JP5775156B2 - ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片中のタンパク質の賦活化処理システム及び賦活化処理方法 - Google Patents

ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片中のタンパク質の賦活化処理システム及び賦活化処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、ホルマリン固定処理後にパラフィン包埋処理が施されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片(以下、「パラフィン包埋組織切片」と呼ぶ)の質量分析に際して、該組織切片の前処理のために用いられる、該組織切片中に含まれるタンパク質の賦活化処理システム及び賦活化処理方法に関する。
近年、臨床診断や創薬の分野において、生体組織切片中に含まれるタンパク質や代謝物等の生体成分の分布をイメージングするバイオイメージング技術が用いられている。特に、パラフィン包埋組織切片に適宜の前処理を施して作製した切片試料を、MALDI質量分析計(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、マトリックス支援レーザー脱離イオン化)で走査し、切片試料の生体成分の質量を網羅的に分析することにより、生体成分の分布を調べることが広く行われている。
パラフィン包埋組織切片を切片試料として質量分析に供するために、非特許文献1、2、3、4に記載されるような前処理方法が従来より行われている。従来の前処理方法について図2のチャート図を用いて説明する。
まず、パラフィン包埋組織切片からパラフィンを除去した後、水和処理を施して脱パラフィン組織切片を得る(S1)。このようにして得られた脱パラフィン組織切片に含まれるタンパク質の分子内では、ホルマリン固定化処理の際に単一アミノ酸残基の結合、ヒドロメチル基によるメチレン架橋の形成、特に一級アミノ基やフェニル基を介して強固なメチレン架橋が生じているので、賦活化処理液中で加熱処理をすることで架橋を解離する(S2:以下、これを「賦活化処理」という)。さらに、賦活化処理の際に脱パラフィン組織切片に付着した賦活化処理液を洗浄する(S3)。その後、洗浄後の脱パラフィン組織切片をトリプシン等の消化酵素で処理し、該組織切片に含まれるタンパク質をペプチドに加水分解する(S4)。最後に、酵素処理された脱パラフィン組織切片にマトリックス溶液を滴下してマトリックスを堆積させる(S5)。こうして作製された切片試料がMALDI質量分析に供される。
上述した従来の前処理方法において、賦活化処理は、ホルマリン固定化処理に伴う架橋反応により損なわれたタンパク質分子の二次元構造及び三次元構造を回復させるだけでなく、その後に行われる酵素処理において消化酵素をタンパク質分子にアプローチしやすくするために欠かすことのできない処理である。従来の賦活化処理方法として、界面活性剤を含む賦活化処理液に脱パラフィン組織切片を浸漬した状態で、所定の時間にわたり加熱処理(温浴槽、電子レンジ、オートクレーブ)を施すことが行われている。
Maurizio Ronci、Elena Bonanno、Alfredo Colantoni、Luisa Pieroni、Carmine Di Ilio、Luigi Giusto Spagnoli、Giorgio Federici、Andrea Urbani、「プロテイン・アンロッキング・プロスデュアーズ・オブ・フォルマリン−フィクスト・パラフィン−インベディド・ティシュー:アプリケーション・トゥ・マルディ−トフ・イメージング・マス・インベスティゲーションズ(Protein unlocking procedures of formalin-fixed paraffin-embedded tissues: Application to MALDI-TOF Imaging MS investigations)」、Proteomics、vol. 8、2008、pp.3702-3714 M. Reid Groseclose、Pierre P. Massion、Pierre Chaurand、Richard M. Caprioli、「ハイ−スループット・プロテオミック・アナリシス・オブ・フォルマリン−フィクスト・パラフィン−インベディド・ティシュー・マイクロアレイズ・ユージング・マルディ・イメージング・マス・スペクトロメトリー(High-throughput proteomic analysis of formalin-fixed paraffin-embedded tissue microarrays using MALDI imaging mass spectrometry)」、Proteomics、Vol. 8、No. 18、2008、pp.3715-3724 Marie-Claude Djidja、Emmanuelle Claude、Marten F. Sne、Peter Scriven、Simona Francese、Vikki Carolan、Malcolm R. Clench、「マルディ−イオン・モビリティ・セパレーション−マス・スペクトロメトリー・イメージング・オブ・グルコース−レギュレーティド・プロテイン・78キロダルトン(Grp78)・イン・ヒューマン・フォルマリン−フィクスト・パラフィン−インベディド・パンクレアティック・アデノカルシノーマ・ティシュー・セクション(MALDI-Ion Mobility Separation-Mass Spectrometry Imaging of Glucose-Regulated Protein 78 kDa (Grp78) in Human Formalin-Fixed, Paraffin-Embedded Pancreatic Adenocarcinoma Tissue Sections)」、Journal of Proteome Research、Vol. 8、No. 10、2009、pp.4876-4884 Johan O. R. Gustafsson、Martin K. Oehler、Shaun R. McColl、 Peter Hoffmann、「シトリック・アシッド・アンチジェン・レトリーヴァル(CAAR)・フォー・トリプティック・ペプタイド・イメージング・ディレクトリー・オン・アーカイヴド・ホルマリン−フィクスト・パラフィン−インベディド・ティシュー(Citric Acid Antigen Retrieval (CAAR) for Tryptic Peptide Imaging Directly on Archived Formalin-Fixed Paraffin-Embedded Tissue)」、Journal of Proteome Research、Vol. 9、No. 9、2010、pp.4315-4328
しかしながら、このように脱パラフィン組織切片を賦活化処理液に浸漬すると、脱パラフィン組織切片の生体成分の一部が賦活化処理液中に流出して失われる。さらに、賦活化処理後の脱パラフィン組織切片に付着した賦活化処理液を洗い流す際に、該組織切片の生体成分がさらに流失してしまう。従って、従来の賦活化処理を経て作製された切片試料をMALDI質量分析に供したとき、生体成分由来のピークの強度が小さくなってしまい、正しい定量結果が得られなかったり、微量成分の定性解析に支障を来していた。これに伴い、MALDI質量分析の結果に基づいてイメージマッピングを行う際に、本来の生体成分濃度を反映した十分な情報量のマッピングを行うことが難しいという問題があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、脱パラフィン組織切片中のタンパク質を賦活化する際、該組織切片から生体成分の流失を防ぐことにより、MALDI質量分析において定量解析や定性解析に支障を来すことのない強度のピークを検出し、イメージマッピングにおける情報量を向上させることのできる、脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理システム及び賦活化処理方法を提供することにある。
上記課題を解決するために成された本発明に係る脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理システムは、
ホルマリン固定処理後にパラフィン包埋処理が施されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片からパラフィンを取り除いた脱パラフィン組織切片の測定領域を質量分析するために、当該測定領域に含まれるタンパク質分子内のホルマリン固定で生じた架橋を解離して該タンパク質分子を賦活化させるタンパク質賦活化処理システムであって、
賦活化処理液を前記脱パラフィン組織切片の前記測定領域を内包する分注領域内の全体に分注する分注部と、
前記分注領域に前記賦活化処理液が分注された前記脱パラフィン組織切片を飽和水蒸気により加熱する湿熱処理部と
を備えることを特徴とする。
本発明に係る脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理システムは、従来の賦活化処理で行われていた、脱パラフィン組織切片を賦活化処理液に浸漬したり、また浸漬後に洗浄したりするという処理を排除したものである。分注部により脱パラフィン組織切片に賦活化処理液を分注した後、その脱パラフィン組織切片に湿熱処理を施したときに、脱パラフィン組織切片を賦活化処理液に浸漬した場合と同等の効果が得られるようにするためには、賦活化処理液に界面活性剤が含まれていることが望ましい。賦活化処理液に界面活性剤が含まれていれば、賦活化処理液と脱パラフィン組織切片との親和性が高まるため、湿熱処理を施したときに、ホルマリン固定によって生じた架橋を十分、解離することができるからである。
上記賦活化処理システムにおいては、前記分注部が、前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように前記賦活化処理液を所定の間隔で分注するものとすることができる。
このとき、前記分注領域が前記複数の液滴で覆われるように、各液滴の体積及び分注間隔が設定されていることが望ましい。
また、前記分注部が、前記賦活化処理液を前記分注領域内の同一のスポットに複数回分注するものとすることもできる。
さらに、上記課題を解決するために成された本発明に係る脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理方法は、
ホルマリン固定処理後にパラフィン包埋処理が施されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片からパラフィンを取り除いた脱パラフィン組織切片の測定領域を質量分析するために、当該測定領域に含まれるタンパク質分子内のホルマリン固定で生じた架橋を解離して該タンパク質分子を賦活化させるタンパク質賦活化処理方法であって、
賦活化処理液を前記脱パラフィン組織切片の前記測定領域を内包する分注領域内の全体に分注する分注工程と、
前記分注領域に前記賦活化処理液が分注された前記脱パラフィン組織切片を飽和水蒸気により加熱する湿熱処理工程と
を有することを特徴とする。
上記発明では、前記分注工程において、前記賦活化処理液が前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように所定の間隔で分注されるものとすることができる。
このとき、前記分注領域が前記複数の液滴で覆われるように、各液滴の体積及び分注間隔が設定されていることが望ましい。
また、前記分注工程において、前記賦活化処理液が前記分注領域内の同一のスポットに複数回分注されるものとすることもできる。
さらに、前記賦活化処理液のpHは9以上であるものとすることができる。
本発明に係る脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理システム及び賦活化処理方法では、従来のように脱パラフィン組織切片を賦活化処理液に浸漬する代わりに、賦活化処理液を脱パラフィン組織切片に分注してから湿熱処理を行うため、浸漬によって脱パラフィン組織切片の生体成分が失われることがない。また、従来は必要であった賦活化処理後の洗浄処理が省かれるため、洗浄によって脱パラフィン組織切片の生体成分が失われることもない。従って、実際の生体成分の量を反映したピーク強度が得られるため、MALDI質量分析において得られるピーク強度が従来に比べて高くなる。これにより、定性解析により化学構造が同定されるピークの本数が増加し、定量解析における検出限界も向上する。その結果、情報量が向上したより正確なイメージマッピングが可能となる。
本実施例に係る賦活化処理システムを採用した、パラフィン包埋組織切片の前処理方法を示すフローチャート。 従来の賦活化処理方法を採用した、パラフィン包埋組織切片の前処理方法を示すフローチャート。 本実施例に係る賦活化処理システムの要部構成図。 (a)本実施例に係る賦活化処理について模式的に示した図。(b)本実施例に係るMALDI質量分析について模式的に示した図。 賦活化処理液の分注量別の検出ピーク数を示す棒グラフ。 本実施例及び比較例にて得られたマスピークプロファイルを所定の質量範囲毎に示した図。 本実施例及び比較例にて得られた主な検出ピークを拡大した図。濃い線は本実施例、薄い線は比較例を示す。 本実施例にて得られた検出ピークの比較例に対する強度比を質量範囲毎に示した棒グラフ。
本発明に係る脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理システム(以下、単に「賦活化処理システム」という)の一実施例について、図面を参照しながら以下に説明する。図3は、一実施例に係る賦活化処理システム1の要部構成図である。
賦活化処理システム1は、脱パラフィン組織切片30に賦活化処理液を分注するための分注部10と、賦活化処理液31が分注された脱パラフィン組織切片30を飽和水蒸気下で加熱するための湿熱処理部20により構成される。
分注部10は、脱パラフィン組織切片30を載せたサンプルプレート34を載置するための載置台11と、賦活化処理液を格納する貯液容器(図示せず)と、賦活化処理液を分注するための分注器12を備えている。
湿熱処理部20は、賦活化処理液31が分注された脱パラフィン組織切片30を載せたサンプルプレート34を、耐圧性を有する容器内に格納し、所定の温度及び時間で飽和水蒸気により前記脱パラフィン組織切片30を加熱するものである。
分注部10として、微量の溶液を指定された領域へ分注することのできる分注装置を使用することができ、特に、ピコリットル(pL)単位の溶液を分注することの可能なケミカルプリンタCHIP-1000(株式会社島津製作所製)を好適に使用することができる。また、湿熱処理部20として、オートクレーブ装置を好適に使用することができる。
分注部10と湿熱処理部20とは互いに別体であっても良いし、一体であっても良い。 また、分注部10は、賦活化処理液の分注だけでなく、その後の酵素処理及びマトリックス堆積処理において、所定の処理液を脱パラフィン組織切片30に付与する際にも使用することができる。
次に、上記賦活化処理システム1により実行された、脱パラフィン組織切片中のタンパク質の賦活化処理方法(以下、単に「賦活化処理方法」という)の一実施例について説明する。本実施例では、賦活化処理液の至適分注量を検討するために、複数の分注条件にて賦活化処理を行った。
本実施例では、賦活化処理システム1の分注部10としてケミカルプリンタCHIP-1000を適用し、また湿熱処理部20としてオートクレーブKS-243(株式会社トミー精工製)を適用した。
マウスの腎臓組織をホルマリン固定後にパラフィン包埋処理してスライスすることにより得たホルマリン固定パラフィン包埋腎臓組織切片(厚さ3μm)を導電性を有した支持体に貼り付け乾燥させた。得られたホルマリン固定パラフィン包埋腎臓組織切片を室温下で30分間キシレン中に晒すことにより、パラフィンを取り除いた脱パラフィン腎臓組織切片30を得た。次に、水和処理として、100%エタノール(2回)、90%エタノール、80%エタノール及び70%エタノールの順に10秒ずつ脱パラフィン腎臓組織切片30を晒した。
水和処理後の脱パラフィン腎臓組織切片30をスライドグラス用サンプルプレートに載置し、ケミカルプリンタCHIP-1000にセットするとともに、賦活化処理液として10mM Tris-HCl(pH10.0)/0.1%n-オクチル-β-D-グルコシド溶液を貯液容器に充填した。さらに、図4(a)に示すように、前記脱パラフィン腎臓組織切片30に複数個設定した1000μm四方の分注領域32に、200μmの間隔で賦活化処理液31を分注した。即ち、1つの分注領域32の一辺に200μmの間隔で計6スポットを設定し、6スポット×6スポットの計36スポットに賦活化処理液31を分注した。
至適分注量を検討するために、分注量は1スポットあたり合計500pL、1000pL、2000pL、2500pL、3000pL、3500pL、4000pL、4500pL、5000pL、7500pL及び10000pLの計11条件とした。スポット上に1滴100pLを当該量分、滴下することで(即ち、1スポットに合計2500pLを分注したいときは、100pLを25滴、組織上に滴下することで)、目的の体積の賦活化処理液を分注した。
分注後の前記脱パラフィン腎臓組織切片30を湿った紙材とともにステンレス箱に入れ、オートクレーブにより110℃で10分間湿熱処理した。
次に、湿熱処理後の脱パラフィン腎臓組織切片30をケミカルプリンタCHIP-1000に再びセットし、酵素処理液として100μg/mLトリプシン/10mM重炭酸アンモニウム/5%イソプロパノール溶液を貯液容器に充填した。賦活化処理液31を分注した全てのスポットに、前記酵素処理液を合計5000pLずつ分注し、恒温庫にて37℃で180分間静置することにより、脱パラフィン腎臓組織切片30の分注領域32に含まれるタンパク質を加水分解した。さらに、マトリックス溶液として50mg/mL 2,5-ジヒドロキシ安息香酸/50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液を貯液容器に充填し、150μmの間隔で合計7500pLずつ分注して、2,5-ジヒドロキシ安息香酸を脱パラフィン腎臓組織切片30に堆積させた。こうして得られた切片試料をMALDI質量分析へ供した。MALDI質量分析の測定条件については後述する。
なお、上記の賦活化処理において用いられた賦活化処理液はpH9.6に調製されたものである。このように、賦活化処理液のpHを塩基性側に傾けておくことにより、後段の酵素処理において、弱塩基性(pH8〜9)の至適pHを有するトリプシンによるタンパク質加水分解の反応速度を向上させることができる。
比較例
比較例として、従来法に基づく以下の方法によりマウスのホルマリン固定パラフィン包埋腎臓組織切片を処理した。
上記実施例と同じ方法で脱パラフィン処理及び水和処理を施したマウスの脱パラフィン腎臓組織切片30を、上記実施例と同じ組成の賦活化処理液に浸漬した状態で、110℃で10分間オートクレーブにて湿熱処理した。湿熱処理後の脱パラフィン腎臓組織切片30を賦活化処理液から取り出し、賦活化処理液を取り除くために、前記脱パラフィン腎臓組織切片30を70%エタノールで5分間浸漬し、十分に洗浄した。洗浄後の脱パラフィン腎臓組織切片30の酵素処理及びマトリックス堆積処理については上記実施例と同じ条件にて実施した。得られた切片試料について、実施例と同じ測定条件にてMALDI質量分析を行った。
実施例1及び比較例にて得られた切片試料について、いずれも下記の測定条件によりMALDI質量分析を行った。
装置:マトリックス支援レーザー脱離イオン化一飛行時間型質量分析計 AXIMA-QIT(株式会社島津製作所製)
レーザー:5Hz、2 shots/point
照射間隔:50μm
イオン極性:positive
測定質量領域モード:MID MASS
測定質量範囲:m/z 700-2500
測定領域:500μm×500μm
測定ポイント:11×11=121 points
図4(b)にて模式的に示すように、分注領域32内に含まれる500μm四方の測定領域33において、50μm間隔で1測定領域あたり合計121ポイント、各ポイントにつき2ショットずつレーザーを照射してMALDI質量分析を行った。
上記測定質量範囲において各質量電荷比のピーク強度を獲得し、各検出ピークの前後100ピークずつの最小強度を各検出ピークのバックグラウンドとみなして前記ピーク強度から差し引いた後に、各ピーク強度を全ピーク強度の総和で除する補正を行った。本実施例の検出ピークを比較例における同じ質量電荷比の検出ピークと比較し、比較例に対し2倍以上の検出強度があり、かつ統計的意義(p<0.05)のある検出ピークを選出した。
得られたMALDI質量分析結果を以下に示す。
まず、図5は、本実施例において賦活化処理液の分注量毎の検出ピーク数を示したグラフである。検出ピーク数は、賦活化処理液の分注量1000pLまでは、賦活化処理液の分注量が大きくなるにつれて増加する傾向を示し、分注量1000pLにおける検出ピーク数は分注量500pLの時の約2倍であった。また、検出ピーク数は分注量1000pLから2500pLにおいて頭打ちとなった。このことから、分注量500pLの賦活化処理液は、分注領域32内のタンパク質を賦活化する上で十分な体積とはいえないが、分注量1000pL以上であれば、分注領域32内のタンパク質を十分に賦活化できることが示された。
その一方、検出ピーク数は、賦活化処理液の分注量が3000pLを超えると急激に減少する傾向を示した。これは、賦活化処理液の分注量がある一定以上になると、脱パラフィン腎臓組織切片30に形成された賦活化処理液の液滴が合体してしまい、賦活化処理液が分注領域32の外へ流出することにより、賦活化処理液中に移行した生体成分が分注領域32内から失われるためと考えられる。
この裏付けとして、1スポットあたりの賦活化処理液の分注量が2500pL及び5000pLの場合において、分注後の脱パラフィン腎臓組織切片30を観察したところ、分注量2500pLのときには各スポットの液滴の形状がよく維持されているが、分注量5000pLでは隣接するスポットの液滴が合体してしまい、賦活化処理液が分注領域32の外へ流出する現象が確認された。
これらの結果によれば、賦活化処理液を独立した液滴として分注できるのは、1スポットあたりの分注量2500pLまでということができる。
図6は、本実施例において賦活化処理液を2500pLずつ分注した際(即ち、賦活化処理液の液滴の形状がよく維持される最大の分注量でもって分注した際)のマスピークプロファイルと、比較例にて得られたマスピークプロファイルを、m/z750〜1150、m/z1150〜1650及びm/z1650〜2250の計3つの測定範囲において示した図である。全体的に比較例に比べて実施例の方が明瞭なピークの数が多く、特にm/z1650〜2250の質量範囲においてその傾向が顕著であることが分かる。
また、図7は、図6のマスピークプロファイルのうち代表的な検出ピーク(m/z1274、m/z1443、m/z1509、m/z1529、m/z1745及びm/z1961)を拡大したものであり、濃い線は賦活化処理液を2500pLずつ分注した本実施例において、また薄い線は比較例において得られた検出ピークを示す。いずれの質量電荷比においても、本実施例の検出ピークは比較例の検出ピークの2倍以上のピーク強度を示した。
図8は、本実施例で賦活化処理液を2500pLずつ分注して得られた切片試料をMALDI質量分析した際の検出ピークのうち、比較例における同じ質量電荷比の検出ピークに対して2倍以上のピーク強度比を示した計461本の検出ピークの具体的なピーク強度比を、質量範囲毎に示したものである。質量電荷比の大きな検出ピークほどピーク強度比が増大する傾向が認められた。計461本の検出ピークのうち、比較例に対してピーク強度が2〜3倍に向上した検出ピークは182本(39.5%)、3〜5倍に向上した検出ピークは149本(32.3%)、5〜10倍に向上した検出ピークは104本(22.6%)、10倍以上に向上した検出ピークは26本(5.6%)であった。
以上述べたように、本発明に係る賦活化処理システム及び賦活化処理方法では、従来法で賦活化処理を行った場合に比べ、MALDI質量分析の際の検出ピーク本数が増加し、また検出感度も向上する。これは、本発明では賦活化処理液への浸漬及びその後の洗浄という従来の処理が省かれることにより、脱パラフィン組織切片からの生体成分の流失が回避されるためと考えられる。また、湿熱処理中に、賦活化処理液の液滴の矮小な内部において生体成分や賦活化処理液の成分の分子同士が互いに頻繁に衝突することが予想され、このような現象によって賦活化が促進されることにより、検出感度が向上するものと考えられる。
以上、本発明における具体的な形態について示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、図面では分注領域や測定領域を矩形として示したが、円形等の他の形状であってもよい。その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
1…賦活化処理システム
10…分注部
11…載置台
12…分注器
20…湿熱処理部
30…脱パラフィン組織切片
31…賦活化処理液
32…分注領域
33…測定領域
34…サンプルプレート

Claims (11)

  1. ホルマリン固定処理後にパラフィン包埋処理が施されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片からパラフィンを取り除いた脱パラフィン組織切片の測定領域を質量分析するために、当該測定領域に含まれるタンパク質分子内のホルマリン固定で生じた架橋を解離して該タンパク質分子を賦活化させるタンパク質賦活化処理システムであって、
    賦活化処理液を前記脱パラフィン組織切片の前記測定領域を内包する分注領域内の全体に分注する分注部と、
    前記分注領域に前記賦活化処理液が分注された前記脱パラフィン組織切片を飽和水蒸気により加熱する湿熱処理部と
    を備えることを特徴とするタンパク質賦活化処理システム。
  2. 前記分注部が、前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように前記賦活化処理液を分注する
    ことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質賦活化処理システム。
  3. 前記分注部が、前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように前記賦活化処理液を所定の間隔で分注する
    ことを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質賦活化処理システム。
  4. 前記分注領域が前記複数の液滴で覆われるように、各液滴の体積及び分注間隔が設定されていることを特徴とする請求項2または3に記載のタンパク質賦活化処理システム。
  5. 前記分注部が、前記賦活化処理液を前記分注領域内の同一のスポットに複数回分注する
    ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のタンパク質賦活化処理システム。
  6. ホルマリン固定処理後にパラフィン包埋処理が施されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片からパラフィンを取り除いた脱パラフィン組織切片の測定領域を質量分析するために、当該測定領域に含まれるタンパク質分子内のホルマリン固定で生じた架橋を解離して該タンパク質分子を賦活化させるタンパク質賦活化処理方法であって、
    賦活化処理液を前記脱パラフィン組織切片の前記測定領域を内包する分注領域内の全体に分注する分注工程と、
    前記分注領域に前記賦活化処理液が分注された前記脱パラフィン組織切片を飽和水蒸気により加熱する湿熱処理工程と
    を有することを特徴とするタンパク質賦活化処理方法。
  7. 前記分注工程において、前記賦活化処理液が前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように分注されることを特徴とする、請求項6に記載のタンパク質賦活化処理方法。
  8. 前記分注工程において、前記賦活化処理液が前記分注領域内において互いに独立した複数の液滴となるように所定の間隔で分注されることを特徴とする、請求項6または7に記載のタンパク質賦活化処理方法。
  9. 前記分注領域が前記複数の液滴で覆われるように、各液滴の体積及び分注間隔が設定されていることを特徴とする、請求項7または8に記載のタンパク質賦活化処理方法。
  10. 前記分注工程において、前記賦活化処理液が前記分注領域内の同一のスポットに複数回分注されることを特徴とする、請求項から請求項のいずれかに記載のタンパク質賦活化処理方法。
  11. 前記賦活化処理液のpHが9以上であることを特徴とする、請求項から請求項10のいずれかに記載のタンパク質賦活化処理方法。
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