年齢とともに進行する動脈硬化(arteriosclerosis)による動脈の硬さ(stiffness)を評価する方法として、脈波速度(PWV)とAI(Augmentation Index)などがある。脈波速度は部分的な動脈の硬さを、AIは全身の動脈の硬さの評価に用いられている。従来から、高脂血等によって引き起こされる動脈硬化の度合いを判定するために、血管の硬さに相当する血管の力学的データを計測することが行われている。特に、血管の硬さを非侵襲的に計測する方法として脈波速度(PWV)測定法が使用されている。この脈波速度は、2点間(例えば、頸動脈と大腿動脈との間、又は上腕動脈と足首動脈との間など)の脈波伝播時間の測定及び2点間の距離から求めることができ、動脈硬化の評価指標となっている。
しかしながら、従来の装置では、AIを左心室収縮に対する後負荷の指標として評価する場合は、本来、上行大動脈圧波形での評価が必要であり、そのためにはカテーテル先端型圧力センサーによる観血的測定が必要なため、臨床応用が困難である。
この問題に対処するため脈圧波の平均的伝達特性(Generalized Transfer Function; GTF)(特許文献3参照)により、末梢動脈の脈波波形から大動脈圧波形を推定するシステムが開発された。しかしながら、このGTFによる大動脈圧波形の推定では個別化が困難で正確な脈圧波形の検出には限界がある。
さらに、脈波速度の測定では、頸動脈や大腿動脈、橈骨動脈及び上腕、足首の脈圧波形を検出及び解析することにより、被検者の大動脈でのPWVを推定しているのが現状であり、観血的測定以外には大動脈の脈波速度を直接検出することは困難である。
本発明は、上記のような問題を考慮してなされたものであり、測定の対象物である生体に対して非接触かつ高い精度で脈波測定を行うことができる脈波測定装置を提供することを目的とする。すなわち、生体振動波形(脈波波形)、特に、末梢動脈圧波形を検出するだけでなく、直接大動脈の脈波波形を検出可能であり、非周期振動も含む検出精度の高い脈波測定装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、非接触にて生体振動、特に大動脈血管の振動である大動脈の脈波波形を検出することのできる脈波測定装置を得ることを目的とする。また、本発明は、末梢動脈の脈波波形から、平均的伝達特性(GTF)により、大動脈圧波形を推定する必要がなく、直接、大動脈圧波形の検出が可能な脈波測定装置を得ることを目的とする。
また、本発明は、周波数安定性の悪い低価格の発振回路を用いた場合でも、高い精度で脈波測定を行うことができるので、高い精度かつ低価格の脈波測定装置を提供することを目的とする。
本発明らは、電磁波を用いた所定の距離の変位の測定方法を用いることにより、測定の対象物である生体に対して高い精度かつ非接触で脈波測定を行うことができることを見出し、本発明の脈波測定装置に至った。
本発明は、第一周波数の第一電磁波を対象物に対して照射し、第一周波数とは異なる第二周波数の第二電磁波を対象物に対して照射し、第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波との合成波である反射合成波を受信し、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得て、反射合成波波形と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得て、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成される、脈波測定装置である。
本発明の脈波測定装置は、第一電磁波及び第二電磁波の二つの電磁波を対象物に対して照射するように構成されることを含む。本明細書では、第一電磁波の周波数を第一周波数という。同様に、第二電磁波の周波数を第二周波数という。第一周波数と第二周波数とは異なる周波数である。二つの異なる周波数の電磁波を用いることにより、二つ電磁波の波形の位相差に基づく解析が可能となる。
本発明の脈波測定装置は、第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波との合成波である反射合成波を受信するように構成されることを含む。
第一電磁波及び第二電磁波の二つの電磁波を対象物に対して照射することにより、対象物からは第一電磁波の対象物からの反射電磁波である第一反射波と、第二電磁波の対象物からの反射電磁波である第二反射波とが反射されることになる。本明細書では、第一反射波と、第二反射波との合成波を反射合成波という。本発明の脈波測定装置は、反射合成波を受信するように構成される。対象物の距離の変位の測定値を得るために反射合成波を用いることにより、高い精度の距離の変位の測定が可能となる。
本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成されることを含む。また、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成されることを含む。
本発明の脈波測定装置が受信した反射合成波は、本発明の脈波測定装置中の回路で反射合成波波形となる。反射合成波波形と、第一周波数である第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得ることができる。同様に、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形と、第二周波数である第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得ることができる。
本発明の脈波測定装置は、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成されることを含む。
本発明の脈波測定装置は、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得ることができる。この所定の位相差に基づくことにより、本発明の脈波測定装置は、高い精度で対象物の距離の変位の測定値を得ることができる。生体を測定の対象物とすることにより、脈波による生体表面の変位を、脈波測定装置と対象物との距離の変位として非接触で測定することができる。対象物の距離の変位の測定値の時間変化から、生体振動波形(生体振動の時間変化)を得ることができる。したがって、本発明によれば、測定の対象物である生体に対して非接触かつ高い精度で生体振動波形を得ることができ、生体振動波形に基づき脈波測定を行うことができる脈波測定装置を得ることができる。
なお、本発明の脈波測定装置において測定する対象物の距離の変位とは、変位がゼロである場合、すなわち対象物が不変位(停止)の場合も含む。
本発明の脈波測定装置では、第一周波数の第一電磁波及び第二周波数の第二電磁波に関する位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定値を得るように構成される。この構成において、任意の電磁波照射による位相差に基づく距離の変位の測定方法を応用することができる。例えば、本発明の脈波測定装置において、定在波レーダによる方法及びクオドラチャー検出器による方法等を応用することもできる。
また、本発明の脈波測定装置の距離の変位の測定方法によれば、周波数差が大きく異なっても、分解能の限界はあまり相違しないことが知られている。例えば、100MHzのときに8.6266μm、1MHzのときに8.6264μmと見積もることができる。これは、周波数安定性の悪い安価な発振回路を用いても、分解能については、全く問題ないといえる。したがって、本発明の脈波測定装置は、周波数安定性の悪い低価格の発振回路を用いることができる。
また、本発明では、少なくとも一つの電磁波発振部と、少なくとも一つの反射合成波受信部と、第一乗算部と、第二乗算部と、変位測定部とを含む脈波測定装置であって、電磁波発振部が、第一電磁波及び第二電磁波を発振し、対象物に対して照射するように構成され、反射合成波受信部が、反射合成波を受信して反射合成波波形を得るように構成され、第一乗算部が、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成され、第二乗算部が、第一乗算部とは異なる場所に位置し、反射合成波と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成され、変位測定部が、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得るように構成される、脈波測定装置であることが好ましい。
本明細書において、電磁波発振部とは、第一電磁波及び第二電磁波を発振し、対象物に対して照射するように構成される部分のことをいう。
本明細書において、反射合成波受信部とは、反射合成波を受信して反射合成波波形を得るように構成される部分のことをいう。
本明細書において、第一乗算部とは、反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形を得るように構成される部分のことをいう。
本明細書において、第二乗算部とは、第一乗算部とは異なる場所に位置し、反射合成波と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形を得るように構成される部分のことをいう。
本明細書において、変位測定部とは、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得るように構成される部分のことをいう。
本発明の脈波測定装置が、少なくとも一つの電磁波発振部と、少なくとも一つの反射合成波受信部と、第一乗算部と、第二乗算部と、変位測定部とを含むことにより、対象物の距離の変位の測定を非接触かつ高い精度で確実に行うことができる。
また、本発明の脈波測定装置は、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むように、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むことが必要である。第一乗算部及び第二乗算部への入力波形が所定の波形を含むことにより、所定の位相差の乗算を確実に行い、対象物の距離の変位の測定の結果を高い精度で得ることができる。
電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲の設定は、例えば、第一電磁波及び第二電磁波を発するための部品、例えばアンテナを所定の方向及び位置に設定することにより行うことができる。例えば、2つのアンテナを所定の位置に平行配置する場合には、方向性利得によって照射範囲が決定される。特に対象物における各々の照射の範囲の半値角の範囲に重なりがあるように照射の範囲を設定することにより、第一乗算部へ入力する反射合成波波形が第二反射波に対応する波形を含み、第二乗算部へ入力する反射合成波波形が第一反射波に対応する波形を含むようにすることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、電磁波発振部が、第一電磁波を照射するための第一電磁波発振部と、第二電磁波を照射するための第二電磁波発振部とを含み、脈波測定装置が、第一電磁波発振部であり、かつ反射合成波受信部である第一アンテナと、第二電磁波発振部であり、かつ反射合成波受信部である第二アンテナとを備え、第一アンテナが第二反射波を含む反射合成波を受信し、第二アンテナが第一反射波を含む反射合成波を受信するように、第一アンテナ及び第二アンテナの位置関係を設定することが好ましい。
第一アンテナが第一電磁波発振部及び反射合成波受信部の両方の機能を有し、第二アンテナが第二電磁波発振部及び反射合成波受信部の両方の機能を有することにより、電磁波の発振と受信とを一つの部分で行うことができるので、脈波測定装置のコストを低減することができる。また、第一アンテナ及び第二アンテナの位置関係を所定の位置関係に設定することにより、対象物の距離の変位の測定値を得るために必要な波形を第一乗算部及び第二乗算部に確実に入力することができる。
アンテナとしては、角錐ホーンアンテナ、円錐ホーンアンテナ、誘電体ロッドアンテナ、パッチアンテナ及びこれらに近い絶対利得を有するアンテナ並びにこれらのアンテナをアレー化し高利得化したものから適宜選択して使用することができる。また、漏れ波アンテナ及びスロットアンテナのような低利得のアンテナをアレー化し、高利得化したものを使用することもできる。第一アンテナと第二アンテナとは必ずしも同種類のアンテナである必要はない。しかしながら、電磁波の照射範囲の半値角の範囲に重なりがあるように照射の範囲を設定することを容易にするために、第一アンテナと第二アンテナとは同種類のアンテナであることが好ましく、同種類かつ同形状のアンテナであることがさらに好ましい。
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波の対象物表面での半値角に対応する第一電磁波照射領域と、第二電磁波の対象物表面での半値角に対応する第二電磁波照射領域とが重なり合う部分が存在するように、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
「半値角」とは、電磁波の電力が一番高い点の電力を基準として、その電力の半分の電力になる点が作る角度のことをいう。上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、対象物表面の同じ部分に第一電磁波及び第二電磁波の両方が、所定の強度で照射していることが必要である。本発明の脈波測定装置において、電磁波発振部による第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲は、第一電磁波の対象物表面での半値角に対応する第一電磁波照射領域と、第二電磁波の対象物表面での半値角に対応する第二電磁波照射領域とが重なり合う部分が存在することが必要となる。
第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲の設定は、電磁波発振部であるアンテナの形状、照射方向及び電磁波の照射強度を調節することにより行うことができる。
脈波測定のための対象物表面とは、対象物である生体の、脈波測定の可能な血管が位置する表面である。
第一電磁波照射領域と第二電磁波照射領域とが重なり合う部分の面積は、照射領域全体の面積に対して50%以上にすることが好ましい。また、重なり合う部分の範囲が脈波の測定対象とする血管の範囲を含むようにすることが必要である。特に、血管の範囲の面積が重なり合う部分の範囲の面積の80%以上を占めるように第一電磁波及び第二電磁波の対象物に対する照射の範囲を設定することが好ましい。
図4に示すように、第一電磁波及び第二電磁波が重なり合う部分の半径をrAとすると、半径rAは、θが半値角となるような半径rAとすることができる。第一電磁波及び第二電磁波が重なり合う部分が被測定部となる。高精度の測定を確実に行うことができるため、生体振動の測定を確実に行うための半径rAは、次に示すように各測定部位ごとに異なる血管の直径φtの3倍以下とすることが好ましい。各測定部位ごとの血管の直径φtは、大動脈起始部ではφt=20〜30mm、腹大動脈ではφt=14〜20mm、腸骨動脈ではφt=6〜10mm、上腕の動脈ではφt=5〜8mm、下腕又は足首の動脈ではφt=2〜4mm(具体的には3mm)、細動脈ではφt=0.2〜0.5mmである。
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波及び第二電磁波が、電磁波発振部で直接発振させるか、発振した電磁波の高調波によって得るか、又は逓倍によって得ることが好ましい。
「直接発振」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数をそのまま用いることをいう。また、「電磁波の高調波」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数の波形に対して整数倍にあたる周波数の波形のことをいう。「逓倍」とは、電磁波発振部で発振した基本周波数の波形を基にして、その整数倍の周波数を発生させることをいう。
第一電磁波及び第二電磁波は、必ずしも同じ発振方法によって得る必要はない。例えば、第一電磁波を電磁波発振部で直接発振させ、第二電磁波を発振した電磁波の高調波によって得るというように、それぞれ異なる発振方法を用いることもできる。また、発振は、可変周波数発信器及び連続波発振器等の発信器を用いることによって行うことができる。具体的には、発信器としては、例えば、誘電体共振発振器や、パターンによるLC共振発振器、集中定数によるLC共振発振器などを用いることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、反射合成波波形が、所定距離離した位置に配置された2つのミキサである第一乗算部及び第二乗算部に入力され、位相差が、2つのミキサの出力波形の位相差であることが好ましい。
第一乗算部及び第二乗算部として、ミキサを用いることにより、簡便に、反射合成波と、第一周波数波形又は第二周波数波形とを乗算することができ、第一差分出力波形又は第二差分出力波形を得ることができる。また、第一差分出力波形及び第二差分出力波形が、2つのミキサ(第一乗算部及び第二乗算部)の出力波形であるので、2つのミキサの出力波形の位相差に基づいて、対象物の距離の変位の測定の結果を得ることができる。
ミキサとしては、非線形ミキサを用いることができる。また、電磁波発振部の電力を用いて非線形ミキサを駆動する装置とすることができる。よって、第一乗算部及び第二乗算部の出力には、副次的なスペクトラムが出るのでフィルタ、例えばハイパスフィルター、ローパスフィルター及びバンドパスフィルター等を適宜組み合わせることにより所望の周波数成分(例えばf1−f2)を選択する周波数選択部を備えることが好ましい。第一乗算部及び第二乗算部は、例えば、ショットキーダイオードを用いて第一周波数波形又は第二周波数波形を注入してそれにより駆動させることにより、第一周波数波形又は第二周波数波形と入力された反射合成波とを乗算させることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、第一周波数及び第二周波数が、7GHz以上の周波数であることが好ましい。血管の収縮・拡張時の変動量が100μm程度であるため、その1/3の33μm程度の位相差に対する距離精度Δλ(μm/degree)が必要と思われる。よって、図27より、7GHz以上の周波数であることが望ましい。なお、Δλと周波数[GHz]との関係は、下記の式で表すことができる。
Δλ=207.75/(周波数[GHz])
本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一周波数f1及び第二周波数f2の和(f1+f2)が大きくなれば測定の分解能が向上する。したがって、7GHz以上、好ましくは10GHz以上、より好ましくは24GHz以上の周波数の電磁波を用いることにより、脈波測定の分解能を向上することができる。
また、本発明の脈波測定装置は、第一周波数及び第二周波数が、10GHz〜100GHzの間の周波数であることが好ましい。
上述のように、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法においては、第一周波数f1及び第二周波数f2の和(f1+f2)が大きくなれば、測定の分解能が向上するため、高い周波数の電磁波を用いることが好ましい。しかしながら、周波数が高すぎる場合には皮膚表面で反射するようになるため、侵襲性が弱く、レーザー計測に近づいてしまうという問題が生じる。そのため、第一周波数及び第二周波数が、10GHz〜100GHz、好ましくは15GHz〜60GHz、より好ましくは20GHz〜30GHzの間の周波数であることが好ましい。
また、本発明の脈波測定装置は、第一電磁波と第二電磁波とを対象物に対して照射し、反射合成波受信部が2つのアンテナであり、2つのアンテナが、第一乗算部及び第一乗算部にそれぞれ接続されていることが好ましい。
脈波測定装置が2つのアンテナを有し、それぞれ第一乗算部及び第二乗算部に接続されることにより、第一乗算部及び第二乗算部での所定の波形の乗算を、精度よく確実に行うことができる。
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部が、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去する脈波外変位除去部を備えることが好ましい。
一般に、変位測定部で測定された波形には、脈波以外に呼吸及び体動等が重畳した波形を示すこととなる。脈波測定が、呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動などによる距離の変位の影響を受けると、脈波測定を正確に行うことができない場合がある。そのため、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈1波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去することにより、脈波測定の精度を向上することができる。
脈波外変位除去部における所定の変位の除去は、例えば、呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動などによる距離の変位を別途測定し、その測定結果と脈波測定結果とを比較することにより行うことができる。一般に、呼吸は3秒から4秒の周期の振幅が大きい波形を示し、脈波は約1秒周期の小さな波形を示すので、変位測定部で測定された波形を解析することにより、脈波外変位除去部における所定の変位の除去を行うことができる。
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部が、対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることが好ましい。
脈波測定のためには、距離の変位の時間変化を測定することが必要である。そのため対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることが好ましい。変位測定部が、対象物の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることにより、脈波測定を確実に行うことができる。
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位に基づいて、脈波に関する指標の算出の結果を求める指標算出部を備えることが好ましい。
脈波に関する指標とは、動脈の硬さ、脈波速度(PWV)の推定値、AI(Augmentation Index)及びCAVI(Cardio Ankle Vascular Index:心臓足首血管指数)などのことをいう。指標算出部は、変位測定部により得られた対象物の距離の変位の測定の結果を用いて脈波に関する指標の算出の結果を求めるように構成される部分である。指標算出部を備えることにより、脈波に関する指標の算出を確実に行うことができる。
また、本発明の脈波測定装置は、脈波に関する指標が、時間に対する距離の変位の極大値もしくは極小値の値、複数の極大値もしくは極小値間の時間、又は、複数の極大値もしくは極小値間の値の差に基づいて算出する指標であることが好ましい。
脈波に関する指標として、脈波速度を具体例に説明する。図3に、本発明の脈波測定装置によって得られる、対象物の距離の変位の測定の結果の一例を示す。図3の横軸(x軸)は時間であり、縦軸(y軸)は対象物の距離の変位に比例する出力電圧である。図3の場合の対象物は人間であり、距離の変位の測定部位は大動脈起始部(「A点」という)及び下行大動脈(「B点」という)の2箇所である。図3から明らかなように、両方の測定部位における時間に対する距離の変位はいくつかの極大値を示している。図3において脈波に関する指標として、例えば脈波速度を測定する場合、大動脈起始部(A点)の極大値A1に関する脈波が血管を伝播して下行大動脈(B点)の極大値B1として測定されたものと考えられる。極大値A1と極大値B1との時間差をΔtとし、別途測定したA点とB点との間の距離をLとすると、脈波速度(PWV)は、次の式(101)により求めることができる。
PWV=L/Δt ・・・(101)
図3の例では、極大値A1と極大値B1との時間差(Δt)は0.05秒であり、別途測定したA点とB点との間の距離(L)は20cmであったことから、脈波速度(PWV)は、4m/secであるといえる。
次に、時間に対する距離の変位の極大値を用いることによる脈波に関する指標として、AI(Augmentation Index)を例に、その求め方について説明する。図3において、大動脈起始部(A点)では、極大値A1の0.15秒後に極大値A2が観測されていることがわかる。この極大値A2は、極大値A1に関する脈波が血管を伝播して下行大動脈分岐部まで達し、そこで脈波が反射したための反射波に起因するものであるといえる。極大値A1の値をP1、極大値A2の値をP2、P1及びP2のうち大きい方の値をPPとすると、ΔP=(P2−P1)として、AIは、次に示す式(101)により求めることができる。
AI=ΔP/PP ・・・(101)
なお、極大値A1の値P1及び極大値A2の値P2は、バックグラウンドを差し引いた値を用いることができる。
上述の脈波速度の測定の例では、大動脈起始部及び下行大動脈測定部位の2箇所の測定部位での測定から求める場合について説明した。しかしながら、AIの求め方で説明したような下行大動脈分岐部等からの脈波の反射波を用いることにより、一箇所の脈波速度の測定によって脈波速度を測定することが可能である。
以上、脈波速度及びAIを例に、時間に対する距離の変位の極大値の値、複数の極大値間の時間、又は、極大値間の値の差に基づいて、脈波に関する指標を算出する方法について述べた。また、上述の極大値に基づく場合と同様に、時間に対する距離の変位の極小値の値、複数の極小値間の時間、又は、複数の極小値間の値の差に基づいて、脈波に関する指標を算出することもできる。本発明の脈波測定装置を用いるならば、時間に対する距離の変位の極大値又は極小値を測定することができるので、脈波速度及びAI以外の指標についても時間に対する距離の変位の極大値又は極小値の値を用いることにより、容易に算出が可能である。
また、本発明の脈波測定装置は、指標が、動脈の硬さに関する指標であることが好ましい。
一般に、動脈の硬化が進むと、血管に弾力性がなくなり脈波速度は速くなる。したがって、脈波速度を指標として動脈の硬さを推定することができ、動脈硬化の進行に関する情報を得ることができる。具体的には、例えば、心臓からの駆出波及び末梢血管からの反射波の脈波波形の解析を行うことにより、中枢血管の動脈硬化に関する情報を得ることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、指標が、脈波速度の推定値又はAIであることが好ましい。
上述のように、脈波速度及びAIは、本発明の脈波測定装置によって、時間に対する距離の変位の極大値の値に基づいて算出することができる。これらの指標を用いることにより、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症及び閉塞性動脈硬化症・糖尿病等の少なくともいずれか1つの血管に関係する病状の有無や程度を評価することができる。
また、本発明の脈波測定装置は、あらかじめ設定したパターンに対応した判定の結果を設定しておき、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、その比較結果に基づいて判定の結果を得る判定部を備えることが好ましい。
あらかじめ設定したパターンとは、一般的に動脈硬化症等の病状の場合に典型的に表れる、上記測定する対象物の距離の変位の時間変化のパターンであって、あらかじめ測定して決定した所定のパターンのことをいう。判定部が、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、病状等の有無や程度の判定の結果を得ることにより、短時間で容易に判定の結果を得ることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、判定の結果が、正常、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、閉塞性動脈硬化症・糖尿病の少なくともいずれか1つに関する判定の結果であることが好ましい。
本発明の脈波測定装置により脈波に関する情報を測定することにより、正常、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、閉塞性動脈硬化症・糖尿病の少なくともいずれか1つに関する判定の結果を精度良く容易に得ることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位を所定のサンプリングレートで所定時間記録した脈波情報とともに、結果を関連付けて記憶する記憶手段を備えることが好ましい。
記憶手段が、変位測定部によって測定された対象物の距離の変位を所定のサンプリングレートで所定時間記録した脈波情報とともに、結果を関連付けて記憶することにより、結果のみならず、脈波情報である脈波パターン(測定された対象物の変位の時間変化)それ自体を容易に精査することができるので、医師等が、より詳しい病状の解析を容易にかつ正確に行うことができる。
所定のサンプリングレートは、10sps以上であることが好ましく、10〜400spsであることがより好ましく、100〜300spsであることがさらに好ましい。
「記憶手段」としては、公知のハードディスクドライブ、CDドライブ、DVDドライブ及び各種メモリ等、脈波情報を電子的に保存することができるものであることが、関連付けを容易にできることから好ましい。
また、本発明の脈波測定装置は、結果を報知する報知手段を備え、結果が得られない測定異常の場合の報知態様と、結果が得られた場合の測定結果の報知態様とを異なる報知態様とすることが好ましい。
結果を報知する報知手段は、結果が得られない測定異常の場合の報知態様と、結果が得られた場合の測定結果の報知態様との両方を報知することが好ましい。結果が得られない測定異常の場合に報知するための報知手段を備えることにより、医師等による再測定を確実に行うことができる。また、結果が得られた場合に報知するための報知手段を備えることにより、特に病状が正常でない場合には、医師等がそれを見落とすことなく対処することを確実にできる。
報知手段としては、具体的には、脈波測定装置の操作ディスプレー上のアラーム、別途配置された警告灯及びブザー等の音響警告装置等、公知のものを用いることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、上述の脈波測定装置を複数備え、各脈波測定装置の対象物が同一人の異なる部位の血管に対応する位置に設定し、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物の距離の変位の測定の結果のずれに基づいて脈波に関する指標を算出する、脈波測定装置であることが好ましい。
上述のように、例えば、脈波速度を測定する場合には、大動脈起始部及び下行大動脈測定部位の2箇所の測定部位での測定から求める方法の以外にも、AIの測定で説明した下行大動脈分岐部等からの脈波の反射波を用いることにより、一箇所の脈波速度の測定によって脈波速度を測定することが可能である。しかしながら、脈波の反射が必ずしも予期した場所で生じるとは限らないことから、上述の脈波測定装置を複数備え、各脈波測定装置の対象物が同一人の異なる部位の血管に対応する位置に設定し、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物の距離の変位の測定の結果のずれに基づいて脈波に関する指標を算出することが好ましい。
脈波に関する指標としては、例えば、各脈波測定装置の変位測定部から出力される対象物との距離の変位の測定の結果の特徴点間の時間差と、前記同一人の異なる部位間の距離とに基づいて得られる脈波速度に関する指標とするとよい。特徴点としては、測定結果の脈波波形の立ち上がりの点、ピーク(極大値又は極小値)の点とするとよく、比較する脈波波形は時間的に直近の2つの類似のパターンの脈波波形とするとよい。
また、本発明の脈波測定装置は、対象物を固定する対象物固定手段をさらに備え、対象物固定手段は、ベッド又は椅子であることが好ましい。
脈波測定の対象物は生体なので、動きが生じる場合がある。正確な脈波測定のためには、脈波以外の余分な動きをできるだけ防止することが好ましい。本発明の脈波測定装置は、対象物を固定する対象物固定手段をさらに備えることにより、脈波以外の余分な動きをできるだけ防止し、測定の精度を向上することができる。
対象物固定手段は、公知のものを用いることができる。対象物固定手段としては、特に、ベッド又は椅子であることが好ましい。本発明の脈波測定装置を、例えば病院等の建物の中に配置する場合には、ベッド又は椅子を対象物固定手段とすることができる。ベッド又は椅子は、さらに対象物固定用のバンド等を備えることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、距離の変位を測定できることから、脈波以外の体動測定のためにも応用することができる。例えば、本発明の脈波測定装置を応用することにより、心拍及び呼吸の測定を行うための装置を得ることもできる。
本発明によれば、測定の対象物である生体に対して非接触かつ高い精度で脈波測定を行うことができる脈波測定装置を提供することができる。また、本発明によれば、生体振動波形(脈波波形)、特に、末梢動脈圧波形を検出するだけでなく、直接大動脈等の脈波波形を検出可能であり非周期振動も含む検出精度の高い脈波測定装置を提供することができる。
また、本発明の脈波測定装置によれば、非接触にて生体振動、特に大動脈血管の振動である大動脈の脈波波形を検出することができる。このため、末梢動脈の脈波波形から、平均的伝達特性(Generalized Transfer Function; GTF)により、大動脈圧波形を推定する必要がなく、直接、大動脈圧波形の検出が可能になる。
また、本発明の脈波測定装置は、周波数安定性の悪い低価格の発振回路を用いた場合でも、高い精度で脈波測定を行うことができるので、高い精度かつ低価格の脈波測定装置を提供することができる。
本発明は、所定の距離の変位の測定方法により得られた、生体等の対象物の距離の変位の測定値に基づいて脈波測定をするように構成される脈波測定装置である。本発明の脈波測定装置に用いられる距離の変位の測定方法は、非接触かつ高い精度での距離の変位の測定が可能である。そのため、本発明によれば、測定の対象物である生体に対して非接触かつ高い精度で脈波測定を行うことができる脈波測定装置を提供することができる。
本発明の脈波測定装置における対象物50の距離の変位の測定方法を、図1を参照して具体的に説明する。なお、本明細書において、一つのアンテナ及びそれに付属する回路を「移動体検出センサー」という場合がある。例えば、図1の第一アンテナ12及びそれに付属する回路(例えば図1の符号A1で表した部分)は、「移動体検出センサー」である。同様に、第二アンテナ22「移動体検出センサー」及びそれに付属する回路(例えば図1の符号A2で表した部分)は、「移動体検出センサー」である。また、図1中、アンテナ12及び22並びに点線Cの範囲の装置を「マイクロ波微小変位センサー」という場合がある。
図1に示す本発明の脈波測定装置は、電磁波発振部として、第一アンテナ(第一電磁波発振部)12及び第二アンテナ(第二電磁波発振部)22を有する。電磁波発振部は、第一電磁波及び第二電磁波を発振し、対象物に対して照射することができる。ここで、脈波測定装置の電磁波発振部から出力する二つの電磁波、すなわちV1(t)として示す第一電磁波及びV2(t)として示す第二電磁波を、
V1(t)=Acos2πf1t ・・・(1)
V2(t)=Acos2πf2t ・・・(2)
とおくとき、対象物50へ向かう照射波Vt(t)(V1(t)とV2(t)との合成波)は、
Vt(t)=Acos2πf1t+Acos2πf2t ・・・(3)
と表すことができる。式(3)において、Aは振幅、f1及びf2はそれぞれ第一電磁波及び第二電磁波の周波数、tは時間である。
対象物50から反射(散乱)した反射合成波Vr(t)は、
Vr(t)=αAcos2πf1(t−τ)+αAcos2πf2(t−τ) ・・・(4)
と表すことができる。式(4)において、αは減衰係数である。反射合成波Vr(t)は、反射合成波受信部で受信することができる。図1の例では、第一アンテナ12及び第二アンテナ22が、反射合成波受信部を兼ねている。
脈波測定装置から対象物50までの往復時間τは、
τ=2d/c ・・・(5)
と表すことができる。式(5)において、dは対象物50までの距離、cは光の速度である。
反射合成波受信部が受信した反射合成波は反射合成波波形となって第一乗算部(ミキサ14)へ取り込み、第一乗算部において反射合成波波形と第一周波数波形とを乗算することにより第一差分出力波形号Vc1を得る。また、反射合成波波形は第二乗算部(ミキサ24)へも取り込まれ、第二乗算部において反射合成波波形と第二周波数波形とを乗算することにより第二差分出力波形Vc2を得る。つまり、第一差分出力波形Vc1は、反射合成波波形Vr(t)と、第一電磁波V1(t)との合成となり、第二差分出力波形Vc2は、反射合成波波形Vr(t)と、第二電磁波V2(t)との合成となるから、
Vc1=αA2[cos2πf1t・cos2πf1(t−τ)]
+αA2[cos2πf1t・cos2πf2(t−τ)] ・・・(6)
Vc2=αA2[cos2πf2t・cos2πf1(t−τ)]
+αA2[cos2πf2t・cos2πf2(t−τ)] ・・・(7)
と表すことができる。これらの式(6)及び式(7)は、三角関数の積の公式(8)
cosαcosβ=cos(α−β)/2+cos(α+β)/2 ・・・(8)
を使って変形し、以下の式(9)及び式(10)を得る。
Vc1=[αA2/2][cos{(2πf1−2πf1)t+2πf1τ}
+cos{(2πf1+2πf1)t−2πf1τ}
+cos{(2πf1−2πf2)t+2πf2τ}
+cos{(2πf1+2πf2)t−2πf2τ}]
・・・(9)
Vc2=[αA2/2][cos{(2πf2−2πf1)t+2πf1τ}
+cos{(2πf2+2πf1)t−2πf1τ}
+cos{(2πf2−2πf2)t+2πf2τ}
+cos{(2πf2+2πf2)t−2πf2τ}]
・・・(10)
式(9)及び式(10)の波形から、2πf1、2πf1+2πf2、2πf2及び直流成分をフィルタで取り除き、それぞれ以下の式(11)及び式(12)になる。
Vc1=[αA2/2][cos{(2πf1−2πf2)t+2πf2τ}]
・・・(11)
Vc2=[αA2/2][cos{(2πf2−2πf1)t+2πf1τ}]
・・・(12)
そして、式(11)で表される第一差分出力波形Vc1及び式(12)で表される第二差分出力波形Vc2について位相差φAを求めると、
φA=(2πf1+2πf2)τ ・・・(13)
となる。往復時間τは式(5)の関係があるので位相差φAは、
φA=4π(f1+f2)d/2 ・・・(14)
で表すことができる。したがって、対象物50までの距離dAは、合成した波形(f1・f2、f2・f1)の2周波の位相差φAから、
dA=cφA/{4π(f1+f2)} ・・・(15)
となる。ここで、距離dAの最大測定可能距離λAは、位相差φAが2πである場合に相当し、
λA=2πc/{4π(f1+f2)}=c/2(f1+f2) ・・・(16)
と表すことができる。
例として、f1=24.1498GHzでf2=24.1490GHzの場合、式(16)でc=3×1011mm/secとすると、最大測定可能距離λは、
λ=3×1011/(2×48.2988×109)=3.1026mm
となる。
よって、反射体までの距離dは、f1−f2=0.8MHzの合成波波形の位相差φから求まる。
図2に0.8MHzの合成波波形の位相差φと距離dとの関係を示す。この図は、0.8MHzの合成波波形の位相差φを1°精度で検出した場合、f1+f2の位相差φ=1°に相当する距離d=0.0086mm、即ち、8.6μm精度で決定可能であることを示している。つまり、0.8MHzの合成波の位相角φからf1+f2=48.2988GHzの位相角φを求めることができ、結果的に位相精度の増幅作用が生じていることになる。
さらにいうならば、0.8MHzの合成波波形の位相角度φ(1波長は375000mm)の位相変化から48.2988GHzの合成波波形の位相角度φ(1波長は3.1026mm)の変化を検出可能であり、この3.1026mmの変化を0.8MHzでの位相角度に換算すると、約120000分の1の位相角度に相当する。このことは、約12万倍の位相角度の増幅作用が生じたことを意味する。また、式(15)によると位置決定精度は距離に無関係であることから、反射体までの距離が1mの距離でも10倍の10mの距離でもλ以内の距離変動は高精度(10μm)で決定可能であることがわかる。このことは、医療分野での心臓の動き等のモニタ機器への応用が可能であることを示している。
また、本発明の脈波測定装置の距離の変位の測定方法による分解能の限界は、具体的には、周波数差100MHzのときに8.6266μm、1MHzのときに8.6264μmと見積もることができる。よって、分解能に差が出ることは無いに等しいといえ、これは、周波数安定性の悪い発振回路を用いても、分解能については、全く問題ないといえる。したがって、本発明の脈波測定装置は、周波数安定性の悪い低価格の発振回路を用いることができる。
次に、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法において、距離の変位Δdについて説明する。上述の式(11)において、位相の項として「2πf2τ」があることに着目し、このτを、式(5)を用いて書き直すと次のようになる。
2πf2τ=2πf2(2d/c) ・・・(17)
Nを任意の整数とし、周波数f2に対応する波長をλ2とすると、λ2=c/f2であり、さらにd=N・λ2+d1とすると、式(17)は、次のようになる。
2πf2τ=4πN+4πf2・d1/c ・・・(18)
式(18)において、位相として意味があるのは、4πf2・d1/cである。
同様に、式(12)の位相の項について、Mを任意の整数とし、周波数f1に対応する波長をλ1とすると、λ1=c/f1であり、さらにd=M・λ1+d2とすると、式(18)に対応する式は、次のようになる。
2πf2τ=4πM−4πf1・d2/c ・・・(19)
式(19)において、位相として意味があるのは、−4πf1・d2/cである。そうすると、式(11)で表される第一差分出力波形Vc1と、式(12)で表される第二差分出力波形Vc2との位相差φは、
φ=4πf2・d1/c−(−4πf1・d2/c)
=4π(f2・d1/c + f1・d2/c) ・・・(20)
となる。
次に、図1に示すように対象物50が、ある場所にあり(「状態a」といい、符号50aで示している。)、距離Δdだけ変位したとする。変位した後の対象物50bの状態を「状態b」ということにする。式(20)により、状態aの位相差φa及び状態bの位相差φbを測定すると、次のようになる。
φa=4π(f2・d1/c + f1・d2/c) ・・・(21)
φb=4π[f2・(d1+Δd)/c + f1・(d2+Δd)/c] ・・・(22)
φaとφbとの位相差(Δφ=φb−φa)を求めると、
Δφ =4π・Δd・(f1+f2)/c ・・・(23)
したがって、距離の変位Δdは、位相差Δφ並びに第一周波数f1及び第二周波数f2を用いて、
Δd =Δφ/[4π・(f1+f2)] ・・・(24)
として求めることができる。
式(24)で、分母にある(f1+f2)が大きくなれば、同じ大きさの位相差Δφに対応するΔdは小さくなる。したがって、式(24)は、本発明に用いる対象物50の距離の変位の測定方法が、同じ位相差の変化によって、小さい寸法の距離の変位を測定することが可能であることを示しているといえる。これは、本発明に用いる対象物50の距離の変位の測定方法において、変位測定の分解能が向上したことを示している。これに対して、従来の方法では、(f1−f2)を用いていたのであるから、(f1+f2)を用いた対象物50の距離の変位の測定方法は、変位測定の分解能が向上したものであるといえる。したがって、本発明に用いる対象物50の距離の変位の測定方法を用いるならば、高い精度で対象物50の距離の変位の測定値を得ることができる。生体を測定の対象物50とすることにより、脈波による生体表面の変位を、脈波測定装置と対象物50の距離の変位として非接触で測定することができる。そのため、測定の対象物50である生体に対して非接触かつ高い精度で脈波測定を行うことができる脈波測定装置を得ることができる。
また、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法において、位相を推定する方法として、次の方法を用いることもできる。すなわち、上述の式(9)
Vc1=[αA2/2][cos(2πf1τ)
+cos{(2πf1+2πf1)t−2πf1τ}
+cos{(2πf1−2πf2)t+2πf2τ}
+cos{(2πf1+2πf2)t−2πf2τ}]
・・・(9)
を三角関数の和の公式「cosα+cosβ=2cos{(α+β)/2}・cos{(α−β)/2}」にて変形すると、
Vc1=[αA2/2][cos(2πf1τ)+cos{2π(f1−f2)t+2πf2τ}+B・cos[2π{(3f1+f2)/2}t−2π{(f1+f2)/2}τ]] ・・・(9’)
となる。
ここで、振幅に相当するBは
B=2cos[2π{(f1−f2)/2}t−2π{(f1−f2)/2}τ]
で表すことができる。
同様に、式(10)
Vc2=[αA2/2][cos(2πf2τ)
+cos{2π(f2−f1)t+2πf1τ)}
+cos{2π(f2+f1)t−2πf1τ}
+cos{2π(f2+f2)t−2πf2τ)] ・・・(10)
を三角関数の和の公式「cosα+cosβ=2cos{(α+β)/2}・cos{(α−β)/2}」にて変形すると、
Vc2=αA2/2][cos(2πf2τ)+cos{2π(f2−f1)t+2πf1τ}+B・cos[2π{(3f2+f1)/2}t−2π{(f1+f2)/2}τ]]
・・・(10’)
となる。
ここで、式(10’)の3項目に注目すると、
B=2cos[2π{(f1−f2)/2}t−2π{(f1−f2)/2}τ]
であるBを振幅とみなせば、振幅Bの振動数は(f1−f2)/2であり、Bの絶対値の最大は山と谷とに相当する部分なので、1波長について最大値が2箇所存在することになる。すなわち1振動について2回唸りが生じることになるため、(f1−f2)/2の2倍で(f1−f2)となることになる。このことを利用して、合成波波形の最大値から最小値そして再び最大値というように位相変化に応じて振幅も変化することになるので、振幅の変動から位相の推定が可能であるといえる。
また、本発明の脈波測定装置に用いる距離の変位の測定方法において、任意の電磁波照射による位相差に基づく距離の変位の測定方法を用いることができる。例えば、本発明の脈波測定装置において、定在波レーダによる方法及びクオドラチャー検出器による方法等を用いることもできる。
本発明の脈波測定装置には、外部の電磁波による誤動作の発生を防止する構成を有することが好ましい。具体的には、本発明の脈波測定装置の図1に示す各構成において、点線で示すA1及びA2の範囲、Bの範囲又はCの範囲を独立させて、シールド構造の内部に納めるようにすることが好ましい。シールド構造に所定の範囲を納めることにより、外部の電磁波による誤動作の発生を防止することができる。なお、上記範囲を独立したシールド構造とする場合、基板上で独立させても良いし、基板から分離させてモジュール化しても良い。
次に、本発明の脈波測定装置による脈波測定について具体的に説明する。なお、以下の例では、電磁波がマイクロ波の場合を例に説明する。
図1に、本発明の一実施形態に係る脈波測定装置の構成を示す。脈波測定装置は、脈波測定装置の第一アンテナ12及び第二アンテナ22を生体振動の被測定部52に向ける。この脈波測定装置の第一アンテナ12及び第二アンテナ22から照射される第一電磁波15及び第二電磁波25によって被測定部52の生体振動による距離の変位を検出する。
図4は、脈波測定装置の第一アンテナ12及び第二アンテナ22と、生体振動の被測定部52との位置関係を示したものである。ここで、マイクロ波が照射されている被測定部52での干渉領域(第一電磁波15及び第二電磁波25が重なり合う部分)のビームスポット半径rAは、第一電磁波15及び第二電磁波25の放射ビーム幅(広がりの角度)がθの場合、下記の式(24)で求められる。
rA=dCtanθ−x ・・・(24)
ここで、xは第一アンテナ12及び第二アンテナ22の間の距離の半分の長さを示している。また、dCは、第一アンテナ12及び第二アンテナ22と、被測定部52との距離である。
表1には、第一アンテナ12及び第二アンテナ22の間の距離が8cm(x=4cm)で、マイクロ波の放射ビーム幅θを10度及び20度の場合について、被測定部52までの距離dCを10cmから30cmまで変化させた場合の計算結果を示す。rAが負の値を示している所は干渉領域のビームスポットが存在しないので、距離の変位の測定が不可能である。
正の値を示している所は干渉領域のビームスポットが存在するので距離の変位の測定が可能である。しかしながら、半径rAが大きくなると干渉領域のビームスポットが大きくなり、このため得られる情報は広いエリアの平均情報となり、鮮明な生体振動波形の検出が困難になる。
一例として、大動脈起始部の検出においては、動脈血管の内腔半径が約1cmであるため、表1から被測定部52の位置を約30cmにセットした方が鮮明な脈波波形の検出が可能となる。また、マイクロ波の放射ビーム幅θは、アンテナ指向特性の正面ゲインが3dBダウン付近(電力が1/2となる位置)となるようなθであることが好ましい。なお、θの値の最適化は、実際の計測実験と比較しながら求めることができる。放射アンテナが異なる場合はアンテナビーム幅θが異なるため、ビーム幅θを最適化する必要がある。
第一電磁波15及び第二電磁波25が重なり合う部分の半径rAは、θが半値角となるような半径rAとすることができる。生体振動の測定を確実に行うための半径rAは、次に示すように各測定部位ごとに異なる血管の直径φtの3倍以下であることが好ましい。半径rAが直径φtの3倍以下であることにより、高精度の測定を行うことができるためである。各測定部位ごとの血管の直径φtは、大動脈起支部ではφt=20〜30mm、腹大動脈ではφt=14〜20mm、腸骨動脈ではφt=6〜10mm、上腕の動脈ではφt=5〜8mm、下腕又は足首の動脈ではφt=2〜4mm(具体的には3mm)、細動脈ではφt=0.2〜0.5mmである。
次に、反射合成波受信部によって、第一電磁波15の対象物50からの反射電磁波である第一反射波16と、第二電磁波25の対象物50からの反射電磁波である第二反射波26との合成波である反射合成波を受信する。図1に示す例では、第一反射波16と第二反射波26との合成波である反射合成波は、それぞれ、第一アンテナ12及び第二アンテナ22によって受信される。
なお、第一電磁波15と第二電磁波25との反射合成波を受信するための反射合成波受信部は、単一のアンテナを使用し、単一のアンテナが電磁波の送受兼用の機能を有するように構成することも可能である。この場合、単一のアンテナから、電力合成部を介して2箇所の乗算部(第一乗算部及び第一乗算部)に接続するように構成する。電力合成部は、送信方向には電力合成器として機能し、受信方向には電力分配器として機能する。電力合成器は、30dB以上のアイソレーションがあるため、2つのミキサ(第一乗算部及び第一乗算部)の波形が互いに漏れ込むことを防止することができる。すなわち、電力合成器を用いることにより、2つのアンテナの配置角度を変えることとほぼ等価の効果があるといえる。
図1に示す例において、第一アンテナ12で受信された反射合成波の反射合成波波形は、ミキサ14(第一乗算部)へ導入されて、第一周波数波形と乗算される。また、第二アンテナ22で受信された反射合成波の反射合成波波形は、ミキサ24(第二乗算部)へ導入されて、第二周波数波形と乗算され、ミキサ14からの出力として第一差分出力波形が得られる。第一周波数波形及び第二周波数波形は、それぞれ第一周波数波形発生部13及び第二周波数波形発生部23から、ミキサ24(第一乗算部)及びミキサ24(第二乗算部)へと導入され、ミキサ24からの出力として第二差分出力波形が得られる。
次に、図1に示す例では、ハイパスフィルター及びバンドパスフィルター(図1中で「HPF/BPF」として示され、「周波数選択部」ともいう。)により、ミキサ14(第一乗算部)からの出力である第一差分出力波形から、所望の周波数成分を選択する。同様に、ハイパスフィルター及びバンドパスフィルターにより、ミキサ24(第二乗算部)からの出力である第二差分出力波形から、所望の周波数成分を選択する。第一周波数波形及び第二周波数波形の所望の周波数成分は、例えば、位相差計のような位相比較部29へ導入され比較されることによって、式(13)の位相差φA又は式(23)に示す位相差Δφを求めることができる。なおこのとき、可変利得増幅部18及び28によって、位相比較部29に入力される第一周波数波形及び第二周波数波形を所定の利得で増幅することにより、位相比較部29での位相の比較をより正確に、容易に行うことができる。なお、可変利得増幅部18及び28とは、信号の増幅をするための回路であり、増幅の利得を変更することが可能なように構成される。
次に、図1に示す例では、変位測定部31によって、第一差分出力波形と第二差分出力波形との位相差に基づいて、対象物50の距離の変位の測定の結果を得ることができる。位相差から対象物50の距離の変位の算出には、例えばパーソナルコンピュータなどの汎用的なコンピュータを用いることができる。具体的には、位相比較部29からの出力信号から、ローパスフィルターによって高周波成分を取り除き、アナログデジタルコンバータ(ADC)によりデジタル信号に変化した位相差の情報を得ることができる。変位測定部31では、この位相差の情報に基づき、対象物50の距離の変位の測定の結果、すなわち、式(15)又は式(24)で示される対象物50の距離の変位dA又はΔdを得ることができる。なお、位相比較部29からの出力信号は、波形処理部30で波形を処理することが好ましい。
また、変位測定部31は、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去する脈波外変位除去部を備えることができる。一般に、変位測定部31で測定された波形には、脈波以外に呼吸及び体動等が重畳した波形を示すこととなる。脈波測定が、呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動などによる距離の変位の影響を受けると、脈波測定を正確に行うことができない場合がある。そのため、距離の変位に含まれる呼吸、体動、当該脈波測定装置の移動の少なくともいずれか1つに基づく変位を除去することにより、脈波測定の精度を向上することができる。
また、変位測定部31は、対象物50の距離の変位の測定の結果を連続的に得ることより、脈波の全体的な傾向を把握することができ、脈波測定を確実に行うことができる。
次に、図1に示す例では、変位測定部31により得られた対象物50の距離の変位の測定の結果(対象物50の距離の変位dA又はΔd)を基づいて、指標算出部32によって、脈波に関する指標の算出の結果を求めることができる。指標算出部32は、変位測定部31により得られた対象物50の距離の変位の測定の結果を用いて脈波に関する指標の算出の結果を求めるように構成される部分である。指標算出には、例えばパーソナルコンピュータなどの汎用的なコンピュータを用いることができる。指標算出部32を備えることにより、脈波に関する指標の算出を確実に行うことができる。脈波に関する指標とは、動脈の硬さ、脈波速度(PWV)の推定値、AI(Augmentation Index)及びCAVI(Cardio Ankle Vascular Index:心臓足首血管指数)などを挙げることができる。上述のように、脈波速度(PWV)は、式(101)によって求めることができる。また、AI(Augmentation Index)は、式(101)によって求めることができる。
次に、図1に示す例では、指標算出部32によって算出された指標及び脈波波形の詳細な形状変化の解析に基づいて、診断部34によって、動脈硬化等の総合診断のデータを提供することができる。診断部34による診断には、例えばパーソナルコンピュータなどの汎用的なコンピュータを用いることができる。
また、本発明の脈波測定装置は、あらかじめ設定したパターンに対応した判定の結果を設定しておき、変位測定部31によって測定された対象物50の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、その比較結果に基づいて判定の結果を得る判定部を備えることができる。判定部が、変位測定部31によって測定された対象物50の距離の変位のパターンと、あらかじめ設定したパターンとを比較して、病状等の有無や程度の判定の結果を得ることにより、短時間で容易に判定の結果を得ることができる。具体的には、判定の結果は、正常、動脈硬化症、高血圧症・高脂血症、閉塞性肥大型心筋症、拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、閉塞性動脈硬化症・糖尿病の少なくともいずれか1つに関するものであることができる。判定部による判定の結果を用いることにより、診断部34による診断をより正確なものとすることができる。
また、図1に示す例では、本発明の脈波測定装置は、変位測定部31によって測定された対象物50の距離の変位を所定のサンプリングレートで所定時間記録した脈波情報とともに、結果を関連付けて記憶する記憶手段36を備える。記憶手段36としては、ハードディスクドライブ、CDドライブ、DVDドライブ及び各種メモリ等、パーソナルコンピュータなどの汎用的なコンピュータに接続可能であり、脈波情報を電子的に保存することができる公知の記憶手段36を用いることができる。本発明の脈波測定装置が、記憶手段36を備えて結果を関連付けて記憶することにより、脈波情報である脈波パターン(測定された対象物50の変位の時間変化)それ自体を容易に精査することができるので、医師等が、より詳しい病状の解析を容易にかつ正確に行うことができる。
また、図1に示す例では、本発明の脈波測定装置は、報知手段38を備える。報知手段38は、結果が得られない測定異常の場合の報知態様と、結果が得られた場合の測定結果の報知態様とを異なる報知態様とすることが好ましい。本発明の脈波測定装置が報知手段38を備えることにより、結果が得られない測定異常の場合には、医師等による再測定を確実に行うことができる。また、結果が得られた場合、特に病状が正常でない場合には、医師等がそれを見落とすことなく対処することを確実にできる。
また、本発明の脈波測定装置は、上述の脈波測定装置を複数備えることができる。すなわち、複数の脈波測定装置によって、同一人の異なる部位の血管に対応する位置を同時に測定することができ、複数の距離の変位の測定の結果の時間的なずれに基づいて脈波に関する指標を算出することができる。また、測定の際には、対象物50を固定することが好ましい。そのため、本発明の脈波測定装置は、ベッド及び椅子等から選択される対象物50固定手段を備えることができる。
(実施例1)
図5に、本発明の実施例1の脈波測定装置のシステム構成図を示す。図5の脈波測定装置のシステム構成図において、本体の各種情報を外部に表示するための表示器(1B)及び操作キーボード(1D)を一体的に有し、CPU(Central Processing Unit)(70)、メモリ(11)を内蔵するパソコン及びスマートフォン等の情報処理装置(1)、情報処理装置(1)に着脱自在に装着されるメモリカード(2)、情報処理装置(1)に接続されるプリンタ(4)、AD変換機(51)及びマイクロ波微小変位センサー(20)が示される。
マイクロ波微小変位センサー(20)は、非接触にて被測定部52の生体振動を検出して、検出された生体振動はAD変換機(51)によりデジタル情報に変換されてCPU(70)に与えられる。
操作キーボード(1D)は外部操作により情報処理装置(1)に対して情報・指示を入力する。メモリカード(2)は情報処理装置(1)に装着されて情報処理装置(1)のCPU制御によりそこに記載されている情報がアクセスされる。
生体振動の中で、特に、大動脈血管の振動である大動脈の脈波波形には脈波成分より大振幅の呼吸成分が重畳するため周波数解析などの複雑な波形処理が必要であったが、図6に示す本発明の脈波測定装置を用いた脈波計測手順及び動脈血管等をプリントした検査着により効率よくかつ、詳細な脈波波形の取得が可能になった。
図6に示す脈波計測手順は次のとおりである。
1)被検者をリラックスさせるため、測定の目的や苦痛がなく数分間で終了し、また、着衣のままで良いことを伝える。
2)レーザー光により測定部位をマークする(頸動脈、上行動脈、鎖骨下動脈、上腕動脈、橈骨動脈などにて脈波波形が異なるため)。
3)通常の呼吸をモニタする(位相が最大になるようにPSD(位置検出素子)出力を参考に距離を調整)。
4)大きく呼吸したときの波形チェック後、何回か測定者の号令で数秒間呼吸を止めてもらう(数秒間の呼吸停止とさらに通常の呼吸状態を何回か繰り返し、良い波形が受信されたら、脈波波形データとPSD距離計(位置検出素子)のデータを記録する)。
5)被検者に測定が終了したことを伝える。
図8は、呼吸と脈波とが重畳した波形を示している。図8において、3秒から4秒の周期の振幅が大きい波形が呼吸であり、約1秒周期の小さな波形が脈波である。
図9には上記脈波計測手順により取得された、詳細な脈波波形を示した。この脈波波形は中枢血管の動脈硬化に対応する、心臓からの駆出波と末梢血管からの反射波の様子を詳細に示していることがわかる。
上記実施例1では、本発明の脈波測定装置を、ベッド等の寝具に設置することもできる。
上記実施例1では、マイクロ波微小変位センサー(20)として2つのマイクロ波送受信器を設けたが、3つ以上のマイクロ波送受信器を用いてもよい、また1個のマイクロ波送受信器による定在波レーダ等を用いてもよい。
上記実施例1では、電波として24GHzのマイクロ波を用いたが、変位を検出できる電波であれば、これに限られない。例えば、24GHz以外のマイクロ波を用いてもよい。
上記実施例1では、マイクロ波を被測定部52に照射したが、表面振動がなくても人体内部での変位が生じる場所に照射してもよい。
上記実施例1では、ニューラルネット処理などの手段により、あらかじめ記憶していた生体振動波形と比較して、その比較波形から緊急状態であることが特定された場合、警報器(60)が音声での警報を発したが、音声以外の方法で警報を発するものであってもよい。例えば、モニタに警告を表示するものであってもよい。音声と表示の両方を用いることもできる。あるいは、無線通信装置を用いて、CPU(70)から警報器(60)の作動命令があったときに、警報器(60)から外部に対して無線通信により警報を発するものとすることもできる。この場合、当該警報を情報センターに送信し、当該警報を受信した情報センターから救急車を手配するような構成も可能である。
本発明の脈波測定装置は、警報器(60)を用いない構成も可能である。例えば、脈波測定装置を単なる解析装置として用いることもできる。
以上述べたように、本実施の形態によれば、人体にマイクロ波を発射し、反射波を受信することによって生体振動検出装置において、従来の装置より計測精度が向上した装置を提供することができる。
(実施例2)
図10に、実施例2の脈波測定装置のシステム構成の模式図を示す。なお、図10中、「LASER」はレーザー、「PSD」は位置検出センサーを示す。
図10で示すように、2周波(2つの高周波、f1及びf2)を大動脈起始部や大腿動脈などの測定部位に照射した場合、移動体検出センサー(アンテナ)と測定部位との距離dは、式(15)を参考にすると、下記の式(100)で求めることができる。
d=cφ/{4π(f1+f2)} ・・・(100)
ここで、cは光の速度、f1及びf2は2つの高周波(2周波)の移動体検出センサー(アンテナ)からの発射周波数、位相角φは合成波形(f1−f2及びf2−f1)の2周波の位相差で与えられる。
具体的な例として、f1=24.1498GHzでf2=24.1490GHzの場合、(100)式でc =3×1011mm/secとすると、位相差がφ=2πの場合に相当するdの最大測定可能距離λは、
λ=3×1011/(2×48.2988×109)=3.1026mmとなる。
よって、反射体までの距離dはf1−f2=0.8MHzのビート波形の位相差φから求まる。もし、f1−f2=0.8MHzのビート波形の位相差φを1°精度で検出した場合、f1+f2の位相差φ=1°に相当する距離d=0.0086mm、即ち、8.6μm精度で決定可能であることを示している。
図1に、実施例2に使用した本発明の脈波測定装置の脈波波形計測システムのブロック図を示す。図1で示すように、2つのマイクロ波移動体検出センサーからの波形はそれぞれの位相差を検出する位相差計(位相比較部29)に入力され、その位相差をアナログデジタルコンバータ(ADC)によりAD変換して、情報処理装置にて処理及び記録するものである。なお、情報処理装置は、波形処理部30、変位測定部31、指標算出部32、診断部34、記憶手段36及び報知手段38等を適宜含むことができる。
実施例2に用いる本装置の特徴として、上述の(100)式による距離dの計測精度は、移動体検出センサーと測定部位との距離に無関係である。このことは、遠距離でも波形強度が十分であれば、高精度にて距離dの計測が可能である反面、以下の問題が生じることがある。
図1からもわかるように、移動体検出センサーと測定部位との距離によりマイクロ波の干渉するビームスポット(被測定部52の大きさ)が変化する。もし、距離が大きくなり、ビームスポットが大きくなると測定部位の検出範囲が広がり、その平均値としての位置変動を検出することになる。これは、鮮明な脈波波形が検出できないことを意味する。
他方、脈波波形は末梢動脈波形や大動脈波形などの測定部位により脈波波形が異なるため、測定部位をポインテイングすることが必要である。この問題を解決するため、レーザー(LASER)及び位置検出素子(PSD:Position Sensitive Detector)を追加したシステムを用いることができる。このシステムにより、マイクロ波を最適ポイントに、最適なビームスポットで照射することが可能になり、非接触にて、末梢血管からの反射圧波(反射の主たる部位は腹大動脈から左右の下行大動脈分岐部付近)と駆動圧波が干渉した合成波を含む鮮明な脈波波形のデータが取得できる。具体的には、レーザーにて、マイクロ波の干渉するビームスポットSの中心を示し、位置検出素子(PSD)により、20cmから150cmまでの距離測定が可能とした場合に、このレーザーと位置検出素子(PSD)とにより最適ポイントにマイクロ波を照射することにより、図11のような鮮明な脈波波形のデータを得ることができた。
実施例2では、上述の装置を用いて、次のように心拍波形及び呼吸波形の計測を行った。すなわち、実際の測定では、レーザーと位置検出素子(PSD)により移動体検出センサーから約30cmのところの大動脈起始部に向けてマイクロ波(高周波)を照射してデータを取得した。
図11はベッドに仰向けになった成人女性(50代)の呼吸と脈波が混在したデータを示している。横軸は経過時間(0.01sec単位、例えば、「1000」は10秒を示す。)であり、縦軸は位相差を電圧(mV)で表したものである。図11で大きく(約1000mV)の変化をしている箇所(4sec〜6sec)及び(12sec〜15sec)の約2秒から3秒間は、被検者が深呼吸したために生じた呼吸成分である。なお、呼吸波形の解析を行う場合には、呼吸により位相差が大きく振れている5secと13secの箇所、位相差出力電圧値1700mV付近では位相が180度を超えて逆位相となっている。
また、小さい(約200mV)変化をしている箇所(7sec〜11sec)及び(16sec〜20sec)は、被検者に4秒ないし5秒間だけ故意に呼吸を止めてもらい無呼吸状態での波形を測定した。このデータは、約1秒の周期で繰り返される心拍数に相当する脈波成分の波形を示している。
図12は、図11において被検者に4秒ないし5秒間だけ故意に呼吸を止めてもらい無呼吸状態での波形を測定した脈波波形の部分(6sec〜10sec)だけを拡大したものであるが、この図12から約1秒周期の心拍数に相当する4個の脈波波形が存在することが明らかである。
図13は図12の一部(7.2sec〜8.4sec)をさらに拡大したものである。図13は頸部に圧変動を検出する脈波用ピックアップを当てることにより取得された頸動脈の脈波波形ときわめてよく似た波形を示している。
このことから、カテーテルにて超小型の圧力センサーを動脈血管内に挿入しなければ測定できなかった大動脈起始部の脈波波形を、本発明の装置によって、非接触にて、しかも着衣のままで測定できることが明らかになった。
図14は成人男性(60代)の脈波波形を示している。約0.7秒周期の脈波波形が4個連続に図示されている。
図15は図14の一部(9.1sec〜9.9sec)を拡大したものである。図15は頸部に圧変動を検出する脈波用ピックアップを当てることにより取得された頸動脈の脈波波形ときわめてよく似た波形を示している。
この脈波波形の1番目のピークは、左心室の収縮により血液が大動脈に送り出されると、大動脈起始部圧波が発生し、大動脈起始部の血圧が上昇する様子を表している。これが、収縮期前方成分であり、駆動圧波を検出していることになる。これ以後、血圧は減少するはずであるのに、血圧が再上昇して2番目のピークを形成している。これは収縮期後方成分であり、末梢血管からの反射圧波と駆動圧波が干渉した合成波を検出していることを示している。
図13の成人女性(50代)の大動脈起始部脈波波形と、図14の成人男性(60代)の大動脈起始部脈波波形を比較すると、60代男性では収縮期後方成分の2番目のピークが収縮期前方成分の1番目のピークより大きいことがわかる。
この収縮期前方成分(1番目)と収縮期後方成分(2番目)のピークの比はAI(Augmentation Index)といわれており、心臓からの駆動圧(ejection pressure)と、この駆動圧波が血管内を伝播し末梢から反射して戻ってきた反射圧波(reflection pressure)の比率である。このことを考慮すると、60代男性の動脈脈波は末梢からの反射波の速度が早いため、駆動圧波と反射波が干渉した合成波が生じ、2番目の合成が1番目の駆動圧波を超えることになったと考えられる。よって、この被検者は動脈硬化が進んでいると推測される。また、データを掲載しなかったが、椅子に座った状態で前方約30cmの距離から呼吸と脈波波形を測定し、同じような呼吸波形や脈波波形のデータが取得されることを確認した。
以上のように、本発明の脈波測定装置を用いるならば、着衣のままで椅子に座った状態で呼吸や脈波波形の測定が可能であることが明らかになった。また、身体を動かした場合の雑音については、周波数解析等の手法により除去可能と考えられる。
実施例2では、本発明の脈波測定装置を試作した。また、その脈波測定装置により、実際の実験によりデータを取得し、その有用性を実証的に確認した。
従来からのマイクロ波による非接触脈波計測での問題点は以下のものが挙げられる。
1)マイクロ波が照射されている部位の位置(マイクロ波の干渉するビームスポットS)が目視できないこと。
2)移動体検出センサーと測定部位との距離により、ビームスポットSの大きさが変化する問題がある。すなわち、近距離ではビームスポットSが小さいため干渉信号強度が弱く、最悪の場合、干渉領域のビームスポットSが存在しない場合は計測不可となる。また、遠距離ではビームスポットSが大きくなり、このため広いエリアの平均データとなり、鮮明な脈波波形の検出ができない。
これらの問題は、上述のように、レーザーと位置検出素子(PSD)を追加したシステムを用いることによって解決した。これにより、マイクロ波を最適ポイントに、最適なビームスポットで照射することが可能になり、非接触にて、末梢血管からの反射圧波(反射の主たる部位は腹大動脈から左右の下行大動脈分岐部付近)と駆動圧波が干渉した合成波を含む鮮明な脈波波形のデータが取得できた。
本発明の脈波測定装置を用いる脈波測定は、従来のマイクロ波による呼吸数や心拍数検出と異なり、AC成分としての心拍数を検出するのではなく、変動・角度データをDC電圧データとして抽出しており、詳細な脈波波形そのものを検出し、脈波波形の詳細な形状変化から、動脈硬化等の総合診断のデータを提供できる。さらに実施例2の方式は、着衣のままで直接の物理量(呼吸波形や脈波波形)の測定が可能であるため、医学分野のスクリーニング(screening)にも応用できる。
(実施例3)
実施例3として、本発明の脈波測定装置を用いた脈波速度(PWV)とAI(Augmentation Index)の測定を以下のように行った。
年齢とともに進行する動脈硬化(arteriosclerosis)による動脈の硬さ(stiffness)を評価する方法として、脈波速度(PWV)とAI(Augmentation Index)などがある。PWVは部分的(segmental)な動脈の硬さを、AIは全身(systemic)の動脈の硬さの評価に用いられている。従来から、高脂血等によって引き起こされる動脈硬化の度合いを判定するために、血管の硬さに相当する血管の力学的データを計測することが行われていた。特に、血管の硬さを非侵襲的に計測する方法として脈波速度(PWV)測定法が使用されて来た。このPWV測定は2点間(頸動脈−大腿動脈:cf[carotid-femoral])又は(上腕動脈−足首動脈:ba[brachial-ankle])の脈波伝播時間と2点間の距離とから、脈波速度を求めるものであり、動脈硬化の評価指標となっている。しかし、上述のPWV測定法は被検者の身体に複数の振動センサーを取り付けるなど、高価な医療機器が必要であった。そこで、実施例3ではマイクロ波の脈波データから、AIとPWV値を求めるためのアルゴリズムについて説明する。本アルゴリズムにより、1箇所での脈波データからAIとPWV値を求めることができるので、予防医学分野において病院での患者や老人のヘルスケア及び健康状態の監視やスクリーニング(screening)を着衣のままで行うことができるため、便利であると考えられる。以下、実施例3の実測結果について詳細に説明する。
図7に示すように心臓の拍動に伴い駆出波(Primary pulse)は動脈壁を末梢に向かって伝播する。また、脈波が腹大動脈から左右の総腸骨動脈(Iliac aorta)分岐点(下行大動脈分岐部)や大腿動脈などの分岐点に衝突すると反射波となり、逆方向の心臓方向に向かって伝播する。この反射波が、脈波に占める比率をAI(Augmentation Index)と呼び、AIの増加は血管の硬化が進んでいくことを意味する。
図7でSは動脈内腔の平均断面積(cm2)であり、PWV(m/sec)は頸動脈、胸部動脈、腹部動脈及び大腿動脈等での平均の脈波伝播速度を示している。
図3は、50代成人女性の2点間(L=20cm)の脈波測定結果を示している。測定では、ベッド上でセンサーから約30cm離れた位置に仰向けの状態でA点としては大動脈起始部、B点としては下行大動脈での測定を行った。横軸は経過時間、縦軸は位相差を表している。実際の測定にあたっては、被検者には大きく深呼吸した後に呼吸を止めてもらい、無呼吸の状態で数秒間測定を行った。実際には、2点間の距離が20cmと近いため、各部位(A点、B点)からの反射波形の混信を避けるためアンテナの偏波面が互いに直行するようにセットして測定した。
図3の灰色のB点(下行大動脈)での脈波が、黒色のA点(大動脈起始部:黒色)での脈波より時間が遅れているのがわかる。図3によると、A点からB点への脈波伝播時間Δtは約0.05秒であり、A点とB点との間の距離Lを20cmとすると、脈波速度(PWV)はPWV=20cm/0.05sec=4m/secと算出される。
なお、脈波速度(PWV)は下記の式(101)で求めることができる。
PWV=L/Δt ・・・(101)
ここで、Δtは脈波がA点からB点へ距離Lだけ伝播する伝播時間である。
図16は、図3において、大動脈起始部と下行大動脈波波形部分(7sec〜9sec)を拡大したものである。図16で黒色の大動脈起始部での脈波に注目すると、1番目のピークは心臓からの駆出波(Primary pulse)であり、2番目のピークは下行大動脈分岐部からの反射波、3番目のピークはハーモニックス(Harmonics)を表している。ここで、2番目のピークの下行大動脈分岐部からの反射波と3番目のピークのハーモニックス(Harmonics)に注目すると、黒色の大動脈起始部脈波波形の方が灰色の下行大動脈波形よりも反射波の到達時間が遅れていることがわかる。
この一見矛盾するように見える現象を説明するため、図17を使って以下詳細に説明する。
図17は二つのマイクロ波微小変位センサー(Sensor1及びSensor2)が距離L1だけ離して配置され、Sensor2から下行大動脈分岐部までをL2と仮定した位置関係を示している。図17から明らかなように、1番目のピークである心臓からの駆出波#1はL1を伝播するt1時間だけ遅れてSensor2にて検出される。その後、距離L2にある下行大動脈分岐部からの反射#2及びそのハーモニックス(Harmonics)#3として各センサーに到達する。Sensor2はSensor1よりも下行大動脈分岐部がL1だけ近い距離にあるため、反射波#2、#3がセンサーに到達する時間が短くなることは明らかである。上記の理由により、2番目のピークと3番目のピークにおいて、黒色の大動脈起始部脈波波形の方が灰色の下行大動脈波形よりも反射波の到達時間が遅れていることの説明が可能である。
なおSensor2の下行大動脈分岐部からの反射波#2である2番目のピークが消失しているように見えるのは、Sensor2と下行大動脈分岐部が近いため1番目のピークとの合成波となり、明瞭に識別できない状態である。このことは、1番目のピークのパルス幅が広くなっていることからも理解できる。
上述の考え方の妥当性を調べるために、図16の黒色の大動脈起始部の脈波データだけから脈波速度の算出を行ってみると、図16から1番目のピークと2番目のピークとの時間差Δtが0.15secと求まる。この時間差は大動脈起始部と下行大動脈分岐部までの往復距離2×(L1+L2)を伝播するのに要した時間である。ここで、大動脈起始部と下行大動脈分岐部までの距離Lを0.39mと仮定すると、往復距離2Lは0.78mとなる。よって、(101)式から、PWVは0.78/0.15〜5.2m/secと求まる。この値は2点間(A,B)の時間差から求めた値(4m/sec)より大きな値になっている。図7から腹部動脈のPWVは7m/sec以上になるため、5.2m/secは大動脈起始部や腹部動脈の平均値としてのPWVの速度を示していると考えられる。
次に、AI及びPWVを算出する。図18は50代成人女性の大動脈起始部の脈波波形を示している。
図19は図18の一部(7.2sec〜8.4sec)を拡大したものである。
図19から、1番目のピーク#1と2番目のピーク#2の時間差Δtが0.12secと求まる。この時間差は大動脈起始部と下行大動脈分岐部までの往復距離2×(L1+L2)を伝播するのに要した時間である。ここで、大動脈起始部と下行大動脈分岐部までの距離Lを0.39mと仮定すると、往復距離2Lは0.78mと仮定できる。よって、(101)式から、脈波速度は0.78/0.12から6.5m/secと求まる。
図20は60代成人男性の大動脈起始部の脈波波形を示している。
図20の一部(9.1sec〜9.9sec)を拡大した図21から#1点と#2点での脈波伝播時間Δtは約0.127秒であり、往復距離2Lが0.78mとすると、(1)式から、脈波速度(PWV)はV=0.78m/0.127sec=6.1m/secと算出される。
さらに、図21の脈波波形で、収縮期前方成分のP1(1番目)と収縮期後方成分P2(2番目)のピークの比AIは以下の式で求められる。
AI=ΔP/PP ・・・(102)
ここで、ΔPは(P2−P1)であり、PPはP1とP2の最大値で表される。
AI(Augmentation Index)は心臓からの駆動圧(ejection pressure)と、この駆動圧波が血管内を伝播し末梢から反射して戻ってきた反射圧波(reflection pressure)の比率である。このことを考慮すると、60代男性のAI値は(102)式から、
AI=(175−110)/175=37.7%
と求められる。
図19の成人女性(50代)のAI値も同様にして、(102)式から、
AI=(190−220)/220=−13.6%
と求められる。
従来の脈波速度PWVの測定では、測定部位A、B、2点間に2台の測定器をセットして、脈波波形の伝播時間差を計測していた。このため、2台の測定器の特性を同じにし、測定器の間隔や方向などの設定に注意しなければならなかった。
本発明の脈波測定装置により動脈の脈波波形を非接触にて検出することに初めて成功し、心臓からの駆出波と末梢動脈からの反射波との合成波が時系列により、どのように変化するかの簡単なモデルから脈波が下行大動脈分岐部に衝突する時間を求めることができた。その結果、2点間のデータではなく、1箇所の脈波データの反射波の到達時間から、PWVを求めることができた。従来、大動脈の脈波波形が直接検出できなかったため、現在まで成功例はなかった。もちろん、同時にAI値についても算出することができる。
本発明の脈波測定装置の測定アルゴリズムを用いるならば、1箇所の脈波データからAIとPWVの両方の値が求めることができることが利点であると考えられる。
(実施例4)
図22には、実施例4のために用いた脈波計測システムの概要を示す。図22で示すように、周波数(f1,f2)の2組のマイクロ波微小変位センサー40a及び40bを距離Lだけ離れた測定部位(例えば心臓又は後頸骨動脈、及び足首動脈等)に照射した場合、脈波が距離Lを伝播する脈波速度(PWV)は下記の式(101)で求めることができる。
V=L/Δt ・・・(101)
ここで、Δtは脈波がA点からB点へ距離Lだけ伝播する時間である。
図24は、マイクロ波微小変位センサー40a及び40bにより、被測定部の位置A点及びB点を測定している様子を示す。なお、マイクロ波微小変位センサー40a及び40bは、図1に示すアンテナ12及び22並びに点線Cの範囲の装置と同様の構成とした。
図22に示すように、2組の2周波CWモジュールの配置された位置A点及びB点において、測定された位相差データ(脈波波形)を、マイクロ波微小変位センサー40a及び40bのアナログデジタルコンバータ(ADC)でAD変換した後、情報処理装置(1)に入力する。情報処理装置ではA点及びB点での脈波波形の遅延時間Δtを求めることができる。
図23は、50代成人女性の2点間(L=57cm)の脈波測定結果を示している。測定では、ベッド上で移動体検出センサーから約30cm離れた位置に仰向けの状態でA点としては大動脈起始部、B点としては大腿動脈での測定を行った。横軸は経過時間、縦軸は位相差を表している。実際の測定にあたっては、被検者には大きく深呼吸した後に呼吸を止めてもらい、無呼吸の状態で数秒間測定を行い、さらに再び、深呼吸と呼吸停止を繰り替えして測定を行った。図23の無呼吸状態でのデータに注目すると、灰色のB点(大腿動脈)での脈波が、黒色のA点(大動脈起始部:黒色)での脈波より時間が遅れているのがわかる。すなわち、A点とB点とでは、同じピークが時間的にずれて検出されている。
図24及び図25は、図23において無呼吸状態にて測定した、大動脈起始部と大腿動脈の脈波波形部分(5sec〜10sec及び15sec〜20sec)を拡大したものである。図24及び図25から、A点からB点への脈波伝播時間Δtは約0.145秒であり、A点とB点との間の距離Lが約57cmとすると、(101)式から、脈波速度(PWV)は、
PWV=57cm/0.145sec=393cm/sec
と算出される。
図26は50代成人女性の2点間(L=20cm)、大動脈起始部(A点)及び下行大動脈(B点)での脈波波形を示している。実際には、2点間の距離が20cmと近いため、各部位(A点、B点)からの反射波形の混信を避けるためアンテナの偏波面が互いに直行するようにセットして測定した。
図からA点とB点での脈波伝播時間Δtは約0.05秒であり、A、B間の距離Lが約20cmとすると、(101)式から、脈波速度(PWV)は、
V=20cm/0.05sec=400cm/sec
と算出される。
実施例4では、2周波CW近距離測定アルゴリズムの応用として、脈波速度(PWV)センサーについて説明した。また、実際の実験によりデータを取得し、その有用性を実証的に確認した。
従来のPWV測定では、圧力センサーを頸動脈と大腿動脈間(cf:carotid-femoral)又は、上腕動脈と足首動脈間(ba:brachial-ankle)に圧着させて脈波伝播時間を計測していた。しかし、欠点として、測定部位を露出する必要があり、波形を記録するのに多少の技術を要する。また、計測部位に末梢動脈を含むため、測定部位A、B、2点間の脈波波形が異なり、PWV伝播時間差の算出に工夫が必要であり、高精度での計測が困難であった。さらに、末梢動脈を含むため、大動脈硬化を直接反映しておらず、大動脈と末梢動脈の平均値としての情報しか取得できなかった。
本発明の脈波測定装置を用いる脈波測定では、アンテナの偏波面が互いに直行するように設定すれば、測定部位からの反射波の混信を避けることができる。このことにより、従来のPWV計測器と異なり比較的近距離(L=20cm)での計測が可能となり、大動脈(大動脈起始部(A点)と下行大動脈(B(B点))部位等での計測から、大動脈硬化の直接情報を取得することができる。また、非接触でかつ、着衣のままでの測定が可能なため、ヘルスケア及び健康状態の監視などのスクリーニングにも応用できる。