しかし、上述した従来における光学機器のレンズシフト装置は、次のような解決すべき課題も存在した。
第一に、この種のレンズシフト装置は、投射レンズを移動させる移動機構部を備え、この移動機構部は、通常、駆動モータ及びボールねじ機構(運動変換機構)を用いて構成されるため、シフト調整後のレンズ位置は調整位置に保持される。しかし、レンズシフト装置には、常に、投射レンズの自重が付加されることから、レンズ位置のシフト調整を行っても、長期使用や振動等により調整したレンズ位置にズレを生じる場合がある。特に、大型の光学機器の場合、投射レンズもかなりの重量になるため、ズレが生じやすく、再調整作業が必要となることも少なくないとともに、光学機器を天井等の高い位置や調整しにくい場所に設置した場合には、再調整作業が容易でなく、無用な労力と調整時間が強いられる。
第二に、この種のレンズシフト装置によりレンズ位置をシフト調整した場合、調整終了後に、レンズ位置をロックすればよいが、この場合、別途のロック機構が必要になり、部品点数及び組付工数の増加に伴うコストアップを招くとともに、配設スペースの確保に伴うレンズシフト装置全体の大型化を招く。しかも、ロック機構を付設する場合、通常、投射レンズを支持する支持部位を加圧や係止等により機械的に固定する必要があるため、適切なロック機構を使用しない場合には、ロック操作時に、再調整したレンズ位置に少なからずズレを生じてしまうなど、望ましいロック機構を付設することは容易でない。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した光学機器のレンズシフト装置の提供を目的とするものである。
本発明に係る光学機器Mのレンズシフト装置1は、上述した課題を解決するため、少なくとも、レンズユニットLを支持するレンズ支持機構部2と、このレンズ支持機構部2を、垂直ガイド機構部3を介して垂直方向Fvへスライド変位可能に支持する垂直支持盤部4と、レンズ支持機構部2を垂直方向Fvへ移動させる垂直移動機構部5とを備えてなるレンズシフト装置を構成するに際して、レンズ支持機構部2と垂直支持盤部4を接触させ、レンズ支持機構部2又は垂直支持盤部4の相接触する一方の面に係合ピン6pを起設し、かつ他方の面に係合ピン6pが係合するスリット6cを形成し、係合ピン6pに装着したスプリング6sにより、レンズ支持機構部2を垂直支持盤部4に圧接させる垂直ガイド部6を、異なる複数の位置に配してなる垂直ガイド機構部3を備えるとともに、スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつ筒形に形成して係合ピン6pの外周面に螺合するロック部材7,スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつこの規制部材16の外周面に内周面が螺合してスプリング6sを覆うロック部材7,又は筒形に形成した係合ピン6pの外周面を覆い、かつ当該係合ピン6pの内周面に螺合する螺合体部18sに係合してスプリング6sの一端を規制する規制部材16を兼用する筒形に形成したロック体部18mを有するロック部材7を備え、係合ピン6pに螺合させたロック部材7を正方向又は逆方向に回し操作し、当該ロック部材7により、係合ピン6pを設けていないレンズ支持機構部2側又は垂直支持盤部4側を加圧することにより、垂直支持盤部4に対するレンズ支持機構部2の位置をロックし又はロック解除可能なシフトロック機構部8を設けてなることを特徴とする。
この場合、発明の好適な態様により、レンズ支持機構部2は、レンズユニットLを装着するレンズ装着盤部12と、このレンズ装着盤部12を、水平ガイド機構部13を介して水平方向Fhへスライド変位可能に支持し、かつ垂直支持盤部4により支持される水平支持盤部14と、レンズ装着盤部12を水平方向Fhへ移動させる水平移動機構部15とを備えて構成できる。また、スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつ筒形に形成して係合ピン6pの外周面に螺合するロック部材7,又はスプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつこの規制部材16の外周面に内周面が螺合してスプリング6sを覆うロック部材7には、当該ロック部材7を回し操作する別途のロック操作治具Acに対して係合する係合部17を設けることができる。なお、光学機器Mとしては、プロジェクタMpに適用することが望ましい。
このような構成を有する本発明に係る光学機器のレンズシフト装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) シフトロック機構部8により、シフト調整を行ったレンズ位置をロックできるため、光学機器Mの大型化によりレンズユニットLの重量が大きくなった場合であっても、長期使用或いは振動等の付加に対して、レンズ位置のズレを確実に防止できる。したがって、頻繁な再調整作業を強いられる不具合や光学機器を天井等の高い位置や調整しにくい場所に設置した場合における無用な労力と時間が強いられる再調整作業を回避でき、特に、光学機器MとしてプロジェクタMpに用いて最適となる。
(2) レンズシフト装置1の一部となる垂直ガイド部6、即ち、レンズ支持機構部2と垂直支持盤部4を接触させ、レンズ支持機構部2又は垂直支持盤部4の相接触する一方の面に係合ピン6pを起設し、かつ他方の面に係合ピン6pが係合するスリット6cを形成し、係合ピン6pに装着したスプリング6sにより、レンズ支持機構部2を垂直支持盤部4に圧接させる垂直ガイド部6を利用して、シフトロック機構部8を付設したため、シフトロック機構部8全体のおける部品点数の削減化及び組付工数の低減化により、コストダウン、更には、レンズシフト装置1全体の小型化に寄与できる。しかも、垂直ガイド部6におけるスプリング6sの圧接方向に加圧して固定(ロック)するため、ロック操作時に、調整したレンズ位置がズレてしまうなどの不具合を回避できる。
(3) シフトロック機構部8に、スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつ筒形に形成して係合ピン6pの外周面に螺合するロック部材7を用いれば、単一部品であるロック部材7の追加のみで実現できるため、最もシンプルな形態により容易に実施できるなど、コストダウン及び小型化を図る観点から最も望ましいパフォーマンスを得ることができる。
(4) シフトロック機構部8に、スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつこの規制部材16の外周面に内周面が螺合してスプリング6sを覆うロック部材7を用いれば、スプリング6sを含む垂直ガイド部6を外部に対して保護できるため、例えば、シフトロック機構部8におけるロック部材7を回し操作する際に、垂直ガイド部6に当たったり或いは誤操作により垂直ガイド部6側の調整(設定)に悪影響を及ぼす不具合を回避できる。
(5) シフトロック機構部8に、筒形に形成した係合ピン6pの外周面を覆い、かつ当該係合ピン6pの内周面に螺合する螺合体部18sに係合してスプリング6sの一端を規制する規制部材16を兼用する筒形に形成したロック体部18mを有するロック部材7を設ければ、ロック体部18mを、垂直ガイド部6におけるスプリング6sの一端を規制する規制部材16に兼用できるなど、更なる部品点数の削減に寄与できる。
(6) 好適な態様により、レンズ支持機構部2に、レンズユニットLを装着するレンズ装着盤部12と、このレンズ装着盤部12を、水平ガイド機構部13を介して水平方向Fhへスライド変位可能に支持し、かつ垂直支持盤部4により支持される水平支持盤部14と、レンズ装着盤部12を水平方向Fhへ移動させる水平移動機構部15とを設ければ、レンズユニットLに対して垂直方向Fvの位置調整に加えて、水平方向Fhへの位置調整が可能になるとともに、シフトロック機構部8と同様のシフトロック機構を適用することにより、水平方向Fhのレンズ位置もロック可能となるため、レンズ位置をより確実かつ安定に固定することができる。
(7) 好適な態様により、スプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつ筒形に形成して係合ピン6pの外周面に螺合するロック部材7,又はスプリング6sの一端を規制する規制部材16を有し、かつこの規制部材16の外周面に内周面が螺合してスプリング6sを覆うロック部材7に、これらのロック部材7を回し操作する別途のロック操作治具Acに対して係合する係合部17を設ければ、ロック操作治具Acを利用してロック部材7をより確実かつ容易に回し操作することができる。
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係るレンズシフト装置1の理解を容易にするため、レンズシフト装置1を備えるプロジェクタMp(光学機器M)の概要について、図6及び図7を参照して説明する。
図6及び図7は、レンズシフト装置1を備えるプロジェクタMp(光学機器M)の一例を示す。プロジェクタMpは、プロジェクタ本体Mpmと、このプロジェクタ本体Mpmに装着する投射レンズ(レンズユニット)Lを備える。例示のプロジェクタMpは業務用プロジェクタであり、投射レンズLは、外径寸法が10〔cm〕前後から10〔cm〕を越える大型プロジェクタである。プロジェクタ本体Mpmは、キャビネットMcを備え、このキャビネットMcの内部に本実施形態に係るレンズシフト装置1を配設する。レンズシフト装置1は、投射レンズLを支持し、垂直方向Fv及び水平方向Fhへシフトさせることにより、レンズ位置に対する調整を行うことができる。なお、投射レンズLは、キャビネットMcの正面パネルMcfに設けたレンズ口Mcfoから前方に突出する。
次に、本実施形態に係るレンズシフト装置1の構成について、図1〜図7を参照して説明する。
本実施形態に係るレンズシフト装置1は、図1及び図2に示すように、基本構成として、少なくとも、投射レンズLを支持するレンズ支持機構部2と、このレンズ支持機構部2を、垂直ガイド機構部3を介して垂直方向Fvへスライド変位可能に支持する垂直支持盤部4と、レンズ支持機構部2を垂直方向Fvへ移動させる垂直移動機構部5とを備えて構成する。また、この場合、レンズ支持機構部2は、垂直支持盤部4の前方に配し、投射レンズLを装着するレンズ装着盤部12と、このレンズ装着盤部12を、水平ガイド機構部13を介して水平方向Fhへスライド変位可能に支持し、かつ上述した垂直支持盤部4により支持される水平支持盤部14と、レンズ装着盤部12を水平方向Fhへ移動させる水平移動機構部15とを備えて構成する。
以下、基本構成における各部の具体的構成について説明する。垂直支持盤部4は、図2に示すように、前側(投射レンズL側)から、プラスチック素材により一体形成した基体盤部4f,断熱素材によりシート状に形成した断熱盤部4m,亜鉛メッキ鋼板等の伝熱性の高い金属素材により一体形成した補強盤部4rを、順次重ね合わせた三層のハイブリッド構造により構成する。補強盤部4rは、プレート材をプレス成形することにより前面を開放したボックス状に形成する。このため、後面に位置する矩形状の本体板部21と、この本体板部21の四辺から前方へ直角に折曲形成した上板部22,下板部23,右側板部24及び左側板部25を有するとともに、図1に示すように、右側板部24及び左側板部25の前端縁から左右外方へ複数の放熱フィン部26…を突出形成し、さらに、上板部22及び下板部23の前端縁から上下方向へ取付片部27…を突出形成する。例示の放熱フィン部26…は前後方向への通気性を確保している。断熱盤部4mは、断熱シート材を打ち抜いて形成する。この断熱盤部4mは、本体板部21の前面に重なるように、その大きさ及び形状を選定する。なお、断熱素材は、特定の素材に限定されるものではなく、プラスチック,金属,紙,合成材等の断熱性能の良好な各種素材を利用できる。基体盤部4fは、プラスチック素材により一体成形し、上板部22,下板部23,右側板部24及び左側板部25の内側に嵌合するように、その大きさ及び形状を選定する。そして、組付けは、補強盤部4rの前面に、断熱盤部4m,基体盤部4fを順次重ね、複数の固定ネジN…で固定することにより一体化する。これにより、三層ハイブリッド構造の垂直支持盤部4を得ることができる。
ところで、このような垂直支持盤部4は、重量の大きい投射レンズLの後端側をいわば片持ち支持することから、垂直支持盤部4に対しては、大きな荷重(モーメント)が付加される。したがって、通常、機械的な強度を考慮して全体を金属素材を用いたダイキャストにより一体形成しているが、コストアップ及び重量アップを招くとともに、寸法的な精度を確保しにくい難点がある。しかし、本実施形態の垂直支持盤部4は、上述したように、寸法的な精度を確保しやすいプラスチック素材を用いた基体盤部4fと、断熱素材を用いた断熱盤部4mと、機械的強度及び放熱性に優れた金属素材を用いた補強盤部4rの三層ハイブリッド構造としたため、機械的強度を確保しつつ、全体の軽量化,コストダウン,寸法精度の向上を実現できる。
加えて、垂直支持盤部4は、補強盤部4rにおける本体板部21の周りに、上板部22,下板部23,右側板部24及び左側板部25を直角に折曲形成したため、本体板部21の平面性を確保できる。また、プロジェクタMpの場合、発熱の大きい光源を内蔵するため、プロジェクタMp全体の放熱性を確保することが重要となるが、補強盤部4rに設けた複数の放熱フィン部26…により放熱効果を高めることができる。即ち、図6及び図7に示すように、キャビネットMcの内部にレンズシフト装置1を設置する際に、放熱フィン部26…を送風路に臨ませることにより実現できる。これにより、キャビネットMc内の発熱は、金属素材の補強盤部4rを伝熱して放熱フィン部26…に至るとともに、キャビネットMc内に配した空冷ファン52からの送風Fw…が放熱フィン部26…を通過し、熱交換した後、キャビネットMcに設けたルーバ付排気口、例えば、正面パネルMcfの両側に設けたルーバ付排気口53,53から外部に排出され、全体の放冷効果が高められる。このように、上板部22,下板部23,右側板部24及び左側板部25は、補強用リブ機能と放熱用伝熱機能を兼ねている。なお、54,54は送風ガイドを示す。
さらに、垂直支持盤部4は、補強盤部4rと基体盤部4f間に断熱盤部4mが介在するため、補強盤部4rの熱は、この断熱盤部4mによって基体盤部4f側への伝熱が遮断される。これにより、プラスチック素材により形成した基体盤部4fへの熱影響が防止されるため、熱伸縮によるレンズ位置やフォーカス位置の無用な変動が回避される。また、基体盤部4fの前面には、後述する駆動モータ41,46をはじめ、センサやスイッチが配設され、これらの配線は、垂直支持盤部4に設けた開孔を通して補強盤部4r側に導かれるが、補強盤部4r側の配線は、図示を省略したが、補強盤部4rの所定位置に、コの字形に切込み形成した配線クリップ部により保持し、邪魔にならないように配線することができる。
レンズ装着盤部12は、アルミニウム素材等の金属素材を用いて一体形成したダイキャストであり、図2に示すように、レンズシフト装置1の最前部に配する。レンズ装着盤部12の前面には、レンズマウント12mを取付け、このレンズマウント12mに投射レンズLの後端を装着(又は着脱)できる。また、レンズ装着盤部12と垂直支持盤部4間には、水平支持盤部14を配する。この水平支持盤部14は、アルミニウム素材等の金属素材を用いて一体形成したダイキャストである。そして、レンズ装着盤部12と水平支持盤部14間には水平ガイド機構部13を介在させ、水平支持盤部14によりレンズ装着盤部12を水平方向Fhへスライド変位可能に支持するとともに、水平支持盤部14と垂直支持盤部4間には垂直ガイド機構部3を介在させ、垂直支持盤部4により水平支持盤部14を垂直方向Fvへスライド変位可能に支持する。
垂直ガイド機構部3は、図5に示すように、水平支持盤部14の四隅に配した四つの垂直ガイド部6…の組合わせにより構成する。一つの垂直ガイド部6(他の垂直ガイド部6…も同じ)は、図3に示すように、垂直支持盤部4の前面に係合ピン6pを起設し、かつ水平支持盤部14に、係合ピン6pが係合する垂直方向に長い小判形のスリット6cを形成するとともに、水平支持盤部14と垂直支持盤部4が相接触する面は、一部を盛上げることにより一部の面同士のみを接触させる。したがって、係合ピン6pをスリット6cに係合させ、さらに、係合ピン6pにスプリング6sを装填して水平支持盤部14を垂直支持盤部4側に圧接させるようにすれば、垂直ガイド部6の基本構造が構成される。このように、水平支持盤部14と垂直支持盤部4における一部の面同士のみを接触させるようにすれば、必要部位のみが面接触し、水平支持盤部14と垂直支持盤部4間の摩擦抵抗(接触抵抗)の低減化により、よりスムースな動き(移動)が確保される。
また、垂直ガイド部6の具体的構造は、図3に示すように、先端側を円筒形に形成し、内周面に雌ネジ部31を形成した係合ピン6pを備えるとともに、図3及び図5に示すように、水平支持盤部14に、前面からスリット6cよりも大きい相似形のガイド凹部32を形成し、このガイド凹部32の底にスリット6cを形成する。組付け時には、係合ピン6pをスリット6cに挿入した後、係合ピン6pの外周面に、ガイドカラー33,規制部材34を順次装填する。これにより、ガイドカラー33は、係合ピン6pとスリット6c間に介在し、係合ピン6pのスムースなスライド変位が確保される。なお、ガイドカラー33の一端には鍔状の規制部33sを一体形成し、この規制部33sをガイド凹部32の底の面に当接させる。このような構成により、水平支持盤部14に対して、ガタ付きやフラ付きの生じにくい、より安定したガイド性能が確保される。
さらに、係合ピン6pには、本実施形態の要部を構成するシフトロック機構部8を付設する。シフトロック機構部8は、一端に鍔状の規制部7sを一体形成し、内周面に雌ネジ部36を形成した筒形のロック部材7を備えるとともに、係合ピン6pの外周面には雌ネジ部36が螺合する雄ネジ部35を形成する。これにより、ロック部材7の内周面は係合ピン6pの外周面に螺合させることができる。また、鍔状(円板状)の規制部7sには、図5に示すように、別途のロック操作治具Acに対して係合する係合部17を設ける。例示の係合部17は、規制部7sの周縁であって、180゜反対となる二つの位置に係合凹部17s,17sを形成したものである。このように、ロック部材7に、当該ロック部材7を回し操作する別途のロック操作治具Acに対して係合する係合部17を設ければ、ロック操作治具Acを利用してロック部材7をより確実かつ容易に回し操作することができる。このため、図6及び図7に示すように、キャビネットMcの正面パネルMcfには、外からロック操作治具Acを挿入し、ロック部材7を回し操作できる操作用窓部51,51を設けることが望ましい。なお、51c,51cは操作用窓部51,51を開閉する窓部カバーを示し、図7中、51csは、窓部カバー51cを開けた状態を示している。
そして、ロック部材7を係合ピン6pに取付ける際には、ロック部材7の外周面に、スプリング(コイルスプリング)6sを装填した後、ロック部材7の内周面(雌ネジ部36)を係合ピン6pの外周面(雄ネジ部35)に螺合させる。また、係合ピン6pの内周面(雌ネジ部31)には固定ネジ37を螺合する。これにより、ロック部材7の規制部7sと規制部材34間には圧縮したスプリング6sが介在するとともに、固定ネジ37の頭部により、ロック部材7の位置が規制される。したがって、ロック部材7を回し操作し、当該ロック部材7の先端部7cを規制部材34に当接させて加圧すれば、垂直支持盤部4に対して水平支持盤部14が動かないようにロック(固定)することができる。このため、必要により、ロック部材7における先端部7cの前面には凹凸等を設けたり、摩擦係数の大きい部材を取付けるなどにより滑りにくくすることも可能である。なお、図3中、Asは固定ネジ37を回し操作するネジ操作治具を示す。
ところで、本実施形態に係るシフトロック機構部8は、垂直ガイド部6を利用して取付けるが、垂直ガイド部6の機能に対しては影響しない。即ち、ロック部材7を回し操作してロックを行っても固定ネジ37には影響しないため、ロック解除時に、ロック部材7を反対方向に回し操作し、固定ネジ37に当接する位置まで戻せば、垂直ガイド部6におけるスプリング6sによる予め設定された弾圧力(圧接力)が確保される。したがって、係合ピン6pの長さを予め選定し、固定ネジ37の頭部を係合ピン6pに当接させることにより、スプリング6sの圧接力を設定してもよいし、必要により固定ネジ37を回し操作し、ロック部材7の戻り位置を調整することにより、スプリング6sの圧接力を設定してもよい。
このようなシフトロック機構部8は、四つの垂直ガイド部6…の全てに設けてもよいし、例えば、上側に配する左右二つの垂直ガイド部6…にのみ設けてもよく、必ずしも全ての垂直ガイド部6…に設けることを要しない。シフトロック機構部8を設けない場合には、ロック部材7を通常のカラー部材として形成すればよい。即ち、全体の形状はロック部材7と同様に形成するが、雌ネジ部36,雄ネジ部35及び係合部17は設けない。このように、シフトロック機構部8に、筒形に形成することにより係合ピン6pの外周面に螺合するロック部材7を用いれば、単一部品であるロック部材7の追加のみで実現できるため、最もシンプルな形態により容易に実施できるなど、コストダウン及び小型化を図る観点から最も望ましいパフォーマンスを得ることができる。
一方、水平ガイド機構部13は、図5に示すように、水平支持盤部14の四隅に配した四つの水平ガイド部33…の組合わせにより構成する。一つの水平ガイド部33の構成は、垂直ガイド部6を90゜回転させた構成と同じになる点を除き、垂直ガイド部6と同一に構成できる。この場合、水平方向に長い小判形のスリット6cは水平支持盤部14に設け、かつ係合ピン6pはレンズ装着盤部12に形成するため、水平ガイド部33の向きは、垂直ガイド部6に対して前後反対となる。これにより、水平ガイド部33にも前述したシフトロック機構部8と同様のシフトロック機構を適用することができ、水平方向Fhのレンズ位置もロック可能となるため、レンズ位置をより確実かつ安定に固定することができる。なお、水平ガイド部33…には、必ずしもロック部材7(シフトロック機構部8)を設けることを要しない。したがって、上述した、雌ネジ部36,雄ネジ部35及び係合部17は設けないロック部材7(カラー部材)を用いればよい。
他方、垂直移動機構部5は、図1に示すように、駆動モータ41及び運動変換機構42を備える。この場合、駆動モータ41は垂直支持盤部4の前面に取付ける。運動変換機構42は、ボールねじ機構43及び回転伝達ギア機構44を備え、ボールねじ機構43のスクリュ部43sは垂直支持盤部4の前面に配設する。この際、スクリュ部43sは、軸心を垂直方向Fvに配し、垂直支持盤部4の前面に設けた上下一対の軸受部により回動自在に支持する。一方、ボールねじ機構43のナット部43nは、水平支持盤部14の側辺に一体に設ける。これにより、駆動モータ41の回転は、回転伝達ギア機構44によりスクリュ部43sに伝達され、スクリュ部43sの回転により、水平支持盤部14(レンズ支持機構部2)が垂直方向Fvへ移動する垂直移動機構部5が構成される。また、水平移動機構部15も、レンズ装着盤部12を水平方向Fhに移動させる点を除いて垂直移動機構部5と同様に構成する。図1に示す水平移動機構部15において、46は水平支持盤部14に取付けた駆動モータ、47は運動変換機構、48はボールねじ機構、48sは水平支持盤部14に設けたスクリュ部をそれぞれ示し、図に現れないボールねじ機構48のナット部はレンズ装着盤部12に一体に設ける。
次に、本実施形態に係るレンズシフト装置1の機能(動作)について、図1〜図7を参照して説明する。
今、プロジェクタMpを天井等の所定場所に設置した場合を想定する。設置が終了したなら、プロジェクタMpの電源をONにし、前方のスクリーン(不図示)に、例えば、テスト映像を投映する。そして、本実施形態に係るレンズシフト装置1を利用して、投射レンズLの垂直方向Fv及び水平方向Fhに対するシフト調整を行う。この場合、シフト調整は、リモコン等の操作により行うことができる。なお、初期状態におけるシフトロック機構部8のロック部材7は、図3に示すロック解除位置、即ち、ロック部材7の先端部7cが規制部材34から離間した位置にセットされている。
まず、垂直方向Fvのシフト調整時には、駆動モータ41が駆動制御され、この駆動モータ41の回転は、回転伝達ギア機構44を介してボールねじ機構43のスクリュ部43sに伝達される。スクリュ部43sの回転により、ナット部43n、更に、このナット部43nに一体の水平支持盤部14が垂直方向Fvに移動(昇降)し、投射レンズLも垂直方向Fvに一体に移動する。この際、水平支持盤部14の四隅に形成した垂直方向Fvのスリット6c…が、垂直支持盤部44の係合ピン6p…にガイドされる。これにより、投射レンズLに対する垂直方向Fvのシフト調整を行うことができる。
一方、水平方向Fhのシフト調整時には、駆動モータ46が駆動制御され、レンズ装着盤部12、更には投射レンズLが水平方向Fhに移動(昇降)する。この際、レンズ装着盤部12の係合ピン6p…は、水平支持盤部14の四隅に形成した水平方向Fhのスリット6c…にガイドされる。これにより、投射レンズLに対する水平方向Fhのシフト調整を行うことができる。
そして、レンズ位置のシフト調整が終了したなら、シフトロック機構部8によりレンズ位置に対するロックを行う。この場合、図6及び図7に示す窓部カバー51cを開け、図4に示すロック操作治具Acを操作窓部51からキャビネットMcの内部に差し込むことにより、ロック部材7の係合部17(切欠凹部17s,17s)に係合させる。係合させたならロック操作治具Acを回し操作する。ロック部材7は係合ピン6pに対して螺合しているため、ロック部材7を回し操作し、ロック部材7を規制部材34側へ変位させるとともに、ロック部材7の先端部7cを規制部材34に当接し、更に加圧すれば、水平支持盤部14を、垂直支持盤部4に対して動かないようにロック(固定)することができる。ロック操作が終了したなら、ロック操作治具AcをキャビネットMcから抜き出し、窓部カバー51cを閉じればよい。
なお、再調整を行う場合には、逆の手順、即ち、窓部カバー51cを開き、ロック操作治具Acによりロック部材7をロック操作時に対して反対方向に回し操作し、ロック部材7を規制部材34から離間させることによりロック解除を行えばよい。
よって、このような本実施形態に係るレンズシフト装置1によれば、シフトロック機構部8により、シフト調整を行ったレンズ位置をロックできるため、プロジェクタMpの大型化により投射レンズLの重量が大きくなった場合であっても、長期使用或いは振動等の付加に対して、レンズ位置のズレを確実に防止できる。したがって、頻繁な再調整作業を強いられる不具合や光学機器を天井等の高い位置や調整しにくい場所に設置した場合における無用な労力と時間が強いられる再調整作業を回避でき、このようなプロジェクタMpに用いて最適となる。
また、レンズ支持機構部2と垂直支持盤部4を接触させ、レンズ支持機構部2又は垂直支持盤部4の相接触する一方の面に係合ピン6pを起設し、かつ他方の面に係合ピン6pが係合するスリット6cを形成し、係合ピン6pに装着したスプリング6sにより、レンズ支持機構部2を垂直支持盤部4に圧接させる垂直ガイド部6を、異なる四つの位置に配してなる垂直ガイド機構部3を設けたため、ガタ付き等の不良が生じにくく、長期使用に対する信頼性及び安定性を高めることができ、特に、プロジェクタMpに搭載するレンズシフト装置1におけるスムースな動き(移動)の確保、更には、プロジェクタMpのコストダウン,小型コンパクト化及び軽量化に寄与できるとともに、長期使用に対する信頼性及び安定性を高めることができる。そして、レンズシフト装置1の一部となる垂直ガイド部6を利用して、シフトロック機構部8を付設したため、シフトロック機構部8全体のおける部品点数の削減化及び組付工数の低減化により、コストダウン、更には、レンズシフト装置1全体の小型化に寄与できる。しかも、垂直ガイド部6におけるスプリング6sの圧接方向に加圧して固定(ロック)するため、ロック操作時に、調整したレンズ位置がズレてしまうなどの不具合を回避することができる。
次に、本発明の変更実施形態に係るレンズシフト装置1について、図8及び図9を参照して説明する。
図8に示す変更実施形態は、ロック部材7の形態を変更するとともに、係合ピン6pの形態を変更したものである。即ち、係合ピン6pの外周面に、筒形に形成した規制部材34を装着するとともに、さらに、筒形に形成した第二の規制部材16を装着する。この際、規制部材34と規制部材16間にスプリング6sを介在させるとともに、係合ピン6pには、固定ネジ37を螺着して規制部材16の位置を規制する。この場合、係合ピン6pは、垂直支持盤部4(基体盤部4f)に対して別体に形成し、取付ネジ61により基体盤部4fに固定する。したがって、係合ピン6pは、基体盤部4fに対して異なる素材により形成することが可能である。一方、キャップ状に形成し、内周面に雌ネジ部64を形成したロック部材7を用意するとともに、規制部材16の外周面に雄ネジ部63を形成する。これにより、ロック部材7の外周面を規制部材16の外周面に螺合し、ロック部材7の開口側となる先端部7cが規制部材34に対向する。また、係合ピン6p,固定ネジ37及びスプリング6sを含む垂直ガイド部6は、ロック部材7により覆われる。なお、17はロック部材7の端面に設けた係合部を示す。図8に示す変更実施形態によれば、キャップ状に形成したロック部材7を用いたため、垂直ガイド部6を外部に対して保護でき、例えば、シフトロック機構部8におけるロック部材7を回し操作する際に、垂直ガイド部6に当たったり或いは誤操作により垂直ガイド部6側の調整(設定)に悪影響を及ぼす不具合を回避できる。なお、図8において、図3及び図4と同一部分には同一符号を付して、その構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
図9に示す変更実施形態は、シフトロック機構部8に、筒形に形成した係合ピン6pの内周面に螺合する螺合体部18s,及び筒形に形成することにより係合ピン6pの外周面を覆い、かつ螺合体部18sに係合するロック体部18mとを用いたロック部材7を設けたものである。したがって、螺合体部18sには上述した固定ネジ37を兼用できるとともに、ロック体部18mは上述した規制部材16を兼用できる。図9に示す変更実施形態によれば、更なる部品点数の削減に寄与できる、しかし、反面において、シフトロック機構部8が垂直ガイド部6に対して影響する。即ち、固定ネジ37を回し操作することにより、ロック体部18mを移動させるため、シフトロック機構部8としての機能は確保されるものの、ロック解除時には、ロック体部18mの位置が規制されないため、正規のスプリング6sの弾圧力(圧接力)に戻すことが容易でなくなる。なお、図9において、図3,図4及び図8と同一部分には同一符号を付して、その構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
以上、好適実施形態(変更実施形態)について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、垂直支持盤部4に係合ピン6pを設け、レンズ支持機構部2にスリット6cを設けた場合を示したが、レンズ支持機構部2に係合ピン6pを設け、垂直支持盤部4にスリット6cを設けてもよい。また、レンズ支持機構部2として、投射レンズLを装着するレンズ装着盤部12と、このレンズ装着盤部12を、水平ガイド機構部13を介して水平方向Fhへスライド変位可能に支持し、かつ垂直支持盤部4により支持される水平支持盤部14と、レンズ装着盤部12を水平方向Fhへ移動させる水平移動機構部15とを備える構成を例示したが、水平方向Fhへのシフト調整を備えていないレンズ装着盤部12のみで構成してもよい。一方、ロック部材7には、当該ロック部材7を回し操作する別途のロック操作治具Acに対して係合する係合部17を設けた場合を示したが、ロック部材7を直接手で回し操作できるように構成する場合を排除するものではない。さらに、垂直移動機構部5及び水平移動機構部15は電動タイプを例示したが手動タイプも含む概念である。