以下に、本願の開示する電波方向推定装置、及び電波方向推定方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する電波方向推定装置、及び電波方向推定方法が限定されるものではない。
まず、本実施例に係る電波方向推定装置の構成を説明する。図1は、本実施例に係る電波方向推定装置10の機能構成を示す図である。電波方向推定装置10は、第1パッチアンテナ11と、第2パッチアンテナ12と、回転制御部13と、通信部14と、RSSI値保持部15と、パケット受信数計数部16と、電波方向推定部17とを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に、信号やパケットの入出力が可能なように接続されている。
第1パッチアンテナ11は、所定方向に指向性を有する垂直偏波パッチアンテナであり、全方位(0〜360°)の垂直偏波の電波を受信する。第2パッチアンテナ12は、第1パッチアンテナ11と同等の利得特性と指向性を有する。第2パッチアンテナ12は、第1パッチアンテナ11と所定の設置角度(例えば、90°)を為し、上記電波を受信する。これら2枚のパッチアンテナ11、12は、双方の利得が同一となる角度(受信利得境界点)を有する一対のアンテナである。
回転制御部13は、上記設置角度を維持しながら、第1パッチアンテナ11と第2パッチアンテナ12とを回転させる。回転角度は、電波の受信方向と同様、全方位であるが、その一部であってもよい。回転制御部13は、後述する電波方向推定部17により推定された上記電波の到来方向が、パッチアンテナ11、12の最大利得(ゲイン)方向となるように、第1パッチアンテナ11と第2パッチアンテナ12とを回転させる。
通信部14は、第1パッチアンテナ11と第2パッチアンテナ12とにより受信された各電波の受信強度(RSSI:Received Signal Strength Indication)を測定し、測定結果をRSSI値保持部15に保持させる。また、通信部14は、送受信アドレスの指定や外部装置(例えば、後述のパケット送信装置20)とのパケット通信を行う。
パケット受信数計数部16は、RSSI値保持部15に保持されているRSSI値を参照し、各回転角度における、パッチアンテナ11、12毎のパケット受信数を計数する。パケット受信数計数部16は、パケット受信数を計数するに際し、パッチアンテナ11、12の内、受信された電波の強度が大きい値を示すアンテナがパケットを受信したとして、当該アンテナのパケット受信数に計上する。電波方向推定部17は、パケット受信数計数部16により計数された上記パケット受信数の変化率が最大となる回転角度を、電波の到来方向と推定する。
次に、電波方向推定装置10のハードウェア構成を説明する。図2は、電波方向推定装置10のハードウェア構成を示す図である。図2に示すように、電波方向推定装置10は、プロセッサ10aと、第1アンテナ装置10bと、第2アンテナ装置10cと、RF(Radio Frequency)回路10dと、記憶装置10eと、入力装置10fと、表示装置10gとが、バスを介して各種信号やデータの入出力が可能なように接続されている。プロセッサ10aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)である。記憶装置10eは、例えば、HD(Hard Disk)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置の他、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等のRAMを含む。また、入力装置10fは、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルにより構成され、表示装置10gは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、ELD(Electro Luminescence Display)により構成される。
図1に示した電波方向推定装置10の機能的構成要素の内、第1パッチアンテナ11と第2パッチアンテナ12とはそれぞれ、ハードウェアとしての第1アンテナ装置10bと第2アンテナ装置10cとにより実現される。回転制御部13とパケット受信数計数部16と電波方向推定部17とは、ハードウェアとしてのプロセッサ10aにより実現される。通信部14は、ハードウェアとしてのRF回路10d及びプロセッサ10aにより実現される。RSSI値保持部15は、ハードウェアとしての記憶装置10eにより実現される。
続いて、図3、図4を参照して、本実施例に係る各アンテナ装置10b、10cの構成と利得特性との関係を説明する。図3は、電波方向推定装置10の有する各アンテナ装置10b、10cの概略構成を示す図である。図3に示すように、アンテナ装置10b、10cは共に、平板状のパッチアンテナであり、各アンテナ装置が90°の設置角度を為すように構成されている。2つのアンテナ装置10b、10cは、必ずしも同一の構成を有する必要はないが、電波到来方向の推定精度を向上する観点から、同様の利得特性や指向性を有することが望ましい。また、設置角度についても、必ずしも90°(直角)である必要はない。すなわち、電波到来方向を所定の精度で推定可能な角度、換言すれば、有効な受信利得境界点が生じ得る角度であればよい。なお、有効な受信利得境界点が生じ得る角度は、アンテナ装置10b、10cの設置角度α=45〜135°程度であり、この範囲内の角度であれば、本実施例と同等の効果が得られることが実測結果により確認されている。
図4は、電波方向推定装置10の有する各アンテナ装置10b、10cの利得特性を回転角度θ毎に示す図である。図4では、全方位0〜360°の角度方向に放射状に利得(ゲイン)が規定されている。第1アンテナ装置10bの角度毎の利得を実線L1に示し、第2アンテナ装置10cの角度毎の利得を破線L2に示す。図4に示すように、第1アンテナ装置10bは、角度d1(例えば、約174°)において利得の最大値(3.736dBi)をとり、第2アンテナ装置10cは、角度d2(例えば、約82°)において利得の最大値(3.216dBi)をとる。このように、各アンテナ装置10b、10cの最大利得角度はそれぞれ異なる値をとるが、利得特性としては、対称性を有するため、電波方向推定装置10は、各利得特性の境界点を知ることで、電波方向を精度良く推定することができる。図4に示す例では、各アンテナ装置10b、10cの利得が同一となる交点c1が、上述の受信利得境界点となる。図4では、受信利得境界点に対応する角度θtは、約146°であるので、電波方向推定装置10は、この角度の示す方向を、アンテナ装置10b、10cの境界方向である最大利得方向、すなわち電波到来方向と推定することが可能である。
次に、電波方向推定装置10の動作を説明する。図5は、本実施例に係る電波方向推定装置10の動作の前半部分を説明するためのフローチャートである。
まずS1では、電波方向推定処理の前提処理として、プロセッサ10aは、アンテナ装置10b、10cに対応する受信モジュールM1、M2及びアンテナ回転機構を初期化する。併せて、プロセッサ10aは、アンテナ装置10b、10cの回転角度θ及びAを初期値である“0”に設定し、ステップ値を初期値である“2°”に設定する(S2)。ステップ値は、1回の回転当たりに回転機構がアンテナ装置10b、10cを回転させる角度を表す。なお、ステップ値は、電波到来方向の推定精度を維持するため、推定に要する時間の実効性を確保可能な範囲内で極力小さい値であることが望ましいが、必ずしも全方位において同一の値であることを要しない。
S3では、プロセッサ10aは、現時点における回転角度θの値が360°であるか否かの判定を行う。判定の結果、回転角度θ=360°でない場合(S3;No)、プロセッサ10aは、回転角度θをA+ステップ値(2°)に設定すると共に、Aを回転角度θに設定する(S4)。初回のループでは、Aの初期値は0に設定されていることから、回転角度θ=2°となる。また、この回転角度θがAにも設定されるため、初回のループではA=2°となり、次回以降のループでは、このAの値に、ステップ値である2°が順次加算される。これにより、回転角度θは2°単位で増加し、A=θ=360°となった時点で、全方位のデータ取得が完了するため、上記ループは終了する。
図6は、回転角度θの変更に応じて、各アンテナ装置10b、10cの向きが変化する様子を示す図である。図6に示すように、電波方向推定装置10の第1アンテナ装置10b及び第2アンテナ装置10cは、電波方向推定装置10宛のパケットを送信するパケット送信装置20と、例えば約1mの距離を空けて設置される。パケット送信装置20は、所定の送信元アドレスからの送信電波の信号を随時発信することで、1回転角度当たり2000個のパケットを、電波方向推定装置10に繰り返し送信する。送信電波の周波数は、例えば953MHzであり、電波強度は、例えば1dBmである。2つのアンテナ装置10b、10cの回転角度θは2°単位で変更されるため、RSSI値の測定は、各受信モジュールM1、M2により、図6に示す過程(45°〜225°)を経て実行される。
図5のS5では、プロセッサ10aは、S4で設定された回転角度θの各アンテナ装置10b、10cにつき、N個分のRSSI値を取得し、記憶装置10eに記憶させる。Nは、自然数である。Nは、要求される精度に応じて任意の値を設定可能であるが、電波到来方向の推定に関し、所定の精度を確保するため、20以上の値であることが好ましく、例えば、N=2000程度の値が好適である。
図7に移り、S11では、プロセッサ10aは、受信パケットを識別するためのパケット番号Sの初期値としてS=1を設定する。Sは1〜Nの自然数をとるため、S=1が初期値となる。S11では、Sの初期化に併せて、プロセッサ10aは、第1アンテナ装置10bによるパケット受信数PK1と、第2アンテナ装置10cによるパケット受信数PK2とに、それぞれ初期値である“0”を設定する。これにより、PK1=PK2=0となる。次に、プロセッサ10aは、図5のS5で記憶装置10eに記憶された、現在のパケット番号SのRSSI値の大小関係を比較する(S12)。RSSI値の比較は、例えば、アンテナ装置10bに対応する受信モジュールM1の取得したRSSIの最大値と、アンテナ装置10cに対応する受信モジュールM2の取得したRSSIの最大値とを比較することにより行われる。
プロセッサ10aは、第1及び第2アンテナ装置10b、10cの内、RSSI値が大きい値をとるアンテナ装置によりパケットが受信されたものと判定する。すなわち、S12における比較の結果、受信モジュールM1のRSSI値が受信モジュールM2のRSSI値よりも大きい場合(S13;Yes)、プロセッサ10aは、アンテナ装置10bに対応する受信モジュールM1によりパケットを受信したものと判定する(S14)。そして、プロセッサ10aは、パケット受信数PK1に1を加算する。これに対して、受信モジュールM1のRSSI値が受信モジュールM2のRSSI値以下である場合(S13;No)、プロセッサ10aは、アンテナ装置10cに対応する受信モジュールM2によりパケットを受信したものと判定する(S15)。そして、プロセッサ10aは、パケット受信数PK2に1を加算する。
パケット受信数PK1またはPK2の更新が完了すると、プロセッサ10aは、S11で設定されたSの値をS+1とし(S16)、更新後のSと現在のNとの大小関係を比較する(S17)。比較の結果、S>Nである場合(S17;Yes)には、図5のS3に戻り、プロセッサ10aは、S3以降の処理を実行する。一方、S≦Nである場合(S17;No)には、図4のS12に戻り、プロセッサ10aは、次のRSSI値を比較するため、S12以降の処理を実行する。したがって、例えばN=2000の値が設定されている場合には、S12〜S17の一連の処理が2000回繰り返して実行される。
図5に戻り、回転角度θが360°に達した時点で、一連の電波方向推定処理を終了する。すなわち、上記S3における判定の結果、回転角度θ=360°である場合(S3;Yes)、プロセッサ10aは、全方位におけるパケット受信数変化率の取得が完了したものとして、一連の処理を終了する。
図8は、各アンテナ装置10b、10cの回転角度θ毎のパケット受信数及びその変化率の一例を示す図である。上述したように、各パケットは、アンテナ装置10b、10c間の大小比較の結果、RSSI値が大きい方のアンテナ装置により受信されたものとして、その受信が、記憶装置10eに形成されたパケット受信数格納領域10e−1に計上される。本実施例では、1回転角度である2°当たりの総パケット受信数は2000であるので、この2000の受信パケット数が、何れかのアンテナ装置10b、10cに対応する格納領域(図8のPK1領域、PK2領域)に振り分けられる。
電波方向推定装置10は、回転角度θ=138°程度迄は第2アンテナ装置10c側で電波を受信し易く、138°を過ぎた辺りから、第1アンテナ装置10b側で電波を受信し易くなるという特性を有する。したがって、回転角度θ=130°〜134°では、全ての送信パケットが第2アンテナ装置10cにより受信される。このため、図8に示すように、PK1領域のパケット受信数は“0”であり、PK2領域のパケット受信数は“2000”である。ところが、回転角度θの増加に伴い、PK1領域のパケット受信数も増加する。特に、第1アンテナ装置10bと第2アンテナ装置10cとの境界である、回転角度θ=136〜142°付近において、パケット受信数は急激に変動する。回転角度θ=140°に至るまでは第2アンテナ装置10cよりも少なかった第1アンテナ装置10bでのパケット受信数は、140°にて逆転し、その後は、第1アンテナ装置10bでのパケット受信数が第2アンテナ装置10cを上回る。そして、回転角度θ=144°以降は、各領域内のパケット受信数は完全に逆転し、PK1領域のパケット受信数は“2000”、PK2領域のパケット受信数は“0”となる。
パケット受信数変化率h1、h2は、パケット受信数の増減値△PK1、△PK2を、回転角度の増加値△θでそれぞれ除算した値の絶対値をとることにより算出される。このため、各回転角度における総パケット受信数が一定(2000)であり、かつ、回転角度の増加値が一定(ステップ値2°)である本実施例では、パケット受信数の逆転が生じた回転角度θにおいて、パケット受信数変化率h1、h2は最大値をとる。このパケット受信数変化率h1、h2が最大値をとる回転角度θが、アンテナ装置10b、10c間の受信利得境界点に対応する角度θt、すなわち電波の到来方向と推定することができる。図8では、パケット受信数変化率h1=│△PK1/△θ│は、回転角度θ=140°において最大値427をとるため、本実施例では、140°の方向が電波到来方向と推定されることとなる。
図9は、電波方向推定装置10の有する各アンテナ装置10b、10cのパケット受信率を回転角度θ毎に示す図である。図9では、全方位0〜360°の角度方向に放射状にパケット受信率(単位は%)が規定されている。第1アンテナ装置10bの角度毎のパケット受信率を実線L3に示し、第2アンテナ装置10cの角度毎のパケット受信率を破線L4に示す。ここで、パケット受信率は、実際に受信されたパケットの数をパケット受信の試行回数により除算した値である。図4に示すように、アンテナ装置10b、10cにより受信可能な回転角度θの略全域(例えば、約45°〜225°)において、何れかのアンテナ装置のパケット受信率が100%の値をとっている。しかしながら、各アンテナ装置10b、10cの境界付近(例えば、約140°)では、各アンテナ装置10b、10cがパケットを受信し合うことから、双方のパケット受信数は、境界付近で最も大きく変化する。これに伴い、パケット受信率も、回転角度の僅かな変化に依存して、境界付近で急峻に変化する。
上記の変化は、各アンテナ装置10b、10cの設置角度に基づき利得が同一となる受信利得境界(本実施例では140°)を境に発生する、RSSI値の差異に起因するものである。したがって、電波方向推定装置10は、この様な受信率の急峻な変化を利用することで、電波の到来方向を精度良く検知することができる。すなわち、電波方向推定装置10は、各アンテナ装置10b、10cを回転させながら、所定周波数の電波を受信することで、各アンテナ装置10b、10cのパケット受信数PK1、PK2を測定する。そして、電波方向推定装置10は、受信数変化率h1=│△PK1/△θ│またはh2=│△PK2/△θ│の少なくとも一方を算出し、h1またはh2が最大となる回転角度を電波到来方向と判定する。
以上説明したように、電波方向推定装置10は、第1パッチアンテナ11と、第2パッチアンテナ12と、回転制御部13と、パケット受信数計数部16と、電波方向推定部17とを有する。第1パッチアンテナ11は、電波を受信する。第2パッチアンテナ12は、第1パッチアンテナ11に対して所定の角度で設置され、上記電波を受信する。回転制御部13は、第1及び第2パッチアンテナ11、12を所定方向に回転させる。パケット受信数計数部16は、回転制御部13により制御された各回転角度において、第1及び第2パッチアンテナ11、12毎のパケット受信数を計数する。電波方向推定部17は、パケット受信数計数部16により計数された上記パケット受信数の変化率が最大となる回転角度を、上記電波の到来方向と推定する。
電波方向推定装置10において好ましくは、パケット受信数計数部16は、受信された上記電波の強度を用いて、上記パケット受信数を計数する。例えば、パケット受信数計数部16は、第1及び第2パッチアンテナ11、12により受信された各電波の強度の大小を比較し、第1及び第2パッチアンテナ11、12の内、受信された電波の強度(RSSI)が大きい値をとるアンテナがパケットを受信したとして、パケット受信数を計数する。また、電波方向推定装置10において好ましくは、回転制御部13は、電波方向推定部17により推定された上記電波の到来方向が、第1及び第2パッチアンテナ11、12の最大利得方向(両アンテナの境界)となるように、第1及び第2パッチアンテナ11、12を回転させる制御を行う。
すなわち、電波方向推定装置10は、ある角度において双方の利得が同一となるように設置された2枚の指向性アンテナ装置10b、10cを有する。アンテナ装置10b、10cには、ある角度θtにおいて各アンテナ装置の利得が同一となる受信利得境界が設定されており、この境界付近でパケット受信数が急峻に変化する。このため、電波方向推定装置10は、パケット受信数変化率が最大となる角度を、電波到来方向と推定することができる。アンテナ装置10b、10cは、パッチアンテナ等の一般的なアンテナにより構成することができ、その他、受信数のカウントや電波方向の推定処理についても、一時記憶メモリを有する通常のPC(Personal Computer)等により実現することができる。したがって、電波方向推定装置10は、安価な機器の組合せで構成することができる。その結果、装置の低価格化、小型化が可能となる。
例えば、電波の送信源が複数存在する場合、電波方向推定装置10は、各々の送信源の送信フォーマットを機器アドレス等から検知することで、各到来電波の送信源を特定することができる。これにより、電波方向推定装置10は、電波到来方向と送信源との対応付けを図ることができる。したがって、電波方向推定装置10は、複数の電波の内、何れの方向から来た電波が何れの送信源から送信されたものであるかを、容易に識別することができる。その結果、電波方向推定装置10の利便性が向上する。
電波方向推定装置10の適用例として、例えば、マルチパス環境が想定される。マルチパス環境下では、送信源が1つであっても、建物等への反射により、電波の到来方向が複数となることがある。この様な場合に、送信源の送信フォーマットが特定されているならば、電波方向推定装置10は、機器アドレス等を基に、複数の電波の送信源を容易に特定することができる。すなわち、電波方向推定装置10は、複数の電波が、マルチパスにより自装置に到達したものであるのか、異なる複数の送信源から自装置に到達したものであるのかを、簡易迅速に判別することが可能となる。
[電波方向推定プログラム]
上記実施例で説明した電波方向推定装置10の各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。そこで、以下では、図10を用いて、上記の実施例で説明した電波方向推定装置10と同様の機能を有する電波方向推定プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。図10は、電波方向推定プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
図10に示すように、上記実施例におけるコンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)110と、ROM(Read Only Memory)120と、HDD(Hard Disk Drive)130と、RAM(Random Access Memory)140とを有する。これら100〜140の各部は、バス150を介して接続される。
ROM120には、上記実施例で示した回転制御部13と、通信部14と、RSSI値保持部15と、パケット受信数計数部16と、電波方向推定部17と同様の機能を発揮する電波方向推定プログラムが予め記憶される。すなわち、ROM120には、図10に示すように、電波方向推定プログラム120aが記憶される。なお、電波方向推定プログラム120aについては、適宜分離してもよい。そして、CPU110が、電波方向推定プログラム120aをROM120から読み出して実行する。
HDD130には、上述のRSSI値130aとパケット受信数130bとパケット受信数変化率130cとが格納される。CPU110は、RSSI値130a、パケット受信数130b、及びパケット受信数変化率130cを読み出す。CPU110は、これらをRAM140に記憶させる。CPU110は、RAM140に記憶されたRSSI値130a、パケット受信数130b、及びパケット受信数変化率130cを用いて、電波方向推定プログラム120aを実行する。また、CPU110は、RAM140に記憶されたRSSI値130a、パケット受信数130b、及びパケット受信数変化率130cを用いて、電波方向推定プログラム120aを実行する。なお、RAM140に記憶される各データ(RSSI値140a、パケット受信数140b、及びパケット受信数変化率140c)は、常に全てのデータがRAM140に記憶される必要はなく、処理に必要なデータのみがRAM140に一時記憶されればよい。
なお、電波方向推定プログラム120aは、必ずしも最初からHDD130に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ100は、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ100が、これらの媒体からプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。更には、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介して、コンピュータ100に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」等にプログラムを記憶させておくものとしてもよい。
なお、上記実施例では、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等、特定の通信規格に則った通信フォーマットに従って送受される電波の到来を想定した。したがって、電波方向推定装置10は、電波の到来方向の推定に際し、アンテナ装置毎のパケット受信数を使用するものとした。しかしながら、かかる態様に限らず、電波方向推定装置10は、パケット受信数を計数することなく、アンテナ装置毎のRSSIの瞬時値を直接使用するものとしてもよい。かかる変形態様においては、プロセッサ10aは、パケット受信の回数を計数する代わりに、RSSIの瞬時値を例えば2000個ずつ収集する。そして、プロセッサ10aは、各々の値が高い値をとる回数をアンテナ装置別に計数することにより、電波の到来方向を推定する。これにより、電波方向推定装置10は、実際にパケットを受信することなく、RSSI値を監視するだけで、電波方向を推定することができる。したがって、電波方向推定装置10は、特定の通信規格に則った通信フォーマットに従って送受されない電波にも対応することができる。換言すれば、パケット送信装置と電波方向推定装置10との間の通信仕様が予め定まっていなくても、電波方向推定装置10は、簡易かつ高精度な電波方向の推定を実現することができる。その結果、電波方向推定装置10の汎用性、ひいては通信環境適応性が向上する。更に、かかる態様によれば、所望周波数のRSSIのみを取得可能な安価な受信モジュールによっても、本実施例に係る電波方向推定装置10を実現することができる。これにより、装置の低価格化、小型化が可能となる。
また、上記実施例では、電波方向推定装置10は、各アンテナ装置10b、10cに対応する2つの受信モジュールM1、M2を使用するものとした。しかしながら、受信モジュールは必ずしも複数である必要は無い。すなわち、電波方向推定装置10は、高周波スイッチと受信モジュールとを1つずつ具備し、各アンテナ装置10b、10cの受信した電波信号を、スイッチで切り替えて取得するものとしてもよい。
更に、上記実施例では、電波方向推定装置10のアンテナ装置として、板状のパッチアンテナを例示したが、2つのアンテナ装置の利得が同一となる角度(受信利得境界点θt)が存在するものであれば、アンテナ装置の種類、形状、設置角度、用途は問わない。例えば、アンテナ装置の形状は、矩形の板状に限らず、円形等、任意である。また、給電方式に関しても、電流給電、電圧給電等、任意の態様を採ることができる。更に、アンテナ装置の特性につき、上述したように、2つのアンテナ装置の利得や指向性が類似することが望ましいが、必ずしも同一である必要はなく、偏波や定在波比等の特性についても、同一である必要はない。また、電波方向推定装置10には、アンテナ装置が複数実装されるが、必ずしも2つである必要はない。
特に、上記実施例では、2枚の垂直偏波パッチアンテナが設置角度α=90°で取り付けられたアンテナ装置10b、10cを例示したが、電波方向推定装置10は、2枚の水平偏波アンテナを組み合わせたアンテナ装置を使用するものとしてもよい。これにより、電波方向推定装置10は、水平偏波の電波の到来方向にも対応することができる。更に、電波方向推定装置10は、垂直偏波と水平偏波とを共用することのできるパッチアンテナを有するものとすれば、偏波の方向を問わず、電波の到来に対応することができる。
また、上記実施例では、電波方向推定装置10は、アンテナ装置10b、10cを水平方向に回転させることで、水平方向(東西南北)の電波到来方向を推定するものとした。しかしながら、電波方向推定装置10は、アンテナ装置10b、10cを垂直方向に回転させることで、垂直方向(天地方向)の電波到来方向を推定するものとしてもよい。
上記実施例では、電波方向推定装置10は、全方位(0〜360°)に対して2°単位で回転角度θを変えながら、パケット受信数をカウントするものとした。このため、パケット受信数の計数及び変化率の算出に係る処理(図5、図6参照)は、各回転角度毎に計180回繰り返し実行されることとなる。しかしながら、回転角度の変化量を表すステップ値(△θ)は、常に一定である必要はなく、回転角度に応じて変化させてもよい。例えば、パケット受信数変化率h1、h2が“0”の間は、電波方向推定装置10は、ステップ値を大き目の値(例えば、5°)に設定しておき、パケット受信数変化率h1、h2に変化が生じた時点(図8の136°)で、小さい値(例えば、2°)に変更するものとしてもよい。その後再び、パケット受信数変化率h1、h2が“0”となった場合には、電波方向推定装置10は、ステップ値を従前の値(例えば、5°)に戻すものとしてもよい。これにより、常時2°単位で変化率を算定する場合と比較して、プロセッサ10aの処理量が減少する。したがって、電波方向推定装置10は、電波到来方向の推定精度を低下させることなく、全体の処理時間を短縮し、処理負荷を軽減することができる。その結果、電波方向推定処理の効率化を図ることが可能となる。
同様に、上記実施例では、電波方向推定装置10は、全ての回転角度θにおいて2000個分のパケットを受信するものとした。しかしながら、図9に示したように、多くの回転角度では、パケットを受信するアンテナ装置は、何れか一方の装置に偏っている。このため、電波方向推定装置10が、全ての回転角度θにおいて一律に多数のパケットの受信数をカウントすることは、効率的ではない場合がある。そこで、処理効率向上の観点から、パケット受信数変化率h1、h2に変化の兆しがみられる迄は、電波方向推定装置10は、総パケット受信数を低目の値(例えば、20〜500個)に設定しておき、変化が生じ始めた時(図8の136°)以降、高い値(例えば、2000個)に増加させるものとしてもよい。そして、電波方向推定装置10は、パケット受信数変化率h1、h2が“0”となった時点で、総パケット受信数を再び低い値(例えば、20〜500個)に設定するものとしてもよい。これにより、プロセッサ10aの処理量が減少するため、電波方向推定装置10は、処理時間の短縮や処理負荷の低減を図ることができる。また、電波方向推定装置10とパケット送信装置20との間で送受信されるパケット数も減少するため、電波方向推定装置10は、通信時間の短縮や通信負荷の低減を図ることが可能となる。
また、電波方向推定装置10は、必ずしも全方位について、パケット受信数及びその変化率を観測する必要はない。すなわち、パケット受信数変化率は、図8に示したように、受信利得境界点でピークに達し、その後は、│△PK1/△θ│=│△PK2/△θ│=0に向かって減少する。したがって、電波方向推定装置10は、この特性を利用して、パケット受信数変化率が増加から減少に転じた時点で、パケット受信数の計数及び変化率の算出に係る処理を停止してもよい。これにより、電波到来方向の推定に不要な処理が中断により省略される。したがって、所要時間が短縮されると共に、処理負荷が低減される。その結果、処理効率が向上する。なお、停止された上記処理は、パケット受信数変化率の増加に伴い、再開されるものとしてもよい。
電波方向推定装置10の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的態様は、図示のものに限らず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することもできる。例えば、パケット受信数計数部16と電波方向推定部17、あるいは、通信部14とRSSI値保持部15をそれぞれ1つの構成要素として統合してもよい。反対に、電波方向推定部17に関し、パケット受信数の変化率を算出する部分と、算出結果に基づき実際に電波の到来方向を推定する部分とに分散してもよい。更に、記憶装置10eを、電波方向推定装置10の外部装置としてネットワークやケーブル経由で接続するようにしてもよい。