JP5827982B2 - 神経変性におけるfig4遺伝子変異 - Google Patents

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Description

本発明は国立衛生研究所の研究助成金GM24872号による政府の補助を受けて行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
発明の属する分野
本発明は神経障害、特にFIG4遺伝子における変異に関係する。また、本発明はバリアントFIG4対立遺伝子を検出するためのアッセイ法、および疾患状態に伴うFIG4遺伝子多型および変異を検出するためのアッセイ法も提供する。
発明の背景
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、頻度の高い遺伝性神経障害であり、米国では約2,500人に1人の割合で発症する。病名は、1886年に最初にこの疾患を報告した3人の医師、フランス、パリのジャンマリー・シャルコーとピエール・マリー、イギリス、ケンブリッジのハワード・ヘンリー・トゥースにちなんでつけられた。遺伝性運動性感覚性ニューロパチー(HMSN)または腓骨筋萎縮症とも呼ばれるCMTは、末梢神経に影響を与える一群の症状で構成される。末梢神経は脳と脊髄の外に存在し、四肢の筋肉ならびに感覚器に対応し、末梢神経から脳へ固有受容感覚情報が送られる。末梢神経に影響を与える障害は、末梢性神経障害と呼ばれる。
CMTの神経障害は運動性神経と感覚性神経の両方に影響を与える。典型的な症状としては、足と下腿の筋力低下により、垂れ足や鶏歩(足を異常に高く上げる歩き方)が生じ、頻繁に躓いたり転んだりする。土踏まずのアーチが高くなる変形や槌趾(足の指の中央関節が上に反り返る症状)などの足の変形も、足の小筋肉の筋力が低下することによって生じる特徴である。さらに、筋萎縮により、下腿が「逆シャンパンボトル型」になることがある。病勢の進行に伴い、手にも筋力低下と筋萎縮が起き、微細運動技能に困難が生じることがある。CMTでは、神経の長さに依存するプロセスの反映として、遠位型筋萎縮および筋力低下が起きる。
ほとんどの場合、思春期から成人期早期に発症するが、成人期中期まで発症が遅れることもある。症状の重篤度には、患者により大幅な変異があり、この疾患を持つ家族の間でさえ変異は大きい。症状の進行は緩徐である。痛みには中等度から重度までの幅があり、運動能力を維持するために、足装具や下肢装具、または他の矯正装置に頼る必要がある患者もいる。まれに、呼吸筋の筋力低下を起こす患者もあるが、CMTは致死的疾患とは見なされず、ほとんどの形のCMTでは、患者は正常な平均余命を持つ。
CMTには根本的な治療法がないが、理学療法、作業療法、装具、その他の矯正装置、さらには整形外科手術までをも用い、患者がこの疾患による身体障害と取り組む手助けをすることができる。さらに、激痛のある患者に対しては、鎮痛剤を処方することもできる。
CMTに対する好ましい治療法である理学療法と作業療法では、筋力トレーニング、筋肉と靱帯のストレッチ、体力トレーニング、適度なエアロビック運動を行う。ほとんどの療法士は、患者の医師の承認を得て、個人の能力と必要性に合わせて設計した特別治療プログラムを推奨する。また、療法士は、早期に治療プログラムを開始するよう助言する。筋力強化により、筋萎縮が遅れるか、または軽減されることがあるため、神経変性と筋力低下が身体障害にまで進行する前に筋力トレーニングを開始すると、最も効果がある。
ストレッチには、筋肉が不均等に骨を引っ張ることによる関節変形を防ぐ効果がある。スタミナを付けたり、耐久力を強化したりする運動は、力と運動能力を必要とする活動を毎日行うことによる疲労を防ぐために役立つ。適度なエアロビック運動は、循環器系の健全性と全般的な健康の維持に役立つ。ほとんどの療法士は、脆弱な筋肉と関節にストレスをかける可能性があるウォーキングやジョギングなどの活動よりも、バイクや水泳などのローインパクト(低衝撃)またはノーインパクト(無衝撃)の運動を推奨する。
多くのCMT患者は、日常の運動能力を維持し、負傷を防ぐために、足関節装具などの矯正装置を必要とする。足関節装具は、歩行や階段上りなどの活動中、支えと安定性を提供することにより、足首の捻挫を防ぐために役立つ。ハイトップ・シューズやブーツも、弱い足首の支えを患者に与えることができる。親指の添え木は、手の筋力低下と微細運動技能への対応に役立つ。補助装置は肉離れを防ぎ、筋力低下を軽減する場合があるため、障害が生じる前に使うことが望ましい。足と関節の変形を元に戻すための整形外科手術を受けるCMT患者もある。
CMTは末梢神経障害の原因の1つである。種々の末梢神経障害を原因とする診断に対し、特異的な療法が使われるため、明確な診断を下すことが望ましい。
CMTの診断と治療の改善だけでなく、理解が進んでいないCMTの分子的基礎の特徴を決定する強い必要性があることは明らかである。
本発明は神経障害、特にFIG4遺伝子における変異に関係する。また、本発明はFIG4対立遺伝子バリアントを検出するためのアッセイ法、および疾患状態に伴うFIG4遺伝子多型および変異を検出するためのアッセイ法も提供する。例えば、一部の実施例では、本発明は研究対象においてFIG4遺伝子バリアントを検出する方法を提供し、それには研究対象に由来する生体試料中のFIG4遺伝子バリアントの有無を検出することが含まれる。一部の実施例では、FIG4遺伝子バリアントはFIG4ポリペプチドバリアントをコードする(例えばFIG4のエクソン4のF98fsX102切り詰め型変異、FIG4のエクソン2のI41T変異、FIG4のエクソン6のR183X変異、および以上の変異を2種以上組み合わせたもの、または機能的に同等な変異、切り詰め型など)。一部の実施例では、FIG4対立遺伝子は、FIG4タンパク質の切り詰めを起こすヘテロ変異体であるか、I41T変異または別のミスセンス変異との複合ヘテロ接合体としての切り詰め型変異を含む。一部の実施例では、研究対象は神経障害の症状を示す(例えばシャルコー・マリー・トゥースのタイプ4J神経障害(CMT4J)、常染色体劣性遺伝神経障害、デジュリーヌ・ソッタ神経障害)。一部の実施例では、生体試料は血液試料、血清試料、血漿試料、組織試料、尿試料、DNA試料、羊水試料のいずれかであるが、これらの試料タイプに限らない。一部の実施例では、研究対象は胚、胎児、動物の新生仔、若年動物のいずれかである。一部の実施例では、その動物は人間である。一部の実施例では、FIG4遺伝子バリアントの存在の検出に、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ法または他の核酸分析法を含む。一部の実施例では、FIG4遺伝子バリアントの存在の検出はイムノアッセイまたは他のタンパク質解析法を含む。
一部の実施例では、本発明は研究対象においてFIG4遺伝子バリアントを検出するための方法を提供する。そのFIG4遺伝子バリアントは、FIG4の何らかの組み合わせの複合ヘテロまたはホモ変異遺伝子を含む。その方法には、研究対象に由来する生体試料におけるFIG4遺伝子バリアントの有無の検出が含まれる。
本発明の実施例はさらに、CMT4J病の症状を示す動物と試験化合物とを接触させること、および試験化合物が存在しない場合と比較し、試験化合物の存在下における症状の減少の有無を決定することを含む方法を提供する。一部の実施例では、動物はFIG4ポリペプチドバリアントを発現する(例えばFIG4のエクソン4のF98fsX102切り詰め型変異体、FIG4のエクソン2のI41T変異、FIG4のエクソン6のR183X変異、および以上の変異を2種以上組み合わせたもの)。
本発明はさらに、FIG4ポリペプチドバリアントを発現する分離細胞と試験化合物とを接触させること、および試験化合物が存在しない場合のレベルと比較し、試験化合物の存在下における細胞中のFab1/PIKfyve活性を測定することを含む方法を提供する。一部の実施例では、FIG4ポリペプチドバリアントは、FIG4のエクソン4のF98fsX102切り詰め型変異体、FIG4のエクソン2のI41T変異、FIG4のエクソン6のR183X変異、および以上の変異を2種以上組み合わせたものを含む。
[本発明1001]
被験者から抽出した生物試料におけるFIG4遺伝子バリアントの有無の検出を含む、被験者のFIG4遺伝子バリアントを検出する方法。
[本発明1002]
上記検出を用いて被験者における神経障害の危険性を評価する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
神経障害がシャルコー・マリー・トゥース病4J型神経障害(CMT4J)である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
神経障害が常染色体劣性神経障害である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
神経障害がデジュリーヌ・ソッタ病である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
FIG4遺伝子バリアントが機能喪失型の変異体である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
FIG4遺伝子バリアントが切り詰め型変異体である、本発明1001の方法。
[本発明1008]
切り詰め型変異体がホモ変異体である、本発明1007の方法。
[本発明1009]
切り詰め型変異がFIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体を含む、本発明1007の方法。
[本発明1010]
切り詰め型変異体が、ミスセンス変異と組み合わせた複合ヘテロ変異体である、本発明1007の方法。
[本発明1011]
ミスセンス変異が、FIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異を生じる、本発明1010の方法。
[本発明1012]
FIG4遺伝子バリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異をコードする遺伝子を含む、本発明1001の方法。
[本発明1013]
FIG4遺伝子バリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン6におけるR183X変異およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異をコードする遺伝子を含む、本発明1001の方法。
[本発明1014]
生物試料が、血液試料、組織試料、尿試料、DNA試料、羊水試料からなる群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1015]
被験者が、胚、胎児、動物の新生仔、若年動物からなる群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1016]
動物がヒトである、本発明1015の方法。
[本発明1017]
FIG4遺伝子バリアントの存在の検出が、核酸検出アッセイ法の実施を含む、本発明1001の方法。
[本発明1018]
FIG4遺伝子バリアントの存在の検出が、ポリペプチド検出アッセイ法を含む、本発明1001の方法。
[本発明1019]
以下を含む方法:
a) CMT4J病またはデジュリーヌ・ソッタ病の症状を示す動物と試験化合物とを接触させること、
b) 試験化合物の非存在下と比較し、試験化合物の存在下で症状が低下するか否かを判定すること。
[本発明1020]
動物がFIG4遺伝子バリアントを含み、該FIG4遺伝子バリアントが機能喪失型の変異体である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
FIG4遺伝子バリアントが切り詰め型変異体である、本発明1020の方法。
[本発明1022]
切り詰め型変異体がホモ変異体である、本発明1021の方法。
[本発明1023]
切り詰め型変異がFIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体を含む、本発明1021の方法。
[本発明1024]
切り詰め型変異体が、ミスセンス変異と組み合わせた複合ヘテロ変異である、本発明1021の方法。
[本発明1025]
ミスセンス変異が、FIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異を生じる、本発明1024の方法。
[本発明1026]
FIG4遺伝子バリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異をコードする遺伝子を含む、本発明1020の方法。
[本発明1027]
FIG4遺伝子バリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン6におけるR183X変異およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異をコードする遺伝子を含む、本発明1020の方法。
[本発明1028]
以下を含む方法:
a) FIG4ポリペプチドバリアントを発現する単離細胞と試験化合物とを接触させること、
b) 試験化合物の非存在下でのレベルと比較した試験化合物の存在下での細胞におけるFab1/PIKfyve活性化を定量すること。
[本発明1029]
FIG4ポリペプチドバリアントが機能喪失型の変異体である、本発明1028の方法。
[本発明1030]
FIG4ポリペプチドバリアントが切り詰め型変異体である、本発明1029の方法。
[本発明1031]
切り詰め型変異体がホモ変異である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
切り詰め型変異がFIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体を含む、本発明1030の方法。
[本発明1033]
切り詰め型変異体が、ミスセンス変異と組み合わせた複合ヘテロ変異である、本発明1030の方法。
[本発明1034]
ミスセンス変異が、FIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異を生じる、本発明1033の方法。
[本発明1035]
FIG4ポリペプチドバリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン4におけるF98fsX102切り詰め型変異体およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異を含む、本発明1028の方法。
[本発明1036]
FIG4ポリペプチドバリアントが、FIG4ポリペプチドのエクソン6におけるR183X変異およびFIG4ポリペプチドのエクソン2におけるI41T変異を含む、本発明1026の方法。
[本発明1037]
被験者においてFIG4遺伝子バリアントを検出する方法であって、FIG4遺伝子バリアントがFIG4の複合ヘテロまたはホモ変異対立遺伝子の組み合わせを含み、被験者に由来する生物試料中のFIG4遺伝子バリアントの存在または非存在の検出を含む方法。
ホモ接合体pale tremorマウスの表現型。a:P3の薄い色素沈着。b:P24の異常な四肢の向き。c:F2マウスの若年死(n=50)。d-e:色素を含む毛包を示すP10マウスの皮膚のホールマウント。f-g:変異マウスの毛幹中に凝集したメラノソーム(矢印)。 pale tremor遺伝子のポジショナルクローニング。a:マウス染色体10上のpltの遺伝子地図。3個の組み換え染色体と1,061個の非組み換え染色体のハプロタイプを示す。黒い四角は近交系の対立遺伝子を表し、白い四角はCAST対立遺伝子を表す。b:FIG4遺伝子のイントロン18中に組み込まれたEtn2βレトロトランスポゾンの位置。c:酵母Fig4pと哺乳類の相同体のタンパク質ドメイン。SACホスファターゼドメインの説明については本文を参照のこと。d:変異マウス培養繊維芽細胞中のホスホイノシチドPI(3,5)P2量の変化。 転写物とゲノムDNAの分子キャラクタリゼーション。a:指示されたエクソンにおいて順方向と逆方向のプライマーを使い、32サイクルの増幅を行う、FIG4転写物のRT-PCR。b:エクソン8で順方向プライマーを、指示されたエクソンにおいて逆方向プライマーを用いたRT-PCR。c:広範囲な神経変性が起きる前にP7の脳から単離した3μgのポリ(A)+RNAを含むノーザンブロットと1 kbのFig4 cDNAプローブ(エクソン8から15)のハイブリダイゼーションを行った。d:エクソン19から23に隣接するプライマーを用いたゲノムDNAのPCR。e:イントロン18とエクソン19中のプライマーを用いたゲノムDNAの長い塩基のPCR。f:Etn2βを導入したFIG4plt対立遺伝子に関する3種類のプライマーを使う遺伝子型決定アッセイ。g:野生型組織由来のFIG4転写物のRT-PCR。プライマーはエクソン8とエクソン15中にある。 pale tremorマウスにおける神経病理。a-b:P1の三叉神経節(生後1日)。c:P1の上頚神経節。d-e:P7の腰部の後根神経節。挿入図(a、c、d)は細胞質液胞の蓄積を示す。f-g:P21の脊髄前角。矢印は運動ニューロン細胞体。h-i:E16.5の胚の培養海馬ニューロン。TGは三叉神経節。SCGは上頚神経節。DRGは後根神経節。スケールバー:大きい写真では25ミクロン。挿入写真では12.5ミクロン(a-g)。 末梢神経の病理学的異常。 pale tremorマウスにおける脳の変性。Vは脳室。スケールバー:25ミクロン。 pale tremorマウス由来の培養繊維芽細胞中の細胞質小胞。a-d:変異繊維芽細胞は液胞で満たされている。e-g:大きい細胞質小胞の膜は、リソソーム膜タンパク質LAMP2の抗血清に反応し、染色される。スケールバー:10 μm。 シャルコー・マリー・トゥース病患者におけるFIG4の変異。a:血縁関係のないシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)患者4人の両方の対立遺伝子に関する配列決定クロマトグラフ。b:発端者BAB1079とBAB1372の系図から、変異対立遺伝子が遺伝することがわかる。c:脊椎動物種および無脊椎動物種由来のFIG4中のバリアント残基イソロイシン41に見られる進化的保存。d:CMT患者におけるFIG4変異の位置。黒い印はタンパク質切り詰め型変異。 FIG4対立遺伝子Ile>Thrが酵母Fab1/PIKfyveの活性化に関して欠陥を持つことを示した図。a:抗myc抗体を用いるウェスタンブロット分析法により、野生型および変異体のタンパク質発現が同等であることが示された。b: PI(3,5)P2の基礎レベルを示す指標である液胞容積を測定するために、酵母の液胞をFM4-64で標識した。c:Fab1活性化レベルを測定するための高浸透圧ショック後のPI(3,5)P2の時間的変化。 運動ニューロン中の小胞の蓄積。a:野生型マウスの脊髄の前角中に見られる典型的な運動ニューロン。b:変異脊髄の大半の運動ニューロンで、DRGおよび脳のニューロンと同様に、細胞質中(矢印)に液胞が存在した。スケールバー=25ミクロン。 生後3週のpltマウスplt (a) およびwt (b) の脾臓に見られる脾臓病理。HE染色。スケールバー:250ミクロン。 FIG4中に変異を保有するCMT患者のハプロタイプ。a:遺伝子型。HapMapデータベース中の7種のSNP、およびIle41Thr変異(c.122T>C)に関し、患者と患者家族に関する遺伝子型を決定した。b:ハプロタイプ。黒で示した5種のSNPから2系統に関する情報が得られ、ハプロタイプの再構築を可能にした。Ile41Thr(c.122T>C)対立遺伝子は、4人の患者全員で同じハプロタイプに存在する。Ile41Thr対立遺伝子について計算された連鎖不平衡(LD)係数D’は、rs3799845、rs2025149、rs7764711では1である。D’はrs4330563とrs4947022では0.11である。 FIG4のcDNA配列(SEQ ID NO:1)。最初のコドン(ATG)を下線で示した。I41T変異部位を下線で示した。変異対立遺伝子では、T塩基がC塩基に変わっている。
定義
発明の理解を助けるために、用語の定義を以下に挙げる。
本発明では、タンパク質または核酸を指す場合の「FIG4」という用語は、FIG4タンパク質または何らかの変異体の形でCMTと相関関係を持つ(例えばCMTタイプ4J)タンパク質をコードするFIG4核酸を意味する。FIG4という用語は、野生型FIG4と相同のタンパク質と、野生型FIG4から派生する(例えば、FIG4のバリアントまたはFIG4コーディング領域の一部で構成されるキメラ遺伝子)タンパク質の両方を包含する。一部の実施例では、「FIG4」は野生型FIG4核酸またはFIG4アミノ酸配列である。FIG4のcDNA配列を図12に示す(SEQ ID NO:1)。
本発明では、「生体試料におけるFIG4ポリペプチドバリアントの有無をそのように検出するために当該キットを使用するための指示」という用語は、バリアントと野生型のFIG4核酸またはポリペプチドを検出するために、キットに含まれる試薬を使用するための指示を含む。一部の実施例では、これらの指示はさらに、in vitroでの診断製品の標識化において米食品医薬品局(FDA)により義務付けられている使用目的の記述を含む。
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、RNA(例えばmRNA、tRNA、rRNAを含み、ただしそれらに限定しない)、前駆体のいずれかの生成に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を指す。ポリペプチド、RNA、前駆体は、完全な長さのコード配列により、または、全長または断片の望ましい活性または機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達など)が維持される限り、コード配列の一部により、コードすることができる。また、その用語は、構造遺伝子のコード領域、およびコード領域の5’末端と3’末端の両方に隣接し、それぞれ約1 kbの距離にわたり位置し、その遺伝子が全長mRNAの長さに相当するような、コード領域を含む配列も包含する。コード領域の5’末端に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と呼ばれる。3’末端すなわちコード領域の下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、cDNAとゲノムの形を取った遺伝子の両方を包含する。ゲノムの形を取った遺伝子またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列が中間に挟まったコード領域を含む。イントロンは核内RNA(hnRNA)に転写される遺伝子断片である。イントロンはエンハンサーなどの調節要素を含むことがある。イントロンは核内または一次転写物から除去すなわち「スプライス」により切り出される。このため、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)により処理された転写物中には存在しない。mRNAは翻訳中に、新生ポリペプチド中の配列すなわちアミノ酸の順序を指定する機能を果たす。
本発明において、自然発生のタンパク質分子のアミノ酸配列を指すために「アミノ酸配列」という言葉を用いる場合、「アミノ酸配列」に加え、「ポリペプチド」、「タンパク質」などの類似用語は、アミノ酸配列の意味を、言及されたタンパク質分子と関連する完全な未変性のアミノ酸配列に限定しない。
イントロンを含むことに加え、ゲノムの形の遺伝子は、RNA転写物上に存在し、配列の5’末端と3’末端の両方に位置する配列も含むことがある。これらの配列は「隣接」配列または領域と呼ばれる(これらの隣接領域は、mRNA転写物上に存在する非翻訳配列に対して5’または3’の位置にある)。5’隣接領域は、遺伝子の転写に影響を与えるプロモーターやエンハンサーなどの調節配列を含むことがある。3’隣接領域は、転写終結、転写後の切断、ポリアデニル化を命令する配列を含むことがある。
「野生型」という用語は、自然発生の供給源から単離された時に、その遺伝子または遺伝子産物の特徴を持つ遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、個体群の中で最も頻繁に観察され、従って、任意に「正常」または「野生型」の遺伝子と指定される遺伝子である。それとは対照的に、「修飾」、「変異」、「多型」、「バリアント」という用語は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較し、配列と機能特性またはそのいずれかに修飾(変化した特徴)が見られる遺伝子または遺伝子産物を指す。自然発生の変異体は単離できることが知られている。これらは野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較し、変化した特徴を持つという事実により特定される。
本発明では、「核酸分子コード」、「DNA配列コード」、「DNAコード」という用語は、デオキシリボ核酸鎖に沿ったデオキシリボ核酸の順序すなわち配列を指す。これらデオキシリボ核酸の順序は、きちんと確定した遺伝子コードに従い、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。つまり、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
モノヌクレオチドの五炭糖環の5’に位置するリン酸が、隣接する五炭糖の3’に位置する酸素と、リン酸ジエステル結合を介して一方向的に付着するという形で、モノヌクレオチドが反応し、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが合成されるため、DNA分子は「5’末端」と「3’末端」を持つと言われる。このため、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの末端は、5’のリン酸がモノヌクレオチド五炭糖環の3’の酸素と結合していない場合は「5’末端」と呼ばれ、3’の酸素がそれに続くモノヌクレオチド五炭糖環の5’のリン酸と結合していない場合は「3’末端」と呼ばれる。本発明において、核酸配列は、それよりも大きいオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの内部に存在する場合であっても、やはり5’末端と3’末端を持つと言われることがある。DNA分子が直鎖であるか環状であるかを問わず、別々の要素に関し、それが「下流」すなわち3’側要素の「上流」すなわち5’側にあるという言い方をする。このような言い方は、DNA鎖に沿って、転写が5’から3’の方向に進むことを反映している。結合した遺伝子の転写を命令するプロモーターおよびエンハンサー要素は、コード領域の5’側すなわち上流に位置するのが普通である。ただし、エンハンサー要素は、プロモーター要素とコード領域の3’側すなわち下流に存在する場合も、影響を与えることができる。転写終結とポリアデニル化のシグナルは、コード領域の3’側すなわち下流に位置する。
本発明において、「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を持つオリゴヌクレオチド」および「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチド」はという用語は、遺伝子のコード領域を構成する核酸配列、言い換えれば、遺伝子産物をコードする核酸配列を意味する。コード領域はcDNA、ゲノムDNA、RNAのいずれかの形で存在する。DNAの形で存在する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖(センス鎖)または二本鎖である。転写の適切な開始や一次RNA転写物の正しい処理を可能にするために必要な場合、エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、ポリアデニル化シグナルなどの適切な制御要素が、遺伝子のコード領域近くに置かれることがある。それとは別に、本発明の発現ベクター中で使われるコード領域は、内因性エンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、介在配列、ポリアデニル化シグナルなど、または内因性と外因性両方の制御要素の組み合わせを含むことがある。
本発明において、用語「調節要素」とは、核酸配列の発現の何らかの側面を制御する遺伝子要素を指す。例えばプロモーターは、作動可能であるように連結されたコード領域の転写開始を促進する調節要素である。他に調節要素としては、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルなどがある。
本発明において、「相補的」または「相補性」は、塩基対合の法則により関連づけられるポリヌクレオチド(ヌクレオチドの配列)を指すために使われる。例えば、「5’-A-G-T-3’」という配列は、「3’-T-C-A-5’」という配列と相補的である。相補性は「部分的」な場合もあり、核酸の塩基の一部のみが塩基対合の法則に従い対応する。または、核酸の間に「完全」または「全体」相補性が存在する場合もある。核酸鎖の相補性の程度は、核酸鎖のハイブリダイゼーションの効率と強度に対して相当の影響を与える。これは増幅反応において、また、核酸間の結合に依存する検出法において、特に重要である。
「相同性」という用語は相補性の程度を指す。部分的な相同性または完全な相同性(同一性)がある。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的核酸とハイブリッドを形成することを少なくとも部分的に阻害する配列であって、それを指すために「実質的に相同」という機能的用語が使われる。「結合の阻害」という用語は、核酸の結合について使われる場合、標的配列との結合をめぐる相同配列の競合により起きる結合の阻害を指す。完全に相補的配列の標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害は、低いストリンジェンシーという条件下でのハイブリダイゼーションアッセイ法か(サザンブロットまたはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーション法など)、またはオリゴヌクレオチドとmRNAまたはそのいずれかを使うマイクロアレイ法で調べることができる。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシーという条件下で、完全に相同な配列と標的配列の結合(ハイブリダイゼーション)のために競合し、それを阻害する。低ストリンジェンシーという条件により、非特異的結合が可能になるわけではない。低ストリンジェンシー条件では、2つの配列の相互結合が特異的な(選択的な)相互作用であることを必要とする。非特異的結合の非存在は、部分的相補性さえない(例えば約30%未満の相同性)第2の標的を使ってテストできる。非特異的結合が存在しないと、プローブは第2の非相補的標的との間でハイブリッドを形成しない。
当業者の間で既知のように、多数の同等の条件を採用し、低ストリンジェンシー条件を構成することができる。プローブの長さと性質(DNA、RNA、塩基組成)と標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか、固定化されているか、など)、および塩類その他の構成要素の濃度(例えば、ホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの有無)などの要因が考慮され、また、以上に列挙した条件とは異なるが、それらと同等の低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を生むために、ハイブリダイゼーション溶液を変えることもある。それに加え、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーションを進める条件が、当業者の間で知られている(例えば、ハイブリダイゼーションや洗浄の温度を上げる、ハイブリダイゼーション溶液でホルムアミドを使う、など)。さらに、cDNAやゲノムクローンなどの二本鎖核酸配列に関して使われる場合、「実質的に相同」という用語は、上記の低ストリンジェンシー条件下で二本鎖核酸配列の片方または両方の鎖とハイブリッドを形成できるプローブを意味する。
遺伝子は、一次RNA転写物の差異あるスプライシングにより生じる複数のRNA種を産生する。同じ遺伝子のスプライスバリアントであるcDNAは、配列相同性または完全相同性領域と(両方のcDNAで同じエクソンまたは同じエクソンの一部が存在することを表す)、完全非相同性領域(例えば、cDNA 1にはエクソン「A」が、cDNA 2には、その代わりにエクソン「B」が、それぞれ存在することを表す)を含む。2つのcDNAは配列が相同の領域を含むため、両方のcDNAに存在する配列を含む遺伝子の全体または遺伝子の一部に由来するプローブとの間で、どちらのcDNAもハイブリッドを形成する。従って、2種のスプライスバリアントは、そのようなプローブに対し、また、相互に、実質的に相同である。
一本鎖核酸配列に関して使われる場合、「実質的に相同」という用語は、上記の低ストリンジェンシー条件下で一本鎖核酸配列とハイブリッドを形成できる(つまり、それと相補的な)プローブを意味する。
本発明において、「結合のために競合する」という用語は、活性を持つ第1のポリペプチドが活性を持つ第2のポリペプチドと同じ基質に結合し、第2のポリペプチドが第1のポリペプチドのバリアントであるか、関連するポリペプチドであるか、非類似のポリペプチドである場合に、第1のポリペプチドを指すために使われる。第1のポリペプチドによる結合の効率(例えば速度論上または熱力学上の)は、第2のポリペプチドによる基質との結合の効率と相同であるか、それよりも高いか、それよりも低い。例えば、基質との結合の平衡結合定数(KD)は、2つのポリペプチドで異なる場合がある。本発明で使われる「Km」という用語は、酵素に関するミカエリスメンテン定数であり、任意の酵素が酵素触媒反応において最大速度の半分に達する特定基質濃度と定義される。
本発明において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的核酸が対を作ることを指す。ハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーションの強度(核酸間の結びつきの強さ)は、核酸間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、核酸内のG:C比などの要因により影響を受ける。
本発明において、「Tm」という用語は「融解温度」を指すために使われる。融解温度は、二本鎖核酸分子群の半分が解離し、一本鎖になる温度である。核酸のTmを計算するための式は、当業者の間でよく知られている。標準的な参考文献で示されるように、Tm値の簡単な推定値は、Tm =81.5 + 0.41 (%G + C) という式で計算できる。ここで核酸は1 M NaClを溶媒とする水溶液の状態である(例えばAnderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, Nucleic Acid Hybridization (1985) を参照)。他の参考文献では、配列特性だけでなく構造特性も考慮に入れてTmを計算する高度な計算方法が紹介されている。
本発明において、「ストリンジェンシー」という用語は、温度、イオン強度、および有機溶媒など、他の化合物の存在という、核酸のハイブリダイゼーションが行われる条件を指す。当業者の間で認識されるように、上記のパラメータを個別に、または合わせて変動させることにより、「ストリンジェンシー」条件を変更できる。「高ストリンジェンシー」条件では、核酸塩基の対合は相補的塩基配列の頻度が高い核酸断片間でのみ起きる(例えば、「高ストリンジェンシー」条件下でのハイブリダイゼーションは、約85〜100%の相同性、好ましくは約70〜100%の相同性を持つ相同体の間で起きることがある)。中ストリンジェンシー条件では、核酸塩基の対合は相補的塩基配列の頻度が中等度である核酸間で起きる(例えば、「中ストリンジェンシー」条件下でのハイブリダイゼーションは、約50〜70%の相同性を持つ相同体の間で起きることがある)。従って、遺伝子が多様である生物に由来する核酸では、相補的配列の頻度が普通低いため、「弱い」すなわち「低い」ストリンジェンシーがしばしば必要とされる。
核酸のハイブリダイゼーションに関する「高ストリンジェンシー条件」は、長さ約500塩基のプローブを使用し、42℃で、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5% SDS、5Xデンハート反応液、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成される溶液中で結合すなわちハイブリダイゼーションを行い、その後、42℃で、0.1X SSPE、1.0% SDSで構成される溶液中で洗浄することと同等の条件を含む。
核酸のハイブリダイゼーションに関する「中ストリンジェンシー条件」は、長さ約500塩基のプローブを使用し、42℃で、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5% SDS、5Xデンハート反応液、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成される溶液中で結合すなわちハイブリダイゼーションを行い、その後、42℃で、1.0X SSPE、1.0% SDSで構成される溶液中で洗浄することと同等の条件を含む。
核酸のハイブリダイゼーションに関する「低ストリンジェンシー条件」は、長さ約500塩基のプローブを使用し、42℃で、5X SSPE(43.8 g/l NaCl、6.9 g/l NaH2PO4 H2O、1.85 g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.1% SDS、5Xデンハート反応液(500 mlあたり50Xデンハート:5 gフィコール(Type 400、Pharamcia)、5 g BSA(Fraction V、Sigma))、100 μg/ml変性サケ精子DNAで構成される溶液中で結合すなわちハイブリダイゼーションを行い、その後、42℃で、5X SSPE、0.1% SDSで構成される溶液中で洗浄することと同等の条件を含む。本発明は長さ約500塩基のプローブのハイブリダイゼーションに限定されない。本発明では、約10塩基から数千(例えば最低5,000)塩基までのプローブの使用が想定される。
当業者の間で既知のように、他のサイズのプローブに合わせてストリンジェンシー条件を変更できる(例えばAnderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, Nucleic Acid Hybridization (1985) およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, NY (1989) を参照)。
以下の用語は、2個以上のポリヌクレオチド間の配列に関する関係性を記述するために使われる。「基準配列」、「配列相同性」、「配列相同性の比率」、「実質的相同性」。「基準配列」は、配列を比較するための基準として使われる一定の配列である。基準配列は、例えば配列リスト中の全長cDNA配列の一部として、より大きな配列のサブセットである場合や、完全な遺伝子配列を含む場合がある。一般に、基準配列の長さは最低20塩基であり、頻繁に最低25塩基であり、多くの場合、長さが最低50塩基である。2個のポリヌクレオチドは、各々が (1) 2ポリヌクレオチド間で類似の配列(完全なヌクレオチド配列の一部)を含み、(2) さらに、2ポリヌクレオチド間で多岐にわたる配列を含む場合があるため、2個(またはそれ以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は通常、配列類似性のある局所的領域を同定し、比較するための「比較域」部分について配列を比較することにより行われる。本発明においては、「比較域」とは、最低20の連続したヌクレオチド位置から成る概念的区域であって、そこでポリヌクレオチド配列を、最低20の連続したヌクレオチドから成る基準配列と比較することができ、また、比較域内のポリヌクレオチド配列部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、基準配列(付加も欠損も含まない)と比べて20パーセント以下の付加または欠損(ギャップ)を含む場合がある。比較域を整列させるための配列の最適なアラインメントは、Smith and Watermanの局所相同性アルゴリズム(Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981))、Needleman and Wunschの相同性アラインメント・アルゴリズム(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970))、Pearson and Lipmanの類似性法に関する研究(Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85:2444 (1988))、これらのアルゴリズムのコンピュータでの実装(GAP, BESTFIT, FASTA, TFASTA, Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)、あるいは目視により行うことができ、各種の方法を使い求めた最善のアラインメント(つまり、比較域において相同性の比率が最高になるもの)を選択する。「配列相同性」という用語は、2個のポリヌクレオチド配列が、比較域において相同である(ヌクレオチドごとに同一)ことを意味する。「配列相同性の比率」は、比較域内で2個の最適に整列させた配列を比較し、両方の配列で相同の核酸塩基(例えばA、T、C、G、U、I)が存在する位置の数を決定して対応した位置の数を求め、対応した位置の数を比較域中の位置の総数(比較域のサイズ)で割り、その解に100を掛けて求める。「実質的相同性」という用語は、本発明において、ポリヌクレオチド配列の特性を表し、それは最低20のヌクレオチド位置から成る比較域において、頻繁に最低25〜50のヌクレオチド位置から成る比較域において、基準配列と比較し、ポリヌクレオチドが最低85パーセントの配列相同性を持ち、好ましくは最低90〜95パーセントの配列相同性を持ち、それよりも普通には、最低99パーセントの配列相同性を持つような特性であり、ここで、配列相同性の比率は、基準配列とポリヌクレオチド配列を比較して計算し、後者は比較域において全部で基準配列の20パーセント以下に相当する欠損または付加を含むことがある。基準配列は、例えば本発明で特許請求を行う組成物(例えばFIG4)の全長配列の一部として、より大きな配列のサブセットである場合がある。
ポリペプチドに使われる場合、「実質的相同性」という用語は、2個のペプチド配列が、GAPまたはBESTFITプログラムでデフォルトギャップ加重を使うなどの方法で、最適に整列された時、最低80パーセントの配列相同性、好ましくは最低90パーセントの配列相同性、より好ましくは最低95パーセントの配列相同性またはそれ以上(例えば99パーセントの配列相同性)を共有することを意味する。相同ではない残基位置における違いが、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換とは、類似の側鎖を持つ残基が交換可能であることを意味する。例えば、脂肪族側鎖を持つアミノ酸類は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンである。脂肪族ヒドロキシ化合物の側鎖を持つアミノ酸類は、セリンとスレオニンである。アミド含有側鎖を持つアミノ酸類は、アスパラギンとグルタミンである。芳香族側鎖を持つアミノ酸類は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンである。塩基性側鎖を持つアミノ酸類は、リジン、アルギニン、ヒスチジンである。イオウ含有側鎖を持つアミノ酸類は、システインとメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、アスパラギン−グルタミンである。
本発明で使われる「断片」という用語は、未変性タンパク質と比べ、アミノ末端とカルボキシ末端またはそのいずれかが欠損し、しかし、残りのアミノ酸配列は、全長cDNA配列から推定されるアミノ酸配列中の対応する位置と相同であるようなポリペプチドを意味する。通常、断片は最低4個の長さのアミノ酸であり、好ましくは最低20個の長さのアミノ酸であり、普通は50個以上の長さのアミノ酸であり、種々のリガンドや基質と組成物(本発明で特許請求を行うもの)との分子間結合に必要とされるポリペプチドの部分全体にまたがる。
「多型遺伝子座」という用語は、集団の構成要素中に変異があるような(つまり、最も多い対立遺伝子の出現頻度が0.95未満)集団中に存在する遺伝子座を指す。対照的に、「単型遺伝子座」は、集団の構成要素中に変異がほとんど、あるいは全く見られない遺伝子座である(一般に、集団の遺伝子プールにおいて、最も多い対立遺伝子の出現頻度が0.95を超える遺伝子座と考えられる)。
本発明において、「遺伝子変異情報」または「遺伝子バリアント情報」という用語は、特定遺伝子(例えばFIG4遺伝子)の任意の対立遺伝子における1つ以上の核酸配列バリアント(例えば多型または変異)の存在または非存在を指す。
本発明において、「検出アッセイ法」という用語は、特定遺伝子(例えばFIG4遺伝子)の任意の対立遺伝子における核酸配列バリアント(例えば多型または変異)の存在または非存在を検出するためのアッセイ法を指す。
本発明において、ある物体に対して「自然発生」という用語を用いた場合、その物体が自然の中に見つかることを意味する。例えば、生物(ウィルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列であって、自然の供給源から単離することができ、実験室で人により意図的に修飾されていないものは、自然発生である。
「増幅」は、鋳型特異性を必要とする特別な核酸複製である。それは非特異性の鋳型複製(鋳型に依存するが、特異的な鋳型には依存しない複製)と対照的である。ここで、鋳型特異性は、複製の忠実度(適正なポリヌクレオチド配列の合成)およびヌクレオチド(リボまたはデオキシリボ)特異性とは区別される。鋳型特異性は頻繁に「標的」特異性という用語で記述される。標的配列は、配列特異的相補性により他の核酸から選別することが求められるという意味で、「標的」である。増幅技法は主に、この選別を目的として設計されてきた。
ほとんどの増幅技法において、鋳型特異性は酵素の選択により達成される。増幅酵素は、それらが使用される条件下で、核酸の異種混合状態の中で、核酸の特定配列のみを処理する。例えば、Qβレプリカーゼの場合、MDV-1 RNAがこのレプリカーゼの特異的鋳型である(D.L. Kacian et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69:3038 (1972))。他の核酸はこの増幅酵素により複製されない。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、この増幅酵素はそれ自体のプロモーターに関する厳しい特異性を持つ(Chamberlin et al., Nature 228:227 (1970))。T4 DNAリガーゼの場合、この酵素は連結接合部でオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と鋳型が対応しない場合、2つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを連結しない(D.Y. Wu and R.B. Wallace, Genomics 4:560 (1989))。最後に、TaqおよびPfuポリメラーゼは、結合され、プライマーにより定義される配列に関し、高温で機能するという能力を通じて高い特異性を示すことが判明している。高温により生じる熱力学状態が、プライマーの標的配列とのハイブリダイゼーションを促進し、非標的配列とのハイブリダイゼーションは促進しない(H.A. Erlich (ed.), PCR Technology, Stockton Press (1989))。
本発明において、「増幅可能な核酸」という用語は、どのような増幅法によっても増幅が可能な核酸を指す。「増幅可能な核酸」は普通、「試料鋳型」を含むものと考えられる。
本発明において、「試料鋳型」という用語は、「標的」(以下に定義)の存在に関して分析される試料に由来する核酸を指す。対照的に、「背景鋳型」とは、試料中に存在するかまたは存在しない試料鋳型以外の核酸を指す。背景鋳型はほとんどの場合、不注意によるものである。それはキャリーオーバーの結果であるか、または精製により試料から排除しようとする核酸混入物の存在が原因である。例えば、検出しようとするもの以外の生物由来の核酸が、試験試料中に背景として存在する場合がある。
本発明において、「プライマー」という用語は、精製した制限酵素分解産物中に自然に存在するか、合成されるかを問わず、核酸鎖と相補的なプライマー延長産物の合成が誘導される条件下(ヌクレオチドとDNAポリメラーゼなどの誘導物質が存在し、適切な温度とpHに設定)に置かれた時に、合成の開始点として働くことが可能なオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、増幅の効率を最大にするために、好ましくは一本鎖であるが、その代わりに二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーは最初に鎖を分離する処理を受け、その後、延長産物の産生に使われる。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは誘導物質の存在下で延長産物の合成を引き起こすために十分な長さを持つ必要がある。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー供給源、方法の使用法など、多数の要因に依存する。
本発明において、「プローブ」という用語は、精製した制限酵素分解産物中に自然に存在するか、遺伝子組み換えまたはPCR増幅により合成されるかを問わず、注目する別のオリゴヌクレオチドとハイブリッドを形成する能力を持つオリゴヌクレオチド(ヌクレオチドの配列)を指す。プローブは一本鎖か二本鎖のどちらかである。プローブは特定遺伝子配列の検出、同定、単離に利用できる。本発明で使われるプローブは、「レポーター分子」で標識し、酵素(例えばELISA、および酵素を使う組織化学的アッセイ法)、蛍光、放射性、発光システムを含み、それらに限定しない検出システムにより、検出可能である。本発明を特定の検出システムまたは標識に限定することは意図しない。
本発明において、「標的」という用語は、検出または特性決定の対象である核酸配列または構造を指す。従って、「標的」は他の核酸配列から選別することが求められる。「セグメント」は標的配列内の核酸の領域と定義される。
本発明において、「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」は、各々が特定のヌクレオチド配列において、またはその近辺で二本鎖DNAを切断する細菌性酵素を指す。
本発明において、「組み換えDNA分子」という用語は、分子生物学的技法を使い連結されたDNAのセグメントを含むDNA分子を指す。
本発明において、「アンチセンス」という用語は、特定のRNA配列(例えばmRNA)に対して相補的なRNA配列を指すために使われる。この定義には、細菌による遺伝子調節に関与するアンチセンスRNA(「asRNA」)分子が含まれる。アンチセンスRNAは、コード鎖の合成を可能にするウィルスプロモーターと逆向きに、注目する遺伝子をスプライスすることによる合成を含め、何らかの方法により産生することができる。胚に導入されると、この転写された鎖は、胚により自然に産生されるmRNAと結びつき、二本鎖を形成する。その後、これらの二本鎖は、mRNAのさらなる転写またはその翻訳のいずれかをブロックする。このようにして変異表現型が生成される。「アンチセンス鎖」という用語は、「センス」鎖と相補的な核酸鎖を指すために使われる。アンチセンス鎖を指すために(-)(「マイナス」)という記号が使われることがあり、センス(「プラス」)鎖に対しては(+)という記号が使われることがある。
「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」など、核酸に関して「単離された」という用語が使われる場合、それは核酸配列が同定され、自然の供給源において通常それに付随する少なくとも1つの混在性の核酸から、それが分離されていることを意味する。単離された核酸は、自然に見つかる場合とは異なる形または状況で存在する。対照的に、単離されていない核酸は、自然に存在する状態で見つかるDNAやRNAなどの核酸である。例えば、DNA配列(例えば遺伝子)は宿主細胞の染色体で隣の遺伝子の近くに存在する。特定のタンパク質をコードする特異的mRNA配列などのRNA配列は細胞中で、多数のタンパク質をコードする膨大な数の他のmRNAと混在する形で存在する。しかし、FIG4をコードする単離された核酸は、例えば、細胞中で普通にFIG4を発現する核酸であるが、自然な細胞とは異なる染色体上の位置にあるか、または自然に見られるものとは異なる核酸配列の側にあるような核酸を含む。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドは、一本鎖か二本鎖の形を取る。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドをタンパク質の発現に使おうとする場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、最低限、センスまたはコード鎖を含むが(つまり、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖)、センスとアンチセンス両方の鎖を含むこともある(つまり、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖)。
本発明において、「染色体の一部」とは、染色体の別々のセクションを指す。細胞遺伝学では、染色体を部位またはセクションに分けている。染色体の短腕(セントロメアと比較して)は「p」腕と呼ばれる。長腕は「q」腕と呼ばれる。次に、各腕が領域1と領域2と呼ばれる2つの領域に分かれる(領域1の方がセントロメアに近い)。各領域はさらにバンドに分かれる。バンドはさらにサブバンドに分かれる。例えば、ヒト染色体11の11p15.5という部分は、染色体11(11)上で、短腕(p)第1領域(1)第5バンド(5)サブバンド5(.5)に位置する。染色体の部分が「変化」することがある。例えば、欠損により部分全体がなくなる場合や、配置が変わることがある(例えば、逆転、転座、反復領域の変化による伸長と短縮)。欠損の場合、染色体の特定部分と相同なプローブのハイブリダイゼーション(特異的に結合させること)を試みると、マイナスの結果が(つまり、染色体に欠けた部分がある遺伝子材料を含む試料とプローブが結合できない)得られる可能性がある。従って、染色体の特定部分と相同なプローブのハイブリダイゼーションは、染色体の一部における変質の検出に利用できる。
「染色体と関連する配列」という用語は、染色体の標本(例えば中期染色体スプレッド)、染色体DNAを含む試料から抽出される核酸(ゲノムDNA標本)、染色体上に位置する遺伝子の転写により産生されるRNA(例えばhnRNAやmRNA)、染色体上に位置するDNAから転写されるRNAのcDNAコピーを意味する。染色体と関連する配列は、サザンブロットおよびノーザンブロットとプローブとのハイブリダイゼーション、上に列挙した標本中の核酸と相同な配列を含むプローブと、RNA、DNA、または中期染色体とのin situハイブリダイゼーションなど、多数の技法により検出することができる。
本発明において、ヌクレオチド配列に関して「部分」という用語を使用する場合(例えば「あるヌクレオチド配列の部分」)、それはその配列の断片を意味する。断片のサイズは、4個の塩基から、ヌクレオチド配列全体の数(ヌクレオチドが10、20、30、40、50、100、200、等々)から1個の塩基を差し引いた数までの範囲である。
本発明において、構造遺伝子に関して「コード領域」という用語を使用する場合、それはmRNA分子を翻訳した結果である新生ポリペプチド中のアミノ酸をコードする核酸配列を意味する。コード領域は真核生物では、イニシエーターのメチオニンをコードする「ATG」というヌクレオチドのトリプレットにより5’側に結合され、ストップコドンを指定する3種類のトリプレット(TAA、TAG、TGA)の1種により、3'側に結合される。
本発明において、「精製した」または「精製すること」という用語は、試料から混在物質を除去することを指す。例えば、FIG4抗体は混在する免役グロブリン以外のタンパク質を除去して精製される。また、FIG4と結合しない免疫グロブリンの除去によっても精製される。免疫グロブリン以外のタンパク質の除去やFIG4と結合しない免疫グロブリンの除去により、試料中でFIG4反応性の免疫グロブリンが占める比率が上昇する。別の例では、組み換えFIG4ポリペプチドは細菌宿主内で発現され、ポリペプチドは宿主タンパク質を除去することにより精製される。その結果、組み換えFIG4ポリペプチドの比率が試料中で上昇する。
本発明において、「組み換えDNA分子」という用語は、分子生物学的技法を使い連結されたDNAセグメントを含むDNA分子を指す。
本発明において、「組み換えタンパク質」または「組み換えポリペプチド」という用語は、組み換えDNA分子から発現されるタンパク質分子を指す。
本発明において、「未変性タンパク質」という用語は、あるタンパク質がベクターの配列によりコードされたアミノ酸残基を含まないことを意味する。すなわち、未変性タンパク質は、自然発生のタンパク質中に見られるアミノ酸のみを含む。未変性タンパク質は、組み換えという手段により産生するか、または自然発生の供給源から単離することができる。
本発明において、タンパク質に関して「部分」という用語を使用する場合(例えば「あるタンパク質の部分」)、そのタンパク質の断片を指す。断片のサイズは、4個のアミノ酸残基から、アミノ酸配列全体の数から1個のアミノ酸を差し引いた数までの範囲である。
「サザンブロット」という用語は、アガロースゲルまたはアクリルアミドゲル上で行うDNA分析法を指し、この方法では、DNAをサイズにより分画した後、DNAをゲルからニトロセルロースメンブレンまたはナイロン支持体などの固体支持体に移す。次に、固定したDNAと標識プローブとの間でハイブリダイゼーションを行い、使用したプローブと相補的なDNA種を検出する。電気泳動にかける前に、DNAを制限酵素で切断することもある。電気泳動後、DNAを固体支持体に移す前、または移す途中で、DNAを部分的に脱プリン化し、変性させることがある。サザンブロットは分子生物学における標準的な手法である(J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, NY pp 9.31-9.58 (1989))。
本発明において、「ノーザンブロット」という用語は、アガロースゲルまたはアクリルアミドゲル上でRNAの電気泳動により行うRNA分析法を指し、この方法では、RNAをサイズにより分画した後、RNAをゲルからニトロセルロースメンブレンまたはナイロン支持体などの固体支持体に移す。次に、固定したRNAと標識プローブとの間でハイブリダイゼーションを行い、使用したプローブと相補的なRNA種を検出する。ノーザンブロットは分子生物学における標準的な手法である(J. Sambrook et al., 同上 pp 7.39-7.52 (1989))。
「ウェスタンブロット」という用語は、ニトロセルロースまたはメンブレンなどの支持体に固定されたタンパク質(またはポリペプチド)の分析を指す。タンパク質をアクリルアミドゲル上で電気泳動にかけて分離した後、タンパク質をゲルからニトロセルロースまたはナイロンメンブレンなどの固体支持体に移す。次に、固定したタンパク質を、注目する抗原と反応する抗体に曝露させる。抗体の結合は、放射標識抗体を使用するなど、種々の方法で検出できる。
本発明において、「抗原決定基」という用語は、特定の抗体と接触する抗原の特定部分(エピトープ)を指す。宿主動物を免疫化するためにタンパク質またはタンパク質の断片を使用すると、そのタンパク質の多数の領域がタンパク質上のある領域または三次元構造と特異的に結合する抗体の産生を誘導する。これらの領域または構造が抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、抗体との結合をめぐりインタクトな抗原(免疫反応を起こすために使われる「免疫原」)と競合することがある。
本発明において、「導入遺伝子」という用語は、新たに受精した卵子または初期胚に遺伝子を導入することにより生物中に導入される外来遺伝子、異種遺伝子、自己遺伝子のいずれかを指す。「外来遺伝子」という用語は、実験操作により動物のゲノムに導入される核酸(例えば遺伝子配列)を指し、導入された遺伝子が自然発生遺伝子と同じ位置に常在しない限り、その動物中に見つかる遺伝子配列を含むことができる。「自己遺伝子」という用語は、自然発生遺伝子のバリアント(例えば多型または変異)を含むものと意図されている。従って、導入遺伝子という用語は、自然発生遺伝子をその遺伝子のバリアントで置き換えたものを包含する。
本発明において、「ベクター」という用語は、1つの細胞から別の細胞にDNAセグメントを移す核酸分子を指すために使われる。「運び屋」という用語はベクターと互換的に使われることがある。
本発明において、「発現ベクター」という用語は、機能を果たすよう連鎖したコード配列の特定宿主生物における発現に必要な望ましいコード配列と適切な核酸配列を含む組み換えDNA分子を指す。原核生物における発現に必要な核酸配列は普通、プロモーター、オペレーター(オプション)、リボソーム結合部位を含み、しばしば他の配列も含む。真核生物の細胞は、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル、ポリアデニル化シグナルを使うことが知られている。
本発明において、「宿主細胞」という用語は、存在場所がin vitroであるかin vivoであるかを問わず、何らかの真核生物または原核生物の細胞を指す(例えば、大腸菌などの細菌の細胞、酵母細胞、哺乳類の細胞、鳥類の細胞、両生類の細胞、植物の細胞、魚類の細胞、昆虫の細胞)。例えば、宿主細胞は遺伝子導入動物の体内に存在することがある。
「過剰発現」または「過剰発現すること」という用語と、それと文法的に同等な用語は、対照動物または非遺伝子導入動物中の組織で観察される通常のレベルよりも約3倍高い発現レベルを意味するmRNAレベルを指す。mRNAのレベルは、ノーザンブロット分析を含み、だがそれに限定されない、当業者の間で既知の数種類の技法を使って測定される。分析する各組織からロードしたRNA量の差を調べるための対照として、ノーザンブロットには適切な対照が含まれる(例えば、28S rRNAは全組織にほぼ同量存在する豊富なRNA転写物であるが、各試料中に存在する28S rRNAの量を、ノーザンブロット上で観察されるFIG4 mRNA特異シグナルの正規化または標準化の手段として使うことができる)。正しくスプライスしたFIG4導入遺伝子RNAに対応するサイズのバンドに存在するmRNAの量を数量化する。導入遺伝子プローブとハイブリッドを形成する他のあまり重要でないRNA種は、遺伝子導入mRNAの発現の数量化において考慮に入れない。
本発明において、「形質移入」という用語は、外来DNAを真核生物細胞に導入することを指す。形質移入は、リン酸カルシウムとDNAの共沈殿、DEAEとデキストランを使う形質移入、ポリブレンを使う形質移入、電気穿孔、微量注入、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウィルス感染、微粒子銃など、多種多様な手段を用いて達成できる。
「安定した形質移入」または「安定した形で形質移入された」という用語は、外来DNAを形質移入される細胞のゲノムに導入し、それと統合することを指す。「安定した形質移入」という用語は、外来DNAをゲノムDNAに安定した形で統合した細胞を指す。
「一過性形質移入」または「一過性の形で形質移入された」という用語は、外来DNAを細胞に導入したが、その外来DNAが形質移入された細胞のゲノムと統合できない場合を指す。外来DNAは数日間、形質移入された細胞の核にとどまる。この間に、外来DNAは、染色体中の内在性遺伝子の発現を支配する調節制御の対象となる。「一貫性形質移入細胞」という用語は、外来DNAを取り込んだが、このDNAを統合できなかった細胞を指す。
「試験化合物」という用語は、疾患、病気、不調、身体機能の障害を治療するか、または予防するため、またはそれ以外に、試料の生理学的状態または細胞の状態を変えるために使用できる化学的実体、製薬、薬品などを指す。試験化合物は既知の治療用化合物と潜在的治療用化合物の両方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング法を使うスクリーニングにより、治療効果があると決定できる。「既知の治療用化合物」とは、そのような治療または予防において効果があることが明らかにされた(例えば、動物試験を通じ、または以前にヒトに投与した経験を通じ)治療用化合物を指す。
本発明において、「試料」という用語はきわめて広義に使われる。ヒト染色体またはヒト染色体と関連する配列を含むと思われる試料としては、細胞、細胞から単離された染色体(例えば中期染色体スプレッド)、ゲノムDNA(溶液中、またはサザンブロット分析などで固体支持体に固定)、RNA(溶液中、またはノーザンブロット分析などで固体支持体に固定)、cDNA(溶液中、または固体支持体に固定)などが含まれる。タンパク質を含むと思われる試料としては、細胞、組織の部分、1種以上のタンパク質を含む抽出物などが含まれる。
本発明において、アッセイに関して「反応」という用語が使われる場合、それは検出可能なシグナルの生成を指す(例えば、レポータータンパク質の蓄積、イオン濃度の上昇、検出可能な化学産物の蓄積)。
本発明において、「レポーター遺伝子」という用語は、アッセイできるタンパク質をコードする遺伝子を指す。レポーター遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、deWet et al., Mol. Cell. Biol. 7:725 (1987) および米国特許第6,074,859号、5,976,796号、5,674,713号、5,618,682号を参照。これら各々の全体がこの参照により開示に含まれる)、緑色蛍光タンパク質(例えば、GenBank Accession Number U43284 CLONTECH Laboratories, Palo Alto, CAが数種類のGFP変異体を販売している)、クロラムフェニコールアセチル基転移酵素、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼが含まれるが、それらに限定されない。
本発明において、「コンピュータメモリ」および「コンピュータメモリデバイス」という用語は、コンピュータプロセッサにより読み取り可能なあらゆるストレージ媒体を指す。コンピュータメモリの例としては、RAM、ROM、コンピュータチップ、デジタルビデオディスク(DVD)、コンパクトディスク(CD)、ハードディスクドライブ(HDD)、磁気テープが含まれるが、それらに限定されない。
本発明において、「コンピュータ読み取り可能媒体」という用語は、情報を(例えばデータや指示)保存し、コンピュータプロセッサに提供するための装置またはシステムを指す。コンピュータ読み取り可能媒体の例としては、DVD、CD、ハードディスクドライブ、磁気テープ、およびネットワークを介したストリーミングメディアのためのサーバが含まれるが、それらに限定されない。
本発明において、「その遺伝的変異情報を、そのコンピュータに入力する」などの形で「入力」という用語を使用する場合、それは情報を「コンピュータ読み取り可能媒体」に移すことを指す。情報は何らかの適切な方法で移すことができ、それには手動(例えば、コンピュータにタイプ入力)または自動(例えば、別の「コンピュータ読み取り可能媒体」から「プロセッサ」を介して移す)が含まれるが、それらに限定されない。
本発明において、「プロセッサ」、「中央処理装置」、「CPU」という用語は互換的に使われ、コンピュータメモリ(例えばROMその他のコンピュータメモリ)からプログラムを読み出し、そのプログラムに従い一連の作業を実行することができる装置を指す。
本発明において、「コンピュータに実装された方法」という用語は、「CPU」および「コンピュータ読み取り可能媒体」を使う方法を指す。
発明の詳細な説明
本発明は神経障害、特にFIG4遺伝子における変異に関係する。また、本発明はFIG4対立遺伝子バリアントを検出するためのアッセイ法、および疾患状態に伴うFIG4遺伝子多型および変異を検出するためのアッセイ法も提供する。
本発明の特定の実施例について以下に説明する。本発明はここに説明する実施例に限定されない。当業者の間で認識されるように、他の実施例も本発明の範囲内である。
I. 診断適用
一部の実施例において、本発明はFIG4対立遺伝子の変異体の有無に基づき、CMT4J病を診断する方法を提供する。
A. FIG4対立遺伝子
以下に記述するように、本発明の一部の実施例が進展する間に実施された実験の結果、CMT疾患タイプ4Jと関連するFIG4対立遺伝子バリアントが同定された。従って、一部の実施例において、本発明は疾患状態と関連するFIG4変異遺伝子を提供する。FIG4変異遺伝子の例は、エクソン4のF98fsX102、エクソン2のI41T、エクソン6のR183Xをコードするものを含むが、それらに限定されない。一部の実施例において、CMT4J患者はI41Tと他の変異1つの両方を保有する。一部の実施例において、患者は複合ヘテロ接合体である。一部の実施例において、患者ではFIG4タンパク質の切り詰めを引き起こすFIG4の変異が見られ、それはホモ接合状態で存在する。他の実施例において、患者ではI41Tの変異あるいは他のミスセンス変異と共に、複合ヘテロ接合体として存在する、FIG4の切り詰めを引き起こす変異が見られる。
本発明の他の実施例において、FIG4の他の対立遺伝子が提供される。好ましい実施例においては、対立遺伝子は遺伝子多型または変異(核酸配列の変化)の結果であり、一般に、変化したmRNAまたはポリペプチドを産生し、その構造または機能への変化は起きる場合と起きない場合がある。遺伝子には、対立遺伝子という形が皆無の場合、1つの場合、多数存在する場合がある。対立遺伝子を生む変異による変化として一般的なものは、核酸の欠損、付加、置換が原因である。このようなタイプの各変化は、単独で起きるか、または他と組み合わせて起き、1つの配列において1回またはそれ以上の率で起きる。
本発明の他の実施例において、開示されるFIG4配列の変異体を提供する。好ましい実施例においては、対立遺伝子は遺伝子多型または変異(核酸配列の変化)の結果であり、一般に、変化したmRNAまたはポリペプチドを産生し、その構造または機能への変化は起きる場合と起きない場合がある。遺伝子には対立遺伝子という形が皆無の場合、1つの場合、多数存在する場合がある。対立遺伝子を生む変異による変化として一般的なものは、核酸の欠損、付加、置換が原因である。このようなタイプの各変化は、単独で起きるか、または他と組み合わせて起き、1つの配列において1回またはそれ以上の率で起きる。
他の実施例において、本発明はFIG4ポリペプチド配列をコードするFIG4ポリヌクレオチド配列を提供する。本発明の他の実施例は、これらのFIG4タンパク質の断片、融合タンパク質、機能的にそれに相当する物のいずれかを提供する。本発明のさらに他の実施例において、FIG4の変異体、相同体、突然変異体に対応する核酸配列を使い、適切な宿主細胞中でFIG4の変異体、相同体、突然変異体の発現を命じる組み換えDNA分子を産生することができる。本発明の一部の実施例においては、ポリペプチドは自然に精製された産物であり、他の実施例においては、化学合成手順の産物であり、さらに他の実施例においては、原核生物または真核生物を用いた(例えば細菌、酵母、高等植物、昆虫、哺乳類の培養細胞)組み換え技法により産生される。一部の実施例において、組み換え遺伝子産生手順で用いる宿主により、本発明のポリペプチドはグリコシル化されている場合と、グリコシル化されていない場合がある。他の実施例において、本発明のポリペプチドは、最初のメチオニンのアミノ酸残基も含むことがある。
B. FIG4対立遺伝子の検出
一部の実施例において、本発明はFIG4核酸またはポリペプチドの野生型またはバリアント(例えば変異体または多型)の存在を検出する方法を提供する。FIG4変異体の検出は疾患(例えばCMT4J)の診断に利用できる。
従って、本発明は、ある個人におけるFIG4対立遺伝子のバリアントの有無を決定することにより、その患者においてCMT4Jに対する感受性が上昇しているか否かを決定する方法を提供する。他の実施例において、本発明は1つ以上のFIG4対立遺伝子バリアント(例えば、本発明に記述されるもの)の有無に基づき、ある個人においてCMT4Jに関する危険性が上昇しているか否かを決定する方法を提供する。一部の実施例において、そのバリエーションはFIG4タンパク質の切り詰めを引き起こす。
核酸配列のバリアント(例えば変異体または多型)の分析には、数種類の方法を使用できる。バリアント(例えば変異体または多型)を検出するためのアッセイ法は、数種類のカテゴリーに分類され、それには直接配列決定アッセイ法、断片多型アッセイ法、ハイブリダイゼーションアッセイ法、コンピュータによるデータ分析などがあるが、それらに限定されない。これらのアッセイ法の複数のバリエーションを実施するために、プロトコルや市販キットまたはサービスを利用できる。一部の実施例において、アッセイは組み合わせて、または混成して実施される(例えば、複数のアッセイ法で使う異なる試薬や技術を組み合わせ、1回のアッセイを行う)。本発明では、以下のアッセイ法が有用である。
A. 試料
FIG4核酸またはポリペプチドを含むいかなる患者試料も、本発明の方法に従い検査することができる。非限定的な例を挙げると、試料は組織、血液、尿、精液、あるいはその分画(例えば血漿、血清、尿の上澄み、尿の細胞ペレット、前立腺細胞)などである。
患者試料は、FIG4核酸またはポリペプチド、あるいはFIG4を含む細胞を得るために、試料を単離または濃縮することを意図した予備処理を受けることがある。この目的で使用できる多様な技法が当業者の間で知られており、それには遠心分離、免疫捕捉、細胞溶解、核酸標的捕捉などがあるが、それらに限定されない(例えば、EP Pat. No. 1 409 727を参照。この参照により全体が開示に含まれる)。
B. DNAとRNAの検出
本発明のFIG4バリアントは、当業者の間で知られる多様な核酸検出技法を使い、ゲノムDNAまたはmRNAとして検出することができる。検出技法としては、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーション、核酸増幅などがあるが、それらに限定されない。
1. 配列決定
これらに限定されない核酸配列決定技法の例として、チェーンターミネーター配列決定法(Sanger法)とダイターミネーター配列決定法があるが、ただしそれらに限定されない。当業者の間で認識されるように、RNAの方が細胞中で安定性が低く、ヌクレアーゼにより切断されやすいため、実験上、RNAは通常、配列決定の前にDNAに逆転写される。
チェーンターミネーター配列決定法では、修飾ヌクレオチド基質を使い、DNA合成反応の配列特異性の終結を利用する。伸長はテンプレートDNA上の特定部位で開始され、テンプレート上のその領域と相補的で、放射性物質、蛍光色素、または他の方法で標識した短いオリゴヌクレオチド・プライマーを使う。オリゴヌクレオチド・プライマーは、DNAポリメラーゼ、普通の4種のデオキシヌクレオチド塩基、そして鎖の伸長を停止させる低濃度のヌクレオチド(最もよく使われるのはジデオキシヌクレオチド)を使い、伸長される。この反応が4本の別々の試験管内で繰り返され、それぞれ異なる1種のジデオキシヌクレオチドを使用する。鎖の伸長を停止させるヌクレオチドのDNAポリメラーゼによる限定的取り込みにより、その特定のジデオキシヌクレオチドが使われる位置でのみ停止した一連の関連DNA断片が得られる。各反応試験管に関し、ポリアクリルアミドスラブゲルまたは粘稠性ポリマーを充填したキャピラリーを使う電気泳動により、断片をサイズ別に分離する。ゲルを上から下までスキャンし、可視化された標識プライマーのマークがある列を読み取ることにより、配列を決定する。
ダイターミネーター配列決定法では、ターミネーターを標識する。ジデオキシヌクレオチドのチェーンターミネーターを、異なる波長で蛍光を発する別々の蛍光色素で標識することにより、1回の反応で完全な配列決定を行うことができる。
2. ハイブリダイゼーション
説明に役立つ非限定的な核酸ハイブリダイゼーション技法例としては、in situハイブリダイゼーション法(ISH)、マイクロアレイ法、サザンまたはノーザンブロット法があるが、それらに限定されない。in situハイブリダイゼーション法(ISH)は、標識した相補的DNAまたはRNA鎖をプローブとして使い、組織(in situ)の一部または断片、あるいは組織が十分小さい場合は、組織全体(ホールマウントISH)の特異的DNAまたはRNA配列の位置を決定する。DNA ISHは染色体の構造決定に使用できる。RNA ISHは組織断片またはホールマウント内でmRNAその他の転写物の量を測定し、位置を決定するために使われる。標的転写物を固定し、プローブとの接触の可能性を改善するために、試料細胞は処理される。温度を上げてプローブと標的配列の間でハイブリッドを形成させ、残ったプローブを洗浄して除去する。放射標識塩基、蛍光標識塩基、抗体標識塩基のいずれかで標識したプローブに関し、それぞれオートラジオグラフィー法、蛍光顕微鏡法、免疫組織化学法を使い、組織中の位置を決定し、定量化する。ISHでは複数のプローブを使い、それらを放射能活性または非放射性標識で標識し、複数の転写物を同時に検出することもできる。
2. マイクロアレイ法
一部の実施例では、FIG4核酸配列の検出のために、マイクロアレイ法を使う。マイクロアレイ法の例としては、DNAマイクロアレイ法(例えばcDNAマイクロアレイ法やオリゴヌクレオチド・マイクロアレイ法)、タンパク質マイクロアレイ法、組織マイクロアレイ法、形質移入または細胞マイクロアレイ法、化合物マイクロアレイ法、抗体マイクロアレイ法などがあるが、それらに限定されない。遺伝子チップ、DNAチップ、またはビオチップと通称されるDNAマイクロアレイは、固体表面(例えばガラス、プラスチック、シリコンチップ)に付着した微視的DNAスポットの集合でアレイを形成したもので、同時に数千個の遺伝子の発現プロファイル決定つまり発現レベルのモニタリングを行うことを目的とする。付着したDNAセグメントはプローブと呼ばれ、1つのDNAマイクロアレイで数千のプローブを使用できる。マイクロアレイ法は、疾患細胞と正常細胞の遺伝子発現を比較し、疾患遺伝子を同定するために利用できる。マイクロアレイには多様な作製方法があり、それにはスライドガラスに先が尖ったピンでプリントする方法、事前に作製したマスクを使うフォトリソグラフィ法、可動式マイクロミラーデバイスを使うフォトリソグラフィ法、インクジェットプリント、微小電極アレイでの電気化学的方法などが含まれるが、それらに限定されない。
特定座位でのコピー数の変異を検出するためにも、アレイを使うことができる。これらのゲノムマイクロアレイは、疾患を引き起こす対立遺伝子を生む微小な欠損や、その他のバリアントを検出する。
サザンおよびノーザンブロット法は、それぞれ特異的DNAまたはRNAの配列を検出するために使われる。試料から抽出したDNAまたはRNAを切断し、マトリクスゲル上で電気泳動にかけて分離し、メンブレンフィルターに移す。フィルターに固定されたDNAまたはRNAと、目的の配列と相補的な標的プローブとの間で、ハイブリダイゼーションを行う。ハイブリッドを形成し、フィルターに結合したプローブを検出する。この手順の変形版であるリバースノーザンブロット法では、メンブレンに固定する基質核酸が、単離されたDNA断片の集合で、プローブが組織から抽出し、標識したRNAである。
3. 増幅
検出の前または検出と同時に、FIG4核酸を増幅することができる。説明に役立つ非限定的な核酸増幅法としては、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)、転写介在増幅法(TMA)、リガーゼ連鎖反応法(LCR)、鎖置換増幅法(SDA)、核酸配列ベース増幅法(NASBA)などがあるが、それらに限定されない。当業者の間では、特定の増幅法(例えばPCR)で、増幅に先立ちRNAをDNAに逆転写する必要がある(例えばRT-PCR)のに対し、他の増幅法では、RNAを直接増幅する(例えばTMAとNASBA)ことが認識されている。
PCR法と通称されるポリメラーゼ連鎖反応法では(米国特許第4,683,195号、4,683,202号、4,800,159号、4,965,188号を参照。各々の全体がこの参照により開示に含まれる)、標的核酸配列のコピー数を級数的に増やすために、変性、プライマーペアとそれに対応する鎖のアニーリング、プライマーの伸長というサイクルが何度も繰り返される。この方法のバリエーションであるRT-PCR法では、逆転写酵素(RT)を使い、mRNAから相補的DNA(cDNA)を作り、そのcDNAをPCR法で増幅し、多数のDNAコピーを産生する。PCR法を組み合わせて用いる他の方法については、例えば、米国特許第4,683,195号、4,683,202号、4,800,159号およびMullis et al., Meth. Enzymol. 155: 335 (1987)、Murakawa et al., DNA 7:287 (1988) を参照のこと(各々の全体がこの参照により開示に含まれる)。
TMA法と通称される転写介在増幅では(米国特許第5,480,784号、5,399,491号を参照。各々の全体がこの参照により開示に含まれる)、実質的に一定の温度、イオン強度、pHで、標的配列の複数のRNAコピーが自己触媒的に追加コピーを合成するような条件下で、自己触媒的に標的核酸配列の複数のコピーを合成する。米国特許第5,399,491号、5,824,518号を参照のこと(各々の全体がこの参照により開示に含まれる)。米国特許出願公開第20060046265号(全体がこの参照により開示に含まれる)に記述されたバリエーションでは、TMA法でブロッキング部分、終結部分、その他の修飾部分を選択して導入し、TMAプロセスの感度と精度を改善している。
LCR法と通称されるリガーゼ連鎖反応法では(Weiss, R., Science 254: 1292 (1991)を参照。全体がこの参照により開示に含まれる)、2セットの相補的DNAオリゴヌクレオチドを使い、それらが標的核酸の隣接領域とハイブリッドを形成する。DNAオリゴヌクレオチドはDNAリガーゼにより共有結合され、熱変性、ハイブリダイゼーション、連結というサイクルを繰り返し、検出可能な二本鎖の連結されたオリゴヌクレオチド産物を産生する。
SDA法と通称される鎖置換増幅では(Walker, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 392-396 (1992)および米国特許第5,270,184号、5,455,166号を参照。各々の全体がこの参照により開示に含まれる)、反応のサイクルが反復される。1回のサイクルでは、プライマー配列ペアと標的配列の逆鎖とのアニーリング、dNTPαSの存在下でのプライマーの伸張、ヘミホスホロチオエート形態の二本鎖プライマー伸長産物の産生、半修飾制限エンドヌクレアーゼ認識部位のエンドヌクレアーゼによるニッキング、そのニックの3'末端からのポリメラーゼによるプライマー伸長により、既存の鎖を置換し、次回のプライマーのアニーリング、ニッキング、鎖置換に使う鎖を作る。このサイクルを繰り返し、産物の幾何級数的増幅を行う。好熱性SDA法(tSDA)では、ほぼ同じ方法で、高温状態で好熱性エンドヌクレアーゼおよびポリメラーゼを使用する(EP Pat. No. 0 684 315)。
他の増幅法としては、例えば、NASBA法と通称される核酸配列ベース増幅法(米国特許第5,130,238号を参照。その全体がこの参照により開示に含まれる)、Qβレプリカーゼと通称され、RNAレプリカーゼを使い、プローブ分子自体を増幅する方法(Lizardi et al., Bio Technol. 6: 1197 (1988) を参照。その全体がこの参照により開示に含まれる)、転写ベース増幅法(Kwoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 1173 (1989))、自家持続配列複製法(Guatelli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 1874 (1990))などがある(各々の全体がこの参照により開示に含まれる)。既知の増幅法に関してさらに詳しくは、Diagnostic Medical Microbiology: Principles and Applications (Persing et al., Eds.), pp. 51-87 (American Society for Microbiology, Washington, DC (1993) のPersing, David H., "In Vitro Nucleic Acid Amplification Techniques"を参照のこと。
4. 検出方法
未増幅または増幅後のFIG4核酸は、従来の手法で検出できる。例えば、核酸は検出を可能にするために標識したプローブとハイブリッドを形成させ、その結果生じたハイブリッドを測定することにより、検出できる。検出方法の説明に役立つ非限定的な例を以下に掲げる。
ハイブリダイゼーション保護アッセイ法(HPA)という説明に役立つ検出方法では、化学発光オリゴヌクレオチドプローブ(例えばアクリジニウムエステル標識(AE)プローブ)と標的配列の間でハイブリダイゼーションを行い、ハイブリッドを形成しなかったプローブに存在する化学発光標識を選択的に加水分解し、残ったプローブが発する化学発光をルミノメーターで測定する。例えば、米国特許第5,283,174号およびNorman C. Nelson et al., Nonisotopic Probing, Blotting, and Sequencing, ch. 17 (Larry J. Kricka ed., 2d ed. 1995) を参照のこと(各々の全体がこの参照により開示に含まれる)。
別の説明に役立つ検出方法では、リアルタイムで増幅プロセスの数量的評価を行う。増幅プロセスの「リアルタイム」評価には、増幅反応中に連続的または定期的に、反応混合液中の単位複製配列の量を求め、その数値を使い、試料中に最初に存在した標的配列の量を計算する。当業者の間では、リアルタイム増幅に基づき試料中に最初に存在した標的配列量を求めるための多様な方法が知られている。それには米国特許第6,303,305号、6,541,205号で開示された方法が含まれる(各々の全体がこの参照により開示に含まれる)。試料中に最初に存在した標的配列量を求めるための別法であるが、リアルタイム増幅に基づくものではない方法が、米国特許第5,710,029号で開示されている(全体がこの参照により開示に含まれる)。
増副産物は、種々の自己ハイブリダイゼーションプローブ(大部分がステムループ構造を持つ)を使い、リアルタイムで検出できる。そうした自己ハイブリダイゼーションプローブは、プローブが自己ハイブリダイゼーション状態であるか、あるいは標的配列とのハイブリダイゼーションにより変化した状態であるかに従い、異なる検出可能なシグナルを発するように標識される。非限定的例として、「分子トーチ」という自己ハイブリダイゼーションプローブは、明確な自己相補性領域(「標的結合ドメイン」と「標的閉鎖ドメイン」と呼ばれる)を含み、それらの領域は連結領域(例えば非ヌクレオチド・リンカー)で連結され、事前に定めたハイブリダイゼーションアッセイ条件下で、互いの間でハイブリッドを形成する。好ましい実施例において、分子トーチの標的結合ドメインは一本鎖塩基領域を含み、それは長さが1塩基から約20塩基であり、鎖置換条件下の増幅反応中に存在する標的配列とハイブリッドを形成することができる。鎖置換条件下で、完全または部分的に相補的である分子トーチの2つの相補領域同士で起きるハイブリダイゼーションが優先されるが、標的配列が存在する場合は例外であり、その場合、それが標的結合ドメインに存在する一本鎖領域と結合し、標的閉鎖ドメインの全部または一部に取って代わる。分子トーチの標的結合ドメインと標的閉鎖ドメインは、分子トーチが自己ハイブリダイゼーションを起こした場合と、標的配列とハイブリダイゼーションを行った場合とで、異なるシグナルが生じるよう配置された検出可能な標識または相互作用する標識ペア(例えば発光剤/消光剤)を含む。このため、ハイブリッドを形成していない分子トーチの存在下で、試験試料中のプローブと標的の二重鎖を検出できる。分子トーチおよび多様な相互作用標的ペアは、米国特許第6,534,274号で開示されている(この参照により開示に含まれる)。
自己相補性を持つ検出プローブの別の例が、「分子ビーコン」である。分子ビーコンは、標的に対して相補的な配列を持つ核酸分子、増幅反応に使われる標的配列が存在しない状態で閉構造内にプローブを保持する親和性ペア(または核酸の腕)、プローブが閉構造内にある時に相互作用する標識ペアを含む。標的配列と標的に対して相補的配列とのハイブリダイゼーションにより、親和性ペアの構成要素が分離され、プローブが開構造に移行する。開構造への移行は、フルオロフォアと消光剤など(例えばDABCYLとEDANS)の標識ペアの相互作用が減少することにより検出可能できる。分子ビーコンは米国特許第5,925,517号、6,150,097号で開示されている(その全体がこの参照により開示に含まれる)。
当業者の間でよく知られる他の自己ハイブリダイゼーションプローブがある。非限定的な例として、米国特許第5,928,862号(その全体がこの参照により開示に含まれる)で開示された相互作用標識を持つプローブ結合ペアを、本発明での使用のために調整できる。一塩基多型(SNP)の検出に用いるプローブ検出系も、本発明で使用することができる。他の検出系としては、米国特許出願公開第20050042638号で開示された「分子スイッチ」がある(その全体がこの参照により開示に含まれる)。インターカレーターである色素や蛍光色素などを含む他のプローブも、本発明における増副産物の検出に有用である。例えば米国特許第5,814,447号を参照のこと(その全体がこの参照により開示に含まれる)。
C. FIG4タンパク質のバリアントの検出
他の実施例において、FIG4ポリペプチドのバリアントが検出される(例えば例1で説明するものを含むが、それに限定されない)。以下に記述するものを含め、ただしそれらに限定せず、切り詰められたFIG4ポリペプチドまたは変異を起こしたFIG4ポリペプチドを検出するために、何らかの適切な方法を使うことができる。
1. 無細胞翻訳
例えば、一部の実施例では、Ambergen Inc.(Boston, MA) 製の無細胞翻訳系を使用する。Ambergen Inc.は放射性アミノ酸その他の放射性標識を使わずに、無細胞または細胞内の翻訳系で作られる新生タンパク質の標識、測定、分析、単離する手法を開発した。マーカーによるtRNA分子のアミノアシル化が起きる。潜在的マーカーとしては、未変性アミノ酸、非未変性アミノ酸、アミノ酸の相同体または派生物、化学部分などがある。翻訳中に、これらのマーカーは、上記反応によりミスアミノアシル化されたtRNAから、新生タンパク質に取り込まれる。
Ambergenのタンパク質標識技術の1適用法として、ゲルフリー・トランケーションテスト(GFTT)アッセイ法がある(例えば、この参照により開示に含まれる米国特許第6,303,337号を参照)。一部の実施例で、このアッセイ法を使い、FIG4タンパク質中の切り詰め型変異のスクリーニングを行う。GFTTアッセイ法では、翻訳中にマーカー(例えばフルオロフォア)を、新生タンパク質のN末端付近に取り込む。2番目の異なるマーカー(例えば異なる発光波長を持つフルオロフォア)を、新生タンパク質のC末端付近に取り込む。次に、タンパク質を翻訳系から分離し、マーカーからのシグナルを測定する。N末端とC末端のシグナル測定値を比較し、C末端が切り詰められた分子断片に関する情報を得る(すなわち、C末端マーカーからのシグナルの正規化した値が、N末端マーカーからのシグナルの50%であれば、分子の50%でC末端の切り詰めが起きている)。
2. 抗体結合
本発明のさらなる実施例において、抗体(抗体産生については後述)を使い、個人がFIG4ポリペプチドバリアントをコードする対立遺伝子を含むかどうかを決定する。好ましい実施例において、バリアント(切り詰められたタンパク質)と野生型のタンパク質を区別するために抗体を使用する。特に好ましい一部の実施例において、抗体はFIG4タンパク質のC末端に対して作られる。N末端により認識されるが、C末端抗体ではないタンパク質は切り詰められる。一部の実施例において、C末端とN末端の抗体結合比を求めるために、定量的免疫測定法を用いる。他の実施例において、FIG4のバリアントの同定は、野生型またはバリアントのFIG4タンパク質との間で差異のある結合をする抗体を用いて行う。
抗体結合は当業者の間で知られる技法により検出され、例えば放射免疫測定法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散測定法、in situ免疫測定法(例えばコロイド金、酵素、放射性同位元素の標識を用いる方法)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集測定法(例えばゲル凝集法、血球凝集法)、補体結合測定法、免疫蛍光測定法、プロテインA測定法、免疫電気泳動測定法などがある。
ある実施例において、抗体結合は一次抗体上の標識を検出することにより検出される。別の実施例においては、一次抗体は二次抗体または試薬と一次抗体との結合を検出することにより検出される。さらに別の実施例においては、二次抗体が標識される。免疫測定法で結合を検出するための多数の方法が当業者の間で知られており、それらは本発明の範囲内である。
一部の実施例において、自動検出方式の測定法が使われる。免疫測定法の自動化方法には、米国特許第5,885,530号、4,981,785号、6,159,750号、5,358,691号に記述されるものが含まれ、その各々の全体がこの参照により開示に含まれる。一部の実施例において、結果の分析および表示も自動化される。例えば、一部の実施例において、免疫測定の結果に基づく予後診断を作成するソフトウェアが使われる。他の実施例において、免疫測定法は米国特許第5,599,677号、5,672,480号に記述され、その各々の全体がこの参照により開示に含まれる。
C. FIG4疾患の危険性を分析するためのキット
本発明は、ある個人が野生型またはバリアント(例えば変異または多型)のFIG4を持つか否かを決定するためのキットも提供する。一部の実施例において、キットは被験者におけるCMT4J発症の危険性の有無を決定するために役立つ。診断キットは多様な方法で作製される。一部の実施例において、キットは変異FIG4対立遺伝子またはタンパク質を特異的に検出するために有用であるか、必要であるか、十分である最低1種の試薬を含む。好ましい実施例において、キットはFIG4ポリペプチドにおける切り詰めを検出するための試薬を含む。好ましい実施例において、試薬は変異を含む核酸との間でハイブリッドを形成し、変異を含まない核酸とは結合しない核酸である。他の好ましい実施例において、試薬は変異を含むDNAの領域を増幅するためのプライマーである。さらに他の実施例において、試薬は野生型、切り詰め型、バリアントのいずれかのFIG4タンパク質と優先的に結合する抗体である。
一部の実施例において、キットは被験者がCMT4J病にかかる危険性の有無を決定するための指示を含む。好ましい実施例において、それらの指示では、CMT4J病にかかる危険性が、被験者における変異FIG4対立遺伝子の有無を検出することにより決定され、その場合、変異対立遺伝子を持つ被験者の方がFIG4疾患に罹患する危険性が高いことを指定する。
FIG4遺伝子の疾患と関連する変異の有無は、療法または他の医療面での決定を下すために使うことができる。例えば、CMT4J病の家族歴を持つ夫婦は、人工授精と着床前遺伝子診断を利用して子を妊娠することを選択する場合がある。この場合、FIG4遺伝子の変異(例えば疾患と関連する変異)対立遺伝子に関する受精胚のスクリーニングを行い、野生型対立遺伝子を持つ胚のみを子宮に着床させる。
他の実施例において、発生中の胎児に対して子宮内でのスクリーニングを行う(例えば羊水穿刺または絨毛膜絨毛スクリーニング)。さらに他の実施例において、新生児または乳幼児の遺伝子スクリーニングを行う。CMT4J病と関連することが判明しているFIG4対立遺伝子の早期検出により、早期の治療介入が可能になる。
一部の実施例において、キットは緩衝剤、核酸安定化試薬、タンパク質安定化試薬、シグナル発生系(例えばFRETなどの蛍光発生系)などの補助試薬、およびソフトウェア(例えばデータ分析ソフトウェア)を含む。検査キットは何らかの適切な種類のパッケージであり、通常、必要に応じて1容器または種々の容器中の構成要素と、検査を実施するための指示を記した紙が収納される。一部の実施例において、キットは好ましくは、正の対照の試料も含む。
D. バイオインフォマティクス
例えば、一部の実施例において、検出アッセイ法により得た生データ(例えばある種のFIG4対立遺伝子またはポリペプチドの有無あるいは量)を、医師のための適中率データに読み換えるために、コンピュータによる分析プログラムを使用する。医師は適切な手段により、適中率データにアクセスすることができる。従って、一部の好ましい実施例において、本発明は遺伝学や分子生物学の訓練を受けていない医師が、生データを理解する必要がないという、さらなる利点を提供する。データは最も役立つ形式で、医師に対して直接提示される。その後、医師は直ちにその情報を利用し、患者の治療を最適化することができる。
本発明では、アッセイを実施する検査施設、情報提供者、医療関係者、被験者の間で、情報の授受、処理、伝達を行うことができる方法を検討する。例えば、本発明の一部の実施例において、試料(例えば生検、血清、尿試料)は被験者から採取され、世界各地の(例えば、被験者が居住する国や、情報が最終的に使われる国とは異なる国)プロファイリング・サービスに(例えば、医療施設内の臨床検査室、ゲノムプロファイリング事業者など)提出され、そこで生データが得られる。試料が組織または他の生体試料を含む場合、被験者が医療センターに赴き、試料の採取を受け、それがプロファイリング・センターに送付されるか、あるいは被験者が自分で試料を集め(例えば尿試料)、それを直接、プロファイリング・センターに送付する。試料が所定の生物学的情報を含む場合は、情報は被験者が直接、プロファイリング・センターに送付する(例えば、情報を記入した情報カードをコンピュータでスキャンし、電子通信システムを使い、データをプロファイリング・センターのコンピュータに伝送する)。プロファイリング・サービスで受領した後、試料は処理され、その被験者に関して必要な診断または予後診断情報に特異的なプロファイルが作成される(すなわち、FIG4の野生型またはバリアントの存在)。
次に、治療を行う医師による解釈に適した形式にプロファイル・データを整理する。例えば、生データを提供する代わりに、整理した形式では、被験者に関する診断または危険性評価(例えばCMT4J発症の尤度またはCMT4Jの診断)に、特定の治療オプションに関する推奨を提示する場合がある。データは適切な方法で医師に提示することができる。例えば、一部の実施例において、プロファイリング・サービスは、医師がプリントできるか(例えば治療現場で)、または医師がコンピュータのモニター画面に表示できる報告書を作成する。
一部の実施例において、情報は治療現場または地域医療施設で最初に分析する。次に、生データを中央処理施設に送り、そこでさらなる分析を加え、生データを医師または患者に役立つ情報に変換するか、またはそのいずれかを行う。中央処理施設は、データ分析のプライバシー(全データが一律の保安規約に従い、中央施設に保管される)、速度、均一性という利点を持つ。被験者の治療後、中央処理施設はデータのその後に関して決定権を持つ。例えば、電子通信システムを使い、中央施設はデータを医師、被験者、研究者に提供することができる。
一部の実施例において、被験者は電子通信システムを使い、データに直接アクセスすることができる。被験者はその結果に基づき、さらなる介入またはカウンセリングを選択できる。一部の実施例において、データは研究用に使われる。例えば、疾患の特定の状態または段階を示すために有用な指標としてのマーカーの使用と除外をさらに最適化するために、データを使うことができる。
IV. FIG4抗体の作製
本発明は単離した抗体または抗体断片(例えばFAB断片)を提供する。抗体はFIG4タンパク質の検出を可能にするために作製される。抗体は種々の免疫原を使い作製できる。ある実施例において、免疫原はヒトFIG4ペプチドであり、ヒトFIG4タンパク質を認識する抗体が作られる。そのような抗体には、モノクローナル、キメラ、単鎖、Fab断片、Fab発現ライブラリー、組み換え(例えばキメラ、ヒト化など)抗体が含まれるが、タンパク質を認識できる限りにおいて、それらに限定されない。従来の抗体または抗血清作製方法に従い、本発明のタンパク質を抗原として使い、抗体を作製することができる。
当業者の間で知られる種々の方法を使い、FIG4に対するポリクローナル抗体を作製することができる。抗体作製のために、ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどを含め、ただしそれらに限定せず、種々の宿主動物に、FIG4エピトープに対応するペプチドを注射し、免疫化することができる。好ましい実施例において、ペプチドを免疫原性キャリア(例えばジフテリア毒素、ウシ血清アルブミン(BSA)、またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH))と共役結合させる。宿主動物種により、免疫反応増強のために種々のアジュバントを使用することができ、それにはフロイント(完全と不完全)、ミネラルゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性剤(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット・ゲラン桿菌)、Corynebacterium parvumなど、潜在的に有用であるヒト・アジュバント)が含まれるが、それらに限定されない。
FIG4に対するモノクローナル抗体の作製については、連続的な培養細胞株による抗体分子の産生を可能にする技法を、本発明で使用できるものと想定する(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYを参照)。これには、Kohler and Milstein(Kohler and Milstein, Nature 256:495-497 (1975))により最初に開発されたハイブリドーマ法、トリオマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(例えば、Kozbor et al., Immunol. Tod., 4:72 (1983))、ヒト・モノクローナル抗体を作製するためのEBVハイブリドーマ法(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96 (1985))が含まれるが、それらに限定されない。
本発明のさらなる実施例において、PCT/US90/02545に記述されたような技術を使い、無菌動物の体内でモノクローナル抗体が作製される。さらに、ヒト抗体はヒト・ハイブリドーマにより(Cote et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-2030 (1983))、またはin vitroでヒトB細胞をEBVウィルスで形質転換することにより(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, pp. 77-96 (1985))、作製されると想定する。
それに加え、単鎖抗体作製に関して記述された技法(参照により開示に含まれる米国特許第4,946,778号)を、FIG4特異性単鎖抗体の作製に使用できる。本発明のさらなる実施例において、Fab発現ライブラリーの構築について記述された技法(Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989))を使い、FIG4に対する望ましい特異性による迅速かつ容易なモノクローナルFab断片の同定が可能になる。
他の実施例は、本発明のタンパク質に対する組み換え抗体またはその断片に関するものである。組み換え抗体には、ヒト化抗体とキメラ抗体が含まれるが、それらに限定されない。組み換え抗体の作製法は、当業者の間で知られており(例えば、米国特許第6,180,370号および6,277,969号、ならびに"Monoclonal Antibodies" H. Zola, BIOS Scientific Publishers Limited 2000. Springer- Verlay New York, Inc., New York。それらの各々がこの参照により開示に含まれる)。
抗体断片の作製に適した技法を、抗体分子のイディオタイプ(抗原結合領域)を含む抗体断片の作製に使用できるものと想定する。例えば、そのような断片としては、抗体分子のペプシンによる分解で生じるF(ab’)2断片、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋の還元により生じるFab’断片、抗体分子をパパインと還元剤で処理することにより生じるFab断片を含むが、それらに限定されない。
抗体の作製において、望ましい抗体のスクリーニングは、当業者の間で知られる技法を用いて行われ、例えば放射免疫測定法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散測定法、in situ免疫測定法(例えばコロイド金、酵素、放射性同位元素の標識を用いる方法)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集測定法(例えばゲル凝集法、血球凝集法)、補体結合測定法、免疫蛍光測定法、プロテインA測定法、免疫電気泳動測定法などがある。
ある実施例において、抗体結合は一次抗体上の標識を検出することにより検出される。別の実施例においては、一次抗体は二次抗体または試薬と一次抗体との結合を検出することにより検出される。さらに別の実施例においては、二次抗体が標識される。免疫測定法で結合を検出するための多数の方法が当業者の間で知られており、それらは本発明の範囲内である。当業者の間で知られるように、免疫原性ペプチドは、免疫化プロトコルで使われる担体分子が存在しない状態で提供すべきである。例えば、ペプチドがKLHと共有結合していた場合は、スクリーニング・アッセイでそれをBSAと共有結合させるか、または直接使用することができる。
さらに、以上の方法を使い、FIG4タンパク質のバリアントを認識し、FIG4タンパク質の野生型を認識しない抗体を作製できる。
前述の抗体は、当業者の間で知られるFIG4タンパク質の位置と構造に関係する方法(例えばウェスタンブロット分析法、免疫沈降法、免疫組織化学法)において、適切な生体試料におけるそれらのレベルの測定などに使用できる。抗体は個人から採取した生体試料中のFIG4タンパク質の検出に使用できる。生体試料としては、血液、血清、血漿、間質液、尿、脳脊髄液などの細胞を含む体液があるが、それらに限定されない。
次に、適切な戦略(例えばELISAまたは放射免疫測定法)と形式(例えばマイクロウェル、尿試験紙(例えば国際特許公報WO 93/03367号に記述されたもの)など)を使用し、生体試料におけるヒトFIG4タンパク質の存在を直接検査することができる。それに代わる方法として、試料中のタンパク質をサイズに基づき分離し(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)処理を行うか、または行わないポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)による)、免疫ブロット法で(ウェスタンブロット)FIG4タンパク質の存在を検出する。タンパク質のエピトープに対応するペプチドに対して作製された抗体では、一般に免疫ブロット法の法が効果的であるため、本発明に特に適している。
別の方法では、シグナル伝達を変える作用因子として抗体を使用する。細胞内シグナル伝達に関与するFIG4または他のタンパク質の結合領域に結合する特異抗体を使い、種々のタンパク質間の相互作用および他のリガンドとの相互作用を阻害できる。また、複合体と結合する抗体を使い、FIG4による種々の生理的影響と細胞への影響を引き起こすシグナル伝達経路中のタンパク質複合体の相互作用を阻害する治療が可能である。そのような抗体は、疾患状態を示す可能性があるFIG4タンパク質の異常発現またはタンパク質複合体の異常形成を測定するために、診断に利用することができる。
V. FIG4を用いる遺伝子治療
本発明はFIG4タンパク質の発現、産生、機能を変える遺伝子治療に適した方法と組成物も提供する。前述のように、本発明はヒトFIG4遺伝子を提供し、他の種からFIG4遺伝子を獲得する方法を提供する。従って、以下に記述する方法は、一般に多数の種にまたがり適用可能である。一部の実施例は、被験者にFIG4の野生型対立遺伝子(すなわち、FIG4疾患を起こす変異を含まない対立遺伝子)を提供することにより、遺伝子治療を行うことに関するものである。そのような治療を必要とする被験者は、前述の方法により特定される。
in vivoまたはex vivoのターゲティングと治療手順によく使われるウィルスベクターは、DNAベースのベクターとレトロウィルスベクターである。ウィルスベクターを作製し、使用する方法は、当業者の間で知られている(例えば、Miller and Rosman, BioTech., 7:980-990 (1992)を参照)。好ましくは、ウィルスベクターは複製欠損であり、標的細胞中で自律的に複製することができない。一般に、本発明の範囲内で使われる複製欠損ウィルスベクターのゲノムは、感染細胞中でウィルスの複製に必要な領域を最低1つ欠いている。これらの領域は、除去されるか(全部または部分)、あるいは当業者の間で知られる何らかの技法により、機能を喪失する。そのような技法としては、全面的除去、置換(他の配列、特に挿入された核酸による置換)、部分的削除、必須(複製に)領域に対する1以上の塩基の付加などがある。そのような技法はin vitro(すなわち単離されたDNA上で)またはin situで、遺伝子操作法を使い、または変異原性剤で処理し、実施することができる。
好ましくは、複製欠損ウィルスは、ウィルス粒子をカプセルに封入するために必要なゲノムの配列を保持している。DNAウィルスベクターは弱毒つまり欠陥DNAウィルスを含み、それは単純ヘルペスウィルス(HSV)、パピローマウィルス、エプスタイン・バーウィルス(EBV)、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス(AAV)などを含むが、それらに限定されない。欠陥ウィルスは細胞に導入後、感染性を持たないため、ウィルス遺伝子を完全に、またはほぼ完全に欠いた欠陥ウィルスが好ましい。欠陥ウィルスベクターを使うことにより、ベクターが他の細胞を感染する心配をせずに、特定の局所的部分の細胞に投与することができる。従って、特定の組織を特異的に標的にすることができる。特定のベクターの例としては、欠陥ヘルペスウィルス1(HSV1)ベクター(Kaplitt et al., Mol. Cell. Neurosci., 2:320-330 (1991))、糖タンパク質L遺伝子を欠く欠陥ヘルペスウィルスベクター(例えば、特許公開番号RD 371005 A号を参照)、または他の欠陥ヘルペスウィルスベクター(例えば、WO 94/21807、WO 92/05263を参照)、Stratford-Perricaudet et al. に記述されたベクター(J. Clin. Invest., 90:626-630 (1992)、La Salle et al., Science 259:988-990 (1993) も参照)などの弱毒アデノウィルスベクター、欠陥アデノ随伴ウィルスベクター(Samulski et al., J. Virol., 61:3096-3101 (1987)、Samulski et al., J. Virol., 63:3822-3828 (1989)、Lebkowski et al., Mol. Cell. Biol., 8:3988-3996 (1988))などがあるが、それらに限定されない。
好ましくは、in vivo投与においてウィルスベクター(例えばアデノウィルスベクター)と併せて適切な免疫抑制処置を行い、ウィルスベクターと形質移入細胞の免疫不活性化を回避する。例えば、インターロイキン12(IL-12)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、抗CD4抗体などの免疫抑制サイトカインを投与し、ウィルスベクターに対する液性または細胞性免疫反応を阻害する。さらに、最低数の抗原を発現するよう操作されたウィルスベクターを採用することが有益である。
遺伝子治療のためのDNAベクターは、当業者の間で知られる方法により、望ましい宿主細胞に導入することができ、それらの方法としては、形質移入、電気穿孔、微量注入、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃の使用、DNAベクタートランスポーターの使用などがあるが、それらに限定されない(例えば、Wu et al., J. Biol. Chem., 267:963 (1992)、Wu and Wu, J. Biol. Chem., 263:14621 (1988)、Williams et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:2726 (1991))を参照。受容体介在性DNA送達方法も使用できる(Curiel et al., Hum. Gene Ther., 3:147 (1992)、Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262:4429 (1987))。
VI. 外来性FIG4遺伝子およびその相同体、変異体、バリアントを発現する遺伝子導入動物
本発明では、外来性FIG4遺伝子およびその相同体、変異体、バリアントを含む遺伝子導入動物の作製を意図する。好ましい実施例において、遺伝子導入動物は野生型動物と比較し、変化した表現型を示す。一部の実施例において、変化した表現型では、野生型でのFIG4発現レベルと比較し、FIG4遺伝子のmRNAの過剰発現が見られる。他の実施例においては、変化した表現型で、野生型での内在性FIG4発現レベルと比較し、内在性FIG4遺伝子のmRNAの発現が低下する。一部の好ましい実施例において、遺伝子導入動物はFIG4の変異(例えば切り詰め)対立遺伝子を含む。そのような表現型の有無を分析する方法としては、ノーザンブロット法、mRNA保護アッセイ法、RT-PCR法などがある。他の実施例において、遺伝子導入マウスはFIG4遺伝子のノックアウト変異を持つ。好ましい実施例において、遺伝子導入動物はCMT4J病の表現型を示す。
そのような動物は、薬物スクリーニング用途(例えば、CMT4J病を防ぐ薬物のスクリーニングを目的とする)だけでなく、研究用途(例えば、CMT4Jに関与するシグナル伝達経路の同定)にも利用できる。例えば、一部の実施例において、試験化合物(例えば、CMT4J病の治療に役立つと予想される薬物)と対照化合物(例えばプラセボ)を遺伝子導入動物と対照動物に投与し、効果を評価する。次に、試験化合物と対照化合物の疾患症状に対する効果を評価する。
遺伝子導入動物は多様な方法により作製できる。一部の実施例において、種々の発生段階の胚細胞を使い、遺伝子導入動物を作製するための導入遺伝子を導入する。胚細胞の発生段階により、異なる方法が使われる。接合体は微量注入の最善の標的である。マウスにおいて、オスの前核は直径約20ミクロンのサイズに達するため、DNA溶液1〜2ピコリットル(pl)の再現性のある注入が可能である。遺伝子導入の標的として接合体を使用すると、ほとんどの場合、注入したDNAが最初の卵割以前に宿主ゲノムに取り込まれるため、接合体の使用には大きな利点がある(Brinster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 (1985))。その結果、遺伝子導入非ヒト動物の全細胞が、取り込まれた導入遺伝子を持つ。生殖細胞の50%が導入遺伝子を持つため、一般に反映として、樹立株の子孫に導入遺伝子が効率良く伝達されることになる。米国特許第4,873,191号に、接合体の微量注入の方法が記述されている。この特許の開示は、その全体がこの開示に含まれる。
他の実施例において、導入遺伝子を非ヒト動物に導入するために、レトロウィルス感染が使われる。一部の実施例において、レトロウィルスベクターを使い、卵母細胞の囲卵腔にレトロウィルスベクターを注入することにより、卵母細胞への形質移入を行う(米国特許第6,080,912号。参照により開示に含まれる)。他の実施例において、発生中の非ヒト胚をin vitroで胚盤胞期まで培養する。この間、卵割球をレトロウィルス感染の標的にすることができる(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 (1976))。酵素処理により透明帯を除去することにより、卵割球を効率的に感染できる(Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1986))。導入遺伝子を導入するために使われるウィルスベクター系は、通常、導入遺伝子を運ぶ複製欠損レトロウィルスである(Jahner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6927 (1985))。単層のウィルス産生細胞上で卵割球を培養することにより、容易に、効率良く、形質移入を行うことができる(Van der Putten, supra、Stewart, et al., EMBO J., 6:383 (1987))。それに代わる方法として、それよりも後の段階で感染させることもできる。ウィルスまたはウィルス産生細胞を、胞胚腔に注入することができる(Jahner et al., Nature 298:623 (1982))。遺伝子導入動物を形成する細胞の一部でのみ導入が起きるため、樹立株の大部分で、導入遺伝子はモザイク状になる。さらに、樹立株のゲノムのさまざまな位置に、種々のレトロウィルス挿入による導入遺伝子が取り込まれる場合があり、それらは通常、子孫では分離される。それに加え、効率は低いが、妊娠中期胚の子宮内レトロウィルス感染により、生殖系列に導入遺伝子を導入することも可能である(Jahner et al., supra (1982))。遺伝子導入動物を作製するためにレトロウィルスまたはレトロウィルスベクターを使用するさらなる手段として、当業者の間で知られている方法では、レトロウィルス粒子またはレトロウィルスを産生するマイトマイシンC処理細胞を受精卵または初期胚の囲卵腔に微量注入する(PCT International Application WO 90/08832 (1990)、Haskell and Bowen, MoI. Reprod. Dev., 40:386 (1995))。
他の実施例において、導入遺伝子は胚性幹細胞に導入され、形質移入された肝細胞を使い、胚が形成される。ES細胞は適切なin vitroの条件下で着床前胚を培養することにより獲得できる(Evans et al., Nature 292:154 (1981)、Bradley et al., Nature 309:255 (1984)、Gossler et al., Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 (1986)、Robertson et al., Nature 322:445 (1986))。導入遺伝子は、当業者の間で知られる多様な方法を使い、DNA形質移入によりES細胞に効率的に導入され、それにはリン酸カルシウム沈殿法、プロトプラストまたはスフェロプラスト融合法、リポフェクション法、DEAEデキストラン介在形質移入法などが含まれる。導入遺伝子は、レトロウィルス介在形質導入または微量注入により、ES細胞に導入することもできる。その後、そのような形質移入ES細胞は、胚盤胞期胚の胞胚腔に導入後、胚でコロニーを形成し、その結果、キメラ動物の生殖系列が生まれる(総論としてはJaenisch, Science 240:1468 (1988) を参照)。形質移入されたES細胞を胞胚腔に導入する前に、形質移入ES細胞に対して種々の選択プロトコルを実施し(導入遺伝子がそのような選択の手段を提供すると仮定する)、導入遺伝子を取り込んだES細胞を濃縮することができる。それに代わる方法として、ポリメラーゼ連鎖反応を使い、導入遺伝子を取り込んだES細胞のスクリーニングを行うことができる。この技法により、胞胚腔への移入に先立ち、形質移入ES細胞を適切な選択条件下で増殖させる必要性がなくなる。
さらに別の実施例において、相同組み換えを使い、遺伝子機能をノックアウトするか、または欠損変異体を作製することができる。相同組み換えの方法は、米国特許第5,614,396号に記述され、それは参照により開示に含まれる。
実験
以下の例は、本発明の特定の好ましい実施例および側面を実証し、さらに明確に説明するために提供するものであり、それにより本発明の範囲が限定されると解釈しないものとする。
例1
A. 方法
実験動物。plt変異体は近交系4種、129/Ola、C57BL/6J、C3H、SJLの交雑に由来する混合系を背景とする(Adamska et al., Dev Dyn 233, 368-72 (2005))。遺伝子地図作成のために、plt/+ヘテロ接合体をCAST/Ei系と交雑させた(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)。実験動物はNIHのガイドラインに従い飼育した。
遺伝子型同定とマーカー。遺伝子型同定は公共データベースのマイクロサテライトマーカーと、マウスゲノム配列から設計された新規マイクロサテライトマーカーを使い行った。D10Umi13を順方向プライマー5'-CCACC ACATC AACAG GCTCA CAGG(SEQ ID NO:1)と逆方向プライマー5'-AATGC AACCG TGACA CAAGT ACAC(SEQ ID NO:2)で増幅した。PCRはPCRコアキット(Qiagen)で行った。PCR産物は6%アクリルアミドゲルで分離し、エチジウムブロマイドで染色した。plt変異体に関してPCRにより遺伝子型同定を行い、イントロン18中の順方向プライマー(5'CGTAT GAATT GAGTA GTTTT GATG、SEQ ID NO: 3)と、挿入されるEtn2β因子の近位LTR中と(5' GCTGG GGGAG GGGAG ACTAC ACAG、SEQ ID NO:4)エクソン19中という(5' ATGGA CTTGG ATCAA TGCCA ACAG、SEQ ID NO:5)2個の逆方向プライマーのRT-PCRを用いた。広範囲な神経変性が起きる前に、P7マウスの脳から全RNAを単離した。cDNAはファーストストランドcDNA合成キット(Invitrogen Corp.)を使い合成した。RT-PCRはPCRコアキット(Qiagen)で行った。長い塩基のPCRは、エキスパンドロングテンプレートPCRシステム(Roche)で行った。
配列決定。マウスとヒトのPCR産物をゲルで精製した。ミシガン大学DNAシークエンシングコアとベイラー医科大学で自動シークエンシングを行った。
ノーザンブロット。3μgのポリA+RNAのノーザンブロットを、以前に記述した方法で実施した(Kohrman et al., J Biol Chem 271, 17576-81 (1996))。エクソン8から15を含む1 kbのRT-PCR産物であるハイブリダイゼーションプローブを、2種の放射標識ヌクレオチド三リン酸で標識した。
組織学的検査。組織はHistoServ(Germantown, MD)で切片にし、染色した。ファストブルー/エオシンによる染色は、ミシガン大学病理学部で行った。光学顕微鏡検査は、オリンパスBX-51顕微鏡とDP50カメラで行った。ミシガン大学顕微鏡検査・画像解析研究室で、坐骨神経と大腿神経の切片を作り、オスミウムで染色し、電子顕微鏡検査を行い、フィリップスCM-100顕微鏡で可視化した。皮膚のホールマウントは、ミシガン大学皮膚科学部Andrzej Dlugosz教授の指導を受け、P10マウスから作製した。背部の体表に市販脱毛剤Nairを5分間塗布した後、温水で洗浄し、毛を除去した。皮膚を切り、浅在筋膜を除去した。透過光の下で普通の解剖顕微鏡を使い、毛包を可視化した。
神経生理学。発症したpale tremorマウスおよび対照としての同腹仔から神経伝導速度を記録した。ケタミン/ザイラジン混合液でマウスを麻酔にかけ、体温を32℃に保つために保温ランプの下に置いた。Nicolet VikingQuestポータブルシステムとNicolet EEG用使い捨て針を使い、記録を取った。尾の感覚反応については、3 cmの領域にわたり近位に刺激を与え、感覚反応を記録した。坐骨神経運動速度は、坐骨切痕で遠位に、膝で近位に、それぞれ刺激を与えて求めた。
細胞培養と免疫蛍光測定。コラゲナーゼ処理したマウスの尾の生検標本から、初代繊維芽細胞の培養を行った。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に10%ウシ胎児血清(FBS)を加えた中で細胞を培養し、37℃、5%CO2で、3代まで継代培養した。免疫蛍光測定のために、細胞10万個を35 mmディッシュ中のリジンコートカバーガラス上に播いた。ラット抗LAMP2(ABL-93, U. Iowa Hybridoma Bank)で標識するために、細胞を氷冷メタノールにより-20℃で5分間固定し、2%ヤギ血清でブロックした。2%血清を加えたPBSに溶解した抗体を室温で反応させ、Alexa fluor 488ロバ抗ウサギまたはAlexa fluor 594ヤギ抗ラットで検出した(Molecular Probes)。細胞はDeltaVision Deconvolution顕微鏡システムで可視化した(Applied Precision)。海馬ニューロンは以前に記述した方法で培養した。グリア細胞と共培養する代わりに、ニューロンをグリア細胞培養から得た条件培地で培養した。ニューロンはNikon TE2000顕微鏡で可視化した。
ホスホイノシチド測定。繊維芽細胞のホスホイノシチドを[2-3H]ミオイノシトールで標識し、抽出し、HPLCで定量した。初代のマウス繊維芽細胞を、100 mmディッシュで60〜70%の培養密度まで培養した。PBSですすいだ後、イノシトールを含まないDMEM(Tissue culture support center, Washington University, MO)に5 g/mlトランスフェリン、5 g/mlインシュリン、10%透析ウシ胎児血清を加えた中で12時間、欠乏状態にした。培地を標識培地と交換した(5 g/mlトランスフェリンを含み、イノシトールを含まないDMEM、20 mM Hepes、50 Ci [2-3H]ミオイノシトール(GE Healthcare, Piscatway, NJ))。24時間後、培養細胞を4.5% (v/v) 過塩素酸0.6 mlで15分間処理し、プレートからかき取り、4℃で10分間、12,000xgの遠心分離にかけた。ペレットを0.1 M EDTAで一度洗浄し、50 μlの脱イオン水に再懸濁した。脂質を脱アシル化するために、試料をガラスバイアルに移し、1 mlのメタノール/40%メチルアミン/n-ブタノール(4:4:1、v/v)と混合し、55℃で1時間、インキュベートした。試料を真空乾燥させ、0.3 mlの水に再懸濁し、等量のブタノール/エチルエーテル/ギ酸(20:4:1、v/v)で2回、抽出した。水相を真空乾燥し、20 μlの水に再懸濁した。グリセロホスホイノシチドのすべてのアイソフォームをHPLCで分離するために、2種類の溶出勾配を、1 ml/分の速度で使用した(ポンプA:H2O、ポンプB:1 M (NH4)2HPO4、pH 3.8)。勾配1:0% Bを5分間、0〜2% Bを15分間、2% Bを80分間、2〜12% Bを20分間、12% Bを20分間、12〜80% Bを40分間、80% Bを20分間、80〜0% Bを5分間。GroPIns(3,4)P2をGroPIns(3,5)P2から分離するために、それよりも長い勾配を使用した:0% Bを5分間、0〜2% Bを15分間、2% Bを80分間、2〜10% Bを20分間、10% Bを65分間、10〜80% Bを40分間、80% Bを20分間、80〜0% Bを5分間。GroPIns(3)P、GroPIns(3,5)P2、GroPIns(3,4)P2、GroPIns(3,4,5)3の位置は、Lucia Rameh博士(Boston Biomedical Research Institute, MA)から贈られた32P標識標準品により決定した。GroPIns(4)P、GroPIns(4,5)P2の位置は、酵母グリセロホスホイノシチド抽出物を使い確認した。
ヒトの変異の検出。血縁関係のないCMT患者のコホートが以前に記述された(Szigeti et al., Genet Med 8, 86-92 (2006))。臨床診断は、臨床検査、電気生理学的試験、そして数例では、神経生検に基づき下した。患者全員が適切なカウンセリングを受け、治験審査委員会の承認を受けたインフォームドコンセントを与えた。FIG4の初期選別のために、以前に記述された方法で、各翻訳領域エクソンを増幅し、ヘテロ二本鎖分析を行った(Escayg et al., Nat Genet 24, 343-5 (2000))。患者の変異は、異常な移動度を示す配列決定産物により同定した。その後、バリアントを保有する4人の患者から、FIG4のエクソン23個の完全な配列決定を行った。神経学的に正常な対照としての個人のゲノムDNAは、コリエル研究所と(パネルNDPT006からNDPT009、各96点の試料)、60才を超える年齢で、個人的にも家族歴にも神経学的疾患が存在しない被験者111人から入手した(Rainier et al., Arch Neurol 63, 445-7 (2006))。
B. 結果
4近交系間の遺伝的交雑を用いる試験中に、重度の振戦、異常な歩行、薄い色素沈着を示す変異マウスが検出された。1繁殖対から25%の発症した子孫が生じ(8/30)、現在pale tremor(plt)と命名されている新しい変異の常染色体劣性遺伝と一致する。発症した動物は、薄い色素沈着と小さいサイズにより、生後3日目に認識できる(図1a)。生後第2週に企図振戦が始まり、生後第3週までに、発症した動物は異常な四肢の向きを示す(図1b)。進行性の運動能力失調と体重減少が、マウスの早期致死を引き起こす。
変異の遺伝子地図作成を行うために、CAST/Ei系との交雑を行った。この交雑では、発症したF2子孫の回収率は9%であり(50/532)、この遺伝的背景で、一部のホモ接合体が出生前に消失することが示唆された。発症F2マウスの最長生存期間は6週であった(図1c)。マイクロサテライトマーカーとSNPマーカーを使い、532匹のF2マウスの遺伝子型同定を行った結果、pltがマウス染色体10の2 Mbの区間にあることがわかった(図2a)。非組み換え領域は21個の注釈付き遺伝子を含み、それらを候補としてRT-PCRと配列決定の試験にかけた。Riken cDNA A530089I17Rikで異常な結果が得られた。脳mRNAのRT-PCRで、転写の遠位部分を増幅できなかった(図3a)。さらに、エクソン8で順方向プライマーを、エクソン16から23で一連の逆方向プライマーを使い行った分析では、変異転写物でエクソン19から23を欠損していることが実証された(図3b)。
生後1日目に単離された3μgのポリA+脳RNAをノーザンブロットにかけた。エクソン8から15を含む1 kbのcDNAプローブとのハイブリダイゼーションにより、野生型RNAの3.3 kbの全長転写物が検出され、これはpltのRNAでは欠損していた(図3c)。X線撮影の露出時間を3時間(図3c)から63時間に延長した場合も、変異RNAで異常な転写物は検出されなかった。
エクソン19から23が発現されない原因であるゲノム変異を同定するために、ゲノムDNAのPCRを行った。これらのエクソン全部を変異DNAから増幅することができたため(図3d)、ゲノム欠損の可能性は排除された。次に、イントロン18の構造を調べた。イントロン18で順方向プライマーを、エクソン19で逆方向プライマーを使い、野生型では長さ0.65 kbの産物が、変異体では6.2 kbの産物が得られた(図3e)。6.2 kb断片の配列には、エクソン19の384 bp上流に位置する5,547 bpの挿入因子が含まれた(GenBank DQ813648)。この挿入因子は、マウスEtn2βレトロトランスポゾンのコンセンサス配列と99%の配列相同性を示した(GenBank Y17106)。レトロトランスポゾンは中断された遺伝子と同じ方向に挿入され、ヘキサヌクレオチドCCCCTGの複製に隣接し(図2b)、どちらもEtn2β挿入の特徴である(Maksakova et al., PLoS Genet 2, e2 (2006))。背景の系統はイントロン18にEtn2β因子を含まないため、plt変異は、マウスに多い変異メカニズムであるレトロウィルスの挿入により起きたものと考えられる。変異対立遺伝子の遺伝子型同定は、3種のプライマーを使うアッセイ法で行うことができ、イントロン18で順方向プライマー、エクソン19とEtn2β因子の近位LTRで逆方向プライマーを使うことにより、646 bpの野生型産物と245 bpのplt断片が得られる(図3f)。このデータは、エクソン18からEtn2β因子3中の潜在的スプライス受容部位の1つまでの異常なスプライシングと一致し、RT-PCRにより検出可能であるが、ポリA+ノーザンブロットの感度よりは低い、低存在量のハイブリッド転写物が生成される。このハイブリッド転写物では、ヒトとマウスの間で92%の配列相同性を示し、タンパク質の機能に必要とされる可能性が高く、高度に保存されたC末端のアミノ酸残基326個をコードするエクソン19〜23が欠損する。
オリジナルのcDNAクローンA530089I17Rikは、T細胞ライブラリーから単離された(Okazaki et al., DNA Res 11, 205-18 (2004))。野生型マウス組織のRT-PCRでは、plt遺伝子の幅広い発現が示され(図3g)、公開されているESTおよびマイクロアレイデータベースの情報と一致する。in situハイブリダイゼーションは、この転写物が脳全体に分布することを示している。ヒトオルソログKIAA0274は、ヒト染色体6q21上の保存された小連鎖群に存在する。この変異タンパク質と最も近いのは、酵母SACドメインホスファターゼFig4であり、全体的なアミノ酸配列の相同性は35%、配列の類似性は66%である(図2c)。SAC(アクチン抑制)ドメインは、活性部位配列CX5R(S/T)などの7個の保存されたモチーフを含み、リン酸化タンパク質またはリン脂質の基質に対する特異性を持つホスファターゼに特徴的に存在する(Hughes et al., Biochem J 350 Pt 2, 337-52 (2000))。Fig4のSACドメインは、酵母とヒトの間で高度に保存されており、アミノ酸配列の相同性は44%である(アミノ酸435個のうち191個)。SACドメインを持つ他の哺乳類遺伝子4種(synaptojanin 1、synaptojanin 2、INPP5F、SACl)はすべて、それ以外のドメインの存在と、酵母Fig4とマウスFig4の間で高度に保存されている(29残基中18残基)相同ドメインHが存在しないという点で、Fig4と異なる(図2c)。配列を比較すると、A530089I17Rikが酵母Fig4のマウスでの相同体であることが示唆される。
酵母Fig4タンパク質は酵母液胞膜上に存在する。Sacドメインの存在に基づき、Fig4は脂質ホスファターゼとして機能することが予想された。in vitroで、Fig4はPI(3,5)P2の5-リン酸塩残基を脱リン酸化する(Rudge et al., MoI Biol Cell 15, 24-36 (2004))。酵母Fig4の欠損により、PI(3,5)P2の細胞内濃度は上昇せず、低下することが判明した(Duex et al., Eukaryot Cell 5, 723-31 (2006))。酵母変異体fig4-G519Rを分析したところ、Sacドメインの触媒部位でアミノ酸の置換が起きており、PI(3,5)P2の生成と代謝回転の両方に、Fig4が必要であることが実証された(Duex et al., J Cell Biol 172, 693-704 (2006))。脂質ホスファターゼ活性に加え、Fig4はPI3PからPI(3,5)P2を合成するFab1/PIKfyveキナーゼを活性化し、それはキナーゼまたはその制御因子の1つを脱リン酸化することによって起きるものと考えられる(Duex et al., J Cell Biol 172,693-704 (2006))。酵母でのPI(3,5)P2の消失は、液胞分裂および液胞から後期エンドソームへの逆行性輸送の異常を引き起こす(Maksakova, supra、Bonangelino et al.., J Cell Biol 156, 1015-28 (2002)、Gary et al.., MoI Biol Cell 13, 1238-51 (2002))。哺乳類では、Fab1/PIKfyveのノックダウンにより、エンドソームからトランスゴルジ網11への逆行性輸送に異常が発生する。どちらの場合も、液胞が拡大する。pale tremorマウスの培養繊維芽細胞中のホスホイノシチドを分析した結果、PI(3,5)P2が3分の1に減少したのに対し(p=0.04)、それ以外の3種のホスホイノシチドでは変化が見られなかった(図2d)。これらのデータは、哺乳類のFIG4がPI(3,5)P2の代謝において保存された生化学的機能を持つことを実証している。
pltマウスにおいて、顕著な選択的神経変性のパターンが観察される。感覚神経節と自律神経節においてニューロンの大幅な消失が発生し、それは出生前と新生児期に起きる(図4a-e)。この時期の神経節には、拡大した細胞質小胞が充満したニューロンが存在し(図4の挿入写真)、細胞の消失が起きる前に小胞が蓄積することを示唆している。それに対し、脊髄運動ニューロンの数は、生後3週という遅い時期まで正常であるが(図4f-g)、生後6週までに細胞質液胞が見られるようになる(図10)。
坐骨神経の横断面を見ると、変異体では大直径の有髄軸索の数がかなり減少している(図5a-b)。神経伝導試験では、神経伝導速度が低下し(変異体= 11.0 ± 3.4 m/秒、野生型 = 21.5 ± 6.3 m/秒)、複合筋活動電位が低下することが判明した(変異体 = 2.2 ± 1.0 mA、野生型 = 5.0 ± 2.1 mA)(すべての値について平均値 ± SD、n=6)。複合筋活動電位の低下は、坐骨神経の半薄切片で見られた軸索の消失および運動ニューロンでの病理学的異常と一致する。尾の感覚線維からの電位の記録では反応がなく、それはDRGからの感覚ニューロンの大幅な消失と一致する。pltマウスにおける神経病理学的および電気生理学的変化は、ヒトの遺伝性末梢神経障害の一部と似ている(Schroder, Neuromolecular Med 8, 23-42 (2006)、Szigeti et al., Genet Med 8, 86-92 (2006))。
脳内では、生後1週で視床、脳橋、髄質、深部小脳核にニューロンが消失した小さい領域が見られ、時折、拡大した小胞で満たされた細胞体も見られる(図6)。これらの小胞はオイルレッドO(脂質の染色)にもPASにも染まらない。生後3週までに、表層4と5、上丘と下丘の深層、嗅球において、局在的なニューロンの消失が広範に起きる(図6)。比較的影響の少ない領域は、海馬、小脳皮質、大脳皮質1、2、3、6層である。培養条件下では、E16.5の胚の海馬ニューロンで広範な空胞化が進行し(図4i-l)、その根底にある変異に対する感受性が実証された。in vivoで見られた局所的な脳変性は、生後3週と末期の6週の間に変化しない。発症した脳領域は共通して、多数の長い投射ニューロンを持ち、そのために膜の生合成と小胞の軸索輸送の必要性が上昇することが考えられる。本発明は特定の機構に限定されない。実際、本発明の実施には、機構を理解する必要はない。それにも関わらず、plt変異体における運動協調性の異常は、DRGニューロンの変性が異常な固有受容感覚を引き起こすことによる影響と、例えば大脳皮質の第5層、視床、深部小脳核など、運動制御に直接関与する脳領域のニューロンの変性による影響が総合された結果であると考えられる。それ以外に影響を受ける器官は皮膚と脾臓である。pltの皮膚では、色素を含む毛包の数が激減する(図1d,e)。小胞の異常が見られる他の変異体と同様に(Marks et al.., Nat Rev MoI Cell Biol 2, 738-48 (2001))、数少ない色素を含む毛には、凝集したメラノソームが見える(図1f,g)。脾臓では、広範な細胞の消失が起きる(図11)。循環白血球の特性は正常である。肝臓、腎臓、精巣は光学顕微鏡レベルでは正常な形態を示す。
繊維芽細胞の初代培養では、継代後2日以内に変異細胞は細胞質液胞で満たされる(図7a-d)。液胞の蓄積は変異細胞の40%(174/435)で観察されたのに対し、野生型細胞では5%であった(22/403)。変異繊維芽細胞中の拡大した小胞は、リソソーム膜タンパク質LAMP2の染色法に反応するため(図7e-g)、蓄積した小胞は後期エンドソームであることが示唆される。
plt変異体は哺乳類のFig4が持つ機能的役割に関する最初の情報を提供する。歩行障害、広範な神経変性、早期致死性は、この哺乳類遺伝子がニューロンの生存に必要であることを実証する。pale tremorマウスの繊維芽細胞で見られたPI(3,5)P2とPI(3)Pのレベルの変化は、これら膜シグナル伝達要素の代謝におけるFIG4の役割を実証する。培養繊維芽細胞とニューロンの細胞表現型は、後期エンドソームのサイズの制御におけるFig4の保存された役割を実証する。感覚および自律ニューロンの急速な変性は、それらがFig4の不活性化に対して優先的な感受性を示すことを実証する。Fig4pを活性化する酵母タンパク質の相同体であるVac14の発現が低下したマウス変異体において、同様の神経変性パターンが観察されており、これはニューロンにおけるPI(3,5)P2によるシグナル伝達の役割を裏付ける。
pale tremorマウスにおける末梢神経変性の臨床的ならびに病理学的特徴は、シャルコー・マリー・トゥース病の一部のタイプにおける特徴と類似する(Schroder et al., Neuromolecular Med 8, 23-42 (2006)、Szigeti et al., Genet Med 8, 86-92 (2006))。染色体6q21上のFIG4座位に位置づけられる家族性神経障害は報告されていない。FIG4の役割を評価するために、CMTと診断されたが、既知の遺伝子に変異が見られない、血縁関係のない95人由来のDNAのスクリーニングを行った(Szigeti et al., supra)。ゲノムDNA由来の23個のエクソンを増幅し、ヘテロ二本鎖分析でスクリーニングを行い、配列を決定した。95人の患者の内4人で変異が同定された。
最初の患者は重度の早期発症型の障害を持っていた。遺伝子型同定では、FIG4のエクソン4のF98fsX102切り詰め型変異、エクソン2のI41Tミスセンス変異に関するヘテロ接合性が実証された(図8a)。各変異はヘテロ接合性の親から受け継いだものである(図8b)。発症していない同胞はF98fsX102のみについてヘテロ接合性である。この家系はCMTの常染色体劣性遺伝を示している。タンパク質切り詰め型変異はSACドメインに位置し、酵素活性を不活性化するものと考えられる。この家系でF98fsX102のヘテロ接合性の保因者2人は発症しておらず、FIG4はハプロ不全を示さないことが示唆された。この結論と一致する結果として、ヘテロ接合性のplt+マウスは、生後18カ月まで維持され、その間、異常な表現型は発達しなかった。
2人目の患者も複合ヘテロ接合体であり、エクソン6にナンセンス変異R183X、エクソン2にアミノ酸置換I41Tを持っていた(図8a)。発症した同胞は両方の変異を受け継いでいた(図8b)。このタンパク質切り詰め型変異は、患者の父からの遺伝であった(図8b)。母はI41Tの絶対保因者であるが、分析のためのDNAを入手できなかった。発症した患者と同胞は重度の臨床的特徴を示している。患者は機能的に四肢麻痺状態である。同胞は車椅子を必要とするが、腕は正常に使うことができる。両名で、脱髄または髄鞘形成異常と同様に、神経伝導速度が遅くなっている。同胞の腓腹神経生検では、薄いミエリン髄鞘で覆われた神経線維と、脱髄および再ミエリン化の証拠が実証された。深刻な軸索の消失が見られた。
さらに2人の患者(図8a)が複合ヘテロ接合体であり、ミスセンス変異I41Tによる独特の切り詰め型変異を保有する(図8a)。これらの患者における発病年齢は1〜5才であり、神経伝導速度は2〜7 m/sであった(正常値は40〜50 m/s)。1人の患者では、デジュリーヌ・ソッタ病という神経障害と同様の運動発達遅延が見られた。
これら4人の患者は同じミスセンス変異を保有する。FIG4の23エクソン全部の配列決定では、これらの患者において、別のコードまたはスプライス部位バリアントは検出されなかった。イソロイシン41はSACホスファターゼドメインのN末端に位置し、酵母、無脊椎動物、脊椎動物のFIG4において、進化的に不変である(図8c,d)。神経学的に正常な対照被験者295人のエクソン2の配列決定では、I41T対立遺伝子は検出されなかった(対照の染色体では0/590、CMT患者の染色体では4/190。p=0.003)。FIG4のイントロン1からイントロン3までの15 kbの連鎖不平衡領域には、共通する3個のハプロタイプがある。rs3799845、rs2025149、rs7764711というSNPで定義されるハプロタイプの頻度は、コーカサス人種において0.29(GCG)0.31(ATC)、0.40(GTC)である。エクソン2のI41Tバリアントは、本発明に記述する血縁関係のない4人のコーカサス人患者で、GCGというハプロタイプに存在する(図12)。Ile41Thr対立遺伝子について計算された連鎖不平衡(LD)係数D’は、rs3799845、rs2025149、rs7764711では1である。D’はrs4330563とrs4947022では0.11である。このハプロタイプに関するデータは、エクソン2中の変異のホットスポットではなく、共通の先祖変異対立遺伝子の遺伝と一致する。I41Tは、酵母からヒトまで不変の疎水性残基から極性残基への非保存的置換や、酵母アッセイにおける変化したタンパク質機能という、疾患変異の特徴を備えているため、別の有害変異の連鎖不平衡のタグとは思えない。
I41T対立遺伝子の機能を実験的に評価するために、酵母タンパク質の保存イソロイシン残基で、それに対応する変異を起こした(図8e)。機能するFig4を欠くfig4Δ酵母系で、野生型と変異体のタンパク質の機能を比較した(Duex et al.., Eukaryot Cell 5, 723-31 (2006))。野生型と変異体のタンパク質の発現レベルはウェスタンブロット法で比較した(図9a)。このヌルのバックグラウンド系統における拡大した液胞は、Fig4が存在しない結果としてのPI(3,5)P2のわずかな上昇を反映している(図9b)。拡大した液胞のサイズは、野生型と変異体のFig4により同程度に補正されており、基本的な条件下では、2種のコンストラクトを発現する細胞が、同等レベルのPI(3,5)P2を産生することを示唆している(図9b)。Fab4/PIKfyveを活性化する変異タンパク質の能力を評価するために、以前に記述された方法で、酵母に高浸透圧ショックを与えた(Duex et al., Eukaryot Cell 5, 723-31 (2006); Duex et al., J Cell Biol 172, 693-704 (2006))。野生型Fig4を発現する細胞では、その結果、細胞内のPI(3,5)P2濃度が一時的に10倍に上昇し、Fab1/PIKfyveが適切に活性化されたことが示された。変異Fig4を発現する細胞では、4倍しか上昇せず、Fab1/PIKfyve活性化能力が部分的に失われていることが示された。PI(3,5)P2濃度が低かったため、変異Fig4の脂質ホスファターゼ活性に対する影響の有無を判断することは困難だった。
これらのデータは、FIG4遺伝子の変異がヒトの患者における末梢神経変性の原因であることを実証する。劣性遺伝に基づき、FIG4変異により起きる障害については、CMT4Jという名称が使われる。ホスホイノシチドシグナル伝達経路は、他のタイプの末梢神経障害とも関連づけられている。シャルコー・マリー・トゥース病4B1型は、PI(3)PとPI(3,5)P2のin vitro脱リン酸化を触媒する3-ホスファターゼであるミオチューブラリン関連タンパク質2(MTMR2)における変異により起きる(Begley et al., Proc Natl Acad Sci U S A 103, 927-32 (2006)、Bolino et al., Nat Genet 25, 17-9 (2000))。MTMR2の変異はPI(3,5)P2のレベルを上昇させると予想されるが、これらの変異がホスホイノシチドのレベルに与える実際の効果は、実験的に決定されていない。MTMR2の臨床的影響は、本発明で記述したFIG4変異よりも、はるかに軽度であり(Bolino et al., J Cell Biol 167, 711-21 (2004)、Bonneick et al., Hum MoI Genet 14, 3685-95 (2005))、これらの酵素が異なる細胞内コンパートメントで機能するか、またはin vivoで異なる基質特異性を示す可能性がある。CMT病4B2型は、MTMR2と相互作用する酵素活性を持たないタンパク質であるMTMR13/SBF219の変異により起きる。最近、Rab7とdynamin 2を含む小胞輸送において機能を持つ他の遺伝子が、遺伝性の神経障害と関連づけられた(Verhoeven et al., Am J Hum Genet 72, 722-7 (2003)、Zuchner et al., Nat Genet 37, 289-94 (2005))。
この研究は、Fig4の変異がマウスとヒトにおける神経障害を引き起こし、Fig4の消失により、哺乳類細胞におけるPI(3,5)P2レベルが変化することを初めて実証したものである。FIG4と複合体を形成するVAC14タンパク質は、シナプスのミクロソーム膜画分に存在し、神経型一酸化窒素合成酵素と相互作用する(Lemaire and McPherson, FEBS Lett (2006))。エンドソームの小胞が、長期増強中に樹状突起棘に膜構成要素を輸送する役割を果たすことを示唆する証拠がある(Park et al., Neuron 52, 817-30 (2006))。
上記明細書で言及したすべての公報ならびに特許は、参照により開示に含まれる。本発明の記述された方法および方式の種々の変更態様および変型例は、本発明の範囲と精神から逸脱することなく、当業者にとり明らかなものとする。本発明は特定の好ましい実施例と関連づけて記述されているが、請求項に記載された発明は、そのような特定実施例に不当に限定されないことを理解するものとする。実際、本発明を実施するために記述された態様の種々の変更態様であって、分子生物学、遺伝学、または関連分野の当業者にとり明白なものは、以下の請求項の範囲内と意図される。

Claims (10)

  1. 被験体由来のFIG4遺伝子を含む試料をアッセイして、FIG4遺伝子の変異の有無を決定する段階
    を含む、被験体のFIG4遺伝子バリアントを検出する方法であって、
    該変異が、D348fsX359切り詰め型変異およびG253fsX261切り詰め型変異からなる群から選択されるFIG4ポリペプチドの変異を生じ、該変異の存在が、FIG4遺伝子がFIG4遺伝子バリアントであることを示す、前記方法。
  2. 前記変異が、D348fsX359切り詰め型変異を生じる、請求項1記載の方法。
  3. 前記変異が、G253fsX261切り詰め型変異を生じる、請求項1記載の方法。
  4. 試料が、血液試料、組織試料、尿試料、DNA試料、および羊水試料からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
  5. 被験体が、胚、胎児、動物の新生仔、および若年動物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
  6. 動物がヒトである、請求項5記載の方法。
  7. アッセイ段階が、直接配列決定アッセイ法、断片多型アッセイ法、ハイブリダイゼーションアッセイ法、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
  8. アッセイ段階が、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーション、核酸増幅、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
  9. 前記変異がホモ接合変異である、請求項1記載の方法。
  10. 前記変異がヘテロ接合変異である、請求項1記載の方法。
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