JP5808904B2 - プロヒビチン2とPGC1αとの結合を用いた脂肪分化調節剤 - Google Patents

プロヒビチン2とPGC1αとの結合を用いた脂肪分化調節剤 Download PDF

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本発明は、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を調節する物質を含む、脂肪分化調節剤に関する。さらに本発明は、プロヒビチン2(PHB2)がパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)に結合することに基づいた薬剤のスクリーニング方法に関する。
プロヒビチン(以下、PHBとも表記する)は、細胞増殖抑制因子として最初に哺乳動物で単離された。PHBは酵母から哺乳動物に至るまで高度に保存されたタンパク質である。PHBタンパク質には、アミノ酸の一次構造が類似した2種類のタンパク質PHB1及びPHB2が存在し、互いに複合体を形成し、ミトコンドリアの内膜に局在することが知られている。酵母PHBタンパク質に関しては、細胞周期制御や新規に合成されたミトコンドリアタンパク質の安定化を担うシャペロン様の機能を果たすことが明らかにされている。また、線虫では、PHB1の老化や初期発生への関与が報告されている。一方、哺乳動物では、PHB1及びPHB2による転写制御等の多様な機能が示唆されている。
特許文献1では、エストロゲンレセプター(ER)の発現調節レプレッサーとして働く物質として、PHB2の相同タンパク質であるrepressor of estrogen receptor activity (REA)が同定され、エストロゲンレセプター(ER)とREAとの相互作用による発現調節を操作する物質のスクリーニング方法が記載されている。
特許文献2では、PHB2がエストロゲンレセプター(ER)存在下でエストラジオール(E2)依存的にミトコンドリアから核内に移動し、ERαなどの核レセプターを発現している細胞においてPHB2遺伝子調節剤をスクリーニングする方法が記載されている。特許文献2の実施例13ではPHB2タンパク質の転写抑制活性の検討が記載されている。具体的には、HeLa細胞に、ERE−Luc遺伝子、各々発現ベクターに挿入したERα遺伝子、PHB−2遺伝子、PGC−1α遺伝子を導入し、さらにコントロールとしてCMVプロモーターを持つウミシイタケルシフェラーゼを同時に導入し、これを内部コントロールとしてルシフェラーゼ活性を測定したことが記載されている。また、特許文献2の図14には、各遺伝子を導入したHeLa細胞における相対的ルシフェラーゼ活性した測定の結果が示されている。特許文献2の実施例13には、ERα遺伝子及びERαのコアクチベーターであるPGC−1α遺伝子をHeLa細胞に導入すると、転写活性が増強し、特にE2存在下では転写活性がさらに増強したこと、これにPHB2タンパク質を共発現させると、転写活性の抑制効果が検出できたことから、PHB2タンパク質はERαのコアクチベーターであるPGC−1αタンパク質の転写調節に抑制的に働くことが記載されている。上記の通り、特許文献2には、PHB2タンパク質はPGC−1αタンパク質の転写調節に抑制的に働くことが教示されているものの、PHB2タンパク質がどのような作用機構によってPGC−1αタンパク質の転写調節に抑制的に働くことについては何ら教示がない。即ち、特許文献2には、PHB2とPGC1αとが相互作用又は結合するとことについては何ら示唆されていない。なお、転写は、一般的には非常に複雑な機構により制御されているため、仮にあるタンパク質が別のタンパク質の転写調節に抑制的に働くことが明らかになったとしても、そのような転写調節の抑制がどのような作用機構によってなされるかについては更なる解析を行う必要がある。従って、転写調節を抑制するという事実が判明したとしても、当該タンパク質同士が直接相互作用したり、直接結合しているということを予測させるものではない。
非特許文献1では、REAノックアウトマウスでREAの発現量が半減し、有意な体重増加を示したことから、REAが肥満に関連していることが示されている。一方、非特許文献2では、PPARγノックアウトマウスで、PPARγによる転写される遺伝子の発現低下により、脂肪細胞の増加が抑制されることが記載されている。また、非特許文献3では、PPARγのアンタゴニストにより活性を抑制することで肥満を改善できることが記載されている。
国際公開WO00/26232号 国際公開WO2007/061022号
Molecular Cellular Biology, Vol.25, No.5, pp1989-1999(2005) J Biol Chem, Vol.276, No.44, pp41245-41254 (2001) J Clin Invest, Vol.108, No.7, pp1001-1013 (2001)
エストロゲンの生理作用は、性、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症に関係することが報告されている。特に、エストロゲンの分泌が低下する閉経後女性の肥満は明らかである。また、エストロゲンを合成できない男性患者においても、脂肪肝などのメタボリックシンドロームが顕著である。しかし、それらの作用機序は明らかではない。また、PHB2がエストロゲンレセプター存在下においてエストラジオール依存的にミトコンドリアと核をシャトルすること、核内においてエストロゲンレセプター活性を抑制することが知られているが、PHB2の核における相互作用タンパク質は、エストロゲンレセプター以外にはあまり明らかにされていない。さらに、エストロゲンレセプターの転写調節作用のみでは、肥満抑制を説明することはできない。
本発明は、PHB2が結合するタンパク質を新たに同定することによって、脂肪分化の調節機序を解明し、これに基づいて、新規な脂肪分化調節剤、並びに脂肪分化調節剤の新規なスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、PHB2の核における相互作用タンパク質が、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)であることを同定した。そして、本発明者らは、脂肪分化を促進する作用を有する転写因子PPARγの活性が、PHB2とPGC1αとの結合を介して抑制されるかどうかを検討した結果、PHB2はPGC1αと直接結合し、その結果、PPARγの転写活性が抑制されることを明らかにした。さらに、本発明者らは、脂肪前駆細胞においてミトコンドリアに内在するPHB2をエストラジオールが核へ移行させること、またエストラジオールが脂肪前駆細胞の脂肪分化を抑制することを明らかにした。さらに本発明者らは、エストラジオール非存在下においても核に局在するPHB2変異体が、脂肪前駆細胞の脂肪分化を抑制することを明らかにした。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を調節する物質を含む、脂肪分化調節剤。
(2) プロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体を含む、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性調節剤。
(3) プロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体を含む、脂肪分化調節剤。
(4) プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体。
(5) プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を促進又は阻害する被験物質を選択することを含む、PHB2とPGC1αとの複合体の形成の調節剤のスクリーニング方法。
(6) プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)のコアクチベーター活性の抑制を調節する被験物質を選択することを含む、脂肪分化調節剤のスクリーニング方法。
(7) プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の転写活性の抑制を調節する被験物質を選択することを含む、脂肪分化調節剤のスクリーニング方法。
本発明によれば、脂肪分化調節剤のスクリーニング方法を提供することができる。さらに本発明によれば、脂肪分化調節剤、並びにパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性調節剤を提供することができる。
図1Aは、3T3-L1細胞を脂肪細胞に分化させるための培地を示す。図1Bは、分化誘導後0日目と7日目の細胞を示す。図1Cは、分化誘導後0、2、4、7、9日目の細胞における分化マーカーであるPPARγおよびaP2(FABP4)の遺伝子発現をRT-PCRで調べた結果を示す。図1Dは、3T3-L1細胞は内在性にエストロゲンレセプターα(ERα)およびPPARγコアクチベータ1α(PGC1α)を発現することを3T3-L1細胞から抽出したRNAを用いたRT-PCRで確認した結果を示す。図1E は、3T3-L1細胞の分化培地に17βエストラジオール(E2)およびE2阻害剤であるICI 182,780(ICI)を添加し、分化への影響をadipogenesis assayで測定した結果を示す。図1Fは、免疫染色可能な抗PHB2抗体を用いて細胞免疫染色を行った結果を示す。 図2Aは、PPAR反応性エレメント(PPRE)をチミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するルシフェラーゼ(luciferase)レポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)を用いて、PHB2によるPPARγの転写活性の抑制を調べた結果を示す。図2B は、GAL4-DBDとPGC1αの融合タンパク質(DBD-PGC1α)を作製し、GAL4の認識配列であるUAS (upstream activator sequence) 配列を上流に有するルシフェラーゼレポーター遺伝子(GAL4-Luc)を用いて、転写活性解析を行った結果を示す。図2C は、GST-PHB2とPGC1α-mycを試験管内で混和した後、グルタチオンビーズでGST-PHB2複合体を精製し、抗myc抗体を用いてウエスタンブロットを行うことにより、このGST-PHB2複合体中にPGC1α-mycが存在するか否かを検討した結果を示す。図2Dは、DBD-PGC1αとPHB2のカルボキシル末端にFLAGタグを付加した融合タンパク質(PHB2-FLAG)をHeLa細胞に共発現させた細胞抽出液を調整し、抗DBD抗体を用いて免疫沈降実験を行った結果を示す。図2Eは、DBD-PGC1α(1-600)とPHB2-FLAGをHeLa細胞に共発現させた細胞抽出液を、抗FLAG抗体で免疫沈降実験を行った結果を示す。 図3Aは、エストロゲンによる内在性PHB2のミトコンドリアから核への移行が、ERαに依存するか否かを調べた結果を示す。図3Bは、E2投与による内在性PHB2の核への移行が、PPARγやPGC1αの活性を調節するかを検討した結果を示す。図3Cは、DBD-PGC1αとGAL4-Lucに、ERαを共発現させた実験における、E2存在下でDBD-PGC1αの転写活性の抑制を調べた結果を示す。 図4A は、PHB2野生型とFLAGタグとの融合体(PHB2-FLAG)と、PHB2CとFLAGタグの融合体(PHB2C-FLAG)を3T3-L1細胞に導入し、抗FLAG抗体による細胞免疫染色を行った結果を示す。図4Bは、レンチウイルスで、GFP、PHB2、PHB2C、PGC1αを導入した3T3-L1細胞を用いて脂肪分化誘導を行い、adipogenesis assayを行った結果を示す。図4Cは、分化後7日目の細胞からRNAを抽出し、定量PCRにて、遺伝子発現量を測定した結果を示す。 図5Aは、生後10週の卵巣摘出したC57BL6J雌マウスをE2含有飼料またはE2不含飼料にて飼育し、体重の経時変化を比較した結果を示す。図5Bは、60日間飼育後のマウスを解剖後に子宮重量を計測した結果を示す。図5Cは、60日間飼育後のマウスをX線CTを用いて脛骨の海綿骨密度を計測した結果を示す。図5Dは、CTによる内臓脂肪(VAT)、皮下脂肪(SAT)量を計測した結果を示す。図5Eは、各群のマウスを解剖後、卵巣周囲脂肪の組織切片を作成し、脂肪細胞の直径を比較した結果を示す。図5Fは、脂肪組織において、内在性PHB2の細胞内局在を組織免疫染色法にて確認した結果を示す。 図6は、PHB2の肥満抑制における分子メカニズムのモデルを示す。 図7Aは、PPARαとPGC1αの存在下において、PHB2によるPPRE-TK-Lucをレポーター遺伝子としたPPARαの転写活性の抑制を測定した結果を示す。図7Bは、ERαとPGC1αの存在下において、PHB2によるエストロゲン応答性エレメント(ERE)を有するレポーター遺伝子ERE-LucにおけるERαの転写活性の抑制を測定した結果を示す。図7Cは、PHB2の複数の欠失変異体を作製し、GAL4-DBD-PGC1αとGAL4-Lucを用いた系で、それらの活性を検討した結果を示す。 図8は、脂肪分化を促進する転写因子であるPPARγの転写活性に対する各種コアクチベータによる転写活性の促進を検討した結果、並びにこれらのコアクチベータ存在下でのPPARγの転写活性をPHB2が抑制するかを検討した結果を示す。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(1)脂肪分化調節剤のスクリーニング方法
本発明においては、PHB2の核における相互作用タンパク質が、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)であることが同定された。そして、PHB2はPGC1αと直接結合し、PPARγの転写活性を抑制することを明らかにされた。さらに、脂肪前駆細胞においてミトコンドリアに内在するPHB2はエストラジオールにより核へ移行されること、またエストラジオールが脂肪前駆細胞の脂肪分化を抑制することが明らかにされた。さらに、エストラジオール非存在下においても核に局在するPHB2変異体が、脂肪前駆細胞の脂肪分化を抑制することも明らかにされた。
ヒトPHB2遺伝子は、NCBI登録番号NM_007273としてNCBIに登録されている。ヒトPHB2タンパク質は、NCBI登録番号NP_009204としてNCBIに登録されている。ヒトPHB2遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示し、ヒトPHB2タンパク質のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。ヒト以外の生物由来のPHB2遺伝子又はPHB2タンパク質としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来(PHB2_YEAST(swissprot:accession P50085))、線虫(Caenorhabditis elegans)由来(PHB2_CAEEL(swissprot:accession P50093))、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来(ATPHB2(PROHIBITIN 2)[Arabidopsis thaliana](NCBI登録番号 NP_973755))、アフリカツメガエル(Xenopus tropicalis)由来(prohibitin 2[Xenopus tropicalis](NCBI登録番号 NP_001016551))、マウス由来(PHB2_MOUSE(swissprot:accession 035129))及びラット由来(PHB2_RAT(swissprot:accession Q5XIH7))のものが挙げられる。本発明では、PHB2遺伝子には、上述した登録番号に記載の塩基配列から成るDNAに限らず、これらDNAにおいて、1又は複数(例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個)の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、且つPHB2タンパク質機能を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。また、PHB2遺伝子には、上述した登録番号に記載の塩基配列から成るDNAに90%以上、好ましくは95%以上、97%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、且つPHB2タンパク質機能を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。あるいは、上述した登録番号に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに限らず、これらアミノ酸配列において、1又は複数(例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つPHB2タンパク質機能を有するタンパク質をコードするDNAもPHB2遺伝子に含まれる。
ヒトパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)遺伝子は、NCBI登録番号NM_013261としてNCBIに登録されている。ヒトPGC1αタンパク質は、NCBI登録番号NP_037393 としてNCBIに登録されている。
パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)遺伝子は、NCBI登録番号NM_015869 としてNCBIに登録されている。ヒトPPARγタンパク質は、NCBI登録番号NP_056953としてNCBIに登録されている。
上記したPHB2に関して新たに見出された機能に基づいて、本発明を説明する。
本発明においては、プロヒビチン2(PHB2)がパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)と結合することが初めて同定された。即ち、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体は本発明により初めて同定されたものであり、本発明の範囲内に含まれる。
本発明では、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を促進又は阻害する被験物質を選択することによって、PHB2とPGC1αとの複合体の形成の調節剤をスクリーニングすることができる。即ち、本発明においては、被験物質の存在下においてプロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を分析し、上記複合体の形成を促進又は阻害する被験物質を、PHB2とPGC1αとの複合体の形成の調節剤として選択することができる。
さらに本発明によれば、被験物質の存在下において、(a)プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との結合、(b)プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)のコアクチベーター活性の抑制、(c)プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の転写活性の抑制、又は(d)エストラジオールによるプロヒビチン2(PHB2)の核への移行の何れかを測定し、上記(a)〜(d)の何れかを変化させる被験物質を選択することによって脂肪分化調節剤をスクリーニング方法することができる。
本発明の一例では、プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)のコアクチベーター活性の抑制を調節する被験物質を選択することによって脂肪分化調節剤をスクリーニングしてもよいし、プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の転写活性の抑制を調節する被験物質を選択することによって脂肪分化調節剤をスクリーニングしてもよい。
本発明においては、(a)PHB2とPGC1αとの結合、(b)PHB2によるPGC1αのコアクチベーター活性の抑制、(c)PHB2によるPPARγの転写活性の抑制、又は(d)エストラジオールによるPHB2の核への移行の何れか1以上を促進する物質は、脂肪分化抑制剤の候補物質として選択することができる。
反対に、(a)PHB2とPGC1αとの結合、(b)PHB2によるPGC1αのコアクチベーター活性の抑制、(c)PHB2によるPPARγの転写活性の抑制、又は(d)エストラジオールによるPHB2の核への移行の何れか1以上を抑制する物質は、脂肪分化促進剤の候補物質として選択することができる。
上記スクリーニング方法は、無細胞系又は細胞系の何れでも行うことができる。無細胞系で行う場合には、例えば、被験物質の存在下及び非存在下において、PHB2とPGC1αとを相互作用させて複合体を形成させ、被験物質の非存在下の場合と比較して、被験物質の存在下において、上記複合体の形成量に差が生じるような被験物質を、上記複合体の形成を促進又は阻害する物質として選択することができる。また、細胞系で行う場合には、例えば、PHB2遺伝子発現細胞を用いることができる。PHB2遺伝子を発現する細胞であればいずれのものでもよいが、例えばHeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、MCF−7細胞(ヒト乳癌由来)、U−2OS細胞(ヒト骨肉腫由来)及びヒト線維芽細胞等のヒト由来の細胞系、並びにB6.1細胞(マウスミエローマ由来)、マウス胚性幹細胞及びSWISS 3T3細胞(マウス線維芽細胞由来)が挙げられる。あるいは、PHB2遺伝子を導入した(又は過剰発現させた)細胞もPHB2遺伝子発現細胞に含まれる。例えば、PCR産物やベクターに含まれるPHB2遺伝子を、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等により細胞へ導入することができる。本発明においては、上記したPHB2遺伝子発現細胞に、さらにPGC1αを発現させた細胞を用いることができる。例えば、PCR産物やベクターに含まれるPGC1α遺伝子を、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、ウイルスベクターを用いた方法等により細胞へ導入することができる。上記細胞において、PHB2遺伝子及びPGC1α遺伝子が発現していることの確認方法としては、mRNAレベルでは、例えばPHB2遺伝子及びPGC1α遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT−PCR、定量PCRやノーザンブロッティングによって確認する方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えばPHB2タンパク質及びPGC1αタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッテイング等の免疫学的方法を用いて、PHB2遺伝子及びPGC1α遺伝子の発現を確認することができる。
本発明において用いることができる被験物質としては、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、合成化合物、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、植物抽出物、動物組織抽出物等が挙げられる。また、被験物質は、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーなどでもよい。被験物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーを用いることもできる。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、(a)プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との結合、(b)プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)のコアクチベーター活性の抑制、(c)プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の転写活性の抑制、又は(d)エストラジオールによるプロヒビチン2(PHB2)の核への移行の何れかを指標として、被験物質のスクリーニングを行うことができる。
(a):
プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との結合を指標とする場合には、上記した通り、被験物質の存在下及び非存在下において、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を分析し、上記複合体の形成を促進又は阻害する被験物質が選択すればよい。
(b):
プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)のコアクチベーター活性の抑制を指標とする場合には、被験物質の存在下及び非存在下において、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)を接触させるが、さらにこの系に、PGC1αのコアクチベーター活性を測定できる測定系を含めておく。PGC1αのコアクチベーター活性を測定できる測定系としては、PPAR反応性エレメント(PPRE)をチミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するルシフェラーゼ(luciferase)レポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)、PPARγ遺伝子、PHB2遺伝子及びPGC1αを共発現させた系、あるいはGAL4-DBDとPGC1αの融合タンパク質(DBD-PGC1α)と、GAL4の認識配列であるUAS (upstream activator sequence) 配列を上流に有するルシフェラーゼレポーター遺伝子(GAL4-Luc)と、PHB2遺伝子とを共発現させた系などを挙げることができる。上記した系において、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現量を指標として、PGC1αのコアクチベーター活性の抑制を測定することができる。
(c):
プロヒビチン2(PHB2)によるパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の転写活性の抑制を指標とする場合には、被験物質の存在下及び非存在下において、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)を接触させるが、さらにこの系に、PPARγの転写活性の抑制を測定できる測定系を含めておく。PPARγの転写活性の抑制を測定できる測定系としては、PPAR反応性エレメント(PPRE)をチミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するルシフェラーゼ(luciferase)レポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)、PPARγ遺伝子、PHB2遺伝子及びPGC1αを共発現させた系などを挙げることができる。上記した系において、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現量を指標として、PPARγの転写活性の抑制を測定することができる。
(d):
エストラジオールによるプロヒビチン2(PHB2)の核への移行を指標とする場合には、細胞内において、被験物質の存在下及び非存在下において、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)を接触させる。その後、細胞内におけるプロヒビチン2(PHB2)の局在を、例えば、細胞免疫染色などにより分析することによりスクリーニングを行うことができる。
被験物質の非存在下の場合と比べて、被験物質の存在下において、上記指標が有意に変化した場合には、当該被験物質を、PHB2活性調節剤、又は脂肪分化調節剤であると判定することができる。
なお、上記した本発明のスクリーニング方法により選択されるPHB2活性調節剤、又は脂肪分化調節剤も本発明の範囲内に含まれるものとする。
(2)脂肪分化調節剤、及びPGC1α活性調節剤
本発明によれば、プロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を調節する物質を含む、脂肪分化調節剤が提供される。例えば、PHB2とPGC1αとの複合体の形成を促進する物質は、脂肪分化抑制剤として有用であり、PHB2とPGC1αとの複合体の形成を抑制する物質は、脂肪分化促進剤として有用である。本発明で用いるプロヒビチン2(PHB2)とパーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を調節する物質としては、上記した本発明のスクリーニング方法により選択される物質を用いることもできる。
さらに、本発明によれば、プロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体を含む、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性調節剤、並びにプロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体を含む、脂肪分化調節剤が提供される。
プロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体としては、プロヒビチン2(PHB2)のアミノ酸配列のうちの一部のアミノ酸配列からなり、PGC1α活性調節作用又は脂肪分化調節作用を有するタンパク質、「PHB2」又は「PHB2の部分断片」のアミノ酸配列において、1又は複数(例えば、1〜30個、好ましくは1〜20個、更に好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成り、かつPGC1α活性調節作用又は脂肪分化調節作用を有するタンパク質を挙げることができる。本発明で用いるプロヒビチン2(PHB2)の部分断片又は変異体は、好ましくは、エストラジオール非存在下においても核に局在化するタンパク質である。なお、所定のアミノ酸配列に所望のアミノ酸変異を導入する方法は当業者に公知であり、例えば、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR法など通常の遺伝子組み換え技術により、所望の変異を有するタンパク質は調製することができる。
パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性抑制剤及び脂肪分化阻害剤としては、PHB2のアミノ酸配列からミコトンドリア局在化配列を除外したアミノ酸配列からなるPHB2の部分断片を用いることができる。一例としては、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性抑制剤及び脂肪分化阻害剤としては、PHB2のアミノ酸番号51−299、アミノ酸番号51−150、又はアミノ酸番号201−299からなるPHB2の部分断片を用いることができる。また、PGC1α活性促進剤及び脂肪分化促進剤としては、PHB2のアミノ酸番号51−250、アミノ酸番号51−200、又はアミノ酸番号101−250からなるPHB2の部分断片を用いることができる。
本発明のPGC1α活性調節剤及び脂肪分化調節剤は、ヒトを含む任意の哺乳動物に投与することができるが、好ましくはヒトに投与される。 本発明のPGC1α活性調節剤及び脂肪分化調節剤は、例えば、メタボリックシンドロームの改善又は治療、肥満の改善又は治療のために使用することができ、さらにPGC1α活性を調節することにより老化抑制のために使用したり、あるいは脂肪肝の改善又は治療のために使用することができる。
本発明のPGC1α活性調節剤及び脂肪分化調節剤の製剤形態は特に限定されず、経口投与又は非経口投与用の製剤形態の中から治療や予防の目的に最も適した適宜の形態のものを選択することが可能である。経口投与に適した製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、チュアブル剤などを挙げることができ、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射など)、点滴剤、吸入剤、噴霧剤、坐剤、ゲル剤若しくは軟膏剤などの形態の経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤若しくはテープ剤などの形態の経皮吸収剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
経口投与に適当な液体製剤、例えば、溶液剤、乳剤、又はシロップ剤などは、水、ソルビット、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを用いて製造することができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などの固体製剤の製造には、乳糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いることができる。
非経口投与に適当な注射用又は点滴用の製剤は、好ましくは、受容者の血液と等張な滅菌水性媒体に有効成分である上記の物質を溶解又は懸濁状態で含んでいる。例えば、注射剤の場合、塩溶液、又は塩水と他の溶液との混合物からなる水性媒体などを用いて溶液を調製することができる。非経口投与用製剤には、グリコール類、油類、フレーバー類、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種又は2種以上の補助成分を添加することもできる。
本発明のPGC1α活性調節剤及び脂肪分化調節剤の投与量及び投与回数は、症状の種類や重篤度、投与形態、患者の年齢や体重などの条件、合併症の有無などの種々の要因により適宜設定することができるが、一般的には、有効成分の投与量として一日当たり10μg/kgから10mg/kg程度である。
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)は、脂肪細胞の分化研究に適した細胞系である。デキサメタゾン、IBMXやインスリンなどの薬剤を添加した分化培地を用いることにより、3T3-L1細胞は脂肪細胞に分化する(図1A)。誘導後7日ではoil red Oで赤く染色される中性脂肪を含んだ脂肪滴が細胞質に多く出現する(図1B)。
分化誘導後、0、2、4、7、9日に細胞を回収しRNAを抽出後、RT-PCRに供した。RT-PCRの実験条件は以下の通りである。
RT-PCRは、先ず1μgのtotal RNAからSuperscriptIIを用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。次に、このcDNAを鋳型としてrTaq polymerase (TAKARA)を用いてPCRを行った。PCRのプライマーと条件は以下に示す通りである。
マウスPPARγ遺伝子に対しては、5'-AAG AGC TGA CCC AAT GGT TG-3' (配列番号3)および5'-TCC ATA GTG GAA GCC TGA TGC-3'(配列番号4)のプライマーを用い、94℃、30 sec、55℃、30 sec、74℃、1 min の反応を30回行った。
adipocyte-specific fatty acid binding protein (aP2) 遺伝子に対しては、5'-ATG TGT GAT GCC TTT GTG GGA-3'(配列番号5)および 5'-TGC CCT TTC ATA AAC TCT TGT-3' (配列番号6)のプライマーを用い、94℃、30 sec、55℃、30 sec、74℃、1 min の反応を20回行った。
マウスGAPDH 遺伝子の増幅には、5'-GCC CAT CAC CAT CTT CCA G-3' (配列番号7)および5'-TGA GCC CTT CCA CAA TGC C-3' (配列番号8)のプライマーを用い、94℃、30 sec、55℃、30 sec、74℃、1 min の反応を25回行った。
また、マウスERα遺伝子の増幅には、5'-ACC GTG TCC TGG ACA AGA TC-3' (配列番号9)および5'-GTC ATA GAG GGG CAC AAC GT-3' (配列番号10)のプライマーを用い、94℃、30 sec、55℃、30 sec、74℃、1 min の反応を40回行った。
さらに、マウスPGC1α遺伝子の増幅には、5'- gaa agg gcc aaa cag aga ga -3' (配列番号11)および5'- gta aat cac acg gcg ctc tt -3' (配列番号12)のプライマーを用い、94℃、30 sec、55℃、30 sec、74℃、1 min の反応を40回行った。
これらの反応産物を3%アガロースゲルにて電気泳動を行い、産物を解析した。分化が進むに伴い、分化マーカーであるPPARγおよびaP2(FABP4)の遺伝子発現は増加した(図1C)。GAPDHはコントロールである。3T3-L1細胞は、内在性にエストロゲンレセプターα(ERα)およびPPARγコアクチベータ1α(PGC1α)を発現することを、3T3-L1細胞から抽出したRNAを用いたRT-PCRで確認した(図1D)。
脂肪細胞に分化した3T3-L1細胞は、oil red O染色後、これを抽出し定量することで、脂肪分化の程度を測定することが可能である(adipogenesis assay)。3T3-L1細胞の分化培地に17βエストラジオール(E2)およびE2阻害剤であるICI 182,780(ICI)を添加し、分化への影響を検討した。
Adipogenesis assayは、Adipogenesis Assay Kit(Chemicon)のプロトコールに従い実施した。3T3-L1細胞を24穴プレートに播き、脂肪分化培地にて7日間培養後、PBSで洗浄後、0.36% oil red O染色液にて15分染色し、洗浄液で3回洗浄後、抽出液で中性脂肪を染色したoil red Oを抽出した。これを520 nmで吸光度を測定し、細胞に蓄積した中性脂肪の量を定量した(n=4)。
その結果、E2の添加により濃度依存的に脂肪分化が阻害された。一方、ICIの添加では分化を阻害せず、さらにICIの添加はE2による分化阻害を抑制した(図1E)。以上から、エストロゲンは脂肪細胞の分化抑制作用を有することが示された。なお、統計学的有意差をT-testにて検討した。
免疫染色可能な抗PHB2抗体を用いて細胞免疫染色を行った。この免疫染色可能な抗PHB2抗体は、大腸菌で作成したGST-PHB2タンパク質を抗原としてウサギに免疫して作成した。細胞免疫染色は以下の通り行った。3T3-L1脂肪前駆細胞を35-mm poly-L-lysine-coated glass-bottomed dishes (Matsunami Glass Ind.)に播き、10-8 M ICIまたは10-7 M E2を添加した細胞培養液に2時間培養後、固定液(4% PFA and 0.4% Triton X-100 in PBS)で室温20分処理した。PBSで洗浄後、抗GST−PHB2抗体(500倍希釈)を一次抗体に、Alexa 488-conjugated anti-rabbit IgG (Molecular Probes)(1000倍希釈)を二次抗体に使用して細胞染色を行った。蛍光像は、TCS SP5(Leica)共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影し解析した。
その結果、3T3-L1細胞の内在性のPHB2は、ICIを添加した際には主にミトコンドリアに局在するが、E2を添加すると内在性PHB2の一部は核に移行した像が観察された(図1F)。
以上から、3T3-L1細胞は、内在性にERαやPGC1α遺伝子の発現を有すること、エストロゲンで3T3-L1細胞の脂肪分化が抑制されること、3T3-L1細胞では、エストロゲン刺激により内在性のPHB2の一部がミトコンドリアから核に移行することを示した。
実施例2
ウミシイタケ(Renilla reniformis)由来luciferase (RLuc)を内部標準にしたDual luciferase assayを用いて、PHB2の核内作用を検討した。
Dual luciferase assayは、Dual-luciferase Reporter Assay System (Promega)を使用し、プロトコールに従い実施した。具体的には、HeLa細胞に、チミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するウミシイタケルシフェラーゼレポーター遺伝子(TK-RLuc)およびPPAR反応性エレメント(PPRE)をTKプロモータの上流に有するホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)に、PPARγ遺伝子、PGC1α遺伝子、PHB2遺伝子などを表示の組み合わせで混合し、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて、DNAを細胞に導入した。5時間後、培地交換を行い、合計22時間後に細胞を細胞融解液で回収後、これをルミノメーターにて測定した。ウミシイタケルシフェラーゼの活性を内部標準として用い、ホタルルシフェラーゼにて、転写活性を比較した(n=3−4)。なお培地交換時の培地には、PPARγのアゴニストを各々15d-PGJ2を10μM、Pioglitazone (Pio)を10μM、Troglitazone (Tro)を10μMの終濃度で添加した。
また、GAL4 assayには、内部標準としてTK-RLucおよびレポーター遺伝子としてGAL4の認識配列であるUAS (upstream activator sequence) 配列を上流に有するホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子(GAL4-Luc)を用い、さらにGAL4のDNA結合ドメイン(GAL4-DBD)、GAL4-DBDとPGC1αの融合タンパク質(DBD-PGC1α)遺伝子、PHB2(PHB2-wt)遺伝子、PHB2のN末欠失変異体(PHB2(51-299))遺伝子を表示に示す組み合わせで遺伝子導入した。ルシフェラーゼ活性の測定は、前述のDual luciferase assayに従い測定した。
先ず、PPAR反応性エレメント(PPRE)をチミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するルシフェラーゼ(luciferase)レポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)を用いて、PPARγ遺伝子とPHB2遺伝子を共発現させたところ、PHB2のPPARγの転写活性の抑制は顕著でなかった。しかし、PPARγのコアクチベータであるPGC1αを共発現させた場合には、PHB2は顕著な転写抑制活性を示した(図2A)。次に、PHB2がPGC1αへ直接作用する可能性を検討するために、GAL4-DBDとPGC1αの融合タンパク質(DBD-PGC1α)を作製し、GAL4の認識配列であるUAS (upstream activator sequence) 配列を上流に有するルシフェラーゼレポーター遺伝子(GAL4-Luc)を用いて、転写活性解析を行ったところ、PHB2はDBD-PGC1αの転写活性を顕著に抑制した(図2B)。
PHB2がPGC1αタンパク質に直接結合するか否かを、大腸菌で発現させ精製したグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)とPHB2の融合タンパク質(GST-PHB2)と、HeLa細胞で発現させたPGC1αのカルボキシル末端にmycタグを融合したタンパク質(PGC1α-myc)を用いたGST-pulldownアッセイにて検討した。
GST-pulldownアッセイは、以下の通り実施した。先ず、HeLa細胞にPGC1α-Mycをリポフェクタミン2000で遺伝子導入した。18時間培養後、この細胞を回収し、0.1 % NP-40を添加したTNE buffer (20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 2mM EDTA)で細胞抽出液を調整した。大腸菌で発現させたGSTまたはGST-PHB2タンパク質を各々2μgと上記抽出液をGSTビーズと共にTNE (0.1% NP-40)中で一晩混合した。TNE(1% NP-40)で3回洗浄した後、これらの沈殿物を用いてSDS-PAGEを行い、ECL-ニトロセルロース膜(Amersham)に転写後、マウスモノクローナル抗Myc抗体(BD Biosciences)を1000倍希釈で一次抗体に用い、二次抗体はHRP-conjugated抗マウスIg抗体(GE Healthcare)を2000倍希釈にて用いた。検出はECL検出キット(GE Healthcare)を用い、検出した。なお、HeLa(PGC1α-myc)inputは1/40量の細胞抽出液を用いた。GST-PHB2タンパク質は、全長のGST-PHB2(1-299)、C末端欠失変異体であるGST-PHB2(1-179)およびGST-PHB2(1-100)を用いた。
上記の通り、GST-PHB2とPGC1α-mycを試験管内で混和した後、グルタチオンビーズでGST-PHB2複合体を精製し、抗myc抗体を用いてウエスタンブロットを行うことにより、このGST-PHB2複合体中にPGC1α-mycが存在するか否かを検討したところ、PHB2がPGC1αと結合することが示された(図2C)。またPHB2の欠失変異体を解析したところ、PGC1αとの結合部位は、PHB2タンパク質の179-299アミノ酸部位に存在することが示された(図2C)。
次に、免疫沈降実験を行った。先ず、DBD-PGC1αまたはDBD融合PGC1αのC末欠失変異体とPHB2のカルボキシル末端にFLAGタグを付加した融合タンパク質(PHB2-FLAG)をHeLa細胞に共発現させ、各々の細胞を回収し、RIPA buffer (10 mM Tris HCl (pH 8.0)、1% DOC、1% Triton X-100、0.1% SDS、150 mM NaCl)に懸濁し、ヌクレアーゼ分解酵素を添加してDNAを分解後、遠心にて上清を抽出した。この抽出液を先ずProtein G Sepharoseを加えた後遠心した上清を回収し非特異的結合を除いた後、この上清にウサギポリクローナル抗DBD抗体(Santa Cruz)を1μgおよびProtein G Sepharoseを添加した後、4℃にて結合させた後、遠心及び洗浄にて、DBD融合タンパク質に結合する複合体を精製した。これを用いてSDS-PAGEを行い、ニトロセルロース膜に転写後、抗FLAG抗体(M2,Sigma)30,000倍希釈にてウエスタンブロットを行い、DBD融合タンパク質と共にFLAG融合タンパク質が沈降するかを検出した。逆の実験として、上と同様に、抗FLAG抗体にて、免疫沈降を実施した後、抗DBD抗体にてウエスタンブロットを行うことにより、FLAG融合タンパク質と共にDBD融合タンパク質が沈降するかを検出した。
DBD-PGC1αとPHB2のカルボキシル末端にFLAGタグを付加した融合タンパク質(PHB2-FLAG)をHeLa細胞に共発現させた細胞抽出液を調整し、抗DBD抗体を用いて免疫沈降実験を行うと、PHB2がPGC1αと結合すること、さらにPGC1α欠失変異体を用いた実験から、PHB2の結合部位はPGC1αタンパク質の401-600アミノ酸の部位に存在することが示された(図2D)。一方、DBD-PGC1α(1-600)とPHB2-FLAGをHeLa細胞に共発現させた細胞抽出液を、抗FLAG抗体で免疫沈降実験を行うと、確かに、PGC1αはPHB2と共沈した(図2E)。また、詳細なPHB2の欠失変異体の解析から、PGC1αの結合部位はPHB2タンパク質の151-200アミノ酸の部位に存在することが示された(図2F)。図2Cの結果を考慮すると、PHB2タンパク質におけるPGC1α結合部位は、171-200アミノ酸の領域に存在すると考えられた。以上から、PHB2はPPARγのコアクチベータであるPGC1αに直接結合すること、PHB2はPGC1αの活性を抑制すること、その結果PHB2はPGC1αの活性調節を介してPPARγの転写活性を抑制することが示された。
実施例3
HeLa細胞をガラスボトムディッシュに培養し、リポフェクトアミン2000を用いて野生型ERαおよび核移行シグナルを含む256−303アミノ酸の部位を欠失させた変異型ERα(ERα241G)を一過的に遺伝子導入した。翌日、10-8 M ICIまたは10-7 M E2を添加した細胞培養液に置換し2時間培養後、前述の方法で、抗GST−PHB2抗体を用いて細胞免疫染色を実施した。蛍光像は、TCS SP5(Leica)共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。
エストロゲンによる内在性PHB2のミトコンドリアから核への移行が、ERαに依存するか否かを、先ず検討した。HeLa細胞では、内在性PHB2は野生型ERαを発現させたときにのみ、E2存在下でミトコンドリアから核に移行することが示された。一方、ERαを導入しなかった場合、また、核移行シグナルを含む256−303アミノ酸の部位を欠失させた変異型ERα(ERα241G)を導入した場合では、E2存在下においても核への移行は観察できなかった(図3A)。また、野生型ERαを導入した場合でも、E2非存在下では核への移行は観察できなかった(図3A)。即ち、内在性のPHB2をミトコンドリアから核への移行には、E2およびERαの両者が必要であることが明らかになった。
次に、E2投与による内在性PHB2の核への移行が、PPARγやPGC1αの活性を調節するかを検討した。
前述の記載に従いDual luciferase assayを実施した(n=3−4)。但し、共発現させる遺伝子にERαを加えた。また、遺伝子導入した5時間後の培地交換の際に10-7 M E2を添加した実験系を加えた。また、GAL4 assayにおいても、前述の記載に従い実施し、共発現させる遺伝子にERαを加えた場合、また、遺伝子導入した5時間後の培地交換の際に10-7 M E2を添加した実験系を加えた。
図3Bに示すように、PPRE-TK-LucにPPARγおよびPGC1αを共発現させた場合は、PPARγ−PGC1αの転写活性が最大となり、ERαを共発現させても、E2非存在下であれば転写活性は比較的高く保たれる(図3B、E2(-))。しかしながら、ERαを共発現させたとき、E2が存在する条件下では、その転写活性は著明に抑制されることが明らかとなった(図3B、E2(+))。同様に、DBD-PGC1αとGAL4-Lucに、ERαを共発現させた実験では、E2存在下でDBD-PGC1αの転写活性が抑制された(図3C)。以上から、E2-ERαの存在下では、内在性のPHB2がミトコンドリアから核へ移行すること、その結果、核に移行したPHB2は、PGC1αの活性を抑制し、この抑制を介してPPARγの転写活性を抑制することが強く示唆された。
実施例4
PHB2の核移行が、直接的に脂肪分化抑制作用を有するか否かを検討する目的で、E2非存在下においても核に移行する、アミノ末端に局在するミトコンドリア移行シグナルを欠失したPHB2変異体(PHB2C:51−299AA)をレンチウイルスで作製し、これを3T3-L1細胞に導入することにより、E2が関与しないPHB2の脂肪分化抑制作用の有無を検討した。
レンチウイルスで遺伝子導入させた3T3-L1脂肪前駆細胞を35-mm poly-L-lysine-coated glass-bottomed dishes (Matsunami Glass Ind.)に播き、これを前述の記載どおりに細胞免疫染色を行った。用いた抗体は一次抗体はウサギポリクローナル抗FLAG抗体(Sigma)を1,000倍希釈で、二次抗体としてAlexa 488-conjugated anti-rabbit IgG (Molecular Probes)を1000倍希釈で使用した。蛍光像は、TCS SP5(Leica)共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影し解析した。
PHB2野生型とFLAGタグとの融合体(PHB2-FLAG)と、PHB2CとFLAGタグの融合体(PHB2C-FLAG)を3T3-L1細胞に導入したところ、PHB2C-FLAGはミトコンドリアではなく、細胞質および核に局在することが、抗FLAG抗体による細胞免疫染色で示された(図4A)。
Adipogenesis assayは、レンチウイルスを導入した3T3-L1細胞を用いて前述の通り実施し、培養時間を誘導開始後、5日後および7日後に測定した(n=4)。
レンチウイルスで、GFP、PHB2、PHB2C、PGC1αを導入した3T3-L1細胞を用いて、脂肪分化誘導を行ったところ、adipogenesis assayでは、PHB2Cを導入した3T3-L1細胞で著明に脂肪分化が抑制した(図4B)。
レンチウイルスを導入した3T3-L1細胞からtotal RNA を抽出し、このうち1μgを用い逆転写酵素にてcDNAを合成した。定量PCRは、定法に従いLightCyclerTM FastStart DNA MasterPLUS SYBR Green Iキット(Roche Applied Science)を用い、LightCycler 1.5 (Roche Applied Science)を用いて実施した。PCRのプライマーは以下に示す通りである。
マウスPPARγ遺伝子に対しては、5'-AAG AGC TGA CCC AAT GGT TG-3'(配列番号13)および5'-TCC ATA GTG GAA GCC TGA TGC-3' (配列番号14)のプライマーを用い、aP2遺伝子に対しては、5'-ATG TGT GAT GCC TTT GTG GGA-3' (配列番号15)および5'-TGC CCT TTC ATA AAC TCT TGT-3' (配列番号16)のプライマーを用い、Adiponectin遺伝子に対しては、5'-GCA CTG GCA AGT TCT ACT GCA A-3' (配列番号17)および5'-GTA GGT GAA GAG AAC GGC CTT GT-3'(配列番号18)のプライマーを用い、コントロールとしてGAPDH 遺伝子の増幅には、5'-GCC CAT CAC CAT CTT CCA G-3' (配列番号19)および5'-TGA GCC CTT CCA CAA TGC C-3' (配列番号20)のプライマーを用いた。GAPDH の遺伝子量を内部標準として、その他の遺伝子発現量の比を検討した(n=3)。
分化後7日目のそれぞれの細胞からRNAを抽出し、定量PCRにて、遺伝子発現量を検討したところ、脂肪分化のマーカー遺伝子であるPPARγ、aP2 (FABP4)、adiponectinの遺伝子発現量は、PHB2Cを導入した3T3-L1細胞で著明に減少した(図4C)。以上から、PHB2の核内移行が、E2を介さず脂肪分化を直接抑制することが示された。
実施例5
E2による肥満抑制が、PHB2の細胞内局在変化を伴うものか否かを、in vivoで検証した。
先ず、卵巣摘出施術(ovarectomy; OVX)を施行したマウスを作製し、閉経後肥満のモデルマウスとなるかを検証した。生後10週のC57BL6J雌マウスを、OVX処置後、一週間後から0.1 mg/kgのE2含有飼料またはE2不含飼料にて飼育し、体重の経時変化を比較したところ、E2不含飼料にて飼育したマウス(E2非投与群)の体重は増加したものの、E2含有群では、体重増加が認められなかった(図5A)。マウスへのE2の効果を確認するために、60日間飼育後のマウスを、解剖後に子宮重量を計測したところ、E2非投与群では子宮重量が減少していた(図5B)。しかし、E2投与群では、子宮重量は増加していた(図5B)。一方、60日間飼育後のマウスを、X線CTを用いて脛骨の海綿骨密度を計測したところ、E2非投与群で骨密度が減少していたが、E2投与群では骨密度は増加していた(図5C)。また、同様にCTによる内臓脂肪(VAT)、皮下脂肪(SAT)量を計測したところ、E2非投与群では脂肪量が増加していたが、E2投与群では脂肪量は減少していた (図5D)。以上から、OVXマウスは、閉経後肥満のモデルとなること、またE2投与によるホルモン補充療法がマウスに対して効果があり、肥満を抑制することが示された。
これら各群のマウスを解剖後、卵巣周囲脂肪の組織切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて染色後、それらの脂肪細胞の直径を比較すると、明らかにE2非投与群では脂肪直径が増大していたが、E2を投与すると直径が減少した(図5E)。
各群のマウスを、4%パラホルムアルデヒドを用いて還流固定した。その後、卵巣周囲白色脂肪組織から凍結切片を作製した。組織免疫染色は、ウサギポリクローナル抗GST−PHB2抗体(500倍希釈)を一次抗体に、Cy5-conjugated anti-rabbit IgG (GE Healthcare)(500倍希釈)を二次抗体に使用して組織免疫染色を行った。蛍光像は、TCS SP5(Leica)共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影し解析した。
上記の脂肪組織において、内在性PHB2の細胞内局在を組織免疫染色法にて確認したところ、E2非投与群に比較して、E2投与群では、PHB2が核に局在していることが示された(図5F)。以上から、マウス生体内においてもE2でPHB2がミトコンドリアから核に移行すること、また、E2投与が、白色脂肪細胞の体積の増大を抑制することが明らかになった。
実施例6
以上から、(1)ミトコンドリアに局在するPHB2が、ERαおよびE2の存在下にて核に移行すること、(2)PHB2は核において、脂肪分化を促進する転写因子PPARγのコアクチベータであるPGC1αに直接結合することにより、その活性を抑制し、この抑制を介してPPARγの転写活性を抑制すること、(3)E2非存在下においても、PHB2の核局在が脂肪分化を抑制することから、PHB2の直接作用として脂肪分化抑制活性があることが示された。さらに、(4)閉経後肥満のモデルであるOVXマウスの脂肪組織においても、E2が内在性PHB2の核局在を誘導し、更に脂肪細胞の肥満を抑制することを明らかにした。図6において、PHB2の肥満抑制における分子メカニズムのモデルを示す。
実施例7
前述の記載に従いDual luciferase assayを実施した(n=3)。内部標準としてTK-RLuc、レポーター遺伝子としてエストロゲン反応性エレメントをTKプロモータの上流に有するホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子(ERE-Luc)、共発現させる遺伝子にERα、マウスPGC1α遺伝子、PHB2遺伝子などを表示の組み合わせで導入した。遺伝子導入後5時間後の培地交換の際にリガンドとして10-7 M E2を添加した実験を加えた。
一方、PPARαの転写活性調節に関しては、TK-RLuc、PPRE-Luc、PPARα、ヒトPGC1α遺伝子、PHB2遺伝子などを表示の組み合わせで導入した。遺伝子導入後5時間後の培地交換の際にリガンドとして10-5 M Fenofibrate (FFB-10)または10-4 M WY14643 (WY)を添加した実験を加えた。
また、GAL4 assayにおいても、前述の記載に従い実施し、GAL4-DBDとPGC1αの融合タンパク質(DBD-PGC1α)遺伝子、PHB2遺伝子、PHB2の各種欠失変異体遺伝子を表示に示す組み合わせで遺伝子導入した。
PHB2がPGC1αのコアクチベータ活性を抑制することが示されたが、PPARγ以外のPGC1αが結合する転写因子についての効果を、dual luciferase assayにて検討した。まず、PPARαとPGC1αの存在下において、PHB2はPPRE-TK-Lucをレポーター遺伝子としたPPARαの転写活性を抑制した(図7A)。同様にERαとPGC1αの存在下において、PHB2はエストロゲン応答性エレメント(ERE)を有するレポーター遺伝子ERE-LucにおけるERαの転写活性を抑制した(図7B)。以上から、PPARγ以外のPGC1αに結合する転写因子においても、PHB2はそれらの転写活性を、PGC1αのコアクチベータ活性を調節することにより、調節する可能性が示された。
一方、PHB2のPGC1αの活性調節に寄与するドメインを決定するために、複数の欠失変異体を作製し、GAL4-DBD-PGC1αとGAL4-Lucを用いた系で、それらの活性を検討したところ、PGC1αの活性を調節する複数の部位が見出された(図7C)。これらの欠失変異体は、PGC1αの活性調節剤のプロトタイプを提案するものである。
以上より、PHB2はPGC1αの活性調節を介して、PGC1αが調節する各種の転写因子の活性を調節することを示した(図7D)。PHB2類似体や変異体に由来するペプチドやそれらの活性を代替する物質が、これらの機能を調節する薬剤となることが考えられる。
実施例8
脂肪分化を促進する転写因子であるPPARγの転写活性に対し、各種コアクチベータを加えることにより、どのコアクチベータが転写活性を促進する検討し、さらにこれらのコアクチベータ存在下でのPPARγの転写活性を、PHB2が抑制するかを検討した。
Dual luciferase assayは、Dual-luciferase Reporter Assay System (Promega)を使用し、プロトコールに従い実施した。具体的には、HeLa細胞に、チミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するウミシイタケルシフェラーゼレポーター遺伝子(TK-RLuc)およびPPAR反応性エレメント(PPRE)をTKプロモータの上流に有するホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)に、PPARγ遺伝子、PGC-1α遺伝子、PGC-1β遺伝子(NCBI登録番号 NM_133249)、SRC-1遺伝子(NCBI登録番号 NP_003734)、SRC-2遺伝子(NCBI登録番号 NP_006531)、SRC-3遺伝子(NCBI登録番号 NP_858045)、PHB2遺伝子などを表示の組み合わせで混合し、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて、DNAを細胞に導入した。5時間後、培地交換を行い、合計22時間後に細胞を細胞融解液で回収後、これをルミノメーターにて測定した。ウミシイタケルシフェラーゼの活性を内部標準として用い、ホタルルシフェラーゼにて、転写活性を比較した(n=3)。
Dual luciferase assayを用いて、先ず、PPAR反応性エレメント(PPRE)をチミジンキナーゼ(TK)プロモータの上流に有するルシフェラーゼ(luciferase)レポーター遺伝子(PPRE-TK-Luc)を用いて、PPARγ遺伝子とPGC-1αを始めとする各種コアクチベータ遺伝子(PGC-1β、SRC-1、SRC-2、SRC-3)を各々共発現させたところ、PPARγ遺伝子とPGC-1αの組み合わせが、他のコアクチベータに較べPPARγの転写活性を著明に増加させた。これらの組み合わせに対しPHB2遺伝子を加えたところ、PHB2はPPARγ遺伝子とPGC-1αの組み合わせの転写活性を顕著に抑制した (図8)。

Claims (4)

  1. 配列番号2で表されるプロヒビチン2(PHB2)のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号179-200からなるPHB2部分断片、または前記アミノ酸番号179-200において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成り、かつPGC1α活性抑制作用を有するPHB2部分断片を含む、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)活性抑制剤。
  2. 配列番号2で表されるプロヒビチン2(PHB2)のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号179-200からなるPHB2部分断片、または前記アミノ酸番号179-200において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成り、かつ脂肪分化阻害作用を有するPHB2部分断片を含む、脂肪分化阻害剤。
  3. 配列番号2で表されるプロヒビチン2(PHB2)のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号179-200からなるPHB2部分断片、または前記アミノ酸番号179-200において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成り、かつPGC1α活性抑制作用又は脂肪分化阻害作用を有するPHB2部分断片と、パーオキシゾーム増殖因子活性化受容体γ・コアクチベーター(PGC1α)との複合体の形成を促進又は阻害する被験物質を選択することを含む、PHB2とPGC1αとの複合体の形成の調節剤のスクリーニング方法。
  4. PHB2とPGC1αとの複合体の形成を促進する被験物質を、脂肪分化阻害剤として選択する、請求項3に記載のPHB2とPGC1αとの複合体の形成の調節剤のスクリーニング方法。
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