以下では添付図面を参照して、磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、磁気共鳴イメージング装置をMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と呼ぶ。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係るMRI装置の構成例について説明する。図1は、第1の実施形態に係るMRI装置の構成例を示す図である。図1に示すように、このMRI装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、送信RFコイル6、送信部7、受信RFコイル8、受信部9、シーケンサ10、ECG(Electrocardiogram)センサ21、ECGユニット22、及び計算機システム30を備える。
静磁場磁石1は、中空の円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石1の内側に配置される。この傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、後述する傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、X,Y,Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向とする。傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2に電流を供給する。
ここで、傾斜磁場コイル2によって発生するX,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
寝台4は、被検体Pが載置される天板4aを備え、後述する寝台制御部5による制御のもと、被検体Pが載置された状態で天板4aを傾斜磁場コイル2の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、この寝台4は、長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御部5は、制御部36による制御のもと、寝台4を制御する装置であり、寝台4を駆動して、天板4aを長手方向及び上下方向へ移動する。
送信RFコイル6は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、送信部7から高周波パルスの供給を受けて高周波磁場を発生する。送信部7は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信RFコイル6に送信する。
受信RFコイル8は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、上記の高周波磁場の影響によって被検体Pから放射される磁気共鳴信号を受信する。この受信RFコイル8は、磁気共鳴信号を受信すると、その磁気共鳴信号を受信部9へ出力する。
受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号に基づいてMR(Magnetic Resonance:磁気共鳴)データを生成する。具体的には、この受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号をデジタル変換することによってMRデータを生成する。このMRデータは、前述したスライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grによって、PE(Phase Encode)方向、RO(Read Out)方向、SE(Slice Encode)方向の空間周波数の情報が対応付けられることで、k空間に対応するデータとして生成される。そして、MRデータを生成すると、受信部9は、そのMRデータをシーケンサ10へ送信する。なお、受信部9は、静磁場磁石1や傾斜磁場コイル2などを備える架台装置側に備えられていてもよい。
シーケンサ10は、計算機システム30から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動することによって、被検体Pのスキャンを行う。ここで、シーケンス情報とは、傾斜磁場電源3が傾斜磁場コイル2に供給する電源の強さや電源を供給するタイミング、送信部7が送信RFコイル6に送信するRF信号の強さやRF信号を送信するタイミング、受信部9が磁気共鳴信号を検出するタイミングなど、スキャンを行うための手順を定義した情報である。
なお、シーケンサ10は、傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動して被検体Pをスキャンした結果、受信部9からMRデータが送信されると、そのMRデータを計算機システム30へ転送する。
ECGセンサ21は、被検体Pの体表に付着され、被検体Pの心拍、脈波、呼吸などのECG信号を電気信号として検出する。ECGユニット22は、ECGセンサ21により検出されたECG信号にA/D変換処理やディレー処理を含む各種処理を施してゲート信号を生成し、生成したゲート信号をシーケンサ10に送信する。
計算機システム30は、MRI装置100の全体制御を行う。例えば、計算機システム30は、上述した各部を駆動することで、データ収集や画像再構成などを行う。この計算機システム30は、インタフェース部31、画像再構成部32、記憶部33、入力部34、表示部35、及び制御部36を有する。
インタフェース部31は、計算機システム30とシーケンサ10との間でやり取りされる各種信号の送受信を制御する。例えば、このインタフェース部31は、シーケンサ10に対してシーケンス情報を送信し、シーケンサ10からMRデータを受信する。MRデータを受信すると、インタフェース部31は、各MRデータを被検体Pごとに記憶部33に格納する。
画像再構成部32は、記憶部33によって記憶されたMRデータに対して後処理すなわちフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、被検体Pの体内が描出された画像データを生成する。
記憶部33は、インタフェース部31により受信されたMRデータや、画像再構成部32により生成された画像データなどを被検体Pごとに記憶する。
入力部34は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。この入力部34としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
表示部35は、制御部36による制御のもと、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を表示する。この表示部35としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
制御部36は、図示していないCPUやメモリ等を有し、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、この制御部36は、入力部34を介して操作者から受け付けられた各種指示に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をシーケンサ10に送信することによってスキャンを制御したり、スキャンの結果としてシーケンサ10から送られるMRデータに基づいて行われる画像の再構成を制御したりする。
以上、実施形態1に係るMRI装置の構成例について説明した。このような構成のもと、MRI装置100は、ASL法により灌流画像を作成する機能を有する。なお、ASL法は、被検体にRF波を印加することで被検体内を流れる血液を磁気的に標識化し、標識化された血液をトレーサとして利用することによって、灌流画像を得る方法である。
ここで、従来のASL法による灌流画像の作成について説明する。図2〜5は、従来のASL法の原理を説明するための図である。図2の(a)及び(b)は、それぞれ血管のフローモデルを示しており、「artery」は動脈を示し、「arteriole」は細動脈を示し、「capillary」は毛細血管を示し、「vein」は静脈を示し、「Tracer」はトレーサを示している。また、「flow:f」は血流の流れを示しており、矢印が血流の向きを示している。
図2の(a)に示すように、酸素や栄養素を含んだ血液は、動脈から流入し、平均通過時間(MTT:Mean Transit Time)の間に毛細血管床内でガスや代謝物との交換後に、静脈へ流出される。ここで、比較的太い血管内の血液は灌流には寄与しないので、正確な灌流測定を行うためには、図2の(b)に示すように、トレーサがすべて毛細血管内にあり、動脈及び静脈にはトレーサがない状態が望ましい。
図3の(a)は、図2と同様のフローモデルを示しており、血液が標識化されてから対象組織に達する前の遅れ時間Td(Transit Delay)が異なる3種類の毛細血管床を示している。また、図3の(b)は、図3の(a)に示した3種類の毛細血管床それぞれの組織における信号強度の経時的な変化と、血液のT1緩和の経時的な変化を示している。ここで、血液のT1緩和D(t)は、血液の縦緩和時間をT1bとすると、時間tの関数D(t)=exp[−t/T1b]で表される。
例えば、図3の(a)に示すように、脳などの一つの臓器内の毛細血管床には、Tdが異なる無数の組織が集まっている(図3の(a)に示すA、B、C)。そして、一般的に、トレーサは動脈の上流のある1地点で与えられる。例えば、ASLでは、トレーサは頚動脈にRF波を印加することによって与えられる。その結果、毛細血管床の組織における信号強度の変化は、トレーサによって、t=Tdの到達後に立ち上がり、組織の血流動態に応じたTIC(Time Intensity Curve:信号強度曲線)となる。例えば、図3の(b)に示すように、組織AではTdAに立ち上がるTICとなり、組織BではTdBに立ち上がるTICとなり、組織CではTdCに立ち上がるTICとなる。また、ASLでは、Tdが長いほどT1緩和による信号の減衰が大きくなる。
図4及び5は、図3と同様のフローモデルと信号強度及びT1緩和の経時的な変化とを示している。図4は、ボーラス幅が短い場合(図4の(a)に示すTbolusを参照)を示し、図5は、ボーラス幅が長い場合(図5の(a)に示すTbolusを参照)を示している。なお、図4及び5において、ボーラス濃度は一定であるとする。このような場合には、図4の(b)及び図5の(b)に示すように、血液を標識化した後のある時刻TIにおいて、Tdの異なる組織間でトレーサ濃度(信号強度)の差異が低減し、トレーサ濃度自体も増大する。すなわち、ボーラス幅が長い方が、TdにロバストにSNRも大きくなる。
しかし、ある時刻TIにおけるトレーサ濃度のみの測定では、測定された信号値は正しく血流に比例せず、組織毎にTdに応じた補正が必要になる。ASLでは、血液の縦緩和D(t)は時間tのみに依存するので、測定された信号値を1/D(t)で補正すれば、緩和を無視することができる。また、対象組織の大きさがボクセルサイズに比べて同程度か小さければ、ボクセル内でトレーサ濃度が平衡状態でなくても、トレーサの平均濃度が測定されるとみなすことができる。なお、トレーサのボーラス幅が組織内の毛細血管を満たすのに十分長ければ、トレーサの平均濃度は一定値以上にはならない。
このようなASL法のニーズは、「造影剤を用いずに、毛細血管床のみで、太い血管の信号が抑制され、かつ、極力SNR(Signal Noise Ratio)が大きく定量的な血流情報を得たい」ということである。また、別途、血管内の血流の形態や動態情報などを「付加的に得たい」というニーズもある。
従来、ASL法は、その用途から、大きく、MRA(MR Angio)とMRP(MR Perfusion)とに分けられる。MRAは血管画像を得るための方法であり、MRPは灌流画像を得るための方法である。MRPでは、MRAに比べて血流信号のSNRが背景の静止組織よりもはるかに小さい(1/1000以下)画像が得られる。そのため、MRPでは、タグ画像とコントロール画像との差分をとるなど、背景信号を抑制するための処理が行われる。また、差分をとる場合でもコントロール画像とタグ画像とでMTC効果を同じにしたり、低マトリクスでの複数回の加算平均が行われたりする。
また、ASL法は、RF波によるラベル方式の違いから、大きく、PASL法と、CASL法と、PCASL法とに分けられる。PASL法はパルス波(RFパルス)を用いる方法であり、CASL法は連続波を用いる方法である。また、PCASL法は、CASL法の実用化を目的としたものであり、短いRFパルスを多数用いる方法である。
なお、CASL法とPCASL法は性質が類似しているため、以下では、両者をまとめてCASL法と呼ぶ。また、PASL法とCASL法とは、動脈血を標識化する際のトレーサ濃度の時間関数であるAIF(Arterial Input Function)に相当する縦磁化密度Mz(t)の違いとしてモデル化される。
PASL法は、CASL法に対して血流信号のSNRが不十分とされているが、RFパルスの印加が1回であるので、RFパルスの印加時間が20msec程度と短い。そのため、PASL法は、標識用のRFパルスが印加される範囲を通過する血液が反転される割合であるタグ効率が100%に近い、流速や磁場変動に対して安定している、SARが比較的小さい、などの特長を有する。
このPASL法では、タグ厚が10cm〜∞と大きく設定され、標識化された血液のうち、上流側に位置する後端部が下流側に位置する先端部より送れて撮像領域に到達する。そのため、PASLのAIFは、TIの長さによって、血液のT1緩和による減衰を伴う形状となる。ここで、AIFにおける印加時間Ttagは、血流の流速Vbloodとタグ厚Dtagとから決まる。タグ内の通過時間Ttagは、定常流の場合は、Ttag=Dtag/Vblood及びTtecのうち短い方、すなわち、Ttag=min[Dtag/Vblood,Ttec]で決まる。なお、Ttecは、標識用のRFパルスが印加されてからタグの血液信号をゼロにするためのサチュレーションパルスが印加されるまでの時間である。
一方、CASL法は、標識化される血液の量(AIFの時間積分値)が大きいため、血流信号であるASL信号のSNRが高い。そのため、CASL法では、標識用のRF波が印加されてから磁気共鳴データが収集されるまでの待ち時間TIを長く設定できるので、流速が遅い血管内の血液が撮像領域に残存しにくいという特長を有する。
以上、従来のPASL法及びCASL法について説明したが、これらPASL法及びCASL法では、以下のような課題があることが知られている。
まず、PASL法は、SNRが低下するため、TIを長く設定できない。そのため、PASL法では、血流の流速が遅いか、又は流路が長いために、Tdが大きい血管では血管信号が残存しやすいという課題がある。
一方、CASL法は、RFアンプやSARの制約によって実用的でない場合もある。また、CASL法の改良法であるPCASL法は、パルス波(RF波)を用いるものの、全体の印加時間が2sec程度と長い。そのため、CASL法では、磁場不均一性に弱い、流速によりタグ効率がばらつく、PASL法と比べてSARが大きい、などの課題がある。
また、CASL法は、CASL法は、SNRが大きいものの、TIはAIFの前半部(標識用のRF波が印加される時間内で最初に標識化された部分)の方が後半部より長いため、Tdの大きな組織でのASL信号に寄与する確率が増大する。しかし、後半で標識化された部分は、撮像領域に到達できずに血管内に残存する確率が増大する。CASLでは、これを低減するために、標識用のRF波が印加された後の待ち時間Tpld(post labeling delay)を長くすることで、標識化された血液を消している。しかし、このTpldが経過するまでの間は何も行わずに待つしかなく、無駄な時間が生じる。なお、かかるCASLでは、Ttag=Tpldで決まる。
また、連続的に血流の時間的な変化である動態変化を観察する場合には、CASL法では、標識用のRF波の印加からデータ収集までを繰り返す間隔である繰り返し時間Trepeatが長いため、PASL法と比べて時間的な効率が劣る。標識用のRF波を1回印加した後にTIを変化させながら連続的にデータ収集を行う場合は、CASL法でもよい。しかし、通常のMRPでは、イメージングのSNRが不十分であるため、標識用のRF波を複数回印加することによる加算平均が必要となる。
また、時間的な効率を向上させるための手法として、近年、Hadamard Encoding(HE)を応用した方法(以下、HE法と呼ぶ)が提案されている。このHE法は、TIの間の待ち時間を有効に利用して、タグモード用及びコントロールモード用のRF波を効率よく組み合わせて複数の画像を収集し、収集した画像を加減算することによりTIを変えた複数のASL画像を作成することで、収集時間を低減しつつSNRを向上させる方法である。このHE法は、CASL法との組み合わせで提案されている。
かかるHE法は、PASL法及びCASL法の両方に適用可能であるが、イメージングの前に、標識用の多くのRF波が必要になるため、1つのRFパルスを用いる方法と比べてSARが増大する方法である。したがって、HE法は、SARが比較的大きくなることや、標識用のRFパルス間に空き時間が生じることなどの理由から、PASL法との相性がよい。また、PASL法では、RF波間の空き時間における任意の時刻に、背景組織を抑制するための複数個のmIRパルスを追加しやすい。また、PASL法では、標識用のRF波が印加される際のSARを抑えることができるので、イメージングで許容されるSARを増やすことができる。すなわち、特に高磁場でSSFPが用いられる場合には、FA(Flip Angle)を大きく設定することができ、SNRを向上させることができる。
以上のように、従来のPASL法には、SNRが低い、大きな血管で血管信号が残存しやすいなどの課題がある。また、従来のCASL法には、PASL法と比べてSARが大きいなどの課題がある。
このような課題に対し、実施形態1に係るMRI装置100は、PASL法をベースにしながら、CASL法と比べてSARや血管信号の残存を低減するとともに、CASL法と同じがそれ以上の血管信号のSNRを提供することができる画像処理方法を実行する。なお、本実施形態では、MRI装置100により実行される上記画像処理方法をSynthesized CASL(SCASL)法と呼ぶ。
図6は、第1の実施形態に係るMRI装置100により実行されるSCASL法の概要を示す図である。具体的には、MRI装置100は、被検体内を流れる血液の標識化を行うためのRF波を被検体に少なくとも1回印加し、そのRF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に血液が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集する撮像モードを待ち時間TIを変えながら複数回実行する(図6に示すTI(1)〜TI(N))。そして、MRI装置100は、収集された磁気共鳴データから複数の異なる待ち時間TIそれぞれに対応する複数の画像を再構成し、再構成された複数の画像を合成する(図6に示す合成処理)。以下、かかるMRI装置100について詳細に説明する。
図7は、第1の実施形態に係るMRI装置100の詳細な構成例を示す図である。図7は、図1に示したシーケンサ10及び計算機システム30を示している。また、図7は、計算機システム30が有する機能部のうち、インタフェース部31、画像再構成部32、記憶部33、入力部34、表示部35、及び制御部36を示している。
図7に示すように、記憶部33は、撮像パラメータ記憶部33a、MRデータ記憶部33b、及び画像データ記憶部33cを有する。
撮像パラメータ記憶部33aは、血流画像を得るための撮像条件を設定するうえで必要な各種の撮像パラメータを記憶する。MRデータ記憶部33bは、インタフェース部31を介してシーケンサ10から受信されたMRデータを記憶する。画像データ記憶部33cは、画像再構成部32によりMRデータから再構成された画像を記憶する。
また、制御部36は、撮像条件設定部36a、データ収集部36b、差分画像生成部36c、及び画像合成部36dを有する。撮像条件設定部36aは、入力部34を介して操作者から受け付けられた各種指示と、撮像パラメータ記憶部33aにより記憶された撮像パラメータとに基づいて撮像条件を設定する。
データ収集部36bは、撮像条件設定部36aにより設定された撮像条件に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をインタフェース部31を介してシーケンサ10に送信する。また、データ収集部36bは、インタフェース部31を介してシーケンサ10から受信したMRデータをMRデータ記憶部33bに格納する。
第1の実施形態では、データ収集部36bは、被検体内を流れる血液の標識化を行うためのRF波を前記被検体に少なくとも1回印加し、そのRF波が印加されてから所定の待ち時間TIが経過した後に血液が流れる撮像領域のMRデータを収集する撮像モードを待ち時間TIを変えながら複数回実行する。
図8及び9は、第1の実施形態に係るデータ収集部36bにより実行される撮像モードの一例を示す図である。ここで、図8は、タグモード用のRFパルスを1回印加し、RFパルスを印加してから待ち時間TIが経過した後にデータ収集を行うSingle Tag−Single Imaging(ST−SI)−PASL法の一例を示している。図8の(a)は、ST−SI−PASL法におけるRFパルスの印加範囲の一例を示しており、図8の(b)は、ST−SI−PASL法のパルスシーケンスの一例を示している。
データ収集部36bは、タグ画像を生成するためのタグモードのデータ収集とコントロール画像を生成するためのコントロールモードのデータ収集とをそれぞれ実行する。例えば、タグモードでは、データ収集部36bは、図8に示すように、まず、撮像領域41を包含する領域42に飽和パルスSAT1を印加し、続いて、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43にタグモード用のRFパルスtag RFを印加する。
その後、データ収集部36bは、データ収集(図8(b)示すimaging)の開始からTInss2だけ前の時点で、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43及び下流に設定されたコントロール領域44を含む領域45に、領域非選択IRパルスnssIR2を印加する。続いて、データ収集部36bは、RFパルスtag RFを印加してから所定の時間Ttecが経過した後に、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43を包含する領域46に飽和パルスSAT2を印加する。ここで、飽和パルスSAT2は、撮像領域41内にある太い血管内の信号を低減させるために用いられる。
その後、データ収集部36bは、データ収集の開始からTInss1だけ前の時点で、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43及び下流に設定されたコントロール領域44を含む領域45に、領域非選択IRパルスnssIR1を印加する。ここで、領域非選択IRパルスnssIR1及びnssIR2は、所定のタイミングで縦磁化を反転させることで、脳の白質や灰白質などの組織の信号強度を選択的に抑制するために用いられる。そして、データ収集部36bは、タグモード用のRFパルスを印加してから待ち時間TIが経過した時点で、撮像領域41からのデータ収集を開始する。
一方、コントロールモードでは、データ収集部36bは、図8に示すように、まず、撮像領域41を包含する領域42に飽和パルスSAT1を印加し、続いて、撮像領域41の下流に設定されたコントロール領域44にコントロールモード用のRFパルスcontrol IRを印加する。
その後、データ収集部36bは、タグモードと同様に、領域非選択IRパルスnssIR2、飽和パルスSAT2、及び領域非選択IRパルスnssIR1を順に印加する。そして、データ収集部36bは、領域非選択IRパルスnssIR1を印加してからTInss1が経過した時点で、撮像領域41からのデータ収集を開始する。
そして、データ収集部36bは、上述したST−SI−PASL法によるデータ収集を待ち時間TIを変えながら複数回実行する。例えば、図9に示すように、データ収集部36bは、待ち時間をTI(1)〜TI(N)と変えながら、タグモード及びコントロールモードのデータ収集をそれぞれN回実行する。
図7の説明にもどって、画像再構成部32は、データ収集部36bにより収集されたMRデータから複数の異なる待ち時間TIそれぞれに対応する複数の画像を再構成する。具体的には、画像再構成部32は、タグモードで収集されたMRデータからタグ画像を再構成し、コントロールモードで収集されたMRデータからコントロール画像を再構成する。
差分画像生成部36cは、画像再構成部32により再構成されたタグ画像とコントロール画像との差分画像を、画像合成部36dにより合成される画像として生成する。具体的には、差分画像生成部36cは、画像再構成部32により再構成されたタグ画像とコントロール画像とを同じTIごとに画像データ記憶部33cから読み出し、読み出したタグ画像とコントロール画像との差分画像を生成する。
画像合成部36dは、画像再構成部32により再構成された複数の画像を合成する。具体的には、画像合成部36dは、差分画像生成部36cにより生成された複数の待ち時間TIに対応する差分画像を合成する。例えば、画像合成部36dは、複数の差分画像それぞれにT1緩和の補正を行った後に各差分画像の加減算を行うことで、複数の差分画像を合成する。例えば、画像合成部36dは、待ち時間TIの異なる画像の数をNとし、待ち時間TIが長い方から順番にi=1−Nとし、T1緩和を補正するための補正係数をk(i)とした場合に、まず、以下に示す式により補正係数k(i)を求める。
k(i)=1/exp(−TI(i)/T1blood)
さらに、画像合成部36dは、待ち時間TIごとの差分画像の差分信号をS(i)とした場合に、以下に示す式により合成信号の信号値Ssynthesizedを算出することで、複数の差分画像を合成する。
Ssynthesized=k(1)S(1)+k(2)S(2)+k(3)S(3)・・・
−k(n−2)S(n−2)−k(n-1)S(n-1)−k(n)S(n)
具体的には、画像合成部36dは、標識化された血液が対象組織に到達するのにかかる時間より長い待ち時間TIに対応する差分画像の信号値を加算する。また、画像合成部36dは、標識化された血液が対象組織に到達するのにかかる時間より短い待ち時間TIに対応する差分画像の信号値を減算する。このような加減算を行うことで、画像合成部36dは、複数の差分画像を合成する。
図10は、第1の実施形態に係る画像合成部36dにより行われる画像合成処理を説明するための図である。上記式において、待ち時間TIの異なる差分画像S(1)、S(2)、S(3)・・・を加算するのは、図10のAIFSに示すように、等価的にAIFの時間を長くすることで、標識化された血液で毛細血管床を十分に満たすためである。また、上記式において、待ち時間TIの異なる画像S(n−2)、S(n−1)、S(n)を減算するのは、図10のTICSに示すように、太い血管の信号を抑制するためである。
そして、このような処理を行うことによって、図10右側の一番下に示すように、太い血管の信号が抑制され、かつ、毛細血管床が明瞭に描出された画像が得られる。すなわち、毛細血管床のみで、太い血管の信号が抑制され、かつ、SNRが大きく定量的な血流情報が得られる。なお、1つの待ち時間TIでは遅延(delay)が補正できていない場合には、待ち時間TIが短めの複数の画像から最大値部を抽出するなどにより、Tdの異なる血管を大まかに抽出し、さらに、閾値処理などによって背景をマスクして血管のみを抽出してから差分するとよい。または、血管信号の抑制は、待ち時間TIが短いASL画像の中から1枚を選択するか、複数のASL画像から血管部分を演算して抽出してから差分することで抑制する。
ここで、第1の実施形態に係る血管信号の抑制について詳細に説明する。まず、第1の実施形態に係る血管信号の抑制について説明する前に、従来のCASL法による血管信号の抑制について説明する。図11は、従来のCASL法による血管信号の抑制を説明するための図である。図11において、seq.1はタグモード用のパルスシーケンスを示しており、seq.2はコントロールモード用のパルスシーケンスを示している。
seq.1では、まず、撮像領域51を包含する領域52に飽和パルスpreSATが印加される。続いて、seq.1では、撮像領域51の上流に設定されたタグ領域53に、所定の印加時間Ttagの間、タグモード用のRF波が印加される(図11の(b)に示すtag)。その後、データ収集(図11の(b)示すimaging)の開始からTInss2だけ前の時点で、撮像領域51と、撮像領域51の上流に設定されたタグ領域53とを包含する領域55に、領域非選択IRパルスnssIR2が印加される。さらに、データ収集の開始からTInss1だけ前の時点で、同様に、領域55に領域非選択IRパルスnssIR1が印加される。そして、タグモード用のRF波が印加されてから待ち時間TIが経過した時点で、撮像領域51からのデータ収集が開始される。
一方、seq.2では、まず、seq.1と同様に領域52に飽和パルスpreSATが印加され、続いて、タグ領域53と同じ位置に設定されたコントロール領域54に、所定の印加時間Ttagの間、コントロールモード用のRF波が印加される(図11の(b)に示すcontrol)。その後、seq.1と同様に、撮像領域51とコントロール領域54とを包含する領域55に、領域非選択IRパルスnssIR2及び領域非選択IRパルスnssIR1が順に印加される。そして、コントロールモード用のRF波が印加されてから待ち時間TIが経過した時点で、撮像領域51からのデータ収集が開始される。
こうして、タグモード及びコントロールモードそれぞれのパルスシーケンスが実行された後に、seq.1により収集されたMRデータからタグ画像が再構成され、seq.2により収集されたMRデータからコントロール画像が再構成される。そして、図11の(c)に示すように、タグ画像とコントロール画像とを差分することで、ASL画像が生成される。
このような従来のCASL法において、血管内の血液信号が残存しないようにするためには、前述したように、標識用のRF波が印加された後の待ち時間Tpldを長くする必要がある。そして、Tpldが経過するまでの間は、背景抑制用の領域非選択IRパルスを数回印加する程度で、3D収集の場合は特に何も行わずに待つ必要がある。なお、PASL法では、標識用のRFパルスの印加時間はそれぞれ短くなり(20msec程度)、上流の動脈を空間的に所定の厚さで標識化する。そのため、ある程度のTpldに加えて、タグの時間幅を制限するために、タグの後端部の血液信号をゼロにするためのサチュレーションパルスが印加される。
次に、第1の実施形態に係る血管信号の抑制について説明する。図12は、第1の実施形態に係る血管信号の抑制を説明するための図である。図12において、図11と同様に、seq.1はタグモード用のパルスシーケンスを示しており、seq.2はコントロールモード用のパルスシーケンスを示している。
図12の(b)及び(c)に示すように、本実施形態では、タグモードでは、標識化された血液が毛細血管相の対象組織に十分に移行した状態になるまでタグモード用のRF波の印加が継続するように、印加時間Ttag1が設定される。また、コントロールモードでは、コントロールモード用のRF波が印加された後に印加時間Ttag2が経過するまでの間、標識化された血液が血管内のみに存在する状態になるように、RF波が印加される(tag)。
なお、seq.1におけるTpld1は、ゼロ(nssIRを用いる場合は=TInss1)でもよいが、必要以上に長くする必要はない。また、Ttag1>Ttag2、Tpld1=Tpld2とすると、差分信号S=S2−S1は、従来法のとの関係で、Ttag=Ttag1−Ttag2、Tpld=TI2と等価な信号となる。
そして、同一の撮像時間でも、従来法では血管抑制された灌流画像のみしか得られないのに対し、本実施形態では、図12の(c)に示すように、S2はMRA画像となり、差分後のASL画像は血管が抑制された灌流画像となる。
なお、TI1及びTI2をどのように設定するかは、標識化する血管部位と、最も遠い組織までの移動距離と、流速に依存する。例えば、待ち時間TIは末梢動脈からの最も到達時間のかかる組織近傍流出静脈までの到達時間ATmaxと平均過時間MTTの和以上であればよいので、TI1>ATmax+MTTとする。
例えば、TI1は、被検体が健常人の場合には短く、梗塞の患者の場合には長く設定される。また、TI2は、標識化する血管部位と組織近傍末梢動脈までの到達時間が必要である。しかし、TI2は場所にも依存するので、seq.1、seq.2のー組の画像では決めることが困難である。そこで、例えば、TI2は、seq.2のTI2をかえた複数の画像をダイナミックに収集した画像からTICを解析して算出する。なお、seq.2でコントロール用のRF波を印加しない場合は、MTC効果の差をなくすために、静止組織のT1回復時間としてある程度の時間を空ければよい。例えば、TI2>k*T1tissue(k=2〜3)とすればよい。
次に、第1の実施形態に係るMRI装置100によるSCASL法の処理手順について説明する。図13は、第1の実施形態に係るMRI装置100によるSCASL法の処理手順を示すフローチャートである。図13に示すように、第1の実施形態では、計算機システム30の制御部36が操作者からSCASL法による撮像の開始指示を受け付けると(ステップS11,Yes)、以下の処理を実行する。
まず、データ収集部36bが、あらかじめ操作者によって設定された撮像条件に基づいて、標識用のRF波を少なくとも1回印加し、待ち時間TIを変えながらデータ収集を複数回実行する(ステップS12)。ここで、データ収集部36bは、タグ画像を生成するためのタグモードのデータ収集とコントロール画像を生成するためのコントロールモードのデータ収集とをそれぞれ複数回実行する。
続いて、画像再構成部32が、データ収集部36bにより収集されたMRデータから複数の異なる待ち時間TIそれぞれに対応する複数のタグ画像及びコントロール画像を再構成する(ステップS13)。そして、差分画像生成部36cが、画像再構成部32により再構成されたタグ画像とコントロール画像との差分画像を同じ待ち時間TIごとに生成する(ステップS14)。
続いて、画像合成部36dが、画像再構成部32により再構成された複数の差分画像を合成する(ステップS15)。そして、画像合成部36dは、複数の差分画像から生成した合成画像を表示部35に表示させる(ステップS16)。
上述したように、第1の実施形態に係るMRI装置100では、データ収集部36bが、被検体内を流れる血液の標識化を行うためのRF波を被検体に少なくとも1回印加し、RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に流体が流れる撮像領域のMRデータを収集する撮像モードを待ち時間を変えながら複数回実行する。また、画像再構成部32が、データ収集部36bにより収集されたMRデータから複数の異なる待ち時間それぞれに対応する複数の画像を再構成する。そして、画像合成部36dが、画像再構成部32により再構成された複数の画像を合成する。したがって、第1の実施形態によれば、PASL法をベースにしながら、CASL法と比べてSARや血管信号の残存を低減するとともに、CASL法と同じがそれ以上の血管信号のSNRを提供することができる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、ST−SI−PASL法を用いてデータ収集を行う例を示したが、第2の実施形態では、Single Tag−Multi TI Imaging(ST−MI)−PASL法を用いてデータ収集を行う例について説明する。なお、データ収集部36b以外の各機能部によって行われる処理は第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
図14は、第2の実施形態に係るデータ収集を説明するための図である。図14に示すように、第2の実施形態では、データ収集部36bは、標識用のRFパルスを1回印加した後に、複数の待ち時間TIの画像を取得するST−MI−PASL法を実行する。例えば、ST−MI−PASL法では、100msec程度で1つの画像が得られるEPI(Echo Planar Imaging)法や、SSFP法などが用いられる。なお、SSFP法を用いる場合には、1つの画像を収集するのにかかる時間がEPIと比べて長いので、例えば、k空間を分割し、低周波のデータのみを100msec程度の時間分解能で収集し、高周波のデータについては別のサイクル(tag〜imaging)で順次収集すればよい。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、血液の標識化を行うためのRF波を被検体に1回印加し、そのRF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に血液が流れる撮像領域のMRデータを所定の時間間隔で複数回収集する撮像モードを待ち時間を変えながら複数回実行し、収集された複数のMRデータをRF波が印加されてからMRデータの収集が行われるまでの経過時間が同じものごとに加算する例について説明する。なお、データ収集部36b以外の各機能部によって行われる処理は第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
図15は、第3の実施形態に係るデータ収集を説明するための図である。図15に示すように、例えば、データ収集部36bは、ST−MI−PASL法によるデータ収集をM回実行する。このとき、データ収集部36bは、標識用のRFパルスを印加してから最初のデータ収集までの待ち時間を所定の時間幅Tintの整数倍となるように変えながら、ST−MI−PASL法によるデータ収集をN回実行する。また、データ収集部36bは、ST−MI−PASL法によるデータ収集を実行するごとに、標識用のRFパルスを印加してから所定の時間幅Tintの整数倍の時刻ごとに、N個のMRデータを収集する。なお、本実施形態では、標識用のRFパルスが印加されてから最初のデータ収集が行われるまでの待ち時間と、2回目のデータ収集において標識用のRFパルスが印加されてからデータ収集が行われるまでの経過時間とを、それぞれTIと呼ぶ。
例えば、データ収集部36bは、各TIをTImnと表した場合に、以下に示すTI11、TI21、TI31、TI41のように、標識用のRFパルスが印加されてから最初のデータ収集が行われるまでの待ち時間を変化させながら、ST−MI−PASL法によるデータ収集を実行する。そして、例えば、データ収集部36bは、1回目については、待ち時間TI11が経過した後にデータ収集を行い、その後、TI12、TI13、TI14が経過するごとにデータ収集を実行する。また、データ収集部36bは、2回目については、待ち時間TI21が経過した後にデータ収集を行い、その後、TI22、TI23、TI24が経過するごとにデータ収集を実行する。また、データ収集部36bは、3回目については、待ち時間TI31が経過した後にデータ収集を行い、その後、TI32、TI33、TI34が経過するごとにデータ収集を実行する。また、データ収集部36bは、4回目については、待ち時間TI41が経過した後にデータ収集を行い、その後、TI42、TI43、TI44が経過するごとにデータ収集を実行する。
TI14=7Tint
TI13=TI24=6Tint
TI12=TI23=TI34=5Tint
TI11=TI22=TI33=TI44=4Tint
TI21=TI32=TI43=3Tint
TI31=TI42=2Tint
TI41=1Tint
そして、データ収集部36bは、収集された複数のMRデータを補正したうえで、標識用のRFパルスが印加されてからデータ収集が行われるまでの経過時間が同じものごとに加算する。例えば、データ収集部36bは、加算されるMRデータをS(TI)とし、TIに依存したT1減衰を補正するための補正係数をa(TI)とし、データを収集する順番nに依存したT1減衰を補正するための補正係数をbnとした場合に、以下の式によりS(TI)を求める。
S(7Tint)=a(7Tint)*b4*S14
S(6Tint)=a(6Tint)*{b3*S13+b4*S24}/2
S(5Tint)=a(5Tint)*{b2*S12+b3*S23+b4*S34}/3
S(4Tint)=a(4Tint)*{b1*S11+b2*S22+b3*S33+b4*S44}/4
S(3Tint)=a(5Tint)*{b1*S21+b2*S32+b3*S43}/3
S(2Tint)=a(2Tint)*{b1*S31+b2*S42}/2
S(1Tint)=a(1Tint)*b1*S41
この方法によれば、図15に示すように、M+N−1個の異なるTIのMRデータが得られ、かつ、中間のTIほどSNRが向上する。なお、TIが中間より短い場合にはもともとSNRが大きいので問題ないが、TIが中間より長い場合にはSNRは低下し、最も長いTIのSNRは収集されるデータが1個なので、1組のMT−SI−PASLと同じになる。そのため、Tintごとに標識用のRFパルスとデータ収集とを配置するのが望ましい。さらに、N回のデータ収集の組と最初のデータ収集までの待ち時間TIをTintずつシフトさせたm組の独立したtagのM組として、m=nとするのがより望ましい。なお、m、nは異なってもよい。
また、TIが最も短くなる最後(m=M)のRFパルスと1回目(n=1)のデータ収集までの時間はTintである必要はない。また、TIは、Tintの整数倍であればよく、ここでいう整数は必ずしも連続していなくてもよい。抜けたTIについては、合成計算時にゼロとしてないものとすればよい。
なお、ASLでは、TIが長いほどSNRは低下するので加算回数を増やしたいが、ST−MI−PASLでは時間的に後のデータほどSNRは低下するため、あまり多くのdataは収集できない。したがって、nは数個にしておき、独立したRFパルスで収集したm組のデータから合成して中間以降の長いTIでSNRの小さなデータを捨てたとしても、処理効率を向上できる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態では、Hadamard Encoding(HE)法を用いたMulti−Tag(MT)−PASL法であるHE−MT−MASL法を用いてデータ収集を行う例について説明する。HE法については、例えば、CASL法と組み合わせた方法が、Wells JA at al. In vivo hadamard encoded continuous arterial spin labeling (H-CASL). MRM 63:1111-1118 (2010)により提案されている。なお、データ収集部36b以外の各機能部によって行われる処理は第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
第4の実施形態では、データ収集部36bは、タグモード用のRFパルスとコントロールモード用のRFパルスとを所定の時間間隔ごとに効率よく配置してデータを収集し、収集した画像を加減算することで、待ち時間TIが異なる複数のASL画像を得るHE−MTPASL法を実行する。この方法によれば、ST−SI法やST−MI法に比べて、SNRをより向上させることができる。
図16及び17は、第4の実施形態に係るデータ収集を説明するための図である。HE−MT−PASL法では、例えば、異なる待ち時間TIの組み合わせ数Nが、3、5、7、15・・・など、すなわち、N=2n−1(nは自然数)に設定される。例えば、図16は、異なる待ち時間TIの組み合わせ数N=7(n=2)である例を示している。
なお、図16に示す複数のRFパルス(tag/control RF)のうち、左下がりの斜線が付されたものはタグモード用のRFパルスであり、右下がりの斜線が付されたものはコントロールモード用のRFパルスである。図16に示すように、例えば、N=7とした場合には、RFパルスの順序が異なるN+1=8種類のパルスシーケンスの組み合わせが用いられる。なお、TI(i)は、k=1〜8の各パルスシーケンスで同じであれば、任意の時間間隔でよい。
ここで、k=1〜8の各パルスシーケンスで収集されるデータの複素信号をSkとし、各TI(i)における4倍の差分信号S{TI(i)}、i=1〜7は、以下の式で求められる。
S{TI(i)}=4[S{TI(i)}−Scont{TI(i)}]
すなわち、i=1〜7とした場合には、S{TI(1)}〜S{TI(7)}は、以下の式により求められる。
S{TI(1)}=S1−S2+S3−S4+S5−S6+S7−S8
S{TI(2)}=S1+S2−S3−S4+S5+S6−S7−S8
S{TI(3)}=S1−S2−S3+S4+S5−S6−S7+S8
S{TI(4)}=S1+S2+S3+S4−S5−S6−S7−S8
S{TI(5)}=S1−S2+S3−S4+S5−S6+S7−S8
S{TI(6)}=S1+S2−S3−S4−S5−S6+S7+S8
S{TI(7)}=S1−S2−S3+S4−S5+S6+S7−S8
そして、この場合のSNRは、1回あたりの差分のNAQ=4回加算に相当するsqrt(4)=2倍となる。
また、1回の繰り返し時間をTrepeatとすると、撮像時間は、N組のTIに対して、
(N+1)*Trepeatとなる。一方、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合には、撮像時間は、N組のTIに対して、2*(N+1)/2*N*Trepeat=N(N+1)*Trepeatとなる。したがって、HE−MT−SI法では、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合に比べて、撮像時間比はN+1/N(N+1)=1/Nとなる。つまり、N=7とした場合には、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合と同等のSNRのTIの異なる差分画像が、1/7の時間で得られることになる。
なお、ASL MR Perfusion(ASL−MRP)において一般的なST−PASL法では、十分なSNRを確保するためには数回程度の加算平均が行われる。これに対し、上述したHE−MT−PASL法によれば、同一のデータが1回の収集のみで得られ、かつ、数段階のTIの加算平均と等価な画像が得られるので、収集時間を有効に短縮することができる。なお、コントロールモード用のRFパルスは、MRP用でMTCが問題となる場合のみ印加されればよい。したがって、血管のMRA用などでMTCが問題とならない場合には、図17に示すように、コントロールモード用のRFパルスは省略されてもよい。
以上、HE−MT−PASL法を用いた例を説明したが、この方法では、血液の流速に応じたパルス間隔の制御など、タグ条件に制約がある。さらに、HE法では、血液の流速が時間的に変動する場合、例えば拍動流下で用いられる場合には、同一時刻でのRFパルスのタイミングで血液の流速が同じでないと、画像を加減算する際、特に減算の際に、不要なタイミングで標識化された流体信号が意図した通りに消えない場合もある。これは、PASLと組み合わせた場合でも、CASLと組み合わせた場合でも同様である。
そこで、例えば、同一時刻のRFパルスが同一の心位相で行われるように、例えば、心拍のゲート信号におけるR波をトリガ信号として、最初のRFパルスを印加するようにしてもよい。
さらに、PASL法では、定常流であってもタグ効率を最大化するためには、タグ厚とパルス間隔などのタグ条件を血液の流速に合わせて制御するのが望ましい。そこで、例えば、データ収集部36bが、対象血管の流速、径又は流量に基づいて、タグ効率が最大になるように、空間的なタグの厚さ、RFパルスの間隔及びRFパルスの数を設定するようにしてもよい。なお、この場合には、例えば、対象血管の流速、径、及び流量は、統計データなどに基づいて、あらかじめ血管の種類ごとに装置に記憶させておく。また、例えば、対象血管の流速は、phase contrast MRA法などにより、動的に求めてもよい。
なお、HE−MT−PASL法では、各シーケンスにおけるデータ収集は基本的には1回で十分であるが、さらに、Tintごとに複数回データを収集してもよい。すなわち、HE−MT−PASL法に、第2の実施形態で示したST−MI−PASL法を併用する。以下では、この方法を、Hadamard Encoding Multi−Tag−Multi TI imaging PASL(HE−MT−MI−PASL)法と呼ぶ。
かかるHE−MT−MI−PASL法によれば、より高速に撮像を行うことができるとともに、SNRをより向上させることができる。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第1の実施形態では、各差分画像の加減算を行うことで複数の差分画像を合成する例を示したが、第5の実施形態では、画素ごとにTIに対してASL信号強度をプロットしたTICの解析を行って血流パラメータを算出することで、差分画像を合成する例について説明する。なお、画像合成部36d以外の各機能部によって行われる処理は第1〜第4の実施形態のいずれかと同様であるので、ここでは説明を省略する。
第5の実施形態では、画像合成部36dは、複数の画像に基づいて、画素ごとに待ち時間(TI)に対して信号強度をプロットした信号強度曲線(TIC)を生成し、当該信号強度曲線の最大傾斜(maximum upslope:US)を血流量として算出し、当該信号曲線の面積を血液量として算出する。また、画像合成部36dは、TICの最大値又は面積により所定の閾値処理を行うことで、血管信号を除去する。
例えば、撮像対象が脳である場合には、血流量はCBF(Cerebral Blood Flow:脳血流量)で表され、血液量はCBV(Cerebral Blood Volume:脳血液量)で表される。以下では、血流パラメータとしてCBF及びCBVを用いる場合を一例として説明する。具体的には、画像合成部36dは、複数の画像に基づいて、画素ごとに待ち時間TIに対して信号強度をプロットしたTICを生成し、TICのUSをCBFとして算出し、TICの面積をCBV算出する。
図18は、第5の実施形態に係る画像合成を説明するための図である。例えば、画像合成部36dは、まず、差分画像生成部36cにより生成された複数の待ち時間TIに対応する差分画像に対してT1緩和の補正を行う。その後、画像合成部36dは、補正された各待ち時間TIの差分画像に基づいて、画素ごとに待ち時間TIに対してASL信号強度をプロットしたTICを生成する。このとき、画像合成部36dは、血管TIC(図18に示すSvessel)と組織TIC(図18に示すStissure)とを生成する。
なお、図18に示す例では、TI1=AT:(Stissue≒0, Svessel>>0)であり、TI2=AT+MTTである。ここで、ATはappearance(arrival)timeであり、MTTはmean transit timeである。
組織TICを生成した後に、画像合成部36dは、生成した組織TICのUSをCBFとして算出する(図18に示す点線を参照)。なお、このとき、画像合成部36dは、必要に応じて、AIFの最大値PHaを算出し、CBF=US/PHaとする。
ここで、画像合成部36dは、USのみでも絶対CBFに比例する値となるので、表示上は正常側半球での平均値で正規化するか、正常白質のUS値、US(WM)をROIにて測定し、CBF(WM)=22ml/100cc/minとして、個々のvoxelについてはCBF={US(WM)/CBF(WM)}*USにより絶対化してもよい。
また、CBVはtagされた水が組織へは漏れない、すなわち「血管内トレーサ」を仮定する必要はあるが、組織内血管にトレーサ到達後の時間が短ければ(2〜3sec以内)、近似的にトレーサの組織への漏れは無視できる。そこで、例えば、画像合成部36dは、組織TICの面積を算出し、CBFと同様にWMのAC<AC(WM)とCBV(WM)=4ml/cc1とから、CBV={AC(WM)/CBV(WM)}*USにより絶対化してもよい。
そして、画像合成部36dは、生成したTICの解析を行って血流パラメータを算出し、算出した血流パラメータの値をマッピングした画像を合成画像として生成する。または、画像合成部36dは、第1の実施形態で示した方法で画像を合成した後に、合成された画像の定量化を行う際に上記の方法を用いてもよい。
上記実施形態によれば、SCASL法により複数の異なる待ち時間TIでの時間分解能に優れたASL画像により動態解析に適するのに加え、CASL法に同等または以上のSNRや定量性に優れたASL画像が得られる。さらに、CASL法やPCASL法に比べSARを低減することができる。また、血管抑制もシーケンス上の追加であるtag後の待ち時間(PLD)やsaturation(TEC)パルスなどを用いずに、すなわち無信号の血管信号を血管に充満させる無駄な時間を待たないで、待ち時間TIの若い血管画像との画像間演算(差分)によりおこなうため、無駄な待ち時間が低減するため効率的に実現できる。
なお、上記実施形態で説明した画像合成部36dは、MRI装置100に接続された画像処理装置に備えられてもよい。その場合には、画像処理装置は、MRI装置100から画像を取得する画像取得部をさらに備える。この画像取得部は、被検体内を流れる流体の標識化を行うためのRF波を前記被検体に少なくとも1回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に前記流体が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集する撮像モードを前記待ち時間を変えながら複数回実行することで収集された磁気共鳴データから再構成された複数の異なる待ち時間それぞれに対応する複数の画像をMRI装置100から取得する。そして、画像処理装置に備えられた画像合成部は、画像取得部により取得された画像を合成する。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。