JP2007039398A - トキシン−アンチトキシン複合体の形成を指標とする抗生物質のスクリーニング方法 - Google Patents

トキシン−アンチトキシン複合体の形成を指標とする抗生物質のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 細菌の中毒モジュールを構成する多くのトキシン−アンチトキシン複合体の立体構造は未だ明らかでないため、アンチトキシンがどのようにしてトキシンの毒性を抑制しているのか不明である。
【解決手段】 細菌のトキシン及びアンチトキシンタンパク質と、候補化合物とを接触させて、トキシン−アンチトキシン複合体が形成されるか否かを検出する。前記複合体の形成を阻害する候補化合物は、前記細菌の増殖阻害剤であることが示唆される。
【選択図】
図2

Description

本発明は、細菌の細胞死に関与する因子を用いる抗生物質のスクリーニング方法に関し、より詳細には、トキシン及びアンチトキシン複合体の形成を指標とする抗生物質のスクリーニング方法及びこれに用いるポリペプチド等に関する。
真正細菌及び古細菌は、トキシン−アンチトキシンタンパク質の対をコードする遺伝的因子を有し、これは中毒モジュール(addiction module)として知られている。当初は、低コピープラスミドの維持システムのように、プラスミドの脱落に伴う細胞死をコントロールするものとして提唱された。この機構は、1つのオペロンにコードされている不安定なアンチトキシンタンパク質と、安定なトキシンタンパク質に依存する。プラスミドを保持する細胞内では、アンチトキシンはトキシンと安定な複合体を形成することによってトキシンの毒性を中和している。プラスミドが脱落すると構造的に不安定なアンチトキシンが宿主プロテアーゼによって分解され、宿主細菌はトキシンの細胞毒性によって細胞死に至る。最近の報告では潜在的な細菌染色体の中毒モジュールは、利他的な自殺因子としてよりもむしろ栄養的及び/又は環境的ストレスにさらされたときに細胞全体的な翻訳レベルを調節する機能を有することが示されている。しかしながら別の報告では、大腸菌やその他の病原性細菌の染色体に存在するmazEFシステムによって、いくつかの抗生物質がこの自殺システムを介して間接的に細胞死を起こすことが知られている。これらの抗生物質は、例えば、転写や翻訳の阻害剤、及びチミンの欠乏を引き起こす葉酸代謝阻害剤である(例えば、非特許文献1参照)。また菌血症や重大な院内感染を引き起こす多くの腸球菌は、多剤薬剤耐性を有することが知られているが、この多剤薬剤耐性を維持するプラスミドpRUMの安定性は、Txe−Axeというトキシン−アンチトキシンによって調節されている(例えば、非特許文献2参照)。
ゲノム解析の結果によれば、大腸菌染色体はトキシンの配列類似性に基づいて現在までに6種類の独立したアンチトキシン−トキシン対を有する。1つのクラスは、MazE−MazF及びChpBI−ChpBK対からなり、第二のクラスは、RelB−RelE、DinJ−YafQ及びYefM−YoeB対を含む。YafN−YafQの潜在的な中毒モジュールは第三のクラスを構成することが示唆されている。これらの染色体トキシンのうち、RelEとMazFが広範に調べられている。RelEはコドン依存的なエンド型リボヌクレアーゼであり、リボソームのA−部位と相互作用して活性を示す。あるいは、リボソームの内因性エンドヌクレアーゼ活性刺激因子として働く。このトキシンは、真核生物のナンセンス媒介mRNA崩壊(nonsense-mediated mRNA decay)のような遺伝子発現の品質管理に関与しているのかもしれない。MazFは、ACA配列特異的なエンドリボヌクレアーゼであって、リボソームとは独立して働く。しかしながら、MazFがRelEのようにリボソームのA−部位で作用することを示唆するデータもある。
X線結晶構造解析によって得られた大腸菌のMazF−MazE及びシュードモナス・ホリコシのRelE−RelBの2つのシステム由来のトキシン−アンチトキシン対の構造を調べると、それぞれのトキシン−アンチトキシン複合体の各構成因子は、構造的に類似しておらず、また形成するオリゴマーの数も異なることが見出された。MazFトキシンは2量体を形成し、構造的にKidやCcdBプラスミドトキシンと類似する。これらの2量体はMazEアンチトキシンとヘテロ6量体を形成する(MazF−MazE−MazF)。MazEアンチトキシンはその保存されたトリプトファン残基を用いて、MazFトキシンの活性中心と相互作用することで、RNA基質の接近を阻止すると思われる。一方、RelE−RelB複合体は2つのヘテロ2量体からなる4量体(RelE−RelB)を形成する。非球状構造のRelBは、RelE表面の機能的に重要なアルギニン残基のクラスターを覆い隠している。
大腸菌染色体上のYefM−YoeBアンチトキシン−トキシンモジュールは、腸球菌(Enterococcus faecium)のpRUM多剤耐性プラスミド上に存在するAxe(アンチトキシン)−Txe(トキシン)対との相同性に基づいて同定されたものである(非特許文献2参照)。他の中毒モジュールと同様に、YoeBトキシンは塩基性タンパク質(10kDa)であり、一方、YefMアンチトキシンは構造的に折りたたまれていない酸性タンパク質(11kDa)であると報告されている。このyefM−yoeB遺伝子カセットは1つのアンチトキシン−トキシンモジュールとして機能する(例えば、非特許文献3参照)。YoeBトキシンは、mRNAを切断すること、さらに宿主のATP依存性プロテアーゼであるLonの過剰発現がYoeB依存的にmRNAの分解を活性化することからLonプロテアーゼによるYefMの分解がYoeBを活性化すると考えられる(例えば、非特許文献4参照)。
Engelberg-Kulka, H. et al., Trends Microbiol. (2004) Vol.12, pp.66-71 Grady, R., and Hayes, F., Mol Microbiol. (2003) Vol. 47, pp.1419-1432 Cherny, I., and Gazit, E., J. Biol. Chem. (2004) Vol.279, pp.8252-8261 Christensen, S.K. et al., Mol. Microbiol. (2004) Vol.51, pp.1705-1717
しかしながら、多くのトキシン−アンチトキシン複合体の結合様式は未だ明らかでないため、アンチトキシンがどのようにトキシンの毒性を抑制しているのかは不明である。本発明は、かかるトキシン−アンチトキシン複合体の立体構造を解析することによって、アンチトキシンによるトキシンの毒性抑制機構を明らかにし、これらの知見に基づいて細菌の増殖を阻害しうる抗生物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、トキシン−アンチトキシンの1つである大腸菌のYoeB−YefMタンパク質の立体構造を解析することにより、YoeBトキシンは、非典型的なリボヌクレアーゼの構造を示し、アンチトキシンであるYefMと結合することによって推定活性中心の立体配座の変化を引き起こすことを見出した。また、YefMアンチトキシンのC末端側の2つのα−ヘリックス領域がYoeBタンパク質との相互作用に関与し、特徴的なヘテロ三量体複合体を形成することも明らかにした。これらの知見及び構造的に類似するいくつかのトキシン−アンチトキシンの比較解析に基づいて、大腸菌のYoeB−YefMファミリーに属する中毒モジュールを用いた新規な抗生物質のスクリーニング方法が提供される。
すなわち、本発明の抗生物質のスクリーニング方法は、細菌の染色体又はプラスミドDNAにコードされたトキシン及びアンチトキシンタンパク質と、候補化合物とを接触させて、トキシン−アンチトキシン複合体が形成されるか否かを検出することを含み、前記複合体の形成を阻害する候補化合物が、前記細菌の増殖阻害剤であることを示唆することを特徴とする。前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質は、MazE−MazFファミリー、YefM−YoeBファミリー、又はYafN−YafQファミリーから選択される一対の中毒モジュールタンパク質であることが好ましい。さらに好ましくは、前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質は、それぞれ大腸菌のYoeB及びYefMタンパク質、若しくはその相同体、又はその誘導体である。また、好ましい実施形態において、前記相同体には、シュードモナス・フルオレッセンスのPfl−K及びPfl−I、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのAtu−K及びAtu−I、エンテロコッカス・ファシエンスpRUMプラスミド由来のTxe及びAxe、ミコバクテリウム・ツベルキュロシスのMtu−K及びMtu−I、シュードモナス・プチダのPpu−K及びPpu−I、並びにスタフィロコッカス・オーレオスのSau−K及びSau−I等のタンパク質対が含まれることを特徴とする。
別の観点において、本発明の抗生物質のスクリーニング方法は、(a)細菌のトキシン及び/又はアンチトキシンの三次元立体構造座標を用意し、前記トキシン及び/又はアンチトキシンの三次元立体構造又はその部分を、コンピュータモデルを用いて構築する工程、(b)前記三次元立体構造に基づいて、前記トキシン又はアンチトキシンに結合する候補化合物を設計又は選択する工程、(c)前記設計又は選択された候補化合物を合成又は取得する工程、及び(d)前記候補化合物が前記トキシン−アンチトキシン複合体の形成を阻害するか否かを調べるために前記候補化合物と前記トキシン及びアンチトキシンとを接触させる工程、を含むことを特徴とする。
本発明はさらに異なる観点において、配列番号1に示したアミノ酸配列の51〜83番目のアミノ酸残基からなる単離されたポリペプチド、又は前記ポリペプチドの1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ大腸菌のYoeBタンパク質と結合してリボヌクレアーゼ活性を阻害する作用を有するポリペプチド誘導体を提供する。
本発明は、従来の方法とは全く異なる観点からの抗生物質のスクリーニング方法を提供するものであり、新規な作用機構に基づく新規な抗生物質を提供することができる。現在、院内感染などの原因となっている多剤耐性菌の多くは、トキシン−アンチトキシン機構を用いて抗生物質耐性遺伝子をそのプラスミド上に維持保守しているため、本発明の方法により選択された抗生物質はこれらの多剤耐性菌を効果的に治療できる可能性が高い。
[定義]
本明細書において、用語「トキシン(toxin)」、及び「アンチトキシン(antitoxin)」とは、細菌の染色体又はプラスミドDNAにコードされたタンパク質からなる毒素、及び抗毒素のことを意味する。アンチトキシンは解毒剤(antidote)と呼ばれる場合もある。これらのタンパク質のアミノ酸配列、及びそれらをコードする遺伝子配列はすでに公知であり、例えば、アンチトキシンタンパク質としては、大腸菌のYefM(Swiss-ProtのACCESSION No.P69346、配列番号1)、シュードモナス・フルオレッセンスのPfl−I(配列番号2)、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのAtu−I(配列番号3)、エンテロコッカス・ファシエンスpRUMプラスミド由来のAxe(配列番号4)、ミコバクテリウム・ツベルキュロシスのMtu−I(配列番号5)、シュードモナス・プチダのPpu−I(配列番号6)、スタフィロコッカス・オーレオスのSau−I(配列番号7)、サルモネラ・タイフィムリウムのSty−I(配列番号8)及びエンテロバクテリアファージP1のPhd(配列番号9)等が挙げられる。トキシンタンパク質としては、大腸菌のYoeB(Swiss-ProtのACCESSION No.P69348、配列番号10)、シュードモナス・フルオレッセンスのPfl−K(配列番号11)、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのAtu−K(配列番号12)、エンテロコッカス・ファシエンスpRUMプラスミド由来のTxe(配列番号13)、ミコバクテリウム・ツベルキュロシスのMtu−K(配列番号14)、シュードモナス・プチダのPpu−K(配列番号15)、スタフィロコッカス・オーレオスのSau−K(配列番号16)、及び大腸菌のEYafQ(配列番号17)等が挙げられるがこれらに限定されない。
「相同体(homologue)」とは、1次構造又は立体構造に相同性のあるタンパク質群のことをいい、例えば、1次構造の相同性が少なくとも30%、好ましくは50%、より好ましくは70%以上のタンパク質である。タンパク質の相同性(ホモロジー)の程度は、2つのタンパク質のアミノ酸配列同士を適切に整列(アライメント)したときの同一性のパーセント値で表わすことができ、当該配列間の正確な一致の出現率を意味する。同一性比較のための配列間での適切な整列は種々のアルゴリズム、例えば、BLASTアルゴリズムを用いて決定することができる(Altschul SF J Mol Biol 1990 Oct 5; 215(3):403-10)。また、一次構造上の相同性が低くても、立体構造が高度に類似しているタンパク質も存在することが知られている。このようなタンパク質同士の立体構造の相同性は、例えば、DALIサーバを用いて検索することができる(Holm, L., and Sander, C., Nucl. Acids Res. (1998) Vol.26, pp.316-319参照)。
本明細書において、「誘導体(derivative)」とは、タンパク質の一部のアミノ酸残基が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質又はポリペプチドであって、元のタンパク質と実質的に同一の機能を有するものをいう。
また、「抗生物質」とは、従来より微生物が産生し他の微生物の増殖を抑制する物質と定義されていたが、本明細書ではそのような天然物を起源とするものだけでなく全合成物をも含む。
[トキシン−アンチトキシン複合体の結晶化とX線結晶構造解析による立体構造の決定]
タンパク質の立体構造を明らかにする手法として、最も一般的に行われているのは、X線結晶構造解析の手法である。即ち、タンパク質を結晶化し、その結晶に単色化されたX線をあて、得られたX線の回折像を基に、該タンパク質の立体構造を明らかにしていくものである(Blundell, T.L.及びJohnson,L.N., PROTEIN CRYSTALLOGRAPHY, p.1-565, (1976) Academic Press, New York)。
結晶化は、目的のタンパク質溶液に沈殿剤を添加し、または溶媒量を蒸発等によって減少させる等の操作によって、タンパク質が溶液状態から非溶液状態になる場合において、ある特定の条件において結晶として析出する性質を利用している。結晶化には高純度に精製されたタンパク質が必要である。また、結晶化する条件として、タンパク質濃度、塩濃度、水素イオン濃度(pH)、添加する沈殿剤の種類、温度等の物理的及び化学的な因子が関与している。さらには、沈殿剤添加や溶媒量の調整方法として、バッチ法、透析法、蒸気拡散法などの結晶化の手法が数多く存在している(Blundell, T.L.及びJohnson,L.N., PROTEIN CRYSTALLOGRAPHY, p.59-82, (1976) Academic Press, New York)。例えば、蒸気拡散法は、気相を通じて拡散によって揮発性の溶媒や沈殿剤が移動するようなしくみである。タンパク質溶液が沈殿剤溶液とのあいだで蒸気拡散することにより、タンパク質濃度と沈殿剤濃度が共に高まって過飽和の領域で結晶化が起こる。タンパク質溶液の液滴をどうつくるかによって、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法、サンドイッチドロップ法等の方法がある。このようにX線結晶解析に適したタンパク質の結晶を得るには、それぞれのタンパク質において、高純度のタンパク質を得ることと、結晶化における種々の因子や結晶化法を最適化する検討が必要になる。特に高純度のタンパク質の調製は結晶化を成功させるための重要な因子である。このために、クローン化した遺伝子を効率的かつ安定に発現させることにより迅速かつ均一なタンパク質を調製することが重要である。
このようにして得たトキシン−アンチトキシン複合体の結晶の構造を当業者に知られたX線結晶構造解析技術を用いて解析する。類縁タンパク質の立体構造が未知であり、その立体構造を利用した分子置換法による構造解析が不可能な本発明のような立体構造決定においては、重原子置換法又は多波長異常分散法(MAD法)が適用され得る。本発明の一つの実施態様において、X線結晶解析は、MAD法であり、これに用いられるX線は、シンクロトロン放射光から得られる0.3〜3.0Åの波長である。MAD法は、入射X線エネルギー近傍の吸収端をもつ重原子同型置換結晶から、複数の波長によるX線回折データを得る方法である。X線と該重原子の電子殻のエネルギーによる干渉によって、そのX線の散乱に差を生じ、これによってタンパク質の構造解析に必須な位相問題を解決することができる。この方法の原理はすでに古くから知られていたが、波長可変であるシンクロトロン放射光の出現によって始めてタンパク質の構造決定に使用されるようになり、ヘンドリクソンらがこの方法によって初めてタンパク質の構造解析に成功した(Hendrickson W.A. et al., Proteins 4, 77-88, 1988及び、Hendrickson W.A. et al., EMBO J.5, 1665-1672, 1990参照)。
シンクロトロン放射光とは、蓄積リングに打ち込まれた電子を磁場によって加速して得られる放射光であり、通常のX線発生装置よりも極めて強いエネルギーを有する。理研播磨研究所の第三世代大型放射光設備 SPring−8(8GeV)等が使用可能である。
測定した回折画像データは、プログラムHKL2000(HKL corporation)又は同様な画像処理プログラムを用いて、反射強度データに処理される。天然型結晶の反射強度データ、複数波長での重原子置換結晶の反射強度データから、上述のMAD法によりタンパク質に結合した重原子の位置を、SOLVE、SHARP若しくはCCP4又は同様の回折データ解析プログラムを用いて、決定及び精密化することにより初期位相が決定される。決定された初期位相は、プログラムDM(CCP4パッケージ)、RESOLVE又は同様な位相改良プログラム(電子密度改良プログラム)を用いた溶媒平滑化法に従って、信頼性の高い位相へと改良される。
トキシン−アンチトキシン複合体の立体構造モデルは、プログラムOやARP/wARP等により3次元グラフィックス上に表示した電子密度図から、以下の手順で構築し得る。まず、一般にはらせん構造をしている電子密度を選び出し、その部分から主鎖(ポリペプチド鎖)を置いていき、そこから順次主鎖を伸ばしていく。ある程度主鎖の同定を進めたところで、側鎖の同定も同時に行う。アミノ酸配列と側鎖に相当する電子密度を照らし合わせることによって、アミノ酸番号を同定する。セレノメチオニン置換タンパク質を用いた多波長異常分散法の場合、セレンの位置、すなわちメチオニンの位置が既に明らかになっているので、アミノ酸配列と照らし合わせることで、簡単にどのメチオニンかを同定することができる。順次この作業を繰り返すことにより、トキシン−アンチトキシン複合体のすべてのアミノ酸残基を相当する電子密度に適合させ、複合体全体の初期立体構造モデルを構築する。構築された立体構造モデルは、それを出発モデル構造として、構造精密化プログラムであるCNSやREFMAC等の精密化プロトコルに従って、立体構造を記述する三次元座標が精密化される。精密化の進行状況や分子モデルのチェックは、以下の指標により確認することができる。信頼度因子(R因子)は、回折強度測定で得られた結晶構造因子の絶対値と分子モデルから計算した結晶構造因子の絶対値の一致度を示す尺度であり、精密化が正常に進行すると小さな値となる。また、タンパク質の主鎖の二面角を計算しそれらをプロットしてそれらの値が許容される領域にあるかどうかを確認する方法(ラマチャンドランプロット)も用いられる。
このようにして本発明にかかるトキシン−アンチトキシン複合体の3次元原子座標(各原子の空間的な位置関係を示す値)が得られる。1つの実施形態として得られた大腸菌のYefM−YoeB複合体、及びYoeB単独の原子座標は、プロテインデータバンク(PDB, Protein Data Bank, The Research Collaboratory for Structual Bioinformatics (RCSB)が運営、http://www.rcsb.org/pdb/参照)に複合体:2A6Q、YoeB(PEG):2A6R、及びYoeB(イソプロパノール):2A6SなるIDコードとして登録(deposit)され、本明細書中でこのデータを援用する。なお、これらの原子座標は、本発明者らにより2005年7月4日にPDBに仮登録されており、本願出願時においては未公開である。
[トキシン−アンチトキシン複合体の立体構造モデルを表示するコンピュータシステム]
本発明によるトキシン−アンチトキシン複合体の結晶から得られる原子座標を、分子の3次元構造を表現するコンピュータ・プログラムが動作するコンピュータ又はそのコンピュータの記憶媒体に入力することで、トキシン−アンチトキシン複合体の3次元的な構造を詳細に表現することが可能になる。
コンピュータの記憶媒体としては、トキシン−アンチトキシン複合体の原子座標をコンピュータの該プログラム上に導くことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、メモリと呼ばれる電気的な一時記憶媒体でも、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ等の半永久的な記憶媒体でも良い。
上記メモリ又は記憶媒体と電気的に連絡するプロセッサによってトキシン−アンチトキシン複合体の少なくとも一部を表す三次元立体構造モデルが生成される。このようなプロセッサ(プログラム)としては、QUANTA(Molecular Simulations社)、SYBYL(Molecular Modeling Software社)、等が利用できる。この際に用いられるコンピュータは、例えば、シリコングラフィックス社によって供給されているワークステーションOCTANE等が好適であるが、これに限定されるものではなく、適当なプログラムが動作するように調整されているコンピュータであればよい。
[立体構造モデルを用いた抗生物質のスクリーニング]
本発明が提供するトキシン及びアンチトキシンタンパク質又はそれらの複合体の原子座標のすべて又は一部を、分子の立体構造を表現するコンピュータ・プログラムが動作するコンピュータ又はその記憶媒体に入力することで、トキシン又はアンチトキシンの何れかと結合し、複合体の形成を阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計することが可能となる。化合物は、天然物化合物、合成化合物の何れでもよく、高分子化合物、低分子化合物の何れでもよい。
このような方法は、まず候補化合物と、トキシン及びアンチトキシンタンパク質又はそれらの複合体とをコンピュータモデルにより表示し、視覚的観察によりトキシン又はアンチトキシンタンパク質の特定の部位に良く適合する形状又は化学構造をもつ結合化合物(リード化合物)を見つけ出す段階が含まれる。分子モデルを作成、表示するためには、前記QUANTAやSYBYL等のプログラムが利用できる。更に、トキシン又はアンチトキシンタンパク質の特定の部位との親和性、反発力、及び立体的障害等を推定するための種々のコンピュータプログラムが使用できる。これらのプログラムの例としては、例えば、生体高分子についてエネルギー的に好適な結合部位を決定するためのGRID(Goodford, P. J., (1985) J. Med. Chem., 28, p.849-857)、機能的結合部位を探索するためのMCSS(Miranker, A., et al., (1991) Proteins: Structure, Function and Genetics, 11, p.29-34)、あるいは高分子とリガンドとの相互作用を幾何学的に解析し、自動的にドッキングさせるAUTODOCK(Goodsell, D. S., et al., (1990) PROTEINS: Structure, Function and Genetics,8, 195-202)、及びDOCK(Kuntz, I.D., et al., (1982) J. Mol. Biol. 161, 269-288)等が挙げられる。
[トキシン−アンチトキシン複合体形成を指標とする抗生物質のスクリーニング]
本発明の抗生物質のスクリーニング方法は、トキシン及びアンチトキシンタンパク質のそれぞれ特定の領域が結合(相互作用)して複合体を形成することによってトキシンタンパク質のリボヌクレアーゼ活性を抑制すること、及びこの複合体の形成を阻害することによって細菌細胞内でのトキシンタンパク質の毒性が発現され、細菌の増殖を抑制又は細胞死を引き起こすという知見に基づくものである。すなわち、トキシンとアンチトキシンとの結合を阻害する化合物は細菌の増殖を抑制する抗生物質として利用することができる。
従って、1つの実施形態として、本発明の抗生物質のスクリーニング方法は、細菌のトキシン及びアンチトキシンタンパク質と、候補化合物とを接触させて、前記トキシン−アンチトキシン複合体が形成されるか否かを検出することを含み、前記複合体の形成を阻害する候補化合物が、前記細菌の増殖阻害剤であることが示唆される。候補化合物とは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド様物質、多糖、脂質、又はその他の有機化合物若しくは無機化合物でありうる。これらは化学合成された化合物ライブラリー又は細菌、カビ、放線菌などの培養物中の化合物からなる生物学的混合物であっても良い。
本実施形態において使用するトキシン及びアンチトキシンタンパク質は、例えば、図1に示したYefM−YoeBファミリーに属する典型的なアンチトキシン(A)及びトキシンタンパク質(B)である。図1には、これらのアミノ酸配列を並列化して示すと共に、(A)にはYefMの2つの単量体の、(B)にはYoeBのそれぞれの二次構造を模式的に示した。配列上部の長方形はα−ヘリックス構造を、矢印はβ−シート構造を、実線はランダムコイル構造を、そして破線は無秩序な領域を示す。その下に薄い青色で示した「x」は、YefMとYoeBとの結合に関与するアミノ酸残基であり、配列の上部に示した「d」は、それぞれのタンパク質の2量体化に関与するアミノ酸残基である。
さらに、本実施形態におけるトキシン−アンチトキシン複合体は、複合体の形成に関与する結合領域を含み、その他のタンパク質やポリペプチドとの融合タンパク質であってもよい。好ましい実施形態において、当該融合タンパク質は、タグペプチド及び/又はレポータータンパク質等を含む。本明細書において、タグペプチドとは、トキシン又はアンチトキシンタンパク質のN末端又はC末端に付加されたアミノ酸配列であって、該融合タンパク質をアフィニティー精製したり、ウエスタンブロッティング検出する場合の手がかりとなる配列である。例えば、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(TrxA)、セルロース結合ドメイン(CBD)、ストレプトアビジン結合ペプチド(例えば、Streptag(商品名))、及びヒスチジンタグ等が挙げられる。
グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)は、可溶性の酵素タンパク質であって、この遺伝子配列の下流にフレームを合わせて目的遺伝子を組み込むとGSTとの融合タンパク質として発現させることができる。このための組換えベクターpGEXはアマシャムファルマシアバイオテック社から市販されている。GSTのタンパク質部分を特異的に認識する抗体や、グルタチオンと結合する性質を利用してアフィニティー精製や酵素免疫染色に利用されている。マルトース結合タンパク質(MBP)は、大腸菌のマルトース結合タンパク質であり、MBPとの融合タンパク質はアミロースやアガロースゲルに吸着させた後、過剰のマルトースで遊離して精製できる。また、抗MBP抗体を使用することもできる。チオレドキシン(TrxA)は、酸化還元反応を触媒する大腸菌のタンパク質であり、機能性の一対のチオール基によって金属キレートアフィニティークロマトグラフィーで精製できる。このための担体として、例えばThioBond(商品名)Resin(Invitorogen社製)等が市販されている。セルロース結合ドメイン(CBD)はClostridium cellulovoransとCellulomonas fimi由来のセルロース結合ドメイン配列で、セルロースに特異的に結合する性質を有し、セルロースやキチンなどの不活性な担体に化学的な修飾を行うことなく固定させることができる。ストレプトアビジン結合ペプチドとして、例えば、Strep-tagIIと呼ばれる8個のアミノ酸からなるペプチドが知られており、StrepTactin(商品名)やStreptavidine(商品名)に選択的に結合させて精製することができる。ヒスチジンタグは、連続した又は近傍に配された少なくとも6個のヒスチジンを含むペプチドが好ましい。ヒスチジンタグは、二価の金属原子、特にニッケル原子と親和性が高い。そのためヒスチジンタグを有するタンパク質はニッケルアフィニティーマトリックスにしっかりと結合し、容易に精製することができる。
本発明において用いられるレポータータンパク質は、融合タンパク質として検出が容易なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びエクオリン等を挙げることができる。
トキシンとアンチトキシンが複合体を形成するか否かを検出するための1つの実施形態として、プルダウンアッセイがある。この方法は、まず、候補化合物の存在下においてトキシンタンパク質とアンチトキシンタンパク質とを接触させる工程である。これらの混合物は、通常は生体内に近い条件、例えば、20〜40℃で5分〜数時間、好ましくは10分〜1時間程度インキュベートする。次に、トキシンタンパク質、及びアンチトキシンタンパク質の何れかを固相の担体に吸着させ、適当な洗浄液で洗浄することにより非結合成分を洗い流す。担体としては、固体または不溶性材料(例えば、ろ過、沈殿、磁性分離などによりタンパク質混合物から分離することができる材料)であって、タンパク質の非特異的な吸着が少ない物が好ましく、例としては、ビーズ(例えば、アガロース、セファロース、セファデックス、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、セルロース、テフロン(登録商標)、孔調節ガラス(CPG))、薄膜(例えば、セルロース、ニトロセルロースポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ナイロン、ガラス繊維、及びテフロン(登録商標)製)のような平坦担体、ガラスプレート、金属プレート、シリコンウエハ、及びマイクロタイタープレート等を含む。タンパク質を固相担体に吸着させるためには種々の方法がある。例えば、トキシンタンパク質、及びアンチトキシンタンパク質の何れかに対する抗体を固定化したビーズなどを用いても良い。好ましくは、上述した融合トキシン又はアンチトキシンタンパク質中のタグペプチド等を介して固相担体に吸着させることができる。最後に、固相担体に吸着したタンパク質を回収し、固相担体から他の一方のタンパク質を溶出するか或いは固相担体上で直接、他の一方のタンパク質を検出する。検出には特異的な抗体を用いたイムノアッセイや、上述した融合トキシン又はアンチトキシンタンパク質中のレポータータンパク質の活性を測定することによる行うことができる。
典型的な1つの方法としてGST−プルダウンアッセイがあり、GSTと融合したトキシンタンパク質及びアンチトキシンタンパク質の何れか一方のタンパク質をコードする遺伝子を、例えばIPTGで発現誘導が可能な発現ベクターにクローン化する。IPTGを添加することによって、この融合タンパク質は、通常、細菌細胞内で発現され、グルタチオン−アガロースビーズ等を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって精製される。他の一方のタンパク質は、精製されたものでも、あるいは細胞のライセートの何れでもよく、また、放射性同位元素で標識されていてもよい。このGST融合タンパク質と、他の一方のタンパク質とを、候補化合物の存在下、グルタチオンアガロースビーズと共にインキュベートし、ビーズから回収したタンパク質複合体をSDS−PAGEで分離し、ウエスタンブロッティング、オートラジオグラフィー、又は上記レポータータンパク質の酵素活性等により検出する。
他の1つの方法としては、前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質を発現するプラスミドにより形質転換された形質転換体を用意し、前記形質転換体と前記候補化合物とを接触させて前記形質転換体が増殖するか否かを検出することができる。例えば、腸球菌の多剤耐性プラスミドにコードされているAxe−Txe遺伝子モジュールを大腸菌の発現ベクターにクローン化して大腸菌を形質転換する。候補化合物を添加した培養液中で該形質転換体を培養し、増殖するか否かを検出する。このような方法により、形質転換体大腸菌を用いてAxe−Txe複合体の形成を阻害する候補化合物をスクリーニングすることができる。得られた結合化合物は該形質転換体のみならず、多剤耐性を示す多くの院内感染菌の中でTxeトキシンを活性化してその増殖を抑制するため抗生物質として利用できる可能性が高い。
本発明は、以下に示した大腸菌のYoeBトキシン及びYefM−YoeB複合体の立体構造解析の実施例に基づいてより詳細に説明されるが、本発明の範囲はこれ等の実施例に限定されるものではない。
[タンパク質の発現と精製]
完全長のyefM及びyoeBをコードするDNAは、大腸菌K−12株のゲノムDNAからPCRにより増幅し、それぞれpET−28a及びpET−11aベクター(ノバジェン社)のT7プロモータの制御下にサブクローン化した。完全長のYefMタンパク質及びN末端切断型(10〜92番目のアミノ酸残基を含む)は、N末端に付加したヒスチジンタグとヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ切断部位を持つものを発現させた。YoeBはタグ付加なしに発現させた。これらの2つのベクターを大腸菌BL21(DE3)株に同時形質転換し、アンチトキシン−トキシン複合体を産生させた。細胞を溶菌した後、YefM−YoeB複合体のオリゴマーをNi2+アフィニティークロマトグラフィーで精製し、そのときYefMのヒスチジンタグは3Cプロテアーゼで分解除去した。ヘパリン−セファロース及びQ−セファロースを用いた逐次的なカラムクロマトグラフィーによって、高純度に精製されたトキシン−アンチトキシン複合体が得られた。セレノメチオニン標識(Se−Met)したYefM−YoeB複合体も上記と同様の方法により発現させ精製した。
YefM非結合型YoeBタンパク質は、YefM−YoeBヘテロ複合体がYefMのヒスチジンタグを介して予め固定化されたNi2+キレーティングカラムから、6M塩酸グアニジンを含む緩衝液により抽出した。変性したYoeB画分を0.5mg/mlに調整し、続いて25mMのHEPES(pH7.5)、200mMのNaCl、1mMのDTTに対して4℃でゆっくりと透析した。ヒスチジンタグ付加YefMアンチトキシン単体(アミノ酸残基10〜92)は単独で発現させ、Ni2+アフィニティークロマトグラフィーで精製した。ヒスチジンタグを除去した後、さらにQ−セファロースカラムを用いて精製した。
[結晶化と構造解析]
天然型及びSe−Met導入YefM−YoeB複合体(21mg/ml)の結晶は、シッティングドロップ法により20mMトリス塩酸(pH7.0)、100mMのNaCl、及び10mMのDTTを含むリザーバー溶液に対して20℃にて成長させた。天然型及びSe−Met結晶は、一つの結晶学的2回回転軸のゆがみに依存するが、P6又はP3の空間群に属し、a=b=88.45Å、c=135.15Åの単位格子を有する六方晶系の結晶が0.2×0.2×0.6mmの典型的な大きさまで成長し、2.02Åの分解能を示した。これらの結晶は、P6空間群中に2つのアンチトキシン−トキシンヘテロ3量体複合体を含むか、又はP3の空間群中に4つの該複合体を含む。結晶の凍結保護は、グリセリンを終濃度で30容量%添加して行った。
ハンギングドロップ法により、100mMトリス塩酸(pH8.5)、0.2MのCHCOONH及び30容量%のイソプロパノールを含むリザーバー溶液に対して4℃で蒸気拡散させるか、又は100mMトリス塩酸(pH8.5)、0.2MのMgCl、及び20容量%のPEG8000を含むリザーバー溶液に対して20℃で蒸気拡散させることにより、2種類のYefM非結合型YoeB結晶が成長した。イソプロパノール条件から得られた斜方晶系の結晶は、0.4×0.2×0.2mmの典型的な大きさまで成長し、非対称単位当り4つの分子を含む、P2の空間群、及びa=28.97Å、b=60.99Å、c=98.56Å、β=98.03°の単位格子を有し、1.77Åの分解能で回折された。結晶の凍結保護は、グリセリンを終濃度で20容量%添加して行った。PEG条件から得られた針状結晶は、0.05×0.05×0.2mmの典型的な大きさまで成長し、非対称単位当り6つの分子を含む、C2の空間群、及びa=163.90Å、b=43.14Å、c=98.37Å、β=118.49°の単位格子を有し、2.05Åの分解能で回折された。結晶の凍結保護は、グリセリンを終濃度で25容量%添加して行った。
YefM−YoeB複合体の天然型(P6)とSe−Met型(P3)の両方の結晶についてSPring−8ビームライン41XUで回折データを収集し、YefM非結合型YoeB結晶についてはフォトンファクトリーのビームラインBL−5で収集した。すべてのデータはHKL2000プログラムパッケージで処理した。YefM−YoeB複合体中の観測できる25ヶ所のセレニウム位地は、プログラムSnBで同定され、多重同形置換/異常散乱法を用いた方法によってMLPHAREで計算し、2.3Åの分解能の実験的な位相が得られた。DMで計算された密度修飾により、高品質の電子密度マップが得られた。部分的モデル(非対称単位の50%の残基)は、ARP/wARPで自動的に構築し、残りの構造はプログラムOを用いて手動で完成させた。CNSにより繰り返し精密化を行った。天然型YefM−YoeB複合体の最終精密化モデルは、非対称単位中の2つのヘテロ3量体に対してYoeB(1〜84の全ての残基)と、YefMホモダイマー(分子A及びCについて10〜92の残基とN末端クローニング人工産物の3残基;分子B及びDについて10〜65の残基とN末端クローニング人工産物の3残基)、及び153個の水分子からなる。
2種類の結晶型からのYefM非結合型YoeBの構造は、YefM−YoeB複合体からのYoeB構造を検索モデルとして用いて、CNSにより分子置換法により決定された。イソプロパノール結晶型に対するPC−精密化相関係数は48.9%であり、PEG結晶型については56.9%であった。CNSを用いた厳密な構造精密化とPowel最小化により、YoeBの3つのC末端残基について、複合体とYefM非結合型との間で明確な違いが認められた。イソプロパノール結晶型についての最終精密化モデルは4つのYoeB分子(1〜84番目の全ての残基、但し、分子AとDは84番目の残基を欠失)、314個の水分子及び6個のイソプロパノール分子からなり、19.5%のワーキングR因子と、22.3%の自由R値を与えた。PEG結晶型についての最終精密化モデルは6つのYoeB分子(1〜84番目の全ての残基、但し、分子Cは84番目の残基を欠失)、340個の水分子及び2個の水和マグネシウムイオンからなる。
[YefM−YoeB複合体及びYefM非結合型YoeBタンパク質の立体構造決定についての所見]
大腸菌K12株由来のyoeB遺伝子を含むpET−11aベクターで種々の大腸菌株をカルシウム法による形質転換を行ったところ、下記の表に示したように大腸菌B由来株ではコロニーが形成されず、導入することができなかった。これは、pETベクターの漏出性の遺伝子発現により、B株由来の大腸菌の生育が阻害されたものと考えられる。漏出性発現はおそらく宿主RNAポリメラーゼの転写によるであろう。
従って、yefM及びyoeBを含む2つのpETベクターの同時導入により形質転換体が生育することができた。これらのデータは、大腸菌のB由来株はYefM−YoeBと同属のアンチトキシン−トキシン遺伝子を持っていないか、又はその発現量が極めて低いためにpETベクターからのトキシンの漏出性発現を抑制することができないと考えられる。
質量分析によれば、精製された組換えYefM−YoeB複合体は、YefMの10〜92番目のアミノ酸からなるより短い翻訳産物を含む。YefMの推測された最初の9アミノ酸残基は、図1に示した関連するアンチトキシンの何れにも類似せず、これら9アミノ酸残基をコードするDNAにはシャイン−ダルガルノ(SD)様配列が存在することから、短縮型は完全長YefMと機能的に同等であると思われる。YefM−YoeB複合体の構造は、多波長異常散乱法を用いたX線回折により2.05Åの分解能で決定された。イソプロパノール及びPEG結晶化条件から得られた2種類のYefMを含まないYoeB結晶型の構造は、それぞれ1.77及び2.05Åの分解能で決定された。これらの結晶学的解析統計値を表2に示した。

[YefM−YoeBヘテロ三量体の構造]
YefM−YoeBヘテロ三量体は1つのYoeBと、2つのYefMを含む(図2参照)。図2は、立体構造を形成したC末端と無秩序なC末端を持つ非対称なYefMホモダイマーがYoeBモノマーに結合したリボン図を、YefMのN末端側の2回回転軸に垂直な方向から示したものである。それぞれのモノマーのN及びC末端及び二次構造を表示した(は、無秩序なC末端を有するYefMプロトマーを示す)。ゲルろ過実験によれば、この複合体の溶液中での形態は分子量約30kDaであることが示され、ヘテロ三量体構造と化学量論的に一致する。非対称的なYefM−YoeBヘテロ三量体は伸長した形(60×35×35Å)である。2つのYefM単量体のN末端領域は対称的な2量体を形成する(図2のS1からH3及びS1からH3参照)。1つのYefMのC末端領域(H4からS4)がN末端側の2量体から伸長して球状のYoeB単量体と排他的に結合している(図2参照)。もう一つのYefMのC末端領域は構造的に無秩序である。YefMホモ2量体とYoeBとの結合間溶媒排除面積は3300Åである。
[複合体中のYoeBリボヌクレアーゼフォールド]
YoeBは、5つのβ−シート鎖と2つのα−ヘリックスからなり、全体が30×30×20Åのコンパクトな球状の構造を形成する(図2参照)。図3Aは、YefM結合又は非結合型のYoeB及びバルナーゼ(Barnase)並びにリボヌクレアーゼSaのα炭素を重ね合わせて表示したものである。低いZ−スコアと低い配列の同一性にもかかわらず、DALIサーバを用いた立体構造相同性検索によれば、YoeBはストレプトミセス・オーレオファシエンス由来のリボヌクレアーゼSa(PDBコード1RGE、根二乗平均偏差(rmsd)=2.6Å、53個の均等なα−炭素対、6%の配列同一性、Z−スコア=2.7)、及びバチルス・アミロリキファシエンス由来のバルナーゼ(Barnase)(PDBコード1B20、rmsd=2.1Å、52個の均等なα−炭素対、13%の配列同一性、Z−スコア=2.7)に対して構造類似性を有することが明らかとなった(図3A)。分子全体の大きさが異なるにもかかわらず、これらのタンパク質の間ではβ−シートの相対的な配向が極めて類似していた。図1Bに示した複数のトキシンのアミノ酸配列を比較すると、他の系統発生学的に関連するトキシンも構造的に類似していることが確認される。ところが、アミノ酸配列に基づく比較ではYoeB及びその相同体トキシンがリボヌクレアーゼフォールドを含むことを予測することができなかった。本発明者らの見出したYoeBの立体構造は、これまでに決定されている微生物リボヌクレアーゼの構造に比べて、推定活性部位からC末端ペプチド領域を欠失したコンパクトなフォールド(折りたたみ構造)を有することが明らかとなった。
微生物のリボヌクレアーゼの反応機構は、一般的酸塩基触媒基としてヒスチジン及びグルタミン酸残基が関与するが、一方、アルギニン残基は反応性リン酸との結合に重要である。図4は、YoeBと結合したYefMホモダイマーの配列の保存性(A)、YefMペプチドと結合したYoeBモノマー(B)、YefMホモダイマー(C)、及びYoeBモノマー(D及びE)の表面静電ポテンシャルを示す。YoeB表面におけるこのトキシンファミリーの相同性検索の結果、いくつかの高度に保存された残基がクラスターを形成してYefMとの結合により隠されることが明らかとなった(図4B参照)。この領域には、リボヌクレアーゼ活性に潜在的に必要な残基が集中しているが、リン酸結合候補である不変のArg65を除いて局所的に変動している(図3A参照)。一般的塩基残基であるグルタミン酸の典型的な位置は、ねじれたβ−シートの内部に位置する(図3A参照)。しかしながら、YoeB構造においては、Ser57がこの位置を占め、保存されたグルタミン酸(Glu46)は隣接鎖であるS2シートに側鎖が溶媒と接して存在する(図3A参照)。さらに、一般的酸候補であるHis83を含むYoeBのC末端の3つのアミノ酸の立体配座は後方に折りたたまれている。これらの変動の結果、微生物リボヌクレアーゼに見られる典型的な一般的酸塩基基間の距離(約21Å)よりも、約3倍も大きくなっている(図3A参照)。
[YefM2量体のN末端側の対称構造とC末端側の柔軟なペプチド]
YefMホモ2量体は、2つの伸長したC末端領域(1つは一定の構造を有し、他は無秩序な)と共にN末端側の球状の構造を形成する(図2参照)。2量体のN末端側の領域は全体で35×35×50Åの大きさの対称構造を形成する。1つの疎水的なコア(芯)は、6つのβ−鎖(S1−S2−S3−S3−S2−S1)からなり、それぞれの単量体からの2つのα−ヘリックス(H1、H2及びH1、H2)によって連結されている。それぞれの単量体からのH3ヘリックスもまた疎水的な相互作用に関与している。2つのH3ヘリックスは、65°の角度で交差し、平行なコイルドコイル構造とは異なり、この配置によってそれぞれのヘリックスから突き出したTyr54残基の大きな芳香族側鎖を収容する中央の空間が形成される(図5A参照)。YefMのホモ2量体の形成により覆い隠される溶媒排除面積は2670Åである。YefM単量体の2つのN末端領域を重ね合わせると54個の等価なα−炭素のペアについて1.4Åのrmsdを与えた。このN末端領域と構造的に相同な他のタンパク質は検索により見出されなかった。図1Aに示した一次構造の比較から、このアンチトキシンファミリーの他のメンバーはYefMと同じホモ2量体構造をとることが示唆される。YefM分子表面におけるこのアンチトキシンファミリーの配列相同性を示すと、YoeBモノマーと結合する領域において高度に保存されていることが分かった(図4A参照)。単離されたYefMの表面静電特性を計算すると、有意な配列保存性を示す塩基性部分(図4A及び4Cの円内)を除いて、N末端の2量体は高度に酸性であることが分かる(図4C)。YoeBとの結合表面は酸性のH3ヘリックスとC末端、及び中性のH4ヘリックスによって形成される(図4C参照)。
[非対称性のYefMによるYoeBの認識]
YefM−YoeB複合体において、YefM2量体の1つのC末端ペプチドはYoeBとの結合に関与しているが、もう1つは溶媒中に突き出ている(図1A及び図2参照)。この違いは、H3ヘリックスの端からC末端までのポリペプチド領域は、結合相手がないときはランダムコイルとなることを示し、YoeBとの結合に際して無秩序から秩序への移行が行われている。
図5は、YoeBのS2−S3ループ領域と結合したYefMのH3ヘリックスのコイルドコイル領域(A及びB)、YoeBの疎水性の窪んだ表面に結合したYefMの両親媒性H4ヘリックス(C)、並びにYoeBの背部表面上のYefMのS4β−鎖からC末端領域を示す。YefM2量体のN末端側の対称性と自由なC末端は、理論的には第二のYoeBを収容できるかもしれないが、1つのYoeB単量体の結合は第二のH4領域の立体構造を形成させない。H3コイルドコイル領域の末端を調べると、YoeBに対するH4ヘリックス形成はN末端側2量体の2回回転軸に向かって17°傾いていることが分かる(図5B参照)。従って、2つのH4ヘリックスの配向は平行にならないため、他のYoeB結合によるH4ヘリックスの形成は立体的に邪魔される。その結果、YoeBと結合しないH4領域は無秩序となり、H4は構造を形成してH3ヘリックスに対して80°の角度で配向する(図5A及び5C参照)。H4ヘリックスの形成はH3コイルドコイル領域がYoeBと結合するのと同時に起こるであろう。H3及びH4ヘリックスによって形成されるL型ターンは、Leu63、Leu64、Ala70、Leu73及びMet74からなる局所的な疎水性のクラスターによって保持される(図5C参照)。H3ヘリックスの無秩序な端にあるLeu63の側鎖もまたこの疎水性相互作用に寄与する(図5B)。結論として、YoeBモノマーに対して非対称的なYefM2量体の構成は、2:1複合体の形成に必須である。
YefM2量体によるYoeBモノマーの認識は2つの部位で起こる。主要な部位は、YoeBのS2−S3ループを引っ掛けるYefMのL型ターンである(隠された溶媒排除面積=2300Å、図5C)。S2−S3ループはYefMのL型ターンを安定化するLeu48とLeu52残基を含む。YoeBはねじれたβ−鎖によって形成される窪んだ表面を提供し、ここには疎水性の残基(Phe55、Val67、Leu76、及びAla78)が露出されている。ここに、系統的に保存されているLeu73、Met74、Ile77及びLeu80残基を提示する両性のH4ヘリックスとの間でかなり多くの分子間ファンデアワールス相互作用が存在する(図1A及び図5C参照)。広範囲にわたる疎水性相互作用に加えて、H3ヘリックス上のSer56及びThr60の側鎖はS2−S3ループ中の主鎖の残基と水素結合を形成する。H3ヘリックスはH3ヘリックスを安定化するだけでなくYoeBとの結合にも寄与している(図5A及び図5B)。Tyr62残基はYoeBnoHis50及びAsn51の側鎖と相互作用する(図5B参照)。
YefMのC末端領域の残りは、YoeBの背後を横切り、広範囲で接触する伸長したβ−鎖となっている(隠された溶媒排除面積=1000Å、図5D)。YefMのH4ヘリックスの86〜88番目の残基は、連続したβ−鎖を形成するYoeBのS1β−鎖と隣接する。YoeBの背面表面は3つのN末端二次構造(S1、H1及びH2)によって構成される(図5D)。疎水性残基(Leu3、Ile4、Trp5、Trp10及びTyr13)はこの領域の中心に位置し、塩基性残基(Lys2、Lys21、Lys25、Lys32及びArg35、図4E)に囲まれている。YefMのIle90及びIle91の側鎖がこの疎水性パッチをファンデアワールス接触により相補し、酸性残基(C末端のカルボキシル基と共にGlu87、Asp89及びGlu92)が水素結合及び塩橋によりこれらの塩基性を中和している(図5D)。
[YoeBのC末端尾部の立体配座の変化]
YefM非結合YoeB構造の決定によって、YefMとの結合によりYoeBのC末端の3つの残基の機能的な立体配座の変化が明らかとなった。図6Aは、YefMと結合したYoeB活性中心の立体配座を示したものである。3つの残基のペプチド領域は、リボヌクレアーゼSaなどの微生物リボヌクレアーゼの活性中心に見られる立体配座へと明らかに変化している(図3A)。この3つのC末端アミノ酸を除けば、イソプロパノール及びPEG結晶の両方から得られたYefM非結合YoeB構造は基本的にYefM結合型と同一である(平均rmsd=0.67Å、1〜81番目のα−炭素対、n=10分子)。
図6Bは、YefM非結合型YoeBの立体配座を示す。YefMの構造をYefM非結合型YoeB構造と重ね合わせると、YoeBのHis83のイミダゾール基とYoeBのC末端のTyr84の位置が、それぞれYefMのTyr62の側鎖及びH4ヘリックスによって占められていることが分かる(図6B)。YefM非存在下ではYoeBのTyr82の側鎖はArg81の側鎖の近くに並置しており、Tyr15によって支持されている(図6B)。複合体の構造中では、YoeBのTyr82の位置がYoeBのHis83残基に向けて変化し、His83は反対側へ移動している(図6A)。その結果、YoeBのTyr82がYefMのTyr62の芳香環と積層する。このチロシン残基の積層は、それぞれの水酸基と相手方の主鎖のカルボニル基との2つの水素結合によって安定化される(OH/Tyr82/YoeBとO/Tyr62/YefM、及びOH/Tyr62/YefMとO/Glu63/YoeB)(図6A)。この積層する相互作用下において、YefMのGlu59の側鎖はYoeBのArg65の側鎖と対をなす水素結合を形成し、その結果三層構造が形成される(図4C、4D及び6A参照)。微生物リボヌクレアーゼにおいてこの位置(Arg65)に相当するアルギニン残基は反応性のヌクレオチドリン酸基との結合に決定的に重要である。興味深いことに、系統発生学的に保存されたYefMのGlu59残基は該リン酸基を擬態しているように思われる(図6A)。Glu59の導入と安定化の結果、触媒反応の一般的塩基候補である近傍のYoeBのGlu46残基が立体的な反発により立体配座の変化を強いられる(図3A)。
反転したYoeBのHis83側鎖は、YoeBファミリーの中で高度に保存されているAsp12と水素結合を形成する(図6A)。His83のイミダゾール環はYefMのArg72のグアニジウム基とYoeBのArg81の脂肪族部分の間に挟まれている。Arg81のグアニジウム基は近傍のYoeBのTyr15と積層し、少し曲がった4層構造となって安定化する(図4C、4D及び6A)。YoeBの表面には反転したHis83がYefMアンチトキシンと相互作用して安定化するための空間がある。YoeBのHis83の主鎖は、YefMのH3とH4ヘリックスの間の連結部につながれ、His83のアミノ基及びカルボニル基は、それぞれYefMのAsn69及びSer66の側鎖と水素結合する(図6A)。
複合体中においては、YoeBのC末端Tyr84は溶媒中に突き出し、Tyr82の端近くに存在して、YefMと接触することなくYoeBのGlu63側鎖と水素結合している(図6A)。YefM非結合型YoeBの構造は、Arg81のカルボニル基、並びにGlu8、Asp12及びC末端のカルボキシル基により構成されるC末端の背面の極めて負電荷なポケットを形成する(図4D)。PEG結晶型からのYoeB構造は、このポケットに6水和マグネシウムイオンを有し、酸性の環境を中和している(図6B)。複合体型では、YefMのArg72とYoeBのHis83がこのポケットの酸性電荷を相補しているため(図4C及び4D)、この負に荷電した環境もヘテロ3量体形成によって誘導される立体配座の変化に寄与していることが示唆される。従って、YoeBによる安定化とYoeB触媒部位の直接的障害の組み合わされた効果が、この複合体の構造を支持しており、これらの分子機構は該トキシン−アンチトキシンファミリーの間で保存されていることを示唆する。
[生化学的方法を用いたYefM及びYoeBタンパク質の結合と毒性抑制の相関に関する解析]
YefMのC末端領域へのYoeB結合を生化学的に解析するために、野生型YoeBとGST融合YefM欠質変異体を用いてGST−プルダウンアッセイと毒性抑制テストを行った(図7A及び7B参照)。すなわち、野生型及び切断型変異体をコードするyefMのDNA断片をプラスミドpGEX−6p−1(アマシャム社)にサブクローン化し、塩基配列を確認した。これらのGST−YefM融合タンパク質及びGSTを大腸菌BL21株で発現させ、グルタチオンセファロースで精製した。15μl容量の樹脂に固定化された各GST融合タンパク質は、50μlの緩衝液(50mMトリス塩酸pH7.5,250mMのNaCl)中で、リフォールドされたYoeB(100μg)を加え平衡化し、4℃で1時間インキュベートし、同緩衝液で3回洗浄した。樹脂に結合したタンパク質を15%SDS−PAGEで分離し、クーマシーブルー染色で可視化した(図7B、レーン1:YoeB無添加のGST、レーン2:YoeB添加のGST、レーン3〜12:各レーンの上部に表示したように、GSTと融合した野生型及び切断型YefM変異体にGSTを添加したもの)。
YoeBの毒性テストのために、PCRにより作製したyoeB変異体の全ての構築物をpET−11aベクター(ノバジェン社)にクローン化した。作製した種々のプラスミドを200μg/mlのアンピシリンを含むLBプレート上にてBL21株及びBL21(DE3)株へ形質転換した。切断型yefM変異体を用いた抑制試験のために、野生型yoeB遺伝子をpACYCベクター(P15Aオリジン)のT7プロモータの制御下に再クローン化した。2つのプラスミド、すなわち、pACYC中の野生型yoeBと、pGEX−6p−1中の野生型又は変異体yefMを、200μg/mlのアンピシリン及び20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLBプレート上にてBL21株へ同時形質転換した。37℃にて12時間インキュベートし、生存度を評価した。図7Aは、N末端にGST−タグを融合させた野生型及び切断型YefMの模式図と、yoeBとの同時形質転換による生存度を○又は×で示したものである。同時形質転換により生存するもの(○印)は、YoeBの毒性を抑制すると考えられる。
YefMのC末端領域はYoeBと結合し(図7Bのレーン10参照)、YoeBの毒性を抑制した(図7A)。一方、YefMのN末端側の断片は、YoeBと結合せず(図7B、レーン5及び6参照)、またYoeBの毒性も抑制しなかった。YefMのH4ヘリックス(67〜83番目のアミノ酸残基)はYoeBに対する弱い親和性を示したが(図7B,レーン12、野生型の45%)、YoeBの毒性は抑制しなかった(図7A参照)。しかしながら、H4ヘリックスを含むC末端側領域のより大きな断片はYoeBと結合し、YoeBの毒性中和に十分であった(図7A、図7B、レーン9及び11参照)。興味深いことに、YefM73CについてはYoeBとの結合もコロニーの形成も検出できなかった(図7B、レーン8)。これは、H4ヘリックスの67〜73番目のアミノ酸残基がYoeBとの結合及び毒性抑制に必須であることを示唆する。これらの知見は、YefMのH3ヘリックスからH4ヘリックスまでのL型ターンがYoeBの活性部位と直接結合しているという複合体の構造と一致している。
[YoeBのリボヌクレアーゼ活性及び基質特異性]
試験管内におけるYoeBのリボヌクレアーゼ活性及びYefMによるその阻害は、次のようにして測定した。T7プロモータとyefM遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅によって得た。yefMのmRNAはT7-MEGAshortscriptキット(アンビオン社)を用いて試験管内で合成した。消化反応混合液(10μl)は、約350塩基のyefMmRNA基質320ngと、異なる量のYoeB及び/又はYefMと、50mMトリス塩酸(pH7.0)とを含む。反応は、37℃で1時間行い、10μlのシークエンシングロードバッファーを添加することによって停止した。サンプルを95℃で3分間インキュベートした後、TBEバッファーと共に2μg/mlのエチジウムブロマイドを含む1.2%未変性アガロースゲルで電気泳動を行った。図7Cのレーン1は対照;レーン2〜4は、RNAとそれぞれ5、2.5又は1μMのYoeB;レーン5はRNAと1μMのYefM;レーン6〜8はRNAと1μMのYoeBと、それぞれ1、2又は3μMのYefMとをインキュベートしたものである。図7Cに示したように、試験管内で合成されたRNAは折りたたまれたYoeBとインキュベートすることによってより小さな断片に分解された(レーン2〜4)が、等モル量のYefM(10〜92アミノ酸残基)の添加によりRNAの分解がほとんど阻害された(図7C、レーン6〜8)。YefM単独ではRNA分解に影響なく(図7C、レーン5)、また、Mg2+の存在も活性に影響を与えなかった。これらの結果は、YoeBは細胞質におけるリボヌクレアーゼであり、YefMはYoeBのリボヌクレアーゼ活性を阻害するアンチトキシンとして作用することを示している。
YoeBの酵素活性に必須な残基を同定するために、上記結晶構造に基づいて部位特異的変位導入を行った。YoeBの毒性がそのリボヌクレアーゼ活性と関連しているならば、酵素活性を減弱する変異体は形質転換大腸菌株の生存度を評価することによって確認できるであろう。その結果、YoeBの毒性にとってGlu46、Arg65、His83及びTyr84残基が必要であることが分かった。5つの変異体酵素のリボヌクレアーゼ活性を測定したところ、R65A及びH83Q変異体は完全にリボヌクレアーゼ活性を消失していた(図7D、レーン5〜8)。この表現型及び立体構造上の特性から考えて、Arg65はリン酸基との結合に関与し、His83は触媒反応における一般的酸として機能しているであろう。Y84F及びY84A変異体は、リボヌクレアーゼ活性がそれぞれ減弱及び消失しており(図7D、レーン9〜12)、YoeBの末端残基が触媒機構に必須であることを示す。E46A変異体は低い活性を保持するが、Glu46はおそらく反応の一般的塩基として作用する(図7D、レーン3及び4)。他のリボヌクレアーゼについての変位導入実験においても、この一般的塩基の他のアミノ酸への置換は低い活性を保持することが報告されており、この反応の第一段階であるプロトン脱離反応は隣接する残基によって部分的に代替されると思われる。
YoeBがRNAを切断する正確な配列を決定するために、YoeBにより分解されたmRNAを用いてプライマー伸長実験を行った(図7E及び7F)。切断は、主としてアデニン(A)又はグアニン(G)ヌクレオチドの3’末端側で起こった。アデニンがグアニンに優先して認識された。yefMのmRNA中のAGに富む配列(SD様配列)は特に感受性が高かった(図7F)。これらの結果より、YoeBは試験管内においてプリン塩基特異的なエンドヌクレアーゼであることが結論付けられた。
YefM及びYoeBファミリーのアンチトキシン(A)及びトキシン(B)のアミノ酸配列の並列化(アライメント)を示す。 YefM−YoeBヘテロ3量体複合体の立体構造を示すリボンモデル図である。 YoeB及びその類似タンパク質の立体構造を示すモデル図である。 YefM及びYoeBの表面特性を示すモデル図である。 YefMとYoeBの間のタンパク質−タンパク質相互作用を示すモデル図である。 YoeB活性部位のコンフォメーション変化を示すモデル図である。(A)YefM結合型構造(B)YefM非結合型構造。黒と灰色で示したYefMは比較のために示した。(C)RNAが切断されるときの活性部位のモデル図。 YoeBのヌクレアーゼ活性及びYefMの阻害作用を示す模式図及び実験結果である。

Claims (11)

  1. 細菌の染色体又はプラスミドDNAにコードされたトキシン及びアンチトキシンタンパク質と、候補化合物とを接触させて、トキシン−アンチトキシン複合体が形成されるか否かを検出することを含み、
    前記複合体の形成を阻害する候補化合物が、前記細菌の増殖阻害剤であることを示唆することを特徴とする、抗生物質のスクリーニング方法。
  2. 前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質が、MazE−MazFファミリー、YefM−YoeBファミリー、又はYafN−YafQファミリーから選択される一対の中毒モジュールタンパク質である請求項1に記載の方法。
  3. 前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質が、それぞれ大腸菌のYoeB及びYefMタンパク質、若しくはその相同体、又はその誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記相同体は、シュードモナス・フルオレッセンスのPfl−K及びPfl−I、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのAtu−K及びAtu−I、エンテロコッカス・ファシエンスpRUMプラスミド由来のTxe及びAxe、ミコバクテリウム・ツベルキュロシスのMtu−K及びMtu−I、シュードモナス・プチダのPpu−K及びPpu−I、並びにスタフィロコッカス・オーレウスのSau−K及びSau−Iを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
  5. 前記誘導体は、前記アンチトキシンタンパク質のカルボキシ末端側の2つのα−ヘリックス領域からなるポリペプチドを含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
  6. 前記ポリペプチドは、配列番号1に示したアミノ酸配列の51〜83番目のアミノ酸残基からなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
  7. 前記トキシン−アンチトキシン複合体は、1つのトキシンタンパク質と、2つのアンチトキシンタンパク質からなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
  8. (a)細菌のトキシン及び/又はアンチトキシンの三次元立体構造座標を用意し、前記トキシン及び/又はアンチトキシンの三次元立体構造又はその部分を、コンピュータモデルを用いて構築する工程、
    (b)前記三次元立体構造に基づいて、前記トキシン又はアンチトキシンに結合する候補化合物を設計又は選択する工程、
    (c)前記設計又は選択された候補化合物を合成又は取得する工程、及び
    (d)前記候補化合物が前記トキシン−アンチトキシン複合体の形成を阻害するか否かを調べるために前記候補化合物と前記トキシン及びアンチトキシンとを接触させる工程、
    を含むことを特徴とする、抗生物質のスクリーニング方法。
  9. 前記工程(b)は、トキシン−アンチトキシン複合体と、アンチトキシンと結合していないトキシンの立体構造を比較して前記候補化合物の結合部位を推定することを特徴とする請求項8に記載の方法。
  10. 前記工程(d)は、前記トキシン及びアンチトキシンタンパク質を発現するプラスミドにより形質転換された形質転換体を用意し、前記形質転換体と前記候補化合物とを接触させて前記形質転換体が増殖するか否かを検出することを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
  11. 配列番号1に示したアミノ酸配列の51〜83番目のアミノ酸残基からなる単離されたポリペプチド、又は前記ポリペプチドの1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ大腸菌のYoeBタンパク質と結合してリボヌクレアーゼ活性を阻害する作用を有するポリペプチド誘導体。
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