第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態の動作を説明するタイミングチャートである。キャリアC1として最小値Cminと最大値Cmaxの間を傾斜角±θで遷移する対称三角波が採用される。
キャリアC1の一周期は期間Tfcを有しているが、この間にキャリアC1は最小値Cminと最大値Cmaxの間を一往復する。換言すれば、キャリアC1は、その一周期の半分となる所定長T0の区間(以下簡単のため、区間の長さと区間とは同じ記号を用いて表す)の複数に亘って最小値Cminと最大値Cmaxとの間を遷移しつつ、各々の区間では変化率tanθの符号を異ならせることなく最小値Cminと最大値Cmaxとの間を線形に変化する。但し、隣接する一対の区間同士では、変化率の符号が異なる。前述のキャリアC0はキャリアC1と同様に対称三角波である。
後述するように、キャリアは、鋸歯波であっても、所定長T0の区間の複数に亘って最小値Cminと最大値Cmaxとの間を遷移しつつ、各々の区間では変化率tanθの符号を異ならせることなく最小値Cminと最大値Cmaxとの間を線形に変化する、といえる。但し鋸歯波では対称三角波とは異なり、その一周期は所定長T0と一致し、いずれの区間同士も変化率の符号は同じである。
さて、図25を参照して、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0のそれぞれのキャリア一周期における平均値Emax、Emid、Eminは、それぞれ下式(1)(2)(3)で求められる。但し、簡単のため、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0はいずれもキャリア一周期Tfcにおいて変動しないものとする。
よって最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのそれぞれのキャリア一周期の平均値Emax_mid,Emid_minは、それぞれ下式(4)(5)で求められる。
さて、本実施の形態では下記の処理によってキャリアC1の一周期における相電圧指令を補正する。
(i)キャリアC1の一周期の前半(ここではキャリアC1の波形が上昇する区間)では、当該前半における線間電圧のパルス幅を最小幅制限T_limよりも大きくするように、相電圧指令の各々を補正する。
(ii)キャリアC1の一周期の後半(ここではキャリアC1の波形が下降する区間)では、平均値Emax_mid、Emid_minが補正前の相電圧指令を採用した場合と一致するように、相電圧指令の各々を補正する。
処理(i)に則り、キャリアC1の一周期の前半における最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのキャリアC1の一周期の前半におけるパルス幅(Ton_max−Ton_mid)/2,(Ton_mid−Ton_min)/2のいずれかが最小幅制限T_lim未満である場合には、相電圧指令を補正する必要がある。
図25の例に沿っていえば、中間相/最小相線間電圧Vmid_minのキャリアC1の一周期の前半におけるパルス幅(Ton_mid−Ton_min)/2が最小幅制限T_lim未満であるので、これを最小幅制限T_lim以上に、例えば最小幅制限T_limに拡げるように、相電圧指令を補正する。
相電圧指令の補正は、実際には時間の長さを基準とせずに電圧の大きさを基準とすることを考えると、処理(i)はキャリアの変化率tanθを導入して、下記のように書き換えることができる。
(i')キャリアC1の一周期の前半では、当該前半における最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのいずれもが所定の電位差T_lim・|tanθ|以上となるように、相電圧指令の各々を補正する。
処理(i')に則れば、キャリアC1の一周期の前半における最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_min(これらはそれぞれ(Ton_max1−Ton_mid1)・tanθ,(Ton_mid1−Ton_min1)・tanθに等しい)のいずれかが電位差T_lim・|tanθ|未満である場合には、相電圧指令を補正する必要がある。
図25の例に沿っていえば、中間相/最小相線間電圧Vmid_minを所定の電位差T_lim・|tanθ|以上に、例えば電位差T_lim・|tanθ|に拡げるように、相電圧指令を補正する。
もちろん、処理(i)や処理(i')にいう相電圧指令の補正は、最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのいずれもが電位差T_lim・|tanθ|以上であれば行う必要はない。しかし、そのような補正を行ってもよい。つまり補正前の相電圧指令に基づいて決定される最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minの値を電位差T_lim・|tanθ|以上としつつ、これらが減少するように相電圧指令を補正してもよい。
さて、本実施の形態では、最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minの値を考慮して相電圧指令を補正するので、補正の対象となる相電圧指令は、電位差T_lim・|tanθ|未満の値を有していた線間電圧を決定する一対の相電圧指令にとどまらず、もう一つの相電圧指令が補正の対象となってもよい。かかる特徴により変調率が高い場合であっても、キャリア周期における合成電圧ベクトルを維持しつつ線間電圧のパルス幅を広げて電力変換器の相電流が精度良く検出されることを説明する。
図1は、図25に示された最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0に替えて、キャリアC1の前半側の区間T0において有効な最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1と、キャリアC1の後半側の区間T0において有効な最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2とを用いた場合のタイミングチャートである。以下、このような種々の相電圧指令とキャリアC1との比較において、前半の区間T0における線間電圧のパルス幅を最小幅制限T_limよりも大きくしつつ、平均値Emax、Emid、Eminが補正前の相電圧指令を採用した場合と一致することを説明する。
図25において、キャリア前半区間における中間相/最小相線間電圧Vmid_minの電位差(Ton_mid−Ton_min)・|tanθ|/2が電位差T_lim・|tanθ|未満であったので、図1ではキャリアC1の一周期の前半において、上記処理(i')に則って、Vmin1−Vmid1=T_lim・|tanθ|となる中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1を設定する。
但し、下式(6)(7)を満足するように最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1を設定しなければならない。このように設定することで、電圧ベクトルV4(最大相/中間相線間電圧Vmax_midが直流電圧Eを採る期間におけるスイッチングパターン)及び電圧ベクトルV6(中間相/最小相線間電圧Vmid_minが直流電圧Eを採る期間におけるスイッチングパターン)のいずれについてもDCリンク電流を適切に検出することができる。
式(6)は最大相/中間相線間電圧Vmax_mid(Ton_max1−Ton_mid1)・tanθが電位差T_lim・|tanθ|以上でなければならないための制約である。式(7)は最大相相電圧指令補正値Vmax1及び最小相相電圧指令補正値Vmin1のいずれもが最小値Cmin以上かつ最大値Cmax以下でなければならないための制約である。しかしかかる制約を満足し、かつVmin1−Vmid1≧T_lim・|tanθ|を満足すれば(ここではVmin1−Vmid1=T_lim・|tanθ|であれば)、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1を任意に設定することができる。これは特許文献1で提案されるような相電圧指令に基づいた補正ではなく、線間電圧に基づいた補正であるからである。
なお、キャリアC1の前半の区間において零電圧ベクトルV0,V7に相当する期間t1,t2では、相電流を検出する必要はない。零電圧ベクトルV0,V7に対応するスイッチングパターンでは、理想的にはDCリンク電流は流れないからである。
最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminは、それぞれキャリアC1の前半の区間において期間Ton_max1,Ton_mid1,Ton_min1で活性化する。よって下式(8)(9)が成立する。
例えば図1ではTon_mid1−Ton_min1=T_limに設定されているので、Vmin1=(Ton_mid1−Ton_min1)・tanθ+Vmid1となる。
前半の区間における最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのそれぞれの平均値Emax_mid1,Emid_min1は、Tfc(=2T0)を導入して、式(10)(11)で示されることになる。
次に処理(ii)によって最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を設定する。一つのキャリアC1において最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0がそれぞれ固定して設定されているので、たとえば、当該キャリアC1が非常に短いとすると、当該キャリアC1において電流値は一定とみなすことができ、当該キャリアC1の前半の区間のみにおいて相電流が検出できればよい。つまりその後半の区間では相電流を検出する必要がない。よって後半の区間では、最小幅制限T_limの確保ではなく、最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのそれぞれの平均値Emax_mid, Emid_minが相電圧指令の補正に依らずに維持されることが要求される。即ち、後半の区間における最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのそれぞれの平均値Emax_mid2,Emid_min2は、下式(12)(13)を満足するように決定される。
これにより、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminがキャリアC1の後半の区間において活性化する期間Ton_max2,Ton_mid2,Ton_min2は、下式(14)(15)を満足しなければならない。よって式(16)(17)を満足する最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2が設定される。
但し、最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2のいずれもが最小値Cmin以上かつ最大値Cmax以下でなければならない。
以上のように最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を設定することにより、平均値Emax、Emid、Eminは補正前の相電圧指令を採用した場合と一致する。
最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2のいずれもが最大値Cmax以下かつ最小値Cmin以上であるかぎり、式(16)(17)を満足する最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を任意に設定できる。よって図27で示されたような、変調率が高い場合であっても、中間相相電圧指令補償値Vmid2が最大値Cmaxを越えるような事態を回避しやすい。
より具体的には、図27において中間相相電圧指令補償値Vmid2は超過量(Vmid2−Cmax)だけキャリアC0の最大値Cmaxよりも大きくなっている。この超過量が、Vmax0−Cminよりも小さい場合には、本実施の形態の技術が奏功する。
なお、図1ではVmid2=Cmaxとなっている場合が例示されている。これにより中間相相電圧パルスPmidがキャリアC1の後半の区間において活性化する期間Ton_mid2は実質的には存在しなくなっている。
またキャリアC1の後半の区間において中間相/最小相線間電圧Vmid_minは負となる期間を有している。これはVmid2>Vmin2となっていることに起因する。
以上のように本実施の形態によれば、相電圧指令自体を補正するという観点ではなく、線間電圧を補正する観点で相電圧指令を補正するので、相電圧指令を補正する自由度が高く、以て補正後の相電圧指令がキャリアの最大値や最小値からはみ出ることが回避できる。これにより、キャリア一周期分における合成電圧ベクトルを維持できる。
上記の説明ではキャリアC1の波形はその前半において上昇し、後半において下降する場合を例にとって説明した。しかし、キャリアC1の波形がその前半において下降し、後半において上昇する場合も、符号の反転を考慮すれば同様に本実施の形態の技術を採用することができる。
また、キャリアの波形が下降することなく上昇を繰り返す場合、即ち鋸歯波を呈する場合であっても、符号の反転を考慮すれば同様に本実施の形態の技術を採用することができる。
図2は本実施の形態の他の態様の動作を示すタイミングチャートである。図2において、キャリアC2として最小値Cminと最大値Cmaxの間を傾斜角θで遷移する鋸歯波が採用されている。この場合にも上記の手法と同様にして、図示されるように期間Ton_max1,Ton_mid1,Ton_min1,Ton_max2,Ton_mid2,Ton_min2や最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1、最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を設定することができる。
但し、キャリアC2の一周期は区間T0と一致するので、キャリアC2の二周期分の電圧ベクトルの合成値が、相電圧指令の補正の前後で維持されることになる。換言すれば、ここでは補正前の相電圧指令はキャリアC2の二周期において共通する場合が例示されていることになる。
しかし、キャリアC1,C2のいずれを採用する場合にも、それぞれ一区間における相電圧指令を補正してDCリンク電流を相電流として把握するための期間を確保する点で共通する。よって、一区間においてそれぞれの相に対応した相電圧指令補正値を求め、当該一区間(以下「補正区間」とも称する)における相電圧指令と相電圧指令補正値との相違を、少なくとも一つの他の区間において補償するように(当該一区間と他の区間とを合計した区間において合成される電圧ベクトルが補正の前後で維持されるように)相電圧指令補償値を設定すればよい。以下、このような補償が行われる区間を補償区間とも称する。
よってキャリアが三角波であるか鋸歯波であるかによらず、相電圧指令の変更は、最小値Cminと最大値Cmaxの間を傾斜角θの絶対値が(即ち傾斜tanθの絶対値が)変動することなく線形で遷移する区間を単位として考慮すればよい。
補償区間が複数の区間に跨る場合については第2の実施の形態において後述する。また、簡単のために補正区間が補償区間に先行する場合をまず説明するが、その後に、補償区間が補正区間に先行する場合についても説明する。
以下、特許文献1に開示されるような、単に相電圧指令を移動させることによって相電流の検出を可能とする技術(以下「比較技術」と称する)と比較した、本実施の形態の優位性について説明する。
図3は図26に示されたベクトル図の一部を拡大して示すベクトル図である。図3は、より具体的には、キャリア一周期中で電圧ベクトルV4が最も大きく採られる、換言すればキャリア一周期中における合成電圧ベクトルが、電圧ベクトルV4近傍となる場合を示すベクトル図である。途中で一部を省略しているものの、零電圧ベクトルV0,V7を示す点Oから、電圧ベクトルV4が最も大きく採られる点Eまでの距離はキャリア一周期分の長さに対応する。図3においてベクトル長V_limは最小幅制限値T_limに対応する電圧ベクトルの長さである。
点A,Bはいずれも零電圧ベクトル以外には電圧ベクトルV4のみが電圧ベクトルとして採用される状態を示し、それぞれ点Eからの距離がベクトル長V_limの1倍及び2倍となっている。点C,Dは、それぞれベクトル長V_limの半分及び1倍の長さを有する電圧ベクトルV6(図26参照)で、いずれも点Aから移動した位置にある。点Fはベクトル長V_limの長さを有する電圧ベクトルV5(図26参照)で点Aから移動した位置にある。
以下図4〜図19を用いて、点A,B,C,Dのそれぞれで示されるベクトルパターンが採用された状態において、比較技術と本実施の形態との相違を説明する。ここでキャリアとしては最大値Cmax及び最小値Cminをとる上述のキャリアC1を採用する。またキャリアC1の一周期Tfcにおいて最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0は変動しない。
図4〜図7は点Bに相当するベクトルパターンを採用した場合について、図8〜図11は点Dに相当するベクトルパターンを採用した場合について、図12〜図15は点Aに相当するベクトルパターンを採用した場合について、図16〜図19は点Cに相当するベクトルパターンを採用した場合について、それぞれ示している。
図4,図8,図12、図16は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。
図5,図9,図13、図17は本実施の形態によって得られる最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1(これらはキャリアC1の一周期中の前半の区間たる補正区間において有効)及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2(これらはキャリアC1の一周期中の後半の区間たる補償区間において有効)と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。
図6,図10,図14、図18は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。図7,図11、図15,図19は最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。
まず点Bにおける最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminについて検討する。図4及び図5において、横軸一目盛が、最小幅制限値T_limの半分に相当する。最大相相電圧指令Vmax0がキャリアC1の最小値Cminよりも大きいので、零電圧ベクトルV0が採用される期間が存在する。また、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0が互いに等しく、キャリアC1の最大値Cmaxよりも小さいので、零電圧ベクトルV7が採用される期間が存在する。但し零電圧ベクトルV0,V7に対応するスイッチングパターンが採用されるときには、実質的にはDCリンク電流は流れない。
このような場合、中間相相電圧と最小相相電圧とは等しくなるので、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminは同じ波形を呈することとなる。よって最大相相電圧パルスPmaxのみが活性化して電圧ベクトルV4が採用される期間において、最大相に対応する線電流しか検出することができない。
そこで、図5に示されるように、キャリアC1の前半において中間相相電圧指令Vmid0よりも小さい中間相相電圧指令補正値Vmid1と、最小相相電圧指令Vmin0よりも大きい最小相相電圧指令補正値Vmin1を採用する。具体的には最小相相電圧指令補正値Vmin1を最大値Cmaxに等しく採る。これにより中間相相電圧パルスPmidを最小幅制限値T_limに等しくすることができる。このとき、最大相相電圧指令補正値Vmax1として最大相相電圧指令Vmax0を維持しても、最大相相電圧パルスPmaxを最小幅制限値T_lim以上に確保することができる。中間相相電圧パルスPmidが活性化している期間においては最大相相電圧パルスPmaxも活性化しているので、当該期間(これは電圧ベクトルV6に対応する)において最小相に対応する線電流を検出することができる。
キャリアC1の後半において最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用する。ここでは最大相相電圧指令補償値Vmax2として最大相相電圧指令Vmax0を維持する。式(16)においてVmax1=Vmax2=Vmax0が成立するので、Vmid2=2Vmid0−Vmid1に設定される。よって式(17)からVmin2=2Vmin0−Vmin1に設定される。これにより、最小相相電圧パルスPminがキャリアC1の後半において活性化し、電圧ベクトルV5が採用されることになる。
図6及び図7は、それぞれ図4及び図5で示される最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminに基づいて採用される電圧ベクトルを示している。一目盛がベクトル長V_limの半分に相当する。但し、零電圧ベクトルV0、V7はそれ自体の大きさが0であるので、これらが採用される期間の長短に拘わらず、キャリアC1一周期中における電圧ベクトルの合成値には寄与しない。よって零電圧ベクトルV0、V7は図6及び図7において黒丸で示されている。
図6及び図7で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、いずれも電圧ベクトルV4方向にベクトル長8・V_limの大きさで延びている。つまりキャリアC1一周期中の電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
上記の図4及び図5の比較で理解されるように、点Bにおいては最大相相電圧指令Vmax0を維持することができる。つまり比較技術でも点Bにおいては電力変換器の相電流を精度良く検出することができる。
次に点Dにおける最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminについて検討する。図8及び図9においても横軸一目盛が、最小幅制限値T_limの半分に相当する。
図8を参照して、最大相相電圧指令Vmax0が最小値Cminに等しく、最小相相電圧指令Vmin0が最大値Cmaxに等しいので、零電圧ベクトルV0、V7が採用される期間は存在しない。
また、中間相相電圧指令Vmid0は最小相相電圧指令Vmin0よりも小さいのでキャリアC1の中央近傍において電圧ベクトルV6が採用される期間(最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmidの両方が活性化する期間)が存在する。
但し、キャリアC1の前半の区間においては、中間相相電圧パルスPmidが活性化する期間は最小幅制限値T_limの半分であり、最小相の線電流を適切に検出することはできない。
しかし図9を参照して、点Bにおいて示された処理と類似して、キャリアC1の前半において中間相相電圧指令Vmid0よりも小さい中間相相電圧指令補正値Vmid1を採用し、最大相相電圧指令補正値Vmax1、最小相相電圧指令補正値Vmin1としてそれぞれ最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0を維持することにより、キャリアC1の前半の区間において中間相相電圧パルスPmidが活性化する期間の長さを最小幅制限値T_limにすることができる。
キャリアC1の後半において最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用する。ここでは式(16)においてVmax1=Vmax2=Vmax0が成立するので、Vmid2=2Vmid0−Vmid1に設定される。ここではVmin2=Cmaxとなる場合が例示されている。よってキャリアC1の後半においては最大相相電圧パルスPmaxのみが活性化し、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminは活性化せず、電圧ベクトルV4のみが採用されることになる。
図10及び図11は図6及び図7と同様にして、それぞれ図8及び図9で示される最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminに基づいて採用される電圧ベクトルを示している。
図10及び図11で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、いずれも電圧ベクトルV4成分のベクトル長は9・V_limの大きさであり、電圧ベクトルV6の成分のベクトル長はV_limの大きさである。つまりキャリアC1一周期中における電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
上記の図8及び図9の比較で理解されるように、点Dにおいては最大相相電圧指令Vmax0を維持することができる。つまり比較技術でも点Dにおいては電力変換器の相電流を精度良く検出することができる。
図12を参照して、点Aにおいては、点Bについて示す図4と同様に、最大相相電圧指令Vmax0がキャリアC1の最小値Cminよりも大きく、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0が互いに等しい。しかし変調率が大きく、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0は最大値Cmaxに近い値を採るので、図5に示されるように最大相相電圧指令補正値Vmax1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2として最大相相電圧指令Vmax0を維持すると、中間相相電圧指令補償値Vmid2が最大値Cmaxを越えてしまうことになる(図27も参照)。つまり比較技術では点Aにおいてキャリア一周期中の電圧ベクトルの合成値を維持できない。
これに対して本実施の形態では、図13に示すように、最大相相電圧指令補正値Vmax1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2を最大相相電圧指令Vmax0より低く、例えばここでは最小値Cminと等しく設定する。
これにより、電圧ベクトルV6が採用される期間(ここでは中間相相電圧パルスPmidが活性化している期間)を確保できる。
図14及び図15は図6及び図7と同様にして、それぞれ図12及び図13で示される最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminに基づいて採用される電圧ベクトルを示している。
図14及び図15で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、いずれもベクトル長が9・V_limの大きさである電圧ベクトルV4と同等である。つまりキャリアC1一周期中の電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
このように、本実施の形態にかかる技術を採用すれば、比較技術よりもベクトル長V_lim一つ分だけ、電圧ベクトルV4の方向に、相電流検出可能な領域が拡がる。
図16を参照して、点Cにおいては、最大相相電圧指令Vmax0が最小値Cminよりも大きく、最小相相電圧指令Vmin0が最大値Cmaxに等しい(実質的な二相変調)。そして中間相相電圧指令Vmid0は最小相相電圧指令Vmin0に近い値を採るので、最大相相電圧指令補正値Vmax1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2として最大相相電圧指令Vmax0を維持すると、中間相相電圧指令補償値Vmid2が最大値Cmaxを越えてしまうことになる。つまり比較技術では点Cにおいてキャリア一周期中の電圧ベクトルの合成値を維持できない。
これに対して本実施の形態では、図17に示すように、最大相相電圧指令補正値Vmax1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2を最大相相電圧指令Vmax0より低く、例えばここでは最小値Cminと等しく設定する。
これにより、電圧ベクトルV6が採用される期間(ここでは中間相相電圧パルスPmidが活性化している期間)を確保できる。
図18及び図19は図6及び図7と同様にして、それぞれ図16及び図17で示される最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminに基づいて採用される電圧ベクトルを示している。
図18及び図19で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も等しくなり、キャリアC1一周期中の電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
このように、本実施の形態にかかる技術を採用すれば、比較技術よりもベクトル長V_limだけ電圧ベクトルV4の方向に、またベクトル長V_limだけ電圧ベクトルV6の方向に、相電流検出可能な領域が拡がる。
以上のことから、図3を参照して、比較技術では点D,B、Fをこの順に結ぶ線よりも点E側に対応する電圧ベクトルが採用される場合には、キャリア一周期分の電圧ベクトルの合成値を維持しつつ相電流を検出することができないことがわかる。他方、本実施の形態にかかる技術では、点D,A、Fをこの順に結ぶ線よりも点E側に対応する電圧ベクトルが採用される場合には、キャリア一周期分の電圧ベクトルの合成値を維持しつつ相電流を検出することができないことがわかる。
つまり、本実施の形態にかかる技術は、比較技術よりも、図3でハッチングされた領域だけ、キャリア一周期分の電圧ベクトルの合成値を維持しつつ相電流検出可能な領域が広い点で優れていることがわかる。
本実施の形態によれば、更に、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することにより、電流リプルを抑制することができる。
図20は、相電圧指令を補正しない場合の最大相相電圧パルスPmax0、中間相相電圧パルスPmid0、最小相相電圧パルスPmin0と、比較技術によって相電圧指令補正値/相電圧指令補償値を採用した場合の最大相相電圧パルスPmax1、中間相相電圧パルスPmid1、最小相相電圧パルスPmin1と、本実施の形態によって相電圧指令補正値/相電圧指令補償値を採用した場合の最大相相電圧パルスPmax2、中間相相電圧パルスPmid2、最小相相電圧パルスPmin2とを示すタイミングチャートである。相電圧指令、及びその補正値や補償値、並びにキャリアの図示は省略するが、簡単のためにキャリアの最小値を0、最大値を20と仮定して説明する。
相電圧指令を補正しない場合として、最大相相電圧指令、中間相相電圧指令、最小相相電圧指令の値をそれぞれ5,15,15とすると、中間相相電圧パルスPmid0と最小相相電圧パルスPmin0とは波形が等しくなり、キャリアの一周期Tfcの前半の区間T0においては電圧ベクトルV0,V4,V7が、後半の区間T0においては電圧ベクトルV7,V4,V0が、それぞれこの順に採用される。一周期Tfcの長さを40とすると、前半の区間T0において採用される電圧ベクトルV0,V4,V7の長さVLはそれぞれ5,10,5であり、後半の区間T0において採用される電圧ベクトルV7,V4,V0の長さVLはそれぞれ5,10,5の長さVLである。
最小幅制限値T_limの長さを2とし、比較技術を採用すると、最大相相電圧指令補正値の値は最大相相電圧指令の値5に維持されつつ、最小相相電圧指令補正値の値は最小相相電圧指令の値15に維持されつつ、中間相相電圧指令補正値は値12を採る。これにより、前半の区間T0においては電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用され、それぞれの長さVLは5,7,3,5となる。電圧ベクトルV6が採用される期間が最小幅制限値T_limの長さ2以上に設定されることにより、最小相電流の検出が精度良く行えることになる。
そして最大相相電圧指令補償値の値は最大相相電圧指令の値5に維持されつつ、最小相相電圧指令補償値の値は最小相相電圧指令の値15に維持されつつ、中間相相電圧指令補償値は値18を採る。これにより、後半の区間T0においては電圧ベクトルV7,V5,V4,V0が採用され、それぞれの長さVLは2,3,10,5となる。中間相相電圧指令補正値と中間相相電圧指令補償値との和は中間相相電圧指令の二倍となり式(16)(17)が満足され、キャリア一周期中の電圧ベクトルの合成値は変更されていない。別の見方をすれば、最大相相電圧パルスPmax0及び最小相相電圧パルスPmin0と、最大相相電圧パルスPmax1及び最小相相電圧パルスPmin1とはそれぞれ波形が同じでありながら、中間相相電圧パルスPmid1が活性化する長さは、中間相相電圧パルスPmid0が活性化する期間と等しい。
しかしキャリア一周期の中央では、前半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV7と後半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV7とが連続する。よってここでの零電圧ベクトルV7の長さVLは5+2=7となる。他方、キャリア一周期の両端では、それぞれ零電圧ベクトルV0の長さVLは5である。通常、隣接するキャリアにおいて採用される零電圧ベクトルの長さが大きく変動しないことに鑑みれば、キャリア一周期の両端で採用される零電圧ベクトルの長さVLの合計は、キャリア一周期の中央で採用される零電圧ベクトルの長さVLと等しいことが望ましい。つまり零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することにより、電流リプルを抑制することが望ましい。
しかし比較技術では、単に相電圧にのみ着目しているため、かかる観点での改善ができなかった。これに対して本実施の形態では、線間電圧に着目して相電圧指令の補正値/補償値を採用することができる。つまり相電圧指令の補正値/補償値を設定するに際しては、比較技術よりも自由度が大きいため、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することができる。
具体的には、最大相相電圧指令補正値、中間相相電圧指令補正値、最小相相電圧指令補正値の値は、比較技術と同じく、値5,12,15を採る。よって比較技術と同様にして最小相電流の検出が精度良く行えることになる。しかし最大相相電圧指令補償値、中間相相電圧指令補償値、最小相相電圧指令補償値の値は、比較技術とは異なり、それぞれ値3.5,16.5,13.5を採る。これにより、後半の区間T0においては電圧ベクトルV7,V5,V4,V0が採用され、それぞれの長さVLは3.5,3,10,3.5となる。
よってキャリア一周期における電圧ベクトルの合成は電圧ベクトルV4成分について長さVLが17であり、電圧ベクトルV5、V6成分の長さVLが共に3となる。電圧ベクトルV5,V6の長さVLが互いに等しいので、合成された電圧ベクトルは電圧ベクトルV4の成分のみとなる。しかも電圧ベクトルV5、V6は共に電圧ベクトルV4の方向についてそれぞれ長さVL=1.5(=3・cos60°)で寄与するので、合成された電圧ベクトルは結局、長さが20(=17+1.5×2)の電圧ベクトルV4となる。これは最大相相電圧パルスPmax0、中間相相電圧パルスPmid0、最小相相電圧パルスPmin0から得られる長さVLが20(=10+10)の電圧ベクトルV4と一致する。つまり、キャリア一周期における電圧ベクトルの合成値は維持されている。
これを式(16)(17)に即してみれば、Vmax0=5、Vmid0=15、Vmin0=15,Vmax1=5、Vmid1=12、Vmin1=15,Vmax2=3.5、Vmid2=16.5、Vmin2=13.5であり、これらの値は式(16)(17)を満足することが分かる。
しかも、キャリア一周期の中央では、前半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV7の長さVLと、後半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV7の長さVLはそれぞれ5,3.5であり、両者の合計は8.5となる。他方、キャリア一周期の両端では、前半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV0の長さVLと、後半の区間T0において採用される零電圧ベクトルV0の長さVLはそれぞれ5,3.5であり、両者の合計は8.5となる。
以上のように本実施の形態を適用することにより、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することができる。以下では、具体的にどのようにして零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することができるかについて説明する。
図21は図20に示された最大相相電圧パルスPmax2、中間相相電圧パルスPmid2、最小相相電圧パルスPmin2が得られるときのタイミングチャートである。具体的にはキャリアC1の前半の区間T0におけるキャリアC1と最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1との比較、及びキャリアC1の後半の区間T0におけるキャリアC1と最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2との比較を示している。
ここではキャリアC1の前半の区間T0における線間電圧の最大値(以下「線間電圧最大値」と称す)Vsと、後半の区間T0における線間電圧の最大値Vtとを導入している。前半の区間T0においてはVmin1>Vmid1>Vmax1が成立するので、Vs=Vmin1−Vmax1である。後半の区間T0においてはVmid2>Vmin2>Vmax2が成立するので、Vt=Vmid2−Vmax2である。
つまりキャリアC1の前半の区間T0における線間電圧最大値Vsは、相電圧指令補正値の中で最も大きいものと最も小さいものとの差として得られる。またキャリアC1の後半の区間T0における線間電圧最大値Vtは、相電圧指令補償値の中で最も大きいものと最も小さいものとの差として得られる。
よって線間電圧最大値Vsの計算に用いられる一対の相電圧指令と、線間電圧最大値Vtの計算に用いられる一対の相電圧指令とは同じとは限らない。よって異なる区間において線間電圧最大値が等しいとは限らない。
まずキャリアC1の前半の区間T0における零電圧ベクトルが採用される期間Taと、後半の区間T0における零電圧ベクトルが採用される期間Tbとを計算する手法を説明する。
前半の区間T0において零電圧ベクトルが採用されない期間は線間電圧最大値Vsに相当する区間であり、具体的にはその長さはVs・|cotθ|で求められる。ここで|cotθ|はキャリアC1の傾斜角θを用いて表したキャリアC1の傾斜の絶対値の逆数である。
キャリアC1が相電圧指令補正値のうち最も小さいものである最大相相電圧指令補正値Vmax1よりも小さいときに零電圧ベクトルV0が採用される。つまり零電圧ベクトルV0が採用される期間は、相電圧指令補正値のうち最も小さいものと最小値Cminとの差(Vmax1−Cmin)をキャリアの傾きの絶対値|tanθ|で除した値で規定される。
相電圧指令補正値のうち最も大きいものである最小相相電圧指令補正値Vmin1が最大値Cmaxよりも小さいときに零電圧ベクトルV7が採用される。つまり零電圧ベクトルV7が採用される期間は、相電圧指令補正値のうち最も大きいものと最大値Cmaxとの差(Cmax−Vmin1)をキャリアの傾きの絶対値|tanθ|で除した値で規定される。
区間T0の長さT0を用いて、Ta=T0−Vs・|cotθ|となる。そして零電圧ベクトルV0が採用される期間をキャリアC1の前半の区間T0の始期においてα・Taで、零電圧ベクトルV7が採用される期間を当該区間T0の終期において(1−α)・Taで、それぞれ設ける(0≦α≦1)。このとき下式が成立する。但しT0・|tanθ|=Cmax−Cminを用いた。
これから下式が成立する。
最大値Cmaxと最小値Cminの差を第1電位差(Cmax−Cmin)とし、相電圧指令補正値の中で最小のものと前記最小値との差を第2電位差(Vmax1−Cmin)とし、第1電位差と線間電圧最大値Vsとの差を第3電位差(Cmax−Cmin−Vs)とする。これらの表現を採用すれば、値αは、第3電位差に対する第2電位差の比として把握される。
同様にして、後半の区間T0においてT=T0−Vt・|cotθ|となる。そしてキャリアC1が、相電圧指令補償値のうち最も小さいものである最大相相電圧指令補償値Vmax2よりも小さいときに零電圧ベクトルV0が採用される。つまり零電圧ベクトルV0が採用される期間は、相電圧指令補償値のうち最も小さいものと最小値Cminとの差(Vmax2−Cmin)をキャリアの傾きの絶対値|tanθ|で除した値で規定される。
相電圧指令補償値のうち最も大きいものである中間相相電圧指令補償値Vmid2が最大値Cmaxよりも小さいときに零電圧ベクトルV7が採用される。つまり零電圧ベクトルV7が採用される期間は、相電圧指令補正値のうち最も大きいものと最大値Cmaxとの差(Cmax−Vmid2)をキャリアの傾きの絶対値|tanθ|で除した値で規定される。
零電圧ベクトルV7が採用される期間をキャリアC1の後半の区間T0の始期において(1−β)・Tbで、零電圧ベクトルV0が採用される期間を当該区間T0の終期においてβ・Tbで、それぞれ振り分ける(0≦β≦1)。
キャリアC1は一周期Tfcの前半の区間T0と後半の区間T0とでは変化率の符号がそれぞれ正、負であって相互に異なる。よって零電圧ベクトルV0,V7が現れる順序が両区間では逆になる。しかしキャリア一周期における線間電圧の平均値や、電圧ベクトルの合成値を維持するに際しては、零電圧ベクトルV0,V7を区別せずに扱える。よって零電圧ベクトルが採用される期間を等配分するには、下式が成立すればよい。
左辺はキャリアC1の一周期の始期と終期に現れる零電圧ベクトルV0が採用される期間の長さの合計であり、右辺はキャリアC1の一周期の中央に現れる零電圧ベクトルV7が採用される期間の長さである。これを整理して下式が得られる。
ここで第1電位差と線間電圧最大値Vtとの差である第4電位差(Cmax−Cmin−Vt)を導入すると、比Ta/Tbは第4電位差に対する第3電位差の比と把握することができる。キャリアC1の傾斜の絶対値はいずれの区間においても等しいからである。
式(16)(17)から、後半の区間T0における二つの線間電圧が求められるので、線間電圧最大値Vtも決定される。そして相電圧指令補償値のうち最も小さいもの、ここでは最大相相電圧指令補償値Vmax2は、下式で設定されることになる。
つまり相電圧指令補償値のうち最も小さいものは、第1電位差から線間電圧最大値Vtを差し引いた値に対して値βを乗じ、更に最小値Cminを加えた値として設定される。
式(22)に対して式(21)を代入することにより、最大相相電圧指令補償値Vmax2は決定される。また式(16)(17)を用いて、最小相相電圧指令補償値Vmin2及び中間相相電圧指令補償値Vmid2も求められる。
ここではキャリアC1の一周期の始期と終期における変化率の符号がそれぞれ正、負である場合を例示したが、変化率の符号が逆である場合、即ちキャリアC1の一周期の中央が谷となっている場合でも同様にして相電圧指令補償値を決定することができる。
以上のようにして相電圧指令補正値や相電圧指令補償値を用いることにより、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することができる。
図22は、鋸歯波であるキャリアC2を採用した場合のタイミングチャートである。キャリアC2を用いた場合にもキャリアC1を用いた場合と同様にして、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分することができる。キャリアC2は鋸歯波であるので、全ての区間T0においてその変化率の符号は変わらない。よって零電圧ベクトルV0,V7が現れる順序はいずれの区間T0でも同じである。このことに着目すると、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分するには下式が成立すればよい。
左辺はキャリアC1の一周期の始期に現れる零電圧ベクトルV0が採用される期間の長さと終期に現れる零電圧ベクトルV7が採用される期間の長さとの合計であり、右辺はキャリアC1の一周期の中央に現れる零電圧ベクトルV7,V0が採用される期間の長さの合計である。これを整理して下式が得られる。
よって上記説明と同様にして、得られた相電圧指令補正値に対応して、零電圧ベクトルが採用される期間を等配分する相電圧指令補償値を得ることができる。
式(21)(24)から、係数Dを導入して下記のように纏められる。ここで係数Dは前半の区間T0におけるキャリアの傾きと、後半の区間T0におけるキャリアの傾きとの符号の異同で決定される。両者の符号が異なる場合、異ならない場合に対応して、係数Dはそれぞれ値−1,1を採ることとなり、式(25)は式(21)(24)と一致する。
また、上述の説明から、キャリアの傾きの絶対値は区間毎に異なっていても、零電圧ベクトルの等分配ができる。式(20)(23)で示される関係は二つの区間における変化率には依存しないからである。つまり、キャリアとしては、対称三角波や鋸歯波を呈する波形を有していなければならないことはなく、非対称三角波を呈する波形を有しているものを採用することができる。
第2の実施の形態.
第2の実施の形態では第1の実施の形態で示された手法を具体的に実現するための構成について説明する。
図23は第2の実施の形態の構成を示すブロック図である。電力変換器3は、一対の直流母線LH、LLの間で相互に並列に接続される3つの電流経路を備える。直流母線LH、LLの間には直流電圧Eが印加され、直流母線LHの電位の方が、直流母線LLの電位よりも高い。
3つの電流経路は、それぞれ接続点Pu,Pv,Pwを有する。接続点Puを有する電流経路は、接続点Puを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4up,4unを有する。接続点Pvを有する電流経路は、接続点Pvを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4vp,4vnを有する。接続点Pwを有する電流経路は、接続点Pwを介して直流母線LH,LLの間で直列に接続される一対のスイッチ4wp,4wnを有する。スイッチ4up,4vp,4wpは、それぞれスイッチ4un,4vn,4wnよりも直流母線LH側に配置される。
電力変換器3がインバータとして機能する場合には、スイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉によって、接続点Pu,Pv,Pwからそれぞれ電流Iu,Iv,Iwを負荷5へ供給する。電流Iu,Iv,Iwは三相電流であり、負荷5は三相負荷であって例えば電動機である。
電力変換器3がコンバータとして機能する場合には、負荷5に代えて三相交流電源が接続される。三相交流電源としては、例えば三相発電機が挙げられる。三相発電機は電動機によって実現可能である。電力変換器3がコンバータとして機能する場合には、三相交流電源から接続点Pu,Pv,Pwにそれぞれ電流Iu,Iv,Iwが入力し、スイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉によって、直流母線LH、LLの間に直流電圧Eが印加される。
直流母線LLに流れる電流Idは直流であって、電力変換器3から離れる方向に流れる。電流Idを検出する手法として、は抵抗素子における電圧降下を測定したり、カレントトランスを採用して測定することが公知である。電流Idは直流母線LHにおいても流れ、その向きは電力変換器3に向かって近づく方向である。
電力変換器3の制御においては、キャリアCが採用される。ここでキャリアCとしては第1の実施の形態で説明された対称三角波を呈するキャリアC1や鋸歯波を呈するキャリアC2が用いられる。更に、第1の実施の形態の末尾において付言されたように、非対称三角波を呈する波形を有するキャリアを採用してもよい。非対称三角波がキャリアとして採用される場合、区間T0の長さは区間毎に相違することとなる。
以下、電力変換器3がインバータとして機能する場合を例にとって説明する。ただし、周知のように、上述のように構成された電力変換器3はインバータとしてもコンバータとしても機能させることができるので、下記説明が電力変換器3がコンバータとして機能する場合にも適用されることは当業者にとって自明である。よって電力変換器3がコンバータとして機能する場合についての説明は省略する。
インバータ制御装置6は、相電流演算部61と、相電圧指令生成部62と、線間電圧指令生成部63と、補正相電圧指令生成部64と、ベクトルパターン決定部66と、スイッチング信号生成部67とを有する。
相電流演算部61は、一の区間において電流Id及びスイッチングパターンV*に基づいて、三相電流Iu,Iv,Iwを推定する。スイッチングパターンV*はスイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉の状態を示す。当該一の区間は相電流を検出すべき区間であり、以下「検出区間」とも称す。
第1の実施の形態に即して言えば、スイッチングパターンV*は電圧ベクトルV0〜V7を総括して表していると把握できる。第1の実施の形態で説明されたように、検出区間において二つの相電流を検出すべく、二つの相電流に対応する電圧ベクトルが採用される期間として最小幅制限値T_lim以上の期間を確保する。
スイッチング信号生成部67は、スイッチングパターンV*に基づいてスイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを生成する。スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnは、それぞれスイッチ4up,4vp,4wp,4un,4vn,4wnの開閉を制御する。
スイッチングパターンV*は、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**とキャリアCとの比較に基づいて、パターン決定部66によって決定される。以下では最大相、中間相、最小相がそれぞれU相、V相、W相である場合について説明する。補正相電圧指令Vw**,Vv**,Vu**は第1の実施の形態で示された相電圧指令補正値Vmin1,Vmid1,Vmax1及び相電圧指令補償値Vmin2,Vmid2,Vmax2の両方に対応する。
第1の実施の形態では補正区間(これは検出区間としても把握できる)において相電圧指令補正値Vmin1,Vmid1,Vmax1を採用し、当該補正区間に連続した他の一つの区間を補償区間として相電圧指令補償値Vmin2,Vmid2,Vmax2を採用し、これらをキャリアCと比較していた。補正区間と補償区間では、本来の相電圧指令Vmin0,Vmid0,Vmax0は共通していた。
このような状況では、補正相電圧指令Vu**は補正区間において相電圧指令補正値Vmax1を採り、補償区間において相電圧指令補償値Vmax2を採る:補正相電圧指令Vv**は補正区間において相電圧指令補正値Vmid1を採り、補償区間において相電圧指令補償値Vmid2を採る:補正相電圧指令Vw**は補正区間において相電圧指令補正値Vmin1を採り、補償区間において相電圧指令補償値Vmin2を採る。
もちろん、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**はキャリアCと比較されるべく、これらはキャリアCの最小値Cmin以上であり、最大値Cmax以下である。
相電圧指令生成部62は、例えば三相電流Iu,Iv,Iw及び電流指令I*に基づいて、本来の相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を出力し、線間電圧指令生成部63へ出力する。このような相電圧指令生成部62の機能は周知であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
なお、本実施の形態では上述のように、最大相、中間相、最小相がそれぞれU相、V相、W相である場合について説明するので、本来の相電圧指令Vw*,Vv*,Vu*は第1の実施の形態にいう相電圧指令Vmin0,Vmid0,Vmax0と対応する。二相変調が採用されることも考慮すると、Vu*<Vv*≦Vw*の関係がある。つまり中間相が最小相と一致する場合もあり得る。同様にしてVu*≦Vv*の関係もあり得る。
線間電圧指令生成部63は二つの線間電圧指令Es*,Et*を出力する。これらは第1の実施の形態で説明された線間電圧最大値Vs,Vtとは直接には関係しない。
第1の実施の形態で(i)において説明されたように、最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのいずれかが電位差T_lim・|tanθ|未満である場合には相電圧指令が補正されるが、最大相/中間相線間電圧Vmax_mid及び中間相/最小相線間電圧Vmid_minのいずれもが電位差T_lim・|tanθ|である場合においても、相電圧指令の補正を行ってもよい。
しかし、第1の実施の形態で(ii)において説明されたように、平均値Emax_mid、Emid_minが補正前の相電圧指令を採用した場合と一致するように、相電圧指令の各々を補正する。但し、本実施の形態では更に一般化して、これらの平均値は一つの補正区間と複数の補償区間との全体に亘っての平均として考える。
線間電圧指令Es*,Et*は次のように設定される。但し、ここではEs*=Vv**−Vu**、Et*=Vw**−Vv**として説明を行う。
補正区間(即ち検出区間)において相電流を正確に検出するために、補正区間において線間電圧指令Es*,Et*及びその和Es*+Et*は、いずれの絶対値も電位差T_lim・|tanθ|以上の値を採用する。しかも補正相電圧指令V**,Vv**,Vw**がキャリアCと比較されるべく、上述の絶対値はいずれもキャリアCの振幅(最大値Cmaxと最小値Cminとの差)以下である。かかる制限の下で、補正区間における線間電圧指令Es*,Et*は任意の値を取り得る。
補償区間における線間電圧指令Es*は、補正区間において設定された線間電圧指令Es*が元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)から乖離した電圧を補償する値を採る。
図24は補正区間及び補償区間における線間電圧指令Es*を説明するタイミングチャートである。図24において区間A,区間Bは、それぞれ補正区間及び補償区間である。
ここではキャリアCとして対称三角波を呈する波形を有するキャリアC1を採用しており、区間AはキャリアC1が上昇する半周期分として、区間BはキャリアC1が下降してから上昇する一周期分として設定されている。また、Vv*>Vu*である場合を示した。
線間電圧指令Es*の設定自体は相電圧が各区間において一定であることを前提とはしないものの、説明の簡単のため、ここではいずれの相電圧も区間のそれぞれにおいて一定であるとして図示している。
相電圧指令の差(Vv*−Vu*)は破線で示されている。今、補正区間において、線間電圧指令Es*は元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)よりも電圧値ΔVAだけ大きいとすると、−ΔVA=(Vv*−Vu*)−Es*となる。つまり、相電圧指令Vu*,Vv*同士の差(Vv*−Vu*)の補正区間における値から、線間電圧指令Es*の補正区間における値を差し引いた値(−ΔVA)を想定する。補正区間において、元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)が大きく、T_lim・|tanθ|≦Es*<Vv*−Vu*が成立する場合には、電圧値ΔVAは負となることもあり得る。これは上述のように補正相電圧指令V**,Vv**,Vw**がキャリアCと比較されるための要求によって生じ得る事態である。
この値(−ΔVA)を補償区間において按分した電圧値ΔVBを求める。ここではキャリアC1の波形は対称三角波を呈しており、区間Bは区間Aの二倍であるので、ΔVB=(−ΔVA)/2となる(図24の上から二段目のグラフ参照)。
そして補償区間における線間電圧指令Es*には、補償区間における元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)と電圧値ΔVBとの和が採用される(図24の上から三段目のグラフ)。
以上のような線間電圧指令Es*の設定と同様にして、線間電圧指令Et*を設定することができる。具体的には、相電圧指令Vv*,Vw*同士の差(Vw*−Vv*)の補正区間における値から線間電圧指令Et*の補正区間における値を差し引いた値を想定する。そして当該値を補償区間において按分した値と、補償区間における元の相電圧指令の差(Vw*−Vv*)との和を、補償区間における線間電圧指令Et*として採用する。
以上のような処理を行って、線間電圧指令生成部63は線間電圧指令Es*,Et*を生成する。
補正相電圧指令生成部64は、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**を設定する。第1の実施の形態で既に述べたように、相電流の検出に必要なのは線間電圧の確保であり、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**はその差の絶対値が補正区間において電位差T_lim・|tanθ|以上の値を採ればよい。
以下、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**の具体的な設定方法について説明する。
図39、図41,図43,図45,図47,図49は線間電圧指令を示す図であり、図40、図42、図44、図46、図48、図50は補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**がキャリアC1と比較可能な領域に収まる(以下、簡単に「比較可能条件」と称す)ために補正相電圧指令Vu**が存在し得る領域を示す図である。
図39及び図40はいずれもVu*<Vv*<Vw*である場合を想定しており、よってEs*>0,Et*>0である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図40に示されるように、補正相電圧指令Vu**は(キャリアC1の)最小値Cmin以上かつ値[Cmin−(Es*+Et*)]以下でなければならない。
図41及び図42はいずれもVv*<Vu*<Vw*である場合を想定しており、よってEs*<0,Et*>0,|Et*|>|Es*|である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図42に示されるように、補正相電圧指令Vu**は値[Cmin−Es*]以上かつ値[Cmax−(Es*+Et*)]以下でなければならない。
図43及び図44はいずれもVv*<Vw*<Vu*である場合を想定しており、よってEs*<0,Et*>0,|Et*|<|Es*|である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図44に示されるように、補正相電圧指令Vu**は値[Cmin−Es*]以上かつ(キャリアC1の)最大値Cmax以下でなければならない。
図45及び図46はいずれもVw*<Vv*<Vu*である場合を想定しており、よってEs*<0,Et*<0である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図46に示されるように、補正相電圧指令Vu**は値[Cmin−(Es*+Et*)]以上かつ(キャリアC1の)最大値Cmax以下でなければならない。
図47及び図48はいずれもVw*<Vu*<Vv*である場合を想定しており、よってEs*>0,Et*<0,|Et*|>|Es*|である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図46に示されるように、補正相電圧指令Vu**は値[Cmin−(Es*+Et*)]以上かつ値[Cmax−Es*]以下でなければならない。
図49及び図50はいずれもVu*<Vw*<Vv*である場合を想定しており、よってEs*>0,Et*<0,|Et|<|Es*|である。このような場合に比較可能条件が満足されるためには、図50に示されるように、補正相電圧指令Vu**は(キャリアC1の)最小値Cmin以上かつ値[Cmax−Es*]以下でなければならない。
補正区間と補償区間とでは、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**の大小関係が入れ替わる可能性があることから、結局、補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**が比較可能条件を満足するためには、下式を満足すれば足りることが分かる。但し記号MAX[]は[]で囲まれた三者の中で最も大きな値を表し、記号MIN[]は[]で囲まれた三者の中で最も小さな値を表す。
補正区間と補償区間のいずれにおいても相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*が一定である場合は、これらは第1の実施の形態にいう相電圧指令Vmin0,Vmid0,Vmax0に相当する。また、上記の説明から補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**の補正区間における値がそれぞれ第1の実施の形態にいう相電圧指令補正値Vmin1,Vmid1,Vmax1に相当することは明らかである。
ところで式(16)は下記のように書き換えられる。但し補正区間における線間電圧指令Es*の値Es1を採用した。
式(28)の右辺の第1項は補償区間における元の補正指令同士の差であり、同第2項は値(−ΔVA)である。第1の実施の形態において補償区間が補正区間と同じ長さであることを考慮すると、−ΔVA=ΔVBである。よって式(28)の左辺は補償区間における線間電圧指令Es*の値を示すことになる。つまり、補償区間における線間電圧指令Es*の値Es2を導入すると、Vmid2=Vmax2+Es2となり、本実施の形態にいう補正相電圧指令Vv**の補償区間における値が第1の実施の形態にいう相電圧指令補償値Vmid2に相当することがわかる。
式(17)からも同様のことが導けるので、本実施の形態にいう補正相電圧指令Vw**の補償区間における値が第1の実施の形態にいう相電圧指令補償値Vmin2に相当することがわかる。
また、本実施の形態にいう補正相電圧指令Vu**を第1の実施の形態にいう相電圧指令補正値Vmax1、相電圧指令補償値Vmax2として採用することができることも明白である。
よって第2の実施の形態にかかるインバータ制御装置6を採用することにより、第1の実施の形態で説明された効果を招来することができる。
なお、キャリアCはインバータ制御装置6の外部から供給されてもよいし、キャリアCを発生するキャリア生成部68をインバータ制御装置6が備えてもよい(図23参照)。キャリア生成部68には期間Tが入力され、これは例えばキャリアC1の一周期Tfcとして採用されたり、あるいは区間T0の長さとして採用されたりする。
インバータ制御装置6はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行することにより、上記ブロックの機能を実現する。
上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。
なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。
また、インバータ制御装置6はこれに限らず、上記各ブロックによって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
補償区間において更に相電圧指令補正値を考慮してもよい。即ち、補償区間においても新たに線間電圧指令値を設定し、これと相電圧指令同士の差との乖離を、更に後の区間において補償してもよい。この場合には乖離する値が、図24に即していえば区間AにおけるΔVAのみならず、区間Bの前半の区間B1(キャリアC1が下降する区間)においても発生する。この場合、区間Bの後半の区間B2(キャリアC1が上昇する区間)における相電圧指令補正値は、区間Aにおいて発生した乖離を補償するための電圧値ΔVBのみならず、区間B1において発生した乖離を補償するための値をも累加して設定されることになる。
<二相変調の例>
図16乃至図19では変調率が高い場合の二相変調について説明されたが、変調率が小さくても、実施の形態で説明された技術は二相変調に適用することができる。
図28は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。そして最小相相電圧指令Vmin0が最大値Cmaxに等しく、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0がキャリアC1の最小値Cminよりも最大値Cmaxに近い場合が例示されている。つまり図16で示された場合と比較して、最大相相電圧指令Vmax0が大きくて電圧ベクトルV4が採用される期間が短く、零電圧ベクトルV0が採用される期間が長い場合が、図28に例示されている。
このような二相変調が採用されるときも、実施の形態で説明された技術を用いて二相変調を行うことができる。図29は最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1(これらはキャリアC1の一周期中の前半の区間たる補正区間において有効)及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2(これらはキャリアC1の一周期中の後半の区間たる補償区間において有効)と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。
図17を用いて説明された場合と比較すると、最大相相電圧指令Vmax0が大きいので、最大相相電圧指令補正値Vmax1をキャリアC1の最小値Cminにまで小さくすることなく、中間相相電圧パルスPmidを最小幅制限値T_lim(ここでは横軸の目盛二つ分)以上に拡げることができる。そして中間相相電圧指令補償値Vmid2をキャリアC1の最大値Cmaxに等しく設定することができ、最小相相電圧指令補償値Vmin2をこれよりも小さく設定することができる。図29では最大相相電圧指令補償値Vmax2は中間相相電圧指令補償値Vmid2と等しい場合が例示されている。
図30は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。図31は最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。
図30及び図31のいずれにおいても、キャリアC1の一周期において区々に採用される電圧ベクトルを破線で、合成された電圧ベクトルを実線で、それぞれ示している。但し、上述のように、零電圧ベクトルV0はそれ自体の大きさが0であるので、これが採用される期間の長短に拘わらず黒丸で示されている。
図30及び図31で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も等しくなり、キャリアC1一周期中の電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
このように相電圧指令のうち最大であるもの(ここでは最小相相電圧指令Vmin0)、補正区間における補正相電圧指令のうち最大であるもの(ここでは最小相相電圧指令補正値Vmin1)、補償区間における補正相電圧指令のうち最大であるもの(ここでは中間相相電圧指令補償値Vmid2)を、いずれもキャリアC1の最大値Cmaxと等しく設定することができる。そしてかかる設定により、実施の形態で説明された技術の効果を二相変調においても享受できる。
同様にして、図16においてVmax0=Cminとすると、相電圧指令のうち最小であるもの(ここでは最大相相電圧指令Vmax0)、図17を更に参照して補正区間における補正相電圧指令のうち最小であるもの(ここでは最大相相電圧指令補正値Vmax1)、補償区間における補正相電圧指令のうち最小であるもの(ここでは最大相相電圧指令補償値Vmax2)を、いずれもキャリアC1の最小値Cminと等しく設定することができる。
具体的には、図32は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。そして最大相相電圧指令Vmax0が最小値Cminに等しく、最小相相電圧指令Vmin0、中間相相電圧指令Vmid0がキャリアC1の最大値Cmaxよりも最小値Cminに近い場合が例示されている。つまり図16で示された場合と比較して、最大相相電圧指令Vmax0が大きくて電圧ベクトルV4,V6が採用される期間が短く、零電圧ベクトルV7が採用される期間が長い場合が、図32に例示されている。
図33は最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1(これらはキャリアC1の一周期中の前半の区間たる補正区間において有効)及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2(これらはキャリアC1の一周期中の後半の区間たる補償区間において有効)と、最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminとの関係を示すタイミングチャートである。
最小相相電圧指令補正値Vmin1をキャリアC1の最大値Cmaxにまで大きくすることなく、最大相相電圧パルスPmaxのみが活性化する期間(電圧ベクトルV4が採用される期間に相当)や、最大相相電圧パルスPminのみが非活性となる期間(電圧ベクトルV6が採用される期間に相当)を最小幅制限値T_lim(ここでは横軸の目盛二つ分)以上に拡げることができる。
そして中間相相電圧指令補償値Vmid2をキャリアC1の最小値Cminに等しく設定することができ、最大相相電圧指令補償値Vmax2をこれよりも大きく設定することができる。図33では最大相相電圧指令補償値Vmax2は最小相相電圧指令補償値Vmin2と等しい場合が例示されている。
図34は最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。図35は最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成を示すベクトル図である。
図34及び図35のいずれにおいても、キャリアC1の一周期において区々に採用される電圧ベクトルを破線で、合成された電圧ベクトルを実線で、それぞれ示している。但し、上述のように、零電圧ベクトルV7はそれ自体の大きさが0であるので、これが採用される期間の長短に拘わらず黒丸で示されている。
図34及び図35で示されるように、最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0、最小相相電圧指令Vmin0を採用した場合の電圧ベクトルの合成も、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1及び最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用した場合の電圧ベクトルの合成も等しくなり、キャリアC1一周期中の電圧ベクトルの合成値は両者で維持されていることがわかる。
なお、相電圧指令Vmax0,Vmid0,Vmin0,Vu*,Vv*,Vw*が二相変調であるか、三相変調であるかを問わず、相電圧指令補正値Vmax1,Vmid1、Vmin1及び相電圧指令補償値Vmax2,Vmid2,Vmin2や補正相電圧指令Vu**,Vv**,Vw**を二相変調としてもよい。
<キャリア周期の採り方の例>
上記の説明では、キャリアC1の一周期をキャリアC1が最小値を採る時点から一旦最大値を採ってから再び最小値を採る時点として把握した。そしてキャリアC1が上昇する前半の半周期を補正区間とし、最大相相電圧指令補正値Vmax1、中間相相電圧指令補正値Vmid1、最小相相電圧指令補正値Vmin1を任意に設定する。そしてこれらと線間電圧とに基づいて、キャリアC1が下降する後半の半周期を補償区間として、最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を設定する。しかしながら、キャリアC1の一周期をキャリアC1が最大値を採る時点から一旦最小値を採ってから再び最大値を採る時点として把握してもよい。
<補正区間と補償区間の順序の例>
キャリアC1の後半の半周期を補正区間とし、前半の半周期を補償区間としてもよい。このようにしても、補正区間、補償区間のそれぞれにおけるキャリアC1の変化率の符号(正/負)が異ならない限り、キャリア一周期における線間電圧の平均値を同一に保つことができ、キャリア周期における合成電圧ベクトルを維持できるからである。
もちろん、後者の手法を採用する場合には、電圧指令補償値が採用される、前半区間の開始することに先だって、相電圧指令補正値、相電圧指令補償値を計算することが望ましい。そのためには、当該区間を含むキャリアC1の一周期に先だって、当該周期についての通常の相電圧指令を決定しておく必要がある。このような技術は例えば特許文献3に開示されるように、公知の技術であるので、ここでは詳細な説明を割愛する。
図36は点D(図3参照)における最大相相電圧パルスPmax、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminについて示したタイミングチャートであり、図9のタイミングチャートと対応する。図36でも図9と同様に、横軸一目盛が、最小幅制限値T_limの半分に相当する。
キャリアC1の後半において中間相相電圧指令Vmid0(図8参照)よりも小さい中間相相電圧指令補正値Vmid1を採用し、最大相相電圧指令補正値Vmax1、最小相相電圧指令補正値Vmin1としてそれぞれ最大相相電圧指令Vmax0、中間相相電圧指令Vmid0を維持することにより、キャリアC1の後半の区間において中間相相電圧パルスPmidが活性化する期間の長さを最小幅制限値T_limにすることができる。
そしてキャリアC1の前半において最大相相電圧指令補償値Vmax2、中間相相電圧指令補償値Vmid2、最小相相電圧指令補償値Vmin2を採用する。ここでは図9と同様にしてVmax1=Vmax2=Vmax0、Vmid2=2Vmid0−Vmid1、Vmin2=Cmaxとなる場合が例示されている。よってキャリアC1の前半においては最大相相電圧パルスPmaxのみが活性化し、中間相相電圧パルスPmid、最小相相電圧パルスPminは活性化せず、電圧ベクトルV4のみが採用されることになる。
図37は図11に対応するベクトル図であり、ここで示されるベクトルの合成ベクトルは、図10,図11のそれらと同じことが分かる。つまりキャリアC1一周期中における電圧ベクトルの合成値はこれらの三者間で維持されていることがわかる。
図38は補正区間及びこれに先行する補償区間における線間電圧指令Es*を説明するタイミングチャートであって、図24と同様に区間A,区間Bは、それぞれ補正区間及び補償区間である。
ここではキャリアCとして対称三角波を呈する波形を有するキャリアC1を採用しており、区間BはキャリアC1が上昇する半周期分として、区間AはキャリアC1が下降する半周期分として、それぞれ設定されている。説明の簡単のため、ここではいずれの相電圧も区間のそれぞれにおいて一定であるとして図示している。
図24と同様に相電圧指令の差(Vv*−Vu*)は破線で示されている。今、補正区間Aにおいて、線間電圧指令Es*は元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)よりも電圧値ΔVAだけ大きいとする。値(−ΔVA)を補償区間において按分した電圧値ΔVBを求める。ここではキャリアC1の波形は対称三角波を呈しており、区間Bは区間Aの一倍であるので、ΔVB=(−ΔVA)となる。もちろん、図24に示された場合と同様にして、区間Bが区間Aの二倍以上であってもよい。あるいは区間Aがキャリアの一周期の半分であることに鑑みて、区間Bがキャリアの一周期の半分の整数倍であってもよい。例えば区間Bは区間Aの1.5倍であってもよい。補償区間における線間電圧指令Es*には、補償区間における元の相電圧指令の差(Vv*−Vu*)と電圧値ΔVBとの和が採用される。