[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。(1)本願発明による受光素子アレイの製造方法は、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイを製造する方法であって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に受光層を成長させる受光層形成工程と、受光層上に、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなる窓層を成長させる窓層形成工程と、窓層における複数の受光領域に相当する領域に第2導電型の不純物を拡散させる不純物拡散工程とを含み、窓層形成工程の際に窓層を全有機原料有機金属気相成長法によって成長させ、窓層の成長温度を受光層の成長温度以下とすることを特徴とする。
本発明による受光素子アレイの製造方法においては、Pを含む化合物半導体からなる窓層を受光層上に成長させている。窓層としてInGaAs層を設ける場合(非特許文献1)と比較して、Pを含む化合物半導体からなる窓層を設けることにより、窓層上に電極や保護膜を好適に形成でき、結晶表面での暗電流リークを低減できる。また、本発明による受光素子アレイの製造方法においては、窓層形成工程の際に、窓層を全有機原料有機金属気相成長法(全有機MOVPE法)によって成長させ、窓層の成長温度を受光層の成長温度以下としている。全有機MOVPE法では、P原料として例えば有機金属であるターシャリブチルホスフィン(TBP)等を用いるので、ホスフィンを用いる通常のMOVPE法と比較して窓層の成長温度を低くしても窓層の結晶性を損ねることなく良好な結晶性を得ることができる。そして、窓層の成長温度を受光層の成長温度以下とすることにより、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(2)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、受光層形成工程の際に、受光層を全有機原料有機金属気相成長法によって成長させることを特徴としてもよい。或いは、上述した受光素子アレイの製造方法は、受光層形成工程の際に、受光層を分子線エピタキシー法によって成長させることを特徴としてもよい。これらのように、受光層の成長方法が窓層の成長方法と同じである場合、或いは異なる場合のいずれにおいても、上述した受光素子アレイの製造方法によれば、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(3)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、窓層の成長温度を400℃以上600℃未満とすることを特徴としてもよい。窓層の成長温度を600℃未満とすることにより、例えば受光層がGaAsSbといった熱に弱い組成を含む場合であっても受光層の結晶品質を良好に保つことができる。窓層の成長温度を400℃未満とすると、表面欠陥の状態は良好となるが、窓層の結晶品質を良好に保つことができなくなり、良好な素子特性を得ることが難しくなる。
(4)また、本発明による第1の受光素子アレイは、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイであって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に設けられた受光層と、受光層上に設けられ、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなり、複数の受光領域に相当する領域に第2導電型の不純物が拡散された窓層とを備え、窓層の表面欠陥に起因する複数の受光領域の不良率が0.03%以上2%以下であることを特徴とする。
ここで、受光領域の不良率とは、複数の受光領域の中で、暗電流不良や感度不良によって受光素子として機能しない受光領域の割合をいう。受光領域の不良率を0.03%以上とすることにより、窓層の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を非特許文献3のように660℃以上といった高温にする必要がない。したがって、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。さらには、ウエハ表面へのピント合わせが容易となり、ウエハの表面検査やデバイス作製を容易に行うことが可能になる。また、受光領域の不良率が2%以下であることにより、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって十分な特性を得ることができる。
(5)また、本発明による第2の受光素子アレイは、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイであって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に設けられた受光層と、受光層上に設けられ、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなり、複数の受光領域に相当する領域に第2導電型の不純物が拡散された窓層とを備え、窓層の表面欠陥密度が50[cm−2]以上3000[cm−2]以下であることを特徴とする。
窓層の表面欠陥密度が50[cm−2]以上であることによって、窓層の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を非特許文献3のように660℃以上といった高温にする必要がない。また、受光素子アレイを製造する際に、III−V族半導体基板上に成長した受光層および窓層を有するエピタキシャルウェハに対する過剰な管理が不要となり、製造コストを低減できる。さらには、ウエハ表面へのピント合わせが容易となり、ウエハの表面検査やデバイス作製を容易に行うことが可能になる。そして、これを利用して、この密度範囲を基準とした不良ウェハのスクリーニング検査が可能となる。また、窓層の表面欠陥密度が3000[cm−2]以下であることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって十分な特性を得ることができる。
(6)また、本発明による第3の受光素子アレイは、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイであって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に設けられた受光層と、受光層上に設けられ、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなり、複数の受光領域に相当する領域に第2導電型の不純物が拡散された窓層とを備え、窓層の表面欠陥一つ当たりの平均面積が3[μm2]以上800[μm2]以下であることを特徴とする。
窓層の表面欠陥の平均面積を3[μm2]以上とすることによって、窓層の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を例えば660℃以上といった高温にする必要がない。したがって、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。さらには、ウエハ表面へのピント合わせが容易となり、ウエハの表面検査やデバイス作製を容易に行うことが可能になる。そして、これを利用して、この密度範囲を基準とした不良ウェハのスクリーニング検査が可能となる。また、窓層の表面欠陥の平均面積を800[μm2]以下とすることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって、十分に低い不良率を得ることができる。
(7)また、第1〜第3の受光素子アレイは、窓層の表面欠陥が高さ10[nm]以上の凹または凸形状を有することを特徴としてもよい。
(8)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、窓層形成工程の際に、InPからなる窓層を成長させることを特徴としてもよい。同様に、上述した第1ないし第3の受光素子アレイは、窓層がInPからなることを特徴としてもよい。InP結晶の表面に保護膜を形成する技術は、InGaAs結晶の表面に保護膜を形成する技術と比較して技術の蓄積が多く、結晶表面での暗電流リークを容易に抑制できる。また、窓層を介して光吸収層に光を入射する場合、受光層より入射側での近赤外光の吸収などを防止しながら、暗電流を効果的に抑制できる。
(9)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、受光層形成工程の際に、多重量子井戸構造を有する受光層を形成することを特徴としてもよい。同様に、上述した第1ないし第3の受光素子アレイは、受光層が多重量子井戸構造を有することを特徴としてもよい。このように受光層が多重量子井戸構造を有する場合、窓層を高温で成長させると井戸層とバリア層との界面の急峻性が低下し、光電変換効率といった素子特性を低下させる場合がある。上述した受光素子アレイの製造方法および受光素子アレイによれば、受光層が多重量子井戸構造を有する場合であっても、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(10)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、III−V族半導体基板がInP基板であり、受光層形成工程の際に、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とを交互に成長させることにより、多重量子井戸構造を有する受光層を形成することを特徴としてもよい。同様に、上述した第1ないし第3の受光素子アレイは、III−V族半導体基板がInP基板であり、受光層が、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とが交互に積層された多重量子井戸構造を有することを特徴としてもよい。受光層がこのような構成を有する場合、GaAsSbが熱に対して弱いことから、窓層を高温で成長させると、GaAsSb層とInGaAs層との界面の急峻性が低下して素子特性が低下し易い。上述した受光素子アレイの製造方法および受光素子アレイによれば、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とが交互に積層された多重量子井戸構造を受光層が有する場合であっても、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(11)また、上述した受光素子アレイの製造方法は、受光層形成工程の際に、InxGa1−xAs(0.38≦x≦0.68)とGaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)とのペア、又はGa1−uInuNvAs1−v(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)とのペアを交互に成長させることにより、受光層の多重量子井戸構造を形成することを特徴としてもよい。同様に、上述した第1ないし第3の受光素子アレイは、受光層の多重量子井戸構造が、InxGa1−xAs(0.38≦x≦0.68)とGaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)とのペア、又はGa1−uInuNvAs1−v(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)とのペアからなることを特徴としてもよい。これにより、近赤外域に受光感度を有するフォトダイオード等の受光領域を、良好な結晶性を保持した上で、能率良く大量に製造することができる。
(12)また、上記課題を解決するために、本発明によるエピタキシャルウェハの製造方法は、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイの製造に用いられるエピタキシャルウェハを製造する方法であって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に受光層を成長させる受光層形成工程と、受光層上に、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなる窓層を成長させる窓層形成工程とを含み、窓層形成工程の際に窓層を全有機原料有機金属気相成長法によって成長させ、窓層の成長温度を受光層の成長温度以下とすることを特徴とする。
本発明によるエピタキシャルウェハの製造方法においては、前述した受光素子アレイの製造方法と同様に、Pを含む化合物半導体からなる窓層を受光層上に成長させている。したがって、窓層上に電極や保護膜を好適に形成でき、結晶表面での暗電流リークを低減できる。また、本発明によるエピタキシャルウェハの製造方法においては、前述した受光素子アレイの製造方法と同様に、窓層形成工程の際、窓層を全有機MOVPE法によって成長させ、窓層の成長温度を受光層の成長温度以下としている。これにより、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(13)また、上述したエピタキシャルウェハの製造方法は、受光層形成工程の際に、受光層を全有機原料有機金属気相成長法によって成長させることを特徴としてもよい。或いは、上述したエピタキシャルウェハの製造方法は、受光層形成工程の際に、受光層を分子線エピタキシー法によって成長させることを特徴としてもよい。これらのように、受光層の成長方法が窓層の成長方法と同じである場合、或いは異なる場合のいずれにおいても、上述したエピタキシャルウェハの製造方法によれば、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
(14)また、上述したエピタキシャルウェハの製造方法は、窓層の成長温度を400℃以上600℃未満とすることを特徴としてもよい。窓層の成長温度を600℃未満とすることにより、例えば受光層がGaAsSbといった熱に弱い組成を含む場合であっても受光層の結晶品質を良好に保つことができる。窓層の成長温度を400℃未満とすると、表面欠陥の状態は良好となるが、窓層の結晶品質を良好に保つことができなくなり、良好な素子特性を得ることが難しくなる。
(15)また、本発明による第1のエピタキシャルウェハは、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイの製造に用いられるエピタキシャルウェハであって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に設けられた受光層と、受光層上に設けられ、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなる窓層とを備え、窓層の表面欠陥密度が50[cm−2]以上3000[cm−2]以下であることを特徴とする。
窓層の表面欠陥密度が50[cm−2]以上であることによって、窓層の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を非特許文献3のように660℃以上といった高温にする必要がない。また、受光素子アレイを製造する際に、上記エピタキシャルウェハに対する過剰な管理が不要となり、製造コストを低減できる。さらには、ウエハ表面へのピント合わせが容易となり、ウエハの表面検査やデバイス作製を容易に行うことが可能になる。そして、これを利用して、この密度範囲を基準とした不良ウェハのスクリーニング検査が可能となる。また、窓層の表面欠陥密度が3000[cm−2]以下であることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって十分な特性を得ることができる。
(16)また、本発明による第2のエピタキシャルウェハは、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域を備える受光素子アレイの製造に用いられるエピタキシャルウェハであって、第1導電型のIII−V族半導体基板上に設けられた受光層と、受光層上に設けられ、受光層のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有し、Pを含む化合物半導体からなる窓層とを備え、窓層の表面欠陥一つ当たりの平均面積が3[μm2]以上800[μm2]以下であることを特徴とする。
窓層の表面欠陥の平均面積を3[μm2]以上とすることによって、窓層の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を非特許文献3のように660℃以上といった高温にする必要がない。したがって、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。さらには、ウエハ表面へのピント合わせが容易となり、ウエハの表面検査やデバイス作製を容易に行うことが可能になる。そして、これを利用して、この密度範囲を基準とした不良ウェハのスクリーニング検査が可能となる。また、窓層の表面欠陥の平均面積を800[μm2]以下とすることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって、十分に低い不良率を得ることができる。
(17)また、第1及び第2のエピタキシャルウェハは、窓層の表面欠陥が高さ10[nm]以上の凹または凸形状を有することを特徴としてもよい。
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる受光素子アレイ及びその製造方法、並びにエピタキシャルウェハ及びその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る受光素子アレイ1の構成の一部を拡大して示す図である。受光素子アレイ1は、一次元状または二次元状に配列された複数の受光領域(画素ともいう)21を備えており、基板3、半導体層5、受光層7、拡散濃度調整層9、窓層11、保護膜(絶縁膜)13、複数のp型(第2導電型)電極15、及びn型(第1導電型)電極17を備える。
基板3は、本実施形態におけるIII−V族半導体基板であり、例えばInPからなる。基板3は、Siドープされておりn型の導電型を有する。基板3上のバッファ層(不図示)は、n型のInPからなり、10nm程度の厚さを有する。半導体層5は、上記バッファ層を挟んで基板3上に設けられ、このバッファ層と半導体層5の裏面とが接している。半導体層5は、n型のInGaAsからなり、150[nm]程度の厚さを有する。
受光層7は半導体層5の表面に設けられ、拡散濃度調整層9は受光層7上に設けられている。拡散濃度調整層9の裏面は受光層7に接している。受光層7は、半導体層5と拡散濃度調整層9との間(換言すれば、受光層7は、基板3と拡散濃度調整層9との間)に設けられている。本実施形態の受光層7は、複数の量子井戸層と複数のバリア層とが交互に積層された多重量子井戸構造を有する。
一例として、受光層7は、受光層7に含まれる複数のInGaAs層と複数のGaAsSb層とが交互に積層されたタイプIIの多重量子井戸構造を有することができる。受光層7には、InGaAs層及びGaAsSb層が例えば250組(ペア)含まれている。InGaAs層の厚さは5[nm]程度であり、GaAsSb層の厚さも5[nm]程度である。受光層7のInGaAs層及びGaAsSb層の具体的な組成は、InxGa1−xAs(0.38≦x≦0.68)、及び、GaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)である。なお、受光層7は、Ga1−tIntNuAs1−u(0.4≦t≦0.8,0<u≦0.2)とGaAs1−vSbv(0.36≦v≦0.62)とを250組含む構成であってもよい。受光層7がこれらのような組成を有することにより、近赤外域に受光感度を有するフォトダイオード等の受光領域21を、良好な結晶性を保持した上で、能率良く大量に製造することができる。
拡散濃度調整層9は、受光層7と窓層11との間に設けられている。拡散濃度調整層9上に窓層11が設けられ、拡散濃度調整層9の表面と窓層11の裏面とが接している。窓層11の表面には保護膜13が設けられ、保護膜13は開口を有する。窓層11の表面には複数のp型電極15が設けられ、窓層11の表面に接している。
拡散濃度調整層9は、III−V族半導体であるInGaAsから成り、1.0[μm]程度の厚さを有する。拡散濃度調整層9はドープされていない。窓層11は、Pを含む化合物半導体、例えばIII−V族半導体であるInPからなり、0.8[μm]程度の厚さを有する。窓層11は、受光層7及び拡散濃度調整層9よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。窓層11にはn型ドーパントであるSiがドープされている。
拡散濃度調整層9及び窓層11から成る半導体領域は、領域19と、複数の受光領域21とを含む。複数の受光領域21は、領域19に接する面を有する。複数の受光領域21それぞれは不純物拡散領域25によって構成されており、不純物拡散領域25には、所定の不純物元素(本実施形態においてはZn)がドープされている。
複数のp型電極15は、各受光領域21を構成する不純物拡散領域25上且つ窓層11上の領域にそれぞれ設けられており、保護膜13の開口内に配置されている。p型電極15と窓層11との接続はオーミック接続である。n型電極17は、基板3の裏面に設けられ、この裏面に接している。n型電極17と基板3との接続はオーミック接続である。n型電極17は、全ての受光領域21について共通である。
次に、受光素子アレイ1の製造方法について説明する。図2は、本実施形態の製造方法に用いるMOVPE装置100の構成を示す図である。このMOVPE装置100は、反応室(リアクタ)101と、反応室101への第一原料供給源102、第二原料供給源103、及び第三原料供給源104とを備える。反応室101は、流路が水平方向に形成された石英製のフローチャネル105を有する、いわゆる横型の反応室である。基板3は、ヒータ106を有するサセプタ107上に設置され、サセプタ107は基板3を回転自在に支持する。
第一原料供給源102には、例えばIII族元素であるGa、Al、及びInの原料として、有機金属であるトリエチルガリウム(TEGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、及びトリメチルインジウム(TMIn)が収容される。また、第二原料供給源103には、例えばV族元素であるAs、P、及びSbの原料として、有機金属であるターシャリブチルアルシン(TBAs)、ターシャリブチルホスフィン(TBP)、トリメチルアンチモン(TMSb)が収容される。また、第三原料供給源104には、例えばn型ドーパントとして、有機金属であるテトラエチルシラン(TeESi)が収容される。
これらの有機金属は、第一原料供給源102、第二原料供給源103、及び第三原料供給源104から気体となってキャリアガス(H2,N2)と共に反応室101へ送られる。各有機金属の流量は、流量制御器(MFC)109a〜109fによって制御される。また、反応室101の排出口には真空ポンプ110及び除害装置111が取り付けられている。
このMOVPE装置100を用いて、本実施形態に係る受光素子アレイ1を図3に示す製造工程に従って作製する。まず、図4に示すエピタキシャルウェハ27を、全有機MOVPE法により作製する。始めに、Siドープした基板3bを用意する。この基板3bの主面上に、n型ドープされたInPからなるバッファ層(不図示)を10[nm]成長させ、このバッファ層上にn型ドープされたInGaAsからなる半導体層5bを150[nm]成長させ、この半導体層5b上にInGaAs−GaAsSbのタイプIIの多重量子井戸構造で構成される受光層7bを成長させる(受光層形成工程S1)。この多重量子井戸構造は、基板側からアンドープInGaAs層5[nm]、アンドープGaAsSb層5[nm]が交互に積層されており、この二層構造が250ペア繰り返された構造である。受光層7bのInGaAs層及びGaAsSb層の具体的な組成は、InxGa1−xAs(0.38≦x≦0.68)、及び、GaAs1−ySby(0.36≦y≦0.62)である。なお、受光層7bは、Ga1−tIntNuAs1−u(0.4≦t≦0.8,0<u≦0.2)とGaAs1−vSbv(0.36≦v≦0.62)とを250組含む構成であってもよい。
以上の受光層7bの形成までのすべての層の結晶成長温度を、例えば400℃以上600℃以下とする。以上の受光層7bの形成までのすべての層の結晶成長において、GaAsSbに対してはTEGa、TBAs及びTMSbを、InGaAsに対してはTEGa、TMIn及びTBAsを、それぞれ原料ガスとして用いる。
次に、受光層7bの上にInGaAsからなる拡散濃度調整層9bを成長させ、更に、この拡散濃度調整層9bの上にInPからなる窓層11bを成長させる(窓層形成工程S2)。このとき、InPに対してはTMIn及びTBPを原料ガスとして用いる。このように、本実施形態ではPの原料として有機金属であるTBPを用いるが、TBPの分解温度は一般的なP原料であるホスフィン(PH3)と比べて300℃近く低いので、窓層11bを低温で成長させることが可能となる。すなわち、本実施形態では、窓層11bの成長温度を受光層7bの成長温度以下、好ましくは400℃以上600℃未満、一実施例では500℃とすることができる。
なお、ホスフィン(PH3)を使用して、400℃以上600℃未満の成長温度(例えば500℃)でInP窓層を成長させた場合、ホスフィンの分解が十分に起こらず、実効的なV/III比が非常に小さくなる。したがって、P空孔といった点欠陥が発生し、良好な素子特性を得ることが困難になる。
ここで、図5(a)〜図5(c)は、受光層7b、拡散濃度調整層9b、及び窓層11bを順に成長させる際の結晶成長温度の変化の例を示す図である。図5(a)に示す成長温度パターン(以下、パターンAという)では、受光層7b、拡散濃度調整層9b、及び窓層11bを全て同じ温度(例えば450℃)で成長させる。また、図5(b)に示す成長温度パターン(以下、パターンBという)では、受光層7bを比較的高温(例えば500℃)で成長させ、その上の拡散濃度調整層9b及び窓層11bを受光層7bの成長温度より低い温度(例えば450℃)で成長させる。また、図5(c)に示す成長温度パターン(以下、パターンCという)では、受光層7b及び拡散濃度調整層9bを比較的高温(例えば500℃)で成長させ、その上の窓層11bを受光層7bの成長温度より低い温度(例えば450℃)で成長させる。
パターンBでは、受光層7bを比較的高温で成長させることによって、パターンAと比較して結晶品質を向上させ、暗電流を低下させることができる。また、パターンCでは、受光層7b及び拡散濃度調整層9bを比較的高温で成長させることによって、パターンBと比較して更に結晶品質を向上させ、暗電流を低下させることができる。
以上の工程によってエピタキシャルウェハ27を作製した後、このエピタキシャルウェハ27を用いて受光素子アレイ1の作製を行う。まず、窓層11bの表面から拡散濃度調整層9bに達するp型領域(受光素子アレイ1の不純物拡散領域25に対応)を、窓層11bにおける複数の受光領域21に相当する領域に不純物を拡散させることにより形成する(不純物拡散工程S3)。具体的には、保護膜13となるSiN膜の選択拡散マスクパターンを窓層11b上に形成し、その開口部からp型不純物のZnを選択拡散させることによってp型領域を形成する。
そして、このp型領域に属する窓層11bの表面に、AuZnからなるp型電極15をオーミック接触するように設ける。更に、基板3bの裏面に、AuGeNiからなるn型電極17をオーミック接触するように設ける(電極形成工程S4)。以上の工程を経て、受光素子アレイ1がエピタキシャルウェハ27を用いて作製される。
なお、受光素子アレイ1の基板3、半導体層5、受光層7、拡散濃度調整層9、及び窓層11は、それぞれエピタキシャルウェハ27の基板3b、半導体層5b、受光層7b、拡散濃度調整層9b、及び窓層11bの一部である。
以上に説明した、本実施形態による受光素子アレイ1及びその製造方法、並びにエピタキシャルウェハ27及びその製造方法によって得られる効果について説明する。
上述した受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27の製造方法においては、Pを含む化合物半導体からなる窓層11bを受光層7b上に成長させている。したがって、窓層としてInGaAs層を設ける場合(非特許文献1)と比較して、Pを含む化合物半導体からなる窓層11bを設けることにより、窓層11b上にp型電極15や保護膜13を好適に形成でき、結晶表面での暗電流リークを低減できる。
また、上述した受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27の製造方法においては、窓層形成工程の際に、窓層11bを全有機MOVPE法によって成長させ、窓層11bの成長温度を受光層7bの成長温度以下としている。全有機MOVPE法では、P原料として例えば有機金属であるTBP等を用いるので、ホスフィンを用いる通常のMOVPE法と比較して、窓層11bの成長温度を低くしても良好な結晶成長を実現でき、窓層11b表面の結晶性を良好にできる。そして、窓層11bの成長温度を受光層7bの成長温度以下とすることにより、窓層11bを成長させる際の受光層7bへの影響を抑え、受光層7bの結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
また、本実施形態のように、受光層形成工程の際、受光層を窓層の成長方法と同じ全有機MOVPE法によって成長させてもよい。上述した受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27の製造方法によれば、このような場合であっても、窓層11bを成長させる際の受光層7bへの影響を抑え、受光層7bの結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。また、受光層7bから窓層11bまでを全有機MOVPE法によって連続して成長させることにより、受光層7bと窓層11bとの間に再成長界面が生じず、O,C,Hといった不純物の混入を回避できる。例えば、O,C,Hの密度をいずれも1×1017[cm−3]未満にすることができる。したがって、窓層11bの表面欠陥を十分に低減しつつ、受光層7bの結晶品質を保つことができる。
また、本実施形態のように、窓層11bの成長温度は400℃以上600℃未満であることが好ましい。窓層11bの成長温度を600℃未満とすることにより、受光層7bがGaAsSbといった熱に弱い組成を含む場合であっても受光層7bの結晶品質を良好に保つことができる。また、窓層11bの成長温度を400℃未満とすると、表面欠陥の状態は良好となるが、窓層11bの結晶品質を良好に保つことができなくなり、良好な素子特性を得ることが難しくなる。
ここで、以下の表1は、窓層11bの成長温度と、受光層7b、窓層11bの結晶品質および表面欠陥との関係を示す表である。表1に示すように、窓層11bの成長温度を400℃以上600℃未満とすることにより、受光層7b、窓層11bの結晶品質の向上と、表面欠陥の低減とを両立させ得ることがわかる。なお、本実施形態において、窓層11bの表面欠陥とは、高さ10[nm]以上の凹または凸形状を有する欠陥を指すものとする。
また、本実施形態のように、窓層形成工程の際、InPからなる窓層11bを成長させることが好ましい。すなわち、受光素子アレイ1は、窓層11がInPからなることが好ましい。InP結晶の表面に保護膜13を形成する技術は、InGaAs結晶の表面に保護膜を形成する技術と比較して技術の蓄積が多く、結晶表面での暗電流リークを容易に抑制できるからである。また、窓層11を介して受光層7に光を入射する場合、受光層7より入射側での近赤外光の吸収などを防止しながら、暗電流を効果的に抑制できるからである。
また、本実施形態のように、受光層形成工程の際、多重量子井戸構造を有する受光層7bを形成することが好ましい。すなわち、受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27は、受光層7(7b)が多重量子井戸構造を有することが好ましい。このように受光層7(7b)が多重量子井戸構造を有する場合、窓層11(11b)を高温で成長させると井戸層とバリア層との界面の急峻性が低下し、光電変換効率といった素子特性を低下させる場合がある。上述した受光素子アレイ1及びその製造方法によれば、受光層7(7b)が多重量子井戸構造を有する場合であっても、受光層7(7b)の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
また、本実施形態のように、基板3bがInP基板であり、受光層形成工程の際、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とを交互に成長させることにより、多重量子井戸構造を有する受光層7bを形成することがより好ましい。同様に、受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27は、基板3(3b)がInP基板であり、受光層7(7b)が、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とが交互に積層された多重量子井戸構造を有することがより好ましい。受光層7(7b)がこのような構成を有する場合、GaAsSbが熱に対して弱いことから、窓層11(11b)を高温で成長させると、GaAsSb層とInGaAs層との界面の急峻性が低下して素子特性が低下し易い。上述した受光素子アレイ1及びその製造方法によれば、InGaAsを含む層と、GaAsSbを含む層とが交互に積層された多重量子井戸構造を受光層7(7b)が有する場合であっても、受光層7(7b)の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
また、本実施形態のようなInGaAs/GaAsSbによるタイプII量子井戸構造の場合、組成の異なる化合物半導体を交互に複数回積層するので組成制御が難しく、基板との格子不整合による歪みが蓄積され易いと考えられる。特に、量子井戸のペア数が例えば250ペア以上といった極めて多数である場合、格子不整合による歪みがより蓄積され易い。そして、このような歪みに起因して、窓層において表面欠陥が発生し易くなる。したがって、タイプII量子井戸構造を有する受光素子アレイでは窓層に表面欠陥が発生し易いといえる。したがって、従来、表面欠陥を抑制するために窓層の成長温度を高温にする必要があった。本実施形態の受光素子アレイ1及びその製造方法によれば、このような構造を有する受光素子アレイであっても、窓層11bの成長温度を低く抑えて、受光層7bの結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
ここで、図6は、窓層11(11b)の表面欠陥の直径(μm)と、窓層11(11b)の表面欠陥に起因する受光領域21の不良率(以下、画素不良率という)との関係を示すグラフである。図中において、グラフG1〜G3は、それぞれ表面欠陥密度が1000[cm
−2]、2000[cm
−2]、及び3000[cm
−2]である場合を示している。また、画素不良率は、以下の数式(1)によって算出される。なお、数式(1)において、Dは表面欠陥密度(cm
−2)、Rは表面欠陥サイズ(μmφ)である。また、画素間隔を30[μm]、画素サイズ(拡散込み)を19[μm]と仮定した。
図6より、例えば表面欠陥密度が2000[cm
−2]であり、表面欠陥サイズが20[μmφ]であれば、画素不良率は2.4%となる。
図7は、窓層11(11b)の成長温度による、窓層11(11b)の表面欠陥密度、表面欠陥一つ当たりの平均面積、表面欠陥に起因する画素不良率、暗電流、及び暗電流密度の値を示す図表である。また、図8(a)は、窓層11の表面欠陥密度と画素不良率との関係を示すグラフであり、図8(b)は、窓層11の表面欠陥の平均面積と画素不良率との関係を示すグラフである。なお、図8(a)は、表面欠陥密度が1000[cm−2]である場合を示しており、図8(b)は、表面欠陥の平均面積が78.5[μm2](10[μmφ])である場合を示している。
図7に示すように、窓層11(11b)の成長温度が低いほど、表面欠陥の平均面積が小さくなり、図8(b)により画素不良率が低下することがわかる。また、表面欠陥の平均面積が小さくなると、暗電流、及び暗電流密度が低下することがわかる。特に、窓層11(11b)の成長温度が525℃以下であれば、窓層11(11b)の表面欠陥の平均面積が750[μm2]以下といった良好な値まで低下し、表面欠陥に起因する画素不良率が1.9%以下といった実用的な値まで低減する。
このように、本実施形態に係る製造方法により製造された受光素子アレイ1は、窓層11の表面欠陥に起因する画素不良率が2%以下であることができ、表面欠陥の平均面積が800[μm2]以下であることができる。画素不良率が2%以下であることにより、例えばカメラといった受光素子アレイ1の用途にとって十分な特性を得ることができる。また、窓層の表面欠陥の平均面積が800[μm2]以下であることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって、十分に低い画素不良率を得ることができる。
また、受光素子アレイ1は、窓層11の表面欠陥に起因する複数の受光領域の不良率が0.03%以上であることが好ましい。画素不良率が0.03%以上であることにより、窓層11の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を例えば660℃以上といった高温にする必要がない。したがって、窓層11を成長させる際の受光層7への影響を抑え、受光層7の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
また、受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27は、窓層11(11b)の表面欠陥密度が50[cm−2]以上3000[cm−2]以下であることが好ましい。窓層11(11b)の表面欠陥密度が50[cm−2]以上であることによって、窓層11(11b)の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を例えば660℃以上といった高温にする必要がない。また、受光素子アレイ1を製造する際に、基板3b上に成長した受光層7bおよび窓層11bを有するエピタキシャルウェハ27に対する過剰な管理が不要となり、製造コストを低減できる。また、窓層11の表面欠陥密度が3000[cm−2]以下であることによって、例えばカメラといった受光素子アレイの用途にとって十分な特性を得ることができる。
また、受光素子アレイ1及びエピタキシャルウェハ27は、窓層11(11b)の表面欠陥一つ当たりの平均面積が3[μm2]以上であることが好ましい。これによって、窓層11(11b)の表面欠陥を抑制するためにその成長温度を例えば660℃以上といった高温にする必要がない。したがって、窓層11(11b)を成長させる際の受光層7(7b)への影響を抑え、受光層7の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。
図9は、上述した受光素子アレイ1の製造方法(すなわち受光層7b、拡散濃度調整層9b及び窓層11bを全て全有機MOVPE法により一貫成長する方法)により製造された受光素子アレイ1における、リアクタ掃除からのラン数、表面欠陥密度、表面欠陥の一つ当たり平均面積、画素不良率、暗電流および暗電流密度の相関を示す図表である。図9に示すように、リアクタ清掃からのラン数が増加するにつれて、表面欠陥密度は増加する。リアクタ清掃からのラン数が40ラン以下であれば、窓層11(11b)の表面欠陥密度が3000[cm−2]以下といった良好な値まで低下し、表面欠陥に起因する画素不良率が2.0%以下といった実用的な値まで低減する。
なお、上述した受光素子アレイ1の製造方法では、受光層形成工程の際に、受光層7bを全有機MOVPE法によって成長させているが、本発明による受光素子アレイの製造方法においては、受光層形成工程の際に、受光層を分子線エピタキシー法によって成長させてもよい。このような場合であっても、本発明による受光素子アレイの製造方法によれば、窓層を成長させる際の受光層への影響を抑え、受光層の結晶品質を保ち良好な特性を得ることができる。