JP5794588B2 - 効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法 - Google Patents

効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法 Download PDF

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Description

(発明の技術分野)
本発明は、人工多能性幹(以下、iPSともいう)細胞の樹立効率の改善方法およびそのための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害することによる、iPS細胞の樹立効率の改善方法、並びにp38の機能阻害物質を有効成分とするiPS細胞の樹立効率改善剤に関する。
(発明の背景)
近年、マウスおよびヒトのiPS細胞が相次いで樹立された。TakahashiおよびYamanaka(1)は、Fbx15遺伝子座にネオマイシン耐性遺伝子をノックインしたレポーターマウス由来の線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4およびc-Myc遺伝子を導入し強制発現させることによって、iPS細胞を誘導した。Okitaら(2)は、Fbx15よりも多能性細胞に発現が限局しているNanogの遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)およびピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製し、該マウス由来の線維芽細胞で上記4遺伝子を強制発現させ、ピューロマイシン耐性かつGFP陽性の細胞を選別することにより、遺伝子発現やエピジェネティック修飾が胚性幹(ES)細胞とほぼ同等のiPS細胞(Nanog iPS細胞)を樹立することに成功した。同様の結果が他のグループによっても再現された(3, 4)。その後、c-Myc遺伝子を除いた3因子によってもiPS細胞を作製できることが明らかとなった(5)。
さらに、Takahashiら(6)は、ヒトの皮膚由来線維芽細胞にマウスと同様の4遺伝子を導入することにより、iPS細胞を樹立することに成功した。一方、Yuら(7)は、Klf4とc-Mycの代わりにNanogとLin28を使用してヒトiPS細胞を作製した。また、Parkら(8)は、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子に加えて、ヒト細胞不死化遺伝子として知られるTERTとSV40ラージT抗原を用いて、ヒトiPS細胞を作製した。このように、体細胞に特定因子を導入することにより、ヒトおよびマウスで、分化多能性においてES細胞と遜色のないiPS細胞を作製できることが示された。
しかし、iPS細胞の樹立効率は1%以下と低く、特に、iPS細胞から分化した組織や個体において腫瘍化が懸念されるc-Mycを除く3因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)を体細胞に導入してiPS細胞を作製した場合、その樹立効率が極めて低いという問題点がある。
ところで、p38はMAPキナーゼ(Mitogen-activated protein kinase)ファミリーに属し、p38シグナル伝達パスウェイは環境ストレスや紫外線、アポトーシス、炎症反応に関与することが知られている。また、近年、癌におけるp38の活性化も報告されている(9)。しかし、核初期化との関連についてはよく知られていない。
Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006) Okita, K. et al., Nature, 448: 313-317 (2007) Wernig, M. et al., Nature, 448: 318-324 (2007) Maherali, N. et al., Cell Stem Cell, 1: 55-70 (2007) Nakagawa, M. et al., Nat. Biotethnol., 26: 101-106 (2008) Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007) Yu, J. et al., Science, 318: 1917-1920 (2007) Park, I.H. et al., Nature, 451: 141-146 (2008) Junttila MR et al., FASEB J., 22: 954-65 (2008)
(発明の要約)
本発明の目的は、iPS細胞の樹立効率を改善する手段を提供することであり、それを用いた効率的なiPS細胞の製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害することにより、iPS細胞の樹立効率を顕著に増大させ得ることを明らかにした。また、その効果はヒト細胞においても顕著であることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] 人工多能性幹細胞の樹立効率の改善方法であって、体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害することを含む、方法。
[2] p38の化学的阻害物質を体細胞に接触させることによりp38の機能を阻害する、上記[1]記載の方法。
[3] 前記阻害物質がSB202190、SB239063およびSB203580からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、上記[2]記載の方法。
[4] p38のドミナントネガティブ変異体またはそれをコードする核酸を体細胞に接触させることによりp38の機能を阻害する、上記[1]記載の方法。
[5] p38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNAからなる群より選択される核酸を体細胞に接触させることによりp38の機能を阻害する、上記[1]記載の方法。
[6] p38経路阻害物質を体細胞に接触させることによりp38の機能を阻害する、上記[1]記載の方法。
[7] p38の機能阻害物質を含有してなる、人工多能性幹細胞の樹立効率改善剤。
[8] 前記阻害物質がp38の化学的阻害物質である、上記[7]記載の剤。
[9] 前記阻害物質がSB202190、SB239063およびSB203580からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、上記[8]記載の剤。
[10] 前記阻害物質がp38のドミナントネガティブ変異体またはそれをコードする核酸である、上記[7]記載の剤。
[11] 前記阻害物質がp38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNAからなる群より選択される核酸である、上記[7]記載の剤。
[12] 前記阻害物質がp38経路阻害物質である、上記[7]記載の剤。
[13] 体細胞に核初期化物質およびp38の機能阻害物質を接触させることを含む、人工多能性幹細胞の製造方法。
[14] 前記阻害物質が化学的阻害物質である、上記[13]記載の方法。
[15] 前記阻害物質がSB202190、SB239063およびSB203580からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、上記[14]記載の方法。
[16] 前記阻害物質がp38のドミナントネガティブ変異体またはそれをコードする核酸である、上記[13]記載の方法。
[17] 前記阻害物質がp38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNAからなる群より選択される核酸である、上記[13]記載の方法。
[18] 前記阻害物質がp38経路阻害物質である、上記[13]記載の方法。
[19] 核初期化物質がOct3/4, Klf4およびSox2、またはそれらをコードする核酸である、上記[13]記載の方法。
[20] 核初期化物質がOct3/4, Klf4, Sox2、ならびにc-MycもしくはL-Myc, Nanog, Lin28もしくはLin28BおよびGlis1からなる群から選択される少なくとも一つ、またはそれらをコードする核酸である、上記[13]記載の方法。
[21] 核初期化物質およびp38の機能阻害物質を含有してなる、人口多能性幹細胞の誘導剤。
[22] 前記阻害物質が化学的阻害物質である、上記[21]記載の誘導剤。
[23] 前記阻害物質がSB202190、SB239063およびSB203580からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、上記[22]記載の誘導剤。
[24] 前記阻害物質がp38のドミナントネガティブ変異体またはそれをコードする核酸である、上記[21]記載の誘導剤。
[25] 前記阻害物質がp38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNAからなる群より選択される核酸である、上記[21]記載の誘導剤。
[26] 前記阻害物質がp38経路阻害物質である、上記[21]記載の誘導剤。
[27] 核初期化物質がOct3/4, Klf4およびSox2、またはそれらをコードする核酸である、上記[21]記載の誘導剤。
[28] 核初期化物質がOct3/4, Klf4, Sox2、ならびにc-MycもしくはL-Myc, Nanog, Lin28もしくはLin28BおよびGlis1からなる群から選択される少なくとも一つ、またはそれらをコードする核酸である、上記[21]記載の誘導剤。
p38の機能阻害物質はiPS細胞の樹立効率を顕著に増大させることができるので、従来きわめて樹立効率の低かったc-Mycを除く3因子によるiPS細胞誘導に特に有用である。c-Mycは再活性化による腫瘍発生が危惧されることから、3因子によるiPS樹立効率の改善を実現したことは、iPS細胞の再生医療への応用において極めて有用である。
図1は、マウス皮膚由来線維芽細胞(MEF)に4遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, C-myc)を導入し、各種p38阻害剤存在下で培養を行い、感染21日目(Day21)(左棒グラフ)または28日目(Day28)(右棒グラフ)に得られたコロニー数を示すグラフであり、上段は全コロニー数、下段はNanog GFP陽性コロニー数を示す。縦軸は10cmディッシュ上に確認されたiPS細胞のコロニー数を示す。 図2は、マウス皮膚由来線維芽細胞(MEF)に3遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2)を導入し、各種p38阻害剤存在下で培養を行い、感染21日目(Day21)(左棒グラフ)または28日目(Day28)(右棒グラフ)に得られたコロニー数を示すグラフであり、上段は全コロニー数、下段はNanog GFP陽性コロニー数を示す。縦軸は10cmディッシュ上に確認されたiPS細胞のコロニー数を示す。 図3は、ヒト皮膚由来線維芽細胞(HDF 1616)に4遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, C-myc)を導入し、SB202190を感染0日(Day0)または5日(Day5)に添加後、感染16日目(Day16)に得られたヒトiPS細胞のコロニー数を示すグラフである。上段は、細胞密度を200x103/10cmディッシュとし、下段は、細胞密度を30x103/10cmディッシュとして播種した場合の結果を示す。縦軸は10cmディッシュ上に確認されたiPS細胞のコロニー数を示す。図中、Psuedo(左棒グラフ)とは非iPS細胞、ES like(右棒グラフ)とはiPS細胞を示す。 図4は、ヒト皮膚由来線維芽細胞(Tig109)に4遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, C-myc)を導入し、各種p38阻害剤存在下で培養を行い、得られたヒトiPS細胞のコロニー数を示すグラフである。Aは感染24日(Day24)、Bは感染32日(Day32)、Cは感染40日(Day40)の結果を示す。縦軸は10cmディッシュ上に確認されたiPS細胞のコロニー数を示す。図中、non ES like(右棒グラフ)とは非iPS細胞、ES like(左棒グラフ)とはiPS細胞を示す。 図5は、ヒト皮膚由来線維芽細胞(Tig109)に3遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2)を導入し、各種p38阻害剤存在下で培養を行い、得られたヒトiPS細胞のコロニー数を示すグラフである。Aは感染32日(Day32)、Bは感染40日(Day40)の結果を示す。縦軸は10cmディッシュ上に確認されたiPS細胞のコロニー数を示す。図中、non ES like(右棒グラフ)とは非iPS細胞、ES like(左棒グラフ)とはiPS細胞を示す。
(発明の詳細な説明)
本発明は、体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害することによる、iPS細胞の樹立効率の改善方法を提供する。p38の機能を阻害する手段は特に制限されないが、好ましくは、体細胞にp38の機能阻害物質を接触させる方法が挙げられる。
(a) 体細胞ソース
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ウシ、ブタ、ラット、イヌ等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
体細胞を採取するソースとなる哺乳動物個体は特に制限されないが、得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。たとえば主たるHLA(例えばHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。また、ヒトに投与(移植)しない場合、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取することが望ましい。
哺乳動物から分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。核初期化物質およびp38の機能阻害物質(さらに必要に応じて、後述する他のiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。
(b) p38の機能阻害物質
本明細書において「p38の機能阻害物質」とは、(1)p38タンパク質の機能もしくは(2)p38遺伝子の発現を阻害し得る限り、いかなる物質であってもよい。すなわち、p38タンパク質に直接作用してその機能を阻害する物質や、p38遺伝子に直接作用してその発現を阻害する物質のみならず、p38のシグナル伝達に関与する因子に作用することにより、結果的にp38タンパク質の機能やp38遺伝子の発現を阻害する物質も、本明細書における「p38の機能阻害物質」に含まれる。
p38タンパク質の機能を阻害する物質としては、例えば、p38の化学的阻害物質、p38のドミナントネガティブ変異体もしくはそれをコードする核酸、抗p38アンタゴニスト抗体もしくはそれをコードする核酸、p38経路を阻害する物質などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、p38の化学的阻害物質が挙げられる。
(1-1) p38の化学的阻害物質
本発明で使用しうる「p38の化学的阻害物質」としては、WO 99/42592に開示されるATP競合阻害として作用するp38阻害剤SB203580(すなわち、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)およびその誘導体、SB202190(すなわち、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)イミダゾール)およびその誘導体、Underwoodら(J Pharmacol Exp Ther. 293, 281-288 (2000))に開示される、SB239063(すなわち、trans-1-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシピリミジン-4-イル)イミダゾール)およびその誘導体、Jacksonら(J Pharmacol Exp Ther. 284, 687-692 (1998))に開示されるSB220025およびその誘導体、Gallagherら(Bioorg. Med. Chem. 5, 49. (1997) )に開示されるPD169316、Mclayら(Bioorg Med Chem.9, 537-554. (2001))に開示されるRPR200765A、Nikasら(Curr Opin Drug Discov Devel. 8, 421-430.(2005))に開示されるAMG-548、BIRB-796、SClO-469、SCIO-323、VX-702、Yamamotoら(Eur. J. Pharmacol. 314,137-142. (1996))に開示されるFR167653等を例とするがそれに限定されない。好ましくはSB202190、SB203580、SB239063であり、より好ましくはSB202190である。これらは市販されており、例えばSB203580、SB202190、SC239063、SB220025およびPD169316についてはCalbiochem社、SClO-469およびSCIO-323についてはScios社などから入手可能である。
体細胞へのp38の化学的阻害物質の接触は、該阻害物質を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、ヒトまたはマウスより単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、阻害物質濃度がp38の機能阻害に十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるように該阻害物質溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。阻害物質濃度は用いる阻害物質の種類によって異なるが、約0.1 nM〜約100 nMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
(1-2) p38のドミナントネガティブ変異体
p38は通常キナーゼとしてリン酸化活性を有するが、本明細書において「p38のドミナントネガティブ変異体」とは、基質結合能を有するものの、基質をリン酸化させることなく、体細胞に内在する野生型p38タンパク質と競合的に作用して、その機能を阻害する限り、いかなる物質であってもよい。例えば、ヒトおよびマウスにおけるp38のDNA結合領域に位置する180位のスレオニンをアラニンに点変異させたp38T180A、ヒトおよびマウスにおけるp38の182位のチロシンをフェニルアラニンに点変異させたp38Y182Fなどが挙げられる(Raingeaud J., J Biol Chem. 270, 7420-7426. (1995))。
p38のドミナントネガティブ変異体は、例えば、以下の手法により得ることができる。まず、マウスp38については例えば、p38αの場合、NCBIのNM_011951配列(配列番号1)または、p38βの場合、NM_011161(配列番号3)、ヒトp38については、p38αの場合、NCBIのNM_001315配列(配列番号2)、p38βの場合、NM_002751(配列番号4)に基づいて適当なオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして合成し、マウスまたはヒトの細胞・組織由来のmRNA、cDNAもしくはcDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーション法や(RT-)PCR法を用いてマウスまたはヒトp38 cDNAをクローニングし、適当なプラスミドにサブクローニングする。変異を導入しようとする部位のコドンを所望の他のアミノ酸をコードするコドンに置換した形で、当該部位を含むプライマーを合成し、これを用いてp38cDNAを挿入したプラスミドを鋳型とするインバースPCRを行うことにより、目的のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を取得する。欠失変異体の場合には、欠失させる部位の外側にプライマーを設計して、同様にインバースPCRを行えばよい。このようにして得られたドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を宿主細胞に導入し、該細胞を培養して得られる培養物から組換えタンパク質を回収することにより、所望のドミナントネガティブ変異体を取得することができる。
体細胞へのドミナントネガティブ変異体の接触は、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)もしくは細胞透過性ペプチド(CPP)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systems)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)およびProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)およびChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。p38のドミナントネガティブ変異体を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT(Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988);Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988) )、Penetratin(Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II(Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan(Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP(model amphipathic peptide)(Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF(Lin, Y. Z. etal. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70(Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion(Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC(Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1(Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7(Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynBl(Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I(Hong, F. D. & Clayman, G L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R(Cell Stem Cell, 4:381-384 (2009))や9R(Cell Stem Cell, 4:472-476 (2009))等のポリアルギニンが挙げられる。
p38のドミナントネガティブ変異体のcDNAとPTDもしくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。比較的分子量の小さい欠失変異体の導入に好適である。
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
その他、エレクトロポレーション法、セミインタクトセル法(Kano, F. et al. Methods in Molecular Biology, Vol. 322, 357-365 (2006))、Wr-tペプチドによる導入法(Kondo, E. et al., Mol. Cancer Ther. 3(12), 1623-1630 (2004))などのタンパク質導入法も用いることができる。
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(例えば3回または4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6時間〜7日間、好ましくは12〜48時間もしくは7日間が挙げられる。
(1-3) p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸
しかしながら、体細胞への導入の容易さを考慮すると、p38のドミナントネガティブ変異体は、タンパク質自体としてよりも、それをコードする核酸の形態で用いることがむしろ好ましい。したがって、本発明の別の好ましい実施態様において、p38機能阻害物質は、p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸である。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。p38のドミナントネガティブ変異体をコードするcDNAは、該変異体タンパク質の作製について上記した手法によりクローニングすることができる。
単離されたcDNAは、目的の体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。用いるベクターの種類は、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えば、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸は、単独で発現ベクター上に組み込んでもよいし、1以上の初期化遺伝子とともに1つの発現ベクターに組み込んでもよい。遺伝子導入効率の高いレトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いる場合は前者が、プラスミド、アデノウイルス、エピソーマルベクターなどを用いる場合は後者を選択することが好ましい場合があるが、特に制限はない。
上記においてp38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸と1以上の初期化遺伝子を1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(PLoS ONE 3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)など、好ましくは2A配列を用いることができる。
p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、ドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段がWO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006)およびCell, 131, 861-872 (2007)に開示されている。ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007)に開示がある。iPS細胞を再生医療のための細胞ソースとして利用する場合、p38のドミナントネガティブ変異体の発現(再活性化)または外因性遺伝子が組み込まれた近傍に存在する内因性遺伝子の活性化は、iPS細胞由来の分化細胞から再生された組織における発癌リスクを高める可能性があるので、p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸は細胞の染色体に組み込まれず、一過的に発現することが好ましい。かかる観点からは、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターの使用が好ましい。アデノウイルスベクターを用いる具体的手段は、Science, 322, 945-949 (2008)に記載されている。また、アデノ随伴ウイルスベクターも染色体への組込み頻度が低く、アデノウイルスベクターと比べて細胞毒性や炎症惹起作用が低いので、別の好ましいベクターとして挙げられる。センダイウイルスベクターは染色体外で安定に存在することができ、必要に応じてsiRNAにより分解除去することができるので、同様に好ましく利用され得る。センダイウイルスベクターについては、J. Biol. Chem., 282, 27383-27391 (2007)や特許第3602058号に記載のものを用いることができる。
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いる場合は、いったん導入遺伝子のサイレンシングが起こったとしても、後に再活性化される可能性があるので、例えば、Cre/loxPシステムを用いて、不要となった時点でp38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を切り出す方法が好ましく用いられ得る。即ち、該核酸の両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞が誘導された後で、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞にCreリコンビナーゼを作用させ、loxP配列に挟まれた領域を切り出すことができる。また、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、もしくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3’-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。Cre-loxPシステムおよびSIN LTRを用いる具体的手段は、Soldner et al., Cell, 136: 964-977 (2009)、Chang et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009)などに開示されている。
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008)等に記載されている。
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(例えば3回または4回)繰り返して行うことができる。
尚、アデノウイルスやプラスミドを用いる場合でも、導入遺伝子が染色体に組み込まれることがあるので、結局はサザンブロットやPCRにより染色体への遺伝子挿入がないことを確認する必要がある。そのため、上記Cre-loxPシステムのように、いったん染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、該遺伝子を除去する手段を用いることは好都合であり得る。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) 開示されている。
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピソーマルベクターが挙げられる。エピソーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009)、Nature Methods, 8(5), 409-412 (2011)およびWO 2011/016588に開示されている。必要に応じて、エピソーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置したエピソーマルベクターにp38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を挿入した発現ベクターを構築し、これを体細胞に導入することもできる。
該エピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。あるいは、pEPI系ベクター由来のS/MAR配列やヒト人工染色体のためのα-サテライトDNAを自律複製に必要なベクター要素として用いることもできる(Mol Ther 16(9), 1525-1538 (2008))。
また、エピソーマル発現ベクターは、p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記と同様のプロモーターが用いられ得る。また、エピソーマル発現ベクターは、前記と同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
本発明で使用されるloxP配列としては、バクテリオファージP1由来の野生型loxP配列の他、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素を挟む位置に同方向で配置された場合に、組換えを起こしてloxP配列間の配列を欠失させ得る任意の変異loxP配列が挙げられる。変異loxP配列としては、例えば、5’側反復配列に変異のあるlox71、3’側反復配列に変異のあるlox66、スペーサー部分に変異のあるlox2272やlox511などが挙げられる。該ベクター要素の5’側および3’側に配置される2つのloxP配列は、同一であっても異なっていてもよいが、スペーサー部分に変異のある変異loxP配列の場合は同一のもの(例、lox2272同士、lox511同士)が用いられる。好ましくは、5’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox71)と3’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox66)との組合せが挙げられる。この場合、組換えの結果染色体上に残るloxP配列は5’側および3’側の反復配列に二重変異を有するため、Creリコンビナーゼに認識されにくく、不必要な組換えにより染色体の欠失変異を起こすリスクが低減される。lox71とlox66とを用いる場合、前記ベクター要素の5’側および3’側にいずれの変異loxP配列を配置してもよいが、変異部位がloxP配列の外端に配置されるような向きで変異loxP配列を挿入する必要がある。本発明の好ましいエピソーマルベクターはCreリコンビナーゼを作用させなくても、早期に細胞から脱落する自己消失型ベクターであるが、例外的に細胞からの脱落に時間がかかる場合も想定されるので、Creリコンビナーゼ処理による不必要な組換えなどのリスクに備えてloxP配列を設計しておくことが好ましい場合もある。
2つのloxP配列は、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素(即ち、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列)の5’側および3’側に、同方向に配置される。loxP配列が挟むベクター要素は、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列のいずれか一方だけであってもよいし、両方であってもよい。
エピソーマルベクターは、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)、Nature Methods, 8(5), 409-412 (2011)、WO 2011/016588等に記載される方法を用いることができる。
iPS細胞から導入遺伝子の複製に必要なベクター要素が除去されたか否かの確認は、該ベクター要素のヌクレオチド配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、該iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法を用いて行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)、Nature Methods, 8(5), 409-412 (2011)、WO 2011/016588等に記載される方法を用いることができる。
(1-4) p38経路阻害物質
ここでp38経路とは、p38を活性化し得るあらゆる上流のシグナル伝達パスウェイおよび活性化p38によって媒介されるあらゆる下流のシグナル伝達パスウェイを包含する意味で用いられる。したがって、p38経路阻害物質には、上記シグナル伝達パスウェイのいずれかを阻害するいかなる物質も含まれる。p38シグナル伝達パスウェイとして、ストレスやIL-1やTNFα等の炎症性サイトカインの刺激が生じると、MAPKKK(MAP kinase kinase kinase)であるASK1、TAK1、MLK3等の分子が活性化され、MAPKK(MAP kinase kinase)であるMKK3 /6およびMKK4をリン酸化させることによりMAPK(MAP kinase)としてのp38を活性化させることが知られている。例えば、p38経路の上流の炎症性サイトカイン阻害物質として、TNFα阻害剤であるインフリキシマブ(Centcore)が入手可能である。また、他の上流の分子であるMKK3 /6の発現もしくは機能を阻害する物質(例えば、これらの因子に対するドミナントネガティブ変異体、siRNA、およびshRNA等)等が挙げられる。公知の抗MKK3/6 SiRNAとして、例えば、SC-43924(Santa Cruz Biotechnology)が挙げられる。
また、p38の下流にはMAPKAPK2/K3や、ATF-2、HSP27などの転写因子が存在し、p38が遺伝子発現を調節しているが、これらの発現もしくは機能を阻害する物質(例えば、これらの因子に対するドミナントネガティブ変異体、siRNA、およびshRNA等)等が挙げられる。例えば、公知のMAPKAPK2阻害剤として、Hsp25 Kinase Inhibitor(Calbiochem)等が挙げられる。
(1-5) その他の物質
p38タンパク質の機能を阻害するその他の物質として、例えば、抗p38アンタゴニスト抗体もしくはそれをコードする核酸が挙げられる。抗p38アンタゴニスト抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、該抗体は、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等の蛋白質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。抗p38アンタゴニスト抗体は、p38またはその部分ペプチドを抗原として用い、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。また、公知の抗p38アンタゴニスト抗体として、例えば、SC-728(Santa Cruz Biotechnology)、9212(Cell Signaling Technology)等が挙げられる。抗p38アンタゴニスト抗体をコードする核酸は、抗p38モノクローナル抗体産生ハイブリドーマから常法により単離することができる。得られるH鎖およびL鎖遺伝子を連結して単鎖抗体をコードする核酸を作製することもできる。
抗p38アンタゴニスト抗体はp38のドミナントネガティブ変異体と同様に、また、該抗体をコードする核酸は該変異体をコードする核酸と同様にして、それぞれ細胞に導入することができる。
一方、p38遺伝子の発現を阻害する物質としては、例えば、p38に対するsiRNAもしくはshRNA、p38に対するsiRNAもしくはshRNAを発現するベクター、p38に対するアンチセンス核酸およびp38に対するリボザイム等が挙げられる。
(2-1) p38に対するsiRNAおよびshRNA
p38に対するsiRNAは、配列番号1〜4に示されるマウスまたはヒトの各p38 cDNA配列情報に基づいて、例えば、Elbashirら(Genes Dev., 15, 188-200 (2001))の提唱する規則に従って設計することができる。siRNAの標的配列としては、原則的にはAA+(N)19であるが、AA+(N)21もしくはNA+(N)21であってもよい。また、センス鎖の5’末端がAAである必要はない。標的配列の位置は特に制限されるわけではないが、5’-UTRおよび開始コドンから約50塩基まで、並びに3’-UTR以外の領域から標的配列を選択することが望ましい。標的配列のGC含量も特に制限はないが、約30-約50%が好ましく、GC分布に偏りがなく繰り返しが少ない配列が望ましい。尚、下記(2-2)のsiRNAもしくはshRNAを発現するベクターの設計において、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用する場合、ポリメラーゼの転写が停止しないように、4塩基以上TまたはAが連続する配列は選択しないようにすべきである。
上述の規則に基づいて選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列の相同性を、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列およびTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計する。また、shRNAは、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、8-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
siRNAおよび/またはshRNAの配列は、種々のwebサイト上に無料で提供される検索ソフトを用いて検索が可能である。このようなサイトとしては、例えば、Ambionが提供するsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/siRNA_finder.html)およびpSilencerTM Expression Vector用 インサート デザインツール(http://www.ambion.com/jp/techlib/misc/psilencer_converter.html)、RNAi Codexが提供するGeneSeer(http://codex.cshl.edu/scripts/newsearchhairpin.cgi)が挙げられるがこれらに限定されず、QIAGEN、タカラバイオ、SiSearch、Dharmacon、Whitehead Institute、Invitrogen、Promega等のwebサイト上でも同様に検索が可能である。
p38に対するsiRNAは、上記のようにして設計されたセンス鎖およびアンチセンス鎖オリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、例えば、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、p38に対するshRNAは、上記のようにして設計されたshRNA配列を有するオリゴヌクレオチドをDNA/RNA自動合成機で合成し、上記と同様にしてセルフアニーリングさせることによって調製することができる。
siRNAおよびshRNAを構成するヌクレオチド分子は、天然型のRNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(mRNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンス核酸を構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2'位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2'-O-Me)、CH2CH2OCH3(2'-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。
RNAの糖部のコンフォーメーションはC2'-endo(S型)とC3'-endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的RNAに対して強い結合能を付与するために、2'酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA(LNA)(Imanishi, T. et al., Chem. Commun., 1653-9, 2002; Jepsen, J.S. et al., Oligonucleotides, 14, 130-46, 2004)やENA(Morita, K. et al., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 22, 1619-21, 2003)もまた、好ましく用いられ得る。
但し、天然型RNA中のすべてのリボヌクレオシド分子を修飾型で置換すると、RNAi活性が失われる場合があるので、RISC複合体が機能できる最小限の修飾ヌクレオシドの導入が必要である。
p38に対するsiRNAは、例えば、Santa Cruz(例、Santa Cruz Cat# sc-29433, sc-29434, sc-44216 )、Sigma Aldrich(例、SHGLY-NM_011951)等から購入することもできる。
p38に対するsiRNAもしくはshRNAの体細胞への接触は、プラスミドDNAの場合と同様に、リポソーム法、ポリアミン法、エレクトロポレーション法、ビーズ法等を用いて、該核酸を細胞内へ導入することにより実施することができる。カチオニックリポソームを用いた方法が最も一般的で、導入効率も高い。Lipofectamine2000やOligofectamine(Invitrogen)などの一般的な遺伝子導入試薬の他、例えば、GeneEraserTM siRNA transfection reagent(Stratagene)等のsiRNA導入に適した導入試薬も市販されている。
(2-2) p38に対するsiRNAもしくはshRNAを発現するベクター
siRNAを発現するベクターには、タンデムタイプとステムループ(ヘアピン)タイプとがある。前者はsiRNAのセンス鎖の発現カセットとアンチセンス鎖の発現カセットをタンデムに連結したもので、細胞内で各鎖が発現してアニーリングすることにより2本鎖のsiRNA(dsRNA)を形成するというものである。一方、後者はshRNAの発現カセットをベクターに挿入したもので、細胞内でshRNAが発現しdicerによるプロセシングを受けてdsRNAを形成するというものである。プロモーターとしては、polII系プロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)を使用することもできるが、短いRNAの転写を正確に行わせるために、polIII系プロモーターを使用するのが一般的である。polIII系プロモーターとしては、マウスおよびヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーターなどが挙げられる。また、転写終結シグナルとして4個以上Tが連続した配列が用いられる。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸について上記したと同様のものが、好ましく利用され得る(レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなど)。使用するベクターは、ドミナントネガティブ変異体の場合と同様、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択され得る。あるいは、p38に対するshRNAをコードする発現ベクターとして、市販のプラスミド(例えば、Santa cruz biotechnology社から市販されるp38α shRNA Plasmid:sc-29434-SH等)をもとに作製したレトロウイルス等のウイルスベクターなどを使用することもできる。
p38に対するsiRNAもしくはshRNAを発現するベクターの体細胞への接触は、上記のようにして調製されるプラスミドベクターもしくはウイルスベクターを細胞に導入することにより行われる。これらの遺伝子導入は、p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸について上記したと同様の手法で行うことができる。
(2-3) その他の物質
p38遺伝子の発現を阻害する他の物質として、p38に対するアンチセンス核酸やリボザイムが挙げられる。
アンチセンス核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸がDNAの場合、標的RNAとアンチセンスDNAとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNase Hに認識されて標的RNAの選択的な分解を引き起こすことができる。したがって、RNase Hによる分解を指向するアンチセンスDNAの場合、標的配列は、p38 mRNA中の配列だけでなく、p38遺伝子の初期転写産物におけるイントロン領域の配列であってもよい。アンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてp38蛋白質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、p38 mRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAもしくは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約15〜約40塩基、特に約18〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましい。標的配列の位置としては、5’-および3’-UTR、開始コドン近傍などが挙げられるが、それらに限定されない。
リボザイムとは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。
アンチセンス核酸やリボザイムはDNA/RNA自動合成機を用いて合成することができる。これらを構成するヌクレオチド分子もまた、安定性、比活性などを向上させるために、上記のsiRNAの場合と同様の修飾を受けていてもよい。
あるいは、アンチセンス核酸やリボザイムは、siRNAの場合と同様に、それらをコードする核酸の形態で使用することもできる。
上記p38の機能阻害物質は、体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害するのに十分な様式で体細胞に接触させる必要がある。ここで体細胞の核初期化は、核初期化物質を体細胞に接触させることにより実施することができる。
(c) 核初期化物質
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞に導入することにより該体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。核初期化物質がタンパク性因子またはそれをコードする核酸の場合、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, Eras, ECAT15-2, TclI, β-catenin (活性型変異体S33Y)
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmil
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1もしくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(またはKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525-528(2008))を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EssrrbはEsrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc
(22) Oct3/4, Nanog
(23) Oct3/4 (Cell 136: 411-419 (2009)、Nature, 08436, doi:10.1038 published online(2009)
(24) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
上記(1)-(24)において、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えばOct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2(またはSox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18)に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えばSox7などを用いることもできる。また、Klf4に代えて他のKlfファミリーのメンバー、例えばKlf1、Klf2、Klf5、もしくは公知のその代替因子、例えばEsrrb、EsrrgなどのEsrrファミリーのメンバー、IRX1、IRX2、IRX3、IRX4、IRX5、IRX6などのIRXファミリーのメンバー、GLIS1、GLIS2、GLIS3などのGLISファミリーのメンバー、PITX1、PITX2、PITX3などのPTXファミリーのメンバー、DMRTB1などを用いることもできる。さらに上記(1)-(24)においてc-MycまたはLin28を核初期化物質として含む場合、c-MycまたはLin28に代えてそれぞれL-MycまたはLin28Bを用いることもできる。GLIS1などのGLISファミリーのメンバーは、c-Mycに代えて用いることもできる。
また、上記(1)-(24)には該当しないが、それらのいずれかにおける構成要素をすべて含み、且つ任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。また、核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(24)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組み合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
これらの組み合わせの中で、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-MycもしくはL-Myc, Nanog, Lin28もしくはLin28BおよびGLIS1から選択される少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。
とりわけ、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、Oct3/4, Sox2およびKlf4の3因子の組み合わせ(即ち、上記(9))が好ましい。一方、iPS細胞を治療用途に用いることを念頭に置かない場合(例えば、創薬スクリーニング等の研究ツールとして用いる場合など)は、Oct3/4, Sox2およびKlf4の3因子のほか、さらにそれにc-Myc/L-Mycを加えた4因子、さらにそれにLin28/Lin28Bを加えた5因子、さらにそれにGLIS1を加えた6因子、さらにそれにNanogを加えた7因子などを例示することができる。
上記の各タンパク性因子のマウスおよびヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、L-Myc、Lin28、Lin28B、GLIS1、Esrrb、EsrrgのマウスおよびヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Glis1 NM_147221 NM_147193
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
核初期化物質としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、該細胞を培養して得られる培養物から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化物質としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、上記p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸の場合と同様にして、ウイルスベクター、エピソーマルベクターもしくはプラスミドベクターに挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。必要に応じて、上記Cre-loxPシステムやpiggyBacトランスポゾンシステムを利用することもできる。尚、核初期化物質として2以上のタンパク性因子をコードする核酸を細胞に導入する場合、各核酸を別個のベクターに担持させてもよいし、複数の核酸をタンデムに繋いでポリシストロニックベクターとすることもできる。後者の場合、効率的なポリシストロニック発現を可能にするために、口蹄疫ウイルスの2A self-cleaving peptideを各核酸の間に連結することが望ましい(Science, 322, 949-953, 2008など参照)。
核初期化物質の体細胞への接触は、(a) 該物質がタンパク性因子である場合、上記p38のドミナントネガティブ変異体と同様にして、(b) 該物質が(a)のタンパク性因子をコードする核酸である場合、上記p38のドミナントネガティブ変異体をコードする核酸と同様にして、実施することができる。一方、(c) 核初期化物質が低分子化合物である場合、上記p38の化学的阻害物質と同様にして実施することができる。
(d) iPS細胞の樹立効率改善物質
上記p38の機能阻害物質に加え、公知の他の樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
iPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA SmartpoolO (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-アザシチジン)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-チャネルカルシウムアゴニスト(例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、UTF1(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wntシグナリングアクチベーター(例えば可溶性Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはマイトジェン活性化プロテインキナーゼシグナリングおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3の阻害剤、PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol. doi:10.1128/MCB.00398-08)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1-10)、miR-291-3p, miR-294およびmiR-295 (以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))、3’-ホスホイノシチド-依存性キナーゼ-1 (PDK1) アクチベーター(例、PS48 (Cell Stem Cell, 7: 651-655 (2010))など)等が挙げられるが、それらに限定されない。前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
尚、前記核初期化物質の構成要素のうち、例えばSV40 large T等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化物質として位置づけるか、あるいはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化物質およびiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はないであろう。
これら他のiPS細胞の樹立効率改善物質の体細胞への接触は、該物質が(a) タンパク性因子である場合、(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合、あるいは(c) 低分子化合物である場合に応じて、p38の機能阻害物質についてそれぞれ上記したと同様の方法により、実施することができる。
(e) 培養条件による樹立効率の改善
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、または5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95%以上など)、または1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社などのメーカー製の低酸素培養用CO2インキュベーターを用いることができる)。
低酸素条件下で細胞培養を開始する時期は、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、体細胞への核初期化物質およびp38の機能阻害物質の接触より前であっても、該接触と同時であっても、該接触より後であってもよいが、例えば、体細胞に核初期化物質およびp38の機能阻害物質を接触させた直後から、あるいは接触後一定期間(例えば、1ないし10(例、2,3,4,5,6,7,8または9)日)おいた後に低酸素条件下で培養することが好ましい。
低酸素条件下で細胞を培養する期間も、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、例えば3日以上、5日以上、7日以上または10日以上で、50日以下、40日以下、35日以下または30日以下の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。低酸素条件下での好ましい培養期間は、雰囲気中の酸素濃度によっても変動し、当業者は用いる酸素濃度に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。また、一実施態様において、iPS細胞の候補コロニーの選択を、薬剤耐性を指標にして行う場合には、薬剤選択を開始する迄に低酸素条件から正常酸素濃度に戻すことが好ましい。
さらに、低酸素条件下で細胞培養を開始する好ましい時期および好ましい培養期間は、用いられる核初期化物質の種類、正常酸素濃度条件下でのiPS細胞樹立効率などによっても変動する。
核初期化物質およびp38の機能阻害物質を接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、核初期化物質およびp38の機能阻害物質の接触より前から開始してもよいし、該接触時から、あるいは該接触より後(例えば1-10日後)から開始してもよい。
iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanogまたはOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子および/またはレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え体細胞を用い、薬剤耐性および/またはレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。そのような組換え細胞としては、例えばFbx15遺伝子座にβgeo(β-ガラクトシダーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼとの融合タンパク質をコードする)遺伝子をノックインしたマウス由来のMEF(Takahashi & Yamanaka, Cell, 126, 663-676 (2006))、あるいはNanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス由来のMEF(Okita et al., Nature, 448, 313-317 (2007))等が挙げられる。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、iPS細胞がヒトの治療用途を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましい。
選択されたコロニーの細胞がiPS細胞であることの確認は、上記したNanog(もしくはOct3/4)レポーター陽性(ピューロマイシン耐性、GFP陽性など)および目視によるES細胞様コロニーの形成によっても行い得るが、より正確を期すために、アルカリフォスファターゼ染色や、各種ES細胞特異的遺伝子の発現を解析したり、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認する等の試験を実施することもできる。
このようにして樹立されたiPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞で報告されている分化誘導法を利用して、iPS細胞から種々の細胞(例、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)への分化を誘導することができる。したがって、患者本人やHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導すれば、そこから所望の細胞(即ち、該患者が罹病している臓器の細胞や疾患に対する治療効果を発揮する細胞など)に分化させて該患者に移植するという、自家移植による幹細胞療法が可能となる。さらに、iPS細胞から分化させた機能細胞(例、肝細胞)は、対応する既存の細胞株よりも実際の生体内での該機能細胞の状態をより反映していると考えられるので、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニング等にも好適に用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
[実施例1:p38阻害剤を用いた検討]
iPS細胞の樹立効率に対するp38阻害剤の効果を調べた。
1) p38阻害剤のマウスiPS細胞コロニーに及ぼす効果の比較(4遺伝子導入)
Nanog-GFP-IRES-Purorを有するNanogレポーターマウス(Okita K. et al, Nature 448, 313-317(2007))から得られたマウス胎仔線維芽細胞(MEF)に対して、レトロウイルスによる4遺伝子導入を行うことで、iPS細胞を樹立した。
初期化に使用するレトロウイルスは、前日に6 well培養プレート (Falcon) の1 well当り0.6 x 106で播種したPlat-E細胞 (Morita, S. et al., Gene Ther. 7, 1063-1066) にレトロウイルス発現ベクター (pMXs-Oct3/4, pMXs-Sox2, pMXs-Klf4, pMXs-cMyc:Cell, 126, 663-676 (2006)) を個々に導入して作製した。培養液はDMEM/10% FCS (DMEM (Nacalai tesque) にウシ胎仔血清を10%加えたもの) を使用し、37℃、5% CO2で培養した。ベクターの導入のためにFuGene6 transfection reagent (Roche) 4.5 μLをOpti-MEM I Reduced-Serum Medium (Invitrogen) 100 μLに入れ、室温で5分間静置した。その後、各発現ベクターを1.5 μg加え、さらに室温で15分静置してからPlat-Eの培養液に加えた。2日目にPlat-Eの上清を新しい培地に換え、3日目に培養上清を回収して0.45 μm sterile filter (Whatman) で濾過し、polybrene (Nacalai) を4 μg/mLとなるように加えてウイルス液とした。
マウス胎仔線維芽細胞(MEF)はNanogレポーターマウスの胎仔(受精後13.5日)から単離した。MEFはNanog遺伝子を発現しないため、EGFPを発現せず、緑色蛍光を示さない。また、ピューロマイシン耐性遺伝子も発現しないため、抗生物質であるピューロマイシンに感受性である。このMEFを0.1% ゼラチン (Sigma) でコートした6 well培養プレート (Falcon) の1 well当り1.0 x 105で播種した。培養液はDMEM/10% FCSを使用し、37℃、5% CO2で培養した。翌日、レトロウイルス液を加え、一晩感染させて遺伝子を導入した。
ウイルス感染後1日目にMEFの培地を除き、PBS 1 mLを加えて細胞を洗浄した。PBSを除いた後、0.25% Trypsin/1 mM EDTA (Invitrogen) を加えて、37℃で5分間程度反応させた。細胞が浮き上がったらES細胞用培地を加えて懸濁し、2500個の細胞をマイトマイシンC処理したSTOフィーダー細胞を蒔いておいた100 mmディッシュに蒔いた。以後、コロニーが観察できるようになるまで2日ごとにES細胞用培地の交換を行った。
p38阻害剤のマウス4遺伝子導入におけるiPS細胞樹立への効果を検討するため、以下のスケジュールで培地にp38阻害剤として、SB202190、SB239063、またはSB203580 (Calbiochem社) 10 μMを添加し、培養を続けた。阻害剤は全てDMSOに溶解して使用した。
1. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, 生理食塩水
2. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, DMSO
3. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day1〜4)
4. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day1〜8)
5. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day9〜16)
6. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day1〜16)
7. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day1〜4)
8. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day1〜8)
9. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day9〜16)
10. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM(Day1〜16)
11. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB203580 10 μM(Day1〜4)
12. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB203580 10 μM(Day1〜8)
13. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB203580 10 μM(Day9〜16)
14. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB203580 10 μM(Day1〜16)
感染後14日目からピューロマイシン (1.5 μg/mL)で選択を行った。コロニーは8日目ごろから徐々にみえはじめ、GFP陽性となった。感染後21日目および28日目にGFP陽性コロニーを数え、対照として生理的食塩水、DMSO群と比較した結果を図1に示す。
生理的食塩水、DMSOで処理した細胞と比較して、SB239063、またはSB203580を感染1日から4日の初期に処理した細胞では、コロニー数に増大傾向が見られ、感染28日目に測定した場合、その効果は顕著であった。また、Nanog-GFP陽性コロニー数を測定した結果、感染1日から感染4日の初期にSB202190またはSB239063を添加した場合、生理食塩水またはDMSOで処理した細胞と比較して陽性コロニー数が増大した。以上の結果より、p38の機能を阻害することによりiPS細胞の樹立効率が上昇することが明らかとなった。
2) p38阻害剤のマウスiPS細胞コロニーに及ぼす効果の比較(3遺伝子導入)
上記と同様の実験方法で、3遺伝子をレトロウイルスにより導入し、以下のスケジュールで培地にSB202190、SB239063、またはSB203580(Calbiochem社) 10 μMを添加し、細胞密度を2 x 104個/10 cm dishとして培養を行い、樹立効率の比較検討を行った。
1. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, 生理食塩水
2. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, DMSO
3. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day1〜4)
4. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day1〜8)
5. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day9〜16)
6. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day1〜16)
7. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day1〜4)
8. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day1〜8)
9. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day9〜16)
10. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM(Day1〜16)
11. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB203580 10 μM(Day1〜4)
12. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB203580 10 μM(Day1〜8)
13. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB203580 10 μM(Day9〜16)
14. マウス由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB203580 10 μM(Day1〜16)
結果を図2に示す。生理食塩水またはDMSOで処理した細胞に比較して、SB239063で処理した細胞ではコロニー数およびNanog-GFP陽性コロニー数が増大した。また、SB203580を感染初期に添加した場合、DMSOで処理した細胞に比較して陽性細胞数が増大した。
以上の結果より、3遺伝子導入についても、p38の機能を阻害することによりiPS細胞の樹立効率が上昇することが明らかとなった。
3) p38阻害剤のヒトiPS細胞コロニーに及ぼす効果の比較(4遺伝子導入)
ヒトの皮膚由来線維芽細胞(HDF 1616株)に対して、Takahashi, K.ら, Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、レンチウイルス (pLenti6/UbC-Slc7a1) を用いて、マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた。この細胞を0.1% ゼラチン (Sigma) でコートした6 well培養プレート (Falcon) の1 well当り1.0 x 105で播種した。翌日、Takahashi, K.ら, Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、ヒト由来の4遺伝子をレトロウイルスで導入し、感染4日目に、あらかじめフィーダー細胞を播いておいた100 mmディッシュに2.0 x 105で播種した。p38阻害剤の作用効果を検討するため、感染と同時にSB202190を添加(Day0)、または感染5日目にSB202190を添加し、iPS細胞の樹立効率の比較検討を行った。
感染16日目にiPS細胞コロニー数を測定した結果を図3上段に示す。4遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, C-Myc)導入において、SB202190を感染初期に加えることにより、DMSO対照群や感染5日目SB202190添加群と比較してヒトiPS細胞コロニー数が増大することがわかった。
同様に、細胞密度を変えて(3 x 104個/10 cm dish)、4遺伝子をレトロウイルスで導入し、同時にSB202190を添加した(Day0)。また、感染5日目にSB202190を添加し、iPS細胞の樹立効率の比較検討を行った。
感染16日目にコロニーのサイズを測定した結果を図3下段に示す。細胞密度を変えても、4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, C-Myc)にSB202190を加えることにより、DMSO添加群と比較してiPS細胞コロニー数が増大することがわかった。また、細胞密度が低い場合、感染5日目にSB202190を添加した場合のほうが、感染同時に添加するよりiPS細胞樹立効率が高いことがわかった。
以上のように、p38阻害剤にはコロニーの成長を促進し、iPS細胞における樹立効率増大作用が高いことが確認された。
4) 各種p38阻害剤のヒトiPS細胞コロニーに及ぼす効果の比較(4遺伝子導入、3遺伝子導入)
ヒトの皮膚由来線維芽細胞(Tig109株)に対して、Takahashi, K.ら, Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、レンチウイルス (pLenti6/UbC-Slc7a1) を用いて、マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた。この細胞(2 x 105個/10 cm dish)に対して、Takahashi, K.ら, Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、4遺伝子をレトロウイルスで導入し、以下のスケジュールで化合物を添加した。
1. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, 生理食塩水
2. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, DMSO (Day5〜35)
3. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day5〜20)
4. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day5〜20)
5. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day21〜35)
6. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day21〜35)
7. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB202190 10 μM (Day5〜35)
8. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, SB239063 10 μM (Day5〜35)
感染24、32、および40日目にiPS細胞コロニー数を測定した結果を図4に示す。4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, C-Myc)にSB239063を感染5日から20日に加えることにより、感染24日にヒトiPS細胞コロニー数が増大することがわかった。また、感染32日では、SB202190添加群が、iPS細胞コロニー数増大能があり、その観察前の感染21日から35日に添加した群が、顕著であることがわかった。感染40日目では、対照群ではいずれもiPS細胞コロニーが観察されなかったが、SB239063添加群で、iPS細胞コロニーが2つ認められ、さらに、SB202190添加群は、iPSコロニー数を顕著に増大させることがわかった。
次に、同様の方法で3遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4)をレトロウイルスで導入し、iPS細胞の樹立効率の比較検討を行った。
1. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, 生理食塩水
2. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, DMSO (Day5〜35)
3. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day5〜20)
4. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day5〜20)
5. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day21〜35)
6. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day21〜35)
7. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB202190 10 μM (Day5〜35)
8. ヒト由来のOct3/4, Sox2, Klf4, SB239063 10 μM (Day5〜35)
結果を図5に示す。感染32日目に観察した結果、SB202190を加えることにより、生理的食塩水またはDMSO対照群に比べ、陽性コロニー数増大効果がみられた。また、感染40日目では、生理的食塩水、DMSO対照群と比較してSB202190添加群では顕著にiPS細胞コロニー数が増大することがわかった。
以上のように、p38阻害剤にはコロニー数を増大させることにより、iPS細胞における樹立効率を改善する効果があることが確認された。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本願は、米国仮特許出願第61/382,707号を基礎としており、その内容は、ここで参照したことにより本明細書に組み込まれる。

Claims (11)

  1. 体細胞の核初期化工程においてp38の機能を阻害することを含む、人工多能性幹細胞の樹立効率の改善方法であって、p38の機能阻害が下記:
    (i) p38の化学的阻害物質;
    (ii) p38のドミナントネガティブ変異体およびそれをコードする核酸;ならびに
    (iii)p38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNA;
    からなる群から選択される1またはそれ以上の物質により行われ、
    ここで、該(i) p38の化学的阻害物質が、SB202190、SB239063、SB220025、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SCIO-469、SCIO-323、VX-702およびFR167653からなる群から選択される1またはそれ以上の物質である、方法。
  2. p38の化学的阻害物質を体細胞に接触させることによりp38の機能を阻害する、請求項1記載の方法。
  3. 前記阻害物質がSB202190および/またはSB239063である、請求項2記載の方法。
  4. p38の機能阻害物質を含有してなる、人工多能性幹細胞の樹立効率改善剤であって、p38の機能阻害物質が下記:
    (i) p38の化学的阻害物質;
    (ii) p38のドミナントネガティブ変異体およびそれをコードする核酸;ならびに
    (iii)p38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNA;
    からなる群から選択される1またはそれ以上の物質であり、
    ここで、該(i) p38の化学的阻害物質が、SB202190、SB239063、SB220025、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SCIO-469、SCIO-323、VX-702およびFR167653からなる群から選択される1またはそれ以上の物質である、剤
  5. 前記阻害物質がp38の化学的阻害物質である、請求項記載の剤。
  6. 前記阻害物質がSB202190および/またはSB239063である、請求項記載の剤。
  7. 体細胞に核初期化物質およびp38の機能阻害物質を接触させることを含む、人工多能性幹細胞の製造方法であって、核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸、Oct3/4およびKlf4、またはそれらをコードする核酸、Oct3/4およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸、Oct3/4、Sox2およびKlf4、またはそれらをコードする核酸、あるいはOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含み、p38の機能阻害物質が下記:
    (i) p38の化学的阻害物質;
    (ii) p38のドミナントネガティブ変異体およびそれをコードする核酸;ならびに
    (iii)p38に対するsiRNA、shRNAおよびそれらをコードするDNA;
    からなる群から選択される1またはそれ以上の物質であり、
    ここで、該(i) p38の化学的阻害物質が、SB202190、SB239063、SB220025、RPR200765A、AMG-548、BIRB-796、SCIO-469、SCIO-323、VX-702およびFR167653からなる群から選択される1またはそれ以上の物質である、方法
  8. 前記阻害物質が化学的阻害物質である、請求項記載の方法。
  9. 前記阻害物質がSB202190および/またはSB239063である、請求項記載の剤。
  10. 核初期化物質がOct3/4, Klf4およびSox2、またはそれらをコードする核酸である、請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 核初期化物質がOct3/4, Klf4, Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸である、請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
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