1つの実施形態では、電磁界共振結合方式に準じた無線電力伝送システムにおいて、送信回路と送信アンテナとの間に設置されるインピーダンス整合装置であって、前記送信回路からの送信信号に対応する進行波電圧と、前記送信アンテナからの反射信号に対応する反射波電圧と、を取り出す進行波・反射波抽出部と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とに基づき、反射係数の絶対値又は当該絶対値に相当する値である反射係数絶対値相当値を算出する反射係数算出部と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とが同相に近いか又は逆相に近いかの位相判定を行う位相判定部と、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信アンテナ側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える第1形式の整合回路と、前記第1形式の整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要なインダクタンス値及びキャパシタンス値に対応した制御値を、前記反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた第1の記憶部と、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信回路側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える第2形式の整合回路と、前記第2形式の整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要な前記制御値を、反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた第2の記憶部と、前記第1形式の整合回路、前記第2形式の整合回路、又は整合回路を挿入しないスルー回路、の何れかを、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に電気的に接続させるスイッチ部と、前記反射係数絶対値相当値と前記位相判定の結果とに基づき、前記スイッチ部を動作させる整合回路選択部と、前記位相判定の結果に基づき、前記第1の記憶部又は前記第2の記憶部の何れかを選択する記憶部選択部と、前記記憶部選択部により選択された前記第1又は第2の記憶部から前記制御値を読出し、前記整合回路選択部により選択された前記第1形式又は第2形式の整合回路に当該制御値を反映させる制御値出力部と、を備える。
上記のインピーダンス整合装置は、電磁界共振結合方式に準じた無線電力伝送システムにおいて、送信回路と送信アンテナとの間に設置される。インピーダンス整合装置は、進行波・反射波抽出部と、反射係数算出部と、位相判定部と、第1形式の整合回路と、第1の記憶部と、第2形式の整合回路と、第2の記憶部と、スイッチ部と、整合回路選択部と、制御値出力部と、を備える。反射係数算出部は、進行波・反射波抽出部によって抽出された進行波電圧と反射波電圧とに基づき、反射係数絶対値相当値を算出する。ここで、「反射係数絶対値相当値」とは、反射係数の絶対値、又はこれと一意な関係にある値等、反射係数の絶対値に相当する値であり、例えば反射係数の絶対値やインピーダンスの絶対値などが該当する。位相判定部は、進行波電圧と反射波電圧とが同相に近いか又は逆相に近いかの位相判定を行う。整合回路選択部は、反射係数絶対値相当値と位相判定の結果とに基づき、第1形式の整合回路、第2形式の整合回路、又は整合回路を挿入しないスルー回路、の何れかを、送信回路と送信アンテナとの間に電気的に接続させる。記憶部選択部は、位相判定の結果に基づき、第1の記憶部又は第2の記憶部の何れかを選択する。制御値出力部は、整合回路選択部により選択された第1形式又は第2形式の整合回路に当該制御値を反映させる。ここで、「制御値」とは、インダクタンス値及びキャパシタンス値の他、インダクタンス値及びキャパシタンス値を電気的もしくはモーター等の機械的機構を用いて変化させるための制御電圧値,複数の微小インダクタ要素,微小キャパシタ要素から成るLCネットワーク回路に含まれるリレーやMEMS(Micro Electro Mechanical System)等スイッチ部のON/OFFを制御するためのビットパターンなどが該当する。このようにすることで、インピーダンス整合装置は、電磁界共振結合方式の送信アンテナ及び受信アンテナを対向させて電力伝送を行う場合に、ギャップの変化に合わせて送信側回路と送信アンテナとの間のインピーダンス整合を行い、送信側から入力した電力を損失することなく受信側に伝送することができる。
上記のインピーダンス整合装置の一態様では、前記制御値は、電磁界共振結合方式の前記送信アンテナ及び受信アンテナを対向させ、当該送信アンテナ及び受信アンテナ間のギャップを変更した際の、前記送信回路から前記送信アンテナ側への入力インピーダンスの変化の軌跡に基づいて設定される。インピーダンス整合装置は、このように設定された制御値を予め記憶しておき、インピーダンス整合を行うことで、処理工程を削減することができ、回路規模及び必要なメモリ容量を削減することができる。
上記のインピーダンス整合装置の他の一態様では、前記進行波・反射波抽出部は、方向性結合器もしくはサーキュレータである。この態様により、インピーダンス整合装置は、好適に、進行波電圧及び反射波電圧を抽出することができる。
上記のインピーダンス整合装置の他の一態様では、前記制御値は、反射による損失が常に所定の閾値以下となるように量子化して生成されている。インピーダンス整合装置は、当該制御値に基づきインピーダンス整合を行うことで、整合後の反射による損失を、常に所定の閾値以下にすることができる。
上記のインピーダンス整合装置の他の一態様では、前記制御値は、前記反射係数の絶対値または当該絶対値に相当する値である反射係数絶対値相当値が大きくなるほど、量子化間隔が小さくなるように量子化される。インピーダンス整合装置は、当該制御値に基づきインピーダンス整合を行うことで、整合後の反射による損失を、所定の閾値以下にすることができる。
他の実施形態では、電磁界共振結合方式に準じた無線電力伝送システムにおいて、送信回路と送信アンテナとの間に設置され、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信アンテナ側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える第1形式の整合回路と、前記第1形式の整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要なインダクタンス値及びキャパシタンス値に対応した制御値を、反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた第1の記憶部と、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信回路側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える第2形式の整合回路と、前記第2形式の整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要な前記制御値を、反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた第2の記憶部と、前記第1形式の整合回路、前記第2形式の整合回路、又は整合回路を挿入しないスルー回路、の何れかを、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に電気的に接続させるスイッチ部と、を備えるインピーダンス整合装置が実行する制御方法であって、前記送信回路からの送信信号に対応する進行波電圧と、前記送信アンテナからの反射信号に対応する反射波電圧と、を取り出す進行波・反射波抽出工程と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とに基づき、反射係数絶対値相当値を算出する反射係数算出工程と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とが同相に近いか又は逆相に近いかの位相判定を行う位相判定工程と、前記反射係数絶対値相当値と前記位相判定の結果とに基づき、前記スイッチ部を動作させる整合回路選択工程と、前記位相判定の結果に基づき、前記第1の記憶部又は前記第2の記憶部の何れかを選択する記憶部選択工程と、前記記憶部選択工程により選択された前記第1又は第2の記憶部から前記制御値を読出し、前記整合回路選択工程により選択された前記第1形式又は第2形式の整合回路に当該制御値を反映させる制御値出力工程と、を備える。インピーダンス整合装置は、この制御方法を実行することにより、ギャップの変化に合わせて送信側回路と送信アンテナとの間のインピーダンス整合を行い、送信側から入力した電力を損失することなく受信側に伝送することができる。
さらに別の実施形態では、電磁界共振結合方式に準じた無線電力伝送システムにおいて、送信回路と送信アンテナとの間に設置されるインピーダンス整合装置であって、前記送信回路からの送信信号に対応する進行波電圧と、前記送信アンテナからの反射信号に対応する反射波電圧と、を取り出す進行波・反射波抽出部と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とに基づき、反射係数の絶対値又は当該絶対値に相当する値である反射係数絶対値相当値を算出する反射係数算出部と、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信アンテナ側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える整合回路と、前記整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要なインダクタンス値及びキャパシタンス値に対応した制御値を、前記反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた記憶部と、前記整合回路、又は整合回路を挿入しないスルー回路、の何れかを、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に電気的に接続させるスイッチ部と、前記反射係数絶対値相当値に基づき、前記スイッチ部を動作させる整合回路選択部と、前記記憶部から前記制御値を読出し、前記整合回路に当該制御値を反映させる制御値出力部と、を備える。このようにすることで、インピーダンス整合装置は、電磁界共振結合方式の送信アンテナ及び受信アンテナを対向させて電力伝送を行う場合であって、ギャップが近くなる方向に対応する不整合を修正する場合に、送信側回路と送信アンテナとの間のインピーダンス整合を行い、送信側から入力した電力を損失することなく受信側に伝送することができる。
上記のインピーダンス整合装置の一態様では、前記制御値は、電磁界共振結合方式の前記送信アンテナ及び受信アンテナを対向させ、当該送信アンテナ及び受信アンテナ間のギャップを変更した際の、前記送信回路から前記送信アンテナ側への入力インピーダンスの変化の軌跡に基づいて設定される。
さらに別の実施形態では、電磁界共振結合方式に準じた無線電力伝送システムにおいて、送信回路と送信アンテナとの間に設置されるインピーダンス整合装置であって、前記送信回路からの送信信号に対応する進行波電圧と、前記送信アンテナからの反射信号に対応する反射波電圧と、を取り出す進行波・反射波抽出部と、前記進行波電圧と前記反射波電圧とに基づき、反射係数の絶対値又は当該絶対値に相当する値である反射係数絶対値相当値を算出する反射係数算出部と、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、当該可変インダクタ要素よりも前記送信回路側に並列に接続される可変キャパシタ要素と、を備える整合回路と、前記整合回路を用いて所定のインピーダンス値に整合させるために必要なインダクタンス値及びキャパシタンス値に対応した制御値を、前記反射係数絶対値相当値に対応させて予め記憶させた記憶部と、前記整合回路、又は整合回路を挿入しないスルー回路、の何れかを、前記送信回路と前記送信アンテナとの間に電気的に接続させるスイッチ部と、前記反射係数絶対値相当値に基づき、前記スイッチ部を動作させる整合回路選択部と、前記記憶部から前記制御値を読出し、前記整合回路に当該制御値を反映させる制御値出力部と、を備える。このようにすることで、インピーダンス整合装置は、電磁界共振結合方式の送信アンテナ及び受信アンテナを対向させて電力伝送を行う場合であって、ギャップが遠くなる方向に対応する不整合を修正する場合に、送信側回路と送信アンテナとの間のインピーダンス整合を行い、送信側から入力した電力を損失することなく受信側に伝送することができる。
上記のインピーダンス整合装置の一態様では、前記制御値は、電磁界共振結合方式の前記送信アンテナ及び受信アンテナを対向させ、当該送信アンテナ及び受信アンテナ間のギャップを変更した際の、前記送信回路から前記送信アンテナ側への入力インピーダンスの変化の軌跡に基づいて設定される。
なお、スイッチ部で切換えられる回路の一つとして整合回路を挿入しないスルー回路と記載したが、この記載の本質としての、整合回路を挿入しないというスルーの状態と同様の効果を有する実装方法であれば、いかなる実装方法でも構わない.例えば、明示的に整合回路をスルーするような回路パスは持っていないが、可変インダクタンスの値をゼロとすることで整合回路が入っていない状態と等価にするような実装方法も、整合回路を挿入しないスルー回路に切換えていることと同じことであるとみなされる。
以下、図面を参照して本発明の好適な各実施形態について説明する。
<第1実施形態>
[概要説明]
図1は、第1実施形態に係る送信システム100の概略構成図である。図1に示すように、送信システム100は、送信回路1と、インピーダンス整合装置2と、送信アンテナ4と、を備える。
送信回路1は送信信号源11と増幅部12とを備える。送信信号源11は無線電力伝送で使用する高周波信号を発生させる。増幅部12は、伝送する電力の大きさを調整すると共に、電力を伝送する際の開始動作及び停止動作など制御回路として機能する。
インピーダンス整合装置2は、送信回路1と送信アンテナ4との間に配置される。インピーダンス整合装置2は、主に、進行波・反射波抽出部21と、反射係数算出部22と、位相判定部23と、第1形式の整合回路24と、第1の記憶部25と、第2形式の整合回路26と、第2の記憶部27と、整合回路選択部28と、スルー回路29と、スイッチ部30と、記憶部選択部31と、制御値出力部32と、を備える。
進行波・反射波抽出部21は、送信回路1から入力された送信信号に対応する信号成分の電圧(以後、「進行波電圧Vf」と呼ぶ。)と、送信アンテナ4からの反射信号に対応する信号成分の電圧(以後、「反射波電圧Vr」とも呼ぶ。)を分離して取り出す。進行波・反射波抽出部21は、例えば方向性結合器である。反射係数算出部22は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとから、反射係数「Γ」の絶対値(「反射係数絶対値|Γ|」とも呼ぶ。)を算出する。位相判定部23は、進行波電圧Vfの位相と反射波電圧Vrの位相が同相に近いか逆相に近いかの判定(単に、「位相判定」とも呼ぶ。)を行う。後述するように、進行波電圧Vfの位相と反射波電圧Vrの位相とは、ほぼ同相又はほぼ逆相となる。
第1形式の整合回路24は、送信回路1と送信アンテナ4との間に直列に挿入される可変インダクタ要素240と、送信アンテナ4側の端に並列に接続される可変キャパシタ要素241と、を備える。第1の記憶部25は、第1形式の整合回路24を用いて送信システム100を所定のインピーダンス値に整合させるために必要な制御値を、反射係数絶対値|Γ|に対応させて記憶する。以後では、「制御値Tc」とは、第1形式又は第2形式の整合回路24、26に入力される制御値を指す。ここでは、制御値Tcは、第1形式又は第2形式の整合回路24、26に設定するインダクタンス値(「インダクタンス補正量Lm」とも呼ぶ。)及びキャパシタンス値(「キャパシタンス補正量Cm」とも呼ぶ。)を指すものとする。制御値Tcは、後述するように、電磁界共振結合方式の送信アンテナ4及び図示しない受信アンテナ(「送受信アンテナ」とも呼ぶ。)を対向させてこれらのギャップ(「ギャップGp」とも呼ぶ。)を変更した際の、送信回路1から送信アンテナ4側を見た時の入力インピーダンスの変化の軌跡に基づいて設定される。
第2形式の整合回路26は、送信回路1と送信アンテナ4との間に直列に挿入される可変インダクタ要素260と、送信回路1側の端に並列に接続される可変キャパシタ要素261と、を備える。第2の記憶部27は、第2形式の整合回路26を用いて送信システム100を所定のインピーダンス値に整合させるために必要な制御値Tcを、反射係数絶対値|Γ|に対応させて記憶する。以後では、第1形式の整合回路24及び第2形式の整合回路26を、単に「整合回路」とも総称する。また、第1の記憶部25及び第2の記憶部27を、単に「記憶部」とも総称する。
整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|と、位相判定の結果(「位相判定結果Jr」と呼ぶ。)とに基づいて、第1形式の整合回路24又は第2形式の整合回路26若しくは電線のみからなるスルー回路29のいずれかが送信回路1及び送信アンテナ4と連結されるようにスイッチ部30を制御する。記憶部選択部31は、位相判定結果Jrに基づいて、第1の記憶部25または第2の記憶部27のいずれに記憶された制御値Tcを使用するか選択する。制御値出力部32は、選択された第1又は第2の記憶部25、27から、算出された反射係数絶対値|Γ|に対応した制御値Tcを読出し、整合回路選択部28によって選択された第1形式の整合回路24又は第2形式の整合回路26に当該制御値Tcを反映させる。
次に、インピーダンス整合装置2の各要素が行う動作について具体的に説明する。
まず、反射係数算出部22の動作について説明する。反射係数算出部22では、進行波・反射波抽出部21の2つの出力である進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとを用いて反射係数絶対値|Γ|を以下の式(1)に従って算出する。
算出された反射係数絶対値|Γ|は、後述する位相判定結果Jrに従って選択される記憶部への参照値となる。即ち、記憶部は、反射係数絶対値|Γ|の入力に基づき、制御値Tcを記憶部選択部31に出力する。また、反射係数絶対値|Γ|は、整合回路選択部28にも用いられる。具体的には、整合回路選択部28は、位相判定結果Jrと合わせて、反射係数絶対値|Γ|に基づき、第1形式の整合回路24又は第2形式の整合回路26もしくはスルー回路29のいずれを選択するか決定する。具体的には、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が所定の閾値(「閾値|Γ|thr」と呼ぶ。)以下の場合、インピーダンス値を整合する必要がないと判断し、スルー回路29を選択する。一方、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合、インピーダンス値を整合する必要があると判断し、第1形式又は第2形式の整合回路24、26のいずれかを選択する。ここで、閾値|Γ|thrは、好適には、反射による損失を0.5%に抑えることができる値、即ち他に損失を生じる部分が無ければ効率99.5%を達成できる値に相当する0.0707に設定されるとよい。
次に位相判定部23の動作について説明する。位相判定部23は、方向性結合器である進行波・反射波抽出部21から2つの出力である進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとを受信する。そして、位相判定部23は、進行波電圧Vfの位相と反射波電圧Vrの位相とが同相に近いか、それとも逆相に近いかの判定を行う。後述するように、電磁界共振結合方式の送受信アンテナを用いた場合、送信回路1から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスの軌跡は、送受信アンテナ間のギャップGpが変化した場合であってもスミスチャート上の実数軸付近のみをトレースする。従って、送受信アンテナ間のギャップGpが変化しても、反射係数Γの位相は、ほぼ0度(ほぼ同相)、又は、ほぼ180度(ほぼ逆相)のいずれかの状態となる。その場合、進行波電圧Vfの位相と反射波電圧Vrの位相とは、ほぼ同相か又はほぼ逆相になる。これについては、後述する[本発明におけるインピーダンス整合の考え方]のセクションにて詳しく説明する。
この特徴を利用すると、位相判定部23に相当する回路が簡便に構成される。図2は、位相判定部23に相当する回路の一例である。図2に示す回路は、加算器と、減算器と、ダイオード、コンデンサ及び抵抗を有する包絡線検波部と、コンパレータとを備える。図2に示す回路は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの加算結果及び減算結果の結果比較をコンパレータで行い、減算結果よりも加算結果の方が大きい場合には進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相であると判断し、加算結果よりも減算結果の方が大きい場合には、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが逆相であると判断する。即ち、図2に示す回路は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相の場合は減算結果よりも加算結果の方が大きくなること、及び、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが逆相の場合は加算結果よりも減算結果の方が大きくなることを利用している。
位相判定結果Jrは、記憶部選択部31に入力され、第1又は第2の記憶部25、27の選択の際に使用される。位相判定結果Jrは、整合回路選択部28にも入力される。整合回路選択部28は、第1形式又は第2形式の整合回路24、26の選択の際に使用される。
次に、算出された反射係数絶対値|Γ|に基づき、記憶部選択部31が、第1形式又は第2形式の整合回路24、26に必要となるインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmを特定する過程について説明する。
まず、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとがほぼ同相の場合について説明する。記憶部選択部31は、位相判定部23の位相判定結果Jrに基づき、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとがほぼ同相であると判断した場合、反射係数絶対値|Γ|から整合に必要なキャパシタンス補正量Cm、インダクタンス補正量Lmを第1の記憶部25から取得する。第1の記憶部25が記憶する内容の具体例及び作成例については、後述する[制御値の生成方法]及び[量子化テーブルの作成方法]のセクションで詳しく説明する。
一方、記憶部選択部31は、位相判定部23の位相判定結果Jrに基づき、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとがほぼ逆相であると判断した場合、反射係数絶対値|Γ|から整合に必要なインダクタンス補正量Lm、キャパシタンス補正量Cmを第2の記憶部27から取得する。第2の記憶部27が記憶する内容の具体例及び作成例については、後述する[制御値の生成方法]及び[量子化テーブルの作成方法]のセクションで詳しく説明する。
[送受信アンテナ]
次に、電磁界共振結合方式で使用される送受信アンテナ単体での特性と、その等価回路表現について述べる。図3は、本実施形態に係る送信アンテナ4及び受信アンテナとして用いられるアンテナの一例を示す。図3に示すアンテナは、直径30cm、巻数5、巻線間ピッチ5mm、銅線太さ2mmの先端オープン型ヘリカルアンテナである。
図4は、図3に示すアンテナの入力インピーダンスを3次元電磁界解析シミュレータで解析した結果を示す。図4において、グラフ「Gr1」、「Gr2」は、入力インピーダンスの実部に相当し、グラフ「Gi1」、「Gi2」は、入力インピーダンスの虚部に相当する。図4に示すように、図3に示すアンテナは、直列共振点(即ち、虚部に相当するグラフGi1がマイナス側からプラス側へと変化する際に0Ωを横切るポイント。)において実部に相当するグラフGr1がほとんど0Ωであるという特徴を持つ。従って、このアンテナを単体で用いてもほとんど放射しないことが分かる。
図3に示すアンテナは、直並列型等価回路によって正確にモデル化できる。図5は、図3に示すアンテナの直並列型等価回路の一例である。ここで、図4に示す周波数特性から得られる連立方程式を解いて、図5の等価回路を構成する回路要素の値を求めると、図5に示すコイルのインダクタンスLは、8.14μH、コイルと直列に配置されたコンデンサの直列キャパシタンスCは、12.6pF、コイルと並列に配置されたコンデンサの並列キャパシタンスCtは、11.4pF、抵抗Rは、0.81Ωと計算される。電磁界共振結合の現象として電力伝送で使用されるのは、図4の直列共振点であり、その共振周波数は、15.7MHzと計算される。
ここで、図5に示す直並列型等価回路の正当性について述べる。図5に示す回路を左側から見た場合の入力インピーダンス「Zin」は式(2)により表される。
式(2)より、入力インピーダンスZinの実部(Re)及び虚部(Im)は、式(3)のように求められる。
図6は、式(2)に、先に求めたアンテナの等価回路要素の値(L=8.14μH、C=12.6pF、Ct=11.4pF、R=0.81Ω)を代入して求めた周波数特性と、図4の電磁界解析の結果との両者をプロットしたグラフを示す。具体的には、図6(a)は、入力インピーダンスZinの実部と、周波数との関係を示す。図6(b)は、入力インピーダンスZinの虚部と、周波数との関係を示す。なお、図6(a)、(b)では、図5の等価回路解析の結果は実線、図4の電磁界解析の結果は点線により表現されている。
図6(a)、(b)に示すように、図5の等価回路解析の結果を示す実線と、図4の電磁界解析の結果を示す点線とは、ほとんど一致する。よって、図5に示す直並列型等価回路によって電磁界共振結合方式のアンテナをモデル化することは正当である。後に、図5に示す直並列型等価回路を用いて、送信アンテナ4と受信アンテナとを組み合わせた場合での入力インピーダンスの変化の軌跡(以後、「入力インピーダンス軌跡Tr」と呼ぶ。)を求める。
[入力インピーダンスの変化の軌跡]
次に、送信アンテナ4と受信アンテナ間の結合状態を変えたときの入力インピーダンス軌跡Trについて詳しく説明する。
図7は、電力伝送時の送信アンテナ4及び受信アンテナの位置関係を示す。図7は、図3に示すアンテナを送信アンテナ4及び受信アンテナとして対向させて電力伝送させるシステムを示す。ギャップGpは一般に数10cm程度とされることが多い。送信アンテナ4への給電(図7では信号発生器から給電)と受信アンテナからの電力の取出しは、同軸ケーブル等を接続して行うものとする。なお、図7では、負荷を接続することで受信アンテナから電力が取り出される。
図8は、図7に示すシステムを直並列型等価回路により表現したものである。即ち、図8に示す直並列型等価回路は、2つの電磁界共振結合用の送受信アンテナを互いに対向させ、同軸ケーブル等で送信アンテナ4に給電し、受信アンテナと負荷を同軸ケーブル等で接続させたシステムを示す。この例では、送信アンテナ4と受信アンテナとは、同じアンテナである。ここで、図8中の「Lm」は送受信アンテナが磁気的に結合された状態での相互インダクタンスを表し、送信アンテナ4及び受信アンテナに同じアンテナを用いた場合、相互インダクタンスLmは、その結合係数を「k」とすれば、式(4)により表される。
結合係数kの値は送受信アンテナ間のギャップGpによって決まる。従って、ギャップGpを変更することは結合係数kを変更することと置き換えて考えられる。
ここで、負荷のインピーダンス「Rx」を送信側の信号源インピーダンスと等しいと仮定し、負荷のインピーダンスRxが整合目標のインピーダンス「Z0」と等しいとして送信回路1側(信号源)から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスZinは、式(5)により表される。
ここで、駆動周波数(即ち、電力伝送で使用する無線周波数)として送受信アンテナ単体での共振周波数「f0」を用いるものとする。ここで、共振周波数f0は、以下に示す式(6)により表される。
式(5)の入力インピーダンスZinは、共振周波数f0(ω0=2πf0とする。)を用いると、式(7)が成立することを利用すると、式(8)により表せられる。
ここで、式(8)では、式(4)の関係を用いて、結合係数kをパラメータとして表している。
なお、式(5)式(8)は送信アンテナ4及び受信アンテナとして同じ形状のものを用いた場合の例として示されているが、例えば受信アンテナのサイズ(直径)を小さくした場合など、送信アンテナ4と受信アンテナとの形状が異なる場合であっても(ただし、共振周波数は同一である必要はある。)、同様の手順によって送信回路1から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスの値を定式化して(式(5)に相当する式を求める)、式(7)に記載した共振周波数の条件(この条件は、送信アンテナ4に対応するL1、C1の値を用いた式と、受信アンテナに対応するL2、C2の値を用いた式の2つを使用することになる。)を適用してやれば、式(8)に対応する式が求められる。
図9は、式(8)を用いて、結合係数kを変えたときの(つまり、送受信アンテナ間のギャップGpを変えたときの)入力インピーダンスZin(ω=ω0)の軌跡を求め、それをスミスチャート上にプロットした図である。図9では、結合係数kは、0.001〜0.7の範囲で変化している。なお、図10は、図9のスミスチャートに後述する説明を補足的に記載した図である。
図9に示されるように、電磁界共振結合方式では送受信アンテナ間のギャップGpを変えると送信回路1側から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスが大きく変化する。図9に示すスミスチャートの中心点(単に「中心点」とも呼ぶ。)は、図10に示すように、インピーダンス整合が出来ている状態(この場合では、Z0=50Ω、以後、「整合状態」、又は「整合ポイント」とも呼ぶ。)に相当する。そして、中心点より右に移動した状態は、整合ポイントと比較して入力インピーダンスが高くなっている状態であることを表している。また逆に、中心点より左側に移動した状態は整合ポイントと比較して入力インピーダンスが低くなっている状態であることを表している。言い換えると、中心点より右に移動した状態(図10の破線枠WR内に相当する。)は、整合ポイントから送受信アンテナ間のギャップGpを小さくした場合、即ち整合ポイントよりも送受信アンテナ間の結合が強い場合に生じる状態である。逆に、中心点から左に移動した状態(図10の破線枠WL内に相当する。)は、整合ポイントから送受信アンテナ間のギャップGpを大きくした場合、即ち整合ポイントより送受信アンテナ間の結合が小さい場合に生じる状態である。
[本発明におけるインピーダンス整合の考え方]
図9、10に示すように、送受信アンテナ間の結合状態(即ちギャップGp)を変えることで入力インピーダンスは変化する。一方、その入力インピーダンスの変化は、スミスチャートの横軸(抵抗軸)に沿ってわずかにカーブした一次元に近い変化である。特徴的なのは、リアクタンス分が「0」である抵抗軸上に近い所で変化することである。このような場合、求めた入力インピーダンス軌跡Tr上のポイントの複素反射係数の位相成分「arg(Γ)」の値は、結合が強い場合(図10の破線枠WR内)ではわずかにカーブしている分マイナス側にずれた0度に近い値となり、結合が弱い場合(図10の破線枠WL内)ではほぼ180度となる。このことは、送信アンテナ4への入力信号に相当する進行波電圧Vfの位相とインピーダンス値の不整合により送信アンテナ4から戻ってくる反射信号に相当する反射波電圧Vrの位相との関係が、前者ではほぼ同相、後者では逆相となることを表している。
図11は、前述の直並列等価回路によって送受信アンテナをモデル化し、送信回路1と送信アンテナ4の間に方向性結合器を入れて進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとを計測した結果を示す。また、図11(a)は、整合ポイントより送受信アンテナ間の結合を強めた場合に相当し、図11(b)は、整合ポイントより送受信アンテナ間の結合を弱めた場合に相当する。そして、図11(a)、(b)において、「Gvf」は、進行波電圧Vfの計測結果に相当し、「Gvr1」は、結合係数kが0.07の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr2」は、結合係数kが0.08の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr3」は、結合係数kが0.1の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr4」は、結合係数kが0.14の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr5」は、結合係数kが0.2の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当する。また、「Gvr6」は、結合係数kが0.05の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr7」は、結合係数kが0.04の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr8」は、結合係数kが0.03の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当し、「Gvr9」は、結合係数kが0.02の場合の反射波電圧Vrの測定結果に相当する。
このように、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係(ほぼ同相なのか、それとも逆相なのか)を調べることで、インピーダンス整合装置2は、入力インピーダンスのスミスチャート上の位置が、破線枠WR内にあるのか、又は、破線枠WL内にあるのかを把握することができる。
なお、ここで示した結合係数kの値の例は、送信アンテナ4及び受信アンテナに図3のアンテナで、直径30cm、巻数5、巻線間ピッチ5mm、銅線太さ2mmとしたアンテナを用いた場合のものである。アンテナのサイズやその他の構造パラメータが変化した場合は、ここで示した結合係数kの値も変わることはあり得る。
この特徴を利用し、本実施形態に係るインピーダンス整合装置2は、インピーダンス整合動作のパターンとして、2通りに動作する。具体的には、本実施形態に係るインピーダンス整合装置2は、整合回路として、第1形式の整合回路24と、第2形式の整合回路26とを有し、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係に基づき使い分ける。図12(a)は、第1形式の整合回路24の構成例を示す。図12(b)は、第2形式の整合回路26の構成例を示す。そして、インピーダンス整合装置2は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとが同相の場合には、整合ポイントからギャップGpが小さくなる等により整合ポイントより送受信アンテナ間の結合が強まった状態にあると判断し、第1形式の整合回路24を使用する。一方、インピーダンス整合装置2は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vとが逆相の場合には、整合ポイントからギャップGpが大きくなる等により整合ポイントより送受信アンテナ間の結合が弱まった状態にあると判断し、第2形式の整合回路26を使用する。
ここで、整合回路に使用される可変インダクタ要素240、260及び可変キャパシタ要素241、261について補足説明する。可変インダクタ要素240、260及び可変キャパシタ要素241、261の実現手法は公知の手法が使用可能である。例えば、可変インダクタ要素240、260は、微小インダクタを直列に接続してスイッチ切換えにより所定の値のインダクタを実現し、可変キャパシタ要素241、261は、微小コンデンサを並列に接続してスイッチ切換えにより所定の値のキャパシタを実現する。他の実現手段として、可変キャパシタ要素241、261は、真空コンデンサやエアーバリコンなどを可変キャパシタであってもよい。その場合、可変キャパシタ要素241、261は、ステッピングモーターなど機械的手段を使って回転軸部が回転する。さらに、可変キャパシタ要素241、261は、大電力用途には向かないが可変容量ダイオード(バラクタダイオード)などの半導体素子であってもよい。
図13は、図10に示した入力インピーダンス軌跡Tr上の任意のポイントを、図12(a)、(b)に示す第1形式又は第2形式の整合回路24、26を用いてスミスチャート上の等抵抗円、等コンダクタンス円に沿って移動させて50Ωの整合ポイントまで到達させる概要図を示す。
まず、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相になる場合、即ち、整合対象となるインピーダンス点が破線枠WR内に存在する場合について説明する。ここでは、代表例として、整合対象となるインピーダンス点が位置Prに存在するものとする。この場合、インピーダンス整合装置2は、図12(a)に示す第1形式の整合回路24を用いて等コンダクタンス円上で、所定のサセプタンス補正量「A」だけ位置Prを時計回りに移動させ(矢印Y1参照)、次に正規化レジスタンス「r=1」の等レジスタンス円C1上で所定のリアクタンス補正量「B」だけ時計回りに移動させる(矢印Y2参照)。これにより、インピーダンス整合装置2は、整合対象となるインピーダンス点を整合ポイントに移動させることができる。なお、上述のサセプタンス補正量A及びリアクタンス補正量Bの決定方法については後述する。
次に、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ逆相になる場合、即ち、整合対象となるインピーダンス点が破線枠WL内に存在する場合について説明する。ここでは、代表例として、整合対象となるインピーダンス点が位置Plに存在するものとする。この場合、インピーダンス整合装置2は、図12(b)に示す第2形式の整合回路26を用いて等レジスタンス円上で所定のリアクタンス補正量「C」だけ位置Plを時計回りに移動させ(矢印Y3参照)、次に正規化コンダクタンス「g=1」の等コンダクタンス円上で所定のサセプタンス補正量「D」だけ時計回りに移動させる(矢印Y4参照)。これにより、インピーダンス整合装置2は、整合対象となるインピーダンス点を整合ポイントに移動させることができる。なお、上述のリアクタンス補正量C及びサセプタンス補正量Dの決定方法については後述する。
以上を勘案し、インピーダンス整合装置2は、整合対象となる入力インピーダンス軌跡Tr上の各位置に対して、上述の補正量A〜Dを計算し、第1及び第2の記憶部25、27に記憶する。これにより、インピーダンス整合装置2は、インピーダンス整合を実行する際のインピーダンス点がどこかにあるか知ることにより、整合のために必要な上述の補正量A〜Dを求めることができる。
ここで、インピーダンス整合装置2は、反射係数絶対値|Γ|に基づき第1及び第2の記憶部25、27を参照して補正量A〜Dを特定する。これについて補足説明する。反射係数絶対値|Γ|はスミスチャートの中心点からインピーダンス点までの距離に等しいため、破線枠WR内にインピーダンス点がある場合と破線枠WL内にインピーダンス点がある場合とで同じ反射係数絶対値|Γ|を持つ一対のインピーダンス点が存在する。しかし、反射係数絶対値|Γ|の位相は、前者が0度に近い値、後者が180度に近い値となっている。従って、インピーダンス整合装置2は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相がほぼ同相か又はほぼ逆相かを特定することで、これらを明確に区別することができる。
以上を勘案し、インピーダンス整合装置2は、各反射係数絶対値|Γ|に対して整合に必要な制御値Tcを記憶させる参照元として、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが同相な場合に参照する第1の記憶部25と、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが逆相な場合に参照する第2の記憶部27との2つの記憶部(テーブル)を用意する。この記憶部に必要な記憶容量は、スミスチャート上の実軸付近でわずかにカーブした一次元の入力インピーダンス軌跡Trのみを考慮して決定される。従って、整合のために実部と虚部の両方の値を必要とする場合に比べて必要なメモリサイズを大幅に縮小することができる。
なお、インピーダンス整合装置2は、正規化レジスタンス「r=1」の等レジスタンス円C1と、入力インピーダンス軌跡Trとの交点に相当する結合係数kよりも小さい結合係数kの場合に、上述の処理を行うことで、整合を実行する際のインピーダンス点を整合ポイントに好適に遷移させることができる。特に、本実施形態において採用されている電磁界共振結合方式では、正規化レジスタンス「r=1」の等レジスタンス円C1と、入力インピーダンス軌跡Trとの交点に相当する結合係数kよりも小さい結合係数kが使用される。従って、本実施形態のインピーダンス整合装置2は、任意のインピーダンス点を整合ポイントに移動させることができる。
[制御値の生成方法]
導出した入力インピーダンス軌跡Tr上の各インピーダンス点に対する上述の補正量A〜Dはスミスチャートの理論式を用いて算出される。そして、制御値Tcであるキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmは、この補正量A〜Dに基づき算出される。この算出について以下説明する。この計算により求められたキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmは、連続値からなるグラフを描くが、アプリケーションで必要なサイズとなるように量子化したテーブル(「量子化テーブル」とも呼ぶ。)を作成しても良い。この量子化テーブルの作成方法については、後述する。
(第1の記憶部)
まず、第1の記憶部25に記憶させる反射係数絶対値|Γ|と制御値Tcとのテーブルの作成方法について説明する。第1の記憶部25は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相の場合に使用される。
図14は、第1の記憶部25に記憶させる反射係数絶対値|Γ|と制御値Tcとのテーブルの作成方法を模式的に示した図である。整合対象のインピーダンス点が図中の「Zin」にあるとする。インピーダンス点Zinは、正規化コンダクタンス「g=gin」の等コンダクタンス円、正規化サセプタンス「b=bin」の等サセプタンス円に乗っている。まず、インピーダンス点Zinのポイントが存在する「g=gin」の等コンダクタンス円と、正規化レジスタンス「r=1」の等レジスタンス円との交点「A」の座標(u、v)は、以下の式(9)により表される。
ここで、インピーダンス点Zinのポイントを、「g=gin」の等コンダクタンス円に沿って交点Aまで移動させるために必要な正規化サセプタンス補正量「Δb」、及び、交点Aのポイントを「r=1」の等レジスタンス円に沿ってスミスチャートの中心に移動させるために必要な正規化リアクタンス補正量「Δx」は、等サセプタンス円の理論式及び等リアクタンス円の理論式に基づき、式(10)に示すように表せられる。
式(10)に示すように、正規化サセプタンス補正量「Δb」は、インピーダンス点Zinの正規化サセプタンス「bin」が減算されることでわずかなカーブの分が調整されている。なお、正規化リアクタンス補正量Δxは、上述したリアクタンス補正量Bに相当し、正規化サセプタンス補正量Δbは、上述したサセプタンス補正量Aに相当する。
最後に、求められた正規化リアクタンス補正量Δx及び正規化サセプタンス補正量Δbにより、実際のキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmを表した式(11)を以下に示す。この際に使用する変数「f」は駆動周波数(単位はHz)を示し、「Z0」は整合目標のインピーダンス値を示す。
入力インピーダンス軌跡Tr上のインピーダンス点Zinは、以下の式(12)に示すように、スミスチャートの右側のみを考えれば反射係数絶対値|Γ|と一対一に対応する。
従って、入力インピーダンス軌跡Tr上の各インピーダンス点Zinを式(12)に従って反射係数絶対値|Γ|に変換し、その各々の値に対して、予め式(11)に従って求めていたキャパシタンス補正量Cm、インダクタンス補正量Lmの値の組を対応させたテーブルを生成して第1の記憶部25に記憶させておく。ここで、上述のテーブルは、アプリケーションで必要かつ許容されるメモリサイズのテーブルとして用意される。これにより、インピーダンス整合装置2は、反射係数絶対値|Γ|に基づき、整合に必要なキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmを特定することができる。
図15(a)、(b)は、直径30cm、巻数5、巻線間ピッチ5mm、銅線太さ2mmの先端オープン型ヘリカルアンテナ(図3参照)用として作成した反射係数絶対値|Γ|と制御値Tcとの関係を示すマップ(グラフ)である。具体的には、図15(a)は、キャパシタンス補正量Cmと反射係数絶対値|Γ|との関係を示すグラフであり、図15(b)は、インダクタンス補正量Lmと反射係数絶対値|Γ|との関係を示すグラフである。この場合、共振周波数fは15.7MHzであり、整合目標のインピーダンスZ0は50Ωである。
ここで、インピーダンス整合装置2は、後述するように、図15(a)、(b)に示す値を元に、アプリケーションで必要な分解能で作成した量子化テーブルを第1の記憶部25に保持してもよい。
ここで、図15を用いたキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmの設定方法の具体例について説明する。ここでは、一例として、送信アンテナ4と受信アンテナ間の結合係数kが0.1の場合について述べる。この場合、送信回路1側から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスZinは、入力インピーダンス軌跡Tr上で「Zin=127−j11.3Ω」である。このときの反射係数絶対値|Γ|は、0.439となる。この値は、進行波・反射波抽出部21からの2つの出力である進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrを用いて反射係数算出部22によって計算され、記憶部に入力される。制御値出力部32は、図15(a)、(b)に相当する第1の記憶部25から、反射係数絶対値|Γ|が0.439の場合に対するキャパシタンス補正量Cm(92pF)、及びインダクタンス補正量Lm(633nH)を特定する。そして、制御値出力部32は、これらの値を図12(a)に示した第1形式の整合回路24にセットする。このとき、整合回路選択部28は、スイッチ部30を制御することにより、第1形式の整合回路24が送信回路1と送信アンテナ4との間に電気的に接続されるようにする。
(第2の記憶部)
次に、第2の記憶部27に記憶させる反射係数絶対値|Γ|と制御値Tcとのテーブルの作成方法について説明する。第2の記憶部27は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ逆相の場合に使用される。
図16は、第2の記憶部27として記憶するテーブルの作成方法を模式的に示した図である。整合対象のインピーダンス点が図中の「Zin」にあるとする。インピーダンス点Zinは正規化レジスタンス「r=rin」の等レジスタンス円、正規化リアクタンス「x=xin」の等リアクタンス円に乗っている。まず、インピーダンス点Zinのポイントが存在する「r=rin」の等レジスタンス円と、正規化コンダクタンス「g=1」の等コンダクタンス円との交点「D」の座標(u、v)は、以下の式(13)に示すように表せられる。
ここで、インピーダンス点Zinを、「r=rin」の等レジスタンス円に沿って交点「D」まで移動させるために必要な正規化リアクタンス補正量「Δx」、及び、交点Dのポイントを「g=1」の等コンダクタンス円に沿って中心点に移動させるために必要な正規化サセプタンス補正量「Δb」は、等サセプタンス円の理論式及び等リアクタンス円の理論式に基づき、式(14)に示すように表せられる。
式(14)に示すように、正規化リアクタンス補正量Δxは、インピーダンス点Zinの正規化リアクタンスxinが減算されることでわずかなカーブの分が調整されている。なお、正規化サセプタンス補正量Δbは、上述したサセプタンス補正量Dに相当し、正規化リアクタンス補正量Δxは、上述したリアクタンス補正量Cに相当する。
最後に、求められた各補正量を実際のインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmを表した式(15)を以下に示す。この際に使用する変数「f」は駆動周波数(単位はHz)、「Z0」は整合目標のインピーダンス値を示す。
従って、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相の場合と同様に、各インピーダンス点Zinを式(15)に従って反射係数絶対値|Γ|に変換し、その各々の値に対して、予め式(15)に従って求めていたインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmの組を対応させたテーブルを第2の記憶部27に記憶しておく。このテーブルは、アプリケーションで必要かつ許容されるメモリサイズのテーブルとして用意される。これにより、インピーダンス整合装置2は、反射係数絶対値|Γ|に基づき、インピーダンス整合に必要なキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmを特定することができる。
図17(a)、(b)は、直径30cm、巻数5、巻線間ピッチ5mm、銅線太さ2mmの先端オープン型ヘリカルアンテナ(図3参照)用として作成した反射係数絶対値|Γ|と制御値Tcとの関係を示すマップ(グラフ)である。この場合、共振周波数fは15.7MHzであり、整合目標のインピーダンスZ0は50Ωである。
インピーダンス整合装置2は、後述するように、図17(a)、(b)に示す値を元に、アプリケーションで必要な分解能で作成した量子化テーブルを第2の記憶部27として保持しても良い。
ここで、図17を用いたキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmの設定方法の具体例について説明する。ここでは、一例として、送信アンテナ4と受信アンテナ間の結合係数kが0.04の場合について述べる。この場合、送信回路1側から送信アンテナ4を見たときの入力インピーダンスZinは入力インピーダンス軌跡Tr上で「Zin=21.1+j0.62Ω」である。このときの反射係数絶対値|Γ|は0.406となる。そして、この値は、進行波・反射波抽出部21からの2つの出力である進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrを用いて反射係数算出部22によって計算され、記憶部に入力される。制御値出力部32は、図17(a)、(b)に相当する第2の記憶部27から、反射係数絶対値|Γ|が0.406の場合に対するキャパシタンス補正量Cm(237pF)、及びインダクタンス補正量Lm(244nH)を特定する。そして、制御値出力部32は、これらの値を図12(b)に示した第2形式の整合回路26にセットする。このとき、整合回路選択部28は、スイッチ部30を制御することにより、第2形式の整合回路26が送信回路1と送信アンテナ4との間に電気的に接続されるようにする。
[量子化テーブルの作成方法]
次に、図15、図17に示すグラフから実際に記憶部としてインピーダンス整合装置2が記憶する量子化テーブルを作成する方法について具体的に説明する。
図15及び図17に示した各制御値Tcを示すグラフは、連続値となっている。しかし、現実的には、インピーダンス整合装置2は、これらのグラフを、アプリケーションで必要なサイズとなるように量子化をしたテーブルを保持する必要がある。ここで、「量子化」とは、ある範囲の反射係数絶対値|Γ|に対して同じインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正値Cmが使用される反射係数絶対値|Γ|の範囲(値域)を区切ること、及び、区切られた反射係数絶対値|Γ|の各値域で使用するインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正値Cmの代表値(「量子化代表値」とも呼ぶ。)を決めることを指す。以後では、上述の反射係数絶対値|Γ|の範囲(値域)の境界を「量子化境界」と呼ぶ。量子化は反復処理を用いて実行される。概略的には、量子化は、量子化境界付近においても反射係数絶対値|Γ|が予め設定された閾値|Γ|thr以下となるように、量子化境界と量子化代表値を交互に求めることで実行される。
ここで、制御値Tcの量子化処理の入力として、反射係数絶対値|Γ|に対応した連続量と見なせる程度に精度が高いキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmからなるテーブルを考える。このテーブルは元々、結合係数kを変化させることによって得られた入力インピーダンス軌跡Tr上で求められたものであり、テーブルの各行には対応する結合係数kが存在する。この結合係数kを変えることで入力インピーダンス軌跡Tr上を移動させるようにする。
進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが同相の場合に参照されるテーブル(第1の記憶部25)の生成時では結合係数kを微増させ、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが逆相の場合に参照されるテーブル(第2の記憶部27)の生成時では結合係数kを微減して整合状態を故意に悪化させ、反射係数絶対値|Γ|の増加状況を観測する。そして、反射係数絶対値|Γ|が予め設定された所定の閾値|Γ|thrを超えたかどうかを判断基準として、量子化境界と量子化代表値の設定を交互に行う。
以下に具体的な処理手順を示す手順1〜手順11を述べる。なお、以下では、「結合係数kを更新する」とは、第1の記憶部25を生成する場合には、結合係数kに所定値だけ加算することを指し、第2の記憶部27を生成する場合には、結合係数kに所定値だけ減算することを指す。
(1)初期化
・手順1:スイッチ部30がスルー回路29を選択した状態で整合ポイントとなるように結合係数kを設定する。キャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmをそれぞれ0に設定する。以下を反復処理する。
(2)量子化境界を求める処理
・手順2:現在の結合係数kにおける入力インピーダンスを計算する。
・手順3:手順2で求めた入力インピーダンスに整合回路(Cm、Lmの初期値は0)を追加した場合のインピーダンス値を計算する。
・手順4:手順3で求めたインピーダンス値から反射係数絶対値|Γ|を算出する。
・手順5:反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrを超えたか調べる。超えていない場合は、結合係数kを更新して手順2に戻る。超えている場合は、現在の結合係数k及びこれに対応する反射係数絶対値|Γ|を量子化境界として保存して手順6に進む。
(3)量子化代表値を求める処理
・手順6:結合係数kを直前に手順2〜5で求められた量子化境界の値に設定する。また、このときの入力インピーダンスを計算する。
・手順7:結合係数kを更新し、その値に対応するキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmをセットする。
・手順8:手順6で求めた入力インピーダンスに手順7でセットしたキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmを追加したときのインピーダンス値を計算する。
・手順9:手順8で求めたインピーダンス値から反射係数絶対値|Γ|を算出する。
・手順10:反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrを超えたか否か調べる。超えていない場合は、結合係数kを更新して手順7に戻る。超えている場合は、現在の結合係数k及び現在のキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmを量子化代表値として保存する。終了確認処理(手順11)に進む。
(4)終了確認処理
・手順11:結合係数kが予め定められた所定の終了値に達していたら全ての処理を終了する。まだ達していない場合は、再び手順2に戻って反復処理を行う。
次に、上述の手順1〜手順11によって生成された第1の記憶部25に記憶するテーブルの具体例について説明する。なお、以後では、閾値|Γ|thrは0.0707に設定される。この場合、量子化境界での反射による損失(|Γ|2に相当する。)は、0.5%である。
図18(a)は、量子化前のキャパシタンス補正量Cmの推移を示すグラフ「Gcm1」、及び、量子化後のキャパシタンス補正量Cmの推移を示すグラフ「Qcm1」を示す。また、図18(b)は、量子化前のインダクタンス補正量Lmの推移を示すグラフ「Glm1」、及び、量子化後のインダクタンス補正量Lmの推移を示すグラフ「Qlm1」を示す。図18(a)、(b)に示すように、キャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmは、反射係数絶対値|Γ|が大きくなるほど、これらの量子化間隔(即ち、量子化境界の間隔)が小さくように量子化されている。
図19は、実際に第1の記憶部25に保持されるテーブルの一例を示す。図19に示すテーブルでは、行ごとに反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の下限値と、結合係数kの量子化境界の下限値と、キャパシタンス補正量Cmと、インダクタンス補正量Lmとが対応づけられている。また、反射係数絶対値|Γ|の各値域には、インデックスIdxが「0」から「12」まで割当てられている。ここで、反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の上限値、及び、結合係数kの量子化境界の上限値は、1だけ小さいインデックスに対応する反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の下限値、及び、結合係数kの量子化境界の下限値に基づき定められる。なお、第1の記憶部25は、必ずしも結合係数kの値を記憶しなくともよい。
次に、上述の手順1〜手順11によって生成された第2の記憶部27の具体例について説明する。
図20(a)は、量子化前のインダクタンス補正量Lmの推移を示すグラフ「Glm2」、及び、量子化後のインダクタンス補正量Lmの推移を示すグラフ「Qlm2」を示す。また、図20(b)は、量子化前のキャパシタンス補正量Cmの推移を示すグラフ「Gcm2」、及び、量子化後のキャパシタンス補正量Cmの推移を示すグラフ「Qcm2」を示す。図20(a)、(b)に示すように、キャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmは、反射係数絶対値|Γ|が大きくなるほど、これらの量子化間隔が小さくように量子化されている。
図21は、実際に第2の記憶部27としてインピーダンス整合装置2に保持されるテーブルの一例を示す。図21に示すテーブルでは、行ごとに反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の下限値と、結合係数kの量子化境界の下限値と、キャパシタンス補正量Cmと、インダクタンス補正量Lmとが対応づけられている。また、反射係数絶対値|Γ|の各値域には、インデックスIdxが「0」から「11」まで割当てられている。ここで、反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の上限値、及び、結合係数kの量子化境界の上限値は、1だけ小さいインデックスに対応する反射係数絶対値|Γ|の量子化境界の下限値、及び、結合係数kの量子化境界の下限値に基づき定められる。なお、第2の記憶部27は、必ずしも結合係数kの値を記憶しなくともよい。
[処理フロー]
次に、第1実施形態における処理手順について説明する。図22は、第1実施形態においてインピーダンス整合装置2が実行する処理手順を示すフローチャートである。インピーダンス整合装置2は、図22に示す処理を、所定のタイミングで実行する。
まず、整合回路選択部28は、スイッチ部30をスルー回路29に設定する(ステップS101)。そして、進行波・反射波抽出部21は、進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrの各々の大きさを計測する(ステップS102)。そして、反射係数算出部22は、反射係数絶対値|Γ|を算出する(ステップS103)。具体的には、反射係数算出部22は、式(1)を参照し、進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrに基づき算出する。
次に、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下か否か判定する(ステップS104)。これにより、整合回路選択部28は、インピーダンスの整合を行う必要があるか否か判定する。そして、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下の場合(ステップS104;Yes)、インピーダンスの整合を行う必要がないと判断し、スイッチ部30の設定を変更しない。一方、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合(ステップS104;No)、インピーダンスの整合を行う必要があると判断し、ステップS105へ処理を進める。
次に、位相判定部23は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相判定を行う(ステップS105)。具体的には、位相判定部23は、これらの電圧が同相に近いか又は逆相に近いか判定する。そして、位相判定部23は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが同相に近いと判断した場合(ステップS106;Yes)、記憶部選択部31は、第1の記憶部25を選択する(ステップS107)。そして、記憶部選択部31は、反射係数絶対値|Γ|に対応した制御値Tcの読み出しを行う(ステップS108)。そして、制御値出力部32は、第1形式の整合回路24に制御値Tcを設定する(ステップS109)。そして、整合回路選択部28は、スイッチ部30を第1形式の整合回路24に設定する(ステップS110)。
一方、位相判定部23は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが同相に近くない、即ち逆相に近いと判断した場合(ステップS106;No)、記憶部選択部31は、第2の記憶部27を選択する(ステップS111)。そして、記憶部選択部31は、反射係数絶対値|Γ|に対応した制御値Tcの読み出しを行う(ステップS112)。そして、制御値出力部32は、第2形式の整合回路26に制御値Tcを設定する(ステップS113)。そして、整合回路選択部28は、スイッチ部30を第2形式の整合回路26に設定する(ステップS114)。
[効果]
次に、第1実施形態における効果について図23を参照して具体的に説明する。
図23は、本実施形態の手順に従って作成された第1の記憶部25及び第2の記憶部27を使用して、インピーダンス整合装置2が図22に示す処理手順に従いインピーダンスの整合処理を実施した場合の伝送効率改善の結果を示す。ここで、図23(a)、(b)中のグラフ「Gbf」は、インピーダンスの整合を行わなかった場合の伝送効率と周波数との関係を示し、グラフ「Gaf」は、本実施形態に基づきインピーダンスの整合を行った場合の伝送効率と周波数との関係を示す。
ここで、図23(a)は、比較的結合が強い状態(結合係数kが0.1)の場合における伝送効率改善の例を示す。この場合、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相になるため、インピーダンス整合装置2は、第1の記憶部25及び第1形式の整合回路24を選択する。また、反射係数絶対値|Γ|は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの大きさを測定した結果、0.44と計算される。その値に対応するキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmは、第1の記憶部25に相当する図15のマップに基づき、それぞれ92pF、633nHと特定される。第1形式の整合回路24は、これらの値を制御値Tcとして設定されている。図23(a)に示すように、駆動周波数(15.7MHz)において、整合を行う前の伝送効率は、79%であったのに対し、インピーダンスの整合後の伝送効率は、98%程度まで改善している。
図23(b)は、比較的結合が弱い状態(結合係数k=0.04)の場合における伝送効率改善の例を示す。この場合、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ逆相になるため、インピーダンス整合装置2は、第2の記憶部27及び第2形式の整合回路26を選択する。反射係数絶対値|Γ|は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの大きさを測定した結果、0.41と計算される。その値に対応するインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmは、第2の記憶部27に相当する図17のマップに基づき、それぞれ244nH、237pFと特定される。第2形式の整合回路26は、これらの値を制御値Tcとして設定されている。図23(b)に示すように、駆動周波数(15.7MHz)において、整合を行う前の伝送効率は、79%であったのに対し、インピーダンスの整合後の伝送効率は、95%程度まで改善している。
以上記したように、第1実施形態のインピーダンス整合装置2は、電磁界共振結合方式特有のギャップGpの変化時における入力インピーダンス軌跡Trに基づいて整合回路用の制御値Tcを求め、それを記憶部に格納したため、従来の一般的なインピーダンス整合回路に比べて記憶部として必要なメモリサイズを大幅に低減することが出来る。即ち、インピーダンス整合装置2は、記憶部から制御値Tcを読出す際の参照値となる反射係数絶対値|Γ|に対応させて、一次元的に「N1」通りの制御値Tcを記憶していればよい。従来の装置は、例えば、考え得る全てのインピーダンス点についてテーブル値として記憶するようにしたものがある。その場合、従来の装置は、仮に抵抗値Rに対応して「N1」通り、位相分に対応してN2通りの制御値をそれぞれ用意すると、全体では(N1×N2)通りの二次元的なメモリが必要となる。従って、「N1」が本発明と同じ値であるとすると、その従来の装置は、本実施形態に係るインピーダンス整合装置2に比べてN2倍のメモリが必要ということになる。
また、インピーダンス整合装置2は、従来の整合装置で適正な整合動作を行うために必要であった位相成分の値を求める必要がない。インピーダンス整合装置2は、単に、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrが単に同相か又は逆相かを判定するだけでよい。これにより、インピーダンス整合装置2は、位相に関連する処理の回路が簡単化される。
さらに、インピーダンス整合装置2は、第1形式の整合回路24及び第1の記憶部25と第2形式の整合回路26及び第2の記憶部27のどちらを使用するかを、この位相判定結果Jrを用いて選択することが出来る。また、インピーダンス整合装置2は、選択した記憶部からの整合回路用の制御値Tcの読出しを、反射係数絶対値|Γ|のみに基づいて行うことが出来る。従って、インピーダンス整合装置2は、その値を更に抵抗に変換するという類の追加処理が不要である。
また、インピーダンス整合装置2は、インピーダンスの整合処理に関して、単に整合に必要なインダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmに相当する制御値Tcを選択された記憶部から読出し、選択された整合回路に対して設定するだけである。従って、インピーダンス整合装置2は、一回の検出動作で整合を終了させることが出来る。また、インピーダンス整合装置2は、インピーダンスの整合状態を達成するために必要な時間を大幅に短縮することが出来る。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1形式の整合回路24と、第2形式の整合回路26とが1の統合された整合回路により実現されている点で、第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態と同様の部分については、適宜その説明を省略する。
図24は、第2実施形態に係る送信システム100Aの概略構成図の一例である。送信システム100Aは、送信回路1と、インピーダンス整合装置2Aと、送信アンテナ4と、を備える。
インピーダンス整合装置2Aは、第1実施形態における第1形式の整合回路24及び第2形式の整合回路26が統合された整合回路24Aを備える。整合回路24Aは、スイッチ部30Yの切り替えにより、第1形式の整合回路24としての機能と、第2形式の整合回路26としての機能とが切り替わる。整合回路24Aは、第1形式の整合回路24及び第2形式の整合回路26で使用される可変インダクタ要素240、260の制御範囲、即ちこれらに設定され得るインダクタンス補正量Lmが全て設定可能な1の可変インダクタ要素を備える。また、整合回路24Aは、第1形式の整合回路24及び第2形式の整合回路26で使用される可変キャパシタ要素241、261の制御範囲、即ちこれらに設定され得るキャパシタンス補正量Cmが全て設定可能な1の可変キャパシタ要素を備える。
また、インピーダンス整合装置2Aは、スルー回路29と整合回路24Aとを選択可能なスイッチ部30Xと、整合回路24Aがスイッチ部30Xにより選択された場合に第1形式の整合回路24の構成と第2形式の整合回路26の構成とを切換えるスイッチ部30Yと、を備える。そして、整合回路選択部28は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下の場合、スイッチ部30Xをスルー回路29に選択すると共に、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合、スイッチ部30Xを整合回路24Aに選択する。また、整合回路選択部28は、位相判定結果Jrに基づき進行波電圧Vfと反射波電圧Vrがほぼ同相の場合、整合回路24Aを第1形式の整合回路24として機能させるようにスイッチ部30Yを切り替え、ほぼ逆相の場合、整合回路24Aを第2形式の整合回路26として機能させるようにスイッチ部30Yを切り替える。
以上のように、第2実施形態によっても、好適に本発明を実施することができる。
第1実施形態及び第2実施形態によれば、インピーダンス整合装置は、電磁界共振結合方式特有の入力インピーダンス変化の軌跡に基づいて整合回路用の制御値を求め、それを記憶部に格納することにより、従来の一般的なインピーダンス整合回路に比べて記憶部として必要なメモリサイズを大幅に低減することができる。本実施形態では記憶部から制御値を読出す際の参照値となる反射係数絶対値相当値に対応させて、一次元的に制御値を記憶させておけば良い。従って、特許文献2に開示されるように、考え得る全ての値についてテーブル値として記憶する場合と比較して、必要なメモリの容量を大幅に削減することができる。また、インピーダンス整合装置は、適正なインピーダンス整合を行う制御値を記憶部から読出すために、進行波電圧と反射波電圧が単に同相に近いか、又は逆相に近いかを判定するだけでよい。従って、インピーダンス整合装置は、位相に関連する処理の回路を大幅に簡単化することが出来る。
また、インピーダンス整合装置は、第1形式の整合回路及び第1の記憶部と、第2形式の整合回路及び第2の記憶部のどちらを使用するかも位相判定結果を用いて選択することが出来る。また、インピーダンス整合装置は、選択した記憶部からの整合回路用の制御値の読出しを、反射係数絶対値相当値のみに基づいて行うことが出来る。
さらに、インピーダンス整合装置は、整合に必要なインダクタンス値、キャパシタンス値に対応した制御値を、選択された記憶部から読出し、選択された整合回路に対してセットする。このように、インピーダンス整合装置は、1回の検出動作でインピーダンス整合を終了させることが出来き、インピーダンス整合状態を達成するために必要な時間を大幅に短縮することが出来る。
<変形例>
次に、第1実施形態及び第2実施形態に好適な変形例について説明する。以下に説明する変形例は、任意に組み合わせて、上述の第1実施形態及び第2実施形態に適用してもよい。
(変形例1)
第1実施形態では、インピーダンス整合装置2は、反射係数絶対値|Γ|に基づき、図19、図21などのテーブルを参照して、制御値Tcを特定した。しかし、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。これに代えて、インピーダンス整合装置2は、反射係数絶対値|Γ|に相当する値(以後、「反射係数絶対値相当値」とも呼ぶ。)に基づき、制御値Tcを特定してもよい。ここで、反射係数絶対値相当値は、反射係数絶対値|Γ|の他、インピーダンス値の絶対値など反射係数絶対値|Γ|と一意の関係にある値、その他相関のある値が該当する。
ここで、インピーダンス値の絶対値に基づき制御値Tcを特定する場合について説明する。この場合、インピーダンス整合装置2は、正規化インピーダンス(第1実施形態では、50Ω)より大きいインピーダンス値の絶対値と、制御値Tcとのテーブルを第1の記憶部25に記憶すると共に、正規化インピーダンスより小さいインピーダンス値の絶対値と、制御値Tcとのテーブルを第2の記憶部27に記憶する。第1の記憶部25、第2の記憶部27に記憶する具体的な値は、例えば第1実施形態と同様、計算又は実験により予め設定される。そして、インピーダンス整合装置2は、インピーダンスの整合を実行する際、現在のインピーダンス値の絶対値を算出すると共に、位相判定結果Jrに基づき使用する記憶部を特定する。次に、インピーダンス整合装置2は、インピーダンス値の絶対値に基づき、特定した記憶部から制御値Tcを特定する。これによっても、インピーダンス整合装置2は、好適にインピーダンス整合を実行することができる。
(変形例2)
第1実施形態では、送信アンテナ4及び受信アンテナは、直並列型等価回路によってモデル化された。これに代えて、送信アンテナ4及び受信アンテナは、直並列型等価回路をより簡略化した等価回路である直列共振等価回路によってモデル化されてもよい。また、入力インピーダンス軌跡Trは、送受信アンテナを実際に対向させて実験により測定されて導出されてもよい。
(変形例3)
本発明に適用可能な整合回路の構成は、図1又は図24に示す構成に限定されない。これについて、図26を参照して説明する。
図26(a)は、第1形式の整合回路24と第2形式の整合回路26とで可変インダクタ要素のみを共用する形態の整合回路を示す。図26(a)に示す整合回路は、スイッチ部の切り替えにより、第1形式の整合回路24として機能することが可能であり、第2形式の整合回路26として機能することも可能である。同様に、整合回路は、第1形式の整合回路24と第2形式の整合回路26とで可変キャパシタ要素のみを共用する形態であってもよい。
図26(b)は、可変インダクタの代わりに固定インダクタと可変キャパシタを用いる整合回路の回路図を示す。図26(b)に示す整合回路は、スイッチ部の切り替えにより、第1形式の整合回路24として機能することが可能であり、第2形式の整合回路26として機能することも可能である。そして、図26(b)の固定インダクタと可変キャパシタは、本発明における「可変インダクタ要素」の一例である。このように、図26(a)、(b)に示す整合回路によっても、本発明を好適に実施することができる。
(変形例4)
第1実施形態では、制御値Tcは、インダクタンス補正量Lm及びキャパシタンス補正量Cmであった。しかし、本発明が適用可能な制御値Tcはこれに限定されない。
これに代えて、制御値Tcとは、可変キャパシタ要素241、261に加えるキャパシタンス補正量Cmを反映するための制御電圧値、可変インダクタ要素240、260を構成するスイッチ群のオン又はオフに対応したインダクタンス補正量Lmを反映するためのビットパターンであってもよい。従って、この場合、インピーダンス整合装置2は、整合回路を構成する可変インダクタ要素240、260及び可変キャパシタ要素241、261を所定のキャパシタンス及びインダクタンスに設定するためのキャパシタンス補正量Cm及びインダクタンス補正量Lmに相当する制御値Tcを、各反射係数絶対値|Γ|に対応させて、第1及び第2の記憶部25、27に保持しておく。
(変形例5)
第1実施形態では、インピーダンス整合装置2は、第1及び第2形式の整合回路24、26を備え、ギャップGpが近くなる場合(即ち、整合ポイントより送受信アンテナ間の結合が強い場合)及びギャップGpが遠くなる場合(即ち、整合ポイントより送受信アンテナ間の結合が弱い場合)の両方の場合に、インピーダンス整合を実行した。しかし、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。
これに代えて、インピーダンス整合装置2は、整合ポイントとそのポイントから結合が強くなる方向の範囲でのみギャップGpが変化するような場合、即ち整合ポイントからギャップGpが近くなる方向の範囲内で整合させれば良いような場合には、第1及び第2形式の整合回路24、26のうち、第1形式の整合回路24に相当する整合回路のみ備えてもよい。図27は、ギャップGpが近くなる方向の不整合を整合させる送信システム100Bの概略構成を示す。図27に示すインピーダンス整合装置2Bは、主に、進行波・反射波抽出部21と、反射係数算出部22と、整合回路24と、記憶部25と、整合回路選択部28と、スルー回路29と、スイッチ部30と、制御値出力部32と、を備える。そして、記憶部25は第1実施形態における第1の記憶部25に相当し、整合回路24は第1実施形態における第1形式の整合回路24に相当する。また、可変キャパシタ要素は、可変インダクタ要素よりも送信アンテナ4側に並列に接続されている。
一方、インピーダンス整合装置2は、整合ポイントとそのポイントから結合が弱くなる方向の範囲でのみギャップGpが変化するような場合、即ち整合ポイントからギャップGpが遠くなる方向の範囲内で整合させれば良いような場合には、第1及び第2形式の整合回路24、26のうち、第2形式の整合回路26に相当する整合回路のみ備えてもよい。図28は、ギャップGpが遠くなる方向の不整合を整合させる送信システム100Cの概略構成を示す。図28に示すインピーダンス整合装置2Cは、主に、進行波・反射波抽出部21と、反射係数算出部22と、整合回路24と、記憶部25と、整合回路選択部28と、スルー回路29と、スイッチ部30と、制御値出力部32と、を備える。そして、記憶部25は第1実施形態における第2の記憶部27に相当し、整合回路24は第1実施形態における第2形式の整合回路26に相当する。また、可変キャパシタ要素は、可変インダクタ要素よりも送信回路1側に並列に接続されている。