあるため、各配電線のすべての地点における電圧値を評価する必要がある。
すべての地点における電圧値を測定する方法としては、配電線引き出し点における電圧電流位相計測装置の情報を各区間の潮流按分すること等により特定する場合や、区分開閉器に電圧電流位相計測装置を具備させる、若しくは各需要家側の検針情報などの計量装置から収集する場合がある。
電圧維持評価手段23においては、送電復旧前と後の配電線における需要家側の受電電圧の変化が判定基準よりも大きい場合に配電線の電圧維持は図られていないと判定する。この判定基準は任意に設定できるものであるが、例えば、図11においては電圧変動4.0%を超える場合に範囲外であるとしている。この判定基準4%は、需要家側の受電電圧が基準電圧101Vに対して、送電復旧後に電圧低下4%を超えると、適正電圧下限値97Vを下回る可能性があるとして設定している。一般に、逆潮流が無ければ、送電復旧後の配電線の潮流は大きくなるために電圧降下は大きくなる傾向にあり、すべての地点における電圧変動の最大低下率で評価する。
このように、電圧維持評価手段23は、電圧分布均一化評価手段22で電圧分布均一化が許容範囲内である上位に配列された配電復旧パターンごとに、配電線の電圧維持を評価し、配電線の電圧維持が図られていない配電復旧パターンを最下位に再配列する。図11に示すように、電圧変動4.0%を超える配電復旧パターンはケースFであるので、ケースFが最下位に再配列される。電圧維持評価手段23で再配列された配電復旧パターンは送電復旧手段18に入力される。
送電復旧手段18は、電圧維持評価手段23で再配列された配電復旧パターンのうち、最上位の配電復旧パターンで送電復旧する(S12)。図11に示すように、最上位の配電復旧パターンはケースEであるので、AB配電線11aの第1区間〜第3区間に対してはCD配電線11bから送電復旧する。そして、AB配電線11aの第4区間及び第5区間に対してはGH配電線11dから送電復旧する。図12は、ケースEにより送電復旧した状態を示しており、黒の塗り潰しの区分開閉器15a4は開放された状態を示し、丸印の区分開閉器12a、12cは投入された状態の系統図を示している。
以上の説明では、配電系統の各所の電流や電圧は、各区分開閉器15ごとに設置された電流検出器27及び電圧検出器28で計測された電流や電圧を用いるようにしたが、これに加えて、スマートメータや家庭用エネルギー管理システム(HEMS、ホームエナジーマネジメントシステム)の情報を用いることも可能である。特に、HEMS情報を活用し、需要家側の分散電源の運転状況を把握できるようになると、常時の逆潮流の状況や事故時に分散電源が停止した場合の需要の電気量を得ることができ、電圧維持評価、電圧分布均一化評価および送電損失評価をより正確に行えるようになる。
第1実施形態によれば、変更対象配電線の除外区間を除く負荷側区間に対し、いずれの隣接系統から配電可能かを示す配電復旧パターンを作成し、配電線の電圧分布均一化評価及び電圧維持評価が許容範囲内で送電損失評価が最も高い配電復旧パターンにて配電線に送電復旧するので、総送電損失の最小化だけでなく電圧分布の均一化及び電圧維持を図ることができる。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図13は本発明の第2実施形態に係る配電系統復旧装置の構成図である。この第2実施形態は、図1に示した第1実施形態に対し、入力電気量データベース26に記憶された各区分開閉器15ごとの電流及び電圧に基づいて負荷潮流を演算する負荷潮流演算手段30と、負荷潮流演算手段30で演算した負荷潮流データを格納する負荷潮流データベース31とを追加して設けたものである。図1と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
図1で示した第1実施形態では、事故直前の配電線の送電損失と復旧直後の配電線の送電損失との差分ΔPiから配電系統全体の送電損失を評価するようにしたが、第2実施形態では、過去の所定期間における負荷潮流データを加味して配電線の所定期間に亘る送電損失の評価を行うものである。配電線の需要電力は、0時〜24時の時間帯において変化する。そこで、送電復旧後の需要電力を過去の所定期間における負荷潮流データに基づき演算を行い、送電復旧後の需要電力に基づいて事故直後から所定期間に亘る総送電損失と時間帯別の電圧分布をシミュレーションする。
配電系統が事故で停電すると、送電復旧する間に分散電源は、配電系統内での単独運転を防止するために一旦停止する。分散電源が停止した状態では、逆潮流とならないのみならず、分散電源が発電していない状態の需要家側の固有負荷が需要として現れ、同じ需要家においても停電前の潮流より送電復旧後の方が、需要が増加する傾向にある。需要家側の固有負荷や分散電源の運転状況を電力会社が常時直接実測することは情報処理の観点や情報の所有権の観点から実現が困難なことから、配電系統における各地点や需要家連系点の計測実績から送電復旧後の潮流を決定する。
負荷潮流演算手段30は、入力電気量データベース26に記憶された各区分開閉器15の電流及び電圧を入力し、入力した電流及び電圧により各区分開閉器15を流れる負荷潮流を演算して負荷潮流データベース31に記憶する。入力電気量データベース26には、データ入力手段29により所定周期で入力した電流及び電圧の時系列データが記憶されているので、負荷潮流演算手段30は電流及び電圧の時系列データに基づいて時系列の負荷潮流を演算し、負荷潮流データベース31に時系列の負荷潮流を記憶することになる。所定周期で入力した電流及び電圧の時系列データは、計測実態に応じて1時間、30分間、5分間などを単位として設定できる。
図14は負荷潮流データベース31の情報処理の考え方の一例を示す需要曲線であり、図14(a)は太陽光発電設備を有する需要家の過去の所定期間における負荷潮流データLiの需要実績のグラフ、図14(b)は負荷潮流データLiの13時での需要実績履歴のグラフである。図14では負荷潮流データLiの収集の所定周期を1時間としている。
図14(a)に示すように、負荷潮流データベース31に記憶されている過去の所定期間における負荷潮流データLi(h,w,d,s,・・・)は、分散電源として太陽光発電設備を有する需要家の場合には、快晴の太陽光発電出力が大きな日中においては相対的に受電する需要は小さくなり、雨の日は固有負荷が需要として現れることになり、過去の所定期間に亘って需要変動している。
ここで、i=1〜nはデータ番号、hは時刻、w、d、s等は集計フラグである。また、集計フラグとは、集計に際して、休平日別、曜日別、日にち別、季節別等のように分類するための情報である。データ数nが十分に大きければ、集計フラグを用いた分類により、より精緻な需要実績を把握できるようになる。そして、負荷潮流データLi(h,w,d,s,・・・)を、同時刻毎に分類集計して需要実績履歴、いわゆるデュレーションを求める。
例えば、図14(b)のように1日における13時の需要実績履歴は、負荷潮流データLi(13時,w,d,s,・・・)となり、13時の断面において、分散電源の出力が大きく、固有負荷が小さい需要MIN(Li(13時,w,d,s,・・・))から分散電源の出力が小さく、固有負荷が大きい需要までの実績MAX(Li(13時,w,d,s,・・・))を把握できる。このとき、需要家の固有負荷が大きく配電系統の潮流に現れるMAX(Li(13時,w,d,s,・・・))は、事故復旧後に分散電源が停止した状態で需要家が受電する需要Lmax(h)(h=13時)に近く、配電系統の電圧降下に最も影響を及ぼす需要実績となる。実際には、Lmax(h)≠MAX(Li(h,w,d,s,・・・))であり、1日の中で13時における出現確率ρを用いたマクロ処理により、Lmax(13時)=ρ×MAX(Li(13時,w,d,s,・・・))として一意に設定する。
配電復旧パターン決定手段20の送電損失評価手段21は、配電線の送電損失の評価を行うにあたり、事故直前の配電線の送電損失と復旧直後の配電線の送電損失との差分ΔPiの和(総送電損失の差分ΔP)から配電系統全体の送電損失を評価するとともに、負荷潮流データベース31の過去の所定期間における負荷潮流データLを入力し、事故直前の配電線の送電損失と、復旧直後から所定期間における時系列の配電線の送電損失との差分ΔPiの和(総送電損失の差分ΔP)から配電系統全体の時系列の総送電損失を評価する。
この場合、配電復旧パターンごとに時系列の複数の総送電損失の差分ΔPが得られる。そこで、これら時系列の総送電損失の差分ΔPのうちの最も大きい差分ΔPをその配電復旧パターンの総送電損失の差分ΔPとする。そして、このようにして求めた配電復旧パターンごとの総送電損失の差分ΔPの小さい順に配電復旧パターンを配列する。これにより、時系列の総送電損失の差分ΔPが最も小さい配電復旧パターンが最上位に配列され、時系列の総送電損失の差分ΔPが最も大きい配電復旧パターンが最下位に配列される。
次に、電圧分布均一化評価手段22は、第1実施形態と同様に、送電損失評価手段21で作成された総送電損失の差分ΔPの小さい順に配列された各配電復旧パターンごとに、(2)式に基づいて、変更対象配電線の復旧後における配電線の電圧分布均一化指標ΔVを求め、電圧分布均一化指標ΔVが許容範囲内であるかどうかで電圧分布均一化を評価し、電圧分布均一化指標が許容範囲外の配電復旧パターンを最下位に再配列する。
次に、電圧維持評価手段23は、電圧分布均一化評価手段22で得られた電圧分布均一化が許容範囲内で上位に配列された配電復旧パターンごとに、配電線の電圧維持を評価する。配電線の電圧維持評価は、第1実施形態と同様に、系統構成変更後の配電線における需要家側の受電電圧が電技上の適正電圧値幅を逸脱しているかどうかで評価する。そして、配電線における需要家側の受電電圧が適正電圧値幅を逸脱している配電復旧パターンを最下位に再配列する。これにより、総送電損失の差分ΔPが小さく、電圧分布均一化の許容範囲内の配電復旧パターンであっても、需要家側の受電電圧が適正電圧値幅を逸脱している配電復旧パターンは下位に再配列される。従って、総送電損失の差分ΔPが小さく、電圧分布均一化が許容範囲内であり、しかも、電圧維持が図れている配電復旧パターンが上位に配列される。
以上の説明では、配電線の送電損失の評価を行うにあたり、過去の所定期間における負荷潮流データを加味して配電線の所定期間に亘る送電損失の評価を行うようにしたが、配電線の電圧分布均一化評価や配電線の電圧維持の評価を行うにあたり、過去の所定期間における電圧データを用いて配電線の所定期間に亘る電圧分布均一化評価や配電線の電圧維持の評価を行うようにしてもよい。この場合も、配電復旧パターンごとに時系列の複数の指標が得られるが、その指標の一つでも許容範囲外である場合には許容範囲外の配電復旧パターンとして最下位に再配列する。
第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、配電線の送電損失の評価を行うにあたり、負荷潮流データベースの過去の所定期間における負荷潮流データを加味して配電線の所定期間に亘る送電損失の評価を行うので、送電復旧時だけでなく所定期間に亘る送電損失の評価を行うことができる。また、過去の所定期間における電圧データを用いて配電線の所定期間に亘る電圧分布均一化評価や配電線の電圧維持の評価を行った場合には、送電復旧時だけでなく所定期間に亘る電圧分布均一化評価や配電線の電圧維持の評価を行うことができる。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。図15は本発明の第3実施形態に係る配電系統復旧装置の構成図である。この第3実施形態は、図13に示した第2実施形態に対し、記憶装置24に配電系統の各々の配電線に配置される電圧制御機器32の動作データを格納する電圧制御機器データベース33を設け、配電復旧パターン決定手段20は、電圧維持評価や電圧分布均一化評価を行うにあたり、電圧制御機器データベース33の電圧制御機器32の動作データを加味して電圧維持評価や電圧分布均一化評価を行うようにしたものである。図13と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
配電系統の各所には、その箇所の電圧を制御範囲内に維持するための各種の電圧制御装置(LRT、SVR、コンデンサー、無効電力調整制御付きPCSなど)が設けられている。この電圧制御機器32の動作データはデータ入力手段29により入力され、電圧制御機器データベース33に格納される。これらの動作データは例えば、LRTやSVRであればタップや変圧比、コンデンサーであれば無効電力容量やその台数、PCSであれば力率や電力出力値などである。
配電復旧パターン決定手段20の電圧分布均一化評価手段22は、電圧分布均一化評価を行うにあたり、電圧制御機器データベース33の電圧制御機器32の動作データを加味して電圧分布均一化評価を行う。
電圧分布均一化指標ΔVは(2)式で示されるが、(2)式の電圧差分ΔViは、常時(事故発生前)の各区間iの基準電圧と配電復旧パターンで復旧したときの各区間iの電圧との差分である。各区間iの基準電圧は事故発生前の系統構成により予め定められている。
ここで、事故の発生により系統構成の変更があった場合、前述したように、送電復旧前後において、電源供給元の変圧器が異なることがあり、ある区間においては電力供給の方向が異なる場合がある。例えば、AB配電線11aは第1区間が電源側であり第5区間が負荷側の末端である。従って、事故発生前においては、AB配電線11aは第1区間〜第5区間に向かって電力が供給されるので、図10に示したように、一般的には配電線の末端に行くほど電圧が下がる特性となる。そして、需要家側の受電電圧が97V未満とならないように、例えば、第4区間に電圧制御機器32が設けられている場合、第4区間に設けられた電圧制御機器32は電圧を上げる方向に動作する。
一方、送電復旧後の配電線系統の構成が、例えばケースE(図12に示す系統構成)となった場合には、AB配電線11aの第1区間はEF配電線11cの変圧器13cから電力が供給され、AB配電線11aの第1区間〜第3区間はCD配電線11bの変圧器13bから電力が供給され、AB配電線11aの第4区間及び第5区間はGH配電線11dの変圧器13dから電力が供給される。
この場合、AB配電線11aの第1区間〜第5区間の基準電圧は、事故前の基準電圧と異なることになる。第3区間に設けられた電圧制御機器32は電圧を上げる方向に動作するが、その下流には第4区間及び第5区間がないので、電圧制御機器32の電圧設定値は変更される。電圧分布均一化評価手段22は、電圧分布均一化評価を行うにあたり、このときの電圧制御機器32の動作データを加味してAB配電線11aの第1区間〜第3区間の基準電圧を計算し電圧分布均一化評価を行う。
配電復旧パターン決定手段20の電圧維持評価手段23も、同様に、電圧維持評価を行うにあたり、電圧制御機器データベース33の電圧制御機器32の動作データを加味して電圧維持評価を行う。すなわち、系統構成の変更により電圧制御機器32の電圧設定値が変更された場合には、電圧制御機器32の動作データを加味して電圧維持評価を行う。
図16は、分散電源として太陽光発電設備34を有する需要家35と電圧制御機器36を含めた配電系統と情報ルートとの構成図であり、系統構成の変更により電圧制御機器36の電圧設定値が変更される状況を示す。太陽光発電設備34には交直変換装置(PCS)37が接続されている。実線が需要家側への供給を含めた配電系統であり、図16のように、第1区間〜第4区間以降が配電用変電所Aから電力供給されている。但し、電圧階級は省略している。太陽光発電設備34のような分散電源を有する個別の需要家35は、検針計38を介して電力供給を受ける。
また、点線は情報通信網を示す。需要家35は、電力会社39が接続している公衆ネットワーク40と、ホームゲートウエイ(HGW)41を介して家庭用エネルギー管理システム(HEMS)42を情報連係している。HEMS41は、分散電源設備や他の需要家機器を制御しており、配電系統の電圧制御機器36としての役割も期待されている。
送配電系統の系統構成を把握する電力会社39は、2種類の系統情報を送信することとする。2種類の系統情報は、LANを介して設置されるインテリジェント端末(IED)や需要家内機器(HEMSや制御機能付きスマートメータ)等の分散型制御システムの導入を前提として、課されるセキュリティ・信頼度と緊急性とから区分している。第1の情報は、電力系統の構成要素(送電線や変圧器や調相設備など)を示すものであり、シミュレーションに必要なすべての系統常数(インピーダンスやアドミタンス)や構成要素ごとの接続情報を含む。設備増強等により構成要素が変化する場合には情報は都度更新される。第2の情報は、各々の需要家や電圧制御機器36が、どのように上位の電力系統と連系されているのかを示す情報であり、系統構成が変更となる都度、送信される。
例えば、図16の第3区間に接続される電圧制御機器36は、配電用変電所Aを起点とすると、第2の情報として「配電用変電所A−第1区間−第2区間−第3区間」を受信する。図12のようにして事故後の送電復旧後には系統構成は変更されているために、第2の情報は「配電用変電所B−隣接第1区間−第2区間−第3区間」に更新されて受信する。第3区間に接続される電圧制御機器36は、自らが保持する潮流データを利用して、第1の情報と第2の情報とからシミュレーションを行い、電圧設定値を求め、電圧制御する。
第1の情報は事故発生前後で変化していないことから、事故発生前に受信した第1の情報と、送電復旧後に受信した第2の情報をとから再度シミュレーションを行い、最新の系統構成に適した電圧設定値を求め、電圧制御することになる。第1の情報と第2の情報は共に、電圧制御機器36や需要家35が自ら取得する下り情報であるが、第1の情報は、当該区間を含む配電系統のみならず、隣接する電力融通の変更対象配電線と、電圧変動の要因となる上位の送電系統と、をも含めた系統常数や構成要素ごとの接続情報であるために、更新頻度は小さいものの情報量が大きいという特徴がある。また、第2の情報は系統構成が変更された場合には速やかに更新される必要がある一方、任意に設定される起点以降の情報を抽出することで把握できるため情報量は限定されるという特徴がある。
従って、情報の送信手段は、各情報の特徴に応じて選択する。例えば、受信する側から見た場合には、即時性が求められない第1の情報では、信頼性が低くとも多くの情報を引き出すことができる公衆ネットワークを用い、速やかに且つ確実に送達されるべき第2の情報では、専用回線を用いる。また、第2の情報でも配電系統全体に及ぼす影響が比較的小さい個別の需要家は、専用回線を設けることは非効率であることから、公衆ネットワークを用いることができる。
以上の説明では、図13に示した第2実施形態に対し、電圧制御機器データベース33を設けた場合について説明したが、図1に示した第1実施形態に対し、電圧制御機器データベース33を設けるようにしてもよい。
第3の実施形態によれば、配電線の電圧維持評価や電圧分布均一化評価を行うにあたり、電圧制御機器データベース33の電圧制御機器32の動作データを加味して配電線の電圧維持評価や電圧分布均一化評価を行うので、より正確な電圧維持評価や電圧分布均一化評価を行うことができる。