JP5836911B2 - ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

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本発明は、所定の組成を有する基材素材からステンレス鋼を製造するステンレス鋼の製造方法に関する。
ステンレス鋼は、FeにCrやNiなどの物質を添加してさびにくくした鉄鋼である。JIS規格で規定されるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS303Se、SUS303Cu、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J3、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS316F、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS836L,SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1)、フェライト系ステンレス鋼(SUS405、SUS410L、SUS430、SUS430F、SUS434、SUS447J1、SUSXM27)、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS403、SUS410、SUS410J1、SUS410F2、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS420F2、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F)の組成の範囲は、おおむね、C:1.20重量%以下、Si:5.00重量%以下、Mn:10重量%以下、P:0.200重量%以下、S:0.060重量%以下又は0.10重量%以上、Ni:28.00重量%以下、Cr:11.00〜32.00重量%、Mo:7.00重量%以下、Cu:1.00〜5.00重量%以下、N:0.30重量%以下、残部:Fe及び不可避な不純物元素である(非特許文献1)。
ステンレス鋼の製造においては、この組成の範囲で基材素材を混合し、その混合物を溶融して基材が得られる。そして、多くの場合、基材の組成を均質化させることを目的として、基材の溶体化処理が行われる。この溶体化処理は、基材の高温相が安定となる相転移温度以上の高温に一定時間保持し、常温まで降温する処理をいい、ステンレス素材の場合、例えば、基材を約1050℃で80分間程度加熱し、その後常温まで降温する処理がよく知られている(非特許文献2)。
溶体化処理が行われた基材の硬度をさらに上げるための加工方法の一つに、焼き入れがある。ステンレス鋼は、相転移温度よりも高温では面心立方相が安定であり、低温では体心立方相が安定である。通常使われているステンレス鋼(C:2.1重量%以下)の相転移温度は、727℃〜910℃である(非特許文献3)。常温で安定な体心立方相はすべり系の転位が多いため、すべり変形が起きやすく、硬度が低い。一方、相転移温度以上に加熱した面心立方相の高温ステンレス鋼を、水や油に浸すことで常温まで急速に降温すると、多くの欠陥を含んだ体心立方相であるマルテンサイトステンレス鋼が得られる。
ここで「マルテンサイトステンレス鋼」とは、一般的には、多くの欠陥を含んだ体心立方相(マルテンサイト相)のステンレス鋼を言い、マルテンサイト系ステンレス鋼(マルテンサイト相を準安定相とする組成のステンレス鋼)とは異なるものである。
マルテンサイトステンレス鋼は、結晶が各所で歪んでいるために、すべり変形が起きにくく、硬度が高い特徴を持つ。このように、欠陥を結晶に導入して材料の硬度を上げる熱処理は、焼き入れと言われる。
マルテンサイトステンレス鋼は、高温・高圧の環境で使われることが多いが、高温環境下で使用されると、応力腐食割れ、クリープ、再熱割れなどの経時劣化が起こることが知られている。経時劣化の主な原因の一つに結晶粒界におけるクロム炭化物の生成がある(特許文献1)。クロム炭化物は、過飽和状態で含まれる炭素が、その歪を解消するために、材料中のクロムと化合物を形成し、ステンレスの結晶粒界に析出することで形成されることが知られている。クロム炭化物の生成により、隣接部分にクロム欠乏層が形成され、結晶粒界近傍の耐食性が低下して、経時劣化に進展する(特許文献1)。
マルテンサイトステンレス鋼の経時劣化を抑制する技術が求められ、経時劣化を抑制するために、Crよりも原子半径の大きい元素を添加物質として含有させる方法(特許文献1、特許文献2)が知られている。
日本ステンレス協会ホームページ,http://www.jssa.gr.jp/contents/products/standards/jis/ Materials Science and Engineering A 489 (2008) 86, Ohmura T., Sawada K., Kimura K., Tsuzaki K. NIPPON STEEL MONTHLY 2005年12月号 Vol.154 p.13 Phys. Status Solidi A,1973,17,,199−205,Schlosser W.F. J. Phys. Soc. Jpn.,1990,59,,2963−2970,Sumiyama K., Hirose Y., Nakamura Y.
特開平5−5158号公報 特許第1323615号公報 特開2003−313612号公報
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、添加物質の多くが希少資源元素であるため、材料が高価になり、また、リサイクル性を満足しない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、希少資源元素を添加することなく、クロム炭化物析出による経時劣化が抑制され、硬度も維持又は高められたマルテンサイトステンレス鋼の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係るステンレス鋼の製造方法は、 C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.00重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:8.00〜10.50重量%、Cr:18.00〜20.00重量%、残部:Fe及び不可避な不純物元素からなる組成を有する基材素材を混合するステップと、前記基材素材の混合物を溶融して基材を得るステップと、前記基材を高温相が安定する相転移温度以上に保持し、その後前記基材を毎分35℃以下の速度で、相転移温度以下である常温まで降温する溶体化処理ステップと、前記溶体化処理ステップ終了直後に前記基材を毎分135℃以上の速度で昇温することによって、体心立方の一部から面心立方相を生成するステップと、前記昇温するステップ終了直後に前記基材を毎秒10℃以の速度で、常温まで降温するステップと、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、希少資源元素を添加することなく、経時劣化が抑制されたステンレス鋼が得られる。また、従来技術よりも多くの欠陥を導入することが可能になり、従来よりも高い硬度のステンレス鋼が得られる。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼の典型的な製造工程の説明図である。 図1の高温保持ステップS13、降温ステップS14、急速昇温による焼き入れステップS15、炉冷ステップS16におけるステンレス鋼の基材の温度変化の説明図である。 従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼と、本発明の実施例に係るステンレス鋼のプッシュロッド式熱膨張計による硬さの測定結果である。 図4Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼を700℃で5時間加熱したものの透過電子顕微鏡像であり、図4Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼を700℃で5時間加熱したものの透過電子顕微鏡像である。 図5Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼を700℃で10時間加熱したものの透過電子顕微鏡像であり、図5Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼を700℃で10時間加熱したものの透過電子顕微鏡像である。 従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼と、本発明の実施例に係るステンレス鋼のビッカース硬さ測定結果である。 図7Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼のX線回折の計測結果を示す図であり、図7Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の急速昇温熱処理前のX線回折の計測結果を示す図であり、図7Cは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の急速昇温熱処理後のX線回折の計測結果を示す図である。 図8Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼の透過電子顕微鏡像であり、図8Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の透過電子顕微鏡像である。
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るステンレス鋼の製造工程の説明図である。図2は、図1の高温保持ステップS13、降温ステップS14、急速昇温による焼き入れステップS15、炉冷ステップS16におけるステンレス鋼の基材の温度変化の説明図である。図2において、縦軸は、ステンレス鋼の温度、横軸は、経過時間を表している。
まず、C:1.20重量%以下、Si:5.00重量%以下、Mn:10重量%以下、P:0.200重量%以下、S:0.060重量%以下又は0.10重量%以上、Ni:28.00重量%以下、Cr:11.00〜32.00重量%、Mo:7.00重量%以下、Cu:1.00〜5.00重量%以下、N:0.30重量%以下、残部:Fe及び不可避な不純物元素、となる基材素材を用意し、これらを混合する(ステップS11)。この基材素材は、JIS規格で規定されるオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼及びマルテンサイト系ステンレス鋼の組成の分布範囲であり、実際に使うステンレス鋼の規格に合わせてその組成は決定される。
次に、混合した基材素材を融点以上に加熱し、溶融するとともに加工し、所定の形状に成型し、基材を得る(ステップS12)。基材の高温相が安定となる相転移温度以上の高温に一定時間保持し、その後、基材を常温まで降温する、いわゆる溶体化処理を行う。ここでいう溶体化処理は、基材の組成を均質化させ、炭素が過飽和に含まれる相を減らすことができる処理をいう。例えば、本発明の実施形態では、上記高温保持ステップで、基材を約1050℃で80分間程度加熱処理する(ステップS13)。この高温保持の熱処理により、基材の組成を均質化させることができる。高温保持の熱処理を行った基材を、炉の中でゆっくりと常温まで降温する(ステップS14)。この降温速度は、毎分35℃以下の速度が好ましい。このような降温を行うことにより、炭素が過飽和に含まれる相を減らし、クロム炭化物生成の原因を減らすことができる。
次に、急速昇温による焼き入れ、すなわち、常温まで降温した基材を、常温から相転移温度以上にまで急速に昇温し(ステップS15)、その後、速やかに室温まで降温する(ステップS16)。ステップS15における昇温速度は、毎分135℃以上の速度が好ましい。また、ステップS16における降温速度は、毎秒10℃以上の速度が好ましく、速いほど良い。相転移温度以上にまで急速に昇温し、速やかに室温に降温することで、体心立方相から面心立方相への相転移を部分的に起させることができるため、結果としてマルテンサイト相を得ることができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。実施形態の説明に対応する箇所は、適宜、実施形態の説明で使用した図1を参照する。ここで示す実施例は、JIS規格SUS304の材料を使って行ったものだが、本発明は、C、Crを含むステンレス鋼に広く適用されるものであり、これに限定されるものではない。
本実施例で用いられた基材のSUS304は、C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.00重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:8.00〜10.50重量%以下、Cr:18.00〜20.00重量%、残部:Fe及び不可避な不純物元素、となる基材素材を用意し、これらを混合し(ステップS11)、基材素材の融点以上に加熱し、溶融するとともに加工し、所定の形状に成型し(ステップS12)、得られたものである。その後、基材を約1050℃で80分間程度加熱処理し(ステップS13)、炉の中で毎分約35℃の速度で常温まで降温した(ステップS14)。次に、毎分約135℃の速度で基材を昇温し(ステップS15)、毎秒約10℃の速度で常温まで降温した(ステップS16)。
以下に、図3、図4及び図5を用いて、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、熱時効にともなう長さ変化が抑制され、経時劣化の原因と考えられるクロム炭化物の析出も抑制されることを示す。
図3は、本発明の実施例に係るステンレス鋼と、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼を700℃で加熱した際の、プッシュロッド式熱膨張計による長さの加熱時間依存性の測定結果である。縦軸は、マルテンサイトステンレス鋼サンプルの長さの変化、横軸は、加熱時間を表している。
本発明の実施例に係るステンレス鋼の測定結果(A)は、熱時効にともなう長さ変化がほとんど無いのに対し、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼の測定結果(B)は、熱時効にともなう長さ変化が大きい。
プッシュロッド式熱膨張計により測定される長さ変化が大きいということは、材料の経時劣化が大きいことを示し、長さ変化が小さいということは、材料の経時劣化が小さいことを示すため、この結果から、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼よりも、材料の経時劣化が小さいことがわかる。
図4Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼を700℃で5時間加熱したものの透過電子顕微鏡像であり、図4Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼を700℃で5時間加熱したものの透過電子顕微鏡像である。視野はいずれも3μm四方である。
図4Aで直線状に走る陰影は、結晶の粒界であり、その他の陰影は、試料の厚さの違いなどでできるコントラストである。結晶の粒界に沿って観察される黒色の斑点は、クロム炭化物である。この黒色の斑点がクロム炭化物であることは、エネルギー分散X線分光法で確認された。図4Bで直線状に走る陰影は、結晶の粒界であるが、これに沿って黒色の斑点は観察されない。
この結果から、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、700℃で5時間加熱しても経時劣化の原因となるクロム炭化物が析出されないのに対して、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼は、700℃で5時間加熱すると、経時劣化の原因となるクロム炭化物が析出されることがわかる。
図5Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼を700℃で10時間加熱したものの透過電子顕微鏡像であり、図5Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼を700℃で10時間加熱したものの透過電子顕微鏡像である。視野はいずれも3μm四方である。
図5Aで直線状に走る陰影は、結晶の粒界であり、その他の陰影は、試料の厚さの違いなどでできるコントラストである。結晶の粒界に沿って観察される黒色の斑点(クロム炭化物)が、図4Aに比べて明らかに増加していることがわかる。図5Bで直線状に走る陰影は結晶の粒界であるが、これに沿って黒色の斑点は観察されない。
この結果から、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、700℃で10時間加熱しても経時劣化の原因となるクロム炭化物が析出されないのに対して、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼は、700℃で10時間加熱すると、経時劣化の原因となるクロム炭化物が、5時間の加熱よりも多く析出されることがわかる。
以上の特徴は、同じ試料の別の部位を観察しても同様であった。従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼は、700℃で加熱を続けると、結晶粒界にクロム炭化物が析出し、それが時間とともに増大していくのに対して、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、クロム炭化物の析出が観察されなかった。
以上より、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、クロム炭化物析出による経時劣化が抑制され、実際に熱時効にともなう長さ変化が抑制されることがわかった。
従来の製造方法は、格子定数が0.355nmであるfcc(高温相)からの急速降温により、格子定数が0.286nmであるbcc(低温相)を一部に生成してマルテンサイト相を得るため、炭素が結晶格子の中に過飽和に含みやすくなり、その過飽和に含まれた炭素がクロム炭化物の析出として熱時効による経時劣化につながるのに対して、本発明の実施例は、格子定数が0.286nmであるbcc(低温相)から急速昇温により、格子定数が0.355nmであるfcc(高温相)を一部に生成してマルテンサイト相を得るため、従来の製造方法と比較して炭素を過飽和に含みにくい。このため、クロム炭化物の析出が抑制され、経時劣化が抑制されていると考えられる。また、後述するように、相転移温度以上に加熱した面心立方相の高温ステンレス鋼を、水や油に浸すことで常温まで急速に降温する従来の製造方法は、欠陥の密度が低く、Crが粒界まで拡散しやすかったのに対して、常温から相転移温度以上にまで急速に昇温し(ステップS15)、速やかに室温まで降温する(ステップS16)。本発明の実施例は、欠陥の密度が高く、欠陥によってCrの拡散が阻害されるために、Crが粒界に析出しにくいと考えられる。
以下に、図6を用いて、上記熱時効による経時劣化の抑制と同時に、硬度が維持されていることを示す。
図6は、従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼と本発明の実施例に係るステンレス鋼のビッカース硬さの測定結果である。従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼は、平均191であるのに対して、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、平均216であり、明らかに硬度が高い。つまり、本実施例に係るステンレス鋼は、加熱による経時劣化が抑制されるだけでなく、硬度も従来のステンレス鋼よりも高くなった。
以下に、図7を用いて、この硬度向上の起源について解析を行った結果を説明する。
図7Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼のX線回折の計測結果(XRDスペクトル)を示す図であり、図7Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の急速昇温熱処理前のX線回折の計測結果を示す図であり、図7Cは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の急速昇温熱処理後のX線回折の計測結果を示す図である。図7A〜図7Cにおいて、横軸は、X線の入射軸とサンプルから検出器を結ぶ軸の補角を示しており、縦軸は、検出器にて検出される散乱X線の強度を任意単位で示したものである。また、P1は、fcc(111)の回折ピーク、P2は、fcc(200)の回折ピーク、P3は、fcc(220)の回折ピーク、P4は、bcc(110)の回折ピーク、P5は、bcc(200)の回折ピークを示す。
図7Aに示す計測結果では、43.44°、44.24°、50.42°、64.46°、74.50°にそれぞれピークが計測された。先行研究によって、ステンレス鋼からのXRDスペクトルのピークは、面心立方相(fcc)の場合は、43°付近に(111)面のピークP1、50°付近に(200)面のピークP2、74°付近に(220)面のピークP3が現れることがわかっている(非特許文献4)。また、体心立方相(bcc)の場合は、45°付近に(110)面のピークP4、65°付近に(200)面のピークP5が現れることがわかっている(非特許文献5)。図7Aの計測結果から、P1、P2、P3,P4、及びP5のピークが観察されたことから、従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼には、面心立方相(fcc)と体心立方相(bcc)が混在していることがわかる。
図7Bに示す計測結果では、44.3°、64.36°にそれぞれピークが計測された。図7Bの計測結果から、体心立方相(bcc)のピークP4及びP5は計測されたが、面心立方相(fcc)のピークは計測されなかったことから、本発明の実施例に係るステンレス鋼の急速昇温熱処理前(ステップS15の前)のステンレス鋼は、体心立方相となっていることがわかる。
図7Cに示す計測結果では、43.44°、44.24°、50.44°、64.46°、74.50°にそれぞれピークが計測された。図7Cの計測結果から、P1、P2、P3、P4、及びP5のピークが観察されたことから、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼と同様に、面心立方相(fcc)と体心立方相(bcc)が混在したマルテンサイト相になっていることがわかる。
以上より、本実施例に係るステンレス鋼は、高温保持後の降温によって体心立方相となっているステンレス鋼が、急速昇温熱処理によってマルテンサイトに変態し、従来の製造方法で製造されたステンレス鋼と同様の結晶構造となっていることがわかった。
以下に、図8を用いて、従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼よりも本発明の実施例により得たステンレス鋼の硬度が高いことの理由が、本発明の実施例に係るステンレス鋼に形成された高密度の欠陥による材料のすべり変形等の抑制効果であると考えられることを説明する。
図8Aは、従来の製造方法により製造したマルテンサイトステンレス鋼の透過電子顕微鏡像であり、図8Bは、本発明の実施例に係るステンレス鋼の透過電子顕微鏡像である。視野はいずれも3μm四方である。
直線状に走る陰影は、結晶の粒界であり、その他の陰影は、試料の厚さの違いなどでできるコントラストである。図8Aでは、短く終端されたコントラストが観察されないことから、導入されている欠陥の密度は、観察範囲に現れないほど小さいことがわかる。この特徴は、試料の別の部位を観察しても同様であった。一方、図8Bでは、結晶面内で短く終端されたコントラストが多く観察される。この観察結果から、本発明の実施例に係るステンレス鋼は、従来の製造方法により製造されたマルテンサイトステンレス鋼よりも多くの欠陥が形成されていることがわかった。これは、図6で示した従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼よりも本発明の実施例により得たステンレス鋼の硬度が高いことの理由が、図8Bの電子顕微鏡像で観察される高密度の欠陥による材料のすべり変形等の抑制効果であることを強く示唆している。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼の製造方法によれば、希少資源元素を添加することなく、従来の製造方法で製造したマルテンサイトステンレス鋼よりも、経時劣化が抑制されたマルテンサイトステンレス鋼を得ることできる。また、結晶構造そのものは維持しつつ、従来技術よりも多くの欠陥を導入することが可能であり、従来よりも高い硬度のステンレス鋼が得られる。
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。

Claims (1)

  1. C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.00重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:8.00〜10.50重量%、Cr:18.00〜20.00重量%、残部:Fe及び不可避な不純物元素からなる組成を有する基材素材を混合するステップと、
    前記基材素材の混合物を溶融して基材を得るステップと、
    前記基材を高温相が安定する相転移温度以上に保持し、その後前記基材を毎分35℃以下の速度で、相転移温度以下である常温まで降温する溶体化処理ステップと、
    前記溶体化処理ステップ終了直後に前記基材を毎分135℃以上の速度で昇温することによって、体心立方の一部から面心立方相を生成するステップと、
    前記昇温するステップ終了直後に前記基材を毎秒10℃以の速度で、常温まで降温するステップと、
    を備えることを特徴とするステンレス鋼の製造方法。
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