JP5854781B2 - 質量分析方法および装置 - Google Patents
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Description
図1に本実施形態の分析装置の一例を示す。図1で示すように、イオン、中性粒子、電子、並びに、レーザー光の中から選ばれる一つの一次ビームを発生する一次ビーム発生部33を有する。一次ビーム発生部33から発生した一次ビームが該試料19に照射し、試料から放出されるイオンを分析することのできる分析装置である。照射場所を変えることにより照射位置の試料から二次イオンが放出され、引き出し電極15の上部に接続した質量分析手段34を用いて質量情報を取得する。取得した質量情報に基づいて、試料19を構成する構成物の分布状態に関する情報が取得される。
また、本形態の分析装置には、チャンバー内に水または水溶液を放出する放出部22と、チャンバー内に放出される水または水溶液の量を制御する制御手段23が設けられている。
以下に、図1の分析装置を用いて試料を分析する方法について説明する。
図1のように試料を測定チャンバー11内に配置した状態で試料を冷却する。冷却の際、チャンバー内の水分が試料に付着することを避けるため、減圧条件下で冷却するとよい。この際、10×10−6Pa以下、好ましくは3×10−6Pa以下にするとよい。
続いて、チャンバー内に水または水溶液を放出し、冷却された前記試料の表面に氷の層を形成する。以下で説明するように、氷の層を形成する工程は、水または水溶液の放出量を制御してチャンバ―内に放出することで、試料表面に形成される氷の量を精度よく制御することができる。この後、氷の層が形成された状態で、試料表面に一次ビームを照射することで、試料からイオン(二次イオン)が放出される。放出された二次イオンを引き出し電極15を介して質量分析手段33に二次イオンを導き、質量分析を行うことができる。
本発明者らは、試料表面に形成される氷の層に着目し、鋭意検討を行った。
この結果、一次イオンビームを照射する試料表面に形成される氷の層において、その水の量が0.1ng/mm2以上20ng/mm2以下とすることで、イオン検出感度が高く、且つ試料の構成成分の本来の分布情報を保持できることを見出し、本願発明を成したものである。
測定チャンバー11内を真空にする。続いて気液混合バルブ25を開放することで、溶液成分を含むガスがガスリークノズル22の先から放出される。このとき試料19をあらかじめ溶液の凝固点または昇華点以下の温度に冷却しておくことで試料19の表面に溶液成分が氷状態で吸着し、氷20が形成される。このとき、放出ガスに含まれる溶液成分の濃度や、ガス放出量、試料のガス雰囲気中への暴露時間、及び試料温度を調節することで、試料表面に形成される氷20の付着量を調節できる。
氷20を形成した後、試料19の温度を保ったまま、気液混合バルブ25を閉じてガスを排気してから質量分析を行う。表面に形成された氷20の働きにより試料構成成分へのプロトン付加が促進され、高感度に試料19構成成分を検出することができる。また、溶液成分が氷状態で付着することにより、試料19の水溶成分の流出を抑えることができ、試料19構成成分の本来の分布情報を維持したままの検出が可能となる。さらに、質量分析中も試料温度を氷の蒸発温度以下に保ち、かつ真空中に残存する水分子の付着を抑えることのできる温度、真空状態に保つことで氷20の付着量を一定に長時間保持することができ、長時間の安定した検出が可能となる。
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。以下の具体例は本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明はかかる具体的形態に限定されるものではない。
[試料の準備]
実施例1ではヒト由来ペプチド分子「AngiotensinII(Mw:1046,California Peptide Research Inc.製)」を測定対象物とした。まず該測定対象物をイオン交換水に10−6Mで溶解した溶液を調製した。その溶液を用いて、インクジェット吐出器(製品名:パルスインジェクター、Cluster technology社製)によりシリコンウェハー上にAngiotensinIIのインクジェットプリント・ドットパターンを形成したものを用いた。印字で形成される1ドットのサイズは直径約120μmで、各ドットに約30fmolのAngiotensinII分子が存在している。このドットを測定することで検出強度の比較や構成成分の流出の評価に用いることができる。
実施例で用いる本発明の質量分析装置は、図2に示すように測定チャンバー11とプレチャンバー31による2室構成となっていて、互いに試料ホルダー17を移動できる機構を持つ。まず、プレチャンバー31内で、試料上に水分だけを含む氷20の形成を行った(図2(I))。
質量分析法としてTOF−SIMS測定法を用いた。測定はION−TOF社製 TOF−SIMS5型装置(商品名)を用い、以下の測定条件で行った。
1次イオンのパルス周波数:5kHz(200μs/shot)
1次イオンパルス幅:約1ナノ秒
1次イオンビーム直径:約1μm
測定領域:200μm × 200μm
2次イオンの測定点数:128×128点
積算時間:16回スキャン(約52秒)
2次イオン引き出し電極電圧:−2kV
2次イオンの検出モード:正イオン
測定は、該AngiotensinIIのドットパターンにおけるそれぞれの1ドットについて行った。
上述の方法で氷をサンプル表面1mm2あたり約1ng付着させた後、試料温度−140℃にて測定したAngiotensinIIの1ドットから検出された[AngiotensinII+H]+(m/z1046.8)の質量スペクトルを図3(a)に示す。また、同時に得られた水分子イオンの[H3O]+(m/z19)と[AngiotensinII+H]+のそれぞれのイオンイメージを図3(a)下部に示す。付与した氷の量1ng/mm2は、氷の密度を約0.93g/cm3として平均膜厚に換算すると、約1.1nmと算出される。
比較として、氷を付着させてない同じAngiotensinIIの1ドットを、試料温度25℃にて測定した、[AngiotensinII+H]+の質量スペクトルを図3(b)に示す。また、同時に得られた [H3O]+と [AngiotensinII+H]+のイオンイメージを図3(b)下部に示す。
比較として、AngiotensinIIの1ドットを、試料温度−140℃に冷却して測定した[AngiotensinII+H]+の質量スペクトルを図3(c)に示す。また、同時に得られた [H3O]+と [AngiotensinII+H]+のイオンイメージを図3(c)下部に示す。
比較として、真空のプレチャンバー31内で試料温度−140℃に冷却したAngiotensinIIのドットパターン試料を、大気中(湿度20%)に3分間放置して、大気中の水分を氷状態で付着させた試料を作製した。この試料を冷却せずに、チャンバー内で再び真空に排気した。冷却せずに上述の測定条件で検出された[AngiotensinII+H]+の質量スペクトル、および、[H3O]+と [AngiotensinII+H]+のイオンイメージを図3(d)に示す。
比較例1−3と同様に、真空のプレチャンバー31内で試料温度−140℃に冷却した該AngiotensinIIのドットパターン試料を、大気中(湿度20%)に3分間放置して、大気中の水分を氷状態で付着させた試料を作製する。この試料を試料温度−140℃に冷却しながら、再びチャンバー内で真空に引いた。冷却しながら上述の同じ測定条件で検出された[AngiotensinII+H]+の質量スペクトル、および、 [H3O]+と [AngiotensinII+H]+のイオンイメージを図3(e)に示す。
形成される氷20の付着量に対する試料19構成成分の検出強度の変化を調べるため、上述の(実施例1)、(比較例1−1から1−4)、および、氷20の付着量を変えた該AngiotensinIIのドットパターン試料を用意した。それぞれの1ドットを上述の同じ条件で質量分析し、得られた質量スペクトルにおける [AngiotensinII+H]+と[H3O]+のピーク面積強度の関係を図4(a)に示す。グラフ中に指標で指し示したデータポイント41、42−1、42−2、42−3、42−4、のそれぞれが、(実施例1)、(比較例1−1、1−2、1−3、1−4)で得られた値を示している。また、図4(b)に水晶振動子センサーを用いて測定した各サンプルの氷の付着量と[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度の関係を示す。
該AngiotensinIIのドットパターン試料を、まず氷を形成する前に、あらかじめ測定チャンバー11内で上述の測定条件で計測しておく。続いて、プレチャンバー31へ試料を移動し、試料表面に上述の方法で氷を形成した。その後、再び測定チャンバー11へ戻して、先ほどと同じ箇所のドットを同じ測定条件で計測した。図5(a)に、氷形成前のAngiotensinIIの1ドットから検出された水分子イオンの[H3O]+(m/z19)とナトリウム・イオンの[Na]+(m/z23)と[AngiotensinII+H]+(m/z1046.8)のイオンイメージを示す。図5(b)に、氷を形成後に(a)と同一箇所のドットから計測された(a)と同じ種類のイオンイメージを示す。ここで、ナトリウムは不純物として試料中にあらかじめ含まれていたものである。この図5(a)と(b)から判るように、氷を形成した後でも対象物の構成物は流出することなく本来の分布情報が保持されている。
試料構成成分の分布情報の保持状態を比較した例を示す。該AngiotensinIIのドットパターン試料上に、大気中、かつ、常温で水の液滴(2μl)をマイクロピペッターで滴下して、上述と同じ測定条件で計測した場合の、図5(a)、(b)と同じ種類のイオンイメージを図5(c)に示す。図5(c)では[Na]+や[AngiotensinII+H]+のイオンイメージが全面に広がってしまっている。これは液滴滴下による溶液付与を行うことで、試料構成成分が液滴中へ流出してしまうためである。このように液滴滴下による溶液付与では、試料構成成分の本来の分布情報が保持されないことが判る。
試料構成成分の分布情報の保持状態を比較した例を示す。(比較例1−2)と同様に、真空のプレチャンバー31内で試料温度を−140℃に冷却した該AngiotensinIIのドットパターン試料を、大気中(湿度20%)に3分間放置して、大気中の水分を氷状態で付着させた試料を作製した。この試料を冷却せずに、再びチャンバー内で真空に引いて、冷却せずに上述の同じ測定条件で検出した場合の、図5(a)から(c)と同じ種類のイオンイメージを図5(d)に示す。図5(d)では[Na]+や[AngiotensinII+H]+のイオンイメージが広がって、輪郭がぼやけてしまっている。これは、冷却した試料を大気中に置くことで大気中の水分が吸着するものの、冷却をしないで真空中に戻す過程で、試料に吸着していた氷成分が試料表面で溶解し、そこに水溶性の試料構成成分が流出するためである。このように大気中で形成した氷付与試料を冷却せずに測定を行う方法では、試料構成成分の本来の分布情報が保持されないことが判る。
[試料の準備]
実施例2では、ウシ由来ペプチド分子「Insulin:以後、インスリンと表記(Mw:5733.8,SIGMA CHEMICAL CO.)」を測定対象物とする。まず、該測定対象物をイオン交換水に10−7Mで溶解した溶液を調製する。その溶液を用いて、実施例1と同じようにインクジェット吐出器を用いて、金蒸着/シリコンウェハー基板上にインスリンのインクジェットプリント・ドットパターンを形成する。このとき印字で形成される1ドットのサイズは直径約120μmで、各ドットに約40fmolのインスリン分子が存在している。
該TFAを含む氷形成を行う。該TFA水溶液をキャリアガスの窒素ガスと混合させ、リークバルブ32を開き、該TFA水溶液を5%ほど含んだ窒素ガスをリークノズル22から放出させ、試料表面に吹き付ける。所定の量を吹き付けた後、リークバルブ32を閉じ、プレチャンバー31内を再び真空に戻したのち、試料19の温度を低く保った状態で、測定チャンバー11内に試料ホルダー17ごと移動させて試料19の質量分析を行う。
質量分析法としてTOF−SIMS測定法を用いる。測定は実施例1と同様の測定条件で行う。
図6(a)に、上述の方法を用い、該TFA成分を含む氷形成後のインスリン1ドットから検出される[Insulin+H]+(m/z5734.6)の質量スペクトル61と、同じ測定で得られる[Insulin+H]+と総イオン(Total ion) のイオンイメージを図6(b)に示す。
比較として、該TFA0.1wt%混合水溶液を用いて、TFA成分をあらかじめ含むインスリンドットを上述と同じ方法で作製し、氷を形成しない状態で、同じ測定条件で検出した場合の [Insulin+H]+質量スペクトル62を、図6(a)に重ねて示す。
[試料の準備]
実施例3では、ウシ由来ペプチド分子「Insulin Chain−B, Oxidized(以後、InsBと表記。Mw:3495.9,SIGMA CHEMICAL CO.)」を測定対象物とする。まず、該測定対象物をイオン交換水に10−7Mで溶解した溶液を調製する。その溶液を用いて、実施例1と同じようにインクジェット吐出器を用いて、ステンレス製のMALDI試料ホルダーにInsBのインクジェットプリント・ドットパターンを形成する。このとき印字で形成される1ドットのサイズは直径約140μmで、各ドットに約40fmolのInsB分子が存在している。
実施例2と同様の方法で、該マトリックスを含む氷形成を行う。該マトリックス水溶液をキャリアガスの窒素ガスと混合させ、リークバルブ32を開き、該マトリックス水溶液を5%ほど含んだ窒素ガスをリークノズル22から放出させ、試料表面に吹き付ける。所定の量を吹き付けた後、リークバルブ32を閉じ、プレチャンバー31内を再び真空に戻したのち、試料19の温度を低く保った状態で、測定チャンバー11内に試料ホルダー17ごと移動させて試料19の質量分析を行う。
質量分析法としてMADLI法を用いる。図2の測定チャンバー11は、BRUKERDALTNICS社製 autoflex speed(商品名)に試料冷却機構を備えた装置である。測定条件は以下の通りである。
レーザーのパルス周波数:10Hz
1次イオンパルス幅:約3ナノ秒
1次イオンビーム直径:約5μm
積算時間:10回スキャン
2次イオン引き出し電極電圧:−2kV
2次イオンの検出モード:正イオン、スペクトル測定
試料温度:−100℃
図7に、該マトリックスを含む氷形成後のInsBの1ドットから上述の測定条件で検出される [InsB+H]+のMALDI質量スペクトル71を示す。
比較として、該マトリックスを溶液と該InsB溶液を1:1に混合した水溶液を作製し、マトリックス成分をあらかじめ含むInsBドットを上述と同じ方法で作製する。このInsBドットを、氷を形成しない状態で同じ測定条件で検出した場合の [InsB+H]+のMALDI質量スペクトル72を、図7に重ねて示す。
12:液体窒素タンク
13:熱電対
14:電熱線ヒーター
15:引き出し電極
16:試料成分イオン
17:試料ホルダー
18:試料冷却機構
19:試料
20:氷
21:1次ビーム
22:ガスリークノズル
23:溶液を含んだガス
24:溶液タンク
25:気液混合バルブ
26:キャリアガスボンベ
31:プレチャンバー
32:リークバルブ
41:実施例1で得られる[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度
42−1:比較例1−1で得られる[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度
42−2:比較例1−2で得られる[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度
42−3:比較例1−3で得られる[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度
42−4:比較例1−4で得られる[AngiotensinII+H]+のピーク面積強度
61:実施例2で得られるTOF−SIMS質量スペクトル
62:比較例2で得られるTOF−SIMS質量スペクトル
71:実施例3で得られるMALDI質量スペクトル
72:比較例3で得られるMALDI質量スペクトル
Claims (8)
- 試料に一次イオンビームを照射し、該試料から放出される二次イオンを質量分析法によって分析する試料分析方法であって、
チャンバー内に配置した試料を冷却する工程と、
前記チャンバー内に水または水溶液を放出し、冷却された前記試料の表面に氷の層を形成する工程と、
前記氷の層が形成された状態で、前記試料表面に前記一次ビームを照射する工程と、
を有し、
前記氷の層を形成する水の量が0.1ng/mm2以上20ng/mm2以下である
ことを特徴とする分析方法。 - 前記冷却する工程は、前記チャンバ―内を減圧して行われる請求項1に記載の分析方法。
- 前記氷の層を形成する工程が、以下の(1)から(4)のいずれかの方法を用いて形成される氷の量を制御して行なわれる請求項1または2に記載の分析方法。
(1)赤外光または可視光の反射率変化を用いる方法
(2)水晶振動子センサーを用いる方法
(3)水の分圧の計測値を用いる方法
(4)水分子イオンと試料構成成分イオンとの質量分析における信号強度相関表を用いる方法 - 前記水溶液の溶質成分が、マトリックス、アルカリ金属塩、並びに、酸性物質の中から選ばれる一つの物質であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の分析方法。
- 前記試料の構成物がタンパク質、ペプチド、糖鎖、ポリヌクレオチド、及びオリゴヌクレオチドの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の分析方法。
- 試料に一次ビームを照射し、該試料から放出される二次イオンを分析する分析装置であって、
前記試料を配置するチャンバー、
前記チャンバー内の前記試料の表面に一次ビームを照射するための一次ビーム発生部、
前記チャンバー内の前記試料を冷却する冷却機構、
前記チャンバー内に水または水溶液を放出する放出部、
前記試料から放出される二次イオンを質量分析手段へ導く引き出し電極、
前記放出部から前記チャンバー内に放出される水または水溶液の量を制御する制御手段、を有し、
前記チャンバー内に配置した試料を冷却した状態で前記放出部から水または水溶液を放出して前記試料の表面に氷の層を形成する
ことを特徴とする分析装置。 - 一次ビームがイオンビームである請求項6に記載の分析装置。
- 以下の(1)から(4)のいずれかの、氷の層を測定するための手段を更に有する請求項6または7に記載の分析装置。
(1)反射率変化を測定するための赤外光または可視光および検出手段
(2)水晶振動子センサー
(3)水の分圧の計測手段
(4)水分子イオンと試料構成成分イオンとの質量分析における信号強度相関情報を取得する手段
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